そんな君が好きだ
行きたかった専門学校が地元に無く、上京した僕はそのまま、その地へ居着いた。
上京してから一度も地元に帰る事はなかった。
いつも通り仕事から帰って来ると、郵便物を持ちアパートのドアを開けた。
郵便物をチェックしていると、懐かしい字体が飛び込んで来た。
高校時代付き合う事は無かったが、ただいつも側にいた彼女からの手紙だ。
はやる気持ちを押さえつつ、封を切った。
『お元気ですか?
どうしても手紙が書きたくなったの。
変だよね。ケータイの番号も、メールアドレスも知ってるのにね…。
高校卒業してから、もう四年たつんだね。
連絡とらなくなってからは三年か…。
何で連絡しなくなったんだろう』
そんなのこっちが知りたいよ。
あんなにいつも一緒にいることが当たり前だったのに。
『ねぇ、今彼女いる?』
いないよ。
『あの頃はいつも一緒にいたから、こんな事聞かなくても分かってたのにね…。
離れちゃうと何も分からないし、不安だし…』
こっちだって、君に彼氏がいたらと思うと…不安だった。
『ちゃんとね、ちゃんと伝えようと思うの。
私ね、あなたの事ずっと好きだった』
僕だって好きだった。
『伝えるのが怖かったの』
分かってた。
伝える事で二人の仲がぎくしゃくしてしまうんじゃないかって…。
お互い様だよ。
『ずっと後悔してた。
あの日旅立つあなたに好きって伝えていれば、何か変わっていたかもしれないと、よく思うの』
あの日ずっと君が何か言いたそうにしてたの分かってたんだ。
でもそれが何なのか気づかない振りしていた。
実は、あの日僕も言いたかったんだ愛してるって、でもその言葉を僕は飲み込んでしまった。
『もし、もしね…。
私の事受け入れてくれるなら電話して…。
じゃまた…』
読み終え、僕は震える手で携帯電話のボタンを押した…。
「はい…」
「僕だけど、分かる?」
「うん…」
「久しぶり、手紙読んだよ」
「うん…」
「ずっと連絡出来なくて、ごめん」
「うん…」
「元気?」
「うん…」
「うん、しか言ってくれないんだ」
「うん…」
「そう…」
間。
「…直ぐむくれて、不器用で、意地っ張りで、いつも素直じゃなくて…」
「うん…」
「言いたりないけど、そんな君が好きだ。大好きだ…」
- end -
そんな君が好きだ