「鳥」

 居心地の良い柵の中
 恋しきを恋しいとも言えないで
 タダ飯を喰らう
 見世物の鳥
 飛べない私は
 走れない私は
 少しの物音にもおびえている
 何気ない日常の音が
 無意識な一般の音が
 見世物鳥をこわがらせる
 甲斐の無い濃藍の羽織我が身に抱きて
 哀れな娘が自分の体を抱くように
 羽を震える体に押っ付けて
 …がく…がく…がく…
 鳥は泣いて居る
 声も立てず
 唇をしっかり閉ざして
 黙ったままに泣いて居る
 誰も助けには来るまい…
 そんな事実は鳥にも分りきっているから
 鳥は逃げも出来ない
 のらくらの生活を甘んじて
 いつもあのうつくしい川を胸に秘め続けて居る
 うつくしい川
 遠いふるさとの川
 うら悲しい雪の町
 きっと(さき)の命はあの雪の町で生きた
 魂のふるさと
 星の定めた魂のふるさと
 うつくしや 母なる川
 恐ろしや 我が深淵の厳かなる霊山
 いとほしや 頬を撫でる大きな掌
 遠きは夫婦(めをと)であったやも知れぬ
 あなたは雪国に残り
 私はもう雪も見れない所に生きている
 遠い昔の宿命よ
 いまひとたび
 ふたりを本能の記憶のままにして…
 羽の意味が無いのなら
 もう私をあの寂しい町に帰らせて

「鳥」

「鳥」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-11-21

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