お巡りさん
とある惑星では、宇宙の常識がまるで伝わっていないそうだ。
平然と規則を破り調和を乱す行いを繰り返す、野蛮な種族と成り果てている。
そこで私は、このような危険極まりない惑星出身者を完全に取り締まるべく、しばらく『路』を整備する方針に決めた。
しかしながら、私一人では『路』は把握しきれない。よって、彼らに頼ることにした。
彼らが示す『路』を参照し、どうか役に立ててほしい。
(どこかのなにかより)
プロローグ『真なる渇望』
【親愛なる未熟者たちへ】
これはなんという?
・・・・・・
——ひどく気分が落ち込む様——
「落胆、か」
失礼、君たちの言語は複雑だ。わざと隔てられたとしか思えない。
そんな君たちに深く同情すると共に、軽蔑を覚えざるを得ない。
そこまで酷な状況下を作り出している、もしくは加担しているのは君たち自身なのだから。
・・・・・・
私はひどく落胆している。
先日発見した、とある惑星。一部ではなく、その惑星全土に対して、今までにない気分の沈みを経験したのだ。
ひどいという言葉では表現が足らないくらいには、心が嘆いている。
幻滅、いいや、もはやこれは渇望か。あの惑星人以外の誰かたちには幸せになって欲しいと願っているのだから。
さて、嘆いてばかりではなにも変わらない。
個人的な活動レベルで申し訳ないが、『路』の整備を行うと決めた。
しかしながら、『路』は複雑かつ多様性にとんでいるため、私一人でできる範疇など雀の涙だろう。
そこで、『彼ら』に『路』の手(正確には足と目だが)を頼ることした。
きっとこれからの選択で役にたつことを祈っている。
【未熟なる隣人より】
(どこからか漏れ出るひょうきんな声たち)
「——と、こうやって『路』が整備されることに決まったんだと」
「へえ」「ふうん」「あっそ」
「おいらたちがこーやって平和に安全に惑星を行き来できるのも、ぜ〜んぶ親切な隣人の遣わした『彼ら』のおかげってわけ!」
「お節介だよなぁ」「ほんとほんと」「あれから自由に旅行ができなくなったもんなぁ」
「おいおい、いいところもあったろ。拉致される心配もきえたし——あ、お巡りさんだ!」
「えっ」「どこどこ?」「あんな遠くにっ!」
「「「「おおーい!」」」」
・・・・・・
「あーあ、聞こえないか」「残念」「チェー」
「見えただけでも縁起がいい。きっと今回もいい『路』に巡り会えるぞ」
「結局、隣人が遣わした『彼ら』って誰なんだろうな」
「さあ」「知らねえ」「わかんねえ」
「だよなぁ」
「「「「あはははは」」」」
りげんさんの話1
プロローグ【ハラワタに詰めるもの】
「なあ……それは——」
木はなにもこたえられなかった。
(中略)
さんさんと陽光が降り注ぐ川辺にて、一匹の魚が水底にはえる苔を食べ始めたところだった。
「やあ、そんなにがっついてお食事かい?」
いつもは、冬に備えてせっせと光合成に勤しむ木々の一本が、沈痛な面持ちで、けれど明るい声色で魚に語りかけた。
「ああ。この時期になると、人間が釣りにやってくるだろ。食える時に食っとかないと」
と、魚。
魚の言葉を聞いて、
「奴らは君たちが肥え太る方がお望みらしい。無理に詰め込まなくてもいいんじゃあないかい?」
木はこう返した。
すると、
「いやあ、実はね、特別美味しい餌場なんだ、ここはね」
短い尾ひれを跳ねさせ、魚は水面に波紋をつくりながら「なあ、誰にも教えるなよ?」と笑った。
そんな魚に、
「なあ……それは——」
木はなにもこたえられなかった。
——それは苔ではなく、カビじゃあないか——
木々の、否、川辺に潜むものたちの瞳は、人間に無惨に食い散らかされた魚たちの腐った死体より出づる何かが、放棄されたゴミに生えるカビを貪る光景を、ただただ捉えていた。
カランコロン。
と。
どこかで下駄の響きを感じながら——。
お巡りさん