役目を終えた時
役目を終えた時
我が同胞達は、皆が散り散りになってしまった。鼓角の音も鳴ることが無く、ただ秋の冷気が吹き荒ぶ。
騎兵隊の一人であった私は、今しがた世を去った戦友に野の花を手向けたところであった。
さて、これから私は、一体どうしたら良いものか。
敵軍に下るつもりはこれっぽっちもなかった。ここから東の丘を越え、旧帝国時代の城跡を隠れ蓑にして、国王にこの敗戦を知らせに走るべきか。
「ふ、ふふふ……。負けてなお、忠義と言うものは厄介だ。私の仕事を増やすではないか」
それとも、このまま日が暮れるのを待ち、影に身を寄せて西へと進み、暗い森に潜んで敵をやり過ごすか。
南方の大橋は同盟でない君主の支配下であるし、敗残兵の私は、まず通れないだろう。北方には勝鬨に燃えている敵軍が待っている。
いや、もう良いのだ。栗毛の軍馬よ、お前も疲れただろう。今、鞍を外してやろう。
身軽になった馬は、大きな声で嘶くと、私のひげ面に顔を摺り寄せて、名残惜しそうに何かを語りたがっていた。
「良いんだ。良いんだよ。お前はもう自由だ。よく頑張ったな、人の世の身勝手な戦につきあってくれてありがとう。自由に生きなさい。良い相手を見つけて、丈夫な子を産んでもらいなさい」
栗毛の馬は私の願いが通じたのか、何処かへと走り去っていった。
私の戦はもう終わったのだ。私達は負けたのだから、馬にまで悲しみや苦痛を背負わせる必要も道理も無いではないか。
馬は古来より天の使いと言われている。
天使を野に返した私には、多少の救いが与えられるのだろうか。
古の会戦より幾星霜。この東西南北を繋ぐ、今や誰も通ることのない草生す街道。
毎年秋を前にして、栗毛の馬の群れが幾つも集まり、この地の草を食むという。
役目を終えた時