秋はいつから
秋の始まりに冬を思う随筆
「秋はいつから」
気付くともう秋である。
人々が夏にはしゃいでいる間に、秋はひたひたと進行してゆく。
桜の葉はいつの間に、赤や黄色に色を変えていたのか。
いつの間にトンボが赤くなっていたのか。
向日葵はいつ枯れて、秋桜がいつ咲いたのか。それらは毎年はっきり覚えていない。
そして日々日暮れが早くなっている。
今日も仕事終わりに通用口を出ると、宵闇が広がっていた。ひんやりと湿った空気。漂うのは今朝降った雨の匂い。
目を落とせば街灯の弱い灯りが、道に貼りついたまだらに黄色い木の葉の、その黒ずんだ裏をぬらぬらさせていた。
ギャア、ギャア、ギャア、ギャア、おびただしいカラスが、ねぐらの山に戻ってきている。闇の塊に浮かび上がる森の影に、更に黒い鳥がうごめいている。
ため息を一つ。私は長い夢から覚めたような心地がした。歩き出し足早に家路に就く。
星の見えない空を見上げ、大きく息を吸い込むと、その冷たい一呼吸に、既に近い冬を想った。
(了)
秋はいつから