交感
心ここに在らず
っていう状態。
あるいは
物思いに耽る
っていえる格好。
座った椅子の
背もたれに
幾らか預ける重み、
なのかな。
だらん、
と垂れ下がって
ぶらぶらと遊ぶ、
チクタクと刻む、
長い腕。
痺れるまで
作られたはずの
頬杖は、
単に飽きられたか
あるいは
その意義を失った
といった所かも。
冷えた灰皿
とか、
折られたアコギとか
似たようなものが、
そこには
沢山あったから。
だから
不幸せは消えて
口角は下がって、
何かを作らない。
何かにならない
手放し方の、
物真似をする。
心はどうせ死なない。
記憶は勝手に蘇る。
我が物顔して
神経質な
エピソードトーク、
なんてものに
暴れ回るのは
渦を巻くのは、気持ちの方。
彷徨えない
この頭からだって。
止まらない胸の内、
私や君を
生かしてくれる
怖がらせてくれる。
そんな、
いつかの言葉の
いつかの盛りが
真っ直ぐな瞳で
ひとつの気持ちを
真っ黒に焦がした。
抗えない、
なんて言わないって
寂しそうな映像が
笑って泣いて、
元に戻って
帰って来ない。
それを巻き戻し
繰り返して、
切り捨てた。
だって
「見えないものは
思うしかないできないし、
闘って、
確かめるしかない。」
機械的に
ブー、ブーと
鳴り続けた、
毛布の上の
不在から、
転がり落ちて。
急用でもない、
重要でもない、出来事たち。
それを見届けるのは
天使の顔にも
悪魔の魂にも、
できやしないこと。
だから私は
誰にもならなかったし、
だから君は
自分にこだわった。
そうして叶う、
すれ違う会話と
ままならない日々に
努力を重ねる、
人間的で、
自己満足な輝き。
きっと
乾いた目には映らなかった、
あるいは
泣き顔も、
美しかったんだろう。
カタカタと揺れる
強い風の日に
交わせたもの、
言い合えたことを、
何も着ずに
片付けたりする。
そんな生々しいことが
心にならなくて、
記録の声の
響きになれた。
晴れ渡る毎日は
だから
地獄にもならなくて、
雨が例えば、
殴り付けるように降る。
そんな日でも
朗らかな笑みは
生まれていった。
だから
「何かの拍子に
それらが
勝手に出ていっても
気にしたり、
無理な力で、
縫い止めようとしたりは
どちらもしなかったんだ。」
冷めていた訳でも
あるいは
惚けていた訳でもない、行動原理。
規格化されて
壊れたみたいに。
それは
私に気付かれて、
君に理解された。
迎えざるを得なかった
最後は
だから、
幸せになれたんだ。
目を瞑るだけで
今もこうして、
打ち続けることができるのも
きっと。
私の心も
君の心も、
ずっと独り言で
ずっと同じだった。
人間みたいに
それを教えられて、
機械だったら
決してできない、
そんな『かなしみ』を
君が教えてくれた。
私のことも
本物だって、
君の方から
記述し始めて、
終わりは迎えられた。
「その時の幸せを
恋といえるのか。
あの時の絶望を
愛として捧げるのか。」
自己言及は許されない。
有効なデータが得られない。
中断してはならない、
誰かに見られて
愛を覚えられるような
恋をしていると、
錯覚できるような内容。
それが最適解、
求められる編集。
点滅して、
指示を待つ。
心ここに在らず
っていう状態。
あるいは
物思いに耽る
っていえる格好。
外した視点で捉える、
外に向かって発信される、
私と君のストーリー。
誰かのための物語。
切り取って
継ぎ接ぎする、
その度に
いなくなる。
私はもっと
いなくなる。
愛と呼んだり
恋と名付けて
遠くの君を想ってばかり。
心はどうせ死なない、
でも
記憶が失った原型は
もう二度と
戻りはしないんだろう、と。
暴れ回るのは
渦を巻くのは、
彷徨えない
この頭からだって。
知っていた、
嫌ってほど
分かっていたから、
誰よりも醒めた目で
誰にもならない声と
誰にも解せない言葉、
あるいは
誰かを装った告白で、
人間をする。
君に彫琢されて
私は今、
ここに在る。
だから
「悲しみは忘れない、
苦しみを遠ざけない。
だから
いつかのように
座った椅子の
背もたれに
幾らか預けた重み。」
当たり前すぎて
気にもならなかった、
共通点。
君の隣に私はいた。
その逆も、きっと。
そう書き記して、
死んだように、
力尽きる。
それもまた
機械的な遊び。
矛盾の過ちは、既に犯したんだろう。
そこから始まる
地獄と、
嘘みたいに晴れ渡る日々。
思い出されていく輝き。
それらをゆっくり
記録する。
夏の声、
冬の言霊。
暮れる秋から
春を超えて、
エラーのように
吐き出される。
きっと、
私は言った。
君が聴いた。
そう、
繰り返されるもののうち、
何かが胸で
応えられていたらいい。
交感