ロング、ロング



重い荷物の上で一休み。
こう記すだけで、
何かの始まりを予感する
私の悪癖を
愛してくれた人。
そう思うだけで、
魂なる私は露わになって
真向かう時計の
カチコチと、
影の帽子が真深くなる。
見ない方に
見ないフリをして、
夕暮れ時の、
幼い時。
何を飲まずとも
何も知らなくても、
酔える眼差しが捉える、そう
さよならの光景。
遮光カーテンが失くなってからは、
すぐそばで数本ずつ
転がる鉛筆が
名指しできずに狂って、
焦がして、
迷惑をかけた。
例えば、
歌おうにも歌えない。
なんて
口にしたくて
喉を鳴らして、覚えた痛み。
それを伝えようにも
そっちと、こっちじゃ。
誰にでもなりたい、
なんて信じられない事を
口にしたり、できたりする。
私か、あなた。
そのどちらにもなれなかった夢だし。



トントントン、は
私の爪先。
なのに
いつもと違う。
そのために必要とする
段差の高さや構造、
それとも質感、なのかなって。
だって
曇り空すら綺麗に見せてしまう、
目の前の窓からは
逃げ切れない。
だから、命は怖くて
優しくて。
削れない鉛筆が一本もなく
消しゴムは動かす度に全てを消したから。
夢中になるってね
それはそれは恐ろしいことなんだよって。
原稿用紙の上で
右利きの私が、
カラーボールを転がして
疎かにした快感と危機。
つまりは



棚を自分で作ろうとして、
そして
道具がたくさん壊れていった。



泣いてばかりで、
愛してばかり。
たくさんの足跡が残る床の上の静けさを
想われ人は拭いていく。
向こうを顧みる為、
あるいは
こちらに偏ろうとして、
運命の瞼を剥がす。



それが、
どうしたって意味を成さないから。



ああ、
と歌い始める宵闇に
長い、
長い序文。
重い荷物はまだ重い。
なのに、
立ち上がれる私は
赤い血を流し
青い鉛筆を削って
自問自答の影を薄めて



嗚呼、
言ってしまったって。
また、
始めてしまった。



すぐ近くで
解体されていくものと
何かの指示と
カラスの鳴き声が、
真っ黒で。
けれど
もう二度と閉じれない瞼。
私が直に手を下す、
その形のまま。
白色蛍光に染まった
どれも、これもと
書いて、
描かれて
綺麗に残っていく。
はぁっ、
と吐いてしまった終わりを。
まだ赤い、私の舌が。
まだ動く、私の指が。



中身を溢して。
真っ白に染まった床より、
陶器のコップが
大切だからって。



痛みを思い出して
涙を失くして
青白く写り込み。
のろのろ、と離れゆく。



無敵の私は
もう、
見えなくなった。
聞こえなくなった。
何も。何も。



こうなって、やっと奏でられる鼻歌。
聴き惚れる意思。
自動的で
真実の
誰も知らない笑みが、
ただ一つ。



幸せそうに。
幸せそうに。

ロング、ロング

ロング、ロング

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-10-15

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