水の奴隷

穿たれた掌で水は掬えない
やがて水は蒸發する

錆びた記憶は表象になり
表象すらも錆びてしまった
錆びた表象を寄せ集めても
世界を再󠄀組織することはできない
おれには歸るべき故鄕がない

癒えぬ渇きといはれるが、必ず
渇きを癒す必要があるだらうか

記憶するとは呪うといふことだ
記憶への意志は憧憬に由來する
叶はぬ不變への憧憬に。

おれには理性も、本能も、現実もない

所有への執着が人を狂はせる
憧憬への憧憬が人を盲にする
中味のない抽斗、これが
おれの正體だ。

水の奴隷

水の奴隷

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-11-15

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