「泡雪」

 ザラメの味したる泡雪つもる
 北と南に東も西へも
 泡雪はつもるつもる
 春の桜の散姿が重なり合うやうに
 夏の日射の乾いた涙がひしめくやうに
 秋の枯葉掃かれて溜まったやうに
 冬のぬくもりを希求するやうに
 泡雪は全方位につもっている
 (ねぶ)れば甘いぞ
 ザラメがしゃりしゃり
 時にはほろほろ
 苔玉が水吸う咽の声さして
 泡雪は足元に固まれり
 雪の無い所は無い
 白色 銀色 水の色
 蜘蛛の糸より輝いて
 パレットよりは不正直な
 泡雪 ザラメ 苔の吐息
 しゃりしゃり ほろほろ 水の色
 手に取りて指は冷える
 陣痛はやわらげり
 紫苑の唇で雪を喰らう
 陣痛は止みし
 そして子は生れたり
 黒い洋墨でかたどられた血塗れの幼子
 生みては陣痛また陣痛
 一生絶えないだろ
 あちらにも此方にも
 それでいい
 子は思い思いに重なりて
 春の桜
 夏の涙
 秋の霜枯
 冬の…雪の町

「泡雪」

「泡雪」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-12-18

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