「愛」

 月にはうつくしき姫神の住まう
 愛を欲して降りたむすめの
 受難の涙に紫陽花は咲く
 哀しく、うつくしい玉の露に花は咲く
 愛を望みて
 恋を知り
 愛の恐ろしさに悶え泣いた
 握り締めた掌に一体何を逃すべき
 恋の悲しさ
 愛の底無し沼
 とめどなく白肌を焦がし
 …姫神はあまりにも素直すぎた……
 白濁せし記憶の海に溺れ
 もはや羽も雪と散った一人の女は
 気貴い空を仰ぎみて
 帰れぬ故郷に微笑みて
 いとしい男の胸を喰らった
 紅唇
 破れた白襦袢を頭に覆い
 男の燃える心もろともに
 花嫁は空を映した湖へ…

 月は決して曇りはせず

「愛」

「愛」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-12-03

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