サメの夢

 あるところに、サメがいました。
 サメは、歯が鋭いので、他の魚から恐れられて、避けられていました。
「僕はなんでこんなに孤独なのだろう」
 サメは暗い海で、生まれた時から、ずっとただ一人で暮らしていました。


 サメは、とうとう嫌になって、遠くへ行こうと思いました。
 どんどん泳ぐと、海はどんどん浅くなっていきました。
 何もしていないのに、他の魚たちは悲鳴を上げて、サメから去っていきました。
 サメは更に悲しくなって、陸に打ち上がって死のうと思い立ちました。


 サメはざぶんと陸に打ち上がると、呼吸ができなくなりました。
「苦しいよ、苦しいよ」
 暴れても、暴れても、ずっと陸の上でした。
 サメの意識はどんどん遠くなりました。


「サメさん、起きて、起きて」
 サメが目を覚ますと、海の中にいました。
 目の前には、イルカがいました。
「どうして僕は生きているの」
 サメが問うと、イルカが答えました。
「僕が助けたんだよ。どうして陸にいたの」
 サメが答えられずにいると、イルカは「ついておいで」と言い、泳ぎだしました。
 サメがついて行くと、そこにはカラフルな珊瑚礁がありました。
「すてきだね」
 サメはなんだか嬉しくて、涙がでました。
「サメさん、僕はいろんな場所を知っているから、これから一緒にいろんな場所に行こうね」
 サメとイルカは、友達になりました。


 ある日は、沈没船を見ました。
 ある日は、星空を見ました。
 サメは、これからも、ずっとイルカと一緒に生きていたいと思いました。


「イルカさん、僕は生きてて良かったよ」
 ある日サメはイルカにそう言いました。
 イルカは、悲しそうな目をして「よかったよ」と答えました。
「サメさん、あのね」
 イルカはサメに、本当のことを話すのでした。


 イルカは、本当のイルカでなく、海の神様だったのです。
 二人の旅は、陸に打ち上がったサメが最後に見た、本当に短い夢だったのです。
 海の神様が、最後見せた、短い夢だったのです。


 それを知ったサメは、泣きながら言いました。
「これが、生きてたら、あったかもしれない未来なんだね」
 海の神様は、首を横に振りました。
 砂浜の上で、サメの魂は安らかに溶けていきました。

サメの夢

サメの夢

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-01-16

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