「砕けた鏡」

 鏡が砕けた
 砕けた、鏡。
 とうめいの破片は
 魚となって
 空気に潜って
 ゆうゆう泳いで溶け込んだ
 空気は冴えて
 冬の日の夜の外
 白い吐息も、溶けた。
 きらきらと鱗の明滅
 瞬きの星あかり
 鋭さは内に(くる)んで
 誰かの頬を切らないように
 眼を閉じてふるさとを思う
 ()い焦がれた 宿命の記憶
 冬の夜空に月を祈って
 星に尋ねて
 この髪が夜に溶ければいいとさえ思った
 狂ほしい 雪の記憶
 月の泪が白花にもなれず
 いぢらしくもすなおな哀しい雨になるこの町で
 私は空を見上げている
 口惜しくも地に足付けて
 指先届かぬ水の空
 遠く触れられないさだめの命もて
 砕けた鏡の破片を見つめる
 頬に感じて
 手に抱いて
 首に埋め込み
 空を見る…
 今日の月は、何色だろう。

「砕けた鏡」

「砕けた鏡」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-11-25

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