勁くなりたい
優しくしないで
戦わせて
(強い)って言って
──水沢なお『わたしを戦わせて』
都会の雑踏 そこをあるくことをぼくはこのんできたのだった、
いま こつぜんとみしらぬ女のましろいくびすぢが湖に惑溺した、
すれちがうくび──白鳥の翼の ひらりと翻すどぎつい陰翳が、
侮蔑を舞踊し肌のうえを辷り耀くのを──ぼくはみた、
想わずぼくは女の去る翳を引いてくびの皮を丁寧にひらいた、
恰もまっさらな瞼に閉じられた青空へ剥きとったのだった、
かのような光はけだし海のそれであるとみまがったのだけれども、
然り、祈りとは闘い──かの女のくびは蒼穹を一条に引き絞り、
ぼくという空気の総体へ秘める青を硬き光の刃で射したのだった、
宿すのは さながらに月光に発火された鋭利がそれであった──
ぼくは都会の雑踏でひとりの女のくびをみたばかりに──
疎外の真空のまっさらな瑕なき疵に──
ぼくが唯ひとりあることを想い起こされたのだった、
かの白鳥のくびのしなりは──けだし蒼穹へ投げる剣の曳く翳であった。
*
ぼくは肩に降り積もる雪屑のような幻想を群衆へ払い落とした、
勁きひと等──最も脆い領域を凶器と擲ったかのひと等を星に想いながら。
勁くなりたい