6 - 2 - 思考停止。
人を助けようとする夢を見た。
相手はいつも、
同じくらいの背丈の子ども。
救済ではなく人間関係に憧れている。
そう突き付けられる。
きみには追っ手がいて、
わたしたちは街中を逃げていた。
知らない建物で行われる劇。
記憶せずに終わる人の姿形。
広視野で覚えない人の動態。
寄せた顔に感じない息遣い。
彫像のようなきみとわたし。
心臓の上に手をあてる。
本当に或るか疑っていた。
手にあたる動きを耳で感じた。
肩に掛けさせたきみの腕。
いつもより重たい体も、
内臓が浮き上がる感覚も、
不感のままに、
それでもどうしようもなく、
満たされていた。
それが全ての私に通っていた。
考える必要はなく、
ひたすらに、
ただひたすらに、
動いた。
――――――
生者が造った陸から下りていく。
私は其処に、
産まれた時から所属していたそうだ。
帰属意識はどこにあるだろう。
寄る辺にいた感覚などとうに失くした。
そう。
それを思い出す為に。
観る為に。
生者が造った陸から帰る。
短い廊下を歩いて右手の部屋。
ぬめったドアノブを掴んで、
人ひとりが通れるくらいに開く。
きっと音もしない液体が、
狭い眼前に広がっている。
鏡のように見慣れた、
悪臭を放つ膠状の液体に、
目の奥で目を背ける。
感覚器官から逃げて。
感性を焼いて。
私の要請で体は動かなかった。
静かに、
着水。
液体は全て私で、
どこを向いてもお前お前お前。
突き刺したとてとろけ、
囲えど這入り込む。
零して肥え太ったひとり。
安心をする。
自覚した忌避までを範囲に、
縛りなく遊泳した。
言葉が、
ぐちゃぐちゃに、
めちゃめちゃに、
折り重なって、
読み取れなく、
感じ取れなくなっていた。
それが此の部屋の成分で、
昔は骨組みだと思っていたものの末路。
そう教えてくれなくとも、
思うがまま、
自由に、
罵倒を楽しんだ。
過去が現在を、
安心が盲目を、
毀傷が復讐を、
続けて齎した。
色が微かにある。
何処かに。
足のつかない浅瀬の、
何処かに。
混ぜてしまわぬよう、
避けて泳ごう。
それでも、
判別が付かなくなり、
あ、
自虐と違えた。
卵と鶏を同時に、
神様が創ったのだと言った。
反転でも、
逆説でも、
自虐でもなく、
同時に存在を強制させられたのだと。
それを何処の私が信じるのだろう。
大空には漂わず、
すぐ傍、
手も心臓も届くすぐ傍で、
静動は逆だと、
見下すようにうねり、
途切れず存在を感じさせる。
飲み込んだ唾液が毒だったのは、
どちらかがどちらかに、
嘲笑と共に飲ませたから。
纏わりつく波に曳かれて、
伸びない糸は何度も切れて、
それでも小唄を耳に、
褪せた鮮光を瞼裏に、
彩りをどこか遠くに、
此処に溶かした心ごと、
落ちていく。
卵が此処にあったなら、
それを割って終わろう。
鶏が此処にいたのなら、
それを殺して終わろう。
6 - 2 - 思考停止。