「扇の花束」

 その持てる花束は
 一本とても鮮花にあらず
 扇なり
 扇なり
 溶け消えさうな淡い色味の扇抱えて
 村娘は跣足(はだし)で歩けり
 水月(みなつき)の菖蒲は色淡く
 霜月紅い火影も雪に混じる
 何らの憂いぞ白い雪
 娘の抱けるおぼつかない小扇(こあふぎ)
 かぢかませてまで何を嘆く
 扇の花束は凍てたり
 カンテラも翳さぬ(いと)けき娘
 雪は止まず
 娘も泣かぬ
 音沈みし陸の世界で
 閉じ込めた哀しみ
 白雪のみ 感じる
 扇の花束
 雪どけの涙

「扇の花束」

「扇の花束」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-01-20

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