1/4の一回性情緒と

 毎年見ているのに毎年ワクワクするのはどうしてだろう、この雪ってやつは。「あんたは犬みたいだからじゃない?」と姉には言われた。真っ白になった庭を駆け回っているのはちっさいときからだそうだ。まぁそれを抜きにしても、こんなに見事なザ積雪は久しぶりで嬉しくなる。おれの膝下あたりまで積もった雪は、昼ごろにはいい感じに水分を含んで、雪だるまを作るにはぴったりになっていた。
「僕はこたつでみかん派なんだけど、ミヤコはそうじゃないんだね」
「おれは全部! アウトドアもインドアもどっちも楽しい派だ」
「じゃあ今回は僕の意見を採用してくれるってことは……ないよね……」
 グランドの端で雪玉を転がしながら、メグは小さく溜息をついていた。寒さはとことん苦手らしい。もうずいぶん動いているから、身体も温まっていると思ったんだけど。現におれはコートを脱いでいる。一方のメグはコートにマフラー(その下にはネックウォーマーがあるはずだ)に手袋、帽子とジャージのズボンの重ね履きという、見た目よりも温かさを重視した格好だ。
「……やっぱ、中いる? 無理すんな。出来たら呼ぶ」
「いや、もう少しだろ。大丈夫」
 メグが作っているのは二つ目の雪玉、つまり雪だるまの顔だ。海外では三段重ねの方が主流だ、と何かで読んだことがあったけど、おれたちの雪だるまは二段重ねの予定だ。
 メグの周りに雪を集めたり、雪玉を叩いて固めたりと手伝いながら一つ目の雪玉の方へ近づいていく。作り始めたのは同時だったけど、おれの方が早く、かつ大きくできてしまったのだ。
「……こういう遊びって、久し振りでさ」
 ぎゅう、ぎゅうと音を立てながら雪玉を進ませる。メグの声は音に消されそうなくらい小さかったけど、すぐ隣にいたおれにはしっかり届いた。
「前から、遊び方がよく分からないっていうか、これでいいんだっけ、みたいな。そんな感じがあってさ。なんとなく。で、やらなくなっちゃって」
 歯切れの悪さは、高校生にもなって雪だるま作りに必死になっている気恥ずかしさや、疲れのせいじゃなかった……と思う。そんな気がした。
 メグはおれたちとはちょっと違っている。
 ニンゲンか、そうじゃないかってとこが。出来ること出来ないことが。持ってる時間が。
 だからおれがメグの友達になる前にも、誰かと一緒にこんな風に雪で遊んだこともあったのだろう。そのときは……あんまり楽しめなかったのかもしれない。誰かのせいだとか、はっきりした原因があったわけでもなく。メグが言う通り、「なんとなく」そんな感じになっていたのかな、なんて、おれは想像してしまう。
「正解はねーよ。あるとしたら、メグが楽しいのが正解」
 寒いの苦手なら楽しむ以前の問題かもしんないけど。そう付け加えると、メグはきょとんとした顔をした。こいつが実際は何歳なのか未だに知らないまんまだけど、おれよりずっと小さい子供みたいな顔だった。
「た―楽しくって良いのかな」
「無理に楽しそうにされんのは逆にキツいけど、楽しいのに楽しくなさそうにするのはもっと無理じゃね? 自分も、周りのやつも。いーんだって、メグはメグが思うようにすれば。その遠慮する癖、直んねぇなあ」
 ニンゲンじゃない仲間―この地球上にはもういないらしい仲間に対する遠慮、みたいな。ニンゲンの振りをして周りを騙している罪悪感、みたいな感じで。「正体」を知る前は気づかなかったけど、メグはふとしたときに後ろめたそうにする。
 優しいこいつのことだ、周りのことを考えずにはいられないんだろう。だけどおれは、友達と一緒に楽しくいたい。友達が楽しいときに楽しいって言えるように、おれ自身が楽しくいたい。
 そう伝えたいだけなのに、それだけのことが難しいんだな、これが。
「……メグはいいやつだ。遠くにいるっていう仲間もいいやつらなんだっておれは思う。そいつら、お前が楽しくしてたら嫌だって思うか?」
「お、……思わないよ。それは自信をもって言える」
「じゃあそういうことだよ」
 一つ目の雪玉にたどり着いた。せえの、と息を合わせて二つ目の雪玉を上へ乗っける。集めていた手頃な枝や石で顔を作りながら、
「おれはお前といるとき、すっげえ楽しいよ。メグは?」
「―楽しいよ。落ち着くっていうか、安心できる」
「な」
「だね。……ありがと」
 おれが笑ったのに釣られてかメグもはにかむ。あ、雪みたいなんだな、と唐突に思った。一緒に遊ぶ時間や、そこにくっ付いてくる楽しいって気持ちだ。毎回、毎日、飽きもせずにおれはワクワクする。いつもあるのが当たり前じゃないからこそ、一個一個が大切だ。
 出来上がった雪だるまを二人で見返した。雪玉は頭も体も真ん丸じゃなくて、片側に体重をかけて立っているみたいだ。少し離れて見ると、顔もちょっとアンバランスな感じがした。だけど、うん、満足だ。
 メグは端末で写真を撮っておれに見せてくれた。カメラを通すと、なかなかさまになっているように見えるから不思議だ。
「あったかいカフェオレ、飲みたいな」
「おれはコンポタ」
 コンビニに寄って帰る前に。まずはもう一枚、写真を撮っておくことにした。

1/4の一回性情緒と

1/4の一回性情緒と

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-12-17

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