「逢引」
夢に感応でもあったらう
處女とかなしき紳士
蝶の舞う玉の緒に命を込めた
鱗粉の手紙は風に散る
銀の文字がはらはらと崩れて
残るはあわれ月の零れ火
夜の湖に照り輝いては
声も抑えて底へゆらめく
水底は何処までも青くて深い
誰れも遮るものも無し
手も触れたことさえ無けれども
遠くいにしえの夢の記憶
星の断片の朧な記憶
歴史にうづもれしささやかな世で
かなしい二人はめをとであった
首を抱き締めうなじに口寄せ
接吻は二筋の燃ゆる川…精霊ぞ住む清い川
言葉も散らさぬ契の中で
二人は互ひの瞳を見た
あどけない兎のやうなつぶらな瞳
一途の諸刃が鋭い瞳
月はどちらも見守っていた
今でも、
ずっと止めること無く
引き裂かれし片割れの心
いつかいつの日か巡り逢はむ
「逢引」