zoku勇者 ドラクエⅢ編 4章

その1

……ジャミルは泣き止まないポポタの顔を見ると、ふうとため息を付いて。
 
「ポポタ……」
 
「おにいちゃん……」
 
「あーあ、なんて顔してんだよ、いい男が台無しじゃねえか……」
 
そう言って指でポポタの涙を掬ってやる。
 
「約束する、バラモス倒したらまた会いに来るよ……」
 
「ほんとう……?」
 
「ああ、約束するよ、だから、もう泣くな……」
 
そう言ってジャミルはポポタに小指を差し出す。
 
「……うんっ!やくそく!」
 
ポポタは小さな手でぎゅっとジャミルの小指を握りしめた。
その時にはもうポポタはいつもの笑顔に戻っていた。
 
「……っか~っ!ええ話や……、あのジャミルが……、ぐす……」
 
「うん、普段あまり真面目なお話にならないものね、ぐすん……」
 
「ジャミルも玉には真面目になるんだね……」
 
……ちょっと一人づつ、外野を一発引っ叩いて来たい心境のジャミルだった。
 
「おーい、ジャミルさぁぁ~ん!!」
 
「……ゲッ!!」
 
大勢の村人がジャミル目掛けて、猪の如く、又突進してきた。
 
「もう行っちまうのかい!?淋しいな……」
 
「別れの前に美味いまんじゅー食っていけ!ほれほれ!」
 
「ううう……、お別れだなんて……、おばちゃんはさみしいよ~っ!!」
 
昨日の太ったおばさんがジャミルを力いっぱい抱きしめる。
 
「……く、苦し……ギブ……」
 
「おばちゃんやめてよーっ!おにいちゃんしんじゃうよーっ!」
 
わーわー騒ぐポポタ。
 
「……あ、あら……、私ったら……」
 
おばさんが慌ててジャミルから手を放す。
 
「疲れたらいつでも立ち寄ってくれな!」
 
「おじさんの事もわすれねーでな!」
 
「これ、船の中で食べるおにぎりだぁ、皆で食べてけろ」
 
「ここから東に不思議な泉があるって聞いた事あるでな、行ってみるといいよ」
 
「みんな……、ありがとう……」
 
優しい村人たちの言葉に胸が熱くなるジャミル。
 
「……あのジャミルが……、プ~ッ……!似合わない……、くくく……」
 
「ダウド!うるせーっつーの!!」
 
「……これ、おにいちゃんにあげる」
 
ポポタが兜をジャミルに差し出す。
 
「ん?なんだい、それ」
 
「この兜はポカパマズ殿が去り際にポポタにくれた物でしてのう、
ポポタもそれはそれは大事に宝物にしとったんですわ」
 
「そんな大事な物貰えねーよ、大事にとっとけよ」
 
「おにいちゃんにもらってほしいの」
 
「え……」
 
「うわあああ~……、すごい兜だよお~……」
 
困ったなと、ジャミルは一瞬躊躇うが、兜をよーく見てみると、
兜は大きな角が2本付いており、あのイシスのツフ女王を思い出させ、
あまりカッコ良い感じの物ではなく…ジャミルはさらに戸惑った。
 
「どうぞ貰ってやって下され、このまま此処に置いておくよりも
息子さんに使って貰った方がわしらも嬉しいですし、本望ですじゃ」
 
「ねー、ねー、ジャミルー、兜かぶってみてよー!あ、これシャレじゃないからねー!」
 
「ばっ、馬鹿ダウド!!」
 
「おお、それは良い!お父上の志を継いだ勇敢なお姿を是非!」
 
「ジャミルー!早く早くーっ!」
 
アイシャ達も急かしだした。
 
「しょうがねえなあ……、一回だけだかんな……」
 
仕方なしにジャミルが兜を身に着ける。
 
「……」
 
「あはははははは!うわ~!ジャミルださ~い!ぎゃははははは!腹いたーい!」
 
アイシャとダウドは転げまわって大笑いする。
 
「……プ~ッ……、ジャミルさん、よーくお似合いで……」
 
この間の仕返しとばかりのアルベルト。
 
「……この野郎!お前も被ってみろ!アル!!」
 
ブチ切れたジャミルはアルベルトにも兜を被せようとした。
 
「ご遠慮しまーす!」
 
笑いながらアルベルト達が逃げ回る。
 
「何処かおかしいのですか?とてもお似合いですが……」
 
「爺さんあんたセンス悪すぎ……」
 
「そうですかのう?」
 
「さてと、本当に行かなきゃな、ポポタ……、元気でな……」
 
……やっと外せると、ジャミルが安心して兜を外した。
 
「うん、おにいちゃんもね、またあそんでね……」
 
ポポタはジャミル達が乗った船が見えなくなるまでいつまでもいつまでも見送っていた。
 
「ばいばい、ジャミルおにいちゃん……」
 
 
……
 
 
船がムオルを離れ、暫く時間が過ぎたその日の夕方。
いつもはギャーギャーうるさいジャミルが今日は妙に静かなのがアルベルトは気になった。
 
「ジャミル、やっぱりさみしいのかな?」
 
「……何が?」
 
「ポポタとさよならしちゃったから……」
 
アルベルトがくすっと笑う。
 
「アホっ!んな事あるかよ!ガキじゃねーんだぞ!たく!
あーあ、眠くなっちまった!少し寝てくるわ!!」
 
「……素直になればいいのに……」
 
舳先の手すりに手をかけて沈みゆく夕日をアルベルトは眺めていた。
 
「ねーアル、あの建物なあに?」
 
ずっと海を見ていたアイシャが声をあげた。
 
「あれは灯台だよ、夜でも船乗り達が海を迷わない様に灯りで照らしているんだよ」
 
「へえー、大きいねー!」
 
「折角だからちょっと行ってみようか、ダウド、ジャミルを起こしてきて来てくれるかい?」
 
「はーい!」
 
「ねえ、ポカパマズさんだっけ、どうして村の人にあんなに人気があったのかなあ?」
 
「ああ、村にいた時にちょっと小耳に挟んだんだけど、
村人がモンスターに襲われてる処を偶々通り掛かって助けたらしいよ、
子供が大好きな人で特に小さな子には大人気だったみたいだね」
 
「あー!だからポポタはあんなに、ポカパマズさん、ポカパマズさん言ってたわけね」
 
うんうんと納得するアイシャ。
 
「それにしても、遅いなあ、ジャミルは……、何してるんだろう……」
 
そして、代表でダウドがジャミルを船室まで起こし行くのだが。
 
「……ジャミルー!おきろー!灯台へ行くんだってばぁー!!」
 
「ムニャムニャ……、もう食えない……」
 
「そんなお決まりの寝言言わないでよおー!!」
 
「ン……」
 
漸く目を覚まし、ジャミルが目の前のダウドを見るが……。
 
「はあ、やっと目をさましたよ……」
 
「……でっけえシュークリーム……」
 
「は……?」
 
 
「……デカシューいただきマンモス!!がおーー!!」
 
 
「ちょ、何寝ぼけてんの~っ!ジャミルやめてよ!アタタタタタ!!!痛い!痛いよ痛いってば!」
 
ドアの隙間から様子を見ていたアイシャは……。
 
「……見ちゃいけないもの見ちゃったかな……?キャ、キャー……」
 
顔を真っ赤にし、そそくさとその場を逃げた。
 
「……たく、いい夢見てたのに起こしやがって……、ブツブツ……」
 
「……」
 
ジャミルに齧られた事は齧った超本人のジャミル自身も
覚えていない様なのでダウドも黙っていた。
 
「あ、ねえねえ!なんの夢見てたの?」
 
先程の現場を見てしまった事を必死に忘れようとするアイシャだった。
 
「……教えねえ」
 
「いーじゃない!ジャミルのケチ!!」
 
「……ダウド、頭のてっぺんキズになってるよ……」
 
気になったのか、先程からアルベルトがじっとダウドの頭部を眺めている。
 
「え?これは……、さ、さっき転がって……、あはは……」
 
「……」

4人は早速灯台へと向かう。灯台の中に入るとおっさんが二人いて何か話をしていた。
 
「こんちは……」
 
ジャミルが代表で軽く頭を下げる。
 
「おお、これまためんこい子達が来たなあ!」
 
「ささ、坊ちゃんも嬢ちゃんもこっち来て来て!」
 
灯台守のおっさん達は呑気に焼き芋を食っており気さくに
ジャミル達にも芋をおすそ分けしようとする。
……アルベルトは珍しそうに差し出された芋を眺めている。
 
「……ねえジャミル、これは何だい?」
 
「馬鹿だなあ、焼き芋も知らねえのかよ、これだから貴族はよ……、
普段はお堅い気取った飯ばっか食ってるからな……」
 
アルベルトはむっとした顔をして再び芋を見、一口齧ってみる。
……すると、口の中に甘い味が広がりアルベルトの顔がほっこりする。
 
「わあ、甘くてほくほくで本当に美味しい……」
 
「だろ?庶民の食いもんも美味い物は沢山あるんだぜ」
 
そう言ってジャミルも芋を口に入れた。……そしてお約束。屁である。
 
 
……プウウウ~……
 
 
「やだもう!ジャミルってば!ホントにいつでもどこでもっ!嫌な特技ねっ!」
 
顔を赤くしてアイシャが鼻を摘まむ。
 
「……バ、バカ、今のは俺じゃねえぞ!何でもかんでも人の所為にすんなよ!」
 
「普段が普段ですからねえ……、疑われてもしょうがないよお……」
 
「……ダウドっ!スカした顔しやがって!本当はお前がやったんだろ!」
 
「ち、ちがうよおおお!何でそうなるのさあ!実はアイシャがやったんじゃないの!?
女の子だからって純情ぶって誤魔化すのは良くないよお!」
 
「……な、何よっ!ダウドったらっ!酷ーいっ!」
 
騒ぎはどんどん大きくなり、側で見ていたおっさん達は何が何だか分からずぼーっとしている。
 
「……いい加減にしろよ!話がどんどん違う方向へ行っちゃうだろ!!」
 
「ふ~ん……、だよお~」
 
「ほぉーっ……」
 
「へえー……、そうなのねえ~……」
 
「な、何……?」
 
「ま、そういう事にしといてやるよ、アルベルト、ま、仕方ねえよな……」
 
「何がだよっ!」
 
……無理矢理話を纏めようとするジャミル。結局、今回のおならの犯人は分らずじまい。
 
「ジャミル?もしかしてあんたら、アリアハンから魔王退治に
出たっていう噂の勇者様ご一行かい?」
 
「そうだけど……」
 
「やっぱり!あんたら行く先々で騒動を起こすって話題と笑いの種になってるよ」
 
「ふ、ふうーん……」
 
……この4人の暴走っぷりは彼方此方で話題になっているらしかった。
 
(ったく、誰の所為なんだか……)
 
もぐもぐ芋を齧りながらアルベルトが眉間に皺を寄せる。
 
「役に立つか判らんが、ちょっと旅の情報を教えてやろう」
 
「なんだい?」
 
「ここから船で陸沿いへ南、テドンの岬」
 
「……天丼?」
 
「ジャミル……、真面目に話聞きなよ……」
 
そう言いながら既にいつでも頭を叩ける様、スリッパの準備をするアルベルト。
 
「テドンの岬から東へランシール」
 
「ふーん」
 
「ランシールからさらに東でアリアハン」
 
「へえ、スタート地点に戻っちまうな……」
 
「アリアハンから北へジパング」
 
「zzzz……グウーッ……」
 
「……6つのオーブを全て集めたら船が要らなくなる……、らしいぞ」
 
「ゴホン……、ちょっと失礼しまして……」
 
「……いでええええーーっ!!」
 
アルベルトがジャミルの両耳を思い切り引っ張る。
 
「き、貴重な情報本当に有難うございました!」
 
「いんやいんや、お役に立てれば……」
 
「それでは失礼致します、本日はお忙しい処、大変お邪魔致しました!」
 
「ハア、気をつけてな……」
 
「旅の無事を祈っているよ……」
 
アルベルトが代表でおっさん達に頭を下げて礼を言い、ジャミルを連れて
そそくさと一行は灯台から退場するのであった。
 
「……個性的な兄ちゃん達だったなあ~……」
 
「もすなあ~……」
 
 
……
 
 
4人は船に戻ったが、切れて機嫌が悪いジャミルがギャーギャー文句を言う。
 
「このバカベルトーっ!耳がダンボになったらどうしてくれる!!おーいてえ……」
 
「……ジャミル、とにかく南へ行くからね……、本当にオーブも
どうやらこの世に存在するって分ったからね……」
 
アルベルトの顔は笑っていたが血管が浮いていたので
今日はそれ以上何も言わず、ジャミルは逆らわない事にした。
 
「ふう~、あーあ、折角目の前に海があるのにな、たまには泳ぎてぇなあ……」
 
「ジャミル……、なんなら君独りでもう一回クラゲに刺される……?
……うふふうふふ、うっふっふ!」
 
「ひえっ!?い、いいです……、すいません……」
 
アルベルトが機嫌悪くなると本当に恐ろしいわいとひしひし感じるジャミルだった。
 
「ねー、アルー」
 
「ん?アイシャ、何か用?」
 
「暑くなってきたねー、私、また海で泳ぎたいなー!」
 
「うん、また余裕が出来ればね、でもクラゲには気を付けてね」
 
「♪はあーいっ!」
 
「……アールーベールートーぉぉぉぉぉ……!!」
 
「何だよお、オイラの真似すんなよお!」
 
アイシャに対してはつくづく甘いアルベルト……、なのであった。

番外編1

「えっと……、確かムオルの村のおっさん達が言ってた泉ってのはこの辺りだよな」
 
ジャミルが世界地図と照らし合わせて泉の場所を確認する。
 
「うわあ、きれいー!!」
 
アイシャが感激する。泉は水が透き通り光が反射してキラキラと輝いていた。
 
「んじゃあ、ここで飯にすっか!貰ったおにぎり食おうぜ!」
 
そう言ってどっから持ってきたのかジャミルは青いビニールシートをいそいそ敷き始める。
 
「もうっ!食べる事しか頭にないの!?」
 
……ロマンの欠片も何も無い男、ジャミルにアイシャが膨れる。
 
「うん。」
 
早くおにぎりを食べたいせいか速攻で返事をする素直なジャミルさん。
貰ったおにぎりを食べ始める4人。午後の日差しはポカポカと温かかった。
 
「ねえ……」
 
ふと、おにぎりを食べる手を止めるダウド。嫌に深刻な表情をしている……。
 
「ん?」
 
「オイラ達……、世界の危機だってゆうのに……、こんなのんびりしてて……、いいのかな……」
 
「だーいじょぶだって!いいかダウド、大概のRPGはボスが世界を滅ぼすって脅すけど
主人公がボスんとこ行くまでちゃんと待っててくれんだから!」
 
「……ジャミル……、それ禁句……」
 
困った様な顔をするアルベルト。……と、言ってる間にジャミルはおにぎりの3個目をぱくつく。
 
「もー、ジャミルったら!そんなに食べたら太っちゃうわよ!」
 
「前言わなかったっけ?体質的に太んねーって、アイシャの方が肉付いたんじゃない?」
 
「……むーっ!何よーっ!ジャミルのバカバカーっ!うわーん、許さないんだからあー!」
 
ポカポカジャミルをゲンコツで殴るアイシャ。
 
「コ、コラ……、いてててて!やめろよーっ!」
 
(アイシャってこういう処が可愛いなあ……)と、アルベルトがくすっと笑う。
 
……実は彼、アルベルトにはロリコン趣味があ……
 
「ジャミル……、勝手にナレーション入れないでくれる……?」
 
「いてて!まーた耳引っ張んなよ!」
 
3人が揉めているのを尻目にダウドは……。
 
「綺麗だなあ……」
 
と、ぼーっと泉の底を眺めていた。
 
「泉の底ってどうなってんだろう……」
 
もっとよく見ようと身を乗り出した途端……。
 
 
……どっぼおおーーん!!
 
 
「大変っ!ダウドが落ちちゃったみたいよ!」
 
「え~っ!?何やってんだよ、あのバカ!」
 
「早く助けないと!!」
 
「俺が行ってくる、お前らは待っててくれ」
 
ジャミルはスゥ~っと息を吸い込んで泉に飛び込もうとした。その途端……。
 
「あ?」
 
突然、泉の中から茶髪、ストレートロングヘアの美しい女神が現れた。
 
「私は泉の女神クローディアです……」
 
「……ハア……」
 
「あなたが落としたのはこの真面目なダウドですか?」
 
「……いや……、違います……」
 
「それとも、この不良のダウドですか?」
 
「普通のへタレダウドです……」
 
「正直なあなたにはご褒美に、良い子・悪い子・普通の子……、のダウドセットを
纏めて差し上げましょう……」
 
「ちょ、ちょちょちょ!待っ……」
 
女神は纏めてダウドをジャミルに押し付けるとさっさと泉に消えた。
 
「……お~い~……」
 
4人は一旦船へと戻るが……。
 
「ジャミル……、これ……、どうするの……」
 
不安そうにアイシャが指差した物は……、分裂した3ダウドである。
 
「どうって……」
 
「おい!ジャミル!お前相変わらずバカ面だなあ!最近馬鹿が
ヒートアップしてんじゃねえか!ぎゃはははは!」
 
……何が何だかこれは悪ダウドらしい。
学ランスタイルに、グラサンを掛け、頭がウンコみたいなリーゼントヘアになっている。
 
「ジャミルさん、オイラとお勉強しましょう、東大への道は厳しいですよ?」
 
これは良い子ダウドらしく、グルグル眼鏡とおでこに必勝合格鉢巻。
 
「あーうー……、ジャミルう~、ごめんよぉぉぉ……」
 
と、これは面白くもなんともない普通のいつものダウド。
 
「おい!この糞ジャミル!デスコいこうや、デスコ!♪ふぃーばぁーふぃーばぁ~♪」
 
「ジャミルさん、数学の方程式解ります!?」
 
「ジャミルぅぅぅ~!おこんないでぇぇぇっ!」
 
「……だぁぁぁーーっ!うるせーーっ!!」
 
「ぷっ、……きゃはははは!」
 
80年代初期の踊りが止まらないフィーバーダウドが妙に
ツボに入ったらしくアイシャが一人で笑い転げている。
 
「ジャミルもうるさいよ……、でも、後始末どうするんだろうねえ、
これ……、僕は知らないけどさ」

番外編2

前回のクラゲ事件から数日。懲りないジャミル達は無人島にて又バカンスを楽しむ事にした。
 
「ひゃっほーーっ!」
 
元気バカジャミル、勢いよく海へと一番乗りで飛び込む。
 
「キャーっ!つめたあーいっ!」
 
その後に続くアイシャ。数秒後にジャミルが海からプハっと顔を出した。
 
「ねえ、アルもダウドもおいでよ~!一緒にあそぼー!気持ちいいよ!」
 
アイシャがアルベルトとダウドに手を振る。
 
「……その……、オイラ……」
 
「ダウド、オメー泳ぐの下手糞だもんな!」
 
けらけら笑うジャミルにダウドは何となくムッとしている。
 
「泳げないなら、一緒に練習しようよ、泳げるけど実は私も泳ぐのあんまり上手くないの」
 
照れくさそうにアイシャが舌を出した。
 
「いや、オイラだって泳げる事は泳げるんだけどさあ……」
 
「得意なのは犬カキだよな、いや、ヘタレカキか?」
 
「もーっ!ジャミルったらあー!」
 
「……どうせオイラは体育会系バカの人とは違いますよーだ!」
 
「そりゃ、俺の事かよ!」
 
「他に誰がいるのよ」
 
「お前らムカつくっ!このっ!」
 
ジャミルがアイシャ達に水を掛ける。
 
「!あ~っ、やったな!えいっ!!」
 
「ねー、アルー!こっち来てー!助けてよー!ジャミルがいじめるのー!」
 
「……どうしたの?」
 
浜辺で寛いでのんびり本を読んでいたアルベルトが動き出した。
 
「3人でジャミルやっつけちゃおー!」
 
「早く、早くー!」
 
「そう言う事ね、……よし!」
 
3人でジャミルに水を掛け攻撃しまくる。
 
「うわ!何すんだ、お前らやめろよ!卑怯だぞ!」
 
アルベルト達は面白がってジャミルに水を掛けるのを止めない。
 
「……チクショー!もう俺は怒ったぞーっ!てめーら皆覚悟しろーっ!!」
 
ジャミルは滅茶苦茶に足と手で水を飛ばしまくる。
 
「おっ、報復攻撃開始だ!みんな気を付けて!」
 
「……うるせーぞアルっ!!」
 
それから穏やかで緩やかな時間が過ぎ、泳ぐのに飽きてきた
アイシャ達はすでに浜辺で休んでいた。ただ一人を除いては……。
 
「そろそろ日も暮れて来たね……」
 
アルベルトが立ち上がり、辺りの景色を確認する。
 
「ジャミルー、もうそろそろいい加減で休んだ方がいいよー!」
 
アイシャが呼んでみるものの、ジャミルには全く聞こえていない様だった。
 
「……もーっ!」
 
「まあ、その内、嫌でも疲れれば戻ってくるから大丈夫だと思うよ」
 
「……オイラ眠くなっちゃったよ……、何もしてないのに……」
 
……他のメンバーが心配する中、元気バカのジャミルも数時間泳いだり
潜ったりしてはいたが流石に疲れが出てきた様だった。
 
「さて……、そろそろ戻るかな、泳ぎすぎたな……」
 
と、言って戻ろうとした時……。ジャミルの足にピリッと激痛が走る……。
 
 
「いっ……!?こ、これは……、お、お約束だあーーっ!
……あわわわわ!あっ、足つったあーーっ!がぼっ!?」
 
 
「ジャミル……、本当に何してんのかな……、ばかに遅いよね……、
いや、バカなんだけどさあ~……」
 
ダウドもそわそわと心配し始める。
 
「あ、アル……!大変っ!」
 
「アイシャ、どうかした?」
 
「ジャミルが……溺れてる……!!」
 
 
「……ええーーっ!?」
 
 
(あー、もう駄目だ……、体が沈んでく……、息も苦しくなってきたし……、
畜生、死ぬ前にステーキ100枚食いたかった……)
 
 
ジャミル……
 
 
(……誰か俺を呼んでる……、あの世からかなあ……?)
 
 
「……ジャミルっ!しっかりしてったらっ!!」
 
 
「う……」
 
「あっ、よかったあ……、やっと目ぇあけたよお!」
 
うっすらと目を開けると、目の前には自分を心配そうに見つめる仲間達の姿が……。
 
「……ごほっ、げほげほっ!!」
 
「うん、水は吐いたみたいだからもう大丈夫だよ……」
 
「まったくもう……、何であんなとこで溺れてたのさ、まるでカッパの川流れだよお」
 
「……急に足がつったんだよ……、お~痛う~……」
 
「バカ……?」
 
「だ~か~ら~!ダウドに言われたくねーって言ってんだろうが!」
 
「クラゲに刺されたり足がつったり、たく……、毎度毎度本当に忙しい人だねえ……、
君は……、玉には少し落ち着いたらどう!?」
 
「アルもうるさ……!?」
 
「……うっく……、ぐす……」
 
「ん?アイシャ、どうした?って、何、お前泣いてんの!?」
 
「……も~っ!何よバカっ!……人の気も知らないで……、心配したんだからね!ぐす……」
 
「あーあ、ジャミルってば……、女の子泣かしちゃ駄目じゃん……」
 
ダウドがジャミルの耳元でこそっと囁く。
 
「全くだよ……、ふう」
 
どうしようもないなあと言う様に、アルベルトも頷く。
……アイシャは泣き止まず、まだしくしく泣いている。
 
「ダウド、僕達は先に船に戻ろう、もう見てるだけで疲れるよ、ジャミルは……」
 
「うん、じゃねー、ジャミル頑張れー!ちゃんと責任とれよおー!アホ!」
 
「!?なっ、何をだよ……!って、……何がアホだっ!」
 
呆れたアルベルトとダウドはさっさと退場し、船へと戻る。
……浜場に残された二人、ジャミルとアイシャは……。
 
「ぐすっ……」
 
「弱ったなあ……」
 
「おい、アイシャ……」
 
「……」
 
「アイシャちゃーん、おーい、その……、怒ってる……?」
 
「ひ……、ひっく……、も、もう……、ジャミルなんか……、知らないんだから……」
 
(うわ……、こりゃ相当やべえわ……、どうすんべ……)
 
「今度アイス奢ってやるから、な?機嫌直せって」
 
「……要らない」
 
「な、泣くなよアイシャ……、頼むから、俺さ、この通りピンピンしてんだからさ」
 
「だって……、心臓の音も聞こえなかったし、必死で呼んでも返事してくれなかったし
もしも……、アルが助けてくれたのが遅かったらって思ったら……」
 
嗚咽を堪えて漸くアイシャが少し口を開いた。
 
「そうか、アルが……」
 
「ふぇっ……」
 
「うわ……!ったあ~っ!泣くのやめーいっ!!」
 
再びぐずり出すアイシャに慌てるジャミル。
 
「……」
 
「オホン……!その、ありがとな……、心配……、してくれて……」
 
「ジャミル……」
 
「おわっ!?」
 
アイシャがジャミルにそっと寄り掛って来た。
 
「怖かったの、もし、ジャミルが死んじゃったらどうしようって……」
 
(アイシャの奴……、こんなに俺の事心配してくれてたのか……、いやー、まいったなあ……)
 
照れくさくて頭をボリボリ掻いて誤魔化す。
 
「ア、ア、ア……、アイシャ……、その……、ん?」
 
「くー、くー……」
 
心配し過ぎで疲れたのか、アイシャはジャミルに寄り掛ったまま眠ってしまっていた。
 
「な、なんだ……、眠っちまったのか、は、ははは……」
 
「……」
 
「まあ、たまには悪くないな……、こういうのも……」

そして、深夜。
 
 
「……うーん、うーん……」
 
船室でジャミルは困った様にベッドの上をごろごろ転がる。
あれから何だか異様に気持ちが高ぶり寝られなくなって
しまったんである。……アイシャのあの潤んだ瞳の泣き顔を見てから……。
 
「ジャミルうるさいよ、早く寝てよ……、何時だと思ってんのさあ~……」
 
「ダウド、あのさ……、俺……、変なんだよ……」
 
「……いつもの事じゃん」
 
「……ダーウードーおおお……!」
 
「いたた!だってそうじゃないかあ!!」
 
「……」
 
ジャミルはアルベルトが眠ったのを確認するとこっそりダウドと話をする。
 
「なんか変なんだよな……、アイシャの顔見るとどうも意識しちまうんだよ……」
 
「……え~っ!?い、いつから……」
 
「バ、バカ!声が大きいよ……!」
 
「ご、ごめん……」
 
「えーっと、今日の夕方さ、アイシャが俺の事、心配して
泣いてくれてたのが判って……、それ見てからさあ、
何かアイシャって可愛いじゃん……、とか思うようになって……、
あれ?アイシャってこんなに可愛かったっけ?とか、思って、
いや、可愛いのは分かってるし、前からなんだけど……、
な、何言ってんだろうな、俺……、あれ?あれ?あれれ~?
マジで俺、どうかしてる?おかしいなあ~!」
 
「……えーと、ストレートに言うと、エロい気持ちになった……、とかです?」
 
「わーっ!」
 
ダウドに言われ、ジャミルは慌てて速攻でパッと股間を抑える。
 
「もしかして……、身体とか触りたくなった…?」
 
「……わ、わーっ!わーーっ!!」
 
「何の話……?」
 
「……わああーーっ!?」
 
いつの間にかアルベルトが起きて側に寄って来ていた。
 
「……あれだけ騒げば起きるよ……、あふ……」
 
アルベルトはぼーっとしながらも半目で欠伸をした。
 
「つまり……、少しだけジャミルが大人になったって言う事なのかなあ?」
 
「……ふう~ん……、大人?」
 
アルベルトが不思議そうな顔をするが、やはり急に起こされた為、表情は眠そうである。
 
「おっ、俺……、もう寝るわ!おやすみー!!」
 
「散々騒がせておいて自分だけさっさと寝ないでよおお……」
 
「……むにゃ、早く寝ないと……、スリッパ、……お仕置き……、むにゃ……」
 
 
(……駄目だ、駄目だ……、寝らんねえーーっ!……ああーーっ!!)
 
 
アルベルトとダウドは既に再び眠りについている。こんな変な気持ちになってしまい、
ジャミルはますます就寝出来なくなり、一人ベッドで頭を抱えた……。
 
「このバカダウドめ……、自分だけガーガー鼾かいて
幸せそうなツラして寝やがってからに、畜生、顔に落書きしてやるか……」
 
 
更に夜も更けて……。やっぱりどうしても眠れないジャミルは
甲板に出て気分転換をしてくる事にした。
 
 
「……ジャミル?」
 
「アイシャ……」
 
甲板には先に来ていたアイシャの姿があった。
此方もどうやら寝られないらしかった。
 
「寝ないのか?」
 
「うん……、なんか眠れないの……、暑い所為かな……」
 
髪を掻き上げるアイシャの姿を見てまたもドキッとする。
 
「ジャミルこそ寝ないの?疲れてるんでしょ、休まなきゃ駄目じゃない、大変だったんだから」
 
「お、俺も……、何か寝らんなくってさ……」
 
「そうなの……」
 
どうにか会話を続けたいジャミルだが今日に限って上手く言葉が出てこない。
 
「あ、あのさ……」
 
「なあに?」
 
「ラジオ体操ってさ、実は3番があるらしいぜ」
 
何とか普通に会話をしようと思いっ切りどうでもいい様な適当な事を言って誤魔化してみるが。
 
「へえー!そうなんだ!」
 
笑顔で笑うアイシャを見てジャミルは鼻血が出そうになる。
 
(駄目だ……、耐えろ!くそっ、静まれ自分……!)
 
出そうになる鼻血とついで自分の股間が黙々と立って
膨らんでいくのが怖ろしい程判るのであった。
 
(やばい……、マジでやばい……、限界急にやばい……)
 
「ねえ、ジャミル……」
 
「う、うえ……?」
 
「私……、ジャミルの事……、好きだよ……」
 
「!!!そ、そんな……、ストレートに……!う、うはー!!」
 
「……ゆっちゃった……」
 
「うは~っ!!」
 
「……アルもダウドも二人とも大好き、でもね……、ジャミルだけ
本当に特別な不思議な気持ちになるの……」
 
「お、お、お、俺……、夢見てんのかな……」
 
「おっちょこちょいでおバカでおアホで時々暴走して変な事ばっかりするけど……」
 
「……かみさまぁ~!!」
 
「でも、明るくて……、まるで皆を照らす太陽みたいで……、誰よりも
友達思いで優しい……、そんな処が……、私は大好きなの!!」
 
顔を赤くしてジャミルの目を真剣に見つめてアイシャが叫んだ。
 
「お、俺もアイシャが好きだ~っ!!怒ると何故か俺だけには
凶暴で強くなるけど……、でも、いつも一生懸命で素直で可愛くって、
と、とにかく……、俺はアイシャが大好きだーっ!お前を守りたいんだーっ!!」
 
此方も同じく顔を真っ赤にし、息を切らしてジャミルが叫び終えた。
 
「……ありがとう、ジャミル……、でも何よ……、凶暴ってゆーのは!
私がまるであちこち破壊しまくる凶悪怪獣じゃないの!!」
 
「そっちこそなんだよ!おっちょこちょいでおバカで
おアホってゆーのは!……俺を何だと思ってんだ……」
 
「うふふ!」
 
アイシャが笑い出した。けれどその瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。
 
「もう……、ほんとにバカなんだから!……ジャミルは……」
 
笑いながらアイシャが涙を拭いた。
 
「うるせーよ、ほっとけ!どうせ俺はバカだよ!」
 
「ジャミル……、大好き……」
 
アイシャがジャミルの側に近寄ると、……そっとその温かい胸に抱き着くのであった。
そしてジャミルもそのまま……、アイシャをぎゅっとハグする。
 
「うん……、俺もアイシャが大好きだよ……」
 
「もうあんまり心配かけないでよ……、お願いだから」
 
「多分無理……、保障出来ない……、ごめん……」
 
「ん……、バカ……」
 
……二人だけの甘い時間と夜は過ぎてゆく……。

翌朝……。
 
 
(……昨夜は相当頑張ったな俺……、でもまだ全然初期段階←何が?だしな……、
あいつらにはまだ黙っておこう……)
 
「ジャミルー、おはよう!」
 
「……よお……」
 
「ジャミル、どうしたの?顔真っ赤だよ!」
 
ダウドがジャミルの顔を覗き込む。
 
「べ、別に何でもねえから……、あんまり騒ぐなよ……」
 
「おはよう……」
 
と、そこへのろのろとアイシャも起きて来て休憩室に姿を見せる。
 
「アイシャまで顔赤いけど……、一体どうしたんだい?」
 
「な、なんでもないのよね、ジャミル!」
 
「ああ……」
 
「二人そろっておかしいなあー!?」
 
いかにもなわざとらしい喋り方でアルベルトとダウドが同時にハモる。
 
「しつっこいぞ!何にもしてねーってば!」
 
「なんにもー?なにをだいー???」
 
芸能マスゴミの如く今日はダウドもしつこい。
しかし、とろける様に甘かった昨夜を思い出しジャミルが一瞬にやけた。
 
「あ、何その顔!いやらしいなあー!」
 
隙を逃さずダウドが突っ込んできた。
 
「……うるせーなっ、オラ向こういけっつーの!シッ、シッ!」
 
犬を追っ払うようにジャミルがダウドに向かってあっち行けをする。
そして、アイシャはアイシャで……。
 
「……はああ~ん……、私、なんか変だよ……、体も顔もあっつーい……、うふん……」
 
フェロモンプンプン出しまくりなのが嫌でも周囲に判る。
 
「やっぱ気になるよおー!ねえー、教えてよお!」
 
ゴキブリ動きでバタバタと左に右にダウドがしつこく動き回る。
 
「……うーるーさーいー!……キスなんか絶対してねー……!あ……!」
 
「墓穴掘ったよお……、暴露したなあ~!?」
 
「あ、あ、あああっ!く、……この馬鹿ダウドめっ!」
 
「ふふーん!」
 
勝ち誇った様にダウドがジャミルの方を見てニヤニヤ笑う。
 
「……もうーっ!!ジャミルのバカバカバカ!!」
 
怒って更にアイシャの顔が真っ赤になる。
 
「ま、まあ……、バレっちまったモンは仕方ねーよ……」
 
「……誰がばらしたのよお!!」
 
「だから!オイラの真似しないでよお!」
 
「とにかく……、二人は両想いになったんだね、おめでとう」
 
アルベルトに言われて二人はもう茹でダコ状態だった。
 
「……ジャミルはほっとくと何するか判らないから……、これからは私が面倒みなくっちゃ」
 
「なんだとー!?それはこっちのセリフだ!お前こそ暴れて船壊すんじゃねーぞ!」
 
「なによ!私はゴジラじゃないって昨夜から言ってるでしょ!酷ーい!」
 
「全く……、肝心な処はちっとも成長しないんだからさあ……」
 
 
「……何か言ったか!?ダウド!」
 
「何か言った!?ダウドっ!」
 
 
「い、いいえ……、何でもありません……」
 
 
その頃。アルベルトは騒動の隙に甲板に出て一人で海を眺めていた。
 
「まだ諦めてないから……、僕にだって逆転のチャンスは有る筈だ……」
 
そんなアルベルトの独り言を知らずにジャミルとアイシャは喧嘩しつづける。
 
 
「ジャミル……、負けないからね……」
 
 
「……ジャミルのおおお……」
 
「おーっと!でるか!?必殺アッパースマッシュ!」
 
「……ばかああーーっ!」
 
「……ぐふえええーーっ!!」
 
 
「おーっと……!これは凄いです!アイシャさん、いつになく力が入っております、
ジャミルさん吹っ飛ばされたーーっ!」
 
「……実況中継すんなーっ!この、バカダウドーっ!!」
 
 
「ジャミル……、負けないよ……、うふ、うふふ……」
 
 
「ジャミルのバカーーっ!!」
 
「なんと!今度はジャイアントスイングです!ジャミルさん耐えきれるかーっ!?」
 
何はともあれとりあえずいつも通りの平和な4人ではあった。
アイシャとジャミルも今はまだこれ以上の大きな進展はなさそうだった。

zoku勇者 ドラクエⅢ編 4章

zoku勇者 ドラクエⅢ編 4章

スーファミ版ロマサガ1ドラクエ3 年齢変更 クロスオーバー

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-01-28

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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  1. その1
  2. 番外編1
  3. 番外編2