「花簪」
冬の夜の雲も無き
さみしく深い藍の空
ちらつく恒星も頼り無く
何をよすがに倒れるべき
哀しき袂にくるんでおいた
一本の細い銀の茎の簪を
もはや誰れに手渡すべし
震える銀杖縋りしくれなゐの花
冷たい石に寝かすれば
君はほのかな夢を見しか
空に一片の雲は無し
されど冬の霧雨は止まぬ
触れても風花の糸の如く儚くて
指には露も溶けませで
氷の肌すら残りはしなくて
花簪の冷たさだけが
君の末期と信ぜしを
あの星の何と頼り無いこと
あの星の何と心細いこと
あの星の何とうつくしいこと…
燃ゆる炎の椿の花簪よ
大鷲の翼に抱かれて
あの小さな星へと行くがいい…花簪よ
「花簪」