zoku勇者 ドラクエⅢ編 5章

その1

朝一番で早く目が覚めてしまったジャミルはする事がないので
上機嫌で甲板に出て大声で鼻歌を歌い始める。特に彼は最近、アイシャと
バカップルになった為、毎日頭が花畑状態で異様に機嫌が良かった。
最も今までとは特に何も変わらず、暇さえあれば相変わらず
彼女とは喧嘩ばかりの日々であり、その耽美、アルベルトとダウドは苦笑する。
 
「……ジャミル、こんな朝っぱらから何やってんの……?」
 
そこへタイミング悪くダウドが2番手で起きてきた。
 
「い、いや……、別に何も……、き、聞こえたか……?」
 
「?」
 
「何か、まーた変な夢見ちまってよ……」
 
「また例の夢?今度は何だい?」
 
「先に最後の鍵を探せだとさ」
 
「最後の鍵?」
 
「ああ、それなくしては先に進めませーん、……だとさ」
 
「最後の鍵……、ねえ……」
 
「全く、人の夢ん中に勝手に出てくんなっつーの!プライバシーの侵害だわっ!
けど、どっかで聞いた事ある様な……、その鍵の名称……」
 
それは一番最初の時、ナジミの塔の時の事である。
性悪盗賊集団が盗賊の鍵と、どんな扉でも開けてしまうらしい最後の鍵とやらを
間違って狙い、塔に侵入した過程の話はアイシャから以前に聞いていたのだが。
しかし、ジャミルは今一、その時の話を良く思い出せないでいた。
 
「……と、とにかく、アル達にも言っといた方がいいよ、オイラがゆっとくね」
 
汗ふきふきダウドが船室に戻って行った数分後。ジャミルの夢の話を聞きに、
アイシャとアルベルトも甲板に顔を出す。
 
「その最後の鍵って言うのを探せばいいんだね……」
 
アルベルトがふんふんと頷く。
 
「ねえ……、ジャミル、いつもその夢の中に出てくる人って……、女の人?」
 
なんとなーく、怖い顔をしてアイシャがジャミルをじっと見ている。
 
「えーと、はっきりとは判んねえけど、声の感じからして多分女だな……」
 
「……スケベーっ!ばかあ~っ!!」
 
「いてーなっ!何だよっ!俺だって見たくて見た訳じゃねえやい!」
 
「ぶーぶーぶー!」
 
このようにして、いつにも増して、何かあるとすぐにアイシャが嫉妬する回数も増えたのも事実。
 
「ふふ、仲がいいねえ、二人は……」
 
にっこりと笑うアルベルト。しかし、その顔は……。
 
「そ、そうかな……?って、何か……」
 
「うふふ♡」
 
……邪悪な笑みが浮かんでいる……、様にダウドには見えた。
 
(なんかアルってこの二人がアホな喧嘩すると異様に喜んでる様な
気がするんだけど、オイラだけかな……)
 
と、其処へ……、突然海から甲羅を纏ったスライム、マリンスライムの集団が
飛び上がって甲板に上がってきた。
 
「……うんこ」
 
「マリンスライムだよ……」
 
「ジャミルったら……、もう!」
 
アルベルトとアイシャが呆れる。
 
マリンスライムは固まって何かしようともぞもぞと動いている。
一見みると外見だけは可愛いが、こいつはスクルトで守備力を上げてくるとんでもない敵である。
これも地獄のハサミの如く、スクルトで守備力を上げられたら最後、手に負えなくなる。
 
「……させねえっ!」
 
素早くジャミルが鉄の斧で甲羅を叩き切る。……鉄の斧の重さの扱いにも大分慣れて来たのか。
 
「ジャミルう~……、助けてえええ~!潰されるうううー!」
 
ヘタレなダウドがマリンスライムの大群に押し潰されそうになっていた。
 
「どこまでトロいんだよ!オメーはっ!」
 
「あ~うう~……」
 
怒りながらもダウドに集っているマリンスライムの甲羅を次々と叩き切ってやる。
甲羅が無くなったマリンスライムは只のスライムと化す……。
 
「おーい、アイシャー、ちょっと袋持ってこい」
 
「……どうするの?」
 
「お前らも手伝え、こいつを袋に詰めて……、うっし、出来たっと!」
 
「それで、これをどうするの?」
 
「ま、適当な陸を探して袋ごと捨てるのさ……」
 
「なんかオイラ達、ゴミ出しのおばさんみたいだね……」
 
……ぎゅうぎゅう袋詰めにされた哀れな姿のマリンスライム達を見つめ、ぽつりとダウドが呟く。
 
「一丁上がりィ!よしっ、捨ててくるぞおーっ!」
 
ゴミを捨て終わったジャミル達は次の町を探し求める。
幾つもの道が枝分かれする運河を上っていくとやがて小さな村が見えてきた。
 
 
ースーの村
 
 
「オー、いらっしゃい、あなたタチよくきたヨー、おきゃくさんコンニチワ、ここスーの村いう」
 
今までの村とはうって変わった感じで人々は皆インディオ族風の村だった。
 
「ここ、しゃべる馬いる」
 
「へえー、馬がしゃべんのか」
 
「ねえ、行ってみよ、ジャミルー!」
 
アイシャ達が急かす。特に馬が大好きなアイシャが一番ウズウズしている。
 
「でも今、馬気ィ立ってる、気をつけて……」
 
村の人に案内されて馬を見に行く事にした。……が。
 
「……これか……?」
 
「俺は喋る馬のエドだ!……豆って言うな!」
 
「やると思ったよ……、は、はは……」
 
「うふふ、お馬さん大好きなの~!可愛いー!」
 
アイシャが馬をなでなでする。馬は撫でられていいご気分のご様子。
 
「……いいか、手っ取り早く説明するぞ!いいか、まず渇きの壺を探せ!
エジンべアっつー城に有る、壺を見つけたらどっかの浅瀬に投げろ、
そーすっとほこらが出てくるから行け、そこに多分、お前らの探してるモンがある、以上!」
 
馬はそれだけ喋るとごろりと横になって寝てしまった。
 
「……とにかく、まずはエジンベアとやらに行けばいいっちゅーこったな、
次の目的地は決まったな……」
 
「お礼ぐらい言えよ!このモンキーパンチ!」
 
「……ああ~っ!?」
 
「ジャミルうー!だめだよおー!折角情報教えてくれたんだからー!」
 
ダウド達が慌てて馬と喧嘩腰になりそうなジャミルを押さえた。
 
「うまさーん、本当にどうもありがとうー!またねー!」
 
アイシャが代表でお礼を言いアルベルト達が暴れるジャミルを引っ張って連れて行く。
 
「……ギャースギャース!!」
 
渇きの壺は元々この村の宝で、ある日何者かの手によって盗まれ
それが今は何故かエジンベア城へと渡り保管されているらしかった。
 
「……ったく!あの馬と言い、こいつらといい、一体なんだっつーんじゃ!」
 
「こいつらって、……僕の事?」
 
「うわあ!」
 
アルベルトが突然ぬっとホラーアップで迫ってきた……。
 
「……私の事?」
 
「……オイラの事か~い?」
 
「……なんでもないですうー!めんごなさーい!」
 
「おい、そこのにいちゃん、しってる?」
 
「……何を……?」
 
村人が話し掛けてくるが、疲れ切った表情のジャミル。
 
「消え去りそうって言う草がランシールいう町にあるらしいネ、
これ体にかけるとすがたみえなくなる!すごーい!おぼえておいてネ!
……この村にも売ってる筈だケド、今は店、在庫切れヨ!
誰かが買い占めて行っちゃったんだヨ!だから、この村には今、在庫ない!」
 
「へえ……、買占めって本当に何処でもやるんだな……」
 
それから船で何日か航海し、漸くエジンベアへ。
此処でも4人をとんでもない事態が待ち構えていた……。

エジンベア城
 
 
「久々のお城だね、少し一息つけるかな……」
 
「だねえー、大きいお城だよお……」
 
「……」
 
「ジャミルどしたの?」
 
複雑そうな表情をしているジャミルにアイシャが聞いた。
 
「この先……、もっと疲れる事が待ってる様な気がする……」
 
……呟いた通り、ジャミルの予感は的中してしまうのである。
 
「ここは由緒正しきエジンベアのお城だ!貴様らの様な
田舎者が来る場所ではないぞ!帰れ!帰れ!」
 
「帰れ!」
 
と、門の前で仁王立ちした二人の門番が通せんぼ。大声を張り上げる。
 
「え~っ!ひどーい!」
 
「通してよお~!!」
 
アイシャとダウドが揃ってブーブー文句を言う。
 
「あのさ、俺達、アリアハンから来たんだよ、魔王バラモスを倒しに……、何か話聞いてねえ?」
 
「ではお前が勇者だとでも言うのか?」
 
「そうだよ……」
 
「フハハハッ!笑わせるな!お前らみたいな田舎者が
勇者様ご一行である筈がなかろうが!」
 
「嘘をつくな!この田舎者めが!」
 
元々気が短いジャミルは今にも門番に食って掛かりそうだった。
 
「……俺だってなあ!好きでこんな事……むぐぐぐっ!!」
 
「大変失礼致しました!それでは!」
 
今まで黙っていたアルベルトはとっさの判断でジャミルの口を押え、
アイシャとダウドに目配せして合図し4人は一旦城から退き。船へと戻る。
 
「……田舎者めが!帰れ!!」
 
 
「アル、お前むかつかねえのかよ!」
 
「そうだよ、許せないよ!」
 
「ひどいよお!」
 
流石に今回はアイシャ達も御立腹。頭にきている様子だった。
 
「僕……、考えてたんだけど……」
 
アルベルトがジャミルの顔をちらっと見る。
 
「なんだよ」
 
「ランシールに姿を消せる消え去り草って言う物を
売っているってスーの村の人が言ってたよね」
 
「あ、ああ、そんな様な事言ってたっけな……」
 
「正面から入れないのなら、姿を消して入ればいいんじゃない……?」
 
「?あ、ああ!そういう事か!その消え去り草っつー草を使って
勝手に中に入っちまえばいいのか!なーる!」
 
「それに……」
 
「?」
 
「流石の僕でも頭にきたしね……、少しあの門番達にお灸をすえてやらなきゃ……」
 
「お、おい、アル……?」
 
「うふふ……」
 
「……」
 
「うふふ、うふふ、うふ、うふふ……♡」
 
「こ、こわ……」
 
暫くはアルベルトを刺激しない様、アイシャとダウドに注意するジャミルだった……。
4人はランシールへと訪れ、折角なので、近場でLVも上げも兼ね、ランシール付近に
船を止め、暫く滞在する事にした。……疲れる毎日だったがモンスターとの戦闘で
金も溜まってきたので、ランシールの宿屋に今日は泊まる事になった。
 
「まっふぁくもふぉ!ほーだんふぁねーっふの!」
 
相変わらずガツガツ意地汚く食事するジャミル。
 
「……だから……、口に物入れたまま話すなよ……」
 
「なーにが田舎モンだよ!てめーらの面が田舎モンなんじゃねーか!」
 
「さすがに今回は私も怒ってるわ!」
 
「オイラも~っ!」
 
「……まあ……、長い人生色々あるよ……」
 
そう呟いてアルベルトがポテトを口に入れる。
 
「今日は食って食って食いまくってやる!おかわりーっ!」
 
(いつもと変わんないよ……)
 
「私もサラダ食べるーっ!」
 
「オイラもマッシュポテトおかわりーっ!じゃんじゃん食べるよおーーっ!」
 
「……ハア……」
 
 
次の日、一行はランシールを離れ、再びエジンベアへとアルベルトのルーラで一気に移動する。
 
「いくぞ……」
 
「ラジャー(了解……)」
 
憎らしき城を再び目の前にし、ジャミルの言葉に他の3人が静かに頷く。
 
「これを食えばいいんだな……」
 
本当は身体に振り掛けて使うのだが……、使い方を良く知らない為、
この4人は何と、直接消え去り草を口に入れて食ってしまった。
 
「キャ、キャー!苦いわあーーっ!」
 
「……アイシャ、我慢して……」
 
「お、おええ~……」
 
取りあえず、4人の姿は消え、その場からは何も見えなくなる。
しかし、こういう処は本当に田舎者……、かも知れなかった。
そして、姿の消えた4人は再度城門前までやってくる。
 
「全く、最近はどうしようもない田舎者が増えて困るな!」
 
「ああ、この間、城に来た糞ガキの集団、いかにもな鼻を垂らした
知能の無さそうな馬鹿面をして勇者一行などとふざけた事を抜かしおって!」
 
(……こんにゃろ!)
 
ジャミルが門番の一人の踵を思い切り蹴った。
 
「いっ!」
 
「どうした……?」
 
「何か踵に痛みが……」
 
「気の所為だろうよ」
 
(ところがこれが気の所為じゃないんだなーっ!)
 
(オイラもやるーっ!)
 
ダウドがもう一人の門番の頭を思い切り殴った。
 
「いたっ!」
 
「お、おい……、お前もか、大丈夫か……?」
 
「どうなってるんだ……?」
 
(ふふ、ダウドやるじゃない!)
 
(えへへ~、ジャミルを殴ったつもりで殴ったんだよ!)
 
(この野郎!)
 
(……シ~ッ!)
 
(よーし!今度は私よ!)
 
どこに隠していたのかアイシャは可愛い花を次々と生け花の如く
門番の兜の隙間に刺して植え始めた。
 
(うん、かわいいっ!芸術ね!)
 
「お前……、あ、頭にいきなり花が咲いたぞ……!」
 
「お前の頭もだよ……」
 
(……う、うは……、くるしい~っ!ば、馬鹿光景……)
 
(駄目だよ、笑っ……、く、くくく……)
 
(ぎゃはははは!!もう死にそ~!)
 
(よーし、最後は僕だ!)
 
アルベルトがポケットからマジックを取り出す。
そして門番の顔に落書きを始めバカと書いた。
宙に浮いて動く謎のマジック……、しかし門番達は気づかない。
 
(……お前ってさあ……、結構やる事が古典的なのな……)
 
(いいんだよ、ほら、皆もやってやって!)
 
アルベルトが地面にマジックをばら撒いて落とした。
 
(わーい、オイラも絵描こうっと!)
 
(私もー!)
 
(……折角だから俺も記念に何か書いておくか……)
 
「お前……、今度は顔にバカって書いてあるぞ……」
 
「お前こそ顔にアホって……、なんなんだ……」
 
やりたい放題散々芸術アートにされた門番……。
それでも門番は全く気づかなかった……。
 
(おい皆、そろそろいじめんのも飽きたし中に入ろうや)
 
最後にもう一度門番を一発殴ってジャミル達は城内へと入って行く。
 
(ヘン、ざまーみろ、あーすっきりしたっ!)

ようやく城内へ入れた処でタイミング良く消え去り草の効果が消えた。
 
「……こうやって一旦中に入っちまえばわかんねーよ、後はどうにでもならあ、
早く壺見つけてとっととこんな所早く出ようや」
 
「でも、疲れた~、少し一息つきたいよお~……」
 
「……ねえ、あなた達……」
 
「?」
 
「ジャ、ジャミル……」
 
アイシャがジャミルを引っ張る。綺麗なドレスを身に纏い豪華で煌びやかなティアラ、
美しい宝石を身に着けた女の子が此方に近づいてきた。一目で王家の者だと理解出来た。
 
「何であなた達みたいな薄汚い襤褸雑巾な田舎者が此処にいるの!
さっさと出てお行きなさいな!泥棒に入りに来たのかしら!?」
 
「な、なによおー!酷いわ!そんな言い方しなくたっていいじゃない……」
 
意地悪できつい言い方をする王女の態度にアイシャがむっとする。
 
「……どうも大変申し訳ありません、あの……、僕達は……」
 
アルベルトが王女の前に立ち、何とか弁明し、この場を切り抜けようとするが……。
 
「……」
 
「あ、あの……」
 
しかし、王女はアルベルトを見るなり……、顔を赤くし、一言声を出した……。
 
「……まあ!」
 
「へ……?」
 
「あなたは田舎者ではないのですね!失礼致しましたわ!」
 
「ハア……」
 
「わたくしはエジンベアの王女、セリファトと申します、以後お見知りおきを……」
 
ドレスの裾を摘み上げ王女が初々しく挨拶する。清楚な顔立ちのアルベルトだけは
異様に気に入ったらしく、好感を持たれた様であった。
 
「ハア……、こちらこそ、宜しくお願い致します……」
 
そして、アルベルトも貴族の息子らしく、丁寧に挨拶を返す。
 
「あなた、お名前は?」
 
「あ、僕はアルベルトです……」
 
「アルベルト様……、まあ、何て素敵な方なのかしら……、ポッ……」
 
「……えーと……」
 
「……何デレデレしてんだよ……、アルの奴……」
 
「門番も嫌だったけど、ここのお城の人達も感じ悪いのね、頭にきちゃうなあ……」
 
腰に手を当て、ブン剥れながらアイシャが王女を複雑な顔で見つめている。
 
「わたくし今からお茶の時間ですの、ご一緒しませんこと?美味しい焼き菓子もありましてよ」
 
「え、ええ……?」
 
王女がアルベルトの手を取り……、アルベルトは思わず顔を赤くする……。
 
「……ケッ!なーにがお茶だよ!しけた煎餅でも齧っておーいお茶でも飲んでろ!」
 
其処に乱入し、ムードを妨害してくる野獣ジャミル……。
 
「……あの下品な態度のお猿さんはアルベルト様の召使いか何かでして?」
 
「友達です……」
 
「まあっ!信じられません!あの様な間抜け顔の珍獣がアルベルト様と…!
例え召使いでもアルベルト様には相応しくないですわ!
百歩譲って精々がペットのバブルス君、もしくはおれ、ゴリラ、社長の代理。ですわ!」
 
「……悪かったな!」
 
さすがのジャミルも新手の毒舌王女の出現に今日は若干押され気味である。
 
「もう……、一体何なのよ、この人……、しかもやたらとペラペラ早口だし……」
 
「何か感じ悪いよお……、険悪な雰囲気になってきちゃったし……、
ジャミルがほんとに噴火しないといいんだけど……」
 
「アルベルト様はわたくしの様な高貴な者とお付き合いを為さるべきです!」
 
そう言って王女はアルベルトを無理矢理に自分の部屋へと連れて行こうとする。
 
「ちょっと待って!……何でアルを連れてっちゃうのよっ!?
アルは私達の仲間なんだからっ!」
 
……遂に我慢出来ず、アイシャが王女の前に立ち塞がる……。
 
「まあ……、これはサカリの雌猿ね……、フン、お下品で嫌らしいですこと……!」
 
「……なんですってえーーっ!?」
 
「け、喧嘩は駄目だよおーーっ!」
 
……遂に衝突しそうになった女子同士にダウドが一人でオロオロする。
 
「子猿もいたのね……、まるでお猿さんの集団だわ……」
 
「……む、むかつくーーっ!」
 
さっきまで喧嘩を仲裁しようとしていたダウド。……一辺に態度が豹変する……。
 
「よせよせ、相手にしたってしょうがねえよ……」
 
「お猿さんはジャングルに帰ったら……?」
 
「……本当にむかつくな……」
 
「わたくし、決めましたわ!決心いたします、アルベルト様をお父様に紹介いたします!!」
 
「……なにいーーっ!?」
 
「えええーーっ!?」
 
「あなたの様な知性溢れるお方ならきっとお父様も許して下さる筈ですわ!」
 
「そんないきなり……、唐突すぎだよお……」
 
ダウドはあいた口が塞がらず呆然としている。
 
「おい!ちょっと待てよ……!」
 
「……うるさい人たちですわね!」
 
王女がジャミル達に向かって鍵を放り投げた。
 
「地下室宝庫の鍵ですわ!これで何でも好きな物を取っておいきなさい!
……そうねえ、地下には渇きの壺と言う非常に貴重なお宝が有る筈ですわ、
お金の無い汚い臭い雑巾貧乏人泥棒のあなた達へ心からのおもてなしよ!
有難くお思いなさいな、優しいわたくしに感謝してよ?
お父様にはアルベルト様に免じて言わないでおいて差上げます、お~っほっほっほ!」
 
「……」
 
ジャミルは黙りこくり、その場に立ちつくし、去っていく王女とアルベルトを見つめていた。
 
「さあ、行きましょう、アルベルト様」
 
「ジャミル!アルが行っちゃう!!」
 
「……」
 
「ジャミルってばあ!!どうして何も言わないのよう!」
 
「……」
 
「ジャミルったらあ!!」
 
ジャミル達は地下宝物庫から渇きの壺を見つけ出し、城を後にしたが。
壺にこれはかわきのつぼだよーあたりだよーおめでとう!と間抜けな札が張ってあったので
間違いはなかった。しかし、渇きの壺は手に入れられたものの……、
渇きの壺と引き換えに……、アルベルトがパーティを離れてしまう事に……。
 
「……せっかく壺貰ったのに……、アルが……」
 
「こんなの酷いわ……」
 
船に戻った3人……。ダウドが溜息を洩らし、アイシャは悲しそうに俯く……。
 
「知るか、あんな奴、ま、あんなん居なくたってどうにかならあ、
何だったらアリアハン戻って誰か連れてくりゃいいんだしさ」
 
「……ジャミル……、本当にそれでいいの?」
 
アイシャがジャミルの顔を見た。
 
「知らねえよ……」
 
「それはねえ……、アルはいつも普段ジャミルの事、アホだのバカだの、
単細胞だの……、ノータリンとか、色んな事言ってるけど……」
 
「……コラ……」
 
「大切な友達だって……」
 
「……プ……、ククク……」
 
「な、何かおかしい!?」
 
「ジャミル……、アイシャは真面目に話してんだよ!」
 
「あははははっ!だっておかしいよ、……すっげーくっせーの!
……あは、あはははは!はあ……」
 
「……ジャミル?」
 
一しきり思い切りわざとらしいバカ笑いをした後、ジャミルは再び口をつぐんだ……。
 
「馬鹿なのはあいつの方じゃねえか……、流されてアホみてえに付いて行きやがって……」
 
「ジャミル……」
 
ぼそっとジャミルが呟いた言葉にアイシャはいじっぱりジャミルの気持ちを察する……。
 
「……もう、いいや……」
 
 
「誰がバカだって!?」
 
「うわっ!?」
 
「……アル!」
 
「アルうううう!!」
 
3人が声を揃えた。城に残った筈のアルベルトが其処に立っていた……。
 
「……ただいま……、やっぱりみんなと旅してた方が楽しいしね……、
申し訳ないけど隙を見てルーラで逃げて来ちゃったよ、てか、僕……、無理矢理
連れて行かれたのに……、いつの間にか自分の意志で行った事に
なってるんだけど……」
 
「あれ?」
 
「あれええ~?」
 
「あーあ……、ったく、まーた口うるせーのが帰って来やがったぜ……」
 
「そんな事言って……、本当は嬉しいくせに……」
 
ダウドがジャミルの方を見てニヤニヤ笑う。
 
「あのね、アル、ジャミルはね、口ではあんな事言ってるけど、
内心アルがもう戻って来ないんじゃないかって心配してたみたい……」
 
「アイシャ!こ、コラ……!勝手に話作んなよっ!」
 
「べー!」
 
ジャミルの方を向いて悪戯っぽくアイシャが笑った。
 
「……ジャミル……、ありがとう……」
 
「つ、次は浅瀬探すぞ!浅瀬!余計な時間食っちまったからな!」
 
照れくさそうに誤魔化しジャミルが腕をぶんぶん振り回す。
 
「でもさあ……」
 
「なんだ?ダウド」
 
「浅瀬って言ったってさあ……」
 
「……」
 
「腐るほどあるよ……?」
 
「しらみつぶしに海上を探すしかないよね……、大変だけど……」
 
「んな事してたら爺さんになっちまうよ!」
 
「頑張るしかないわよ、ジャミルっ!」
 
アルベルトも復帰し、渇きの壺も手に入り、取りあえずジャミル達は一安心。
これ以上、こんな嫌な所にはいたくないので、さっさとエジンベアの地から逃走するのであった。

その2

浅瀬探し3日目。。。
 
 
幾ら探してもほこらが出てくる浅瀬は発見出来ず……。
何回も海上を行ったり来たりで、船が無駄に移動する度、
モンスターとバトル……、の、繰り返しで、ジャミルのストレスは
限界を超えていた。
 
「むーかーつーくうううーー!」
 
「ねえ、ジャミル……」
 
ダウドが声を掛けるが。
 
「……うるさい……」
 
「ジャミルー、遊ぼう、トランプしようよ!」
 
「うるさい……」
 
アイシャも声を掛けるが……、うるさいうるさい、連発である。
 
「……頼むから一人でやってくれ……、話し掛けるな、気が散るんだよ……」
 
「そんなに気をもまないでよお、もっと気楽にいこうよ……」
 
「うるさい……、バカダウド……」
 
相当苛苛しているのが伝わってくる。
 
「……アルー、ど、どうしよー?」
 
ダウドが困ってアルベルトに助け船を求める。
しかしアルベルトは分かっているかの様に余裕でジャミルに話し掛けた。
 
「ジャミル、玉には息抜きにステーキでも食べに行こうか?」
 
「……ステーキ……?」
 
ゴルゴ13の様に突然ジャミルの顔が濃くなり眉毛がぴくっと動いた。
 
「ほら、あそこに島があるよ……」
 
「ほんとだー、新しい場所だね!」
 
「とりあえず、浅瀬探しは後にして、行ってみようよお、ジャミル!」
 
ダウドがジャミルの肩をぽんと叩いた。
 
「……ステーキ……、山盛り……」
 
 
ジャミル達は船を降りて早速、島に上陸し近くにあった小さな村へと足を運んでみる。
村の感じは日本の古代の大和王国に近い感じである。
 
「うわあ!ここも私達が住んでる所と全然違うんだねー!」
 
アイシャが目を丸くし、辺りをキョロキョロ。
 
「スーの村も個性的だったけどね、……本当に色んな所があるんだなあ」
 
腕組みをしてアルベルトが呟く。
 
「おお、ステーキ……、我のステーキはどこじゃ……」
 
「おい、あんたら……」
 
4人がキョロキョロしていると、村人が近寄ってくる。
 
「こんにちは!」
 
アイシャが気さくに挨拶する。
 
「変わったヘアスタイルだな……、横に何がついてんだい?ひょうたん?」
 
ジャミルが村人の頭をまじまじと見つめた。
 
「ふむ、あんたら、外国人だな、珍しいなあ、こんな所に……」
 
何故、言葉が通じるのかはさて置き……。
 
「はい、そう言う事になりますね」
 
「……てっ!」
 
ジャミルのケツを抓りながらアルベルトが答えた。
 
「ねー、ねー、ここはなんて言う村なんですか?」
 
ダウドが嬉しそうに訪ねる。
 
「ジパングだ、悪い事は言わねえ、旅行で来たんなら早く帰った方がいいぞ……」
 
「……えっ?」
 
そう言っておじさんは4人にそれだけ言うと、淋しそうに歩いて行こうとした。
 
「……どういう……、事ですか……?」
 
「この国を治めている卑弥呼様はな、外人が大嫌いなのさ……、
あんたらもいつまでもこの国にいると酷い目にあうぞ……、長居は無用だ、
何度も言うが早く帰りなさい、あんたらの為だ」
 
アルベルトの声に足を止め、おじさんは又一言、何処かへ行ってしまった。
 
「それじゃあ、帰るか!ステーキなんか此処には絶対無さそうだしな!」
 
「待ってよジャミル……、おかしいと思わないかい?」
 
「何がだよ」
 
「何かあるよ……、この国には……」
 
「うん、ステーキの匂いがしないモフ」(´・ω・`)
 
「さっきからうるさいな君は……、ステーキステーキやかましいよ、少し黙っててくれる?」
 
ジャミルは早く船に戻りたがったがアルベルトはどうしても卑弥呼に
会ってみたいと言うので会いに行く事になったのだが。
……目についた民家を訪れ、卑弥呼の宮殿の場所を尋ねる。
 
 
卑弥呼の宮殿
 
 
「……わらわは外人が嫌いじゃ!帰れ!」
 
「だから嫌だっつったのに……」
 
ウンザリ顔でジャミルが文句を言う。
 
「お初にお目に掛かります、卑弥呼様、私達は遠い南の地、
アリアハンから参りました……」
 
アルベルトが丁寧に挨拶し、恭しく頭を下げる。それに習ってアイシャとダウドも頭を下げた。
……ジャミルだけは手を後ろに回し、ファックユーのサインを作った……。
 
「……アリアハンから魔王を倒しに勇者達が旅に出たと聞いておるがそなたらか?」
 
「はい、そうでございます……」
 
「フン!だが、わらわにはその様な事は関係あらぬ!早々に立ち去れ!
わらわは外人が大嫌いじゃ!!」
 
「……だから、嫌いなのはわかってるっつーの!しつこ……」
 
「お主……」
 
卑弥呼が突然アイシャの方を見る……。何かを感じたのか、
アイシャはびくっと体を震わせジャミルの後ろに隠れる。
 
「フヌ……、お主はなかなか可愛い若い娘ではないか……、
どうじゃ?お主だけはわらわの傍においてやってもよいぞ……、フフ……」
 
そう言って涎を垂らし、ペロッと舌なめずりをした。
……アイシャからはずっと視線を反らさず……。
 
「レズ毛があんのかよ……」
 
「ジャミル……、何だか怖いよ……」
 
不安になったのか、アイシャがジャミルの手をぎゅっと握る。
 
「あ、わりいっすね、こいつ俺のだから!」
 
そう言ってアイシャを手元に引き寄せた。
 
「キャ……」
 
ジャミルに抱きしめられたアイシャが顔を赤くする。
 
「ジャミル、そろそろお暇しようか、あんまり長くいても失礼だし」
 
「そ、そうだよね!」
 
アルベルトの言葉にダウドがうんっ、うんっと頷く。
 
「んじゃ、そう言う事で!」
 
ジャミルが卑弥呼に「ちゃっ!」と挨拶し4人はさっさと宮殿を退場する。
 
「……忌忌しい勇者共め……、今に見ておれ……」
 
「う~っ、怖かったわあ……」
 
無事に宮殿の外に出た4人。アイシャがぶるっと身震いする。
 
「やっぱりおかしいな、あの卑弥呼って人は……、どうも不可解なところがある……」
 
アルベルトが考える。
 
「そういや、この村ってさ、やけに若い女の子が少ねえ様な気しない?」
 
ジャミルがキョロキョロ辺りを見回す。確かに村は小さな村で、
誰もあまり歩いている気配は見えないが……。玉に人が歩いているのを
見掛ければ、お年寄りやら、おじさんとおばさん、若者は青年と小さな子供ばかり目につく。
 
「なんだ……、おまえさん達、まだいたのかい……」
 
声を掛けてきたのはさっきジャミル達に注意をしてくれたおじさんだった。
 
「色々あってさ……、へへ、まだいるんだよ……」
 
ジャミルがボリボリ頭を掻いた。
 
「あの、この村の宿屋はどこですか?」
 
アルベルトがおじさんに尋ねると……、他のメンバーは驚きの表情を見せた。
 
「なんだよ、お前此処に泊まる気かよ!」
 
「オイラ、何か嫌だよ、船に戻りたい……」
 
「だって気になるじゃないか!もうちょっと此処で色々調べてみようよ」
 
「でも、何だか怖いわ……」
 
新しい場所にはいつもは喜ぶ筈のアイシャも今日は早く船に戻りたい様だった。
 
「宿屋はねえけど……、よかったらウチ来るか?」
 
「ええっ!いいんですか?」
 
「ああ、あんたら見てたら色々他国の話も聞いてみたくなったんだ」
 
「有難うございます!」
 
「……だけど、明日の朝にはすぐに此処を発った方がいいぞ……」
 
おじさんはそれだけ言うと先にのしのし歩き出した。
 
「なんなんだよ……、マジで此処は……」
 
田や畑、自然も多く、一見喉かな国の様であるが、又恐ろしい戦いの
幕開けに4人は今、雅に巻き込まれようとしていた。

ジャミル達はおじさんの家に案内された。屋根が藁の作りの住居であったが、
それでも見た感じでは、この村の中では比較的大きい部類の家の感じである。
 
「なにもねーけどゆっくりしてってくれ……」
 
「あんたー、帰ったのかい!」
 
体格のいい太ったおばさんが部屋の奥から出て来る。
 
「ただいま、珍しいお客さんだ、この人達は外国からいらっしゃったそうだ」
 
「あれあれ!それはまあ!」
 
おばさんは気さくな明るい人ですぐにジャミル達とも仲良しになった。
 
「待っててねー、今、美味しいごはん沢山作るからねー!」
 
「わあ、楽しみだねー!お腹ぺこぺこだもん!」
 
暫く元気がなかったアイシャに笑みが戻った。
 
「飯が出来るまで暫く村でも見て回るといい、まあ、大したモンねえがね」
 
ジャミル達は外に出て村を散策してみたものの。
 
「ホントに何もねえな……、畑ばっかりだ」
 
「のどかな雰囲気でいいじゃない、私はこういうの好きだけどな」
 
「なんか……、通る人、みんなジロジロこっち見てるよお……」
 
「気にすんなよ、俺達がどうせ珍しいんだろ、外から来たからな」
 
「……」
 
小さな子供がアイシャに近づいて来る。
 
「あ、こんにちは……、なあに?」
 
「これ、おねえちゃんにあげるね、ばいばい」
 
「あ……」
 
子供はアイシャに飴らしき物を手渡すと何処かへ走って行く。
 
「折角だから貰っておきなよ、アイシャ」
 
「うん、今度またあの子に会ったらちゃんとお礼言わなきゃね、ふふっ、甘くておいしいわ!」
 
アルベルトに言われてアイシャが嬉しそうに飴を口に入れた。
 
 
そして夕ご飯……。見た事がない珍しい美味しそうな料理にジャミルは生唾を飲み込む。
どうやらこの国では、お箸と言う物を使って食事をする習慣らしい。
ちなみに今日出してくれた夕ご飯は野菜の煮つけ、お味噌汁、ほかほかのご飯と焼いた魚。
 
「……弥生はどうした?」
 
「又遊び歩いてんでしょうさ……、全く、困ったモンだよ……」
 
「弥生って、娘さん?」
 
ジャミルがそう聞いた途端、夫婦の顔が曇った……。
 
「……俺、何か悪い事聞いた?」
 
「い、いや……、そうじゃないんだよ、ただね……」
 
「?」
 
「お前、やめろ……、客の前で……」
 
「いいじゃないか!誰かに喋って愚痴を聞いてもらいたいよ……!
あたしらにはそれしか出来ないんだもの……」
 
何やら深刻になってきた雰囲気にジャミル達4人は顔を見合わせる。
 
「……実は……、娘は……、弥生はもうすぐ生贄として……、死んじまうんだよ……」
 
今まで黙っていたおじさんが漸く重い口を開いた。
 
「……死ヌう!?」
 
「実はな、……この国にはやまたのおろちと言う恐ろしい怪物が住みついているんだ、
今までに沢山の若い娘が殺されたんだよ……、どうにも出来ないわしらの前に不思議な巫女、
卑弥呼様があらわれてな……」
 
「へえ……」
 
「……」
 
少し昼間の状況を思い出したのかアイシャがまた不安そうな顔をする。
 
「だ、大丈夫だよ、アイシャ……、いや、ヘタレのオイラが言うのも何ですが……、
正直、オイラもやっぱり怖いです……」
 
「ふふ、ダウドったら、……でも、ありがとうね!」
 
アイシャが笑う。珍しくダウドがアイシャを元気にさせようとしたが。やはり無理だったらしい。
 
「卑弥呼様は不思議な力を持っていて、何とおろちの怒りを鎮めて下さると言うんだよ」
 
「……」
 
「だが、その代償として三か月に一度、生贄に若い娘を捧げよと……」
 
「等々家の娘の番になっちまってね……」
 
今まで明るかったおばさんの顔がみるみる壊れていく。
ジャミルはどうしてこの村に若い女の子があまりいなかったのか、
何となく理由が分かってきた。
 
「明日が娘の……、最後の日さ……」
 
「ただいま」
 
と、玄関の方で声がした。
 
「弥生……、帰ってきたのかい…」
 
どっこいしょと、おばさんが立ち上がり娘を呼びに行った。
 
「……おきゃく……さん……?」
 
部屋に入って来た綺麗な黒髪の美少女がジャミル達を見た。
 
「挨拶しなさい、この方たちは外国からいらっしゃったんだよ」
 
「俺、ジャミル!」
 
「僕はアルベルトです……」
 
「私、アイシャ!よろしくね!」
 
「オイラ、ダウド!」
 
4人が一斉にと弥生に挨拶する。
 
「あっ、こんにちは、初めまして……、私は弥生です……」
 
「また今日は随分遅かったね……、何してたんだい」
 
「お母さん、ごめんなさい、私、今まで地下室に隠れていたの……」
 
「……そんな事をしても無駄だよ……、お前は明日死んでしまうのだから……」
 
もう諦めきった様におじさんが口を開く。
 
「私……、死ぬのが怖いの……、まだ死にたくない……、でも、もうお終いなのね……」
 
「んなもん、俺達がやっつけてやるよ!」
 
「えっ……!?」
 
全員がジャミルを見た。
 
「あなた達は一体……、何なんです?」
 
「私たち、アリアハンから来たの!魔王を倒しにね!」
 
おじさんが不思議そうに首を傾げるとアイシャがウインクする。
 
「……風の噂で聞いているよ……、あちこちで騒動ばかり起こして
台風の様に去って逃げて行く謎の勇者達一行の噂を……、まさかあんたらが……」
 
おばさんが驚きの声をあげた。だから、騒動と台風は余計なんじゃとジャミルは思ったが。
 
「明日、卑弥呼のバカに言ってやんなきゃな、生贄なんかもう必要ねえって!安心しな!」
 
「本当ですか……?」
 
希望を求める様に弥生がジャミルの方を見る……。
 
「天のお導きじゃ……、神様……、ああ、勇者様……、有難うございます……、うう……」
 
「あんた……、夢じゃないんだね……、弥生が死ななくてもいいなんて……」
 
希望を持てた事で、弥生の両親も涙を流し合った。
 
ダウドだけは……「やだなー、オイラだけ帰ろうかしら……でもんな事したら
ぶん殴られてしまうわー、きゃーやだなー、怖いわー」と、ブツブツ言っていた。
 
その夜、ジャミル達、男3人は客用の部屋でおばさんが用意してくれた
ふかふかの布団の中で眠りについた。アイシャは弥生の部屋にお世話になっている。
 
「うふふ、お邪魔しまーす」
 
「女の子同士、どうぞ宜しくお願いしますね、アイシャちゃん」
 
「こちらこそ宜しく!」
 
 
……そして、深夜……、少女達が静かに眠る部屋に忍び寄る怪しい影が……。
 
翌朝……。
 
 
「ジャミル!大変だよお!早く起きてよ!」
 
ダウドの悲鳴に近い声でジャミルは目を覚ます。
 
「ジャミル、起きたかい!?」
 
「……まだねむい……、ふぁ~っ……、アルまで何だよ、
お前らもう起きたのか、やけに早いな……」
 
ジャミルが欠伸をする。これから知る大事件などとはまるで無縁な……、
本当に気持ち良い朝であった。
 
「……アイシャがいなくなっちゃったんだよ!」
 
アルベルトもかなり動揺していた。
 
「……船に戻ったんじゃねえの?」
 
「それが……、いなかったんだよおー!村の中も探してみたけど何処にも……!」
 
「……っ!」
 
ジャミルの顔つきが変わり……、何かを悟った様にその表情が険しくなる。
 
「ゆ、ゆ、ゆ……、勇者様あ~!」
 
おじさんとおばさんが二人で慌てて部屋に転がり込んできた。
 
「どうかしたのかい?」
 
「……弥生が……、弥生が……、いないんだよ!!」
 
「何だって!?」

「村中何処を探しても見つからなくて……、近所の者にも聞いてみたんだが……」
 
「ああ、弥生……、何て事だい……、弥生、弥生……」
 
おばさんが両手で顔を覆い、その場にしゃがみ込み、
おじさんはおばさんを慰める様に支える……。
 
「あ、あ、あ、……アイシャもいないんだよお~っ!」
 
ダウドもわたわた、慌てふためく。
 
「考えられる事は只一つだ」
 
「あ、ジャミル!どこ行くのさ!」
 
「……クソッタレ卑弥呼のとこだ!」
 
「待って!僕も行くよ!」
 
「う~、しょうがないなあ……!」
 
ダウドも急いでジャミルとアルベルト、二人の後を追った。そして、
ジャミルが向かった場所とは……、卑弥呼の宮殿であった……。
 
「てめえ……!アイシャ達を何処へやった!?」
 
ジャミルが卑弥呼に掴み掛った。
 
「フン……、強情な夫婦だったわ……、いつまで立っても娘を差し出そうとせぬ、
わらわ自らの力を使い、迎えに行ってやったのじゃ、弥生共々あの小娘もおろちの生贄じゃ!」
 
「……そ、そんなあ~っ!……う、うそでしょ……」
 
ダウドがショックで座り込む。
 
「何処へ……連れてったんだよっ!!」
 
「東の洞窟じゃ!だがもう遅いわ!もうおろちに食われて今頃は骨になっておるかも知れぬぞ!」
 
「……アル、ダウド、行くぞ……!」
 
二人がジャミルの顔を見てこっくりと頷いた。
 
「ほお~っ……、暇人が何処へ行こうというのじゃ?」
 
「……決まってんじゃねえか!うるせえババアだな!
おろちを倒して弥生さんもアイシャも二人共助けんだよ!」
 
「愚か者!おろちはこの国の守り神じゃぞ!?倒すじゃと!?不届き者めが…!」
 
「……人を殺すのが神なのですか!?沢山の人を悲しませる事が神のやる事ですかっ!!」
 
「ア……、アル、……落ち着け……、いつまでもこいつと相手してても時間の無駄だ、
二人が連れて行かれた場所は特定出来たんだ、早くアイシャ達を助けにいかなきゃ……」
 
今日は珍しくアルベルトとジャミルの立場が逆である。
 
「こんなバカ相手にするだけマジで時間の無駄だ、行こう!」
 
「分ったよ、ジャミル、……急ごう!」
 
ジャミルにバカと言われたらお終いである。
 
「フン……、倒せる物なら倒してみるがよいわ……、フフフ……」
 
「アイシャ……、弥生さん……、頼むから無事でいてくれよ……」
 
心の中で祈りながらジャミル達は東の洞窟へと急いだ。
 
 
東の洞窟
 
 
……むわああ~っ……
 
洞窟の中は砂漠なんて目じゃない程の暑さだった……。
 
「うへえ~……、なにここお……、げーっ!溶岩がーっ!あっつーい!」
 
萩○欽一の如くダウドが何でそーなるの!状態ですっとび上がった。
 
「ふう、本当に暑いな……」
 
いつもは冷静なアルベルトでさえ今日は言葉を口に出してしまっていた。
 
「ジャミルは大丈夫……?」
 
ダウドがジャミルに声を掛けるがジャミルも辛そうである。
 
「これぐらいで……、まいってたら……、先に進め……」
 
ジャミルの体がふらつき、ぶっ倒れそうになる……。
 
「あ!ジャミル、平気!?」
 
アルベルトがジャミルを支えるとジャミルは慌てて体制を立て直した。
 
「あ、ああ……、何とかな……、平気だよ、ちょっと目まいしただけさ、
それにしても流石にこれはまいるぜ……」
 
「この溶岩が……、プールだったらいいのにねえ……」
 
ダウドがしゃがみ込んで溶岩を眺めた。
 
「やめろ、余計気が散る!」
 
「でも、サウナにはなりそうだね……」
 
「……」
 
何故か無言でダウドがジャミルの下腹部を……、じーっと見つめている。
 
「な、なんだよ……、ダウド……」
 
「ジャミル……、最近下っ腹が出てきてない……?丁度いいかもよ……」
 
「あれだけバクバク食べればね……」
 
アルベルトも同意し、首を静かに縦に振る。
 
「あんまりおデブさんだとアイシャに嫌われちゃうよ!」
 
ダウドがくっくっと笑った。
 
「……うるせー!俺は太ってなんかねえっ!」
 
「自分で見ただけじゃ、案外判らないものさ」
 
「そうだよね、細そうに見えても隠れ内臓脂肪とかある場合あるもんねえ~」
 
「今は関係ねえんだよっ!……んな事より、早く先進むぞ!先!」
 
「あ、誤魔化したな……」
 
「誤魔化したね……」
 
「うわっ!!」
 
「……ジャミル!どうしたの!?」
 
突然、溶岩の中から真っ赤な岩の塊の魔物が現われ行く手を塞ぐ。
 
「あつっ!何だよコイツ!」
 
「溶岩魔人だっ!気を付けて!」
 
「……ひいーーっ!」
 
ダウドがコテンとその場にひっくり返った……。
 
「ダウド……、悪いけど、回復頼めるかな?」
 
アルベルトがダウドに薬草を手渡す。
 
「うん……、わかった、て、あれ???」
 
ダウドが返事をする間もなくジャミルとアルベルトは溶岩魔人に突っ込んで行った。
 
「……二人はあんなに凄いのに……、オイラ弱虫だ……、何にも出来ない……」
 
「ダウド!回復を……!頼む!」
 
「あっ、うん!」
 
「きっと…オイラにだって…見つかるはずさ……、きっと何か出来る事……」
 
……溶岩魔人は何とか倒したものの、ジャミルが体の彼方此方に
火傷を負い、負傷してしまう……。
 
「う~……、やまたのおろちってどんなんだろう……、怖いなあ……、ドキドキ…」
 
先程の戦いを見ていたダウドがビクビクする。
 
「急ぐぞ!マジで時間がない!余計な手間掛かっちまった!」
 
3人は一斉に走り出す……。やっとジャミル達は地下2階へとたどり着く。
錯乱した人骨があちこちに散らばり、かなり嫌な臭いのする場所だった。
おろちの生贄になり、喰われた村の娘達の人骨かも知れなかった……。
……3人は心の中で犠牲者達の冥福を祈り、先へと進む。
 
「……痛っ!」
 
「平気かい?火傷した所だろ?」
 
「これぐらい……、屁でもねえよ……」
 
そう言ってジャミルは火傷した自分の右腕をちらっと見る。
 
「!全然平気じゃないよぉ~っ!どこが軽いのさーっ!」
 
「……バカダウド……、うるさい……」
 
「駄目だよ!火ぶくれしてるじゃないか!今、べホイミかけるよ!」
 
「いや……、本当に平気だから……、おろちの所までもう少しなんだ、余計なMP使うな……」
 
「ジャミル……」
 
「うわあ……、今日のジャミルってば何かかっこいい……、オイラ惚れちゃいそう……」
 
しかしジャミルの腹の中では……。
 
(なんか近頃妙に話が真面目だな……、俺には合わねえや、あーあ、火傷はいてーし、
腹は減るわ、帰ったらソースべちゃべちゃ付いたたこ焼きでも食うかな……
……あ、マヨネーズも付いてねーと……、食いてーなあ、畜生……)
 
と、ジャミルが考えているのも知る由もないアルベルトとダウドであった。
 
「あ、あれっ!」
 
「ダウド、どうしたんだ……?」
 
「誰か倒れてる……」
 
……人骨の上に女の子が倒れていた。
 
「弥生さんだよっ!!」
 
ジャミル達は急いで弥生の元へと走る。
 
「……弥生さんっ!おいっ、しっかりしろっ!」
 
ジャミルが弥生を助け起こすと、弥生がうっすらと目を開けた……。
 
「……ジャミル……さん……?アルベルトさん、ダウドさんも……、
来てくれたんですね……」
 
「よかったあああ……」
 
ダウドがそっと胸をなで下ろすが。
 
「私……、アイシャちゃんと……、夜中に突然黒い影に飲み込まれて……、
それから先は覚えていないの、今、気が付いたら此処の場所に……」
 
「怪我とかしてないですか?」
 
アルベルトが聞くと弥生は笑みを浮かべ、静かに返事を返す。
 
「ええ、私は大丈夫です……、それよりアイシャちゃんを……、
多分この先に連れて行かれたと思うの……」
 
「よしっ!行くぜっ!」
 
「……どうか……、お願い……」
 
弥生は安心したのか静かに目を閉じ、再び気を失ってしまう。
 
「……ダウド、お前此処で弥生さん頼むわ、守ってやってくれ……、
何かこの辺りは……、モンスターの気配がしねえみてえだ……」
 
「ええーっ!オイラ一人でえ……」
 
「僕達はアイシャを助けに行ってくる!」
 
「うん……、わかった……、気を付けて……」

その3

ジャミルとアルベルト、二人は手前の橋を渡り、更に奥へと進む。
其処で見た光景は……。祭壇に寝かされたまま動かないアイシャの姿であった……。
 
「……アイシャっ!」
 
ジャミルは急いでアイシャに駆け寄り、アイシャに呼びかける。
しかし、アイシャは眠ったまま、返事を返さず……。
 
「息はしてるみてえなんだけど……」
 
「何か強力な魔法で眠らされているのかも……」
 
「取りあえずこっから逃げるぞっ!とっとと脱出だっ!……よっ!」
 
ジャミルがアイシャを急いで負ぶおうとするが。……ふらふらと身体がよろけてしまう。
 
「……あれ?」
 
「ジャミル……」
 
「くっそーっ!重ーいっ!少しダイエットしろーーっ!」
 
(全く、このバカップルは……、ジャミルだって人の事言えない気がする……)
 
「何だ?アルっ!」
 
「何でもないよー」
 
実はこの時、ジャミルがよろけたのは、別にアイシャの体重が重いのでも何でもなく、
火傷で負傷し、無理をしたジャミル自身に疲れが出始めていたからであった。
アイシャを助けようと無我夢中であったジャミル本人はその事に気づかず……。
 
 
「……ワラワノエモノニ……ナニヲシテオル……」
 
 
ジャミルと、アルベルト、二人の前に8つ頭の怪物、やまたのおろちが
遂にその巨大な姿を現す……。
 
「……うわ!おろちキター!?」
 
「……側で見ると一段と大きいね……」
 
 
「ソヤツハワラワノエモノジャ……、ワタサヌ、ワタサヌゾ……」
 
 
「こいつ人語喋ってるし……、しかも何でカタカナなんだよ……」
 
「いよいよ戦闘開始だね……」
 
ジャミルが鉄の斧を構え、アルベルトも警戒する。が……、こっちは
意識の無いアイシャを庇って戦わなくてはならない為、若干不利である。
 
「アル、アイシャを連れて先に逃げてくれ!こいつは俺が引き留めとく!」
 
「駄目だよっ、一人じゃ無理だっ!」
 
 
「おーい、ジャミルー!アルーっ!」
 
 
「……ダウド……?」
 
ダウドがバタバタとこちらに向かって走って来る。後ろには弥生もいる。
 
「何してんだよっ!危ねえじゃねえか!」
 
「お、お、お……、オイラもジャミル達と戦うっ!」
 
「私も何かお手伝いしたいんです!」
 
ダウドがどもって震えながら喋る。更にその後ろから弥生も顔を出した。
 
「うーしっ、偉いぞっ、ダウドっ!」
 
ジャミルが笑いながらダウドの肩をバシバシ叩く。
 
「痛いよ、ジャミル……、そんなに力入れて叩かないでよお~……」
 
「あ、わりィ……」
 
「弥生さん、お身体の方はもう大丈夫なのですか?」
 
「はい、アルベルトさん、平気です、ジャミルさん、私に何か出来る事はありますか?」
 
「んじゃ、アイシャの事頼むよ!すぐにこいつを倒すから!」
 
「分りました!」
 
アイシャを弥生に預け、男衆は再び巨大なおろちと向き合う……。
 
「オイラ、二人をさっきの安全圏の場所までもう一度連れて行くよお!」
 
「そうだな、その方がいいな、ダウド、頼む!けど、そのままトンズラすんなよ……?」
 
「逃げないよおーっ!さ、弥生さん、オイラとさっきの場所まで行こう!」
 
「はい!……どうか皆さん、お気を付けて!アイシャちゃんの事は任せて下さい!」
 
「頼むな、弥生さん!」
 
ダウドは弥生を先程のモンスターが出現しない安全圏の場所まで誘導しに行った。
 
(けど、攻撃魔法が使えるアイシャが抜けてる以上、
何処までやれるかな……、でもやるっきゃねえな!)
 
やがてすぐにダウドもバトルに復帰する。……が、やはり彼はいつも通り、
キャーキャー言いながらおろちの攻撃から逃げ回っているだけである。
アルベルトは、ほぼ回復の方に魔法を使わなければならない為、攻撃魔法の
方に回れないので、アイシャが抜けた穴は大きく、やはり大変な状況になっていた。
 
「ふう、流石にきついな、こりゃ大変だ……」
 
「ジャミル、やっぱり僕も攻撃の方に回ろうか……?」
 
「駄目だ!今んとこ真面な回復魔法が使えんのはアルだけなんだぞ!
俺じゃMPが少ねえし、間に合わねえんだから!」
 
「……あっ!」
 
ダウドが思い切り石につまずいてこけた。……その隙を逃さずおろちはダウド目掛け
8つの首を伸ばしダウドに鋭い牙で噛み付こうとする……。
 
「ダウドっ!!」
 
ジャミルが咄嗟におろちからダウドを庇い、二人は地面に転がってしまう。
 
「いたた、ジャミルう~、ごめんよお~……」
 
「あぶねえな、気を付けろよっ!バカ!」
 
「大丈夫かい、二人共!」
 
アルベルトがすぐにべホイミを二人に掛ける。
しかし、やはりべホイミを掛けて貰っても、ジャミルの火傷の方の箇所は
完全には完治せずであった。それ程、酷くなっていたのである。
 
「サンキュー、アルっ!」
 
「えへへー、アル、ありがとう!」
 
「……に、してもやっぱこいつ、エライ強いな……、やっぱ、
今までが今までだったからな……、ちょっと舐めてたな……」
 
「死ぬ気で行くしかないみたいだね……!」
 
「……ヒィィーーっ!!」
 
 
……その頃、弥生はアイシャを庇いながらジャミル達が戻って来るのを
モンスターが来ない安全な場所で、只管じっと堪えて待っていた……。
 
「大丈夫、大丈夫よ……、恐くなんかないわ、すぐにジャミルさん達が来てくれる……」
 
「う、……ううん……」
 
「アイシャちゃん……?」
 
「弥生さん……?こ、此処どこお!?」
 
卑弥呼が掛けた魔術の力が切れたのか、漸くアイシャが目を覚ました……。
 
「アイシャちゃん、良かった……、意識が戻ったのね!?」
 
弥生に抱擁され、アイシャは何が何だか分からず……、弥生に
一体何故自分はこんな所にいるのか尋ねてみる……。
 
「そっか、私達、生贄の為に捕まって此処に連れて来られたの……、
全然記憶がないわ……」
 
「私は昨夜の事は何となく覚えているのだけれど……、何となく眠れなくて……、
そうしたら黒い影が私達の部屋まで迫って来たの、私、アイシャちゃんを起こそうと
したのだけれど……、其処から先の記憶が無くて、気が付いたら此処にいて、
ジャミルさん達が助けに来てくれたの……、この場所はモンスターの気配がないから
安全な場所みたいなの……」
 
「はっ!……そ、そうだわ、ジャミル達は!?」
 
アイシャが訪ねると、弥生は一呼吸置き、ジャミル達の件を話した。
 
「こ、こうしちゃいられないわ!私もジャミル達に加勢しに行かなくっちゃ!」
 
「……アイシャちゃん、危ないわ!無理しちゃ駄目よ!」
 
「でも、私がやっぱりいかないと!皆、本当に本当に無茶しちゃうのよ、
だからフォローに行かないと……!」
 
「アイシャちゃん……」
 
普段暴走するアンタも何を言っとんじゃい状態であるが。
弥生は静かに溜息をつくともう一度アイシャをハグする。
 
「分ったわ、でも、アイシャちゃん、本当に気を付けてね……」
 
「うん、……弥生さん、暫く一人になっちゃうけど……、絶対に又
すぐにジャミル達と迎えに来るからね!少しの間、我慢しててね……」
 
「ええ、大丈夫よ、……信じて待ってるわ……」
 
アイシャは弥生に送り出され、ジャミル達と合流する為、洞窟の中を一人、走り出した。

「……くっそ~っ!どうなってんだよ、あいつ、攻撃しても全然びくともしねえ!」
 
ジャミル達3人はおろちに攻撃を仕掛けるものの、おろちに全く
ダメージを与えられない非常事態に苦戦していた。
 
「もしかしたら、八つの頭の内、どれかが急所である本体なのかも……」
 
「うーん……、難しいな……、不用意に近づけば火炎が来るし……」
 
ジャミルとアルベルトが困って考えていると……。
 
「あー、ジャミルっ!うしろっ!」
 
ダウドがジャミルに向かって思い切り叫んだ。
 
「え……、う、うわあっ!?」
 
おろちの首の一本が突然伸びジャミルを捕えて身体に巻き付き拘束してしまう。
 
「……何すんだよっ!放せよ!……くうっ!」
 
もがけばもがく程、体がきつく締め付けられ、ジャミルは身動きが取れなくなる。
 
「うわー!ジャミルをはなせえーっ!!」
 
「ダウド、……バカっ!来るなーっ!」
 
「あ、……わああーーっ!!」
 
珍しくダウドが怒りおろちを叩くが一撃で遠くに吹っ飛ばされた。
 
「ジャミル待ってて!今助けるから……!やっぱり僕も多少は
攻撃魔法でサポートしないと駄目だっ!」
 
しかし、おろちは残りの数本の頭で呪文を詠唱しようとしたアルベルトを攻撃する。
 
「……うわっ!」
 
アルベルトも壁に叩き付けられ、呪文の詠唱を妨害されてしまう事態に……。
 
「アルーっ!無茶すんなっ、逃げろーっ!」
 
「……く、くそっ……」
 
「放せっつってんだよ!あ……、あれ?」
 
ジャミルはおろちの首に絞めつけられたまま逆様で宙づりになる。
 
「やめろ~っ!頭に血が上るーっ!!」
 
逆様になったまま喚くジャミル。
 
「コノサイ……、オトコデモカマワヌ……、ワラワノイノチヲタモツタメ……」
 
「……何いっ!まさか俺を食う気かーっ!?」
 
「ジャ、ジャミル……、う、くうっ……」
 
アルベルトが何とか立ち上がろうとするがさっき食らった衝撃で
脳震盪を起こしていた。ダウドはダウドで気絶したまま動かない。
……おろちの牙がゆっくりと……、ジャミルに迫る……。
 
(……万事休す……か……、はあっ……)
 
ジャミルが諦め掛けた、雅にその時……。
 
 
「ヒャダルコっ!!」
 
 
「……グギャアアアーーッ!!」
 
「え……、何???あ、あ、あ、……ああ~っ!!」
 
何が起こったのか理解出来ないままジャミルは頭から地面に落下する。
……漸く、おろちの首の拘束から解放されたのではあったが……。
 
「いって~っ!な……、なんなんだ……」
 
「えへへ!ただいま~!」
 
「……アイシャっ!!」
 
ジャミルとアルベルトが同時に叫ぶ。復活したアイシャが漸くこの場に駆けつけ、
皆の危機を救いに来てくれたのであった。
 
「ほら、しっかりしなさい!がんばれ男の子!」
 
「アイシャお前……、もががががっ!」
 
アイシャがジャミルの口に……、強引に無理矢理薬草を押し込んだ。
 
「……ぐえ~っ!にっげ~っ!……おめえなあーーっ!!」
 
「我慢するのっ!はい、これ、アルの分の薬草よ!」
 
「あ、ありがとう……」
 
アイシャはアルベルトには普通に薬草を手渡すのであった。
 
「ダウドは何処……?」
 
「あそこでのびてる……、大分頑張ってくれてたんだけど……」
 
アルベルトが苦笑いし、倒れているダウドの姿を見つけたアイシャは
とてとてとダウドに近寄って行く。
 
「もうっ!しょうがないなあ、ほらダウド、起きて!」
 
「んー?あれ???アイシャ?なんでぇー?」
 
目の前にいるアイシャを見て、事の起こりが判らずちんぷんかんぷんなダウド。
 
「とにかく傷に薬草塗って!はいっ!応急処置程度にしかならないけど……」
 
「あ、ありがとーっ!でも、意識戻ったんだね、無事で良かったよお~……」
 
「ふふ、此方こそ有難う!私、回復魔法が使えないからいつも予備に持ち歩いてるの」
 
「……まあ、とにかく助かったぜ、……俺には強引だったけど、ありがとな、アイシャ!」
 
「うふふっ」
 
ジャミルに言われてアイシャが嬉しそうに笑った。
 
「あっ、ねえ……、おろちが……」
 
「えっ!?」
 
アイシャに言われ、見るとおろちが8つの頭を振り回し、苦しそうにのた打ち回っている……。
 
「……どうなってんだ……」
 
「もしかして、さっきアイシャが攻撃してくれた所が本体の急所なのかも……」
 
「そうか、あいつの弱点は目なんだな……」
 
アイシャのヒャダルコ攻撃は、おろちの本体を直撃し、
弱点である目に大ダメージを与えたのである。
 
「オ……、オノレ……」
 
「よしっ!いっちょやってみっか!一致団結だっ!!」
 
「おーっ!」
 
弱点が判ってしまえばもうこっちの物だった。
アイシャが復帰してくれた為、ヒャド系の呪文で超有利!である。
……当たってんだか当たってないんだか判らないダウドの鋼の鞭攻撃!
そして、アルベルトがジャミルのサポートに回り、バイキルトの詠唱を始める。
 
「ジャミルっ!」
 
「ああ、判ってる、行くぜっ!」
 
鉄の斧を構えておろち目掛け、思いっ切りジャンプする。
 
「……これで終わりだーっ!」
 
ジャミルの攻撃がおろちの本体の目を突き刺す……。
目から血を流しながらおろちが暴れ、辺りは凄まじい絶叫がこだまする……。
 
「やりっ!手ごたえありっ!」
 
ぴょんっとジャミルが地面に着地する。
 
「……オノレ……、コノママデハスマサヌ……」
 
「んだよ、まだかよ……、外したかな……、チッ……」
 
「キャアアーーッ!!」
 
「……やべえっ、アイシャっ!?」
 
最後の力を振り絞り、おろちの首が……、今度はアイシャを捕える。
 
「いい加減にしろよ!しつけえんだよ!ゲスめ!」
 
「コノムスメハワタサヌゾ……!ワラワノモノジャ!」
 
「うるせーこの馬鹿!とっととアイシャを放しやがれ!!」
 
「……フンッ!!」
 
突然、血だらけのおろちの目から閃光が走った……。
 
「……うっ!」
 
「まぶしいよおー!何にも見えない!」
 
ようやく目が慣れて来た頃にはおろちの姿も消えていた……。
 
「ちくしょう……、逃げやがった!あの野郎!またアイシャを……!」
 
「えー……、まだ終わんないのお……」
 
「ジャミル、あの光はなんだろう……」
 
アルベルトが指差す先には血の跡が点々と着いており、
何処かへと続いているらしき小さな光があった……。
 
「まさか……、ここを通って逃げたのか?別の場所に通じてるのかな……」
 
「こ、こんな小さい所……、よくあの怪物が通れたね……」
 
「でもっ、へ、変な場所に行っちゃったら困るよおー!!」
 
「……このまま此処に残っててもいいんだよ?ダウド……」
 
「あう~……」
 
「行くか、いい加減でケリをつけなきゃな、アイシャも又取り返さねーと!」
 
「でも、ジャミル待って!弥生さんはどうするの?洞窟に一人にしておくわけには……」
 
……アルベルトが心配そうに後ろを振り返る。
 
「……今、この状況のまま一緒に連れ帰ってもどっちみち危険な目に遭わせるだけだ!
弥生さん……、ごめんな、もう少し辛抱してくれよ……、必ず迎えに来るから……!!」
 
「そうだね、一刻も早くおろちを倒そう!」
 
「う~……、嫌だよお……、とほほ……、もう漏らしそう……」
 
「……大丈夫だと思うけど、もしも奴が回復魔法でも使えるんだったら厄介だからな、急ぐぞ!」
 
3人は一刻も早くおろちを倒し、アイシャと弥生を助ける事を誓うと、
おろちが消えたらしき光の中へとダイブした……。
 
 
「ここは……?」
 
「いてて……、お尻打ったよお……」
 
ダイブ先は見覚えのある場所だった。
 
「ここって確か……、卑弥呼がいた宮殿……だよね?」
 
「ああ、多分……」
 
アルベルトとジャミルは宮殿内を見回す。……段々と記憶がはっきりしてくる……。
 
「何か……、悪寒がする……、悪寒がする……、悪寒がするわ~っ!!うわー!」
 
突然ダウドが発狂して踊りだした……。
 
「B級霊能力者かい……」
 
「来る来る来る~っ!奴が来る~っ!……ア、アー!キタ~ッ!!」
 
「……」
 
壊れたダウドをほおっておいてジャミルは屋敷の奥へと中を進む。
 
「また床に血が……、ん?」
 
……正面を見ると呆然と広間に立ちつくしているアイシャの姿があった。
 
「アイシャっ!」
 
「……ジャミル!」
 
ジャミルの姿を見たアイシャはジャミルに急いで駆け寄り、思い切り抱き着いた。
 
「……大丈夫かっ、平気か!?」
 
「私は平気、だけど……」
 
「おーい!」
 
後からアルベルトと、ダウド、二人も追い掛けて来る。
 
「アル!ダウドも……、皆ごめんなさい、心配かけて……、
私は大丈夫よ!来てくれてありがとう!」
 
「お前は……」
 
そして床には……、血だらけの卑弥呼が倒れていた。
 
「あなたが……、おろちの正体だったのですか……」
 
……アルベルトが震えながら拳をぎゅっと握りしめた。

「フフフ……、ふん……、本物の卑弥呼はわらわが
当の昔に食い殺してくれたわ……、フフフフ……」
 
……まだアイシャに未練があるらしく、ギロッと卑弥呼が鋭い目でアイシャを睨む……。
 
「若い娘が欲しいのじゃ、若い娘の血と肉が……、さすればわらわは
永遠の若さと美貌を保てるのじゃ……、食べ続ける事によって……」
 
アイシャを守る様にしてジャミル達が前に出る。
 
「フフフフ……、じゃがわらわの命はもう長くはない……、
しかし、このままでは済まさんぞ!!」
 
「何だ!?あ……!」
 
「オマエタチヲ……、クイコロシテクレル……!!」
 
「やべっ!この展開だとっ、……み、皆!外へ逃げろーーっ!!」
 
「……ひいいーーっ!!」
 
ジャミル達は宮殿の外へと全員、一目散に駆け出す。やはりこういう時は
率先してダウドが一番行動が早い。卑弥呼は再び洞窟の時よりも更に
巨大なおろちへと姿を変えた。お約束で宮殿の建物は崩壊し、
ガラガラと凄まじい音を立て、崩れ出す……。
 
「はあ、何て事しやがる、宮殿壊しちまったよ……、それにしても、
間一髪、危機一髪だったあ~……」
 
「でも、どうすればいいんだろう……、僕達にはもうMPが残り少ないし……」
 
「ジャミルが巨大化すればいいんだよおー!」
 
「おー、そうか!……って、俺はウルトラマンか!」
 
「あいたあーっ!」
 
……ジャミルがダウドの頭をぱこっと叩いた。
 
「……君達、こんな時に漫才やってる場合じゃないと思うんだけど!?」
 
「すいません……」
 
「もう……」
 
アルベルトに説教されるバカ二人にアイシャが呆れて溜息をついた。
 
「勇者さま!!」
 
「……んっ!?」
 
ジャミルが突然後ろから聴こえてきた声に振り向くと、……何と、弓と武器を持った
持った沢山の村人達が集まっていた。
 
「ど、どうしたんだ……?一体……」
 
「非力ですがわしらもお助けに加勢致しますです!!」
 
「……これ以上……、わしらの大事な村を荒らされてたまるか!!」
 
「殺された娘の敵だっ!!」
 
「勇者さん、あたしらも戦うよっ!怖いからってもう逃げるのはこりごりだよっ!」
 
「舐めるなっ、バケモノっ!!」
 
……中には弥生の両親までいる。
 
「勇者様達をお助けせねば!!」
 
「みんな……、ありがとう……、あいつの弱点は目なんだ、
只管、目を狙って攻撃のサポートを頼むよっ!」
 
「……お任せあれっ!」
 
村人達の団結は疲れ切っていたジャミル達に勇気を与えた。
 
「よおーし、いくぞ、皆……!!こいつと最後のバトルだっ!」
 
「了解っ!!」
 
「……矢を放てーーっ!!」
 
長老の号令で村人達の放った矢が一斉におろちの目に向けて襲い掛かる。
 
「オノレ……!ザコドモメガ!コザカシイマネヲ……、グッ……!」
 
「これ以上もう皆を悲しませないでっ!!」
 
アイシャのべギラマがおろちの体を包み込む。
 
「……ワラワハシナヌゾ!!オマエタチヲクイコロスマデ!!」
 
「そ、そんな事させないよおー!……オイラだって頑張るんだっ!」
 
……ダウドは必至でおろちの身体によじ登ると、首っ玉の一本に思い切り噛り付く。
 
「ジャミルっ!いくよっ!」
 
「おうっ!」
 
アルベルトがジャミルにフバーバを掛ける。炎に体勢の出来たジャミルは
そのままおろちが吐く炎を物ともせずおろちに突っ込んで行く。
 
「……これで本当に終わりだかんなーーっ!!」
 
「ジャミルっ!!」
 
「……勇者さま!!」
 
ジャミルの会心の一撃、おろちの本体の急所である目を完全に潰した……。
おろちの眼球からは……、凄まじい血が噴出する……。
 
……ソンナ……バカナ……、ワラワガ……ニンゲン……ゴトキ……、
グフッ……!バラモス……サマ……ウウウ……
 
 
「……バラモスの手下だったのか……」
 
肩で息をしながらジャミルが呟く。もうジャミルの状態は限界に近かった。それでも……。
 
ワラワハシナヌ……、シナヌゾ……、グッ……!
 
……グギャアアアアーーッ!!
 
恐ろしい断末魔の叫びを残し、おろちは息絶え……、そのまま灰になった……。
灰になったおろちの残骸から光る玉と剣が出てきた。
 
「ん?なんだこれ?」
 
玉は淡く、紫色に光り輝いている……。
 
「もしかして……、これがオーブだったりするのか?」
 
ジャミルの言葉に反応するかのように玉が輝いた。
 
「やったね!1個目のオーブだよ!」
 
ダウドが喜んでバンザーイする。
 
「うん、紫色だからパープルオーブかな……」
 
「アル、だけどよう……」
 
ジャミルが村人達の方を振り返るが、長老が代表でジャミルの前に出る。
 
「勇者様、どうか持って行って下さい、わしらには必要のない物です、それから……」
 
長老が今度はアルベルトの方を見た。
 
「この剣は草薙の剣といいまして、ジパングに伝わる伝説の秘宝なのです」
 
長老がアルベルトに剣を差し出すと草薙の剣は淡く光り、小さく反応した。
 
「いいじゃん、アル、折角だしもらっちまえよ!」
 
「この剣はあなたを呼んでいます、どうか受け取ってください」
 
アルベルトがこくりと頷いて剣を受け取ると草薙の剣は又小さく光を発した。
まるで剣の主と巡り合えたのを喜ぶかの様に。
 
「良かったね、アル!凄い武器じゃない!」
 
アイシャも嬉しそうだ。
 
「うん……、これから宜しくね……」
 
アルベルトがそっと触れると草薙の剣も返事をする様に反応する。
 
「さてと、おろちもいなくなった事だし、俺は弥生さん連れてくる!」
 
「あ、僕達も一緒に行くよ!」
 
「いや、大丈夫だ、すぐ戻ってくるからさ、待っててくれや」
 
「気を付けてね……」
 
「勇者さま……、娘をどうか宜しくお願いします……」
 
ジャミルは弥生の両親にこくっと頷くと屋敷跡に残された
ワープゾーンを通って再び洞窟に戻り弥生の元へと走った。
 
「弥生さーん!いるかーい!?迎えに来たぞー!」
 
「ジャミルさん!」
 
ジャミルの声を聞き、安全圏に隠れていた弥生が飛び出して来た。
 
「もう大丈夫だ、おろちは倒したから……」
 
「ジャミルさん……、本当ですか?」
 
弥生の声が震え……、感激と喜びで胸が熱くなる……。
 
「本当さ、だから迎えに来たんだよ、さあ村に帰ろう!おじさんとおばさんが待ってる」
 
「はいっ!」
 
「あ……」
 
弥生がジャミルの手を握り、そっと触れる。弥生の手の温もりがジャミルに伝わってくる……。
 
「あっ、ご、ごめんなさい、私ったら……」
 
「い、いや、いいんだよ、独りにさせてごめんな、恐かっただろ……?」
 
「いいえ、きっと……、ジャミルさん達がおろちを倒して迎えに来て下さると
弥生は信じていましたもの……」
 
「……弥生さん……、へへ、信じてくれてありがとな!よし、行こう!」
 
「ええ!」
 
ジャミルは弥生を連れ村へと急ぐのであった……。
 
 
……
 
 
「お父さん……、お母さん……!ただいま……!皆さんのお蔭様で弥生は……、
弥生は……、こうして無事に村に帰る事が出来ました……」
 
「……弥生……、よかった……、無事だったんだね……!ああ、皆様!
本当に有難うございます!皆様には本当に何度お礼を言っても足りません!ううう……」
 
ジャミル達と村人達が見守る中、涙の中で親子は抱き合い、
心からの喜びの再会を果たしたのであった。
 
「よかった……、よかったわあ……、ぐすん……」
 
「うん……、よかったよぉぉぉ~っ!びいいいい~っ!ぐしゅん……」
 
アイシャも思わず涙ぐみ、ダウドも大号泣。
 
「本当に漸く終わったんだね……、大変だったけど……、本当に良かった……」
 
(けど、僕の方に……、ダウドの鼻水が飛んできたんだけど……)
 
……ハンカチで顔を拭くアルベルト。
 
「ふうっ……、あれ……?」
 
「ジャミル、どうしたの?何だか顔色が悪いみたいだわ……」
 
「なんか頭がくらくらするんだよ……、おかしいな……」
 
「……ジャミルっ!!」
 
アイシャが大声を出す中、ジャミルはそのまま地面に倒れ意識を失った……。

その4

そうですか……、卑弥呼様はすでに……
 
 
誰かの話し声が聞こえる……。
 
 
うう、私達は……、今まで一体何の為に……
 
 
あれ……、俺……、どうしたんだっけ……、確か……
 
 
もう過ぎてしまった事はもうどうにもならん……、これからは村中の者と共に
力を合わせて生きていかなくては……
 
「!?」
 
……ジャミルが目を覚ました。
 
「ここは……、弥生さんの家か……?」
 
気が付くとジャミルは布団の上に寝かされていた。
 
「……ジャミル……、さん……?」
 
様子を見に部屋に入ってきた弥生が目を覚ましたジャミルに驚き……。
 
「あ……」
 
「みんなぁ!ジャミルさんが……、ジャミルさんがーっ!!」
 
弥生に呼ばれ、アイシャ達も急いで部屋に駆け込んできた。
 
「ジャミル……」
 
「よ、よお……」
 
「……ばかあーーっ!」
 
「うわ!」
 
アイシャが泣きながらジャミルに飛び掛かっていった。
そしてそのままジャミルに馬乗りになり首を揺さぶる。
 
「バカバカバカ、ばかぁ!何であんな大火傷してたのに黙ってたのよーっ!!」
 
「や、やめろって……、うっ、いたたたたた!」
 
「ア、アイシャ落ち着いて……、ジャミルは重体なんだから……ね?」
 
勢いが止まらず、きゃんきゃん泣き喚くアイシャにアルベルトが声をかけた。
 
「最初に溶岩魔人と戦った時だったっけか…?そん時は大した事ねえと思ってたんだけど…
後になってからか……、痛みが強くなってきたのは……」
 
「それで……、ずっと堪えて我慢してたんだ……」
 
「……余計な迷惑掛けたくなかったからな……」
 
アルベルトの言葉にぷいと照れくさそうにジャミルが横を向いた。
 
「君って時々変な処で真面目になるよね……」
 
「……うるさい……」
 
「ううっ!それなのに……、あ、あの時……、オイラなんか
庇ったりして……、うわあ~ん!!ごめんよお~っ!!」
 
「な、泣くなよダウド……、あれぐらい何ともねえよ……」
 
「……ぐすっ」
 
「とりあえず……、アイシャも降りてくれ……」
 
「あ……!」
 
顔を赤くしてアイシャがジャミルから降りた。
 
「ごめんね……、僕がべホマさえ覚えていたならこんな事には……」
 
申し訳なさそうにアルベルトも項垂れ、ジャミルは慌てだす。
 
「気にすんなって!俺は全然平気平気!この通りピンピンして……、ヒッ!いててててて!」
 
ジャミルの体に激痛が走った……。
 
「もう無理するのやめるのっ!わかった!?」
 
「…ふぁい…」
 
アイシャに怒られてジャミルが小さくなる。
 
「勇者様……、弥生を……、娘を助けて頂いて……、本当に有難うございます!!」
 
弥生達親子が深々と、何度も何度も4人に頭を下げた。
 
「いいよ!そんな!礼なんか……」
 
「そうですよ!……僕達は当然の事をしたまでなんですから……」
 
「私達は何のお礼も出来ませぬが……、どうですか?火傷が治るまで
我が家で療養されていかれては……?」
 
「おじさん、おばさん……」
 
しかし、ジャミル達に弥生の命を救われてから、おじさん、おばさんも何だか
敬語を発したりと、言葉遣いも何だか急に仰々しくなってしまった様だった。
 
「いえ……、村中の者が勇者様達にお会いしたいと申しております、
どうぞご遠慮なさらずに……」
 
このままではどの道出発出来ないのでジャミル達は弥生家の行為に甘える事にした。
 
「あのさ、おじさん、おばさんも……、あんまり俺らに気とか遣わなくていいよ、
最初の時みたいに、砕けた感じで接して欲しいんだよ、じゃないと、俺らも
硬くなっちまうからさ、な、みんな……」
 
ジャミルの言葉に笑顔で仲間達も頷く。それを見た弥生の両親も笑顔になった。
 
「そうかい?んじゃ、遠慮しねえよーっ、ガハハ、あー、今日は酒がうめえなーっと!」
 
「父さんたら、すぐ調子に乗る……、あはは、それじゃ、あたしも気軽に接して貰うさね!」
 
「ああ、そうしてくれよ!友達感覚でさ!」
 
弥生の家には毎日、沢山の人が訪れ、ジャミル達に会いに来た。
色んな人と話をしたり、村中の人とも仲良くなりジャミルの火傷も
いつの間にかすっかり良くなった頃……。
 
「ねえ、弥生さんて……、おっぱいおっきいよね……、しかも美人だし……、はあ……、
どうやったらあんなに大きくなるのかな?何かコツがあるのかしら、今度聞いてみようかな……」
 
アイシャが自分の胸をまじまじと、……じーっと真剣に見つめる。
 
「無駄な抵抗はやめとけ……」
 
「……うん、そうね……って、何よ!」
 
速攻で部屋から逃走し、その場を逃げ出すジャミル。
 
「ああ、ジャミルさんや……」
 
「ん?」
 
台所から顔を出し、おばさんがジャミルに声を掛けた。
 
「ちょっと弥生を探してきてくれないかい?もうすぐ夕飯だっていうのに
落ち着くとすーぐこれだよ……」
 
「ああ、いいよ」
 
「すまないねえ……、近所にいると思うんだけど……」
 
ジャミルは村中を探し回って弥生を探すが見つからない。
 
「入れ違いで家に帰ったのかな……」
 
家に戻ると外の地下室の入り口が開いており、ハシゴを降りて行ってみるとそこに弥生がいた。
 
「何してんだい?」
 
「あ……、ジャミルさん……」
 
「おばさんが呼んでるぜ、夕飯だってさ」
 
「……」
 
「どうしたんだい?」
 
「ジャミルさん、私……、ずっと考えていたんです…」
 
「ん?何を……?」
 
「私の友達は……、皆おろちに殺されました……、私だけが生き残ってしまって……、
大切な友達を失って……、私には生きていく希望が見つかりません……、私なんか生きている
意味なんてないんです……、でも、私……、本当にあの時死ぬのが怖かった……、
これから私は一体どうしたらいいの……」
 
「……意味なら……、あるさ……」
 
「えっ……?」
 
弥生がジャミルの顔を見る。ジャミルも弥生を見つめる。その表情は……、
いつもお茶らけてバカをする時の表情と違い、穏やかで本当に優しい顔だった。
 
「あんたはこれから死んだ友達の分まで生きてやんなきゃ!
生きて生きて生きまくってやれ!な?そんで幸せになるんだよ!!」
 
「ジャミル……、さん……」
 
「なーんつってな、ちょっと臭かったかな?」
 
「ジャミルさん……、ありがとう……」
 
「さー戻ろうぜ!腹減っちまったよ……、おばさんの手料理美味いもんな!!」
 
「うふふふっ!そうですね、お腹、空きますものね……」
 
弥生はいつの間にかジャミルに心を惹かれている自分の気持ちに気がつき始めていた。
 
「お母さん、ごめんなさい、遅くなってしまって、今、夕ご飯の支度、手伝います……」
 
慌てて台所に入ってくる弥生。しかし、ぽーっとした娘の表情に……、
おばさんは不思議な感覚を覚えた……。
 
「……弥生……、顔が赤いけど……、どうしたんだい?」
 
「な、なんでもないのよ、お母さん……、わ、私……、おいもの皮、剥きますね……」
 
「変な子だよ……」
 
しかし、弥生の前でちょっとえーかっこしーしたジャミルではあったが、
速攻でいつものアホにと、元に戻るのであった。
 
「おい、ダウド、ちょっと来てみ」
 
「ん?何だい」
 
「見ろよ、アルの奴、本読んだまま居眠りこいてるぞ……」
 
「ほんとだ……、こうして見ると何か間抜けだね……」
 
「zzzz……ぷう……」
 
「うわ!おい、ちょっと今鼻ちょうちん出したぞ!」
 
「意外な一面だよねー!普段正統派タイプ気取って真面目ぶってるけどー!」
 
「……」
 
突然、アルベルトがぱっと目を覚ました……。
 
「お、アル……、起きたのか……?」
 
「ア、アルー?」
 
「……バシルーラ……」
               んきゃーっ!!
 
「zzzz……ぷう……」
 
ジャミルとダウドの二人は揃って弥生の家の屋根を突き抜け何処かへ飛んで行った……。
 
「もうっ!寝起きのアルを突っつくからでしょ!怖いんだからね!アルを起こしたら!!
屋根まで壊しちゃって!……どうするのよ!!これ!」
 
「ふふ、本当に賑やかな楽しい子たちだねえ、ずっと見てて飽きないよ」
 
「そうね……」
 
(このまま……、ずっと一緒にいられたらいいのに……、いつまでも……)

「ねーねー、ジャミル、明日の夜にね、村でお祭りやるんだって!」
 
夜、部屋にてアイシャが嬉しそうに燥いでいる。
 
「へー、祭りね……、何か面白そうだな」
 
「おろちがいなくなったから……、喜びの祝いの宴って言ってたかな?」
 
唇に人差し指を当ててダウドが考え込む。
 
「でも……、いつまでもこの村にお世話になるわけにいかないね……」
 
「そうだな、俺の火傷も大分良くなったしな……」
 
「お祭り見てから!ねっ?ねっ?ねっ?」
 
ダウドがジャミルにすりすりすり寄って来た。
 
「わかったよ……」
 
「でも……、折角皆と仲良くなれたのに……、もうさよならなのね、ちょっと淋しいな……」
 
「仕方ないよ……、出会いがあれば別れもある、バラモス倒したら
きっとまたいつか皆で遊びに来よう、ね?」
 
「うん……、そうだね……」
 
アルベルトがアイシャを慰める。おろちを倒し、ジャミルの火傷の療養の為、
弥生家にお世話になり、村にそのまま滞在して早一ヶ月が経過しようとしていた。
 
 
……次の日の夜、ジパングの村では盛大な宴が行われた。
男達は酒を飲み、女達はお喋りをし、語り合い、民にとって
久々の明るい笑顔が交わされた。村が平和になった事への大きな喜びだった。
 
「わしらにとって、こんな幸せな明るい日々が戻ってきたのも全て
勇者様達のおかげですじゃ!本当に有難うございますです!!」
 
長老が心からジャミル達にお礼の挨拶を述べる。
 
「だから……、そんな、いいって!へへ、どうもこうゆうの苦手だなあ……」
 
困った様にジャミルが顔を赤くする。……実は意外とシャイなのかも知れなかった。
 
「プ……、そんな柄じゃないでしょ……」
 
「何だ?アル……」
 
「何でもないです」
 
「お、そろそろ弥生ちゃんの踊りが始まるぞ!」
 
「踊り?」
 
「弥生ちゃんはこの村一番の踊り手なんだ」
 
「へー、知らなかったな……」
 
「わあ、見たーい!」
 
「弥生さん、すごいんだねえー!」
 
アイシャ達が燥ぐ。やがて踊り子衣装の着物にお召し替えした弥生が登場。
中央の踊り場まで静かに歩いて行く。
 
「うわあ!弥生さんきれーい!お姫様みたい!」
 
「……本当だね……、普段も綺麗だけど……」
 
「きれいだなあ~……」
 
アルベルト達もうっとり見惚れ、弥生の美しい姿にほれぼれ、感動している。
 
「なあ、勇者のあんちゃん、あんた弥生さんと一緒に踊ってやってくんねえか?」
 
「なっ!?俺がか!?」
 
……突然の村民のリクエストに慌てるジャミル。
 
「でも、弥生さんがお姫様なら……、君は王子様になっちゃうじゃない、
何だかなあ……、プ……」
 
「……最近何かオメーもいちいちうるさくなったなあ!アルよう!」
 
「でも、ジャミルすごいよお!!踊ってよお!」
 
ダウドも茶かし、僕は知りませーんと言う様にアルベルトが吹いた。
 
「……お前ら無理言うなよ!だって俺……、ソーラン節しか知らな……」
 
「いいんだよ!ほら、行って来なよ!覚悟する!」
 
アルベルトがジャミルの背中を押した。
 
「お、おいい……」
 
「ジャミルー!頑張ってー!」
 
アイシャまで手を振り、ジャミルを応援。ジャミルはますます顔を赤らめる。
 
「まいったな……、たく……」
 
照れつつもジャミルも弥生がいる中央の踊り場まで歩いて行く。
 
「あはは……、マジでまいっちまうなあ~……」
 
「おー!お似合いだぞ、二人とも!!」
 
「ガハハハハハ!」
 
「素敵よー!」
 
「ジャミルさん、私と一緒に踊って下さい……」
 
弥生がジャミルの手を取った。
 
「あ、うん……、へへ……」
 
月明かりの下、ジャミルと弥生は共に手を取り、幸せな時を踊るのであった……。
 
 
……
 
 
「ふうっ、ハチャメチャだったけど、やれば結構出来るモンなんだな!
うん、俺も踊りの才能あるかも!何か自信出て来た!」
 
「ごめん、オイラ、新手のスーダラ節かと……、プ……、ププ……」
 
「……うるさいっ!」
 
ダウドの頬を横に引っ張るジャミル。アルベルトが横を向いてプッと笑った。
アイシャは常に色んな人と話をし、彼方此方動き回っている為、一定の場所には
なかなか戻って来ない。皆にお酒を注いだりもしている。
 
「んっとに、そわそわ落ち着かねーな、あいつも……、ちったあじっとしてろっての!」
 
「……くしゅんっ!」
 
離れた席の方で、アイシャが可愛いクシャミを一発噛ました。
 
「ジャミルさんや!なんだ、ここにいたのかい!へへへ、やれ、どっこいしょっと!」
 
「はいはい、お邪魔しますよーっ!どうもねーっ!」
 
弥生の両親が割り込んで来、ジャミルを間に挟み、それぞれ、横にどかっと座った。
 
「あ、ども……」
 
「どうした皆!酒が減ってねーぞ!今日はジャンジャン飲みまくれ!
金髪の兄ちゃんもタレ目の兄ちゃんももっともっと飲みまくれーっ!
今日は無礼講だーっ!!遠慮するなーっ!がーははは!」
 
……おじさんの方はすでに酔っぱらい始めていた。
 
「全く、酒が入ると嬉しくてああなるんだから、困った父さんだよ……」
 
「……タレ目ぇー?こうやったらもっと下がっちゃうのかなあ~……、
でも、オイラそんなに目が下がってんのかなあ~?」
 
ダウドが困った顔をし、……指で更に自分の目を下げてみる。
 
「そうだ、ジャミルさん、これ食べてみてな、よーく煮込んだから味がしみてておいしいよ、
あたしの自慢料理の一品さ!最近は中々鹿のお肉も手に入り難くてねえ……」
 
おばさんが鹿の肉の煮物をジャミルに差し出した。
 
「おー、うまそ~っ!いっただっきまーす!」
 
「……ね、ジャミルさん、弥生の事……、どう思うかい……?」
 
「ん?ああ……、優しくって、美人で……、本当に芯の強い人だよ……」
 
「そう思ってくれるのかい?」
 
「あ、ああ……」
 
そう言ってジャミルはもう一つ肉を口に入れる。
 
「……どうかね、良かったら……、貰ってくれないかい……?」
 
「?」
 
「娘を……」
 
「んっ!?……んんんんん~っ!」
 
ジャミルは肉を喉に詰まらせ、慌てて胸を叩いた。
 
「……大丈夫かい!?」
 
おばさんが持って来ていた壺から湯呑に水を注ぎ、ジャミルに差し出す。
ジャミルは慌てて水をごくごくと一気飲みするのであった。
 
「……ぷはうーっ!苦しかったあ……」
 
「何かあったの!?」
 
アルベルトとダウドも心配する。
 
「どうしたんですか!?」
 
弥生も慌ててジャミル達の席まですっ飛んできた……、が。
 
 
……貰ってくれないかい…?娘を……
 
 
「あ……、あ……、あ……」
 
「ジャミルさん!?」
 
「……うわあ~っ!!」
 
先程おばさんがジャミルの耳共でこっそり呟いた言葉が……、頭の中でリピートしてしまい、
ジャミルは弥生の顔を真面に見れず、顔を真っ赤にし、猛スピードでその場から逃走した……。
 
 
 
「はあ……」
 
皆のいる広場から一人離れてジャミルが項垂れる。
 
「……びっくりした……、急に変な事言い出すんだもんな……」
 
どうしていいのか判らず、カツンと石ころを蹴る。
 
「……」
 
「ジャミル!」
 
「はううっ!?」
 
「な、なに驚いてるの……、私だよ……」
 
「なんだ、アイシャかよ……、びっくりした……、脅かすな……」
 
「一体どうしたの?急に走っていっちゃうんだもん、皆心配してるよ?」
 
「悪かった……」
 
「さ、戻ろ」
 
「あ、ちょっと待って」
 
「?」
 
「まあ、座れや……」
 
二人は手ごろな置き石の上に腰掛けた。……ジャミルは石に座ったまま
無言になり、黙ってしまう。心配したアイシャはジャミルに話し掛けるが……。
 
「本当にどうしたのよ、ねえ……」
 
「アイシャ、あのな、俺……」
 
「……うん……」
 
「俺……」

「……」

「……俺、太った……?」
 
「は……?」
 
アイシャの目が点になり……、再び二人の間に暫しの沈黙が流れた……。
 
「いや、だから……、俺、太ったかなあ……、って……」
 
「プッ……、あははははは!!」
 
「なんだよ!笑う事ねーじゃん!」
 
「ごめん、ごめん、でも真剣な顔してるから……、急に何言い出すのかと……、あはははは!」
 
「……だってさ、アル達に言われたんだよ!下っ腹出てきたって!」
 
下唇を突き出してジャミルが不貞腐れる。少しは気にしていたらしかった。
 
「別に気にする事ないんじゃない?あんまり変わんないよ」
 
「そーかなあ?大丈夫かな?」
 
「でも、間食はなるべく控えた方がいいと思うよ!」
 
「耐えらんねえ……」
 
やっぱり無理をするよりは、美味しい物を沢山食べていたいと思うジャミルであった。
 
「あ、見て見てジャミル!」
 
「なんだ?」
 
「お月様がまっかっか……」
 
「そうか、もう秋なんだな……」
 
「ジャミル……」
 
「ん?」
 
「助けに来てくれてありがとうね、……凄く嬉しかった……」
 
アイシャがジャミルの肩にもたれた。ジャミルもそっとアイシャの肩を側に引き寄せる。
 
「アイシャ……」
 
「なあに?」
 
「俺、お前の事好きだから!何があってもずーっとずーっと好きだからっ!以上、話おわりっ!!」
 
顔を耳まで赤くしてジャミルが喋り終える。
 
「私も大好きだよ……、ジャミル……」
 
暫く二人は二人だけの秘密の時間を過ごす……。
 
(不思議……、ジャミルといると時間の立つのを忘れちゃう……)
 
「そろそろ戻ろっか?」
 
「そうだな……」
 
「手……、繋いでいい……?」
 
「あ、ああ……、いいけど……、恥ずかしいな……」
 
照れ臭そうに二人は歩いて行った。
 
そして、祭りの広場では……、突然消えてしまったジャミルの行方を皆が心配していた。
 
「……ジャミルさん達、遅いわねえ……」
 
弥生の母親がそわそわする。楽しかった宴ももう終盤、皆引き上げの準備を始めている。
……4人は明日にはジパングを立つ事を、弥生家の皆にはもう知らせてあった。
今日~今夜が弥生家とジパングの村の皆、ジャミル達4人と最後の日なのである。
 
「私、見てくるわ……」
 
弥生が立ち上がった。残された時間、少しでもジャミルと一緒にいたい、
彼女はそう願うのだが……。
 
 
「……」
 
「どうしたの?」
 
歩いていたジャミルが急に立ち止まった。
 
「アイシャ……、俺、さっきさ、弥生さんのおばさんに……、
娘を貰ってくれないかって言われて……」
 
「それでずっと気にしてたの?」
 
アイシャが後ろを振り返る。
 
「ああ……」
 
「どうもさっきから様子がおかしいと思ったのよ」
 
「ハ、ハハ……」
 
「うふ、ジャミルってば、かーわいいっ♡」
 
「はぇ???」
 
「えと、ジャミルは……、私の事……、好きになってくれたんだよね……?」
 
アイシャが顔を赤くし、モジモジする。それを見たジャミル、どう返事を返していいか
分からずぽーっとしていたが、やがて唾を飲み込み、言葉を発する。
 
「……す、好きだよ……」
 
「だったらいいじゃない!」
 
「え……」
 
「私はジャミルが好きだし、ジャミルも私の事を好きになってくれたし、
二人の気持ちは本当なんだもん!ずっと変わらないよね……?」
 
「当たり前だろっ!」
 
「……ずっと……、信じてる……」
 
「アイシャ……」
 
アイシャがジャミルの手を取る。そして二人は温もりを確かめ合った。
 
「何か寒くなってきたな……」
 
「でも暫くこうしてれば……」
 
二人の気持ちはどこにもいかないのだと。
 
 
……
 
 
「弥生!ジャミルさん達は……?」
 
弥生が広場に戻ってくる。しかし、側にジャミル達はおらず。
 
「え、えっと……、何処行ったのかしら、いないのよ……」
 
弥生は泣きそうになる顔を隠して俯いた。
 
「何か……、あったのかい……?」
 
「……お母さん……、人を好きになるって素敵な事ね……、でも……、
とても悲しい事でもあるのね……」
 
「弥生……」
 
 
「もー!ジャミル達ってば、どこいったんだろうね!まったくう!」
 
そして此方はジャミル達を待っている。アルベルトとダウド。いつまでも戻って来ない二人の
様子を何となく察したのか、ダウドは胡坐を掻いて不貞腐れて座っている。
 
「はーい、ダウドちゃーん、こんにちわー!アルベルトでーす!」
 
「うわっ!アル!?ど、どうし……」
 
「しけたツラしてんじゃねーよ……、ヒック……、のめのめ!
オラもっと飲みやがれ!コラ!!おめーも飲めよお!おけけけけけけ!」
 
「誰だよお……、酒なんか飲ませたのは……、しけたツラって、この顔は元から……」
 
普段真面目なだけあって酔った勢いで日頃のストレスが出てしまったのかタチが悪い。
 
「俺のぉ……、酒がぁ……、ヒック、う~い……、飲めねえってのかあ!?
……ああん!ぶるぁぁぁぁぁ!!!」
 
「うわ~ん!!こわいよおー!!何か声もおかしくなってるし!」
 
「歌でも歌うかな……、ヒック、♪ふざけたツラしてふんばばーん、
ふんばん・ふばばば・ふばば・ばーん♪」
 
「……いつものアルじゃなーい!絶対何か降臨してるよおー!」
 
 
そして次の日……、今日はいよいよ4人がジパングを離れる日である……。
 
「ねえダウド、ちょっと用が……、あれ?」
 
「ヒィーッ!!」
 
「……おかしいな……、僕、なんか今日ダウドに避けられてる気が……、なんでだろう?」
 
大体の事情はダウドから聞いているのでジャミルも知っているのだが。
 
「それよりも早く出発しねーと、お前ら、もう出発の準備は出来たか?」
 
アイシャ達にも声を掛け確認を取る。
 
「ばっちりよ!」
 
「いつでもOK!だけど……、何かいよいよお別れ、淋しいよお~……」
 
「そうだね、お別れは本当に辛い物だよ……」
 
そして4人は……、船を岸に着けてある海岸まで移動する。
 
 
「……もう行っちまうのかい……」
 
「いつでも遊びに来いな、皆で待ってるぞ!」
 
お別れには沢山の村人達がジャミル達を見送りに来た。
 
「……ジャミルさん達、色々ありがとうな……、本当にお世話になったな……」
 
弥生の両親が涙まじりに喋り、4人にお礼を言う。
 
「いや……、こちらこそ……、色々有難う……、随分長居しちゃったけど俺達も楽しかったよ」
 
ジャミルも礼を言う。……其処に弥生が近寄ってきた。二人の目と目が合う……。
 
「ジャミルさん……」
 
「弥生さん……」
 
「ジャミルさん……、私、頑張って生きていこうと思います、友達の分まで!」
 
「ああ!」
 
「それから……」
 
「?」
 
弥生がアイシャの耳元に近づいてこっそり話をする。
 
「アイシャちゃん……、ジャミルさんと仲良くね、あんまりケンカしちゃ駄目よ」
 
「え……、えーっ!?」
 
「ふふっ」
 
アイシャが驚いて顔を真っ赤にする……。
 
「何だ!?何だ!?」
 
「……何でもないわよ……」
 
ジャミル達は村の人達に一通り挨拶し、お礼を言い終わると自分達の船に乗った。
 
「みんなーっ!またなー!!」
 
「さようならー!」
 
4人が船から手を振りもう一度挨拶すると村人達も最後の挨拶を交わす。
 
「勇者様達ー!!お元気でー!!」
 
……やがて船も遠くに行ってしまい見えなくなり、その場には静寂が訪れた……。
 
「行っちまったね……」
 
「火が消えたようになっちまうなァ、この村も……」
 
「……寂しくなるねえ……」
 
「……お母さん!!」
 
弥生は今まで我慢していた涙を一気に流し……、母の胸に飛び込む。
 
「弥生……、人を好きになるっていう事は……、とても素敵な事なんだよ……、
例え望みが叶わなくても……、一緒になれなくても……、恋……、
お前の心に芽生えた気持ちをいつまでも大切にしなさい……」
 
「はい……、お母さん……、弥生は幸せでした……、ジャミルさんとの
出会いと思い出……、いつまでもずっと……、大切にします……」
 
弥生は温かい母の胸に顔を埋め、いつまでもいつまでも泣き続けた……。

「……みんな、優しくて本当にいい人達ばっかりだったよね……」
 
思い出す様にダウドがしみじみと呟く。おろち戦、ジャミル大火傷など、
大変な事もあったが、振り返ればこの一ヶ月、4人にとっては貴重で
本当に楽しい毎日だった様である。
 
「……元気出せよ、オーブだって1個見つかったんだしさ!」
 
「そ、そうね、ジパングの皆とも、きっと又会えるわよね!」
 
「残りのオーブ探しだってきっと楽勝だよね!皆でおろちだってやっつけたんだもんね!」
 
元気を出そうと、ジャミル、アイシャ、いつもよりも前向きな
ダウドがそれぞれが言葉を出した。しかし、……アルベルトだけは……。
 
「みんな……、まさか忘れてる訳じゃあないよね……?」
 
ジト目になるアルベルト。折角元気が出そうだったのに、
急に話を現実に戻し、又何か雰囲気を壊しそうである。
 
「な、何をだよ……?何かオメー怖えーなあ……」
 
悪寒を感じ、ジャミルがアルベルトから後ずさる。
 
「浅瀬探し……」
 
 
……全員の顔が顔面蒼白……、真っ白になった……。
 
 
そして、数日後、ジパング。
 
 
「弥生ちゃん……、おはよう」
 
「はい?あっ、おはようございます……」
 
外で洗濯をしていた弥生の所へ村の若い青年が訪ねて来た。
彼は最近、この村に移住して来たばかりの新人だった。
なので、おろちの件は村人達に少し聞いている知識で、
あまり詳しい事はまだ良く知らない様子であった。
……容姿はきりっとした顔立ちの凛々しいイケメン青年である。
 
「いろいろ大変だったみたいだね……、身体の方はもう大丈夫なのかい?」
 
「え、ええ……、でも、もう平気ですから……」
 
「弥生ちゃん、あのさ……」
 
「はい……」
 
青年は顔を赤くし、最初、弥生から目を逸らし、暫く困った様にして突っ立っていたが、
やがて何かを決意した様に頷き、真剣に弥生の瞳を見つめた。
 
「困った事があったら言ってくれよ、俺……、力になるから……」
 
「あ、ありがとうございます……」
 
「俺……、この村に来た時から、弥生ちゃんを一目見て、
弥生ちゃんの事、いいなって思っててさ……」
 
「……えっ!?」
 
「……俺なんかじゃ……、その、頼りなくて駄目かな……、はは……」
 
「そんな……、でも……、私……」
 
青年が弥生を見つめた。弥生を見つめるその眼差しはとても温かく優しかった。
弥生の脳裏に今はもう此処にいない彼の姿が浮かぶ。
 
(歩き出さなければ……、もう……、新しい未来へ……、あの方が教えてくれた……)
 
……弥生も何かを決意した様に、青年の瞳を見つめ返す。
 
「まだきちんとお返事は出来ませんけど……、あの、もう少しお時間を頂けますか?」
 
「もちろんだよ!俺、いつまでも待ってるよ!」
 
青年は顔を赤くしたまま、自宅まで走って戻って行く。弥生はそんな青年の姿を……、
只管ぼーっと見つめていた……。
 
「弥生ー!良かったなー!!」
 
「弥生!おめでとう!!」
 
弥生の両親が揃って家から飛び出して来た。
 
「もう……、お父さんも……、お母さんまで……、隠れて話聞いてたのね……」
 
「ああ、こんなにめでたい事はないよっ!母さんは全力で弥生を応援するよ!」
 
「うう、孫の顔が見られるかも知れねーと思うとさ、おらあうれしいよ、
生きててよかったぞおーーっ!……と、い、今から名前考えねえと……!
男の子でも女の子でもどっちでも、あ、うれしいなーっと!へっへ!」
 
……気の早い弥生父はいそいそと家に引っ込んで行く。それを見た弥生母は呆れて苦笑。
 
「お父さんも本当に大げさね、それにまだ、どうなるか分からないわよ……、でも……」
 
 
あんたはこれから死んだ友達の分まで生きてやんなきゃ!
生きて生きて生きまくってやれ!な?そんで幸せになるんだよ!!
 
 
「……ジャミルさん、はい……、弥生は幸せになろうと思います……
あなたと出会えて本当に良かった……、あなたのお幸せも此処から
お祈りしていますわ……、例えどんなに遠く離れていても……」
 
弥生は笑顔で静かに青い空を見上げる。弥生の新しい恋、そして、
此処から新たな人生のスタートが始まろうとしていた。
 
 
 
……
 
 
そして。相変わらずの4人。まだ最後の鍵が隠されている浅瀬は発見出来ず……。
只管海を漂流していた。繰り返すモンスターとのバトルでLVは無駄にバンバン上る。
嫌、無駄という事は決してないのだが、このままじゃオイラ、ムキムキになっちゃうかも
知れないと、時玉ダウドが変な心配をしていた。
 
「……むうー!つまんねー!浅瀬なんかみつかんねー!もうやだ!秋田!腹へった!」
 
「ジャミル……、もう少し我慢しようよ……、子供じゃないんだから……」
 
(と、言っても精神は子供だから無駄か……)
 
アルベルトがジャミルを宥めるが。と、突然、ジャミルも自身も暫く
忘れていた話題を本人がぶり返した。
 
「……あ!お前、ステーキ食い行こう言ったじゃん!」
 
「ギクッ!また始まった……、しつこいなあ~、どうしてこう、
食べ物の事になるとしつこいんだろう……」
 
「いつ食べ行くんだよ!なあ~っ!腹の準備はいつでもばっちりなんだけど!
……ステーキが無理なら大盛焼肉でもいいぞ!」
 
そんなモン準備するなとアルベルトは心で思う。
 
「……今日は空が青いなあ……、うん、快晴だね!良い事だよ!」
 
「誤魔化すなよっ!!」
 
「……ジャ~ミ~ル~!!」
 
「な、なんだよ、アイシャ……」
 
今度はアイシャがジャミルに迫ってくる。全く持って次から次へと忙しい連中である。
 
「私の事、くっそーっ!重ーいっ!少しダイエットしろって言ったんですって!?
……ひーどーいーっ!分かってるわよっ!どうせ私は重いわよっ!ふーんだっ!」
 
「……」
 
「♪~」
 
横を見ると冷汗をかいて口笛を吹いているダウドがいた。
 
「……ちくりやがったな!?って、何でお前が知ってんだよ!
あん時はお前あの場にいなかっただろ!」
 
「いだいだ……アルに教えてもらったんだよおーっ!!」
 
「……アールうううーっ!!」
 
と、ジャミルが吠えた時にはアルベルトはすでに船室へ逃走した模様。
 
「そうだな、あん時ゃ確かに漬物石並に重かったかもしんね……、あ……」
 
「……ジャミルのばかーーっ!!」
 
そしてまた、船内にてジャミルvsアイシャの今日もどったんばったん大騒ぎ
プロレスが始まるのであった。勝者は言うまでもないが……。
 
「はい、アイシャの勝ちー!」
 
「負けないわよーっ!」
 
「……じゃねえっつんだよーーっ!この狂暴ジャジャ馬ーーっ!!」
 
「みんな、やっぱり相変わらずアホだ……、でも、いい事だよ……」
 
自分の事はさておき、さっき船室へ逃走した筈のアルベルトは……、甲板へと続く階段の下で
先程のジャミルとアイシャの激しい痴話喧嘩の様子をじっと聞いていたのであった。

その5

……お馬さんとコミュしよう part2

……どうしても浅瀬が見つけられない一行は観念してスーに戻り、
もう一度喋る馬のエドに話を聞いてみる事にした。
 
「おお、勇者さんタチよくキタ、ゆっくりしていってネ」
 
村長や村人が温かく出迎えてくれる。……4人は再びエドの元へ。
 
「おーい、変な馬ぁー、いるかー?」
 
「いるに決まってんだろ、……誰が変な馬か、このエロエテ公」
 
「……ああーんっ!?」
 
「う、馬さん、おひさしぶりー!」
 
アルベルトとダウドがジャミルを押さえアイシャが挨拶した。
 
「……どうもこの猿は躾がなってねえな、お前らも、もっとちゃんと面倒見てやれよ」
 
「どうもすいませんでしたっ!!」
 
ジャミル以外の3人が頭を下げた。多可がお馬様にへこへこする
仲間達にジャミルは不満顔。そっぽを向いて膨れっ面になる。
 
「それでまた何の用だい、こんな所わざわざ戻って来てよ、
対して面白いモンも何もねーだろが」
 
「え~と……、どうしても浅瀬の場所が判らなくて……」
 
アルベルトがエドの機嫌を損なわない様、気を遣い、丁寧に
丁寧にと、対応する。顔に冷や冷や汗を浮かべながら。
 
「なんだ、まだ見つけてなかったのかよ、バカか……」
 
「!てめえ、この間はどっかの浅瀬っつったろーが!それじゃ判んねーよ!」
 
「話を良く聞いてかねえからだ、アホ」
 
「んだとぉ!?」
 
どうもこの馬のエドとジャミルは性格が似ている為かケンカばかりになってしまう。
 
「……もう少し詳しく教えて頂きたいのです、どうかお願い致します!」
 
ジャミルの頭を押さえつけてアルベルトが頼み込む。
 
「フン……、そこの兄ちゃんに免じて教えてやらあ、この村の西の浅瀬だ」
 
「そ、そんなにすぐ近くだったなんて、オイラ達一体何やってたの……」
 
「ダウド、……悲観しないでっ、それよりもっ」
 
エドがじっと4人を見ている。はよ、お礼を言えと言わんとばかりに。
 
「ありがとうございます!!」
 
ジャミル以外の3人がお礼を言う。浅瀬の場所も漸く無事掴め、
冷や冷やモンで4人はその場を後にする。
 
「はあ……、もう疲れた……」
 
先程搔きまくっていた汗を漸く拭くアルベルト。
 
「こんなに簡単な事なら……、この前の時、もっとよく話を聞いておけば良かったよね」
 
後悔する様にダウドが項垂れた。
 
「本当ね……」
 
「うん……」
 
「♪ふんふんふふふーん、ふふんのふーん♪」
 
しかし、アルベルトが横を見るとジャミルが只一人、楽しそうに鼻歌を歌っていた。
 
「……君ってさ、何か悩みとかないわけ?」
 
皮肉交じりにアルベルトが言う。
 
「ねえよ」
 
「あっそう……、そうなんだ……」
 
「大変だねえ……、未来の奥さんは……」
 
「やだもうっ!ダウドったら!」
 
「……いてててて!」
 
思わずダウドの背中を叩いてしまうが、実は内心嬉しいアイシャだった。
 
「はあ……、ステー……、イテッ!」
 
素早くジャミルの頭にチョップするアルベルト。
 
「もうその話は終わったの!ほら!」
 
「終わってねえだろっ!って、うまい棒、ステーキ味……、おーい!」
 
お馴染の、パチモンでもちゃんと名前の付いている有名キャラが
パケに描かれた駄菓子を出すアルベルト。いつ何処で買ったのかは不明。
 
「ステーキには変りないんだから!」
 
「……何が変りないだ!充分別モンじゃねーか!バカタレ!」
 
「文句言いながらバリバリ食べてるじゃない……、ねえ、オイラにもちょっと頂戴……」
 
「やだ!」
 
「けちっ!ちょうだいよおお~!よこせえええーっ!」
 
「私にも!」
 
「コラ!お前ら纏わりつくなーっ!暑っ苦しいんだよ!」
 
「ふうー、やっと何とか誤魔化せたかな……」
 
取りあえずはこれで済んだが、(実際は全然解決してない)が、又、いつステーキ食わせろ病が
再発するかも分からないので、又警戒しようと思うアルベルトであった。
 
「おーい、ちょっと待ってー!!」
 
村を出ようとした4人を村長が慌てて追いかけて来た。
 
「どうしたんだい?」
 
「実はこの村の住人が……、村の生活が気に食わないと飛び出して
イテシマテ、ここから東の土地に村を作るとイテオリマシタ」
 
「ふーん」
 
「最近はめっきり顔も出さなくなりちょと心配、ついでの時でいいんで
様子を見てきてもらいたいんデス」
 
「ああ、分ったよ」
 
取りあえず今度こそ4人はスーの村をでる。……すると……。
 
 
「ヒイイイイイ~っ!!」
 
 
「?なんだ……、???」
 
「あ、ジャミル!大変だよ!」
 
男の悲鳴が聞こえる。見ると頭にターバンを巻いた男が腐った死体の大群に襲われていた。
 
「助けよう!」
 
「よしっ!」
 
アルベルトが貰ったばかりの草薙の剣を翳すと剣から
眩い光が出、くさった死体達を包み込む。
 
「おお、すげえぜアル!何か攻撃が当たりやすくなった!」
 
「ほんとだー!面白い様にあたるー!」
 
きゃっきゃと言ってダウドもぺちぺち鋼の鞭を振り回す。
 
「そうか……、この剣は敵の守備力を下げる力があるんだ……」
 
「はいっ!これでおしまいっ!」
 
アイシャがイオラを唱え、腐った死体は跡形もなく消滅した。
 
「ふう……、助かった……、ありがとうございます……」
 
男はへなへなとその場に座り込んだ。
 
「平気か?でもなんでおっさんがふらふらこんな所散歩してんだ?あぶねえぞ」
 
「実は私……、アリアハンのルイーダの冒険者酒場にて暫く滞在しておりました、
自称旅人、商人の珍と申します、こう見えても上記の酒場に登録しておりましたので、
少しはバトルの経験もありますので、しかし、此処ではまだLVが低すぎました……」
 
「珍?変わった名前だな……」
 
「二つならべば……」
 
「珍・珍……、って、何言わせやがる!」
 
ジャミルがダウドの足を思いっきり踏む。……アイシャは露骨に嫌な顔をして下を向く。
 
「私ね、どうせなら出世したいと思いまして、外の見知らぬ土地へ仕事を探しに
色々旅をしながら彼方此方廻っているんですよ、やるなら大きな仕事をドカーンとね」
 
「夢は大きく……、か……」
 
「でもやっぱり現実は厳しくて……、なかなかいい仕事みつかりません……」
 
「なあ、良かったらさ、しばらく俺達と来る?」
 
「えっ!?」
 
「船持ってるしさ、色んな所行けるぜ?」
 
「そうですよ、ご一緒しましょう」
 
「わーい、行こう行こう!」
 
「温かいお言葉有難うございます……、ぐすん……、宜しくお願い致します」
 
こうしてジャミル達は暫く商人の珍と行動する事になったのだが。
船内にて、珍は4人の接待を受ける。
 
「ま、ゆっくり寛いで行ってくれよ」
 
「ほぉ、これはこれは、自動で操縦する船とか……、何という文明……、
しかもジャミルさんは勇者なのですか……、これは凄い!」
 
珍は珍しそうに船内を見学したりと、彼方此方見て回ったりしている。
 
「……好きでやってる訳じゃねえけどな……」
 
「は?」
 
「い、いや……、なんでも……」
 
「はあーいっ!温かいお茶ですよーっ!お菓子もありまーす!」
 
アイシャがお盆にお菓子とお茶を乗せ、甲板まで持ってくる。
……が、ジャミルはちょっと慌てる。
 
「おお、これは忝い……」
 
「ちょっと待って!……よし、今回は大丈夫だ……、普通に飲めそうだ……」
 
一応、お茶の匂いを嗅いでジャミルが何やら安全の確認をしている。
 
「何で確認するのよう!失礼しちゃう!毒なんか入ってないったら!」
 
「オメー、この間、さくらんぼティーでーす!とか言って、モロお茶に銀杏入れただろうがっ!」
 
「似てたんだからしょうがないでしょっ!」
 
「あ、あの……、お二人とも、喧嘩は良くないですよ……」
 
いつもの如く、客人の前でもケンカを始めたジャミルとアイシャに珍は慌てるが……。
 
「あまり気にしないで下さい、この二人の日常茶飯事ですから……」
 
「はあ……」
 
本当にいつもの事なのでアルベルトは諦めているらしくあっさり言うが、珍はどうにも心配な様子。
 
「ねえ、先にさ、頼まれたスーの村を出てったって言う人の所、
様子を見に行った方がいいんじゃない?」
 
思い出した様にダウドが言った。
 
「そうだな、行ってみるか、確かスーの村の東の土地だったな」
 
珍を連れて早速、船で東の土地へと向かった。

東の土地に早速行ってみると、草原の中に老人がぽつんと一人で突っ立っている。
 
「あんたが村を出て行った人かい?」
 
ジャミルが声を掛けると……、老人が振り向いた。
 
「?はひ……、あ、あ、あ、ああ~っ!!」
 
「な、何?」
 
「あんた、商人!?」
 
老人はジャミル達には見向きもせず商人の珍へと駆け寄った。
 
「なんだよ……」
 
「はい、確かに私は商人をやっておりますが……、何か……」
 
「たのむ!あんたたち、この男、貸してほしい!!」
 
老人がやっとジャミル達を見て、インディアンなまり口調で喋り出す。
 
「は?」
 
一同ワケが判らず目が点になる。
 
「わし、この土地に新しい街を作ろおもう、それには商人の知識、必要、頼む!」
 
「どうする?」
 
ジャミルが珍を見た。珍は異様に噴気している様子。
 
「やらせて下さい!!」
 
「おお!やってくれる!?」
 
「やるのか?」
 
「ええ、だって、街を作るなんて凄い仕事じゃないですか!滅多に出来ないですよ!」
 
「まあ、あんたがそう言うなら別に俺は構わねえけど……」
 
「それじゃあ、ここでお別れね……」
 
淋しそうにアイシャが呟く。珍とは此処でお別れ。あっという間の旅路であった。
 
「短い間でしたがジャミルさん達と旅が出来て楽しかったです、おかげで漸く
自分の仕事も見つかりました!本当にお世話になりました!!」
 
珍がジャミル達に心からのお礼を述べる。
 
「街、完成したら名前を付けてやりたい、あんたたち、
街の名付け親、なって、〇〇バーグがいい」
 
「俺達で作っていいの?」
 
「面白そーだねえ!」
 
「やろやろー!」
 
「ジャミルさんの名前を取って、ジャミルバーグはどうでしょう?」
 
「お、いいじゃん!珍さん、あんたセンスあるよ!」
 
「そうでしょう!」
 
珍が提案。自分の名前が街の名前になるとはジャミルは大喜びである。
 
「……やめといた方がいいと思います……、街が崩壊しますよ……」
 
其処へ突っ込み阻止するアルベルトの呟き攻撃。
 
「なんだよ!失礼だな!じゃあ、アルお前考えてみろよ!」
 
「定番の……、ハンバーグなんて……、どう?」
 
「アルも結構センスないね……」
 
「ダウドに言われたらお終いだぞ、お前……」
 
「……う、う……」
 
「ねえねえ、ドリーム・バーグはどうかな?」
 
アイシャが嬉しそうに言った。彼女は流石に女の子らしい名前を考える。
 
「は?ドリームう!?」
 
「うん、夢がいっぱいある街、どうかな?」
 
「いいと思うよ、素敵だね!」
 
アルベルトが頷き賛成。ジャミルとダウドも賛同する。
 
「これ以上考えても何も浮かんでこないしな、いんじゃね」
 
珍と老人も気に入ってくれてアイシャの付けた名称が採用され、正式に街の名称が決まった。
 
「ジャミルさん達が次に来られる頃にはきっと街が大きくなっていますよー!」
 
「玉には、街の様子、見に来て」
 
「ああ、楽しみにしてるよ、がんばれ」
 
珍達と別れて再びスーの村へと戻る。近況を報告すると村長は安心して納得した。
 
「そう、……わしらも今度いってみる、いろいろありがと」
 
とりあえず今日はそのままスーの村の宿屋へ泊まる事にした。
 
 
そして……、例の今夜もジャミルに呼びかける声の主の夢を見る……
 
 
…ジャミル…
 
  …ジャミル…
 
 
なんだ……、またあんたか……
 
 
あなたは1つ目のオーブを見つけたのですね……
 
 
なあ、あんた一体何モンなんだ?
 
 
いずれ判る時が来ます……、今は私の話を聞いてください……
 
 
わかったよ……
 
 
魔王バラモスは険しい山に囲まれた地、ネクロゴンドに君臨しています、
残りのオーブを揃え不死鳥ラーミアを蘇らせるのです……
 
 
不死鳥……ラーミア……?
 
 
全てのオーブを揃えしその時、レイアムランドへと向かいなさい
 
 
また……ややこしいっスね……、レイアムランドってどこ……?
 
 
信じていますよ……、勇者ジャミル……、まずはランシールへ行くのです、
いつか本当の姿であなたに会える事を……信じています……
 
 
あ……、ま、待ってくれよ!
 
 
「待ってくれってばー!」
 
「ジャミル……、お願いだから夢見て興奮してオイラにおならするのやめて……」
 
「……」
 
 
次の日、ジャミル達は漸くほこらのある浅瀬を探し当て最後の鍵をゲットした。
 
「これさえあれば……、ほぼ全ての扉を開けられるんだよなー」
 
最後の鍵にスリスリし、嬉しそうにジャミルが言った。
 
「最後の鍵も手に入ったし、次はどこに行くの?」
 
アイシャが聞いた。折角最後の鍵を手に入れたものの、
次の明確な目的地はまだ決まっておらず……。
残りのオーブの在処もまだ分からず終いでまだまだ前途多難である。
 
「そうだなあ、ジャミルの見た夢を信じてランシールに行ってみようか」
 
「アル、決まりだな!んじゃ、ランシールリベンジだ!」
 
仲間達には昨夜の夢の話も報告してあり、話は直ぐに纏まり、
一行は再びランシールへと足を運んだ。
 
 
ランシール
 
 
「待て、待て!待てーっ!」
 
「……ピキー!」
 
 
「……何だ?」
 
町の中へ入ると子供が棒を持ってスライムを追い掛け回している光景が目に留まる。
 
「まだ子供だわ……、あのスライム……」
 
スライムの方もまだ小さな子供だった。
 
「おい……、何やってんだ?」
 
ジャミルが子供に声を掛けた。
 
「ピキーッ!ボク、わるいスライムじゃないよー!」
 
「オウ、喋った……」
 
「そうだよ、こいつ喋るんだよ!スライムのくせに!」
 
「だからいじめてんのか?」
 
「そうだよ!むかつくんだよ!生意気だろ!?」
 
「何かこいつが悪い事でもしたのか?」
 
「べ、別にしてないけど……、とにかくむかつくんだよ!」
 
「……だったらやめろよ、こいつも悪いスライムじゃないって自分で言ってんだろ?」
 
ジャミルが子供からさっと棒を取り上げた。
 
「あっ、なにするのさ!」
 
「もし自分が同じ事されたらどんな気分だよ」
 
「それは……」
 
「よく考えてみろ」
 
「う……、も、もういいよ!そんなモンいらねーやい!バーカバーカ!」
 
子供は怒って何処かへ走って行ってしまった。……4人に悪態をしっかり付いて。
 
「やーん!ジャミルってば!かっこいーい!」
 
「ほんとほんと!」
 
アイシャとダウドが纏わりついてくる。
 
「……へえ、今日は見直したよ、ジャミル……」
 
アルベルトも感心する。
 
「フ、フン……、モンスターっつってもわりィ事しなきゃ別に争う必要もねえんだし」
 
「どうもありがとう!たすけてくれて!」
 
スライムが嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる。
 
「お前、こんな処で何してんだ?仲間とはぐれたのか?」
 
「ボクのおとうさんとおかあさん……、いまはバラモスにあやつられて
にんげんをおそったりわるいことしてるんだ……、ねえ、そんなのかなしいよ……」
 
どうやら、このチビ介スライムはバラモスに洗脳されていない、心が純粋なスライムらしい。
 
「そうなのか……」
 
ジャミルはしゃがんでチビ介スライムを見る。
 
「ううん、ボクのおとうさんとおかあさんだけじゃない、モンスターみんなが
にんげんをおそうようにあやつられているんだよ……」
 
「……」
 
「ボクはねー、ずうっとゆうしゃさまをさがしていたんだよー!」
 
「へ?」
 
「だってゆうしゃさまならきっとバラモスたおしてくれるでしょ?そうしたら
きっとみんなもとにもどるよー!!」
 
「そうか……」
 
「でも、どうすんの?ジャミル、こいつこのまま此処に置いておくわけにいかないでしょ」
 
ダウドがスライムを突っついた。……スライムはぷにぷにと柔らかい。
 
「連れて行けないかな……?」
 
「なっ……、アル!?」
 
「此処にいるよりも僕達と一緒の方が安全だろ?」
 
「う……、うーん……」
 
「いいじゃない、ジャミル!」
 
「ねー!ジャミルう!」
 
……特に可愛い動物やらが大好きなアイシャ。チビスライムを
一緒に連れて行きたくて目を輝かせている……。
 
「……ったく……、しょうがねえな……、来るか?お前も、一緒に……」
 
「ピキー!いくうー!ボク、スラリンていうのー!よろしくう!!」
 
こうしてジャミル達のメンバーに新たな(仲間?)が、加わったのである。

「なあ、スラリン、この町の事何か知ってるか?」
 
「ボクはさいきん、バラモスにあやつられていなくなったおとうさんとおかあさんを
さがしてここにきたんだよ、だからよくわかんない、でも、ボクはおとうさんと
おかあさんをさがしだして、わるいことはしないでって、ぜったいとめたいんだ!」
 
「そうか……、お前も大変なんだな……」
 
「スラリンはお父さんとお母さんを探して旅をしていたのね、大丈夫よ、
私達も一緒に探してあげるからね!」
 
「ピキー!」
 
スラリンをアイシャが抱っこするとスラリンも嬉しそうにアイシャに甘える。
 
「はあ、この前の時はあんまり町の中も良く見て回らなかったからね」
 
と、言いながらアルベルトは以前に此処に消え去り草を求めて来た時の状況、
エジンベアの兵士にボロ糞に田舎者扱いで叩かれた事を思い出した。
 
「あ、でもまちのきたに、すごくおおきなしんでんがあったよー、
かぎがかかってはいれないみたい」
 
「行ってみる?ジャミル」
 
「ああ……」
 
アルベルトの言葉に静かにジャミルが返事を返した。4人と1匹は神殿へ。
神殿前には最後の鍵を使って開く扉が。早速、ゲットしたばかりの鍵で扉を開き、中へと入る。
 
「ねー、この鍵使わないと出入り出来ないんだよね……、だったら、
この中にいる人達っていつもどうしてるのかな?」
 
「……」
 
「RPGって細かい事気にしてるとキリがないよ、ダウド……」
 
つまらん事に突っ込んでくるダウドに逆にアルベルトが突っ込む。
……とりあえず奥に進むと神官がいてジャミル達を待っていた様に出迎える。
 
「……希望の光を放つ者よ……」
 
「へ?俺?」
 
神官がジャミルにゆっくりと近づいて来る……。
 
「此処は己の勇気を試す所……、あなたにはその覚悟がおありですか?」
 
「あ、ああ……」
 
「ならばこの先の外にある洞窟に向かいなさい、但し、仲間の力を
借りずにあなた一人でですよ……」
 
「!」
 
「な、な……!」
 
「……あなた命を落とすかもしれませんよ、それでもいいのですね……」
 
神官はじっとジャミルから視線を反らさず、ジャミルをじっと見つめている。
 
「……」
 
「危ないよ!ジャミル、やめて!」
 
絶対にジャミルは行ってしまう、無茶をする、そう考え、
アイシャが泣きそうになり、必死で止めようとするのだが……。
 
「そうだよお!……だ、駄目だよお!めっ!」
 
ダウドも必死でジャミルを止めようとする。……心配でどうしても行って欲しくなかった。
 
「……ジャミル……」
 
……アルベルトも神妙そうな顔つきでジャミルを見つめた。
 
「……俺、行ってくる」
 
「やっぱりっ!駄目よっ、ジャミル!!」
 
「なあ、アイシャ、俺ってさあ、危険だって言われると余計やりたくなるんだよねー!」
 
「ジャミル……、それは分かってるのよ、ジャミルの性格だもん……」
 
仲間達は皆、不安そうな表情で声を絞り出した……。やはりこの男は
どうしても止められない勢いであった……。
 
「おい、お前ら、そんな顔すんなって、俺は大丈夫だから!」
 
「そう……、君がそんなに言うのなら僕は止めないよ」
 
「アル、ありがとな!」
 
「但し絶対無理しちゃだめだよ!危ないと思ったらすぐに戻ってくるんだよ!」
 
「ジャミル……、気を付けてよ……」
 
涙目になってダウドが再びジャミルを見つめた。
 
「すぐ戻ってくるから……、心配すんな」
 
「うん……」
 
アイシャはスラリンを抱いたまま俯いている。
 
「……アイシャ……」
 
「……」
 
「大丈夫だから……、絶対すぐ帰ってくるから……」
 
「ジャミルはすーぐ無茶するんだもん!信用出来ない!!」
 
アイシャが膨れっ面になり、ぷいと横を向いてしまう。
……やはり心配の種の常習犯だけの事はあった。
 
「あら~……、俺ってやっぱ信用ねえのなあ~……」
 
「ねえ、ジャミル……」
 
「ん?……」
 
「約束して……、お願い……、絶対無理はしないって……」
 
やはり、ジャミルを止める事は絶対出来ない……、アイシャがジャミルの手をそっと握りしめた。
自分は此処で祈って待つ事しか出来ないのだと……。どうかジャミルが無茶をしない様に……。
 
「ああ……、約束する……」
 
「らぶらぶう?」
 
「ス、スラリン!?」
 
「ジャミルとアイシャ、ラブラブなの?ねえ、アルベルト!」
 
「……あ、あの二人は……、もう~!!」
 
突如始まるいつものイチャイチャに恥ずかしくて見ていられないのかアルベルトが横を向く。
 
「スラリン……、意味判ってんの……?」
 
「うん、ダウド、わかるよ、なかよしのいみだよね、おにいちゃんもおねえちゃんも
アルベルトもダウドもみんなみんなみーんななかよし!ピキー!」
 
「……ふう……」
 
ダウドが下を向いた。もう好きにして下さいよお~状態である。
 
「……もう、宜しいですか……?」
 
「あ……」
 
「きゃっ!」
 
……神官、仲間達、二人を見つめる皆の視線に漸く気づき、
二人は顔を真っ赤にし、慌てて手を放した……。
 
「この先の洞窟、地球のへそにはブルーオーブが眠っていると伝えられています……」
 
「え!オーブがあんの!?じゃ、じゃあ……、試練の筈だよねえ……」
 
ダウドが身を乗り出してくる。オーブを手に入れる為のジャミルへの
厳しい試練とあれば……、勇者としてこれぐらいは乗り越えなければ
ならないと言う事が明確になる。
 
「厳しい試練を乗り越えた者だけに……、新たな道が開ける筈です……」
 
「なんだってやってやらあ!」
 
「そうだね、ジャミルなら殺しても死なないもんね!
だから、大丈夫だよお、アイシャも!」
 
「ふふっ、そうね!」
 
「……一言余計だっつーの!」
 
ジャミルがダウドの頭を拳でぐりぐり……、それこそ頭部に穴が開きそうな勢いである。
 
「いた……、いたいよ……、ジャミルう……!」
 
「あははははは!」
 
「ピキー!」
 
4人が顔を見合わせて笑った。先程まで緊迫していたムード、
ガラッと変わり、賑やかムードに一転し、スラリンも笑顔になった。
 
「んじゃ、ぼちぼち行ってくらあ!」
 
「気を付けて!」
 
「早く戻って来てね!……でも、絶対無茶しないんだからねっ!」
 
「ピキー!ジャミルおにいちゃん、がんばれー!」
 
「拾い食いなんかしちゃ駄目だよお!」
 
「……誰がするか!バカ!」
 
皆に見送られながらジャミルは一人、地球のへそへと向かうのであった。

地球のへそ
 
 
薄暗い洞窟の中をジャミルは独りで進んで行く……。
 
「試練って言ってたけど……、どんなのだろうな?」
 
 
……ぐぎゅるるるう~……
 
ジャミルの腹の音が洞窟内に間抜けに響き渡った……。
 
「……はあ、肉まん食いてえな……、焼きそば、たこ焼き、……ステーキ……」
 
こう呟くと何処かの腹黒貴族がスリッパを持って飛んで来そうであったが。
今はジャミルは本当に一人、孤独なのである。薄暗い洞窟の中をひたひた
只、只管歩いていれば、自分は今本当に独りなんだなと、嫌でも実感出来る。
試練を乗り越えなければならなかった。
 
 
……引き返せ……
 
 
「は?」
 
 
……引き返すのだ……
 
 
「ん?どっから声出てんだ?」
 
見ると壁に頭だけの石像が二つ並んでいる。
 
「……引き返せ……」
 
「そうか、こいつが喋ってんのか……」
 
「引き返すのだ……」
 
「……悪いけどそんな素直に言う事聞く様な人間じゃないんでね!」
 
石像を無視してどんどん先へと進む。
更に奥へと進んでいくと同じ様な石像があったが無視。
……あまりにもうるさいので、一度切れて喋る壁にパンチしたが、
自分の拳が赤くなって腫上っただけであった。
 
「別に今ん処大した仕掛けはねえよなあ……」
 
そう思っていると通路の影から大量のモンスターが飛び出してくる。
 
しかもその数は1匹や2匹では済まず、これまで訪れた地で
ジャミル達が戦って来た全てのモンスターが密集していた。
 
「こいつらを倒さねえと先に進めないわけだ、ふーん……」
 
モンスターの群れはジャミルを見て目を光らせている。
 
「……こういう事なのかな、試練の意味が段々分かって来たわ、戦ってやるか!」
 
ジャミルが鉄の斧を構える。……たった独りで、数匹のモンスター達と睨み合いになる。
 
 
ーランシール
 
 
「……」
 
「アイシャ」
 
「アル……」
 
アイシャが不安そうにアルベルトの顔を見る。するとアルベルトがアイシャの肩に手を置いた。
 
「ジャミルなら心配ないよ、きっと元気で戻ってくるよ……」
 
「……うん……、でも……」
 
あの2度目のバカンスの休憩日、アホなジャミルがドジって海で溺れ掛った日の事が
アイシャの脳裏から離れないのである。もしも、もしも……、又何かあったら……、
そう思うとアイシャは不安になってしまい、ぎゅっと目を瞑り、抱いているスラリンを
更に強く抱きしめるのだった。
 
「ピキ、おねえちゃん……」
 
「大丈夫、大丈夫、ジャミルの事だもん!」
 
「ピキー!」
 
ダウドとスラリンもアイシャを励ました。
 
「うん……、そうだよね……」
 
アイシャは再び目を開くと心の中で小さく祈る。
 
 
ジャミル……、早く帰って来てね……
 
 
そして、再び場面は地球のへそに……。
 
「……だああーーっ!どけーっ!!」
 
アイシャが心配と不安で胸を痛めている中、ジャミルは襲い掛かってくる
モンスター達を次々と蹴り倒し、暴れまわっていた……。
 
「俺の邪魔すんなあーーっ!!邪魔だあーーっ!!」
 
ジャミル達のLVはすでにやまたのおろちの洞窟で
……25付近になっていた為、別に何の問題もなかったのである。
 
「……ちぇすとおおおーーっ!!」
 
吠えながらモンスターをドスドス蹴り飛ばしていく。
アルベルトが言った様に何の心配も要らなかった
が、既に格闘攻撃になっていた為、これでは鉄の斧を
構えた意味もなかったんである。
 
……散々暴れ捲って漸くジャミルは洞窟の奥へと辿り着く。
 
「……はあ、手強い奴らだった……、ん?」
 
見ると行き止まりの通路に宝箱が置いてあった。
 
「どれどれ?」
 
早速中を開けると光り輝く青い玉が入っていた。
ジパングでゲットした、オーブ、パープルと全く同じ型だったので
オーブに間違いはなかった。
 
「……やたっ!ブルーオーブGet!」
 
こうしてジャミルは試練を越え、苦労の甲斐だけあり、漸く
二つ目のオーブを手に入れる事が出来たのである。
 
 
再びランシール……
 
 
「……あ、帰って来たよお!」
 
「えっ!?どこどこ!?」
 
ダウドの言葉にアイシャ達が反応する。
 
「うん、確かに足音がする……」
 
アルベルトも気が付いた様だ。
 
「おーい!」
 
青いオーブを持ってジャミルが走って来る。
 
「……、ジャミル……、ジャミル……、ジャミルーっ!!あははーっ!」
 
アイシャはもう無我夢中でジャミルに飛び付いた。
 
「お帰りっ、ジャミルっ!!」
 
「ピキー!」
 
「おう、ただいまっ、皆!」
 
「ジャミル……、心配したんだよ……、本当に良かった……」
 
アイシャはジャミルの胸の中で涙を流すのであった。
 
「そ……、そんな、大げさだな……、えへへ……」
 
「あのー……、僕達の事……、忘れてない……?」
 
アルベルトとダウドが自分たちの顔を指差した。
 
「ありゃ!」
 
「きゃっ!」
 
「最近こればっか……」
 
「オイラ達だって心配してたのになー!!」
 
「あ、あんがと!アル、ダウド!」
 
ジャミルが慌てて二人にもお礼を言った。
 
「もう~、大変だったんだよ、アイシャってば、ジャミル……、ジャミルって」
 
「きゃっ!ダ、ダウド!やめてぇー!」
 
アイシャが顔を真っ赤にし、慌てて手を振り回した。
 
「でも本当に良かった、無事で……」
 
アルベルトもほっとし、安心した様に微笑む。
 
「怪我とか……、してない?」
 
アイシャが聞くとジャミルはうーんと言う表情で笑って見せる。
 
「ああ、ちょっと擦り剥いたかな……、あ、でも、大した事は……」
 
「ほら、べホイミかけてあげるよ」
 
アルベルトがジャミルの手を取り、呪文を唱える。
ジャミルの傷はあっという間に塞がる。
 
「アル、ありがとな!」
 
「ジャミルもやっと素直になったじゃん!」
 
「……うるせーんだよ、バカダウド!!」
 
顔を赤くしてツンデレジャミルが怒る。
 
「あはははっ!」
 
「ふふふふっ!」
 
神殿内に暫し朗らかな笑い声が響き渡った。
 
「おにーちゃん、みんなしんぱいしてたよー!よかったー!」
 
スラリンもジャミルの頭の上に乗る。
 
「ああ、お前も有難うな、スラリン!」
 
「あなたは無事試練を乗り越えたのですね……、勇者様……」
 
そして、神官が近づいて来た。
 
「ああ、オーブもこの通りさ、取ってきたぜ!」
 
「これからの道のりはこれまで以上にきっと険しい道のりに成る筈……、けれど
あなた達ならどんな苦難も乗り越えていけるはずです……」
 
「平気さ!皆がいるから!」
 
アルベルト達も頷く。
 
「どうかどんな時でも希望を忘れませぬ様……、あなた達の道にいつでも光が照らしています様に……」
 
神官に礼を言い、ジャミル達は神殿を後にするのであった。
此処、ランシールでのお役目も無事達成、任務完了である。
 
「ふう~……」
 
「どうしたんだ?ダウド」
 
「この話も何か中盤突入だよね、これからどうなるのかな~……」
 
「そうだな、段々ふざけてられなくなるかもな……」
 
「大丈夫だよ、ジャミルはふざけてばっかりだから」
 
「……うるさいっ!アホベルト!」
 
「誰がアホベルトだよっ!」
 
「おめーしかいねーだろーが、ボケッ!」
 
「ボケてるのはジャミルの頭じゃないか!」
 
「うるせー!いんぐりもんぐり!ぐーりぐり!」
 
「……訳わかんない事言うなーっ!!」
 
「あーあ……、折角かっこ良く決まったと……思ったのに……」
 
アイシャとダウドが揃って溜息をついた。大概こうなるのがお決まりである。
 
「ねえ、ジャミルとアルベルトっていつもこうなの?」
 
スラリンがピキピキ、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
 
「しょっちゅうだよ……」
 
「さて、話を戻すか、アル、他にどっか町ないか?」
 
「えーと、ちょっと待ってね」
 
アルベルトが世界地図で確認を始めた。
 
「まだ行ってない所は、テドン、サマンオサ、その辺りかな」
 
「……テドンてやな噂があるよな……」
 
「ああ、幽霊が出るって……」
 
ジャミル達の話が耳に入ったらしく、町の若者二人が立ち話を始めた。
 
「幽霊!?」
 
……お約束、ダウドが震え上がった。
 
「その町って心霊スポットかなにか?」
 
ジャミルが割り込んで逆に話を聞いてみる。
 
「なんでも、大分昔の話だけどさ、テドンて言う村がバラモスに滅ぼされたんだよ、
んで、村人が成仏できなくて今も彷徨ってるって言う話だよ……」
 
「町じゃなくて村なのか……、どうする?行ってみるか?」
 
「や~だ~!!」
 
「うん」
 
心の準備が出来ていないダウド以外、皆頷く。
 
「ゆーれいってたべもの?」
 
そしてスラリンは無邪気である。
 
「……食べ物かあ、うう~、ハラ減ったよう~……」
 
疲れた様にジャミルがその場にしゃがみ込む。
それを見たアルベルトは仕方ないなあと言う様に頷いて。
 
「夕ご飯は何処かのお店で久々に美味しい物食べようか、
ジャミルも今日はご苦労様だったしね……、お疲れ様……」
 
「ま、マジっ!?うわあ、苦労して良かったあー!」
 
ジャミルは目を輝かせ、アルベルトの方を見ると、アルベルトも静かに頷く。
今日のジャミルの御苦労様は本当に、皆が分かっている。
 
「だけど、……分かってると思うけど、ステーキは駄目だよ……」
 
「ぶうーーっ!」
 
ジャミルが膨れてブン剥れる。ゴールドを管理するアルベルトは
本当に大変なんである。この間の如く、機嫌取りでジャミルを
宥める為とは言え、ステーキ食べに行こうとは二度と言うまいとも思っていた。
 
「うあー!俺は一体何時になったらステーキ食えるんだっ!」
 
「なんか、ジャミル、アイシャみたいだあ、バカップル、
やっぱどっか似たモン同士なんだよね……」
 
「何かしらっ、ダウドっ!?」
 
「い、いえ……、何でもないですよお~……」
 
「ピキー?」
 
そしてそのまま、ランシールの小さな飲食店で、4人と1匹は(安くて)美味しいカレーでお腹を満たした。

zoku勇者 ドラクエⅢ編 5章

zoku勇者 ドラクエⅢ編 5章

スーファミ版ロマサガ1 クロスオーバー ドラクエ3

  • 小説
  • 中編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-02-03

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. その1
  2. その2
  3. その3
  4. その4
  5. その5