「微熱」

 微熱に病みて
 青白い砂時計は机に

 止まったアナログ時計
 腕時計の形見だけ残す

 赤きりんご二つあり
 頬張っては
 えずく

 腕時計はときたま眼覚ます
 うわごとの針の音
 されどまたゆめうつつ
 とろむ瞼に
 微熱の涙
 とろり とろり
 針は止まりぬ
 とろり とろり
 針は眠りぬ

 白雪を絞った枕に
 仰向いて伏せる
 そぞろに腕を宙へと
 空気ばかりつかみて
 ろうそくの赤い灯
 まるく ともる

 此方へ来るか
 困難の赤い輝き
 握り締めた襦袢のえりもとも
 あなや赤に染りたり
 唇も赤し
 頬も赤し
 潤んだ瞳も赤し
 お守りの小さな手毬も赤し
 うむと唸りて枕に顔ごと押ッ付けて
 雪の懐かしさに
 赤の変らぬに
 ひしと縋りて泣けり

「微熱」

「微熱」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-12-18

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