本日も客足なく【サバイバル】

本日も客足なく【サバイバル】

1話~15話

【本日の客足なく……】サバイバル 




【一話】



 2013年。 マヤの予言が人々の脳裏かに消え去った真夏の頃、突然起きた巨大地震でこの世は壊滅した………


 だが奇跡的に警備員としてスーパーの警備中に助かった男がいた。

 男が気絶から目を覚まし真っ暗な室内をフラフラと陽の指す方へ歩いて来た瞬間、壊れた自動ドアを抉じ開けた男は、大洪水が押し寄せた後のように建物も基礎も電柱も道路も何もかもが消えていた。

 男は玄関から出ると千鳥足でフラつきながら駐車場があったであろう辺りを彷徨い歩いた。 そしてスーパーから百メートルほど来た時点で建物方向に振り向いた。

 すると男の目に映ったのはスーパーの周囲にあった街並みは消しゴムで消した絵画のように何も無かった。

 スーパーがあった街並みは土が表面化して文明の形跡は一つもなく延々と続く海原のようだった。

 男は思い出していた。

 深夜のスーパーを懐中電灯を持ってパトロールしていた時のことを。

 突然、床下から叩きつけるような激しく重々しい揺れを感じた瞬間、室内の非常口を現す器具が一斉に消灯し、慌てて奥から飛び出した仲間の警備員達は地震だと叫び外へ逃げ出した。

 この時、男は床に蹲って両手で頭を帽子の上から押さえて揺れが収まるのを待ったが何かが男の頭を直撃して男は気を失った。

 

 男が気絶している間、こんなことが建物の外では起きていた……



 超軟弱地盤の上に立てられていた正方形の建物は巨大地震の発生で出来た亀裂に深さ数百メートルまで没落した後、地核変動によって再び下から押し上げられ元の地表に顔を出したものだった。

 だが建物が没落した直後、地表では高さ数百メートルの津波が押し寄せていて流されるように没落した建物の上に積もった土砂が海水をシャットアウトし中に空気が溜まった状態で津波が終焉した。

 そして終焉と同時に再び発生した地核変動で下から押し上げられたスーパーマーケットは奇跡的に原型を止めたまま再び元々あった場所に姿を現したものだった。

 だがこの時、日本中が数百メートルの大津波と没落で既に壊滅していたことを男は知らなかった。

 


 外から見た光景に男は頭を抱えて絶叫しその場に崩れてしまった……



 
 誰かが助けに来てくれるかも知れない。 男はそう思いながら土砂で埋まったスーパーの屋上駐車場へ全力で走るも四方を見回したが視線の先には文明の形跡何も残されておらず、延々と洪水にでも洗われたような地表が寒々しく広がっていただけだった。

 前夜まで遠くに見えていた近代的なビル群は姿を消し跡形もなく消滅していたことに男は誰もいるはずの無い四方に大声を発して叫び続けた。

 


 何故ここだけが……



 男は突然襲ってきた孤立感の中で自問するとフッと立ち上がって何度も周囲を見回し、誰がいるかも知れないと自分に言い聞かせた。

 男は駐車場から降りると再びスーパーの中へ入り「誰か居ないかあ!」と、大声を上げて彷徨い始めた。

 売り場から調理場、倉庫からトイレの一つ一つに至るまで隅々まで探し歩いたが誰も居なかった。

 

 誰も居ない……



 男は外に誰かが居るかも知れないと再び外へ出るとスーパーから自分の家を目指して歩き始めた。

 文明の形跡の失われた地表からは海の匂いが漂い赤茶けた土やら火山灰やらがアチコチに点在し黒土の上には白い塩の結晶が雪のように溜まっていた、

 歩くこと三十分、何処までも広がる荒地はその場所の四方を見渡しても文明の痕跡が消し去られていることに気付く。

 男は大きな溜息をしてスーパーを後にして再び歩き始めて三十分、ようやく文明の痕跡に辿り着いたが地面に埋まった信号機だった。

 それを見た瞬間、男は「生存者などいるのだろうか」と、再び辺りを見回すと数百メートル先の方で何やらキラキラと光るものを見た。

 

 誰かいるかも知れない!



 男は喜び勇んでその場所へと足を急がせると近付いた場所には広大な湖が広がっていてその表面にはオビタダシイ数の魚がプカプカと浮いていた。

 目の前の巨大な水溜りからは淡水ではない塩水の匂いが立ち込めていて吹き付ける風が表面を時折撫でていた。

 男は過去にテレビのニュースで見た震災の映像を思い出していたが、目の前の状況が過去の震災とは違う途方も無いほど大きな物だと感じてた。

 そして待っていれば救助も必ず来るだろうと男は真っ青な空を見上げて耳を澄ましたが空には一羽の鳥も飛んでいなかった。

 男の名前は工藤真一と言い警備会社に勤務する二十六歳で前日の夕方、いつもの勤務先から急遽欠員補填のためこのスーパーに来て奇跡の生還を果たした。

 



【二話】




 工藤は服のポケットからパトロールに使うために事前に上司から渡されスーパー内部の見取り図を出した。

 取り敢えず救助を待つ間、スーパーの警備だけはしなくてはならないと言う警備員としての原則に基づくものだった。

 スーパー内部は停電で窓辺以外に奥には光も届かず大きな揺れのためか陳列棚から殆どの商品が床に落ちて散乱していて足の踏み場もなく、衣料品コーナーはワゴンが全て壁際に追いやられ本が並べられていたであろう棚は殆どが倒れていた。

 立っている物は全てが倒れキャスターが付いていたものは全てが壁に集まっているという具合だった。

 食品コーナーも同じでビン類は落ちて割れて酒やらジュースやらが混ざった異様な匂いを放っていた。

 工藤は取り敢えず警備室に行って見ることにした。

 

 警備室に入るとソコは六畳ほどのスペースで部屋の右奥に仮眠ベッドがあって真ん中に折り畳み椅子が二脚と小テーブル、そして左奥に事務机と椅子が一組あったが全て右奥に散乱していた。

 そして事務室には仲間の前夜、仲間の二人と飲んだ缶ジュースの空き缶が転がっていた。 工藤はラジオをは無いかと探したが今時ラジオだけなんて誰が持っているだろうかと諦めた。

 工藤は三十分ほどかけて事務室を清掃し元の位置に全てを戻すとゴロンと制服のまま仮眠ベッドに横になり、両腕を枕に仰向けでさっき見て来た光景を思い出していた。

 殺伐とした荒れ果てた土地がむき出しになっている映画のワンシーンのような光景は信じられないほどに印象が強かったのか、工藤は時折顔を顰めた。

 


 よし、確かめに行って見るか!


 学生時代に建設会社でアルバイト経験のある工藤はスーパーの倉庫で見つけたスコップを片手に屋上で土砂に埋まった車はないかと掘り起こし始めた。

 三十分ほどして幸い窓も破れていない一台のジープタイプの四輪駆動車を見つけた工藤は額に汗して掘り起こすとホウキで土砂をはらった。

 どうやってドアを開けようかと迷った末に工藤は大きなハンマーで後部の窓ガラスを割り中に入り込んだ。

 持ち主に申し訳ない気持ちで一杯だったが生存者がいれば救助しなければとの思いがあって工藤は心の中で持ち主に手を合わせた。

 

 エンジンの掛け方が解からない……



 工藤はハンドルカバーを工具で壊すと映画で見た記憶を元に上半身をハンドルの下に滑り込ませた。

 配線コードを切断して映画のようにやってみたがウンともスンとも言わず半ば諦めかけた時、いろいろ弄っているうちに突然嘘のようにエンジンが掛かった。

 工藤は会社の車と同じマニュアルだったことに感謝しながら四輪駆動への切り替えをしてアクセルを踏み込んだ。

 前輪と後輪が地面の土を巻き上げ前後を繰り返して弾みを付けた瞬間、大きな音を上げて四駆車は積もった土砂の上へと駆け上がりそして降りると悪路だが何とか走れる範囲に車は降りた。

 工藤は屋上駐車場から車で一階の地面へと降り立つと、救助のために必要な毛布やらロープ道具に工具を積み、レジの横に自分の財布から出した現金を置いて飲み物やお菓子などを車に積み込んだ。


 よし! 行くぞ!!


 工藤はゆっくりと前方の大きなクボミやら小山に注意して四駆車を操作して走らせると時折、クラクションを鳴らして自分の存在を周囲に知らせた。

 そして車を止めては屋根に上がり四方を見渡しては再び車に乗り込んで発進させるを何度も何度も繰り返した。

 走ること一時間、何処まで行っても荒れ果てた地面ばかりで文明の形跡すらなく木の草も生えていない東北震災のようなガレキは何処にもなく全て洗い流されたような状態だった。

 四駆走行の所為か燃料の減りが早く何処かにスタンドはないかと心ならずも見回すが出るのは溜息ばかりと、何気なく車内を見回せば携帯電話があって工藤は急ブレーキを踏んで携帯電話で災害情報を聞こうと慌てた。

 だが携帯電話からは災害情報は聞けなかたった。

 

 くそ!! 壊れてやがる!!



 工藤は携帯を助手席に放り投げるとラジオに目を向け手を伸ばした。

 ラジオなら何か災害情報をやっているかも知れないと思った工藤の手を震わせてチューニングを始めたがサァーっと言うノイズばかりで何もラジオは発してはくれなかった。

 そればかりかカーナビを付けてみると工藤は自分が今いる場所が有名デパートの屋上にいることが解かった。 工藤は真っ青になった。

 四駆マニアが好みそうな荒れた大地の上、工藤が車を止めた場所はデパートの真上に位置していた。

 ラジオも鳴らない。 カーナビも役に立たない。 携帯も鳴らない。 テレビもつかない。

 工藤は自分が何処かにタイムスリップしたのではないかという妄想にさえかられた。

 そんな工藤は紛れもない大都市のど真ん中に居た。

 


【三話】



 工藤はそれでも誰か生存者はいないか必死に捜索活動をしていたが陽の傾きで時計を見た工藤は止む無く車を反転させた。

 道路も標識も何もなくなったこの場所では真っ暗な中で唯一の文明の財産であるスーパーマーケットに辿り着けないと不安にかられたからだった。

 現に陽の陽射しを受けながらも何処をどう走ってきたのか殆ど記憶はなく戻ろうとしてもスーパーの場所も見えなくなっていた。

 

 探さなきゃ! 俺が遭難しちまう!



 工藤は所々に残っていた自分のタイヤの跡を見つけては来た道を戻るしかなかったことに苛立ちを覚えた。

 走ってきたのは真っ直ぐではなく途中何度か右やら左に曲がったこととドンドン陽が傾いてきたことが原因だった。

 そして燃料系を見れば満タン近くあった燃料は半分に減っていたことが工藤を追い詰めた。

 

 何処だ! 何処なんだ!



 ガタガタと揺れる車内で工藤はタイヤの痕跡だけを頼りに車を進めた。

 そして戻ること数時間、陽が夕日に替わろうとした頃、探し回っていた懐かしいスーパーマーケットの建物を前方に見つけた工藤は安心感から咽び泣いた。

 ラジオも携帯もカーナビもテレビも役に立たない場所で一人ぼっちの工藤は車の灯りがスーパーの窓に映った瞬間、無事に帰還したのだと溜息を付いた。

 

 腹減った……



 工藤は懐中電灯を頼りにスーパーへ戻ると食品コーナーに移動しそのまま食べられる物はないかと探し警備員室ら持ってきたハムやパンやらを貪り食った。

 そして一服する間を惜しんでスーパーの室内に備えられている緊急用の懐中電灯を外に持ち出し要所、要所に点灯させ誰かに見つけて貰おう作戦を展開し、警備員室に持って来た食材の値段分を財布から出すと空き瓶に入れタバコに火を灯した。

 工藤は懐中電灯を天井にブラ下げ静まり返った室内で店内から見つけてきた非常用のラジオをつけてチューニングしたがノイズ以外の何も語ってはくれなかった。

 

 警備日誌。

 本日は晴天ながら客足一つもなく店は休業状態が続くも警備を遂行した。 食品売り場にて無断にて水と食料を調達、代金を空き瓶にいれ保管。



 工藤は懐中電灯の下で机に向かい警備日誌を記録すると狭い簡易ベッドに潜り込んで眠りに落ちた。

 そして数時間が経過した深夜0時過ぎ大きな余震に目を覚まし毛布で頭を守るようにジッとして終るのを待つと余震は収まりいつのまにか眠りに落ちた。

 翌朝、目を覚ました工藤は制服の乱れを直し洗顔すると歯ブラシがない事に気付き早速売り場へと出かけた。

 深夜の余震で陳列棚から落ちた商品が床に散乱していて、それを避けるようにコーナーへついた工藤は一週間だけ使えればいいと安値の物を買い求め、序に朝食用にとパンとミルクを購入した。

 巨大地震から二日目の朝、工藤は一人ぼっちの警備室でミルクを飲みながらパンを口に入れた。



 明日で三日目か… ミルクはもう駄目だな……



 早々に朝食を終らせた工藤は警備員室を出ると倉庫へ向かった。

 車に入れる軽油がないかとの思いからだった。

 真っ暗な倉庫に懐中電灯を持って入る工藤は何か悪い事をしている気になりながらもドラム缶はないかと探し回った。

 大きな山積みになっているダンボールは本来なら売り場に陳列されたであろう物品であるに違いなかった。

 電灯で照らして見ると「要冷凍」や「要冷蔵」の印刷があって工藤はやるせない思いでいっぱいになった。

 そして山積みの荷物を交しながらシャッターの方へ近付くと横の方にドラム缶が数本立っているのを見つけた。

 工藤は口元を緩めドラム缶に近付くと急いで工具を使ってフタをあけて見た。



 軽油だ! やった! 軽油があったぞ!



 工藤が見つけた軽油は非常用電源用とかかれた八本のドラム缶だったが、それを見た瞬間、工藤は顔の表情を変えた。

 工藤は店のどこかに発電機があることを知ると慌てて発電機を探し回った。

 そして見つけた非常用発電機と書かれた縦1.5メートル、横2メートル程の大きな発電機は殆ど新品だったことに工藤は喜んだ。

 工藤は紐でブラ下げられた使用説明書を読みあさるとエンジンを回してみた。

 大きな音と共に黒煙を吐いて発電機が回ると一斉に倉庫内の非常灯が点灯し始めた。



 やったあ!! これで灯りは確保したぞ!!



 工藤は飛び跳ねて大喜びし発電機の傍の壁に貼られた非常電源見取り図というのを見入って店内の何処に電気を伝えられるのかを頭に殴り入れ、分電盤のスイッチを見て要らないと思われる箇所を停電させた。

 そして再び発電機を止めるとポリ缶にポンプを使って外に止めてある四駆車に給油を開始した。

 工藤の顔に希望が溢れた。

 


【四話】




 巨大地震から四日目の朝、工藤は物凄い悪臭に目を覚ました。

 そして悪臭の方へと足を急がせるとその根源が食品売り場と調理場から来ていることに納得した。

 腐って悪臭を放つ肉や魚に野菜は居るだけで目が痛くなるほどで呼吸するのもやっとだった。

 予期していた通りのことが現実に目の前で起きていた。

 工藤は店にある一番大きなカーゴを調理場から持ち出すとゴム手袋をつけて片っ端から積み込むと室温三十度の中を外と何度も往復した。

 悪臭に目覚めさせられてから夕方七時過ぎまでこの作業は継続された。

 勿体無いと思いながらも工藤は時間を追うごとに臭気を発する生物を無心になって店外へと運び出した。

 店の外は昼間の熱気が残っていて無風になると匂いが篭って更に塩臭さも混じって海岸にでもいるかのようなだった。

 

 冷凍庫や冷蔵庫の中は凄いんだろうな……



 工藤は涼しくなる深夜から早朝にかけて気の遠くなるような作業を黙々と一人でこなした他に床に割れて飛び散ったビン類を片付けて朝を迎えた。

 店の外の穴に入れた腐った生物に銀ハエが集って何処からか飛んで来たのだろうかカラスの群れが黒々と穴を覆っていた。

 それでもまだまだ倉庫にも要冷凍や要冷蔵ものが箱が山のように積まれていて、それを見る工藤はうんざり顔だった。

 そして倉庫のシャッターをあけて一気に出そうとしたがシャッターは微動だにせず工藤は仕方なく通用の小さなドアから一箱ずつ手で運んでいたがどうにもならない苛立ちに傍に停められていたフォークリフトを動かしてみた。

 無資格者の運転を禁ずるという貼り紙を破り捨ててエンジンを掛けてレバー操作の練習をした工藤は「何とかなる!」と、箱が詰まれたパレットという台座にフォークを差込壊れて動かないシャッターに突進していった。

 

 ドッカーーン!! バシャバシャバシャ! ザザザザザザアー! バアァーン!!



 工藤の乗った荷物を積んだフォークリフトは壊れたシャッターを破壊して押し出すと荒地に敷かさるように倒れ、その上を荷物を積んだフォークリフトがガシャガシャと音を立てて進んだ。

 これなら行ける! そう思った工藤は次から次へと腐った生物の入った箱を外に運び出しカラスの餌にした。

 思った通りカラスたちはたちまち黒々の塊になって箱を勝手に開けて中身に夢中になった。

 こうして倉庫の中の山積みの生物は一気に片付き乾物の入った箱だけを倉庫から店内の小部屋に移し終えると日没近い時間になっていた。

 腹を空かせ体力の消耗した工藤は食品売り場に来ると五日間口にしていない米を見ると警備員室に運んだ後、再び売り場に来て鍋とペットボトルの飲料水を、そしてシーズン中だということで置いていたのだろう炭とバーベキューセットを買い求めて警備員室に持ち込んだ。

 オカズはパックの漬物とフリカケだけだったが、工藤は久々に腹いっぱいの米の飯に満足した。

 警備員室のビンは工藤の財布の金の殆どが入り残金も僅かになってしまった。

 銀行があれば引き出しに行けるのにと冗談を言っては一人で爆笑する工藤真一だったが、連日の排出作業で汗だくだった工藤は匂いの染み付いた制服とワイシャツとズボンと革靴を悪いと思いながらもゴミ袋に脱ぎ捨てた。

 着替えを持っていなかった工藤はパンツ一枚で衣料品コーナーへ出かけるとパンツと上下のスウェットを見つけ値札を見ながら一番安いトランクスは三枚で九百八十円、スウェットは上下で二千九百八十円をゲットした。

 あとは風呂だなと排出の時に見つけた非常用の貯水タンクから水をくみ上げ使われていない水槽に水を入れると冷たい水温がらも工藤は歓喜して久々に身体の垢を流した。

 衣食住の設備も食い物も水もあると自分に言い聞かせながらバスタオルを首に下げ、空き瓶にカードを入れて一服し売り場から持って来た温い缶ビールを喉に流した。

 そして店内で見つけてきたキャンプ用の乾電池で灯る蛍光灯を点灯させると発電機まで歩いていきエンジンを切った。

 

 ここも塞がなきゃな……



 フォークリフトで破った縦横三メートほどのシャッターのあった場所を蛍光灯で照らした工藤は大きな溜息を付いて、外の遠くに明かりは無いか目を凝らすと小さな余震が始まった。

 米の飯と風呂と酒で満足した工藤は警備員室で相変わらずノイズしか聞こえないラジオをチューニングしながら疲れ果てた身体をベッドに沈めた。

 そして翌日、目覚めた工藤は再び車で街の様子を見てみようと外に出て見ると小ぶりだが雨がパラ付いていた。

 

 危険だなこんな日は……



 工藤は出かけるのを止め住居にしている警備員室を快適にしようと考えた。

 預貯金が残高は百万ほどあったのを記憶している工藤は空き瓶に入れたカードをチラッと見ると衣料品売り場から布団の三点セットを購入し警備員室に運ぶと再び戻りカーベットと洗顔用品、小さな家電スペースにあった三百六十円の音楽CDを購入した。

 CDラジカセは食品コーナーにあった売り出し用のを拝借し調理場にあった扇風機を再び拝借した。

 限りある燃料を節約するため発電機を使えるの一日数時間と決めた工藤は壁に貼り紙をして見詰めた。

 そして発売日を一週間経過した漫画雑誌を警備員室に持ち込んだ工藤は好きでもない漫画雑誌を見て時間を費やした。

 静まり返った店内と警備員室に聞こえるのは時折来る余震と震動で何かが落ちた物音だけだったが、漫画雑誌を読むには丁度いい空間だったかも知れない。

 だが工藤はこの店の警備にきてからの警備日誌は小まめに詳細を記入していたが「本日は客足なく…」という文面は必ず入られ日誌に正確な労働時間も記入された。

 翌日再び晴天に恵まれた工藤は車に倉庫から持ち出した物干し竿を山積みした。

 そして車で移動する五百メートル単位に目印の棒を起て「ここで待っていてくれれば助けに来ます」と、メモを結びつけて車を走らせた。 

 万一誰かが通りかかれば待っていてくれるかも知れない。 店の場所を記しても上手く辿り着けなければかえって危険と判断したためだった。

 工藤は百本近い物干し竿を夕方の三時には立て終えて岐路につきながらも別のルートを試みた。

 だが何処を走っても見渡しても荒れ果てた大地が広がっているだけだった。

 そして店まで残り三十分という頃、工藤はオビタダシイ量のチェーンに繋がれた古タイヤを発見した。



 
 これは使える!


 工藤は持って来た一番長い物干し竿に真っ赤な切れ端を旗のように結び付けると小高い場所に竿を起て古タイヤをチェーンから外すとロープにタイヤを数本結び付けて車で引き摺って店に戻って来た。

 古タイヤを燃やして黒煙を出せば遠くからでも発見してくれるかも知れない。

 工藤は逸る気持ちを押えながらも辺りを見回して店から百メートルほど離れた場所で焚き火を始めた。

 タイヤは物凄い火力で燃え煌々と黒煙を青い空に放ち工藤は「これなら!」と、表情を軟化させた。

 車で引き摺ってきたタイヤは全部で十五本、工藤はタイヤが燃え尽きる一本当りの時間を時計で計りながら周囲を見回して誰かが見てますようにと祈った。

 

 夕方の五時、工藤は鎮火を確認して店に戻ると屋上に行き空調設備の建物の上によじ登り周囲の人影を探した。

 向かって来る車はないか、ヘリコプターや飛行機は飛んでないかと右を向けば慌てて左、左を向けば再び慌てて後と言う具合に居ても立っても居られないという言葉通り忙しなく見回し続けた。

 だが何処にも店に向かって来るモノは発見できず工藤はガックリして屋上から下へと降りた。

 このまま誰も助けに来ないのではないかと暗い気持ちになったものの店内に戻ると再び工藤は顔を曇らせた。

 食品売り場から発する悪臭は工藤に我を忘れさせた。

 調理場の冷凍庫や冷蔵庫の中身を、倉庫で見つけた一輪車に積み込んで破ったシャッターの側から外へと排出した。

 工藤は翌朝までかかって冷凍庫と冷蔵庫の腐って溶けた汚物を殆ど排出した。

 今までで一番の悪臭だった。 そして休む間もなく貯水槽の冷たい水で身体を洗うと着替えて腹を満たすべく食事の支度に取り掛かった。

 

 もうここには腐るものはない……



 安心した工藤は発電機を動かして店内の空気清浄を三十分間行ったあと発電機を止めると御飯が炊けるまでの間、缶詰と真空パックの漬物を買い求めた。

 そして警備員室に近付くと御飯の炊ける良い匂いに腹の虫も頻繁に泣き始め、慌てて晩飯とも朝飯ともつかない食事に舌堤を打った。

 



【五話】



 巨大地震から救助隊も助けを求める人もないまま八日が過ぎ工藤は焦っていた。

 飲料水はあるものの貯水槽の水が残り僅かになっていて身体を洗うことも満足に出来ない状態が続いていた。

 気温は昼間で三十四度を越え夜になっても三十度を下回ることがなかったことで眠れぬ日が続いていた。

 何とかしなければと思いながらも妙案は浮かばず店内に別の貯水槽は無いかと探したが二つもあるはずはなかった。

 そして期待するに及ばない雨は降る気配なく外はカラカラに乾いて荒野化にいっそうの拍車が掛かっていた。

 海水が流れ込んだであろう所為で土の中に滲み込んだ塩分が草木の生育を妨げていた。

 風が吹けば乾いた土ぼこりが舞い上がり外では目を開けている事も出来ないほどだった。

 このまま行けば洗顔やヒゲ剃りは出来ても身体も洗えず洗濯することも出来ない日が続くと焦りながらも何も出来ない自分に苛立ちを覚えた。

 店の近くにある巨大な湖の前に何度も足を運んでは思案したが塩水では使えるはずもなく魚がいるのか時折水面を跳ねる魚を目撃していた。

 水がここにあるのにと悔しさを滲ませて店に戻った工藤の何気ない視線の向うに子供向に販売していたのか大人でも二人は乗れそうなビニールボートを見つけた。

 

 あそこって深いのかな……



 工藤は店内から二百メートルの荷造り紐を二つとビニールボートを購入すると、荷造り紐の先端に小石を結び車で移動して水辺にビニールボートを浮かべた。

 店内で見たボートは大きかったきずなのに水に浮かべると怖いほど小さく見えた。

 工藤は意をけっしてボートにオールを組み立て上に乗り込むと万一に備えて浮き輪を膨らました。

 そして半径五百メートルほどの中心に向けてボートを漕ぎ続けたがボートの下は太陽の光も届かぬのか真っ黒で恐怖を感じた。

 そして中心あたりで小石を付けた荷造り紐をゆっくりと垂らしてみると二百メートルあった紐はドンドン飲み込まれ、二つ目を結んで再び降ろしたが結局、四百メートルの荷造り紐は水に飲まれてしまった。



 そんな馬鹿な!!



 工藤は一度、店内に戻ると紐を六個買い求め再びボートを漕いでチャレンジした後、突然恐怖の奇声を発して岸へとボートを漕いだ。

 ボートの上で工藤が使った荷造り紐は全部で八個、千六百メートルに達していたことへの恐怖だった。

 工藤はボートを車に積み込むと無我夢中で店に逃げ帰り布団に頭を入れてガクガクと全身を身震いさせそのまま眠ってしまった。

 そして夕方目覚めた工藤は汗だくの身体を乾かそうと店の玄関の横に置いた箱で作ったベンチに座り熱い陽射しに背中を向けた。

 雨を期待して玄関横に並べたプラスチックケースは土ホコリだけが蓄積し時折、土ぼこりを舞い上げた。

  

 冷えたビールが飲みてぇな……

 

 工藤は照り付ける太陽の中に缶ビールを例の水に沈めて冷やす作業をする自分を見た。

 だが工藤はあのとてつもない深い場所のことを考えた瞬間、身体がすくむ思いがした。

 あそこに沈めれば大抵のものは冷たくなるはずだと思いながら乾いた地面を靴底でえぐって悔しがった。

 

 何か無いのか!



 工藤は車へ走り飛び乗るとエンジンをかけてカーナビを起動した。

 何かの施設が残っているかも知れないと咄嗟に思った工藤はカーナビで自分が探索した場所以外に視野を広めて画面に食い入った。

 カーナビには巨大地震の前の街並みが映し出されていて街の外れに大きな川があることになっていたがソコは車で二時間は走る距離だった。

 工藤は諦めて店の中に戻ると突然の地震に見舞われた。

 ガタガタガタと建物が揺れる強い音がして店内の照明が大きく揺れアチコチの陳列棚が倒れた。

 商品が散乱し床にヒビが入り窓ガラスはアチコチで音を立てて割れ商品の入ったキャスター付きのワゴンは右に左にとガシャガシャと動き回った。



 うわあ! こ、これは大きいぞ!!



 工藤は車に箸って行くと中において置いたヘルメットを装着し車のドア掴まって身構えた。

 下からドスンドスンと突き上げる地震は東北震災の時の揺れと略同じだと工藤は直感し顔色を変えた。

 しがみ付いている車はバウンドするのように縦に揺れ辺りを見回す工藤もまた大きく揺れた。

 すると突然、何処からか耳の鼓膜が破れんばかりの地響きが空気を振動させ靴をブルブルと小刻みに揺らした。

 

 バリバリバリ! ドドドドド! ズドドドドドド!



 工藤は息を飲んで車にしがみ付いて辺りをキョロキョロと見回し巨大な土ぼこりの舞い上がる遠くに目を細めた。

 煌々と立ち上る土煙は夕日に染まった空を多い尽くし見る見る間に地表を真っ暗にした。

 すると突然どこからか大量の水が流れる洪水のような爆音が辺りに鳴り響いた。

 巨大地震の中で真っ暗になった場所に聞こえた巨大洪水の爆音は工藤を失禁させるほどの恐怖に駆り立てたが巨大洪水の爆音はコチラには向かっている音でないことに工藤は大きな揺れの中で安堵した。

 そして三十分ほどして巨大地震が治まると真っ黒だった空も夕日色に戻ったが巨大洪水の爆音だけは続いた。

 工藤は真っ青な顔して地面に両膝を付くと大きく何度も深呼吸し、数分後立ち上がって巨大洪水の音のする方を見ようと店の屋上へと駆け上がると、あの恐ろしいほどの水深のあった場所に数十メートルの山が出来ていて、その周囲に水が溢れたようにアチコチに流れているのが見えた。

 その光景は工藤は全身をブルブルと震わせ再び失禁するほどの恐怖だった。

 轟々と爆音を上げて流れ広がる水の量は高さ数十メートルにまで上がり店のある高台の直ぐ下まで近付いていたが、幸いにも低い方へと流れていたことに工藤は胸を撫で下ろした。

 水深千六百メートルの沼は一瞬にして小高い山に変化し車で数時間走る辺りまで流れ広まっていた。



 これじゃ誰かいても助からない……



 工藤は愕然として真っ青になって床に崩れ、辺りが真っ暗になった数時間後まで恐怖の洪水音は続いた。

 そして夜の十時ごろようやく音が小さくなって来た頃、工藤はゆっくりと立ち上がると失禁して濡れたズボンを脱いで持ち一階へと降りて行った。

 この世の物とは到底思えない恐ろしい光景は工藤の脳裏に焼きついた。

 この夜、工藤は「大洪水のため客足なく…」と、警備日誌に記帳した。

 

 
【六話】

 

 

 工藤が目覚めたのは早朝の四時、激しい蒸し暑さの所為だった。

 湿式サウナが好きだった工藤でさえ余りの辛さに耐えかねての目覚めだった。

 何かある。 そう思った工藤は先日買い求めたトレーニングパンツを履くと玩具の双眼鏡を持って上半身裸のまま店の玄関へと駆けつけた。

 工藤は割れた玄関のフードから上半身わ外に乗り出すと一面の地面は激しい湿気で「もわぁっ」と、蒸気を発していて高濃度の塩臭が辺りを覆っていた。

 停めてあった四駆車はタイヤが半分まで土に埋まり外に置いていたモノはその殆どを土に埋めていた。

 前夜の大洪水の水が地中を浸透し上まで上がって来たのだった。 そして店を出て振り返ると店自体ね三十センチ近くが沈んでいた。

 そして屋上駐車場へ走った工藤は裏側に続く傾斜の向こうを見た。

 

 何てこった………



 工藤が何日もかかって立てた物干し竿は全て倒れ、少し先の方に立っていた物干し竿は流されたのか何処にもなかった。

 首から下げた玩具の双眼鏡を両手で持って見回すと少し先からは案内表示のために立てた物干し竿は全滅していることがわかった。

 そして沼の方を向けば巨大地震で出来た数十メートルの高台の下にあったはずの水深千六百メートルの沼は消失していた。

 

 なんて馬鹿力なんだ! 



 工藤は改めて地震のパワーに両肩が吊る思いがして双眼鏡を握り締めた。

 だが玩具とは言え肉眼の数倍は見える双眼鏡が店内にあったことは喜びに値に再び辺りを見回すと一面が湿地帯のようになっているのがハッキリ解かった。

 そして水の流れた方向に目を凝らしてもう駄目だと肩をガックリ落とした工藤は今度は店の正面、緩い斜面の上方向に双眼鏡を向けた。

 すると太陽の光に反射する沢山の何やらキラキラと光るモノに目をうばれた。



 水か!?



 工藤は前夜の大洪水の光景を脳裏に蘇らせ背筋を凍らせた。

 あんなモノが傾斜地の上にあったらここはひとたまりも無いと、双眼鏡を持つ手に力が篭められた。

 行って見よう! 

 そう思った工藤は怯える表情を浮かべボートを積んだ車で移動した。

 緩い傾斜地とは言え抜かるんだ地面はさながら四駆のクロスカントリーを思わせた。

 そして走ること数百メートルの地点に来た時、半径百メートルほどの池に到着した。

 太陽に反射する水面は澄んでいて美しすぎるほどに美しく荒地の中には相応しくないとさえ思いながら辺りの様子を探った。

 

 文明の形跡なしか……



 車からボートを下ろした工藤は余震に不安を募らせながら積み置きした小石を結んだ紐をボートに積むと池の中心を目指して漕ぎ始めたが工藤の両手は緊張から汗ばんでいた。

 そして中心部に到達した工藤が小石の付いた紐をゆっくりと息を止めて下ろし始めると数分で水底に小石は止まった。

 えっ!? こんなに浅いのか!?

 工藤は小石の付いた紐を方々に何度も何度も投げ入れて数メートルの水深を確認し、徐々にその緊張した顔には笑顔が浮かび始め、大きな深呼吸をして胸を撫で下ろした。

 そしてボートを漕いでアチコチへ移動しては同じように水深を確認した工藤は岸よりの水面の下、底から水が湧いているのを見て喜びと恐怖の二つを一度に感じた。

 


 チャポンッ! 美味い! 美味いぞこの水!! 冷たくて美味い!


 工藤は恐る恐る水面の水を両手で掬い上げて飲んでみると、その冷たさと泥臭さの無い水に思わずガッツポーズを決めた。

 これを一キロ下の店まで引けば何とかなる! そう思った工藤は早速、店に戻って店の倉庫で使えそうな塩化ビニール管を探し始め二時間後、車の屋根に積めるだけのパイプを積んだ工藤は一本、また一本と気の遠くなるような配管作業を繰り返した。

 勿論、工藤には配管の経験は無かったが学生時代にバイトでつちかった「見よう見まね」の記憶があったのが功を奏した。

 そして接着剤が無いことから温泉の湯引きのように、一本のパイプを置いたら一段低くして水溜りを作ってからソコに再びパイプを設置して行った。

 これを六百メートルもの間を繰り返すのだが工藤には余りある時間があった。

 だが最も功を奏したのは幸いの緩い傾斜地と倉庫に眠っていた何かの修理に使うために保管されていた大量の塩化ビニール管の存在だった。

 工藤は翌日も、そしてその翌日も水引に全力を注いだその結果、六百メートルの配管作業は一週間ほどで完成した。

 だがそんな工藤に終止付き纏うのが地震の存在だった。

 地震がくれば一週間の苦労も一瞬にして終りを向かえ、同時に再び大量の水が発生するかも知れないという危惧は考えただけで工藤の首をすぼめさせた。

 何かいい知恵は無いかとパイプを通って来る水を見詰めていた工藤は、パイプから落ちた水が工藤の足跡に沿って流れる仕組みに着目した。

 子供でも解かる理屈だが、地面に落ちた水は最初の地面の形に沿って流れてから様々な方向へと誘導されて流れる。

 工藤は白い歯を出して笑顔を見せると、ツルハシとスコップを手に池へと出かけた。

 この日から工藤の一大土木工事が始まった。

 深さ二メートル、幅三メートルの土の溝は池の直前に掘られ、百メートル先の一段低い場所へと向けられた。

 この大土木工事は完成まで無数の小さな地震の中で一ヶ月間も続けられ、工藤は真っ黒に日焼けして白い歯だけがギラギラしていた。

 気温三十五度の炎天下でもそんな工藤を支えたのはゆっくりと湧き上がる冷水のお陰だったことは言うまでもない。

 ただ工藤はコンコンと湧き上がる冷水が何故もこんなところにコンコンと湧き上がるのか不思議でならなかったのと、その間に救助隊の姿はなく空を飛ぶものは白い雲だけだった。

 そんな工藤が店番と専属の警備員をしてから既に二ヶ月を迎えようとしていた。

 



【七話】



 懸案だった水の心配も要らなくなった工藤は既にこのスーパーの物知り博士のような存在になっていた。

 何処に何がどれだけあって何処にどれだけの破損があるのか、工藤は店長でさえ恐らく知らないであろう屋根裏の構造でさえも熟知していた。

 カウンターのレジの中の現金は全額を警備員室のベッドの下に保管し万一の盗難に備え紙幣の番号さえもノートに書きとめてあった。

 だがこれだけ店の知識を持ちながらも未だ入っていない場所が一つだけあった。

 それは店の奥にある事務室だった。

 警備員とはいっても正規就労場所に指定されていない工藤にとって無断で事務室に入ることは就業規則に著しく違反するものだった。

 どのみち入ったところで電話が繋がっている訳でもないことは百も承知の工藤にとって何ら魅力のある場所ではなかったようだ。

 実際のところ携帯電話もラジオもテレビも電波の来ないこの場所では有線電話など何の役にも立たなかったし必要な物は衣食住の三要素だけだった。

 そんな工藤であっても地震も少なく小さくなっていて蒸し暑い夜なら冷えたビールの数本も飲むこともある健康な男子。

 趣味ではない漫画雑誌も一通り読み終えて、見るモノが無くなると再び売り場へ移動し読む習慣のない卑猥なコミック数冊を手にして警備員室に戻る。

 どうせ解からないからどれでもいいやと持って来たコミックだったが部屋に戻ってベッド座って見てみれば、レイプ物に痴漢物に人妻の浮気物といった内容に大きな溜息をつく。

 だがその中のレイプ物を手に開いた瞬間、忘れていた独身男の営みであるマスターベーションをしていないことに気付く。

 恐怖と戦いながら悪戦苦闘する生活において二ヶ月近く排出していないことに苦笑いを浮かべた工藤は、スーツスカートのまま両手を後に縛られて辱めを受けるOLの姿に見入った。

 自由を奪われ泣き叫ぶOLのブラウスの胸元を肌蹴させ、スリップとブラジャーの肩紐を両側から外すヒゲ顔の日雇い労働者風の中年は、Cカップほどの白いプリンプリンした乳房を両手で鷲掴みしピンク色の乳首に唾液を唇から溢れさせて貪りつくページに見入ったままページを捲る手が止まった。

 首を左右に激しく振って涙を頬に伝える美人OLの泣き叫ぶ顔をチラチラ見る日雇い労働者風の中年は。

 頭に結んだ薄汚れた手拭の鉢巻が覆うバサついた髪の毛が激しく揺れ臨場感を高めていた。

 ニッカポッカに地下足袋(たび)姿の中年は白く柔らかい乳房に貪りつつ彼女のブラウスを再び両手でグイッと背中まで押し下げ、下半身へと手を伸ばすと黒いパンティーストッキングに包まれた彼女の膝辺りを嫌らしい手付きで撫で始めた。

 

 イヤァァァー! ヤメテエェェー!!



 脚に感じた嫌らしい手付きに泣き叫ぶOLをニヤニヤして目を細める日雇い労働者は膝に這わした手を更に上へ滑らせストッキングの上から忙しくOLを恥辱した。

 工藤はたった一ページに食い入るように見入ると右手を股間にズボンの上からモミモミし始めた。

 そして二ページ目を捲ると日雇い労働者は彼女の下半身を覆う黒いタイトスカートの中にゴツゴツした手を入れ外側から抱くようにして太ももを触りまくった。

 彼女は苦痛に満ちた表情をし首を右に左に大きく振ると顔を歪め悲痛な面持ちで両脚をバタ付かせてた。

 日雇い労働者はそんな彼女からスカートを慌しく奪いさると宙に放り投げ部屋の中には彼女の絶叫が鳴り響き、日雇い労働者は身体を彼女の下半身へと移動させるとバタ付く両足を両手で掴んで開かせ黒いパンティーストッキングの上から歓喜して恥かしい部分のに顔を押し付け凄まじい吸引力で匂いを嗅ぎ始めた。

 

 がっははははは♪ 臭せえぇ臭せえぇ♪ 澄ました顔しやがってココはこんなに臭くしてやがる! 匂いが内モモまで滲み込んでやがる♪



 日雇い労働者は彼女の恥かしい匂いを思い切り嗅ぐと内モモにまで鼻先を滑らせ満面の笑みを浮かべて泣き叫ぶ彼女を言葉で痛めつけた。

 彼女の両脚は男に抱きかかえら膝下だけをバタ付かせながら恥かしい匂いを嗅ぎ続けられやがて彼女を包む黒いパンティーストッキングは無残にも男の手によって破られ伝線していった。

 白いスベスベした彼女の両脚に破られ伝線したパンティーストッキングが糸状(イト)になって絡みつき男の中で嫌らしさが増した。

 そして日雇い労働者は彼女の両脚に絡まる伝線した黒い糸状が絡まる太ももを唾液を滴らせた舌で舐めまわし、好きでも無い男の生暖かい唾液が肌にオゾマシさを残しベトベトになって彼女の背筋を凍らせた。

 唇を小刻みに震わせて観念したかのようにOLの目が閉じられると、日雇い労働者の男の両手が彼女から伝線したパンティーストッキングを脱がし太ももを両手で広げて押し上げ白いパンティーの縁に沿うように男の舌がチロチロと滑った。

 太ももの付け根を舐められた彼女は全身の筋肉を硬直させ脚の爪先をピンッと伸ばしてそのオゾマシさに耐え忍んだ。

 男の舌はパンティーラインに沿って太ももの付け根を舐め回し時折パンティーの上から彼女の恥かしい匂いを嗅いではニヤニヤ目を細めた。

 だがOLは感じてはいけない感じてはいけないと、必死に自分に言い聞かせ震える唇を噛み締めた。

 そして男の舌が太ももを内側と外側を味見し終えると再び膝裏を通過しフクラハギを経由した後、パンプスま中で蒸れに蒸れた足の爪先へと揖屋らしい音を滑らせた。

 黒いストッキングに覆われた爪先にムッチュゥっと被りつく中年のブ厚い唇からは粘着液のような唾液の糸が滴っていた。

 酸味の利いたOLの爪先は中年の口の中でチュゥチュゥと音を立てて吸いシャブラレた。

 

 シュッシュッシュッシュッシュッ……


 
 工藤の右手は空気を斬るような早い動きと、男性特有の震動を座るベッドに伝え軋ませた。

 だが二ヶ月近く溜まっていた男の液体は僅か二ページで終焉を迎えたが、これだけでは満足できないのか三ページ目を開くと一度目を終えたばかりだと言うのに工藤は驚くべき回復力を見せた。

 シコシコシコシコと激しく動かす右手は休むことを忘れたようにOLのパンティーが剥ぎ取られた三ページ目の後半で短い終焉を再び迎えた。

 工藤から排出された粘度の高い液体はティッシュペーパーを拳骨大に丸められ屑篭に捨てられたが、工藤は完全には燃焼しきれていなかった。

 ブラリと垂れた肉塊の根元を中指と親指で挟んで押さえた工藤はそのまま先っぽへと中に残った体液を絞り出すとティシューにドロリと排出すると大きな溜息をして壁にもたれた。

 そして再びコミックのページを開こうとした工藤はバサッとベッドに放り投げて別のコミックを手に持った。

 

 何だこれ……?



 工藤は壁にグッタリともたれて両手でコミックを開くと右手でページを捲った。

 再びバサッとコミックをベッドに投げ出し傍の子机の上から缶ビールを手に取ってクビクビと喉に流し込むと大きなゲップをして缶ビールを置いた。

 そしてコミックを左手に持った工藤の手は二ページめを捲ると速読のごとく次ページ次ページと進み始めた。

 それは十代の男子高校生が女装に目覚めて少しずつ女化していくストーリー展開だったが、漫画慣れしていない工藤にとってそのコミックは別の異世界のようで内容に興味を魅かれた。

 そして数十分後、工藤はそのコミックの前後作が無いかとトレパン一枚で懐中電灯を持って売り場にその身を置いた。

 真っ暗な売り場の書籍コーナーに小さな懐中電灯がボンヤリと、壊れていない窓に映し出されジッとして動かない工藤が薄く重なった。

 工藤は警備員室に行くのも面倒だとその場に直座りしてコミックの後作品に目を凝らした。

 今までの人生の中で考えたことも想像したこともない異世界は工藤の人生観を変えるのではないかと思えるほどの勢いでページを進めさせた。

 そして一冊、二冊、三冊と人気漫画家のコミックは床に縦積みされていき五冊目を読み終えた時、工藤は暗闇の中で両目を大きく見開いて一点を見詰めた。

 

 その視線の先には………

 


【八話】

 


 

 懐中電灯を片手に暗闇に身を置く工藤はドキドキし胸の中をモヤモヤさせていた。

 地震の片付けの時、度々目にしていたはずの衣料品コーナーの商品たちは静かにワゴンの中で懐中電灯の光に様々な色や形を見せる。

 パンティーにブラジャーにスリップにタイツにパンティーストッキングが、敢て気にして見るとそこら中に横たわりそして吊るされて妖しく懐中電灯の光を照り返す。

 男物とは違う薄い生地の柔らかそうな素材で出来たスリップは、工藤の息でユラリと揺れ手に取ったフワリと透けるパンティーは熟した女性を覆うにしてはキャシャすぎると工藤は違和感を覚えた。

 黒、ブラウン、グレー、白系の色とりどりの包装されたパンティーストッキングとネットタイプに目を奪われる工藤は立ち止まってマネキンが下半身を包む黒いネット柄のパンティーストッキングを見た瞬間、動きを止めた。

 普段の職務では立ち止まって見ることさえ出来ない禁じられた性別である工藤が、今、こうして足を止め誰の目も気にすることなく異性の身につけるモノを見れる喜びを工藤は感じていた。

 様々な色の様々な形をしたスカートやワンピースとブラウスは仄かに女性の甘い香りを漂わせているかのように思えた。

 衣料品コーナーは今の工藤に食料品コーナー以上の魅力を感じさせていた。

 工藤の頭の中にはコミックに描かれていた女装男子の身につけていた衣類が都度思い出されショートパンツを目で探し終えるとニーソックスを無意識に探し求めていた。

 可愛らしい十代の女の子の衣類から成熟した女性の衣類、そして熟した女性の衣類へと工藤の目移りは激しくそして忙しく。

 そして壁の隅っこに追いやられた床に放置された化粧道具の入ったケースを拾い上げれば中にある用途の解からないモノに混乱する。

 


 着て見たい…… 肌に滑らせて見たい……


 強い物欲に駆られながらも、ここにある物を身に付ければ心のモヤモヤも晴れるに違いないと思う半面、警備員でありこの店の管理者である自分が恨めしくて仕方なかった。

 だがそこを曲げて購入しても、自分がつけている帳簿に記載しなければならず、嘘を記入すれば己の良心に反すると思う工藤はランジェリーに囲まれ床に斜屈んで暗闇で考えた。

 嘘を記帳せずに真実を記帳しつつ男の自分が買ったとバレない方法を考えたがそんな方法は思い浮かばず工藤は数分間ジッとして考えた。

 そして五分後、スッと立ち上がった工藤は買物カゴを取りに行くと懐中電灯で照らしたパンティー数枚と自分の丈に合わせたスリップを一枚、そしてパンティーストッキングを数枚と、同時に黒いタイトスカートとクリーム色のブラウスを買い求めた。

 工藤の胸のモヤモヤ感は籠に下着類を入れた直後から何十倍にも膨れ上がりモヤモヤ感の中にムラムラ感を練りこませて警備員室に戻った。

 警備員室に戻った工藤は自分が悪い事に手を染めている罪悪感に駆られながらも個人的に付けている帳簿には「保管箱の設置」を別紙に記載して、床に散乱したり包装紙が破れた物をそこに入れたことにした。

 そして地震で棚から落ちて割れた酒類のビンを探して代金分をそこに補填することで窃盗の罪から逃れることを思いついた。

 このまま永遠に救助が来ないならどうでもいい事なのだろうが、生真面目な工藤真一は後々まで考えていた。

 そして一件落着すると工藤はニヤニヤと嬉し恥かしを隠し口元を緩めて買物カゴから机の上に品物を並べると椅子に腰掛けコミックのオマケページに記載された女装手引書なるものを読み始めた。

 

 なるほど、パンティーは小さいから玉を上に持って来て上手く纏めるのがコツか……



 工藤は入試問題でも解くかのごとくページを真剣に見詰め時間を忘れ、フリルがタップリとあしらわれたパンティーを両手で顔の前に晒し「入るかな~」と、首を傾けワクワクドキドキしながらフェミニンなパンティーに両足を潜らせた。

 そして息を止めて両膝まで引き揚げた瞬間、愛らしいパンティーと両足のスネ毛が不釣合いなことに違和感を覚えた。

 こんな可愛いモノをこんなスネ毛だらけの足に通していいものかと、自分の足の醜さにショックを隠せなかった。

 

 駄目だ! こんなむさ苦しい足を通したらパンティーが可哀想だ!



 工藤はパンティーを脱ぎ捨てると慌てて素っ裸にサンダルだけで売り場に走り調理室にある洗面場所と決めている水槽の前に立った。

 そして洗面器で温い水をくみ上げると両足のスネ毛に掛け流し石鹸を両方に泡立たせた。

 酔った勢いとは言え工藤は生まれて初めてスネ毛を含む足の全てをツルツルに剃り落とした。

 更にページに書いてあった陰毛の処理までついでにやってしまったことで、胸まで軽く繋がっていた体毛の全てを剃り落とし、ツルツルになった肌を見て小さな溜息こそついたが更についでだと腋毛まで剃ってしまった。

 工藤は体毛が生える前の自分に戻ったようで何か嬉しい気分になった。

 そして警備員室に戻った工藤はさっき履こうとしたフリルのパンティーを躊躇(ちゅうちょ)せずに両脚に通すと一気に上まで掴み上げた。

 両目を閉じて顔を天井に向けた工藤はパンティーを掴んだまま玉がはみ出たのを知って中々、目を開いて見ようとはしなかったが、薄い生地のパンティーが股間に馴染んだのを肌で感じるとゆっくり瞼を開いて下半身に顔を向けた。

 

 うわあ! 格好悪りいぃー!



 慌ててコミックのオマケページ通りに玉を下から上に持ち上げると、パンティーの中に収まるように右手でムニュムニュ直すこと数分、遂に工藤は男の肉塊をLLサイズのパンティーに収めることに成功した。

 この時の工藤の喜びは警備員室に持ち込んだ等身大が見れる大きな鏡の前でパンティーに包まれた下半身を見る工藤の動きで解かるようだ。

 ただ小さなパンティーの中に「モッコリ」と突き出た一物から無意識に目を背ける工藤だった。

 そしてそんな工藤はページに記載されていた「初心者でも伝線させずに履く方法」と言う箇所を注視しながら、黒いパンティーストッキングを包装紙から取り出すと、片づけで購入した「軍手」を両手に装着した。

 軍手を装着して爪でストッキングを伝線させないテクニックは、女性でも初めてのストッキングに使われる手法ということで工藤は少しだけ女性になった気分を味わっていた。

 ベッドに腰掛け両足の爪の先に引っ掛かりが無いか満遍なくチェックをすると、パンティーストッキングを両手にはめた軍手で優しく掴み右足からスルリ入れ今度は左足にスルリと入れる工藤真一は胸の鼓動が高まっていた。

 スルスルと肌に滑るパンティーストッキングの心地よさに工藤は「こんなに気持ちいいモノだったのか!!」と、鼻を膨らませて胸の奥をトキメかせた。

 そして上まで引き上げたパンティーストッキングに力を入れすぎないようにして腰へフィットさせると縞にならないように手直しを入念にし終えた。

 工藤は全てオマケページに書いてある通りに実演し最後の仕上げに下半身をガニ股にして股間に確実にパンティーストッキングをフィット密着させた。

 大きな等身大の鏡の前で自分の顔を映さないように下半身だけを映し黒いパンティーストッキングに包まれた裸体に、何やら得体の知れない大く込み上げる力を感じた工藤は、ハッとした表情を浮かべると両手で顔を覆い恥かしさからベッドに腰掛けて目を閉じてしまった。

 大の男がパンティーをそして黒いパンティーストッキングを履いて鏡を見ながら官能に浸るのを客観的に考えてしまっての羞恥心だった。

 だが決めたことはきちんとする性格の工藤は、赤面しながらも自分の胸囲に合ったAAAカップのブラジャーをページを見ながら四苦八苦して装着すると、再び顔を映さないようにして首から下を鏡に映した。

 日焼けした男の身体に装着されたピンクのフリル付きのブラは場違いな雰囲気を放っていたが、工藤は鏡に映った自分を逃げることを拒否するかのごとくしっかりと見詰めた。

 そして今度はブラを覆うスリップの装着の仕方を見ながら、胸元にフリルがふんだんに使われているスリップを肌に滑らせた。

 スルスルと肌に滑るスリップの感触に癒しを覚える工藤は男の下着には無い肩紐の窮屈さを喜んだ。

 パンティーにパンティーストッキングとブラジャーにスリップと言う組み合わせは、生まれて初めて女装(おんな)になった工藤に恥かしさと照れと心地よさを全身の内側の隅々に充満させた。
 
 そしてブラウスを着た工藤の下半身を黒いタイトスカートが覆い隠した。

 

 これが俺の身体なのか……?



 工藤は等身大の鏡の前に首から下だけを様々ポーズを取っては口を半開きに驚きの表情を浮かべて見入り、スカートの下でピッタリとパンティーにフィットするストッキングが両足に擦れる度に、その擦れ感に「あん!」と、無意識に喘ぐ自分に気付いてはいなかった。
 
 ストッキングに包まれた両足が擦れる度に、そしてスカート裏生地に両足が擦れる度に工藤は経験したことのない心地よさを感じ、ブラウスの下でスリップの生地が肌に滑る癒され感に両足を立位で内側に窄めた。

 

 気持ちいい………



 工藤は慣れぬ窮屈な着衣にも関らず全身のスルリ感に切ない表情を浮かべていた。

 狭い六畳間で工藤はファッションモデルのように踊りそして動き回り女装の気持ちよさに魅かれていった。

 そしてこんなサンダルじゃ駄目だと思った工藤は再び女装(おんな)になったままで衣料品コーナーへと足を運んだが、歩く度にスルスルと肌に心地よい刺激を伝える下着とストッキングに無意識に歩き方までを女へと誘導されていった。

 

 コレがいいな…・・・



 そして工藤が手にしたサンダルは何処のオフィースでOLさんが履いているモノだった。

 工藤は大きな動きの出来ないスカート姿で、腰を曲げずに両足をピタリと並べて膝を折って状態を低くすると新しいOL用のサンダルに黒いストッキングに包まれた足をソッと履かせた。

 そしてサンダルを履いて再び状態を戻した工藤は「アレ?」っと今の自分の動きが意図的ではなかったことに驚きの表情を浮かべた。

 

 そうだ……♪



 工藤はサンダルを履いて警備員室に戻ると壁にハンガーで掛けている自分の制服の上着っをブラウスの上から羽織ると、そのまま懐中電灯を持って店内の巡回に出かけた。

 自分の勤務する警備会社の女性警備員と全く同じ服装になった工藤はこの夜、女性警備員としての職務遂行に全力を尽くし静まり返った店内の安全を守るに死力した。

 普段は三十分ほどで終る巡回を女性警備員として特別に二時間を費やし、歩く度に肌に心地よい刺激をもたす着衣に工藤は官能していた。

 そして警備員室に戻った工藤は「任務完了・本日も異常なし」と記帳し最後に「本日も客足なく」と、結び終えた。

 その工藤が女装(おんな)の姿に慣れた頃、突然パンティーの中の肉塊に激しい痒みを覚えた。

 待った無しの激しい痒みは、小さなパンティーに押し込められた肉塊が蒸れて発症した痒みで、工藤はモジモジした挙句に我慢も限界とスカートを脱いでパンストそしてパンティーを膝まで一気に降ろした。

 そして蒸れて汗に塗れた裏玉の袋をタオルで拭き取るとボリボリボリボリと激しく掻きむしってホッと一息つくと工藤の視線は何気なくパンティーに移った。

 そこで目にしたものはキラキラと灯りに反射するオビタダシイ量の愛液だった。

 工藤は知らぬ間にパンティーの前側を自らのヌルヌルした愛液で濡らしていたことに気付くと唇を噛んで慌ててパンティーとパンストを引き上げた。

 そして赤面する工藤は自己嫌悪に陥った。




【九話】



 
 翌朝、目を覚ました工藤は自分が女装(おんな)になったまま眠ったことを知った。

 パンティーの中で狭いとばかりにギュウギュウに勃起する肉棒に痛みを感じての目覚めだった。

 工藤はその痛みに「バッ!」っと起き上がると慌ててトイレに走った。

 スカートの所為で歩幅もママらない状態でサンダルの音を店内にパタパタと響かせてトイレに駆け込んだ。

 そしてスカートを上に捲くりあげようとしたがタイトスカートは上まで捲くれず仕方なく後のホックを外してファスナーを降ろした。

 スリップの裾を邪魔とばかりに腰まで捲くりあげパンティーストッキングとパンティーを丸めるように膝へ降ろすと便器の前に立って勃起した肉棒を右手に支えた。

 

 何て面倒臭いんだ! 漏れちまう!!


 
 工藤は危うく漏らす寸前で用足しを終えたが便座の前に立っている自分の姿を見た瞬間、自分は何をしているのだろうと悲しくなった。

 すると今度は突然「ギュルギュル」と、腹が鳴り出しマズイと思った工藤はそのまま慌てて便座に座ると腹に力を入れながら膝に丸まるパンストとパンティー、そして下腹部に丸まって溜まったスリップを見て違和感を感じながら排泄をした。

 そして排泄し終えた工藤は便座に座ったまま「このまま脱いで行こうか… それとも戻して行こうか……」と、思い悩んだ。

 一分、五分、十分と悩みに悩んだ末、結局、工藤は着衣を元に戻すとスカートを見ない様にして洗面所の鏡の前でブラウスの襟元を直し洗顔と歯磨きをし終えた。

 だが工藤は鏡の前から動こうとはせずしばらくの間、再び何かを考え始めると「見たくない」と思っていたスカートを履いている自分を思い切って見てみることにした。



 え! そ、そんな! 似合ってるかも… 知れない……


 
 鏡から少し離れて足元からゆっくりと視線を上にずらす工藤は、黒いストッキングに包まれた両足とスカートに包まれた下半身、そしてブラジャーに所為で薄っすらと膨らんだ胸を覆うブラウスに大きく息を飲んだ。

 そして首から上をもっとゆっくりした速度で見上げると、工藤は化粧をしてみたいと素直に思った瞬間、工藤の中で「パンッ!」と、過去の記憶が弾けた。

 工藤は洗面所から出て警備室に移動すると等身大の鏡の前で自分の顔を含めた全体を驚いたように見入って蘇った記憶を辿っていた。

 


『キャッ♪ 工藤くんてさぁー 絶対にお化粧したら可愛くなると思うんだよねー♪』


 そして鏡の前で工藤は学生時代に付き合っていた彼女に言われた言葉を思い出すと、マジマジと自分の顔を見て慌ててコミックのオマケページのお化粧編を指で辿った。

 すると化粧の大まかな解説の他に化粧道具と役割の説明があってその中に誰でも簡単に変身できる小コーナーがあった。

 他にも何種類もの化粧の仕方がイラスト入りで記述されていたが、工藤は椅子に腰を落ち着けて「初心者入門編」を見詰めた。

 工藤は逸る気持ちを抑え化粧道具を買うために居場所を衣料品コーナーに移し解説書にあったような化粧道具を探して歩いた。

 時計の針は十時を指しそろそろ開店の時間になろうとしていたが朝から鰻登りに上がる気温は店内にも入り込み、スカートだというのに下半身はパンティーストッキングの表面に薄っすらと汗を滲ませた。

 

 女性は毎日こんなモノを履いているのか……



 男から見ればエチロシズムを感じる黒いパンティーストッキングは実際には女性に過酷さを与えていたことを工藤は知った。

 室内だからまだいいが外に出たら黒は光を吸い込んでと、工藤は頭の隅でパンティーストッキングの過酷さを考えながら目当てのモノを探し当てた。

 帳簿的には破損品という項目にして衣類と同様の扱いで瓶の酒類を購入したことにした。

 工藤は早速、コミックを開くと鏡の前で椅子に座って解説通りの初心者の化粧を試みた。

 不慣れな手付きで指先を震わせながらの初めての化粧は工藤を真剣そのものにさせた。

 そして三十分後、工藤は化粧する前の自分の顔を思い出しながら目の前に移る別人のような顔に瞬きを忘れた。

 

 うそぉ………



 工藤は鏡の中に移った女性の顔に息を止めて見入り、時折キスするように唇を窄めて鏡に映った人物が自分かどえかを確認し、まるで根が生えたように鏡の前から動けなくなった。

 そして数十分後、工藤は使い終えた化粧品をポーチに入れ再びコミックの中級と上級編をサラサラと見流すと女性用のカツラがあればと衣料品コーナーをグルリと見回した。

 だが流石にここは少し大きめとは言ってもデパートではないスーパーマーケット。

 そんなモノがあるはずないと思いながら見ていると工藤の目に飛び込んで来たのはスリップを展示しているマネキンの頭だった。



 マジか!



 工藤は我を忘れてそれに近付くと間違いない黒髪のショートヘアーがマネキンの頭を覆っていた。

 それを工藤は震える手を伸ばして掴み取ると顔の前に持って来てゆっくりと後退りして化粧鏡のところへと移動した。

 そしてカツラの付け方の解説どおりに自らの頭に被せた工藤は、鏡の前の美しい女性を見て絶句し見とれ全身を小さく震えさせた。

 自分の目の前にいるのは誰だと言わん表情をすると鏡の中の美しい女性もその表情を工藤とは別の表情として工藤に見せた。

 すると工藤はゆっくりと立ち上がって等身大の鏡の前に立つと全身を映してスカートを揺らしながらクルリと回って鏡の中にいる見知らぬ美女に見入った。

 そして工藤はわざと自分の姿が映るような窓辺の傍を通って店の玄関へ行くと、外の様子を上半身だけ出して覗ってから安心したように完全な女としての第一歩を踏み出した。

 微風の吹く穏やかな天気だったが外に出た瞬間、工藤の黒いパンティーストッキングに包まれた両脚を強い陽射しが照りつけ、同時にスカートの真下から風が入り込んで蒸れた陰部から若干の体温を奪った。

 スゥースゥーすると言う表現がピッタリの生まれて初めての外でのスカート姿に、工藤は何か新しい人生観を掴んだような気がしていた。

 そしてブラウスの襟元から入る微風は汗ばむ胸元をヤンワリと撫でるように体温を奪って消えた。

 工藤は店の前の比較的、平らな面を何処へ行くわけでもないのに両手を後に組んで歩き続けた。

 そして時折、クルリと回っては自分を軸にして周囲を見回してニッコリと微笑んだ。

 工藤は完全に女性に成り切り「ランランラン♪ ランランラン♪」と、無意識に口ずさんでいた。

 そして店から二百メートルほどのところで突然、タイトスカートを腰まで無理矢理捲くり上げるとパンティーストッキングとパンティーを膝まで下ろし、その場に斜屈んだ。

 工藤は巨大な大陸の中で女性のように斜屈んで突然放尿を始めた。

 シャァージュビジュビと言う土を削る音が微風に流れそれが終ると工藤はポーチから出したティシューで先っぽを丁寧に拭いて、パンティーそしてパンティーストッキングを腰まで引き上げスカートを元に戻した。

 工藤は小便し終えティシューで拭き取り再び身支度を整えるという奇妙な行為をしたが、やると決めたら徹底してことに当る工藤の性格だった。

 そして工藤はついでだからと自分が作った引き水用の配管を見て破損はないか壊れてないかをチェックしながら池へと歩いた。

 気付けばサンダル履の工藤の足の爪先は黒いストッキングの上から土ホコリが付着していた。



 パンプスか何かにしなきゃ駄目ねぇ……



 女性に成りきっている工藤が無意識に呟いた。

 そして配管を見ながら上って来た池へ辿り着くと一休みとばかり斜屈んで手を洗うと透き通った水をすくいあげて口元へ運んだ。

 手からポタポタと水が零れ落ち膝を包む黒いパンティーストッキングの上に冷たさを伝え、ホンノリと口紅の香りが口の中に広がった。

 すると突然、何の前触れも無く突風が吹いて工藤は目を閉じて状態を前屈みに左後ろに上半身を反転させた。

 その瞬間、工藤の頭を覆っていたショートのカツラがスッポリと脱げて慌てた工藤は土ぼこりの舞う中で目を開いてカツラを目で追った。

 そしてカツラを追いかけて十メートルほど来た時、悲劇は起きた。



 キヤァァー!! ズリ! ズズズズズッ! ドッスン!!



 工藤は地震対策に自分で掘った池の水の逃がし側溝の中に頭から落ちた。

 幸い急勾配だったが傾斜していたことで大事には至らなかったが、V字に掘られた側溝の土底に仰向けに落ちたことでブラウスのボタンが飛んで肩まで脱げ掛かっていた。

 更にズリ落ちたことで下半身を包む黒いパンティーストッキングが両方とも酷く伝線しタイトスカートはスリットから腰まで裂けていた。

 工藤の身体は勾配に合わせてV字になっていて傍にカツラが落ち両脚はV字に開いていた。

 そんな工藤が両目を開いて我が身を見た瞬間、乱れに乱れたその姿に突然、履いていたパンティーストッキングとパンティーを右手でグイッと太ももまで下ろすと、左手で晒された右肩からブラジャーとスリップの肩紐をグイッと外して降ろした。



 シュッシュッシュッシュッシュッ!


 
 工藤は嫌らしく恥辱されかけたような女の乱れた着衣を見て頭の中を真白にさせ、夢中になって左手で右の乳首を抓んで弄りながらその場で自慰を始めた。

 それは前夜のコミックに出ていた何かのシーンに類似していた。

 薄っすらと開いた目から見える伝染して所々に肌が露出する卑猥さと裂けたスカートと、ブラウスを左右に破かれ開かれ下着が露にされた情景に工藤は自分を被害者に重ねた。

 目に見えぬ男に乳首を弄られ恥かしい部分を晒され遊ばれ抵抗出来ない自分を犯される悲しい女性に工藤はなっていた。

 

 イヤァー! ヤメテエェー! ヤメテエェーー!!



 工藤は泣き叫びながら男からの辱めに必死に抵抗を試みたが右乳首のみならず左乳首まで晒され肌を侮辱され続けた。

 そして女は膝までパンティーとパンティーストッキングを力任せに引き降ろされると両脚を上に持ち上げられ、恥かしい二つの箇所を宙に晒された女はやがて体内に硬い物を無理矢理入れられた。

 女は泣き叫んで首を左右に激しく振って逃げようとしたが体内に入れられた硬い物は抜けることはなかった。

 そして女はその苦痛から逃れるかのように失神して目覚めると自分の顔にヌルヌルする体液が掛けれられていることを知った。

 
 工藤はこのシチュエーションで二度の射精を果たしたが、自分のモノとは言いながらも顔に掛けた精液に早々とポーチから出したティシューで拭き取った。

 そして穴から這い上がって店に戻ろうと歩く工藤の姿はレイプされた後のような女の姿だった。

 スカートは腰まで裂け黒いストッキングはボロボロでブラウスは左右に引き裂かれ風に舞っていた。

 工藤は疲れ果てた。




【十話】




 店に戻った工藤は警備員室で自己嫌悪に浸っていた。

 プレイだったとは言え自分の精液を自分の顔に掛けてしまったことがショックだった。

 だが確かにその時、工藤自身の中に女性がいて工藤を襲う男が居たように思えた。

 工藤は辱められる女性の悲痛さと女性を味わう男の二つを自分の中に感じていたことを振り返っていた。

 そして床に置いた裂けたタイトスカートとボロボロになった黒いパンティーストッキングを横目に見て唇を噛み締めた。

 
 
 あとで繕わないと……



 高校時代は手芸部に属していた工藤にとっては簡単な作業の一つだった。

 そして昼の二時、衣料品コーナーに移動してそのまま着衣したデニムのショーパンにニーソックスを履いたタンクトップ姿の工藤は、食品コーナーに足を踏み入れると適当に飲み物と塩気の聞いた菓子を購入すると店のレジの傍に置かれたベンチに座って昼食を摂った。

 ガラーンとして誰も居ない薄暗い店内を見渡して大勢の客で賑わったであろうことを想像した。

 レジで忙しく動くパートさんに買物カゴを持って並ぶ人達。

 生鮮コーナーでは威勢のいい掛け声が飛び交って何を買おうかと目移りに忙しい客。

 工藤は目を閉じて大勢の人の声を思い浮かべ少しの間、現実から逃れた。

 そして昼食を終えベンチから立ち上がろうとした瞬間、全身を大きくビク付かせた。

 
 
 何! 今の!?



 床に立ち上がった工藤は自分の姿を見下ろすと胸の辺りに視線を奪われた。

 そして両手を胸に持って来ると、肌に張り付いたタンクトップの表面に勃起している乳首を確認し、ゆっくりと生地の上から乳首を中指で軽く擦った瞬間、再び工藤の身体は大きくビク付いた。

 ドキドキと胸の鼓動が大きくなって、息を飲んだ工藤はもう一度、今度は続けて両方の乳首を中指で擦った。



 ビクウゥーーーン!!



 凄まじい快感(しげき)に工藤は起っていられずにベンチにドスンと腰を降ろした。

 そして工藤は乳首が感じることを知ると驚きながらも両脚を床に投げ出し状態を低くして両手で勃起した乳首を擦ることに没頭し始めた。

 男性機能とは全く異なった上半身全体を内側から込み上げる刺激と同時に、腹の下奥に走る電気信号のような小さいがキレのある快感に驚愕した。

 工藤は夢中になって初めて得る「くすぐったいようなそれでいて」キレのある快感に身悶えをし時間を追うごとに「切なさ」が何倍にも増幅していった。

 切ない心地よさと同時に上半身の全体と股間の腹の奥にその都度走る電気的な刺激に座っていたベンチから床に落ちて尚も乳首オナニーに浸った。

 それは傍から見れば、さながら女性の自慰そのものだった。

 だが自慰を続ける工藤がもっと強い刺激欲しさにショーパンの上からペニスを触手した瞬間、勃起していると思っていたペニスは勃起どころか半起ちすらもしていないことに気付いて戸惑った。

 しかも数回摩ったがペニスに感じる刺激は乳首から感じる刺激とは全くの別物だということに驚きを隠せなかった。

 ペニスの攻撃的な快感とは違う乳首の快感は官能という表現が正しいものだと工藤は知った。

 乳首からの刺激はペニスにも電気的に繋がっているがペニス本来の攻撃的な刺激とは全く異なった性質だと工藤は思えた。

 官能と快感の違いを始めて考えさせられる出来事だった。

 
 そんな工藤は今、店の裏側のトイレの辺りに居た。

 見た目こそ水洗トイレだが裏へ回れば窪んだ穴に建物から突き出た配管がむき出しにになっているだけのモノで、銀ハエが無数に飛び交うこの糞溜(あな)は衛生的に良くないと以前から思って居た工藤は、スコップを片手にまず汚物を土で埋める行動に出た。

 そして続いて倉庫から持ったきた少し大きめの塩ビ管を焚き火で熱して傾斜に曲げトイレから出ているパイプに針金と紐を使って繋げ更に上から数本の手拭で何度も捲いて結んだ。

 更に繋がった塩ビ管の先に数本の管を繋げ傾斜している地面に這わせて置きながら十メートルほど離れた地面の亀裂に向けた。

 材料があればもっと遠くに伸ばしたい工藤だったが取敢えずこれで良しとした。

 これで少しは衛生的にも良くなるだろうと白い歯を見せた。

 
 
 夕方十七時、作業を終えた工藤は店の洗面室に入ると手洗いを入念にしたあと、汗ばんだタンクトップとニーソックス、そしてショーパンを脱いで洗濯のためのポリバケツに放り込んだ。

 そして鏡の前で素っ裸になった自分を見ると落ちた化粧をクレンジングクリームで洗い流したあと、調理場から移動して来た風呂として使っている四角い湯船のような水槽の温い水に身体を浸した。

 水温三十五度前後のぬるま湯は炎天下の下で動き回った工藤の疲れを吸い取るように癒し、真隣りに置いた別の水槽に移って工藤は身体を洗った。

 石鹸をナイロンの垢すりに泡立たせゴシゴシと身体の隅々を洗う工藤の一日の楽しみだった。

 そんな工藤はいつものように身体を洗っていたが胸を洗おうとした時、乳首の快感のことを思い出した。

 洗おうかやめて置こうか迷いに迷った末、工藤は垢すりを使わずに石鹸を手に泡立たせると両手を胸に滑らせた。



 
 アンッ! アアアアーンッ! ゥグウウ!



 首を後に仰け反らせた工藤は喘ぎ声を上げながら両脚を内側に筋肉を硬直させ爪先を強く閉じた。

 石鹸のヌルヌルが胸全体を軽く刺激した後、乳首に擦れて強い刺激を身体の内側と股間と腹の奥に電気刺激が放たれた。

 そして泡立った両手で胸全体を滑らせるように回しながら乳首を指で優しく擦ると尻の穴から背骨を通って脳に走る電気ショックを感じた。

 工藤は無心になって喘ぎ声を上げて乳首オナニーに集中したが滑る指が偶然脇腹に達した瞬間「くすぐったさ」の中に激しい官能があることを知った。

 左手を右乳首に滑らせながら右手の指の腹で脇腹や尻や太ももを中心に滑らせれば、言葉にならないほどの優しくて深みがあるのに鋭い快感が工藤の脳に蓄積した。


 工藤は我を忘れて水槽の中で数時間の自慰に浸った。


 そして満足に満足を重ねたが乳首と全身への触指は男性のマスターベーションとは違いイクというモノが無いことを工藤は身を持って知り、鋭い快感と深い官能はイクことなく持続できるものだと知った。

 射精すればそれでお仕舞の男性の自慰とは違い女性の自慰には終りがないことを脳に焼き付けた。

 だがイクことはない工藤のペニスの先っぽからは僅かながらも愛液の流出が継続されていたことを本人は知らない。

 工藤はこの日を境に女性の自慰に目覚めたように風呂から出ても時間を見つけては自慰(おんな)の喜びに浸り続けた。

 地肌でも感じる乳首はキャミやスリップの生地を一枚挟むだけでその官能は数倍に高まることも熟知した。

 そしてそれをパンティーストッキングを履いた下半身の上から応用すると言葉にならない刺激的で濃厚な官能があることも工藤は知った。

 そんな工藤は夜の十時だと言うのに下半身を黒いネットパンティーストッキングで包み、黒いレザーのミニスカートを履くと乳首に感じやすい薄いヒョウ柄のノースリープで上半身を包んで食事の支度に取り掛かった。

 そして真空パック詰めされた魚介類の煮物と炊き上がった御飯を前に、警備員室の中に不釣合いな厚化粧で茶髪の女が一人食事をしていた。

 工藤は茶碗に持った御飯を食べながらもヒマさえあればヒョウ柄の上から乳首を擦り、オカズを口に入れてはネットストッキングに包まれた太ももに指を滑らせ官能していた。

 飯を食いながらもタバコを吸いながらも深夜の巡回をしていながらも、工藤の手は乳首をそして尻と太ももをスリスリと弄り滑り回っていた。

 そして巡回から戻れば戻ったで椅子に腰掛け警備日誌に記帳しながらも乳首と太ももをスリスリと指が滑り回った。

 深夜十二時過ぎ全ての任務を終えた工藤はベッドに腰掛けると食品売場で購入して来たチーズを肴にウイスキーの水割りを楽しむ。

 茶髪の派手な女は足組してチーズからカビを取りながら開いた真っ赤な口紅の中へ放り込むと持って来たコミックの六冊目のページを捲る。

 灰皿に置かれたタバコに付いた口紅の色をチラッと見てウイスキーを一飲みすると二ページ目に移行して組んだ足のカガトをクイックイッと動かした。

 そんな状態を二時まで続けた工藤を睡魔が襲ったが、工藤は直ぐには眠りに入らず灯りを小さくすると着衣したままベッドに横になった。

 両手の中指をノースリーブの上に滑らせ「ビクンッ! ビクンッ!」と、全身をビク付かせ片手の指をネットストッキングに滑らせては「喘ぎ声」を上げてつま先を力を込めて閉じた。

 ベッドに横になるまで数回のトイレで座って用足しをする度に、パンティーの内側が愛液で湿っていることを知った工藤はパンティーライナーを前側にセットしていた。

 手洗いで愛液の付いたパンティーを洗うものの乾けば白い粉が付着している頑固な汚れに、工藤はパンティーライナーで対処することにしたようだ。

 そんな工藤はベッドの上で両脚を開いて膝起てしながら深い女の自慰(よろこび)に浸りながら眠りに落ちて行った。



【十一話】
 

 
 

 朝の八時、女装(おんな)になったままトイレに起きた工藤は洗面所で化粧を落としてカツラを外すとトイレの便座に座って用足しをしてライナーを交換した。

 洗面台の前で慣れて来た手つきで薄化粧をするとカツラを被って全体を鏡に映した。

 

 この姿だと昼間には向かないな……



 工藤はポツリと呟くと裂けたタイトスカートのことを思い出し仕方なく衣料品売り場へと足を向けた。

 履きたいスカートは山ほどあったが敷地のパトロールのために「カジュアルは無理だな」と、グレーのタイトスカートと水色のブラウスに着替え自分の足に合うパンプスを探した。

 等身大の鏡の前で身支度を整えた工藤は右に左に身体を反転させこれならOKとブラウスの上にグレーのチョッキを羽織った。

 

 綺麗な女(ヒト)……



 鏡に映る慣れることのない見知らぬ女性に頬を少し熱くした工藤はそのまま鏡にキスをして店を出た。

 店の四方に敷地と称して立てた木の棒に付けられた赤い手拭(ハタ)がパタパタと風になびいて、それに向かって歩く工藤のかぶった茶髪の毛もフワフワと流れた。

 穴に落ちた時に使っていた黒髪のカツラの他に、別の場所で見つけた化粧品キャンペーンと言う箱に入っていた茶髪のカツラは小さめだったが風に強かったことで工藤は前日から使っていた。

 歩く度にスカートの下から入る風は温かいとは言えスカートに不慣れな工藤の股間には違和感あり過ぎのようだったが、パンプスから立ち上がる土ボコリが風に流される様は巨大地震で助かった者だけが目に出来る光景だった。

 店の四方の旗を一周すると使えない携帯電話の万歩計は一キロを表示し散歩には丁度言い歩数だと工藤は思っていた。

 通信の手段として当り前のように使っていた携帯電話は巨大地震いらい万歩計と時計の役割に格下げされていた。

 そして四隅を巡回し終えた工藤はそのまま店に戻ろうとした時、風の来る後方向に身体を回し自分の身形を見て「こんな姿で自由に歩きまわれるなんて!」と、巨大地震を憎む気持ちが俄かに沸いた。

 だが直ぐに工藤は「いや待てよ… もし誰かが助けを求めて来たのが女性(ほんもの)なら男の身形じゃ警戒されて… まして一人で住んでいると知ったら……」と、困惑する表情を見せた。

 そして池の方へ歩き出して直ぐに立ち止まると「女装(いま)のままなら女性(ほんもの)も安心して助けを求めれるし、仮に来た人が男で後で私を乱暴しようとしても私の性別を知れば私に危害は及ばない……」と、腕組みして女装(おんな)になっていることの方が有利だと頷いた。

 助けを求めて来た人が助けを求めやすい状況を作ることで助けることが出来るならそれはそれで良いのではないか、放浪してきた人が男であれ女であれ子供であれ受け入れる側が女性である方が助けを求めやすいと工藤は今の自分の姿に納得した。

 女装して歩き回ることで僅かでも化粧の匂いが風に乗って飛んでいけば付近に人がいることを察知するに違いないと工藤は風に身を晒して両手を水平に伸ばした。

 誰でもいいからこの匂いに気付いて欲しいと心からそう願いながら池の方へと足を進め、店から持って来て置いておいた箱に腰掛けた。

 腰を降ろして周りを見回し遠くに目を凝らしたが動くものは何処にも見当たらず工藤はタバコの火をつけた。

 ギラギラと地表を焼くかのような太陽が残暑の光を放つ中、時折吹く風が池を撫でてから工藤に到達すると心地よい冷風が工藤を涼しくさせた。

 そして足組する工藤のスカートの隙間から忍び込んで上昇する体温を和らげた。

 その数分後、風下には無数の女の鳴き声が運ばれて行った。

 工藤は池の前で誰かに見られてもいいと開き直っての女の自慰を楽しんでいた。

 腰を降ろした箱の上、両脚を開けるだけ開いて投げ出しながらブラウスの上からスリップ越しに乳首を弄る工藤は切ない喘ぎ声を奏で続けた。

 

 ヤダァー! 何するのおぅー!! 放してえぇぇー! 放してえぇー!! イヤァー!! ヤメテエェー!!

 

 女が店から出てしばらく歩いていると後から近付いた得体の知れない男が突然飛び掛り工藤を羽交い絞めにした。

 工藤は何事かと仰天して悲鳴を上げると男は突然持っていたロープで工藤を後手に縛り上げた!



 静かにしろおぉ!! 俺はあの地震の日からアチコチ彷徨ってようやくここに辿りついた!! こんなところに御馳走(おんな)が居たとはなああぁ!! タップリ味わってやるぜえ!! バシッ! バシバシバシイィーン!! 



 男は地面に工藤を押し倒すと恐怖で悲鳴を上げる工藤の頬を数回平手打ちし工藤を失神させると、ブラウスの胸元のボタンを慌てて外しスカートの中に手を入れ嫌らしく触手した。

 ハッとし意識を取り戻した工藤だったが時既に遅く、工藤は乳房を男に吸われ舐め回されている最中だった。

 工藤は両脚をバタつかせ首を左右に振って抵抗したが後手に縛られる工藤は逃げることも出来ないまま男に太ももと尻を嫌らしく触られ乳首は痛いほどに吸われた。

 すると工藤は胸に貪り付く男に自分は女じゃないと泣き叫んだ瞬間、男は工藤からパンティーストッキングとパンティーを力任せに押し下げ、両脚を持ち上げ後転姿勢にすると股間の肉を左右に押し広げザラつく男の舌を押し付けて滑らせてきた。

 工藤はその瞬間、両目を大きく見開いて口を半開きに泣き叫んで宙を舞う両脚を大きくバタつかせた。



 イヤアアアアアアァァァァーーーーー!!!



 男の舌は工藤の恥かしい割目の中に押し付けられ上へ下へと押し滑り工藤のデリケートな部分はその匂いと味を男に知り尽くされた。

 妄想は心身ともに女性になりきり目を瞑って自慰する工藤の目からは涙すらポタポタと乾いた土にちいさな土ポコリを上げた。

 助けを求めて彷徨った挙句に工藤(おんな)を見つけた男は身勝手な性欲をブツけてきたというシチュエーションだった。

 そして数十分後、箱に座ってウトウトしていた工藤が目を覚ますとブラウスは完全に前側が晒され白いスリップが風に揺れていた。

 乳首は「ジンジン」と弄りすぎたのか痺れあがりスリップの上から触っただけでズキッと強い痛みを乳首の根元に覚えた。

 幸いスカートもスカートの中も乱れてはいなかったことで工藤は自分に起きたことが妄想であることにホッとしたが自分でブラウスのボタンを外したことを覚えていなかった。

 そして弄りすぎた工藤の乳首は二回りほど張れて肥大したが再び巡回した工藤は無意識にブラウスの上から乳首を弄っていて、ズキッと痛む時はビックリして止めるものの痛みがない時は延々と続けていた。

 だが店に戻った工藤は腫れの引かない乳首を心配して医薬品コーナーへ行くとシップ薬を購入し警備員室に戻り、パットを入れてブラジャーを装着して押えて冷やしたが気付けば知らぬまに乳首に手が行っていたことを悔やんだ。

 そして気を紛らわそうと店内を歩いたが見慣れた食品売り場や衣料品売り場では紛れることはなく工藤は仕方なくさっきシップ薬を買い求めた薬品売り場に再び足を運んだ。

 風邪薬に胃薬に健康ドリンクにと病気の時いがいに興味のない薬売り場だったが、工藤は普段客が入れない薬剤師のいるコーナーへと移動した。

 そしてヒビの入ったショーケースの中や落ちて散乱して後から工藤が載せ直した薬品を見て回ることにした。

 だがソコには普段見ることのない変わった名前の商品やら薬やらがあって何に効くのかよく解からないモノばかりだった。

 そこで工藤は時間潰しと称して商品棚から落ちたゴソッと纏めて棚に戻した薬品類を一つ一つ丁寧に陳列しようと考えた。

 

 両手さえ塞がっていれば弄ることもない……



 工藤は一つ一つ「これは何に効くのだろう」と、説明書を見ながら記憶するように陳列を始めると以外にソレが楽しくドップリとはまってしまった。

 そして数時間を費やし全ての商品を効能別に陳列棚に納めると、あとは薬剤師の場所にある物だけと笑みを浮かべた瞬間、グラッと小さい地震にハッとして陳列棚から離れた。

 久し振りの地震で動揺したのか、工藤は逃げるようにその場を離れ狭いながらも四隅に柱の入っている一番安全な警備員室に駆け込んだ。

 そしてベッドに腰掛けて天井を見回して壁を確認してホッと一息ついた。

 このところ殆ど何も起きなかったことで小さな地震でも敏感に反応してしまう工藤は事務机の上に置いてある缶詰の煮魚をオカズにウイスキーで晩酌を始めた。

 そしてベッドの隅っこに置いてあったコミックの表紙を見て続き本でなく、もっと後に読むはずのモノだと気付いたが、取り替えに行くのも面倒だとページを開いて読み始めた。

 コップに入れた温い水割りを口にしながら三十分かけてジックリと読み終えた工藤は、毎回楽しみにしている「オマケページ」にワクワクして開くとそこには「上級編」の文字があって工藤のワクワクを更に増大させた。

 

 女性ホルモン剤を摂取すると乳房が出来るのか………



 オマケページに書かれていたイラストは「プルン~」とした柔らかい乳房を強調し、男らしい顔形を柔らかい女顔に仕立てた内容だった。

 工藤はシップしている乳首にブラウスの上から手を軽く添えると、ブラジャーに支えられながらスリップを押し出す膨らみを想像した。

 乳房があればもっと女らしく見えるかも知れないと、工藤はウイスキーを飲むペースを速めた。

 そして胸の膨らんだスーツ姿やノースリーブ姿の自分を目を閉じて想像し小さな文字で書かれている注意書きを読むことなくコミックをベッドに置いた。



 乳房があれば快感(シゲキ)も大きくなるかも知れない………



 工藤は単純な発想の中で両手で乳房を揉みまわし官能する自分の女性(じぶん)の姿を想像すると、ハッとした表情を浮かべて目を見開いた。

 ウイスキーの酔いに軽くフラつきながら立ち上がった工藤は動き辛いタイトスカートとチョッキを脱ぐと膝下までくる水色の薄生地のヒダスカートに履き替えた。

 軽くて動き易いヒダスカートは軽快に足裁きを楽にして歩幅を制限なく工藤を歩かせた。

 

 ここにあるかも知れない……



 スーパーマーケットとは言えこれだけの陳列コーナーだし完全なモノは無いにしても「掠る程度のモノはあるかも知れない」と、工藤は自分が区分けして陳列させた薬品を真剣に見て回った。

 だが目指す「女性ホルモン」と言う名称は何処にも見つからず工藤はガッカリして肩を落とした工藤の視線に入ったのは、明日片付けようと思っていた「薬剤師」が常駐している場所だった。

 工藤は「もしかしたら!」と、急に元気になってパタパタとサンダルを床に響かせた。

 

 薬剤師が常駐している場所なら……


 
 結局、工藤の思惑は期待通りには行かず、陳列してある薬品の在庫がアチコチに散乱しているだけだった。

 工藤は再びガックリと肩を落とし薬剤師の座っている椅子に腰掛てボンヤリしながら辺りを懐中電灯で照らし始めると、高さ六十センチの幅一メートルほどの薬品庫に目を奪われた。

 何やら重要な薬品が入っているのは何となく予知できた工藤は薬品庫の前に斜屈むと両手で左を右に、右を左に引いて見たが鍵が掛かっていることを知った。

 そこでガラス越しに中のモノを見てみると、伝票のようなモノが貼り付けてあってソコに個人名が印刷されていたのを見つけた。

 工藤は再び椅子に腰掛けて引き出しを明けて鍵はないかと捜すと何かに使うであろう鍵の束を見つけ、悪いと思いながら工藤はその鍵を一つずつ薬品庫に入れて回してみた。

 一本、二本、三本と何度も入れては開くのを待って十二本目に達した時、鍵は薬品庫の引き戸を開かせた。

 そして恐る恐る引き戸を引いて開ける工藤は中を覗き込んだ。

 すると伝票に聞き覚えの無い「品名」やら「番号」やら「医療用語」やら「病院名」が段落ごとに印刷され最後に、受取人の欄に女性名が印刷されていた。

 更に二枚目の伝票には「必ず本人に受け渡すこと」と、赤色で印刷されていた。

 

 なんだこりゃ… 取り寄せか? それにしても物々しいな……



 工藤はその中の一つを手元にとって箱を開いてみると高さ七センチの直系五センチほとせのプラスチック容器が五本入っていた。

 そして添え状に「女性ホルモンは健康バランスを崩すため、用法を厳守し数ヶ月に一度の医療検診を実施すること」と、記載されていた。

 工藤はその文字を見た瞬間、それが女性ホルモン剤でありことを知った。

 更に他の箱を明けてみると二十個あったうちの六箱が品名や容器の違う女性ホルモン剤だったことに「やったあ!」と、思わずガッツポーズをした。

 

 これで! これで俺は乳房をゲット出来る!! あはっ♪ あはは♪ あはははははははは♪ うおおおおおおおおー♪



 不適な笑みを浮かべる工藤は暗闇の中に声高らかに歓喜する声を響かせた。

 そして立ち上がると箱を持って辺りを見回し「各種処方箋承ります」の掲示板をその場所に見つけた。

 この時の工藤は警備員ではなく泥棒になっていることに本人は気付いてはいなかった。

 



【十二話】

 



 朝晩の定期巡回を欠かさない女性警備員の工藤が女の姿で店を警備するようになって既に二ヶ月が経過しようとしていた。

 本来なら十一月といえば気温もグッと落ちてくるはずなのに巨大地震の影響かハタマタ異常気象の所為か二十五度を下回ることなく時間は過ぎて行った。

 その工藤はと言えば既にカツラも必要ないほど髪の毛も伸びて肩まで届き、色も茶髪に染まっていて着衣から身だしなみまで誰がどう見ても女性にしか見えないほどだった。

 そんな工藤の胸に目を向ければ歩く度に揺れる膨らみに驚くだろうか。

 工藤は女性ホルモンを処方通りに服用し見事なまでの乳房を手にいれていたが、本人にすれば驚く出来事もあったようだった。

 きちんとコミックの注意事項を読んでいればこんなことにはならなかったかも知れないと後悔しつつ、トイレの便座に座り用足しする度に見えるペニスの下にある睾丸(フクロ)は萎縮して小さな物になり身体と同化し、性欲と身体の筋力は極端に衰え男性機能もママならなくなっていた。

 以前なら頻繁にしていた妄想プレイも今ではその数を極端に減らし射精を試みるも勃起しないことも多々あった。

 とは言えBカップ以上になった乳房は工藤の乳首オナニーには欠かせないパーツになっていて、肥大して小指の先くらいになった乳首をしっかり支える乳輪も大きくなってバランスの取れたバストになっていた。

 女性が下半身を覆う下着類はその殆どを苦にすることなくフィットさせられ喜びもあるものの、偶にしか勃起しない男性機能の喪失に工藤は寂しい気持ちになることも多々あった。

 全身は若干だが丸みを帯びているものの完全な女性体形でないことに工藤は若干の不満も抱いていた。

 そんな工藤は今日も薄化粧をして髪を解かしてタイトスカートで下半身を包むと、ブラウスの上に警備員ジャンパーを着て朝の巡回へと出かけた。

 そして車を運転する工藤の全身はプルプルとゼラチンのように揺れ、胸の大きな揺れはそのままハンドルを握る両腕に伝わった。

 左右に人影は無いか何か動くモノは無いかと神経を集中させるもののその集中力が長続きせず、十五分走れば五分休むと言う具合を繰り返すことになっていた。

 そして五分間の休憩の中、以前なら無意識にでも弄っていた乳首には乳房を持ってからは中々手が伸びることはなかった。

 プルプルと揺れる柔らかい乳房に大きくなった乳首と支える乳輪を持つ工藤だったにも関らず、意識して弄ろうとしなければ殆ど何もしなかった。

 薬品コーナーにあった本を手に、何度も何度も男が女性ホルモンを使えばどうなるかを嫌というほど読み漁った工藤は、何故自分がオカシクなったのかも熟知していたことで愚痴は漏らすことはなかった。

 ただ、偶にしか勃起しないペニスから本来出るはずの白い液体ではなく無色透明な精液を射精した時は仰天して悲鳴を上げたことは少し前にあったことだった。

 乳房があればもっと女らしくなって自慰も楽しくなるはずだと単純に思った工藤の無知さが今の工藤を苦しめていた。

 女性ホルモンの摂取をやめれば精子を犠牲にした乳房を失うことになる。

 そしたら一体自分は何のために精子(コダネ)をなくしたのか解からなくなる。

 読み漁った本の中に自分に都合のいい解釈は何処にも見当たらなかった。

 工藤はそんなことを常に頭の中において再び車を運転して巡回を続けた。

 そして車を降りては双眼鏡で遠くに目を凝らし歩き回った工藤は少し先にある小高い丘のようになっている場所の向こう側が気になった。

 既に店を出てから二時間近く走ったことで車の燃料も半タン近くになっていて、このまま丘を目指せば帰りの燃料に不安がある。

 ローとセカンドを利用しても荒地走行は常に四輪駆動のため燃料の減りはとても早かった。



 予備タンクを積めば安心して店に戻れる……



 工藤はそう考えて無理な巡回を取りやめて明日の準備に取り掛かるため双眼鏡を顔から離して車に戻ろうとした瞬間、何かにつまずいてその場に両手をついて跪いた。



 キヤアァー!! あわわわわわわ!



 悲鳴を上げて地面に跪いた工藤はストッキングに付いた両膝の土を両手で払いながら何につまずいたのか「フッ」と、地面を見ると丸みを帯びた何かが土に埋まっているのを見つけた。

 工藤は腰に下げている工具ベルトからナイフを出してその物体を少しずつ掘り返した瞬間、工藤は「キヤアアァァァー!!」っと大きな悲鳴を上げて驚いて後に尻餅ついた。

 地面に尻餅ついて後退りする工藤の前にあったのは紛れも無い「人骨の頭部」だった。

 工藤は全身をブルブルと小刻みに震わせ顔を引き攣らせ一目散に車へ逃げ込み発進させた。



 オカシイ…… また体重が減ってる……



 店に戻った工藤は緩くなってきた衣服を脱いで裸になると湯船代わりに使っている水槽の前で体重計に乗っていた。

 元々あった体重は七十キロで乳房が膨らみ始めてからグングン減り始めて目の前の体重計は五十キロを少し切っていた。

 そして体重が落ちた分、乳房は大きく見えバランスとしてはナイスボディーに近付いているのだろうが急激な体重の減少に工藤は恐怖を感じていた。

 しかも変異はそれだけではなくブラ下がっているペニスも小さくなっているような気がしていた。



 これも女性ホルモンの所為なのかな……



 風呂から出た工藤はガウンに身体を包み衣料品コーナーの裏にある事務所(いしょうべや)へ移るとパンティーを出そうとして洗濯していないことを思い出した。

 女性ホルモンを摂取しだしてから急に「やる気」の薄れた工藤は数週間も洗濯していないことに気付き、一枚だけ残っていたパンティーを履くとノーブラのままタンクトップとショートパンツを着衣した。

 そして洗面台のある部屋へ移動して洗濯用の水槽を見て唖然とした。

 パンティーにブラジャーにスリップにキャミソールにパンティーストッキングが他に、スカートやらタンクトップやらブラウスやらショーパンやらスカートが三週間分の山積みになっていた。

 これを見た瞬間、後退りして逃げ出そうと思ったものの工藤は思い止まって下着から洗濯を始めた。

 洗濯水槽に水を入れ洗剤を入れると、風呂のかき回し棒でジャブジャブと大きな音を立て洗濯物を洗剤の入った水に浸し、ストッキングやパンティーストッキングをネットに入れた。

 洗濯棒で水槽の水を上下にかき回す作業に工藤は再び大汗をかき、終わりごろには投げやりになって着衣していたタンクトップまでを水槽に投げ入れた。

 洗い終えた順に台車に載せたプラスチックケースに小分けして全てを終えると二時間が経過していた。

 男の身体だった頃なら「テキパキ」と、こなして「サッサ」と終らせられた洗濯も乳房が出来てからは持てる物ももてなくなり掛かる時間にイラついた。

 そして全部を積んだ台車を押して日当りの良い窓辺に移動すると使っていない洋服掛けを利用して洗濯物を干した。

 三週間分の洗濯物はパンティーストッキングだけで二十一足に達し、ガーターストッキングやガターレスストッキングを合わせると三十五足にもなった。

 そしてズラリと並んだパンティーにブラジャーにスリップにキャミソールとオビタダシイ数の下着が太陽の光に照らされた。

 工藤は乾くまでの間のモノをと、買物カゴを持って衣料品コーナーをショーパン一枚でウロウロした。

 ブラ無しは開放感があるものの歩く度にプルプルと揺れるコンニャクのような存在で乳房は邪魔でしかなかった。

 

 明日はあの丘まで行って見よう……
 

 
 男の筋力を失った工藤は非力ながらも時間をかけて車に燃料の入ったポリ容器を積み込んでからそれとは別に車を満タンにした。

 ドラム缶に入った軽油は残り二本で、発電機用のドラム缶は数本あるものの使ってしまえば電気は二度と起こせなくなると工藤は顔を顰めた。

 そして再び車から戻った工藤は万一に備えて水と食料と救急箱に薬を詰め込んで用意を万端にすると、警備員室に行き身体を休めることにした。

 警備員室は店の温度より若干高かったものの工藤にとって一番気の休まる部屋だった。

 そして警備員室に入った工藤はベッドに横になると仰向けになって天井を見詰めた。



 あんなところに人骨(あたま)があるなんて……



 工藤は両手で頭を抱えると無言で真横になって涙を頬に伝えた。

 待っても待っても来ない救助隊と、通り掛かる誰かを待ち続けることにも疲れ果てた結果の涙だった。

 完全な男のままの工藤であれば涙を流すことも無かったろうが、身体半分が女化した工藤にとっては気弱な女の涙は当然だったのかも知れない。

 工藤は泣きながら眠ってしまった。

 

 数時間後……



 若干疲れを残したまま仰向けで目を覚ました工藤は汗ばんだ首下をタオルで拭くと再び身体を横に倒した。

 白いキャミソールの胸元がプルンと揺れるとズシッとした重みがベッド方向へ零れ落ちると、工藤は手を伸ばして小机の上から自分の警備手帳を出し変化する舞うの自分の顔をマジマジと見た。

 そして手鏡を取って自分の今の顔を映し出し警備手帳に貼り付けてある自分の顔と見比べると化粧していないにも関らず女顔になった自分に大きな溜息を放った。

 ヒマで始まったコミックにハマリ、その内容を実演したまでは良かったが後先考えずに服用し続けた女性ホルモン剤の結果に何かが込み上げて来た。

 乳房が膨らみ始めると同時に性欲もなくなり乳首を弄ることもなくなった工藤にとって「何のための女性化」なのかと、そればかりが頭の中を通り過ぎる。

 それでも一時は変化する自分の顔と身体に期待感も高まった時期もあったのにと、元気ない表情を浮かべる。

 

 明日、車を使えばもう燃料(くるま)は使えない……



 工藤は再び「うつ傾向」に転じたが、気を紛らわそうと仰向けになって白いキャミの上から乳首を両手で擦ってみた。

 それは性欲からではなく気分転換のつもりで始めた自慰だった。

 性欲がなくなった反面、性感(しげき)は以前の十倍近く跳ね上がっていて、工藤は全身を「ビクンッビクンッ!」と、大きくビクつかせ、全身に走る感度に首を仰け反らせた。

 そしてそれを数分間続けると左手をキャミの中に忍ばせBカップ以上Cカップ未満の右乳房を揉み回し、鈍くて重圧な「心地よさ」にウットリしながら右手でキャミを首まで肌蹴、その右手で左乳首を抓んで「クリクリ」と、弄ると無意識に大きな喘ぎ声を発して乳首は硬く勃起した。

 性欲に駆られての自慰ではなかったが工藤は自分の置かれた状況を忘れたい一心で両手で乳房を揉み回して勃起した二つの乳首を弄り続けた。

 

 アンッ! アウウゥゥゥ! ゥアッンッ!!



 乳房から来る「ウットリ感」と、乳首から来る電撃的な快感は徐々に官能へと工藤を導きショーパンから突き出た柔らかい女の太ももを「プリンプリン」と、揺らして膝立てさせた。

 工藤は喘ぎ声を奏でながら身悶えして乳房を「プリンプリン」と、揺らし左手をそのままに右手の指を右脚のショーパンの裾ギリギリに滑らせると、ショーパンの中のペニスは縮んだまま透明な愛液をホンの少し溢れさせ、男にならずに延々と終ることのない女の官能に酔い続けた。

 萎縮した睾丸からは微量の愛液しか分泌されず勃起しても半起ち程度では男としての自慰は成立しなかった。

 それでも工藤は喘ぎ声を奏でながら身悶えしてショーパンを脱ぎ捨てるとパンティーを自ら剥ぎ取り半立ち程度のペニスに右手を添えて前後を繰り返した。

 ペニスは感じるものの女の官能が強すぎてペニスの快感は全て打ち消され半起ちしていたペニスはいつの間にか元に戻っていた。

 工藤は悔し泣きながら再び両乳房を揉み回しながら乳首を弄って女の喜びに浸るしかなかった。

 

 射精して見たい…… 一度でいいからこの身体のまま射精して見たい……



 工藤の切ない願いはこの自慰では叶うことはなかったが、その代わり女のエクスタシーに近付いた感が無かった訳ではなかった。

 込み上げる何かと脳が少しずつ白くなっていくのを工藤は感じた工藤は手を伸ばして水溶性のジェルを絞り出すと、それを指でペニスの先に塗り「クリトリス」を、弄り転がすように右手の中指の腹を使った。

 こんなこともあるかも知れないと小机の上においておいたジェルは見事にその効果を発揮したごとく、官能する工藤の脳を追い詰めていった。

 すると工藤の脳に「両手を後に縛られ無理矢理犯される」自分の妄想が俄かによみがえった。

 工藤は喘ぎ悶えながら自分を「味見」する何者かの舌と指に悲鳴を上げて抵抗しながらもその刺激にいつしか抵抗しなくなり、クリトリスを舐めるザラついた何者かの舌に腰を仰け反らせ首を左右に振って悶え喘いだ。

 何者かの舌はやがて工藤のクリトリスから徐々に舌の位置を降下させ大陰唇(ふくろ)の真ん中を自由に行き来し工藤を辱めた。

 工藤は恥かしい割目の真ん中を何者かに味見され匂いを嗅がれ、その屈辱に耐えかねて涙を頬に伝えた。

 そして両脚を大きく開かれ押し上げられると工藤は小机の上から「ツボ押し用の棒」を掴み取ると口でしゃぶって唾液を塗りこめ「ズブリュー!」と、肛門に挿入させた。

 

 いぎぃ!! 痛あぁぁーーーい!!



 突然挿入された硬いモノに工藤はベッドの上で悲痛な叫び声を上げたが、何者かの硬いモノは工藤をヨソに何度もソレを前後させた。

 首を左右に激しく振りベッドの上で逃げ惑う工藤は追い詰められて頭をベッドのパイプに「ゴツン」とブツけ逃げられなくなったが、それでも何者かの硬いモノは執拗に工藤の穴の中で前後を繰り返した。

 そして工藤の穴の硬いモノが奥へ入った瞬間、脳を真白にさせた工藤は切羽詰まった叫び声を発した。


 イクウウゥゥゥーーーー!!


 工藤は初めて女のエクスタシーに達して失神しそのまま再び深い眠りについた。

 女の身体に近付いた工藤は男とは違うエクスタシーを感じたようだがそれは女性(ほんもの)の一割にも満たないものだった。

 


【十三話】



 この日の朝は十一月だというのに既に気温が三十度に達していた。

 スーツ姿で一旦は外に出たものの工藤は予定していた遠くの丘を越えるのを中止した。

 二十五度くらいで推移していた気温に慣れたのか突然の三十度はあまりに暑く感じて、工藤は外に出て間もなく乳房の谷間に汗を溜めた。

 ブラウスのボタンを外してタオルで胸の谷間を拭き取ったとき、工藤は「女性ホルモン」の摂取をしばらくの間やめてみようと思った。

 乳房が無くなるのには抵抗があるものの、少しだけ小さくなるのは歓迎傾向にあった。

 既に工藤の乳房はBカップのブラジャーでは対応出来なくなりCカップにしようかどうか迷っていた。

 そんな工藤は以前なら女装することに若干の喜びを感じていたが、乳房が出来て体重が急激に落ちた頃から女装して喜ぶことはなく、むしろ男が男の服を着るよな感覚になっていた。

 立場変われば考え変わるのコトワザではないが、女性が自分の体形に合った服を着るということは今の工藤に最も一致したことだち言えた。

 工藤はブラウスのボタンを二個ほど外したままで傾斜の向うの池に夜の飲み物を冷やしに出かけた。

 気温三十度の車の椅子に座ると直ぐにパンティーの中は蒸れて汗ばんでライトブラウンのパンティーストッキングに太ももの付け根辺りから汗が滲み出た。

 燃料節約のため使えないエアコンの変わりに窓を全開にしても入る風は熱風に感じ、脇の下も汗ばんでブラウスの生地に染み出してきた。

 この頃になると何度も車で走ったことで出来た道路が目印となって無駄にギアチェンジしなくても燃費の向上に繋げられた。

 そして池の前に辿り着いた工藤は積んできた飲み物を伝線して履けなくなったパンティーストッキングに入れて、両膝を曲げて屈んで水面に入れると、両手を水に浸けて涼を楽しんだ。

 男だった頃なら髪を短くして時折吹く風に頭を向けたが肩を越えて伸びたロングヘアーは太陽の熱を閉じ込め風になびくだけだった。

 


 スリップ脱いでくればよかった……

 

 
 椅子の代わりにしているプラスチックの箱に腰を下ろし足組みしてタバコに火を点けた工藤は辺りを見回した。

 誰も居ないことは知っているものの、それでも見回した工藤はタバコを灰皿に置くと汗でベタつくブラウスを脱いでスリップをスカートを履いたまま手繰り寄せて脱ぐと、吹く風に素肌を晒して一息ついた。

 ブラウスを車の椅子の背凭れ干して再び箱に腰掛け上半身にブラジャーだけで身体を乾かしながらタバコを吸い水面を見ていると、何かが「ポチャン!」と跳ねた気がした。

 

 何だろう……



 工藤は再びジッとして水面に見入る。

 最初の頃は水底の土も見えていた池もいつのまにか水草が生い茂っていて綺麗な緑色を見せている。

 店の周囲は荒野が広がるだけの荒地で、池の水草だけが唯一この土地で見れる緑色だったことでホッと心を休めた。

 すると再び「ポチャン!」と跳ねたモノに視線を奪われれば、自分以外に生きている魚だったことに工藤は満面の笑みを浮かべた。

 巨大地震以来、初めて出会った命あるモノは、太陽の光を照り返した銀色のキラキラ光る魚だった。

 工藤は飛び跳ねる魚をしばらく楽しそうに見詰めた。

 そして店へ帰ろうと車に近付いた工藤はブラウスを着衣すると後のほうに視線を移した。


 あの丘を越えれば燃料(なにか)があるかもしれない……
 

 

 工藤は車で一時間ほど走った先の奥にある丘を目を細めて凝視するとタオルで額の汗を拭いて車に乗り込んだ。

 帰りの下り坂はマニュアルの特性を生かして発進してダセイを付けてニュートラルで下っていくことで燃料の節約を実戦した。

 工藤は店に付くとそのまま着替え室に行きタイトスカートを脱ぐとデニムのマイクロショートパンツに履き替え、上に薄生地のノースリーブを着衣した。

 そして警備員室に置いてある女性ホルモンの残りを紙箱に入れるとそのまま薬品売り場へ移動し元の場所に保管すると、再びレジャーコーナーへ移動すると一つ百二十円の植物の種と五キロ入りの黒土を購入した。
 
 店の外に来た工藤は玄関先の横にある場所に斜屈むと手持ちスコップで土を掘り返してみた。

 

 もしかしたら生えるかも知れない……



 工藤は全身が汗だくになっているのも忘れ賢明に土を耕した。

 男なら力任せに出来た作業も今の工藤には不向き極まりなく、小さいながらもジックリと時間をかけて丁寧に土を耕し続けた。

 部屋で言えば三畳ほどの土を耕し終えたところで工藤は黒土をサラサラと満遍なく混ぜて一息ついた。

 ギラギラと照りつける太陽の光と気温は工藤に大量の汗を流させ、履いていたパンティーストッキングは太ももの付け根から太ももにかけて汗が滲みだしていた。

 あとは種蒔きするだけの工藤は食料品売り場へ移動すると昼食用の真空パックの食料と果物の缶詰を買うと足早に警備員室へ向かった。

 そして汗でベタつく下半身からマイクロショートパンツを慌てて脱ぎ捨てると、パンティーストッキングとパンティーを「スルスルッ」と、丸めるように脱ぎ、タオルで縮んだ性器を拭くと替え用のパンティーに履き替えた。

 ベッドに腰掛けて「パタパタ」と、股間をウチワで煽ぐ工藤は時計を見てそのまま休む間もなく、着替え室に急いで行くと素足にデニムのミニスカートを履き半袖シャツに着替えると汚れた物を洗濯室の水に浸けた。

 ストッキングは女性の「身だしなみ」と、思っていた工藤は「時と場所」に依ると素直に思った。

 警備員室に戻った工藤は気温が下がる夕方に種蒔きとようと「乾パン」を食べながら「瓶詰め」のピクルスを食べ明日は気温が下がって欲しいと祈った。

 

 それにしても暑いな……



 食事を終えた工藤は果物の缶詰を食いながら動く度に「プルプル揺れる乳房」を見下ろして「コイツが温度を蓄えているのか?」と、半袖シャツの上から乳房を持ち上げ壁にかけてある気温計を見ると、三十六度を指していることにギョッとした。

 そして缶詰を食い終えるとタバコに火を点け足組みすると、ズリ上がったミニスカートの裾辺りを「ジーッ」っと見詰め体毛の抜け落ちた「スベスベ」した脚を見流した。

 以前なら昆虫のバッタのように硬い筋肉があった外モモは「プルプル」した、脂肪に覆われ丸みを帯びていた。

 身体を左右に振ると全身が「プルプル」と、揺れるのを見て喜んだのは少し前だったのに、今はその喜びもなくなっていた。

 工藤はゴロンとベッドに横になると再び起き上がって半袖シャツを脱ぎブラジャーを外してベッドに横になってコミックを両手で開いた。

 

 中級編。



 一人緊博。 一人で自分を縛る方法。

 工藤は今更中級なんてと思いながらも見ていない中級編に目を通した。

 女装してロープで自分を縛って誰かに恥辱させられている妄想自慰に役立つと書かれたページを工藤は自分のレイプ自慰を重ねながら読んだ。

 両手を残して両脚首だけを縛る方法や片手だけを残す方法に縛りたい部分だけを強調して縛る方法と十種類以上がイラストと解説文でページを埋めていた。

 工藤はこの読んでいる中級編に吸い込まれていったが、中級では肉棒化したペニスを使う自慰だったことで「私には関係ない…」と、ページを閉じて昼寝にはいった。

 
 夕方目覚めた工藤はノーブラで半袖シャツを着ると耕した畑へと向った。

 気温は相変わらずだったが店の裏側である西に太陽が傾いたことでさっそく工藤は畑に水を撒いて土の温度を適度まで下げた。

 子供の頃に家族で何度も経験のある畑の種蒔きを思い出しながら工藤は数種類の野菜の種をまいた。

 工藤は巨大地震から連絡の取れない両親と妹のことを思い出したが、顔を上げて広がる「荒野」を見ると再び種蒔きを始めた。

 ラジオも鳴らない携帯電話も掛からない、カーナビさえも使えず半年近くたっても救助隊さえ来ないこの広大な荒地を見れば何も考えないほうが賢明だったかも知れない。

 まして深さ千六百メートルの沼が出来たかと思えば一晩で消えて代わりに小山が出来ている状態は尋常ではなかった。

 工藤は家族や友人たちのことを考えまいと種蒔きを片付け、畑の周りに棒を立てて「工藤農園と書かれた」の旗を立てた。

 そして車で傾斜上の池に行くと冷やしてあった飲物を車に取り込み身体を回して周囲を巡視した。

 この日も動く人影も向かって来る車や飛行機も発見できないまま外の活動を終えた工藤は店へと車を移動させた。

 素足にミニスカートで丁度いい気温に下がった店先で工藤はブロックを利用して簡単なカマドを作ると店から持って来た炭に火をおこした。

 用意したのはフライパンと真空パックに入った味付きの牛肉と野菜。

 缶ビール片手にフライパンが温まるまで一口飲んでは東側を向いて北側の左を向いた。

 遠くには都会の街並みが広がっていたはずなのに今は何もないただの荒地が延々と広がっていて青い空には飛行機もヘリコプターも鳥の姿さえも見ることは出来ない。

 左側にも広がっていた街並みは何処にもなくひたすら荒地が広がるのみで、傾斜上の池が出来た同じ頃に出来たのだろう小さな池がポツンポツンと見えるだけだった。

 そしてその奥にはあったはずの山々は巨大なショベルカーで地ならししたように低く削られていた。

 そんな場面から顔を背けた工藤はプラスチックの箱に座って悔しそうに地面を数回蹴った頃、フライパンがいい具合に加熱され工藤は肉の封を切って中に具材を流し込んだ。

 ピチピチジュワジュワと音を立てて美味しそうな匂いが辺りに起ちこめると、箸で引っくり返すように掻き混ぜる工藤は缶ビールをゴクゴクと喉に流し込んだ。

 

 もしかしたらこの地域で生きているのは私だけなのか………



 工藤は込み上げる不安を打ち消すように肉と野菜を口に入れ食べることに専念し、缶ビールをゴクゴクと喉に流し込んだ。

 そして時間の経過とともにようやく太陽も沈んで気温が下がった頃、工藤は携帯用の電池式の白熱灯ランタンの前で研ぎおえた米と水を肉と野菜の残ったフライパンに入れフタをした。

 メシが炊けるまでの間と、缶ビールを片手にタバコを吸う工藤もほろ酔い加減に心地よくなった。



 一時間後、夕飯を終えた工藤は急に下がった室温に若干の肌寒さを感じて洗濯して干してあったグレーのパンティーストッキングを着替え室で履くと、そのまま食料品売り場に行きウイスキーの小瓶を購入して警備員室に戻った。

 男なら肌寒さを感じればズボンを履くしかないが、女性にはパンティーストッキングにニーソックスにタイツなど変化する気温に対応する衣料が豊富にあって、スカートもミニの他に膝丈やらロングやらがあって最終的にはズボンとなるが、そのズボンにしても八分丈だの七分だのと生地も長さも様々なことに工藤は素晴らしさを感じていた。

 そんな工藤はグレーのパンティーストッキング一枚がこの夜は丁度良かったのか肌寒さはピタリと止まったようだ。

 事務椅子に座り机に向かう工藤真一は名前を記帳すると「本日は客足なく」と、書き始め廃棄箱行きのモノ以外の購入したものは丁寧に全てを書き記した。

 そして一袋、六百八十円の珍味シリーズのスルメの足の封を切ると一口かじってウイスキーの水割りを飲んでベッドに腰を降ろすと必要ないと閉じたコミックの中級を再び開いた。

 自分で実戦しなくても読むだけならとウイスキーを飲みながらページを捲り続けること中級の三冊目、酔いの回った工藤に変化が訪れた。

 工藤はコミックを持つ手を右に空いている左手を支えにベッドに登ると壁際まで移動し凭れて膝を揃えて体育座りした。

 すると今度はその左手を半袖シャツの上から右乳房に這わせて「スリスリ」と、乳首辺りを手の平で軽く擦り始めると身悶えをした。

 コミックを見詰める工藤の口からは薄っすらと喘ぎ声が放たれ揃えた両脚の爪先を閉じたり開いたりと繰り返した。

 そして時間を追うごとに工藤の手の動きと喘ぎ声は大きくなっていったが、体育座りして揃えた膝の片方が少し上に上がると「キュゥー」っと内側にゆっくりと閉じてピタリと止まると、工藤の首はゆっくりと仰け反ってコミックを見る目が空ろになった。

 その動きを左右交互に繰り返した工藤のパンティーはミニスカートの中で水分を外側に滲ませた。

 

 ちょっとだけなら… 少しだけ………



 工藤はコミックをベッドに置くと突然床に立ち上がってフセつきながら、店内に移動しロープの束と霧吹きを購入し更に仏壇コーナーから蝋燭を購入して警備員室に戻った。

 そして酔いに身を任せるように空ろな目をした工藤は霧吹きに水を入れベッドの足元のパイプに自分の両足首をロープで縛ると、下半身の下にビニールの切れ端を敷いてグレーのパンティーストッキングの上から両太ももに満遍なく霧吹きを使った。

 そして再び状態を仰向けにした工藤は目を閉じてコミックを右手に左手で右乳首を半袖シャツの上に這わせると「スリスリ」と、軽く擦り両足の筋肉を小さく硬直させた。

 両足首をベッドに縛られた工藤は動けない両脚の筋肉で乳首からの刺激に耐え、小さいながらも深みのある悶え声を放ち続けた。

 そしてページを捲った工藤の左手は突然、半袖シャツを裾から首まで巻くりあげ露になった右乳房を「ムニュッ」と、鷲掴みして揉み回した。



 アアアーーーンッ!! アンッ!



 工藤の悶え声と同時に左の乳房は「プルプル」と乱れ揺れ動きベッドに縛られた両脚はパイプを「ギシギシ」と、軋ませた。

 そして乳首を擦る左手の平が動きを増すと首と身体を仰け反らせて全身をブルブルと小刻みに揺らし続けた工藤からはコミックが床に「バサッ」と、落ちた瞬間、工藤は上半身を起こすと枕を腰に当て両手でミニスカートを腰まで巻くりあげると、切ない表情を思いっきり浮かべ左手に持った蝋燭に火を灯した。

 口を半開きさせ綱渡りでもするかのように恐々した不安げな表情を浮かべた瞬間、蝋燭を持った震える左手から溶けた蝋が「ピシャッ! チリジリジリッ!」と、グレーのストッキング越し左の太ももに落ちると、工藤は一瞬、驚いた表情を浮かべ顔を強張らせて「アツッ! アッ!」と、腹を引っ込めた。

 そして戦々恐々としながら「ポタポタ」と、溶けた蝋を「ジュッ!」と、落とすと「熱いっ!」と、首を左右に振って全身を揺らし二つの乳房は「ブルブル」と、大きく無造作に揺れた。

 工藤はまるで薬物患者か何かに憑依されたように目を閉じて自らの左太ももに蝋燭を垂らし奇声と喘ぎ声を重複させ乳房を揺らし続けた。

 すると工藤の右手は縛りつけた両脚のロープを外し自らをベッドに横位けにすると、今度は左脚の膝を折り曲げて内モモに溶けた蝋燭を「ポタリポタリ」と、垂らし始め上半身を仰け反らせて「熱っうぅっいいぃぃー!! 熱い熱い熱い!!」と、叫び声を部屋に響かせながらも左内モモに蝋燭を垂らし続け、蝋燭を持つ手を右に替え左手で右手の乳房を鷲掴みして揉みまわした。

 


 熱い! 熱い! 熱っつうぅぃぃぃーーー!!!


 工藤の下半身を包むグレーのパンティーストッキングは霧吹きの水分を「ジュッ! ジュッー!」と、弾いて固まりその下の内モモの肌を痛めつけた。

 それでも工藤は右手に持った蝋燭を垂らすのを止めようとせず今度は、右の外モモに蝋燭を垂らし悲鳴を上げながら両脚の爪先を「ギュッ!」と、閉じて熱さを耐え忍んだ。

 左手は右の乳首を抓んで転がし指の腹で弾いて抓むを延々と繰り返し工藤は閉じた瞼の下で眼球をしきりなく動かし続け、エスカレートして水分を掛けていない乳房に仰向けの姿勢で蝋燭を垂らした。

 その瞬間、溶けた蝋燭は右の乳首を半分掠め半分を乳輪に流すと工藤は壮絶な熱さに、両脚とカガトを「ギュッ!」と、伸ばし爪先が折れんばかりに「ギュウゥー!」と、閉じると「もう駄目えぇーー!!」と、蝋燭の炎を消し、蝋に塗れたグレーのパンティーストッキングを「ビリビリビリイィー!!」と、右手で両脚を破ると直ぐに両手で両乳房を鷲掴みして揉み回した。

 すると工藤の両脚は互いに擦れあいながら激しくモジモジし、そのままコンクリートのように固まって止まると、工藤は息も絶え絶えになりエクスタシーに突入した女の切羽詰まった声を部屋に響かせた。

 

 イクウウウウゥゥゥゥーーーーー!!!



 工藤はエクスタシーに達した瞬間、全身をピクピク引き攣らせ仰け反ったまま動かなくなった。

 そして数分後、再び泣きそうな顔して起き上がった工藤はロープを両脚の太ももに片方四箇所ずつ絞るように縛りつけると、そのまま両脚の膝をゆっくりと起てた。



 痛い! 痛い痛い痛あぁぁーーーーい!!



 伸ばした脚を絞るように縛ったが故に、膝を曲げれば当然、ロープは肉に食い込んで想像を絶する痛みに変わる。

 工藤は我慢出きる限界まで膝を曲げてその痛みが心地よくなるまで両方の手で乳房を揉み回し乳首を弄りまわした。

 時間にして二分、工藤は蝋燭プレイで萎縮した睾丸から搾り出した愛液を再び搾り出すようにパンティーを内側から濡らした。

 そしてパンティーストッキングを再びヘソ下から破りパンティーを一段目のロープまで剥ぎ降ろした工藤の手の親指は絞り出された愛液に指の腹をヌルヌルと回させた。

 すると工藤は突然大きな「痙攣(けいれん)」したように両脚を膝起てさせたまま「ビックウゥーンッ! ビックウゥーンッ!」と、凄まじいビク付きでベッドを大きく軋ませた。

 自分のペニスから溢れた愛液を左手の中指に絡めとリ右の乳首に塗りつけるように転がしながら、右手の親指の腹でペニスの先っぽをヌルヌルとヌメさせた工藤は余りの衝撃的なエクスタシーに声を上げる間もないまま悶絶して果てた。

 

 コミックに書かれていた内容をそのまま自分に行った工藤は一度のプレイで二度のエクスタシーを味わった。

 
 


 
【十四話】




 初めてのSMプレイは工藤に置かれた今の状態を忘れさせる程の驚きと痛みのプレイが新鮮だったのか、二度目のエクタシーは工藤を朝まで熟睡させた。

 だが目を覚ました工藤は自分の姿を見て急に恥かしくなったのか赤面して枕で顔を覆った。

 ロープで緊博されたまま下半身に纏わり付く蝋燭塗れの破れたグレーのパンティーストッキングと、一段目のロープまで下ろされたパンティーから顔を出すペニス。

 そして乳房に蝋燭が溶け落ちて固まった形跡に工藤はしばらく枕で顔を隠したまま動かなかったが、ジンジンと痺れる両脚に「ハッ!」と、して枕を避けると慌てて両脚を縛ったロープを解いた。

 なまめかしいロープの痕跡が残る太ももの肌とビリビリに破れたパンティーストッキングを見て工藤は恥かしさから再び視線をそらしながら、後片付けをしようとパンティーを履いてパンティーストッキングを脱ごうとした瞬間、激しい性的欲求が工藤を襲った。

 履きなおしたパンティーの中でフニャフニャしていた工藤のペニスが数ヶ月ぶり「ギンギン」に勃起して肉棒化した。


 
 乳房を揉み回して肉棒を扱いたのは初めてだった。
 
 工藤は焦るようにジェルを取って右手に塗るとそのまま肉棒を右手で掴んで手の平を「ニュルニュル」と扱いた。

 久し振りに硬くなった肉棒はジェルの「ヌルヌル感」で、工藤に「男」の快感を伝えながら揉み回す乳房からは「女」の快感が同時に脳へと刺激を運んだ。
 
 工藤は一つの身体で二つの性に悶絶して狂ったように体位を変え両手を動かし髪を振り乱した。

 そして後転姿勢に体位を替え左手で乳首を弄りながら右手で肉棒を擦り続けた結果、工藤は自らの精液を自らの乳房に飛ばした。

 ツンとする独特の嫌な匂いが工藤の嗅覚を突いて透明な精液がタラタラと左右に滑り落ちると、工藤はゆっくりと目を閉じて女のエクスタシーと男のエクスタシーのよいんを同時に味わった。

 男性器さえなければ誰がどうみても女性でしかない丸みを帯びた工藤の身体は、男の精液を乳房で受け止め再び工藤を眠らせた。

 そして午前九時、再び目覚めた工藤はフラフラしてベッドから出ると乱れた髪に手櫛(てぐし)をかけ事務椅子に崩れるように腰掛けた。

 首を振ってベッドを見て前夜の形跡に頬を紅く染めながら今朝の情事を恥じてうつむいた。

 
 
 何であんなことしたんだろ……



 工藤はボロボロのパンティーストッキングとロープと蝋燭とビニールシートの切れ端を見回して、乳房に貼り付いた精液をティシュで拭き取った。

 そして力無げに腕を伸ばして買物袋に蝋燭とロープ以外のモノを入れると床に結んで置いて、タバコに火を点けた。

 火傷はしていなかったものの、太ももには前夜の形跡であるロープの痕跡がクッキリと残り緊博を覗わせた。

 

 何かダルイな………



 工藤はタバコを消すと立ち上がってパンティーを元に戻し前夜着ていたモノと買物袋を両手に持つと、フラフラと警備員室を出て着替え室に向かった。

 そして着替えを持つと今度は洗面所へ移動して洗濯水槽に投げ入れると、溜め置きしていた温い水で頭と身体を洗い別の水槽(フロ)に身体を浸し、前夜の赤面するほどの恥かしい行為と今朝の二つのエクスタシーを思い出しながら右手を左肩に滑らせた。

 滑らせる手の平に感じる緊博の痕跡に痛みが快感に変わった瞬間を思い出しながら、太ももに垂らした熱い蝋が官能に変わった瞬間を思い出した。

 工藤は温い入浴を一時間ほど楽しむと体重計に乗って減少が止まった体重に安堵の表情を浮かべた。

 そして、手にした水色のビキニタイプのパンティーを履くと同色のカップ付きのキャミを着衣し、下半身を薄生地の短めの青いキュロットで包んで店の玄関へと向かった。

 

 やっぱりか……



 前夜作った畑を見がてら壁に取り付けた気温計を見た工藤は、三十度を越える気温に遠くの丘へ行くのを断念した。

 そして前夜に植えた植物の種を見ようと近付くものの、昨日の今朝で芽が出ている訳もなく小さな溜息をつくと、微風にヒラヒラと舞う工藤農場と書かれた旗を見て、数ヶ月前に立てたものの大洪水で流された道しるべ的な旗を思い出した。

 

 アレなら微風でもヒラヒラと揺れて遠くからでも見えるかも知れない……

 

 工藤は急いで衣料品コーナーへ行くとワゴンの中に入っている、自分の履いているLLサイズ以外のパンティーストッキングやロングストッキング類を片っ端から買物カゴに入れ始めた。

 山積みになったカゴを五つほど工藤は車の後部に積み込むと、今度は店内を歩き回り棒になるものを探し回ると、夏の特設販売コーナーに家庭菜園用のキュウリやトマトに使う二メートルほどの竹の棒を見つけた。

 工藤はそれを全部車の屋根に積んで開いた窓にロープをかけて固定すると車に乗り込んだ。

 遠くの丘のことも考え「今日はあの辺りだな」と、目星をつけた工藤は軽快に坂道をニュートラルで下った。

 そして車を止めるとカゴと竹を持てるだけ持つと、百メートル間隔で竹を地面に数本刺してカゴに入っている小さいサイズのパンティーストッキングのゴムの部分を針金でたて並びに三足結んだ。

 案の定、パンティーストッキングは微風にヒラヒラ両足の部分を靡かせ宙を舞った。

 


 女性が見れば女性が居ると思い込み男性が見れば女性だと安心するはずだ……

 

 
 微風に舞う黒やグレーやブラウンの縦に三枚並んだパンティーストッキングは工藤の思った通り荒野に「女性らしさ」を漂わせた。

 工藤はそれを見てニッコリすると次々にパンストの旗を立てて行き、三時ごろに店に戻ると五つあったカゴは全部使い切っていた。

 店に戻った工藤は早速、商品管理帳に「必要経費欄」を設け、理由を「集客及び救助隊誘致のため」と記すと、衣料品売り場へ移動すると子供用と男性用の衣類は奥の商品庫にカーゴごと全て移した。

 夕方の五時、全ての子供用と男性用を移し終えた工藤は、今度は大人の女性用の衣類のうち老人用を別の商品庫へと移動させると衣料品コーナーを成人女性の専用コーナーにした。

 


 これで使いやすくなった♪


 工藤はニッコリ笑顔を浮かべると、成人女性用の中から自分の履けないストッキング類の全てを別のカーゴに移し変えて玄関の近くに積み置きした竹の横に移動させ、ストッキング類がある限り竹に結んで立てて行こうと思っていた。

 そして一日の仕事を終えた工藤は太陽が西に傾いたことを確認すると畑に行って水撒きをして双眼鏡を首から下げ二階屋上の駐車場へと移動し、自分が立ててきたパンスト旗を双眼鏡で見回した。

 金色に輝く夕日の光に照らされながら「鯉のぼり」のようにヒラヒラと風に舞うパンストに工藤は「誰かか見てくれれば」と、希望に胸を膨らませた。

 
 数分後、屋上から降りた工藤は農園の横のブロックで作ったカマドに火を入れると研ぎ終えた米の入った鍋を火にかけると、フライパンに数個分の魚の缶詰の中身を入れてフタをして傍に置いた。

 警備員室から食料品売り場の酒コーナーから持って来た日本酒とツマミの魚の乾物珍味を購入すると、いつものように「代金はカード払い」と記したメモをマグネットで留め置きした。
 
 御飯を炊いているカマドに戻った工藤は傍に置いてあるプラスチックの箱に腰を降ろすと購入した日本酒をコップに注ぎ一口飲んで、辺りを見回した。

 誰も居ない店先でキュロットの裾から入る微風に心地よさを覚えながら再び酒を楽しむように飲んだ。

 明日こそ気温が下がってくれればいいがと、空を見上げて心で手を合わせながら炊き上がった御飯の香りに笑みを浮かべてフライパンと入れ替えた。

 炭火のカマドに乗せたフライパンは「ジュゥージュゥー」と、魚に滲み込んだタレが美味しそうな匂いと音を工藤に聞かせ、フタを取って箸でかき混ぜると「ジョワジョワジワ~」と、甘辛い匂いがあたりに起ちこめた。

 工藤はフライパンを火から遠ざけると箸で一つまみ口に入れる幸せそうな顔して舌堤を打って酒をグビッと飲んだ。

 


 二時間後、ほろ酔い気分にお腹も満腹になった工藤は警備員室に戻ると、汲み置きした水をゴクゴク飲んで深夜の巡回に備えて早々とベッドに身体を休めた。

 そして熟睡した工藤は巡回の一時間前に突然の胸の痛みに目を覚ました。

 その痛みは乳房の内側で大きな炎症を起こし真ん中の左右の乳首の下側に突き上げるよう大きな痛みだった。

 余りの痛みに工藤は額から脂汗を滲ませ身動き出来ないほど左右の乳房は激痛を工藤に伝え、激しい痛みで叫びたくなるものの口を開くことも傍の小机からタオルを取ることも出来ないまま、工藤は仰向けのまま裂けそうな乳房の痛みに歯を食いしばった。

 ギリギリギリと歯を食いしばる工藤は乳房が引き裂かれるような壮絶な激痛に失神して朝を迎えた。

 
 そして朝の八時、深夜の激痛が嘘のように消えてなくなっていることに工藤は安堵したものの、喉の渇きを水で癒そうと起き上がった瞬間、俄かに胸の辺りに強烈な違和感を覚えた。

 それは起き上がった瞬間に「ズッシリ」とした重みが工藤の上半身を若干、前屈みにさせたことによる物だった。

 工藤は慌てて違和感の正体を確かめるべく半袖シャツを脱ぐと胸を見て「ギョッ!」とした。

 Bカップサイズのブラジャーを大きく押し上げるDカップはあろうかという乳房に工藤は息を飲んで仰天し、驚きの首を乳房から引き離すように仰け反らせた。

 
 

 そんな馬鹿な!!


 女性ホルモンの服用をやめて数日を経過している工藤は突然のバストサイズアップに口を開いたまま固まった。

 そして我に返った工藤はブラジャーの調節具の「エイトカン」が弾け飛んでいることを見つけると再び仰天した。

 工藤は乳房を「ギュウギュウ」に締め付けるブラジャーを外そうと後に両手を伸ばしたがホックが食い込んで外れず、仕方なく肩紐を外して力任せにブラジャーを腹へと押し次げた。

 その瞬間、乳房は「ボンッ! ボヨヨンッ!」と、突出して工藤はバランスを崩して上半身をベッドに「ドスン!」と、倒した。

 工藤の乳房は震えながら左右に一気に流れその重みを工藤は直に受けた。



 何でこんなことに……



 工藤は有り得ない現象に驚きを止められないまま両腕で身体を起こしてベッドから出ると、フラフラと前後左右のバランスをとるように立ち上がった。

 突然BカップからDカップほどに巨大化した乳房に恐怖感を覚えながら、工藤は「とにかく探さなきゃ…」と、腹にブラジャーを捲いたまま警備員室から衣料コーナーへと移動してきた。

 

 デザインの種類がこれしかないのかよ~



 工藤は気に入らない四~五本のブラを前にして腹のBカップのブラを取り外すと、取りあえず装着してみたがその瞬間、工藤は「えっ!」と、顔を曇らせた。

 既製品とは言えサイズはちゃんとしているはずなのに、装着したブラジャーが小さいことに工藤は顔色を変えた。

 そして何とか乳房をカップに納めようと右手で左カップの中に手を入れた瞬間、工藤は「アアアアアアーーーーン!!」と、大きな喘ぎ声を放ってその場に崩れ落ちアヒル座りした。

 工藤は自分の身に何が起きたのか解からないまま「キョトン」と、放心状態になった。

 突然、稲妻のごとく工藤の体内を通過した数万ボルトのような電気ショックは崩れた工藤を数分間そのままとどまらせた。

 そして我に帰った工藤は恐る恐るブラジャーを外して腫れ物に触るような手付きで乳首に中指を軽く触れた。


 アアアアアアァァァーーーーーン!!


 工藤は再び激しい喘ぎ声を放つと今度はアヒル座りのまま後に倒れヒンヤリした床に背中を張り付かせた。

 左右の乳房は「ブルンブルン!」と、大きく揺れると左右に流れて両目を大きく見開いたまま瞬きしない工藤に重力を感じさせた。

 そして再び工藤は背中を床に付けた状態で右に流れた乳房の乳首の先っぽを左手の親指と中指で一気に抓んで見た。


 あひっいぃぃーーーー!!

 
 

 工藤はアヒル座りの両足の蹴るように前に伸ばしきると筋肉を「ビイィンッ!」と、硬直させ爪先を「ギュウゥッ!」と、一気に閉じて両目を最大に見開いた。

 とてつもない凄まじい快感(しげき)が稲妻となって工藤の体内に充満し工藤はまるで感電したように全身を「ヒクヒク」させその場で失神した。

 有り得ない現象は有り得ないパワーで工藤をノックアウトした。

 

 工藤は目を覚ますと今まで自分が感じていた快感(しげき)は女性(ほんもの)の数%だったと素直に思いながら起き上がると、戦々恐々として乳首や乳房に触らぬようにブラジャーを装着すると、今まできていた服の殆どを着ることが出来ない不便さを強く感じた。

 そして警備員室に戻ると前日履いていたお気に入りのキュロットスカートを履き衣料品売り場の等身大の鏡に自分を映すと、ソコには昨日までとは違う大きな胸の女性が立っていた。

 歩くたびに「ユッサユッサ!」と、大きく揺れる邪魔な胸はDカップのブラジャーを窮屈だと言わんばかりに「ピッタリ」と、張り付いてブラジャーの上に着た半袖シャツとが擦れただけの小さな刺激をも拾い上げ、その度に不要な快感(しげき)に工藤は足から「ガックンガックン」と、力が抜けて崩れそうになった。

 

 こんなんじゃ! 遠くの丘に行けない!! くそ!!



 工藤は歩く度にパンティーを内側から濡らしていることに気付かぬまま、悔しい気持ちを抑えてバランスの取り方を身体で覚えようと店内を歩き回った。

 店内を膝をガクガクさせて歩き回る工藤は、心の中で「女性ホルモンなんかやるんじゃなかった!」と、後悔しながら時折立ち止まって胸の揺れが止まるのを待った。

 そして数時間の歩行訓練の後、ようやくDカップ以上の胸にも慣れた歩き方を「モノ」にしても尚も歩行訓練を続けた。

 

 女性って大変なんだな…… はぁはぁはぁ……



 立ち止まって息を整える工藤は改めて女性の凄さを振り返えり、上半身を屈めて両手を膝に付こうとして前のめりに床に倒れた。

 工藤は歩行訓練の他に前後左右のバランス訓練をも盛り込んだが、遠くの丘に行く予定を伸ばすことを決めた。

 遠くの丘を越えれば何かあるに違いないと思う工藤は、今「焦って行動すべきではない」と、自分に言い聞かせた。



 だがこの日、工藤は早く今の身体に慣れるためと昼間から警備員室で「ケタタマシイ喘ぎ声」を静まり返った店内に響かせ続けた。



 

本日も客足なく【サバイバル】

本日も客足なく【サバイバル】

女装・性転換・レイプ・SM・MTF・恋愛・自慰・玩具・純愛・調教・緊博・辱め・恥辱・愛欲・官能・快感・異愛の全てが入った冒険物語で性転換シリーズの番外編的な位置。泣いて笑って苦しんで怒って愛して慈しむストーリー。

  • 小説
  • 中編
  • 青春
  • 恋愛
  • 冒険
  • 成人向け
更新日
登録日
2013-01-13

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