「糸杉」

 あんなに黒く塗りつぶして
 顔も体も見えなくして
 目と耳も塞いでしまった
 まるでおどろおどろしい糸杉の木
 手も届かない高さから
 此方側を圧する姿
 今、あの嫌な手が地上に伸びて。

 糸杉よおまえは何思う
 その孤独に寄り添う者はずっといないのか
 おまえも風にそよがれるだろうに
 おまえも冷たい清水を呑むだろうに
 おまえも太陽に眼を細めるだろうに
 そしてその眩しさに
 人知れず泣くであろうに

 火花のように身を窶して
 有史の前から変らぬ墨染のぼろを着ている糸杉の木よ
 恐ろしい死よ
 どうか人間の情愛を許したまえ

「糸杉」

「糸杉」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-11-29

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