つがいの烏
茜色の夕日に照らせれ、黒色の二羽の体はなんとも幻想的な漆黒に光っていた。
私達はいつも嫌われていた。人の見えるところに居るだけで、石を投げられ、玄関の側に居るとホウキで叩かれる。同族に生ごみを荒らす者が居たりするため、その一部分だけを見られる。私達は少なくとも人に迷惑をかけるようなことはしなかったし、いつも穏やかに過ごしたいと願っていた。
私の妻は右目が見えない、心ない人に石を投げられ、その石が妻の右目に当たったのだ、そのときはさすがに私も激怒し、人に襲い掛かろうとしたが、それを静止したのは妻だった。「駄目よ!手を出しては駄目!辛くても私たちは耐えましょう!」と血が出ている右目のことなど気にせず、妻は私達種族のことを第一に考えていた」
ある冬のこと、私達は冬にはねぐらを探し、集団で群れることで天敵から身を守り、食料がある場所の情報を共有する。ただ、私達は人に迷惑をかけないように過ごしていたため、食料のある場所といっても森の中の情報しか持っていなかった。そんな私達を群れのリーダーはよく思わず、群れから追い出されてしまった。
二羽だけで行動することになってしまった。私達は天敵のタカ、フクロウに襲われることもあり、ケガを負ってしまった私達は白い雪の上で倒れていた。
そこに一人の若い青年が私達を優しく拾い上げ、家に運び、手当てをしてくれた。心なしか隣に寝ていた妻の目から、涙が零れているように私には見えた。
小鳥のささやきが聞こえ、優しい日の光が窓から差し込み、その眩しさで私と妻は目を覚ました。私はふと妙なものが壁に掛かっているのを見かけた。それは実に綺麗な漆黒の羽織だった。あまりにも綺麗だったので、私はそれに近づいた。するとどこかで嗅ぎ覚えのある匂いだった。私は匂いの正体に気づくと妻を説得し、急いで、その場を後にした。
安全なところまで逃げると妻は私に理由を聞いてきたので、あまり言いたくはなかったが、私は妻に落ち着いて説明した。あの漆黒の羽織は同族の羽で出来ていたのだ。妻は大きな衝撃を受けていた。それから妻は元気を無くし、心ここにあらずで、思いつめることが多くなった。どんなめに遭おうとも決して人を悪く思わなかった妻が迷っているのが私にははっきりとわかった。
雪が降り積もり、いよいよ冬が本番を迎えたころ、私達は食料のある場所が見つからずに途方に暮れていた。ふと、ごみ捨て場の生ごみが目に留まった。一瞬、私の頭に「あそこなら・・・」と頭に過ったが、妻がそれを嫌うと思い、すぐに思い直した。すると、あれだけ生ごみを漁ることを嫌っていた妻がふらふらと生ごみのある方に歩いて行った。私は止めようと声をかけようとしたそのときだった。一人の中年の男性が素早く、現れ、妻の首に縄をかけた、「カッー!」妻はけたたましい悲鳴をあげた。私もすぐ助けようと男に飛びかかろうとしたが、拳で殴られ、意識が飛んでしまった。気づくとごみ捨て場の前に妻の死体が吊るされていた。私は大きな声で鳴いた。なぜ、なぜ、妻が殺されなければならない。確かに妻は生ごみ漁ろうとした、だが、それもたった一回だけのこと、あの優しい妻が人を信じ続けた妻がどうして、どうして殺されなければならない。そんな思いを抱え私は妻と見た夕日の場所へ行き、妻の後を追うために崖から飛び降りた。
家に帰ると青年は助けた二羽の烏が居ないことに気づいた。青年は烏が大好きで、街で見かけた、烏の羽で作られた羽織を大事そうに家の壁に掛けていた。「怪我もまだ、完全に癒えてないのに、大丈夫かな?」心配そうに青年は家の窓を開け、白い吐息を漏らしながら銀世界の外を見つめていた。
つがいの烏