愛の裁判
青津亮
1
我として投げだされ、双としかさなりあい、
与えあい 満たしあう愛は、
幸福へ──
愛に剥かれた恋人等を装飾するであろう。
恋人たちの美しさよ
どうか結ばれ 沿い遂げておくれ、
その幸福を蒔いて世界を潤し──
沓音を飛沫と跳ねて音楽し しずけさに睡りについておくれ。
*
削がれ 真空へ、
己を愛し不幸面して 身投した閉ざされた愛は、
不幸へ──
しろい上澄の月光を逆さまに剝がされるに相違ないであろう。
犬死詩人の惨めさよ
おまえ等はどうか一人で死ね、
野良犬の如く、むごたらしい姿で──
血を流しながら、忌み嫌われて路地裏に横臥していろ。
2
神は前述の死のうちで
燕に、
より美しく
善い死をもってこいと仰ったのでした。
燕は視線を逡巡させ
しばしためらいましたが、
幸福げに睡る
老夫婦の躰のほうをもってきました。
「おまえは正しい判断をした」と、
神はいわれました。
「詩人のほうは放っておけ」
宇宙全体が、腹を膨らませて笑いました。
神は──
冷然硬質な大鉈で、冷酷にも詩人の骸を砕きました、
詩人はその刹那
これを俟ち希んでいた銀の蜘蛛がはらわたを割る如く、
青き血と銀に祈られた精液として詩を昇らせ、
結われぬままに果てました。
かれの殻の躰の光は空と射しちがえ、
瞬間 最上の深みのどぎつい色──ましろへ惑溺し 消えました。
3
燕は じつは識っていたのでした、
ほんとうは 神はどちらの生も等価に愛してくださっていることを。
愛の裁判
生き抜こうね。あなたの生は愛されるにあたいするから。