zoku勇者 ドラクエⅢ編 3章

その1

ポルトガ
 
 
4人はロマリアの関所を抜け、港町ポルトガへと辿り着いた。
 
「ん~っ、潮風が気持ちいい~、海の匂いがする~!」
 
潮風を受け、気持ち良さそうにアイシャが大きく伸びをする。
 
「とりあえず船を何とかしないとな、港へ行ってみるか……」
 
町の通りを歩いて行くと、中央に屋台が並んでいた。威勢のいいおじさん達が
パンパン手を叩いて通るお客さんを誘導している。
 
「はいはい、イカ焼きだよ、取れたての海の幸だから美味しいよっ!」
 
「ホタテ貝のバター焼きもあるよ!お兄さん達、お一ついかが?」
 
流石、沿岸国、海の近くの町だけあり、海産物の特産品も半端ではない。
ずらっと並んだ屋台から美味しそうな匂いが漂ってくる……。
 
「おいしそうだねえ~……」
 
「だな、腹へったなあ~……」
 
ジャミルとダウド、二人して指を銜え、アホ顔全快で涎を垂らす。
 
「おほん、……二人共、まずは港へ行くのが先だよ!
その後は、うん、多分……、ふふ……」
 
アルベルトが咳払いし、二人に注意するが、何故かアルベルトは嬉しそうである。
 
「どうしたの、アル?」
 
「ん?ア、アイシャ……、何でもない、何でもないから……」
 
「そう……?」
 
アルベルトは顔を赤くし、何故かモジモジしている。何かを
隠している様にもアイシャには見えた。
 
「変なアルねえ……」
 
そして、4人は港へ向かう。これから海に出ようとしていた
漁師さんを捕まえて少し話を聞いてみた。
 
「……船え!?」
 
「貸してくれるか、作って貰えるかどっちでもいいんだけど、
けど、専用の船を作って貰うとなると、相当金も掛るよな……」
 
「う~ん、借りるのも作るのもこの国の王様の許可がいるだよ……」
 
「また王様ねえ……、ここにも王族がいるのか……」
 
「ジャミル、アイシャがいないけど……」
 
アルベルトがジャミルを突く。ジャミル達が港で漁師と話をしている
ちょっと……、の間に又何処かへ消えてしまったらしい。
 
「え……?あ、まーたどこ行きやがった、あんにゃろ!……何回言っても分かんねえなっ!」
 
「えへへ、やっほー!」
 
通りの向こうからアイシャがパタパタと走ってきた……。
 
「……どこ行ってたんだい?駄目だよ、知らない町で単独行動しちゃ……、
本当に何があるか判らないからね……」
 
「ごめんなさい……、でも、大きな町ってつい嬉しくて!ふふ!」
 
「う~ん、まあ、いいか、今度から気を付けてね……」
 
「はあ~いっ!」
 
アイシャの笑顔に釣られ、つい、アルベルトも許してしまうのである。
 
「アルって先生みたいだねえ~」
 
「……面白くねえ……」
 
ピラミッドの時に続き、又もジャミルが後ろで口を尖らせる。
 
「で……、何してたの?」
 
「水着買ってきたの~、えへへ!海水浴の準備!」
 
「はあ?」
 
「かわいいでしょ~、ワンピースだよ、あと、ビーチボールとね、
それから、念の為の浮き輪も!」
 
アイシャがご機嫌で先程買ったばかりの水着を皆に見せる。
 
「うん、確かに可愛いけど……」
 
「気が早ええな~、ったく……、あ、オメー、アッサラームの時は
キーキー言ってたじゃねえか!」
 
「ぶー!あれはえっちだもん!あんなの水着じゃないわっ!セクハラ下着よっ!」
 
「ねえ~、早く船貸してもらおうよお~!」
 
「そうだね、……さ、さあ、皆、お城へ行こう!」
 
「!?」
 
アルベルトは先頭を切り、再び歩き出す。やはり何処か様子がおかしかった……。
 
 
ポルトガ城
 
 
「話は聞いているぞ、そなたらが勇者達か、遠い処をよくぞ参った、
……私はポルトガ国王ナイトハルトだ……」
 
黒い鎧を纏いし金髪ロングヘアーの若きイケメン国王。ナイトハルトである。
 
(……こいつ絶対裏がある……、黒ゴキゴキちゃん……、うわわわっ!?)
 
ジャミルをぐいぐい押しのけアルベルトが前に出る。
 
「殿下、……ナイトハルト様、お久しぶりでございます……、アルベルトです……」
 
「おお、アルベルトか!久しぶりだな、ルドルフもマリアも……、
ディアナにも変わりはないか?」
 
「はい、父上も母上も……、姉も変わらず皆元気でございます……」
 
ジャミルは頬を膨らませる。どうやら。アルベルトの家系はこのポルトガの国王と
顔なじみで非常に大事な知り合いの関係らしい。アルベルトはナイトハルトに
謁見するのを心待ちにしており、先程、アルベルトが町で異様にモジモジ
していたのはこの所為であった。
 
「そっか、アルと国王様って……、家族ぐるみでお知り合いだったのね……」
 
「はえ~、アルってやっぱり凄いお家の出身だったんだあ~!」
 
「うん、黙っててごめんね、何だか照れくさくて……」
 
「……でしゃばってんじゃねえよ、このシスコ……、あいたっ!」
 
「駄目っ!」
 
アイシャがジャミルの手を抓る。……ジャミルはますます面白くなさそうなツラをした。
 
「必要ならば私の船を譲ってやってもよいが……」
 
「殿下、……本当ですか!?」
 
「但し、お前達に一つ、頼み事があるのだが……」
 
(……そうらきた……、お使いきたよ~……)
 
「東の大陸にある黒胡椒と言う調味料を使った絶品料理を是非とも、
味わってみたいのだよ、手配を宜しく頼みたいのだ……」
 
「分りました、殿下のご命令とあれば、このアルベルト、何でも致します……」
 
アルベルトが国王に向かって恭しく頭を下げた。
 
「……主人公は俺なんだけど……、ちぇっ……!」
 
「東の大陸を渡るにはアッサラーム東の洞窟を抜けなければならんのだ、
だが、其処にはホビットがいて、普通の者は通してくれないであろう、
しかし、私とそのホビットは知り合いで旧知の仲なのだ……」
 
「ふんふん」
 
「これを持っていけ……」
 
「なんだ、これ?」
 
「私の紹介状だ、これを洞窟にいるホビットのノルドに渡してくれ、通して貰える筈だ……」
 
ジャミルはナイトハルトから受け取った紹介状に目を通す。……そして。
 
 
※ ええー、わたすのしりあいガアー、がーがーがー、いまからそちらえまいるのでぇ~、
  とおしてやてくれォ、おなまえ、でんか、ないとはると、ぺ、イクゾー
 
 
「……ふ、ふぁーっふぁっふぁっ……!!」
 
笑いを堪え切れず、大爆笑するのであった……。
 
「どうかしたのかね?」
 
「ん~っ!ん~!」
 
「ああ、黒胡椒はバハラタと言う町にあるらしいぞ……」
 
「はい、分りました、殿下、それでは失礼致します!」
 
アルベルトはジャミルを抱えて口を塞いだまま、一目散に慌てて城を飛び出した。
 
「……ぷっは~っ!あー……、苦しかった……、畜生!アル、いきなり何すんだテメー!」
 
「失礼じゃないか!ナイトハルト様に向かって……!!」
 
「だって、あいつ見た目と手紙のギャップが凄すぎんだもん!普通、笑うだろ!」
 
「……うるさい!黙ってろ!馬鹿ジャミルっ!!」
 
「うるせーのはお前だ!ウスラハゲ!!」
 
「うるさいうるさいうるさいっ!オッペケぺーの屁コキイーモイモ!!」
 
 
「あーあ……、こんな町の真ん中で、人がみてるよおお……、
また始まっちゃったねえ……、って、アイシャ……、何してるの?」
 
「水着見てるの~、早く泳ぎたいなあ~……」
 
どうやら買った水着を早く試着してみたくて仕方ないらしい。
 
「ちゃんと先の事考えてるのってオイラだけだ……、うう……」

4人はホビットのノルドに通行許可を貰い洞窟を抜ける。黒胡椒を求め、
バハラタの町へ。……今回はどんな冒険と騒動が待っているやら。
 
 
バハラタ
 
 
「さ~て、胡椒屋はどこだろ~?」
 
キョロキョロと辺りを見回していると青年と老人が揉めている光景が目に止まった。
 
「……放して下さい!お義父さん!」
 
「バカ者!お前一人で何が出来る!?」
 
青色長髪イケメン青年と、髪が縮れ気味ヘアのもじゃもじゃ爺さん。
 
「何揉めてるんだろう……」
 
「何だかまた大変みたいなんだけど……」
 
「大丈夫かしら……」
 
喧嘩を心配するジャミル以外の3人の横で。
 
「おー!ケンカだ!やれやれ、ごーふぁいとっ!」
 
「……」
 
野次馬根性むき出しのアホジャミル。
 
「ちょっと行ってみっかな……」
 
「よしなよお、もう~!」
 
「ダウド……、この人にはもう何を言っても無駄だから……」
 
「……何だとお、アルっ!!」
 
 
ドンっ!!
 
 
「うわ!」
 
後ろから走って来た青年がジャミルにぶつかってきた。先程老人と揉めていた青年の様である。
 
「す、すみません……、急いでいた物ですから…」
 
「別にいいけどさ……」
 
「すみませ~ん、そこのお方~、その男を止めて下され~!」
 
更に後ろからさっきの老人も走って来た。
 
「ヒイ~、ヒイ~、ヒイ~……」
 
「どうなってんだよ一体……、おい、じいさん大丈夫か?」
 
「ひい~……」
 
「ん?……あんたどっかで会った事なかったっけ?じいさん」
 
「わしの名前はオテドールですが、それが何か?お会いした事がありましたかの?」
 
「……違うか……」
 
「止めても無駄ですからね!お義父さん!僕は……、僕は……!!」
 
……青年は拳を握り……、怒りで肩を震わせている。かなり性格の熱い青年らしい。
 
「だから何の話してるんだよ」
 
「無駄じゃよ……、お前独りであいつらに敵うはずがないじゃろう……」
 
「……だからって!このまま放っておくのですか!?コンスタンツは
あなたの娘さんじゃないですか!!」
 
「俺にも詳しい話を聞かせてくれよ、俺達に出来る事なら手伝ってやるよ」
 
「えっ……?」
 
 
……
 
 
「そうでしたか、勇者様達でしたか!それは、それは!」
 
ジャミル達は老人の家に招待されてお茶をご馳走になった。
どうやら……、老人の娘さんが身代金目当てで何者かに誘拐され、お相手の
青年さんが激怒し、たった一人で誘拐犯に立ち向かおうとしていたらしい。
 
「良かったのう、ラファエル、勇者様達に任せておけばもう安心じゃぞ!ふぉふぉ!」
 
「……」
 
「あ~、うめえ!」
 
ジャミルは出されたクッキーをリスの様に口に入れ、頬張り、ぼりぼり貪り食っている。
 
「……娘さんの連れて行かれた場所は大体見当つくの?」
 
「うまうま、うっまー!」
 
ジャミルは無視してアイシャが聞いた。
 
「奴らは東の洞窟で待っていると言っておりました、……さすれば身代金と引き換えに娘を返すと……」
 
「あ、ジャミル……、オイラの分もクッキー食ったな~!!」
 
話は緊迫しているが、この二人、ジャミルとダウドからは全然緊張感が感じられず。
 
「食わないと思ったからさあ……」
 
「ひどい、ひどい、ひどーい!後で食べようと楽しみにとっておいたのに~!!」
 
「うるさいな!二人とも!!それ処じゃないだろ!」
 
「アルの分もクッキー食べちゃったよ……、ジャミルが……」
 
「え……」
 
「……食わないと思ったから……」
 
「世の中には愉快な変わった方がいらっしゃるのですな、
実に楽しい!ふぉ、ふぉふぉふぉ!」
 
「ええ……、ちょっと恥ずかしいです……」
 
恥ずかしそうに両手を頬に当てるアイシャ。
 
「そう言えばラファエルさん、何処に行ったの?何だか姿が見えないのだけれど……」
 
アイシャが爺さんに訪ねると、少し爺さんの顔が青ざめていた……。
 
「……そこら辺にいないですか?」
 
「いないわ……」
 
何と。ジャミル達が話を聞いている間にラファエルはこっそりと単身で
誘拐犯のアジトに突撃してしまったらしい……。
 
「ヒ~ッ!大変じゃあ!!」
 
「じいさん落ち着けよ、後は俺たちに任せとけ、必ず二人とも連れ戻してくるからさ!」
 
「……おねげえしますだ……、うう……」
 
4人はラファエルを追って東に有ると言う洞窟へと急ぐ。
暫く走ると、やがて橋が見えてくる。その向こう側に洞窟が……。
 
「な~んか、まーた厄介事に首突っ込んじまったなあ……」
 
「首突っ込んだまま、抜けないよね、オイラ達、このままだと、
……首にゅ~っと伸びちゃうんじゃないかなあ~……」
 
そんなジャミルとダウド嫌だわ……、と、アイシャが想像してみて、ちょっと吹いた……。
 
「二人とも、バカ言ってる場合じゃないだろ、嫌、バカなんだけど……」
 
……ジャミダウコンビに注意するアルベルトであるが。
 
「おい、最後、……何か言わなかったか!?」
 
「バカって聞こえたよお……」
 
「だから何でもないよ!早く洞窟に急ご……、アッ、アーッ!」
 
……焦ったアルベルト、小石にうっかり躓き転がりそうになる。
 
「何やってんだよ、ほれっ!」
 
ジャミルが転倒寸前のアルベルトの身体を引っ張り、支えるとアルベルトを助ける。
 
「あ、有難う、ジャミル……」
 
「はあ、早く中に入ろうぜ!」
 
 
バハラタ東の洞窟
 
 
……気が狂いそうな程のループ状態の迷路通路を通り、地下2階へと足を運ぶ……。
 
「なんかガヤガヤ声がするよお……」
 
「ん~?」
 
4人は物陰に隠れながら様子を探る。牢屋があり誰か捕まっている様だ。
……牢屋の周りで男達が酒を飲んで騒いでいる。
 
「いやあ~、本当に最高の気分ですね、親分!」
 
「んー、酒が美味い!」
 
「酔っぱらってこのまま天国行きそう……、ひっ、ひっ……」
 
「……親分?それに、どっかで聞いた事のある声の様な……」
 
ジャミルが首を傾げる……。
 
「んじゃあ、俺はちょっと出かけてくらあ、見張りは頼むぞ……」
 
「……誰か来るよお!」
 
「隠れろっ!」
 
……近くにあった空樽の中に急いで身を隠す。少々狭かったが、
何とか4人が入れるぐらいの大きさの樽だった。
ジャミルは気づかれない様、そーっと樽から顔を出す。
 
「……ウイ~、ヒック……、ゲフ……」
 
緑のマントとマスクを着けた筋骨隆々、パンツ一丁デブの男がのしのし歩いて来た……。

その2

「おい……、あれ、カンダタじゃん……、やっぱあいつらに捕まったのか……」
 
「どうしようか……」
 
樽の中からアルベルトの囁く声が聞こえる。
 
「とりあえず、あの子分共が邪魔だな……」
 
カンダタはジャミル達には気づかずそのまま歩いて行ってしまった。
 
 
……ぷう~……
 
 
「!!!」
 
「あ、やべ……」
 
「キャーいやー!ジャミルくさーい!!」
 
パニックになったアイシャが樽の中から飛び出してしまう。
 
「……こ、こら……、静かにしろよ、アイシャ……、見つかっちまうだろが……」
 
「キャーキャーキャー!」
 
アルベルトは、しかめっ面をし、手でパタパタ仰ぐ……。
ダウドはもう、狭い樽の中で今にも気絶しそうだった……。
 
「コラア!誰じゃい!そこで騒いどるんは!!」
 
子分の一人がこちらに気づき近寄ってくる。
 
「こうなりゃ戦ってやるぜ!」
 
ジャミルは樽から飛び出し遂に子分達の前に姿を見せた。
その後に急いで仲間達も続いて飛び出す。
 
「……ゲッ!!お、お前達は……!」
 
「久しぶりだねー、おっさん達まーだ、カンダタなんかとつるんでんのー?」
 
「糞ガキ共め……!この間の礼をさせて貰うぞ!!」
 
「おっさん達が俺達に勝てるって言う自信があればいーけどな」
 
「……くっ、糞ガキィ~!!」
 
「行くぞ、皆っ!」
 
ジャミルとダウドは武器を構え、アルベルトとアイシャは呪文の詠唱を始めた。
 
「ほいっ!鞭の舞いっ!いくよおーっ!」
 
ダウドの鋼の鞭攻撃!鞭は蛇の様にくるくると丸まり、子分達を3体纏めて拘束する。
 
「バギっ!!」
 
「お仕置きよ!ギラーーっ!!」
 
アルベルトとアイシャのW全体魔法攻撃。止めを刺さない程度に抑え、
子分達にダメージを与えてゆく。
 
「ふふ、んじゃあ、最後は俺だ、行くぞっ!!」
 
「んきゃああーーーっ!!やめろおおーーーっ!!」
 
絞めのジャミルの攻撃!……鉄の斧が再び子分達の鎧を切り裂き、
子分達は又辱めの哀れな格好に……。
 
「あ、……一人、パンツまで斬っちまった、ま、いいか……」
 
「きゃあーーっ!!」
 
アイシャが顔を赤くして慌てて両手で目を塞いだ……。
 
「よし、これで雑魚共は片付いたな……」
 
子分達は気性が荒く前回よりは多少手ごわかったが所詮ジャミル達の相手ではなかった。
 
「ほい、一丁あがりっと」
 
気絶した子分達をロープでふんじばり頭から袋を被せ、そこら辺に放置して蹴飛ばしておく。
 
「……後は……、大将のカンダタが戻ってこねーうちにラファエル達を探さねーと!」
 
「ジャミルさーん!」
 
暗闇の奥から微かに声がする……。
 
「……その声はラファエルか?」
 
急いで行ってみると牢屋の中にラファエルがいた。
 
「暗くてよく判らなかったけど、牢屋にいたのはやっぱりお前だったのか……」
 
「ご迷惑をお掛けしまして……、本当に申し訳ない、僕はっ……、
自分の力だけでコンスタンツを助けたいと思い、此処まで来ましたが、
逆に捕まってしまいました……、お義父さんの言った通りでした……、
やはり僕は弱かった……、僕一人の力ではどうする事も出来なかった……、
でも、そんな事、頭では分かっていたんです……、ですが……」
 
ラファエルが鉄格子を掴み、薄暗い牢屋の中で悔しそうに
唇を噛締めている様子が伝わってくる……。
 
「あ、あの……」
 
隣の牢屋からもう一人の小さな声が聞こえてきた。中を見ると美しい少女の姿が……。
 
「あんたがコンスタンツかい?」
 
「……は、はい!そうです!」
 
「結局二人一緒に捕まっちまった訳だ……」
 
「で、でも、ラファエルは悪くないんです、彼は私を命を懸けて助けに来てくれた……、
悪いのは私の方よ……、私が捕まったりなんかしなければ……」
 
「コンスタンツ……、今は此処から何としても逃げよう……、君は僕が必ず守って見せる……」
 
「ああ……、ラファエル……」
 
「コンスタンツ……」
 
「……イチャつくのはかまわねーけど、帰ってからにしてくれる……?」
 
おい、守れねえから捕まったんだろうがよ……、と思うジャミル。
 
「あ、はい、そうでした!今は逃げないと!」
 
「ったく……、世話が焼けるわ……」
 
「すみませんが、ここの牢屋を開けて下さいませ、
壁にあるボタンを押せば鍵が外れる筈ですわ……」
 
「これか、よいしょっと!」
 
ガチャッ……
 
コンスタンツに教えて貰った通り、ジャミルが壁にあったスイッチを押す。
すると鉄格子が開き、牢屋の中からバカップルが同時に飛び出す。
再び無事再会した二人は手を取り合い、くるくる回り始めた……。
 
「ああ……、ラファエル……!またやっとあなたに会えた……!」
 
「コンスタンツ……!君をもう放さないよ……!」
 
「ラファエル!」
 
「コンスタンツっ!」
 
「きゃ、きゃあ~、……これが大人の恋なの……?」
 
アイシャが顔を赤くし、うっとりとバカップルを眺めている……。
ダウドとアルベルトは口を開け、ポカーン状態。
 
「……だ~か~ら~!帰ってからにしろっつーの!!」
 
場所構わずイチャイチャを始めたバカップルにブチ切れるジャミル。
何だか嫉妬している様にも見え、見ていたアルベルトは苦笑いするのだった……。
 
 
「キャーーっ!!」
 
 
「……何だ?……ア、アイシャっ!!」
 
悲鳴に振り向くとアイシャを捕まえたカンダタが仁王立ちしていた……。
いつの間にか戻って来ていたのだった……。
 
「忘れモンしたから戻ってきてみりゃこのザマだ、ったく、
好き放題やりやがってよ!お仕置きだ!ガキ共!!」
 
「……はなしてー!はなしてーっ!キャー!」
 
「うるせー!騒ぐんじゃねえっ!」
 
カンダタはアイシャを羽交い締めすると首筋にさっと素早くナイフを付き付ける……。
 
「……ど、どどどど!どーしよーっ!ジャミルーーっ!」
 
「チッ!糞デブめっ、……ふざけやがって!」
 
ジャミルが悔しげに舌打ちし、ダウドは錯乱しそこら辺を走り回る……。
アルベルトは黙ってカンダタを睨む……。
 
「糞ガキ共、武器を捨てろ!それから、そこの二人も大人しく牢屋へ戻れ!」
 
「……!」
 
「お~っと、金髪の坊ちゃん、……魔法も使うなよー、何か悪巧みする様なら、
この可愛い顔が真っ赤な返り血で染まって泣いちゃうぜえー!……俺はやると言ったらやるぞー?」
 
「……くそっ!!」
 
カンダタはにやらにやら笑いながら、アイシャの首筋と喉元に
ナイフをちらつかせるのだった……。

「がーっはっはっは!悪ィ事すると、やっぱ痛快、気持ちがいいぜえ!」
 
勝利を確信し、高笑いをするカンダタの後ろに……。
 
             つんつん……
 
「!?おお~っ!テメエ、いつの間に俺の後ろに回りやがった!?」
 
カンダタが首を動かし背後をチラ見すると、なんと、ジャミルがいたのである。
ジャミルはカンダタの背中にしっかりと鉄の斧を突きつけている。
 
「あんたが熱弁してる時……」→糞ガキ共、武器を捨てろ!それから……、の辺り。
 
「……何~い!?」
 
「ひゃ~っはっはっは!わりィねえ~、オイラ足の速さだけが自慢なのさっ!!」
 
幾ら足が速いったってありえな~いである。
 
「……ち、ちくしょううううめ……」
 
カンダタの身体が怒りでブルブル震えだした……。
 
「ねえ、いい加減その子放してやってくれる?」
 
「この野郎っ!こうだっ!」
 
「いやーーっ!」
 
カンダタのナイフが今にもアイシャの顔を斬ろうとしたその時。
 
「この野郎、言う事聞けっ!……急所シュートっ!」
 
ジャミルは斧ではなく、カンダタのおまた目掛け、足を振上げると思い切り蹴り上げた……。
 
「……グ、グオオオオオォォォ……」
 
あまりの痛さにカンダタがぴょんぴょんし、ようやくアイシャから手を放した。
 
「……ケホッ!ケホッ!」
 
「アイシャ!大丈夫かい!?さあ、こっちへ!もう少しだよ!」
 
「アイシャ、頑張れっ!急いで走って!」
 
「アル、ダウド……、うっ、ごほ……、うんっ!」
 
……アイシャは息を切らしダッシュでアルベルト達の方へと駆け出す。アイシャが
カンダタから解放されたのを確認するとジャミルもその場から逃走した。
 
「アイシャあ~!無事でよかったよお……」
 
「みんな……、怖かったよ~!うわ~ん!!」
 
「もう大丈夫だからね……」
 
「やれやれ……、世話が焼けるよ、ったく……」
 
「ジャミル……、アル、ダウド……、ひっく……、ありがとう…」
 
こうしてアイシャは無事救出され、カンダタもこれ以上手のうち様が無く……、
……素直に敗北を認めたのであった。
 
「さーて、おっさんの後始末はどうしようかー?」
 
「くっ……!煮るなり焼くなり好きにしやがれーっ!」
 
カンダタは腕組みをし、胡坐を掻いてどかっとその場に座り、巨体を落ち着けた。
 
「……お前なんか食ったって脂身ばっかりで美味くねえよ……」
 
「……口の減らねえガキだな!!」
 
「ほら、これ返すよ、もってけどろぼー!」
 
そう言って縛ったままの子分共を蹴とばした。
 
「俺は弱い者虐めはしねーんだ、さっさと消えろ!!」
 
「くそ~っ!今回はこれで撤退してやるっ!……覚えていやがれ~っ!!」
 
子分共を引きずりながらカンダタはスタコラ逃げて行った……。
 
「はあ、出来ればもう忘れたいもんだがねえ~……」
 
……色々大変な目に遭ったが、こうしてジャミル達は無事に
ラファエルとコンスタンツ、二人を家まで送り届ける事が出来たのだった。
 
 
……
 
 
「……おお、勇者様達……、感謝の言葉もありませぬ、本当に何とお礼を言ったらよいのやら……」
 
「ジャミルさん達、本当に有難うございました……」
 
「このご恩は一生忘れませんわ……」
 
オテじいさんが涙を流し、ラファエル、コンスタンツも深々と頭を下げた。
 
「べ、別にいいって……」
 
「それに比べて……、ラファエル、お前は何と未熟者なのだ……、儂があれ程……」
 
「お義父さん……、申し訳ありません……」
 
「……お父様!ラファエルは私を命懸けで危険な場所に助けに来てくれたのですよ!!」
 
コンスタンツが必死で訴えるとジャミルもラファエルの横に立った。
 
「娘さんの言う通りだ、まあ……、結果的には奴らに捕まっちまったけど、
たった独りで悪党共の所に行った事は事実だよ、すげーじゃねえか、なあ!」
 
そう言ってジャミルは笑ってラファエルの肩に手を置く。
 
「ジャミルさん……」
 
「……ラファエル……、すまなかった……、これからも娘の事を宜しく頼むぞ…、
お前のその勇気で娘を守ってやって欲しい……」
 
「お父様!!」
 
「お義父さん!……僕の方こそ!これからもどうか宜しくお願いします!!」
 
爺さんがラファエルに手を差し出すと、ラファエルもその手を握り返すのだった。
 
「とりあえず一件落着だな」
 
「うふふ、ラファエルさん達、本当に嬉しそう!良かった……」
 
「ふぁ、やれやれだよお……」
 
「うん、今回も無事、終わったんだね……」
 
4人は絆を深めた親子のやり取りをそっと見守るのだった。
 
「勇者様達に是非お礼をさせて頂きたい!儂らに何か出来る事がありましたら
何でも言ってくだされ!!」
 
「い、いいよ、そんな気ィ使わなくたって……」
 
「いいえ!このままでは儂らの気が済みませぬ!」
 
ふんふんと鼻の穴を広げる爺さん。
 
「弱ったね……」
 
ジャミルは困った様に他の3人を振り返る。
 
「それじゃあ……」
 
アルベルトが頷くとジャミル達も同時に頷く。
 
「実は僕達は黒胡椒を探しておりまして、この町にあると聞いてやって来たのですが
何かご存じありませんか?」
 
「そんな事でよいのですか?もっと気の利いたお礼をしたいのですが…」
 
「い、いえ!皆さんの温かいお気持ちだけで本当に嬉しいです!」
 
「そうですか……、それならば、黒胡椒はうちの店に置いてありますよ」
 
「えっ!?」
 
「うちは元々黒胡椒屋なんですが、娘が誘拐されてしまった後、店を閉めていたのですよ……、
ああ、お代は要りませんぞ、娘の命の恩人ですからのう、せめてこれぐらいお礼をさせて下され、
好きなだけ持って行って下さい……、又明日から営業再開ですじゃ!
又、この町に来た時は、勇者様達もいつでも気軽に店に寄って行って下され!歓迎しますぞ!」
 
「いやったあ~!黒胡椒ゲーット!!」
 
ジャミル達は爺さん達にお礼を言い、急いでポルトガに戻ると
ナイトハルトに報告し、黒胡椒を無事渡したのであった。
 
「ご苦労だった、港にある船は好きに使うが良い……」
 
こうして苦労の末あってようやく念願の船を手に入れる事が出来たのだった。
 
「よし、皆、船に乗り込むぞ!出航だあーっ!」
 
「おーーっ!」
 
ジャミルの合図で船に乗り込み、いよいよ4人は壮大な大海原へと繰り出す。
此処からが彼らの本当の旅の幕開けとなるのである。
 
 
……
 
 
そして、遂に念願の船を手に入れたジャミル達4人。ナイトハルトが
提供してくれた船はかなり大きく、本当に凄い船であった。
皆は船内を探検したりと、もう大はしゃぎである。
 
「殿下の大切な船なんだから……、大事に使わせて貰うんだよ、皆……」
 
「へいへーい!」
 
「分かってますよお~……」
 
「大丈夫よっ!」
 
殿下命のアルベルト。浮かれている他の3人に注意をしておくが。
 
「ひょー、すげええっ!どれぐらいスピードが出んのかな、この船っ!」
 
「……」
 
アルベルトは一番船を破壊しそうな心配な危険人物、ジャミルをジト目で見るのであった……。
 
 
今は休憩室にて、ジャミル、アイシャ、ダウドのメンバーは休憩中。
アルベルトはと言うと、船室で趣味の読書タイムに入ってしまった……。
 
「ハア……、漸くこれでやーっと一息つけらあ……」
 
休憩室のテーブルに突っ伏すジャミル。
 
「でも、この船……、埃だらけだわ、そうね、アルの言う通りだわ、
まずは皆でお掃除しないと!これから暫くの間お世話になるんだもの!
大切に使わせて貰わなくちゃね!」
 
チョロチョロ動き回り、張り切るアイシャを見て、おい、頼むからじっとしててくれや……、と、
疲れたジャミルは思う。彼女は船の中でも何だか迷子になってしまいそうな感じがしたんである。
 
「う……」
 
「ダウド……、どうしたの!?顔色が悪いけど……」
 
「お約束です……、ぎもちわる……、お……、げえ~っ!!」
 
「おい、ダウド……?おーいっ!?」
 
「きゃーっ!此処で吐かないでーっ!」
 
 
「……おええええ~っ!!」
 
 
……ダウド、早速船でやらかす。4人の旅はまだまだ前途多難なのでした……。

その3

念願の船を手に入れたはいいが、……次の目的地は一体全体
何処に向かったらいいか分からず、海を漂流する4人だった……。
 
「……気持ちわり~い!うっぷ!」
 
そして、船酔いが治らないダウドが甲板から海に向かって突進を繰り返し
飯も食えず大変な事になっている。
 
 
「おええええ~……」
 
 
「……大丈夫かい?ダウド……」
 
アルベルトがダウドの背中を擦ってやるが、ダウドの顔は青ざめゾンビ状態。
 
「ね~、アルー」
 
アイシャがアルベルトの側までトコトコ歩いて来る。
 
「ん?何?」
 
「この船って誰が操縦してるの?」
 
「ジャミルだろ?」
 
「んーん、ジャミルならマストの上で寝てるよ」
 
「……自動操縦なんだよ……、きっと……」
 
と、無理矢理片付けてしまうアルベルト。
 
「あ、そうだ、ねーねー、みてみてアル、ここおすすめスポットだって」
 
アイシャがナイトハルトから貰った世界お勧めガイドマップをアルベルトに見せた。
 
「へえー、なになに?ダーマの神殿職業転職所、転職してあなたの人生
リフレッシュしてみませんか?か、ふ~ん……」
 
「俺も転職したいんだけどよう!」
 
「うわ!おどかすなよ!」
 
いつから来ていたのかジャミルも側に立っていた。
 
「……ジャミルは勇者なんだから~、勝手に変えられないでしょ!」
 
「ちぇっ!」
 
「僕もこのままで問題ないし、アイシャは?」
 
「私もこのままでいいな」
 
「じゃあ用ねえじゃん」
 
「え~っと、修行も出来るんだって、神殿の近くにメタルスライムが
沢山います、是非一度お越し下さい」
 
「……そいつは美味しそうだ……」
 
「行ってみようか」
 
と、ジャミル、アルベルト、アイシャ、3人の意見が合意した処に……。
 
 
「おえええ~……」
 
 
「う~ん、重症だな、こりゃ……」
 
「ダウド、大丈夫かい、ほらほらほら……」
 
アルベルトが心配そうにダウドを気遣う中、ダウドはしこたま
吐くだけ吐くと、ふらふらと……、又船室に引き返して行った。
 
「ねえ、私が前に提案した海水浴!実行して休憩しようよ!
その間に、ダウドを休ませてあげられるわ」
 
「賛成ー!俺も息抜きしたい!けど、オメー、泳ぎたい口実にダウドを出汁にしたな?」
 
「ぶー!何よっ!……えへへ、それもちょっとはあるかも……」
 
「まあ、仕方ないか……、僕も少しは落ち着いて読書タイムが出来るし、ふふ」
 
こうして話は纏まり、一行は小さな小島に船を止め、バカンス休憩へと繰り出す。
 
 
……
 
 
「じゃ~ん!みてみて~、やっと着れたよ~!水着ー♡」
 
フリルヒラヒラのワンピース水着でキャッキャと燥ぎ、砂浜を走りまわるアイシャ。
 
「……う~む、相変わらず胸がないのう……、イテッ!」
 
「ふんだっ!ジャミルのバカっ!」
 
アイシャにおもいっきり足を踏まれるジャミル。
 
「はあ、相変わらず二人は元気だね……、行ってらっしゃい」
 
「ん?アルは泳がねーの?」
 
「えー!アルは行かないの!?駄目だよ、本ばっかり読んでちゃ!」
 
相変わらず本ばかり読んでいて動こうとしない運動不足気味の
アルベルトを心配し、アイシャが腕を引っ張るが。
 
「僕はいいんだよ……、ここで休んでるからさ、どうぞお構いなく」
 
「オメー、もしかしてカナヅチ?とか……」
 
ジャミルが口に手を当て、プッ、あら、アルベルトさんいや~ねえ!……の、カマポーズを取る。
 
「……失礼だな!バカジャミル!……疲れたんだよ、それにダウドが心配だし……」
 
「……お、オイラは平気……、う……うぷっ!」
 
再びダウドが吐き気を催し口を押える。それを見たアルベルトは呆れる。
 
「ほら~!治ってないじゃないか!も~!」
 
「しぃましぇ~ん……」
 
「ダウドは僕が見てるから、二人で泳いできなよ」
 
「じゃあ、ダウドはアルにお任せして……、いこっ、ジャミル」
 
アイシャの小さな手がジャミルに触れ、ジャミルの手をそっと握った。
 
「え……?あ、あ……、あ……、あう……」
 
ジャミルは困って顔を赤くし、ドギマギ、戸惑う。
 
「ふふ、ジャミルって思ったより純情なんだね」
 
「……何か言ったか~!?アル~!!」
 
「なんでもないよー!」
 
 
……それから数時間後、船内にて……、ジャミルとアイシャの絶叫が響き渡る……。
 
 
「いてててて!ちくしょうう~!……しみるーーっ!」
 
「……いたい、いたい、いたいよーーっ!」
 
 
「♪ふんふふふ~ん、……あれ?」
 
すっかり船酔いも落ち着き、ポッキーを銜えてご機嫌のダウドが船室から出てくるが、
甲板から聴こえた悲鳴に気づくと階段を登り、上に上がって行った。
 
「ねえ、皆、何してるの……?」
 
ダウドが甲板に行くと座り込んでいるジャミルとアイシャ、……そして二人の
両足に薬を塗って介護しているらしきアルベルトの姿が。
 
「……泳いでいてクラゲに刺されたらしくてね、もう大変なんだよ……」
 
「そっか、今はシーズンだもんね……」
 
「アイシャの方は痛いのすぐ収まると思うケド……、ジャミルの方は重症かも……」
 
「……バカ?」
 
「ダウドに言われたくねーよっ!」
 
「しびれくらげに刺されたのならキアリクですぐ治せるけど、モンスターじゃない、
普通のクラゲじゃ僕は治せないからね!」
 
 
……むにゅう~……
 
 
そう言いながらジャミルの足にチューブタイプの塗り薬を大量に塗りたくるアルベルト。
 
「フギャーーっ!!」
 
「いたいいたいいたああ~いっ!!」
 
大騒動の末、あっという間に日が暮れてしまったのだった……。
 
 
「……う~、ひでえ目に遭った……」
 
その夜、痛む足を摩りながら甲板の上でうなだれるジャミル。
 
「アイシャとダウドはもう寝ちゃったよ、慣れない船旅で疲れたんだろうね……」
 
「アイシャの奴、よく寝れるよなー、ったく、俺は足が痛くて寝られやしねえよ……」
 
「……そりゃあれだけ刺されたら当たり前だろ……、ん?」
 
「……う~」
 
「ジャミル、敵が来る!構えてっ!」
 
「え?」
 
じっと海を見つめていたアルベルトがそう言った途端……、
 
 
……ザバアアアッ!!
 
 
海の中からしびれくらげの集団が大量に現われ船を取り囲んでいる。
 
「気を付けるんだ!ジャミル!」
 
アルベルトも武器を構え、身構えるが。
 
「クラゲだ……」
 
「はい?」
 
「……クラゲクラゲクラゲえええーーっ!!」
 
「……はいい?」
 
「てめえ、昼間はよくも人の足を……」
 
「ジャミル……、刺したのは普通のクラゲでしょ?しびれくらげとは違うんじゃ……」
 
「クラゲはみんな同じだああーーっ!この野郎っ!喰らえーっ!!メラメラメラーーっ!!」
 
「……あーあ、あんな大した事ない敵に……、MPの無駄遣いだよ……」
 
呆れて見ているアルベルト。怒り爆発暴走ジャミルのメラを食らい
面食らったしびれくらげ達は慌てて海に潜って逃げていってしまった。
 
「……また……、今度は一体なに……?」
 
「うるさくて寝られないわあ~……」
 
騒ぎにダウドとアイシャも目を覚ましてしまい、寝ぼけ眼で二人も甲板に上がってくる。
 
「うん……、ちょっと、クラゲがね……、あ、クラゲって言っても……」
 
「クラゲ!?きゃあ~!……クラゲはもういやああ~っ!!」
 
アルベルトの言葉が終わらない内に速攻でアイシャが逃げ出す。
相当クラゲがトラウマになっているらしかった。
 
「……やれやれ……」
 
溜息をつくアルベルト。ダウドはその場で立ったまま又眠ってしまい、
しびれくらげが逃走した後も、ジャミルは海にメラを放出しまくっていた。

それから数日の航海ののち、ようやくダーマ神殿が見えて来た。
 
「ほら、見てごらんよアイシャ、もうすぐダーマ神殿に着くよ!」
 
アルベルトがアイシャに声を掛ける。
 
「……ふにゅ~、着くの?うわ、大きい建物ー!」
 
眠たそうだったアイシャが目を輝かせ甲板から身を乗り出し海の彼方を見つめる。
 
「あーあ、やっと着いたか……、正直言って船の旅がこんなにきついとは思わなかったぜ……」
 
ジャミルが大きく欠伸をする。海上では特に強いモンスターも今の処出現していない為、
本当に退屈な毎日であった。
 
「あんまりする事ないもんねえ~、ぼそ、敵さえ出なければ……」
 
と、ダウド。どうやら船酔いの方は何とか克服出来たらしいが。敵が雑魚でもやはりバトルは苦痛らしい。
 
「よし、神殿に行ってみるか!」
 
4人は船から降りて早速次の目的地ダーマ神殿へと向かった。
暫く歩くと、船から見えた建物が自分達の目の前にお目見えする。
 
 
ダーマ神殿
 
 
「おおー、間近で見ると本当にマジででけえ建てモンだなあ!すんげー!」
 
「ちょ、フラフラしないでよ、……迷子になるよ」
 
「わーってるっての!其処のジャジャ馬じゃねーんだからよ!」
 
田舎者丸出しのジャミルにアルベルトが注意。アイシャもダウドも……、その
神殿の大きさにびっくりしてぼーっとしている。
 
「さあ、二人も中に入ろう」
 
「あっ、はーい!」
 
「はあ~い……」
 
アルベルトがアイシャとダウドに声を掛け、4人は神殿の中に入ろうとする。ところが。
 
「そこの少年達……」
 
「……?」
 
後ろから聴こえてきた声に振り向くと、4人の後ろに神官らしき格好をした
老婆だか老爺か良く分からない老人が立っていた。
 
「な、何か用?」
 
「儂は命名神マリナン様に仕える神官じゃ、どうじゃ?お主たちの中で
名前を変えて欲しい者はおるかの?」
 
「ハア?べ、別にいいよ……」
 
神官はジャミルへ代表で声を掛ける。別に特に名前も変える必要もない為、
ジャミルは断ろうとするが。
 
「名前を変えたい者はおるか!?」
 
「あ……」
 
神官は扉を潜ろうとした4人の前に立ちはだかり往く手を妨害。
……4人は困って固まると作戦会議を始める……。
 
「どうすっか……、名前変えねえと……、あの婆さん邪魔すんぞ……」
 
「いいじゃないかあ、無視して入っちゃえばさあ~……」
 
「で、でも……、扉の前で両手まで広げて通せんぼしちゃってるわ……」
 
「何なんだろう……」
 
「ええーいっ!こうなったらアル、お前代表で名前変えろっ!すいませーん!
えーと、こいつが名前変えたいそうです!」
 
「!!バカジャミルっ!!」
 
ジャミル、ストレートにアルベルトを餌に使う。アルベルトはブチ切れる……。
 
「ほう、そうかそうか、して、何と?」
 
「ハラグロ・ヅラベルトに名前変更……、あいてててっ!この野郎!」
 
アルベルトも負けていない。ジャミルの頭をぐいぐい抑え付ける。
 
「いいえ、こっちです!……ドスケベ・クソタロウに名前を変更してあげて下さい!」
 
「んだとお!この野郎!早くハラグロヅラベルトに名称変更して貰えっての!」
 
「……うるさいっ!ドスケベクソタロウめっ!!」
 
ギャーギャー揉めだし、ついに掴み合いにまで発展するジャミルとアルベルト……。
 
「ねえ、二人とも……、もうあのお婆さん何処か行っちゃったわよ……」
 
「早く行こうよお~!」
 
「……」
 
二人が気が付くと、いつの間にか神官は呆れて何処かへ行ってしまった後であった。
アイシャとダウドはさっさと神殿の門の扉を潜り、残されたジャミルとアルベルトも
静々とアイシャとダウドの後を追い、扉を潜った。
 
「おおう……」
 
……神殿内は転職希望者で長蛇の列だった。
 
「うは……、すげえな、これ皆転職希望者かよ……」
 
中には時折凄い人もいて、ウルトラマンになりたいだの、
マジモンでセーラームーンになりたいだの言ってる人もいた。
 
「……ええい!お主達は職業と言う物を舐めておるのか!?」
 
「大変だな……、神官も……」
 
とりあえず転職の間には用はないので宿屋のある二階へ向かう。
一行はしばらく宿屋を借り周辺でLV上げをする事にした。
 
「きゃーい!久しぶりにふかふかの綺麗なおふとんで寝られるー!わーい!
船のベッドルームのおふとんかび臭いんだもん!」
 
清潔なふわふわベットの上でぽふぽふ跳ねて嬉しそうなアイシャ。
 
「あんまり暴れると……、ベッドが壊れ……、あがっ!」
 
「……何か言った?ジャミル……」
 
「ひ、ひいえ、なんれもありまふぇん……」
 
ジャミルの口をぐいぐい横に引っ張るアイシャ。
 
「ったく……」
 
呆れるアルベルトと面白がってケラケラ笑うダウドの二人。
 
 
次の日……
 
朝、ジャミルが起きるとアイシャとダウドがすでに起床していて二人で楽しそうに何か話をしていた。
 
「なにしてんの?お前ら」
 
「あ、ジャミル、おはよー!ねえねえ、神殿の近くにガルナの塔って言うのがあるんだって!」
 
「賢者になれる凄いアイテムがあるらしいんだよおー!」
 
「……別に用はねえよな……」
 
「?」
 
最後に起床したアルベルトを見ながらジャミルが呟く。
 
「それは要らないとしてもー、他にすごいお宝があるかもー!」
 
拳にした両手を口元に当てて目をキラキラさせるダウド。
 
「……お前……、可愛くねえ……、てか、いつもヘタレて嫌がるくせに
何で今回はこんなに張り切ってんだよ……」
 
「いいんだよお!オイラだってお宝収集に燃えますっ!」
 
「あっそ……」
 
ついでにアイシャも一緒に真似し、拳を口に当てて目をキラキラ。ダウドに同意を求める。
 
「行ってみたいよねー!ダウド!」
 
「ね~っ!」
 
「……どうする?アル……」
 
「僕は別に構わないけど……、皆が行きたいっていうのならお付き合いするよ」
 
はっきり言ってジャミルはめんどくさかった。
神殿の周りでLV上げする方が何かあってもすぐに宿に戻れるので楽だったからだ。
 
「アルだけ行かせる訳にいかねーしな……」
 
餓鬼二人、アイシャとダウドは行く気満々である。
とにかくアルベルトは体力が無く、場合によっては
アイシャよりも酷い時が有り、すぐにぶっ倒れる……。
かと言ってジャミルも体力が有る訳ではない。
 
……このパーティは貧弱な全員もやし集団だった……。
 
「……う~っ!めんどくせーなあー!!」
 
ベッドの上で寝っころがって吠えているとダウドがひょいっと上からジャミルの顔を覗き込む。
 
「ジャミル……、一緒に行ってくれないの……、うるっ……」
 
相当古いが突然アイ○ルのcmと化すダウド。
 
「わかったよ、行くよ!行きゃあいいんだろ、行きゃあ!なんなんだよ、このパターン……」
 
「わ~っ!やったあ~!!」
 
燥ぎだすダウドとアイシャにジャミルがこめかみを抑える……。
普段の茶らけた彼からすればあまり似合わない仕草である。
 
「……あー、頭いてえ……」
 
(……いつも君に悩まされる僕の気持ちが判ったでしょ……、くくっ……)
 
そして、腹でこっそり笑うアルベルトなのであった。

その4

他の3人を除いておぼつかない足取りでガルナの塔へと歩いていくジャミル。
 
ぴょこっ……
 
突然草むらから何かが姿を現した。銀色に輝く物体、それは……。
 
「メタルスライムだあ~っ!!」
 
「あんまり騒ぐと逃げてしまうよ、ジャミル……」
 
「わかってるって、アル、よぉ~し!」
 
狩る気満々で鉄の斧を構え、ジャミルがメタルスライムへと近寄って行くが。
 
ざざざざざ……!
 
速攻でメタやんに逃走される。
 
「あっ、逃げやがったっ!チクショ~!やっぱこの糞斧が重すぎる所為だっ!おーのー!」
 
「……」
 
アルベルトの眉間に皺がより始めた。
 
ぴょこっ……
 
「ジャミル、又出たわよ!」
 
アイシャが叫びジャミルに知らせる。しかし、このメタル系は
プレイヤーの目からすると画面を押えて逃走を阻止したくなるのである。
……そんな事しましても逃げますが。
 
「よーし、今度こそ……、ダウド!鋼の鞭で攻撃してくれ!」
 
「わかったよお、えいやっ!」
 
すかっ……
 
「あれえ?……お、おかしいなあ~、……もう一回……」
 
ダウドはそう呟いて鞭を握り直す。しかし攻撃は当たらずスカシ連発になってしまった。
 
「……おおーーいっ!」
 
「だって固くってえー!中々当たらないんだよおー!」
 
「無理だよ、ジャミル……、メタル系はとにかく倒すのが大変なんだから……」
 
「んな事言ったってよう~!」
 
ダウドを庇いフォローするアルベルトに口を尖らせるジャミル。
 
「あっ!また逃げちゃうっ!」
 
アイシャが叫んだのと同時にメタルスライムも逃走。
 
「……ちくしょ~、こうなりゃ何が何でも倒してやる~!!」
 
「え、えええーー!?」
 
ジャミル以外の3人がハモり、ジャミルに抗議。
 
「えーじゃねーのっ!目標LV24!!」
 
「塔はどうするのようー!」
 
ブン剥れて不満顔のアイシャ。
 
「塔は逃げない!だから後でもいーのっ!ふんっ!」
 
「分んないよお、塔に足が生えて逃げるかも知れないじゃん、ぶつぶつ!」
 
「ダ、ダウド……」
 
此方も段々と不満顔になってきている様子のダウドをアルベルトが心配する。
 
殺気を感じたのかその後、メタルスライムは全く姿を現さなくなった。
出てくるのはゴリラ系のキラーエイプ、ごうけつぐま、そんなのばかりになった。
 
そして……。
 
すでに日は暮れてしまい夕方になっており、空のカラスがアホーと鳴いて通り過ぎる始末。
 
「……ねえ、ジャミル……、まだやるの……?」
 
疲れ切ったアイシャがジャミルに聞く。メタルスライムを倒せなくてもこの周辺の敵は
余裕で倒せるぐらいLVは充分上がってしまっていたのだが……。
 
「まだまだァ!!」
 
「はあ……」
 
そして騒動が起きる。幻術師にメダパ二を掛けられて混乱した
ジャミルがダウドの頭をぶん殴る事態が発生した。
 
「……うわああ~んっ!いだいよおおーー!ジャミルのおたんちーん!びえええーーっ!!」
 
流石にジャミルも焦ったのか、ぐずるダウドに謝って今日は神殿に戻る事に……。
暫く二人は口も聞かず険悪な時間が続いたらしい……。
 
「ダウドの頭のコブ……、すごいね……、なんか天まで届きそう……」
 
アゲモリ状態のコブに触ってみたくてアイシャがウズウズしている。
 
「……」
 
笑ってはいけないのでコブを見ない様必死に笑いを堪えているアルベルトだった。
 
 
ダーマ神殿 宿屋
 
 
「ジャミル」
 
「何だ?」
 
夕食のカツを食べながらアルベルトがジャミルに話し掛けた。
 
「メタルスライムとか、本当に運なんだからさ、あまりムキにならない方がいいよ」
 
「ふふぁってふよ、むぐむぐ」
 
「……口に物入れたまま話すなよ、行儀悪いな……」
 
「ふぃふぃふぁい」
 
「……」
 
「っくん!……ここんちのは肉が柔らかくってさ、本当にうまい!」
 
「本当、おいしいよねー、ぱくっ♡」
 
「ん~っ、うまー!」
 
アイシャもダウドも幸せそうにカツを口いっぱい頬張る。
 
(……ダウドはもうコブの事は忘れたんだろうか……)
 
そう思いながらアルベルトもカツを口に入れた。
 
「おかわりはいかがですか?勇者様達ですから無料サービス致しますよ」
 
ワゴンにおかわりの追加分を乗せたメイドさんがやって来た。
 
「ん~、食べたいけど……、お肉あんまり食べると太っちゃうから私はいいです」
 
「オイラももういいや、お腹いっぱい」
 
「僕もいいです」
 
「しけてんなあ、皆……、俺は食うぜ!」
 
約一名食べる気満々の人が……。
 
「まあ、さすがは勇者様ですね!」
 
(勇者じゃなくったってこの人は食べるけどね……)
 
「ジャミル、僕達は先に部屋に戻ってるよ」
 
「ああ……」
 
 
しばらく後……。
 
「……ぐ、ぐぇっぷ……」
 
皆が部屋へ移動した後、すっかり丸くなった腹を抱えて一人、
ジャミルは食堂で倒れて伸びていた……。
 
「あー、流石にカツ5皿はきつい……、これじゃ動けねえや……、うっぷ……」
 
次の日、ジャミルが食べ過ぎでダウンし、医務室へ運ばれた為、塔の探検は中止になり
他の3人も神殿でジャミルの容態回復を待ち休憩する事となる……。
 
「もーっ!ジャミルのバカっ!いつになったら塔に行けるのよう!」
 
「仕方ないよ、アイシャ、今日は一日ゆっくりしよう、
玉にはこんな日があってもいいと思うよ……」
 
「ふぁ~、うるさいのも倒れてる事だし、今日はオイラずっと寝てようかしら」
 
「それもいいかもね」
 
「私はいや!じっとしてるの嫌い!ねーねー、神殿を探検しようよ、アルー!」
 
「え?えええ、ちょっと……」
 
アイシャはアルベルトの腕を掴んで引っ張りそのまま神殿内の
探検へと繰り出し連れて行ってしまう。
 
「あふう、んじゃオイラはと、昼間だけど皆さんお休みなさ~い……」
 
 
その頃のジャミルさん。。。
 
「くそっ、あいつら俺が倒れてる間にィ~……、好き勝手やりやがって……、
うっ!く、くそっ……、ま、まただ、助けてダイナマン!!ア……、アーー!
特大級の爆弾が出るーーっ!キャーーー!!」
 
そう言ってトイレに駆け込んで行った。

次の日、何とかジャミルの体調も回復し、4人は漸くガルナの塔内部へと入る。
 
「うー……、何だよこの塔はよ……、やたらだだっ広いし
階段は多いしよう……、ブツブツ……」
 
ジャミルがぼやく。文句を言うジャミルのその後を苦笑しつつ付いて歩く仲間達。
 
「ジャミルぅー!ファイトおー!我慢すればきっとお宝がみつかるよお!」
 
いつもと違ってやたらと元気が良く何故か張り切っているダウド。
 
「へーいへい、ったく元気だねえ、若えモンは……」
 
「もー!お年寄りみたいな事言わないのっ!」
 
アイシャがジャミルの背中を叩く。
 
「お宝ー!何があるのかなあー!オイラワクワクしてるよお!」
 
「うふふ、楽しみー!」
 
「お弁当があればもっと良かったのにねえー!」
 
「ねー!」
 
「……」
 
「……プ……、っと、……」
 
吹きそうになったアルベルトが堪えた。
 
「……まるで遠足前日状態の幼稚園児だな……」
 
「君だって、ノアニールの洞窟の時最初はやたらと張り切ってたじゃないか……」
 
「今は今なんだよ!はんっ!」
 
それから暫くはアイシャとダウドは元気が良かったが
階段を登ったり降りたり同じ事の繰り返しで
特に珍しい物も見つからずいい加減に飽きてきたらしい。
……そして飛び出す我儘と愚痴。
 
「……疲れたあ……」
 
「もう帰りたいよお……」
 
 
「……お前らが行くって言ったんだろうがっ!!」
 
 
「ジャミル……、何もそんな顔を大きくしてまで怒鳴らなくてもいいだろ……」
 
アルベルトがぐずり出した二人を慰める。
 
「何よう……、ジャミルのばかあ……、もう……、すぐ怒るんだから!」
 
「……うう~……、そんなに怒ってばっかいたら痔になりますよお~……」
 
アイシャとダウドはさっとアルベルトの後ろに隠れ、二人してジト目でジャミルを見る……。
 
「???何か最近お前らマジで幼児化してないか?」
 
「あはははは……」
 
どうしようと言う様な感じで、困った様にアルベルトは自分の頭を掻いた。
 
「ジャミルのバカ」
 
「ジャミルのアホ」
 
「スケベ」
 
「ボケナス」
 
「変態」
 
「短気」
 
「……小さいち〇こ」
 
「……お前らなあーーっ!……オイ、ダウドてめー、最後のは何だっ!?」
 
「きゃーっ!きゃ~!きゃーっ!」
 
「コラ待てーっ!ガキ共ー!!」
 
「……みんな、楽しそうだね……」
 
本当はちょっぴり追いかけっこに加わってみたい様なアルベルトなのだった。
 
「たくっ!冗談じゃねえぞっ!……俺だってなあ、デカくなる時はデカくなるんだっつーの!」
 
「……威張って言う事じゃないでしょっ!ジャミルのバカっ!」
 
「いったああ~、何でオイラだけ殴られんのさあーっ!」
 
「……はあ」
 
アホ4人組、只管どんどんと上の階へ登って行く。やがて綱の張って有る場所へと出た。
 
「……何だこりゃ」
 
周囲には足場が無くサーカスの綱渡りの様でもあった。
 
「つまり……、ここを渡って行けって言うのか?」
 
「やだー!やだー!こんなとこ渡れないよおー!バカーー!!」
 
やっぱりと言うか、このお方……、ダウドが真っ先にぐずる。
 
「情けねえなあ、ダウドは、こんなモン怖いのか?よし、ちょっと見てろ!」
 
ジャミルはそう言って綱の上をバランスも取らずヒョイヒョイ走って行く。
 
「おお~っ!」
 
3人がパチパチ拍手する。
 
「どうだ!」
 
後ろを振り向き得意げにドヤ顔するジャミル。
 
(……体育はオール5だけど数学は1って感じかな……、ププッ……)
 
「アル、どうした?次はお前来いよ」
 
「あ、ああ……、ごめんよ、すぐに行くから」
 
アルベルトとアイシャは何とか渡り切ったがダウド一人、綱の向こう側で
周囲にぽっかりと空いた巨大な穴と睨めっこしていた。
 
「……こんなの無理だよお……、オイラ絶対落ちちゃうよお~……」
 
「ダウド何してんだよ、早く来いよー!」
 
「早くしないと食べられちゃうよー!」
 
「……え……?」
 
ダウドが後ろを向くとマッドオックスの大群が目を光らせていた。
 
「うわあああっ!やだやだやだっ、恐いよおお~!!」
 
物凄い勢いでダウドが綱を走って渡って来る……。
 
「……渡れるんじゃねえか……」
 
「ひっく、うっく、……ううう~、ぐすん……」
 
ダウドは顔中涙と汗と鼻水だらけ、セットしてあるオールバックヘアーは乱れ、
髪の毛ぐちゃぐちゃで凄まじい状態になっていた。
 
「よく頑張ったね……」
 
「お疲れ様、ダウド……」
 
アルベルトがダウドを慰め、アイシャがタオルで汗を拭いてやる。
 
「……どっかのン時間テレビのマラソンランナーかい……」
 
綱を渡りきったはいいが結局宝箱一つしかなく、悟りの書にも用はないので塔を後にする事にした。
 
「……だからあれほど面倒くせーって言ったのに……」
 
ちらちら半目でアイシャとダウドを見るジャミル。
 
「で、でも、LVも上がったし良かったよねー!ダウド!」
 
「ねーっ!」
 
「……はあ~……、マジで疲れがどっと出てきた……」
 
少し茶色がかった前髪を掻き上げてジャミルが溜息をついた。
 
「プ……」
 
「何笑ってんだ!アル!」
 
「い、いや……、何でもないよ…」
 
そして、何度か敵とバトルを繰り返し、神殿周辺の敵ではLVも上がらなくなってきたので
一行は神殿を後にし新しい場所を探して次へ向かう事にした。

その5

ダーマを離れて数日が過ぎた日の事。アイシャが甲板で座り込んで
何やら黙々と作業をしているジャミルに声を掛けた。
 
「ジャミル、何してるの?」
 
「ん~?魚でも釣ろうかなと思ってさ、準備してんだよ、ほれ!」
 
ジャミルはそう言い、餌を仕掛けた竿をアイシャに見せた。
 
「わあ、おさかな?釣るの?」
 
「宿屋にばっか泊まる訳にいかねーかんな、……飯代もちったあ節約しねーと」
 
「えらいっ!君の口からそんな言葉が出るとは……、見直したよ……」
 
感極まってアルベルトが感激して感心する。
 
「……褒めてんのか馬鹿にしてんのか……」
 
複雑そうな表情をし、竿を海に投げ込むジャミル。
 
「あ、ジャミル!引いてるよ!」
 
いつの間にかダウドも側に寄って来ていた。
 
「どれどれ?よっと!」
 
急いで竿を引いてみるが敵は物凄い力である。
 
「……グッ……、ぐぐぐぐぐ……、ふんぐっ!」
 
力を入れようとすると、おならが出そうになり困るジャミル。
 
「ジャミルー!頑張ってー!!ファイトよー!」
 
「きっと大物だよおー!」
 
「……おーい、見てねえでさあ、てめえらも手伝……、え?あわわわわわ!」
 
敵のあまりの手強さにジャミルが竿ごと海に引きずり込まれそうになる。
 
「……キャー大変っ!」
 
アイシャ達が慌ててようやくジャミルに加担し、4人でやっとこさ獲物を釣り上げるが……。
 
 
「……オーマイガットおおおおーー!!」
 
 
何と。ジャミルがうっかり釣ってしまったのは巨大な大王イカであった……。
 
「うぎゃー!変なジャミルが変なの釣ったよおーー!」
 
「ダウド、お願い、落ち着いてったら!」
 
パニくって甲板を走り回り、海に落ちそうな勢いのダウドをアイシャが止めようとするが……。
 
「ジャミル!早く釣竿を放すんだ!じゃないと海に引きずり込まれるぞ!」
 
竿を海に捨てて急いで逃走する。……船は勝手にスピードを上げ自動でどんどん走る。が。
 
ドゴッ!!
 
怒り狂った大王イカが船を追掛け船体に体当たりしてきた。
 
「……うわっ!?」
 
船は振動で大きく揺れ、バランスを崩した4人は甲板に転がってしまう。
 
「いっ、……畜生ーー!」
 
「……ジャミルぅ~、どうしよ~……、このままじゃ船が壊されちゃうよお~……!」
 
今までと桁が違う、海上での初めての強大な敵にメソメソ半泣きになるダウド。
 
「壊される前にシメるんだよっ!泣いてる場合じゃねえぞ!」
 
「殿下からお借りした大事な船を……、壊させてたまるか!」
 
「行くわよーーっ!」
 
脅えるダウドに喝を入れ、ジャミルが鉄の斧を構える。
アルベルトも戦闘態勢をとりアイシャも呪文の詠唱を始めた。
 
「……が、頑張って、皆……、オイラ此処で祈ってます……」
 
ダウドはさっさとマストの柱の陰に隠れた。
 
「……ダウド、オメー今日は夕飯抜きだかんな……」
 
「え~!?そんなあ……、ひどいよお、ジャミルぅ~!!」
 
「食らえーっ!」
 
アルベルトが大王イカ目掛けモーニングスターをぶんぶん振り回す。
結果、見事に大王イカの脳天へとぶち当たる。
 
「……プ~ッ!アルベルトさん、よーくお似合いで……、鉄球魔人みたい……」
 
(ジャミルめ……、あとで覚えてろ……)
 
「きゃっ!?……あ、あはあーんっ!!」
 
大王イカの触手がアイシャの体を捕えきつく拘束する。
 
「大丈夫か!アイシャ!」
 
ジャミルがすかさず鉄の斧で大王イカの触手を切り裂く。
 
「もーいやー!生臭いしぬるぬるしてるー!」
 
大王イカは再びアイシャを捕えようと残った触手をアイシャへと向ける。
 
「……えっち!いい加減にしてよ!もうーーっ!」
 
アイシャのメラミが残りの触手を焼き尽くす。
触手が無くなってしまった大王イカは慌てて海へと逃げ帰った。
今日の処はバトルは終了したが、海上バトルも段々と難易度が増して来た模様。
 
「ふう、先へ進めば進むほど、やっぱり敵も強くなるね……」
 
モーニングスターを磨きながらアルベルトが一言言葉を洩らした。
 
「ううう……、この先もあんなのがごろごろいるのかなあ……」
 
「なんだ?マストの陰に隠れてたダウド君」
 
「あう、ごめんてばぁ~!次からちゃんと戦うからさあ~!」
 
「……何度でも言ってやる!マストの陰で震えてしっこ漏らしてたダウド君!!」
 
「ひ、ひど~い!オイラ漏らしてなんかないよお~!!」
 
ジャミルはダウドが一人で隠れていた事をよっぽど根に持っている様だった。
 
「もうそのくらいで許してやりなよ、君も大人げないぞ……」
 
「そうだよ~!もういいじゃないの!次から頑張るって言ってるんだから!」
 
「ふーんっ!そう言って何回騙された事か!」
 
アルベルトとアイシャはダウドをフォローし庇うが、殿は機嫌が悪い。
……この先も奴はヘタレるのが分かっていたからである。
しかし、ヘタレではなくなったらそれはもうダウドではないだろう。
 
「ハア……」
 
アイシャとアルベルトが揃って大きなため息をつく。……いつもの光景だが。
尚、ダウド君、しっかり夕飯もケロッと頂いて問題なく平らげた模様。
 
そして、その夜……。
 
大王イカとのバトルで疲れ切ったジャミルは船室で爆睡していた。
疲れ切って眠るジャミルの頭の中に……、不思議な声が聞こえてきた……。
 
 
ジャミル……、私の声が……、聴こえますか……?
 
 
……誰だよ……、俺を呼ぶのは……
 
 
あなたはようやく来たる時への最初の一歩を踏み出したのですね……
 
 
!?だ、だから……、誰……?
 
 
まずは世界に散らばる6つのオーブ全て……、レッド、パープル、
イエロー、ブルー、グリーン、シルバー、これら全てを集めるのです……
 
 
6つのオーブ……?
 
 
いつか必ずあなたに会える時が来る事を信じています……、信じて前に進みなさい……
 
 
おい、ちょっと待っ……!
 
 
ジャミルを呼ぶ不思議な夢の中の声はそれきり聞こえなくなってしまった。
 
「待ってくれってばあー!」
 
「う、ううう……、ジャミル……、あ、足……、重いよおお~」
 
……ダウドはジャミルの足に潰されていた。
 
 
翌朝……。
 
「ジャミル、どうしたの?昨夜あまり寝られなかった?」
 
アルベルトが聞いてくる。
 
「なーんか、変な夢見ちまってさ、俺に変な声が語り掛けてきたんだよ、6つのオーブを集めろとか……」
 
「何だか不思議な夢ねえ……」
 
「それって、予知夢って言うんじゃないの?」
 
ジャミルは夢で聞いた声の主の話を皆に話す。ダウドも興奮し、話に夢中で身を乗り出してくる。
 
「……そうなのかな……、何だか分かんねえけどよ……」
 
「とにかくもう少し色々情報を集めてみよう、本当にその、
オーブって言う物があるのかもね、はい……」
 
「だと、いいんだけどな、サンキュー、アル」
 
疲れ気味のジャミルにアルベルトがコップにミルクを淹れてくれた。
ジャミルはミルクを一気飲みすると呼吸を整える。
 
「よし、まずは情報収集だな……」
 
4人は気を取り直し、再び旅を続ける事にした。
 
「……どうかお願いします、イカが出ませんように……!」
 
「タコが出るかも知んねーぞ、ダウド」
 
「……ぎゃあ~!うわあああーん!!イカもタコも嫌だよおおーー!!」
 
「もうっ!怖がらせちゃ駄目じゃないっ!」
 
アイシャがジャミルに注意するがジャミルは後ろを向いて舌を出し
アカンベーをするのであった。

暫くの航海のち、ダーマから更に北東へ進むと小さな大陸が見えてくる。
村がありそうだったので早速上陸し、休憩と買い物も兼ねて足を運んで見る事にした。
入った途端、外で遊んでいた小さな男の子がジャミル達を見つけるなり側に寄ってきた。
 
「あっ……」
 
「なんだあ?」
 
男の子は何故かジャミルの顔をじーっと見つめている。
 
「ポカパマズさんだぁーっ!」
 
「はあ~?」
 
男の子は何故か興奮して走って行ってしまった。
 
「みんな~!ポカパマズさんがきたよーっ!!」
 
男の子がそう叫んだ途端、村人が一斉に家から顔を出す。
 
「ポカパマズさんだって!?」
 
「ポカパマズさんが来たのかい!!」
 
「そいつは大変じゃねえか!!」
 
「な、なんか、騒ぎになってるみたいだよお……」
 
「ジャミル、君、此処に来た事あるのかい?」
 
「んにゃ?初めての筈なんだけどなあ……」
 
アルベルトが聞くが本当に記憶が無いのでジャミルが困った顔をする。
 
「ところでバカザマスって……、なに?」
 
「私、パカパカポダマンデスって聞こえたよ」
 
言いたい放題言うアイシャとダウド。特にアイシャの方は一体何語なのか。
 
「そう見えたんだよ、ジャミルが」
 
「黙って聞いてりゃ……、好き勝手な事ばっかり言ってくれるわね!おまえりゃ!!
てか、アイシャお前耳鼻科行けよ!!耳鼻科!」
 
「ぶ~!!そう聞こえたんだもん!」
 
「おーい!ポカパマズさあ~ん!!」
 
「あ……」
 
村人がジャミル目掛けて一斉にドタとタと足並み揃え走って来た。
 
「も~、来るなら来るって言ってくれよ!会いたかったよ!」
 
「ハア……」
 
「ポカパマズさん、どうだい!?久しぶりのムオルの村は!」
 
「採れたての新鮮な野菜があるよ!!」
 
「家に泊まっていってくれよ!」
 
村人達はワイワイガヤガヤ、ジャミル達を取り囲む。……と、
さっきの男の子が自分の爺さんらしき人物を引っ張って連れて来た。
 
「おじいちゃん、はやくはやく!ポカパマズさんだよ!」
 
「こ、これ……、ポポタ、老人をそんなに走らせる物ではないよ……」
 
「だって、ポカパマズさんがきてくれたんだよー!」
 
「……やれやれ、老い耄れには堪えるわい……!?」
 
そう言って老人がジャミルの顔を見た。
 
「……ど、どうも……」
 
「おお……、ポカパマズ殿……、これは本当に……、お久しぶりでございます……」
 
「は……、はあ……?」
 
「♪わ~い、ポカパマズさーん♪」
 
ポポタと呼ばれた少年は喜んでジャミルの周りをぐるぐる回っている。
 
「弱ったなあ、人違いだと思うんだけどなあ……」
 
「どうするの、ジャミル……」
 
「どうするの言われても、まいったなあ~……」
 
「……ジャミル?あなたはポカパマズ殿ではないのですか?」
 
アイシャに問われ、ジャミルが困って頭を掻いていると
老人が漸く助け舟の質問を入れてくれた。
 
「えー、うそー!!」
 
「残念ながら……」
 
 
……
 
 
ジャミル達はポポタの家に案内される。
 
「いやー、孫が勘違いしてしまいましてお騒がしてすみませんでしたのう、
お茶でもどうぞ、寛いで行って下され……」
 
「おにいちゃん、ほんとうにポカパマズさんじゃないの?」
 
ポポタがジャミルの顔を再び覗き込む。
 
「……そういえば、ポカパマズさん、もっとおひげのぼーぼーはえたおじちゃんだった、
でもおかしいなあ?どこかにてるんだけどなあ???」
 
「その人、ガサツで野蛮じゃなかった?」
 
「……この野郎!馬鹿ダウド、何を言うか!」
 
「い、いたたたたたた!」
 
「よしなさいよ、人の家まで来て!」
 
「……このお兄ちゃんたち、いつもこうだから気にしないでね?ごめんね、うるさくて」
 
「おめーだってそうだぞ!アル!!!」
 
「静かにしろよ、僕はジャミルとは違うから!」
 
「うるさいのはお前だ、インキンタムシ」
 
「……うるさいって言った方がうるさいの!騒音フンコロガシ」
 
「むかつくーっ!頭ヅラのくせに!」
 
「なにおーっ!」
 
「シスコン」
 
「悪玉菌コレステロール!」
 
「……うっわ~っ!モロむかつく~っ!!」
 
「ありゃ、久々に始まっちゃったねえ……」
 
「もう!ダウドが悪いんだからね!」
 
「……すいません……」
 
アイシャに注意され小さくなるダウド。
 
「あははは!おにいちゃんたちっておもしろ~い!」
 
しかし、騒動を見ていたポポタがきゃっきゃと手を叩いて喜んでいる。
 
「そうですじゃ!思い出しましたわい!」
 
急に爺さんが手をポンと打って椅子から立ち上がる。
 
「な、なんだい!?」
 
「ジャミルさんのご出身地はどちらで?」
 
「一応、アリアハン……(この話では) 、だけど……」
 
「ポカパマズ殿が故郷のアリアハンに残してきたまだ幼い息子さんが心配だと……」
 
「なんか嫌な予感……」
 
「確か、名前を……、ジャミルと……」
 
 
「……ブウーーッ!!」
 
 
ジャミルは飲んでいたお茶を勢いよく口から吹出す。
 
「俺って親父いたのか……」
 
「まあ、この話だとそういう設定になってるんだよ、うん、あくまでも
コラボパロディだからね、この物語は……」
 
アルベルトがジャミルの肩に手を置いた。
 
「わけわかんねえ……」
 
「ポカパマズさんの息子さんだって!?」
 
「どれどれ!?」
 
「うわっ!?」
 
何処で話を聞いていたのか突然村人がポポタの家に傾れ込んで来た。
 
「あらっ、言われてみればまだ若いし、でもポカパマズさんによくにてるわあ~!!
本当に可愛いわねー!おせんべたべない?」
 
やたら厚化粧の太ったおばさんがジャミルにすりすり頬ずりをする。
 
「……う、うええ!?」
 
「まんじゅうくえ!ほれほれ!」
 
「何言ってんだ!若い子はそんなもん食わねーだろ!」
 
「団子もあるよー!」
 
「とうもろこしうめえどー!」
 
「……一躍有名人だね、ジャミル……」
 
「ほっといてくれ……」
 
アルベルトがジャミルを見る。力なくジャミルも半目でアルベルトを見返す……。
……夕方になっても集まった村人達は全く帰る気配を見せず。
 
「ジャミルちゃーん、おせんべもう一枚どお?」
 
「もういい……」
 
「あらー?おせんべ飽きちゃった?じゃあ、ケーキはどお?」
 
「ケーキぃ!?食うー!!」
 
「やれやれ……」
 
アルベルトがいつも通り溜息をついた。
 
その日はそのままポポタの家に泊まらせてもらう事になり、
夜にはポポタの両親も仕事から帰宅し一行は楽しい一時を過ごした。
 
……就寝時。
 
アルベルト達3人は客室用の部屋を借りてすでに床についていた。
ジャミルだけはポポタがどうしても一緒に寝たいと言うのでポポタの部屋を貸して貰っている。
 
「……ファ~ッ……、ポポタ、オメーまだ寝なくていいのか?」
 
「まだねむくないもん!」
 
「元気だな……、おじさんはもう限界だ……」
 
「もうー!なんでおにいちゃんなのにおじさんなのーっ!」
 
ポポタがきゃーきゃーと枕でジャミルの頭をべしべし叩く。
 
「……痛いよコラ!そういう事しちゃいけませんー!もう!こんにゃろ!
おじさんは噴火しますよーっ!」
 
             ブッ!
 
「おにいちゃんくさーい!!きゃはははは!!」
 
「あー、マジ限界だわ……、ねむ……」
 
「ねえねえ、ジャミルおにいちゃんて、アイシャおねえちゃんすきなの?」
 
「コ、コラ……、おこちゃまがそんなませた口をきくんじゃありません!べしっ!」
 
そう言って軽くポポタの頭を叩くジャミル。
 
(……少し目が覚めたじゃねえか……、たく……)
 
「すきなんだあー!!」
 
「おーい、いい加減でもう寝ろよ、ポポタ……」
 
「やだよー!」
 
「よーし!ゆう事聞かない子はこうだぞ!うりゃっ!」
 
「キャハハハハハ!くすぐったあーい!」
 
「オラオラ、早く寝ないともっとくすぐるぞー!!」
 
(……いいお兄ちゃんが出来てよかったのう、ポポタ……)
 
部屋のドアの前で涙ぐむポポタの祖父。
 
(しかし、この調子じゃと、明日はどうなるかのう……)
 
……翌朝。ポポタの祖父が心配した通り、大騒ぎになるのであった……。
 
「……うわああーーん!ジャミルおにいちゃんいっちゃやだーーっ!」
 
「これ、ポポタ、我儘を言うでない、ジャミルさん達はもう出発なさらなければならないのだよ……」
 
「やだやだやだーーっ!」
 
ジャミルと離れたくないポポタが大号泣。4人は困り果てるが……。

zoku勇者 ドラクエⅢ編 3章

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スーファミ版ロマサガ ドラクエ3 年齢変更 パロディ クロスオーバー

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-01-27

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. その1
  2. その2
  3. その3
  4. その4
  5. その5