「大聖堂」

 残月の光うすあかりの空
 大理石はなめらかに青く染む波の色
 白く飛沫散らす搖らぎもそのままに
 金の花瓶に活けた青薔薇の
 零したひとかけらの水溜りの如く
 冷たく
 そして
 うつくしく
 哀しく
 大理石は満ちたり

 切れた鼻緒
 血のように垂れて
 汚れた下駄
 折れた足の刃
 曳き摺る影
 胸に簪ほどの十字架をさげ
 まだ動く五本の指で 握る
 細く震えるなよたけの指
 捧げる白菊も持てぬなら
 せめてこの指が花の衣 鱗になってくれたなら
 大理石の海に身体もたせて
 神に犯されし娘は
 月が太陽となる奇跡を見た
 まばゆい大慈の輝きを見た

 …めがみさま…

 娘は恍惚の純白の光に包まれて
 ようやく震えが止まって
 花の唇微笑んだ

 あたたかな光透くステンドグラスが
 娘を囲い虹の花を敷きつめて
 此処等は一面の花ばたけ
 花の香溢れる大聖堂
 雀も来たれ…
 兎も憩え…

「大聖堂」

「大聖堂」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-12-07

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