「愛」
月にはうつくしき姫神の住まう
愛を欲して降りたむすめの
受難の涙に紫陽花は咲く
哀しく、うつくしい玉の露に花は咲く
愛を望みて
恋を知り
愛の恐ろしさに悶え泣いた
握り締めた掌に一体何を逃すべき
恋の悲しさ
愛の底無し沼
とめどなく白肌を焦がし
…姫神はあまりにも素直すぎた……
白濁せし記憶の海に溺れ
もはや羽も雪と散った一人の女は
気貴い空を仰ぎみて
帰れぬ故郷に微笑みて
いとしい男の胸を喰らった
紅唇
破れた白襦袢を頭に覆い
男の燃える心もろともに
花嫁は空を映した湖へ…
月は決して曇りはせず
「愛」