冬服、見れなかった

 地縛霊になってもうすぐ一年が経つ。あの人を見るようになってから、席はだいたい、一番後ろの一番右。日光がもろに当たる。

 なんとなく安心できるというぐらいのもの。
 何もかも変えてしまうほどではない。
 刷りたてのコピー用紙みたいなもの。
 同じとこで降りてみるなんてしないよ。
 地縛霊だから。
 一本早いのに乗ってみるなんてしないよ。
 地縛霊だから。

 まだシャツの袖を捲っていたあの人。それが最後。しばらくしても全然暑かった。日本の気候はやはりおかしいのだ。

 これから先、どうなるかは分からないが
 そろそろ成仏できるそうだし。
 このバスともお別れになるし。

 きっと今日もあの人はいないのだろうが
 ピーナツクリームはおいしい。
 これなら何枚でも食べられる。

 ああ。結局、冬服、見れなかった。

冬服、見れなかった

冬服、見れなかった

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-11-29

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