要子の冒険(プロローグ)
要子は自走カートに食料と医薬品と武器をめいっぱい詰め込んで、城壁で囲まれている町を旅立った。そこは彼女が生まれ育った町だった。彼女はもう15歳。冒険がしたくなる年頃だった。
バスでもって遠出をしたかったが、あいにく彼女が利用できるバスは町にはなかった。とりあえず、冒険の目的地は町から西へ100キロの場所にあるファクトリーだ。そこは怪物たちに占拠されて生産活動は停止しているらしかったが、ビークルの類がたくさん良い状態で保存されていると聞いていた。
要子が町を出て、1時間もしないうちに狼男の集団と出くわした。5匹の狼男は巨大なバッファローの狩りに失敗してイライラしているところだった。人間の身体には神の恩寵により猛毒が含まれており、食用にはならないが、怪物は人間を殺すのが大好きだ。人間の道具や町を破壊するもの大好きだ。人が生きて増えることを宿命付けられているように、彼/彼女らは人が増えすぎないように間引きをするのがその本能に組み込まれているからだ。
場所が平原だったのが要子に幸いした。見通しの悪い場所だったら、鼻の利く狼男たちに有利だった。
要子は自走するカートの屋根に座り込んで遠視スコープで周囲を警戒していたので、彼女と狼男たちが相手に気づくのはほぼ同時だった。
狼男たちは食料調達のための気軽な狩りにきていたらしく、対人攻撃兵器はほとんど携行していなかった。
カートのせいで機動力におとる要子はすぐに狼男たちに囲まれてしまった。小火器しかもっていない彼らに、要子はレーザーライフルで反撃していった。武器のメンテナンスはばっちりだし、エネルギーパックの予備もたくさんもっているので安心だ。出力をあげて、狼男の隠れている大岩を破砕した。爆発で転がる狼男をライフルでしとめた。これであと残りは3匹。
要子の放つ尽きることないレーザーの攻撃に、残りの狼男たちは勝ち目はないと判断して、1匹が煙幕弾を爆発させた。要子はしまったと思った。視界が利かなくてはこちらが不利だ。機転を利かしてすぐに催涙弾を破裂させ、狼男たちの嗅覚を奪った。しかし要子も防塵マスクを着用する暇はなかった。相手のほうが数が多いし、どうなるか破れかぶれの状況で、要子は生まれて初めて死の恐怖を感じたが、それは杞憂に終わった。煙幕弾を破裂させて時点で、狼男たちはさっさと逃げていってしまっていたのである。
恐怖と催涙ガスの苦しみのなか、要子は大型の超振動ナイフを握り締めじっと狼男の直接襲撃に備えていた。10分、15分と経ち、襲撃がないようだと判断すると、手探りでカートからクレンジングキットを取り出し、自ら撒き散らした催涙ガスのダメージから目と喉を回復させて、現状の確認をいそいだ。逃走した3匹の狼男の足跡を発見して初めて安心できた。
要子の冒険(プロローグ)