「涙よ流れるな」
高さの低い靴箱
扉の窪みも低きにあり 浅く
指かけて景色を払う
眼前振り払いし先に
せんせいの一人居る
大きな机あり
小さき机はまばら
大きな 何も乗っていない木の机に
正面向いて先生は居たり
我 手に何かを持てり
紙のやうなる物なり
赤子の声幻聴に歌う
我はせんせいに持てる物両手で渡したり
夕日
朱に火照る光
光見て
我に注げる光見て
せんせいは微笑みぬ
汗ばんだ頭の我を
せんせいは撫でぬ
我の眦はせつなく熱くなりて
胸苦しくて
我は机に俯伏せり
涙止まず
せんせいは我が涙にとろとろと溶けり
大きなる机も溶けて
後には薄モモのコサアジュ一つ
せんせいは死にけり
幼き我のせんせいはもう死にけり
「涙よ流れるな」