ぼくだけのアイダホ

 ぼくはかの宵のかの空に天使等をみた気がするのだが、
 それがわが酩酊に因るものであったのか、
 わが疲弊のみせた幻にすぎないのであったか、
 はやどうにもぼくには判断することができないのだった。

 天使等は円舞し真白い翼をひらりひらりとさせていた、
 ぼくの眼のとおくとおくで耀いたのち消えたのだが、
 それは或いはわが目の裏に映った虚像でしかないのだと想う、
 されどぼくはみた心地がするのだ、幾夜を浮ぶ真白の天使等を。

 されどぼくは酩酊していたし疲弊に窶れもしていた、
 煙草の輪のように幻影がぷかぷかと浮んでもむりはなかった、
 むりはなかった、彼れは亡き幻だと云ってもいいのだけれど、

 されどぼくはやはりみたのだ、
 幾夜幾夜を過ぎるまっしろな天使等の憩いを!
 かの宵の空には天使があった、はやそれを見ることは叶わない。…

  *

 そういえばかの時、ぼくは泣きながら笑っておりましたね、
 そんなら暗みの笑みの裡に流れた涙が、それであったのかもしれぬ。

ぼくだけのアイダホ

ぼくだけのアイダホ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-11-19

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted