夢一夜パロディ

他人の不幸話しは、酒のツマミに丁度いい。

 こんな夢を見た。
 どこかの軽食のレストランで、私は簡単な作りの椅子に、もたれかかっている。ひどく疲れ果てていた。自分も含め十人ほどの男が、私の両脇に、まるで発表会のように二列に並んで座っている。私はそのまん中あたりの後列にいる。私たちには、レストランというのにテーブルがなかった。みな表情は明るいとは言えない。私と同じように疲れの模様が伺える。それもあって同年齢であろうに、疲労の具合で別々の世代に見える。目の前には、普通に食事をしている客が席を埋めていた。
 
 前列の端の男が、ゆらりと立ち上がって身の丈を話し始めた。時間は限られているようであまり長くない。食事をしている客はそれを、談笑しながら観ていた。
 私は私の番が来るまで、疲労のせいでうつらうつらとしている。あまりの疲労だ。私は男たちの話を聞こうとするが、なかなか意識を保つことは難しい。目を瞑ってしまっているときは、しっかりと夢を見ていた。とぎれとぎれに頭に入っていたが、どちらもそれほど深くも重くもなかった。
 
 私の目の前の男が、私を起こした。どうやら私の番らしい。ゆっくりと重い腰をあげ、私は話し出した。すらすらと語れたし、思っていたとおり私の話が一番重いようだった。いかにもと熱を帯びた私の口調で、客も男たちも静まり返っていた。しかし私は、「聞けるような」程度のことしか話さなかった。あまりに重いことは、人はかえって聞かないものだと知っているからだ。それもこんなところで話しても仕方ないと分かっている。
 
 話し終えたとき、加減した話に客は満足そうにしていた。次の男が話し出していたが、奇妙な感覚になった。静まり返っていた客はすでにそうではなくなって、なんでもなかったように食事を続けている。最後の男がどうやら主催者だと告げ、その折を話していた。なぜかもう眠くなくなっていた。
 
 それが終わると、客は打ち合わせをしていたかのように拍手をした。それもまた短く、直ぐに客は空いた皿越しに談笑をそれぞれにし始めていた。私たちが椅子を片付けるのもなんら気に留めていない。
 男たちはレストランの戸口で、笑顔になり自らを祝していた。その綻んだ顔の皺には、やはり疲労の跡が薄らと見えるが、今は終始和んだ雰囲気が漂っていた。私もこれ以上ないほどに、高揚した笑顔を見せてやると、男たちは嬉しそうにそれに応えていた。
 
 一通り済むと、みな腹が減っていたようで、何を食らうかの話に移っていた。外は雨だった。降り注いではいたが、雨音は一切聞こえない。
 私はレストランンの一画に追いやられたような、ガラスで囲まれた喫煙席に目をやった。しかしその部屋はまったく煙草の煙は見えず、クリアであった。こちらに向かった席に座っている一人の女性と不意に目が合った。その女性の目は、魚の目のように微動だにしない。それどころか表情もなく身動きひとつしていなかった。
 私はそのとき、私自身も単なる雨の一粒だと分かった。外の雨のようにそれぞれを個別することもできず、音もなく地面に溶け込んで排水溝の暗闇に流れ込む雨だと。

夢一夜パロディ

夢一夜パロディ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-01-13

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