勁くなりたい

優しくしないで
戦わせて
(強い)って言って
    ──水沢なお『わたしを戦わせて』

 都会の雑踏 そこをあるくことをぼくはこのんできたのだった、
 いま こつぜんとみしらぬ女のましろいくびすぢが湖に惑溺した、
 すれちがうくび──白鳥の翼の ひらりと翻すどぎつい陰翳が、
 侮蔑を舞踊し肌のうえを辷り耀くのを──ぼくはみた、

 想わずぼくは女の去る翳を引いてくびの皮を丁寧にひらいた、
 恰もまっさらな瞼に閉じられた青空へ剥きとったのだった、
 かのような光はけだし海のそれであるとみまがったのだけれども、
 然り、祈りとは闘い──かの女のくびは蒼穹を一条に引き絞り、

 ぼくという空気の総体へ秘める青を硬き光の刃で射したのだった、
 宿すのは さながらに月光に発火された鋭利がそれであった──
 ぼくは都会の雑踏でひとりの女のくびをみたばかりに──

 疎外の真空のまっさらな瑕なき疵に──
 ぼくが唯ひとりあることを想い起こされたのだった、
 かの白鳥のくびのしなりは──けだし蒼穹へ投げる剣の曳く翳であった。
 
   *

 ぼくは肩に降り積もる雪屑のような幻想を群衆へ払い落とした、
 (つよ)きひと等──最も脆い領域を凶器と擲ったかのひと等を星に想いながら。

勁くなりたい

勁くなりたい

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-11-17

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