「涙よ流れるな」

 高さの低い靴箱
 扉の窪みも低きにあり 浅く
 指かけて景色を払う
 眼前振り払いし先に
 せんせいの一人居る
 大きな机あり
 小さき机はまばら
 大きな 何も乗っていない木の机に
 正面向いて先生は居たり

 我 手に何かを持てり
 紙のやうなる物なり
 赤子の声幻聴に歌う
 我はせんせいに持てる物両手で渡したり

 夕日
 朱に火照る光
 光見て
 我に注げる光見て
 せんせいは微笑みぬ
 汗ばんだ頭の我を
 せんせいは撫でぬ
 我の眦はせつなく熱くなりて
 胸苦しくて
 我は机に俯伏せり
 涙止まず
 せんせいは我が涙にとろとろと溶けり
 大きなる机も溶けて
 後には薄モモのコサアジュ一つ
 せんせいは死にけり
 幼き我のせんせいはもう死にけり

「涙よ流れるな」

「涙よ流れるな」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-12-13

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