私はパンではありません
パンをつぶす
右手で
パンをにぎりつぶす
両ひざまで
暗い潮水にひたり
パンをにぎりつぶす
羊かんの断面のような
夜がくる
パンをまたにぎりつぶす
さきのすぼんだ夜に
パンをにぎりつぶす
ざらざらと夜が明け
生まれたての蝶の眼みたいな
朝になる
にぎりつぶしてきた
パンのすきまから
小麦粉色をした雲が
ひとつ
またひとつ
ぷくわぁと
空へ浮き上がる
潮水がグラニュー糖をまぶしたように
きらきら濡れる
ぷくわぁと
空へ浮き上がった雲に
目と
鼻と
耳と
口とが
つぎつぎ生え
「魚になった私はどこですか」
などと言う
私はパンではありません