水葬。追憶。
話したいことがたくさんあった。
もう一度会いに行くという想定、選択肢は、いつしか妄想に変わった。
「友達になって下さい。」って、言いに。
「何も言えなくてごめん。」って、謝りに。
「助けられなくてごめん。」って、傲慢に。
「頼れなくてごめん。」って、的外れに。
「隣にいれなくなってごめん。」って、友達面して。
話したいことが謝りたいことが、たくさんあった。
本当は、
私の代わりに謝らせてしまった人にも、
何も言えずにいる人にも、
毒を植え付けてしまった人にも、
頼ることの出来なかった人にも、
礼儀を欠いてしまった人にも、
連絡を絶ってしまった人にも、
私は謝りたいはずなのに。
近くにいられなくなってしまった私は、君に、
戯言のような言い訳と謝罪の言葉が、何よりたくさんある。
酷く不平等だ。わかっている。
失敗は数え切れなくて、人と言葉を交わした数だけあって、生きてきた日の数あって、謝らなくちゃいけないことは、謝りに行きたい相手はたくさんいるのに、それなのに、一番最初に私のことを強く強く染め上げたひとりを未だに離すことが出来なかった。
全てが褪せた過去になって、思い出せる範囲の全てを並べて量るまでもなく、最も大切に見えるものは変わらなかった。
―――どうして君なのか。
君が一番最初に、私に近寄ってくれた人だったから。
誰でもよかったのだ、それはわかっている。
それでも、出会ってくれたのが君だった。
爾後、私が、君を、私の特別に仕立てあげてしまった。
結局私はお前を助けたいと思えなかった。
どうやったって生きていいことにはならなかった。
悔いを刺し込んでそれを心臓の代わりに出来たのなら、私は何度でも死に、何度でも生き直せるのだろう。
そんな世界はない。一度貫けば全ては終わる。作用して壊し合う。言葉と真実と同じで、本質が溶け合う。悲鳴を上げる器がなくなるだけ。
だから、落とした心臓は曲がりなりにもまだ動いているのだ。この世に或るのだ。そうでなければ今息をしていることに理由が付かない。それ以外に理由がないのだから。
貰ったものに向かって何度も泣いた。
書いてあった言葉に、何度も君を思い出した。
ありがとう、本当にありがとう。
ごめんなさい。
もうそこは、帰る場所ではなくなってしまった。
どうしようもない私は、選ぶことすらせず、流されるままに完全な離別が自らに決まった。
貰ったそのイラストが、ボカロ曲のものだと知ったのは中三の時だった。
今もまだどこかで聴いているのかなと思ってみたりした。
寂しさから血迷って、このことを口にしてしまったことがあって、そうやって思い出を汚す代わりに得てしまったものも今までたくさんあって、忌避が強く強く頭を刺した。
破って。越えて。目を逸らして。そういう不埒な生き方をした人間だった。
そう全て書いてしまって、ここでも楽になりたいのだ。
最低でしょ。
そうやって、ちゃんと謝りたかった。
最後に未練がましく、メモ帳にあった電話番号にメールを送った。
もしも今も同じ番号だったら、そして、もしも返事が返ってきてしまったら、
生き直そうと、そう思って。
勿論、届かなかった。
出来心は現実に封じられ、私はこの道から外れなかった。
何度も揺らいで、そうして、
後少しのところまで来れた。
ここまで、勝手に君を思い続けた。君を使い続けた。
私が創り上げてしまった"君"を、私が殺す。
本当は、
何一つ流したくなかった。
何一つ壊したくなかった。
何一つ歌いたくなかった。
何一つ捨てたくなかった。
何一つ燃やしたくなかった。
何一つ失くしたくなかった。
何一つ殺したくなかった。
何一つ言いたくなかった。
そのまま、変えずに、そのまま、そのままで、殺せたならと願う。
出来ないと、出来なかったと、知っている。
私にくれて、ありがとう。
ずっと握り締めている。
手を離した後も、ずっと、少し先の最期まで、握り締めている。
何より大切なのに、先にこうするしかなくてごめんなさい。
さようなら。
本当に、ありがとう。
川へ向けて、手を離した。
水葬。追憶。