「糸杉」
あんなに黒く塗りつぶして
顔も体も見えなくして
目と耳も塞いでしまった
まるでおどろおどろしい糸杉の木
手も届かない高さから
此方側を圧する姿
今、あの嫌な手が地上に伸びて。
糸杉よおまえは何思う
その孤独に寄り添う者はずっといないのか
おまえも風にそよがれるだろうに
おまえも冷たい清水を呑むだろうに
おまえも太陽に眼を細めるだろうに
そしてその眩しさに
人知れず泣くであろうに
火花のように身を窶して
有史の前から変らぬ墨染のぼろを着ている糸杉の木よ
恐ろしい死よ
どうか人間の情愛を許したまえ
「糸杉」