「怪物」
すらり一途に確かな鼻筋
僅かな緊張にしまる口元
瞳はもどかしいほど僕を見て
疑いもひねくれも無い君の姿
発する言葉は菊の花
纏う衣も菊人形
ひともと手折って僕に渡した
「あげます…よければ。」
願ってもみない無垢の愛に
猛る心臓に銀の氷の矢が刺さる
氷は溶けて
惨めな身体に沁みた
何百年ぶりにきれいな水を飲んだろう
草の根に縋って哭いたって
雨は冷たいばかりであった
君にあげれるものは何も無い
あるけれど…
赤い絵具で塗りつぶして
甘い水あめをたっぷりかけた
林檎飴のしゃれこうべしか持っていないもの
君にはこんなものは似合わない
欲しいって請われても
渡す手は必ず震えるだろうから
菊の花は僕の胸にだけ刺しておこう
ほら、向こうから家に帰れる
さよなら
もう二度とやって来てはいけないよ
菊人形のかなしいをとめ
いつまでも贈り物は枯らさないから
どうか、ただ健やかであれ……
「怪物」