特殊清掃員、高松零二
人知れず死んでいく者
思い残す事は何なのだろうか
1・俺の新しい仕事
「面接またダメだったか、これで10件目......
残金も9851円......早く職を探さなければ、
アパートも追い出されてしまう」
俺は現在、必死に職探しをしている男、
「高松零二」38歳独身フリーター歴15年
大学は一応卒業して、一度は就職したがその会社が
ブラック企業を絵に描いたような会社だった。
何とか一年間働いたが、身体も不調になり
退職してそれからは
アルバイトでなんとかここまで生きて来た。
コンビニのバイト、夜間誘導員、パチンコ店店員
数々のバイトをこなして来た俺だったが
ここに来て長年世話になっていたコンビニが閉店
となってしまった。
俺にとっては唯一の資金源だったのだが、
閉店となっては仕方がない。
遅ればせながらここで、もう一度正社員を目指し
職を探す事に決めた。
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久々に訪れた「職業安定所」何度来てもいつ来ても
ここは人で溢れかえっている。
人を掻き分けなんとかパソコンの前に到着。
色々な職種で検索をしたが年齢はどれも
引っかかってくれるのだが、大体が経験者を
募集していてその辺で諦めざるを得ない。
職安に通勤して3日目にして、ようやく「これは?」
と言う求人に巡り会えた。
『神取清掃業』と言う社名。
職種は清掃業となっている、
この時は普通のごみ収集の事しか思い浮かばなかった
今の現状では選り好みをしている時ではない
何とか仕事を決めなければとの思いでいっぱいだった
給料も今までの求人より割と良い具合で
ボーナスも出るようだ。
一応週休2日制となっていたが土日が休みという
訳ではないらしい。
とりあえずこの求人票を窓口に持っていき、
面接の日取りを決めてもらう。
すると、今日の午後にでも来てくれとの回答だった
らしいので午後の2時に伺う事にした。
会社の事務所はアパートからそんなに離れていなかった、自転車で通える距離だ、片道約20分。
毎日の運動的にもちょうど良い距離かもしれない
約束の時間10分前に着いた。
事務所の扉の前で、景気付けに両手で顔をビタンと
叩く。気合いを入れた所で扉を開けて中に入る。
中に入ると、観葉植物や、花瓶に色とりどりの花が
さしてある、パッと見どこかの植物園かと
間違えるくらいの量だった。
カウンターの上にも等間隔に花の咲き誇る鉢植えが
何個も置いてあった。
そのカウンターに女性事務員が来て
「どちら様でしょうか?」
と聞いて来た。
間髪入れずに俺は元気よく答える。
「本日2時から面接をさせて頂く
『高松零二』と申します、神取社長さんは
いらっしゃいますでしょうか?」
「神取ですね、少々お待ちください」
そう言って事務所奥に入って行った。
暫くして事務員さんが戻ってきて、
「こちらへどうぞ」
とカウンター横の応接室と書かれた部屋に
案内された。
「こちらで暫くお待ちください」
事務員さんがそう言い残して部屋を出て行った。
物の数分で割腹の良い男性が入って来た。
思わず立ち上がる俺。
「本日はお時間を作って頂きありがとうございました
『高松零二』と申します」
「まあ、硬くならずに座ってください」
そう言われて、椅子に腰掛け直す。
「まずは履歴書を見せていただけますか?」
「はい」
と返事をして履歴書を渡す。
社長さんが、俺の履歴書を見ながら
不思議な事を聞いて来た。
「高松さん、あなたは人の死をどう思いますか?」
「はあ?」
「あなたが思う率直な意見で良いんです」
「人間が死ぬ事に...対してですか?」
「そうです、考えをお聞きしたい」
急に、何と言う事を聞いてくるのだろうと
一瞬驚いたが、
「う〜ん、そうですね〜。人が亡くなると言う事は
その人の新たな始まりだと思います」
「ほ〜う!新たな始まり?ですか」
「はい、その人がやりたかった事、やり残した事
誰しもあると思います。
大往生で亡くなってしまった方でさえ、そのような思いはあると思います。ましてや若くして亡くなられた方など尚更です、そのような人達がまた新たな
スタートラインに立てる、よく自分の前世が動物
だったなどと言う方がおられますが、僕が思うに
人は人にしか生まれ変わらない、動物は動物にしか
生まれ変わらないと思っています。
ですから、人としては違う人物に生まれ変わりますが
やり残した事、やり遂げたかった事、それは
引き継がれて行くんだと思います......
あっ!すみません!変な事を言ってしまって」
「いや!結構結構、良い意見でした。
高松さんには、この仕事向いていそうですね」
「はい?この仕事?向いていそう?何のことでしょうか?」
「職安には私どもの仕事は清掃の仕事として
人材を募集しています.........が!この清掃と言うのが特別でしてね、募集して採用していざ、仕事を
やってもらうと、逃げ出す者、翌日から来ない者
長く続く者がいないんです」
「えっ?特殊な清掃???も、もしかして......」
「そうです、この会社で行っている仕事は
孤独死した方々の身の回りの清掃と亡くなられた方を
清めて葬儀に送り出す仕事です、どうですか?
もう、恐れを成してしまいましたか?
今うちの社員は6名ほどおります、その内現場に出ている者は女性1名、男性2名全員合計3名、この道何年
という強者達です。それぞれが死者に寄り添い
綺麗にして旅立たせてあげる、皆同じ気持ちで
この仕事をやっています、
どうですか?高松さんに向いていると思いませんか?」
「は、はあ......」
「高松さん、ご家族は?」
「僕の両親はもう、亡くなりました。
母は僕が中学の時に病気で亡くなり、父は僕を大学まで行かせてくれて、僕が卒業したその年に
1人で...母の位牌を胸に自宅で亡くなっていました。
僕も一人暮らしを始めたので父の訃報は
警察からの電話で知りました。警察から電話が来る
2日前に父と電話で話をしたばかりだったので
信じられませんでした。
あの時はとても元気だったんですけど......
死因は脳梗塞でした。息を引き取る直前に母の位牌を
抱きしめたんだと思います。
父は、あの時電話口で
『お前を大学まで出したし母さんも安心してくれる
かな、後はできれば孫の顔を見たいもんだ』
なんて言ってました。
当時、一応就職は出来たんですけど、その会社が
思い切りブラックで、残業毎月80時間越え、休日は
月に3回あればいい方で、何とか一年は勤めたんですが
耐えきれずにやめてしまいました。
父の葬儀の時も休ませてもらうのに一苦労でした。
あの時の電話で最後に父が言った言葉
『頑張れよ』
の一言で何とか一年間あの会社で働きましたが
心身ともに疲れ果てとうとうやめてしまったと言う訳でして、それからはアルバイトで何とか食い繋いで
来ました。でもそのアルバイト先まで無くなってしまい途方に暮れていたところに御社の求人を
見つけたんです」
「そうですか」
「今の所、僕にこの仕事ができるかどうか
わかりません、正直言って怖いと言うより
恐怖を感じています、一度僕に体験させて頂け
ないでしょうか、僕は死というものに対しては
それ程怖い物とは思っていません......
ただ......物理的に......亡くなって
何日もの時間が過ぎた遺体とかも......
い、いらっしゃるんですよね」
「そうですね、それはそれは酷いご遺体もあります」
「そういう場合は?」
「防護服を着込んでボンベを背負って
ご遺体を処理します、今までで一番酷いご遺体は...
亡くなってから4週間程経ったご遺体がありました
古いアパートで隣人も住んでいなく発見されなくて
そのアパートの前を通ると「酷い腐乱臭がする」
と、警察に連絡があり、ようやく発見された
それも、真夏の出来事でした、流石にあの時は
作業員3名とも普通ではいられませんでした。
寝床は体液でドロドロになっていて
畳まで人型にシミがついていて......
とにかく、腐乱した肉に骨がかろうじて付いている
という感じでしょうか......
まあこういうのは稀ですけどね、
ただ、発見されるのは全て何日か、何週間か後です。
これはどのご遺体も同じくらいでしょうか......
その辺のことはご想像にお任せします」
この事を聞いて、事務所の中のあの大量の花の意味がわかった気がした......
「大体想像がつきます、冷蔵庫の中でも忘れ去られた
肉は結構傷んでいますから、常温の中では...
何となく想像がつきます」
「正直に現状を話しましたが、それでも体験作業を
してみますか?」
「...............」
「どうされました?別な仕事を探しますか?」
「...............」
「...............」
父親も何日間かだが、発見されずに亡くなっていた
寂しくひとりで逝っていた。
きっと、俺に何かを伝えたかった事があっただろう
親父...親父...親父。
何と、俺の目に涙がたまり出してしまった。
「どうされました?高松さん?」
「いえ、ちょっと父親の事を思い出してしまいまして
......神取社長さん、僕に体験作業をやらせて下さい
どこまでできるかわかりませんが......」
「そうですか、それでは......この仕事は
いつ、呼び出しがあるかわかりません......が
平均して2週間に一度は呼び出しがかかります。
待機できますか?」
「.........お恥ずかしい話ですが、現在
手持ちの物がもう、無くなってしまうので
その呼び出しが来るまで、何でもいいですから
仕事をやらせてもらえないでしょうか?」
「......そうですよね...それでは
明日から来てください、取り敢えずアルバイトで
呼び出しが来るまで雑用をやって下さい
それで、いいですか?」
「はい、喜んで!ありがとうございます!」
そうして、呼び出しが来るまでだがアルバイトで
雑用係の仕事をもらった。
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翌日、意気揚々と会社に向かった。
特殊清掃員、高松零二