強姦殺人連鎖

美優&一平シリーズ

見合い

  76-01

「な、なんだ!」一平が深夜飛び起きる。

「地震よ!まだ揺れているわ!」美優が青白い顔をして不安そうに揺れる天井の蛍光灯を見ている。

「美加は大丈夫か?」

「見て来るわ!」美優がベッドから立ち上がろうとした時、再び大きく揺れる。

「きゃー」一平に抱きつくと、一平も青白い顔で不安そうな目で揺れが収まるのを待って居る。

「美加大丈夫かな?」青白い顔でもう一度立ち会がると美優は隣の部屋に向かった。

「美加!大丈夫?」声を掛けると「ママ!どうしたの?ブランコに乗っている夢を見ていたのよ!」笑みを溢す。

その姿を見た時、一平も部屋に入って来て「美加は大物だな!」と笑った。

テレビを見ると震源地は千葉県沖で静岡は震度4だと報道されていた。

「あれで震度4なのか?5位に思ったな!」一平が言う。

「それぞれの置かれた環境で感じ方は変わるのよ!」

この美優が言った言葉通りの事件が数日後に発生するとは、この時二人に判る筈も無かった。



「夜の地震は怖かったな!」県警に行くと署内は昨夜の地震の話でもちきりに成っていた。

佐山係長が新聞を読みながら「一平!お前も娘が居るから将来は大変だな!」

「何がですか?」一平が新聞を覗き込む。

「結婚だよ!最近は結婚しない若者が増えているらしいぞ!もっとも美優さんに似ていたら安心だろうがな!」

「何故ですか?」

「美優さんは美人だから、男がほって置くわけないからな!」

「それって俺に似たら貰い手に困るって事ですか?」

「この結婚相談所全国組織でもの凄い会員数だな!大金持ち?」

「儲かるでしょうね!一度見合いさせたらお金が転がり込むのでしょうね!」女性刑事の本間祐子が口を挟む。

最近所轄から転勤して来た女性刑事ではベテランの45歳。

「私の娘もこの寿企画の会員に最近入ったのですよ!でもフランチャイズで地元の仲人さんの達磨結婚相談所です、寿企画は情報提供だけで配下の仲人専門業者が殆ど業務を行うのです」

「本間刑事の娘さんは幾つなの?」

「今年大学を卒業した娘と下も今三年生ですから、女が三人なのです!恋愛出来る程活発な子ではないので、この様な処に登録する必要が有ると思うのです!」

「女三人か?」伊藤刑事が口を挟む。

「伊藤さんの奥様の様な美人なら引く手あまたですけれどね!」

捜査一課は今事件が無いのでこの様な雑談が出来る穏やかな日々が、約一か月以上続いていた。

「旦那さんは郵便局でしたね!」

「はい!」

「娘さんは何処に就職されたの?」堀田刑事が尋ねた。

「優花は証券会社に就職しました!毎日熱海まで通っています」

「証券会社って高給でしょう?」

「さあ、判りませんが本人は早く辞めて結婚って話していますよ!」

「遠いですね!本間さんの自宅は焼津でしょう??二時間?疲れますね!」

「それも嫌な原因ですかね!遅い時は深夜に成る時も有りますよ!」

勤め始めて半年が過ぎてから優花はその様に言い始めて、焼津の結婚相談所に登録をした。



達磨結婚相談所で新谷浩美と云う、昔で言えばお節介な世話好き叔母さんが経営している寿企画のフランチャイズ店だ。

二か月前、電話で尋ねると翌週の日曜日に自宅を訪れて、優花に会わせて欲しいとやって来た。

システムの説明を聞くと全国組織の寿企画に登録すると、会員の写真と簡単な説明が閲覧出来る。

その中で気に入った男性が見つかったら、お気に入りに入れて考えてみる。

見合いを希望の場合は見合い希望すれば相手に自分の意志が届く。

そして相手が見合いを承諾すれば、近くの喫茶店で見合いに成る。

この時点では仕事、住所、家族の事は絶対に言わない事が条件に成る。

時間は僅か一時間で、直感だけの勝負なのかも知れない。

コロナ感染のと遠方の人との見合いの場合は今流行りのオンラインでの見合いも出来る。

見合い後お互いが付き合う意思を示せば、この時から住所とか仕事、家族関係等もお互いに話す事が許されるのだ。

これが寿企画の見合いのルールだった。



「先々週!娘はお見合いをしたのですよ!」

「そうだったのですか!それでお付き合いを?」堀田刑事が興味津々尋ねた。

「先方は気に入ったらしくお付き合いを申し込んだのですが、娘は顔が怖いとか言って断ったのですよ!」

「そうでしたか、それは残念でしたね!」

「娘が言うには、若くて登録したのは良い旦那様を吟味する為だと言うのですよ!私が見合いは遊びでは有りません!と叱ったのですが、お金を払っているのだから吟味するのが良いと言いまして困った娘です!」

「今時の娘さんですね!」

「確かにうちの娘の年齢の女の子の登録は少ない様です!婚期が30歳前後ですからね」

「でも最近の見合いって本人だけが対象なのですね!昔なら家の釣り合いが合うとかが一番だった様な気がしますがね!」静内捜査一課長がいつの間にか話の中に入っていた。

「その昔は顔も見ないで嫁いだ娘さんも居た様です!」佐山係長も今時の見合いに驚いてしまった。



数日後、その本間刑事の娘優花が深夜に成っても帰宅しない事態が発生した。

優花の携帯も切られているのか繋がらない。

本間刑事は証券会社に電話をしたが、留守番電話で繋がらない。

時間は既に12時を過ぎて夜中の一時に、、、、、、

結婚相談所

娘の失踪

       76-02

翌朝、本間刑事は家庭の事情と言って県警に休暇を申し出て、娘優花の足取りを追う事にした。

誘拐、事故が頭に浮かぶが、朝から何度携帯に電話をしても繋がらない。

娘二人も一緒に心当たりに電話をして探すが全く手掛かりらしい物は見つからなかった。

朝9時過ぎに熱海のEXG証券会社に向かう本間刑事。

支店長の飯島が応接に招き入れたが、昨日は比較的早く終わって7時前には支店を退社したと答えた。

自宅迄の距離が遠いので、優花は殆ど真っすぐ自宅に帰る事が多いと同僚も教えてくれた。

熱海支店は従業員が15名程で、女性社員は6名で独身の女性が殆どで会計の水木正美が40代で既婚だった。

本間刑事は証券会社を出ると、熱海の駅前で数か所尋ねたが娘の目撃情報は無かった。

駅員に尋ねると何度か見たが、昨日の夜見たかと言われると定かでは無かった。

改札の通過記録なら定期券で判ると調べて貰えた。

すると7時10分に改札を入っているが、その後定期券が使われた形跡が無い事が判明した。

「電車の中で消えた?」本間刑事は途方に暮れた。

家族も全員色々な友人知り合いに尋ねたが、手掛かりらしい事は何も見つからない。

その日も暮れて家族全員頭を揃えて「お母さん!刑事さんなのだから、県警の仲間に助けて貰ってよ!何か事件に巻き込まれていたら手遅れに成るわよ!」高校生の美弥が泣きながら訴える様に言う。

「二日も連絡が取れないのは、何か事件に巻き込まれたのだよ!お母さん!警察に言おう!」父賢吾も我慢出来ずに言った。

その日の夜本間刑事は思案を重ねて、深夜に成って野平刑事の携帯に電話をかけた。

呼び出し音に「おいおい!今頃の時間の電話は事件か?」時計は11時を既に過ぎていた。

「誰だろう?」着信画面に見慣れない番号を見て首を傾げる一平。

(もしもし、野平ですが)

(夜分申し訳有りません!本間です!)

(あっ、本間さんでしたか?身体の具合は如何ですか?)

(身体が悪いのではないのです!本当は佐山係長に言うのが筋ですが、野平さんには有名な奥様がいらっしゃるので、、、、、)

(美優に何か話が有るのですか?)

(いえ、そうじゃなくて、、、、)

(どうされたのですか?)

(上の娘が昨日から帰らないのです!連絡も有りません!)

(えー、確か証券会社に春から勤められている方ですよね!)

(はい、今日一日熱海の支店から足取りを追ったのですが、7時10分に熱海駅の改札に入って、その後何処にも下車した形跡が無いのです!家族総出で心当たりを探したのですが、判りません!警察に捜索届を出すべきか悩んでいます!)

(そ、それは大変だ!急いで捜索願を出して下さい!直ぐに関係先には手を打ちます!明日娘さんの写真を県警に持参ください‼事件に巻き込まれたとか、事故で無い事を祈ります)

(どうぞよろしくお願いいたします)

本間刑事は刑事から普通の母親に変わっていた。



電話が終わると一平は美優に今聞いた話を詳しく話した。

「じゃあ、熱海の駅の改札を入った後、行方不明なのね!」

「改札をどの様にして出た?まだJRの区間内の何処かに居るのか?」

「そうね!取り敢えず朝から熱海から焼津までの駅の構内を徹底的に調べる必要が有るわね!」

「二日だよ!トイレでも殆ど調べただろう?掃除もするだろうから、、、」

「でも駅の数は多いから、もしかして使用中でそのままとか?」



翌日早朝から静内捜査一課長の号令で捜査一課全員が手分けして駅の点検を始める事に成った。

偶々事件も無かったので、静内課長も部下の家族の失踪に力を注ぐ事に成った。

だが深夜まで捜索して、各駅の職員も手伝ったが全く手掛かりも得られなかった。

「皆さんありがとうございました!」涙を流しながらお礼を言う本間刑事の姿が痛々しい。



翌日から優花の交友関係、職場関係を徹底的に調べたが失踪の理由すら判らない。

唯一伊藤刑事と白井刑事が、証券会社の店頭に居た客の一人が優花に似た写真を見せて「この女性はこの店に居ますか?」と尋ねた若い男が居たと証言した。

その写真はそれ程鮮明でなかったので「判らない」と答えたら、直ぐに店を出て行ったと話した。

「鮮明で無いので不確かだな!」佐山刑事が二人の話の辛評性を疑った。



一平は自宅に帰って美優に今日の僅かな成果だったと話すと「変な話ね!写真を見せた男性は幾つ位の人なの?」

「若い男だと言ったな!それが何か?」

「鮮明で無い写真ってカラーコピーの様な物なのかもね!」

「雑誌のコピーか?」

「例えば何処かの証券冊子に彼女が紹介されたとか?テレビとかネットから写真にしたか?」

「変なストーカーか?」

「でも驚く様な可愛い子でもないから、追っかけの男性が居るかな?」

「美優の様な美人なら危険だがな!」

「そんな事なら久美さん、外を歩けないわよ!」

「美人ではないけれど、可愛い感じだから好きに成る男は多いかも知れないぞ!」

「最近彼女に変わった事は無かったの?」

「娘さんの話殆ど聞かないからな!でも先日暇な時、結婚相談所に登録した話を聞いた位だよ!」

「まだ22か3でしょう?早いわね!」

「結婚願望が有るらしい!見合いも一度経験したって聞いたな!」

「それは駄目だったの?」

「その様だな!」

「何処の結婚相談所?」

「寿企画って大手の婚活サイトだと聞いたな!」

美優は早速パソコンを開いて調べ始めた。

強姦殺人

強姦殺人

    76-03

しばらくパソコンを見ていた美優が「凄い登録者数ね!8万人以上だってさ!」

「何が?」

「寿企画の会員数よ!」

「今回の本間優花さんの失踪と関係有るのか?」

「最近見合いしたと言ったから、気に成っただけよ!」

「その寿企画の会員だけど、実際は焼津の達磨結婚相談所って処に登録する様だ!でも結構規約が複雑だったな!」

「どの様な決まりなの?」

「良く判らないけれど、見合いしても相手の事が判らないらしい!」

「えー、変な見合いね!」

「そう、聞いていて訳が分からなく成ったよ!相手の名前程度しかお互い知らないらしい!」

「いわゆるネット見合いの様な事なのね!」

「お互いが気に要る迄お互いのプライベートは秘密だって!」

美優は何故か一度達磨結婚相談所に行きたいと思った。



翌日も捜査本部は所轄を総動員させて、熱海から焼津までの区間の防犯カメラを総点検させた。

電車の乗り降りの画像もチェックされた。

その結果熱海駅のホームに居る優花の姿は確認されて、19時25分の島田行に乗った事が判った。

監視カメラを詳しく調べたが、その後何処の駅にも降りた形跡が無かった。

「何処に消えた?」

「21時14分に焼津に着く筈ですよ!」

「そこから自宅迄自転車で5分程ですから実際は2時間以上なのですね!」

「駐輪場の自転車はそのままでした!」

「電車の中で誰か知り合いと会ったのかな?」

本間刑事は過労で病院に行って留守。

優花が消えてから殆ど一睡もしていなかったので、夕方倒れて病院に運ばれていた。

「乗り換える時でも一旦電車を降りるだろう?5号車を中心に調べたが他の号車に移動して乗り換えた形跡は無いのか?調べたのか?」静内捜査一課長が苛ついて言った。

「乗り込んでいた車掌は彼女を覚えていないのか?」

「覚えていませんでしたね!他の号車に移動して降りた形跡も有りませんでした」

「公開捜査に踏み切るか?」

「事件では無いが、公開捜査にした方が情報は集まり易い!」

だが佐山係長がもう1日待って欲しいと進言して公開捜査は1日延期された。

若い娘の実名公開捜査は、その後に大きな傷を残すので慎重に成った佐山。

小さな子供と違い若い女性の場合、性的誘拐も充分考えられるので将来の事を考えると踏み切れなかった。



夜一平が会議の話を美優にすると「何処にも降りた形跡が無ければ終点まで乗ったの?」と口走った。

「確かに!焼津までしか調べていないな!島田まで10数分だけど、西焼津、藤枝、六合、島田が有るな!この4駅で変わった事が無かったか調べてみる必要が有るな!」

「警察は彼女の通勤区間だけを調べたでしょう?」

「確かに先入観が有ったな!」



翌日一平の提案で4駅を県警と所轄で調べると、藤枝駅でマスクをした不審な男女三人が降りた事が判明した。

監視カメラを分析したが、マスクで人相が確定出来ず優花さんとは断定出来ない。

だが女性の身体を男性二人が抱き抱える様に歩いているので、意識が無い可能性も有る。

その時間の駅員は遅番なので、その時の様子を聞きに夕方向かった。

堀田刑事と白井刑事が柳田と云う駅員に面会すると「そのお客さん覚えています!確か女性が高熱でコロナの可能性も有ると連れの男性が話していましたね!私も感染は困るので少し離れたのを覚えています!」と答えた。

柳田さんは自動改札の横の改札に居た様で、男性の一人から三枚の乗車券を受け取ったと証言した。

「女性は意識が有りましたか?」

「男性が近くに救急病院が有るか尋ねましたね!でも私は判らなかったので消防署で聞く様に言いました」

二人は志太消防署に電話をして向かったと思うと証言した。

だが、その様な電話を受けた形成が無かったので、藤枝消防署にも連絡をして管内でその様な電話を受けたかを確認した。

男性の救急要請は同じ頃有るが、女性の問い合わせは皆無だった。

「この三人組が怪しいですね!」

この連絡で藤枝警察署に県警から捜索命令が下された。

夕方から藤枝駅を中心に三人の足取りを追うが、タクシーを使った形跡が無いので車を準備していた可能性が高い。

静岡県警は拉致誘拐の事件として捜査本部を設置する事に成った。

その事実を聞いた本間刑事は娘が無事に帰る事を祈った。



数日後、本間刑事が卒倒する様な報告が捜査本部にもたらされた。

藤枝ゴルフクラブ場の雑木林の中で若い女性の絞殺死体が発見された。

藤枝警察署が現場に駆け付け、行方不明の本間優花さんだと思っていた。

「これは写真とはかなり違うな!身元の判る物は無いのか?」藤枝警察の平田刑事が指揮をしていた。

「身元の判る物は有りませんが、明らかに暴行を受けていますね」

衣服の乱れからレイプされて絞殺されたのは明らかだった。

早速県警に行方不明の本間優花さんでは有りませんと連絡した。

身元不明の死体として解剖に移送された。



夕方捜査本部が藤枝警察署に設置されて、県警から白井と堀田刑事が捜査会議に出席した。

冒頭死因はベルトの様な物での絞殺で死後一日程度、複数の男性による強姦と発表。

被害者の年齢は20歳から25歳前後。

「本間さんのお嬢さんで無かったな!」と取り敢えず安心した二人。

見合いの規則

 76-04

「この藤枝駅を出る三人、もしかしてこの身元不明の女性かも知れないぞ!」

捜査本部で映像を見ながら佐山係長が唸る様に言った。

「そうですね、二人の男にレイプされている日時が一致しますね!」

「じゃあ、本間さんのお嬢さんは?」

「判らない!」

「身元不明の女性の歯の治療跡を明日から調べる様です!」

「何か判る特別な治療が有ったのか?」

「矯正治療をしていた形跡が見つかった様です!」

「身元は比較的早く判るな!」

県警は本間優花さん拉致誘拐で捜査本部が有るので、藤枝駅の改札の三人がこの殺害された女性なら全く振り出しに戻る。

捜索願が出ている県内のこの様な事件に該当する年齢の女性は8人存在する。

早速県警は8人の自宅に電話をして、歯の矯正の有無を尋ねた。

「係長!三島の萩村沙織さんが矯正しているそうです!」

「三島警察に連絡して確認をして貰え!データの写真は多少異なるが、血液型等は一致している!」

失踪届の写真と今回の絞殺死体の写真は異なるが、死人と生きている写真では多少異なるのが当たり前だった。

「二週間前の失踪届だな!」佐山係長がデータを見ながら詳しい沙織の事を調べる。

年齢25歳、職場は熱海信用金庫本店、帰宅時に失踪。

「本間優花さんと同じだな!」口走る佐山係長。

金融機関に勤めているのが共通で、もしかして犯人は勤め先で見ている可能性も高いと佐山係長は考えた。

窓口業務なら不特定多数の人の目に晒される。

写真で見ると二人共美人と云うより愛嬌の有る顔立ちで共通していた。



その頃美優は気に成った達磨結婚相談所を訪れていた。

いかにも世話好きと思われる女性が自宅の横に小さな看板を出している。

「初めまして、野平美優と申しまして昨日電話を差し上げた者です!」

「どうぞお入り下さい!」

インターホンの向うから聞こえる。

ドアを開いて入ると「右の応接にどうぞ!」奥から声が聞こえた。

10畳位の応接間に、カップルの写真が飾られて自分が纏めたと誇らしげに飾られていた。

写真を見ていると「相談所の新谷浩美です!」と背中から挨拶が飛んで来た。

振り返って見ると50代の叔母さんが笑顔に成っていた。

「野平美優と申します!」と頭を下げる美優。

「まあ、綺麗な方ね!直ぐにお相手は見つかりますよ!貴女の好みをおっしゃって!」

一目見てこの女性なら縁談が纏まると思ったのか浩美は矢継ぎ早に言った。

「あの、お見合いを申し込みに来たのでは有りません!」

「えっ、見合いじゃあないの!」残念そうに言う浩美。

「で、何なの?妹の縁談?」また微笑みながら言う。

「こちらに登録している本間優花さんの事をお聞きしたいと思いまして」

「本間、本間優花さん、、、」考えて「少し前に見合いされた方ですね!」

「は、はい!」

「その本間さんの何を聞きたいの?教えられない事も有りますよ!」警戒する。

「相手の方の事をお聞きしたいのです!」

美優の顔をじろじろ見ながら「もしかして、もしかして有名な美優さん?」声のトーンが変わった浩美。

「は、はい!」笑顔で答える。

「何故、有名な探偵奥様が、、、これは驚きだわ!」興奮する浩美。

「コーヒーにする?お茶?」急に態度が変わった。

「お構いなしでお願いします!」

「そうはいかないわ、サイン貰わないと、、、コーヒー入れて来るわね!」

勝手に喋って勝手に消えた。



しばらくしてコーヒーを持って来て「その本間さんに何か有ったのですか?美優さんが来られているから事件?藤枝の殺人事件?若い女の子が絞殺されたのでしょう?」

「藤枝の事件は別人ですよ!」

「良かったわ、見合いをさせた女の子が殺されたら気持ち悪いわ!」

「コーヒーどうぞ!」

「ありがとうございます!今日伺ったのは本間さんのお見合い相手についてです!」

「ちょっと待ってね!」本棚から資料を取り出す浩美。

「何が聞きたいの?」

「相手の名前住所、職業程度を聞きたいのですが?」

「名前は山中智博さん、30歳、住まいは三島市ですね!職業は会社員で営業ね!」

「詳しい仕事とか住所は?」

「判りませんね!山中さんは三島結婚相談所に登録されていますので、見合いで本間さんが断られたので、それ以上の情報は有りません!」

「えっ、相手の職場も住所も家族構成も判らずに見合いするのですか?」

「家族は判りますよ!両親と弟さんがいらっしゃいますね!」

「お仕事は?」

「会社員と書かれていますね!」

「それだけですか?」

「はい!寿企画では最初の見合いでお互いが気に要るまでは、詳しい家庭環境も仕事も教えないのですよ!」

「仲人さんも知らないのですか?」

「はい!この三島の仲人さんは毛利さんとおっしゃって、堅物の叔父さんで寿企画の規則を忠実に守る方ですよ!」

「すると、見合いの席でも聞かないのですか?」

「規則で趣味とかの話はOKですが、職場、住所、家庭環境は話してはいけない事に成っています」

「見合いって変な事をするのですね!仲人さんも聞かないのですか?」

「毛利さんは絶対に教えませんね!」

「そうですか」美優は呆れてしまい、コーヒーをご馳走に成ると毛利さんの連絡先だけ聞いて退散した。

重要参考人

 78-05

夕方に成って遺体の身元が萩村沙織、25歳と両親によって確認された。

同時に鑑識で発表されたのは、強姦の犯人の血液型でO型とA型と発表された。

「二人の男性にレイプされて絞殺されているが、拉致されて一週間以上何処かに監禁されていたと考えられる!」平田捜査一課長が捜査員に説明した。

「レイプされたのは絞殺の前ですか?」

「O型の男が殺害前の男らしい!変態野郎の反抗だろう!」

「身体に傷も残って居た様ですが、暴行監禁の形跡有りですね!」

「拉致誘拐されてから数日間、何処かに監禁されて殺されて遺棄された様だ!」

「熱海駅の防犯カメラの映像では5時過ぎに改札を入っている!だが何処にも姿が無いのだ!」

「本間優花さんと全く同じですね!」会議に出席している白井刑事が発言した。

「その様ですね!二人共熱海駅の改札を入った後消えていますね!」

会議では沙織さんの交友関係を中心に捜査をする事に成ったが、本間優花と萩村沙織に面識が無かったのか?同じ熱海の駅近くに在るので知り合いの可能性は無いのか?を中心に調べる事に成った。

ゴルフ場近辺の監視カメラの情報も細かく分析された。

遺棄された日、ゴルフ場は定休日で関係者がコースの整備に来た程度だった。

早朝からコースの手入れをした作業員が遺体を発見したのだ。

死体の遺棄は前日の夜、プレーが終わった後に行われた事は明白だ。

クラブハウスから一番遠くで、人目に付き難い10番ホールの雑木林の中で、翌日メンテナンスが無ければ数日間は発見されていなかったと考えられた。

「夜、この辺りを走る車は皆無で、ゴルフ場の監視カメラにも最後に帰った客の後は従業員の車だけですね!」

「昼間のプレー客は多かったのですか?」白井刑事が尋ねた。

「平日だから10組程度だった様だ!最後の客が帰ったのが7時だったらしい!」

「遅い帰宅ですね!」

「プレーの後風呂に入って、酒を飲んでいて遅く成った様ですね!」

夜から翌日の早朝にこの辺りを通行した一般車はゼロで、新聞配達のオートバイが朝6時に来た位だと説明がされた。

「でもこのゴルフ場の10番ホールに行くには、車ならこの道一本しか無い。あと考えられるのは、監視カメラに映らない様に歩いて運び込む方法が有る。その為離れた場所での聞き込みを始める」と平田捜査一課長が結論づけた。



一平達は本間優花さんの交友関係と足取りを手分けして探していた。

だが本間さんと萩村さんが知り合いだった事実はなかった。

熱海警察署の岩谷刑事もこの事件について、静岡県警からの要請で二人の熱海での行動を調べる様に指示されていた。

捜査本部は県警と藤枝署なので、応援と云う立場での参加だった。

その中の話で信金の中で萩村沙織が自慢の様に、美男子とお見合いをすると話していた事実を聞き込んだ。

その自慢話は亡くなるひと月前位に成る様だ。

岩谷刑事はその話を熱海に来た一平に話した。

「その見合いは実際にしたのですか?」

「その後の事は行員も聞いていない様で、沙織の自慢話で終わった様です!」

「でも似ているな!本間刑事の娘さんも見合いをした様ですね!」

「見合いと今回のレイプ殺人関係有るのでしょうか?」

そう言われると全く場所も異なる二人、同じ相手との見合いなら何か有るかも知れないが、本間優花さんの相手は写真と異なって怖い顔って聞いたので、全く別人だと思う一平。



夜帰ると美優に見合いの自慢話をする一平。

「その美男子との見合いは無かったの?」

「その様だな!俺も本間のお嬢さんの事が有るから気に成ったのだけれどな!」

「見合いの話もう少し詳しく聞いて貰えない?寿企画を使っていたら全く同じなのよ!」

この時、三島は本間優花さんの見合い相手の三島結婚相談所のエリアだった事が気に成る。

でも美優は自分が達磨結婚相談所で聞いた話は言わなかった。

捜査を混乱させてしまうので危険だった。

毛利さんと云う堅物の叔父さんに会う必要が起こる気がしていた。

美優は先日聞いた段取りで見合いをしていて、優花さんは断ったのだから相手の男性は優花さんの仕事も住所も知らない筈だ。

そうなると見合いは全く事件とは関係ないのかな?



翌日、一平が沙織の自宅に連絡をして確かめると寿企画に登録をしていたと答えた。

「見合いはされたのですか?」

「はい!一度見合いをして、大変喜んでいたのですが先方から断られたので、娘は大変ショックを受けてニ三日喋りませんでした」

「事件の前にはもう元気に?」

「それが、見合いから一週間後位から急に明るく成ったので、喜んでいた矢先に今回の事件に巻き込まれて、、、、、」沙織の母、萩村奈緒美は涙ながらに答えた。



一平は沙織の母に聞いた事をlineで送った。

本間優花さんは見合い後断って行方不明、萩村沙織さんは断られて殺された。

全く違うが、どちらも寿企画が関係している。

そして三島結婚相談所絡み?

美優はlineで萩村沙織さんの登録していた結婚相談所は三島結婚相談所なのかを聞いて欲しいと送った。

しばらくして一平から(違うよ!ILB結婚相談所!今回の事件が何故結婚相談所に関係が有るのだ?亡くなられた家族に聞き難い)と返信が帰って来た。

美優の予想は大きく外れて初めて聞く相談所の名前だった。



ゴルフ場での遺棄に関係した有力な情報が、藤枝署にもたらされて刑事達は沸き立っていた。

ゴルフ場整備の為に早朝、ゴルフ場のダンプカーが一台砂を運んでいるのだが、運転手の鈴木恭二は過去に婦女暴行で逮捕歴が有る。

「鈴木がダンプの荷台に載せて遺体を運んだ可能性が有る!鈴木の周辺を監視しろ!共犯の男が必ず居る!」

須藤家の息子

 76-06

「鈴木の血液型はO型!もう一人の相棒がA型なら確実だ!」

藤枝署の刑事達は鈴木の行動を絶えず監視していた。

鈴木が事件を起こしたのは8年前で、暴行はしていたが殺人はしていない。

今のダンプの仕事に就職して一年弱で、比較的真面目に働いていた。

「昔暴行した女性と萩村沙織さんは少し似ている様に思うのだが、みんなの意見はどうだ!」捜査会議で古い写真を取り出して決めつけた様に言った。

白井刑事が「前科が有るので疑われるのは仕方有りませんが、顔に関してはそれ程似ているとは思いません!」

「県警さんの意見として聞いて置きますが、今にしっぽを掴みますよ!」と強気の平田捜査一課長。



一方の本間優花さんの足取りは全く判らず日にちだけが過ぎ去っていた。

公開捜査に踏み切ると静内課長が我慢の限界に達した。

本間刑事も捜査一課長の説得で公開捜査に同意して、翌日マスコミに発表された。

記者達は揃って萩村沙織さんとの類似点が多いので、同一犯の犯行ではとの質問が飛んだ。

静内捜査一課長は、口を滑らせて「萩村沙織さん殺害は重要参考人が浮かび上がっているので、監視中で同一犯なのかは直ぐに結論が出る」と口走ってしまった。

この発表を聞いていた美優は「不味い事を言っちゃったわ!」と言った。

近所に住んでいる伊藤刑事の妻、久美が遊びに来て一緒にテレビを見ていた。

「どうして不味いの?」

「犯人が警戒をしているのに、重要参考人が見つかっている様な事を言うと警戒して、もしも本間刑事のお嬢さんが監禁されて居たら殺害してしまうと思うわ!」

「そうよね!危険な事ね!目星の人が犯人なら動けば直ぐに逮捕に成るけれど、全く異なる犯人なら危険を感じるでしょうね!そして行動を起こすわね!」



藤枝警察が監視している鈴木は全くいつもと同じ行動で、捜査員は尻尾を掴む事が出来なかった。

監視から一週間後、鈴木が夜の繁華街に出て行ったので、捜査員は遂に動いたとざわついた。

藤枝駅前の雑居ビルのスナック茜に入った鈴木。

二人の捜査員が客を装って遅れて入って行く。

鈴木はボックス席に待っていた男と合流して飲み始めた。

カウンターに座った刑事は店のママ美鈴を呼んで「警察だが、あの一緒の男は何者?」

美鈴は驚きながら「亮ちゃんが何かしたの?」

「何をしている男なのだ?」

「建設会社の二代目の息子、須藤亮って聞いたわ!」

「もしかして須藤建設か?県内でも大手だな!」

「ママさん!何気に聞いて貰えないか?彼の血液型」

「えっ、血液型なら知っているわよ!以前聞いたわ!確かAだと思うわよ!」

「そ、そうか!」

「決まりですね!」喜ぶ二人。

「女癖はどうなのだ?」

「悪いと思うわよ!二人共ね!店の子と遊んだ事も有るのよ!まあ、女の子もお金目当てだからそれで良かったみたいだけど!」

「その女の子は?」

「もう辞めたわ!東京に出たみたいよ!稼げる額が違うでしょう?」

しばらくしてカラオケが始まって、店内は騒がしい状況に成った。

「亮さん達何か事件を起こしたの?」

「それは、、、、、」

「判ったわ!ゴルフ場の殺人事件でしょう?」

言い当てられて戸惑う二人の刑事。

「あの二人に強姦して殺す勇気有るかしら?特に亮は無理だと思うわ」

二人の刑事もそのままスナックで居座り二人を監視していた。

結局12時を過ぎると美鈴が閉店を告げに二人の処に行った。

「いつもはもっと遅くまで飲ましてくれるのに!ママどうしたのだよ!」と騒ぐ亮。

「あの二人刑事よ!」耳打ちすると表情が変わって「場所を変えて飲もう!」そう言って店を出る。

二人の刑事は近くの仲間と交代して二人とホステスを尾行する。

亮はそれ程気にしていないが、鈴木恭二は逮捕歴が有るので既に酔いは覚めてしまいおどおどしている。

深夜の二時頃二人は別れて帰るが、亮は恭二と別れてホステスとラブホテルに消えた。

恭二はゴルフ場の独身寮に帰ったので尾行は終了。



「女は好きそうだな!須藤の坊ちゃま!」平田課長は昨夜の報告書を見て言った。

だが署長は「迂闊な事をするなよ!会長は警察関係者にも顔が広い方だ!」と捜査一課に釘を刺した。



一方美鈴ママに警察の話を電話で聞いた亮は「俺の女遊びは真面目だよ!世の中にはもっと強烈な奴がいるぞ!」

「亮ちゃんが舌を巻く程なの?」

「勿論だ!比較に成らないよ!俺は素人の女を騙して付き合わない!でも世の中には素人の女専門の野郎も居ると聞いたぞ!」

「誰なの?そんな悪い奴!」

「知らない!噂で聞いただけだよ!」

「そんなに簡単に素人の女の子と遊べるの?」

「兎に角警察の世話に成る様な事は俺には関係ないね!」

美鈴ママは警察に亮が目を付けられている事を心配していた。

亮の父親須藤建設二代目社長、須藤亮介と関係が有るので、自分の子供の様に思う時も有るのだ。

亮は昼間社長一族の御曹司だが、現場に出て働いている。

本社は静岡県静岡駅近くに在り、静岡県を中心に他府県にも建設業を行っていた。

会長の須藤亮吉が一代で築いた建設会社だ。

二代目社長の妻、横山絹子は亮が小学6年生の時に離婚している。

亮吉と妻咲江の仕打ちに耐えかねて家を出て行ったのだ。

絹子の家と須藤家では不釣り合いで、結婚は反対されていたが亮介が強引に結婚した。

結果は無残な事に成り、亮を置いて去って行った。

更なる遺体

  76-07

「何!須藤建設の孫が重要参考人だと!それはいかんぞ!いかん!」

静内捜査一課長が藤枝署の平田捜査一課長から連絡を受けて困り果てる。

その時、内線で「署長がお呼びです!」と女性が静内捜査一課長に伝えた。

「ほら、もう伝わっているぞ!これは大変だ!」そう言いながら署長室に向かう。

案の定、須藤建設の息子を疑うなら、はっきりとした証拠を持って来てから任意で来て貰いなさいと強く言われた。

幸いまだ祖父の亮吉会長の耳には入っていないらしいので、平田捜査一課長と連携をして証拠固めをする事と強く指示された。

確かに亮は一時不良グループに入っていた事実は有るが、今は須藤建設で働いているので取り調べは慎重にしなさいと再三言われた静内捜査一課長。

それは平田捜査一課長も全く同じで、亮の捜査は外堀を埋める事から始める事に変更された。

「何が静岡の名士だ!重要参考人なのに、、、、」怒る平田捜査一課長。



静内捜査一課長も「藤枝署のマークしている二人が、本間刑事の娘さんを拉致した可能性も充分考えられるので、徹底的に聞き込みをして彼らの身辺に二人の女性との接点を探れ!」と指示を出した。

「鈴木恭二と須藤亮はどの様な関係ですか?」

「藤枝署の調べでは鈴木が刑務所に入る前、仲良くしていたらしく!今のゴルフ場の仕事も亮の口利きの様です」

「不良グループに二人は居たのですね!」

「その様だが定かではない!出所後は鈴木の世話を亮がしているって事ですね!」

「その不良グループは?」

「もう解散して跡形もない!不協和音隊とか名乗ってバイクで走り回り、若い女性を連れ込んでレイプする事件が多かった様です!」

「グループの活動期、亮は少年ですね!高校?」

藤枝署捜査本部では鈴木と須藤亮犯人説で動いていた。



数日後、静岡地域が集中豪雨に見舞われて、各地で土砂崩れとか洪水が発生した。

その土砂崩れの現場から一部白骨死体が現われて、現場は騒然と成った。

国道473号線の地蔵峠の付近で発見された遺体は、服装から死後一年程度の若い女性の遺体と断定された。

持ち物等は無く身元は歯型位しか無いと思われた。

「また女性の遺体だ!死後一年か?」

「詳しい事は鑑定結果待ちですね!」佐山係長は今回も本間刑事の娘さんでなくて良かったと思う。

直ぐに島田警察署に捜査本部が設置されて、遺体解剖の結果待ちに備えた。

森田捜査一課長が指揮をする事に成るが、県警からも応援刑事が派遣された。

一平と伊藤刑事の二人が捜査会議に出席した。



遺体発見後丸一日経過して、ようやく解剖結果が島田署の捜査本部に届いた。

「解剖結果を発表します!遺体は死後約一年から一年半、性別は女性、年齢は18歳から30歳位、所持品無し、死因は絞殺、血液型はA型、はっきりとは判らないが強姦された様だとの鑑識の見解です!」

「ゴルフ場の遺体と同じ様な状況ですね!」

「こちらの遺体は埋められていたので、ゴルフ場とは若干異なると思うのですが?」

「まだ何とも申せません!今日から身元の特定と現場周辺での不審者の目撃情報を調べて欲しい!」



夜帰って美優に捜査会議の説明をさせられた一平。

「間違い無く同一犯人の可能性が高いわね!身元が判れば共通点が有る筈よ!」

「例えば?」

「結婚相談所が同じ寿企画だったとか!」

「美優は今回の事件は結婚相談所が絡んでいると思っているのか?」

「まだそこまでは思ってないけれど、何か気に成るのは確かなのよ!」

「死体の身元が判明して、女性が結婚相談所を使っていたら可能性は出るな!でも結婚相談所と殺しは結び付かないよな!」馬鹿にした様に言う一平。

「それから面白い事が判ったぞ!例の須藤建設の社長と先日息子が飲みに行った飲み屋のママさん愛人関係だったよ!藤枝署の刑事が愛人に息子の事尋ねたらしい!間の抜けた話だ!」

「じゃあ、社長に筒抜け?」

「それがこのママさん意外と社長には話さなかった様だよ!亮を庇ったのかも知れないな!お陰で会長の耳に入らず助かったのは警察だよ!」

「静岡の須藤建設は名士だからね!会長の須藤亮吉は顔が広いから大変よ!」

「鈴木は前科が有るからな!疑われ易い」

「何年務所に居たの?」

「三年半で出て来ている!初犯だったのと、示談金を相手に渡した様だな!」

「そんなお金持っていたの?」

「誰かに借りたらしいな!」

「もしかして須藤亮?」

「かも知れないが、調べてないので判らないのが現状だ!」

「5~6年程前婦女暴行事件多かった記憶が有るわ!」

「鈴木が逮捕されてから、急に減ったので彼の犯行だったのかと追及されたらしいが、他の事件はアリバイも有って立証できなかったと聞いたな!」

「婦女暴行事件は女性が訴えない場合も多いから、実際はもっと沢山発生していたでしょうね!」

美優は今回の一連の事件が昔の犯罪の延長線上に有るのなら、鈴木は絶対に犯人では無い。

地蔵峠の事件は刑務所に服役中の殺害だからだ。



その後も鈴木恭二を中心に刑事の尾行が毎日付いていた。

亮の方も遠慮気味に監視を続けている。

平田捜査一課長は、鈴木恭二と須藤亮の犯行説を崩してはいなかった。

今回新たに発見された白骨化の遺体の犯人は別に存在しているので、全く別の事件説を貫いている。

島田署の森田捜査一課長は、犯行が類似しているので同一犯説を唱えていた。

静岡の名士

76-08

島田署の森田捜査一課長と藤枝署の平田捜査一課長の意見の食い違いは両署の証拠集めに力が入った。

その行為が須藤建設会長の耳に入ってしまった。

「君の部下がわしの孫の周りをうろついているらしいな!昔は不良グループに一時入っていたが、今は真面目に働いているのに、最近連続で発生している婦女暴行殺人の容疑者扱いをしているらしいな!許さんぞ!」いきなり県警の署長室に電話が入った。

電話に平謝りの署長は電話が終わると直ぐに静内捜査一課長を呼び付けた。

「あれ程注意する様に言ったのに、須藤建設の会長に知られてしまったぞ!どうするのだ!」

「は、はい!多分平田君の処が必死に成っていましたので、、、、、」

「所轄の課長を纏めるのが君の仕事だろう?直ぐに平田を呼んで会長に説明に行く!」

「は、はい!判りました!」

静内捜査一課長が電話をすると、平田捜査一課長は今署長に呼ばれていると返事が返って来た。

結局夕方、県警の署長と藤枝署の署長が二人で事情説明に行った。

状況を聞いた会長は「実は亮を本社に呼んで有る!本人に直接聞け!」

しばらくして会長室に亮が入って来て「亮!この馬鹿警察に説明してやれ!」

軽く会釈をしてソファーに座ると「俺が殺しなぞする訳ない!何処に目を付けて捜査をしているのだよ!迷惑だ!」と怒る様に言った。

「ゴルフ場の職員の鈴木さんと懇意にされているでしょう?」

「恭二兄貴か?昔からの親友だ!警察は務所帰りで疑うが、兄貴も何も関係が無い!大体若い女の子をレイプして殺せる筈ないし!」吐き捨てる様に言う亮。

「わしは亮を信じている!関係ないと言っているから関係ない!」亮吉が怒る様に言った。

「昔鈴木さんが逮捕された時、被害者女性に示談金を払っているのですが、亮さんが準備されたのですか?」

「俺は知らない!恭二兄貴が誰かに借りた様に話していた!」

それだけ聞くと二人の署長はよく判りましたと言って平謝りで帰って行った。



藤枝署ではこの事で須藤亮の捜査は打ち切り命令が出た。

鈴木恭二は密かに捜査続行と決まった。

平田捜査一課長はまだ諦めてはいなかった。



白骨死体の身元の確定は難航していた。

歯の治療根も皆無で、これと云った手掛かりは指輪位しかなかった。

その指輪も変色して元の姿に復元するのに時間を要していた。

同時に顔の復元も行うか?島田署では指輪に希望を持っていた。

佐山係長は失踪状況が類似している行方不明リストの女性の可能性は有るが、遺体を親族に見せても特定は困難だと思っていた。

指輪が有る程度修復されたのは、遺体発見後10日が経過していた。

残る7人の失踪届の女性を調べる事に成った。

長嶋恵美、26歳、身長155センチ、A型、静岡市清水区、一年以上

夏樹有紀子、25歳、身長160センチ、O型、三島市、半年以上

鷲尾麻衣子、28歳、身長158センチ、A型、伊東市、半年以上

坂田秀美 、25歳、身長162センチ、A型、沼津市、一年以上

堀麻祐子、29歳、身長、153センチ、AB型、菊川市、三か月

亀田早紀、26歳、身長、165センチ、B型、静岡市葵区、一か月

仲本亜里、22歳、身長、156センチ、O型、浜松市西区、半年程度

「該当は長嶋さん、鷲尾さん、坂田さんの三人だ!坂田さんと鷲尾さんは所轄に連絡、長嶋さんは直ぐに誰か走ってくれ!指輪の写真だ!」

「高価な物では無いが、特徴は有るので該当者が居たら良いのだが、、、」静内捜査一課長はため息をついた。

先日までの暇な捜査本部が懐かしい。

特に今回須藤建設の息子が絡んでいる事に危機感さえ漂う。

藤枝署の平田課長の勇み足の場合、連帯責任を問われる可能性が高いのだ。

堀田と白井刑事は藤枝署に一平と伊藤刑事は島田署に連日捜査参加しているので、県警も手薄状態。

その上本間刑事は殆ど仕事に成らず、欠勤も多かった。

三木刑事と森元刑事に指輪の写真を持って清水区の長嶋家に走らせた。

丁度母親が居て「この様な指輪は見た事有りませんね!これが手掛かりですか?」

「兎に角良かったです!この指輪は先日地蔵峠で見つかった遺体が見に付けていたものですから!」

「わあーーこわい!娘は無事でしょうか?」

怯え乍ら娘が消えて一年以上経過しているので、諦め様と必死なのだと思った。

夕方に成って坂田秀美の母が警察の事情聴取で、この指輪は娘が着けていた物に間違い無いと供述した。



「沼津市の坂田秀美さん!当時25歳と判明しました!明日から沼津署と連携をして足取りを捜査します!」森田捜査一課長は身元が判明して、ようやく捜査が進むと期待した。



「これは県警が今回の事件に関連していると思われる行方不明の女性リストだよ!普通は渡せないのだが、一課長が奥さんに見せて意見を聞いて貰えるかと渡されたよ!」

「リストに入っていないけれど、萩原沙織さんと本間優花さんもよね!」

「行方不明者事態はもっと多いのだが、若い女性、失踪当時の状況が酷似しているのがこの女性達だ!」

「通勤、通学で消えたのね!」

「その通りだ!どう思う?」

「同一犯なら鈴木恭二さんは完璧に白ね!」

「須藤亮と共謀でもか?」

「多分一人では、、、、、、」

「建設会社だから重機は使えるぞ!埋める作業も小型の重機を使えば簡単だ!」

「でも亮って人、女性に困ってないでしょう?先日もスナックの女性とラブホに消えたって、、、、」

「そうだなぁ!素人の女性を拉致して強姦殺人はリスクが高すぎだな!須藤の孫だからな!」

静岡の名士の孫がこの様な事件を起こすとは考えられない二人だった。

足取り

 76-09

須藤亮介は妻が出て行ったのを機に亮吉の家を出て藤枝に亮と住み込みの家政婦、富川貴恵と住んでいる。

貴恵は既に70歳で主人に先立たれて、子供達も独立した初老の家政婦だ。

亮介は早速会長に呼び出されて、亮があらぬ疑いを掛けられたのは、いつまでも一人でぶらぶらしているからだ!嫁を貰ったら落ち着く!あの様な男にはしっかり者の嫁が必要だ!早急に探しなさいと命令されていた。

亮にその話をすると全くその気が無いと言い、付き合って居る特定の女性も居ないと全く話に成らなかった。



翌日の夕方、会長から社長に「亮は結婚する気がないだろう?」

「はい!」

「そう思って咲江に結婚相談所に行かせて登録をして来た!見合い話が来るだろう!あの様な男には嫁を貰うのが一番だ!自宅に仲人が行くから、日曜日準備して待つ様にな!」

会長の一方的な押し付けだが、亮介には拒否する事は出来なかった。

それ程父亮吉の力は絶大だった。

亮吉には一代で築いた自負が有るのと、元妻が逃げてしまった負い目が亮介には付きまとうのだ。

亮吉会長には頭が上がらない親子は渋々日曜日に仲人を待つ事を約束した。



美優は達磨結婚相談所の新谷浩美に電話を掛けて、是非教えて欲しい事が有ると強引に押し掛けた。

寿企画のサイトを見せて貰うのが目的で行くのだ。

会員でなければサイトに入って会員を見る事が出来ないからだった。

「えっ、寿企画のサイトを見たいと言われても、、、、、」

「でもこれは殺人事件に関わる事なので是非閲覧させて下さい!」

「名探偵の美優さんの頼みだから仕方が無いわ!でも亡くなられた萩村沙織さんの情報は見る事は出来ませんよ!」

「消えているって事ですよね!でもお見合いされた方は見る事出来ますよね!」

「簡単な趣味とか家族構成程度は判りますよ!住所は三島市だけですよ!」

「この人達は登録有りませんか?」

美優は一平に貰った女性7人の名前と自宅の有る市を書いた用紙を浩美に見せた。

パソコンを操作して調べると浩美は「どなたも登録は有りませんね!」

美優は宛が外れて少なからずショックだったが、浩美が「過去に登録がされていた可能性は有るかも知れないわね!」とぽつりと言った。

「何故ですか?」

「堀麻祐子さんって女性、私が仲人した記憶が有りますよ!」

「見合いはされたのですか?」

「申し込まれたのですが、断られたと云いますか当日先方の方が病気で急にキャンセルになってしまったのです!」

「見合い当日ですか?」

「はい!静岡駅の構内の喫茶店で会う予定だったのですが、、、、、、」

「その後どの様に?」

「結局相手の方はコロナに感染された様で、致し方ないと諦められて、、、そうそうしばらくして退会されてしまいましたね!」

美優は心の中で、それは失踪で退会せざるを得なかったのですよ!と言っていた。

達磨結婚相談所に来た価値は有ったと思った。

少なくとも一人は寿企画に関係している!もしかして全員?そんな疑問が帰りの車の中で芽生えていた。

(先程の堀さんの見合いの相手覚えていらっしゃいますか?)美優は浩美に電話で確かめた。

(凄く美男子だった記憶が有りますね!)

(名前は判りますか?)

(調べたら判ると思いますよ!メモしていると思いますからね!)



しばらくして(美優さん!相手の男性の名前は平尾さんって言います!三島結婚相談所ですね!)

(あの堅物の叔父さんでしたね!)

(そうですよ!見合いも中止に成ったので、全く判りませんね!)

(その後、堀さんとはお話しされましたか?)

(いいえ!縁が切れた様に退会しますので宜しく!で終わりでしたよ!)

美優は娘が失踪して見合いなぞ考える気にも成らないと思った。

浩美さんはその事実を全く知らないのだと確信した。

「コロナ感染なら見合いは出来ないわね!」独り言を言って車を走らせた。

もう一軒葵区の亀田早紀さんの自宅に行ってみたく成った。

届が出てからまだ一か月なので、新しい事実が掴める可能性が高いと思った。



しばらくして目的のマンションに着く。

三階建ての小さなマンションで一階の入り口にポストが並んで、302号室を見ると「山田?」ポストには別人の名前が書いて有る。

その時、このマンションの住人らしき女性が出て来たので「すみません!302号って亀田さんでは?」

「あっ、亀田さん?引っ越されましたよ!」

「いつ頃でしょうか?」

「娘さんが家出されて直ぐだから、二か月前かな?」

警察には一月前に失踪届を出したが、実際は少し前から行方不明だった様だ。

「家出なのですか?」

「そうだと思いますよ!親子喧嘩をしている声が外まで聞こえましたからね!」

「その喧嘩の後、娘さんは居なくなった?」

「綺麗な娘さんでしたね!お見合いをされたと聞きましたよ!」

「見合いをされたのですか?恋愛ではなくて?」

「恋愛をされていた様ですが、先方の両親に反対された様ですよ!」

「それはいつ頃ですか?」

「一年程前だと思いますよ!」

美優は亀田早紀が恋愛から見合いに成って、何故親子喧嘩をしていたのか?気に成りながら転居先を尋ねたが知らないと言われて家に戻った。

不協和音

  76-010

美優は自宅に戻ると考え込んだ。

亀田早紀は一人っ子だったので、失踪は両親には相当なショックだったのだろうと思った。

二人が転居から離婚に成らなければ良いのだが、喧嘩が原因での家出そして失踪

この類似した一連の失踪女性はもしかして全員見合い?それも寿企画の会員なの?と疑問が鎌首を上げ始めていた。

本間優花、達磨結婚相談所を通じて見合い、本人が断っている。相手は山中智博30歳で三島結婚相談所。

萩村沙織、ILB結婚相談所を通じて見合い、相手が断っている。相手は美男子。

堀麻祐子、達磨結婚相談所を通じて見合い、相手は平尾俊三で美男子、見合いは成立せず。

亀田早紀、恋愛を先方の両親に反対され、見合いの後、親子喧嘩そして失踪。

坂田秀美、見合いは?

ノートに書きながら「もしかして、萩村沙織さんの見合いの相手って平尾さんって事有るかな?」と独り言を呟いた。

直ぐに美優は一平に萩村沙織さんの見合いの相手を調べて欲しいと頼んだ。

一平は面倒くさいと言いながら渋々萩村家に電話をした。

「えっ、警察が今頃沙織の見合い相手を聞いてどうされるのですか?断られたのですよ!殺害と関係ないでしょう?」

「は、はい!私も関係無いと思うのですが、妻が、、、、、、、」

「えっ、もしかして刑事さん!野平さんですか?」

「は、はい!」

「じゃあ、美優さんが?名探偵の奥様も変な方向に目が向いていらっしゃるのね!お待ちください!」母奈緒美は保留にして何処かに行った。

しばらくして「娘の部屋にメモが置いて在ったのですが、主人が捨てた様です!見合いの事はもう遠い昔の話ですからね!」

「何か覚えていらっしゃいませんか?」

「ひらい、ひらたかな?その様な名前だったと思います!三男だった様に聞きましたね!」

一平は電話が終わると美優に聞いたままを伝えた。

娘が断られた見合い相手をそれ程覚えていないのが普通だろう?レイプ殺人で殺されたら尚更忘れたい気持ちはよく判った。

「ありがとう!多分私が思っている人と同じ人の様な気がするわ!」

「誰なのだ?」

「美男子でしょう?」

「ああ!そう聞いた!」

「まだ確信がないので話せないわ!捜査を混乱させたら一課長に叱られるわ」

同じ寿企画で美男子なら、複数の女性が見合いを申し込んでも全く不思議ではない。

堀麻祐子の場合は見合いをしていないので問題外か?

でも病気が治ってから再度見合いをしなかったのかな?

その疑問に直ぐに電話をする美優。

「再度見合いを段取りする前に退会されてしまいましたので、無理でしょう?」

そう言って笑う浩美。

「私、今週静岡の名士のお孫さんの縁談を承りますのよ!楽しみだわ!良い娘さんを探さないと、纏めると特別お礼を頂けるのですよ!やんちゃなお孫さんらしく、おじい様の意向ではしっかりとした娘さんを希望だそうです!昔で言う金の草鞋をお望みの様ですよ!」

浩美は嬉しいのか、関係の無い話まで喋った。



電話の後「静岡の名士の孫の縁談?もしかして須藤建設?」先日一平がぼやいていた話だと思う。

会長が結婚話を進めているのだ。

それも寿企画に頼んだ様だ!もしこの事件が結婚相談所絡みなら益々複雑に成る様な気がした。



須藤亮の尾行等は中止していたが、藤枝署の平田捜査一課長は鈴木恭二の動向を全力で尾行していた。

過去の強姦事件の洗い直しも同時に行い、不況和音の元メンバーの調査も始めていた。

鈴木の逮捕と同時に不協和音は解散に成っている。

唯、仲間の名前で判明しているのは数人で、リーダーが誰なのか本名は判明していない。

噂ではリーダー名は静岡の星とか、奇才の翼と呼ばれていてかっこいい男。

750CCのバイクを自在に乗りこなし、警察に追われても捕まる事は無かった。

仲間は10数名で今は何処に行ったか判明していない。

活動期間は一年弱で、鈴木恭二の逮捕で不協和音の活動は消えた。

その間に強姦された女性は届け出されたのが、5名程度が訴えたが実際の数は判らなかった。

「今回の萩村沙織の犯人は、鈴木恭二と昔の仲間では無いでしょうか?」

「鈴木は死体遺棄だけを昔の仲間に頼まれたのでは?」

「昔の不協和音は強姦をしていたが、殺人はしていませんよ!手口が違うのでは?」白井刑事が発言した。

「当時は未成年のメンバーも居たので、殺人までは至らなかったが、今回は数年経って残虐性が増したと私は思っている」

「その不協和音のメンバーで名前が知られているのは誰ですか?」

「大山和希、梨田祥吾の二人だ!鈴木の強姦幇助で一緒に逮捕された!彼らは執行猶予付きで直ぐに社会復帰している」

「今は何をしているのですか?」

「県の緑地関係の仕事をしている様で、今は下田で働いている!死体遺棄の前日も当日も下田で働いていた裏はとれて居るので、今回の事件には関係ない様だ」

「すると他のメンバーですね!須藤亮はこの不協和音のメンバーでは無いのですか?」

「それは判らないが、昔バイクに乗っていたのは事実だ!」

「課長はまだ須藤亮をほんぼしだとお考えですか?」

小さく頷く平田捜査一課長。



美優は警察に結婚相談所若しくは見合いを調べよ!とは流石にまだ言えなかった。

自分で一軒ずつゆっくり聞いてみるしか術がないと思う。

結婚相談所で殺人が行われると話しても信じては貰えないだろう?

一平に話しても鼻で笑われそうな美優の勘の様な話。

だが不思議な事に三人には共通しているのは事実だ。

断られた女性、断った女性が消えているのも不思議な話だが、、、、、、

不気味な影

  76-011

萩村沙織さんの見合い相手は平尾俊三?堀麻祐子の相手も平尾俊三だったが成立はない。

でも美男子なら見合いの申し込みが複数来ても全く不思議な話ではない。

一度三島結婚相談所の毛利さんに会って見たい気分に成っていた美優。

本間優花さんの見合い相手の山中智博も同じ相談所?

堅物の親父らしが、一度会う価値は有りそうだと決めた美優。



日曜日、須藤亮の自宅に新谷浩美がにこにこ顔で挨拶に訪れていた。

「俺は嫁を貰う気無いぞ!先に言っとく!」ぶっきら棒に言う亮。

「はいはい!判っていますわ!おじいさまの会長の顔を立てて下さったのですよね!」

浩美は心得たもので怒らさずに契約の書類を書かせる。

「須藤建設の三代目の奥様ですから慎重に選ばなければ成りません!この寿企画に入会されますと全国のお嬢様のお写真をご覧になれますので、気に要られたお嬢様がいらっしゃいましたらお見合いを申し込んで頂ければ、私が責任を持ってお見合いを段取り致します!」

「俺は興味無い!」ぶっきら棒の態度を叱る亮介。

「親父の様に子供だけ作らせて別れるのも良いかもな!」母親が去って不良グループに入った亮。

入会の申込用紙の記入が終わると、直ぐに車に乗って何処とも告げずに出て行った。

「あの様な馬鹿な息子で申し訳ない!私が妻と離婚してから不良グループに入ってしまい一時は家にも帰らなかったのですが、今は会社の仕事を真面目にする様に成って一安心です!良い嫁が見つかる様によろしくお願いいたします」

「はい!会長から年上の姉さん女房が良いと伺っていますので、頑張って探しますので今後ともよろしくお願いします!」

会長から纏めると別途報酬を約束されているので必死になる浩美。

肝心の亮は全く無関心で、会長の顔を立てただけで寿企画のサイトの説明も父親の亮介が聞いていた。

中学から高校の思春期に母親が離婚で家を出たショックは亮の心を大きく傷つけていた。

「根は優しいのですが、反抗期に私が妻と離婚したのが亮を、、、、、」言葉を詰まらせる亮介。

大会社の社長とは思えない気の弱そうな亮介だった。



「俺の周りに刑事が一杯居る!俺があの萩村沙織をレイプして殺したと思っているらしい!」久々に会った亮に話す鈴木恭二。

「お前には婦女暴行の前科が有るからな!」

「あ、あれは、、、、、、、」

「それより女の弁護士に示談金払っただろう?誰に用立てて貰ったのだ?」

「あ、あの金はお袋が集めてくれたのだよ!」

「お前の母親って金持ちじゃないだろう?お前を連れて離婚したのだから?」

「親戚に借りた様だ!」

「本当か?何か怪しい話だな!」

「ほ、本当だ!」

「不協和音!お前が警察に捕まったら急に解散しただろう?お前の逮捕と何か関係有るのか?」

「俺が警察に捕まった後の事は判らないよ!亮が入らなくて良かったよ!」

「俺が入りたいと言ってお前がリーダーに紹介してくれる一週間前に、逮捕だったから驚いたよ!結局不協和音は消えてしまってお前も務所暮らしだったな!リーダーって誰だったのだ?」

「それは亮にも言えない!不協和音の掟だ!」

「奇才の翼とかニックネームは聞いたけれど、本当の名前は知らない!でも女性に乱暴をしているのは有名だったな!」

「今世間を騒がせている強姦殺人は絶対に俺じゃないぞ!」

「判っているって、あれだけ強姦を繰り返していた不協和音のメンバーがお前の逮捕と同時にピタリと消えたのは何故だ?」

「俺は務所に入ったからその後の事は判らないが、昔の仲間に先日聞くと自分達ももう昔の仲間の事は知らないと話していた!」

「母親を泣かす様な事をもうするなよ!」

「俺が入っている間、お前には母の事で色々して貰って感謝しているよ!仕事も世話して貰ったしな!」

「お前が働いている場所に遺体が放置されたのには驚いたよ!」

「、、、、、、」

「お前何か心当たり有るのか?」

「無い、無い!偶然だ!」

「それなら良いが、昔の仲間が今回の事件に関わって居たら巻き込まれるぞ!」

「大丈夫だよ!もう昔の仲間と話をするのは下田に住んでいる捕まった時の二人だけだ!彼等も完全に昔の仲間とは切れている!安心してくれ!」

「俺!爺ちゃんに見合いを勧められて逃げて来た!」

「あの怖い会長か?」と聞かれて苦笑いで頷く亮。

二人が会っている事を藤枝署の刑事が目撃していた。

その後二人は亮の車に乗って高速道路に入って、東に走り始めた。

尾行の刑事達は不意を突かれた様に成って、高速道路で見失ってしまった。

「明らかに速度違反だ!」と呟くが亮の車の加速は優れていた。

車種とナンバーを連絡して高速警察隊に車の把握を依頼した平田捜査一課長。

しばらくして「車は伊豆半島方面に向かいました!」と報告が入ったが、平田捜査一課長の頭に須藤建設会長の顔が浮かんだ。

「尾行は必要無いです!」と口走っていた。



「高級外車が一台付いて来るのだけれど、覆面が高級外車は使わないよな!」

「何処から?」

「初めは判らなかったけれど、高速の途中からだ!」

後ろを見る鈴木が「遠くて顔は判らないな!高級外車は判る!黒の車だな!」

「そうだ!偶然かと思ったが違うかも知れない!」亮も心配になって時々見る。

「高速を出たら追い越しは出来ないからな!警察では無いのは確かだ!」

「伊豆縦貫道から伊東駅へ送って貰えるか?俺の仲間に会わない方が亮の為だ!」

「下田まで送ってやろうと思ったのに、伊豆スカイラインを走れば伊東駅まで40分程で着くな!」ナビの表示を見て言う亮。

昔の友達に自分を会わせたく無いのだと思った。

何か隠している様な雰囲気を感じ乍ら車を走らせる。

「3台程後ろをついて来ているな!」ミラーを見なら言った。

「同じ方向に行くだけじゃないか?」鈴木は尾行を否定していたが、心は動揺していた。

集団自殺

  76-012

以前から昔の友人に会いに下田に行くので送ると約束していた亮。

伊東駅で鈴木を降ろすと「昔の腐れ縁は中々切れないよ!じゃあな!ありがとう!」と軽く手を振って駅に向かって歩いて行く鈴木恭二。

亮は寂し気な恭二の背中を見送った。



翌朝、下田警察署は大事件勃発に署員全員が凍り付いた。

「南伊豆町で大事件が勃発しました!」県警の電話が鳴り第一声が震えていた。

「どうした!山脇捜査一課長!声が震えているぞ!」佐山係長が言う。

「下田署始まって以来の大事件です!成人男性三人の死体が石廊崎灯台の近く猪鼻海岸で発見されました!」

「えっ、大人の男三人の死体?」佐山係長はまた強姦殺人の死体が見つかったのか?と思ったが全く異なる男性三人に驚く。

「殺害方法は?」

「今、検視官を呼んでいますが、服毒死の様ですね!」

「自殺か?」

「ビールを飲んで死んでいますので、三人が同時に飲んで亡くなった様です!」

「名前は判るのか?」

「はい、免許証を持っていましたので、読み上げます!大山和希28歳、梨田祥吾28歳、鈴木恭二29歳の三人です!」

「今!鈴木恭二って言ったな!」

「はい!」

「ゴルフ場の強姦殺人死体遺棄の重要参考人だ!まだ決定的な証拠が無いので逮捕には至っていない!直ぐそちらに私が行く!」

その知らせは藤枝署の平田捜査一課長にも伝えられ、直ぐに直行すると言った。

「昨日!須藤亮と一緒に車で南伊豆に来ているのですよ!」

「何!須藤の死体は無いぞ!」

「私は下田に行きますが、県警で須藤から事情聴取して頂きたい!」

須藤亮の取り調べに難色を示した県警に委ねる作戦に出た平田捜査一課長。



静内捜査一課長は佐山係長にその話を聞いて「不味い!不味いぞ!あの馬鹿な孫が今度は殺人の疑い!冗談は止めてくれよ!」頭を抱える。

「強姦事件と関係が有るのか?」

「今判ったのですが、鈴木恭二が逮捕された時、共犯で捕まったのが大山と柴田です!」

「じゃあ、昔一緒に強姦事件を起こした三人が一緒に死んだのか?」

「自殺、他殺の両方が考えられますね!」

「訳が判らない程次々と事件が起こるな!先月までの暇な時間は何だったのだ!」

「今度は下田署に捜査本部を立ち上げですね!」そう言い残して佐山係長は若手の刑事と一緒に下田に向かった。

静内捜査一課長は一連の連続強姦殺人事件と、今回の三人の死亡は関係が有るのか?と疑問を持っていた。

しばらくして署長室に報告に向かった静内捜査一課長は「今回は須藤の孫が重要参考人ですね!」と切り出して事件のあらましを説明した。

その時、下田署から遺書らしき物が発見されたと連絡が入った。

「署長!三人は自殺の様だと下田署から連絡が入りました!」

「自殺なら須藤の孫は関係ないな!良かった!」苦虫を潰した様な顔から安堵の表情に成った署長。

「でも自殺した鈴木恭二を下田方面に送ったのは間違い無く須藤です!自殺の事情を聞いていると考えていますので、私自ら事情を聞きに参ります!」

「そうだな!彼は何か知っている筈だな!問題が無い様に聞いて来てくれ!会長にこれ以上睨まれると立場上困る!」



しばらくして須藤建設に若い刑事と向かう静内捜査一課長。

事前に亮が在社している事を確認して社長の亮介に電話をした。

「実は亮さんの友人の方が下田で自殺されて亡くなられたので事情をお聞きしたいのです」

「何故亮なのですか?」

「実は昨日亮さんが友人と下田方面に車で行かれましたので、詳しい話をお聞きしたいと思いまして」

「呼んで置きます!」



何も知らない亮は自分の知り合いが、自殺で亡く成ったので事情を聞きたいと警察が来ると聞かされていた。

静内捜査一課長が部屋に入ると同時に「俺の知り合いが自殺したって?誰なのですか?」

尋ねた。

「三人一緒に自殺されたのですが、一人目は大山和希さんです!」

「誰?聞いた事は有る様な名前だが、、、、」

「二人目は梨田祥吾さん」

「知らない人だな!」

静内捜査一課長は亮の様子を見る為にひとりひとり言う。

「最後に鈴木恭二さん」

「うそーーーだ!」顔色を変えて、急に立ち上がって大きな声で叫ぶ様に言う亮。

「ご存じですか?昨夜南伊豆の猪鼻海岸で服毒自殺をされました!」

「おっさん!冗談はやめろ、恭二兄貴が死ぬなんて考えられない!それも自殺!馬鹿な!」そう言いながら目を真っ赤にして涙をこらえる。

「この三人は強姦罪で捕まった奴等だな!」静内捜査一課長が言った。

「、、、、、、、そ、それも俺は信じてない!」亮が涙声で言う。

「示談金を女性に支払って大山と梨田さんは執行猶予付きで、鈴木は実行犯で服役したな!」

「不協和音のメンバーは他にも居ただろう?何故兄貴が、、、、」

「私が今日寄せて貰ったのは、鈴木が君に何か話していなかったかを聞きたい!藤枝から鈴木を下田まで車で送っただろう?」

「昔の友達に会うから送ったけれど、俺には昔の友達に合わせたく無いと言って、伊東駅まで送っただけだ!それより誰に殺されたのだ!」

「自殺だ!多分青酸性の毒物だろうと思われる!」

「兄貴はその様な物持ってない!殺されたのだ!犯人を捜してくれーー俺が殺してやる!」

「本当に何もなかったのか?」

「あっ、そうだ!思い出した!藤枝から黒の高級外車が尾行していた!その車の中に犯人が、、、、」亮は情景を思い出しながら言った。

乗り込む美優

  76-013

静内捜査一課長は帰署すると、自殺だと思うが一応高速道路等の監視カメラの分析をして高級外車の持ち主を調べる様に指示をした。



下田署では三人の遺体の解剖が始まり、飲み残しのビールの中に青酸性の毒物を検出していた。

遺書の様な物には萩村沙織を強姦殺人で、ゴルフ場に遺棄した様な文面と地蔵峠近くに遺棄した坂田秀美の事が書かれていた。

昔のレイプが忘れられなくて襲ってしまったが、騒がれたので殺害して地蔵峠に埋めた事実が細かく書かれていた。

「この三人は昔の強姦が忘れられずに繰り返していた様だ!特に鈴木恭二が務所に入っている間にも数人の女性を襲っている様だ!だが坂田秀美さんは騒いだので殺害してしまった様です!務所から出て来た鈴木を仲間に誘って再び三人で強姦を何度か繰り返していた様だが、萩村沙織さんの時騒がれて殺害してしまい勤め先のゴルフ場に遺棄した様です!」

下田署の山脇捜査一課長が佐山係長に説明した。

「他の女性何名か被害届が出ているのですか?」

「いいえ!若い女性の行方不明者はこの数年多いですがね!」

「婦女暴行は中々訴える女性が少ないのですね!」

「私はこの三人が追い詰められて自殺を決意したと考えています!」

「青酸性の毒物は?」

「大山の親父が昔メッキ関係の仕事をしていた様ですね!実家は大阪です!」

「成る程入手経路は充分ですね!」

「これで一連の事件も全て解決でしょう!」

しばらくして鑑識の結果も出て、青酸性の毒物もメッキ工場で使っていた古い物だと判明した。

「でも何故この場所を選んだのでしょう?」佐山係長が質問をした。

「死ぬ時でも美しい場所を選んだのでしょう?」

「彼らは元不協和音のメンバーでしょう?他の連中の消息は?」

「元々下田で時々活動していましたので、死に場所に選んだのでしょう?」

「不協和音にレイプされた女性のリストを調べて見る必要が有りますね!」

「私がまだ捜査一課に来た頃、被害女性のひとりに話を聞いた事が有るのですが、強姦メンバーのリーダーの男は能面を着けていた様です!他の面々はフルフェースのヘルメットだった様です!」

「能面ですか?リーダーが誰か判りませんね!」

その後佐山係長は静内捜査一課長に自殺の可能性は有りますが、一応捜査本部を立ち上げて付近の聞き込みを行いますと報告した。



藤枝署の平田捜査一課長は、鈴木恭二を逮捕出来ずに自殺させてしまった事を残念だと言った。

まだ須藤亮を共犯だと考えていたが、車が伊東駅から引き返す画像が発見されて一応関係が無いと納得して引き下がった。



「娘はこの三人とは関係ないのでしょうか?」本間刑事が尋ねる様に言った。

島田署から戻った一平に祈る様な気持ちだった。

「今の段階では地蔵峠に遺棄された坂田秀美さんと萩村沙織さんについては書いて有った様ですが、それ以外の女性には触れて無い様だ!」

「すると娘は別の事件に巻き込まれた?」

その様な事を話していた時「主任!変な電話が入っています!」若い刑事が一平に電話だと呼んだ。

「誰だ!」

「有名な探偵の旦那が居るだろうって、若い男です!」

電話を取ると「野平って刑事さんか?」

「そうだが、君は誰だ!」

「俺は須藤、須藤亮!あんたの奥さんに話したい事が有る!明日昼に須藤建設の本社に来て貰えないだろうか?」

「俺が行く!妻は刑事ではない!」

「じゃあ、話さない!俺は刑事を信用出来ない!」

「何故だ!」

「俺を犯人扱いして、恭二兄貴を自殺だと言う奴らに話しても無駄だ!」

「妻を一人で行かせる訳には行かない!」

「じゃあ、この話は無しだ!危険が無い様に本社にしたのに、それでも駄目か?」

泣く様な、頼る様な声に成った亮。

鈴木恭二を失った悲しみがこみ上げて声が詰まる。

「妻に相談してみる!連絡先を教えてくれ!」

その言葉にようやく亮は自分の携帯番号を一平に伝えた。



電話が終わると直ぐに美優に電話で事情を説明して携帯番号を伝えた。

須藤建設の本社なら多分何事も無いと、安心した様に言う美優は意外な事から事件が解かれる様な気に成っていた。

三人の自殺の事はニュースで先程発表されたが、大きな疑問を感じたのも事実だった。



静内捜査一課長の元にも、高速警察から問い合わせの黒の外車の持ち主が判ったと連絡が届き「全く関係の無い車ですね!どうもお世話様でした!」と電話を切っていた。



翌日美優は須藤建設の本社ビルに向かった。

静岡駅近くに10階建てのモダンな本社ビルが一昨年建設されて、本社が藤枝から移転して来た。

「立派なビルね!」そう言いながら一階の受付に向かった。

着飾った美優が颯爽と歩くと、行き違う人が思わず振り返る。

「あの人、何処かで見たな!」

「タレントさんか?うちの会社のCMにでも出演するのかな?」と話す社員。

昨日美容院に行ったので、ばっちり決まっているショートボブ。

「あっ、野平美優様ですね!須藤亮が10階の応接室でお待ちしています!」受付が直ぐに気付くとそう伝えた。

「ありがとう!」美優は笑顔でエレベーターの方に案内される。

「素敵な本社ビルですね!」

「はい!会長お気に入りの設計です!」微笑みながらエレベーターの10階ボタンを押すとお辞儀をした案内係。

協力者

   76-014

「はじめまして、須藤亮です!よろしくお願いします!」

「こんにちは野平美優です!」笑顔で会釈をする美優。

「綺麗な方だとは聞いていましたが、想像以上の美人さんですね!」

「お世辞がお上手だわ!流石は将来のこの会社の社長さんね!」

「コーヒーで良いですか?」

「ええ!」

広い応接室はブラインドを開けると、素晴らしい景色が目に飛び込む。

「見晴らしが良いですね!」

「隣が会長の部屋で、この部屋と会長の部屋は景色が良いのです!」

内線でコーヒーを注文する亮を見て、美優はこの男性が強姦をするとはとても考えられなかった。

一時、藤枝警察署からマークされていたらしいが、今目の当たりにして関係ないと確信した。

「今日無理を申してお越し頂いたのは、兄貴を殺した犯人を見つけて欲しいのです!警察は三人が自殺だと決めつけていますが、兄貴が自殺をする筈無いのです!あの日も見合いの叔母さんに会った後、下田まで送ると車で向かったのです!始めは下田迄行く予定だったのに、兄貴は急に伊東の駅に変更して欲しいと言い出したのです!」

「何故ですか?」

「昔の仲間と会うのだけれど、お前を巻き込みたくないと言い出して伊東駅で降ろしたのです」

「初めは下田まで行く予定だったのでしょう?何か途中で有りましたか?」

「、、、、、、、、、あっ、途中で尾行されている様な気がして、兄貴に言いましたね!」

「尾行の車ですか?」

「はい!俺は尾行の車だと思ったのですが、兄貴は違うだろうと言ったな!」

その時、コーヒーを女性社員が運んで来た。

その後ろを亮吉が付いて来て「亮!お前がこの部屋を使うとは驚いたぞ!別嬪さんのお客だな!金の草鞋か?」美優の顔を見て微笑む亮吉。

「あっ、貴女は確か有名な名探偵の野平美優さん!これは目の保養をさせて貰ったな!」

「こんにちは」立ってお辞儀をする美優。

「警察は信用出来ないから、美優さんに俺の話を聞いて貰っていたのだよ!」

「そうか、亮は疑われているのですよ!助けてやって下さい!」今度は亮吉が美優にお辞儀をした。

「私もお孫さんが犯行をされる様な方では無いと思いますわ!」

「おお!流石は名探偵の誉が高い美優さんだ!一目で亮の無実を,、、、心強い!亮、知っている事を全てお話しなさい!」

喜ぶ亮吉はよろしくお願いしますと美優にお辞儀を何度もして応接を出て行った。

静岡の名士でも可愛い孫の事に成ると、お爺さんに成っていると微笑ましく後ろ姿を見送った。

「話に戻るけれど、その尾行の車の話は誰かに話しましたか?」

「静岡県警の偉い人に黒い高級外車だったと話したよ!」

「偉い人って?」

「静内とか云う偉そうにした奴だった!」

捜査一課長を偉そうな奴と言ったので、思わず笑いそうに成った美優。

「黒の外車なの?」

「間違い無いと思う!二千万位する車だと思うよ!」

「本当に高級車だったのね!直ぐに持ち主判ると思うわ!」

「他に無実だと思う理由は?」

「兄貴は務所に入ったけれど、本当に女性をレイプしたのか疑問に思うのだよ!」

「えっ、無実の罪で逮捕されたの?」

「逮捕される前に俺に電話で少しの間向こうに行くので、お袋の様子だけ見てくれ!多分大丈夫だと思うけれど少し心配だからな!お前に頼むのが最適だと思ったのだ!って言った」

「自首したのね!」

「女性に示談金を払ったので、二人の男性は務所に入らず実行犯の兄貴だけが入った!でも他の通報されていたレイプ事件はアリバイが有ったので、兄貴の罪には成らなかった」

「強姦事件が頻繁に発生していた5~6年前よね!」

「不協和音ってグループの犯行で、兄貴もそのグループに入っていたのは事実だ!バイクで走り回るのが主な動きだったので、俺も入れて貰おうと頼んだのだけれど兄貴が今の不協和音は昔と違うから辞めておけ!と入会させて貰えなかった!その後直ぐに兄貴が逮捕されたのだ!」

「すると不許和音はもっと前から活動していたのね!」

「俺が中学の時初めて知ったのだ!」

「じゃあ、レイプ事件が起こったのは、もう少し後なのね!」

「6年程前から一年程で、兄貴が逮捕されてレイプも無くなったけれど、不協和音も消えてしまった」

「今回一緒に亡くなった二人は不協和音の人でしょう?」

「兄貴の友人で自首した事件の強姦を一緒に行った人だと思う!」

「話変わるけれど、見合いの叔母さんって新谷さんよね!達磨結婚相談所の」

「そうだよ!良く知っているね!名探偵は依頼者の事を調べてから来るのか?」

「違うわよ!偶然なのよ!それより今回の二人もその結婚相談所に登録していたのよ!」

「えー、世間は狭いな!」

「実はもう一人刑事の娘さんもその相談所に登録していて、未だに行方不明なのよ!」

「寿企画って全国組織だよ!会員も8万人とか居るらしいよ!」

「でも静岡の女性数人が既に結婚相談所絡みで行方不明なのよ!」

「名探偵さんは今回の兄貴もその結婚相談所絡みで殺されたって考えているのか?」

軽く頷く美優を見て「ははは!結婚相談所の事で、男三人が死ぬか?」大笑いをする亮。

「じゃあ、何故三人は自殺ではなくて他殺って言うの?何か思い当たる事が有るの?」

「務所に入る前に兄貴が、今のリーダーは女好きで困るって漏らした事が有る!そして務所から出てからは接触していないと話していた!下田の二人とは時々会っていたので、三人で自殺は考えられない!」

「判ったけれど、私は結婚相談所が何か事件に絡んでいる気がしているのよ!」

「美優さんがそれ程云うなら、俺一度見合いでもして探ってやろうか?」

「いいわね!システムが良く判らないので、一度経験するのは良いと思うわ!出来たら三島結婚相談所の女性にして貰える」

「それ、何?」

「その相談所絡みで不審な事が起こっているのよ!」美優は亮の協力で寿企画の中に入ろうと考えていた。

亮の縁談

  76-015

美優は亮と色々な話をした。

そして亮との話が終わると、美優は直ぐに一平に黒い不審な高級外車の事を尋ねた。

しばらくして一平から「それは大きな見当違いだ!」と返事が返って来た。

「不審な高級外車は元厚生労働大臣、三石兼三氏の車で大仁の別荘に行く途中の様だぞ!」

「静岡選出の元厚生労働大臣!亮君の思い過ごしだったのね!」

「そうだよ!不審な車って失礼だぞ!」

地元の現役の有名な代議士だが、80歳を越えて大臣職は流石に後進に譲っていた。

「その車が違う事で自信を持って自殺説に傾いたのね!」

「先ず殺害の動機が全くないだろう?犯行の動機は過去にも暴行事件を起こしている!」

「鈴木恭二が払った示談金って誰が出したの?」

「それは、、、須藤の孫では?」

「違うと言ったわ」

「確か500万程払っていると佐山係長が先日話していた」

「鈴木恭二の母親の事をもう少し詳しく調べて貰える?」

「自殺の裏付けを捜査するから、それは調べて見る!亮は白か?」

「間違い無く白ね!私の印象では三人も自殺では無いと思うのよ!」

「えーそれなら他殺?」

「亮君の話では鈴木恭二はお母さんを大事にしているらしいわ、だから母親の悲しむ事は出来ないって話していたわ!」

「務所に入った奴の台詞とは思えん!」

「兎に角母親の祐子さんに詳しく聞いて見て!」



翌日、遺体解剖の後遺族に引き渡された。

鈴木の母親は哀しみの中で息子の自殺は信じられないと証言した。

下田から静岡県警に運ばれて、遺体の解剖が行われていたのだ。

その後の捜査本部で意外な事実が公表されて、静内捜査一課長も勇み足を認めざるを得なくなった。

それは三人の解剖で死因はビールの中に入っていた青酸化合物で間違いなかったが、同時に三人のDNAがゴルフ場で遺棄された萩原沙織さんの体内に残っていた精液のDNAと一致していなかったのだ。

「この事実はこの三人が萩村沙織さんを強姦した人間では無いと云う事です!」

記者が「それでは自殺は間違いですか?」

「それは判りません!萩原沙織さんの遺体の遺棄だけこの三人が行ったのかも知れません!」

「それでは主犯がまだ居ると云う事ですね!」

「は、はい!その可能性は高いと思われます!」静内捜査一課長は記者の前で苦渋の答えを選びながら話した。



その話を電話で聞いた亮は「やっぱり、兄貴は無実だ!」と喜んで、見合いを申し込むよ!と一気に元気を取り戻した。

「あの車は関係が無かった様だわ!」

「本当なのか?」

「代議士さんの車で大仁の別荘に向かっていたそうよ!」

「代議士の車なのか?そうなのかなぁ!伊東の駅の近くまで尾行されていた気もするけれど、少し暗く成っていたから確かではないけれどね!」

「考えすぎだったかも知れないわね!」



その日の夜、亮は寿企画のホームページを見ながら、美優が話した三島結婚相談所が関与していると思われる女性5人をピッアップした。

その中から二人を選んで見合いの申し込みをして見る事にした。

真木加奈28歳、近藤芽衣27歳の二人が三島市で登録されていた。

その情報は直ぐに新谷浩美が知る事に成った。

「見合いは嫌いだと言っていたのに、5人もお気に入りに入れて早速見合いの申し込みを?」独り言を言いながら女性の紹介欄を見る。

「真木さんは、、、毛利さんか!これは厄介だわ!もう一人の近藤さんは情報を貰って釣り合えば進めるか?」独り言を言いながら、浩美は早速近藤芽衣の資料をILB結婚相談所の三好仁に尋ねた。

「お宅の近藤芽衣さんに見合いを申し込んだ須藤亮を今度担当しているのよ!」

「新谷さんも活動が盛んだね!儲けているね!」

「まあまあよ!近藤さんって子の家はどうなの?」

「家を尋ねると云う事は、須藤さんは相当良い家柄だな!ちょっと待ってくれよ!」

「この子申し込みが入っているぞ!」

「えっ、先口なの?家はどうなのよ!」

「先口と云っても逆だ!近藤さんが申し込んで、少し前に先方からOKが入った様だ!残念だったな!この話が終わるまで申し込みは出来ないからな!」

「そう、残念!」

「美男子は申し込みが多いから、順番待ちだから近藤さん喜ぶだろう!」

「駄目だったら、次申し込むわ!それより家は?」

「悪くない!県庁勤めの管理職だ!」

「県庁の管理職ならぎりぎりいけるかも?」

「えー親が県庁の管理職でぎりぎりか?相当良い家の息子だな!」データを探し出して見る三好。

「父子家庭で良い家か?」

「家政婦さんを雇える程の家よ!空いたらお願いするわ!」そう言って電話を切った。

浩美は仕方がないのでもう一人の真木加奈に申し込む為に毛利に電話をした。

「新谷さん!今電話をしようと思っていたのですよ!」

上機嫌で電話に出た毛利。

「えっ、何か?」

「須藤さんが申し込まれた真木加奈さんが、考えても良いのでどの様な方か聞いて欲しいと言われましてね!」

「えっ、もうご覧に成って見合いを考えられているのですか?」

「大きな割烹料理店の娘さんで、しゃきしゃきされていますよ!」

「毛利さんにしては珍しいですわね!割烹料理店って言っちゃって!」

「当然だよ!確認だけどこの須藤亮って、須藤の孫だろう?」

「、、、、、、、、」ずばり言われて返答に困った新谷。

「この名前聞いた事が有るので知っているのだよ!纏めたらお礼が貰えるだろう?」

新谷は次の言葉が出なく成っていた。

推理

  76-016

「見合いが決まるまでは名前も本人には伝わらないですよね!」

「勿論ですよ!仕事も住所も名前も話していませんよ!我々には名前は知る事が出来ますがね!」

「それで須藤建設の孫だと判ったのですね!」

「自己紹介と名前で多少は判りましたが、新谷さんからの電話で確信したのですよ!良い縁談にしましょうよ!私もお礼に、、、」

「そこまでおっしゃるなら、見合いにしましょうか?」

「段取りを組みましょう!」

二人はお互いの為に見合いをさせて儲ける段取りを話し合った。



静岡県警はもう一度事件の洗い直しをする為に、県警に合同捜査本部を設置した。

一連の事件が複雑で所轄でバラバラに捜査をしていては解決出来ないと、静内捜査一課長は決断した。

藤枝管内のゴルフ場強姦殺人死体遺棄事件、萩村沙織。

島田署管内の地蔵峠死体遺棄事件、坂田秀美。

下田署管内の猪鼻海岸毒物殺人事件、大山和希、梨田祥吾、鈴木恭二。

「この三か所の事件とは異なるが、我々の仲間、本間刑事の娘さん失踪事件も同じかも知れない!」静内捜査一課長が指揮をして三か所の所轄を連携させると発表した。

当初自殺と発表した事を詫びた。

だが死体遺棄の罪は残っていると話した。

「真犯人が居ると云う事ですか?」

「共犯者が正しいだろう?自殺は仲間割れの可能性も有る!警察が動き出したのと坂田秀美さんが発見されたので、仲間を売った男が居るのでは?と考えている!猪鼻海岸付近の目撃者捜しと防犯カメラの分析を下田署で徹底的に行ってくれ!応援を送る!藤枝署は鈴木の交友関係を探して共犯者の割り出し!駅を降りた不審な三人組の再捜査をお願いします!島田署は一年以上前に成るので中々難しいが、坂田秀美さんの交友関係と失踪当時何が有ったかを調べてくれ!」

合同捜査会議は延々と行われたが、三人が共犯者と云う原点は変わらなかった。



翌日早速三人に共通するのは元不協和音のメンバーで、各地でレイプ事件を起こしていたとの証言が有った。

「不況和音の元メンバーは他に見つからないのか?」

「フルフェースのヘルメットを被ってバイクで走り回って、女性をレイプしていた様ですね」

「鈴木が主犯格とは考え難いが、逮捕されたのはこの三人だ!示談金500万は誰が出したのだろう?」

「自分では無いと言っていますが、須藤亮ではないでしょうか?」平田捜査一課長は今でも亮を主犯と考えている。

「年下だからな、それと不況和音が出没した時期は高校位だぞ!」

「、、、、、、、資産家ですから」難しい答えで結び付けようとした。



美優は捜査会議の話を聞いて「県警にしては良い目の付け所だわね!三人が元不協和音のメンバーだと云う事!」

「元不協和音のメンバー絡みは正解か?」

「でもどの様に絡んでいるのか?今回の事件の本質とは少し違うのかも?昔の不協和音の資料を見せて貰える様に佐山係長に頼んで貰える!」

「本格的に事件に参入か?」

「本間刑事のお嬢さんも心配だからね!」

「もう二週間以上だからな!」一平も心配顔に成っていた。



翌日不協和音の資料を見ると、2017年以降消息不明の暴走集団の名称。

人数は十数名で20歳前後の若者がバイクで暴走運転を売り返し、一部婦女暴行事件も数回行われた。

被害届を提出した女性は数名、その中の一人梁井祥子さん24歳は絞殺されそうに成ったので病院に収容事件が発覚している。

「染井祥子さんは熱海の女性なのね!」

犯人は鈴木恭二と大山和希、梨田祥吾で示談金が支払われて、三人の罪は軽減されて鈴木だけが務所に入っている。

他に僅か二名の被害届が出ているだけ、その被害者の襲われた時間に鈴木達にはアリバイが有り二名の女性に対する罪は問われていない。

美優は被害者染井祥子の住所を書き留めた。

明日、三島結婚相談所の毛利さんに会いに行く予定にしているので、熱海まで足を伸ばす事にした。



県警は美優が探っている結婚相談所については全くノーマーク。

一平も態々美優が調べている話はしていなかった。

佐山係長が昨日資料を貰う時「美優さんも不協和音を調べているのか?今回は県警と同じ目線だな!」と嬉しそうに言ったのだ。

毎度美優さんの視点と県警の視点が異なっていたから安心した様だ。



翌日、美優は坂田秀美の沼津の自宅に行く事にした。

葬儀とか色々な事が終わるのを待っていたのだ。

「野平美優さんって有名な探偵さんでしたね!旦那様が刑事さんで、、、どの様なご用件でしょうか?」

「実は秀美さんの事で確かめたい事が有るのですが?」

「事件の事でしたら刑事さんに事細かく説明させて頂きました!男の方から電話が有って出かけて行きましたが、そのまま帰りませんでした!相手の男性は存じません!私は友人か会社関係の人だと思っていました!」

「私がお聞きしたいのは、秀美さんはお見合いされましたか?」

「お見合い?」

「はい!寿企画の会員に成られていましたか?」

「えっ、寿企画が今回の殺害に関係有るのでしょうか?」

「入会されていたのですね!」

「は、はい!」驚いた表情で答える秀美の母。

「お見合いもされたのですね!」

頷きながら怪訝な表情で美優を見た。

驚く

  76-017

「もうひとつお聞きしたいのですが、お見合いどの様に成りましたか?」

「秀美がお断りしました!先方から申し込まれたのですが話が合わないと言いまして、、、」

「相手の方のお名前は憶えていらっしゃいますか?」

「もう随分前ですから。、、、、」

「何か覚えていらっしゃる事はございますか?」

「同じ静岡県の方で、確かJRにお勤めだったと記憶しています!見合いの前に結婚したら旅行安く成るねって冗談で話していました!」

「美男子の方ですか?」

その質問には首を振って答えた。

「最後に結婚相談所は何処ですか?」

「沼津幸せ会って云う相談所でした」

共通点は結婚相談所、寿企画だけか!そう思いながら坂田の家を後にした。



次に三島結近相談所の毛利には先日会いたいと連絡をしていた美優。

毛利は自分の知り合いの見合い話に来るのだろうと、有名人の来訪を喜んでいた。

美優は開口一番に「見合い話で来たのでは有りません!殺人事件の事でお聞きしたいのです!」と切り出した。

堅物で中々情報を漏らさないと聞いていたので、高飛車に出る事で喋るのではと考えたのだ。

「殺人事件って云うと萩村さんの事か?あの子は私の扱いでは無いよ!同じ三島に有るILB結婚相談所だよ!」

「よくご存じですね!」

「三好が先日血相を変えてやって来たのですよ!それで知ったのです!」

「その萩村さんの見合いの相手を紹介されたのが、毛利さんでは有りませんか?」

「殺人事件と私の紹介した見合いが関係有るのですか?見合いをする段階では名前程度しか先方には伝えないのですよ!事実萩村さんとは一度の見合いでお断りなので、名前と大体の住所程度しかお互いに知らないと思いますよ!それが寿企画のルールですからね!」

「見合いの席で話してしまう事は無いのですか?」

「それは双方の相談所の方が強く言われますので、無いと思いますね!もし聞こえて来たら退会させられますからね!」

「するとお互いが気に要って今後の付き合いを決めるまでは、お互いの住所も職場も家族も喋らない!」

「そうです!それが寿企画のルールです!まあ、片方が気に要って執拗にストーカー行為に走る危険の回避ですね!」

「でも途中で懸念材料が出ても同じでしょう?それ程意味が無い!と申しますか無駄な時間に成りませんか?」

「商売だ!と言ってしまえばそれでおしまいですがね!寿企画の狙いなのでしょう!」

「もう一人お聞きしますが、本間優花さんのお見合い相手もここの方でしたね!」

「本間優花さんですか?」そう言いながらパソコンの処に行って調べ始める毛利。

「いつ頃のお見合いですか?」

「一二か月前だと思います!主人の同僚の娘さんなのです!二週間以上前に失踪されて探しているのです!」

「それが用件でしたか?」微笑みながら振り返って「見合いはされていませんよ!彼は美男子なので申し込みが多いのですが、本間さんってお嬢様は記録にございません!」

「えっ、相手が違うのでは有りませんか?」

「や、、、」口籠る毛利は「何方と見合いをされたのですか?名前は判るのですか?」

「はい!山中さんとお聞きしました!」

しばらくパソコンと睨めっこして「山中さんが断られていますね!その事と彼女の失踪が関係有るのですか?このパソコンの資料では焼津の子で三姉妹、両親は公務員、22歳程度しか判りませんね!県警の刑事さんでしたか?公務員だけでは何も判りませんよね!お父さんが刑事さんなのですね!」

全く何も知らないのだと思い、敢えて母親が捜査一課の刑事だとは言わなかった美優。

「もうお一人お聞きしても宜しいですか?」

「お答え出来る範囲なら」

「堀麻祐子さんがお見合いをされる予定だった方も美男子だとお聞きしたのですが,同じ方ですか?」

再びパソコンの画面を見る美優。

(そのパソコン見せてよ!)心で叫ぶ。

「堀麻祐子さん?何か月程前ですか?」

「4か月程前では?」

「見合いされたのですよね!有りませんね!」

「見合いが急病でキャンセルに成ったと聞きました!」

「ああー見合いのドタキャンだね!」

もう一度探し始めて「有りました!有りました!本当は言えないのですが美優さんだから特別に教えますよ!美男子の方です!」

「その方見合い多いのですか?」

「そうですね!美男子だから申し込みは全国から来ますが、彼は地元重視ですからね!他府県の方はお断りされますね!」

「まだ決まった方は?」

「多分無いと思いますが、でも最近は見合いが有りませんね!」

「見合いを楽しんでいる方かも知れませんね!お付き合いされた方はいらっしゃいますか?」

「殆ど女性の方からの申し込みを受けられるので、自分の理想とは違うのでしょうね!」

「会員長いのですか?」

「そ、それは申せませんな!」警戒し始めた毛利。

美優はそろそろ限界だと思い最後に「JRの方も会員さんにいらっしゃいますか?」

「JRですか?静岡県内でも職員の方は多いので、数名は登録されていますよ!」

「坂田秀美さんとお見合いをされたJRの方って判りますか?」

「さかた、、、坂田」と考えながら「美優さんもお人が悪い!その方って地蔵峠の白骨死体の人でしょう?知りませんよ!」

「そうですか?」

「坂田さんも寿企画で見合いを?」驚いた顔に成る毛利。

「そうですよ!ご存じ有りませんか?」

「知りませんよ!うちの登録者では有りませんし、見合いも無いですよ!」

毛利は美優の話の中から自分が疑われているのかと、勘違いをしていた。

不安

 76-018

「私では寿企画の事は判らないので、東海地区担当の中井利一さんに聞いて貰えるか?これが連絡先だ!」そう言って名刺を差し出す毛利。

「名古屋に事務所が有るのですね!」

「東京、北海道、仙台、大阪、広島、福岡に事務所が有りますよ!中井さんが静岡県の担当です!」逃げ腰の毛利。

連続殺人に自分が関係していると思われて困惑状態だ。

名刺を貰って帰路に就いた美優は車の中で、益々寿企画と今回の一連の事件が関係が深いと確信をした。



夜遅く一平が帰ると、美優は遂に自分の思いを述べて警察の力を借りる事にした。

失踪者の残りの人達が寿企画に関係しているかの確認を頼み込んだ。

警察の調査なら寿企画も拒否が出来ないと考えたのだ。

幸い名刺を貰っているので、東海地区に限定すれば調査は可能だと思った。

「県警でその様な事は捜査出来ないが、この中井に聞く事は俺でも出来る!」

「でもね!今回の事件は必ずこの結婚相談所が絡んでいるわよ!」

「美優が確信を持って言うのだから、先ず間違い無いと思うけれど、どの様に繋がるのだ!本間のお嬢さんも見合いで失踪したのではなくて通勤時に消えたのだぞ!」

「そうよね!見合いでは勤め先も、住所も伝えてないから犯人が証券会社に来る筈ないわね!」

「だろう?それとJRの電車から忽然と消えるのも変だろう?」

「うーん!証券会社の店頭にパソコンの画面から印刷した様な写真を持って来た男性が居たって聞き込んだでしょう?」

「その話したな!白井刑事が聞いて来たのだよな!」

「それって本間刑事のお嬢さんを確認に来たのでは?見合いの時、勤め先は言わなかったが熱海の証券会社と言ったか、金融機関程度まで話せば熱海にはそんなに多くないから探しに来たのかも?」

「本人ではない男が?」

「そう!強姦グループは複数人居るのよ!少なくとも二人は確実よ!」

「萩村さんを強姦したのは二人だったな!」

「美優の推理は寿企画に登録して見合いをした女性をレイプか?それは飛躍しすぎだろう?何故見合いをしてレイプするのだ?」

「そうよね!飛躍しすぎか?」

「まあ、明日調べて見るよ!」



翌日寿企画の東海地区担当の中井に一平が電話をすると「過去の登録者のデータですか?膨大な人数に成りますね!会員番号でも判れば調べられますがお名前では、、、、、」

「半年前後までならどうでしょう?殺人事件の捜査なのです!ご協力頂かなければ健家が矯正捜査でデータを没収するかも知れませんよ!」一平は一か八かの脅しをした。

「わ、判りました!一日お待ち下さい!一度探してみます!お探しするお名前と住所を送って下さい!」渋々引き受ける中井利一。

一平はFAXで名前と住所を書いた用紙を送った。

警察と名乗らなければ絶対に協力は出来ない様な口ぶりなので、美優では無視されたと思われた。

だが、本部がこれ程個人の情報を出さないのだから、フランチャイズの相談所にも相当厳しくルールを守る様にしていると思われた。



一日かかると言っていた中井が意外と早く一平の携帯に電話をして来たのは、その日の夕方だった。

「頂いた用紙に書かれた女性は既に寿企画の会員ではございません!」中井の言葉の中には既に寿企画とは無関係の人ですと、事件に当社を巻き込まないで欲しいと訴えた。

「全員元会員さんですか?」

「古い方は一年以上前に退会されています!新しい方でも二か月前ですから、当社と事件は関係無いと思いますよ!」迷惑そうに言って電話を一方的に切った。

結果を聞いた一平は美優の疑念が現実の物に成ったと思った。

流石に鋭い推理力に改めて感服していた。

だが、これ程個人情報を管理している寿企画が、今回の事件に関係しているとも思えなかった。

直ぐに美優に連絡すると流石の美優も驚きの声で答えた。

「警察にはまだ言わないでね!まだ謎が解けて無い!」

「期間が約一年半程前からだな!」

「実際は二年程前位から静岡だけで発生しているのかな?」

「一度他の県警に聞いて見るよ!」



夜遅く帰った一平が「近県全て聞いてみたが、静岡だけ突出している様だな!流石に結婚相談所の関連とは聞けないからな!」

若い女性が通勤時に狙われた事件は無かったのね!」

「偶には有るだろうが、こんなに集中していないな!明らかに意図的だ!役10人の女性が失踪か殺害された事に成るな!捜査本部に言うか?」

「フランチャイズの相談所で、異なるのよ!だから相談所が犯行に関与してないわね!」

「坂田秀美さんと萩村沙織さんしか殺されていないが、遺体が見つかってないだけで、、、、」

「そうなると狂気の連続殺人事件よ!」

「二人以外はあの男性三人の殺害だな!自殺に見せかけているので、犯人はよく知っている人物だと思うが、まだ目撃情報は皆無だ!人気の無い場所だからな!」

「ゴルフ場の死体遺棄、もしも鈴木さんでなければ誰がどの様に運んだの?」

「車は入れないから、ゴルフ場の内部の人間だと決めつけていたが、あの三人が殺されたのなら遺体の搬入にも疑問が出るな!」

「男三人が簡単に毒殺されたのは、絶対に知り合いに間違い無いわ!あの三人の共通点は一緒に強姦した事よね!誰かに示談金を貰って二人は服役せずに、鈴木さんも刑を軽減された!お金を出してくれた人物なら信頼している?」

「二人が絞殺で三人が毒殺、同じ人物が犯人だろうか?」

「今警察は不協和音の実態を追っているが、中々掴めないのだよ!解散から4年から5年経過しているからな!」

「バイクで走り回って女性を襲う、女の敵の様な連中ね!」

「でも殺人はしてなかったのだよ!」

「鈴木さんに襲われた女性の消息は?」

「調べていないと思うな!襲った鈴木達も死んだから関係ないだろう?」

「一度調べて貰える?」美優は何か不吉な事を感じていた。

難航

 76-019

翌日一平が電話で「大変な事が判ったぞ!」

「被害者は既に亡くなっていた!」

「何故判った!被害者守屋朱音さんは鈴木が刑務所に入って半年後に交通事故で亡くなっている」

「静岡県内で?」

「違う!関西に旅行中の事故だ!」

「一人で旅行中だったの?」

「友人と関西旅行の途中で事故に遭った様だ!場所は神戸だ!」

「犯人は?」

「逮捕されているよ!でも刑は軽い様だ!車道に急に飛び出して避けきれなかった様だな!」

「そう、事故の調書手に入ったら貰える!」

「この事故は今回の事件と関係ないだろう?」

「調べてみたいのよ!何かの切っ掛けで事件は解決するのもよ!鈴木さんの公判記録と事件の資料もお願いするわ!」

「いよいよ本格的に調べるのか?」

「もし同一犯なら許せないわ!」



「美優さんがこの様な資料を?」佐山係長が一平の申し出に驚きの表情に成って尋ねた。

「参考にしたいそうですよ!」

「鈴木達に強姦された女性の事故記録か?強姦された女性が交通事故で亡くなっていたのか?」

「はい!先程判ったのです!でも関西での事故ですから、偶然だと思うのですが美優が調べたいと言うのでデータを持って帰ります!」

「そうだよな!強姦した鈴木は務所だからな!関西での事故なら無関係だろうな!」

「美優は本間さんのお嬢さんの事が気に成っている様です!」

「我々も事件が続いて本間刑事に申し訳ないと思っている!」



翌日美優が公判記録を見て「この守屋さんって女性は強姦した鈴木の顔を知らなかった様ね!」

「えっ、じゃあ鈴木の自首と共謀の二人の証言か?」

「他の強姦された女性も犯人は仮面を被った男だとしか証言していないのよ!」

「鈴木達は顔を見られていないのに自首をしたのか?そしてこの事件の後不協和音は消えた!」

「この時、何か有ったのかも知れないわね!」

「守屋さんに顔を見られたか?何か正体が判る物を残したか?」

-「裁判では平謝りで刑の軽減だけが争われているのよ、守屋さんもお金を貰ったので納得した!」

「この事件も関連しているのなら、不協和音が解散するのは納得するな!」

「神戸の交通事故はトラックに轢き殺されたのね?」データを見ながら驚く美優。

「犯人は?」

「大久保敬之って人で関西の人だわ!」

「全く怪しい部分は無い様だな!」

「道路に飛び出して跳ね飛ばされているのね!守屋さんが脇見をしていて花壇にけつまずいたらしい!一緒に旅行に行った友人酒井佳子さんの証言で、トラックは避けられなかった事に成っているのね!」

「その酒井さんって何処の人?」

「守屋さんが新富士、酒井さんは沼津だから近くね!酒井さんが当時30歳、守屋さんが26歳だから普通ね!」

「関西での事故に疑念は無しか?」

「守屋さんの自宅に行ってみるかな?」

「えー何も無いだろう?」

「でも何か有る様な気がする!胸騒ぎがするのよ!」



翌日美優に亮から電話が入り、来週の日曜日に見合いをする事に成ったと言った。

「見合いはね!静岡駅の構内の喫茶店「檸檬」で11時だよ!見に来て鑑定して貰える?見合いのシステムも判るだろう?」

「そうね!何分位?」

「多分40分程度しか話は出来ないと思う、仲人さんが紹介してその後だからね!」

「僅かな時間で決めるの?」

「そうなのだよ!仕事、住所、親の仕事も内緒だって、変な見合いだろう?」

「顔合わせでも家族関係とか、仕事、住所は話すよね!」

「全て駄目で趣味とか本人が特定出来ない事柄だけを話すらしい!」

「仲人さんは誰が来るの?」

「えーっと、毛利って爺さんらしい!世話焼き叔母さん今回は来られない!って言うか一人って決まっている様だ」

「私も顔知られているからどうするかな?」

「変装して来れば判らないし!二人なら尚更爺さんには判らないだろう?」

「じゃあ、行くわ!超美人と行くから目移りしないでよ!」

「超美人の友達が居るのか?その人紹介してよ!」

「残念だけれど、人妻よ!」

笑いながら電話が終わって、益々寿企画の見合いのシステムに違和感に思う美優。



捜査本部では不協和音の消息探しに難航していた。

強姦に遭って警察に被害を提出した女性二人に無理矢理事件当日の事を聞き出した。

いきなりバイクで拉致されて、廃屋に連れ込まれた女性は全員フルフェースのヘルメット姿で全く顔は判らなかったと証言した。

一人は廃屋、一人はロッジの様な場所だと話した。

後の二人は証言を拒否した。

思い出したくないのが現実だった。

共通しているのは夜暗い時で、強姦した男はヘルメットの代わりに能面を装着していた様だ。

二人に共通しているのは殺されると思った程、強姦時に首をベルトで絞められた事だった。

「萩村沙織さんも坂田秀美さんも絞殺だが、この強姦魔と同一人物だろうか?」

「確かに共通していますが、不協和音の強姦魔は首を絞めるだけで、殺していないので異なるかも知れませんね!」

捜査会議は前進が無く、静内捜査一課長は窮地に立たされて来た。

年上の妻

 76-020

「大変です!地蔵峠の修復場所からまた白骨遺体が発見されました!」

捜査会議の最中大きな声で会議室に駆け込んで来た刑事を、捜査会議の人達が驚きの表情で見た。

「何!」最初に声を発したのは島田署の森田捜査一課長だった。

「詳しく説明を!」

「大雨で決壊した場所の修復の為に、横の土砂を除去していた作業員が発見したそうです!遺体の状況から最初の坂田さんと同時期に遺棄されたと考えられるそうです!」

「行方不明のリストから考えれば長嶋恵美さんか?」静内捜査一課長が立ち上がって言った。

「直ぐに身元確認をして、島田君は直ぐに所轄に戻れ!」

捜査本部は一気に慌ただしく成った。

「これは大規模な連続殺人事件だな!」

「マスコミが殺到しますね!」佐山係長が静内捜査一課長の不安を煽って言った。



予想通りマスコミが直ぐに臨時ニュースを流して(狂気の連続殺戮事件!二年程前から今も続いている強姦殺人事件か?)

遺体は絞殺で強姦された形跡が残っていたと状況の説明がされた。

久美とテレビを見ながら、見合いの偵察の話をしていた最中に流れた。

「美優さん!また遺体が、、、、、」

「同じ場所に埋めたのね!殆ど同じ頃の様ね!行方不明の女性は全て殺されている可能性が高いわね!」

「犯人は狂人だわ!レイプして殺すなんて、、、、」

「もしかしたら変な性癖が有るのかも知れないわね!」

「そ、それって何?」

「SEXの時に女性の首を絞めて興奮する男が居る様だから」

「えーその様な変態が居るの?」

「何処かに書いて有った様な記憶が有る!普通は途中で緩めるのだけれど、そのまま絞め殺してしまう残忍な、、、、」

「怖いわ!」

美優は調べた事を説明し始めた。

首絞めセックスとはそれはもちろん、とても気持ちのいい快感や刺激を得ることができるセックスですが、一歩間違えると命にも関わるような危険なセックスでもあります。

そのため、力加減や絞める場所を誤ってしまうと重大な事故を起こしかねません。

首絞めセックスは高い中毒性があります。

先ほどご紹介したように、快楽物質がだされることによりコカインと同等の中毒性を持っているのです。

禁断症状こそありませんが、「首を絞められないとイケない」という状態になり、通常のセックスでは満足が得られないようになっていきます。そうした状態を「首絞め依存症」とも言います。



こうなってしまうと、「危険だからやめておいた方がいい」という周りの忠告を中々聞き入れることができず、どんどんエスカレートしていく傾向にあり、首絞めセックスの中毒性にどっぷりはまってしまうことも珍しくありません。

一度快楽を覚えてしまった脳をもとの状態に戻すことは容易ではないのです。



「犯人は完全にエスカレートしてしまい、自分を制御出来ないと次々絞め殺してしまう人かもね!」

「そんな恐ろしい人が犯人なの?」

「病気の様な物だわ!」

「美優さんは今回の事件の犯人がこの首絞め殺人鬼だと?」

「まだ判らないけれど、その方向がちらついているのは確かね!まだ伊藤さんには言わないで、もし間違っていたら捜査が混乱するからね!」

「怖くて言えないです!そう思いたく無いわ!」

「確かにそうね!」

美優は話しながら犯人像を浮かべていたが、これ程残忍な殺人を連続で行う事が出来る人物像が中々浮かび上がらなかった。



捜査本部の方針と全く関係なく、美優は亮の見合いの当日長い髪の鬘と眼鏡で変装して鈴岡駅に向かった。

久美は普通のシンプルな服装だが、美しい若奥様風の装いで美優と歩く。

美優は変装しているので久美が凄く目立って影の様に見える。

それは毛利に美優は見破られない秘訣だと思っていた。

喫茶「檸檬」に入ると、それ程多くの客が居ないので直ぐに両の座るテーブルが判った。

亮は直ぐに美優に気が付いた様子で見た。

まだ相手の女性は来ていない様子で、毛利は資料をテーブルに広げて見ていた。

「あれが須藤の三代目よ!」

「やんちゃ坊主って感じね!」

「仲人は須藤の縁談だから纏めたいでしょうね!」

二人がコーヒーを注文した時、相手の真木加奈が喫茶店に入って来た。

毛利が加奈を見つけて手を振って席に呼んだ。

軽くお辞儀をして席に座ると美優達の席から二人が同時に見える。

「女性の方が年上なのね!」久美が加奈と亮を見比べて言った。

「そう、たしかひとつ上だったかな?」

「それって金の草鞋を履いて探せって云うのかな?」

それではなぜ、「一つ歳上の女房は金のわらじを履いてでも探せ」ということが言われるのでしょうか?

【鉄のわらじ】という重く扱いづらく、いくら歩いても擦り切れることのないものを履いて、その重さに耐えながらでも苦労して探し回るだけの価値があるものを求めて探し歩けの意味。

年上の女性を妻に持つと、年下の女性と比較してしっかりしている上に、男性の気持ちをしっかり読み取って気配りをしてくれることから、大変貴重であると考えられ、当初は「年上の女房は・・・」ということが言われるようになり、さらにいつの頃からか「一つ年上の・・・」と具体的な数字が加えられたようです。

 第一に昔は夫の家に「嫁入り」することが当然でしたので、気が利く年上の妻は夫側のお家から重宝がられたこと。

 第二に、昔は現在よりもずっと結婚する平均年齢が若く、若い男性は同じ年齢の女性と比べて一般的に精神年齢が低いことから、妻が年上である方が夫を助けてくれる機会も多くなる、という事。

 このようなことから、当時は年上女房が大変ありがたがられたのだと言われています。

捜査混乱

76-021

「私達が見ているのを知っているのは須藤の息子さんだけって変な気分ですね!」久美が不思議そうに言った。

その言葉に美優は何か不思議な事を思っていた。

本人が知らない間に第三者に見られているのなら、もしもこの場から尾行されたら?自宅も全て一方的に知られる事も有り得る!

私が犯人なら充分可能性は有る。

相手は自分の顔を知らないので尾行されても判らない!

「そうだわ!」急に口走った美優。

「どうしたの?美優さん?」

「少し事件の絡繰りが判って来たのよ!複数の犯人なら充分可能だって事!」

「えっ、美優さん!事件の絡繰りが、、、って本間刑事のお嬢さんの居所が判りそうなの?」

「そこまでは判らないけれど、結婚相談所を利用した犯罪が少し、、、、、」考え込む美優。

「中々活発そうなお嬢さんね!」久美が急に言った。

「そう見えるわね!亮君にはお似合いかも知れないわね!」

そう言いながら美優は見合いの現場で私達の様に仲間が見ていたら、自宅も仕事も調べられると考えていた。

もしも犯人がこの寿企画の盲点を突いた犯行を行っているのなら、充分今回の事件を起こす可能性は有ると思った。



夕方「見合いも面白いな!」亮が明るい声で美優の携帯に電話をかけてきた。

「良い方に見えたけど、気に入ったの?」

「まだよく判らないけれど、はきはきした女だったな!ところで成果は有ったの?面白い変装だったけれどね!」

「収穫有ったわよ!鈴木さんの無実と仇を討てるかも知れないわよ!」

「ほ、本当なの?流石は美優さんだ!ところで一緒の女の人本当に綺麗な人だったな!」

「でしょう?有名な役者さんのお嬢様よ!」

「綺麗はずだ!気品が有ったよ!」

「久美さんに伝えて置くわ!それより今日の娘さん付き合って見たら?」

「そ、そうだね!」亮は結構乗り気の様子だった。

僅かな時間の見合いだったが、亮には彼女が新鮮に映った様だ。



翌日、再び事件が発生してニュースを見た亮が驚いて美優に電話を掛けて来た。

「ニュースに出ていた近藤って女の子、俺が見合いを申し込んだ子だよ!」

「えっ、本当?」

「先程ニュースでは浜名湖に水死体で発見されたらしい!」

美優は朝から別の事を調べていてテレビを見ていなかった。

直ぐに電話を切ると一平に電話をする美優。

中々呼び出し音だけで電話を取らない一平。

しばらくして「悪い!悪い!忙しくて!」

「少し前テレビのニュースで見たのだけれど!」

「浜名湖の水死体か?昨夜投げ込まれたらしい!知っているのか?」

「須藤亮君が見合いを申し込んでいた様だわ!」

「するとまた結婚相談所絡みなのか?」

「その様だわね!」

「例の三島結婚相談所か?」

「違うと思うわ、先日三島の叔父さんで亮君見合いしていたからね!また絞殺死体?」

「違うな!青酸性の毒物だ!」

「殺害方法が違うのね!」

「解剖していないので、まだ詳しい事は判らない!夕方には死因がもう少し詳しく出るだろう」

「直ぐに身元が判ったのね!」

「ポケットに歯医者の診察券が入っていたから直ぐに問い合わせた!」

「今回も寿企画の関連よ!先ず間違い無いわね!」

「県警に来て説明するか?」

「犯人がどの様に拉致強姦するのか?とても一人では難しいわ!絞殺?」



「それが違うのだよ!見た感じでは絞殺ではない様だ!」

「強姦は?」

「それは判らないが、着衣の乱れは無いな!」

「変ね!一連の強姦魔の犯行では無いのかしら?」美優は首を捻った。



県警でも事件が次々発生するので問題視される事が多く成っていた。

「いよいよ、私も責任を追及されるぞ!」静内捜査一課長にぼやく様に言う大森署長。

「申し訳有りません!私の責任です!」

「地元選出の国会議員様から捜査状況を聞かれて困ったよ!」

「は、はい!マスコミも面白可笑しく書き立てるからな!」

「事件の目途は全く無いのか?今回の浜名湖の水死体は少し一連の事件とは異なるのか?」

「はい!その通りで一連の強姦絞殺死体では有りませんでした!」

「所轄と連携して早急に目星を付ける様にな!国会議員の先生に事件の詮索をされる様では警察の面子が丸潰れだ!」

「はい!判りました!」

「野平君の奥さんの手を借りても良いぞ!彼女の推理も参考にさせて頂き事件解決をな!」



署長室から戻ると佐山係長に「国会議員の先生からも事件解決の催促が来た様だ!それも大物らしい!大森署長の話から事件の事に詳しい様だ!」

「地元選出の大物議員?三石元厚生労働大臣でしょうか?」

「そうかも?大物だな!長老が事件に首を、、、厄介だ!」

「夕方には詳しい解剖結果が出ますので、浜松中央署に行きます!」

「署長が美優さんに意見を聞いて早急に解決する様にと言ったよ!成るべくなら世話に成りたくないが仕方が無い!意見を聞いて置いてくれ!」



佐山係長は一平に連絡して静内捜査一課長の言葉を伝えた。

一平は「美優は今結婚相談所で忙しくしていますよ!」

「誰か身内の縁談か?」

「例の須藤建設の孫の縁談で走り回っていましたよ!美加が保育園に行っている時間に見合いに付いて行きましたよ!」

佐山係長もその一平の話に驚いた。

理想の相手

 76-022

佐山係長は美優が今回の事件は判り難いので関与をしていないと思った。



その美優は浜名湖で亡くなった近藤芽衣の死体の解剖結果が待ち遠しい。

強姦されてなければこれまでの一連の殺人とは手口が明らかに異なる事に成る。

美優の推理の中で亮の見合いの時の情景から、第三者が尾行すれば住所も全て探せるので犯行は充分可能だと思っていた。

美男子の男を含めて数人が関与している強姦殺人だと推理が動いていたのだ。

だが今回の近藤芽衣の事件は今の処、強姦、絞殺の報告が無いので美優の推理が揺らいでいた。



夕方に成って一平から「青酸性の毒物による中毒死、その後浜名湖に遺棄された!」

「強姦とか絞殺の形跡は無かったの?」

「全く無かった様だ!これまでの犯行と明らかに異なる!缶コーヒーに青酸性の毒物が混入されていた様だ!」

「何処で缶コーヒーを飲んだか?行動を調べるのね!見合いはしているかの確認もお願いね!」



芽衣の父親は哀しみで声も出せない状況に成っていた。

遺体の搬送と一緒に、一平と伊藤の二人が近藤家に殺害された前後の様子を聞きに向かった。

「最近のお嬢様の行動で変わった事は有りませんでしたか?」

「昨日は友人の家に行くと出て行ったのですが、実際は女友達の所には行ってなかったのです!」

「嘘だったのですね!」

無言で頷く父の幸太郎。

「最近お見合いされましたか?」

「えっ、何故今頃見合いの話を?失礼では有りませんか?」怒る幸太郎。

「実は最近の一連の女性の殺人に共通しているのが、見合いの後ひと月以内に殺されているのです!」

「えっ、ニュースではその様な、、、、」

「まだ発表はしていないのですが事実なのです!」

「芽衣も先週の日曜日に見合いをしましたね!」

「寿企画ですか?」

「はい!確か寿企画でILB結婚相談所に頼んで居ました!」

「相手の方は?」

「相手ですか?娘は断られたとショックを受けていましたね!名前、、、」幸太郎はメモを取りに奥に行く。

直ぐに戻って来て「武内悟って男性ですね!」

「えっ、武内ですか?」

一平は美優から聞いていた名前を期待していたので、武内の名前に一瞬驚いていた。



近藤の家を出ると「父子家庭で父親の姿が、、、、見合いの男は武内悟だったよ!」

「えー平尾って男ではなかったの?」

「先週の日曜日に見合いしたが断られた様だ!」

「そうなの?益々判らなく成ったわ!」

「それから地蔵峠の白骨遺体は長嶋さんだったよ!強姦、絞殺の形跡有りだ!」

電話を切ってから美優は考え込む。

紙に美男子が二人、平尾俊三、武内悟と書いて平尾の名前の前にぐるぐると丸を書いた。

本間優花=山中智博             近藤芽衣=武内悟

萩村沙織=平尾俊三             堀麻祐子=平尾俊三(見合い病気で中止)

坂田秀美=JR勤めの男性          長嶋恵美=?

美優は長嶋恵美の見合い相手を明日尋ねて貰う事にした。



夜遅く帰った一平が「長嶋恵美さんの見合い相手は知りたいだろう?」微笑みながら言った。

「調べてくれたの?流石一平ちゃんだ!誰?」

「驚くな!あの山中智博だった!」

「本間さんの娘さんが見合いした男の人ね!断ったの?」

「逆だ!山中が断ったらしい!その後二週間で行方不明に成った!」

「ここに書いて有る男性が昔不協和音のメンバーなら繋がるのだけれどね!」

「例の捜索願いの女性全員寿企画に登録していたよな!すると全員強姦殺人の被害者か?」

「可能性が高く成ったと思うわ!」

「でも犯人が見合いの相手の可能性は低いぞ!殺害方法が同じだ!近藤さんは異なるがな!」

「そうなのよ!それで県警に行けないのよ!近藤さんの事件が無ければ寿企画の見合いから殺人も繋がったのだけれどね!」

「警察の力で男の身元を洗ってみるか!」

「少なくとも山中さんと平尾さんは調べて貰いたいわ!」



翌日,早速一平は寿企画の中井に連絡して、男性の住所等の資料を取り寄せた。

山中智博30歳、住所は沼津、職業公務員、父親は会社経営、兄弟は二人姉

年収700万。

平尾俊三35歳、住所は裾野、職業公務員、母子家庭、一人っ子、年収1000万以上。

詳しい事は全く記載がされていなくても会員には登録出来るので問題無いと中井は言った。

美優は資料を見て「二人共公務員なの?一平ちゃんも公務員だわね!」

「もっと詳しく知るなら調べるよ!」

「もし犯人なら、気付くから逃げるわよ!住所が判るから直ぐに公務員の内容は判るでしょう」

「でも見合いするのに詳しく素性を記載しないのだな!」

「本当よね!お互いが気に要る迄名前と大まかな住所だけ、仕事も簡単に伝えるだけって隙だらけよね!犯罪者には良いシステムかも知れないわ!」

「年収も本当かな?俺公務員で平尾より歳u上だけれど、無いよな!」

「公務員で1千万以上の年収って何しているの?35歳よ!」

「美男子!公務員で年収1千万以上!申し込み殺到だよな!」

ふたりは顔を見合わせて「こんな待遇の男が連続殺人!嘘!」と言った。

写真

  76-023

翌日三島結婚相談所の毛利に電話で「平尾俊三さんの仕事をお尋ねしたいのですが?」

「また女探偵さんか?平尾さんって美男子の人だよな!」

「公務員って書いて有りますが、どの様な仕事ですか?凄い年収だから気に成って!」

「今資料見るから待って下さいよ!人気が有るので何回も見合いさせましたよ!」

「何故決まらないのですか?」

「好みが合わないらしくて、もう私が担当してから二年に成るな!」資料を引っ張り出して見ながら話した。

「長いですね!」

「その分会費も貰えるから有難いですよ!国の仕事をしているとか聞いたな!それで私が公務員と書けば良いと教えたな!」

「具体的には聞かれなかったのですか?」

「秘書の様な仕事だったかな?」

「秘書ですか?国の仕事で秘書?」

「今まで平尾さん何度程見合いをされましたか?」

「美優さんは平尾さんが何かされたと?」

「いいえ!少し気に成ったので、、、、、」

「既に10回以上は見合いされていますが、相手からの申し込みが多いのですよ!それに自分の友人もこの相談所に登録して今花嫁を探していますよ!」

「そうなのですか?何方ですか?」

「それは申せませんが、良い男性で見合いの申し込みも一番多いのですよ!」

美優はこれ以上毛利が話さないと思い電話を終わった。

電話を終わると直ぐに、一平に平尾俊三と山中智博の二人の素性を調べる様に頼み込んだ。



その後連絡が届き「山中智博31歳、住まいは沼津市、仕事は沼津市の職員で土木課勤務、父親は食品の卸売業三島食材の社長。兄弟は三人で智博は次男、年収が多いのは親父の会社に土地を貸している。

祖父の土地を智博が相続した様だ。

昔は結構遊んでいた様で、自動二輪の免許も持っている。

過去スピード違反で捕まって免停に成っていた。

平尾俊三35歳、住まいは裾野、仕事は国会議員秘書。母子家庭だ」

「誰なの?国会議員って」

「三石元厚生労働大臣だよ!この平尾も自動二輪の免許は持っている」

「元不協和音?」

「それは全く判らない!今はバイクには乗っていない様だ!」

「三石代議士の秘書なら車を運転するわね!亮君が尾行されたのは平尾?」

「例え運転していても大仁の別荘に行く途中と言われたら、何も言えないな!」

「でも怪しいわ!もう少し調べて頂戴!県警内部に漏れると大騒ぎよ!須藤建設の数倍叱られるわよ!」

「叱られるだけでは無いよ!左遷間違い無し!田舎の駐在勤務か依願退職だろう!」

「やめてよ!」

「でもこの平尾って調べたけれど、よく判らないのだよ!特別勉強が出来た訳でもないのに三石代議士の公設秘書だろう?普通は考えられない!余程の口利きでも有れば別だがな!」

「今三石代議士81歳だから、もしも子供なら40代後半の時ね!」

「子供?それは考えられないだろう?当時母親の洋子は結婚していた筈だ!」

「旦那さんは?」

「亡くなっているな!5歳の時建設現場の事故だ!」

「建設関係の仕事だったの?」

「須藤建設だったりして、、、」

「怖い事を言うなよ!」



だが翌日一平が得た情報では父、松尾俊介は須藤建設の工事現場の事故で亡くなっていた。

母の名前に戻って平尾に成っている様だ。

30年も前の事故で平尾の父は亡くなっている事実は益々美優の推理を混乱させた。

それも須藤建設に勤めていたのには驚かされた。



下田署の目撃者探しも難航していた。

夜の猪鼻海岸辺りは全く人影が無い場所だった。

何の抵抗も無く三人が殺されている事実は奇妙としか考えられない。

亡くなった鈴木の母親裕子が漸く息子の死から時間が経過して、落ち着いたのか遺品の整理を始めて昔の写真が出て来たので、捜査の役に立つのでは?と電話を掛けて来たのだ。

「どの様な写真ですか?」電話を聞いた伊藤刑事が尋ねた。

「暴走族って云うのでしょうか?バイクで走り回っていた時の写真だと思います!」

「えー、直ぐに頂きに参ります!沢山有るのですか?いいえ!古ぼけた写真が一枚だけですね!10年程前でしょうか?」

「20歳位の写真ですね!直ぐに貰いに向かいます!」

事件の突破口に成る写真で、不協和音のメンバーの誰かが写真に、、、、



伊藤刑事が受け取った写真には10名程の若者が素晴らしいバイクを前に取り囲む様に写真に写っていた。

「お母さんはこの中で誰かご存じの方はいらっしゃいますか?」

「右の端が息子の恭二でその横に一緒に亡くなった大山さんと篠田さんだと思います!」

「この中央に居る般若の面の男は誰ですかね!」

「私には他の人は全く判りませんね!」

伊藤はそれだけ聞くと写真を持って鈴木の自宅を後にした。



署に帰ると丁度一平達が戻り、写真の到着を待っていた。

「この中央の男がリーダーでしょうか?」

「強姦の時、能面を着けていたと聞いたから、当時は般若の面を着けていたのかも知れないな!写真をコピーして明日から聞き込みを始めてくれ!」

「残りの6人の身元が割れたら、この般若面の男の正体が判るだろう!」

佐山係長も一気に事件解決に弾みが付いたと思った。

「唯、10年程前だから今回の事件とは異なる可能性も有る!」

「この写真は鈴木達が強姦で逮捕される前の物だから、間違わない様に慎重に頼む!」

捜査本部は大きな手掛かりを得て久々に活気が出た。

不協和音が今回の殺人事件の主犯だと決めつけた捜査に成っていた。

美優の考え

 76-024

だが写真は若くて、ライダー風の服装に髪型で中々該当の人物に辿り着けない。

美優も写真のコピーを貰って「ちょっと待って、この写真のコピーって何処かで聞いたわね!」思い出そうと考える美優。

「知っている人が居るのか?」

「そうじゃないわ!同じ様な写真のコピー、、、、、」

考え込んで「そうよ!写真のコピーを持って証券会社に男が来たのよね!本間優花さんを確かめる為に!やはりパソコンのサイトからコピーしたのよ!寿企画に間違いないわね!」

「見合いをした山中以外の男が本間優花さんを確かめに来た!」

「そうよ!だから私の推理通り、何人かの仲間が居るのよ!」

「平尾俊三、山中智博以外に何人かがグループで?」

「多分そうよ!でも中々証拠が無いのよね!証券会社に行った男は第三の男だわ!」

美優は書いたメモを取り出して「ほら、坂田さんの見合い相手、JR勤めの人よ!もしこの男も仲間なら、電車から改札を通らずに仲間に渡せるわ!」

「成る程、その男が誰か?明日直ぐに調べ様!」

「それが元不協和音のメンバーなのよ!」

「すると美優の考えでは今回の事件と過去の不協和音の一連の強姦事件は同じだと?でも昔、殺しは無かったと思うが、今回の一連の事件は殺しまでするのだろう?」

「リーダー恪の男の強姦癖がエスカレートしたのでは?絞殺SEXと云われる変態行為がエスカレートしたとは考えられない?」

「その様な変態がリーダーなのか?」

「亮君の話では鈴木さんは強姦をする様な人では無いと強く話していたから、、、、、」

「すると美優は強姦事件が替え玉だと考えているのか?」

頷く美優は「それで三人は自殺に見せかけて殺された!」

「示談金を出したのが本当の犯人?」

「守屋朱音さんは犯人の顔を見たか、何か犯人に繋がる物を手に入れたか?その為鈴木さん達が替え玉に成ったのでは?」

「その後不協和音は姿を消した!その後去年位から活動を再開したが、今度は不協和音では無く別の方法を使った!」

「昔よりエスカレートして、残忍な殺しをする様に成った!その理由は判らないけれどね!」

「主犯は平尾と山中か?」

「それは判らないわ!誰が主犯か?能面の男が誰で変態野郎は?まだ謎が多いわ!私がもう少し若ければ囮に成るのだけれどね!」

「囮?」

「そうよ!結婚相談所に申し込むのよ!そして目ぼしい平尾か山中に見合いを申し込むのよ!そうすれば罠に填る可能性が高いでしょう?」

「その様な捜査は禁止されているよ!」

「唯気に成るのは近藤芽衣さんの殺害方法が全く異なるのよ!この殺害に説明が出来ないわ!」

「そうだよな!見合いをした武内悟は銀行員で過去に暴走族とか、バイクの免許すら持っていないからな!この男と過去の連続殺人を繋ぐのは無理が有るな!」

「見合いとは関連が無いのね!」

美優は自分に言い聞かせる様に言った。

「でも、、、、、、」そう言いながら考え込む。

美優は囮作戦が最適だと思うが、警察は多分乗り気ではないだろう?

ではどの様に敵を罠に落とすか?

二人の意見は囮作戦で決まったが、今の段階では捜査本部への進言は見送るしか術は無かった。



翌日、美優は亮の紹介で祖父の須藤亮吉に面会させて貰う事に成った。

亮が見合いをしてくれた事、そしてその相手の女性と付き合いが決まった事で上機嫌で承諾したのだ。

本社の応接を再び訪れた美優を亮吉自ら亮と一緒に出迎えた。

「美優さんのお陰だ!亮の無実も証明されたし、見合いも上手く運んで孫も気に要っとる!」

「それは大変宜しゅうございました!」

「今日は何か聞きたい様だが、私の判る事かな?」

美優は「昔、御社に勤められていた方の事をお伺いしたいと思いまして」と話を始めた。

「須藤建設に勤めていた人間の事か?今は沢山の従業員で中々私の知っている人間は少ないぞ!」

「いえ、昔も昔30年程前の従業員さんの事です!」

「30年も前なら殆ど知っているぞ!まだ従業員も少なく、わしも若かったからな!」

「昔、現場の事故で亡くなられた松尾俊介さんの事をお聞きしたいのですが?」

美優が云うのと同時に眉をしかめて「申し訳ないが、その男の事は話したくない!帰ってくれ!」と難しい顔に成った。

「会長!どうしたの?美優さんに教えてあげてよ!」亮が頼む様に言った。

「松尾の話だけはしたくない!帰ってくれ!」立ち上がって美優を追い返そうとする亮吉。

「おじいちゃん!何故そんなに怒るの?」亮も亮吉の豹変に驚きの表情に成った。

「実は松尾さん!殺されたのかも知れません!」美優の放った言葉が今度は亮吉に衝撃を与えた。

「い、今何とおっしゃった!」

「松尾さんが殺されたのかも知れないと申し合えました!」

「そ、それは本当か?」

「それを確かめる為に今日ここに来ました!」

「確かめる?」

「そうです!亡くなられた時の状況です!」

亮吉には大きな衝撃の話だった。

松尾は亮吉に可愛がられていて、工事現場の責任者をしていた。

事故の日は台風が通過した翌日で、現場の点検に向かったビルの三階の足場から転落死したのだ。

現場検証で足場の取り付けと補強が適切にされて居なくて、松尾は足を踏み外して転落死をしていた。

警察は須藤建設の業務上過失として大きく発表、営業停止処分を受けたのだ。

それが30年経過して、美優がいきなり来社して松尾が殺されたのではと話して驚愕の亮吉だった。

事件の確信

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「松尾は真面目な男で、仕事で大きなミスをした事が無かった!だが5階建てのビルの工事現場で足場が緩んで転落死した時は驚いたのだ!」

「一人で行かれたのですか?」

「あの当時、松尾は二か所のビルの監督を掛け持ちしていたのだよ!それが事故を起こした原因だと、、、、」

「何故二か所の現場監督をさせたのですか?」

「もうひとつのビルの現場を任せていた川本が交通事故に遭って、一週間程入院する事に成ったので、松尾が一週間なら私が掛け持ちしますと言ったのだ!幸い現場が近かったのでね!許可したのだよ!」

亮吉は大きくため息をつきながら「小さな台風が静岡に上陸して、雨が沢山降って風はそれ程でもなかった!二か所の現場の点検に早朝から向かって事故に遭ったのだ!それが殺しだと美優さんはおっしゃるのか?」

「そうです!何者かが事前に松尾さんの行動を知っていたら可能でしょう?」

「それは確かだが、その様な事が手に取る様に判る人は社内にも中々居ないぞ!わしでも知らん事だった、、、、、」そう言いながら顔が青ざめる亮吉。

「心辺りがおありですね!」

「そんな事が、、、、、、、亮!冷たい水を持って来い!」亮吉は昔の光景を思い出していた。

「松尾が昔、ぽつりと言った事が有るのですよ!息子が私になつかないのですが、どうしたら良いですかね!私が仕事馬鹿だからでしょうか?と言ったのです!それで私は休みも取って息子さんと遊んであげたら喜びますよ!とね!」

「成る程ね!」

「奥さんは松尾が亡くなって、しばらくして直ぐに元の名前の平尾に成ったと聞きましたね!その後の事は知りませんが、あの息子さんも既に30半ばでしょう?」

「夫婦仲は良くなかったのですか?」

「松尾は仕事馬鹿と呼ばれる程の男だったので、家庭を犠牲にしても仕事でしたから不満も有ったのでしょう!子供も居なかったので奥さんは何処かの事務に出ていましたね!」

「何処の事務か判りますか?」

「いゃーそれはもう判らないでしょうね!唯、急に忙しい時が有る仕事で、普段は暇な仕事だった様な事を松尾君に聞いた事が有ったな!」

「変わった仕事ですね!社内に何方か詳しい方は?」

「あの事故から松尾は我が社を行政処分にした男として非難されましたから、評価は大きく下がりました!もしあれが仕組まれた事故、もし殺人なら松尾には本当に悪い事をしてしまったのですね!」目頭を押さえる亮吉。

そこへ水をお盆に載せて亮が戻って来た。

「おじちゃん!どうしたの?」驚きながら尋ねる亮。

「わしは大きな間違いをしてしまったかも知れんな!」

「松尾さんの奥様とはその後会われた事は?」

「葬儀の時に会っただけで、責任を感じて私に謝られたのが最後です!子供が可哀そうでしたね!」

「直ぐに戸籍を元の姓に戻されたのですね!」

「わしは事故の責任を松尾君にしたので、姓を戻したと思っていたが、、、、、」

「犯人の指示でしょうか?」

「美優さんは犯人の目星が?」

「まだ犯人は特定していませんが、何名かそれらしき人は居ますね!」

「30年前の松尾を殺害した人間が、亮の友人も殺害したのですか?」

「それは無いと思いますが、今回の事件の根底に有るのでは?と思っています」

美優は自分の中に有った疑念が的中している様な気がしていた。

自分の推理が正しければ、守屋朱音さんの交通事故も裏が有る可能性が有ると思う。



新富士の守屋朱音の自宅に行くと母親の公子が「今頃娘の交通事故の事を?美優さんでなければお会いしませんが、、、、、」

「すみません!娘さんの事を思い出させてしまいまして!」

「レイプ事件の後、示談金を鈴木さんから頂かれたと思うのですが?」

「鈴木って人の弁護士とか云う人がいきなり来て、300万を支払うから穏便に裁判をと言いました!でも娘が不在で自分では判らないと言いました。すると職場に弁護士が行ったのです!」

「500万と聞いたのですが?」

「はい!その時職場の同僚だった酒井佳子さんが親身に成って朱音の交渉をしてくれた様です!」

「昔からの友人ですか?」

「強姦事件の後、親切にされて、特に示談交渉に立ち会って貰って助かったと聞きました!」

「その弁護士さんのお名前判りますか?」

「それが裁判の時は違う弁護士さんでした!示談金の交渉の時見た弁護士さんではなかったのです!」

「酒井さんの口添えで500万に成ったのですね!」

「娘は喜んでいました!その後二人は親しく成って関西に旅行に行きました!そしてあの事故に巻き込まれました!娘が脇見をして花壇に躓いて車道に飛び出したと、、、、、」

「成る程!その後酒井さんとは?」

「葬式に来られましたが、その後は勤め先の会社も辞められたと風の噂で聞きました」

「酒井さんは元々朱音さんの会社に昔からいらっしゃったのですか?」

「それは聞いていませんので判りません!」

「朱音さんから何か強姦事件の事で聞かれた事は有りませんか?」

「、、、、、そう般若の面の男が強姦をして、ベルトで首を絞められたと言いましたね!」

「般若の面ですか?」

「娘は苦しく成って相手の腰に付いていた根付を毟り取っていたと話していましたね!」

「根付に何か特徴が有ったのですか?」

「私も一度見ましたが、般若の面の根付で誰かが彫った様な物でしたね!」

「その値付けはどうされました?」

「その後、裁判に成りましたが根付の話は出ませんでしたね!娘も示談金を貰って早く裁判を終わらせたかった様です!」

「土産で売っている様な物ではなかった?」

「はい!誰かが彫った様な良い品物でしたね!」

「それね!」呟く様に言う美優。

不思議そうな顔で美優の言葉を聞いた公子。

美優は自分の推理がいよいよ確信に迫っている事を感じていた。

平然と


   76-026

根付(ねつけ、ねづけ)とは、日本の江戸時代に使われた留め具。煙草入れ、印籠、巾着や小型の革製鞄(お金、食べ物、筆記用具、薬、煙草など小間物を入れた)、矢立などを紐で帯から吊るし持ち歩くときに用いた。

江戸時代から近代にかけての古根付と、昭和・平成以降の現代根付に大別される。

製作国の日本では明治時代以降に服装の中心が徐々に着物から洋服に移り変わるとともに使う機会が減ったが、外国人に美術面で評価されるようになり、印籠と共に日本国外で骨董的な収集対象となった。

そのため現代日本においては、江戸時代から明治時代にかけての根付と印籠の優品のほとんどは外国に流出しきっており、国内にはわずかな優品しか残っていない。



美優は般若の根付を強姦時に紛失してしまったと気付いた犯人が、朱音さんが持っている可能性を考えて取り戻そうと動いた。

示談金の話も、鈴木を自首させたのも自分の身元を隠す為だと思った。

般若の男は変態SEX依存症で、最近では相手を絞殺してしまう程エスカレートしている。

本間刑事のお嬢さんも既に、、、、、そう考えると気が重く成る。



美優は守屋の自宅を出ると酒井佳子の沼津の自宅に向かった。

しかし酒井佳子は数年前に結婚して関西に嫁いだと母親が答えた。

以前お勤めに成っていた会社は?の質問に「どの会社でしょうか?転職を繰り返していましたので私でも判りませんね!でも結婚してくれたので喜んでいます!」

「京都に友人と行かれて事故に遭われたでしょう?」

「判りませんね!」少し惚けた様に見える母親、70歳は越えている様だ。

美優が期待薄だと思って帰ろうとした時、急に「貴女何処かで見たわね!先生の使いで来たの?」と言った。

「先生って?」

「市会議員の米田先生よ!」

「いえ!違います!」と美優は帰りかけて「米田先生が時々いらっしゃるの?」

「使いの人が娘に頼まれて来るから、違うなら、、、、、」

美優には意味不明の話だったが、帰りの車の中で整理する。

時々娘の佳子の使いで、市議会議員の米田の使いが来るって事が理解出来た。

「沼津市議の米田って人調べて貰える?」一平に直ぐに連絡をする美優。

「市会議員?」

「守屋朱音と関西に旅行に行った酒井佳子の母親に会って来たのよ!少し惚けているのよ!娘は関西に嫁に行ったって、それも調べて貰える!」

「JRの男が判ったぞ!柳田一って男性だった!」

「怪しくないの?」

「今、白井達が本人に会いに行った!」

「坂田秀美さんと見合いをした人よね!」

「写真の方は古いのと、みんな若者の時だから顔が大きく変わっていて難航している!」

「今は30歳前後で当時は20歳前後だから、顔が大きく変わっているわね!頑張って!」

一平が電話を終わると同時に白井刑事が「主任!あの柳田って藤枝駅の、、俺が事情を聞いた奴ですよ!」驚きと興奮の声で叫ぶ様に言う。

「何!事情聴取に任意で求めてみろ!」

「は、はい!」

「俺は一課長に伝える!」

その話は一平から直ぐに美優にも連絡した。

「突破口に成れば良いわね!」美優も大いに期待した。



柳田も白井刑事の顔を覚えていて、任意同行する事を約束した。

勤務が3時に終わるので、その後と云う事に成って二人の刑事は監視をしていた。

勿論藤枝署から数人の刑事も応援に駆けつけて、逃げる事が出来ない状況に成っていた。

三時に成ると藤枝警察署に連れて行く事に成った。

車に乗ると柳田は「坂田さんと一年以上前に見合いをした事は認めますが、俺が一方的に断れたのですよ!見合いで断られて殺したとでも?」

「色々お聞きしたい事が有るのです!」

「、、、、、、、」その後は署まで無言の柳田。



取り調べを担当したのは藤枝署の平田捜査一課長だった。

「先ずこの写真の女性を知っているか?」そう言って机の上に本間優花の写真を置いた。

ちらっと見て「誰ですか?知りませんね!」

「この女性はどうだ!」今度は萩村沙織の写真を置く。

写真を手に取って「この女知っていますよ!」

「やはり、知っていたか?改札を通過させた女だろう?」

「冗談止めて下さいよ!この女の人は新聞とかテレビに出ていたゴルフ場で殺された人でしょう?だから知っているのですよ!個人的には知りません!」

「そうか?じゃあこの写真にお前は写っているか?」

昔のライザーの写真に顔色が変わった柳田。

何故この様な写真が警察に有る?と思う柳田。

「右端の男によく似ているな!」

「し、知りませんよ!年齢を考えて下さいよ!」

「これはお前の10年程前の写真だ!そうだろう?」

確かに似ている写真だった。

「よく見て下さいよ!この写真目のここに黒子が有りますよ!私には無いでしょう!」

写真を指差す柳田は自信満々の様子だ。

「確かに無いな!」

「でしょう?この様な般若の面を着けた奴知りませんよ!誰ですか?」

「奇才の翼とか呼ばれている頭の変な男だ!」

「暴走族でしょうね!僕らはオートバイが好きな人で、暴走族では有りませんよ!」

「じゃあ、話しを変えよう!見合いは何回した!」

「5回位だと思いますよ!まだ決まっていませんがね!」

「見合いは楽しいか?」

「寿企画の見合いって相手の事がよく判らないのですよ!だから一発勝負ですよ!俺はこんな顔だから不利ですよ!殆ど断られています!」

「DNAの検体を採取させて貰っても良いか?」

「ゴルフ場の女の子か?別に構わないですよ!捜査に協力しますよ!」

柳田は自分の毛髪をその場で提供をして、涼しい顔をしていた。

後継者

  76-027

「何も証拠が無いので一旦返しましょうか?」

「DNAは手に入れたので、どれかの事件で関連が有れば逮捕出来ますね!」

柳田一は僅かな時間の取り調べで、指紋の提出とDNAの採取に協力して藤枝署を解放された。

だが数名の刑事が柳田の尾行を始めていた。



「この写真から黒子を消して、若くすれば間違い無く柳田一ですね」県警で佐山係長と静内捜査一課長が話し合っていた。

「後の5人だが、まだ掴めないのか?」

「般若面の男がリーダーで間違い無いが、この様な場所で面を着けているのだから、知られたら困るのでしょうね!」

「有名人か?」

「知られたら誰かに迷惑が及ぶとかでしょうね!」

「柳田が関与していたら、本間刑事のお嬢さんも藤枝駅から連れ去られたな!」

「はい!藤枝駅周辺の防犯カメラの分析を、範囲を拡大して行います!」

「柳田が突破口に成れば良いが、、、、、」

「悠々としていましたね!DNA検査もどうぞ!って感じですね!犯人では無いのでしょうか?」

「あの男が自供すれば一気に事件は解決だな!」

「他に物的証拠が見つかれば確実なのですが!」

「署長に言われた美優さんの手を借りずに事件解決したいものだ!」

「美優さんも独自で動いている様ですが、結婚相談所関係を調べている様です!」

「偶然寿企画の関連に登録していただけだろう?その相談所は規模が大きくて10万人近くの会員が居る様だから、今回の事件の当事者が会員で有ったのだよ!結婚相談所を使った強姦殺人って考えられん!」

静内捜査一課長は怒る様に言った。



美優は三石代議士が持っている大仁の別荘に興味を持ち始めた。

亮が尾行された時、大仁の別荘に向かっていたのを間違えたと言われた事が気に成っていたからだ。

三石代議士のホームページを見ていると、夏は別荘で過ごす事も多いと書いて有った。

写真も掲載されて、いつの写真なのか不明だがバーベキューを楽しむ姿が掲載されていた。

別の場所にはスタッフの写真が載せられている。

「これは美男子だわ!」公設秘書の一人の中に例の平尾俊三の写真も掲載されている。

「よく見ると、三石先生も美男子よね!あれ?」独り言を言いながら、三石兼三の事を詳しく調べ始めた。

他の記事に大仁の別荘の住所が記載されていた。

初当選の時の写真が出て来て、美優は天眼鏡を持って来て画面を拡大していた。

「若い時は美男子で女性の票が沢山入ったのね!似ている?違うか?」独り言を言う美優。

別荘とロッジを大仁に持っている事が確認出来た。

秘書だとしても別荘とかロッジを自由に使わせる事は考えられないと思う。



三石兼三、81歳、衆議院議員、元厚生労働大臣。

妻、三石小枝子、83歳、

子供は長女、堀江恵美子58歳、次女、稲垣千鶴52歳

「政治家は継いでないのね!」美優は調べながら呟く。

もう直ぐ総選挙が近いが、三石さんはまた立候補するのだろうか?と思った。



すると美優の質問に答える様に、翌日の新聞に三石兼三氏勇退、次期総選挙には秘書の平尾俊三氏が出馬か?と地元新聞の一面を飾った。

美優は早朝ニュースを見て「うそ!」と叫んでいた。

「三石先生はこの秘書がお気に入りなのか?」一平が言った。

「昨日三石先生の略歴を見ていたのよ!だから驚いたのよ!」

「でも略歴見ると、秘書の平尾さんは東京の有名私立大学卒業に成っているな!学費は大変だっただろうな?」

「下宿に学費よね!母子家庭には苦しいわね!」



早速捜査本部でも話題に成って「三石先生の後継に秘書とは驚いたな!娘とか娘婿に地盤を譲られると思ったが、、、、」

「娘さん二人も、婿さんも政治家タイプでは無いのでしょうか?」

「記者の話では三石先生が後継指名を強引にされたらしい!」

「すると、孫娘の婿に決まったか?」

「でも平尾さんは結婚相談所に登録されていますよ!孫娘を貰うのなら登録はしないでしょう?」

「それもそうだな?」



美優も同じ事を考えていて、毛利に電話で「平尾さん!もしかして退会されましたか?」と尋ねた。

「その通りですよ!人気が有ったのに残念です!昨日退会届を出されました!」

「結婚が決まったのですか?」

「それは判りませんが、今日の新聞での発表では次期総選挙で三石先生の地盤を引き継ぐのには驚きました!」

「それ程の驚きだったのですか?」

「後援会の会長も知らなかった様ですよ!」

「後援会の会長って何方ですか?」

「静岡の医療の大物、静岡第一病院院長の的場大樹さんですよ!私も後援会に入っていますのでニュースが早いのです!でも今回のニュースは知りませんでした!」

「それ程、驚きだったのですね!」

「殆ど平尾さんとは後援会でも会いませんしね!でも先生が後継に押されるのですから、優秀なのでしょう」

「お見合いの時にお話しはされるのでしょう?」

「口数が少ない方で、見合いの席でも殆ど話をされませんね!」

「じゃあ、政治家向きでは無いのでしょう?」

「その様に見えるのですが、先生が後継に推挙されたので大丈夫なのでしょう?」

「お孫さんと結婚とか?」

「それは判りませんが、今回の退会を見るとそうかも知れませんね!」

墓穴

 76-028

「平尾って秘書だが、噂では殆ど静岡に居る時が多い様だな!」

「東京には行かないのですか?」

「美男子だから三石先生のお孫さんが、おじいさまを困らせたって話でしょうか?」

佐山係長と静内捜査一課長は勝手な想像で話し合っていた。



翌日、後援会の役員を集めて三石代議士は、改めて政界引退と平尾俊三の後継を発表した。

質問も反対も受け付けない一方的な三石代議士。

自分を応援して頂いた力を全て平尾俊三に賜り、次期総選挙では必勝をお願いしたいと話した。

平尾は挨拶で三石先生に頂いた応援を自分に頂きたいと話して終わった。



捜査本部は近藤芽衣の詳しい解剖結果を聞いて、益々捜査が混乱していた。

死因は青酸性の毒物を缶コーヒーと一緒に飲んでいた事、死体で浜名湖に投げ込まれた。

絞殺は一切無し、強姦の形跡も無し、青酸性の毒物は男三人が猪鼻海岸で飲んだビールに含まれていた物と一致した。

「これは、、、、あの男達を殺害した人物が近藤さんを殺害した事に成るな!」

「益々判らなくなったな!」

「でも手口は少し荒い気がしますね!プロの仕業ではないでしょうか?」佐山係長が言った。

「プロとは暴力団とか?」

「はい!過去にも男性の死体が浜名湖に浮かんだ事が有りました!それは暴力団の犯行でした!」

「すると、今回の殺人は暴力団?ゴルフ場の絞殺強姦事件とは犯人が異なる訳か?」

「そうなりますね!」

「だがあの鈴木達を殺したのも暴力団か?争った跡はなかったぞ!三人は納得してビールを飲んだ様に思ったが?」

「あの三人、昔は暴走族でしたが、今は真面目に働いていましたので、暴力団員に猪鼻海岸に呼び出されて一緒に酒を飲むとは思えません!」

「係長は一緒に酒を飲む相手だと思うのだな!すると三人は騙されて殺された?そしてその犯人が近藤さんを浜名湖に投棄?だが別人?」

「青酸性の毒物はビールを一緒に飲んだ犯人が持っていた!暴力団とも繋がりが有るのかかも知れません!」



美優の推理は混乱していた。

近藤芽衣が強姦絞殺で殺害されていたら、犯人は絞られると考えていたからだ。

それが全く異なる毒殺で浜名湖に投げ込まれた事、その上強姦もされていない。

見合いをした男も平尾俊三とか山中智博では無かった。

その上平尾俊三が三石代議士の地盤を引き継ぐ話まで出て来た。

そして、孫娘との縁談の噂まで出ているのだ。

裏付ける様に寿企画を退会してしまった。

唯一残っていた三石兼三の隠し子説も、孫娘との結婚話が出ると血が濃すぎるので無理だ。

美優の推理がもう少しで犯人に辿り着いたのに、、、、、、



その三石代議士が県警を訪れて自分が引退をして、秘書の平尾俊三に地盤を譲るので宜しく頼むと挨拶にやって来た。

勿論大森署長に会う為なのだ。

「態々起こし頂いて申し訳ございません!」署長室に招き入れて、三石は平尾の紹介を受けた。

「これは、俳優の様な方ですね!」大森署長は平尾の姿に驚いた。

「県警では連続殺人事件を抱えて大変な時なのに申し訳ない!」

「マスコミも連日事件の進展を求めてやって来ますので、対応に困っています!」

「事件の方は解決に向かっているのかね!」

「いゃーそれが次々と事件が発生しますので、署員が間に合いません!」

「県警には有名な刑事の奥様がいらっしゃるが、その方はどうですかな?」

「今回はまだ何も掴めていない様ですね!いつもなら県警に乗り込んで来て事件を解決されるのですがね!」

「流石の名探偵も困っているのか?」

「はい!その様です!三石先生にまで気を使わせて申し訳有りません!どうか国会では穏便にお願い致します!他の先生にも良しなに、、、、、」

「判っておる!君の立場が悪く成らない様に公安の方にも手を廻して置く!」

「ありがとうございます!選挙の時は署を上げて応援させて頂きますので、よろしくお願いいたします」と低姿勢でお辞儀の連続の大森署長。



二人が帰ると直ぐに捜査一課に来て「早く事件の解決をしてくれ!今も三石先生に聞かれて困ってしまったぞ!野平君はどうしているのだ!奥さんに事件の事を詳しく伝えているのか?」

「はい!今回は難しいのでしょう?我々も混乱していますから、、、」

「一課長がその様な弱気だから、所轄の刑事達も弱気に成るのだよ!明日所轄の署長に活‼の電話をするか!」



その話が夜遅く一平の口から美優に伝えられた。

「えっ、また三石代議士が県警に来たの?平尾俊三を連れて?」

「選挙の時の応援依頼に来たと思うな!」

美優は首を傾げて「昨日の今日に県警に応援挨拶?」

「ああ!美男子を連れてね!」

「それって少し変でしょう?何故警察なの?それもいち早く?」

「確かに、三石代議士なら医師会のか後援会長の病院に最初に行くよな!」

「県警に来て私の話をする事も変よ!」

「変と云えば変だが、事件も大きいから気に成ったのだろう?それに美優は有名だからだよ!」

「爺さん!墓穴を掘ったかも?」

「えーどう云う意味だ!」

「犯人は私ですと言いに来た様なものよ!偵察の筈なのよ!これで迷いは無くなったわ!」

「意味が判らないけど!」美優の話に呆れる一平。

面打ち師

   76-029

「美優は三石代議士が犯人だと云うのか?」

「その通りよ!一平ちゃんの話を聞くまでは自信なかったのだけれどね!」

「自分から墓穴を掘ったのか?」

「でもいきなり捜査本部で発表出来ないわ!証拠が全く無いのよ!だから明日佐山係長にこっそり話してニ三人で裏付け捜査をして欲しいのよ!」

「証拠も無いのに国会議員の大先生を犯人扱いすると、交番勤務でも無理だよ!」

「大丈夫よ!今日二人で来署して事件の事を尋ねた!そして私の事を気にしていたのなら間違い無いわ!今回の事件は三石代議士と平尾俊三の二人が主犯よ!」

「どの様に証拠を掴むのだ!」

「先ず平尾の周りの人で、面打ち師の様な人が居ると思うのよ!何処の誰か調べて欲しいのよ!」

「般若とか能面を着けていたからか?」

「それだけでは無いのよ!鈴木さんに強姦された事に成っている守朱音さんが、強姦された相手から根付を毟り取っていたのよ!」

「えっ、いつの間に調べたの?」

「多分守屋朱音さんも殺害されたと思うのよ!」

「交通事故ではなかったのか?」

「交通事故を装った殺人の可能性が大なのよ!」

「先日米田って市会議員の事調べて欲しいと言っただろう?米田は三石代議士の地元の応援団長の様な男だった!」

「それで繋がったわ!三石は守屋朱音を交通事故に見せかけて殺害したのよ!交通事故を起こした運転手も仲間よ!強姦事件の証拠品の根付を奪うのと朱音の口を封じた」

「酒井佳子の行方と交通事故の運転手だな!」

「それと面打ち師、この存在が事件の鍵かも」

「すると美優の推理では、平尾俊三、柳田一、山中智博の三人が犯人として確定なのだな!」

「昔、不協和音のメンバーとして10人程の暴走族がいて、その中の数人が強姦事件を繰り返していた!鈴木さん達はこの連中とは一線を引いて行動をしていたのよ!そして事件は勃発した!」

「守谷朱音さんを強姦した時、大事な根付を紛失した」

「そこで正体を現して自首させて、示談に持ち込んだのよ!多分朱音さんは鈴木さんが犯人では無いと知っていた!それで根付を買い取る話を弁護士に依頼した。表面上は500万で示談に成っているが、本当の額は不明だと思う!」

「友人を装っている酒井佳子も仲間か?」

「多分そうだと思うわ!神戸で殺害に加担したでしょうね!」

「神戸の殺害は平尾の犯行か?」

「そんな力は無いでしょう?三石代議士が人を使ってやったのでしょう」

「何故殺人までするのだ?秘書の為に、、、、」

「私の推理が頓挫したのは、近藤芽衣さんの殺し方よ!今までの殺害と明らかに異なる!それと平尾俊三に地盤を譲った事、孫娘との結婚の噂!この二つの出来事に戸惑っていたのよ!でも今日県警に二人が来てくれた事で払拭されたわ!」

「それで墓穴か?」一平の言葉に大きく頷く美優。

「三石と関係が有る暴力団を調べて頂戴!でも県警ではまだこの話を誰にもしては駄目よ!三石に聞こえてしまうと証拠隠滅の為に、何人殺されるか判らないわ!」

「佐山係長と伊藤の三人で探すよ!」

「確実な証拠を掴むまでは、周りは敵だと思ってね!」

「本間刑事の娘さんは殺されたのか?」

「判らないけれど、静岡県警の刑事の娘が吉と出るか?凶と成るか?判らない!」

「そうなのか?」

「多分優花さんは拉致されて気が付いた時、自分は県警の刑事の娘だと言ったと思うのよ!それを聞いて強姦して殺すかな?」美優は僅かな望みを持っていた。



翌日から、佐山と伊藤刑事は一平からの話を聞いて「俺は代議士野郎が一番嫌いだ!」と言って積極的に動くと約束した。

佐山係長は面打ち師の捜索を早速始めた。

電話で尋ねられるので、捜査本部で仕事をしながらでも出来た。

平尾の母親と父親から調べ始めたが、松尾は既に30年も前に事故死なので、実家を当たるがそれらしき人の存在は無かった。

母親の平尾洋子の両親、兄弟にもその様な事は聞いた事が無いと言われた。

二日間で平尾の関係者で誰も聞ける人は居なくなった。



一方三石代議士の暴力団関係を調べていた伊藤は、神戸の暴力団と繋がりが有るのでは?との情報を入手していた。

「極秘で兵庫県警に行って調べて来ますか?」一平は佐山に進言した。

「よし、トラックの運転手、大久保敬之の事も調べて来てくれ!」

翌日、一平と伊藤刑事は早朝から神戸に向かった。

事故現場も一度見て置く必要を感じていた。

美優の推理が正しければ過去に例を見ない連続殺人事件で、その主犯が現職の国会議員の大物、二人は身震いをする程緊張をして新幹線に乗り込む。



一方美優は平尾俊三の母、平尾洋子と事故死で別れた松尾俊介の事をもう少し詳しく調べる為に須藤亮吉の元を訪れていた。

当時の事を詳しく聞く為だった。

亮吉も美優の話で松尾の事故が仕組まれていたのなら、全ての辻褄が合うと思い始めていた。

「何か新しい事が判ったのか?美優さんに言われて松尾には可哀そうな事をした!幼い子供を抱えて奥さんは本当に苦労したのだろう」

「その息子さんが三石代議士の地盤を引き継いで、次期総選挙に出馬されるのですよ!」

「えー、そ、それは本当か?」

「先日の地元新聞に大きく載っていましたが、ご存じなかったでしょうか?」

亮吉は直ぐに女子事務員に新聞を持って来る様に頼んだ。

「三石代議士の秘書をされていた様ですよ!」

「松尾の息子が三石代議士の秘書を?」そう言って考え込んだ時、新聞が届けられた。

見出しと写真を見て「結婚当時の奥さんの顔に似ているな!洋子さんは美人だった!」

「会長!松尾さんと奥様平尾家の関係者か先祖に面打ち師の方はいらっしゃいませんか?」

「面打ち師?能面とかを作る人か?」頷く美優、考え込む亮吉。

事件の匂い

 76-030

「いや!その様な人の話は聞いた事も無いな!例の事件でも能面を着けた男が女を強姦しているらしいな!亮が言っていたが、不協和音の時は般若面だったとか?美優さんは松尾の親戚か、奥さんの親戚の事を尋ねているのだな!全く知らないな!と言っても30年近く会った事も無いのだがな!」

「そうですか!松尾さんの奥様はお仕事をされていたとお聞きしましたが、もしかして三石代議士の関連の仕事では?」

「詳しくは聞いた事が無かったが、その可能性は有るかも知れんな!選挙の時マイクを持って喋る女性、何だったかな?」

「ウグイス嬢ですか?」

「それをしていたかも知れないな!昔ラジオ局に勤めていた様な話を聞いたな!」

「三石代議士の事務所で働いていたかも知れないな!それで息子を後継に?孫娘と結婚させてか?」

「私は三石代議士の子供の可能性も考えています!」

「えっ、洋子さんの浮気?それは無いと思うよ!二人は恋愛結婚だから浮気はないだろう?」

「不倫では無くて、強姦なら?」

「えっ、そう言えば松尾は子供が自分に懐かないと言ったな!私は君が仕事馬鹿だからだと言ったが、、、、、」昔を思い出す様に天井を見る亮吉。

「私の推理ですから、真剣に考え込まないで下さい!」

「だが、松尾が殺害されたのなら、美優さんの推理が的中しているかも知れませんな!」

青ざめる亮吉は昔の事を瞑想する様に目を閉じた。

「奥さんが三石代議士に強姦されて、妊娠したのなら自分の息子を後継に選ぶのは判るな!」ぽつりと言う亮吉。

「まだ何も証拠が有りません!私の想像の範疇ですから、くれぐれも口外はなさらないで下さい!」

「松尾が事故死したのは息子さんが4~5歳ですよね!何も覚えていないでしょうね!葬儀の時、息子さんは三石代議士に抱き着いていたな!奥さんの仕事先、、、、、以上の関係だったのか?松尾の葬儀に三石代議士が来たのには多少驚いたが、奥さんの仕事先なら参列も有るな!選挙の為ではなかったのか?」亮吉は昔を思い出しながら言った。

この話で美優は自分の推理が正しいと思い始めていた。

平尾俊三は三石代議士の子供、三石代議士は邪魔に成った松尾さんを事故に見せかけて殺害した。

その後三石代議士の援助で大学まで、、、、、そして秘書、その後後継者。

帰りの車の中で色々な事を考える美優。

「孫娘との結婚!無いわね!」呟く様に言う。

だが美優の推理の中の話で、二人のDNA鑑定でもすれば判明するが、現時点では同意する筈もない。

勿論、二人の犯行を裏付ける証拠も何も無いのが現実だった。



神戸に向かった二人は兵庫県警4課の協力で、多くの暴力団の中から「楠木会」が怪しいと思うと話した。

何故ならトラック運転手の大久保敬之が、事故の一年後組に迎え入れられている点だ。

交通課との連携が無かったので、全く調べられる事が無かったが一平達の問い合わせで4課のリストに名前が有ったのだ。

「大久保に付いて我々がもう少し詳しく調べてみます」

「この楠木会の主な資金源は何ですか?」

「覚せい剤、麻薬ですね!この連中比較的簡単に入手しているので、何処かに大物の存在を感じていたのですよ!静岡さんの事件と関連しているのですか?名前を教えて下さいよ!」

「名前はまだ容疑が決まっていませんので、ご勘弁を!」伊藤が言うと、一平が「判明しましたら一番に連絡致します!まだ家内の胸の内なのですよ!但し聞こえると一気に敵は対策を講じて逮捕は難しいと思います!」

「あっ、そうですね!野平さんで気が付くべきだった!有名な探偵奥様ですよね!」4課の月田捜査課長は笑顔に成った。

「静岡で連続して発生している強姦殺人の容疑者と楠木会が繋がっている可能性が有るのです!」

「大事件ですよね!何人殺されました?」

「正確な数字は判りませんね!行方不明者も多いのでね!」

「大変な事件ですね!マスコミも騒いでいますからね!」

「麻薬等は医療関係者なら比較的手に入れ易いので、我々も楠木会の裏にはその様なルートが有ると思っているのです!」

「成る程、その話を聞いて先ず間違い無い様ですね!」

二人はその後事故現場に今度は交通課の案内で向かった。



「この場所には当時小さな花壇が置かれていたのですよ!でもこの様な場所に誰が置いたか不明なのですよ!確かに殺風景な道路の端ですから、綺麗でしたがね!」

「それは事故の時に在ったのですか?」

「通報を受けて警察が駆け付けた時、一緒に居た女性が花壇に躓いて道に倒れたと証言していますね!」

当時の調書を見ながら説明する警官。

「主任!この様な場所に花壇を置きますかね!」

「ボランテア精神で街を美しくって、町では推奨していますがね!この様な場所にこの写真の花壇は不釣り合いですよね!」説明の警官も調書の写真を見ながら言う。

「持ち主は名乗り出なかったのですか?」

「はい!自分の置いた花壇で事故死ですから、名乗り出ませんね!」

「この写真の花壇綺麗ですね!風雨に晒されたらもっと汚れているでしょう?」

「それはそうですが、置かれて直ぐの可能性も有りますし、同行者の酒井さんが気をつけて!と言った時、躓いていて車道に転がったと証言していますね!」

「そうですか、ありがとうございました!」一平はお礼を言って、近くの家を訪ねて当時の事を聞こうと思った。

事故当時夕方で薄暗く成っていたので、守屋さんが花壇に気が付かなかった可能性は有るが、事故後置いた可能性も充分有ると思った。

予想通り、近くの家数軒で尋ねたが誰一人、あの場所に花壇が置かれていた事を知らなかった。

「伊藤!これは事故後置いたな!」

「その様ですね!警察と救急車が来る前に置いた可能性が高いですね!」

「殺す場所は決めていたのだな!」

二人は大きな収穫を得た気分で夜遅い新幹線で静岡に戻った。

根付

  76-031

「私の思った通りだわ!友人の酒井佳子さんが怪しいと思うわね!トラックの運転手も暴力団員なら偽装事故の可能性大ね!」一平から聞いて自分で納得する美優。

守谷朱音が三石代議士の雇った暴力団に殺された可能性が大きく成ったが、今の段階では全く証拠が無い。

「医療関係者が麻薬の横流し、元厚生労働大臣だからルートは有るわね!」

「意外とこの事件裾野が広がるな!」

「証拠を掴まないとここから進まないわね!」そう言って考え込む美優。

「後援会長の静岡第一病院院長の的場大樹でも探ってみるか?」

「それも良いかも知れないけれど、私は大仁の別荘に一度行ってみたいわ!拉致監禁の痕跡が有るかも知れないからね!」

「もしも不協和音のねぐらなら、一人で行くのは危険だぞ!俺が調べて来るよ!係長に後援会長には探りを入れて貰おう」

「お願いしていた面打ち師は?」

「全くその様な人物には、、、、、」

「見込み違いなのかしら?」



その日、三石兼三代議士の引退会見と後継者のお披露目記者会見が、地元のテレビ局主催で行われる事が伝わった。

県警では「いよいよ世代交代だな!婚約も同時に発表されるかも知れないな!」静内捜査一課長が予想の様に言った。

「署長が警備の警官を連れて会場に行っている様だから、見なさいと言ったがのんびりテレビを見る心境には成れませんな!」佐山係長が言う。

佐山係長は心の中で(美優さんは三石代議士を犯人だと思っているのですよ!)と叫んでいた。

「三石先生は応援したが、秘書に投票出来るかな?」独り言の様に言う一課長。



そのテレビ中継が地元のテレビ局で放映されたのは、午後一時の事だった。

同時刻、大仁の別荘に向かっていた伊藤刑事と一平の二人。

ドアのチャイムを鳴らして「人の気配は無い様ですね!」

「その様だな!代議士は儲かるのだな!こんな立派な別荘を持てるのだからな!」

そう言いながら家の周りを移動し始めた。

「隣の別荘まで少し距離が有るので、聞いても判らないだろうな?」

「一応何か聞いて見ましょうか?」

「そうだな!」

距離が100メートル程離れている。

住人が居るか判らなかったが、伊藤刑事がチャイムを鳴らした。

中から応答が来て警察手帳をカメラに写し込んだ。

「静岡県警ですが、お話をお聞きしたいのですが?」

「な、何でしょうか?」女性の声が聞こえた。

「お隣の三石先生の別荘の事をお聞きしたいのですが?」

「最近はいつも静かですよ!何方も起こしに成っていませんね!」

「そうですか?ありがとうございます!」と言った伊藤だが、後ろで何か聞こえた様な気がしたがインターホンは切れてしまった。

表札が無いので誰か判らないが、伊藤はその家を後にした。

「こんな場所に刑事が来るとは、予想外だったな!」

「先生の家を見に来た様だぞ!目を付けられたのか?一応連絡して置くか!」

「向こうの家に居なくて良かったな!」

数人の男と一人の女が走り去る車を見送りながら言った。



「先程の家、何人か住んでいる様でしたが、今頃の季節に別荘暮らしって優雅ですね!」

「三石代議士の別荘は取り敢えず不審な事は無しだな!」そう言いながら美優に連絡した一平。

「それより今、重要な事が判ったわ!」美優が叫ぶ様に言った。

「何が判ったのだ!」

「テレビで三石代議士の引退発表と、後継者平尾俊三の記者会見をしているのよ!そこであの根付を見つけたのよ!」

「般若の根付を?」

「違うわ!能面の翁の根付を着けていたのよ!」

「全く違うじゃないか?」

「そうではなくて、着けていたのは三石代議士よ!」

「根付の主は三石代議士?」

「そうよ!今日は着物姿でテレビに出ていたのよ!それで帯に根付が見えたのよ!至急三石代議士関係で面打ち師を探して頂戴!」

「わ、判った!係長に連絡する!」

車は直ぐに赤色灯を点けて急いで走り始めた。



美優は能面、般若等の面打ち師が三石代議士の親族に居たら、平尾俊三が隠し子の確立が一層高く成ると考えていた。

県警に乗り込んで説明をして、いよいよ大規模な逮捕劇に成りそうな気がしていた。

もしも親子なら、二人は一体何人の人を殺害しているのだろう?そう考えると背中が寒くなる美優。



一平達が高速を走行中佐山係長が「一平!見つかったぞ!面打ち師!」

「誰でした?」

「三石代議士の母親の父、すなわちお爺さんが結構有名な面打ち師だった!盲点だったな!明治の初めの人で三枝って云う人だ!」

「直ぐに美優に連絡します!でもそれだけでは引っ張れませんね!」

「そうだな!相手は現職の国会議員だ!それも与党の重鎮だ!一課長はとても署長に進言出来ないだろうな?」

「美優はもう直ぐ県警に行きますよ!」

「だろうな!これ以上の捜査は美優さんでは無理だからな!」

電話が終わると美優に連絡をした一平。



「写真の男が一人判明しました!」捜査本部に戻って来た森元刑事が嬉しそうに叫んだ。

ニアミス

 76-032

「この写真の左端の男ですが、川本澄夫って男だと証言が取れました!」

「川本澄夫?初めて聞く名前だな!何処の何者だ!」静内捜査一課長が尋ねた。

「この男あの大きな曙重工の重役の息子ですよ!高校生から不良グループに入り、この写真の時は不協和音に入っていた様です!」

「今は何処に居るのだ!」

「それは判りませんが、祖父も親父も曙重工の重役をしていた様です!」

「トップ企業の重役か?」

「パソコンで調べてみます!」佐山係長がパソコンを叩く。

しばらくして「今は既に引退しているぞ!自宅は富士宮だ!曙重工の個人株主で上位らしいな!」

「大金持ちか?」

「伊豆半島にも別荘を持っている!東京にも別宅が在る様ですね!」

「金持ちの道楽息子だな!富士宮の自宅に至急数名で向かってくれ!」

所轄の富士宮署の刑事も川本家の息子と聞いて驚いて自宅に向かった。

県警の刑事が行くまで自宅に入らず、息子が出て行かないか見張る様に指示がされた。



約一時間後県警の刑事と所轄の刑事が合流。

「息子は?」

「我々が来てから誰も出入りは有りません!」

「よし!行くぞ!」

森元刑事を筆頭に二人の刑事が大きな門を入って行った。

お手伝いらしき女性が応対して「どなたもいらっしゃいません!」

「ご主人は?」

「東京の病院に入院されています!奥様は東京住まいです!」

「息子さんに会いたいのだが?」

「長男様は長崎の工場勤めです!次男の澄夫様は時々帰られますが、三日前からいらっしゃいません!」

「何処に行ったか判りませんか?」

「オートバイが好きで、各地に行かれますので、、、、警察が何方に御用ですか?」

「次男の澄夫に会いたい!連絡方法は?」

「携帯番号なら知っていますが?」

「教えてくれ!」

「何をなさったのですか?澄夫様?」

「交通事故の現場に遭遇した様なので、事情を聞きたいだけです!」

そう言って上手に誤魔化した。

「次男が行きそうな場所をご存じないですか?」

「そうですね、伊豆の別荘の鍵はお持ちですから、行かれるのではないでしょうか?」

「場所は?」

「大仁に在ると思いますよ!私は行った事が御座いませんので、詳しくは存じませんが、、、、」そう言って住所を書いて手渡した。

森元刑事は番号を聞いて富士宮の自宅を出たが、自宅を所轄に監視させる。



直ぐに県警本部に森元刑事は連絡をした。

「何!大仁の別荘?」佐山刑事は直ぐに一平に連絡をして詳しく伝えた。

同時に所轄の伊豆中央警察署の警官を指定の住所に急行させて、監視させる様に指示をした。

帰途から再び戻る事に成った伊藤刑事と一平。

「この住所って先程行った別荘の近くですよ!」ナビを見て驚く様に言った伊藤。

「もしかして、先程尋ねに行った別荘か?」

「なら、既に逃げた可能性が高いな?」

「そうだな!本部に連絡して緊急配備の要請だ!」

直ぐに赤色灯を廻しながら急行する一平達。

伊豆中央署の警官達が県警の指示で別荘を取り囲んだが、既に川本達は別荘を出て行って居なかった。



しばらくして別荘に戻った一平は地団駄を踏んで悔しがった。

「あの時、警察手帳を出さなければ逃げられなかったな!」

「仕方無い!非常線を張っているから何か網にかかるだろう?」



だが時間が経過しても全く網にかかる気配も無かった。

鍵を壊して別荘の中に入った一平達は「数人がここで生活をしていた様ですね!」

「一応指紋採取と遺留品の回収を行っていますので、何か判ると思います!」

川本澄夫31歳が不協和音のメンバーと判ったが、具体的に何をしたのか?事件は沢山起こったが直接的な証拠は何も無いのだ。



翌日、別荘に残された指紋から、数年前暴走運転で逮捕歴の有る垣田保の存在が判明した。

中に女性が居る事はインターホンのやり取りで判っている。

「別荘から数十人の指紋が検出された!ひとつ、ひとつ潰せ!」

「一課長!先日指紋の提供の有った柳田はこの別荘からは出ません!」

「そうか!これで柳田の指紋が出れば完璧だったのにな!」

悔しがる静内捜査一課長。



美優は夜一連の話を聞いて「三石代議士の別荘と川本って人の別荘が隣なの?」

「伊藤が知らずに隣に聞きに行ったので、逃げられてしまったよ!」

「三石代議士の別荘には誰も居なかったの?」

「人の気配が無かったな!」

「その別荘から猪鼻海岸まで遠くは無いわよね!」

「すると、不協和音のメンバーが集まって、ビールで乾杯をした可能性も有るわね!三人のビールの中には青酸性の毒物が入れられていた!」

「死んでから猪鼻海岸に運んだ!一人なら難しいが数人居たら、死体は運ぶ事が出来るわ!」

「殺害場所はこの別荘か!」

「多分ね!海岸でビールを飲んで自殺した様に装った!」

「犯人は不協和音のメンバー達で、過激な強姦をする奴か!」

「大体読めて来たのだけれど、何故絞殺するのか?それが良く判らないのよ!」

「幼児体験とかか?」

「それか!」美優は閃いた様に言った。

外堀

  76-033

翌日美優は平尾俊三の生い立ちを調べる事にした。

地元の新聞社の知り合いに話すと、直ぐに履歴は手に入った。

国会議員に立候補するので、生い立ちは手に取る様に判る。

幼稚園、小学校、中学、高校、大学の中で美優が目追付けたのは小学校だった。

当時の先生を数人紹介されると、女性の教師を一人選んで会いに向かう事にした。

菅沼志津は自分の教え子が次期総選挙に出馬する事を知っているので、美優の来訪は選挙の応援に成ると自分勝手に考えていた。

地元の新聞社からの問い合わせなので、全く不信感は無かった。

小学三年と四年の二年間の担任。

既に定年退職して趣味の生活に入って、ハイキング、旅行が楽しみに成っている。

新聞社の記者が一緒に付いて来たが、美優にはそれの方が話易いと思った。

「若くして国会議員に成られる方は子供の頃から、何処か他の方とは異なるのか?お聞きしたいと思いました!」美優は記者にその様に伝えた。

女性記者の茂木里子は「美優さんが連続殺人事件の謎解きをされているのかと思っていましたのに、、、、、」

「三石先生の後継者に選ばれた平尾さんに興味が湧きまして、どの様に子供を育てたら若くして代議士先生に成れるのか参考にしたいのです!」

まだ65歳の菅沼志津は元気一杯で、美優と里子を自宅の応接に迎え入れた。

「初めてお目にかかりますけれど、美しい方ね!テレビで見るより実物の方がお奇麗だわ!」いきなり世辞を言う菅沼先生。

「ありがとうございます!」

「平尾君の話が聞きたいの?」

「教え子は沢山いらっしゃるので、覚えていらっしゃるか心配だったのですが?」

「平尾君の事はよく覚えていますよ!忘れられない事件が有りましたからね!」

「えっ、忘れられない事件ですか?」

「そうよ!三年生の秋でした!多分悪ふざけをしていたのだと思うのですが、平尾君が同級生の女の子を失神させたのです!」

「首を絞めたのですね!」

「えっ、よく判りましたね!その通りです!幸い直ぐに女子生徒は気が付いたのですが、同級生の男の子が職員室に駆け込んで来たので、私は急いで教室に向かいました!その時女子生徒は起き上がって首を撫でていました!」

「何故その様な事をしたのか尋ねられたのですね!」

「はい、職員室に呼んで平尾君に尋ねると、真似をしたと言うのです!」

「誰の真似だったのですか?」

「叔父さんの真似をしてみた!の一点張りで、何処の叔父さんが誰にと尋ねましたが答えませんでしたね!唯その後は何も無かったですね!それで平尾君の事は記憶に残っているのです!」

「他に気が付いた事は有りますか?」

「母子家庭でしたが、お金に困っている様子は全く有りませんでした!逆にお山の大将の様に同級生を従えている感じでしたね!だから今回の代議士には向いているのでは有りませんか?」

「平尾君のお母さんは当時の様なお仕事をされていましたか?」

「病院の事務をされていたと思いますね!家庭訪問の時、お聞きしました」

「病院の事務ですか?私は昔ラジオ局に勤められていたとお聞きしたのですが?」

「それは独身時代でしょう?お奇麗な方で声がとても綺麗な印象が残っています!」

美優は聞く必要の無い事も聞いて誤魔化した。



美優は記者と別れると直ぐに一平に三石代議士と噂の有った女性を探して欲しと頼んだ。

先程の教師菅沼から聞いた叔父さんとは三石代議士の事では?の疑問が湧いたのだ。

平尾の絞殺癖は父親譲り?

三石代議士は絞殺SEXを好む男で、平尾はそれがエスカレートして殺してしまう?美優の頭の中に道が出来て徐々に広がって行く。



翌日、三石代議士の贔屓の芸者が熱海に居たとの情報を手に入れた一平。

もう何年も前に芸者千代乃は引退して、その後何処に行ったか不明だった。

だが置屋橘は今も健在と聞いて、美優は翌日置屋に行く事にした。

「一平ちゃん!これはどうしても囮捜査が必要に成るわね!」

「その様な事一課長が許すはず無い!」

「現職の国会議員の逮捕よ!証拠が無ければ問題外よ!」

「でも、難しいよ!」

「写真の10人で今判明しているのは何人?」

「大山和希、梨田祥吾、鈴木恭二、川本澄夫、柳田一、垣田保の6人か?」

「7人よ!仮面の男、私はその男が平尾だと思っているけれどね!」

「もう一人の山中智博が何故この中に居ないのだろう?」

「そうね!一緒に行動する程の仲間なのに変ね?」美優は山中の存在が気に成り始めた。

「今回の事件の中で山中智博と見合いした女性も消えているからな!」

「武内悟ももう一度調べる必要が有るかも知れないわね!浜名湖の芽衣さん殺しの関係者として、それなら課長も直ぐに許可するだろう?」



美優は翌日自分の推理の証明の為に熱海に向かった。

芸者の置屋橘の女将に会う為だった。

既に年齢は70歳を越えている女将は有名な美優に会えると準備をして待っていた。

「テレビで見るより綺麗な方ね!連続殺人事件の捜査に私が関係しているのですか?」

開口一番そう言って興味津々の様子だ。

「今回は新聞社のコラムを頼まれまして、お話をお伺いに参りました」

「新聞社の記事の事?」頷く。

美優は茂木さんの名刺を差し出し女将を信用させた。

「私は事件の事だと思って、、、、、」

「すみません!早速ですが昔ここに居らっしゃった千代乃さんの事をお聞きしたいのですが?」

「千代乃?随分昔の話ね!もう30年位前よ!」

「よく覚えていらっしゃいますね!」

「当然よ!忘れないわ!売れっ子芸者だったのに、、、、、」昔を思い出す様に天井に目を移した女将。

「でも話す事は何も有りませんよ!」

「もう時効でしょう?」美優の言葉に眉を動かす女将。

囮作戦

  76-034

「選挙の事で取材に来られたのね!」

「ええ、まあ」美優は女将の勝手な憶測に生返事で答えた。

「スキャンダルは選挙には大敵ですものね!でも何処から聞いて来られたのですか?殆ど知らない話なのに?」女将は怪訝な顔をして尋ねた。

「まあ、色々と情報は、、、、」

「でも流石名探偵って云われる方だわ!千代乃と先生の心中事件でしょう?」

「、、、、、、、、、、」聞いた美優が驚いてしまった。

「地盤を譲られる秘書の平尾さんって美男子に成られたわね!」

「ご存じなのですか?」

「これ位の時ですけどね!」右手を差し出し背丈を示した女将。

「そんなに小さい頃からご存じなのですか?」

「はい!小学生の頃一度お連れに成ったのですよ!温泉を楽しませてやるのだ!とおっしゃってね!」

「平尾さんお一人で?」

「まさか、お母さんと一緒でしたよ!」

「それじゃ、三人で?」

「違いますよ!事務所の方も一緒の慰安旅行でしょう?」

「女将はよくご存じですね!」

「お座敷に呼ばれましたので、芸者を連れて座敷に出たのですよ!」

「成る程!そうでしたか?」

「その時、一緒にお座敷に出たのが新人の千代乃でした!」

「千代乃さんを先生が気に要ったのですね!」

「はい、その後千代乃は数回先生のお座敷に呼ばれたのです!」

「それで事件は起こった?」

頷く女将は「幸い地元だったので内密に処理されたのですが、千代乃はその事件で芸者を辞めました!」

「その後の消息わ?」

「茨木の実家に帰ってからは音信普通ですね!どうしているのやら」

「その心中事件って、千代乃さんが首を絞められたのですね!」

「は、はい!先生の首にも千代乃の腰紐が巻き付けられていました!よくご存じですね!誰も知らないのですよ!旅館の女将と熱海警察の警官だけですよ!千代乃は直ぐに病院に運ばれて助かりました!先生は大丈夫でした!」

「先生が内密にする様に頼み込んだ訳ですね!」

「そうです!気の迷いがこの様な事に成って申し訳ないと先生が謝られました!」

「ありがとうございました!」

「この様な記事が新聞に載るのですか?困るのですが?」

「大丈夫です!女将さんに迷惑が及ぶ事は有りません!」

美優はこれで事件の真相が全て掴めたと確信したが、何処にも証拠は無かった。



「別荘で採取された指紋で、不明な指紋が5人は居ますね!一人は女性だと思うのですが?」鑑識からの報告を元に佐山係長が会議で発言した。

所轄の一課長が多勢集まって、静内捜査一課長と会議に入っていた。

「不協和音のメンバーが今回の一連の事件を起こしているのは明白だ!仲間割れで三人を毒殺したのも残された7人だと考えられる!一応身元が判明しているのは殺された三人、別荘の指紋から垣田 保、別荘の持ち主の息子、 川本澄夫の5人が判明している!柳田一は限りなく黒だ!だがまだ写真に残された4人は判らない!各警察で全力を挙げて一刻も早く突き止める様に!」

「もう一度柳田を呼んで仲間を吐かせるのは無理なのですか?」

「指紋もDNAの提供も受けているが、該当が無いのでそれ以上踏み込めないのが現状だ」

「10年以上前の写真ですから、既に亡くなった奴も居る可能性も有ると思いますが、暴走族ですからね!」

「それも含めて徹底的に調べ直す様に!」

捜査会議も方向性が不協和音のメンバーに集中していた。



伊藤刑事、佐山係長、一平は美優の手伝いの中から犯人が完全に三石代議士と後継者の平尾俊三に成っていると思っていた。

だが今、それを発表する事は出来ない、国会議員の事件に成ると混乱は必至だからだ。



美優が一平に電話で「三石代議士の後援会長、静岡第一病院院長的場大樹が関西の楠木会と関連有るか調べて貰える?それと平尾の母親病院の事務の仕事って聞いたけれど、まさかこの病院ではないでしょうね!」

「違うだろう?出来過ぎだよ!」

「調べて頂戴!明日にでも捜査本部に行くわ!」

「えっ、事件が解決したのか?」

「状況証拠は揃ったわ!でも今の状況では逮捕は出来ないわ!県警が私の話を聞いてどの様に出るか?」

「それは少し危険だよ!相手が大物過ぎる!」

「誰か囮に成る?」

「女性で独身事情を話せる人、危険を承知で引き受ける人」

「あくまでも囮捜査では無い事を立証しなければ駄目よ!」

「う、、、、ん!誰か居ないかな?」電話の向うで首を傾げる一平。

「首を絞められても抵抗出来る人でなければ殺されるわよ!」

「女刑事!独身!ひとり居るよ!」

「誰よ!信頼出来る?一課長に話したら終わりよ!」

「堀田あかね刑事!彼女なら話は出来る!独身だ!」

「堀田刑事か?頼み込んで見る?」

「自宅に呼ぶか?」

「そうね!警察では話せないから自宅に呼ぶのが一番ね!」

「でも罠に填るか?」

「一種の病気なのよ!だから必ず罠に落ちると思うわ!でも危険よ!刑事二人だからね!」

「顔もそこそこだから犯人は罠に落ちるだろう?でも平尾は退会しているよ!誰を狙うの?」

「山中智博よ!見合いの場所は静岡駅構内よ!」

説得が上手く運ぶか?それが焦点に成った。

相談所に登録

   76-035

堀田刑事は一平と一緒に自宅にやって来た。

毎日深夜に帰宅なので、昼間捜査の合間を抜けて一平が連れて来たのだ。

一平は直ぐに署に戻り美優に託した。

勿論佐山係長には事前に許可を得ているが、静内捜査一課長は全く知らない事だった。

「奥様が私に何か重大な事を頼みたいって何ですか?」

「一平ちゃんから何も聞いてないの?」

「は、はい!重要な話が有るとしか聞いていませんよ!」

「そ、そうなのね!実は見合い話が有るのよ!」

「えー―冗談はやめて下さいよ!今事件で大変な時に見合い何て出来ませんよ!帰ります!」立ち上がろうとする堀田刑事の前にお茶を置く美優。

「怒るのも判るけれど、見合いの相手は本間刑事のお嬢さんが見合いした男の人なのよ!」

「えっ、そそれって、、、、」

「そう、堀田さんの意思で見合いをして欲しいのよ!但し初期費用が必要なので、お試しコースの代金3万はここに準備したわ!」茶封筒をテーブルに置く美優。

「美優さんは本間刑事のお嬢さんが、見合い相手と何かトラブルが有ったとお考えなのですね!」

「まあ、そんな感じかな!だから危険が付きまとうのよ!刑事の貴女なら対応出来ると思っているのよ!」

「それなら本間刑事のお嬢さんを救い出す為にもやってみます!」

「これはあくまでも貴女の意思で見合いを申し込むのよ!」

「判っています!段取りはどの様にするのでしょう?」

「達磨結婚相談所に私が連れて行って入会を申し込んで、職業は公務員で大丈夫だから警察とは記入する必要無いの、それで入会が終わったら山中智博に見合いを申し込むの、相手がOKなら見合いの日時を決めるのよ!」

「はい!」

「場所は静岡駅構内の喫茶店檸檬!その時同じ店に誘拐の仲間が来る可能性が有るのよ!」

「成る程、その時捕まえるのですね!」

「いいえ!それだけでは逮捕出来ないので泳がせます!多分貴女の周辺に近づくと思うのよ!その時逮捕します!」

「そうですよね!見合いで逮捕は出来ませんよね!本間刑事のお嬢さんも見合いの数日後狙われましたね!」

「住所も仕事も相手に教えないのに狙われたのは、尾行された可能性が高いのよ!」

「直ぐに申し込みに行きましょう!」

「藤枝でしょう?」

「ありがとう堀田さん!」美優は感謝のお辞儀をして、達磨結婚相談所に電話をした。

新谷浩美は美優さんの紹介なら良い女性に間違い無いと喜んで待っていると答えた。



その後二人で達磨結婚相談所を訪れて入会の手続きを完了した。

数日後から好みの男性を選んで見合いを申し込んで下さい!男性の方からも申し込みが有ると思いますので、お見合いをどんどんして良い旦那さんを選んで下さいと言った。

「公務員は堅い職業なので、共働き希望の方は申し込まれますと自信を持ってお勧め出来る方を紹介してくれたと美優にお礼を言った。



「じゃあ、登録が決まったら申し込んでね!」

「判りました!経過は美優さんに連絡します!」

「今日は本当にありがとう!申し込んだら身辺に注意してね!」

「はい!判りました!」

達磨結婚相談所を出ると二人は別れた。



三日程で矢は弦を放れると思う美優。

山中が釣れるか?平尾か?別の第三の男か?美優はそれを考えると身震いした。

あの様な性癖の有る男なら、最近親父の後継話で間が空いているので直ぐに網にかかるかも知れない。

確かに危険な賭けだが、何処かに突破口を見つけなければ事件は終わらないと思った。

あくまでも囮捜査では無いが基本なので、堀田刑事の手腕に期待するしか道は無い。



美優は堀田刑事に託して、県警に行く準備を始めた。

資料を纏めて明日にでも説明に行く予定にしていた。



一平からの申し出に「美優さんが明日署に?事件の事か?」佐山係長が言った。

「はい!多分そうだと思います!」

静内捜査一課長に伝えると「まさか事件が解決したと言うのでは?それは有り得ない!我々捜査員が必死で捜査しても手掛かりも得られないのに考えられん!まあ良い話は聞こう!署長も美優さんに聞いて早く事件を解決せよとご立腹だ!代議士先生迄美優さんの動向を気にしているからな!」

「それでは明日一時に来る様に伝えます!」



翌日、美優が県警に行く前に達磨結婚相談所の新谷が「良い女性を紹介して頂きました!早速申し込みが入りましたので、お見合いの段取りを勧めたいと思いますので宜しく!」

「えっ、早いですね!」

「新規の方を待たれている方の様で、気に要られて直ぐにでも見合いを希望されています!」

「本人が決める事ですから、私ではどうする事も出来ません!よろしくお願いします!」というしか術がない美優。

それにしても早いわね!新人を待っているの?変な世界だわ!と思いながら県警に向かった。

「可愛い女が新しく登録しましたよ!静岡の女です!取り敢えず申し込んで置きました!」

「そうか、静岡なら大丈夫だ!県外は中々難しい!仕事は何をしている?」

「公務員って書いていますので、役所でしょうか?」

「役所なら直ぐに目星は付く!お前の申し込みをOKするかが問題だよ!」

「それを言われては、、、、」

「まあ見合い迄進めば頂きだな!」

「写真転送して置きましたので、ご覧ください!」

「判った!上手く行くのを期待して置く!」

堀田刑事の申し込みに反応した不気味な連中、美優の思惑と異なる展開に進んでいた。

乗り込む美優

      76-036

県警に美優が行くと大森署長が笑顔で出迎えて「美優さん!事件に目途が付いたのかね!待っていたのですよ!」と嬉しそうに会議室迄一緒に付いて来た。

会議室に入ると静内捜査一課長、藤枝署の平田捜査一課長、島田署の森田捜査一課長、下田署の山脇捜査一課長の4人と佐山係長が既に座って居た。

「事件が解決したのか?」いきなり平田課長が言った。

「いいえ、解決はしていません!これから解決して頂きたくて今日はここに来ました!」

大森署長が座りながら「解決は未だなのか?」

「私は解決の道筋をつける為に来ました!解決は皆さんが行って頂きたいのです!」

「犯人は不協和音のメンバーだろう?」

「はい!その通りです!これから申し上げる事は何故その様に成ったのか?までお話致します」

「不協和音の連中が何故強姦殺人を行ったのかを調べたの?」

「はい!その通りです!」

「悪党にも言い分が有るのか?」

「何故その様に成ってしまったのか?が正しいと思います!」

「先に誰が犯人なのだ!殺人犯は誰なのだ!」

「手を下した人物は判りませんが、指示をしたであろう人物は判ります!」

「兎に角誰が犯人なのだ!直ぐに逮捕する!」

「皆さん!そう焦らず順に話を聞きましょう?落ち着いて下さい!」佐山係長がたまりかねて言った。

「この事件の発端は今から30年前に遡ります!」

「えー30年も前?」

「その事件は須藤建設で起こりました!台風の後の足場点検に行った松尾さんが、転落死で亡くなられました!でもこれは足場の工事の不備として須藤建設はマスコミに叩かれて営業停止処分に成りました!でもこの事故は仕組まれた事故で松尾さんを殺害するのが目的だったのです!」

「松尾って誰だ?」

「松尾さんの奥様を好きに成ってしまった男の策謀がもたらした事件だったのです!この男は松尾さんの奥さんを強姦してしまったのです!当時その男の事務所で奥さんはパートとして働かれていました!」

「悪い男だな!」

「子供が居なかった松尾さんに男の子が生まれたのです!でもこの子供がこの男の子供だったのです!」

「それで松尾さんが邪魔に成ったのか?」

「はい!その通りです!」

「この男は性的な変態癖が有り、女性の首を絞めてSEXをする変質的なSEXを好むのです!」

「変な趣味だな!それが連続絞殺事件の原因か?」大森署長が驚く。

「その男が今回の犯人なのか?年寄りだろう?不協和音とは関係ない?」静内捜査一課長が言う。

「この男と母親のSEXを見てしまった少年が父親と同じ様な変態SEXに走ったのが、今回の事件です!」

「息子か?」

「そうです!この息子が今回の事件の主犯で般若面、能面の男です!勿論不協和音のメンバーなのです!」

「誰なのだ?この親子は?」

「はい!衆議院議員元厚生労働大臣の三石兼三氏、そしてその息子平尾俊三です!」

「えーーーーーー」

「そ、そんな、事!信じられん!」

「三石先生が平尾俊三のお父さん?美優さん!少し飛躍し過ぎてないか?」

「そうだよ!三石代議士にその様な性癖が有る事は聞いた事が無い!」

「三石代議士がその様な性癖が有る事は既に調べています!」

「ほ、本当なのか?」

「はい!息子の平尾とは違い、絞め殺す様な事は殆ど無かったのですが、昔熱海の芸者千代乃の首を絞め過ぎて失神させてしまい!自分の首にも紐を巻いて自殺を装った事が有るのです!」

「、、、、、、、」

「、、、、、、、、、、」

「、、、、、、、、、、、」

一同無言で生唾を飲み込んで聞いていた。

「松尾さんの奥さんは昔ラジオのアナウンサーの仕事をされていました!非常に美しい方で松尾さんが惚れて恋愛結婚をされました!三石代議士が頼み込んで選挙の時にウグイス嬢として松尾さんの奥さん洋子さんを雇い入れたのです!その奥さんを或る日三石代議士は強姦してしまったのです!幸か不幸か洋子さんは妊娠をしてしまいました!当然松尾さんは自分の子供だと思っていましただが、だが大きくなるに連れて自分に懐かないと周囲に漏らしていました。この頃には三石代議士と洋子さんの関係は切れない状況に成っていた様です!その為、松尾さんの殺害を三石代議士が人を使って足場を緩めたのです!勿論その時期を連絡したのは洋子さんでした!」

全員が呆れ顔で聞いていて、声も出なく成っていた。

「二人のSEX時には首を絞める事が日常に成っていたのでしょう?その様子を少年平尾は目の当たりに見てしまったのです!そして自分も大人に成ると女性の首を絞める様に成っていた!不協和音の結成当時は多分手下の様な存在で、徐々に力を持ってリーダーに成ったのだと思われます!そして平尾は女性を強姦する様にエスカレートして行ったのです!

この頃不協和音は半ば分裂状態で、平尾に従う男達は次々とレイプを繰り返していた。

鈴木さん、大山さん、梨田さん三人は強姦グループとは一線を引いていました。

或る日平尾が強姦したのが、守屋朱音さんだったのです!朱音さんは抵抗して強姦される最中に平尾が着けていた根付を毟り取ったのです!この値付けは三石代議士が自分の子供の証に平尾に与えた母親の父三枝氏が作った般若の根付だったのです!その為自分の存在、しいては実の父三石代議士に迷惑が及ぶと思い取り返す為に、鈴木達に頼んで自首させたのです!鈴木達は交換条件でお金と今後不協和音で強姦をやらない事を約束させたのです!生活に困っていた鈴木は自分が務所には入るが、他の二人は助ける約束をしました!結局裁判で鈴木には実刑、他の二人には執行猶予が付きました。

でも根付は返って来なかったので次の手段を考えたのですが、良い策が見つからず!平尾は父三石代議士に相談したのです」

会議場は静かで、もう誰も口を挟む者は居なかった。

動き出す捜査

  76-037

「平尾俊三が絞殺SEXに目覚めたのは小学生の時で、当時の担任の先生は同級生の女子生徒の首を絞めたと証言されました!多分その時は三石代議士が自分の母親にしている事を真似ただけでしょうがね!」

会議室の全員が美優の話に背筋が冷たく成っていた。

小学生が同級生の首を絞める光景はおぞましいの一言だった。

「首を絞めても翌日には仲良く会話をしている二人を見た平尾少年は理解に苦しんでいたのでしょう?話は戻りますが、根付を奪われた話を平尾は初めて父三石代議士に話したと思われます!この時守屋朱音が平尾を脅迫した可能性も有りますが、既に亡くなられていますので本人に確かめる事が出来ません!相談を受けた三石代議士は、知り合いの暴力団楠木会に根付の奪還を依頼したのではないでしょうか?この神戸の暴力団楠木会は、麻薬、コカイン、覚せい剤が主な儲け手段です!何故三石代議士がこの様な暴力団と繋がっているのかは、厚生労働大臣と云う地位を利用して後援会会長、静岡第一病院の院長的場大樹が絡んでいると考えています!」

「麻薬の横流しか?」平田課長が口走った。

「多分そうだと思います!頼まれた楠木会は酒井佳子を守屋朱音に近づけて、示談金の交渉を有利にしたのですが、払う方も貰う方も三石代議士ですから簡単に纏まります!事実示談交渉の弁護士と裁判の弁護士が異なっていたと朱音の母親が証言しています!」

「成る程、根付から足がつく訳だな!」平田課長が再び言った。

他の人達は唖然として聞いているだけで何も言わない。

唯、目の前のお茶だけは無く成っている。

「さて、神戸の交通事故で亡くなった守屋朱音さんですが、轢き殺したトラック運転手の大久保は事故後一年程で、楠木会に迎え入れられています!友人として一緒だった酒井佳子にもお金が渡った形跡が有ります!勿論事故現場も工作された形跡が多々見つかっています!この酒井佳子ですが、その後も平尾達と行動を共にしている可能性が有ります!」

「今回の事件とも繋がっているのか?」また平田課長が発言した。

他の人達は、この後の事を考えていたのか、事の重大さに呆れているのか?自分の立場を考えているのか?それぞれに動揺が走っていた。



「さて、今回の一連の事件に付いてお話しします!鈴木恭二さんを身代わりにした事で不協和音は解散に成りました!これは三石代議士とも約束をしていた様で、強姦騒動は沈静化しました。でも平尾俊三の病気は再び鎌首を持ち上げたのです!何処でどの様な経緯で知ったのかは今の処不明ですが、結婚相談所を利用する事を考えたのです!全国組織の結婚サイト寿企画は会員数が約8万から10万人居るのです!この寿企画のシステムは会員登録をすると、お見合いを申し込めます!但し、住所も職場も家族関係も相手に伝える必要が無いのです!平尾達はそれを利用したのです!」

「美男子だから申し込みは多いだろうな!」平田課長がもっともだと云う顔で言った。

「その通りで、寿企画のフランチャイズの結婚相談所では喜ばれていた様です!今行方不明の女性の大半が寿企画に登録の有った人達です!」

「相手の事はどの段階でお互いが知るのだ?」

「見合いをしてお互いが気に要ってお付き合いを望むと、仕事とか住所、家族関係が相手に通知される様です!」

「何故この様なシステムなのだ?」

「多分未練を持った人が付き纏う、所謂ストーカー被害を無くする為でしょうか?それと先入観で人を見る事を防ぐ為では無いでしょうか?」

「親が金持ちとか?本人が有名人なら直ぐに判るが、親兄弟なら判らないな!」平田課長だけが積極的に喋る。

「本来なら見合いの席に居ない筈の人が居たら、彼等はそれを実行したのだと思います!私も先日静岡駅構内の喫茶店での見合いを間近で見て来ました!相手の人は私には全く気が付きませんでした!この様にすれば平尾が見合いの席で会う相手の自宅も仕事も直ぐに判るのです!」

「成る程!」

「調べたのですが、平尾は一度も見合いでOKを出していません!同じ様な仲間が数人居て代わる代わる申し込む様です!私の推測ですが本間刑事のお嬢さんがお見合いをされた相手の山中智博も仲間だと思います!見合いの数日後不鮮明な写真を持って熱海の店舗に来た男性が居ました!その男性も仲間だと考えられます!」

「それが不協和音の残党か?」

「この様にして女性を吟味して拉致、強姦を繰り返していたと考えられます!」

「鈴木達が殺されたのは何故だ?」

「彼等はこの犯行が元不協和音の犯行だと判ったのでしょう?その結果辞める様に説得したのだと考えられます!だが辞める約束を別荘で集まってビールで乾杯をして、殺害された!本当は一連の犯行をこの三人に着せ様としたのだと思います!遺書らしき物も準備していましたからね!」

「本間刑事の娘さんはどの様に成っているのだ?」

「残念ながらそれは判りません!逮捕して尋ねる以外術は無いでしょう?」

「だが、逮捕は難しいだろう?犯行を裏付ける証拠が無いだろう?」重い口を開いた静内捜査一課長。

「その通りです!私の推理の中の話です!」

「相手は現職の国会議員だ!静岡県の重鎮だ!」大森署長も急に発言した。

「だが美優さんの推理は的中していますよ!まあこれだけ調べましたね!感服しました1」

平田課長は拍手をしながら言った。

「裏付け捜査を始めるのが妥当だと思うのですが?」佐山係長が発言した。

「ひとつ言い忘れていました!市会議員の米田さんが酒井佳子さんの母親にお金を運んでいた様です!」

「その辺りの小物を叩けば鯛が釣れるか?」

「みんなくれぐれも注意してくれよ!三石代議士は危険だ!」怯える様に言う大森署長。

「二人の親子関係の特定が先だ!親子でなければ全ての話が繋がらない!」

「山中を引っ張るのは?」島田署の森田課長が言うと、同じく下田署の山脇課長も同調した。

慌てたのは美優で、折角罠を仕掛けているのに水の泡に成る。

「いきなり、本丸を責めるのは危険です!三石代議士に逃げられる恐れが有ります。静岡第一病院辺りから攻めるのが宜しいのではないでしょうか?」

「そうだよ!美優さんの言う通りだ!いきなり本丸は危険だ!」大森署長も危惧して言った。

「じゃあ、親子関係から調べます!」

美優の説明で捜査本部が動き始めた。

好奇心

 76-038

翌日警察が親子関係を調べる前に三石代議士が後援会に「実は俊三は私の息子なのだ!だから応援をよろしく頼む!」と発表したのだ。

後援会長の的場大樹が「お孫さんとの婚約を発表されなければ応援が纏まりません!如何致しましょう?秘書を後継にする事を不満に思う会員も多いのです!」の言葉に三石代議士は決断したのだ。

その発表を三石代議士は避けたかった。

何故なら俊三の年齢を考えると明らかに不倫で生まれた子供に成るからだ。

そのニュースは発表と同時に広がったが、洋子の夫は既に死亡していたのでマスコミもそれ程騒がなかった。

捜査本部では「調べる手間が省けたが、美優さんの推理が的中したな!」静内捜査一課長が力なく言った。

「美優さんの推理が全て的中なら、とんでもない大事件に成りますよ!」佐山係長も不安を口にした。

「親子で何人殺しているのだ?」

「判りません!今日から静岡第一病院の院長を調べていますが、洋子さんがこの病院に事務として働いていた様ですね!職歴で判りました!」

「不倫と殺人で三石代議士も怯えたのだな!」

「洋子を呼びますか?」

「まだ早い!今呼ぶと三石代議士が動く!」



一方堀田刑事は困惑していた。

申し込んだ山中智博から何も返事が届かず、別の男性から見合いの申し込みが来ていたのでどの様にするか悩んでいた。

達磨結婚相談所の新谷から「申し込まれた小久保真也さんは裕福な家庭のご子息で申し分のないお相手ですよ!顔も美男子でしょう?是非見合いをされたら如何ですか?申し込まれた山中さんからは返事が無いのですから、見合い希望の方を優先された方が良いと思うのですが?」と催促の電話が有った。

堀田刑事も小久保の容姿に惹かれるのだが、あくまでも山中がターゲットだと思っている。

申し込みから10日で返事を送らないと流れてしまうシステムで、小久保の方が一日早いのだ。

堀田刑事は美優に電話で山中の事情を相談した。

美優は待つしか術がないと伝えたが、山中からは三日目、断りの知らせがサイトに流れて来た。

その結果に驚く美優は「変ね!女性から申し込んだのに断ったの?」

「はい!断られました!どうしましょうか?」

「柳田は顔知っているわね!申し込むと向こうが判るか?困ったわね!何か方法を考えるわ!」

美優は自分の計画した作戦が潰れたショックを感じていた。

早くしなくては捜査本部が外堀を埋め始めると、三石代議士も気が付くので失敗すると焦る。



その翌日再び達磨結婚相談所の新谷が電話で「山中さん駄目だったのだから、小久保さんと一度見合いして見たら、もう日も無いので決断しなさいよ!」

「は、はあ!でも」

「断っても相手には堀田さんの素性は判りませんので、何も心配有りませんよ!相手から断れる可能性も有りますがね!でも私が向こうの仲人さんに聞いた感じでは小久保さんは気に要られているようですよ!催促の電話が有った様です!」

この言葉に堀田あかねは心が動いた。

人生初めての見合いだから、何事も経験だわ!美優さんには内緒で申し込んでみるか!と思い始めた。

その日の深夜、パソコンを開くと申し受けのボタンを押した堀田刑事。



翌日早速新谷が「見合いをして見る気に成ったのね!場所は何処にする?先方は何処でも良いらしいわ!日にちは日曜日が良い?」

そう聞かれて自分の仕事が不規則な事をすっかり忘れていた。

でもそんなに引き延ばしは出来ないので、来週の日曜日午後一時に決めた。

場所は兼ねてから聞いていた静岡駅構内の喫茶店檸檬に決めた。

新谷は先方と話して、それで良ければ連絡をすると嬉しそうに電話を切った。

堀田刑事は一日中見合いの事を考えていた。

夕方携帯に新谷が連絡して来て、希望の日時でお見合いが決まったと言った。

堀田刑事はその日から何か浮き浮きした表情で仕事をしていたので、森元刑事に「堀田!何か良い事が有ったのか?」とからかわれた。



堀田刑事の実家は浜松なので、現在は県警の独身寮に住んでいる。

今回の見合い話は実家には内緒で、もしも付き合って良い人なら両親に伝えようと考えていた。

見合いの時、職業も住所も言わないので自分が静岡県警の刑事だと悟られる事は無いと思っていた。

何度か会う間に刑事だと告白すれば良いだろうと思う。



兵庫県警の刑事も静岡に来て、麻薬の捜査が始まる。

一課と四課の合同捜査に変更されていた。

既に兵庫県警では楠木会の組員を逮捕していたので、密売ルートの解明が進む事を期待していた。

静岡第一病院に家宅捜査が行われ、的場大樹の自宅にも捜査の手が伸びていた。

不意打ちの様な捜査で、三石代議士も事前に何も出来ずにだんまりを決め込む。

捜査の状況次第では最悪後援会著の的場を切る覚悟を決めていた。

明らかに神戸の楠木会の失態で、今回の事が明るみに出たと考えていたのだ。

自分の過去の悪行が原因だとは考えてもいない三石代議士。



その様な最中、堀田は日曜日県警に実家に急用が出来たと嘘を言って休んでいた。

スーツを着て静岡駅の新幹線側で待つ。

そこへ新谷浩美が「早かったわね!まだ時間は有るのに!」笑顔でやって来た。

「時間は一時間よ!一時間の内私が二人を紹介するのが約10分!後は上手く話してね!」と説明をした。

拉致

  76-039

喫茶店檸檬に入ると新谷は店内を見て「まだの様ね!そちらの席に座りましょうか?」

4人掛けの席に行くと堀田を奥に座らせて、自分は入り口の見える場所に座った。

店内には男性二人の席と、女性三人の席、それ以外の人はサイドの一人用の席に数人が座ってスマホを見ている。

職業柄直ぐに人物を見てしまう堀田だが、その事に気が付いて慌てて目を伏せていた。

しばらくして「あっ、小久保さんがいらっしゃったわ!連れて来ますね!」そう言って席を立つ新谷。

近づいて来る小久保を見て、堀田は写真通りの男性だと思ってときめきを覚えた。

新谷は小久保が座ると直ぐに二人を交互に紹介した。

でも名前と簡単な仕事しか喋らないで飲み物を注文すると「後は二人でお話して下さい!時間は2時までですので、お守り下さい!」と言うと直ぐに席を離れた。

相撲の行司の様な感じで、何が見合いなの?相手の仕事も判らずに家柄が良いと言っても何が良いのよ!と考えていると小久保が「公務員のお仕事はお堅いので良いですね!景気に左右されませんからね!」と不意に言った。

「は、はい!確かに景気には左右されませんね!」造り笑いで応対する堀田。

「あの、、、趣味はどの様な、、、、」

「ドライブです!お好きですか?」

「は、はい!良い車をお持ちですか?」

小久保はちらちらと横の席の方を見る仕草をした。

「人が多いので気に成りますね!」堀田はその仕草を見て気にしていると思った。

結局それ程会話が弾む事無く時間だけが過ぎ去り小久保の方から「もう時間ですね!また機会が有れば、、、、」それだけ言うとさっさと席を立ってお金を払いに行ってしまった。

堀田は「無理だわ!殆ど相手の事判らないから質問も出来なかったわ!」独り言の様に言ってコップの水を飲み干して席を立った。

既に小久保の姿は雑踏の中に消えていた。

適当に近くの土産物店を覗いてぶらぶらしながら静岡駅を出て、バス乗り場に向かった。

何処かに視線を感じたのはその時だった。

でも気のせいだと思いバスに乗り込み座る。

しばらくして自宅マンションの近くで降りる堀田。

独身寮に借り上げられているワンルームマンションに入って行く。

その時も視線を感じて後ろを振り返ったが、何も不審な人影は無い。

時間は3時前で、これから暇な時間に成ると思いながら自分の階に向かった。

この時男に尾行されていたのに、最後まで気が付かなかった堀田刑事。

静岡県警が独身用に借りているワンルームマンションエールは5階建てで、警察が借りているのは3,4,5階の一部屋ずつだった。

301号室が堀田の部屋で尾行の男は部屋を確認してマンションを後にした。

夕方達磨結婚相談所の新谷が「どうだった?」と電話を掛けて来た。

「時間が短くて話が殆ど出来なかったのです!」

「そうなのね!あの小久保さん見たのは今日が初めてだったけど、まずまずよね!どうする?付き合う?」

「先方は?」

「まだ何も連絡無いわ!一応向こうからの申し込みなので今日中に返事をする事に成っているのよ!こちらは明日の一時までに返事をすれば良いのよ!だから相手の気持ちを聞いてからでも大丈夫よ!」

「小久保さんが付き合うとおっしゃれば私も付き合います!」

「そう、判ったわ!連絡が来たらまた電話するわ!」



だが夜に成っても新谷からの電話は来なかった。

早朝「宅配便です!」と7時過ぎにチャイムが鳴った。

署に行くのは8時過ぎでようやく目覚めて、顔を洗った時だった。

「早い!荷物ですね!」

「先日お伺いした時、お留守だったので早朝ならいらっしゃると思いまして一番に来ました」

「誰から?」

「実家からのお荷物で少し大きいのですが、エレベーターで上がりますので、扉を開けてお待ち下さい!」

一人住まいはサイトで確認出来るのと、実家が浜松も記載されている。

唯、静岡県警の刑事との記載は無かった。



しばらくして大きな荷物を転がして二人の配達員が入り口一杯に荷物を押し込んで来た。

「大きな荷物ね!何を送って来たのよ!ちょっと待ってね!尋ねるから携帯電話を探して電話を始める堀田刑事。

窓の方を見て電話をする寸前、道路に昨日の小久保の姿を発見して「あなた、、、、う、う」その場に倒れ込んだ堀田刑事。

男の右手にはスタンガンが握られていた。

「縛り上げて、この中に放り込め!」

気絶した堀田刑事を持って来た結束バンドで両手と足首を縛って、タオルで猿轡をすると大きな荷物ケースに放り込む。

二人はそのまま荷物ケースを押してエレベーターに載せた。

堀田刑事が落とした携帯が着信音で鳴っている。

新谷浩美が出勤前に電話を掛けて来たのだ。

「顔を見られた!早く積み込め!」宅配便の車に堀田刑事を載せる時、同じ県警の警官が横を通る。

朝から大きな荷物を運んで来たのか?そう思いながら駐車場に向かった。

しばらくして車はマンションの前から走り去った。

その後も何度か携帯に電話をかけた新谷が、美優の携帯に連絡をして来た。

「どうされたのですか?」

「朝から何度も電話をしているのですが、堀田さん電話に出られないのですよ!それでお伝え下さい!」

「何を?」

「昨日のお見合い、先方さんはお付き合いしても良いと返事が来ましたと、堀田さんは先方が良ければ付き合うと言われていましたので、今日1時までに返事をしなければいけないのです!」

「えっ、堀田さん見合いをしたの?」

「はい!昨日小久保さんと云う方とお見合いされました!」

美優は全く知らない話に戸惑いながら、直ぐに一平に連絡をした。

総動員

76-040

同じく捜査本部にも堀田刑事の母親から、朝電話が有ったのですが直ぐに切れてその後何度か電話をしたのですが繋がりません!と心配の電話がかかっていた。

「独身寮に住んでいる警官が居たな!直ぐに呼んでくれ!」

そこに一平からも電話が「マンションに急行してくれ!」佐山係長は只ならぬ事態を感じて、一平に自宅から直行する様に伝えた。



呼ばれた警官も今出警察に出勤した時だった。

「早朝から宅配便の車が大きな荷物を運んでいました!」と佐山係長に告げた。

伊藤刑事にも直ぐに現場に向かわせたが、美優に連絡する事を忘れていなかった佐山係長。

「早朝宅配便が大きな荷物をマンションから運び出した様だ!堀田は見合いをしたのか?」

「それが、私に内緒で小久保と云う男と見合いをした様です!」

「な、何―」

「佐山さん!直ぐに平尾の居場所を探して下さい!急いで下さい!堀田刑事が危ない!」

「わ、判った!」

佐山係長は直ぐに所轄の刑事に連絡して、平尾の所在を探す様に指示をした。

美優は一平に「直ぐに伊豆の別荘とロッジに向かって!」と告げた。

その時一平は堀田刑事のマンションに入る寸前だった。

そこへ伊藤刑事が来たので「伊豆へ先に行ってくれ!俺も直ぐ行く!」と言い残して部屋に入った。

部屋の中に堀田刑事が倒れている事も考えた一平。

部屋の中には土足の後が数個と、携帯が床に落ちているのを発見。

「数人の男に堀田刑事は誘拐されたと思われます!」と佐山係長に連絡した。

静内捜査一課長も早朝からの騒ぎに驚きながら署内に入って来た。

「堀田君が拉致されたのは本当か!」

「はい!今現場に野平君が行って確認しました!」

「現職の刑事を誘拐?信じられない出来事だ!何者の仕業だ!」

「それは判りませんが、一応平尾の動きは追っています!」

「本当に美優さんの推理が当たっているのか?まだ確たる証拠は無いだろう?」

「でも先日の推理はほぼ間違い無いと思われます!辻褄が合いますので!」

「でも今回の堀田君の誘拐が、、、、、」

「それが、、先日見合いをした様なのです!」

「堀田君が見合いを?それで拉致?でも刑事だぞ!」

「例の相談所では職業を言わないので、、、、」

「間違えて襲ったのか?」

「佐山君!刑事が今回の事件の被害者に成る、、、、そんな事は許されん!県警始まって以来の失態だ!まさか囮捜査ではないだろうな!」

「それは絶対に無いと思います!誰も見合いの事実を知りませんでした!」

「美優さんは知っていたのでは?」

「その美優さんが一番に電話をして来たのです!結婚相談所の叔母さんから連絡が有った様です!」」

「それなら囮捜査ではないな!」ひとまず安心顔に成った一課長。

「どの様な事が有っても救い出せ!県警の総力を挙げて事に当たれ!」

その時、所轄の警察から「平尾俊三の姿が何処にも見当たりません!」と報告が入った。

「自宅も事務所も直接話を聞いて良い!行方を探せ!」横から静内捜査一課長が怒鳴る様に言った。

伊藤刑事が先日の大仁の別荘に向かったので、一平は少し離れたロッジに向かう事にした。

人質が居るので所轄警察は周囲を囲んで待機の要請が県警から出た。



その頃宅配の車は伊豆方面に向かって走っていた。

荷物の中に押し込められた堀田刑事は気が付いたが、手足を縛られて猿轡をされているので身動き出来ない。

ジャージの上下で何も持っていない。

刑事だと叫んでも信用される事は無いだろう?この車にも三人の男が乗っているので、とても戦って勝てる気がしない。

荷物の中なので何処に向かっているのかも判らない。

小久保と云う男が不協和音のメンバーだったのは迂闊だ!自分が見合いをした事を知っているのはあの叔母さんだけだ!失敗した!と後悔だけが過っていた。

その車を伊藤の覆面パトが赤色灯を点けて追い抜いて行く。



「平尾の自宅マンションの住人が、8時頃車で平尾が出かけて行くのを見たそうです!」

「判った!高速道路の監視システムで調べている!」

「平尾が合流するなら何処だ!」静内捜査一課長が尋ねた。

「前回川本の別荘に隠れていましたので、今回は三石の別荘かロッジではと思っています!」

「所轄に手配は終わったのか?」

「はい!連絡はしていますので、半時間以内に包囲するでしょう」



だが警察の動きを前回の時に知っている不協和音の連中は、川本の別荘の横に在る三石代議士の別荘へは向かっていなかった。

三石代議士と不協和音の関係が露見する可能性が有るので、使わない事にしていた。



遅れて追いかけて来た一平に美優が電話で「伊豆方面に向かったの?」

「間違い無い様だ!」

「でも三石の別荘には行かないと思うわよ!不協和音と三石代議士が繋がるから避けるわよ!慎重にね!」



美優は達磨結婚相談所の新谷に連絡して小久保の身上書を閲覧させて欲しいと言った。

拒否をする新谷に「小久保に堀田さんが誘拐されたのよ!それでも見せないなら犯罪に加担した事に成るわよ!」と脅した。

新谷は仕方なく身上書を見せると言って自宅に来る様に言った。

見合いをしたのでネットに出ているよりも詳しい資料を相手の相談所から貰っているとも話した。

美優は急いで藤枝の達磨結婚相談所に向かった。

何か新しい事が掴めれば、堀田刑事の救出に繋がると気持ちは焦る。

火災

   76-041

一平は赤色灯を消して高速を走っていた。

美優の言った言葉が気に成ったので、全く別の場所に行く場合困るからだ。

殆どの警察は大仁方面に集中しているので、自分が敢えて行かなくても救出は可能だ。



三石代議士の外車に敢えて乗らずにレンタカーを借りている平尾。

その為警察の捜査網を楽々突破して、何処に向かって行ったのか?を全く掴まれていない。

「もう、我慢が出来ない!何とかしろ!」と最近電話で口癖の様にぼやいていた平尾。

三石代議士の事務所に行く回数が多いのと、挨拶廻りに連れて行かれるストレスが溜まっていた。

そんな最中、小久保が申し込んだ堀田が上手く罠に填ったので、早朝から拉致成功の知らせが届いたのだ。

予めレンタカーを準備する周到さが成功したのだ。



藤枝署の平田捜査一課長は、美優の話を参考にしてゴルフ場で殺されて遺棄されていた萩村沙織の事件を最初から洗い直しを始めていた。

何処かに美優が話した平尾達の足跡が残されているのでは?

その中で平田の目に止まったのが、ゴルフ場のプレーヤーだった。

当日のプレーヤーの中に平尾に関係が有る人物か、不協和音に関連する人物がプレーをしていたのでは?当時の記録を見に行った平田達。

「帰りが遅く成った人はどの人達ですか?」

「この4人の方が遅くまで風呂に入ってお酒を飲まれていましたね!」

名簿には小久保真也、垣田保、川本澄夫、菊池誠の名前が記載されていた。

「この川本と垣田って確か不協和音のリストのメンバーだったな!」

平田課長は直ぐに本部に問い合わせをした。

佐山係長が「菊池誠以外は全員不協和音のメンバーだ!その菊池も最後の一人の可能性が高い!」

「これでゴルフ場の死体遺棄は不協和音の連中の犯行です!」

「美優さんの推理通りの展開だな!今内の刑事が誘拐されて県警は総動員で犯人を追っている!」

「えー刑事を誘拐?」

「女性刑事が誘拐された!どうやら見合いをした様だ!」

「じゃあ、例の寿企画ですか?」

「その様だ!ゴルフ場の従業員の証言も詳細に集めてくれ!裁判で必要に成る!」



達磨結婚相談所に着いた美優は慌てた様子で新谷に合うと「早く、早く、見せて下さい!」

「美優さん!小久保さんが堀田さんを誘拐したなんて、冗談でしょう?良い家の坊ちゃんですよ!」

「坊ちゃんでも悪は悪です!何処ですか?」

「こちらです!」

美優は直ぐにパソコンの前に座って画面を覗き込む。

「ね!金持ちのお坊ちゃまでしょう?」

小久保真也、年齢32歳、父親は貨物船を所有する小久保船舶を経営、伊豆の堂ヶ島にはヨット、クルーザーを所有。

「これだわ!」

美優は直ぐに一平に「堂ヶ島に向かって、小久保は船を持っている様だから、そこに連れて行くかも知れないわ!」

「県警に連絡するか?」

「どちらに行くか判らないので、本隊を動かすのは、、、、」

「下田署の山脇さんに相談してみるよ!県警でよく会うので、、、」

「堀田刑事を助けてね!私の責任だからね!お願いよ!」泣く様に言う美優。

自分が持ちかけた見合い話で窮地に陥った堀田刑事、無事で帰って来て、、、、と願わずには、、、



「えっ、堂ヶ島に?今三石代議士のロッジだからな!交番の警官とか、交通課の助けも借りれば数十人は送れるが、、、」

「頼む!彼らが行く可能性が有る場所が多すぎる!」

山脇課長は署に連絡して署長に頼み込んで、警官の総動員を要請した。

一平は堂ヶ島に向かって飛ばし始めた。



一方伊藤刑事が向かった三石代議士の別荘でも、異変が起こっていた。

遠くから別荘を囲んでいた警官が「何か煙の様な物が見えます!」と騒いだ。

「あの別荘は留守の筈だが、誰か居るぞ!」

それは伊藤刑事が到着する寸前に起こっていた。

「誰か中に居るのは確かだが、迂闊に飛び込むと危険だな!」伊豆中央警察は躊躇していた。

「県警に指示を仰ごう!」

県警の静内捜査一課長は別荘の持ち主が三石代議士なので躊躇っていた。

美優の推理を信じていても、もし違っていたら自分の始末書では事は収まらない。

勿論大森署長も同じ運命に成る。

「どうしましょうか?」大森署長は聞いても直ぐには答えられない。

「君はどう思う?」

「美優さんの推理が正しいとは思いますが、もし違っていたら、、、、、」

「そうだよな!下の息子まだ大学生なのだよ!」

二人が話している署長室に佐山係長が飛び込んで来て「三石代議士の別荘が火事の様です!」と大きな声で言った。

「何――」

「火事だと!」

「直ぐに連絡をしよう!」署長は三石代議士の事務所に電話をかけた。



別荘では消防車のサイレンが鳴り響き、警官達も右往左往の状況だ。

「誰か居るのに間違い無い!突入する!」

玄関の扉を抉じ開け様とすると、中から咳き込んだ女性が飛び出して来た。

「大丈夫ですか?」

「中に一人気絶しています!助けて下さい!」

「貴女は?」

「わ、私は本間優花ですー」そう言うと伊藤刑事に倒れ込んだ。

クルーザー

    76-042

「何――本当か?本間刑事のお嬢さんが生きていたのか?」佐山係長の声が大きく県警内に響き渡った。

「今、救急車で病院に向かいました!もう一人の女ですが、煙を吸い込んで意識不明ですが病院に運びました!」

「女が一人だけか?別荘はどうなった?」

「小火で収まりました!中には何人かが生活していた形跡が有ります!現状の指紋採取も始まました」

横でやり取りを聞いていた静内捜査一課長が「ほ、堀田刑事は何処だ!」と騒ぐ。

静内捜査一課長の言葉を他所に、直ぐに本間刑事に佐山係長が電話をすると、泣き崩れて言葉が無かった。

どの様な姿でも帰ってきてくれたら良いと祈っていた本間刑事だった。



一方の一平も堂ヶ島に近付いていた。

地元の交番に行ってから、小久保のクルーザーを探す予定にした。

小久保達の乗った宅配の車は既に船舶部品倉庫にその姿を隠していた。

「お姉ちゃん!お目覚めかな?」荷物のボックスを開いて中の堀田刑事に問いかけた。

「うぅー」睨みつける堀田刑事。

「おい!小久保!お姉ちゃんがお目覚めだぞ!」小久保を呼ぶ垣田。

「御曹司!後半時間程で着く様だ!」そう言いながら小久保が荷台に入って来た。

「馬鹿な女だ!俺と見合いしてお付き合い?もう直ぐ御曹司が来てお前を抱いてくれるぞ!少し変わっているけれどな!御曹司に抱かれると死ぬほど感じるらしいぞ!」

「船に運んで置きましょうか?」

「そうだな!船に乗せれば逃げ場は無いからな!」

再び荷物ケースに入れられてリフトで車から降ろされる堀田刑事。

車から桟橋まで台車を転がしながら大きな荷物を桟橋の方に移動させた。



別荘の火事の件で三石代議士宅を尋ねる事に成った大森署長と静内捜査一課長。

「誰も居ない筈の別荘で火災ってどう云う事だ!」三石代議士は他人事の様に言った。

「今入った連絡によりますと、女性が二人発見されて二人共病院に収容されました」

「女が二人?何処の誰が人様の別荘に居たのだ!」

「一人は私達の同僚の娘さんで、もう一人は酒井佳子さんです!」

「何故警察の関係者が私の別荘に居るのだ?その酒井って女は誰だ?」

「先生がご存じの女性だと思っていましたが?」

「君!失礼だぞ!そんな女は知らん!その酒井とか云う女が私の知り合いだと言ったのか?」

「いいえ!煙を吸い込んでまだ意識が戻って居ません!」

その言葉に安堵の表情で「別荘に入る泥棒とか空き巣か?空き家に住み着く浮浪者も居るかな!警察の方でも巡回の頻度を上げて貰いたい!火災の状況はどうなのだ!」

「奥の一間がストーブの転倒で燃えて居ますが、消火が早く建物本体にはそれ程影響は無いと思われます!新建材が燃えたので有毒ガスが発生した様です」

「修理をしても駄目だろうな!縁起が悪い別荘だ!売る事にするよ!」三石代議士はそれ以上何も聞かずに二人を追い返した。

「後援会長の的場も切る準備に入れ!楠木会と共倒れでも良い!」秘書の菅井に告げる三石代議士は身の危険を感じ始めていた。

「それより、俊三はどうした?朝から見ないが?」

「早朝から何処かに行かれた様です!」

「まさか、また病気が出たのではないだろな?今は非常に危険だと言ったのに!」

「大丈夫だとは思いますが、別荘とかロッジは行かない様に先生がおっしゃったので、、、、」

「変な事だけ似ている困り者だ!」



「見つかった?」美優が一平の携帯に電話をした。

「地元の警察に頼んで小久保の船を探している最中だ!」

「三石の別荘から本間さんのお嬢さんが救出されたわよ!一緒に居た女は酒井佳子よ!もう直ぐ警察が本間さんに色々尋ねると思うわ!」

「そ、そうか!良かった!美優の推理が正しかったのだな!」

「狂った息子を早く捕まえて、堀田さんを助けてね!」

「判った!全力を尽くすよ!」



しばらくして平尾のレンタカーが堂ヶ島の町に入って来た。

外車では無いのでそれ程目立たない。

「小久保!待たせたな!もう犯したか?」

「いいえ!今回私は遠慮して置きます!」

「何故だ?」

「見合いで話をしたので、少し気にかかります!」

「お前にしては気が弱いな!ゴルフ場に捨てた女はお前が犯した後俺が止めをしてやったのに!まあいい!俺は最近飢えている!船に乗せたのか?」

その言葉に頷く小久保。

「よし、行くぞ!石廊崎沖で海に投げ込むか?」

「直ぐに見つかりますよ!」

「じゃあ、もう少し沖に行ってからだな!」

そう言って微笑むと、般若の面をバッグから出すと着けてみる平尾。

「久しぶりだよ!この面!」

「最近は能面が多かったですね!」

「この面は不協和音の時に着けていたからな!あの時は我慢が出来たのだ!だが今は我慢が出来ない!」

「それでその面を?」

「まあ、試しにだ!」

そう言いながらバッグに入れて、二人は倉庫を出て船着き場の方に歩き出した。

入れ替わりに警官と一緒に倉庫に一平がやって来た。

「ここが小久保の倉庫です!隠れるならここも考えられます!」

扉を叩くが反応が無い。

「船の方に行きましょうか?」

二人は船着き場に停泊している小久保のクルーザーを目指して歩き始めた。

その時、遠くの桟橋を見ていた一平が「船の近くに人が居ますよ!」と指さしいた。

海上の死闘

  76-043

「ほ、本当ですね!警官をこちらに来る様に言いましょうか?」

「騒ぐと人質が心配です!取り敢えず船舶を遠くで見守る様に指示して下さい!それと船を追わなければ成らないかも知れなので、船の手配も頼みます!」

「あのクルーザーを追いかけるならモーターボート位しか、難しいと思いますよ!」

「じゃあ、それでお願いします!」言い残すと一平は一人で急ぎ足に桟橋に向かった。

「おい!そこの二人船から降りてこちらに来なさい!静岡県警です!」と叫んだ一平。

「警察だ!直ぐに船を出港させろ!」

一平が桟橋に出た時、クルーザーは桟橋を離れて走り始めた。

「取り敢えず沖に迎え!」

「この船に追いつける船は少ないから、取り敢えず安心だが船を見られたな!」

「別に何をした訳でもないから、逮捕は出来ない!捕らえた女を連れて来い!」

そう言いながら般若の面を着ける平尾俊三。



「お嬢さん!御曹司が顔を見たいらしい!出て来い!」

荷物の袋から引きずり出す菊池と垣田の二人。

「手足は縛って置いて、猿轡は外してやろう!」

「ふぅー」大きく息をする堀田刑事。

鼠色のジャジーの上下で、手足を縛られているので身動き出来ない。

「貴方達不協和音のメンバーでしょう?」

「こりゃ、驚いた!不協和音を知っているのか?」

「それより私をどうする気なの?」

「御曹司に可愛がって貰え!我々は知らない!運が良ければ、、、、」

「どうした?騒いでいるのか?」

キャビンに入って来た般若面の男。

「強姦魔!は貴方ね!」

「威勢が良い女だな!足の結束バンドを外してやれ!出来ないだろう?」

「はい!」ハサミを持って堀田刑事に近付く菊池。

「切ってやるが、ここは海の上だぞ!逃げる事は出来ない!」

そう言いながら結束バンドに刃先を入れる菊池。

切れると同時に堀田刑事が菊池の身体を蹴り上げる。

「うぅー」蹴られて横によろけた菊池。

「威勢が良いお姉ちゃんだな!」

「静岡県警の刑事を捕まえるなんて、馬鹿じゃないの?」身構える堀田刑事。

「何!お前刑事なのか?」驚く様に言う平尾。

「そうよ!驚いた様ね!」

「俺は警察嫌いだ!お前らまた警察の女を、、、捕まえて海に捨てろ!」急に後ろを向いてキャビンを出て行く平尾。

「御曹司は警察が嫌いなのだよ!」

「山中も馬鹿だったが、小久保も失敗か?」

「そ、それって、本間刑事のお嬢さんの事なの?」驚く堀田刑事。

「あ、あの女刑事じゃないのか?」

「刑事の娘さんよ!お前達彼女を、、、、、」

「人質にして捕らえているが、騙されたのか?」

「お前も騙しているのか?」

「私は正真正銘の静岡県警捜査一課の刑事よ!」手を縛られているが、足は自由に成っているので身構えて話す堀田刑事。



「御曹司!モーターボートが追いかけて来ました!」小久保が運転しながら後方を見て言った。

「警察か?」

「その可能性が有りますね!」

「よし、女を海に投げ込め!」キャビンに怒鳴る様に言う平尾。

「刑事のお姉さん!水泳は得意か?」

そう言いながら垣田と菊池が近づいて、同時に堀田刑事を抑え込む。

「放せ!お前達!警察が怖くないのか!」騒ぐ堀田の身体を二人で抱え上げてスターンデッキに運ぶ。

「冷たいぞ!」

「魚の餌か?」

「おい!投げ込め!ボートが近づいている!」平尾が操縦席の窓から顔を出して怒鳴る。

「お姉ちゃーん!さようなら!」

「やめろーーー」

二人は堀田の身体をブランコの様に揺らせて勢いを付けると、一気に海に堀田刑事の身体を放り投げた。

「バシャー」と大きな音と同時に堀田刑事の身体が海に投げ込まれた。



後方のモーターボートから双眼鏡で見ていた一平が「人が投げ込まれた!救出するぞ!」

「逃げられます!」もう一人の警官が言う。

「停めろ!」モーターボートが速度を落とす。

海面を見る警官と一平。

「何処だ!」

「あっ、あそこです!」

モーターボートを近づけると、堀田刑事の身体が波間に浮かんでは沈む。

一平が上着を脱いで飛び込む準備をしてい居る。

「海水温が低いので気を付けて下さい!」

「県警に連絡して救急車を至急廻して貰え!」

それだけ言うとワイシャツのまま「ドボン!」と飛び込む一平。

しばらく探した一平は堀田刑事の姿を発見!既に海水温の冷たさで手が思う様に動かない。

「ボートをこちらに!」大きな声で叫ぶ一平。

浮き輪が次々投げ込まれてしがみ付く一平。

ひとつの浮き輪を堀田刑事の身体に着けて、沈まない様にすると自分も浮き輪に摑まった。

「おい!堀田!」顔を叩きながらボートに引っ張る。

警官とボートの運転手が手伝って引き上げる。

「生きているか?」警官が一平の呼びかけに頷いた。

微妙に動く堀田刑事を見て「助かった!」その一声を発して、一平は身体を浮き輪に託していた。

指名手配

  76-044

海上保安庁の協力でクルーザーを捜索したが、日没と共に打ち切られて平尾達を逮捕出来なかった。

明日もう一度大掛かりな捜索を海上保安庁の協力で行い。

各港にも大規模な非常線を張り巡らして、捕獲予定を立てた。



静内捜査一課長は堀田刑事の見舞いの帰りに「私はもう決めたぞ!警察を退職しても良いから、三石代議士と刺し違える!」と言い放った。

「私も覚悟を決めました!乗り込みますか?」佐山係長も堀田刑事の寝顔を見て決意を新たにしていた。



少し前、同じ病院に収容された一平を尋ねた二人。

病院には美優と美加が見舞いに訪れていた。

「パパ!大丈夫!」

「大丈夫よ!直ぐに元気に成るわ!」

「堀田君が助かって良かったな!」一平がベッドの上から言う。

「良かったわ!」しみじみと言う美優、自分の提案で堀田刑事に何か有れば責任は重大だった。。

「一課長!三石代議士と刺し違える覚悟が出来た様だ!」

「そう、それならこの資料を渡して貰おうかな?」

封筒に入れたワープロの用紙を一平に手渡した美優。



首絞め依存症

セックスの時、首を絞められて気持ちいいと感じた経験はありますか?本当は苦しいはずなのに、首を絞めることでどうして快感が生まれるのでしょう。

快楽と刺激を得られる「首絞めセックス」ですが、どのプレイよりも危険やリスクが伴います。その危険性をしっかり知っておくことも、責任のひとつです。絞める場所や力加減を間違えれば、人は簡単に死に至ります。それくらい危険なことなのです。

首を絞める時間に比例して危険性はどんどん高まっていきます。首を絞めることで脳に酸素が行かず、呼吸もできないため呼吸困難に陥ります。首絞めセックスは「苦しみが興奮に変わる」プレイなので苦しくても続行しがちですが、「気持ちよさの苦しさ」なんか「命に係わる苦しさ」なのかを常に見ていましょう。

首絞めセックスは高い中毒性があります。先ほどご紹介したように、快楽物質がだされることによりコカインと同等の中毒性を持っているのです。禁断症状こそありませんが、「首を絞められないとイケない」という状態になり、通常のセックスでは満足が得られないようになっていきます。そうした状態を「首絞め依存症」とも言います。

一般的に男性は首絞めセックスの際、「首を絞める側」であることが多く、いわば主導権を握る立場にあります。そんな男性が首絞めセックスにはまる理由とはいったい、何があるのでしょうか。絞められる側には快感が発生しますが、絞める側の男性がこの「首絞めセックス」にはまってしまう理由もしっかりあったのです。

首を絞める行為というのは、最悪の場合相手を死に至らしめる可能性もある危険な行為です。それをプレイとして取り入れ、自分の思い通りに首を絞めることができる征服感に「精神的快楽」を覚える男性が多くいます。「自分がここで強く首を絞めたら女性が死んでしまうかもしれない」という、征服している感覚が気持ちよくなるのです。



男性が首を絞めることで「征服感と支配感」を味わうことができるということは、女性はその逆で、「被征服感・支配されている感」を味わうことができます。

首絞めセックスによって、首を絞められることを好む女性にはM気質があるため、「相手にすべてを委ねている」といったシチュエーションに強く興奮や快感を覚えます。首を絞めることはあくまでプレイの一種ですが、一歩間違えば死んでしまうような状態で、「彼は殺さないでいてくれた」という事実に合いを感じ、クセになっていくのです。

プレイの最中だけでなく、プレイ後の解放感が溜まらなく気持ちよく、その気持ちよさにはまってしまうこともあります。首絞めをしている最中は一時的に呼吸が止まる、もしくは呼吸を強く制限されている状態にあります。そのためプレイのあとに彼が手を離した瞬間に、解放感がどっと押し寄せその解放感が癖になるのです。



セックス中の快感とはまた違った、何とも言えないすーっとした気持ちが心地よく、「生きている」「愛されている」という気持ちが満たされることでまた次も刺激を求めてしまうのです。

首絞めセックスをする、もしくはしたいと思っている男性には少なからずSの要素がありますから、女性を自分の手の中に収めているという事実が征服感と支配感を十分に満たすのです。S気質の男性にとって首絞めセックスとは、肉体的精神的ともに満たされることのできるプレイと言えます。



「あの親子がこの病気?」読み終わって尋ねる一平。

「息子の方はエスカレートしてしまったのよ!三石代議士と母親洋子さんの情事を子供の時に目撃したのだと思うわ!」

「5歳の子供には衝撃の光景だっただろうな!」

「本当の親子だと判っても鮮明に残る記憶だったのでしょうね!」

「一課長に渡して置くよ!堀田刑事が元通り元気に成って欲しい!本間のお嬢さん!自分が刑事だと言ったから助かった様だ!」

「平尾には刑事、警察は嫌いだったのでしょうね!不協和音の時警官に追いかけられていたからでしょうね!」



写真のメンバーが全て判明して、県警は全員を逮捕する命令を下した。

直ぐに柳田一は捕まり、他のメンバーも全国に指名手配された。

平尾俊三はこの中には含まれていなかった。

何故なら仮面を着けているので写真では照合出来ない事が理由だ。



翌日再び静内捜査一課長は佐山係長を伴って、三石代議士に面会を申し出た。

「君達の努力で連続殺人犯達が判明したらしいね!」三石代議士は他人事の様に言って二人を出迎えた。

「まだ逮捕はしていませんが、時間の問題だと思います!」

「全国に指名手配されたら、もう逃げられんだろう?」

「先生の後援会の会長も数日中に逮捕されますよ!」

「的場か!あの様な男に後援会の会長をさせていたのは、私の恥だなあ!事件が発覚する前に解任して今は静岡県の医師会の会長が私の後援会の会長だ!逮捕の前に知って良かったよ!」

「手回しが良いですね!」佐山係長が言った。

「私も後援会の一人一人の行動まで見ていないのでね!」

そこにコーヒーを盆に載せて、秘書の菅井が入って来た。

「紹介しておこう!秘書の菅井君だ!」

「秘書は息子さんの平尾さんでは?」

「息子の俊三は、私の地盤から立候補するのでな!これからは秘書を持つ立場だ!冷めないうちに飲んで下さい!」

「はあ!頂きます!」

「先生に読んで頂きたいと、美優さんから預かって来た物が有るのですが?」佐山係長が胸のポケットから封筒を取り出した。

「名探偵の誉高い野平美優さんが私に手紙を?」

「いいえ、違います!私達が貰った物ですが、先生に読んで頂けば今回の一連の事件の真相が判明すると思いましたので、、、」そう言いながらテーブルの上に置いて前に突き出した。

封筒を開け乍ら「事件の真相を私が知っても、仕方がないのだがね、、、、、」

読み始めると顔色が変わる三石代議士。

旅立ちの草履

 76-045

「息子さんのお母さんの平尾洋子さんに任意同行をお願いしております!」佐山係長がぽつりと言う。

美優の文章を読んで呆然としていた三石代議士が我に返った。

「何!平尾洋子を?彼女は何も知らん!関係の無い女性を呼んで、、、、、」

「では先生に出頭して頂きましょうか?」

大きなため息を吐くと三石代議士は諦めたのか?開き直ったのか?喋り始めた。

「警察は怖くは無かったが、あの美優とか云う探偵が怖かった!」

「それで何度も警察に?」頷く三石代議士。

「何処まで知っているのだ!」

「もう全てでしょうか?」

「そうか!息子は関係ない!全て私が指示をした事だ!」

「30年前平尾洋子さんを強姦したのでしょう?」佐山係長が言う。

「そんな、、、、事迄知っているのか?」

「先生の異常な性癖が洋子さんの夫殺しに繋がったのでしょう?」

「、、、、、」

美優の文章を書いた用紙を床に落とす三石代議士。

「昔、洋子は選挙事務所の仕事に来てくれた!アナウンサーをしていて声が良かったので、後援会の人の口添えで働きに来てくれたのだ!声だけでは無く容姿も素晴らしい美人だった。あれは選挙の打ち上げの翌日だった!後片付けで遅く成った彼女を暴力で襲ってしまった!それが運悪く妊娠をしてしまって、洋子も亭主の子供か私の子供か判らずに出産したのだ!血液型だけでは区別が付かなかったが、年々私に似て来る様に成ったのだ!洋子とは強姦後も時々会っていた」

「何故?」

「洋子も私のSEXが好きに成っていたのだよ!」

「えっ、首絞めがですか?」

「そうだ!それと同時に仕事人間の亭主よりも私に惚れていた!子供の俊三も私に懐いていたので、、、、仕方なく」

「そんな都合の良い話が、、、、、」静内捜査一課長も呆れる。

「しかし、美優さんが松尾の殺害まで調べてしまうとは思いもつかなかったよ!」

「幼い俊三少年が貴方達のSEXを見てしまって、衝撃を受けていた事を知らなかったのですか?」

「小学校で事件を起こすまでは洋子も私も全く知らなかった!先生から洋子が話を聞かされて驚いたそうだ!その後も何度か同じ様な事が有ったが、大事には至らなかった!高校を卒業した頃から不良グループに入り、いつの間にかリーダーに成っていた!」

「それが不協和音ですね!」

「或る時、行き過ぎてしまって強姦してしまった女に根付を取られてしまったのだ!俊三は私を頼って来たのでお金で解決する様に手を廻した!だが強かな女で手を焼いた!仲間を身代わりにして切り抜けたと思っていたが、根付で強請って来た!」

「それで暴力団楠木会と酒井佳子を使って事故に見せかけて殺害ですね!」

その時、佐山係長の携帯が鳴った。

県警からの連絡で、小久保のクルーザーを海上保安庁が拿捕した知らせだった。

佐山係長は敢えてその話をしなかった。

今度は静内捜査一課長の携帯が鳴った。

今度は平尾洋子の任意同行を依頼された所轄の警察署からで、平尾洋子が薬を飲んで自殺をしていた連絡だった。

テレビに不協和音のメンバー数名の乗ったクルーザーが拿捕されたニュースが流れた後の様だ。

二人の携帯での会話の様子に三石代議士は全てを悟っていた。

「私の後継に成れば病気が収まると期待したが、無理だった様だな!私の不徳の致す処だな!トイレに失礼するよ!」急に立ち上がる三石代議士。

応接を出る三石代議士を追う様に佐山係長が後を追った。

「トイレまで付いて来るのか?」振り返って佐山係長に両手を広げて見せた。

秘書の菅井も一緒に佐山係長と付いて行く。

後ろ姿はもう老人そのもので、全ての力を失った事が背中に滲み出ていた。

トイレの前で振り返って「美優さんに伝えてくれ!恐れ入ったとな!」そう言い残してトイレに入った三石代議士。

菅井と佐山の無言の時間がしばらく続いて「あっ!しまった!」佐山係長が叫びながらトイレの扉を叩いた。

しかし、何も音が聞こえず、菅井がその場に項垂れて座った。



三石代議士の遺体が発見されたのは、しばらくして扉が壊されてからだった。

トイレの中に青酸性の毒物を準備していた様で、覚悟の自殺だった。

「一課長!申し訳有りませんでした!」佐山係長が誤った。

「多分色々な場所に準備していたと思う、、、、防ぎ様は無かっただろうな!」



指名手配の不協和音の面々は次々と逮捕された。

ニュースに三石代議士の死亡が伝えられると、捕らえられていた楠木会の暴力団が近藤芽衣の偽装殺害を自供した。

三石代議士の命令で仕方なく殺した。

捜査の混乱を狙って、見合いの相手武内悟を雇って殺害したと語った。

逮捕された平尾俊三は三石代議士と母洋子の自殺を聞いて狂った様に暴れたが、その夜所轄の牢で両親と同じ様に青酸性の毒物で自らの命を絶って亡くなっていた。

何処に薬を持っていたのか事前の身体検査では発見されなかった。



数日後「美優さん!事件が解決して良かったな!美優さんの活躍で我が社の汚名も返上で来た!松尾の死の真相も暴かれた本当にありがとう!」美優の携帯に聞き覚えの有る声が弾んで聞こえた。

「須藤会長!朝からどうされたのですか?ご丁寧なお礼を!」

「あの孫が見合いの彼女を気に要りまして、結婚をしても良いと言って来たのですよ!」

「えっ、亮君が?加奈さんと?」

「そうだよ!しっかりしたお嬢さんだから、将来須藤建設をしっかり守って下さるでしょう?何と云っても金の草鞋ですからね!」

「そうでした!一歳上でしたね!」

「あの不良の孫が嫁を貰う気に成ってくれたのは美優さんのお陰だ!感謝しています!」

「おめでとうございます!」久々に美優の声も弾んでいた。



死人に口無しとはよく言ったもので、不協和音の逮捕されたメンバーも楠木会も揃って三石親子に罪を全て持って行って、自分達の罪を少しでも軽減させ様と必死だった。

その話は全て美優の推理の範疇に収まっていたので、改めて県警本部は美優の推理力を称賛した。

寿企画もこの事件を切っ掛けに大幅に規約を改善したのだった。



                          完



                       2023.11.12

強姦殺人連鎖

強姦殺人連鎖

静岡県警捜査一課は久々に事件の無い時を過ごしていた。 所轄から転勤して来た本間刑事は45歳の女性刑事、彼女には三人の娘が居て長女の優花は早々と結婚願望を持って、結婚相談所に登録していた。 そんな優花がある日を境に消えてしまった。 熱海の証券会社に勤めているのだが、自宅から片道二時間もかかる。 何か事件に巻き込まれたか?手掛かりを求めて身内の捜査に静岡県警の面々が捜査を始めた。

  • 小説
  • 長編
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-11-21

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 見合い
  2. 結婚相談所
  3. 強姦殺人
  4. 見合いの規則
  5. 重要参考人
  6. 須藤家の息子
  7. 更なる遺体
  8. 静岡の名士
  9. 足取り
  10. 不協和音
  11. 不気味な影
  12. 集団自殺
  13. 乗り込む美優
  14. 協力者
  15. 亮の縁談
  16. 推理
  17. 驚く
  18. 不安
  19. 難航
  20. 年上の妻
  21. 捜査混乱
  22. 理想の相手
  23. 写真
  24. 美優の考え
  25. 事件の確信
  26. 平然と
  27. 後継者
  28. 墓穴
  29. 面打ち師
  30. 事件の匂い
  31. 根付
  32. ニアミス
  33. 外堀
  34. 囮作戦
  35. 相談所に登録
  36. 乗り込む美優
  37. 動き出す捜査
  38. 好奇心
  39. 拉致
  40. 総動員
  41. 火災
  42. クルーザー
  43. 海上の死闘
  44. 指名手配
  45. 旅立ちの草履