ぼくだけのアイダホ
ぼくはかの宵のかの空に天使等をみた気がするのだが、
それがわが酩酊に因るものであったのか、
わが疲弊のみせた幻にすぎないのであったか、
はやどうにもぼくには判断することができないのだった。
天使等は円舞し真白い翼をひらりひらりとさせていた、
ぼくの眼のとおくとおくで耀いたのち消えたのだが、
それは或いはわが目の裏に映った虚像でしかないのだと想う、
されどぼくはみた心地がするのだ、幾夜を浮ぶ真白の天使等を。
されどぼくは酩酊していたし疲弊に窶れもしていた、
煙草の輪のように幻影がぷかぷかと浮んでもむりはなかった、
むりはなかった、彼れは亡き幻だと云ってもいいのだけれど、
されどぼくはやはりみたのだ、
幾夜幾夜を過ぎるまっしろな天使等の憩いを!
かの宵の空には天使があった、はやそれを見ることは叶わない。…
*
そういえばかの時、ぼくは泣きながら笑っておりましたね、
そんなら暗みの笑みの裡に流れた涙が、それであったのかもしれぬ。
ぼくだけのアイダホ