「深夜」

 暗い室で燈を吸いつけたって
 誰が来るというでもない
 理想を掌につかんだ者が
 次の理想に浮気して
 逆しまにずぶずぶ沈んで行くのが見える
 ニコチンの煙
 灰色の苦さが
 気取ったウヰスキーと絡まる
 毒の匂い
 毒の味
 青々とした小麦の匂いも
 白いパンの味も分らなくなった
 どぶに倒れた稲穂を見おろしては
 徒に陶器の破片で利き腕を切る
 いっときしか痛み残せぬもどかしさと安堵に
 からん…
 グラスの氷が沈んだ音

「深夜」

「深夜」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-11-29

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