「逢引」

 夢に感応でもあったらう
處女とかなしき紳士
蝶の舞う玉の緒に命を込めた
鱗粉の手紙は風に散る
銀の文字がはらはらと崩れて
残るはあわれ月の零れ火
夜の湖に照り輝いては
声も抑えて底へゆらめく
水底は何処までも青くて深い
誰れも遮るものも無し
手も触れたことさえ無けれども
遠くいにしえの夢の記憶
星の断片の朧な記憶
 歴史にうづもれしささやかな世で
 かなしい二人はめをとであった
 首を抱き締めうなじに口寄せ
 接吻は二筋の燃ゆる川…精霊ぞ住む清い川
 言葉も散らさぬ契の中で
 二人は互ひの瞳を見た
 あどけない兎のやうなつぶらな瞳
 一途の諸刃が鋭い瞳
 月はどちらも見守っていた
 今でも、
 ずっと止めること無く
 引き裂かれし片割れの心
 いつかいつの日か巡り逢はむ

「逢引」

「逢引」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-12-03

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