zoku勇者 ドラクエⅢ編 2章

その1

いざないの洞窟を抜けたジャミル達は新天地ロマリア大陸へと漸く辿り着く。
何となくうっすらと……、微かに城の様な建物も見えている。
往く手を阻む敵、毒を持ったカエルのモンスター、ポイズントードも初お目見え。
こんな風に敵も少々強くなってきてはいたが、何とか退け4人は其処を目指す……。
 
 
ーロマリア城 城下町……
 
 
「ようこそ!ロマリアのお城へ!」
 
「わあー!暫く洞窟びたりだったから……、明るくて何だか安心するわね!」
 
「でも、ウロチョロすんなよ、頼むからよ……、又誘拐されるからさあ~……」
 
このお転婆ちゃんが、じっとしているのは多分無理である。
 
「何よっ、私、子供じゃないわっ!」
 
例えどんな所にでも悪い奴は付き物。ジャミルは燥ぐアイシャを横目で見つつ、釘をさしておく。
……4人はまずは町の中を探索。町の人は色んな情報を教えてくれる。
アリアハンから勇者達が魔王討伐に出たと言う噂は、アリアハンから遥か遠くの地、
此処ロマリアでも伝わっており、町民はジャミル達がその勇者達一行と分ると大騒ぎだった。
 
「勇者様ですって!?……凄いわ!」
 
「本当に来たんだあ~、あの、サインお願いします!」
 
「魔王討伐頑張って下さい!」
 
「マッチョ、マッチョ!ビバマッチョ!」
 
「この世の中を変えたい……、うおおお~ん!!」
 
「……全然関係ねえコト言ってる奴もいるが……、まあいいか、何か照れんなあ~……」
 
「プ、全然照れる柄じゃないでしょ……」
 
「うるせーってのっ!アホベルトっ!」
 
町民の中には王家についての情報を教えてくれる者も。
……何やら内部反乱がありそうとか、少々ヤバイ情報など……。
 
「此処の王様は一件真面目そう……、でもないんだなあ~、
……実は内面では賭け事が大好きなお調子者なんだなあ~……」
 
「プ、お調子者……、ジャミルみたいだあー!」
 
「賭け事……?んで、うるせーよ、おめーはっ!」
 
「いたあーっ!」
 
ダウドの頭にも拳で釘を刺しておく。
 
「そう、この城下町の地下には手に汗握る、モンスター格闘場があるのさ、
へへへ、当ればガッポガッポ、大儲けだぜえ!少し歩かにゃならんが
この城の近くにはすごろく場もあるんだ、すごろく券さえあればすごろくゲームが楽しめるぞ!
無事ゴールまで辿りつけりゃ、凄い景品が貰えるらしいんだ!」
 
「へ、へえ~……」
 
「……おほん!」
 
目を輝かせそうになったジャミルに……、今度はアルベルトが咳払いして注意。
 
「わ、分かってるってのっ!」
 
4人はまずは国王に挨拶しておこうと城内へと入る。城内へ入り、
国王の間へと訪れたものの……、城の国王らしき人物が
部屋をあっちこっち、オロオロ歩き回っていた。
……顔は非常に真面目そうに見える人物ではあるが、
一見見るとトイレを我慢してチョロチョロ動いている様にも見えた。
 
「この人がお調子者の……、国王様……なの?」
 
「……だ、駄目だよ、アイシャ……」
 
「はあ~い!」
 
アルベルトに注意され、アイシャがペロッと舌を出した。
 
「王、落ち着いて下さい……、間もなくこの城に世界を救う
勇者達が到着する筈……、その者達ならこの王家を救ってくれるかと……」
 
「う~む……」
 
錯乱している国王を落ち着かせているのは、どうやら側近の大臣らしかった。
 
「どうしたんだい?……俺ら、来たけど……」
 
「そなたらは……、もしや、遠きアリアハンの地から、
魔王バラモス討伐に旅立ったと言う噂の勇者達であるか?」
 
「ああ、そうだけど……」
 
先程国王を落ち着かせていた大臣がジャミル達に気づくと、ドスドス
此方に向かって走って来た。ウロチョロしていた国王も一緒に。
 
「おお、よくぞまいっただね、勇者ジャミルよ、……儂はロマリア城、国王、
ハインリヒである……、だね……、実はだね、先祖代々王家に伝わる
金の冠がカンダタと言う盗賊に盗まれてしまったのだね、
……取り返して欲しいんだがね?」
 
「だがね?……ぶ、ぶっ壊れてる……」
 
「何だがね?」
 
「!い、いや、何でも……」
 
ハインリヒに迫られ、ジャミルはタジタジ……。
 
「国王様は今、大変お困りである、事が落ち着くまで、今後何か話が有れば私が代わりに
要件をお引き受けたもうす……、そなたらの報告も兼ねて……、
王はそなたらが冠を取り返した時こそ、真の勇者達と認めるとの事である……」
 
「ハア……」
 
側近の大臣がしゃしゃり出る。何かあんまり困ってる様に
見えねんだけど……、ともジャミルは思うのである。
 
「……また盗賊さん事件なのね、仕方ないけど……」
 
アイシャはじっとダウドの方を見ている。
 
「な、何だい、アイシャ、……オイラの顔に何かついてる?
そんなにみないでよお、照れるじゃないかあ~……」
 
(……それぐらい自分で軍出して取り返せよ……、天下のおエライ国王様なんだろが……)
 
そして、ジャミルも心の中で呆れてみるのであった。
 
「ジャミル~、かわいそうだよ、助けてあげよ?」
 
アイシャがひょいっとジャミルの顔を覗き込む。
 
「僕も!困っている人がいたら助けてあげるのが当たり前だよ!」
 
と、アルベルトも言うが。
 
「う~ん、オイラは別にどっちでもいいや、なるべく危ない事には関わりたくないんだけど……」
 
と、いつも通りのヘタレ節全開のダウドさん。
 
「……めんどくせ……!いってっ!!」
 
アルベルトがジャミルの耳を引っ張った。
 
「……行くよね……、ジャミル……」
 
「行くよ!行きますよ!いきゃあいいんだろ!!」
 
ブツブツブツブツブツブツ、文句を垂れて一旦城を後にし、再び外に出る。
他に何処かめぼしい場所はないかとLVを上げながら周辺を歩いて回るが。
 
大臣の話だとカンダタと言う盗賊はロマリアから遥か北にある
シャンパーニの塔に潜伏しているらしい。
 
「ねー、ジャミルう~、オイラこんな物モンスターから見つけちゃった♪」
 
ダウドが自慢げに見せびらかしたのはすごろく券だった。
モンスターから盗んだらしい。ジャミルは指をパチンと鳴らす。
 
「おーっ!いいモン見つけたなあ、でかした!早速すごろく場に行こうぜ!
な?いいよな、アル!玉には息抜きしないと!暫くバトルばっかだったもんな!」
 
ジャミル……、目を輝かせて手を組み、アルベルトにおねだりポーズする……。
 
「分ったよ、仕方ないなあ~……」
 
まあ、券は一枚だけだからいいかと、ついアルベルトは承諾してしまった。
 
んで、すごろく場に向かおうとしたが、アイシャが「ぶー!今日は疲れたの!」と、
駄々をこね始めたので仕方なく近くのカザーブと言う山村で休憩を取ることにした。
 
 
ーカザーブ
 
 
「小せえ村!何にもねえじゃん」
 
「……ジャミル~!聞こえるよお~!!」
 
疲れてお腹も空いていた為、まずは宿で夕ご飯の食事をとる。
文句を言っていた割にはジャミルはご飯を3杯もおかわりした。
しかもガツガツ意地汚く本当に美味しそうによく食べる。
 
「……よく食べるね……」
 
呆れたようにアルベルトがジャミルを見た。
 
「俺、元々太んねー体質だからいいのっ!あ、すみません、デザートお願いします!」
 
ジャミルのあまりの食いっぷりに……、厨房にいたおかみさんが出て来て宿屋の
店主の旦那と何か相談を始めた。
 
「あんた、……ねえ、どうする?ウチはデザートなんか食事に取り扱ってないよ……」
 
「全くなあ、こんな山ん中の田舎の小せえ宿に何を求めてんだ……、
あんな食い意地の張った意地汚ねえ客は初めてだ、……よっぽど普段から
食事にありつけてねえんだろうか……、あの食いっぷりからして……、
美味そうに食ってくれるのはこっちも嬉しいけどなあ~……」
 
「確か貰ったプリンが1個だけあったね、仕方ない、出してあげようか……、あの坊やに……」
 
「そうしてやってくれ、一応、……客だからな……」
 
と、夫婦二人に迷惑を掛けているのをジャミルは知る由もないのであった。
 
一同溜息「……はあっ……」
 
 
翌朝。
 
ジャミル達は早速すごろく場へと向かう。場内に入ると天井に突然、
穴が開いて、上から小太りのおっさんがドスンと落ちてきた。
 
「……うわ!」
 
「あいやー!また駄目だったあるよ!でもわたし、諦めないある!
絶対上まで上がって見せるある!」
 
おっさんはすごろくで失敗し、場外にほおり出されたらしかった。
 
「……」
 
……アルベルトはジャミルもこうなるのではないかと何となく感じていた。
 
 
「あいやー!俺、又駄目だったある!畜生ある!絶対上がってみせるある!
それまで何回だってやるあるよー!ムッキーー!!」
 
 
「……ぷっ。」
 
……アルベルトの想像の中のジャミルも……、何故かシェーシェー口調になってしまっていた。
 
そして。初めてのすごろくにレッツチャレンジ、アホジャミル。
ゴールの景品は鋼の剣とゴールドらしいが。
 
「うっしゃー!鋼の剣ゲットだぜ!」
 
しかし……。やはりと言うか、物の見事にジャミルは失敗し、ゴールの景品どころか、
道中のプチ景品の薬草なども貰えないまま、即座に叩き出された。
 
「残念でしたね~、又のお越しを」
 
「……ムッキ~ッ!!」
 
「別にねえ、鋼の剣くらいなら……、ゴールド貯めれば普通に買えるじゃない……、
確かに高いけどさあ~……、そんなにレアでもないよお~……」
 
「うるせーバカダウドっ!タダで貰う事に意味があるんだっ!!」
 
「ジャミルったら、すぐ無駄遣いしちゃうから中々お金が貯まらないのよう……」
 
(やっぱりこうなるか、時間の無駄だったな……)
 
ピョンピョン飛び跳ねてムッキームッキー暴れるジャミルを見ながらアルベルトは思う。
 
「ねえ、ジャミルって、さる山のおさるさ……、んん~!!」
 
「……それ言っちゃ駄目だよお~……」
 
ダウドが素早くアイシャの口を塞いだ。
 
「何か言ったでヤスか?あたしはもうメチャクチャベリーベリー
アンビリバボーハード不幸……、とほほのほ~……」
 
「……少し冷静になれよ……」
 
アルベルトがジャミルの頭にチョップした。取りあえず、ジャミルはアルベルト達に
取り押さえられ、すごろく場を後にするのであった。
 
「……ムッキ~ッ!!」

さてさて、色々あって4人は漸くシャンパー二の塔に潜入したのだが……。
 
とにかくまだLVが低かったんである。まだこの塔に入るには達していない
LVだった為、4人は揃って敵にリンチされる非常事態に陥る……。
 
「あぎゃーーっ!!」
 
「いったーっ!頭叩かないでよおおーっ!暴力反対ーーっ!!あたたたた!」
 
「……痺れちゃったの~……、動けないわあ~……」
 
「だ、駄目だっ!このままじゃ全滅だっ!……皆、一旦外に逃げよう!!」
 
ギズモにメラを連発され、さまようよろいに殴られ、キラービーに刺され、麻痺し、
散々大変な目に遭い一行は命からがら塔から逃げ出す……。
……仕方がないのでLVを上げて出直してくる事に……。
 
「ね、ねえ……、あそこに村があるよ、休ませて貰おうよお~……」
 
ボコられてボロボロ、放心状態の4人。何とか癒しを求めて彷徨う……。
ダウドが指差す方向には小さい村があった。
 
「少し休ませてもらうか……」
 
……処が……。村に入った途端、異様な光景がジャミル達を出迎えた。
 
「……な、なんで皆寝てんだよ……」
 
村人全員が眠りこけてしまっていたのだ。
 
「ちょっと、起きてくれよ……」
 
村人を片っ端から突っついてみるが全く反応しない。
 
「え~!ほ、本当にどうしたのかしら……」
 
「目をあけたまま寝てる人もいるよお!」
 
「よし、鼻の穴に指突っ込んでみるか……」
 
「……やーめーろー!」
 
げしっ!!
 
アルベルトの裏拳がジャミルの頭に炸裂する。
 
その時……。
 
「こんにちは、一曲如何ですか?」
 
「???」
 
竪琴を持った青年がこっちへ歩いてくる。カボチャの様な
不思議な丸いターバンらしき物を頭部に着け、しかも、
ターバンの天辺からは尖った大根の様な物がにゅっと突き出ている……。
特に頼んでもいないのだが、青年は竪琴を奏で、歌を歌いだす。
 
「素敵な歌声ね……」
 
「有難うございます、お嬢さん、あなた達も旅人さんの様ですね、
私は通りすがりの旅の詩人です……」
 
「なあ、あんたはこの村の事何か知ってるか?」
 
「詳しい事は知りませんがこの村に住む青年とエルフの女性が駆け落ちをして
エルフに憎まれていると言う話です、エルフは人間が大嫌いなのですよ……」
 
「じゃあエルフが何か関係してるって事か……」
 
「エルフの里はこの村のすぐ近くにありますよ、一度行ってみては?」
 
「んじゃあ、ちょっと行って話を聞いてくるか……」
 
「それでは私はこれで失礼します、どうぞ良い旅を……、
又何処かでお会い出来ると良いですね……」
 
「……」
 
青年……、詩人は行ってしまう。ジャミルは通って行く詩人をぼーっと眺めていたが……。
直後に金銭管理係でゴールドを管理しているアルベルトの驚く声が聞こえた。
 
「ジャミル!……財布から1ゴールド……、な、無くなってる!」
 
「……何ですと……?」
 
 
んで、エルフの里……。森の中の大自然に囲まれた美しい里ではあるのだが……。
 
里に行ったはいいがジャミル達はあまり歓迎されなかった。
時折「人間よ……人間が来たわ……」と、エルフ達の囁く声が聞こえた。
詩人が教えてくれた情報通り、里のエルフ達は人間を嫌い、最悪であった……。
 
「な~んか、俺達って嫌われてる?」
 
取りあえず女王の所へ行ってみる事にする。……エルフ達のヒソヒソ声を耳にしながら……。
 
「……人間がこの地へ一体何をしに来たのです!」
 
女王の間に行くと物凄い権幕で女王に怒鳴られた。
 
「あのさ~、ノアニールとか言う村に呪いかけたのあんた?」
 
ジャミルは誰に対しても微動だにせず平然と態度が大きい。
他の3人はただオロオロするばかり……。
 
しかし女王は態度を変えようとはせず、4人に向け容赦なく厳しい言葉を発する。
 
「……私は虫けらなど相手にしません、お引き取りなさい」
 
 
ぷちっ……
 
 
……ジャミルの頭の血管が切れた。
 
「村に呪い掛けたんはオメーかって聞いてるだけだよ!!」
 
「ジャミル、だめっ!!」
 
アイシャ達が慌ててジャミルを押さえるが大変な事になりそうだった。
 
「……」
 
女王は一呼吸おいてからジャミルを見つめ……。
 
「……お前は人間の中でも特に憎たらしい下品な人間の部類ですね……」
 
「そうかい?よく言われるんだよ、ありがとう」
 
「……褒めてるんじゃないよお……」
 
ダウドが呆れ、溜息をついた。
 
「……確かに村の人間へ眠りの呪いを掛けたのは私ですが、それも人間が全て悪いのです」
 
「何でだよ!」
 
「私の娘のアンは……、ノアニールの村に住む人間に騙されて駆け落ちし
何処かへ連れて行かれてしまった……、可愛そうに、彼を愛しているだなんて……、
人間などと一緒になって幸せになれる筈がないのです……」
 
「そりゃ思い違いかもしんねーじゃん、逃げて幸せになってるかもしれねーよ?」
 
「おまけにアンはエルフの里の秘宝の夢見るルビーを持って逃げてしまった……、
きっと人間に脅されたのよ……、ああ、可愛そうなアン……」
 
女王はそう言って顔を両手で覆い、泣き出してしまうのだった……。
 
(……こりゃ何言っても駄目だなあ……)
 
ジャミル達は里を後にする……。しかし何とも後味の悪い複雑な気分を
4人は味わったのであった。
 
「種族とか、そんなのどうでもいいだろ……、好きになったらなったでいいじゃんか……」
 
 
ザザザザザザ……。
 
 
「な、何、後ろに下がってんだよ、てめーら!」
 
「ジャミルが……」
 
「まともな事言ってるわ……」
 
「今日は嵐になるかも……、け、警戒した方がいいかな……」
 
「……失礼な奴らだな!お前らは!!」
 
「でも、何とかして……、ノアニールの村の人達を助ける方法はないのかしら……」
 
「俺らじゃどうにも出来ねえよ、まあ、あのエルフのおばはんを説得できりゃ
どうにかなると思うけど、あんな頑固じゃ無理だろ……」
 
「そうだね、完全に人間を拒絶してるものね……」
 
「うん……」
 
ジャミルとアルベルトの言葉にアイシャも顔を曇らせる。
 
「お?洞窟だ!もう考えるのはよせよせ!これ以上エルフの物調ヅラなんか
考えたくも思い出したくもねーっての!LV上げしよーぜっ!」
 
「あっ、ジャミルったら……、もう~!」
 
「しょうがないよお~!」
 
ジャミル、近くにあった洞窟の中に走って入って行ってしまう。
 
「おーい、お前らも早く来いよー!」
 
「はあ、仕方ないなあ、僕らも行こうか?」
 
「ええ、ふふっ、本当にしょうがないんだから、ジャミルったら!」
 
「やっぱ行くんだねえ~……」
 
アルベルト達もジャミルの後を追い、洞窟に入ってみる事に……。
 
「♪財宝~財宝~お宝~お宝~♪」
 
「……一応、……LV上げの為に来たんだからね……」
 
「わかってますよ~、アルベルトちゃん、アンタ少し真面目過ぎるんじゃないの?
少し馬鹿になれば?」
 
「……ジャミルみたいになりたくない」
 
そう言って先へとスタスタ歩いて行った。
 
「そこがかっこいいんだよねえ、アルって」
 
「ジャミルも少し見習いなさいよ」
 
「……アホ~っ!お前なんかバナナの皮で滑ってこけろ~っ!ボケベルト~っ!!」
 
「……何か聞こえたんだけどさ、何?ジャミル」
 
むっつり顔で眉間に皺を寄せ、アルベルトが戻って来た。
 
「…何もわざわざ戻って来なくたって……、いや、何でも……」
 
……そして、洞窟の奥へ進めば進む程、強い敵と遭遇する率も高くなる。
敵も程よく強くなって来てジャミル達は苦戦していた。
 
「塔の敵が強えーからこっち来たのに大して変わんねーよ!」
 
マタンゴだの、パリイドドッグだの山ほど出てくる。
特にパリイドドッグは集団で出て来てルカナンを掛けてくるので油断出来ない。
 
バンパイアが出て来た。
 
「あっ、鈴木みそ!」
 
「訳わかんない事言わないでよ……、ジャミル……、誰も分からないからさあ……」
 
と、ダウドがぼやいてみる。
 
「……きゃんっ!」
 
「アイシャ!」
 
バンパイアの強力なヒャドを食らってアイシャが一撃で倒れた。
 
「ふにゅ~……、もうだめ……」
 
「アイシャ!大丈夫か!?」
 
「い、一旦外出ようよお……、それで装備とか整えてさあ……、その方がいいよお……」
 
ダウドが泣きそうになりオロオロし出す……。
 
「僕もその方がいいと思うよ、このままじゃアイシャが大変だ!」
 
「……ったく、しょうがねえな……、けど、この際仕方ねえ……、よし、外行くぞ!」
 
折角LV上げに洞窟に入ったのに4人は又、敵に追い詰められる羽目となるのであった。

その2

「こんにゃろっ!どけてめーら!!」
 
アイシャをおぶって剣を振り回しながら持てる力の限り敵を蹴散らし突っ走るジャミル。
その後をヒーヒー言いながら走るダウド。そして、ダウドのマラソンサポーターと化し
励ますアルベルトさん。しかし、アルベルトも体力が無いので……、これは大変である。
 
「……アイシャ、ちょっと重い……」
 
「聞こえてるよ、ジャミル……、ふんだ!どうせ私はおデブちゃんですよ~だ!
いいわよ?このままジャミル潰してあげるもん!」
 
ジャミルの首筋を思い切り抓るアイシャ。
 
「イテテテテテ!コラ!冗談だっつーんだよっ!オメーはっ!」
 
「ぶーっ!」
 
「……う~ん……?」
 
……何だかアイシャ、異様に元気だなあと心の中でダウドが突っ込んでみた。
 
「……ちょっと待って!」
 
「なんだよ、アル!」
 
「……こんな所、最初通ったっけ?」
 
「そう言えば、何かどんどん暗くなっていってる様な……」
 
間違って更に奥へと進んでしまっていたのだった。
 
「あはははは……、しーらねー!」
 
だが、辿り着いた場所には綺麗な泉が広がっていた。
 
「飲めそうだなこれ……」
 
飲んでみるとHPとMPが全快した。回復の泉だったのである。
アイシャにも飲ませてやるとすっかり元気になった。
 
「ごめんね、心配かけて……」
 
「よかった、僕もMPが尽きそうだったから本当、安心したよ」
 
アルベルトがアイシャの頭を撫でた。
 
「えへへ、有難う、アル!」
 
完全に元気になったアイシャを連れて更に洞窟の奥へと進む。
 
「あ、あそこ何かある……」
 
アルベルトが何かに気づく。地底湖の側に赤いルビーと手紙らしき物が置いてあった。
 
「何か書いてあるな、なになに?え~と……」
 
 
……お母様、 どうか先立つ不孝をお許し下さい 私達はエルフと人間 
この世で許されぬ愛なら せめて天国で一緒になります         アン
 
                                                           
「……」
 
「そんな……、う、嘘でしょ……」
 
アイシャが両手で口を押える……。アルベルトは黙ってルビーから目を反らす…。
 
「……くそっ!」
 
ジャミルがルビーと手紙を掴んで走り出す……。
 
「ジャ、ジャミル!どこ行くのさあ!?」
 
ジャミルが又暴走しそうな気配を感じたのかダウドが慌てる……。
 
「うるせー馬鹿!俺を止めるんじゃねえっ!!」
 
「大変!ジャミルを追いかけなきゃ!」
 
「……僕たちも行こう!」
 
ジャミルは洞窟を飛び出し、真っ先にエルフの里へと走って行く。
ジャミルを止めようと慌てて後を追うアルベルト達……。
 
……そして、案の定……。
 
「コラ!女王っ!出てきやがれっ!!」
 
ジャミルは物凄いスピードでエルフの里へと怒鳴り込んで行く。
 
「……ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!」
 
「ウチのジャミルが……、ご迷惑お掛け致しまして……、本当に申し訳ありません!」
 
「ごめんなさあ~いっ!」
 
ジャミルの後を追いながら、必死に里のエルフに謝るアイシャ、アルベルト、ダウドの3人……。
里のエルフ達は困って女王の元へと話をしに行く……。
エルフから事情を聞いた女王は仕方なしに又ジャミルと対面する事にした……。
 
「……何ですか……、またあなた達ですか……、何も話す事はありません、
さっさとお帰りなさい……」
 
「これでもか!?」
 
ジャミルは宝石とアンの手紙を女王の前に突き付ける。
 
「……それは……、夢見るルビー……、何処でそれを…?」
 
「この近くにあった洞窟の中の地底湖の側だっ!……手紙、ちゃんと読めよ……」
 
「……」
 
女王はジャミルからルビーと手紙を受け取り手紙に目を通す。
……そして。先程まで厳しい顔をしていた女王の顔がみるみる豹変し……。
女王の瞳から涙が一滴零れ落ちた……。
 
「おお、おお……、アン……、何という事でしょう……、私が……、
2人の仲を認めなかったばかりに……、……アン、アン……」
 
「泣いたって娘さんは帰ってこねんだ、それよりも二人が天国で
幸せになれるように願ってやれよ、二人の仲を認めてやれよ、
……この世界で一緒にいられた時間はほんの僅かだったんだからさ……」
 
女王は暫く俯いていたがやがて顔を上げてジャミルを見た……。
 
「分かりました……、ノアニールの村の呪いを解きましょう、この目覚めの粉を使えば
皆、目を覚ますはずです……」
 
「へへっ、ありがとな!」
 
「……あなた方は二度と此処には来ない様に……、お行きなさい、
二度と顔も見たくありません……」
 
「来いっつわれてもこねーよ!こんな所!お互い様だよっ!……じゃあな……」
 
「……アン……」
 
……悪タレをついてジャミル達は里を後にする。女王は俯いたきり、もう
それ以上言葉を発しようとはしなかった……。
 
「これで人間に対する蟠りが少しでもなくなるといいよね……」
 
しみじみとダウドが呟くが。
 
「さあ~?あのエルフのおばはん相当頑固だったしなあ~、
難しいんじゃね……?馬鹿野郎……」
 
ジャミルはぽつりとそう呟くと、もう一度エルフの里の方角を振り返るのだった……。
 
 
ノアニールの村
 
 
ジャミルは村に戻り目覚めの粉を自分の掌に乗せる。すると……、
何と、眠っていた人々が一斉に目覚め始めるのであった。
 
「これだけでいいのか?まあ、いいけど……、な……」
 
「やっとこの村の時間が又動き始めるのね……」
 
「でも、アンさん達の事考えたら……、素直には喜べないよね、
……何だか悲しいよお~……」
 
「……」
 
4人は複雑な思いにかられながら次々と目覚めてゆく人々を見守るのだった……。
 
 
「……あ、あれ……、わしは一体何を……」
 
「今までどうして……」
 
「うおっ!?も、もれる~!!」
 
どうやら用を足そうとしてそのまんま眠らされた人もいたらしい。
 
「迷惑だよな~……、ホント」
 
「ねえ、ジャミル……」
 
アイシャがジャミルの服の袖を引っ張って言う。
 
「ここって、アンさんの恋人さんのご両親もいるんだよね……、
ちゃんと伝えた方がよくないかな?」
 
「俺、そういうの苦手でさ……、どうせ、いずれ判る事なんだし、今はそっとしとこうぜ」
 
「そう……?」
 
「さーて、LVも上がった事だし、次はシャンパーニの塔リベンジだぜっ!」
 
……悲しい真実を受け止め、ジャミル達はノアニールを後にし、
再びシャンパーニへと向かうのだった……。

シャンパーニの塔
 
ジャミル達は再び塔内部へと突入する。あれ程苦戦していた敵も
LVが上がれば当然今は只の雑魚でしかなかった。
緑のマスクで顔を覆い、そして、下半身はマントとパンツのみの
筋骨隆々の男、カンダタ。&さまようよろいの色違いの様な3体の子分達。
……4人は逃げ回るカンダタ一味を塔の最上階で等々追い詰めた……。
 
「クソッ!しつこい奴らだぜ!」
 
「さ~て、年貢の納め時だな、おっさん!」
 
「グッ……!誰が年貢なんか納めるか!おい、てめーら、
こいつらをとっととシメるぞ!!」
 
そう言って子分共を連れて襲い掛かってくる!
 
「任せて!」
 
アルベルトのラリホーの呪文が子分達を眠らせる。
 
「……ギラ!」
 
隙を逃さずアイシャも魔法で応戦する。
 
「貰ったあああーーっ!」
 
止めはジャミルの剣で子分共3体の鎧を素早く、一気に切り裂く!
 
「……ヒイィ~っ!!」
 
子分達はあっさりノックダウンした……。
 
「薬草も~らいっ!」
 
そしてダウドが子分達から薬草を盗む。……子分に至っては、顔だけ兜状態で、
ジャミルに鎧を破壊された為、下半身はパンツ一丁と言う間抜けな姿に……。
 
「さ~て、一人になっちまったなあ、おっさん?」
 
「おっさんおっさんうるせーぞ餓鬼!!うおおおおおお~!!」
 
……ゴンっ!!
 
ジャミルはカンダタの頭を剣の柄で思いっ切り殴り……、
カンダタはその場にぶっ倒れるのであった。
 
 
……
 
 
「……すいません、すいません、どうかお許し下せえ!金の冠はお返しします!」
 
「おねげーします!」
 
「おねげーします!」
 
「……下がさむいよう、しっこが漏れるよう、トイレ行きたーい!」
 
カンダタと子分共はぺこぺこ頭を下げ、ジャミル達に土下座する……。
 
「……まあ許してやるよ、早く冠返せ」
 
カンダタはジャミルに冠を渡す。……その途端……。
 
……ばしゅううう~っ……
 
「!?」
 
子分共が一斉にパンツの中から煙幕を取り出し、ジャミル達に向かって放り投げた。
 
「……な、何っ!?げほっ!!」
 
「や~だ~、けむいよ~、ごほっ!ごほっ!」
 
「……ご、ごほっ、ごほっ!」
 
「げほほほほ!……うう~、酷いよお~……」
 
「ふははは!バカタレガキ共め!今日の所は諦めて大人しく撤退してやる!
だかな!てめーらの事は死んでも忘れねえぞ!糞ガキ共っ!!」
 
煙が消えた時にはカンダタ達もすでに逃げてしまい、いなくなっていた。
カンダタ達は逃がしてしまったものの……、ジャミル達は金の冠だけは
どうにか無事取り返す事が出来たのである。
 
4人は急いでロマリア城へと戻る。
 
「……おお……、金の冠だね……、久しぶりだね……、良かっただね……、
これは本当に、そなた達を真の勇者と認めざるを得ないであろう……、だね」
 
「ほ、本当に……、冠を取り戻して下さるとは……、むむむ、本当に凄い……」
 
ハインリヒも、大臣も……、無事戻って来た金の冠を目にし、心から喜びの声を上げた……。
 
「わりィ!カンダタは逃げられちまったんだよ……」
 
「いいだね、いいだね、冠を取り返してくれただけでも……、
あいつは国際指名手配しとくから心配せんでもいいだね」
 
「そ、そうか?本当、悪いな……」
 
「だね、だね」
 
「それでさ、その……、魔王バラモス?って奴の事、おっさん何か知ってるかい?」
 
「儂は詳しい事はわからんだね」
 
「そうか……」
 
「とりあえず船を手に入れて他の大陸も色々回ってみるといいかもだね」
 
「……うーん、船かあ……」
 
 
……
 
 
金の冠を無事城に届けた4人は城を後にする……。
 
「どうすんの?船……、手に入れるの……?」
 
ダウドが聞いてくるが。船……、と言えば海なので……、何だか不安そうな表情をしている。
 
「まさか泳いで海渡るわけにいかねーだろ……」
 
「とりあえず港の有る町に行ってみようよ、船貸してくれるかもしれないし」
 
アイシャが促す。漸くジャミルも考えが纏まった様子。
 
「……何時までも此処にいてもしょうがねーし、動くか」
 
一行が町を出ようとすると……。
 
「お~い!待つだね~!」
 
物凄い勢いでハインリヒが町中まで追い掛けて来た……。
 
「……な、何だいおっさん、まだ何か用かい?」
 
「ジャミル、儂の代わりに王様になってみる気はないだね?」
 
「はあ?」
 
「実は城下町の地下にはモンスター格闘場があるんだね」
 
「……知ってるけど、だから何だ?」
 
「儂も一度行ってみたいんじゃが、この格好で行ったら大臣に怒られるだね」
 
「……だから代わりに俺に王様をやれと?」
 
「だねふし。」
 
「……そんなくだらねえ理由で人に厄介事を押し付けるな!早く城に戻れ!!」
 
「……どしても駄目だね?」
 
「駄目な物は駄目なの~っ!!」
 
「……けちだね……」
 
「たくっ!」
 
ハインリヒはしずしず城に戻って行った……。
 
「……ん~、ちょっと可愛そうねえ……」
 
アイシャも少し同情気味になる……。
 
「俺の方がかわいそうだい!」
 
「……」
 
笑いたくて仕方がないのをアルベルトは一人で堪えていた。だが……。
 
「やっぱ待つだねーーっ!」
 
「……うわあ!」
 
城にやっと戻って行ったかと思ったハインリヒが再び引き返して来た。
 
「はあはあ、や、やっぱ……、待って欲しいんだがね……」
 
「……だから何だよっ!」
 
ジャミルに怒られる一国の王。こんな国王いない。
 
「た、体験学習として……、1日だけ……、儂の代わりに……、
国を治めてみる気はないだね?……1日だけ……」
 
「……体験学習だとおお~?おっさん、アンタふざけてんのかっ!
本当に真面目に国を治める気があんのかっ!!」
 
「儂はいつも真剣だがね!だが、儂だって玉には息抜きしたいんだがね!
庶民の娯楽を体験する!これも国王としての務めだがね!」
 
「……何がだああーーっ!!」
 
「……」
 
側で黙って話を聞いていたアルベルトも段々不安になってきた。本当に
この国王大丈夫なんだろうかと……、しかも1日だけの限定とは言え、
国王の座を……、しかもジャミルに貸すとかどう考えても頭おかしいでしょと思う……。
 
「別に1日だけならいいんじゃないの?」
 
「……ダウドおおーっ!オメーも余計な事言うなっ!!」
 
必死で叫ぶジャミル。堅苦しい事が大嫌いなジャミルは、限定とは言え、
王宮なんぞに閉じ込められて糞ツマンネー嫌な思いをするのは当然御免であった。
 
「でも、王様なんだから……、美味しいご馳走が食べれるかもしれないわよ!」
 
「……ご馳走……!」
 
アイシャの言葉にジャミルの片耳がピクリと反応する。ハインリヒはそれを見逃さなかった。
 
「最近はステーキも食べ飽きただね、儂も庶民の食べ物、ハンバーガーと言う物を
一度でいいから食べてみたいんだがね……」
 
「……う、う、う、ううう~っ!」
 
ジャミルが困って唸り出した。……する、奴は絶対承諾する!アルベルトはそう思った。
 
「分った……、本当に1日だけだかんな……」
 
「やっぱり……」
 
アルベルトが頭を抱えた。想像した通りになったと……。
 
「おお、引き受けてくれるだね!有難い!もう大臣達にも話は通してあるだね!」
 
「……大臣さん達も……、承諾済みなんですか……?」
 
アルベルトがハインリヒに訪ねる。身体をわなわな震わせながら……。
 
「だね!勇者殿が国王にならばと喜んでいただね!」
 
「うふふ、ジャミル頑張ってね!」
 
「ああ、(ご馳走を食うのだけ……)取りあえずな……」
 
「うわああ~、国が亡びるよお~!」
 
「るせーバカダウドっ!1日だけならいいんじゃないって言ってたんは何処のどいつだっ!」
 
「も、もう忘れたよお~!……オイラ知らなーいっ!んじゃあ、ジャミル、
王様のお仕事頑張ってねえ~!宿屋で待ってるからー!」
 
余計な事を口走ったダウド、真っ先に宿屋へ逃げて行ったのである。
しかし、ジャミルにやる気を起こさせてしまった一番の張本人は……。
 
「私、知らないもんっ!……そうだ、さっき町に可愛いワンちゃんがいたわね!
遊んで来まーっす!じゃあ、ジャミル、頑張ってねー!」
 
アイシャも慌てて逃げて行く。……ダウドが言った通り、近い内に
……バラモスの襲撃よりも早くこの国は本当に滅亡するのでは……
と、アルベルトは考える……。
 
かくして、1日だけのお騒がせおバカジャミル国王が降臨する羽目になる……。

その3

限定1日だけ……、と、言う事であったが、ジャミルは国王の座を押し付けられる。
翌日、早速王宮に蔓延る事になったのだが……。
 
「……なあ、んで、俺、具体的に何すりゃいいんだ?」
 
「いいんですよ、国王様は国王様なんですから、今日1日だけどうか大きく構えて下さい!」
 
「はあ、んじゃあ……」
 
大臣に大きく構えろと言われたので、構えたら屁が出そうになり……。
 
『王様はくさいおならをしない。』
 
「……何でだよっ!しょうがねえだろうがっ!」
 
『王様は怒らない。』
 
「……はああ!?何だこの野郎!」
 
いちいち出てくるウインドウメッセージにブチ切れるジャミル。
 
「ふふ、新しい王様って面白い方ですわ!楽しい!」
 
……普段は国王の玉座隣に座っているらしき王女。
暴走する限定国王の姿を心から楽しんでいる。
 
「はああ~、俺、頭痛くなってきた……、これじゃ便所にもいけねえよ、
王様は用を足さないとかどうせ無茶が出てくるんだろうが……、バーカ!」
 
ジャミルはハインリヒがいつも座っている玉座に腰を降ろし頬杖をつく。
とっとと目的のステーキを頂いて時間が来たら一刻も早く此処からトンズラしたかった。
 
「しかし……、暇だなあ~、ふぁ……」
 
『王様は欠伸をしない。』
 
「……」
 
「さあ、国王様、お昼のお食事のお時間でございます!準備が整いました!」
 
「おっ?」
 
メイドさん達がジャミルを呼びに来る。待ってましたとばかりにジャミルが目を輝かせた。
 
「こちらへどうぞ……」
 
メイド集団に案内されジャミルは城内の国王専属食堂と移動する。
 
「♪ふんふんふ~ん!」
 
『王様は音痴なので鼻歌を歌わない。』
 
「畜生……」
 
やがて辿り着いた豪華内装の食堂。……テーブルの前に並んでいたのは
ステーキ……、ではなく、大きな七面鳥であった。漫画などで良く見る光景、
丸いドーム蓋を開けると出てくるアレである。しかし、鳥の育て方は半端では無く、
常に良い餌を与えて丸々太らせ、念入りに飼育し丁寧に育て上げた最高級品質のお肉。
 
「あの親父、騙しやがったな……、何がステーキだ、まあいいけどさ……」
 
「さあ、国王様、どうぞお召し上がり下さいませ……」
 
メイドさん達が食事を勧めてくる。
 
「でも、これ、全部俺が食べていいって言う事だよな……、すっげえーっ!
んじゃ、早速遠慮なしで行くかなっ!?」
 
『王様はがっつかない。』
 
「分ったよっ!……上品に食えばいいんだろっ!お上品によ!」
 
……思い切り勢いよく齧り付いてやろうと思った七面鳥を仕方なしに、
上品にナイフとフォークで丁寧に切り分けて食べる。
 
「……はあ~、何で飯食うだけでこんな疲れるんだ……」
 
どうにも食った気が起きないのであった。しかし、流石、王家専用の食事と言うだけあり、
専属の素晴らしいコックが焼いているだけあって味はピカイチであった。
 
「国王様、お肉ばかり召し上がっていてはいけませんぞ、きちんとサラダも
お食べになって下さい……」
 
「げ!」
 
いつ来たのか、いつの間にか大臣がジャミルの側に来て食事を監視していた。
……ジャミルはますます食った気がしなくなるのである。
取りあえず、ジャミルは出された豪華食事のフルコースを残さず全て平らげた。
 
「はあ、……まあ、美味かったからいいか……」
 
『王様はぽりぽり尻をかかない。』
 
「……いちいちうるせーなあ、本当によう!」
 
食事時間も終り、ジャミルは再び玉座の間へと戻されるのであった。
 
「……」
 
「いかがでしたか?此処のお料理は……」
 
玉座にボーっと座っていたジャミル、突然、隣にいた王女に問われ慌ててはっとする。
 
「え?……あ、う、美味かったよ、凄く……」
 
「ですわよね!ふふ、わたくしはまだお腹が空いていないので頂きませんけど、
国王様に喜んで頂いて姫も嬉しゅうございますわ!」
 
「確かに……、な……」
 
料理は美味しくて最高であった。しかし、やはりジャミルにとっては食べた気がしないのである。
大臣のむさい顔が側にあって食べづらかったとか、メインがステーキではなかった事とか、
そんな事は関係なく……。ただ……。
 
「……一人で食っても……、つまんねんだよな……」
 
「国王?……如何なされました?」
 
「ん?……いや、なあ、俺なんか他にする事ねえの?
こうして座ってるだけとか、すげえ暇でさあ~……」
 
「今日は特に何もございませんなあ……、他国からの客人も来る予定もないですし、
ですが、いいのですよ、国王様はこうしてどっしりと玉座に座っていて貰うだけで良いのです、
あなた様はこの国の国王様なのですから!」
 
「滅茶苦茶だ……」
 
やはりじっとしているのが苦手なジャミルは……、段々尻の辺りがムズムズしてきた……。
終いには逆立ちして部屋を歩き回ってみたりと色々やってみるが、大臣は何一つ文句言わない。
相変わらず、変な注意書きウインドウメッセは表示されるものの……。
 
「なあ、おっさん、俺ちょっと、城下町のパトロール行って来るよ、な?いいだろっ!」
 
ジャミル、玉座から立ち上がると大臣に頼む。大臣は不思議そうな顔をしていたが、
やがて、分りましたと云う様に頷いた。
 
「そうですなあ、じっとしているのも退屈でしょう、分りました、行ってらっしゃいませ……」
 
「へへ、じゃあな!……おっさん、またな!」
 
大臣はジャミルの背中を見送る。既に分かっていたらしい。
このままジャミルが国王として王宮にはもう戻って来ない事を。
 
「やれやれ、1日どころか、半日で終わってしまいましたか、残念ですが、
仕方がありませんな、やはり彼の背中の翼を閉じておく事は無理だった様ですな……」
 
実はハインリヒと大臣は……、ジャミルがもしもバラモスを討伐した後……、
本気で国王の座をジャミルに譲ろうと……、其処まで企んでいたんである。
全く、困った……、本当に無責任でいい加減な王族であった。
 
「お気を付けて、……勇者殿……、旅のご無事をお祈りしておりますぞ……」
 
……そしてジャミルは前国王がいるであろう、……モンスター格闘場へと走る。
 
試合はスライムvs一角うさぎvs大ガラスのバトル中である。
……困った前国王はどうやら穴を狙って遊んでいるらしかった。
金が有り余っているからこそ出来る暇人。
 
「いけいけだねー!掛け金10000Gのスライムちゃん!絶対勝つだねー!」
 
……余裕で一角うさぎの勝利。
 
「……オーマイガットだねーー!」
 
「おい、おっさんっ!」
 
「……?だね?おお、あなた様は国王様だね!いやあ、王様がこんな所まで
足を運んではいかんだねー!」
 
「良く言うよっ!……そろそろ交代してくれや!俺、もう別の所に行かねーとなんだよっ!」
 
「そ、そうかだね……、で、どうだったね?体験学習の感想は……、
また、……国王の玉座に是非、座ってみたいとか思わ……」
 
「ねえよ!※即答」
 
「そうかだね、仕方ないだね……、嫌と言う物を無理に押し留めて
おくわけにもいかんだね……」
 
「ほ……」
 
漸くハインリヒが城に戻ってくれそうだったので、ジャミルは漸く安心する。
 
「だが、いつでも玉座に座りたくなった時はすぐに言ってくれだね!」
 
「……いーかげんにしろ!このギャンブル親父っ!!」
 
「だねえ~……」
 
そして、ハインリヒを城に叩き返し、いつもの旅支度へと戻ったジャミルは
皆がいるであろう宿屋へと足を運んだ。
 
「……よう」
 
「あ、ジャミルだあ!お帰りー!王様ー!」
 
「お帰りなさい、ジャミル!どうだった?ご馳走は美味しかった!?」
 
「ふふ、随分疲れた様な顔をしてるねえ~……、お疲れ様……」
 
仲間達は宿屋にて、食事を取っていた。食事は焼いたパンにオニオンスープ、おかずが少々と
城で食べた食事とは程遠い、質素な物であったが、それでもジャミルには
何よりもご馳走に見えたんである。
 
「……う~、美味かったかな?わかんねえや!」
 
「あ!」
 
そう言いながら、ジャミルはダウドが食べていた分の皿から
卵焼きをひょいっと一つつまんで口に入れた。
 
「ん~っ!んめえ!」
 
「……何だよお!ジャミルの食いしんぼっ!もう~っ!!」
 
例えどんなご馳走よりも、こうして皆で食べる飯が一番うまいなあ~……、と、
ダウドのおかずを失敬しながら今日のジャミルはしみじみ、そう思うのであった。

ロマリアでのお役目も無事終り、一行は東の橋を渡って新しい場所を目指す。
アッサラームと言う町がありそこで今日の宿を取る事にした。
今までの町や村よりもかなり広くお店の数も豊富で目移りしそうだ。
 
「おお!ワタシのトモダチ!あいたかった!」
 
色々と町中を見て回っていると……、突然変なカタコトの商人がジャミルに声を掛けてきた。
 
「俺、あんたなんか知らないんだけど……」
 
「出会った人、皆ワタシのトモダチ!」
 
(やっぱりそれなりに都会だと変な奴もいるよな……)
 
いつでも何処でもあんたは変なんですが。
 
「……で、今日は何かいますか?」
 
「物買わせんのかよ!」
 
「まあまあ、そういわず、ほかの店より防具ウチでかたほがこれぜったいおとくよ!」
 
カタコト商人はジャミルに押せ押せムードでどんどんPRを始める。
 
「……で、どんなのがあるんだ?」
 
「ちょと、待つよろしね」
 
「……」
 
商人を待つ事、数分後……。
 
「じゃ~ん、これこれ!あぶない水着!ウチの店しか置いてないヨ!
どお、うしろのおじょさん、ひとつどお?でも、おじょさん、
……良くみたらあなたおむねないね?」
 
商人が自分の店に戻り、うっかり着たらおっぱいポロリ状態の
超ハイレグ水着をわざわざ持って来た……。
 
「……えっちいい~っ!!しかも胸無いって何よううーーっ!!」
 
アイシャが思いっ切り商人をグーパンチで殴り倒し……、泣きながら走って行ってしまった。
 
「あ、コラ待てアイシャ!一人でチョロチョロするんじゃね~っ!」
 
……慌ててジャミルもアイシャを追って走って行く。
 
「……ご愁傷様です、お気の毒……」
 
アルベルトが気の毒な商人を拝んでいる……。
 
「この人何か持ってないかなあ~、あ!ラッキー!チョコだあ~っ!」
 
ダウドが商人の服のポッケをごそごそ漁り……、チョコレートを盗んでしまった。
 
「……ガキコワいヨ~、ガキキライネ~……」
 
 
……
 
 
一行はアイシャの機嫌を直すため喫茶店へと入る。
アイシャは餅の様にぷくっと頬を膨らませブン剥れている……。
 
「なあ、アイシャ、何食う?」
 
「……」
 
「何でも好きなモン頼んでいいからさ……、な?」
 
アイシャの顔がぱあっと明るくなり目を輝かせる。
 
「ほんとっ?いいのっ?」
 
「ああ、いいよ、何でも食えよ……、機嫌直してくんねえと俺の命が危ねえんでよ……」
 
「わーい!じゃあねえ……、♪うふふ、何にしようかなーっ!」
 
アイシャはウキウキでメニュー票を見ている。
だが、やっとこさアイシャの機嫌が良くなって来た処に……。
 
「ハーイ!ねえ、其処の素敵なお兄さん!」
 
「……はいい?うわっ!」
 
突然巨乳のお姉さんがジャミルの背後に立つと両手で身体を抱擁してきた。
……しかも、ジャミルの頭の上に胸を乗せてくる……。
 
ぼよん、ぼよん、ぼよよよん……
 
ジャミルの頭の上に乗っかった大きなおっぱいがぷるぷる震えている。
……ジャミルの頭の上で……。ぷるぷると……。
 
「あたしの家パフパフ屋なの~、お兄さんかっこいいから
是非サービスしちゃうわ~ん♡今夜、もし良かったら私の家でお待ちしてるわねー♡」
 
お姉さんはジャミルにちゅっと投げキスをし、手を振って喫茶店を出て行った。
 
「パ、パフパフ……、パフパフ……、やっぱでけえって神だなあ~……、
……まな板じゃ胸に顔挟めねえもんな……、ヘッ、ひひひっ!」
 
「ジャミル……、ま、前っ、前っ!」
 
志村後ろ後ろ……、ではなく、ジャミル前前でダウドがジャミルを突っつく。
 
「へ……?ひ、ヒッ!?」
 
「……ジャミルのぉ~……、へんたい……」
 
ジャミルがはっと我に返り、正面席を見るとアイシャが般若の様な形相で……
肩をわなわなと震わせ、椅子から降りて怒りモードで突っ立っていた……。
 
「おい、……ち、違うぞアイシャ!あれはさっきの女が勝手に……」
 
しかし、すでにアイシャからは ……わたしゆるさないんだからあ~!! オーラが出ていた。
 
「……なんまんだーぶ……」
 
「な、何拝んでんだよ、アル!」
 
「……オイラし~らないっと!キャー!知りませんよおー!」
 
ダウドが一目散に店から逃げて行った。
 
「自分の責任は自分で取ろうよ」
 
と、騒ぎに巻き込まれたくないアルベルトもそそくさと逃げ出す。
 
「……こ、このっ!薄情者野郎共めっ!!」
 
「……ジャ~ミ~ル~?なによっ!デレデしちゃってっ!……あ、あんなに立ってるっ!
嫌らしいわねっ!……どうせ私の胸と比べたんでしょっ!あったまきちゃうっ!」
 
「ア、アイシャ、……落ち着けって、な?な?な?別にいいだろ?てか、……見てんじゃねえよ!
胸なんかなくったってさあ~、そんなモンあったらお前、余計体重が増加するだけだぞ!」
 
ジャミルは慌て、尖った箇所をぱっと抑えて手で隠す……。
そして、フォローしているつもりなのだろうが、全然慰めになっておらず。
 
「……ばかあ~っ!!どうせ私は胸がありませんよ~っだ!!」
 
アイシャは泣きながらジャミルに顔面パンチした挙句、店のドアをぶち壊し、
外に飛び出して行ってしまった……。
 
「あ~あ、お客さん、ちゃんと弁償して下さいよ!?」
 
「……やかましいやい!」
 
翌日……。散々な目に遭いジャミル達はアッサラームを後にする。
アッサラーム名物ベリーダンスも見られなかった。
 
「この先の砂漠を抜けた所にイシスって言うお城があるって町の人が言ってたよ」
 
どうにか機嫌が直ったアイシャが口を開く。……しかし、ジャミルの背中には
『私は勇者ですが発情期のスケベです』……、と書かれた紙が貼ってあった。
気付かれない様にアイシャがこっそり貼ったのである。ジャミルは未だ気づかず
暫くそのままの状態のまま町を歩いていた。
 
「今度は砂漠かよ……」
 
 
……
 
 
そして背景は変わり、灼熱地獄の砂漠の中をジャミル達は歩いていた。
 
「う~っ……、あついよおお~……、もえちゃうよおお~……」
 
「はあ、本当に暑いわね……、オアシスないのかしら……」
 
暑さに唸るダウドとアイシャが水浴びを要求している。
 
「……暑い……」
 
いつもは冷静なアルベルトでさえ思わず声を漏らす。
 
「あづい~!しぬう~……!!」
 
「……少し我慢しろダウド……」
 
「あついものはあついんだよおお~!!アイス食べたい!かき氷食べたい!
ジュースのみたいいいっ~!!……ストリップ劇場行きたいーーっ!!」
 
……語尾に叫んだのは一体何であろうか。
 
「キィーーっ!!お黙りなさいダウド!みんな我慢してるのよおーーっ!!」
 
……そう言ってダウドにビンタし始めるジャミル。
 
「……暑さでジャミルも絶対おかしくなってるよ、……でも、おかしいのは
いつもの事だけどね……、……うふふ、あはは、あっはははー!」
 
汗を拭いながらアルベルトが呟く。しかし、暑さでアルベルトも
明らかにおかしくなっており、壊れかかっていた。

その4

4人は砂漠を抜け、イシスの城へ……。ジャミルの背中にはアイシャが貼りつけた紙が
まだ貼ったままである……。アルベルトとダウドは気づいていたが……、貼られた本人は
まだ気づかず。
 
 
イシス城 城下町
 
 
……どうやらこの国は王様でなく女王が治めている国らしい。
 
「一応、顔出しとくか……、礼儀だしな……」
 
「……ジャミルが礼儀とか……、珍しいね」
 
「うるせーなっ!どうせおりゃあには似合わねえ言葉ですよっ!」
 
「……ぷ」
 
揉めるジャミルとアルベルトを見てダウドが吹く。……ジャミルがまーだ
背中の張り紙に気づかないので笑いを堪えている。
 
「ダウド、教えちゃ駄目よっ!ジャミルが自分で気づくまで……、罰なんだからっ!」
 
「はあ……」
 
しかし、アイシャも案外執念深いなあ~とダウドは思う。
そして町中を通り城を目指し歩いていく4人。
 
「……兄ちゃん、青春真っ盛りか、頑張っとくれよ……」
 
「?」
 
「若いっていいねえ~!」
 
「???」
 
ジャミルの背中の張り紙を見て初老の夫婦が笑みを漏らしている。
……アホな本人はまだ気が付かない……。
 
くいくい……
 
「ん?なんだ?」
 
見ると小さな男の子がジャミルの手を引っ張っていた。
 
「何か用かい?」
 
「ねえ、おにいちゃんたち、ぼくのおうたきいてえ!」
 
「うたあ?」
 
「♪まんまるぼたんは……、ふしぎなぼたん~♪」
 
   以下省略
 
「わあ、上手ねえ、ぱちぱち」
 
アイシャが手を叩いて喜んでいる。
 
「ぼくのおうた、じょうずだった?えへへ!」
 
「それは何の歌なんだい?」
 
アルベルトが子供に聞くと、子供は意気揚々として答える。
 
「ん~と、ピラミッドのおうただよ!」
 
「へえ~、ピラミッドの……、何だか不思議な感じのする歌ね……」
 
「おい、行こうぜ」
 
「じゃあまたね~!」
 
「おにいちゃんたち、ばいばーい!」
 
アイシャが子供に手を振ると子供も4人に手を振り返した。
 
……まさかこの歌が後で役に立つなんて今はまだそんな事誰も知らず。
そして、4人はイシスの城、城内へ……。
 
 
イシス城 城内
 
 
「……あなた方は何者ですか?」
 
城の女衛兵が4人に訪ねる。
 
「ん~と、俺達はアリアハンて言う、遠い所から来たんだけど、
ちょっと、ここんちの女王様に挨拶に来たのさ」
 
「……アリアハン?では、お前が……?」
 
「?」
 
「ちょっと待っていなさい……」
 
暫く立って衛兵が4人の所に戻って来た。
 
「待たせたな、女王様が特別に会って下さるそうだ」
 
「女王様って美人かなー?」
 
「!まーた、どうしてそうゆう事考えるのっ!?ジャミルはー!!」
 
アイシャがぎゃんぎゃん捲くし立てる。又喧嘩になりそうだった。
 
「別に考えるのも考えないのも俺の自由だろ!大体やなあ、何でいちいちよう、
お前に思考を注意されなきゃなんねんだよ!」
 
「なによ~っ!ジャミルのドスケベーっ!!」
 
「なんだとー!?じっとしてねえこのジャジャ馬娘!!」
 
「……何してるんだよ……、ジャミルもアイシャも……、こんな所で……」
 
「あ~っ!アルまで顔赤くしてる~っ!」
 
「え?え?え?」
 
「ほーらみろ、男はみんなこうなんだよ!……でもな、よーく覚えとけアイシャ!
こういう奴こそ、真のムッツリスケベなんだぜ!」
 
「……そ、そうなの……?」
 
「ちがーうっ!僕をお前と一緒にするなーっ!!」
 
「比定するところがますます怪しいわ……、いや~ねえ、アルベルトさんたらあ~!」
 
「……ジャミル~っ!」
 
「何でございますか?」
 
「バーカ!」
 
「……よくも言ったわねーっ!このウンコエロ狸~っ!!」
 
「僕が狸ならお前は鼻に鼻糞たっぷり詰まってマウンテンゴリラだーーっ!!」
 
「うるせー腹黒っ!!」
 
「やかましい!鼻の穴巨大!!」
 
「ど、どうしよう……」
 
一人ついていけないダウドがオロオロと困っていた。
 
「……あの者達は一体何をやっているのですか?……女王様が待っていますよ」
 
「すみません、元は私が悪いんですけど……、ど、どっからこじれちゃったんだろう……」
 
止めるに止められないアイシャであった。
 
 
……
 
 
そして、……4人は女王の間に通されるが……。
 
「……ゲッ!」
 
「あんた達がバラモスを倒してくれるっていう勇者さん達かい?」
 
女王の椅子に座っていたのは女王とは程遠い容姿の女だった。
おまけに女王の頭には角が2本生えており、女性にしては体格も逞しく
ムキムキマッチョでパワフルであった。
 
「……あの~、失礼ですが……、あんた本当に女王……?」
 
ジャミルがおそるおそる女王に聞いてみる……。
 
「ああーんっ!?」
 
「……ひえええっ!?」
 
「面白い事言ってくれるじゃないか、気に入ったよ!」
 
「……イテッ!イテテテテ!」
 
そう言ってジャミルの背中をばしばし叩いた。
……叩かれた瞬間、ジャミルの背中に貼ってあった紙が剥がれた……。
 
「あたしはイシスの女王、シフ2号、通称ツフだよ!」
 
「……2号?」
 
「はっは!……細かい事は……」
 
バシッ!
 
「気にするんぢゃないよ!」
 
バンッ!!
 
そう言って力を込めるとジャミルの身体を思い切り床に叩きつけた。
 
「いたた……、アンタ身体動かしてないと気が済まないワケ!?」
 
「ははは、わりいねえ、あたしの性分でさ!」
 
そしてシコを踏むと片手でひょいっとジャミルを持ち上げた。
 
「わ~!!やめろ~!!」
 
「あんた何食ってんだい!もうちょっと太りな!」
 
「余計なお世話……、わわわわわ!!」
 
「高い高ーいが出来そうだね~」
 
「……何かあの人ジャミルをおもちゃにしてるよお……」
 
「えーっと、此処へ何しに来たんだったかしら……」
 
アイシャはジャミルが気が付かない様、背中から剥がれた紙を拾うと慌てて後ろに隠す。
 
「確か女王様に挨拶しに……、だったよね……」
 
 
城下町の宿屋……
 
 
「も~っ!ジャミルってば、せっかく女王様がお城に泊まって
行っていいって言ってるのに~!」
 
「そうだよお!お城なら宿代が浮いたじゃないかあ!」
 
アイシャが愚痴愚痴文句を言う。ダウドも揃ってアイシャに口を合わせる。
 
「うるさい!あんなとこいつまでもいられるか!何だったら
お前らだけで泊まればいいじゃん!……俺は行かねーかんな!」
 
そう言ってガツガツ食事を口にかき込む。
 
「……もー、いじきたないんだから!そんなにがっつくと、喉に詰まるよ?」
 
「すみません、城の遣いの者ですが……、ジャミルさんいらっしゃいます?」
 
「!……~っ!!!」
 
ジャミルは食べていたハンバーグを思いっきり喉に詰まらせた……。
 
「だから言ったでしょ!も~!すみません、お水下さーい!」
 
急いでジャミルに水を飲ませ背中を擦ってやるアイシャ。
 
ジャミルは思った。もし、今背中を擦ってくれたのがあのムキムキ角女王だったら
内臓が飛び出してしまったかも知れない、……そう想像したら怖くなった。
 
「何かご用ですか?」
 
ジャミルの代わりにアルベルトがわざわざ宿にやって来た衛兵に応対する。
 
「明日、女王様主催の相撲大会があるんですが、是非、
貧弱なジャミルさんを鍛えてやりたいと女王様が……」
 
「……じゃかあしい!誰が行くか!!」
 
 
……
 
 
食事を済ませ、4人は今夜泊まる部屋へと移動する……。
 
「ねえねえ、お風呂入りに行こう、ジャミルも元気でるよ!」
 
先頭をちょこちょこ歩いていたアイシャが立ち止まり、ジャミルの方を振り返った。
 
「風呂?」
 
「此処のお風呂ねえ、水風呂なんだって!」
 
アイシャは熱い風呂よりも冷たい水の方が好きなのだった。
 
「水風呂か、……一日疲れたからな……、さっぱりしてくるかな」
 
「じゃあ決まりね!皆で行こうね、♪おふーろ、おふろ♪」
 
4人は部屋に一旦行き、荷物を置いた後、宿の浴室へと足を運んだ。
 
「……うわ!これじゃ風呂っていうよりプールだよ~!」
 
いかにもな冷たそうな巨大な風呂を見てダウドが震え上がった。
 
「あはは、きゃー、つめたーい!きもちいーい!」
 
隣の風呂からアイシャの燥ぐ楽しそうな声が聞こえた。
 
「とにかく入ろうや……、よっ、と……」
 
ジャミルが風呂に片足を入れる。……冷やりと冷たい水の感触が……
砂漠を歩いて日に焼けてヒリヒリ痛んでいたジャミルの足を冷やして癒してくれる。
 
「……ふー、気持ちいいな~……」
 
「生き返るねえ~!」
 
「うー、たまんねー!」
 
男衆3人揃って何だかお爺ちゃん臭い。
 
「……ねえ、ジャミル」
 
「何だよ……」
 
「今、変な事考えてなかった?」
 
「何が?」
 
「だって、アイシャ、今裸だよお?」
 
「……」
 
ジャミルは黙ってダウドの頭を押さえて水風呂の中に突っ込ませた。
 
「うぎゃ、ちべた~い!!」
 
静かなので隣の浴場から声がよく聞こえてくる。アイシャのキャンキャンした黄色い声が。
 
「あ~ん!」
 
ぺちぺちぺちぺちぺちぺち…
 
「わたしのおっぱいどうしてこんなに小さいの~っ!……ぐすん……、
いいもん、どうせ私はペチャパイよ、でもっ、今に大きくなるんだもんっ!!」
ぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺち
ぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺち
 
「……」
 
「ジャミルどうしたの!?顔真っ赤だよお!」
 
「ハナ血でてるけど……、って、お~い!」
 
ジャミルは風呂に撃沈した……。
 
「あ~、気持ちよかったあ~、うふふ!」
 
風呂上り、お肌もつるつるすべすべ、ご機嫌でルンルンなアイシャ。
 
「はは、それは何よりだね、良かった……」
 
「あら?アル、ジャミルはどうしたの?姿が見えないけど……」
 
「……うん、ちょっと風呂でのぼせたみたいで……、沈んじゃったんだ、
ダウドが先に部屋まで連れて行ったよ……」
 
「ええ~っ!?み、水風呂でっ!?」
 
「……」

翌朝。
 
ジャミル達は町にいる人を捕まえて片っ端から話を聞き情報を得る。
 
「……うーん、港町……、か」
 
「船貸してくれそうな所、ないかな?」
 
「ここら辺じゃないけど、ポルトガって言う町に丈夫な船を作ってくれる職人さんが
いるって聞いた事があるよ」
 
「……ポルトガねえ……、行ってみるか」
 
「ああ、ちょっと待って、確かポルトガはロマリアの関所を
通らないといけないんだけど、そこは特殊な鍵じゃないと開かない筈だよ」
 
「鍵?俺らこれ持ってるけど、駄目なのか?」
 
ジャミルが盗賊の鍵をおじさんに見せる。
 
「駄目だよ、魔法の鍵じゃないと、砂漠のピラミッドにあるらしいよ、
確かイシスから……、北の方角に建っている筈……」
 
「……んじゃあ、鍵手に入れられたら、一旦は又ロマリア近辺に戻らなきゃ駄目って事か……」
 
ロマリアと聞き、又ギャンブル国王の顔を思い出したのか苦笑するジャミル。
 
「ピラミッド……、当然ミイラ男とかいるよね、嫌だなああ~……」
 
やはりダウドさんはあまり気が乗らない様子。
 
「嫌でも何でも行かなきゃ、この先に進めねーんだよ、ダウド!」
 
「……やっぱ、だよおねえ~……」
 
仕方がないので魔法の鍵を探しにピラミッドに潜る事になったのである。
 
「……また暑い所か……、ふ~……」
 
 
……4人は再び糞暑い砂漠を横断する羽目に。そして、糞暑い中、更に
ややこしい事態に巻き込まれるのである。
 
「……あつい、あついよおお~……」
 
「おい、又暴走すんなよ……」
 
「分ってるよお~……」
 
ジャミルが横目でダウドを見るが、うっかりするとジャミル自身も暴走しそうだった。
 
「皆、モンスターよっ!」
 
「!!」
 
アイシャの声にジャミルとアルベルトが身構え、戦闘態勢を取る。
現われたのは、コウモリの様な羽が生え、外観は猫みたいなモンスター、
キャットフライ2匹、そして、緑色のカニのモンスター、地獄のハサミの2匹の計4匹。
 
「カニがんなとこチョロチョロしてんじゃねーっての!ナベに入れて食うぞ!」
 
ジャミルは勇ましく剣を構えるが……、未だ自武器が銅の剣であった事を思い出す。
 
「てか、よくこれで此処まで無事だったな、俺……、つーか、書いてる奴いい加減にせえよ……」
 
「オイラもまだひのきの棒なんです……」
 
「私もよう……」
 
「はは、……まあ、しょうがないよね……」
 
「~!」
 
「あっ!」
 
地獄のハサミが一斉にスクルトを唱え、自身の守備力を上げる。
こうなると打撃攻撃では歯が立たなくなる。
 
「ジャミル、大丈夫だよ、呪文でケリを付けるから!」
 
「私達にお任せっ!」
 
「……頼む、アル、アイシャ!」
 
この状態になった場合、やはり強力な攻撃魔法を使える二人に任せるしかなかった。……しかし。
 
 
「……~!」
 
 
「あ……、っ!……!?」 (声がっ!?)
 
「……!……!」(マホトーンだわ!ど、どうしよう……)
 
キャットフライがアルベルトとアイシャに的を絞り、マホトーンで声を出させなくし、
呪文を唱えられない様にしてしまったのである……。4人は大ピンチに陥る……。
 
「……なろお、この場合、やっぱ俺がやるっきゃねえってか、よし!
なめんなよ、俺だって多少は攻撃魔法が使え……」
 
 
「~!!」
 
 
しかし、更に又キャットフライのマホトーンがジャミルをも襲う。
このマホトーンは特殊仕様で……、ジャミルの口に剥がれないガムテープが飛んでくる……。
 
「!!!」(むーむーむー!……おい、このネタ、又俺に吹っ掛けるかっ!?)
 
「わわわ!……み、みんなあああ!」
 
結局、攻撃魔法を使える3人がマホトーンに掛かってしまい
真面に戦えるのはダウド一人と言う非常事態に陥ってしまう……。
……ダウドがオロオロしているその間にも、地獄のハサミ達の容赦ないハサミ攻撃!
特にジャミルが一番リンチされている様……。
 
「……むー!(この野郎っ!!)
 
しかし、地獄のハサミ、危険人物を怒らせる。ジャミルは自力で口に貼られた
ガムテープを引っ剥がしマホトーンを解除する……。
キャットフライ達は慌て、もう一度マホトーンをジャミルにぶつけようとする。
しかし、2匹とももう自身のMPが無くなったらしい。
 
「チャンスっ!……畜生!テメーらっ!よくもやりやがったなあーーっ!」
 
キャットフライ達は慌てて逃げようとするが、ジャミルは素早く動き、
キャットフライに近づくと、ジャンプし、空中のキャットフライ達の羽を切り裂いた。
羽を裂かれた2匹は……、地面に落下する。
隙を逃さすジャミルが落ちたキャットフライ2匹同時を瞬時に切り裂く。
 
「よしっ、こっちは片付いた!……後はっ!」
 
(はあ~、ジャミルってば凄いよお~、何で銅の剣であそこまで……、
やっぱこの人、変人なのかなあ~……)
 
ダウドは呆れた様な……、尊敬している様な……、何だか複雑な、
良く分からん気分でジャミルを見つめていた。
 
「おいダウドっ!ボケっとしてんじゃねえっ、アル達を助けに行くんだよっ!」
 
「……あ、う、うん!」
 
ジャミルとダウドは地獄のハサミに囲まれているアルベルトとアイシャの元へと走る。
魔法の使えなくなった二人も、決して諦めず、武器を振り回し、何とか戦っていた。
しかし、スクルトでほぼ無敵状態となった地獄のハサミ達には全くダメージを与えられていない。
 
「ギラあああーーっ!!」
 
ジャミルの攻撃魔法炸裂。与えるダメージは少ないものの……、
それでもこのままぶつけ続ければ確実に仕留められる筈なのだが。
ジャミルはMPが少ない為、決して無茶は出来ないんである……。
 
「はあはあ、……畜生、は、早く倒れろっ!」
 
ジャミルの息が段々荒くなって来た。もうMPが大分無くなって来ている。
 
「……!」 (ジャミル、無茶しちゃ駄目っ!……ダウド、
お願い、ジャミルをフォローしてっ!)
 
喋れないアイシャがジャミルを気づかいながら、……目線は
ダウドの方を見て、必死に訴えている……。
 
「で、でも、オイラじゃ無理だよお、武器が何せこれだし……」
 
「!……~!」 (無理じゃないのっ!頑張るのっ!)
 
「ひえええーっ!わ、分ったよお!アイシャ、恐いってば!」
 
腕組みをし、アイシャがダウドをジト目で見、仁王立ちする……。
ダウドは仕方なしに、しぶしぶひのきの棒を構えるのだった。
 
「……」 (よし、アイシャ、僕らももう一度頑張ろう!)
 
「……!」 (ええ!)
 
アルベルトもアイシャの方を見ながらジャミルを庇い、地獄のハサミ達の前に立つ。
 
「お前らアホかっ!……無茶すんじゃねーってんだよっ!」
 
「無茶でも何でもやるんだよおー!……ジャミルを助けたいんだあーっ!」
 
「ダウド……、よしっ、俺もっ!」
 
「……!」 (ジャミルっ!)
 
アイシャが心で叫ぶ。ジャミルも武器攻撃に切り替えると、地獄のハサミ達に
先頭を切って突っ込んで行く。その後にアルベルト達も続く。
……そして、ジャミルの奇跡の会心の一撃!地獄のハサミの1匹の甲羅を真っ二つに叩き割る。
1匹はその場に倒れ、残りはあと1匹となった。
 
「……!」 (今だあーーっ!)
 
アルベルトも突っ込み、アイシャ、ダウドと続き、3人同時攻撃を地獄のハサミへと
揃って叩き込む。先のジャミルのギラ連発攻撃で大分此方もHPが減っていたのか
どうにか倒す事が出来た……。
 
「はあ、お、終わったな……、もう勘弁してくれや……、
うう、カニが嫌いになりそうだ……」
 
「オイラももう駄目……」
 
「……!あっ、声が元に戻ったわ、普通に喋れる!……良かった~……」
 
「全く、どうなる事かと思ったよ、今後は気を付けよう、アイシャ……」
 
「そうね……、はああ~……」
 
無事、声を取り戻したアルベルトとアイシャ……。疲れたのか
その場にしゃがみ込んでしまった……。勿論、ジャミルとダウドも……。
当然、このままの状態ではピラミッドには行けないのでアルベルトのルーラで
一旦イシスへと戻り、新武器を購入し、身体を休めて体力を回復する事となったのである。

その5

準備を整え、身体を休めた4人は再度ピラミッドへと向かう。
……近くで見るとピラミッドは苛苛する程高かった。
 
「♪ひゅ~、でけえなあ!」
 
「こんなとこ……、登るの~?落ちたらどうするんだよお~……」
 
ピラミッドを見上げたダウドが早速ヘソを曲げる……。
 
「行きたくなきゃ戻ってていいぜ」
 
「え……、え~?……じゃあオイラ一人で又砂漠あっちゃこっちゃしなきゃじゃん、
それも嫌だなあ~……、恐いもん……」
 
「あーのーなーあ!……我儘も大概にしとけよっ!ええーっ!?」
 
「ぶーぶーのぶーだよお!」
 
「あ、ねえねえ、船が手に入ったらちょっと休憩して、みんなで海に泳ぎいこっ!」
 
ジャミルとダウドの間にアイシャが割って入る。このメンバーはジャミルを中心に
入れ替わりで喧嘩ばっかしている。もっとも、喧嘩の相手の片割れになるのは
必ずジャミルであるが。
 
「アイシャ……、気の遠くなるような話だなあ……、何時になるんだか」
 
「いいじゃない!目標を決めて、休憩のご褒美っ、その方が頑張れるでしょ?」
 
「つ~事だ、まあ、頑張ろうぜ皆……」
 
「……へ~い……」
 
どうでもいいのか、今一乗る気なく返事するダウドであった……。
 
 
ピラミッド内部
 
 
……煮え切らないダウドを連れ、4人はピラミッド内部へと潜入する……。
 
「お、宝箱みーっけ!」
 
早速宝箱を見つけ、ジャミルが興奮する。
 
「……ちょっと待ってよ、ジャミル、今インパスを……」
 
「♪ふんふ~ん」
 
「……かける……、から……」
 
と、アルベルトが言おうとした時にジャミルはすでに宝箱を開けてしまっていた。
中から勢いよく、人食い箱がこんにちはし……。
 
「Hello,baka」
 
「え……、なんだ?」
 
「you!aho!!」
 
「……いってえええーーっ!!」
 
ジャミルは人食い箱に尻を噛まれたのだった……。
 
 
……
 
「だから言おうとしたのに……、町の人が言ってたんだよ、
ピラミッドの宝箱には罠があるから気を付けろって……」
 
「それを早く言えっ!アホンダラっ!」
 
「……ムカ!言おうとしたら勝手に開けたんじゃないかっ!」
 
「あー!また喧嘩するっ!駄目でしょっ!!」
 
……順番で今度はジャミルの喧嘩の相手がアルベルトになり
アイシャがまーた仲裁に入る。本当に忙しい。
 
「ねえ……、みんな……、それどころじゃないよお……」
 
「なんだよダウド!うるせ……」
 
ジャミルが前を見ると冷や汗ダラダラのダウドの後ろにモンスターの群れが固まっていた。
火炎ムカデとか、キャタピラーとか腐った死体とか大王ガマとかとにかくい~っぱい。
 
ジャミルはアイシャとダウドを咄嗟にそれぞれ両脇に抱えると一目散に逃げ出す。
その後にアルベルトも走って逃げる……。
 
「きゃ!何だかオイラまでジャミルに抱えられてる!何か嬉しい~!」
 
「……重てええ~……」
 
モンスターから逃げ回り、……時には回り込まれ、バトルを繰り返し、
何とか3階に辿り着いた……。
 
「あー、しんどー!ん?なんだこれ?」
 
壁に並んだ丸い変なボタン。そして正面には開かない大きな石の扉が。
ジャミルは扉を蹴ってみるが、……足が痺れる。
 
「何か変なボタンが2つあるね……、何だろう?」
 
「……何だろうねえ~?」
 
「あっちの壁にもボタンが2つ並んでるわ、……全部で4つね」
 
「ボタン……、あ、そうか!」
 
「ど、どうしたの!?アル……」
 
「昨日、城下町で小さい子が歌ってた歌を思い出してごらんよ、確か
ピラミッドのおうたって言ってたよね?」
 
「え~っと、よくわかんない……」
 
「オイラも~!」
 
と、アイシャとダウド。
 
「つまり、こういう事だよ、並んでいるボタンを正しい順番に押していけばいいんだよ、
そのヒントがあの歌の中にあったのさ」
 
「へえ~!そうなんだ~!」
 
「アル凄ーい!!」
 
「……面白くねえ……」
 
どういう事だかさっぱり分かんねえよとジャミルは不貞腐れて面白くなさそうな顔をする。
 
「そうすれば、あの石の扉が開いて先に進め……、ん、って、ジャミル……、何してるんだい?」
 
「ん~?ボタン押せばいいんだろ?今、向こう側2つのも適当に押してきた」
 
「!それはちゃんと順番通りに押さないと!!」
 
「……え?」
 
「あああーーっ!!」
 
床にぱかっと落とし穴が開いて4人は地下へと落下した。
 
 
「……ジャミルのあほたれぇぇぇ~!!」
 
 
 
地下1階
 
 
「もうーっ、ジャミルったらっ!気を付けなきゃ駄目じゃないっ!」
 
アイシャがジャミルに注意するが、俺、知らんもーん!と誤魔化す。
 
「……は、早く上に戻ろうよお、何か嫌な予感がする……」
 
「おう、ダウド、お前の予感当たったぞ、良かったな!」
 
「ひ、ひいいっ!?」
 
狭い通路から……、ミイラ男、マミーが此方に向かってのそのそ歩いて来た……。
 
「……全然良くないだろっ!!」
 
アルベルト、ジャミルの頭をばしっと引っ叩く。アイシャは慌てて呪文の詠唱を始める。
 
「えーいっ!ヒャドよっ!……あ、あれ?」
 
しかし、呪文はかき消されてしまった。
 
「おかしいわ、もう一回……」
 
「待って、アイシャ!……僕の方も!」
 
「ええ?」
 
アルベルトがもう一度呪文を詠唱しようとしたアイシャを止めた。自らも
メラを出してみようとするが、しかし、炎は出ず。
 
「やっぱり……、どうやらこのフロアは魔法が使えないみたいだ……」
 
「じゃあ、打撃中心で行くっきゃねえか、しゃーねえ!」
 
ジャミルは城下町で購入したばかりの鉄の斧を構えるとミイラ集団を睨んだ。
 
「行くぞっ!……よっ、はっ、ほっ!……畜生、重すぎだあーっ!」
 
威勢よく、鉄の斧を構えたまでは良かったが、今までずっと装備していた
銅の剣が軽すぎた為、重さ抜群の斧にまだ慣れず、ジャミルはヨタヨタ状態に……。
 
「ちょっ、あぶなっ!こ、こっち来ないでよおおおーー!」
 
「きゃーー!!」
 
「うわーー!!」
 
斧を抱えたジャミル、コントロールが利かず、フラフラと斧を
構えたまま仲間の方に寄ってくる……。仲間達はパニックになり逃げ回る。
……まるで何処かの殺人鬼映画である。
 
「……ああーーっ!!」
 
「ジャミルっ!!」
 
……等々ジャミルがすっ転び、斧を手から手放す……。
しかし、ほおり出した鉄の斧はくるくる回転すると宙を舞い、
ミイラ男、マミーの頭部に次々とグサグサ命中し、頭に刺さり……、
水芸の様に血が大量に噴き出した。
 
「……ガウ~……」
 
「ウガああ~……」
 
「……や、やべっ!何かすげえ怒ってる!?」
 
ジャミルは鉄の斧を急いで拾って回収すると、ミイラ達から恐る恐る後ずさる……。
 
「逃げよう!この場所じゃとにかく戦いにくい!」
 
「逃げましょっ!」
 
「怖いよおおーー!!」
 
4人は怒り心頭で追い掛けてくるミイラ集団から只管走り、
どうにか又上の階へと逃走に成功したのだった……。

3階に戻り石の扉を開け、漸く魔法の鍵をゲットし、これで先にと思いきや。
ダウドの暴走でジャミル達は又も騒動に巻き込まれる羽目になるのである。
 
 
「よし、さあ此処にはもう用はないね、又イシスに戻って休憩したら
早くロマリアの関所に行こう……」
 
「ちょっと待てよ、……ピラミッドだぞ、アル、おま、このまま此処を出るってのか?」
 
「何だよ、もう用はない筈だろ……?」
 
ジャミルが半目になりアルベルトの顔を見る。……また碌でもない事を
この男は考えているとアルベルトは直感で感じた。
 
「財宝だよ、財宝!ピラミッドには、絶対、他にも宝が有る筈だっての!」
 
……やっぱり……、とアルベルトは頭を抱える。やはりこの男は碌な事を思いつかず。
 
「でも、ピラミッドには呪いも付き物よ、王様の宝物とか……、
手を出したら呪われちゃうわよ!」
 
アイシャが注意するが、そんな事ぐらいで引き下がるジャミルではない。
あっさり引き下がったら仲間も苦労はしないだろう。
 
「何だって危険は付き物なんだっ!俺はもう少し探索していくからな、
お前等は先にイシスに戻っていていいぜ!」
 
「もう~、ジャミル……」
 
「はあ、又、どうしてそう無茶を言うかな……」
 
アイシャとアルベルトは困り果てる。ダウドはぼーっと唯、押し黙っていた。
 
「なあ、ダウドはどうだ?金銀財宝とか、絶対ある筈だぜ!……無理か……」
 
ジャミルはダウドの表情を窺い肩を落とした。ダウドも早く帰りたがっているので
当然、財宝探しなど付き合う筈がないと思っていた。だが。
 
「誰だ……」
 
「は、はあ?急に何だよ、お前……」
 
ジャミルの顔を見て突然ダウドが意味不明な事を言い出し、ジャミルは戸惑う。
 
「……財宝を荒す者は誰だ、誰だ……、我の眠りを妨げる者は、誰だ、誰だ……」
 
「おい……」
 
「ダウド?」
 
「ど、どうしたのっ!?」
 
アルベルトとアイシャもダウドの様子がおかしいのに気づき、慌てて側に近寄るが。
 
「我の財宝を荒す者は誰だ!お前達か!……我はファラオ国王である!
其処にひれ伏すが良い、愚か者め!」
 
「……ダウド、オメーふざけてんなよ、いい加減にっ!」
 
「待って、ジャミル、あれはダウドじゃない!」
 
アルベルトがジャミルを慌てて止める。……確かにダウドは様子がおかしい。
表情は険しく、いつもの、のほほんダウドではない、まるで誰かが豹変した様な
凄まじい顔つきになっていた。
 
「……我は財宝を守る、……全力で!」
 
「あ、ダウドっ!てめえっ!待ちやがれっ!」
 
明らかに何かが取りついたらしいダウド。物凄いスピードで何処かに走って行ってしまった。
 
「大変だわ!ダウドを追掛けなくちゃ!」
 
「待って、二人とも……、ダウドは確か、我はファラオ国王って言ってた、
ファラオと言うのは、此処に眠る王家の墓の張本人、イシスの国の初代国王だったらしいよ……、
と、言う事はつまり……」
 
アルベルトは其処まで言うと黙り、ジャミルとアイシャの方を見た……。
 
「まさかっ!ダウドに王様の霊が取りついちゃったって言う事なのっ!?」
 
「んな、アホな……」
 
「いいや、ジャミル、もしかしたら君の所為かもよ、……財宝を探すなんて言うから……」
 
「キャー!……やっぱり呪いだわっ!」
 
……今度はアルベルトとアイシャがジャミルの方を覗う……。どうするんだという目つきで
二人はジャミルを見ている……。
 
「うっ……、と、とにかくだっ、まずはダウドの野郎を捕まえねえとっ!い、イクゾっ!」
 
ジャミルは汗を搔きながらその場を逃げ出す。やっぱりこうなるかと
アルベルトは諦めながらもジャミルの後を追うのだった……。
 
 
……
 
 
「財宝は渡さん……、狙う者には……、我の呪いを……」
 
「ダウドっ!!」
 
ジャミル達は漸く、行方不明のダウドの姿を探し当てる。ダウドは4階にあった
宝箱が沢山並ぶ部屋にいたのである。
 
「ダウドっ!てめえいい加減にしとけっ!早く戻って来いっての!」
 
「……」
 
沢山の宝箱が並ぶ部屋……。ジャミルは唾を飲み込み、一瞬、
宝箱とダウドを天秤に掛けそうになる……。
 
「ジャミルっ!……国王様、どうか落ち着いて下さい!僕達は決して
あなたの宝を荒しに来たのではありません!ピラミッドに有るという
魔法の鍵を探して入らせて貰っただけなんです!もう此処からは撤退します、
ですから、もう僕らの仲間に憑依するのは止めて下さい、お願いします!」
 
「王様、どうかお願いです!」
 
……ジャミルの頭を殴りながらアルベルトが必死でダウド……、
ファラオに頭を下げた。アイシャも必死で。
 
「ジャミルもっ、……ホラ、謝るんだよっ!君が一番の責任者なんだからっ!」
 
「な、何で俺がっ!?あいててててっ!」
 
アルベルトはジャミルの頭を抑え付けながら必死でジャミルを謝らせようとするが。
 
「……王の財宝を狙う者は許さぬ、……この少年も返さん……」
 
「そんな……」
 
「酷いわ!」
 
ファラオはダウドを返すのを全力で拒否する。彼の怒りは相当の様である……。
 
「……テメー、いい加減にしろっ!元国王だか何だか知らねえけどなあ、
もうアンタは死んでるんだよ!死んでまで財宝守るとか嫌らしい根性持ってんじゃねえよ!」
 
「何だと……?貴様……、我に向かって……」
 
「……ジャミルっ!あ、ああーーっ!」
 
ブチ切れジャミル、等々ファラオに啖呵を切る。もう駄目だと
アルベルトとアイシャが思った、その時……。
 
 
 
じょ~……
 
 
「いっ!?ダ、ダウドっ!?」
 
「きゃーっ!?」
 
ダウド……、ファラオが少し洩らした。中のダウドが脅え始め、生理現象が出たのである。
 
「ぎゃー!怖いよおお!オイラもういやだよおーー!助けてええーっ!!」
 
「あ、暴れるでないっ!こ、こらーっ!!」
 
「……」
 
遂にダウドも錯乱し始め、中の本人の自我が出る様になり、ファラオとダウド、
二人の人格が暴れ始めた。状況を見ていたトリオはポカーンと……、口を開けた。
 
「……うう、な、なさけなや……、我がこの様な……、ええいっ!もうこんな者いらぬわ!
返してくれるっ!その代り貴様らっ!二度と此処には近づくでない!
今度財宝に近づいたその時は……、唯では済まさぬぞ!」
 
「プ、何言ってやがる、……おもら……」
 
「国王様、有難うございます!ダウドを返して頂ければ僕らはもう二度とこの場所には
近づかない事をお約束致します!」
 
ジャミルの口を塞ぎながらアルベルトが必死でファラオと会話を交わす。
その瞬間……、ダウドがその場にばたっと倒れた。
 
「あ、ダウドっ!おいっ、……しっかりしろってのっ!おーい!」
 
ジャミルが慌てて倒れたダウドに駆け寄る。気を失っているだけの様だった。
 
「ううう~、のろい……、恐いよお~……、ふにゃ……」
 
「大丈夫だよ、元に戻ったみたいだ、いつものダウドだよ……」
 
「良かった、ふふ……」
 
寝言を言うダウドの表情を見てアルベルトとアイシャも一安心。
ファラオの霊も一旦はその場から退散した様で気配がしなくなっていた。
……ダウドに取りついていたとは言え……、国王が失態など、
相当恥ずかしかったのかショックを受けたらしい……。
 
「ふぁ~、一時はどうなる事かと思ったけどな、ま、こうしてダウドも
無事帰って来た事だし、ははは、良かったなあー!」
 
「良くないよ、ジャミル……、君への説教がまだ終わってないんだからね……」
 
「ひ、ひひ?」
 
アルベルトがニヤッと笑ってジャミルの方を見た……。その顔には邪悪な笑みが……。
 
「おい、何だよ、そのツラはよ、おい、オメーこそ何か豹変してんじゃねえのかっ!?おい、コラ!」
 
「お仕置き……、うふふ、うふ、うふふふ!」
 
アルベルトが何かを取り出した。……スリッパである。
 
「……待てーっ!バカジャミルーーっ!!少しは反省しろーーっ!!」
 
「バカーっ!腹黒ーーっ!!……ぎゃあああーーっ!!」
 
アルベルトとジャミルは逃走中状態で何処かへ走っていってしまい、
アイシャと気絶したダウドはその場に取り残され、呆れる……。
 
「全くもう……、二人ともしょうがないんだからっ!……でも、ダウドが本当に
無事で良かった!ね?うふふ!」
 
「ふにゃああ~……」

zoku勇者 ドラクエⅢ編 2章

zoku勇者 ドラクエⅢ編 2章

スーファミ版ロマサガ1 ドラクエ3 パロディ小説 年齢変更 クロスオーバー

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-01-20

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. その1
  2. その2
  3. その3
  4. その4
  5. その5