幽霊船
あなたに渡した手紙未満の何かのこと
あなたがまだ覚えていたなんて思ってもみなかった
何を書いたんだっけか
もう十何年も前のこと
政権交代とかがあった頃のこと
大学の近くの川辺で
二人並んで座っていた
少し離れたところに
なんか白くて汚い鳥がたくさん集まっていた
白いのに汚いってふざけてんのかよ
とかぼんやり思っていた
一羽一羽が幽霊船のようだった
あなたはあなたにしか見えない炎をずっと眺めていた
それを邪魔する資格がぼくにはないことはよくわかっていた
したい、って思っているのが
体なのか心なのかよくわかっていなかった
今ならまともな手紙が書けるはず、と勘違いしているぼくを
あなたは笑わないだろう
この十何年の変化と言えば
電車の荷物棚が強化ガラスになったことくらいしか思いつかないな
あなたは今どうしてるって訊いたら
最近自治会長になったって
そういうことが聞きたかったんじゃなくって
でもそういうことが聞きたかったんだと思う
ものすごく
幽霊船