「花簪」

 冬の夜の雲も無き
 さみしく深い藍の空
 ちらつく恒星も頼り無く
 何をよすがに倒れるべき

 哀しき袂にくるんでおいた
 一本の細い銀の茎の簪を
 もはや誰れに手渡すべし
 震える銀杖縋りしくれなゐの花
 冷たい石に寝かすれば
 君はほのかな夢を見しか
 空に一片の雲は無し
 されど冬の霧雨は止まぬ
 触れても風花の糸の如く儚くて
 指には露も溶けませで
 氷の肌すら残りはしなくて
 花簪の冷たさだけが
 君の末期と信ぜしを
 あの星の何と頼り無いこと
 あの星の何と心細いこと
 あの星の何とうつくしいこと…
 燃ゆる炎の椿の花簪よ
 大鷲の翼に抱かれて
あの小さな星へと行くがいい…花簪よ

「花簪」

「花簪」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-12-02

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