強姦殺人連鎖

杉山 実

美優&一平シリーズ

見合い

  76-01

「な、なんだ!」一平が深夜飛び起きる。

「地震よ!まだ揺れているわ!」美優が青白い顔をして不安そうに揺れる天井の蛍光灯を見ている。

「美加は大丈夫か?」

「見て来るわ!」美優がベッドから立ち上がろうとした時、再び大きく揺れる。

「きゃー」一平に抱きつくと、一平も青白い顔で不安そうな目で揺れが収まるのを待って居る。

「美加大丈夫かな?」青白い顔でもう一度立ち会がると美優は隣の部屋に向かった。

「美加!大丈夫?」声を掛けると「ママ!どうしたの?ブランコに乗っている夢を見ていたのよ!」笑みを溢す。

その姿を見た時、一平も部屋に入って来て「美加は大物だな!」と笑った。

テレビを見ると震源地は千葉県沖で静岡は震度4だと報道されていた。

「あれで震度4なのか?5位に思ったな!」一平が言う。

「それぞれの置かれた環境で感じ方は変わるのよ!」

この美優が言った言葉通りの事件が数日後に発生するとは、この時二人に判る筈も無かった。



「夜の地震は怖かったな!」県警に行くと署内は昨夜の地震の話でもちきりに成っていた。

佐山係長が新聞を読みながら「一平!お前も娘が居るから将来は大変だな!」

「何がですか?」一平が新聞を覗き込む。

「結婚だよ!最近は結婚しない若者が増えているらしいぞ!もっとも美優さんに似ていたら安心だろうがな!」

「何故ですか?」

「美優さんは美人だから、男がほって置くわけないからな!」

「それって俺に似たら貰い手に困るって事ですか?」

「この結婚相談所全国組織でもの凄い会員数だな!大金持ち?」

「儲かるでしょうね!一度見合いさせたらお金が転がり込むのでしょうね!」女性刑事の本間祐子が口を挟む。

最近所轄から転勤して来た女性刑事ではベテランの45歳。

「私の娘もこの寿企画の会員に最近入ったのですよ!でもフランチャイズで地元の仲人さんの達磨結婚相談所です、寿企画は情報提供だけで配下の仲人専門業者が殆ど業務を行うのです」

「本間刑事の娘さんは幾つなの?」

「今年大学を卒業した娘と下も今三年生ですから、女が三人なのです!恋愛出来る程活発な子ではないので、この様な処に登録する必要が有ると思うのです!」

「女三人か?」伊藤刑事が口を挟む。

「伊藤さんの奥様の様な美人なら引く手あまたですけれどね!」

捜査一課は今事件が無いのでこの様な雑談が出来る穏やかな日々が、約一か月以上続いていた。

「旦那さんは郵便局でしたね!」

「はい!」

「娘さんは何処に就職されたの?」堀田刑事が尋ねた。

「優花は証券会社に就職しました!毎日熱海まで通っています」

「証券会社って高給でしょう?」

「さあ、判りませんが本人は早く辞めて結婚って話していますよ!」

「遠いですね!本間さんの自宅は焼津でしょう??二時間?疲れますね!」

「それも嫌な原因ですかね!遅い時は深夜に成る時も有りますよ!」

勤め始めて半年が過ぎてから優花はその様に言い始めて、焼津の結婚相談所に登録をした。



達磨結婚相談所で新谷浩美と云う、昔で言えばお節介な世話好き叔母さんが経営している寿企画のフランチャイズ店だ。

二か月前、電話で尋ねると翌週の日曜日に自宅を訪れて、優花に会わせて欲しいとやって来た。

システムの説明を聞くと全国組織の寿企画に登録すると、会員の写真と簡単な説明が閲覧出来る。

その中で気に入った男性が見つかったら、お気に入りに入れて考えてみる。

見合いを希望の場合は見合い希望すれば相手に自分の意志が届く。

そして相手が見合いを承諾すれば、近くの喫茶店で見合いに成る。

この時点では仕事、住所、家族の事は絶対に言わない事が条件に成る。

時間は僅か一時間で、直感だけの勝負なのかも知れない。

コロナ感染のと遠方の人との見合いの場合は今流行りのオンラインでの見合いも出来る。

見合い後お互いが付き合う意思を示せば、この時から住所とか仕事、家族関係等もお互いに話す事が許されるのだ。

これが寿企画の見合いのルールだった。



「先々週!娘はお見合いをしたのですよ!」

「そうだったのですか!それでお付き合いを?」堀田刑事が興味津々尋ねた。

「先方は気に入ったらしくお付き合いを申し込んだのですが、娘は顔が怖いとか言って断ったのですよ!」

「そうでしたか、それは残念でしたね!」

「娘が言うには、若くて登録したのは良い旦那様を吟味する為だと言うのですよ!私が見合いは遊びでは有りません!と叱ったのですが、お金を払っているのだから吟味するのが良いと言いまして困った娘です!」

「今時の娘さんですね!」

「確かにうちの娘の年齢の女の子の登録は少ない様です!婚期が30歳前後ですからね」

「でも最近の見合いって本人だけが対象なのですね!昔なら家の釣り合いが合うとかが一番だった様な気がしますがね!」静内捜査一課長がいつの間にか話の中に入っていた。

「その昔は顔も見ないで嫁いだ娘さんも居た様です!」佐山係長も今時の見合いに驚いてしまった。



数日後、その本間刑事の娘優花が深夜に成っても帰宅しない事態が発生した。

優花の携帯も切られているのか繋がらない。

本間刑事は証券会社に電話をしたが、留守番電話で繋がらない。

時間は既に12時を過ぎて夜中の一時に、、、、、、

結婚相談所

娘の失踪

       76-02

翌朝、本間刑事は家庭の事情と言って県警に休暇を申し出て、娘優花の足取りを追う事にした。

誘拐、事故が頭に浮かぶが、朝から何度携帯に電話をしても繋がらない。

娘二人も一緒に心当たりに電話をして探すが全く手掛かりらしい物は見つからなかった。

朝9時過ぎに熱海のEXG証券会社に向かう本間刑事。

支店長の飯島が応接に招き入れたが、昨日は比較的早く終わって7時前には支店を退社したと答えた。

自宅迄の距離が遠いので、優花は殆ど真っすぐ自宅に帰る事が多いと同僚も教えてくれた。

熱海支店は従業員が15名程で、女性社員は6名で独身の女性が殆どで会計の水木正美が40代で既婚だった。

本間刑事は証券会社を出ると、熱海の駅前で数か所尋ねたが娘の目撃情報は無かった。

駅員に尋ねると何度か見たが、昨日の夜見たかと言われると定かでは無かった。

改札の通過記録なら定期券で判ると調べて貰えた。

すると7時10分に改札を入っているが、その後定期券が使われた形跡が無い事が判明した。

「電車の中で消えた?」本間刑事は途方に暮れた。

家族も全員色々な友人知り合いに尋ねたが、手掛かりらしい事は何も見つからない。

その日も暮れて家族全員頭を揃えて「お母さん!刑事さんなのだから、県警の仲間に助けて貰ってよ!何か事件に巻き込まれていたら手遅れに成るわよ!」高校生の美弥が泣きながら訴える様に言う。

「二日も連絡が取れないのは、何か事件に巻き込まれたのだよ!お母さん!警察に言おう!」父賢吾も我慢出来ずに言った。

その日の夜本間刑事は思案を重ねて、深夜に成って野平刑事の携帯に電話をかけた。

呼び出し音に「おいおい!今頃の時間の電話は事件か?」時計は11時を既に過ぎていた。

「誰だろう?」着信画面に見慣れない番号を見て首を傾げる一平。

(もしもし、野平ですが)

(夜分申し訳有りません!本間です!)

(あっ、本間さんでしたか?身体の具合は如何ですか?)

(身体が悪いのではないのです!本当は佐山係長に言うのが筋ですが、野平さんには有名な奥様がいらっしゃるので、、、、、)

(美優に何か話が有るのですか?)

(いえ、そうじゃなくて、、、、)

(どうされたのですか?)

(上の娘が昨日から帰らないのです!連絡も有りません!)

(えー、確か証券会社に春から勤められている方ですよね!)

(はい、今日一日熱海の支店から足取りを追ったのですが、7時10分に熱海駅の改札に入って、その後何処にも下車した形跡が無いのです!家族総出で心当たりを探したのですが、判りません!警察に捜索届を出すべきか悩んでいます!)

(そ、それは大変だ!急いで捜索願を出して下さい!直ぐに関係先には手を打ちます!明日娘さんの写真を県警に持参ください‼事件に巻き込まれたとか、事故で無い事を祈ります)

(どうぞよろしくお願いいたします)

本間刑事は刑事から普通の母親に変わっていた。



電話が終わると一平は美優に今聞いた話を詳しく話した。

「じゃあ、熱海の駅の改札を入った後、行方不明なのね!」

「改札をどの様にして出た?まだJRの区間内の何処かに居るのか?」

「そうね!取り敢えず朝から熱海から焼津までの駅の構内を徹底的に調べる必要が有るわね!」

「二日だよ!トイレでも殆ど調べただろう?掃除もするだろうから、、、」

「でも駅の数は多いから、もしかして使用中でそのままとか?」



翌日早朝から静内捜査一課長の号令で捜査一課全員が手分けして駅の点検を始める事に成った。

偶々事件も無かったので、静内課長も部下の家族の失踪に力を注ぐ事に成った。

だが深夜まで捜索して、各駅の職員も手伝ったが全く手掛かりも得られなかった。

「皆さんありがとうございました!」涙を流しながらお礼を言う本間刑事の姿が痛々しい。



翌日から優花の交友関係、職場関係を徹底的に調べたが失踪の理由すら判らない。

唯一伊藤刑事と白井刑事が、証券会社の店頭に居た客の一人が優花に似た写真を見せて「この女性はこの店に居ますか?」と尋ねた若い男が居たと証言した。

その写真はそれ程鮮明でなかったので「判らない」と答えたら、直ぐに店を出て行ったと話した。

「鮮明で無いので不確かだな!」佐山刑事が二人の話の辛評性を疑った。



一平は自宅に帰って美優に今日の僅かな成果だったと話すと「変な話ね!写真を見せた男性は幾つ位の人なの?」

「若い男だと言ったな!それが何か?」

「鮮明で無い写真ってカラーコピーの様な物なのかもね!」

「雑誌のコピーか?」

「例えば何処かの証券冊子に彼女が紹介されたとか?テレビとかネットから写真にしたか?」

「変なストーカーか?」

「でも驚く様な可愛い子でもないから、追っかけの男性が居るかな?」

「美優の様な美人なら危険だがな!」

「そんな事なら久美さん、外を歩けないわよ!」

「美人ではないけれど、可愛い感じだから好きに成る男は多いかも知れないぞ!」

「最近彼女に変わった事は無かったの?」

「娘さんの話殆ど聞かないからな!でも先日暇な時、結婚相談所に登録した話を聞いた位だよ!」

「まだ22か3でしょう?早いわね!」

「結婚願望が有るらしい!見合いも一度経験したって聞いたな!」

「それは駄目だったの?」

「その様だな!」

「何処の結婚相談所?」

「寿企画って大手の婚活サイトだと聞いたな!」

美優は早速パソコンを開いて調べ始めた。

強姦殺人

強姦殺人

    76-03

しばらくパソコンを見ていた美優が「凄い登録者数ね!8万人以上だってさ!」

「何が?」

「寿企画の会員数よ!」

「今回の本間優花さんの失踪と関係有るのか?」

「最近見合いしたと言ったから、気に成っただけよ!」

「その寿企画の会員だけど、実際は焼津の達磨結婚相談所って処に登録する様だ!でも結構規約が複雑だったな!」

「どの様な決まりなの?」

「良く判らないけれど、見合いしても相手の事が判らないらしい!」

「えー、変な見合いね!」

「そう、聞いていて訳が分からなく成ったよ!相手の名前程度しかお互い知らないらしい!」

「いわゆるネット見合いの様な事なのね!」

「お互いが気に要る迄お互いのプライベートは秘密だって!」

美優は何故か一度達磨結婚相談所に行きたいと思った。



翌日も捜査本部は所轄を総動員させて、熱海から焼津までの区間の防犯カメラを総点検させた。

電車の乗り降りの画像もチェックされた。

その結果熱海駅のホームに居る優花の姿は確認されて、19時25分の島田行に乗った事が判った。

監視カメラを詳しく調べたが、その後何処の駅にも降りた形跡が無かった。

「何処に消えた?」

「21時14分に焼津に着く筈ですよ!」

「そこから自宅迄自転車で5分程ですから実際は2時間以上なのですね!」

「駐輪場の自転車はそのままでした!」

「電車の中で誰か知り合いと会ったのかな?」

本間刑事は過労で病院に行って留守。

優花が消えてから殆ど一睡もしていなかったので、夕方倒れて病院に運ばれていた。

「乗り換える時でも一旦電車を降りるだろう?5号車を中心に調べたが他の号車に移動して乗り換えた形跡は無いのか?調べたのか?」静内捜査一課長が苛ついて言った。

「乗り込んでいた車掌は彼女を覚えていないのか?」

「覚えていませんでしたね!他の号車に移動して降りた形跡も有りませんでした」

「公開捜査に踏み切るか?」

「事件では無いが、公開捜査にした方が情報は集まり易い!」

だが佐山係長がもう1日待って欲しいと進言して公開捜査は1日延期された。

若い娘の実名公開捜査は、その後に大きな傷を残すので慎重に成った佐山。

小さな子供と違い若い女性の場合、性的誘拐も充分考えられるので将来の事を考えると踏み切れなかった。



夜一平が会議の話を美優にすると「何処にも降りた形跡が無ければ終点まで乗ったの?」と口走った。

「確かに!焼津までしか調べていないな!島田まで10数分だけど、西焼津、藤枝、六合、島田が有るな!この4駅で変わった事が無かったか調べてみる必要が有るな!」

「警察は彼女の通勤区間だけを調べたでしょう?」

「確かに先入観が有ったな!」



翌日一平の提案で4駅を県警と所轄で調べると、藤枝駅でマスクをした不審な男女三人が降りた事が判明した。

監視カメラを分析したが、マスクで人相が確定出来ず優花さんとは断定出来ない。

だが女性の身体を男性二人が抱き抱える様に歩いているので、意識が無い可能性も有る。

その時間の駅員は遅番なので、その時の様子を聞きに夕方向かった。

堀田刑事と白井刑事が柳田と云う駅員に面会すると「そのお客さん覚えています!確か女性が高熱でコロナの可能性も有ると連れの男性が話していましたね!私も感染は困るので少し離れたのを覚えています!」と答えた。

柳田さんは自動改札の横の改札に居た様で、男性の一人から三枚の乗車券を受け取ったと証言した。

「女性は意識が有りましたか?」

「男性が近くに救急病院が有るか尋ねましたね!でも私は判らなかったので消防署で聞く様に言いました」

二人は志太消防署に電話をして向かったと思うと証言した。

だが、その様な電話を受けた形成が無かったので、藤枝消防署にも連絡をして管内でその様な電話を受けたかを確認した。

男性の救急要請は同じ頃有るが、女性の問い合わせは皆無だった。

「この三人組が怪しいですね!」

この連絡で藤枝警察署に県警から捜索命令が下された。

夕方から藤枝駅を中心に三人の足取りを追うが、タクシーを使った形跡が無いので車を準備していた可能性が高い。

静岡県警は拉致誘拐の事件として捜査本部を設置する事に成った。

その事実を聞いた本間刑事は娘が無事に帰る事を祈った。



数日後、本間刑事が卒倒する様な報告が捜査本部にもたらされた。

藤枝ゴルフクラブ場の雑木林の中で若い女性の絞殺死体が発見された。

藤枝警察署が現場に駆け付け、行方不明の本間優花さんだと思っていた。

「これは写真とはかなり違うな!身元の判る物は無いのか?」藤枝警察の平田刑事が指揮をしていた。

「身元の判る物は有りませんが、明らかに暴行を受けていますね」

衣服の乱れからレイプされて絞殺されたのは明らかだった。

早速県警に行方不明の本間優花さんでは有りませんと連絡した。

身元不明の死体として解剖に移送された。



夕方捜査本部が藤枝警察署に設置されて、県警から白井と堀田刑事が捜査会議に出席した。

冒頭死因はベルトの様な物での絞殺で死後一日程度、複数の男性による強姦と発表。

被害者の年齢は20歳から25歳前後。

「本間さんのお嬢さんで無かったな!」と取り敢えず安心した二人。

見合いの規則

 76-04

「この藤枝駅を出る三人、もしかしてこの身元不明の女性かも知れないぞ!」

捜査本部で映像を見ながら佐山係長が唸る様に言った。

「そうですね、二人の男にレイプされている日時が一致しますね!」

「じゃあ、本間さんのお嬢さんは?」

「判らない!」

「身元不明の女性の歯の治療跡を明日から調べる様です!」

「何か判る特別な治療が有ったのか?」

「矯正治療をしていた形跡が見つかった様です!」

「身元は比較的早く判るな!」

県警は本間優花さん拉致誘拐で捜査本部が有るので、藤枝駅の改札の三人がこの殺害された女性なら全く振り出しに戻る。

捜索願が出ている県内のこの様な事件に該当する年齢の女性は8人存在する。

早速県警は8人の自宅に電話をして、歯の矯正の有無を尋ねた。

「係長!三島の萩村沙織さんが矯正しているそうです!」

「三島警察に連絡して確認をして貰え!データの写真は多少異なるが、血液型等は一致している!」

失踪届の写真と今回の絞殺死体の写真は異なるが、死人と生きている写真では多少異なるのが当たり前だった。

「二週間前の失踪届だな!」佐山係長がデータを見ながら詳しい沙織の事を調べる。

年齢25歳、職場は熱海信用金庫本店、帰宅時に失踪。

「本間優花さんと同じだな!」口走る佐山係長。

金融機関に勤めているのが共通で、もしかして犯人は勤め先で見ている可能性も高いと佐山係長は考えた。

窓口業務なら不特定多数の人の目に晒される。

写真で見ると二人共美人と云うより愛嬌の有る顔立ちで共通していた。



その頃美優は気に成った達磨結婚相談所を訪れていた。

いかにも世話好きと思われる女性が自宅の横に小さな看板を出している。

「初めまして、野平美優と申しまして昨日電話を差し上げた者です!」

「どうぞお入り下さい!」

インターホンの向うから聞こえる。

ドアを開いて入ると「右の応接にどうぞ!」奥から声が聞こえた。

10畳位の応接間に、カップルの写真が飾られて自分が纏めたと誇らしげに飾られていた。

写真を見ていると「相談所の新谷浩美です!」と背中から挨拶が飛んで来た。

振り返って見ると50代の叔母さんが笑顔に成っていた。

「野平美優と申します!」と頭を下げる美優。

「まあ、綺麗な方ね!直ぐにお相手は見つかりますよ!貴女の好みをおっしゃって!」

一目見てこの女性なら縁談が纏まると思ったのか浩美は矢継ぎ早に言った。

「あの、お見合いを申し込みに来たのでは有りません!」

「えっ、見合いじゃあないの!」残念そうに言う浩美。

「で、何なの?妹の縁談?」また微笑みながら言う。

「こちらに登録している本間優花さんの事をお聞きしたいと思いまして」

「本間、本間優花さん、、、」考えて「少し前に見合いされた方ですね!」

「は、はい!」

「その本間さんの何を聞きたいの?教えられない事も有りますよ!」警戒する。

「相手の方の事をお聞きしたいのです!」

美優の顔をじろじろ見ながら「もしかして、もしかして有名な美優さん?」声のトーンが変わった浩美。

「は、はい!」笑顔で答える。

「何故、有名な探偵奥様が、、、これは驚きだわ!」興奮する浩美。

「コーヒーにする?お茶?」急に態度が変わった。

「お構いなしでお願いします!」

「そうはいかないわ、サイン貰わないと、、、コーヒー入れて来るわね!」

勝手に喋って勝手に消えた。



しばらくしてコーヒーを持って来て「その本間さんに何か有ったのですか?美優さんが来られているから事件?藤枝の殺人事件?若い女の子が絞殺されたのでしょう?」

「藤枝の事件は別人ですよ!」

「良かったわ、見合いをさせた女の子が殺されたら気持ち悪いわ!」

「コーヒーどうぞ!」

「ありがとうございます!今日伺ったのは本間さんのお見合い相手についてです!」

「ちょっと待ってね!」本棚から資料を取り出す浩美。

「何が聞きたいの?」

「相手の名前住所、職業程度を聞きたいのですが?」

「名前は山中智博さん、30歳、住まいは三島市ですね!職業は会社員で営業ね!」

「詳しい仕事とか住所は?」

「判りませんね!山中さんは三島結婚相談所に登録されていますので、見合いで本間さんが断られたので、それ以上の情報は有りません!」

「えっ、相手の職場も住所も家族構成も判らずに見合いするのですか?」

「家族は判りますよ!両親と弟さんがいらっしゃいますね!」

「お仕事は?」

「会社員と書かれていますね!」

「それだけですか?」

「はい!寿企画では最初の見合いでお互いが気に要るまでは、詳しい家庭環境も仕事も教えないのですよ!」

「仲人さんも知らないのですか?」

「はい!この三島の仲人さんは毛利さんとおっしゃって、堅物の叔父さんで寿企画の規則を忠実に守る方ですよ!」

「すると、見合いの席でも聞かないのですか?」

「規則で趣味とかの話はOKですが、職場、住所、家庭環境は話してはいけない事に成っています」

「見合いって変な事をするのですね!仲人さんも聞かないのですか?」

「毛利さんは絶対に教えませんね!」

「そうですか」美優は呆れてしまい、コーヒーをご馳走に成ると毛利さんの連絡先だけ聞いて退散した。

重要参考人

 78-05

夕方に成って遺体の身元が萩村沙織、25歳と両親によって確認された。

同時に鑑識で発表されたのは、強姦の犯人の血液型でO型とA型と発表された。

「二人の男性にレイプされて絞殺されているが、拉致されて一週間以上何処かに監禁されていたと考えられる!」平田捜査一課長が捜査員に説明した。

「レイプされたのは絞殺の前ですか?」

「O型の男が殺害前の男らしい!変態野郎の反抗だろう!」

「身体に傷も残って居た様ですが、暴行監禁の形跡有りですね!」

「拉致誘拐されてから数日間、何処かに監禁されて殺されて遺棄された様だ!」

「熱海駅の防犯カメラの映像では5時過ぎに改札を入っている!だが何処にも姿が無いのだ!」

「本間優花さんと全く同じですね!」会議に出席している白井刑事が発言した。

「その様ですね!二人共熱海駅の改札を入った後消えていますね!」

会議では沙織さんの交友関係を中心に捜査をする事に成ったが、本間優花と萩村沙織に面識が無かったのか?同じ熱海の駅近くに在るので知り合いの可能性は無いのか?を中心に調べる事に成った。

ゴルフ場近辺の監視カメラの情報も細かく分析された。

遺棄された日、ゴルフ場は定休日で関係者がコースの整備に来た程度だった。

早朝からコースの手入れをした作業員が遺体を発見したのだ。

死体の遺棄は前日の夜、プレーが終わった後に行われた事は明白だ。

クラブハウスから一番遠くで、人目に付き難い10番ホールの雑木林の中で、翌日メンテナンスが無ければ数日間は発見されていなかったと考えられた。

「夜、この辺りを走る車は皆無で、ゴルフ場の監視カメラにも最後に帰った客の後は従業員の車だけですね!」

「昼間のプレー客は多かったのですか?」白井刑事が尋ねた。

「平日だから10組程度だった様だ!最後の客が帰ったのが7時だったらしい!」

「遅い帰宅ですね!」

「プレーの後風呂に入って、酒を飲んでいて遅く成った様ですね!」

夜から翌日の早朝にこの辺りを通行した一般車はゼロで、新聞配達のオートバイが朝6時に来た位だと説明がされた。

「でもこのゴルフ場の10番ホールに行くには、車ならこの道一本しか無い。あと考えられるのは、監視カメラに映らない様に歩いて運び込む方法が有る。その為離れた場所での聞き込みを始める」と平田捜査一課長が結論づけた。



一平達は本間優花さんの交友関係と足取りを手分けして探していた。

だが本間さんと萩村さんが知り合いだった事実はなかった。

熱海警察署の岩谷刑事もこの事件について、静岡県警からの要請で二人の熱海での行動を調べる様に指示されていた。

捜査本部は県警と藤枝署なので、応援と云う立場での参加だった。

その中の話で信金の中で萩村沙織が自慢の様に、美男子とお見合いをすると話していた事実を聞き込んだ。

その自慢話は亡くなるひと月前位に成る様だ。

岩谷刑事はその話を熱海に来た一平に話した。

「その見合いは実際にしたのですか?」

「その後の事は行員も聞いていない様で、沙織の自慢話で終わった様です!」

「でも似ているな!本間刑事の娘さんも見合いをした様ですね!」

「見合いと今回のレイプ殺人関係有るのでしょうか?」

そう言われると全く場所も異なる二人、同じ相手との見合いなら何か有るかも知れないが、本間優花さんの相手は写真と異なって怖い顔って聞いたので、全く別人だと思う一平。



夜帰ると美優に見合いの自慢話をする一平。

「その美男子との見合いは無かったの?」

「その様だな!俺も本間のお嬢さんの事が有るから気に成ったのだけれどな!」

「見合いの話もう少し詳しく聞いて貰えない?寿企画を使っていたら全く同じなのよ!」

この時、三島は本間優花さんの見合い相手の三島結婚相談所のエリアだった事が気に成る。

でも美優は自分が達磨結婚相談所で聞いた話は言わなかった。

捜査を混乱させてしまうので危険だった。

毛利さんと云う堅物の叔父さんに会う必要が起こる気がしていた。

美優は先日聞いた段取りで見合いをしていて、優花さんは断ったのだから相手の男性は優花さんの仕事も住所も知らない筈だ。

そうなると見合いは全く事件とは関係ないのかな?



翌日、一平が沙織の自宅に連絡をして確かめると寿企画に登録をしていたと答えた。

「見合いはされたのですか?」

「はい!一度見合いをして、大変喜んでいたのですが先方から断られたので、娘は大変ショックを受けてニ三日喋りませんでした」

「事件の前にはもう元気に?」

「それが、見合いから一週間後位から急に明るく成ったので、喜んでいた矢先に今回の事件に巻き込まれて、、、、、」沙織の母、萩村奈緒美は涙ながらに答えた。



一平は沙織の母に聞いた事をlineで送った。

本間優花さんは見合い後断って行方不明、萩村沙織さんは断られて殺された。

全く違うが、どちらも寿企画が関係している。

そして三島結婚相談所絡み?

美優はlineで萩村沙織さんの登録していた結婚相談所は三島結婚相談所なのかを聞いて欲しいと送った。

しばらくして一平から(違うよ!ILB結婚相談所!今回の事件が何故結婚相談所に関係が有るのだ?亡くなられた家族に聞き難い)と返信が帰って来た。

美優の予想は大きく外れて初めて聞く相談所の名前だった。



ゴルフ場での遺棄に関係した有力な情報が、藤枝署にもたらされて刑事達は沸き立っていた。

ゴルフ場整備の為に早朝、ゴルフ場のダンプカーが一台砂を運んでいるのだが、運転手の鈴木恭二は過去に婦女暴行で逮捕歴が有る。

「鈴木がダンプの荷台に載せて遺体を運んだ可能性が有る!鈴木の周辺を監視しろ!共犯の男が必ず居る!」

須藤家の息子

 76-06

「鈴木の血液型はO型!もう一人の相棒がA型なら確実だ!」

藤枝署の刑事達は鈴木の行動を絶えず監視していた。

鈴木が事件を起こしたのは8年前で、暴行はしていたが殺人はしていない。

今のダンプの仕事に就職して一年弱で、比較的真面目に働いていた。

「昔暴行した女性と萩村沙織さんは少し似ている様に思うのだが、みんなの意見はどうだ!」捜査会議で古い写真を取り出して決めつけた様に言った。

白井刑事が「前科が有るので疑われるのは仕方有りませんが、顔に関してはそれ程似ているとは思いません!」

「県警さんの意見として聞いて置きますが、今にしっぽを掴みますよ!」と強気の平田捜査一課長。



一方の本間優花さんの足取りは全く判らず日にちだけが過ぎ去っていた。

公開捜査に踏み切ると静内課長が我慢の限界に達した。

本間刑事も捜査一課長の説得で公開捜査に同意して、翌日マスコミに発表された。

記者達は揃って萩村沙織さんとの類似点が多いので、同一犯の犯行ではとの質問が飛んだ。

静内捜査一課長は、口を滑らせて「萩村沙織さん殺害は重要参考人が浮かび上がっているので、監視中で同一犯なのかは直ぐに結論が出る」と口走ってしまった。

この発表を聞いていた美優は「不味い事を言っちゃったわ!」と言った。

近所に住んでいる伊藤刑事の妻、久美が遊びに来て一緒にテレビを見ていた。

「どうして不味いの?」

「犯人が警戒をしているのに、重要参考人が見つかっている様な事を言うと警戒して、もしも本間刑事のお嬢さんが監禁されて居たら殺害してしまうと思うわ!」

「そうよね!危険な事ね!目星の人が犯人なら動けば直ぐに逮捕に成るけれど、全く異なる犯人なら危険を感じるでしょうね!そして行動を起こすわね!」



藤枝警察が監視している鈴木は全くいつもと同じ行動で、捜査員は尻尾を掴む事が出来なかった。

監視から一週間後、鈴木が夜の繁華街に出て行ったので、捜査員は遂に動いたとざわついた。

藤枝駅前の雑居ビルのスナック茜に入った鈴木。

二人の捜査員が客を装って遅れて入って行く。

鈴木はボックス席に待っていた男と合流して飲み始めた。

カウンターに座った刑事は店のママ美鈴を呼んで「警察だが、あの一緒の男は何者?」

美鈴は驚きながら「亮ちゃんが何かしたの?」

「何をしている男なのだ?」

「建設会社の二代目の息子、須藤亮って聞いたわ!」

「もしかして須藤建設か?県内でも大手だな!」

「ママさん!何気に聞いて貰えないか?彼の血液型」

「えっ、血液型なら知っているわよ!以前聞いたわ!確かAだと思うわよ!」

「そ、そうか!」

「決まりですね!」喜ぶ二人。

「女癖はどうなのだ?」

「悪いと思うわよ!二人共ね!店の子と遊んだ事も有るのよ!まあ、女の子もお金目当てだからそれで良かったみたいだけど!」

「その女の子は?」

「もう辞めたわ!東京に出たみたいよ!稼げる額が違うでしょう?」

しばらくしてカラオケが始まって、店内は騒がしい状況に成った。

「亮さん達何か事件を起こしたの?」

「それは、、、、、」

「判ったわ!ゴルフ場の殺人事件でしょう?」

言い当てられて戸惑う二人の刑事。

「あの二人に強姦して殺す勇気有るかしら?特に亮は無理だと思うわ」

二人の刑事もそのままスナックで居座り二人を監視していた。

結局12時を過ぎると美鈴が閉店を告げに二人の処に行った。

「いつもはもっと遅くまで飲ましてくれるのに!ママどうしたのだよ!」と騒ぐ亮。

「あの二人刑事よ!」耳打ちすると表情が変わって「場所を変えて飲もう!」そう言って店を出る。

二人の刑事は近くの仲間と交代して二人とホステスを尾行する。

亮はそれ程気にしていないが、鈴木恭二は逮捕歴が有るので既に酔いは覚めてしまいおどおどしている。

深夜の二時頃二人は別れて帰るが、亮は恭二と別れてホステスとラブホテルに消えた。

恭二はゴルフ場の独身寮に帰ったので尾行は終了。



「女は好きそうだな!須藤の坊ちゃま!」平田課長は昨夜の報告書を見て言った。

だが署長は「迂闊な事をするなよ!会長は警察関係者にも顔が広い方だ!」と捜査一課に釘を刺した。



一方美鈴ママに警察の話を電話で聞いた亮は「俺の女遊びは真面目だよ!世の中にはもっと強烈な奴がいるぞ!」

「亮ちゃんが舌を巻く程なの?」

「勿論だ!比較に成らないよ!俺は素人の女を騙して付き合わない!でも世の中には素人の女専門の野郎も居ると聞いたぞ!」

「誰なの?そんな悪い奴!」

「知らない!噂で聞いただけだよ!」

「そんなに簡単に素人の女の子と遊べるの?」

「兎に角警察の世話に成る様な事は俺には関係ないね!」

美鈴ママは警察に亮が目を付けられている事を心配していた。

亮の父親須藤建設二代目社長、須藤亮介と関係が有るので、自分の子供の様に思う時も有るのだ。

亮は昼間社長一族の御曹司だが、現場に出て働いている。

本社は静岡県静岡駅近くに在り、静岡県を中心に他府県にも建設業を行っていた。

会長の須藤亮吉が一代で築いた建設会社だ。

二代目社長の妻、横山絹子は亮が小学6年生の時に離婚している。

亮吉と妻咲江の仕打ちに耐えかねて家を出て行ったのだ。

絹子の家と須藤家では不釣り合いで、結婚は反対されていたが亮介が強引に結婚した。

結果は無残な事に成り、亮を置いて去って行った。

更なる遺体

  76-07

「何!須藤建設の孫が重要参考人だと!それはいかんぞ!いかん!」

静内捜査一課長が藤枝署の平田捜査一課長から連絡を受けて困り果てる。

その時、内線で「署長がお呼びです!」と女性が静内捜査一課長に伝えた。

「ほら、もう伝わっているぞ!これは大変だ!」そう言いながら署長室に向かう。

案の定、須藤建設の息子を疑うなら、はっきりとした証拠を持って来てから任意で来て貰いなさいと強く言われた。

幸いまだ祖父の亮吉会長の耳には入っていないらしいので、平田捜査一課長と連携をして証拠固めをする事と強く指示された。

確かに亮は一時不良グループに入っていた事実は有るが、今は須藤建設で働いているので取り調べは慎重にしなさいと再三言われた静内捜査一課長。

それは平田捜査一課長も全く同じで、亮の捜査は外堀を埋める事から始める事に変更された。

「何が静岡の名士だ!重要参考人なのに、、、、」怒る平田捜査一課長。



静内捜査一課長も「藤枝署のマークしている二人が、本間刑事の娘さんを拉致した可能性も充分考えられるので、徹底的に聞き込みをして彼らの身辺に二人の女性との接点を探れ!」と指示を出した。

「鈴木恭二と須藤亮はどの様な関係ですか?」

「藤枝署の調べでは鈴木が刑務所に入る前、仲良くしていたらしく!今のゴルフ場の仕事も亮の口利きの様です」

「不良グループに二人は居たのですね!」

「その様だが定かではない!出所後は鈴木の世話を亮がしているって事ですね!」

「その不良グループは?」

「もう解散して跡形もない!不協和音隊とか名乗ってバイクで走り回り、若い女性を連れ込んでレイプする事件が多かった様です!」

「グループの活動期、亮は少年ですね!高校?」

藤枝署捜査本部では鈴木と須藤亮犯人説で動いていた。



数日後、静岡地域が集中豪雨に見舞われて、各地で土砂崩れとか洪水が発生した。

その土砂崩れの現場から一部白骨死体が現われて、現場は騒然と成った。

国道473号線の地蔵峠の付近で発見された遺体は、服装から死後一年程度の若い女性の遺体と断定された。

持ち物等は無く身元は歯型位しか無いと思われた。

「また女性の遺体だ!死後一年か?」

「詳しい事は鑑定結果待ちですね!」佐山係長は今回も本間刑事の娘さんでなくて良かったと思う。

直ぐに島田警察署に捜査本部が設置されて、遺体解剖の結果待ちに備えた。

森田捜査一課長が指揮をする事に成るが、県警からも応援刑事が派遣された。

一平と伊藤刑事の二人が捜査会議に出席した。



遺体発見後丸一日経過して、ようやく解剖結果が島田署の捜査本部に届いた。

「解剖結果を発表します!遺体は死後約一年から一年半、性別は女性、年齢は18歳から30歳位、所持品無し、死因は絞殺、血液型はA型、はっきりとは判らないが強姦された様だとの鑑識の見解です!」

「ゴルフ場の遺体と同じ様な状況ですね!」

「こちらの遺体は埋められていたので、ゴルフ場とは若干異なると思うのですが?」

「まだ何とも申せません!今日から身元の特定と現場周辺での不審者の目撃情報を調べて欲しい!」



夜帰って美優に捜査会議の説明をさせられた一平。

「間違い無く同一犯人の可能性が高いわね!身元が判れば共通点が有る筈よ!」

「例えば?」

「結婚相談所が同じ寿企画だったとか!」

「美優は今回の事件は結婚相談所が絡んでいると思っているのか?」

「まだそこまでは思ってないけれど、何か気に成るのは確かなのよ!」

「死体の身元が判明して、女性が結婚相談所を使っていたら可能性は出るな!でも結婚相談所と殺しは結び付かないよな!」馬鹿にした様に言う一平。

「それから面白い事が判ったぞ!例の須藤建設の社長と先日息子が飲みに行った飲み屋のママさん愛人関係だったよ!藤枝署の刑事が愛人に息子の事尋ねたらしい!間の抜けた話だ!」

「じゃあ、社長に筒抜け?」

「それがこのママさん意外と社長には話さなかった様だよ!亮を庇ったのかも知れないな!お陰で会長の耳に入らず助かったのは警察だよ!」

「静岡の須藤建設は名士だからね!会長の須藤亮吉は顔が広いから大変よ!」

「鈴木は前科が有るからな!疑われ易い」

「何年務所に居たの?」

「三年半で出て来ている!初犯だったのと、示談金を相手に渡した様だな!」

「そんなお金持っていたの?」

「誰かに借りたらしいな!」

「もしかして須藤亮?」

「かも知れないが、調べてないので判らないのが現状だ!」

「5~6年程前婦女暴行事件多かった記憶が有るわ!」

「鈴木が逮捕されてから、急に減ったので彼の犯行だったのかと追及されたらしいが、他の事件はアリバイも有って立証できなかったと聞いたな!」

「婦女暴行事件は女性が訴えない場合も多いから、実際はもっと沢山発生していたでしょうね!」

美優は今回の一連の事件が昔の犯罪の延長線上に有るのなら、鈴木は絶対に犯人では無い。

地蔵峠の事件は刑務所に服役中の殺害だからだ。



その後も鈴木恭二を中心に刑事の尾行が毎日付いていた。

亮の方も遠慮気味に監視を続けている。

平田捜査一課長は、鈴木恭二と須藤亮の犯行説を崩してはいなかった。

今回新たに発見された白骨化の遺体の犯人は別に存在しているので、全く別の事件説を貫いている。

島田署の森田捜査一課長は、犯行が類似しているので同一犯説を唱えていた。

静岡の名士

76-08

島田署の森田捜査一課長と藤枝署の平田捜査一課長の意見の食い違いは両署の証拠集めに力が入った。

その行為が須藤建設会長の耳に入ってしまった。

「君の部下がわしの孫の周りをうろついているらしいな!昔は不良グループに一時入っていたが、今は真面目に働いているのに、最近連続で発生している婦女暴行殺人の容疑者扱いをしているらしいな!許さんぞ!」いきなり県警の署長室に電話が入った。

電話に平謝りの署長は電話が終わると直ぐに静内捜査一課長を呼び付けた。

「あれ程注意する様に言ったのに、須藤建設の会長に知られてしまったぞ!どうするのだ!」

「は、はい!多分平田君の処が必死に成っていましたので、、、、、」

「所轄の課長を纏めるのが君の仕事だろう?直ぐに平田を呼んで会長に説明に行く!」

「は、はい!判りました!」

静内捜査一課長が電話をすると、平田捜査一課長は今署長に呼ばれていると返事が返って来た。

結局夕方、県警の署長と藤枝署の署長が二人で事情説明に行った。

状況を聞いた会長は「実は亮を本社に呼んで有る!本人に直接聞け!」

しばらくして会長室に亮が入って来て「亮!この馬鹿警察に説明してやれ!」

軽く会釈をしてソファーに座ると「俺が殺しなぞする訳ない!何処に目を付けて捜査をしているのだよ!迷惑だ!」と怒る様に言った。

「ゴルフ場の職員の鈴木さんと懇意にされているでしょう?」

「恭二兄貴か?昔からの親友だ!警察は務所帰りで疑うが、兄貴も何も関係が無い!大体若い女の子をレイプして殺せる筈ないし!」吐き捨てる様に言う亮。

「わしは亮を信じている!関係ないと言っているから関係ない!」亮吉が怒る様に言った。

「昔鈴木さんが逮捕された時、被害者女性に示談金を払っているのですが、亮さんが準備されたのですか?」

「俺は知らない!恭二兄貴が誰かに借りた様に話していた!」

それだけ聞くと二人の署長はよく判りましたと言って平謝りで帰って行った。



藤枝署ではこの事で須藤亮の捜査は打ち切り命令が出た。

鈴木恭二は密かに捜査続行と決まった。

平田捜査一課長はまだ諦めてはいなかった。



白骨死体の身元の確定は難航していた。

歯の治療根も皆無で、これと云った手掛かりは指輪位しかなかった。

その指輪も変色して元の姿に復元するのに時間を要していた。

同時に顔の復元も行うか?島田署では指輪に希望を持っていた。

佐山係長は失踪状況が類似している行方不明リストの女性の可能性は有るが、遺体を親族に見せても特定は困難だと思っていた。

指輪が有る程度修復されたのは、遺体発見後10日が経過していた。

残る7人の失踪届の女性を調べる事に成った。

長嶋恵美、26歳、身長155センチ、A型、静岡市清水区、一年以上

夏樹有紀子、25歳、身長160センチ、O型、三島市、半年以上

鷲尾麻衣子、28歳、身長158センチ、A型、伊東市、半年以上

坂田秀美 、25歳、身長162センチ、A型、沼津市、一年以上

堀麻祐子、29歳、身長、153センチ、AB型、菊川市、三か月

亀田早紀、26歳、身長、165センチ、B型、静岡市葵区、一か月

仲本亜里、22歳、身長、156センチ、O型、浜松市西区、半年程度

「該当は長嶋さん、鷲尾さん、坂田さんの三人だ!坂田さんと鷲尾さんは所轄に連絡、長嶋さんは直ぐに誰か走ってくれ!指輪の写真だ!」

「高価な物では無いが、特徴は有るので該当者が居たら良いのだが、、、」静内捜査一課長はため息をついた。

先日までの暇な捜査本部が懐かしい。

特に今回須藤建設の息子が絡んでいる事に危機感さえ漂う。

藤枝署の平田課長の勇み足の場合、連帯責任を問われる可能性が高いのだ。

堀田と白井刑事は藤枝署に一平と伊藤刑事は島田署に連日捜査参加しているので、県警も手薄状態。

その上本間刑事は殆ど仕事に成らず、欠勤も多かった。

三木刑事と森元刑事に指輪の写真を持って清水区の長嶋家に走らせた。

丁度母親が居て「この様な指輪は見た事有りませんね!これが手掛かりですか?」

「兎に角良かったです!この指輪は先日地蔵峠で見つかった遺体が見に付けていたものですから!」

「わあーーこわい!娘は無事でしょうか?」

怯え乍ら娘が消えて一年以上経過しているので、諦め様と必死なのだと思った。

夕方に成って坂田秀美の母が警察の事情聴取で、この指輪は娘が着けていた物に間違い無いと供述した。



「沼津市の坂田秀美さん!当時25歳と判明しました!明日から沼津署と連携をして足取りを捜査します!」森田捜査一課長は身元が判明して、ようやく捜査が進むと期待した。



「これは県警が今回の事件に関連していると思われる行方不明の女性リストだよ!普通は渡せないのだが、一課長が奥さんに見せて意見を聞いて貰えるかと渡されたよ!」

「リストに入っていないけれど、萩原沙織さんと本間優花さんもよね!」

「行方不明者事態はもっと多いのだが、若い女性、失踪当時の状況が酷似しているのがこの女性達だ!」

「通勤、通学で消えたのね!」

「その通りだ!どう思う?」

「同一犯なら鈴木恭二さんは完璧に白ね!」

「須藤亮と共謀でもか?」

「多分一人では、、、、、、」

「建設会社だから重機は使えるぞ!埋める作業も小型の重機を使えば簡単だ!」

「でも亮って人、女性に困ってないでしょう?先日もスナックの女性とラブホに消えたって、、、、」

「そうだなぁ!素人の女性を拉致して強姦殺人はリスクが高すぎだな!須藤の孫だからな!」

静岡の名士の孫がこの様な事件を起こすとは考えられない二人だった。

足取り

 76-09

須藤亮介は妻が出て行ったのを機に亮吉の家を出て藤枝に亮と住み込みの家政婦、富川貴恵と住んでいる。

貴恵は既に70歳で主人に先立たれて、子供達も独立した初老の家政婦だ。

亮介は早速会長に呼び出されて、亮があらぬ疑いを掛けられたのは、いつまでも一人でぶらぶらしているからだ!嫁を貰ったら落ち着く!あの様な男にはしっかり者の嫁が必要だ!早急に探しなさいと命令されていた。

亮にその話をすると全くその気が無いと言い、付き合って居る特定の女性も居ないと全く話に成らなかった。



翌日の夕方、会長から社長に「亮は結婚する気がないだろう?」

「はい!」

「そう思って咲江に結婚相談所に行かせて登録をして来た!見合い話が来るだろう!あの様な男には嫁を貰うのが一番だ!自宅に仲人が行くから、日曜日準備して待つ様にな!」

会長の一方的な押し付けだが、亮介には拒否する事は出来なかった。

それ程父亮吉の力は絶大だった。

亮吉には一代で築いた自負が有るのと、元妻が逃げてしまった負い目が亮介には付きまとうのだ。

亮吉会長には頭が上がらない親子は渋々日曜日に仲人を待つ事を約束した。



美優は達磨結婚相談所の新谷浩美に電話を掛けて、是非教えて欲しい事が有ると強引に押し掛けた。

寿企画のサイトを見せて貰うのが目的で行くのだ。

会員でなければサイトに入って会員を見る事が出来ないからだった。

「えっ、寿企画のサイトを見たいと言われても、、、、、」

「でもこれは殺人事件に関わる事なので是非閲覧させて下さい!」

「名探偵の美優さんの頼みだから仕方が無いわ!でも亡くなられた萩村沙織さんの情報は見る事は出来ませんよ!」

「消えているって事ですよね!でもお見合いされた方は見る事出来ますよね!」

「簡単な趣味とか家族構成程度は判りますよ!住所は三島市だけですよ!」

「この人達は登録有りませんか?」

美優は一平に貰った女性7人の名前と自宅の有る市を書いた用紙を浩美に見せた。

パソコンを操作して調べると浩美は「どなたも登録は有りませんね!」

美優は宛が外れて少なからずショックだったが、浩美が「過去に登録がされていた可能性は有るかも知れないわね!」とぽつりと言った。

「何故ですか?」

「堀麻祐子さんって女性、私が仲人した記憶が有りますよ!」

「見合いはされたのですか?」

「申し込まれたのですが、断られたと云いますか当日先方の方が病気で急にキャンセルになってしまったのです!」

「見合い当日ですか?」

「はい!静岡駅の構内の喫茶店で会う予定だったのですが、、、、、、」

「その後どの様に?」

「結局相手の方はコロナに感染された様で、致し方ないと諦められて、、、そうそうしばらくして退会されてしまいましたね!」

美優は心の中で、それは失踪で退会せざるを得なかったのですよ!と言っていた。

達磨結婚相談所に来た価値は有ったと思った。

少なくとも一人は寿企画に関係している!もしかして全員?そんな疑問が帰りの車の中で芽生えていた。

(先程の堀さんの見合いの相手覚えていらっしゃいますか?)美優は浩美に電話で確かめた。

(凄く美男子だった記憶が有りますね!)

(名前は判りますか?)

(調べたら判ると思いますよ!メモしていると思いますからね!)



しばらくして(美優さん!相手の男性の名前は平尾さんって言います!三島結婚相談所ですね!)

(あの堅物の叔父さんでしたね!)

(そうですよ!見合いも中止に成ったので、全く判りませんね!)

(その後、堀さんとはお話しされましたか?)

(いいえ!縁が切れた様に退会しますので宜しく!で終わりでしたよ!)

美優は娘が失踪して見合いなぞ考える気にも成らないと思った。

浩美さんはその事実を全く知らないのだと確信した。

「コロナ感染なら見合いは出来ないわね!」独り言を言って車を走らせた。

もう一軒葵区の亀田早紀さんの自宅に行ってみたく成った。

届が出てからまだ一か月なので、新しい事実が掴める可能性が高いと思った。



しばらくして目的のマンションに着く。

三階建ての小さなマンションで一階の入り口にポストが並んで、302号室を見ると「山田?」ポストには別人の名前が書いて有る。

その時、このマンションの住人らしき女性が出て来たので「すみません!302号って亀田さんでは?」

「あっ、亀田さん?引っ越されましたよ!」

「いつ頃でしょうか?」

「娘さんが家出されて直ぐだから、二か月前かな?」

警察には一月前に失踪届を出したが、実際は少し前から行方不明だった様だ。

「家出なのですか?」

「そうだと思いますよ!親子喧嘩をしている声が外まで聞こえましたからね!」

「その喧嘩の後、娘さんは居なくなった?」

「綺麗な娘さんでしたね!お見合いをされたと聞きましたよ!」

「見合いをされたのですか?恋愛ではなくて?」

「恋愛をされていた様ですが、先方の両親に反対された様ですよ!」

「それはいつ頃ですか?」

「一年程前だと思いますよ!」

美優は亀田早紀が恋愛から見合いに成って、何故親子喧嘩をしていたのか?気に成りながら転居先を尋ねたが知らないと言われて家に戻った。

不協和音

  76-010

美優は自宅に戻ると考え込んだ。

亀田早紀は一人っ子だったので、失踪は両親には相当なショックだったのだろうと思った。

二人が転居から離婚に成らなければ良いのだが、喧嘩が原因での家出そして失踪

この類似した一連の失踪女性はもしかして全員見合い?それも寿企画の会員なの?と疑問が鎌首を上げ始めていた。

本間優花、達磨結婚相談所を通じて見合い、本人が断っている。相手は山中智博30歳で三島結婚相談所。

萩村沙織、ILB結婚相談所を通じて見合い、相手が断っている。相手は美男子。

堀麻祐子、達磨結婚相談所を通じて見合い、相手は平尾俊三で美男子、見合いは成立せず。

亀田早紀、恋愛を先方の両親に反対され、見合いの後、親子喧嘩そして失踪。

坂田秀美、見合いは?

ノートに書きながら「もしかして、萩村沙織さんの見合いの相手って平尾さんって事有るかな?」と独り言を呟いた。

直ぐに美優は一平に萩村沙織さんの見合いの相手を調べて欲しいと頼んだ。

一平は面倒くさいと言いながら渋々萩村家に電話をした。

「えっ、警察が今頃沙織の見合い相手を聞いてどうされるのですか?断られたのですよ!殺害と関係ないでしょう?」

「は、はい!私も関係無いと思うのですが、妻が、、、、、、、」

「えっ、もしかして刑事さん!野平さんですか?」

「は、はい!」

「じゃあ、美優さんが?名探偵の奥様も変な方向に目が向いていらっしゃるのね!お待ちください!」母奈緒美は保留にして何処かに行った。

しばらくして「娘の部屋にメモが置いて在ったのですが、主人が捨てた様です!見合いの事はもう遠い昔の話ですからね!」

「何か覚えていらっしゃいませんか?」

「ひらい、ひらたかな?その様な名前だったと思います!三男だった様に聞きましたね!」

一平は電話が終わると美優に聞いたままを伝えた。

娘が断られた見合い相手をそれ程覚えていないのが普通だろう?レイプ殺人で殺されたら尚更忘れたい気持ちはよく判った。

「ありがとう!多分私が思っている人と同じ人の様な気がするわ!」

「誰なのだ?」

「美男子でしょう?」

「ああ!そう聞いた!」

「まだ確信がないので話せないわ!捜査を混乱させたら一課長に叱られるわ」

同じ寿企画で美男子なら、複数の女性が見合いを申し込んでも全く不思議ではない。

堀麻祐子の場合は見合いをしていないので問題外か?

でも病気が治ってから再度見合いをしなかったのかな?

その疑問に直ぐに電話をする美優。

「再度見合いを段取りする前に退会されてしまいましたので、無理でしょう?」

そう言って笑う浩美。

「私、今週静岡の名士のお孫さんの縁談を承りますのよ!楽しみだわ!良い娘さんを探さないと、纏めると特別お礼を頂けるのですよ!やんちゃなお孫さんらしく、おじい様の意向ではしっかりとした娘さんを希望だそうです!昔で言う金の草鞋をお望みの様ですよ!」

浩美は嬉しいのか、関係の無い話まで喋った。



電話の後「静岡の名士の孫の縁談?もしかして須藤建設?」先日一平がぼやいていた話だと思う。

会長が結婚話を進めているのだ。

それも寿企画に頼んだ様だ!もしこの事件が結婚相談所絡みなら益々複雑に成る様な気がした。



須藤亮の尾行等は中止していたが、藤枝署の平田捜査一課長は鈴木恭二の動向を全力で尾行していた。

過去の強姦事件の洗い直しも同時に行い、不況和音の元メンバーの調査も始めていた。

鈴木の逮捕と同時に不協和音は解散に成っている。

唯、仲間の名前で判明しているのは数人で、リーダーが誰なのか本名は判明していない。

噂ではリーダー名は静岡の星とか、奇才の翼と呼ばれていてかっこいい男。

750CCのバイクを自在に乗りこなし、警察に追われても捕まる事は無かった。

仲間は10数名で今は何処に行ったか判明していない。

活動期間は一年弱で、鈴木恭二の逮捕で不協和音の活動は消えた。

その間に強姦された女性は届け出されたのが、5名程度が訴えたが実際の数は判らなかった。

「今回の萩村沙織の犯人は、鈴木恭二と昔の仲間では無いでしょうか?」

「鈴木は死体遺棄だけを昔の仲間に頼まれたのでは?」

「昔の不協和音は強姦をしていたが、殺人はしていませんよ!手口が違うのでは?」白井刑事が発言した。

「当時は未成年のメンバーも居たので、殺人までは至らなかったが、今回は数年経って残虐性が増したと私は思っている」

「その不協和音のメンバーで名前が知られているのは誰ですか?」

「大山和希、梨田祥吾の二人だ!鈴木の強姦幇助で一緒に逮捕された!彼らは執行猶予付きで直ぐに社会復帰している」

「今は何をしているのですか?」

「県の緑地関係の仕事をしている様で、今は下田で働いている!死体遺棄の前日も当日も下田で働いていた裏はとれて居るので、今回の事件には関係ない様だ」

「すると他のメンバーですね!須藤亮はこの不協和音のメンバーでは無いのですか?」

「それは判らないが、昔バイクに乗っていたのは事実だ!」

「課長はまだ須藤亮をほんぼしだとお考えですか?」

小さく頷く平田捜査一課長。



美優は警察に結婚相談所若しくは見合いを調べよ!とは流石にまだ言えなかった。

自分で一軒ずつゆっくり聞いてみるしか術がないと思う。

結婚相談所で殺人が行われると話しても信じては貰えないだろう?

一平に話しても鼻で笑われそうな美優の勘の様な話。

だが不思議な事に三人には共通しているのは事実だ。

断られた女性、断った女性が消えているのも不思議な話だが、、、、、、

不気味な影

  76-011

萩村沙織さんの見合い相手は平尾俊三?堀麻祐子の相手も平尾俊三だったが成立はない。

でも美男子なら見合いの申し込みが複数来ても全く不思議な話ではない。

一度三島結婚相談所の毛利さんに会って見たい気分に成っていた美優。

本間優花さんの見合い相手の山中智博も同じ相談所?

堅物の親父らしが、一度会う価値は有りそうだと決めた美優。



日曜日、須藤亮の自宅に新谷浩美がにこにこ顔で挨拶に訪れていた。

「俺は嫁を貰う気無いぞ!先に言っとく!」ぶっきら棒に言う亮。

「はいはい!判っていますわ!おじいさまの会長の顔を立てて下さったのですよね!」

浩美は心得たもので怒らさずに契約の書類を書かせる。

「須藤建設の三代目の奥様ですから慎重に選ばなければ成りません!この寿企画に入会されますと全国のお嬢様のお写真をご覧になれますので、気に要られたお嬢様がいらっしゃいましたらお見合いを申し込んで頂ければ、私が責任を持ってお見合いを段取り致します!」

「俺は興味無い!」ぶっきら棒の態度を叱る亮介。

「親父の様に子供だけ作らせて別れるのも良いかもな!」母親が去って不良グループに入った亮。

入会の申込用紙の記入が終わると、直ぐに車に乗って何処とも告げずに出て行った。

「あの様な馬鹿な息子で申し訳ない!私が妻と離婚してから不良グループに入ってしまい一時は家にも帰らなかったのですが、今は会社の仕事を真面目にする様に成って一安心です!良い嫁が見つかる様によろしくお願いいたします」

「はい!会長から年上の姉さん女房が良いと伺っていますので、頑張って探しますので今後ともよろしくお願いします!」

会長から纏めると別途報酬を約束されているので必死になる浩美。

肝心の亮は全く無関心で、会長の顔を立てただけで寿企画のサイトの説明も父親の亮介が聞いていた。

中学から高校の思春期に母親が離婚で家を出たショックは亮の心を大きく傷つけていた。

「根は優しいのですが、反抗期に私が妻と離婚したのが亮を、、、、、」言葉を詰まらせる亮介。

大会社の社長とは思えない気の弱そうな亮介だった。



「俺の周りに刑事が一杯居る!俺があの萩村沙織をレイプして殺したと思っているらしい!」久々に会った亮に話す鈴木恭二。

「お前には婦女暴行の前科が有るからな!」

「あ、あれは、、、、、、、」

「それより女の弁護士に示談金払っただろう?誰に用立てて貰ったのだ?」

「あ、あの金はお袋が集めてくれたのだよ!」

「お前の母親って金持ちじゃないだろう?お前を連れて離婚したのだから?」

「親戚に借りた様だ!」

「本当か?何か怪しい話だな!」

「ほ、本当だ!」

「不協和音!お前が警察に捕まったら急に解散しただろう?お前の逮捕と何か関係有るのか?」

「俺が警察に捕まった後の事は判らないよ!亮が入らなくて良かったよ!」

「俺が入りたいと言ってお前がリーダーに紹介してくれる一週間前に、逮捕だったから驚いたよ!結局不協和音は消えてしまってお前も務所暮らしだったな!リーダーって誰だったのだ?」

「それは亮にも言えない!不協和音の掟だ!」

「奇才の翼とかニックネームは聞いたけれど、本当の名前は知らない!でも女性に乱暴をしているのは有名だったな!」

「今世間を騒がせている強姦殺人は絶対に俺じゃないぞ!」

「判っているって、あれだけ強姦を繰り返していた不協和音のメンバーがお前の逮捕と同時にピタリと消えたのは何故だ?」

「俺は務所に入ったからその後の事は判らないが、昔の仲間に先日聞くと自分達ももう昔の仲間の事は知らないと話していた!」

「母親を泣かす様な事をもうするなよ!」

「俺が入っている間、お前には母の事で色々して貰って感謝しているよ!仕事も世話して貰ったしな!」

「お前が働いている場所に遺体が放置されたのには驚いたよ!」

「、、、、、、」

「お前何か心当たり有るのか?」

「無い、無い!偶然だ!」

「それなら良いが、昔の仲間が今回の事件に関わって居たら巻き込まれるぞ!」

「大丈夫だよ!もう昔の仲間と話をするのは下田に住んでいる捕まった時の二人だけだ!彼等も完全に昔の仲間とは切れている!安心してくれ!」

「俺!爺ちゃんに見合いを勧められて逃げて来た!」

「あの怖い会長か?」と聞かれて苦笑いで頷く亮。

二人が会っている事を藤枝署の刑事が目撃していた。

その後二人は亮の車に乗って高速道路に入って、東に走り始めた。

尾行の刑事達は不意を突かれた様に成って、高速道路で見失ってしまった。

「明らかに速度違反だ!」と呟くが亮の車の加速は優れていた。

車種とナンバーを連絡して高速警察隊に車の把握を依頼した平田捜査一課長。

しばらくして「車は伊豆半島方面に向かいました!」と報告が入ったが、平田捜査一課長の頭に須藤建設会長の顔が浮かんだ。

「尾行は必要無いです!」と口走っていた。



「高級外車が一台付いて来るのだけれど、覆面が高級外車は使わないよな!」

「何処から?」

「初めは判らなかったけれど、高速の途中からだ!」

後ろを見る鈴木が「遠くて顔は判らないな!高級外車は判る!黒の車だな!」

「そうだ!偶然かと思ったが違うかも知れない!」亮も心配になって時々見る。

「高速を出たら追い越しは出来ないからな!警察では無いのは確かだ!」

「伊豆縦貫道から伊東駅へ送って貰えるか?俺の仲間に会わない方が亮の為だ!」

「下田まで送ってやろうと思ったのに、伊豆スカイラインを走れば伊東駅まで40分程で着くな!」ナビの表示を見て言う亮。

昔の友達に自分を会わせたく無いのだと思った。

何か隠している様な雰囲気を感じ乍ら車を走らせる。

「3台程後ろをついて来ているな!」ミラーを見なら言った。

「同じ方向に行くだけじゃないか?」鈴木は尾行を否定していたが、心は動揺していた。

集団自殺

  76-012

以前から昔の友人に会いに下田に行くので送ると約束していた亮。

伊東駅で鈴木を降ろすと「昔の腐れ縁は中々切れないよ!じゃあな!ありがとう!」と軽く手を振って駅に向かって歩いて行く鈴木恭二。

亮は寂し気な恭二の背中を見送った。



翌朝、下田警察署は大事件勃発に署員全員が凍り付いた。

「南伊豆町で大事件が勃発しました!」県警の電話が鳴り第一声が震えていた。

「どうした!山脇捜査一課長!声が震えているぞ!」佐山係長が言う。

「下田署始まって以来の大事件です!成人男性三人の死体が石廊崎灯台の近く猪鼻海岸で発見されました!」

「えっ、大人の男三人の死体?」佐山係長はまた強姦殺人の死体が見つかったのか?と思ったが全く異なる男性三人に驚く。

「殺害方法は?」

「今、検視官を呼んでいますが、服毒死の様ですね!」

「自殺か?」

「ビールを飲んで死んでいますので、三人が同時に飲んで亡くなった様です!」

「名前は判るのか?」

「はい、免許証を持っていましたので、読み上げます!大山和希28歳、梨田祥吾28歳、鈴木恭二29歳の三人です!」

「今!鈴木恭二って言ったな!」

「はい!」

「ゴルフ場の強姦殺人死体遺棄の重要参考人だ!まだ決定的な証拠が無いので逮捕には至っていない!直ぐそちらに私が行く!」

その知らせは藤枝署の平田捜査一課長にも伝えられ、直ぐに直行すると言った。

「昨日!須藤亮と一緒に車で南伊豆に来ているのですよ!」

「何!須藤の死体は無いぞ!」

「私は下田に行きますが、県警で須藤から事情聴取して頂きたい!」

須藤亮の取り調べに難色を示した県警に委ねる作戦に出た平田捜査一課長。



静内捜査一課長は佐山係長にその話を聞いて「不味い!不味いぞ!あの馬鹿な孫が今度は殺人の疑い!冗談は止めてくれよ!」頭を抱える。

「強姦事件と関係が有るのか?」

「今判ったのですが、鈴木恭二が逮捕された時、共犯で捕まったのが大山と柴田です!」

「じゃあ、昔一緒に強姦事件を起こした三人が一緒に死んだのか?」

「自殺、他殺の両方が考えられますね!」

「訳が判らない程次々と事件が起こるな!先月までの暇な時間は何だったのだ!」

「今度は下田署に捜査本部を立ち上げですね!」そう言い残して佐山係長は若手の刑事と一緒に下田に向かった。

静内捜査一課長は一連の連続強姦殺人事件と、今回の三人の死亡は関係が有るのか?と疑問を持っていた。

しばらくして署長室に報告に向かった静内捜査一課長は「今回は須藤の孫が重要参考人ですね!」と切り出して事件のあらましを説明した。

その時、下田署から遺書らしき物が発見されたと連絡が入った。

「署長!三人は自殺の様だと下田署から連絡が入りました!」

「自殺なら須藤の孫は関係ないな!良かった!」苦虫を潰した様な顔から安堵の表情に成った署長。

「でも自殺した鈴木恭二を下田方面に送ったのは間違い無く須藤です!自殺の事情を聞いていると考えていますので、私自ら事情を聞きに参ります!」

「そうだな!彼は何か知っている筈だな!問題が無い様に聞いて来てくれ!会長にこれ以上睨まれると立場上困る!」



しばらくして須藤建設に若い刑事と向かう静内捜査一課長。

事前に亮が在社している事を確認して社長の亮介に電話をした。

「実は亮さんの友人の方が下田で自殺されて亡くなられたので事情をお聞きしたいのです」

「何故亮なのですか?」

「実は昨日亮さんが友人と下田方面に車で行かれましたので、詳しい話をお聞きしたいと思いまして」

「呼んで置きます!」



何も知らない亮は自分の知り合いが、自殺で亡く成ったので事情を聞きたいと警察が来ると聞かされていた。

静内捜査一課長が部屋に入ると同時に「俺の知り合いが自殺したって?誰なのですか?」

尋ねた。

「三人一緒に自殺されたのですが、一人目は大山和希さんです!」

「誰?聞いた事は有る様な名前だが、、、、」

「二人目は梨田祥吾さん」

「知らない人だな!」

静内捜査一課長は亮の様子を見る為にひとりひとり言う。

「最後に鈴木恭二さん」

「うそーーーだ!」顔色を変えて、急に立ち上がって大きな声で叫ぶ様に言う亮。

「ご存じですか?昨夜南伊豆の猪鼻海岸で服毒自殺をされました!」

「おっさん!冗談はやめろ、恭二兄貴が死ぬなんて考えられない!それも自殺!馬鹿な!」そう言いながら目を真っ赤にして涙をこらえる。

「この三人は強姦罪で捕まった奴等だな!」静内捜査一課長が言った。

「、、、、、、、そ、それも俺は信じてない!」亮が涙声で言う。

「示談金を女性に支払って大山と梨田さんは執行猶予付きで、鈴木は実行犯で服役したな!」

「不協和音のメンバーは他にも居ただろう?何故兄貴が、、、、」

「私が今日寄せて貰ったのは、鈴木が君に何か話していなかったかを聞きたい!藤枝から鈴木を下田まで車で送っただろう?」

「昔の友達に会うから送ったけれど、俺には昔の友達に合わせたく無いと言って、伊東駅まで送っただけだ!それより誰に殺されたのだ!」

「自殺だ!多分青酸性の毒物だろうと思われる!」

「兄貴はその様な物持ってない!殺されたのだ!犯人を捜してくれーー俺が殺してやる!」

「本当に何もなかったのか?」

「あっ、そうだ!思い出した!藤枝から黒の高級外車が尾行していた!その車の中に犯人が、、、、」亮は情景を思い出しながら言った。

乗り込む美優

  76-013

静内捜査一課長は帰署すると、自殺だと思うが一応高速道路等の監視カメラの分析をして高級外車の持ち主を調べる様に指示をした。



下田署では三人の遺体の解剖が始まり、飲み残しのビールの中に青酸性の毒物を検出していた。

遺書の様な物には萩村沙織を強姦殺人で、ゴルフ場に遺棄した様な文面と地蔵峠近くに遺棄した坂田秀美の事が書かれていた。

昔のレイプが忘れられなくて襲ってしまったが、騒がれたので殺害して地蔵峠に埋めた事実が細かく書かれていた。

「この三人は昔の強姦が忘れられずに繰り返していた様だ!特に鈴木恭二が務所に入っている間にも数人の女性を襲っている様だ!だが坂田秀美さんは騒いだので殺害してしまった様です!務所から出て来た鈴木を仲間に誘って再び三人で強姦を何度か繰り返していた様だが、萩村沙織さんの時騒がれて殺害してしまい勤め先のゴルフ場に遺棄した様です!」

下田署の山脇捜査一課長が佐山係長に説明した。

「他の女性何名か被害届が出ているのですか?」

「いいえ!若い女性の行方不明者はこの数年多いですがね!」

「婦女暴行は中々訴える女性が少ないのですね!」

「私はこの三人が追い詰められて自殺を決意したと考えています!」

「青酸性の毒物は?」

「大山の親父が昔メッキ関係の仕事をしていた様ですね!実家は大阪です!」

「成る程入手経路は充分ですね!」

「これで一連の事件も全て解決でしょう!」

しばらくして鑑識の結果も出て、青酸性の毒物もメッキ工場で使っていた古い物だと判明した。

「でも何故この場所を選んだのでしょう?」佐山係長が質問をした。

「死ぬ時でも美しい場所を選んだのでしょう?」

「彼らは元不協和音のメンバーでしょう?他の連中の消息は?」

「元々下田で時々活動していましたので、死に場所に選んだのでしょう?」

「不協和音にレイプされた女性のリストを調べて見る必要が有りますね!」

「私がまだ捜査一課に来た頃、被害女性のひとりに話を聞いた事が有るのですが、強姦メンバーのリーダーの男は能面を着けていた様です!他の面々はフルフェースのヘルメットだった様です!」

「能面ですか?リーダーが誰か判りませんね!」

その後佐山係長は静内捜査一課長に自殺の可能性は有りますが、一応捜査本部を立ち上げて付近の聞き込みを行いますと報告した。



藤枝署の平田捜査一課長は、鈴木恭二を逮捕出来ずに自殺させてしまった事を残念だと言った。

まだ須藤亮を共犯だと考えていたが、車が伊東駅から引き返す画像が発見されて一応関係が無いと納得して引き下がった。



「娘はこの三人とは関係ないのでしょうか?」本間刑事が尋ねる様に言った。

島田署から戻った一平に祈る様な気持ちだった。

「今の段階では地蔵峠に遺棄された坂田秀美さんと萩村沙織さんについては書いて有った様ですが、それ以外の女性には触れて無い様だ!」

「すると娘は別の事件に巻き込まれた?」

その様な事を話していた時「主任!変な電話が入っています!」若い刑事が一平に電話だと呼んだ。

「誰だ!」

「有名な探偵の旦那が居るだろうって、若い男です!」

電話を取ると「野平って刑事さんか?」

「そうだが、君は誰だ!」

「俺は須藤、須藤亮!あんたの奥さんに話したい事が有る!明日昼に須藤建設の本社に来て貰えないだろうか?」

「俺が行く!妻は刑事ではない!」

「じゃあ、話さない!俺は刑事を信用出来ない!」

「何故だ!」

「俺を犯人扱いして、恭二兄貴を自殺だと言う奴らに話しても無駄だ!」

「妻を一人で行かせる訳には行かない!」

「じゃあ、この話は無しだ!危険が無い様に本社にしたのに、それでも駄目か?」

泣く様な、頼る様な声に成った亮。

鈴木恭二を失った悲しみがこみ上げて声が詰まる。

「妻に相談してみる!連絡先を教えてくれ!」

その言葉にようやく亮は自分の携帯番号を一平に伝えた。



電話が終わると直ぐに美優に電話で事情を説明して携帯番号を伝えた。

須藤建設の本社なら多分何事も無いと、安心した様に言う美優は意外な事から事件が解かれる様な気に成っていた。

三人の自殺の事はニュースで先程発表されたが、大きな疑問を感じたのも事実だった。



静内捜査一課長の元にも、高速警察から問い合わせの黒の外車の持ち主が判ったと連絡が届き「全く関係の無い車ですね!どうもお世話様でした!」と電話を切っていた。



翌日美優は須藤建設の本社ビルに向かった。

静岡駅近くに10階建てのモダンな本社ビルが一昨年建設されて、本社が藤枝から移転して来た。

「立派なビルね!」そう言いながら一階の受付に向かった。

着飾った美優が颯爽と歩くと、行き違う人が思わず振り返る。

「あの人、何処かで見たな!」

「タレントさんか?うちの会社のCMにでも出演するのかな?」と話す社員。

昨日美容院に行ったので、ばっちり決まっているショートボブ。

「あっ、野平美優様ですね!須藤亮が10階の応接室でお待ちしています!」受付が直ぐに気付くとそう伝えた。

「ありがとう!」美優は笑顔でエレベーターの方に案内される。

「素敵な本社ビルですね!」

「はい!会長お気に入りの設計です!」微笑みながらエレベーターの10階ボタンを押すとお辞儀をした案内係。

協力者

   76-014

「はじめまして、須藤亮です!よろしくお願いします!」

「こんにちは野平美優です!」笑顔で会釈をする美優。

「綺麗な方だとは聞いていましたが、想像以上の美人さんですね!」

「お世辞がお上手だわ!流石は将来のこの会社の社長さんね!」

「コーヒーで良いですか?」

「ええ!」

広い応接室はブラインドを開けると、素晴らしい景色が目に飛び込む。

「見晴らしが良いですね!」

「隣が会長の部屋で、この部屋と会長の部屋は景色が良いのです!」

内線でコーヒーを注文する亮を見て、美優はこの男性が強姦をするとはとても考えられなかった。

一時、藤枝警察署からマークされていたらしいが、今目の当たりにして関係ないと確信した。

「今日無理を申してお越し頂いたのは、兄貴を殺した犯人を見つけて欲しいのです!警察は三人が自殺だと決めつけていますが、兄貴が自殺をする筈無いのです!あの日も見合いの叔母さんに会った後、下田まで送ると車で向かったのです!始めは下田迄行く予定だったのに、兄貴は急に伊東の駅に変更して欲しいと言い出したのです!」

「何故ですか?」

「昔の仲間と会うのだけれど、お前を巻き込みたくないと言い出して伊東駅で降ろしたのです」

「初めは下田まで行く予定だったのでしょう?何か途中で有りましたか?」

「、、、、、、、、、あっ、途中で尾行されている様な気がして、兄貴に言いましたね!」

「尾行の車ですか?」

「はい!俺は尾行の車だと思ったのですが、兄貴は違うだろうと言ったな!」

その時、コーヒーを女性社員が運んで来た。

その後ろを亮吉が付いて来て「亮!お前がこの部屋を使うとは驚いたぞ!別嬪さんのお客だな!金の草鞋か?」美優の顔を見て微笑む亮吉。

「あっ、貴女は確か有名な名探偵の野平美優さん!これは目の保養をさせて貰ったな!」

「こんにちは」立ってお辞儀をする美優。

「警察は信用出来ないから、美優さんに俺の話を聞いて貰っていたのだよ!」

「そうか、亮は疑われているのですよ!助けてやって下さい!」今度は亮吉が美優にお辞儀をした。

「私もお孫さんが犯行をされる様な方では無いと思いますわ!」

「おお!流石は名探偵の誉が高い美優さんだ!一目で亮の無実を,、、、心強い!亮、知っている事を全てお話しなさい!」

喜ぶ亮吉はよろしくお願いしますと美優にお辞儀を何度もして応接を出て行った。

静岡の名士でも可愛い孫の事に成ると、お爺さんに成っていると微笑ましく後ろ姿を見送った。

「話に戻るけれど、その尾行の車の話は誰かに話しましたか?」

「静岡県警の偉い人に黒い高級外車だったと話したよ!」

「偉い人って?」

「静内とか云う偉そうにした奴だった!」

捜査一課長を偉そうな奴と言ったので、思わず笑いそうに成った美優。

「黒の外車なの?」

「間違い無いと思う!二千万位する車だと思うよ!」

「本当に高級車だったのね!直ぐに持ち主判ると思うわ!」

「他に無実だと思う理由は?」

「兄貴は務所に入ったけれど、本当に女性をレイプしたのか疑問に思うのだよ!」

「えっ、無実の罪で逮捕されたの?」

「逮捕される前に俺に電話で少しの間向こうに行くので、お袋の様子だけ見てくれ!多分大丈夫だと思うけれど少し心配だからな!お前に頼むのが最適だと思ったのだ!って言った」

「自首したのね!」

「女性に示談金を払ったので、二人の男性は務所に入らず実行犯の兄貴だけが入った!でも他の通報されていたレイプ事件はアリバイが有ったので、兄貴の罪には成らなかった」

「強姦事件が頻繁に発生していた5~6年前よね!」

「不協和音ってグループの犯行で、兄貴もそのグループに入っていたのは事実だ!バイクで走り回るのが主な動きだったので、俺も入れて貰おうと頼んだのだけれど兄貴が今の不協和音は昔と違うから辞めておけ!と入会させて貰えなかった!その後直ぐに兄貴が逮捕されたのだ!」

「すると不許和音はもっと前から活動していたのね!」

「俺が中学の時初めて知ったのだ!」

「じゃあ、レイプ事件が起こったのは、もう少し後なのね!」

「6年程前から一年程で、兄貴が逮捕されてレイプも無くなったけれど、不協和音も消えてしまった」

「今回一緒に亡くなった二人は不協和音の人でしょう?」

「兄貴の友人で自首した事件の強姦を一緒に行った人だと思う!」

「話変わるけれど、見合いの叔母さんって新谷さんよね!達磨結婚相談所の」

「そうだよ!良く知っているね!名探偵は依頼者の事を調べてから来るのか?」

「違うわよ!偶然なのよ!それより今回の二人もその結婚相談所に登録していたのよ!」

「えー、世間は狭いな!」

「実はもう一人刑事の娘さんもその相談所に登録していて、未だに行方不明なのよ!」

「寿企画って全国組織だよ!会員も8万人とか居るらしいよ!」

「でも静岡の女性数人が既に結婚相談所絡みで行方不明なのよ!」

「名探偵さんは今回の兄貴もその結婚相談所絡みで殺されたって考えているのか?」

軽く頷く美優を見て「ははは!結婚相談所の事で、男三人が死ぬか?」大笑いをする亮。

「じゃあ、何故三人は自殺ではなくて他殺って言うの?何か思い当たる事が有るの?」

「務所に入る前に兄貴が、今のリーダーは女好きで困るって漏らした事が有る!そして務所から出てからは接触していないと話していた!下田の二人とは時々会っていたので、三人で自殺は考えられない!」

「判ったけれど、私は結婚相談所が何か事件に絡んでいる気がしているのよ!」

「美優さんがそれ程云うなら、俺一度見合いでもして探ってやろうか?」

「いいわね!システムが良く判らないので、一度経験するのは良いと思うわ!出来たら三島結婚相談所の女性にして貰える」

「それ、何?」

「その相談所絡みで不審な事が起こっているのよ!」美優は亮の協力で寿企画の中に入ろうと考えていた。

亮の縁談

  76-015

美優は亮と色々な話をした。

そして亮との話が終わると、美優は直ぐに一平に黒い不審な高級外車の事を尋ねた。

しばらくして一平から「それは大きな見当違いだ!」と返事が返って来た。

「不審な高級外車は元厚生労働大臣、三石兼三氏の車で大仁の別荘に行く途中の様だぞ!」

「静岡選出の元厚生労働大臣!亮君の思い過ごしだったのね!」

「そうだよ!不審な車って失礼だぞ!」

地元の現役の有名な代議士だが、80歳を越えて大臣職は流石に後進に譲っていた。

「その車が違う事で自信を持って自殺説に傾いたのね!」

「先ず殺害の動機が全くないだろう?犯行の動機は過去にも暴行事件を起こしている!」

「鈴木恭二が払った示談金って誰が出したの?」

「それは、、、須藤の孫では?」

「違うと言ったわ」

「確か500万程払っていると佐山係長が先日話していた」

「鈴木恭二の母親の事をもう少し詳しく調べて貰える?」

「自殺の裏付けを捜査するから、それは調べて見る!亮は白か?」

「間違い無く白ね!私の印象では三人も自殺では無いと思うのよ!」

「えーそれなら他殺?」

「亮君の話では鈴木恭二はお母さんを大事にしているらしいわ、だから母親の悲しむ事は出来ないって話していたわ!」

「務所に入った奴の台詞とは思えん!」

「兎に角母親の祐子さんに詳しく聞いて見て!」



翌日、遺体解剖の後遺族に引き渡された。

鈴木の母親は哀しみの中で息子の自殺は信じられないと証言した。

下田から静岡県警に運ばれて、遺体の解剖が行われていたのだ。

その後の捜査本部で意外な事実が公表されて、静内捜査一課長も勇み足を認めざるを得なくなった。

それは三人の解剖で死因はビールの中に入っていた青酸化合物で間違いなかったが、同時に三人のDNAがゴルフ場で遺棄された萩原沙織さんの体内に残っていた精液のDNAと一致していなかったのだ。

「この事実はこの三人が萩村沙織さんを強姦した人間では無いと云う事です!」

記者が「それでは自殺は間違いですか?」

「それは判りません!萩原沙織さんの遺体の遺棄だけこの三人が行ったのかも知れません!」

「それでは主犯がまだ居ると云う事ですね!」

「は、はい!その可能性は高いと思われます!」静内捜査一課長は記者の前で苦渋の答えを選びながら話した。



その話を電話で聞いた亮は「やっぱり、兄貴は無実だ!」と喜んで、見合いを申し込むよ!と一気に元気を取り戻した。

「あの車は関係が無かった様だわ!」

「本当なのか?」

「代議士さんの車で大仁の別荘に向かっていたそうよ!」

「代議士の車なのか?そうなのかなぁ!伊東の駅の近くまで尾行されていた気もするけれど、少し暗く成っていたから確かではないけれどね!」

「考えすぎだったかも知れないわね!」



その日の夜、亮は寿企画のホームページを見ながら、美優が話した三島結婚相談所が関与していると思われる女性5人をピッアップした。

その中から二人を選んで見合いの申し込みをして見る事にした。

真木加奈28歳、近藤芽衣27歳の二人が三島市で登録されていた。

その情報は直ぐに新谷浩美が知る事に成った。

「見合いは嫌いだと言っていたのに、5人もお気に入りに入れて早速見合いの申し込みを?」独り言を言いながら女性の紹介欄を見る。

「真木さんは、、、毛利さんか!これは厄介だわ!もう一人の近藤さんは情報を貰って釣り合えば進めるか?」独り言を言いながら、浩美は早速近藤芽衣の資料をILB結婚相談所の三好仁に尋ねた。

「お宅の近藤芽衣さんに見合いを申し込んだ須藤亮を今度担当しているのよ!」

「新谷さんも活動が盛んだね!儲けているね!」

「まあまあよ!近藤さんって子の家はどうなの?」

「家を尋ねると云う事は、須藤さんは相当良い家柄だな!ちょっと待ってくれよ!」

「この子申し込みが入っているぞ!」

「えっ、先口なの?家はどうなのよ!」

「先口と云っても逆だ!近藤さんが申し込んで、少し前に先方からOKが入った様だ!残念だったな!この話が終わるまで申し込みは出来ないからな!」

「そう、残念!」

「美男子は申し込みが多いから、順番待ちだから近藤さん喜ぶだろう!」

「駄目だったら、次申し込むわ!それより家は?」

「悪くない!県庁勤めの管理職だ!」

「県庁の管理職ならぎりぎりいけるかも?」

「えー親が県庁の管理職でぎりぎりか?相当良い家の息子だな!」データを探し出して見る三好。

「父子家庭で良い家か?」

「家政婦さんを雇える程の家よ!空いたらお願いするわ!」そう言って電話を切った。

浩美は仕方がないのでもう一人の真木加奈に申し込む為に毛利に電話をした。

「新谷さん!今電話をしようと思っていたのですよ!」

上機嫌で電話に出た毛利。

「えっ、何か?」

「須藤さんが申し込まれた真木加奈さんが、考えても良いのでどの様な方か聞いて欲しいと言われましてね!」

「えっ、もうご覧に成って見合いを考えられているのですか?」

「大きな割烹料理店の娘さんで、しゃきしゃきされていますよ!」

「毛利さんにしては珍しいですわね!割烹料理店って言っちゃって!」

「当然だよ!確認だけどこの須藤亮って、須藤の孫だろう?」

「、、、、、、、、」ずばり言われて返答に困った新谷。

「この名前聞いた事が有るので知っているのだよ!纏めたらお礼が貰えるだろう?」

新谷は次の言葉が出なく成っていた。

推理

  76-016

「見合いが決まるまでは名前も本人には伝わらないですよね!」

「勿論ですよ!仕事も住所も名前も話していませんよ!我々には名前は知る事が出来ますがね!」

「それで須藤建設の孫だと判ったのですね!」

「自己紹介と名前で多少は判りましたが、新谷さんからの電話で確信したのですよ!良い縁談にしましょうよ!私もお礼に、、、」

「そこまでおっしゃるなら、見合いにしましょうか?」

「段取りを組みましょう!」

二人はお互いの為に見合いをさせて儲ける段取りを話し合った。



静岡県警はもう一度事件の洗い直しをする為に、県警に合同捜査本部を設置した。

一連の事件が複雑で所轄でバラバラに捜査をしていては解決出来ないと、静内捜査一課長は決断した。

藤枝管内のゴルフ場強姦殺人死体遺棄事件、萩村沙織。

島田署管内の地蔵峠死体遺棄事件、坂田秀美。

下田署管内の猪鼻海岸毒物殺人事件、大山和希、梨田祥吾、鈴木恭二。

「この三か所の事件とは異なるが、我々の仲間、本間刑事の娘さん失踪事件も同じかも知れない!」静内捜査一課長が指揮をして三か所の所轄を連携させると発表した。

当初自殺と発表した事を詫びた。

だが死体遺棄の罪は残っていると話した。

「真犯人が居ると云う事ですか?」

「共犯者が正しいだろう?自殺は仲間割れの可能性も有る!警察が動き出したのと坂田秀美さんが発見されたので、仲間を売った男が居るのでは?と考えている!猪鼻海岸付近の目撃者捜しと防犯カメラの分析を下田署で徹底的に行ってくれ!応援を送る!藤枝署は鈴木の交友関係を探して共犯者の割り出し!駅を降りた不審な三人組の再捜査をお願いします!島田署は一年以上前に成るので中々難しいが、坂田秀美さんの交友関係と失踪当時何が有ったかを調べてくれ!」

合同捜査会議は延々と行われたが、三人が共犯者と云う原点は変わらなかった。



翌日早速三人に共通するのは元不協和音のメンバーで、各地でレイプ事件を起こしていたとの証言が有った。

「不況和音の元メンバーは他に見つからないのか?」

「フルフェースのヘルメットを被ってバイクで走り回って、女性をレイプしていた様ですね」

「鈴木が主犯格とは考え難いが、逮捕されたのはこの三人だ!示談金500万は誰が出したのだろう?」

「自分では無いと言っていますが、須藤亮ではないでしょうか?」平田捜査一課長は今でも亮を主犯と考えている。

「年下だからな、それと不況和音が出没した時期は高校位だぞ!」

「、、、、、、、資産家ですから」難しい答えで結び付けようとした。



美優は捜査会議の話を聞いて「県警にしては良い目の付け所だわね!三人が元不協和音のメンバーだと云う事!」

「元不協和音のメンバー絡みは正解か?」

「でもどの様に絡んでいるのか?今回の事件の本質とは少し違うのかも?昔の不協和音の資料を見せて貰える様に佐山係長に頼んで貰える!」

「本格的に事件に参入か?」

「本間刑事のお嬢さんも心配だからね!」

「もう二週間以上だからな!」一平も心配顔に成っていた。



翌日不協和音の資料を見ると、2017年以降消息不明の暴走集団の名称。

人数は十数名で20歳前後の若者がバイクで暴走運転を売り返し、一部婦女暴行事件も数回行われた。

被害届を提出した女性は数名、その中の一人梁井祥子さん24歳は絞殺されそうに成ったので病院に収容事件が発覚している。

「染井祥子さんは熱海の女性なのね!」

犯人は鈴木恭二と大山和希、梨田祥吾で示談金が支払われて、三人の罪は軽減されて鈴木だけが務所に入っている。

他に僅か二名の被害届が出ているだけ、その被害者の襲われた時間に鈴木達にはアリバイが有り二名の女性に対する罪は問われていない。

美優は被害者染井祥子の住所を書き留めた。

明日、三島結婚相談所の毛利さんに会いに行く予定にしているので、熱海まで足を伸ばす事にした。



県警は美優が探っている結婚相談所については全くノーマーク。

一平も態々美優が調べている話はしていなかった。

佐山係長が昨日資料を貰う時「美優さんも不協和音を調べているのか?今回は県警と同じ目線だな!」と嬉しそうに言ったのだ。

毎度美優さんの視点と県警の視点が異なっていたから安心した様だ。



翌日、美優は坂田秀美の沼津の自宅に行く事にした。

葬儀とか色々な事が終わるのを待っていたのだ。

「野平美優さんって有名な探偵さんでしたね!旦那様が刑事さんで、、、どの様なご用件でしょうか?」

「実は秀美さんの事で確かめたい事が有るのですが?」

「事件の事でしたら刑事さんに事細かく説明させて頂きました!男の方から電話が有って出かけて行きましたが、そのまま帰りませんでした!相手の男性は存じません!私は友人か会社関係の人だと思っていました!」

「私がお聞きしたいのは、秀美さんはお見合いされましたか?」

「お見合い?」

「はい!寿企画の会員に成られていましたか?」

「えっ、寿企画が今回の殺害に関係有るのでしょうか?」

「入会されていたのですね!」

「は、はい!」驚いた表情で答える秀美の母。

「お見合いもされたのですね!」

頷きながら怪訝な表情で美優を見た。

驚く

  76-017

「もうひとつお聞きしたいのですが、お見合いどの様に成りましたか?」

「秀美がお断りしました!先方から申し込まれたのですが話が合わないと言いまして、、、」

「相手の方のお名前は憶えていらっしゃいますか?」

「もう随分前ですから。、、、、」

「何か覚えていらっしゃる事はございますか?」

「同じ静岡県の方で、確かJRにお勤めだったと記憶しています!見合いの前に結婚したら旅行安く成るねって冗談で話していました!」

「美男子の方ですか?」

その質問には首を振って答えた。

「最後に結婚相談所は何処ですか?」

「沼津幸せ会って云う相談所でした」

共通点は結婚相談所、寿企画だけか!そう思いながら坂田の家を後にした。



次に三島結近相談所の毛利には先日会いたいと連絡をしていた美優。

毛利は自分の知り合いの見合い話に来るのだろうと、有名人の来訪を喜んでいた。

美優は開口一番に「見合い話で来たのでは有りません!殺人事件の事でお聞きしたいのです!」と切り出した。

堅物で中々情報を漏らさないと聞いていたので、高飛車に出る事で喋るのではと考えたのだ。

「殺人事件って云うと萩村さんの事か?あの子は私の扱いでは無いよ!同じ三島に有るILB結婚相談所だよ!」

「よくご存じですね!」

「三好が先日血相を変えてやって来たのですよ!それで知ったのです!」

「その萩村さんの見合いの相手を紹介されたのが、毛利さんでは有りませんか?」

「殺人事件と私の紹介した見合いが関係有るのですか?見合いをする段階では名前程度しか先方には伝えないのですよ!事実萩村さんとは一度の見合いでお断りなので、名前と大体の住所程度しかお互いに知らないと思いますよ!それが寿企画のルールですからね!」

「見合いの席で話してしまう事は無いのですか?」

「それは双方の相談所の方が強く言われますので、無いと思いますね!もし聞こえて来たら退会させられますからね!」

「するとお互いが気に要って今後の付き合いを決めるまでは、お互いの住所も職場も家族も喋らない!」

「そうです!それが寿企画のルールです!まあ、片方が気に要って執拗にストーカー行為に走る危険の回避ですね!」

「でも途中で懸念材料が出ても同じでしょう?それ程意味が無い!と申しますか無駄な時間に成りませんか?」

「商売だ!と言ってしまえばそれでおしまいですがね!寿企画の狙いなのでしょう!」

「もう一人お聞きしますが、本間優花さんのお見合い相手もここの方でしたね!」

「本間優花さんですか?」そう言いながらパソコンの処に行って調べ始める毛利。

「いつ頃のお見合いですか?」

「一二か月前だと思います!主人の同僚の娘さんなのです!二週間以上前に失踪されて探しているのです!」

「それが用件でしたか?」微笑みながら振り返って「見合いはされていませんよ!彼は美男子なので申し込みが多いのですが、本間さんってお嬢様は記録にございません!」

「えっ、相手が違うのでは有りませんか?」

「や、、、」口籠る毛利は「何方と見合いをされたのですか?名前は判るのですか?」

「はい!山中さんとお聞きしました!」

しばらくパソコンと睨めっこして「山中さんが断られていますね!その事と彼女の失踪が関係有るのですか?このパソコンの資料では焼津の子で三姉妹、両親は公務員、22歳程度しか判りませんね!県警の刑事さんでしたか?公務員だけでは何も判りませんよね!お父さんが刑事さんなのですね!」

全く何も知らないのだと思い、敢えて母親が捜査一課の刑事だとは言わなかった美優。

「もうお一人お聞きしても宜しいですか?」

「お答え出来る範囲なら」

「堀麻祐子さんがお見合いをされる予定だった方も美男子だとお聞きしたのですが,同じ方ですか?」

再びパソコンの画面を見る美優。

(そのパソコン見せてよ!)心で叫ぶ。

「堀麻祐子さん?何か月程前ですか?」

「4か月程前では?」

「見合いされたのですよね!有りませんね!」

「見合いが急病でキャンセルに成ったと聞きました!」

「ああー見合いのドタキャンだね!」

もう一度探し始めて「有りました!有りました!本当は言えないのですが美優さんだから特別に教えますよ!美男子の方です!」

「その方見合い多いのですか?」

「そうですね!美男子だから申し込みは全国から来ますが、彼は地元重視ですからね!他府県の方はお断りされますね!」

「まだ決まった方は?」

「多分無いと思いますが、でも最近は見合いが有りませんね!」

「見合いを楽しんでいる方かも知れませんね!お付き合いされた方はいらっしゃいますか?」

「殆ど女性の方からの申し込みを受けられるので、自分の理想とは違うのでしょうね!」

「会員長いのですか?」

「そ、それは申せませんな!」警戒し始めた毛利。

美優はそろそろ限界だと思い最後に「JRの方も会員さんにいらっしゃいますか?」

「JRですか?静岡県内でも職員の方は多いので、数名は登録されていますよ!」

「坂田秀美さんとお見合いをされたJRの方って判りますか?」

「さかた、、、坂田」と考えながら「美優さんもお人が悪い!その方って地蔵峠の白骨死体の人でしょう?知りませんよ!」

「そうですか?」

「坂田さんも寿企画で見合いを?」驚いた顔に成る毛利。

「そうですよ!ご存じ有りませんか?」

「知りませんよ!うちの登録者では有りませんし、見合いも無いですよ!」

毛利は美優の話の中から自分が疑われているのかと、勘違いをしていた。

強姦殺人連鎖

強姦殺人連鎖

静岡県警捜査一課は久々に事件の無い時を過ごしていた。 所轄から転勤して来た本間刑事は45歳の女性刑事、彼女には三人の娘が居て長女の優花は早々と結婚願望を持って、結婚相談所に登録していた。 そんな優花がある日を境に消えてしまった。 熱海の証券会社に勤めているのだが、自宅から片道二時間もかかる。 何か事件に巻き込まれたか?手掛かりを求めて身内の捜査に静岡県警の面々が捜査を始めた。

  • 小説
  • 中編
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-11-21

Copyrighted
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  1. 見合い
  2. 結婚相談所
  3. 強姦殺人
  4. 見合いの規則
  5. 重要参考人
  6. 須藤家の息子
  7. 更なる遺体
  8. 静岡の名士
  9. 足取り
  10. 不協和音
  11. 不気味な影
  12. 集団自殺
  13. 乗り込む美優
  14. 協力者
  15. 亮の縁談
  16. 推理
  17. 驚く