「浮舟」
熱に病んで
潤み
涙
血潮の滾る音 勢ひ 汗
ほとばしり まだ身体は苦しむ
夢のむなしさの忍び難き
現のやるせなさの耐え難き
夢ではうつくしさに苦しめられ
現世では醜さに慄毛立つ
彼岸か此岸か咲く花のかほり
拒めども招かれる浮舟に
哀しい肉体を俯伏せ
さみしい心を慰む
浮舟は花びらの幻影
眼に彩りの映らねども
残り香の面影は絶えず
漂ふ
踊る
漂ふ
さすらひのダンスは
時を閉めた水彩絵画
水は流れるも
風は吹けども
草はそよぎて
雪もちらつけば月も射す
時の動きをかなぐり捨てた絵のやうに
舞って
唄って
泣いて
また唄って
浮舟は絶えず
浮舟は絶えず
梶を沈めた水の底
熱の涙が積りし底
たくさんの浮舟のかけら眠る
碧く澄んだ千鳥の呼声
氷の世界を渡り
水に響く雀の唄
兎のしめやかな笑い声
凍った鶴の踊る唄
翡翠が山奥ではしゃぐ声
蛇の空をふり仰ぐ唄…
浮舟は情愛の雨に濡れ
花のかほり…またいと濃ゆく
「浮舟」