中原に与する歌

 ぼくはいつでもより善き人間になりたいと
 それを希い文学を求めたのだが、
 文学という毒を負えば負う程に容貌は残忍になり
 優越の光を地獄にたたえ嬉々と他者を痛めつけたのだった、

 それはわが気質のゆえ 文学に罪を負わす気はないけれど
 かれ等ぼくから離れても往き、
 ちいさな卑しい悪人としてのぼくをしか、
 はや見いだせないのであったのだ。

 ぼくにとりより善き人間とは
 いまよりも(ことわり)を知るひとであるのだった、
 倫とは他人たちとの関係における臨機応変な
 しかし芯の徹るけだし美と善の重なる途であって、

 その月の意志に背骨をかためた冷然硬質な理念に
 素朴にして優しい光という情念を辿らせ、
 ただひととそれを綾織らせ想いを通じさせもして
 何処かの貴方と友になってみたく──

 されど詩人とは孤独を守護し磨く生をいう!
 されば詩人とはけっして他人と一般の交際ができないのか?
 さすれば詩人とは人-性の深みに林立することで他人に奉仕しえるか?
 詩人にはその唯一の方法が歌という根の衝動なのだ!

 されどぼくはより善き人間として他者と繋がれてみたい、
 その脆弱の希みを断つことなぞぼくにできるわけもないのだ、
 ぼくは生の終末にすべてという不在と結ばれることを夢みた、
 嗚夢みた、夢み歌ったのだ、不在というすべてを──。

  *

 ぼくはだんだんに剥がれて往く手首を見、
 まるで俟ち希んでもいるのだった、
 この淋しさに波引く乾きこそ──
 いつや潤いすら希まぬ優しい詩を書けるのでは、と。

中原に与する歌

中原に与する歌

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-11-11

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