「見えない小鳥」

 見えない小鳥をこごむで撫でる
 ぴい、とも
 ちい、とも
 ちゅちゅちゅとも鳴かないで
 此方(こなた)にずっと話しかけて居る
「 ねえねえ…
  ねえねえ… 」

 見えない小鳥は何処に居る?
 この、灰の山の上に居る
 このお山は
 着物を引ッ裂いて
 確かに両手で引ッ裂いて
 マッチを摺って
 この手で摺って
 そうして着物に放り込んだのだ
 袴も帯も扱きもかなぐり捨てて
 自ら生んだ炎にくべた
 この手で生んだ火で燃やした
 山もすぐに風に消される
 なのに風は雨だけを呼んで来て
 自分は全く動かない
 雨の糸ばかりが
 見えない露を縫いつけて
 針も無いのに
 何も消えはしなかった

 灰の山に雨の積る
 重なった雫は綻びを埋める水溜りとなりて
 傷をたちまち泉に変える
 淵に変える
 汀に変える
 山には炎の名残と炎の赤子が入り混じり
 その両方に一つずつ足をおろして
 すっくと立つ
 見えない小鳥は撫でられて
 話して居る
 呼んで居る
 問うて居る
「 ねえねえ…
  ねえねえ… 」
 小鳥の囀りは聞えない
 それでも
 それでも
 ………

「見えない小鳥」

「見えない小鳥」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-11-24

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