「哀切なる」
秋…
散歩道に
人はなく
ほの黒い影だちの残り香は
熟して落ちた葉とやわらかな黒土の
咽せ返る 濃いにおい
あなたは
待つ
人の絶えた散歩道で
背後から見越入道に覗く裸の木々に
帰る路も
行く路も塞がれて
あなたはじっと待って居る
太陽は黒い眼球
常に見開く正円の瞳
影を生みて
影を温め得ない
哀しくて眩しい光
あまねく注ぎて
あまねく愛しきれない
哀しくてあたたかな光の雫ら
かなしみはあなたの背に降り積る
雪か光かそれとも涙か
待ちびと焦がれて空に仰ぐ
雲は一つも無く
哀しく青い無窮の空
秋だけが、もう、来たのに
置いてきぼりの
心ばかり、残る…
「哀切なる」