「刹那」

 深い絶望は
 僕をまどろみへと(いざな)
 せめてこの臆病な両眼が
 ミシン針で留められる前に
 もう一度
 胡蝶に逢いたい
 その羽で
 その口で
 その触角で
 白菊の蜜を吸いとる一羽の胡蝶
 蜜をひと息に呑み干せば
 黒曜石の瞳潤い
 長い睫毛は露を抱く
 蜜だけでなくいっそ根元まで喰い尽くせ
 優しい胡蝶の哀しい笑い
 僕の敏感な触角が
 あなたの心臓の血に触れた
 胡蝶は僕と(たふ)れて
 ずっと湖に溺れ沈んだ
 胡蝶、もう眼を開けなくったっていい
 僕の両眼はあなたの傷を見られないから
 ふたりでずっと眠っていよう
 夢の刹那を空に広げて
 藍色の空に漂っていよう

「刹那」

「刹那」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-11-25

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