秋はいつから

秋の始まりに冬を思う随筆

  「秋はいつから」

 気付くともう秋である。

 人々が夏にはしゃいでいる間に、秋はひたひたと進行してゆく。
 桜の葉はいつの間に、赤や黄色に色を変えていたのか。
 いつの間にトンボが赤くなっていたのか。
 向日葵はいつ枯れて、秋桜がいつ咲いたのか。それらは毎年はっきり覚えていない。
 そして日々日暮れが早くなっている。
 今日も仕事終わりに通用口を出ると、宵闇が広がっていた。ひんやりと湿った空気。漂うのは今朝降った雨の匂い。
 目を落とせば街灯の弱い灯りが、道に貼りついたまだらに黄色い木の葉の、その黒ずんだ裏をぬらぬらさせていた。
 ギャア、ギャア、ギャア、ギャア、おびただしいカラスが、ねぐらの山に戻ってきている。闇の塊に浮かび上がる森の影に、更に黒い鳥がうごめいている。

 ため息を一つ。私は長い夢から覚めたような心地がした。歩き出し足早に家路に就く。
 星の見えない空を見上げ、大きく息を吸い込むと、その冷たい一呼吸に、既に近い冬を想った。
               (了)

秋はいつから

秋はいつから

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-11-21

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