拝啓、黒羽様。

拝啓、黒羽様。

「いつわりびと空」二次創作作品。蝶の人視点で見た薬馬×空のナチュラルないちゃつき。黒羽一派の話ではないのでファンの方には申し訳ない。「腐向け」ですので、単語の意味が判らない、嫌悪感がある、という方はスルーして下さい。

 あの頃の俺達は、疵を舐め合う獣の群れだった。
 獣に心は必要なくて。絆も必要なくて。涙も必要なくて。
 在るのは野生である為の『掟』のみ。
 強く在る事、奪う事、そして喰らう事、それだけを満たせれば良かった日々。
 獣だから虚しさも感じなかったし、魂の在処を考えた事もなかったし。

 死ねば終いだ。

 俺的には、それが一番シンプルで心地良かったワケ。
 だけど、最期の最期で魂を取り戻して死んで行ったお前達は『人間』に還っちまったから、きっと、地獄に堕ちただろう。
 支え合ってた相手を残す事無く、手に手を取って、微笑みと心を抱いて堕ちた先は、きっとどこより温かい地獄だろうけど。

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 薄気味悪い。
 ……ってのは一応ツルんでる関係としちゃ失礼な感情なんだろうな。
 けど、俺ん中では最初に会った時から今まで首尾一貫して印象は変わっちゃいねえワケ。
 喋る狸でもねえ、お人好しが過ぎる医者でもねえ、不死身とかいう巫山戯た奴でもねえ、もちろん世間知らずの小娘共でもねえ……そいつらの中央にでんと居座ってる糸目の野郎の事だ。
 烏頭目が懐いてるし、あいつにゃ糸目も甘いからそこんとこは信用してるけども。
 あいつらのおかげで烏頭目は変わったし、俺も変わった。情とか心とか、涙とか、多分そういう柔らかい部分を返してもらったんだろうとは思うけども。

 目が細すぎて、一瞬じゃ視線の先が読めないってのが、まあ人目に過敏な俺には一番気に入らねぇ。
 大体、堅気にしちゃ思い切りが良過ぎる。
 勝算も無いのに命賭けるか、ボケ、とか言いつつ勝算がありゃ平気で博打打つってのはなんなの。馬鹿なの、死ぬの?
 俺には判るし、烏頭目も多分無意識のうちには判ってる筈だ。
 アレは俺達よりも『壊れてる』。
 おっかねぇのは、自分で壊れてるのを自覚してて、それすら博打の材料に使うって事。
 こういう奴が、以前の俺達みたいないわゆる『悪』の側に居るんだったらそれはそれで問題無い。つか珍しくもねぇワケ。
 そん位の覚悟でもなきゃ生き残れねぇしな。
 それがどんなバランスか、ぎりっぎりで人間の世界の渕に立ってやがる。
 顔立ちのせいもあるだろうが、本音の見えねぇ薄笑いを浮かべて、やじろべえみてぇに、正気と狂気のど真ん中。
 ビタッとそこから動きもせずに平気な面してんのが薄気味悪い。

 俺だって馬鹿な方じゃねぇと思うけど、頭の回転が速過ぎてついていけない時があんのも薄気味悪い。
 烏頭目程とは言わねぇけど、さほど筋肉もついてねぇ細い身体の割に腕が立つのも薄気味悪い。
 口を開けば嘘と罵詈雑言しか溢れてこねぇくせに他人の心を掴むのが恐ろしく巧いのも薄気味悪い。
 現に、俺と雑談しながら隣をぷらぷら歩いてる医者は、時折糸目の様子を伺っちゃ口元に微笑みを浮かべてたりする。お前は餓鬼の成長見守るオカンか。

 総じて『必要以上に近寄りたく無い』ってのが俺の結論だ。
「ちょーざ、蝶左! どしたんだよ、ボケッとしてさあ」
「げほっ!?」
 どーん! と背中に手加減無しで突っ込んできた大馬鹿野郎の頭を鷲掴みにして宙につり下げてやった。悲鳴を上げるまでギリギリギリギリ握力も込めてやる。
「ボケッとさせろ! お前は糸目の係だろうが!」
「びゃ あ あ あ あ あ! 出るう、ちょーざ、耳から脳みそでるう!」
「存在しねえものは出て来ねえワケ!」
 執行猶予もらったせいで、お尋ね者としちゃここんとこ呑気な道中だ。
 今日もぽかぽかいい天気だし、川っぺりの土手道にしちゃ風も強くねぇし、このまんま先に進ませて欲しいワケ。
 頭が良過ぎるせいか、糸目の奴は退屈すると悪質なイタズラを繰り出して来る。被害者はたいてい医者だが、何が哀しくて普通の道行きで命かけなきゃなんないワケ。
 餓鬼っぽさのレベルが同じくらいなのか、烏頭目と遊ばせときゃそこそこ大人しくしてるから今日は一日あいつと遊んでやれって面倒押し付けてたんだがなー。
「えっへっへ、だってよ、もしかしたら今日の晩飯、全部空のオゴリかもしんねえんだぜー」
「ハァ? お前、バカなのにあいつと賭けなんかしたワケ!?」
 どこに勝てる要素を見出したワケ!? あとお前は何賭けたワケ!?
「俺、バカじゃねえし! あのな、今から空がこじゅにー」
「どーん!」
 烏頭目が言い切る前に糸目が、これまた手加減どころか優しさとかいたわりとかそういうものを全部吹っ飛ばした勢いで医者に飛び蹴りを喰らわせた。
 が、勢い余って二人揃って土手の上から姿を消した。あーあ……。糸目は自業自得としても、医者もなんで避けきれねぇかねえ。
 凄ぇ勢いで坂を転げ落ちてく音と、糸目の罵声、ガツッガツッと鈍い打撃音。
 おいおいおいおい! 甘やかす気はねぇけど、ありゃいくらなんでも乱暴過ぎだろ。
 糸目はたいてい唐突だが、今日のは唐突に過ぎる。
「キャー! やめて、空さん、マウントポジションはやめてあげてー!」
 遅ぇよ、姉ちゃん。なんで飛び蹴りのモーション始めた時点で止めねぇんだよ!
「うわー、空の奴、ひでぇ……けど賭けはきっと俺の勝ちだぜ!」
「だから何なワケ、その賭けって」
「えっとなー、空がこじゅに、貴婦人な暴力連続三回喰らわしてー、一度でもこじゅがキれたら俺の勝ちー!」
「淑やかさも貴さもねえわ! それを言うなら理不尽、だろ!」
 阿呆があ! お前、医者が一度でもキれたとこ見た事あんのかよ!?
 いや、しかし、待てよ。
 姉ちゃんにガミガミ叱られながら登って来た糸目に続く、草と泥にまみれた医者の顔は、相当険悪に歪んでる。
 俺も一度はマジギレしとくべきだと思ってたし、こりゃいいタイミングじゃねえの?
「なっ、なっ、こじゅもアレはキれるだろ? 寸前だろ!?」
「だなー。攻撃はまだ二回、このタイミングで三発目は難しいだろ……」
 まっ、暴力は暴力っても、所詮、野郎同士のじゃれ合いの範疇。止めるより、医者のマジギレを拝みたい気が勝って、俺もつい傍観決め込んじまった。
 チョーシこいて俺の前髪わしゃわしゃやってくる烏頭目にゲンコくれて地面に沈めた瞬間、医者が口を開いた。
「あのな、空。何イライラしてるか判らないが、理由くらい言わないといくら俺でも……」
 ビシッ!
 糸目、イッター!! これまでの二回に比べりゃ弱いが、強烈なデコピンが医者の額を襲い、衝撃で帽子が飛んだ。
 よしキれろ、医者! そこだ! ……って。
「……あほう」
 小さい、声だった。

(えーーーーーーー……!?)

 すねて甘えた、わずかにかすれる声音。
 たぶん、医者以外に見せるつもりじゃなかっただろう、その表情。
 甘えて、寂しがって、そんでもって凄ぇ切なそうな……お前だけが特別だってカオ。
 糸目自身も、そこまで本音さらしたカオ見せちまうつもりなかったんだろう。言った後でふわっと頬が桜色に染まっていって、くるりと背を向けた。
(へーえ、へーえ、へーえ!)
 ……可愛いとこあんじゃん!
 なんか……全部がストンと腑に落ちた気がする。
 考えてみりゃ、今日は朝から糸目を烏頭目に押し付けるって決めてから、なんだかんだと医者は俺と一緒に居た。
 あの唐突な暴力は蓋を開ければなんてこたない、ただの焼きもち。
 餓鬼なんだ。俺が思ってたより、ずっと。こいつは、医者のことが、好きで、独り占めしたくて堪らないんだろう。
 だけど、まだその感情を持て余してて、自分じゃどうにもできねぇってワケか。
 初めて素の表情を見て、俺は今まで感じてた薄気味悪さが氷解してくのを感じてた。と、同時に掴んだ弱みでちょっとからかってやりたくもなった。
「……愛されてるじゃん」
 負けたー! とかわめいて不貞腐れてる烏頭目を置いて足を速める。医者を追い抜き様に囁いてやったら、魂抜かれたみたいにポカンとして糸目の背中を見つめてた顔がボンッと真っ赤に染まった。
 あーあ。こいつもこいつでなんつー面さらしてんだか。ま、そこまでは鈍感じゃなかった、ってことかね。

「さっきから見てたけどよ」
 背中から声をかけると糸目の肩がぴくっと跳ね上がった。こっちを見ようともしないのは、今じゃ項まで真っ赤になってるせい。
 改めてみると、その首筋が折れそうな程、華奢なのに気づく。
「もーちょっと素直になった方がいいんじゃねえの?」
 人を食ったようなニヤニヤ嗤いを貼付けてない顔立ちは案外上品で。
 ま、人を食ったようなニヤニヤ顔はこっちがしてるんだけどな、今は。可笑しい。
「……っかに、言う……たら……」
 普段からは考えらんねぇ、辿々しく漏れる言葉。
 照れてるせいか、少し潤んだ色の薄い瞳がこっちを睨んで見上げてくる。薄赤く染まった目尻が妙に艶っぽくて、ドキッとした。
 こいつ、マジでこんな顔すんのかよ!
(可愛いじゃん!?)
 寄る辺無い餓鬼みてぇな、それでも必死で粋がろうとして立つ肩がちょっと震えてて、庇護欲を刺激する。
 やっべ、俺ですら一瞬抱きしめてやりたくなった。
(んなツラでの脅しなんか効くかっつーの)
 可笑しい、マジで餓鬼でやんの。……こんな餓鬼に、俺は何怯えてたんだか。くくっと喉の奥から笑い声が溢れるのを押さえきんねぇ。
 抱きしめるとか、そんなこっ恥ずかしい真似なんかできる訳ねぇから、いつも烏頭目にしてるみたいに頭を抱く様にしてくしゃくしゃしてやる。
 うっわ、実際触ると髪の毛柔らけー。
「ハァ? 脅しぃ? 言ったらどうなるワケぇ?」
 俺の腕の下からは動こうともしねぇくせに、無言で医者にかましたのと同じデコピンが飛んできた。けど、こんなん余裕でさばけるしぃ。
 掌で受け止めたソレは、一瞬じん、と痺れるくらいに強いけど。
「悪いけど、痛くも痒くもないしぃ」
「……ま、そこがコツって訳やな」

 …………。
 ………………。
 …………………。

「……………は?」

 何、今の邪悪な声。思考停止してる間に糸目はぶはっと大きく息を吐いて吸った。
 さっきまで初々しく紅潮してたはずの頬がスッと元の白さを取り戻して行く。
「あーしんど。丁度いいタイミングで顔赤くするん割と面倒臭いんやで」
 ヤバい。なんだこれ。嫌な鼓動ばかりが早くなってく。
 うっかり腕の間に抱え込んじまった爆発物は、他の奴等から完全に、死角。
「コレは普通やったら結構な打撃や。けど、今お前はこれを痛みとは感じてへん」
 ことん、と胸にもたれかかってくる頭。傍からみたら超仲良しっぽいじゃん、やめろ!
「痛みを感じるのは、ダメージをくらった部位やない。ここ、や」
 こつこつ、と額を叩く糸目。
「つまり『脳』さえ錯覚させられれば、痛みなんぞなんぼでもコントロールできるわ。お前は今まで「勝てん」と思うとったワシの弱み掴んだ、思うたやろ。ソレは快感や。生き物は「勝つ」ように作られとるさかい、その快感には抗えん」
 嬉しそうに何べらべら解説始めちゃってくれてるワケ?
「ワシかてなんぼなんでも意味無く薬馬蹴っとる訳ちゃうわ。あいつの場合はなー長い時間かけてキれへん痛みの上限探ってんで? 打撃の強弱、それから少しの『ご褒美』を織り交ぜたったら、段々弱い方の痛みは痛みと関知せんようになる……これをコツコツ続けることによって……」
 ニィッと吊り上がる、薄い唇。
「ワシの為なら命も賭ける肉奴隷のいっちょあがりやで」
(ーーーーーーーーー!)
 非人道的な事言ってる笑顔がゾッとするほど綺麗に見えて、綺麗だと思った自分ごとひたすら怖ぇ……!!
「……へ。それを俺に種明かしする意味はあるワケ?」
「お前はワシを化け物やと思うとるのかもしらんけど。そんなんとちゃう……ワシかて人間や」
 一人では生きられんし、寂しい時も、手ぇ借りたい時も、ある。
「薬馬はお人好し過ぎやし、控も烏頭目も常識のバランスが悪い。せやけど、お前は違うやろ? お前だけ特別や……」
 だから、んな顔すんなっつの! この話の流れで、んな信頼しきった顔みせられたって信じられるワケねぇ。だろ?
 なのに、その目があんまり真直ぐで、真剣だったから。心の芯がグラッとなったのは正直、否定できない。今日一日で見た事もねぇ表情ころころ見せられて、一度早くなり始めた鼓動の治まる隙もねえ。
「ってのは、うっそー!」
「きたねーっ!」
 思い切り吹き出されて顔中に糸目のツバが飛んだ。げらげら笑いながら、俺の腕をかいくぐって抜けると、ひょいひょい身軽に歩き始める。
「お前みたいに、自分じゃちょい頭回る思ってる奴が一番チョロいわ。まー、お前は烏頭目の係やから手は出さんでおいといたるけど」
 俺が相手面倒くさがって烏頭目を押し付けてたのに気づかれてた!? しかも根にもたれてた!?
 それ以上に、ゾッと、肝が冷えた。こいつがその気になりゃ、俺も多分……自覚すらせずに。それとも、すでに?
 種明かしされてなきゃ、俺は糸目を『庇護すべき餓鬼』と認識しっ放しになってただろう。こいつは敢えて俺に『一歩引いておけ』と警告してるワケ?
「悪いようにする気はないわ。そこんとこは信用しとき」
 肉奴隷とかさらっと抜かした口で何言ってやがる。信用させたかったら、なんでまず騙そうとしたんだよ!?
 だいたい可笑しいだろ、その肉奴隷の為にお前どんだけ危ない橋渡ったんだよ。
 嘘をつくのに一番効果的なのは真実の中に一片を混ぜること。その位俺だって知ってる。だから今までのだって100%嘘じゃねえはず。
 なのに糸目の本音の境界がマジで見えねぇ。
 訳判らない、ぐらぐらする。情けねーことに、そのまんま俺はへたへたと尻餅をついたきり動けなくなっちまった。背中は冷や汗でびっしょりだ。
 糸目が呑気そうな顔で狸とじゃれ始め、追いついて来た医者がなんか低姿勢で謝ってるし。いやいやいや、違うだろ、お前、暴力振るわれただけじゃん!
 あっ、また殴られた。
 他の奴等もごっちゃに糸目にまとわりつきだして、でもどいつもこいつもあいつの思惑通り糸目に対する『信頼』を隠しもしてねえ。
 俺だけがあいつの呪縛を免れてるのか、俺だけに見えてない真実があるのか。
 判らねぇ。もう、本気で訳が判らねぇ。
 ただ一つ、判ってるのは烏頭目もみなもも取り込まれちまってる以上、俺はしばらく行動を共にせざるを得ないだろうし、すでに魂の根っこは奴に握られてるって事だ。
 この世で一番、タチの悪い偽り人に。

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拝啓、黒羽様。

 きっと、最期に人間になった貴女方は地獄に堕ちたと思います。
 どうせ自分達も地獄行きなので、再会の折りには現世の土産話でも面白可笑しく語って聞かせようと楽しみにしていましたが、それは叶わなくなってしまったようです。

 何故なら、地獄へ行く為に、一番必要な『魂』と言う奴を、最も売ってはならない相手に売ってしまったようなので……。

                                         終



おまけ。

 へたりこんだままの俺は、殴られてつっぷしたまま置き去りくらってる医者に声をかけた。
「医者ー。あのよー……聞きたいんだけど、お前、糸目の為なら命賭ける?」
「? 賭ける訳ねぇだろ? それこそ空にぶん殴られるじゃ済まねぇぞ。あいつが一番嫌ってることじゃないか」
「!?」

 そ こ か ら 嘘 で す か 。

「わははは、蝶左、マジで腰抜けてんのかー!? カッコわりーってか空すげえな!」
「ああ!? って、やめろ、みっともねえ」
 よいしょ、と烏頭目が俺を肩に担ぐ。そういや、こいつ、糸目が絡んでる時寄ってこなかったよな……。
「えー、でも、蝶左がこんなんなったの俺が賭けに負けたせいだし」
「……ああ!?」
「だからー、俺が賭けに負けたら、空が蝶左のこと腰が抜けるほどビビらせるけど、その間邪魔しないって目測だったしー」
「!!!???」
 約束だろ、というツッコミすら吹っ飛んだ。

 い つ か ら 嘘 で す か 。

 糸目のことだから、フツーにやりゃ、このお馬鹿に勝てるのは想定内だろう。つまり、更に俺を絡めてきたってことは二段構えでどーにかしようって魂胆が最初からあって、そもそも、この賭け自体、狙いは烏頭目じゃなく俺だったかもしれないとなると、俺と医者だけが目撃したあの表情からして嘘だと仮定して、けど医者はあれで充分魂鷲掴みにされてたワケだから、直前の暴力をあれでチャラにしようという100%計算しつくされた演出で、けど俺がそれを「可愛い」と思うのすら糸目に読まれて、いや、糸目がマジで医者を好きだと思ってた場合、俺は遠回しに『告白の道具』に使われた可能性も否定出来なくて、それで。あれで。うう、洗脳はあったのか? なかったのか?
 ダメだ。脳の容量が限界超えて、フーッと意識が遠のいてく。

 だから。切れ切れに聞こえてきた会話なんて気のせい。
「蝶左、重いー。太った? 寝ちゃったのかー……」
「ちゃんと背負ったり、烏頭目。最期まで背負いきったら、そいつは目方分の金に化ける男やでー!」
「マジで!?」
「マジ、マジー。……絶対、一生。背負うとけ、下ろすな」
 ソレを手放す奴はほんまもんのバカやで。
「……うん」
 声音一つ変えるダケで充分ってワケ。理屈抜きで烏頭目の軽いオツムに何か刻みこむのはよ。
 俺は気絶してるから、聞こえてねぇし、信じねぇ。
 聞こえてるのを想定してるなら、それは俺に聞かせようとしてた? 信じねぇ。
 それすらきっと嘘。
 甘い台詞を吐いた声音が優しかったとか、掛け値無しの本音に聞こえたとか。
 俺だけは絶対信じねぇからな!

                                       暗転。

拝啓、黒羽様。

拝啓、黒羽様。

『いつわりびと空』二次創作作品。薬馬×空を蝶左視点から。いわゆる『腐向け』な内容ですので、腐向けがダメ、単語の意味が判らないという方はスルーして下さいませ。

  • 小説
  • 短編
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  • 時代・歴史
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-01-14

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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