「哀切なる」

 秋…
 散歩道に
 人はなく
 ほの黒い影だちの残り香は
 熟して落ちた葉とやわらかな黒土の
 咽せ返る 濃いにおい
 あなたは
 待つ
 人の絶えた散歩道で
 背後から見越入道に覗く裸の木々に
 帰る路も
 行く路も塞がれて
 あなたはじっと待って居る

 太陽は黒い眼球
 常に見開く正円の瞳
 影を生みて
 影を温め得ない
 哀しくて眩しい光
 あまねく注ぎて
 あまねく愛しきれない
 哀しくてあたたかな光の雫ら
 かなしみはあなたの背に降り積る
 雪か光かそれとも涙か
 待ちびと焦がれて空に仰ぐ
 雲は一つも無く
 哀しく青い無窮の空
 秋だけが、もう、来たのに
 置いてきぼりの
 心ばかり、残る…

「哀切なる」

「哀切なる」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-12-07

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