ロボットロマン in ファンタジー(修正版)(1)

注意事項
この作品はパロディ色が強い部分がある作品です。
そういうのが不快な方はブラウザバックをよろしくお願いします。

そして私の作品を掲載してくださった星空文庫様に感謝を。
なお、文章量が多くなったため作品を分割しました。
続きは、ロボットロマン in ファンタジー(修正版)(2)からお読みください。
ロボットロマン in ファンタジー(修正版)(2)への行き方は、ページ左下にある'カラクリ繰り'をクリックしていただくと直ぐ見つかります。
よろしくお願いします。

プロローグ

 俺の名前は長巻轟太(ナガマキ ゴウタ)
勇ましい名前だがぽっちゃり体型ロボオタ現在ニートの30歳だ。
俺は今ようやく発売されたPC用オンラインゲームソフト"ロボットロマン2 誰が為のロボ、己が為のロボ"のインストール作業をしている。
「ロボットロマン2」とは、一言で言えばロボ好きのロボ好きによるロボ好きの為のゲームだ。
ジャンルとしてはツクール系が近いだろうか?
開発者曰く、「このゲームで叶えられないロボットロマンは無いっ!!」。
その言い分に偽りは無く、ロボ一機による無双から、量産機を大量に指揮する戦闘、
ロボの作成、武装の作成、基地の作成、戦艦の作成、ゲームステージの作成etc...。
とまぁ書ききれ無くなる位できる事がある。
前作「ロボットロマン」が発売された時は、全世界の極一部のオタク達は狂喜乱舞した。
もちろん俺も狂喜した。
イヤになっていた仕事を止め、このゲームに寝食を忘れて没頭した。
いつの間にか親は、俺に対し見向きもしなくなっていた…まぁ当然か……。
話がずれたな。
しかしこのゲームも5年もするとグラフィックの荒さやバグが問題になった。
発売された5年間でロボットロマンの中は、ユーザーが作ったロボや基地が乱立し、まさにカオスといった状況だった。
さすがに開発元も危機感を感じたのか大規模アップデートを計画したものの、実際にやることは殆ど新規開発。
それならばと、ステージのリセットを兼ねて新作続編を大々的に発表した。
そして今日、ようやく完全新作"ロボットロマン"もとい"ロボットロマン2 誰が為のロボ、己が為のロボ"
がとうとう発売され現在インストール作業中だ。

そしてインストールの進捗を表すプログレスバーが100%に付いた。
「よっしゃあああああああああっあsdfghjkl;」
狂喜の声を上げた瞬間、目の前にあったPC以外が真っ白に染まった。
しかしそんな事も気にせず早速マウスを握る。さぁ冒険はこれからだっ!!!
「おい」
女性が誰かに声を掛けたらしい。まぁ100%俺じゃないからいいがな。
友達が居ない暦うん十年の俺に死角は無い。
さて初期設定でもいじるかな…最初が肝心だ!!
「おいっ!お前!!」
まったく誰だよ…とっと返事してやれよ…ったく……。
「お前だよ、このクズがっ!!」
不意の衝撃により横に吹き飛ばされる。
「ギャアア、なっ何だ!!」そこで改めて回りの異変に気が付いた。
PC以外すべてが真っ白で構成された世界だった。
そこにただ一人、ギリシャ神話にでも出てきそうな服を着た目つきの悪い女がヤクザキックの体勢で立っていた。どうやら蹴られた様だ。
「なっココ何処だよ!つかあんただr」
一瞬で近づいてきた女性に再び蹴り飛ばされる。
そしてそのまま顔面で着地した。
「黙れこのクズがっ!このあたし自らが声を掛けてやってるのに無視だと!!テメェ何様だコラァ!!」
何この人怖い!!
「ヒッヒィッ!もっ申し訳ありません。どっどちら様でしょうかっ!!」
シュバッと音が聞こえそうなほどすばやく正座し、改めて俺を蹴ってきた女性を見る。
髪は金髪。容姿は、今までに見た事が無いくらい整っている。しかし纏っている雰囲気がヤバイ。
抜き身の日本刀しかも妖刀レベル。触れたら切れるってもんじゃない。触れなくても斬られるって感じだ。
「ああっ!耳をかっぽじってよく聞きなクズッ!あたしはディーナ、女神だ!ありがたいだろっ!!頭を垂れろこの蛆虫がっ!」
とにかく今は言うことを聞いといたほうがいい。逆らったらヤバイ。言われるがままに頭を垂らす。
「へへー」
とココでようやく何故?という疑問がでてくる。
「で、あのーそのー女神様が、」
「はっきり喋りなクズが!てめーのピーをピーしてピーすんぞ!!」
「ヒッはいっ!」
放送禁止用語を連発する女神って……。ふぅー落ち着け俺、落ち着け…良し。
「ではお聞きします。ココは何処でしょうか?何故ディーナ様が私の目の前にいらっしゃるのでしょうか?」
「フン、教えてやるよ。ココはさしずめ天界と世界の間ってとこだな。
 そしてこのあたしがあんたみたいなクズの前に居る理由はね。
 あんたがコレからあたしの管理する世界に転生する事を宣告してやるためよ。
 喜びむせび泣きなさいオタクの大好きなファンタジー世界、前世の記憶付きよ」
「なっ!俺はまだ死にたくないっ!まだ"ロボットロマン2誰が為のロボ、己が為のロボ"をプレイしてないんだぞ!
 しかもファンタジーだと!ロボが無いじゃないかっ!ロボがっ!」
「黙れ」
俺の顔面にヤクザキックが叩き込まれる。痛い。
「ひゃい(はい)」
「お前がどう思おうとこっちは知ったこっちゃ無いんだよ。コレは決定事項だ。クズのお前は黙って従ってりゃいいんだよ」
ココでようやく顔面に置かれていた足が外れた。
「しっしかし、何で俺…私なんかがその転生に選ばれたんです?自慢じゃありませんが何にも出来ませんよ?」
「それはな、お前がクズで役立たずで蛆虫だからだ!この世界で居なくて良い人間No1だからだ。
 居なくなってもこの世界にまったく影響が無い。むしろ良くなる」
「なるほど」
納得の理由。しかしだ。
「でも、そんな役立たずをディーナ様の世界に転生させても何の益も無いんじゃないですか?
 転生させるって事は、なんか使命みたいなものがあるのでしょう?」
「使命?そんなものあるわけ無いじゃない?
 あんた自分がどんだけクズが分かってる?
 あんたにゃ何にも期待しちゃいないよ」
「でっでは、」
「あたしの管理している世界は、ちょっと閉塞感が漂っていてね。あと一億年もすれば、高確率で滅ぶって計算なんだよ。
 だがね、それじゃあ詰まらない。
 だから異分子をちょっと放り込んで遊んでみようと思ってね。
 こっちの知り合いにいらない奴をくれって言ったのさ」
いっ一億年…さすが神様スケールが違う。しかも滅びないようにではなく。
詰まんないからとは…さすがギリシャ系神の格好をしているだけの事はある。
しかしこっちの世界の神め、碌に奇跡も起こさないくせに余計なとこばかり見てやがる。
「私なんか転生しても何の変化も起きませんよ。
 ということで申し訳ありませんが諦めてください」
「安心しろ、ちゃんと考えてある。
 転生するお前の望みを一つだけ叶えてやろう。
 金持ち、容姿が良くなる等選り取りみどりだ。
 良かったな豚」
ここに来てテンプレキター!!だがしかし、どうしよう。
ちょっとシミュレーションしてみよう。金持ちに生まれた場合は……。

 金持ちに生まれる
 ↓
 親の金で豪遊三昧
 ↓
 親死亡
 ↓
 遺産相続争い
 ↓
 死亡

…無いな。誘拐とかされるかもしれないしな。しかも勉強三昧とかパーティーとかありそうだ。

次、イケメンに生まれる。

 イケメンに生まれる。
 ↓
 中身俺。
 ↓
 終了。

もっと無いな。友達が居ない暦うん十年の俺がどんな容姿になろうとも俺だし。ありえん。
じゃあもっとテンプレでファンタジーらしいし、魔法の才能アリアリの場合はっと。

 天才魔法使い
 ↓
 なんかいろいろ妬まれる。
 ↓
 宮仕え。
 ↓
 いろいろ仕事を任される。
 ↓
 裏の仕事を任される。(やらなきゃ自分が殺される。)
 ↓
 お前は知りすぎた。
 ↓
 死亡

どう見ても碌な事にならない。完璧に使い潰されて終わりそうだ。うまくいっても精々種馬か?
偏った思考だと思うなよ。コレがコミュ障のありそうな未来だ。下克上とかハーレムとか無理無理。
う~んしょうがない。どんな力が有ろうと俺って時点で終わってんだし、もっと欲望に忠実になろう。よしっ。

「じゃあ、向こうの世界でも"ロボットロマン2誰が為のロボ、己が為のロボ"をプレイさせてくださいっ!!」

「はぁ?何だその願いは、そもそも"ロボット…うんたら"ってなんだ?」

「あれです。」
この白い空間に何故か一緒に飛ばされてきたPCを指差す。
「これか」
ディーナがPCのディスプレイに手をかざす。不思議な光が手のひらから出る。
「フザケンナァァッ!ただのゲームじゃねーかっ!!なめてんのかこの蛆虫クズピー野郎!!」
ディーナの手から火の玉が飛び出し、あっという間にPCが灰になる。

その光景を見た瞬間俺の中で何かが切れた。
「ナメンナァァァ!至高のロマンだよ!!なめてんのテメェだクソ女神!!
 俺がどれだけこのゲームを楽しみにしていたと思ってんだゴラァッ!
 それをただのゲームだと!?世界が詰まらないからと言って人間一人殺して転生させようとしてる奴に言われたくないわ!
 このゲームは、ロボットロマン舎(ゲーム開発元)の太田元水氏が、ロボ好きのスタッフのみを集めて作った至高のゲームなんだよっ!
 ロボット系アニメ、ロボット系ゲームがなかなか作られない昨今、"ロボット系アニメ、ゲームがない?なら自分で作ればいいじゃない。"
 と言う至言の元、-----------------------


 "ロボットロマン2誰が為のロボ、己が為のロボ"への愛が爆発中


 -----------------------と言うことだ分かったかっ!このアバズレッ!……ハッ!!」
ヤバイ…暴走した…。あっディーナ様ポカンとしてる。
「ホウ、言うじゃないか…。なら私の管理する世界でその"ロボットロマン2"とやら使ってこい蛆虫」
「へっ?」
よっしゃとりあえず怒られる事が無いみたいだ…。
しかし、"私の管理する世界でその"ロボットロマン2"とやらを使ってこい"とは一体どういう意味だ?

「だがな、あたしをアバズレと呼んだなクズの分際で……」
 ディーナ様が思いっきり足を振り上げる。あっ見えそう。
「見えた……」
「イッペン、シネ」
女神様の踵落しを喰らい目の前が真っ白になった。

そして俺は死んだ。

第1話 生まれてはみたけれど…

 そして俺は、生まれた。

ここは、病院だろう。
周りを見ていると白い服を着ていると思われるヒトガタが動いている。
何だろう?生まれた俺を見ている視線がなんか冷たい…こちらはよく目が見えないし、
聞こえないので視線を感じることしか出来ない。しかし眠い…寝よう。赤ん坊だし。

…それにしても暇だ…まぁ赤ん坊だしやる事が食っちゃ寝、食っちゃ寝…。
んっ?また嘲りの視線を感じる…。
何だろう?(この世界で)生まれてから俺が感じる視線には哀れみと嘲りしか感じないんだが…。
五体満足だし、特におかしなところも無いはずなんだが…。
まぁいいや。
いずれ分かるだろう。それよりもあのクソ女神が言っていた"私の管理する世界でその"ロボットロマン2"とやらを使ってこい"とは何だろう?
こっちで"ロボットロマン2誰が為のロボ 己が為のロボ"が遊べるのだろうか?
"ロボットロマン2誰が為のロボ 己が為のロボ"やりたいなぁ。
するといきなり目の前にPC画面みたいのが立ち上がった。
「あうあうあーーーっ!!」
なっ何じゃこりゃー!!
画面に表示されている文字(嬉しいことに日本語表記)を読んでみると……。

 ロボットロマン2 誰が為のロボ 己が為のロボ をインストールしています。
 しばらくお待ち下さい...残り時間約3時間です。

と表示されていた。
「あーーーーーーうーーーーーー!」
よっしゃああああああああああああ!
ロボットロマン2 誰が為のロボ 己が為のロボがこの世界でも出来るーーー!!
この3時間は最高の3時間だった。喜びすぎて看護士さんが何事かと見に来たくらいだ。

そして希望と絶望の10年間が始まる…。

目の前にあるインストール画面のプログレスバーがようやく100%に付いた。
しかし、次に表示された画面は楽しみにしていたOP画面ではなく。

ロボットロマン2 誰が為のロボ 己が為のロボ を最適化しています。
しばらくお待ち下さい...残り時間約9年11ヶ月30日です。

えっ!そんな、まさか…ここに来てそんな展開ありえねーですよ。
ロボットロマン2をプレイするのに後、10年掛かるのかよ、そんな嘘だ俺は信じないぞ。
ハハッいくらなんでも10年は掛かりすぎだろう。PCでよくある信用なら無い待ち時間だろ。
そんな希望を持ったこともありました。
翌日改めて画面を見てみると。

 ロボットロマン2 誰が為のロボ 己が為のロボ を環境に最適化しています。
 しばらくお待ち下さい...残り時間約9年11ヶ月29日です。

やっぱり約10年掛かるようです。
「うわーーーーーーーーーーん、ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーん」
プレイできるようにしてくれるって言ったじゃないですかー!
あと10年ってどんな拷問だよ!!
某ゲーム会社だってもうちょっと親切だったぞ。
泣き叫びすぎて看護士さんが何事かと見に来たくらいだ。
ちなみに画面は、"消えろ"と念じたら消えました。

 3歳になりました。いろいろな事が分かった。
まず最初に、俺は魔法を使うことが出来ないと言う事。
この世界では、基本誰でも魔法が使える。三歳児でも使える。
しかし、世の中には例外が有る様で黒髪の人間は魔法が使えない。
そして俺は、見事に黒髪だった。
あのクソ女神め!魔力は有るらしいがそれを使うことが出来ない。何故かは分からない。
そのせいか両親に愛される事が無い。思いっきりネグレクト状態だ。
だから食事にすら苦労した。
病院から出た後は、哺乳瓶(変な形をしていたが…)でミルクを飲ませてもくれなかった。
枕元に置くだけ。だから俺は必死の思いで哺乳瓶に抱きつき、中身のミルクを飲んだ。
味は薄かったり、濃かったりと超適当。
飲んだ後は、何とかその辺に落ちてた棒で使い、背中を叩きゲップを出す。
その様子を窓の外で見ていた黒猫(多分)が目を丸くして見ていたのは和んだ。
俺は"ロボットロマン2"をプレイしつくすまで死ねん。
あと20年いや30年生き延びてやる。

とりあえずこの世界の言語の習得は出来た。ミーゴラ語というらしい。
文法は殆ど日本語と同じだったので助かったが単語を覚えるのが面倒だった。
後は読み書きを覚えれば完璧だ。

後、一歳年下の妹が出来ました(超重要)。どうやらこの子は、魔法の才能がすごいらしい。
なんせ髪の色がプラチナブロンド(初めて見た)なのだ。ちなみに両親の髪は、ブラウンだった。
何故、プラチナブロンドかと言うと、どうやら俺が関係しているらしい。
プラチナブロンドは貴髪(キガミ)と呼ばれ、強い魔力と才能を持って生まれて来た証らしい。原色系の色の髪も貴髪。
そして貴髪を持つ赤ん坊が生まれる前に必ず生まれるのが黒髪を持つ赤ん坊らしい。
曰く、"母親の腹の中に魔法の才能を置いてきた阿呆"だそうだ。
その置いてきた才能を拾ったのが貴髪の持ち主ということらしい。
コレで病院でのあの視線の意味が分かった。

普通なら黒髪と言う時点で殺されそうだが、貴髪の存在証明書代わりに生かされている様だ。
まぁこちらもそれを利用させてもらおう。

それで妹だ。前世が一人っ子だった為か、コレが可愛いのなんのって俺にあてがわれた物置を抜け出して可愛がってますよ。
えっ三歳児それが出来るかって?もちろん根性ですよ。
「あーあーだーだー」と笑ってくれた時なんて最高だ。
あと一年もすれば"お兄ちゃん"と呼んでくれるかもしれない。がんばろう。
ちなみに"ロボットロマン2"の最適化の状況はこんな感じ。

 ロボットロマン2 誰が為のロボ 己が為のロボ を環境に最適化しています。
 しばらくお待ち下さい...残り時間約7年11ヶ月11日です。


 4歳になりました。妹が可愛いのなんのって。
俺の今住んでいる街についても少しずつ分かって来た。名前はファード。全体的に中世ヨーロッパを彷彿とさせる街だ。
街中央部に官庁があり、そこを囲むように貴族街、商業街、一般住宅街、外壁となっている。
まぁまだ実際に見たわけではないが…。だって妹には俺が付いて無きゃな。

そして俺の生まれた家は、典型的な公務員の家らしい。一般住宅街にある石作りの一軒家だ。
父親が仕事に行っている間に書斎に忍び込み本を片っ端から自分の部屋に借りて読んだ。
魔法の初歩をまとめた本も読んだが、まったく魔法は使えなかった。忌々しい。

母親は、妹が乳離れしたら貴族様から毎日お茶会に呼ばれているようだ。将来大魔法使いになるであろう妹とのコネ作りだろう。
一度妹を連れて行こうとしたら、大泣きに泣いて大変だったらしい。それ以来お茶会に連れて行こうとはしなくなった。
変わりに留守の間は、ベビーシッターを雇って妹の面倒を見てもらうようになった。
コレが俺にとって最高で、親にとっては最悪の選択だったろう。
はっきり言って雇ったベビーシッターはクズだった。
母親から妹を受け取り、母親を見送るとすぐ俺に渡して
「あんたが面倒見な。無能のあんたでもコレくらいは出来るでしょ。後この事チクったらあんた燃やすよ」と脅してきた。
あの親の事だ。俺を妹に近づけるな位は言っていただろうと思っていたんだが……。
あのベビーシッターは、リビングのソファでイビキをかいている。
コレ幸いと妹に言葉、文字、分かる範囲での魔法の使い方、ロボのすばらしさ、ロボの儚さ、ロボの力、ロボの英雄譚を
辛くならない様に注意しながら教えていった。まぁ半分以上がロボ関連なのは、ご愛嬌だ。
初めて喋った言葉は「おにぃちゃん」だ。あの時の親の顔といったら、ざまぁみろ。

いつもあのベビーシッターは、母親が帰ってくる時間になると妹の部屋を覗き込み何して遊んだか確認していた。
そして母親が帰ってくると妹に「~して遊んだんだよねー」と聞いて妹が素直に「うんっ」と元気良く返事をさせて既成事実を作っていた。
すばらしい猫かぶりだ。
もちろん俺もボロが出ないように裏できっちりフォローしていたがな。

そんな毎日も唐突に終わってしまった。
話は簡単、母親がいつもの時間よりだいぶ早く帰ってきてしまったからだ。
リビングでグースカ寝てるベビーシッターを見つけるや否や妹の部屋に直行し、俺と妹との交流を見られてしまった。
この時ほど、罠の一つでも仕掛おけば良かったと後悔したことは無い。
部屋に入ってきた母親は「今日はお兄ちゃんと遊んでたの?ベビーシッターお姉ちゃんは?」と聞いた。
妹が素直に答える「?いつもお兄ちゃんと遊んでるよ。あのお姉ちゃんいつも寝てるよ」と…コレが決定的だった。
母親に「何故教えなかったのっ!!」と追求されたが「脅された」と正直に白状しといた。
即効でベビーシッターは騎士団(この国の軍兼治安維持組織)に引き渡された。
ベビーシッターは俺にとってはいい仕事をしてくれたが助けてやる義理は無い。
後に聞いたところ、この街を追放されたらしい。ご愁傷様だ。

それからしばらくは母親はお茶会を控えるようになった。
その後も優秀な(俺にとっては最悪な)ベビーシッターを雇うことになり、
妹の交流が格段に減ってしまった。しかも日中は外に追い出された。
「もう6歳になったから外で遊びなさい」だと。

外でどんな目で俺が見られているか知ってるくせに……。

外は嫌いだ。前世でも嫌いだったが今はもっと嫌いだ。
回りの連中は、蔑んだ目で俺を見やがる。「魔法も使えない無能」だと…。
ガキ供は、もっと顕著だ。
「あー無能だー!」
「おーい無能が歩いてるぞー」
「こっちくんな無能がうつる!」
ガキながら魔法を飛ばしてきやがる。
とりあえず言って来た連中はぶっ飛ばしたが…。減りゃしない。


 現在の最適化状況

 ロボットロマン2 誰が為のロボ 己が為のロボ を環境に最適化しています。
 しばらくお待ち下さい...残り時間約3年6ヶ月11日です。

第2話 見つけた…けれど…

 この世界にもロボは存在したのだ!

それは、ベビーシッター(新)に家を追い出されて渋々路地裏を散歩している時だった。
ズシンズシンと馴染みがありながら経験した事の無い音と振動を感じた。
この時の胸の高鳴りをなんと表現できようか、いやできない。
自然と足は駆け足になり、音の発生源へと向かう。
何回路地を曲がったか覚えていないくらい曲がった後、目の前の視界が開けた。

ちょうどそこには、整備場と思わしき建物に入る鈍色に輝く鎧を着た巨人が見えた。
大きさは大体8m位だろうか。
もう既に息は上がっていたがそんな事は関係ない。
巨人を追って建物に入ろうとしたら、いきなり襟首を掴まれ吊り上げられた。
「ぐえぇ」
「こりゃ、坊主この建物に入っちゃイカン!仕事の邪魔だ!」
この建物の関係者らしいドワーフの様なおっちゃんだ。実際ドワーフなのかもしれない。
俺の髪を見て哀れみの視線を送る。
しかしそんなもの今は関係ない。
「おっちゃん、あれなんだっ!?あの巨人、あれなんだ?」
俺の剣幕とキラッキラッした瞳に、おっちゃんが軽く引く。
「おっおう、あれはな、魔晶機兵って言うんだ。通称"機兵"だ」
「うおーすげーカッケー乗りてー!!じゃあじゃあこの建物はなに"機兵"の整備場?」
「おう、そうだ機兵工房"ルブリス"だ。ちなみに俺の工房だ」
「すげーおっちゃんすげー!!」
「ふふっまぁな」
機嫌を良くした様だ。案外ちょろい。

「なぁなぁおっちゃん!機兵ってどうやったら乗れるようになるんだっ!俺乗りたい!!」
おっちゃんの表情が凍る。そして俺を地面に降ろす。そして俺の正面に立ち、視線を合わせる。
「なぁ坊主良く聞け。機兵はな、優秀な魔法使いしか乗れないんだ。
 あーなんだ…そのー黒髪のお前さんにゃ…乗れないんだ…」
その言葉に俺の精神は一気に凍りついた。目の前にロボがある。しかし乗れない。
「乗れ…ないの…本当に?」
「ああ、本当だ……」

その後のことは、あまり覚えていない。気が付いたら俺の部屋(物置)に居て目の前で妹が泣いていた。
「どうした?ミレス、どうして泣いているの?」
「ヒック、だってお兄ちゃん泣いてる。痛いのって聞いてもヒック返事もしてくれないんだもん」
「ああ、ごめんなお兄ちゃんちょっと考え事してね…」
ああ妹を悲しませてしまった。兄として失格だ。窓を見るともう真っ暗だった。
「俺はもう大丈夫だから、ミレスはもうお休み。睡眠不足はお肌に悪いよ」
「お兄ちゃんもう泣かない?痛くない?」
「うん、もう泣かないし、元々痛くもないよ」
「分かった……おやすみなさいお兄ちゃん」
「おやすみ」
パタンと俺の部屋の扉を妹が閉める。

一旦落ち着いて考えよう。
この世界には、ロボ(機兵)がある。
乗るためには魔法の才能が必要。
そして俺には魔法の才能がまったく無い。
…どう考えても絶望的だな…目の前にあっても手が届かないとは何たる拷問か!
だがしかし、今回の情報源は工房のおっちゃんただ一人だ。
他人から貰った情報を鵜呑みにするのはバカのする事だ。
まずは貰った情報の検証する方法を考えよう。

翌日、俺は再び機兵工房"ルブリス"の前に立っていた。
おっちゃんを見つけて更なる情報を引き出そうと来たのだ。
工房は、繁盛しているのか三つあるハンガー全てに機兵が入っていた。
俺が工房の入り口付近でキョロキョロしていると目標のおっちゃんの方から声を掛けてきた。
「おい坊主また来たのか。いくら来たって坊主の乗れる機兵は無いぞ」
おいおい、いきなり辛辣だな。このおっちゃん。
「なぁ、おっちゃん機兵についてもっと知りたいんだけど、どっか調べられる場所知らない?」
「調べられる?教えてくれるじゃないのか?」
「何言ってんだよおっちゃん。黒髪の俺に機兵について教えるバカな奴がいると思ってんのか?」
絶句するおっちゃん。
まぁ自分が知りたいことを教えてくれる人など端から居ないと確信してる子供が目の前居たらそうなるな。
「なら俺が教えてやろうか?暇な時に限るが…」
このおっちゃんいい人だ!めっちゃ心が洗われる。
「遠慮しとくよおっちゃん。おっちゃんの仕事をこれ以上邪魔しちゃ悪いしな。
 調べられる場所を教えてくれれば良いよ」
むぅと唸るおっちゃん。
「なら、機兵ギルドだな」
「機兵ギルド?」
「そう機兵ギルドはな、機兵乗り達の仕事を斡旋している場所だ」
どうやら冒険者ギルドみたいな組織があるらしい。
「そこの資料室ならいろんな事が調べられると思うが…あそこは登録者以外立ち入り禁止だからなぁ…」
場所さえ分かれば問題ない。最悪そんな場所は無いと言われる方が心配だった。
「おっちゃんそれ何処にあるの!」
「城壁すぐ近くの大通りだ」
「わかった、ありがとな。じゃぁな!!」
よっしゃ早速偵察だ。資料室の場所の確認、一日の人の動き、資料室の使用頻度等調べることは山ほどある。
「クカカッ」
前世でも気持ち悪いと絶賛された笑いが久しぶり口をついた。

おっちゃんの言っていた通り機兵ギルドは城壁すぐ近くの大通りにあった。石造り二階建ての頑丈そうな建物だった。
一階が依頼受領の受付をする為のスペースになっておりまるで市役所のようだった。
多分一階で機兵乗りの依頼受領処理をして二階で依頼主からの依頼を受け付けるのだろう。
そして目的地である資料室の場所は地下だった。
この場合、半地下といった方が正しいだろうか地面から10cm位の所に資料室に通じる小さな窓があった。
子供がやっと通れる位の大きさだったが、残念ながら鍵が閉まっていた。

一週間ほど機兵ギルドを偵察した結果、資料室はまったくといって良いほど使われていなかった。
資料室に来るのは、ギルドに依頼された仕事をまとめたファイルを持った職員だけだった。
俺は、ギルドの中に忍び込む算段をまとめる。
この資料室は殆ど使わないくせに、稀に空気の入れ替えのために例の窓を開けるのだ。
この窓を開けた隙に忍び込んで用意した道具で窓の鍵を細工した。道具?もちろん自作ですよ。
おっちゃんのとこにある機兵パーツ廃棄場から使えそうなものをパクって来ました。
イヤーあそこは宝の山だわ。壊れた腕なんて感動するほどの退廃的美を、かもし出していました。

細工をしてからは、毎日忍び込んで機兵について調べまくった。
どうやら機兵とは、元々過去の異物、発掘兵器(ロマンだねぇ。)だったようだ。
昔々に、魔獣の大侵攻があった際、どこぞの街の避難民を誘導していた騎士が道に迷って入った遺跡から見つけたらしい。
見つけた騎士は、それに乗って追ってきた魔獣をバッタバッタと切り伏せながら避難民を守りきった。
その話を聞きつけた当時の各国は、共同でその機兵を研究し、何とかデットコピーの量産に成功。
コレにより何とか大侵攻を凌いだと言う話だ。

ここで魔獣について話しておこう。魔獣とは、魔法を使う獣である。
しかも大抵身体強化の魔法を無意識で使っているらしく巨大だ。小さくても5mはある。
大きいものになると山ほどでかいと言う。
種類も多種多様。ドラゴンまで居るそうな(さすがファンタジー)。
だがコレくらいだったら強力な遠距離攻撃魔法を使える人類が負ける要素が無い。
彼ら最大の特徴は対魔法フィールドを纏う事が出来るのだ。
つまり、魔法が殆ど効かないのだ。
攻撃するためには対魔法フィールド防御値以上の魔法をぶつけるか物理で殴るしかない。
この世界の人々は基本的に全員魔法が使えるので、物理攻撃が発達していないのだ。
せいぜい剣や槍は存在している程度だ。
想像してほしい。
RPGでマジシャンしか居ないパーティーに、魔法攻撃不可の敵が出てきた時を…。
みんな「詰んだ」と思うだろ?そこで機兵の登場だ。
機兵に乗り、魔力で操作して物理で殴る。これがこの世界での対魔獣対策だ。

ところで今回最大の問題である、黒髪(無能)の俺がどうやったら機兵に乗れるかであるが。
とりあえず、黒髪の機兵乗りの存在した記録は無かった。ただ気になる情報が有った。
精霊機兵なるものがあるらしい。精霊と契約した者のみ使える機兵だそうだ。
コレしかないと思った。

次は精霊が何処にいるかを調べるか…。

見つかりませんでした。資料庫を全て漁ってどこぞの昔話ぐらいしか見つからなかった。
コレはもう自分の足で見つけるしかないな。となると、将来は冒険家か…。
これからは体も、鍛えなければならないな。


 現在の最適化状況

 ロボットロマン2 誰が為のロボ 己が為のロボ を環境に最適化しています。
 しばらくお待ち下さい...残り時間約3年1ヶ月9日です。

第3話  準備開始

さて冒険者に必要なものは何でしょう?
私の答えは…
1.体力
2.知力
3.ほんの少しのお金
となりました。何かどこかで聞いたこと有るような気がするけど気にしない。
1と2は、言わずもがな。そして3はお金は沢山あった方が良いじゃないかと
思うかもしれないが、ここはファンタジー世界だということを忘れてはいけない。
一歩街を出れば無法地帯、まさにリアルヒャッハー。
黒髪の俺が沢山お金を持っていたら、ネギを背負った鴨そのものだ。
まぁ現在は、お金なんて持ってませんけどね。

ここでこの世界のお金の単位についても簡単に説明しておこう。分かりやすくするとこうなる。
共通半銅貨一枚=50円
共通銅貨一枚 =100円
共通半銀貨一枚=500円
共通銀貨一枚 =1000円
共通半金貨一枚=5000円
共通金貨一枚 =10000円
王国金貨一枚 =100000円
"共通"と付いてるのは何処の国でも使える貨幣だ。
前に話しに出てきた"魔獣の大侵攻"があった時に避難民が持っていたお金が使えなくて困った事があった為、
全ての国で共通に使えるお金として各国の代表が作ったらしい。
あと王国金貨はこの国が発行してこの国でしか使えない貨幣だ。
この高額貨幣は主に国や大商人の取引用として使っているらしい。

とりあえず出来ることをしよう。
まずは金だな。どうやって稼ごうか?あの親は絶対俺に小遣いなんてくれないだろうから金策からは除外。
俺の着ている服だって全部古着だしな。もちろん妹は新品だよ。

確か城壁の外に森と川があったな……良しコレで行こう。

まず家にある塩を毎日少しずつ、頂戴する。
ある程度、量が溜まるまでに色々道具を用意しないとな…。
やって参りました。俺の聖地、機兵パーツ廃棄場。おお、今日も廃棄された機兵の頭部がふつくしいな。
さてと、ここで見つけるのは、"ナイフになりそうな物"と"網になりそうな物"と"ボロ布"とだ。
早くしないとおっちゃんに見つかって追い出される&折角の獲物を取りあげられちまう。
あったあった、俺は、"ガラクタの鉄片"と"硬そうな石"と"なんか網っぽい物"と"ボロシート"を手に入れた。
何のパーツか分からんがコレでいい。
家に持って帰り"ガラクタの鉄片"を"ガラクタナイフ"にしなければ……。
「クカカッ」
それから、俺の家の周りでは"夜になると、不気味な笑い声とシャコーシャコーと刃物を研ぐ音が聞こえてくる"と噂になっていた。


やっとこさ塩が溜まったぜ。計画の第二段階に移行するか…。
こつこつ夜なべして作った"ボロシート外套フード付き"を身にまとい。
"ガラクタナイフ"を装備して、城壁の外へと向かう。
城壁の外に出るためには、東西南北に走る大通りの先にある大門を通らなければならない。
今回外に出る門は西門だ。西門の先に今回の目的地の川がある。
そこにはもちろん警備する騎士団員が存在するが結構警備はザルだ。
騎士団員や周りに居る一般人達の印象に残らないようにフードを深く被り素早く門の外に出る。
初の門外脱出成功。
早速川に向かう。門の近くの川には、10歳くらいの子供たちが遊んでいたが、それに見つからないように
上流に向かう。幸いヨーロッパのような川ではなく日本と同じような川幅の狭い川だった。
派手に音を鳴らしても下流の子供達に気づかれないくらい遠くまで来た。
じゃぁ始めるか…。
俺は近くにあった俺の頭と同じくらいの大きさの石を力いっぱい持ち上げ、川の中で頭を出していた石に投げつけた。
そう、ガチンコ漁である。
早速浮き上がって来た鮎っぽい魚を取っていく。なんと8匹も取れた。
取れた魚を"ガラクタナイフ"を使いなれない手つきで内臓を取り開く、その後きれいに水で洗う。
俺の部屋(物置)から持ってきた桶に水を入れ、塩を入れる。この按配は勘だ。
塩水の入った桶に開いた鮎っぽいものを入れしばらく放置。
放置しているうちに近くにある流木から同じような長さのものを4本選び四角になるように立てる。
立てた四本に網をかけて干し場所完成。
桶に入れていた魚を水で再度で洗い、作った干し場に置く。後は一晩おいて置くだけだ。

そう、俺が作っていたのは"魚の干物"だ。
この世界では、みんな食料の保存は氷系魔法でやっているのだ。そのせいか保存食が殆ど発達していないのだ。
だから俺は思った。「コレは売れるっ!!」と…。


翌日、干していた魚を回収し、試しに一匹焼いてみる事にする。
…手が痛い…火を点けるのがこんなに大変だったとは……。
何とか焼けたので味を見てみる……うんうまいコレは売れる。
早速誰かに試食してもらおう……あの人が良いかな?…というかあの人しか居ない…。

城壁内に戻る前に今日もガチンコ漁を行い、干物をセットしておく。

やって参りました。機兵工房"ルブリス"の前。
さーておっちゃん何処かなーっと…。
「おい坊主、仕事の邪魔だ!どっかうせろ!」
おーおっちゃん良くぞ俺を見つけてくれた。
「おっちゃん。俺だよ」
被っていたフードを取る。
「おー黒髪の坊主か、あれ以来顔を出さなかったからちょっと心配してたんだ」
やっぱこのおっちゃんいい人だ!!
「今日は、おっちゃんにコレを試食してもらおうと思って持ってきたんだ」
持ってきた干物を差し出す。
「なんだこりゃ?干からびた魚…ユアか?こんなもん食ったら腹壊すぞ」
「大丈夫だよ。もう一匹俺が焼いて食ったもん。何ならもう一匹目の前で食べるけど?」
この鮎っぽい魚、ユアって言うんだ……。偶然だよね……。
「分かった分かった、食べれば良いんだろ。食べれば。んじゃちょっと付いてこい」
トコトコとおっちゃんの後を付いていき整備場の中に入る。おお整備場に初潜入だ!
このむせる様なオイルの匂いが堪りません。
おっちゃんの後を着いていった先は、小さな休憩室だった。
そこにあった、魔導コンロを指し「そのコンロで焼けって、お前使えなかったな。スマン」
「いいよ。おっちゃん、それより早く焼いて味見してくれ」
「分かったよ。ちょっと待ってろ」
おっちゃんは近くにあるフライパンを手に取り、渡した一匹を焼き始めた。
本当は網焼きが良いんだが…。仕方がない。
しばらく焼いていくと干物独特の香ばしい匂いが休憩室に充満し始めた。
すると作業していただろうツナギを着た人たちがドンドン集まって来た。
「親方ー。何やってんです?なんかうまそうな匂いがしてるんですけど?」
「おう、この坊主が持ってきた魚を試しに食ってくれって言われたんで焼いてんだ」
「そろそろいい焼き加減だと思いますよ」
「おっそうかい」
フライパンの上にあった魚を手近の皿に取り、集まった一堂はまじまじと見る。
「なんかすげーうまそうなんスけど…」
「よし、食うぞ!」
「骨が付いてますから、気をつけてくださいね」
フォークで食べやすい大きさに切り分ける。
「わかってらい。バクッ…ムグムグ……ゴク……」
「どうっスか親方?」
「こりゃあうめぇ!ユアの味が濃い。これに酒があれば最高だ!!」
「ほんとっスか?じゃあちょっと貰うっスよ」
「バカ野郎。コレは俺が貰ったんだよ。俺が全部食う」
おっちゃんは、皿を持ってバクバク食っている。おい骨は外せよ。喉に刺さるぞ。
「で、どうコレ、売れそうかな?」
「売れる売れる。俺が売ってほしいくらいだ」
「んじゃ、ここに後、6匹あるけど買う?」
「おう買う。いくらだ?」
「銀貨一枚半でどう?」
「買った」
「まいどありー」
おっちゃんから代金を貰い、ポケットにしまう。
「んで、何処で買ったんだ?」
「何処にも売ってないよ?」
「じゃあ何でお前が持ってんだよ」
「もちろん俺が作ったに決まってんじゃん」
「HAHAHA」
「ええー」
「んな馬鹿な」
「黒髪が作れるわけねーじゃん」
おうおう、皆さん言ってくれるじゃないか。まぁ予想通り展開だな。
「黒髪をバカにすんじゃねぇ!魔法は使えないけど、俺だって頭が付いてんだ。考えもすれば、工夫もする。
 機兵だって魔法だけで出来てるわけじゃない!おっちゃん達だって手や頭で機兵を整備してるじゃん!!」
バカにしていた整備員の兄ちゃんたちがハッと顔を見合す。
「…そうだな。お前らこいつを馬鹿にしすぎだ。すまなかったな坊主」
「いいよ。黒髪って事は、事実だし。でも自分で作ったのにお前に出来るものかって言うのは止めてくれ」
何人か嫌な事を思い出したような顔をしている。
「その、…すまなかった」
「坊主ごめんな」
整備員の兄ちゃん達も謝ってくれた。ヤバイこの人達いい人かもしんない。

とりあえず、一段楽したので、おっちゃんに次の商売の話を持ちかける。
「なぁなぁ、おっちゃん、明日も干物もって来たら買ってくれる?」
「明日もか?それは良いが。毎日持ってこられても飽きちまうぞ?」
「それもそうだね…。じゃあさ、整備に来た機兵乗りの人に売れない?」
「そうか、あいつ等なら酒好きだし、珍しい物が食えるって喜びそうだな。
 だが良いのか?普通の酒場とかに売ったほうが良いんじゃないか?」
「うーん、それも考えたんだけどね。
 酒場とかだとすぐに噂になって親にばれて、稼いだお金全部取り上げられちゃうよ。
 だから、ばれ難いように機兵乗りの人に直接売るんだ」
機兵乗りの人は、あまり街の人間とは関わらない様だからな。
おっちゃんは、改めて俺の境遇に絶句している。 
「坊主、お前はどういう生活しとるんだ?」
おっちゃんに今までの生活を掻い摘んで話す。妹の可愛さは特に強調しておいた。
「なんか想像を絶する生活だな。(特に赤ん坊時代)」
「イヤーそれほどでも」
「いやいや、褒めてないぞ。それでそんなことまでして金を貯めてどうするんだ親から逃げるのか?」
「親元から出るって事は、変わらないけど逃げるって事じゃないよ。
 俺はね、おっちゃん"精霊"を探そうと思うんだ」
「っ!!お前それを何処で聞いたっ!あんなもん伝説に過ぎん。精霊機兵なぞ存在せん。やめとけ」
「わかってる。御伽噺に出てきた存在だって。でも機兵に乗れる可能性があったらなんでもするよ」
俺は、ロボの為に命を使い尽くす所存です。
「バカだろ。お前は…良いだろう。お前が旅に出るまで色々手伝ってやる。しかし金はやらんぞ」
「そこまでしてもらったら俺が悪いよ。…じゃあさお金預かってくんない?
 持ってると危なっかしくて…俺が持ってる事がばれたら絶対恐喝される」
「分かった。使いたかったら俺に言え。いや、ほしい物があったら俺に言え、お前の金で買ってこよう」
「ありがとう。おっちゃん」

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第4話  商売繁盛のち嵐

 翌日おっちゃんの所へ、ユアの干物を持っていくと、整備員の兄ちゃんに囲まれた。
「なぁあの魚俺にも売ってくれよ。昨日親方に分けてもらったんだどすげーうまかった」
「あっ、俺も俺もっ」
話を聞いてみるとおっちゃんかあの後、干物をつまみにした飲み会をやったようだ。
お陰で大好評で今日持ってきた干物は全部売れた。
売り上げを預けるのと欲しい物を伝えにおっちゃんの所に行く。
「こんちは、おっちゃん。あと、ありがとう。他の整備員の人に宣伝してくれたんだ」
「よせやい、俺が食いきれなかっただけだ。残しといたらもったいないだろうが」
ククク…このツンデレおっちゃんめ。
「早速で悪いんだけど売り上げ預かって…。後ほしいものがあるんだ」
今日の売上金をおっちゃんに渡す。
「おう、なんだ?」
「塩を買ってきてほしいんだ」
もう家からくすねて来た塩は今日仕込んだ分で無くなった。
「後、七輪ってある?」
「塩は良いが、シチリンってなんだ?」
「干物をもっとおいしく食べれる道具だよ。燃料に炭を使ったコンロのことだよ」
「炭か…。形はどんなんだ?」
「じゃぁこの紙に書くよ。………っとこんな感じ。基本的材質は特殊な土ね」
古き良き七輪の絵を紙に書く。
「へーこんなのか…。見たことねぇな」
「これの上に網を強いて焼くと油が炭に落ちていい感じに燻されるんだ。香りもフライパンより段違い!」
「そいつぁすげぇ。食ってみてぇな。…そういや俺の分の干物をくれ」
「あーごめん。今日の分みんな整備員の兄ちゃんたちに売れちゃった」
「なん…だと…。あいつらめ、昨日食ったので味を占めやがったな!」
「明日は、ちゃんとおっちゃんの分を取っとくよ……」
「頼んだ。塩は明日の朝取りにこい」
「分かったありがとう。じゃあまた明日」
「おう」
良し良し、これなら暫くは、工房のおっちゃん達で稼げるな。

再び次の日
朝、工房のおっちゃんから塩を受け取り、せっせと干物を作る。
干している間に、投石の訓練をする。魔法の使えない俺には、今のところ唯一の遠距離攻撃手段だ。
右でも左でもどんな投げ方でも投げられるように訓練しなければ…。

日が傾いてきた頃、訓練を止めて出来た干物を回収する。今日も干物を売りに行こう。
工房に着くと整備員の兄ちゃんから声を掛けられる。
「おっ来たか、親方ー!坊主が来ましたぜー!」
「おう、ちょっと待ってろ」
おっちゃんな何かを持ってこちらにやって来る。
「坊主、七輪ってこんなのか?」
持ってるものを見ると、材質はちょっと違うが七輪だった。
「おっちゃん、これどうしたの?」
驚いて聞いてみると。
「今日、暇な時にあいつらに作らせた」
「親方ー!暇な時なんてなかったっスよー」
「うるせぇ!俺の干物を買い占めた罰だ!」
おっちゃん意外に食い意地はってんな…。
「じゃあ、早速一枚焼いてみようか…って炭はあるの?」
「おう、塩と一緒に買っといた」
「じゃあ、網の上に炭を置いて魔導コンロで火を点けて来て」
「おい、ちょっと火を点けてこい」
「分かりましたー」
七輪を作ったと思われる兄ちゃんがコンロに走る。
暫くして、火の点いた炭を持って帰って来た。
「良し、じゃあ焼きますか」
七輪に火の点いた炭を入れ、網をかぶせる。
「…っと、煙が結構出るけど。ここで焼いちゃっていいの?」
ここは、工房の目の前なのだ。目立つのはまずい。
「おっと、そいつはまずい、裏に行こう。おい、シチリン持って来い」
「うぃっす」
ぞろぞろと整備員の兄ちゃん達を引き連れておっちゃんが裏へ出て行く。

裏…そう俺の聖地とも言える機兵パーツ廃棄場だ。

それぞれ椅子になりそうな廃棄パーツを持ってきて七輪を囲む。
「じゃあ焼きます」
持ってきたユアの干物を網の上に置く。
興味津々にみんな覗き込んでいるが、フライパンで焼いているのと変わらない様子なので若干拍子抜けのようだ。
しかし、焼いている内に干物の身から出てきた脂が炭火に落ちる。
ジュワーと言う音と共に脂の焦げるいい匂いが撒き散らされる。
「おおー。話には聞いていたがこりゃフライパンで焼くのとは段違いだな」
「はい、これくらいでいいと思うよ」
「どれ、おお一昨日食ったのより、旨いな。なんというか身がふっくらしてる」
おっちゃんそんな細かいことまで分かるのか。すげー。
「確かに、フライパンで焼くより旨い。干物は全部置いてけ、代金は払う」
「まいど、じゃあ俺はもう帰るよ。また明日」
「おう」
今日の干物を渡し、家に帰る。暗くなる前に帰らないと妹が心配するな。
まったく、妹は最高だぜ!

「親方ぁ。買占めはひどいっスよ。俺らも食いたいっスよ」
「わぁーってるって。ちゃんと酒も用意してある。一人銀貨三枚な」
「ヒデー従業員からこれ以上搾取するっスか!?」
「文句言うなら。食わんで良いぞ」
「払いますよ。払えば良いでしょうが」
「分かればよろしい」

そんな会話を背にしつつ、家路に着いた。

こうやって細々やって金を稼ごうとしていたんだが…。世の中なかなかうまく行かないもんだ。

それから暫くたって、いつものように干物をおっちゃん達に干物を売りにいったんだが…。
「悪い坊主、暫く買えなくなる」
「えっなんで?」
おっちゃんの話を聞くと、七輪を囲って飲み会をした日に馴染みの機兵乗りが機兵の受け取りに
来たそうだ。そこで嗅ぎ慣れない良い匂いがするじゃないかと裏に回ってみると、おっちゃん達が
変わったコンロ(七輪)を囲んで飲み会をやってるじゃないか、じゃあ混ぜてもらおうと呑み代を
払い、参加した。その時、干物を食べてそのおいしさにはまってしまったそうだ。
それでおっちゃん達に何処で売ってるかって聞いたそうなんだが、酔った勢いで「この飲み屋でしか
食えないつまみだ!」と言ってしまったそうだ。会員制裏飲み屋「機兵の聖地」の誕生である。
七輪を量産し、いろんな食材を炭火で焼いてそれをツマミに酒を飲む。なおかつ食材の持ち込み自由。
結構うまくやっていたそうなんだが、騎士団にばれて警告を受けてしまったようだ。

騎士団にも常連が居たそうだが、どうにもならなかったらしい。
そこで、気になるのは噂のつまみの出どこだ。
騎士団には、「俺(おっちゃん)が作った」で通したので俺から買ってるとこが見られたらまずい。
と言うことらしい。

そしてなんと飲み屋での干物の売り上げを俺の売り上げに足してくれていたらしい。
こりゃあ、おっちゃんに足向けて寝れないね。
「はっはっは。酒代でこっちも十分儲けさせてもらったからな」だそうだ。
「まぁ、かなりの金額が溜まったから、旅に必要なものは全部買えるぞ」
「そっかじゃあ、これどうしよう?」
 今日の分の干物の置き場所の困る。家に持って帰るわけには行かない。
「そうだな。機兵乗りのアダムスって奴に売ってやれ。あいつは信用できる。
 この時間なら機兵ギルドに居るだろう。背がバカ高いからすぐ分かるだろう」
「分かった行ってみる」
機兵ギルドに行くのは久しぶりだ。しっかりとフードをかぶり直した。

機兵ギルドは、沢山の人でごった返していた。きっと依頼終了の報告に来ているのだろう。
その中の人気はでかい皮鎧を着た男が居た。きっとこの人がアダムスさんだろう。
ゆっくり近づいて声を掛ける。
「すみません。おじさんが機兵乗りのアダムスさんですか?」
「ああ、そうだが、何だお前は?」
「機兵工房"ルブリス"の親方から紹介されまして…。おじさんちょっと…」
内緒話をする為に体勢を低くしてもらう。
「なんだ?」
「干物、買いませんか?」
「買った。いくらだ」
即答?!
「すみません。人気の多いところは避けたいのでどこか静かなところは知りませんか?」
「分かった。こっちだ」
ギルドを出て人気の少ない裏路地に行く。
「えーっと、こちらが商品の干物です。一匹銅貨2枚半どう?6匹あるけど……」
「安い。全部買った。それにしても驚いたな。こんなうまい物を作っていたのがこんな子供だったとは……」
「色々事情がありまして…。あまり表に出たくないんですよ…。工房のおっちゃんには良くして貰ってます」
「わかった。俺も深くは突っ込まん。ホラ銀貨一枚半だ」
「毎度ありがとう御座います」
「なぁこれからは、お前さんから干物を買えば良いのか?」
「いえ、暫くは休業しようと思います。あまりこういう取引はしたくないので……」
「そうか…。じゃあ、また作り始めたら教えてくれ。絶対買いに行く」
「その場合は、工房のおっちゃんに伝えておきます。では、さようなら」
「おう」
俺は、そのまま路地裏を駆け出す。まったく…、お金を持って歩くなんてあんまりしたくないんだがな…。

「おい、お前っ」
 どっかで聞いた事があるようなセリフだな。まぁ今回はガキの声だが…。
 まぁいいや、どうせ俺じゃないし。こっちの世界でも友達は居ません。(工房のおっちゃん達は、恩人です。)
「お前だよ。無能【火球よ、行け】」
 ボッ。背中に何か熱いものが当る。
「わっちゃー(わっ熱いー)、一体何すんだこのボケ!」
今のは、超初級魔法の火球か…。まったく火傷したじゃないか。
見るといかにも10歳位のガキ大将に見えるガキとその手下AとBがいた。
「うるせぇよ。無能、とっととお前の持ってる金よこせよ」
「金よこせ。金」
「痛い目見る前に出すんだな」
うわー。マジ恐喝だよ。だから現金なんて持ちたくないんだ。
精神年齢36歳オーバーを舐めんなよ。ガキにビビッてたまるか。
まぁいいや、今の俺でガキ大将クラスとどれくらいやれるか、試してみようか。
「誰が渡すかボケ、これは俺が稼いだ金だ。家に帰ってママのおっぱいでも吸ってろ」
「おーおー言うじゃねーか」
「こいつ生意気だ。やっちゃいましょう。アニキ」
「焼いちゃう?こいつ焼いちゃう?」
ああ、これでもう引き返せない。
「やれっ!」
「後悔しな!【火球よ、行け】」
「燃えちゃえ【火球よ、行け】」
火の玉が飛んでくる。といっても子供がボールを投げたくらいの速度だ。避ける事は、造作も無い。
右に一歩移動し避ける。そしてポケットに入れておいた小石を両手に持ち、同時に手下AとBに投げる。
「ウゲ」
「ガッ」
石が人にぶつかる音がする。ガキ大将が喚く。
「てめぇ、武器を使うなんて卑怯だぞ!!」
何言ってやがる。そっちは多勢且つ魔法あり、こっちは無勢で魔法なし。
そっちのほうが卑怯じゃねぇか。
厄介なことに、こっちの世界では喧嘩で普通に魔法が飛び交う。そのくせ武器を使うと卑怯扱い。
とかなり理不尽なのだ。やってらんないぜ。

そこからは完全泥仕合。向こうは魔法をバンバン使ってくる。
こっちは時には避け、時には喰らいながら相手に肉薄しぶん殴り、地面に叩きつける。
子供の魔法なんざ我慢すりゃどうとでもなるんだよ!!
時々あいつらに捕まるが、ガチンコ漁で鍛えたこの体、街のガキ大将風情に負けはせん!

はぁはぁ、このクソガキ供、ようやくおとなしくなったか…。
「クカカッ!ざまぁみろ」

「このガキ、何うちの子を苛めてやがる!【雷よ、この者に 罰を】」
「ギャア!!」
バチッとした音と同時に体に痛みが走る。
後ろからいきなり雷魔法だと!!クソッたれ!!体が痺れる。
「うう、何言ってやがる…。こいつらが俺を恐喝しようとしたんだぞ!」
ああ、ほとんど無駄だと分かっていても弁明したくなるのが人か……。
「うちの子がそんなことするわけ無いだろう!この嘘吐きめ」
倒れながらも魔法を撃ったであろう雷親父の方を見る。そこには雷親父ともう一人気の弱そうな子供が居た。
そうか…。あのガキがこの親父を呼びやがったんだな。クソッ見落としてた。
「そうなんだ。父さん、あいつが俺達の小遣いを取ったんだよ」
のっそりと起き上がった。ガキ大将がのたまった。
「やっぱりそうか…。無能の奴は始末がわるいな。悪い子にはお仕置が必要だな。【雷よ、この者に 罰を】
【雷よ、この者に 罰を】【雷よ、この者に 罰を】【雷よ、この者に 罰を】」
 連続で放たれた雷魔法が俺を貫く。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
クソッたれが…。体が痺れて完全に動けない。立ち上がったガキ大将が俺の金を奪っていく。
「フン、騎士団には突き出すのは勘弁してやる。これに懲りたらもう悪いことするんじゃないぞ!!」
「ヘッ」
「ククッ」
「バーカ」
あのクソガキ供が嘲りの視線で俺を見た後、悠々と路地裏から去っていった。

 コ ノ ウ ラ ミ ハ ラ サ デ オ ク ベ キ カ ! !

そこで俺の意識は闇の底へと落ちて行った。

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第5話  さぁ復讐をしよう

 気かつくと、何処かで寝かされていた。これはお約束だな。
「知らない天井だ…」
「おっ坊主起きたか。親方ぁー!坊主が起きましたよー!!」
どうやら機兵工房の一室らしい。
「わかった。すぐ行く」
ドタドタと走ってくる足音かする。
「坊主、大丈夫かっ?どっか痛いとこは無いか?」
「おっちゃん…、俺はどうしてここに居るんだ?」
「お前が路地裏で倒れているとこを、悲鳴を聞きつけたアダムスが見つけてな、
 本当は病院に運ぼうと思ったらしいんだが…。
 お前さんが黒髪だったんで下手に病院に連れて行くよりも知り合いの俺のんとこに
 運んだ方が良いと思ったんだってよ」
アダムスのおっちゃんGJ、俺を病院に連れて行っても放置されるのがオチだ。
「アダムスさんには、今度お礼しないとな…」
「で、何があった?」
「多分ご想像の通りだよ。アダムスさんに干物を売った所をクソガキどもに見られたんだ。
 それで恐喝されそうになったんだが……」
「…だが?」
「もちろん返り討ちにしたぜ」
「お前魔法使えないだろうに…。良くやるな。じゃあなんでぶっ倒れてたんだ?」
「クソガキどもは、三人組だと思ったんだが、実は四人組だったんだ。
 最後の一人が、親を呼んできやがった。最後の一人はきっとパシリだな、あの雰囲気だと…。
 俺は返り討ちにしただけだって言ったんだが…。
 碌に聞きゃしない。しかも何時の間にか俺が恐喝犯だ。罰だと言われて雷魔法を
 しこたま喰らったよ。おまけに売り上げ取られるし…。クソッたれめ」
「何だとっ!そりゃあ多分、グラン達だろう。ここらじゃ有名なクソガキどもだ。
 裏の廃棄場に何度悪戯されたことか…。あのバカ親、自分のガキを叱りゃしねぇし。
 もう許せん。騎士団に通報してやるっ!」
「親方。俺たちも許せねぇ!」
工房のみんなが怒りに震えている。
ごめんおっちゃん達、俺も廃棄場にはお世話になってます。
「待ってくれ、おっちゃん。今回の件、おっちゃん達は手を出さないでくれ」
「どうしてだっ!悔しくないのかっ!こんだけ痛めつけられてっ!」
「そうだっ!」
「悔しいさ、けどな、目撃者はいないし、被害者は黒髪だ。騎士団なんて取り合ってくれないよ」
「ぐっ!」
そうこれが現実。俺にとって騎士団は正義の味方じゃない。
「けどね…。仕返しをしない訳じゃない。必ずこの報いを受けさせてやる…。
 手を出したこと後悔させてやる…。この俺の手でね…。クカカカカカカカカッ!」
俺は、恨みは忘れない。絶対に何倍にしても返してやる。楽しみにしていろ。
狂気を目に宿し不気味に笑っている俺におっちゃん達がどん引いていた。
「おっちゃん、悪いけどクソガキ達の事を色々教えてくれ」
まずは情報収集だ…。

ここで、人間の使う魔法について説明しておこう。
魔法を使うために必要なのは、『呪文』と『魔力』だ。
魔力を手のひらから出し、呪文で変換の方向性を決める。
簡単に言えば、『呪文』を唱え、その『呪文』に見合う『魔力』差し出すことにより、
魔法が発動する。
【火球よ、行け】は初級魔法になり、文節が少ない且つ威力も低い。
高威力になれば、なるほど『呪文』の文節は長くなり必要になる『魔力』も格段に上がる。
基本的に3文節までの呪文は、致死性が低く、4文節から致死性が一気に上がる。
街中で4文節以上の魔法を使うと騎士団につかまる。下手すると死刑になる。
平均的一般人は5文節くらいまでなら魔法を使える。魔法の才能がある人は、10文節。
貴髪になると20~30文節くらいまでいけるそうだ。もう文章だな。
我が妹は軽くこれを上回るだろうが…。
ちなみに魔導具は、道具に特殊な文字で呪文が書いてある道具だ。
その呪文に魔力を捧げる事により効果を発揮する。しかし使える魔法が精々2文節から
3文節なので、武器などにはあまり使われる事がない。代表的な道具はランプやコンロ。
もちろん俺には使えない。


それから暫く日々が過ぎた。
情報収集、修行、準備全てを万全の形で整えた。クカカッ!さぁ復讐の時間だ!!

まず、あいつらをおびき出す為にアダムスさんに干物を大量に売る。
そしてこれ見よがしに銀貨をチャラチャラさせながら。奴らの居そうな場所を歩く。

「おっ、無能金持ってんじゃん。また痛い目見たくなきゃ金をよこしな」
フィーッシュ。掛かった掛かった。
「はっ!誰が渡すかよ。いつも守ってくれる。パパにでもねだってろ。ゴミ虫が!!」
「ふん、この間までの俺たちと思うなよ…」
「ボコボコにしてやんよ」
「今度こそ燃やしてやる」
「行くぞっ!!」
「「おう」」
ガキ大将の号令で一斉に呪文を唱え始める。
「「「【火球よ、敵に、迎え】」」」
わぉ3文節じゃないですか。当ったらちょっとした火傷じゃすまないじゃん。
前の魔法とは段違いの速度で火球が飛んでくる。
「うおっ」
あわてて近くの路地逃げ込む。ありゃりゃこいつはやべぇ。
相手の口を読んで、避けることも出来るが三人相手はやっぱりキツイ。
とりあえずは逃げの一手だな。
「逃げんな無能っ!」
「「逃げんな!!」」
「はっテメェに捕まるほど、鈍亀じゃねぇよ。悔しかった捕まえてみろクズども。」
そこからは、壮絶な鬼ごっこだ。後ろから火球がビュンビュン飛んで来る。
時折大通りを抜けながら、
「テメェらにくれてやる金なんてねぇんだよ!」
とか
「ホラホラこっちだ。無能以下どもっ」
と散々挑発してやった。奴らも完全に引けなくなったのか、顔を真っ赤にして追いかけてくる。
もちろん路地裏の逃げ道は大量に罠を仕掛けて足止めに使いましたよ。あー楽しい。
時折追い詰められそうになるが、砂による目潰しや、投石で怯んだ隙に脇を抜ける。

さぁ鬼ごっこの終点だ。噴水のある広場にやってくる。これで魔力も使い果たしたろう。
「ここまでだ無能、覚悟しろ!!」
何事かと野次馬が集まるが気にしない。
あーあー魔力切れの癖によく言うぜ。
「はん、へろへろのお前たちが、俺に勝てるわけ無いだろっ!」
三対一の殴り合いを開始する。
奴らは魔法の修行はしたらしいが。殴り合いの修行はしなかったらしい。
魔力切れでフラフラしている三人を徹底的にボコる。
時折わざとパンチを喰らい良い勝負感を演出する。
そして三人共をボロボロにして倒した。噴水の側でウンウン唸っている。暫くは立てないだろう。
こっちも相当ボロボロだけどな…。


「このガキ、何うちの子を苛めてやがる!」
野次馬を書き分けて、雷親父が出てきた。さぁメインディッシュと行こうか。
「またお前かっ!うちの子をこんなにもボロボロにしやがって…。もう容赦しないぞ!!」
「うるせーよ。このクソ雷親父。前にも言ったがこいつらが恐喝してきたんだよボケっ!
 いい加減ちゃんと躾けろよ。だから俺みたいな黒髪に負けるような無能未満になるんだよ。」
親父の顔が真っ赤に染まる。結果を見ようとした、パシリ君の顔が出す。
「バカは死ななきゃ直らないっては、本当のようだな……」
「はいはいそうですね。とっとこのバカどもを起こして引き取ってくださいよ。」
俺は噴水においてあったバケツの水をクソガキどもに盛大にぶっ掛ける。
「ほら、起こしてあげたから…。とっと連れて帰れ。ハゲ親父」
挑発を繰り返した為か、顔色が赤を超えて青になってる。
準備万端バッチコーイ。

「このクソガキィーーー!!【雷よ、この者に 無慈悲で 壮絶な…】」
この呪文5文節かよ!!マジかよ予定外だ。完璧に俺を殺す気じゃねぇか!
予想では精々4文節だと思ったんだが…。

まぁいっか。
俺はこの時の為に用意していた最後の切り札を切った。

「【…鉄槌を】!!!」
雷親父の手か雷が放たれる。それはやはり依然食らった電撃よりはるかに強力な一撃だった。
「「「ぎゃぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」」」
広場に響く悲鳴の三重唱。
もちろん俺の悲鳴じゃない。あのクソガキどもだ。
あーあー。体を痙攣させながら煙ふいてやがる。痛そーだ。ざまぁみろ。
「なっ!」
魔法を撃った本人は何が起こったかわからないようだ。
そりゃそうだ。俺に向けて撃ったのに自分の息子に当ってんだからな……。
「きゃーーーー。マルグ、マルグしっかりしてーーーー」
「ジェムどうして、ジェムー!!」
おっ手下AとBの母親登場。クカカッこれからが面白い。
母親たちは、煙を上げている息子を抱きかかえて病院に走っていった。
そこでようやく雷親父も息子に近寄ろうとするが…。
槍を持った騎士団員が雷親父を引き倒した。
「キサマッ!天下の往来で致死級魔法を使うとはいい度胸だ。覚悟しろ!!」
「なっ!わかった。わかったから誰か息子を病院に連れて行ってくれー!!」
ああ気分がいい。復讐は何も生まないというが…。これほど気分がスッとするとは!!
「クカカカカカカカカカカッ」
思わず笑ってしまった。ああ周りのどん引きした視線を感じる。

「おいお前、この騒動の関係者だな?詰め所まで来てもらおうか」
「あーはいはい、分かりましたよ…」
あーあやっぱり騎士団に捕まっちまったよ。
前世じゃ一度も警察にお世話になったこと無いのに…。

周りでは、他の騎士団員が野次馬たちに聞き込みを行っている。
クカカッ計画通り!!

俺は、暗くなる前に家に帰された。子供である事と黒髪が幸いしたのだろう。
騎士団詰め所で話を聞かれている間に「俺が悪いんじゃない。あの無能がいけないんだっ!!」と
気持ちのいい位のいいわけが聞こえてきた。

父親からは「私の迷惑になることするんじゃない!」。
母親からは「噂になったどうするのっ!外を歩けないじゃない!」。
とお叱りを受けた。おいおい、実の子が殺されそうになったのにこれかよ…。
唯一心配してくれる家族は妹だけだ…。
きっと"喧嘩しちゃダメじゃない。メッ!"って叱るんだろうな。
「心配したんだよ。お兄ちゃん。でもね…」
おお、やはり心配してくれるか妹よ。
「もっとうまくやらなきゃダメじゃない。メッ!」
えっ!

多分聞き間違いだ。うん…多分…きっと……。



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第6話 ネタばらしと断絶 

 俺は今、狭い部屋の中、椅子に座らされ大勢の男に囲まれている。
「さぁ、全部吐いてもらおうか…」
机の上に置かれた魔導スタンドの光が俺に向けられ、あまりの眩しさに手で光を遮る。
「別にいいけど…。何で尋問風なんだ?」
「わかってねぇな。ノリだよノリ。」
目の前の男…。工房のおっちゃんが茶目っ気たっぷりに言う。
っというかこっちでもこのノリあるんだ……。
周りの兄ちゃんたちもニヤニヤしている。
「まぁいいけど…。一人ちょっと毛色の違う人いません?」
一人だけ、妙に尋問の空気にマッチしている人がいる。
「ん?ああ、こいつか…。こいつはこの町の騎士団の隊長の一人だ。
 ちなみに"機兵の聖地"の常連さんだ。干物のファンでもある」
ああ、裏酒場に通っていた不良騎士か…って隊長かよっ!!
「ああ、俺はファード騎士団黄狼機兵隊隊長、バーム・フォワードだ。よろしく頼む。
 …それにしてもあの干物を作っていたのがこの子だったとは……」
「ああ、こいつは黒髪だが、ただもんじゃない。こいつには驚かされてばっかりだ」
「何でここに居るんだ?」
「分かってんだろ。この前起こした大立ち回り…あんなん何度もされたらこっちの心臓が止まっちまう。
 だから騒ぎになる前に騎士団にコネを作っておくんだよ。次はちゃんと騎士団に動いてもらえるようにな。
 大丈夫、コイツは信用できる」

まぁおっちゃんが、ああ言ってるんだから一応は信用しとくか…。まぁ裏切ったら復讐に行くけどね。

じゃあはじめるか、今回の復讐のネタばらしを…。

やった事その1
情報収集
まず、あいつらは誰かって事だ。ガキ大将は魚屋の息子って事だ。つまり雷親父は魚屋の親父だな。
ここまでは、おっちゃんに聞いたから分かっているだろう。
驚いたのは、手下の方だ。手下Aは、政府のお偉いさんの息子で、手下Bは騎士団のお偉いさんの息子だった。
きっと悪さをしても、親がもみ消したりしていたんだろう。だからアレだけでかい顔できたって訳だ。
後パシリ君、あいつはただの公務員の息子だった。父親が手下Aの親の部下でね。
その関係でパシリに使われていたらしい。何でそんなことまで知ってるかって?もちろん本人に聞いたもん。
イヤー彼も色々鬱憤が溜まってたよ。だけどガキ大将と手下が怖くて逆らえなかったみたい。
えっ脅して聞いたのかって?見くびっちゃ困るよ。ちゃんとした取引だよ。
まぁどんな取引かってのは、後で教えるよ。
雷親父は、まぁ特に無かったかな…。魚屋で子供を溺愛しすぎて碌に躾けなかったバカ親。得意魔法は雷魔法。
店の評判とか聞き耳立ててたけど、評判悪いね。店の前を通る猫に雷魔法ぶつけて笑ってるんだってよ。
本人は、商品を守るためだって言ってるけどね。
後は、逃げ回るためにこの街の路地を全て把握した位かな。

やった事その2
勉強と修行
魔法は、やっぱ強いね。一撃でも喰らったらそこで終わりだよ。だからおっちゃんに頼んで攻撃魔法がのった本
取り寄せてもらったもん。魔法が使えないお前には無用じゃないかって?バカ言っちゃいけない。
相手の使う魔法が分かれば対応を練る事が出来る。"敵を知り、己を知らば百戦あやうからず"っていうでしょ?
隊長さん…知らない?そう。まぁいいや。で片っ端から書いてある魔法の呪文を覚えたよ。
頭がゆだるかと思った。雷魔法は厄介だね。詠唱が終われば一瞬で敵に当るんだ。火魔法の方が対処が楽だ。
火魔法…特に火球系は、魔法が放たれた後に何かにぶつかればそれを燃やそうとするから、
小石を沢山掴んで投げれば、小石のどれかがぶつかってそれでおしまい。
んで雷魔法の対処だけど、まぁこれはおっちゃんに謝らなきゃいけないんだけど、
機兵パーツ廃棄場にあるもので対処しました。テヘッ。
そこでゴインとおっちゃんに殴られた。
痛いよ。おっちゃん。ブンッごめんなさいごめんなさい。やめて、謝るからやめて。
ふぅ、痛かった。話を戻すけど。機兵パーツ廃棄場にあった鉄片と金属ワイヤーを繋げて雷を誘導する道具にしたのさ。
魔法であっても雷は、雷。性質は変えられるもんじゃないしね。あの親父が最後に撃った魔法が曲がったのはその為さ。
ただ石を投げる感覚と違ったから使うのには練習したよ。
後は走り込みをして逃げ足の強化かな。

「それであの結果とは…。なんと恐ろしい」
「隊長さん、話はまだ途中だよ。これだけじゃあ最終目標を達成できないよ」 
「おいおい、まだあるのかよ…」

やった事その3
作戦と暗躍
ここでこの復讐の最終目標を発表しとくよ。それは『雷親父一家の街からの追放および手下どもの調教』だ。
ガキ大将達に仕返しをするのが目標じゃないのかって?仕返しだよ。ただし、何千倍にもして返すけどね。
別にボコボコにするだけが復讐じゃない。それじゃあ詰まらない。俺の気持ちが収まらない。
話を戻そうか。ここで登場するのがパシリ君だ。彼が居なければこの作戦は成功しなかったろう。
ガキ大将達からの開放と失敗した場合の身の安全を保障したら喜んで手伝ってくれたよ。
彼に色々手伝ってもらったね。
情報収集、罠設置、雷親父の呼び出し、手下の母親の呼び出し、バケツの用意。
"情報収集"は、前に言ったとおりだね。次は"罠の設置"だ。町中に張り巡らせた罠は彼の特製だよ。
溜まってたんだろうねぇ。俺でも怖くなるくらい嬉々として設置してたよ。
ああ、隊長さん大丈夫、罠は事件の後に彼が全部回収してるはずだから。まぁ後で確認しとくよ。
ここからがタイミングがシビアだった。"雷親父の呼び出し"これは、噴水のある広場で俺がガキ大将達を
ボコボコにした後じゃないといけない。最終目標が達成できなくなるからね。
しかし、完璧なタイミングだった。ちょうどボコり終えたところで来るんだもん。
そっからは賭けの連続だったね。いつ雷魔法撃たれるかヒヤヒヤしてたよ。んでパシリ君が野次馬から
顔を出した時、雷親父は"詰んだ"。あの時、近くに"手下の母親を呼び出し"てもらったんだよ。
雷親父は俺の挑発で完璧に頭に血が上っていた。そこで自分の可愛い息子に"バケツ"の水をぶっ掛けたんだ。

あのバケツも用意したのかって?当たり前じゃん。噴水のそばに普通、水の入ったバケツなんて無いよ。

そこで衆人環視だろうと魔法を使うと踏んだんだ。まぁ致死級の魔法を使うとは思わなかったけどね。
ここで最後の賭けだ。
雷親父が魔法を完成させる前に鉄片付き金属ワイヤーの端を片や水を被っているガキ大将達に
片や魔法を放とうとしている雷親父に投げたんだ。結果は御覧の通りだ。
ガキ大将達は、雷魔法で黒コゲ。雷親父は、魔法を使った罪で捕縛。しかも手下の母親達は
雷親父の詠唱を聞いてるんだ。雷親父の肩なんて持つ筈が無い。むしろ罪を重くしようとする筈だ。
そして俺は、無罪だ。街を逃げ回っている時に俺がカツアゲから逃げているって野次馬には説明済みだしな。
使ったワイヤーはどうしたって?どさくさに紛れて、パシリ君に回収してもらって処分済み。
もう証拠なんてどこにも無いよ。完全犯罪成立。まぁそもそも犯罪じゃないけどね。
イヤー今考えると無謀な賭けだよねこれ。良く成功したもんだ。

「もうお前自首しろよ。バームも居ることだしよ」 
「ははっ、いやだなぁおっちゃん、俺が何の罪に問われるんだよ。やった事は、子供の喧嘩と口喧嘩と正当防衛位だよ」
「確かに罪には問えんが…なんとえげつない作戦か……」
隊長さんが…というかその場に居る全員が完璧に引いている。 
「ま、まぁ俺も頭に血が上っていたってことで一つよろしくお願いします」

そして、久々に七輪を使った飲み会が始まった。
「くぅー、やっぱ干物は七輪で焼いたものに限るなぁー」
「アダムスさん本当に干物好きだねぇ。作ってるこっちとしたら嬉しいけど……」
「ああこんなうまい魚、他じゃ食えないよ」
まぁ保存食ってもんが殆ど無いからねー。こっちは。精々酒くらいか?
「そういえば、隊長さんはどこ行ったんだろう?」
「ああ、あいつなら一旦詰め所に戻ったよ。まだ遣り残した仕事があったようだ」
そこで、騎士団の制服であろう、紋章のついた革鎧を着た。隊長さんがやって来た。
「おお、この匂いこの匂いこそ干物だ!!」
早速七厘を囲む輪に加わる。
「隊長さん。一杯どうぞ」
「おっ悪いな。そうだ、雷親父の判決が出たぞ。お前の目標どおり家族ともどもこの町を追放だ。
 あとガキ大将達は、一命を取り留めたそうだ」
「計算通りだね!!」
「お前はホント恐ろしいな。…そのくせこんな旨いもんを作るんだから不思議だよ(ハフッ)」
炭火で焼かれた、干物をおいしそうに食べている。
「そうだ。お前将来騎士団入らないか?お前の考えていた対火球対応術な、警備部隊の連中に教えたらすごい感心してたぞ。
 これなら火球に対応しながら魔法を撃てるって…」
「黒髪が入れるわけ無いじゃん。それに俺は将来旅に出る予定だ。精霊を探さないとね。」
「精霊機兵か…。俺も御伽噺程度しか知らん。」
「まぁそんなもんか…。気長に探すよ。」

その後、俺には"黒髪の魔王"という中二病な二つ名が付き近隣住民から恐れられる事になった。
まぁちょっかい出してくるバカが居なくなったのは大変嬉しいことであるが……。
それとほぼ同時期に妹は"プラチナの天使"と言う二つ名が付き近隣住民から愛される事になった。


俺は今、河原で妹の為に誕生日プレゼントを作っている。
9歳になるんだアクセサリーの一つでもプレゼントしようと思ったからだ。
毎年妹の誕生日には、いつも手作りのプレゼントを贈っている。
大体は親にばれない様に食べ物や花を贈っていたが、やっぱり形の残るものを送りたい。
さすがに金属加工は出来ないので、材料は限られる。しかし幸運なことに俺は、ある種の宝石を見つけることに成功した。

翡翠だ。

深緑の半透明な宝石で、地球でも古来より珍重されたものだ。投石の訓練中に見つけて取っておいたのだ。
しかしこのまま渡しては芸が無い。ということで今、必死に硬い砂を擦り付けて少しずつ削って加工している。
完成形は、勾玉だ。まだまだ形になってはいないが誕生日までにはまだ日がある。こつこつと作っていこう。


隊長さんに、干物を売りに行った時に嫌な噂を聞いた。
ああ、ガキ大将の事件の後から俺は干物の直接販売を始めた。
ガキ大将の事件の後、手を出してくるバカは居なくなったからな。
んで、噂だ。どこかの国で貴髪が一人殺されたらしい。犯人は黒髪の姉だったそうだ。
犯行の動機は、「私から奪った才能を返してもらったのよ」だって。その姉は、処刑された。
殺したって才能が帰ってくるわけでもないのに良くやるよ。
まぁ、前世の記憶がなければ、俺もそうなっていたかもしれないから人事ではない。

なんだろう。この頃、親の視線が特に冷たくなっているんだが…。気のせいだろうか?
まぁ良い。そんなことより妹への誕生日プレゼントだ。大体の形は出来た。
後は、穴を開けるだけだ。

出来た。完璧な勾玉だ。後は穴に革紐を通せば立派なアクセサリーになる。
妹の誕生日は、明日だ。ギリギリタイミングだったが間に合った。
とっくに日は落ち、月が静かに街を照らしている。
よしっ、妹はもう寝ているな。彼女の部屋に忍び込んで枕元において置こう。
妹の誕生日プレゼントを最初に渡すのは、この俺だ!

おお、我が妹よ。なんと可愛い寝顔なのだ。いずれ別れなけばならないと分かってはいるが…。
その時のことを思うと胸が張り裂けそうになるよ。
じゃあプレゼントを置いてっとミッションコンプリート。
後はそっと自分の部屋(物置)に帰るだけだ。

俺は、自分の部屋(物置)に向けて物音を立てないように廊下を歩いていた。
そんな時、突然後頭部を何か硬いもので殴られた。
うぐっなんだ!
何で俺はうつ伏せで倒れている!?
後ろから殴られた!?
誰にっ!?
混乱しながらも殴った相手を確認しようと何とか仰向けに体勢を変える。
そこには、無表情で立っている両親がいた。父親が大理石で出来た灰皿を持っている。
俺を殴ったのは父親かっ!
父親が静かに言う。
「私達は、ミレスの誕生日に"安全"をプレゼントすることに決めたよ」
母親が静かに言う。
「そう、黒髪なんかに命を狙われる心配を無くして上げるの」
そして、灰皿を振り上げる。
「「ハッピーバースデー・ミレス」」
くそったれ!後ちょっとだったと言うのに!
無常にも再び殴られ、俺は意識を失った。

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 しばらくお待ち下さい...残り時間約3日です。

第7話 魔獣と覚醒

 うっ痛つつ、何だ?どうなってんだ。腕が動かない。いや縛られている!?足もか。
えーっと確か最後にあったことは…。

実の両親に灰皿で殴られた場面がフラッシュバックする。

思い出した。クソッたれの両親に殴られたんだ…。それにしてもここは…どこだ?
周りを見ると鬱蒼とした森が広がっていた。どう見ても街の近くにある森じゃない。
どうやら捨てられたようだ。いや、ここは殺されそうになっている。と言った方が適切か…。

この縄を何とかしないと…。このままじゃ何時、動物に襲われてもおかしくない。
手は使えないが近くにある木の根っこ使って右足の靴を脱ぐ。
まったく用心はしておくもんだぜ。何とか靴の中から愛用の"ガラクタナイフ"を取り出す。
クソッ体がうまく動かない!ナイフを使って手を縛ってある縄を切る。

ようやく手が自由になった。自由になった手で足の縄を解こうとするが、硬くて解けない。
仕方がないので結び目だけをナイフで切り、縄を回収する。

どこからか、獣の咆哮が聞こえる。
とりあえず、この場所から離れるか…。万が一ここに誰かが死亡確認をしに来るかもしれないからな。

大体30分くらい歩いただろうか。一旦休憩しながら現状の把握をしよう。
近くにある登りやすい木に登って休憩する。
"ロボットロマン2"起動。
いつもの画面が現れる。

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しばらくお待ち下さい...残り時間約2日です。

たしか、俺が殴られたのが日の残り時間は"3日"だったから丸一日寝てたのか。
次に持ち物の確認だ。

布の服
革の靴
ガラクタナイフ
縄(足を縛ってた奴)

…碌なのがねぇーーー!まぁ家に居る時に襲われたからな。ナイフが合っただけマシか。
とりあえずの目標は森のからの脱出かな。あと水と食料を確保しなくては…。
両親には絶対復讐してやる。首根っこ洗って待っていろ。
ここが何処だろうと町から一日の場所である事は変わらないんだ。
何とかなる!



 …それから三日間俺は、森を彷徨った。しかし、行けども行けども森ばかり、道もなければ川もない。
街の近くの森だったらすぐ見つける事が出来る食料も見つからなかった。
両親に対する呪詛。こんな世界に送り込んだ女神に対する呪詛。引き離された妹への心配。
工房のおっちゃん達やアダムスさん隊長さんへの申し訳なさ…。ロボへの憧憬。ロボへの恋。ロボへの愛。
色々な思いが俺の中に浮かんで行っては消えていった。

体力の限界も近い。2日間休憩や睡眠は木の上で取っていたがもう木に登ることも出来なくなった。
これでは、あと30分ちょっとで最適化が終わるロボットロマン2を存分に楽しむ事が出来ない。

そんな事を木の下で考えていると、突然目の前に全長5mはあろうかと思われる狼が現れた。
口は涎をたらし、嗜虐心をあらわにした目でこちらを見ている。

ヤバイッ!コイツは魔獣だ!!
一瞬体を硬直させたものの石を投げつけ、結果を見ずに全力で後方に駆け出す。

狼の遠吠えが響く、その声に竦み上がりそうになるが必死に足を動かす。
周囲から、明らかに何か動物が動き回り草を揺らす音がする。
どうやら、仲間を呼んだらしい。後ろをチラ見したら、大型犬サイズの狼達が追いかけてくる。

先頭の一匹が、飛び掛ってくる。間一髪で横に避ける。しかし完全には避ける事が出来ず右腕を軽く切られてしまう。
「いっつ!!」
クソッたれ、俺は、まだ死ぬわけには行かないんだよっ!!

それから30分間死の鬼ごっこは続いた。

おかしい。何で俺はこんなにも逃げられているんだ?まだ9歳のガキだぞ。最初の一撃で殺されたっておかしくない。
…そうか…つまり…俺は…遊ばれているんだ。この犬コロ達にっ!!…ふざけんじゃねぇ!!
怒りで体が震える。
「あっ!」
その時とうとう転んでしまった。
やっちまったっ!!
急いで体勢を立て直す為、顔を上げる。目の前には大きな狼の爪があった。それが右目の見た最後の光景。
「ガァァァァぁぁぁああああぁぁっぁぁぁぁ!」
顔が焼けるように痛い。爪に骨まで引っ掻かれた感触が理解不能な嫌悪感を与える。
右手で顔を押さえ、のた打ち回っている俺に容赦のない追撃がくる。なんとか盾にしようとナイフを持った左手を前に出す。
けれど狼はナイフを避け俺の左腕に噛み付いた。そして左腕を食いちぎられる。
「亜sfghjkl;:zんm、。m、!!!!」
もう咆哮としか聞こえない叫びを上げる。

そんな中突然頭の中にポーンと言う音が鳴った。
『"ロボットロマン2 誰が為のロボ 己が為のロボ"の最適化が完了しました。
 チュートリアルを開始します。』
死に掛けている状況で最適化が完了したようだ。ふざけんな。機械音声が脳内に響く。

『"ベースオープン"と唱えるまたは、思考してください。それでプライベートベースへのゲートが開かれます』
何だこれは?まぁいい、できることは何でもやってやるっ!!!
「ベースオープン!!」
全力で叫ぶ。
すると目の前に突然光の門、ゲートが現れた。ゲートの中には赤茶けた大地が見える。
これはっ!
バランスの狂った体を這わせ必死にゲートをくぐる。
という事はっ!!

『"ベースクローズ"と唱えるまたは、思考してください。それでプライベートベースへのゲートが閉じます』

「ベースクローズ!!」
開いていたゲートが急激に狭まる。この中に入ってこようとしていた狼の一匹がゲートの光に挟まれた。
ゲートはそのまま閉じ、狼を真っ二つにした。
残ったのは狼の下半身のない死体と死にかけている俺。
止血しなければ確実に死ぬ。

『"メニューオープン"と唱えるまたは、思考してください。メニューが開かれます』
「メニューオープン!」
目の前に懐かしいメニュー画面が開かれる。

『"メニュークローズ"と唱えるまたは、思考してください。メニューが閉じます』

うるさいっ!!一か八か残された右腕で必死でメニューを操作する。"オブジェクト購入"のコマンドを選び、
表示されるウィンドウのタブ"医療機器"を選択。初期ベースポイントで買える最高の医療ポッドを購入し、
目の前に設置する。
急いでポッドに入り、「治療…開始っ!、できることは…全部…やれっ!!」そう言い切るとポットが振動し、俺は気を失った。


 ビーッビーッビーッビーッと聞きなれない音がする。
うっ、うう、何だ?朝か?
『治療が完了しました。治療が完了しました。治療が…』
「うるさい!!」
治療が完了したと言うシステム音声に文句を言って黙らせる。そうだ…俺は魔獣に襲われて命からがらここに逃げてきたんだ。
右手で顔面を押さえ、左手で体を起こそうとするが、失敗した。左腕がないことを忘れていた……。
仕方なく右手で体を起こし、医療ポッドから出る。さすがに食いちぎられた腕と潰された目の修復は出来なかったか…。
オブジェクト購入したものがちゃんと動作するかは、大きな賭けだったが何とかなったようだ。
まわりを見回すと赤茶けた大地と医療ポッド…そして狼の死体しかない。かなりシュールだ。
それから一時間くらいボケっとしていた。ようやく我に返り自分に起きたことを確認する。
ここはあのクソ女神から与えられた能力によって作られた世界のようだ。
今までのことから類推するに、俺の能力は"ロボットロマン2"のシステムにのっとった力のようだ。
そこで気づく。
「俺は、この世界でロボを作り、乗り回せるんだ…」
なんて能力だ。これなら一人で世界征服が出来るぞ…。まぁめんどくさいからしないけど。
これはっこれは最高だ!!
「クカックカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカッ!!」
笑いが止まらない。
「クカカカカカッ!!うっごほっごほっ。ふぃー」
ひとしきり笑ったところで確認を再開しよう。

メニュー画面を開きステータス画面を呼び出す。
すると画面左側に俺の全体写真が載った画面が出てきた。うわー俺の顔、右側ザックリやられてる。
これ一般人が見たら逃げるよ。
服装は手術着か、今現在の服装が表示されるみたいだ。左側に視線を向けると特殊技能と
書かれていた欄があった。そこには"ナノマシン1"と書かれていた。
"ナノマシン1"?と疑問に思っていたら別画面が開き詳細説明が現れた。

 ナノマシン1
 体内にナノマシン1を入れた状態
 体力向上1:体力が向上します。効果小
 精神安定1:精神安定を補助します。効果小
 回復向上1:外傷の回復が早くなります。効果小
 耐毒性1 :効果小クラスの毒が効かなくなります。

…ターン制戦略シュミレーションとかに出てくる特殊能力って奴か?
多分治療の際に全部やれって言ったから注入したんだろうな。まぁいいか。
この精神安定って奴には、助けられているな。素の状態だったらパニックを起こしていた。
詳細説明画面を閉じ、次の項目を調べる。
所持オブジェクトは、

初心者テントセット
ナノマシン対応救急医療ポッド

うん、完璧初期状態だ。早速、初心者テントセットを設置する。
目の前に迷彩柄の三角軍用テントと焚き火、弾薬箱が出てきた。
うん、どっかで見たことあるような光景だな。もちろん火に手をかざすと熱かった。
テントの中を探ってみる。出るわ、出るわ、野戦用戦闘服一式(何故かサイズぴったり)、8○式小銃一丁、グ○ック18c一丁、
コンバットナイフ一本、寝袋、軍用食料、飲料水、救急キット、食器等。さすが初心者キット必要なものはそろっている。
武器はハチャメチャのラインナップだが……。弾も弾薬箱にたっぷり入っている。
これで、あの犬コロどもに復讐できる。

次だ。
ベースポイントを確認。初期ポイント1000ポイントも、もう100ポイントしか残っていなかった。医療ポッドを買ったから仕方がないか。
ベースポイントとは、ロボットロマン2内の通貨だ。これで色々なロボットやオブジェクトを買ったりする。
しかし、100ポイントとは……。これでは肝心のロボットが買えないではないかっ!!どうにかしてポイントを稼がねば……。
このポイント、色々な稼ぎ方がある。
敵を倒すのはもちろん自分の作った物を売ったりすることでも稼げる。
しかし、一番の特徴は、ロマンを達成させることでも稼げることだろう。たとえばパイルバンカで貫いて倒したりすると
≪貫け!パイルバンカ!:+1000P≫と言った表示が出て敵を倒したポイントに上乗せされる。
ロマンにも色々あり後々説明することになるだろう。
まぁ、ある程度は稼ぐ当てはあるからここはもういい。

次は、コンバートデータでも確認するか…でも無いだろうなぁー。おっなんと前作"ロボットロマン"で取得した設計図データが
全て残ってるではないか、あのクソ女神もたまには良いことするな…。まぁポイントが無いので作れないけどな。

よし、能力の確認はとりあえずこんなもんだろう。後は武器の使い方の確認と実際に使用する訓練をしよう。
まぁ最初は…(ぐ~)…食事だな。

第8話 魔獣討伐

 腹ごしらえを終えた俺は、戦闘服を着て早速武器の使い方を確認する。
やっぱり武器を見るとワクワクするな。子供の体には大きいがコンバットナイフは問題ない。
グ○ック18を試しに一発撃ってみる。結構重いな。
銃の引き金を引くと乾いた音と共に弾を撃った反動が手に伝わる。
おおー、初めて銃を撃ったけど反動ってすごいんだな。よし、次フルオートだ!
フルオートで撃ってみたが幼い俺の腕ではまだ完全に銃を保持することが出来ず、銃を落としてしまった。
っつ、何これ、持ってらんないんだけど…。うーんしばらくはセミで使うしかないな。
さぁさぁ今回最大のお楽しみ。8○式小銃だ!…すんごい重いんですけど……。
今の俺にこれ持って走り回るのは無理だな。左腕が無いからまともに構えることも出来ないし。
とりあえず銃についているバイポットを立てて伏せ撃ちをしよう。
…狙えないんですけど…右目が無いからまともに狙えないよ……。
とりあえず撃とう。グ○ック18とはまた違う発砲音が響く。
バイポットのお陰でだいぶ撃ちやすいな。
次は三点バーストで……。小銃についているセレクターレバーを3に変更しもう一度引き金を引いた。
発砲音が三回連続し、銃が震えた。
うん、これも問題ない。
さぁて最後のフルオートっと。
最後と言うことでマガジンに入っていた弾を全部撃ち出す。
すげー、撃ってて体が反動で後ろに下がる。
それから俺は一日中、銃を撃ち続けた。

 気がつくと周りが暗くなってきている。こちらでも時間になると日が落ちるのだろう。
夕食を食べ、明日の予定を考える。明日は、あの犬コロどもを狩るとしよう。
そう決心して、寝袋に潜り込んだ。

朝、目を覚まし、朝食を食べる。そろそろ新鮮な食材の料理が食べたいなぁ。
ここに逃げ込んできた時に死んだ狼の横に立ち、思考操作でゲートを開ける。
もちろん拳銃は構えてだ。
"ベースオープン"
ゲートは、死んだ狼のぴったり後ろから開いた。外の状況を確認し、すぐに閉める。
"ベースクローズ"
一度ベースに入ると出入り口は固定されるみたいだ。
ゲートの外には狼の下半身の死体の残骸が残っていた。

良しこれならOKだ。すぐさま狩りの準備を開始する。まずテントをゲートから離す。
ゲートの10mほど後ろに陣取ってライフルをバイポットを立てた状態で設置する。
周りに大量の予備マガジンを置き、拳銃も置いておく。
そして、ライフルを伏せ撃ち状態で構える。
これで準備完了。

そして再びゲートを開ける。
"ベースオープン"
「おらおら、クソ犬コロども!お前らが殺し損ねた俺はここに居るぞ!どうした!来いよっ!」
大声を上げて魔獣たちを挑発する。言葉が分かるかは分からないが、俺がここに居ることは分かるだろう。
すると狼の遠吠えが響いた。そしてそれを聞いた別の狼が呼応し、徐々に吼える狼が増えていった。
気づいたようだな。
ゲートのすぐ外の雑草を掻き分けながら何かが近づいてくる音がする。
早速おいでなすった!
狼が一匹ゲートに向かって一直線に走ってくる。
ライフル弾をフルオートで叩き込んでやるっ!
俺は迷わず引き金を引き、ライフル弾を狼にお見舞いする。
「キャウン、キャイン」
アレだけ勇ましかった狼が可愛い悲鳴を上げて、のた打ち回る。
すると2匹3匹とぞろぞろと狼たちがこちらに駆けてくる。
今度は新たに来た狼達に向かって同じようにライフル弾をフルオートで叩き込む。
「ギャウン」「ギャウン」
ガチッと音がしたと思ったら遊底が後退位置で止まった。
弾が切れた。即座にゲートを閉める。
"ベースクローズ"
ゆっくりとマガジンを取替え。
再びゲートを開ける。
"ベースオープン"
射撃。
弾切れ。
"ベースクローズ"
マガジンを取り替える。
"ベースオープン"
射撃。
弾切れ。
"ベースクローズ"
マガジンを取り替える。

何度か繰り返したら、バカ正直にゲートに突っ込んで来る狼は居なくなった。
一応これも想定内だ。
足を銃弾に吹き飛ばされた狼に向けて、死なないように一発撃ち込む。
「ギャウン」
まだこない。
もう一発。
「キャウン」
来た。
堪らず飛び出してくる狼をフルオートで迎撃する。
外道の所業と思わば思え。これも立派な戦術だ。ホント先人は外道だな。
「ギャン」
おっと、弾切れだ。
"ベースクローズ"
マガジンを取り替える。
"ベースオープン"
ゲートが開いた瞬間、巨大な火球が飛び込んできた。親玉が来たかっ!
あわてて拳銃を掴み、横に転がりながら避ける。その隙に子分の狼が一匹入ってきた。
"ベースクローズ"
即座にゲートを閉じる。拳銃を構え、突き進んでくる狼に向けて撃つ。
一発目。
右に避けられる。
二発目。
左に避けられる。
当らないっ!
三発目!
当たれ!
「ギャン」
二発外し、三発目でようやく当った。血を流し、もがいている狼にさらに二発叩き込む。
それでようやく死んだ。
ふぅ。
拳銃のマガジンを交換しゲートの横へ移動する。
"ベースオープン"
また火球が飛び込んでくる。しかし今度は子分の狼が入ってこなかった。アレが最後の子分だったようだ。
何度も火球が飛び込んでくるが、こちらから何もしない。
何の反応が無いのが気になったのか、ゲートに近づき覗き込もうとした。
すかさず親玉の右目に拳銃を向ける。驚愕に目を見開いているのが見えた。
そしてその目に向けてフルオートで撃つ。
弾丸が血しぶきを上げながら魔狼の頭部に殺到する。
射撃の反動で手がキツイ。
まだか!まだ死なねぇのか!!
とうとう手に限界が来て銃を落としてしまった。
しかし……。
魔狼右目から大量の血を流し、ゆっくりと倒れた。
それが魔獣の狼の最後だった。
頭の中にポーンと電子音が響き、システムメッセージが聞こえてきた。
≪敵初撃破:+500P≫
≪くたばれファンタジー:+10000P≫
気の抜けたシステム音と視界の端にメッセージが表示された。
よっしゃ。ポイントゲット。
…しかし≪くたばれファンタジー≫ってどんだけ開発者はファンタジーが嫌いなんだ?

魔狼の死体に近寄り、メニュー画面を呼び出す。いつもなら存在しないコマンド、"回収"を選択する。
すると魔狼の死体の上にプログレスバーが表示され。30秒もしない内に100%になり死体が光の粒となって消えた。
よし、生体パーツ用素材として回収できたな……。

"ロボットロマン2"では、撃破した敵のパーツを回収する事が出来る。
直してそのまま使うも良し、素材に還元して新たな機体の材料にするも良しと自由度が高い。
もちろん素材をベースポイントに還元することも出来る。
生き物を回収できる事がおかしいと思えるかもしれないが。動物の皮や骨を使ったロボットも存在するし。
あるロボットアニメでは、生き物の死体に外装を被せてをそのままロボットにするという話もある。

"ベースクローズ"
疲れた…。硝煙臭い、血生臭い、風呂は入りたい……。
今日の狩りで結構ポイント入ったし、えーっと10600Pか、なんか安くて良いオブジェクトないかなぁ?
オブジェクト購入画面を見ていると。…ああこれでいいや、"お子様プール"50Pだし…。
早速購入して、設置。裸になって血と汗と硝煙の匂いを洗い落とす。
ふぃ~。生き返る~。のんびりと水につかりながら次のことを考える。
残りのポイントでも最初期の量産型ロボットなら余裕で買えるな。
たとえ量産型でも機兵より強い機体だってある。…あれ?俺…操縦桿握れなくね?片腕無いし…。
おいおい、さすがに某元パイロットのジャンク屋見たく片腕用メカなんて作れんぞ。
うーん……あっそういえばキャラカスタマイズで面白い事が出来たな…。
ちゃぷちゃぷとメニュー画面を操作して行き目的のキャラカスタマイズ画面を出す。あった、義眼と義手。
昔、義手は"ロボットロマン"時代に某ヒュー!って言いたくなるような男が、、
義眼は、某人以外は撃つ巫女さんのキャラをエディットしていた人が居たな。
やっぱ義手には拘りたいよね。隠し武器の一つや二ついや、十や二十は欲しいな。義眼は望遠鏡のような機能は欲しい。
うーん、後一段階くらいナノマシンの体力向上もしたいな、ライフルを担いで移動できるようになりたいし…。
よしこんなもんだな。どれどれどれくらいポイント掛かるかなっと…10600P…50P足んねぇー!!
バカッ俺のバカッなんで"お子様プール"なんて買ったんだっ!!
…仕方ない。体力向上は諦めよう。鍛えりゃいいんだし…。よし実行、ぽちっとな。
「がぁあああああああぁぁあああぁぁあぁぁあぁぁあああああああぁぁあっ」
存在しない右目に指を突っ込まれ、グリグリとかき回しているような痛みを感じる。
それだけじゃない、噛み千切られた左腕の先から焼けた鉄を差し込まれたような痛みも感じる。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
ようやく痛みが治まった。気がつくと右目が見えている事が分かった。
「見える」
視線を左手に移す。
「ある」
鈍色に輝く左腕がそこにはあった。試しに握ったり開いたりしてみる。
ちゃんと動くし、感覚までしっかりある。これでロボットを操縦する事が出来る。
ステータス画面を確認するとしっかり鈍色の右目が嵌った俺の顔があった。
なかなかすごい顔だな。
特殊技能欄を見ると"鷹の目(error)"と"特殊義手"が追加されていた。
"鷹の目(error)"?ちゃんと見えてるのに?
詳細説明画面を確認する。

鷹の目(error)
義眼"鷹の目"を装備した状態。しかしリンクする衛星が存在しない為、性能が制限されている。
射撃補正:射撃をする際に補正が入る。:効果小

なるほど、確かに衛星は無いわな。まぁ暫くはこのままでも問題ないな。

じゃあ、暫くは義眼と義手を慣らしていく為に、この中で訓練かな…。

第9話 探索と出会い

 それから俺は、5ヶ月間みっちりとベースの中で修行した。
食料や弾薬は、テントを一度メニューにしまうと何度も復活したのは助かった。
まぁ、そのたびに素っ裸なったのは勘弁して欲しかったが…。

今では、ライフルを持って移動する事が出来るようになった。
そろそろ、森の中の探索も開始するべきだろう。

久々にゲートを開ける。魔狼どもを狩った時以来だな…。

"ベースオープン"
ライフルを構え、ゲート抜ける。
ここにあった狼たちの死体は他の動物に食われたようだ。すっかり綺麗になっている。
周囲の安全を確認して、ゲートを閉じる。
"ベースクローズ"
さぁ、探検を始めようか…。

森の中の探索は、危険の連続だった。魔狼、トラのような魔獣、はては、ムカデのような
魔獣まで現れたのだ。魔狼には普通の狼の子分が居たので前のようにベースの中から射撃した、
トラのような魔獣は、俺に飛び掛ってきていたので、義手からスタンガンを撃ち、痺れさせてから
頭に銃弾を打ち込んだ。ムカデは見た瞬間にライフル弾をフルオートで叩き込んだ。気持ち悪かった。
猪の魔獣も俺に向かって突っ込んできた事もあった。即効でベースに逃げ込み。通り過ぎた時に足を撃ち、
身動きを取れなくしてから、改めて頭を攻撃して殺した。猪の肉は久々の新鮮なお肉だった事もありおいしかったです。
大きすぎる魔獣は、ベースに隠れてやり過ごした。

そんな風に森の中の魔獣達を倒したり、逃げたりしながら、探索を一ヶ月続けた。
最初に魔狼を倒して以来、ベースポイントの稼ぎが悪い。小型の魔獣を倒しても精々10~20Pくらいしか稼げない。
まぁ『敵初撃破』も『くたばれファンタジー』も
一回しか取得できないロマンだしな。仕方が無い。パイルバンカー撃破や、ドリル撃破とかなら何度も取得
出来るんだけど…。

そんなことを考えているうちにとうとう森の終わりが見えた。

「よっしゃー!この森ともおさらばだっ!!」
駆け足で森の外に向かう。
森を出た瞬間、俺は目に飛び込んできた光景に息を呑んだ。
目の前には、赤茶けた岩の壁が聳え立っていた。
「何だこれ…」
赤茶けた岩の壁を見上げると、壁の天辺も見えないほど高い。
エアーズロック?テーブルマウンテン?嘘だろ。もしかして"世界の壁"か?
あれ?という事は…つまりここは…ロウーナン大森海?

ロウーナン大森海
俺の居るカバナン大陸の東の端にある非常に大きな森。大量の魔獣が徘徊しており、非常に危険。別名帰らずの森。
さらに東には、頂上が天にも届くほど高い岩山"世界の壁"が存在する。

世界の壁
カバナン大陸のどこからでも見える大陸最大の山。ほぼ垂直と思われる山肌から世界の壁と呼ばれている。


「あのクソ親!なんて所に捨てやがる!!」
思わず、"世界の壁"をぶん殴る。
チクショウ、現在地が大体分かっても仕方が無いじゃないか!!
…それにしても、何でたった一日で俺をこんな所まで移動させることが出来たんだ?
街からこの森まで洒落にならないくらい距離が離れている。
転移の魔法とか言う奴か?
…でもあの魔法が使えるのはかなり高位の魔術師、宮廷魔術師とかのレベルのはずだ。
そんなコネ、俺の親にあったか?
いやそんな事は、今はどうでもいい。今はどうやって帰るかを考えるべきだ。
確かまだ"世界の壁"まで行って帰ってきた人間は居なかったはずだ。
"世界の壁"を背にずるずると座り込む。
また、森の中を彷徨うのか…はぁ……。

ふと横に顔をめぐらすと見慣れない白い岩が壁に埋まっている見えた。
「何だ、あれ?」
この辺の岩は、みんな世界の壁からはがれ落ちた物らしく赤茶けている上、細かく砕けている。
そんな中、白い岩は、とても目立っていた。
興味を引かれたので近くに行って見てみることにする。

俺はその美しすぎる光景に息をすることも忘れていた。

そこにあったのは、全長30mはあろうかという壁に埋まったドラゴンの化石と、同じく壁に埋まりながらも
ドラゴンの胸に剣を突き刺したまま壊れている機兵の姿だった。
全体的に蔦が絡み付いていたがそれがすばらしいアクセントになっている。
「これは……?」

いつものシステム音と共にポイントをゲットした。
≪巨人との出会い:+500P≫
≪英雄の遺骸  :+1000P≫

『あらあら、こんなところに珍しい…。どちら様かしら?』
突然の見知らぬ人の声に、急いで声のする方向にライフルを構える。
「誰だっ!なっ!」
そこに居たのは、深緑色のゆったりとした布をまとった綺麗な女性だった。ただし半透明。
「せっ精霊っ!?」
『そうよ、精霊のクリシアっていうの。よろしくね。坊や』
おっとりとした感じで語りかけてくる。
急いで銃を降ろし名前を名乗ろうとする。
「しっ失礼した…。俺の名…前…は…?」
…俺の名前なんだっけ?前世の名前は覚えているが、今の名前が思い出せない…。
そういやーいつも"黒髪"とか"無能"とか"坊主"としか呼ばれていなかったから覚えていない。
妹からは、"お兄ちゃん"と呼ばれてたし…。
それに俺を殺そうとした親から貰った名前を名乗るなんて絶対に嫌だ!
「俺の名前は、ゴウ・ロングだ。」
俺はとっさに前世の名前をこっちでありそうな感じに変換したものを名乗った。
この世界で始めて俺は、自分以外に名を名乗った。

『そう。ゴウちゃんって言うんだ』
「ちゃんは、やめてくれ。ゴウでいい」
『うふふっ。分かったわ。ゴウちゃん』
ぜんぜん分かってないじゃないか。
『それでなんでこんなとこに居るの?よく無事にこの森を抜けて来れたわね?』
「無事じゃないよ。この顔と左腕を見てくれ。それに来たくてきたわけじゃない。
 親にこの森に捨てられてね。なんとか出ようと彷徨っていたらここに出た」
俺は袖をまくって鈍色に輝く腕を見せる。
『十分無事じゃないの。生きてるんだから』
「それもそうか…」

『それにしても人間は不思議ね。自分の子供を捨てるなんて……』
「まぁ魔法が使えないってだけでこの扱いは酷いよな」
そう言うと彼女はビックリした表情をした。
『あなた魔法が使えないの?…それでよくここまで来れたわね』
「ああ、魔法以外の変わった力があるからな。無きゃとっくに魔獣の腹の中だったよ」
『ふ~ん、でゴウちゃんこれからどうするの?』
「もちろんこの森から出る。もう方向は、分かったしな…」
"世界の壁"の反対を指差す。
『大丈夫?』
「多分、大丈夫だ。彼のお陰で何とかなりそうだ」
壁に埋まっている機兵を見る。
『そう…』
 少し寂しそうに目を細める。
「なぁ、質問していいか?」
『なぁに?』
「あんたはどうしてここに居る?」
御伽噺では、精霊達は自分たちの集落から出てくることは無い。唯一の例外が契約だ。
もしかしたら精霊の集落が近くにあるか、契約した人間がいるかだ…。
『私は、彼と一緒に来たの……』
彼?
『あそこでドラゴンと共に果ててしまった彼と……』
悲しそうな瞳で今でもドラゴンを刺し続けている機兵を見る。
「あなたは、契約精霊だったのか……」
『そうよ……』

「あなたは精霊の集落に帰らないのか?」
『ここからでは遠すぎて帰るぶんの魔力が無いの。知ってる?精霊って魔力が切れると消えちゃうのよ』
「…じゃあ俺と一緒に来ないか?ここから出れたら送ろう」
さすがにここにずっと一人きりというのは、気分が悪い。
『良いの?』
「良いに決まっている。魔法は使えないが魔力は有るらしいからな。好きなだけ持ってけ」
『…でもダメだわ。契約の石が無い』
「契約の石って何だ?」
クリシアが機兵の胸を指差す。
『あそこに嵌っている石よ』
確かあの辺りにある石といったら…"魔晶石"か!
「あの胸に嵌っている石があれば良いんじゃないか?」
『ダメなの。あの石で既に契約しているもの』
「分かった。別の石を探してみよう。」
『いいの?』
「もちろん。じゃあ早速探してみるよ。ロウーナン大森海なら多分魔晶石の鉱脈が有る筈だ」
そのまま後ろを向き走り出す
『あっ!ちょっと待……』
クリシアがなんか言ったようだか気のせいだろう。

魔晶石とは、空気中から魔力を吸い取り溜め込む特性がある石。色は白濁色。
溜め込んだ魔力を人工的に取り出し、魔晶機兵の動力源にしている。一種の永久機関。
石が大きければ大きいほど得られる出力が高いと言われている。
魔獣が大量に居る場所に鉱脈が有るため、魔獣の発生の原因ではないかという説がある。

それから、三日間森の中を探したが、見つからなかった。魔獣にはしょっちゅう襲われたってのに…。
捜索も四日目に入り太陽は真上に来ている。
「見つかんねぇじゃねぇか!誰だここに鉱脈があるって言った奴はっ!!」
俺だけどな…。
せっかくポイント使ってツルハシを出したってのに!
むしゃくしゃして"世界の壁"にツルハシを振り下ろす。
「チクショウ」
振り下ろしたツルハシの先端が少しだけ"世界の壁"を削る。
「チクショウ、チクショウ、チクショウ」
それでもイラついた気持ちは落ち着かず、何度も振り下ろす。
するとガキンと、何か普通の石とは違う硬いものにツルハシが当たった。
なんだ?なんかあったのか?もしかしてもしかして?
急いでまわりを堀広げる…。有った、有ったよ、有りましたよ。白濁色をした石が…こんなとこに有ったんかい。
灯台下暗しかよ!!まぁいいや。掘って彫って堀まくろう。
…まてよ。どれくらいの大きさの魔晶石を掘り出せばいいんだ?
う~ん。どうしよう。取り合えずいろんな大きさの魔晶石を用意すれば問題ないよね…。
待てよ?そういえばロボットロマンでも採掘できたよな?
早速メニュー画面を呼び出す。あった有ったありました"採掘"コマンド。…ん?
採掘一回500P…高い。採掘用ロボが無いから仕方ないか…。
実行っと。
突然空中からドリルマシンが出てくると勢い良く"世界の壁"に穴を開けていく。
同時にすさまじくうるさい悲鳴のような機械音が森に響いた。
うるさっ!
ドリルマシンの上にはプログレスバーが浮いており順調にバーを増やしていった。
バーが100%に付くとドリルマシンは大きな穴を残して消えてしまった。
そのままメニュー画面で取れた魔晶石を確認すると1t…いっいっぱい取れたな……。

魔晶石が取れたのでクリシアさんの所へ戻ろう。

「おーいクリシアさーん」
おお、今日も機兵は美しい。
『あらあら、ゴウちゃんやっと戻ってきた。ダメじゃない人の話は最後まで聞かないと…』
「すいません。それで契約の石ってどれくらい大きさならいいんですか?」
『機兵に乗るんでしたら大きいものが必要なんだけど。乗らないなら小さなもので十分よ』
うむむ、確かに機兵には乗りたかったが、今はもう"ロボットロマン2"で作れるしな、小さいので十分だろう。
「それじゃあ、どんな形がいいですか?」
『形?別にどんな形でもいいわよ。』
「じゃあこんなのどうです?」
呼び出したメニュー画面から製造を選び、製造画面を出す。そこからロボットロマン時代の設計図から
色々な宝石のカットを呼び出す。
…何でそんな設計図持ってるかって?居たんだよ昔、デコレーション○Sに乗ってた奴が…。
デコレーション○Sってのは、デコ電のM○バージョンだ。普通はラインストーン(模造宝石)を使うんだが
そいつは、ゲームの中であること良い事に本当に宝石で作りやがった。
しかも一個一個の宝石からレーザーが出てくる凶悪仕様で…。その時、デコレーション○Sの普及の為に
宝石のカットの設計図が流されたんだ。これはそん時拾っといたもんだ。

適当にラウンド・ブリリアント・カット(よくあるダイヤモンドの形)やスクエア・エメラルド・カットや
ペアー・シェープ・ブリリアント・カット(涙型)の形に整形した魔晶石を出す。
『あらあら!どこから契約の石を出し…、まぁ!この石、機兵ぐらい楽に動かせる位、力があるわ!!』
俺の出した魔晶石に、クリシアさんが驚いている。
うえっ何でそんなことに何の?もしかしてこの世界、魔晶石をカットしたこの無いの?…まぁいっか。
「え~っと。じゃあ契約できるんですか?」
『何の問題も無いわ。じゃあ、これでお願いするわ』
 涙型の宝石を指差す。
「分かった。じゃあ何時契約する?」
『…明日まで待って。彼とちゃんとお別れしなきゃ』
「了解、明日また来る」 
 "ベースオープン"
「それじゃあまた明日」
吃驚して、目を丸くしている彼女を悪戯っぽく笑いゲートを閉める。
 "ベースクローズ"
さぁて明日の移動の為に練習しとくか…。メニューを開き操作を始めた。

第10話 森脱出!だけどね…

 ふぁ~っと、よく寝た…もう朝か……。
よしっ、朝食食ってっとクリシアさんのとこ行こうか。
 "ベースオープン"
ゲートを開けて、外に出る。
「おはよーございまーす」
『あらあら、朝から元気ねぇ。おはようゴウちゃん』
「お別れは……。できた?」
『ええ、もう大丈夫』
少し寂しそうに笑う。

「じゃあ俺も彼に挨拶しないといけないな」
壁に埋まっている機兵に近づき手を合わせる。
クリシアさんは責任をもって故郷に送り届けます。
…よしっ。これでいいだろう。それにしてもすばらしい機兵だ。
壁に叩きつけられたせいか原型が留めているパーツは少ないが、勇壮さと気品が感じられる。
鹵獲して、自機にしたい位だが…英雄の墓だ。荒らすことは許されない。
…しかし…すみません。設計データを頂きます。あなたの機体は、惜し過ぎる。
メニュー画面を操作し、設計データの取り込みを開始する。完了。
機体名は、"グランゾルデ"か……。大切にします。

クリシアさんの下に戻る。
「お待たせしました。それでは契約はどのようにすれば良いのですか?」
『わかったわ。まず昨日の契約の石を出して手に持って、前に出して』
昨日の涙型の魔晶石を右手に持ち、前に出す。クリシアさんが半透明の手を重ねる。
ドキドキだ。前世では女の子と手もつないだ事が無いのだ。
『我、ここに汝と契約を交わす、我は汝、汝は我、契約の石と魔力の元、ここに宣言す!!』
クリシアさんが光り輝き、手に持った魔晶石に吸い込まれていく。
そして光が消えた時クリシアさんは、居なくなった。手を見ると緑色に染まった魔晶石があった。
「クックリシアさん?どこ行ったんだ?」
『大丈夫よ、ここに居るわ』
声は、魔晶石から聞こえてきた。今度は石がぴかっと光るとクリシアさんが出てきた。
『ビックリした?』
悪戯っぽく笑って聞いてきた。
「ビックリしたよ」
『昨日のお返しよ』

「じゃあ、行きますか」
『大丈夫よ。私が居るから森なんてすぐ抜けれるわ』
「あーそれはもう、もう解決済みだ」
『えっ?』
「ちょっと待っててくれ」

開けっ放しだったゲートに入り、ゴソゴソと着替える。
再びゲートから出る。
 "ベースクローズ"

『なぁに?その格好?』
俺の格好は、暗い色した左の袖の無いパイロットスーツに巨大な翼をつけたジェットパックを背負っている状態だ。
昨日、別れた後、オブジェクト購入して練習していたのだ。
操作方法は、頭に浮かんできたから問題なく動かせた。

「空を飛びます」
『…』
「このように」
背中のジェットエンジンを吹かし、実際に飛んでみる。
『!あらぁ!』
「飛ばしますので石の中に入ってください」
『わかったわ』
クリシアさんが光に包まれ懐に入れていた魔晶石吸い込まれる。

「じゃあ行きます。」
エンジンを吹かし、一気に空へ駆け上がる。下には、死ぬ思いで踏破したロウーナン大森海が広がっている。
二時間も飛んでいると、やっと森の端が見えた。

「今度こそ出れたぁーーー!!」
『あらあら、うふふ、よかったわねぇ』

その時、視界の端に見逃せないものが映った。機兵を乗せたトレーラーが一台居るではないか。
何をしてるんだ?…それにしてもあの機兵、趣味が悪いなぁ。なんか無駄にトゲトゲしてるぞ。

何をするのか気になるのでそのまま上空で観察する。
するとトレーラーから二人の男が出てきた。一人は小さい子どもを担いでいる。
子供は黒髪だった。
「何でこんな所に子供を連れてくる?」
嫌な予感がする。ハゲている男が何かぶつぶつ言っている。
『彼、体力向上(ブースト)と重量軽減の魔法を使ったようね……』
まさか…子供を投げる気じゃないよな……。
そのまさかだった。

子供の襟首をつかみ、躊躇無く森へブン投げた。
「ふざけんなっ!」
急いでエンジンを吹かし、子供を追いかける。空中キャッチなどした事無いがやるしかない。

あと3cm…2…1…。追いついたっ!子供に抱き付き再び空へ舞い上がる。無事確保できた事にほっとする。
あいつら許さねぇ。ホバリングしつつ子供を右腕でしっかり抱えなおす。左手を変形させる信号を出す。
手首から先が折れ、手のひらが腕を掴む。手首から黒光りする銃口が出てくる。

変形が完了しているこ事を確認し、銃口をクズどもに向ける。

"鷹の目"起動。

右目の視界が変わり、腕の銃と連動したレティクルが出てくる。
倍率を上げ、クズどもの驚愕した表情を見る。
まずはのた打ち回れっ!
男どもの膝に一発ずつ銃弾を撃ち込む。
右目に映るクズどもの顔が驚愕から苦痛に変わる。
その事を確認し、トレーラーの近くに着陸する。子供をトレーラーの中に入れる。

「ああ、足が!俺の足がっぁあぁあぁっぁあああ」
「いてぇ!いてぇよ!くそっいてぇよ」

ああ、良い感じにのた打ち回っているね……。じゃあ話をしよう。
左腕を男どもに向けつつ話しかける。
「ようクズども、子供をロウーナン大森海に投げ捨てるなんて何考えてんだ?」
「化け物め、なんて事しやがる!【火球よ、その業火で、敵を、……」
ハゲがこちらに手を向け呪文を唱える。が最後まで言わせるつもりは無い。
即座に手を撃ち抜き黙らせる。
「ぎゃあああ」
「無駄な抵抗はやめて。こちらの質問に答えてもらおうか?
 なんで、この子を森へブン投げた?死んじまうだろうが!」
「おっ俺達が悪いんじゃない!あっああ、そうだ。父親から頼まれたんだ。
 俺達は依頼をこなしただけだ!!なぁ、許してくれよ!なぁ!」
「悪いに決まってるだろうが!くそ野郎!」
足元に撃ち、黙らせる。
やっぱりそうか…。まったく、この世界の親は、腐ってやがるな。
息子の為に魔力で動く農機具を捨てた男を見習えよ。
次は何聞こう…っても聞きたい事もう無いや。近くの町とかは空飛べばわかるし。
じゃあ報復タイムと行きましょうか。
「クリシアさん」
『なぁに、ゴウちゃん』
フワリをクリシアさんが姿をあらわす。
「なっ精霊だと!」
「クリシアさんって、魔法使える?」
『大丈夫。大抵使えるわ』
「じゃあ、あいつらに回復と眠りと重量軽減を、お願いします」
『分かったわ』
「ちょっと待てテメェ!!何をする気だ!!」
ハゲが痛みを堪えつつ聞いてくる。
「もちろん罰ですよ。きっちり森の中においてきてあげるから安心してください」
「いやだ!!やめろっ止めてくれ!頼むっ!俺には6才になる息子が!!」
「頼む何でもする。金ならやるっ!やめてっ」
「クリシアさん、お願いします」
クリシアさんが手を男達に向ける。
「やめ…て…く…れ」
「いやだあぁ……」
すぐに男達は、眠りに落ちた。
精霊ってすごいな無詠唱で魔法が使えるんだ……。

「じゃあちょっと行ってきますか……」
『行ってらっしゃい。私はこの子の面倒を見ておくわ』
「お願いします」

それから俺は、全速力で男どもをポイ捨てし、トレーラーまで戻ってくる。

「ただいまー」
『お帰りなさい』
「あの子の様子はどう?」
『まだ暫くは、眠っているでしょうね……』
「そうか…。それにしても儲けたな。機兵とトレーラーが手に入った」
特に機兵が手に入ったのは嬉しい。
今は、ロボットロマン2のお陰で自分の乗れるロボを作れるが最初に乗りたいと思ったのは、機兵なのだ。
やっぱ乗りたいよなぁ。
『あらあら、そんなに目をキラキラさせて…じゃあ乗ってみましょうか?』
「!乗れるのっ!!」
『まぁまぁ、私の契約者が乗れないはずが無いじゃないですか』
よっしゃーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
「よっしゃーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
『あらあら、そんなにはしゃいじゃって…ウフフ』
「着替えてくるっ!」
早速ベースに入り、いつもの戦闘服に着替える。

「準備できました!!」
『あらあら、うふふ。準備万端ね』
早速トレーラーの上に上がり、膝を付いている機兵の前に立つ。
うぉおお、すげぇ興奮する。
『操縦席は、背中から入るの』
「了解っ!」
機兵をよじ登り、開いていた操縦席に滑り込む。
「うぉおおおお。…クセェっ!」
あのクズどもちゃんと操縦席の掃除しろよっ!
『じゃあ、操縦してみましょうか?』
確かに操縦席はレバーやペダルがある。しかしだ。
レバーには手は何とか届くがペダルには足が届かない。
「あのー。ペダルに足が届かないんですけど…」
『大丈夫、私が居るもの』
その瞬間、俺に不思議な感覚が宿った。
自分の体ともう一つ別の体がある感覚だ。
自分が座っている感触が分かる。しかし同時に自分が膝を付いて座っているのも分かる奇妙な感覚だ。
「何だ…これ?」
『それが、機兵を操る感覚なのよ。じゃあゆっくり立ってみましょうか』
「その前にどうやって外の状況を確認するんでしょうか?」
そうこの操縦席は、外が見えないのだ。回り全部をスイッチやバルブ、レバーが占拠している。
『ああ、それはアレを使うのよ』
アレ?クリシアさんが俺の頭上を指す。…潜望鏡?
そうソレは潜望鏡としか表現できないものだった。…驚愕!!ロボットは潜望鏡で外を見ていた!
取り合えず潜望鏡についていたネジを回し、自分の目の高さに調節する。
確かに外が見える…見えるが…圧倒的に視野が狭い。良くこんなので戦ってんな…。

気を取り直し、改めて機兵の操縦をしてみる。膝を突いている方の体をゆっくり立ち上がらせる。
そしてポイントをゲットした。

≪動くぞ!こいつ!:+500P≫

すると、機兵も立ち上がり、体が浮く感覚が来た。
「おおーー、すげー」
機兵を動かしているという事に感動する。夢にまで見たロボットの操縦を今行っているのだ!!
そのまま、トレーラーから降り、えっちらおっちらと歩く。
トレーラーの周りを三周した所で一旦止まる。
「クリシアさん、ありがとう御座います。俺今すげー感動しています!!」
あらん限りの感謝を伝える。
『あらあら、喜んでくれて嬉しいわ。…でもね……』
でもね…?
『その操縦は如何な物かと思うの……』
あれ?
『それじゃあ、ゴウちゃんこれから旅すると死んじゃうと思うの……』
なんか雲行きが怪しいぞ。
『うん…そうよね…そうするべきよね…これはゴウちゃんの為だもの……』
なんだろう。嫌な予感しかしない。
『ゴウちゃん。"世界の壁"に戻りましょう!』
「!なっ何でっ?」
『そんな腕じゃあゴウちゃん絶対死んじゃうの。だから私が鍛えてあげる!』
「いやいや…そもそもクリシアさん精霊の集落に帰るんじゃないんですか?」
『予定変更よ。暫くゴウちゃんと一緒に居ることにするわ』
なんか使命感に燃えた目をしている…。今説得しても無駄だろう。
落ち着いてもらう為にも話をそらそう。
「まぁその話は後にしましょう。…ほらあの子も起きたみたいですし…」
潜望鏡を覗くとトレーラーから出てきた子供がこちらを見ていた。
俺は、機兵に膝を突かせると、クリシアさんに降りることを伝える。
『分かったわ』
それで、体の感覚が元に戻った。

第11話 現状の確認とこれから

 トレーラーから少し離れたところで機兵を降り、歩いて子供のところへ行く。
「よぉ、坊主起きたか」
「私、女。あなた黒髪?」
女の子だったのか。
髪が短かったので、気が付かなかった。
「そいつは悪かった。お前さんとおそろいだな。調子はどうだ」
「ここ、どこ?」
クビを傾げながら聞いてくる。無表情だがかわいいじゃねぇか!
「ここは、ロウーナン大森海のすぐ側だ。お前さんは捨てられたのさ、父親にな……」
「私を捨てるの?」
まるで、俺が捨てるような言い方だ。
「まてまて、お前を捨てようとしたのは、別の奴だよ。俺じゃない。俺はそいつらをぶっ飛ばしたのさ」
『そうですよ。ゴウちゃんはそんなことしません』
すかさず、クリシアさんが現れ、フォローしてくれる。
「幽霊?」
『違います。精霊のクリシアです』
「そう」
ビックリしているようだが反応が薄い。
「そういえば、名乗ってなかったな。俺は、ゴウ・ロングだ。お前さんと一緒でなこの森に捨てられたんだ」
「私の名前は…。無い」
「なんだ、俺と一緒か…。じゃあ俺がつけてやる。そうだな…"ルーリ"だ。良い名前だろう!」
「ルーリ…ルーリ」
気に入ったのか、自分の名前を呟いている。
『ルーリいい名前じゃない。ルーちゃんね』
「…でだ、ルーリ、俺達と一緒に来ないか?どうせ近くの町に行っても野垂れ死ぬだけだしさ」
さすがにこのまま放っておくわけにはいくまい。
「いいの?…私無能だよ?」
「クカカッ、そんなこと言ったら俺だって無能だ。それに俺達は無能じゃない。魔法が使えないだけだ」
「…わかった。一緒に行く」
「良しじゃあ今からお前は"ルーリ・ロング"。俺の義妹だ。よろしく頼む」
「よろしく、お兄さん、クリシアさん」
『よろしくね。ルーちゃん』
こうして俺に義理の妹が出来ました。
「じゃあ、親睦を深めるためにパーティでもしますか」
 "ベースオープン"
早速プライベートベースにつながるゲートを開いく。
「お兄さん、コレ何?」
『あっそうそう、私もコレ聞きたかったの』
「ちゃんと説明するから、中に入っていて、クリシアさんと俺は機兵とトレーラーを回収してくるから。」
機兵とトレーラーに近づきメニューの"鹵獲"コマンドを実行する。
これで、正式にこの機兵とトレーラーは俺のものになった。後は煮るなり焼くなり好きに出来る。
クカカッどうしてくれようか。素材に還元して新たに使いやすい機体を作るのもいいし、
せっかく設計図を貰ったんだグランゾルデの再現機を作るのもいい。夢は無限に広がるな。
機兵をトレーラーに乗せる。…ベースに入るかな?取り合えずゲートの前に持っていこう。
トレーラーの運転席に座り操作を確認する。うん殆ど自動車と同じだな。
クリシアさんに動力炉を動かしてもらい。ベースの前に持っていく。
するとゲートが大きくなりトレーラをベースに入れる事が出来た。


それから俺達ベースの中で、それぞれの境遇を話し合った。
特にルーリの境遇は想像以上に悪かった。
掻い摘んで話すと、ルーリの母親はルーリを生んだ後、すぐに夫と離婚し貴族と結婚したそうだ。
必ず貴髪を生む女を貴族が逃すはずない。
ルーリは父親へと引き取られたが、成長するにつれ前妻に似てくる娘へ憎しみを募らせていったそうだ。
髪を短くしたりと色々やったそうだが無駄だった。
そして酒びたりの毎日になり、家庭内暴力を振るうようになった。
さすがに酷いので逃げ出そうとしたんだが、父親に捕まった。
父親も娘に"捨てられた"事に腹を立て「お前が俺を"捨てる"んじゃない。俺がお前を"捨てる"んだ」と
怒り狂いあのクズどもにロウーナン大森海に捨てるように依頼したようだ。

まったく…世の中にはろくな親が居ないな…。

一方クリシアさんは想像通りといったところだ。
精霊の集落にグランゾルデのパイロットがやってきて精霊との契約を望んだ。
クリシアさんも外の世界を見てみたくてその契約に乗ったそうだ。
そして、いろいろな所を旅しながらいろんな魔獣を倒した。
あのドラゴンは、旅で立ち寄った村から討伐を依頼された物らしい。
山の上で一騎打ちをしたそうなんだが、胸に剣を突き刺した時にドラゴンが逃げ出そうとしたので逃がすまいとして、
そのまま機兵ごと運ばれたそうだ。
結局"世界の壁"の手前でドラゴンの限界が来て双方落下。ソレがあの光景の真相だ。
精霊は、あまり契約の石から離れる事が出来ないのでそのまま100年くらい一人ぼっちだったそうだ。

あと、精霊機兵の真相がわかった。精霊機兵とは、動力源に契約の石(契約済み魔晶石)を使っているものを言うそうだ。
契約の石により、高出力の魔力を与えられた機兵たちが、活躍して御伽噺として残った。そういうことらしい。
しかし、それでも精霊の力を100%引き出したパイロットはいないそうだ。
普通の人を量産品のPCとすると優秀な魔法使いや貴髪は高性能カスタムPC、精霊はスパコンになるんだが、機兵乗りは総じてプライドが高い。
機兵の操作処理を殆ど自分(高性能カスタムPC)でこなそうとし、契約した精霊(スパコン)を補助くらいにしか使わなかったそうだ(もったいない)。
だが黒髪の俺は、全ての操作に精霊の補助が必要になる。クリシアさんにはそれが、たまらなく嬉しいそうだ。


俺もこれまでの事を話す、前世の事、クソ女神に殺された事、転生したら黒髪だった事、妹が可愛かった事、おっちゃん達に干物を売った事、
色々復讐した事、親に殺されそうになった事、最後に能力の事。
「お兄さん、大丈夫?」
ルーリに聞かれて気が付いたが俺は泣いていた。
こちらに来てから酷い人生を送ってきたが、妹やおっちゃん達との交流が無くなった事を俺は悲しんでいたらしい。
「大丈夫、俺は生きてるし、今はルーリやクリシアさんがいるしね。それより…これからどうしようか?」

『あらあら、決まってるでしょう?"世界の壁"で暫く修行です』
「決まってるんですか?」
『決まってます。あんな腕で、旅に出たらすぐに死んじゃいます』
まぁ確かにこれから色々旅する事になるけど能力あるから何とかなるんじゃないか?
いや待て、能力の使いすぎで有名になって、国から指名手配とかありえそうだ。
無駄に目立ってルーリが狙われたら洒落にならんぞ。
なら、目立たないように機兵を使ってのんびり旅をする方がいいんじゃないか?
「そうだな…。戻って修行したほうがいいか…」
大体2~3ヶ月くらいだろう。
「ルーリ、暫くは"世界の壁"で修行する事にするけど、いい?」
「いい。私も修行する」
 よしっ、修行する事に決定!

第12話 出発

 調子に乗って修行その他をしていたら、7年もたってました…。
俺たちの背が伸び、機兵ギルドに登録可能な年齢になった。
ロボットロマン2が面白いのがいけないんだ。うん、そうだ、そうに決まってる。

「みんな準備できた?」
『大丈夫よ。ゴウちゃん』
「大丈夫」

今俺達は、7年前にルーリと出会った場所に来ている。もちろんこれから旅に出るためだ。
最初の目標は、ロウーナン大森海に一番近い街、カラガの町に行く事だ。
そこでまず機兵登録をして路銀を稼ぐ。その後、色々寄り道をしながらファードの街を目指す。
それが今のところの予定だ。気分によって変更可。

「じゃあ、行くぞ!」
『おー♪』
「おー」

皆の準備が出来た事を確認して、俺の愛機"グランゾルデ・レプリカ改"を乗せた改造トレーラーを出す。
これからの旅に胸を躍らせながらアクセルを踏んだ。


何故だ…。何故、何も無い?
ロウーナン大森海を出発して三日、俺達は無事カラガの町に着いた。道中何のアクシデントも無く……。
「…何故だ?」
『あらあら、当たり前でしょう。危険なロウーナン大森海なんて誰も近寄りませんよ』
だが俺は、期待していたのだ。商隊を襲う盗賊を!又は俺たちを襲ってくる盗賊をっ!
チクショウ、ロマンがねぇ。
トレーラーを街の外にあるトレーラー用駐車場に預けると機兵ギルドへ行く準備をする。
準備といってもフード付きの外套を被るだけだが……。
「行くぞ、ルーリ。クリシアさんも石に入ってくれ」
「分かった。兄さん」
『分かったわ』
そう言うとクリシアさんは俺の左腕につけた魔晶石の中に入っていった。
ルーリもフードを深く被る。

カラガの街は、傭兵の町とも言われている。
ロウーナン大森海が近く魔獣がしょっちゅう森から出て来るため、機兵乗りの仕事に事欠く事が無い。
ここを統治している政府も自前の騎士団の機兵で魔獣を討伐するより、野良の機兵乗り達を使ったほうが安上がりな事を分かっているので
機兵乗りを囲い込もうと税金を安くしていたりする。機兵工房の数も多くここで修理できない機兵は存在しないとまで言われている。

まぁ実際はここに修理できない機兵が一機ありますけどね…。

街の住人から場所を聞き、機兵ギルドへやってきた。受付に近づき、そこに居たキツそうなお姉さん用件を告げる。
「ギルドに登録したいんだが……」
「ギルドへの登録ですね。ではこの用紙に必要事項を書いてください」
さすが機兵ギルドの職員だ。怪しさ満点の男が話しかけても動じない。
しかし、周りの視線が痛い。
フードを深く被った怪しい二人組みが入ってきたんだ当たり前といえば当たり前だ。
必要事項を書きカウンターのお姉さんに出す。
「後でお呼びしますので、暫くお待ちください。」
「分かりました」
あいているベンチに座る。
「よう兄ちゃんそこは、俺のし…(ポグっ)へぶっ!」
早速絡まれたと思ったらルーリが股間へ先制攻撃をかましました。
周りの空気が一瞬にして凍る。
「ルーリ。乱闘になる事は分かりきっているけど…ちゃんと手順を踏もうよ……」
「時間の無駄」
恐ろしい妹を持ったものだ。
「野郎!」
「ふざけやがってっ!!」
さっきの奴の仲間が襲い掛かってくる。中には呪文を唱え始めた奴も居る。
真っ先に殴りかかってきた奴を左のカウンターで倒す。そのままそいつを盾にする。
「なっ卑怯な!」
「そうかいっじゃあ返すよ」
チンピラ機兵乗りに盾を返し、ついでに殴り倒す。
ルーリはどうなったかなっと、視線を向けると阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。
妹は、徹底的に金的を狙ったのか股間を押さえて呻いている男が三人に転がっていた……。
我が妹ながらえげつない。
はっきり言おう。ルーリは俺より強い。接近戦は特に強い。愛用の武器があると絶対に勝てない。
「こっちが手加減してやりゃあいい気になりやがって!!」
最後のチンピラ機兵乗りが剣を抜いた。
あーあ、やっちゃった……。
チンピラ機兵乗りがルーリに斬りかかる。
「きゃああああああああ!」
野次馬の中に居た女の人が叫ぶ。
だが何の問題も無い。横薙ぎの一撃をルーリは両腕で防ぐ。両手にはいつの間にか"トンファー"が握られ、ソレで防いだのだ。
そこからは、惨劇というのが正しいだろう。
右手のトンファーで相手の剣を叩き落し、左手のトンファーで相手の顎を叩く。
頭を、胴を、腕を、足を、目まぐるしく打つ、相手が倒れそうになってもトンファーで打ち上げ、
倒れさせない。
今ギルドの中で聞こえる音は、トンファーの風を切る音と人を叩く鈍い音だけだ。

何時までも続くと思われた惨劇も気が済んだのか唐突に終わる。
トンファーに付いた血を振り払い、腰につけたホルスター納める。まるで西部劇のガンマンだ。
人の倒れる水っぽい音を背にルーリが振り返る。
「兄さん…。怖かった」
ええーーーーーーー。
アレだけ事をして「怖かった」って、俺はルーリの方が恐ろしいよ。
…と思っていたんだが良く見ると小さく震えている。
ルーリにとってはこれが始めての対人での実戦なのだ。とても恐ろしかったろう。
「そうだね。怖かったね。でも良くがんばった!」
「うん」
ルーリの頭に手を置いてナデナデする。くすぐったそうに身をよじるのが分かる。
まわりのどん引きの視線が飛んでくる。

「お待たせしました。ゴウ・ロング様、ルーリ・ロング様。ご説明しますのでこちらへどうぞ」
そんな中、受付のお姉さんが平然と話しかけてくる。
「わかりました」
ルーリと一緒にギルドの奥にある応接室に通される。
「しかし、すごいですね。乱闘があったっていうのに平然としている」
「あの程度の事、日常茶飯事です」
さほど気にしていないようだ。

「いくつか確認したい事があるのですが?よろしいでしょうか?」
「あっはい、かまいません」
「では、あなたの愛機はカラードのカスタム機だそうですが、もう四世代も前の機体ですね。
 もうパーツは生産されていなかったはずです。修理が出来ませんが大丈夫ですか?」
「問題ありません。ベースがカラードなだけで殆ど現行機のパーツと入れ替えてあります」
「贔屓にしている機兵工房が記入されてませんが大丈夫ですか?よければこちらで紹介しますが?」
「こちらも大丈夫です。メンテナンスは俺達で十分です。」
というか、俺たちしか出来ない。
「ではメンバーはルーリ様だけなのですか?それでは整備に支障をきたしませんか?」
「元々二人で機兵を整備していましたし、そんなに無理して稼ごうとは思ってないので問題ありません」
「そうですか、では後ほど機兵の動作確認を行います。」
「わかりました」
「申し遅れましたが、あなたの担当になったローラ・グラニスです。よろしくお願いします」
「こちらもよろしくお願いします」
「では、機兵ギルドの説明をさせて貰います」

話が長いので要約するとこうだ。
このギルドにはお約束どおりにランクがありS、A、B、C、D、E、Fとランクが分かれている。
最初は、Fから始まり依頼を多くこなしてポイント貯めてそのポイントが一定値を超えたら
ランクアップする。依頼は、自分より一つ上のランクまで受けれる。
つまりEランクの奴が受けれる依頼はDEFランクってことだ。
もちろんランクが高ければ高いほど危険度も高いし、報酬も高い。
依頼はギルドで受ける。依頼が完了したら、成功した証拠を持って依頼を受けたギルドへ提出する。
依頼に失敗した場合、成功報酬の三割を罰金として支払う。
依頼中に死んだとしても一切の責任をギルドはおわない。

簡単にいうとこの位だ。

「最後になりますが、あなたのランクを見定める為、最初にこちらが指定した依頼をこなしてもらいます。
 なお、この依頼には私とギルドが依頼した機兵乗りが同行します。この依頼に失敗した場合、
 罰金は免除されますが、ランクはFからとなります。お気をつけください」
「わかりました」
「説明は以上です。これから機兵の動作確認を行います。機兵までの案内をお願いします」
「わかりました。では行きましょうか」

ローラさんを俺達のトレーラーに案内する。
「これがゴウ様方のトレーラーですか…変わってますね」
俺達のトレーラーは普通のトレーラーと比べてだいぶ大型に改造してある。
「ええ、市販のトレーラーを大幅に改造してあります。中で煮炊きも出来ますし、トイレもあります」
「それはすごいですね。どこで改造されたのですか?」
「死んだ爺さんと俺達でやりました」
嘘八百を並べつつ、適当に誤魔化す。
「では、機兵を確認させてもらいます」
「どうぞ」
ローラさんがトレーラーの上に上がり、機兵の各部をチェックしている。特に足回りを重点的に調べているようだ。
「いろいろ確認させて頂きたい事がたくさんありますが、あの頭部にある大きい目は何ですか?」
お!早速聞いてくださいましたか!
「アレは、モノアイと言う。既存の機兵のでは視界が狭すぎるのでそれを広くする為に付けています」
まぁ実際は趣味だけどな。
「ですが操縦席に外視鏡(操縦席にある潜望鏡の事)がありませんでしたが?」
「詳しい事は秘密ですが、外視鏡を使わなくても外が見れるようにしてあります」
こちらも趣味で網膜投影式に改造してある。もちろん義眼にも対応している。
「…どのように見えるか試してもよろしいですか?」
「うーん、まぁいいでしょう。ですが…内部の事は他言無用に願います」
「存じております。機兵の改造内容等はギルド内でも極秘事項になっています」
あんまり他の人に乗られたくはないが仕方が無い。ギルドに俺達を手放したくなくなる様にする為だ。
「では失礼します。…やはり見た事の無い機器が並んでいますね……」
「これを頭に着けてください」
操縦席の壁に掛けてあるヘッドセットを渡す。
「これは?」
「これを着けると外が見えるようになります」
「ほう」
半信半疑のようだが素直にヘッドセットをつける。
「では、魔晶炉を起動させてください」
「分かりました」

低いうなり声と共に魔晶炉に火が入り、溜め込んだエネルギーを四肢に伝え、モノアイが点灯する。
「これはっ!!」
おー驚いてる驚いてる。こいつの視界を知っちゃうともう他の機兵に乗れないよ?
「何ですかこれはっ?目の前に風景が見えるっ!」
興奮した様子で操縦席で首を動かしている。
「どうです?すごいでしょう?」
「ゴウ様この技術ギルドに売ってください!!」
「ダメです」
バッサリ切り捨てる。
「そんな!どうして!!」
「自分の優位性を売るバカがどこにいますか?」
まぁ売っても理解できないしね。俺もしてないし。
「それはっ、そうですが…。…失礼しました。少々興奮してしまいました」
「分かります。俺もあの視界を初めて見た時は、あなた以上に興奮しましたよ」
「兄さん機兵で踊ってた…」
いやはや、お恥ずかしい。
「そうですか」
おや、ほんのり微笑んでない?
「…では、動作確認を行います。機兵に乗りこちらの指示したとおりに動いてください」

動作確認を終えて機兵を降りたところでローラさんに話しかけられた。
「お疲れ様です。最初の依頼ですが、明日には決まるでしょう。遠出の依頼はないのでご安心ください。
 明日、昼の鐘二つ頃にギルドに来てください。」

ここで、この世界の時間について説明して置こう。結構いまさら感があるが…。気にしない。
大体朝の六時に朝の鐘と呼ばれる鐘が一回鳴らされる。二時間経つと今度は二回鳴らされる。
また二時間経つと三回鳴らされる。さらに二時間経つと今度は昼の鐘が一回鳴らされる。
それからは、朝の鐘と同じルールで鳴らされ、また六時間経つと今度は夜の鐘に変わる。
また、鐘の音程は朝>昼>晩という風になっている。

「わかりました」
ローラさんが背を向けて去っていく。
よっしゃ、初依頼だ。がんばろう。
「初依頼がんばろうなルーリ、クリシアさん!」
「うん」
『はいっ』

第13話 初依頼

 昨日の約束どおり、昼過ぎにギルドへ向かう。
「こんちわーっす」
「こんにちは」
適当に挨拶しつつ、ギルドに入る。そして空気が凍る。中には股間を押さえているものも居る。
気にせず受付に向かい、ローラさんが居ないか、受付の人に聞く。今日はハゲたおじさんだった。
「ローラさん居ます?」
昨日ギルドに居なかったのか戸惑っている。
「ああ、新人さんか…奥の応接室に行ってくれ。すぐに呼んでくる」
応接室に入り、ローラさんを待つ。
「お待たせしました。ゴウ様、ルーリ様。ドルフ様方もどうぞお入りください」
ローラさんが狼獣人の男性と人族の女性と犬耳を生やした女の子を連れてきた。
獣人は、獣の顔に人間の体をした種族だ。結構色々な動物の顔をした種族が居るようだ。
夫婦か?
「おう、ローラまた怪しい奴らをギルドに入れようとしているな!!」
「あんた、ダメよ。失礼なこと言っちゃ。ごめんなさいね」
やはり夫婦か。つまり獣人のおっさんに隠れている女の子は娘さんか……。犬耳万歳。
「気にしないでくれ。怪しいのは自覚してる」
「うん」
「俺の名前はドルフ・サマス、こっちは女房のアリカ、んで娘のカーラだ」
「よろしくね、ほらカーラも」
「…よろしく」
カーラちゃんは、ドルフさんの陰から出て一言挨拶すると、すぐにドルフさんの影に戻っていった。
「俺は、ゴウ・ロングこっちは妹のルーリ・ロングだ。こちらこそよろしく」
「よろしく」
実はビックリしている。この世界では異種族間の結婚は忌避されている。特にハーフなんて差別の対象だ。
可愛いのに…。
たぶん、ローラさんがこちらの事をある程度、察して人選してくれたんだろう。
なんと抜け目の無い。
「双方の挨拶が済んだので依頼の内容を説明いたします。今回の討伐対象はホーンボアです。近隣の村から依頼が来ました。」
ホーンボアは、全長6mある比較的小型の魔獣。呼んで字のごとく角の付いた猪で、
よく森から出てきて角で畑を掘り返して作物を根こそぎ食べてしまう害獣だ。
耐魔フィールドはそんなに強くなく、やろうと思えば生身のままでもやれない事は無い。ただし達人に限る。
確かに初心者には丁度いい相手だな。まぁロウーナン大森海で亜種のビックホーンボアを狩りましたけどね。
こちらも呼んで字のごとく10mのホーンボアだ。
「居場所は、この街の東に1日行ったところにある荒野と思われます。明日出発し、明後日討伐、明々後日帰還という計画で行きます」
のんびりとした計画なのはこちらが初心者なのを慮っての事だろう。ありがたく受け取っておこう。
「最初は、ゴウ様方だけで対処してもらいます。ゴウ様方には対処不能と私が判断した場合、ドルフ様に対処してもらいます。
 この場合、ゴウ様方の依頼は失敗となります。よろしいでしょうか?」
「問題ない」
「おう」
「では、各人準備のほうをよろしくお願いします。朝の鐘が一つ鳴る頃、東門に集合してください」
準備といってもそもそもお金も無いのでそのままトレーラーに帰ってルーリとグランゾルデの装甲を磨いて寝た。

 翌日、朝の鐘が鳴る前にトレーラーに乗って東門に来た。約束の時間より早く行くのが性分です。
だが既にローラさんが来ていた。昨日一昨日と見たタイトなスーツ姿ではなく、髪を結い動きやすそうな革鎧を着た精悍な姿だった。
隣には魔導バイクまであった。
「おはよう御座います。ローラさん」
「おはよう御座います」
「おはよう御座います。ゴウ様、ルーリ様、本日はあなた方のトレーラーに同乗させて頂きますがよろしいですか?」
俺達のトレーラーは、魔導装置が無いので遠慮したいがそうも行かないんだろうな……。
「わかりました。ですが、機兵同様中の設備については他言無用でお願いします」
「分かりました」
「ルーリ、ローラさんに中を案内してくれ、俺は、バイクを載せるから」
「わかった。ローラさんこちらです。」
「よろしくお願いします」
ローラさんの魔導バイクをトレーラーに乗せているとドルフさんの乗ったトレーラーが近づいてくるのが見えた。
「よぉー兄ちゃん待たせたな。バイクがあるって事はローラは来てんだろ?」
「来てますよ。今トレーラーの中を案内しているところです」
「でけぇし変わったトレーラーだな。なんかよく分からんものまで付いてるし」
「企業秘密って事で勘弁してください。今ローラさんを呼んできます」
トレーラーの中に入り、ローラさんを探す。ルーリを見つけた。
「ルーリ、ローラさんはどこ行った?」
ルーリはゆっくりと近くにある扉を指す。…トイレか…。あそこには日本堕落の魔器が一つウォシュレットが
あるのだが大丈夫だろうか…。まぁ変なボタンだし押さないだろうな。

バンッとトイレのドアが勢い良く開かれる。中には顔を赤くしているローラさんが居た。
「ローラさん、どうかしましたか?」
いきなりキッと睨まれた。
「…何でもありません」
「…そうですか。ドルフさんたちが来ましたよ」
「分かりました。皆さんに渡すものがあります。一旦外に出ましょう」
冷静さを取り戻した、ローラさんが外に出る。
「おう、おはようさん、ローラ、ルーリ遅くなってスマンな」
「おはよう御座います。ローラさん、ルーリちゃん」
「…おはようごまいます……」
噛んだ…。かわいい……。
「おはよう御座います。問題ありません。約束の時間よりまだ早いですから」
うむ今日も犬耳っ子はかわいいな……。
「ではこちらの通信機をお貸しいたします。ゴウ様たちには説明しときますが魔力を流しながら、こちらのボタンを押して喋ると
 もう一つの通信機のほうに声が届きます。移動中の連絡はこれを使います」
「(クリシアさん使える?)」
『(問題ありません。でも通信機ってうちにもありますよね?魔力不要の)』
「(いまさらだけど、あんまり手の内を明かしたくないんだよ)」
『(わかりました)』
「ではどうぞ」
「どうも」
「おう」

通信機を渡されたところで朝の鐘が一つ鳴った。
「では、出発しましょう」
「了解」
「おう」
俺達はトレーラーに乗り込み、ホーンボア討伐に出発した。


「おう、兄ちゃん達、そろそろ昼飯にしようぜ!!」
ドルフさんから通信が入る。
「了解」
道路(轍があるだけだが…)をそれてトレーラーを止める。
「ローラさん昼食にします。…そういえばローラさんの昼食はどうするんです?」
「大丈夫です。自分の分は持ってきてますので心配は無用です」
「そうですか…。ルーリ!昼飯にするぞ!!」
「分かった兄さん。何食べる?」
「そーだなー。とり飯とポテトサラダと卵スープ」
「了解」
ルーリがトレーラーに備え付けたキッチンの下からゴソゴソとレトルトのパックを取り出す。
もちろんこの食べ物もロボットロマン2の力で出したものだ。
レトルトパックを水を入れたなべに入れて暖める。
「…なにやってるんです?」
ローラさんが堪らず聞いてくる。
「食事の準備ですが?いつも食べてるんで飽きちゃってるんですけどね。これ」
ルーリがこともなげに答える。
「おーい兄ちゃん達何してんだ?とっとと出てこーい」
ドルフさんが呼んでいる。一緒に食べるつもりのようだ。
「ちょっと待ってくださーい。今準備してるんで!ルーリできた?」
「出来た」
ルーリは湯気をもうもうと出している鍋を掴み外にでる。
俺は、人数分の皿を持って外にでる。
「おせぇじゃねぇか、飯が冷めちまう」
「何言ってんだよ。サンドイッチしかないじゃない」
「お前のうまい飯を早く食べさせてやろうっていう気遣いじゃねぇか」
この夫婦意外とバカップルか?昼飯を食べる前にご馳走様です。
見ると、すでにテーブルが用意され、サンドイッチが入っていると思われるバスケットが置かれていた。
「遅れてスイマセン」
「あらあら、大丈夫よこの人がせっかちなだけだから」
奥さんは笑って許してくれた。
「それより兄ちゃんその鍋は何だ?昼飯にしては量が多すぎないか?」
「ああこれは……」
鍋からパックを取り出し、口を切って中のとり飯をだす。
「こういう保存食品です」
「変わった飯だな。ちょっと食わせてくれよ」
「その代わりに、サンドイッチを分けてください」
「おうよ、ってかお前らのぶんもあるからな」

その後は和やかに昼食を取った。レトルトの食品は大好評だった。
久々の新鮮な食事に満足げなルーリとレトルトのパックを見つめているローラさんが印象的だった。
ただやっぱりカーラちゃんには避けられているようだ。犬耳……。

その後も順調に進み、今日の野営地に着いた。ここは、ホーンボアが出没する地域の一歩手前って所だ。
明日は、ここで機兵に乗りホーンボアの討伐に行く。ルーリを置いていくのは心配だがトレーラーには
大量の重火器を置いてあるから心配は無いだろう。ちなみにローラさんはバイクで機兵に着いてくる。
ドルフさんが自分の機兵をトレーラーから降ろし各部の点検を行っている。

「ドルフさん、これ何て言う機兵なんです?」
キラキラした目で機兵を見上げながらドルフさんに聞く。
「あん?おめぇカルノフを知らねぇのか?」
「ええ、ずっと爺さんのとこでカラードをいじってたんで他の機兵の事あんまり知らないんですよ」
「そうか…。じゃあ教えてやる。こいつはカルノフって機兵だ。特徴が無いのが特徴だな。
 一世代前の機兵だが、性能自体は今主流になっている機兵よりほぼ全てにおいて劣っているが操作性が良く扱いやすい。
 生産台数も多かったからパーツも安い。ベストセラー機だな。
 改造機もたくさん作られて今じゃ外見からじゃカルノフだってわからん機兵もある」
特徴が無いのが特徴…それってなんてG○(ry
それはおいといて、なんとロマン溢れる機兵だカルノフッ!俺は、試作機とか特化機とかも好きだが一番好きなのは量産型の改造機だ!
これから出会う機兵が楽しみになる。

ドルフさんの乗っている機兵を良く見ると装甲に傷が多いが丁寧に乗っているのか歴戦の勇士といった様相と呈している。
…ドルフさんの機体だから狼ヘッドだと思ったのに…改造したいなぁ。

翌日、軽く朝食を済ませてホーンボアの討伐に向かう。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい、兄さん」
「ああ、警報装置や重火器あっても油断しちゃダメだよ。機兵が来たら思う存分ぶちかますと良い」
「兄さん心配しすぎ」
ルーリが苦笑する。


愛機"グランゾルデ改"(長いので省略)に乗り込みクリシアさんに声を掛ける。
「クリシアさんよろしく」
『了解よ♪』
この7年間でなれた、体が二つある感覚が来る。ゆっくりとグランゾルデ改を立たせトレーラーから降りる。
愛用の刀を装備しグランさんのとこまで行く。
「変わった機兵に乗ってんだな?」
「ええ、カラードの改造機です。ベースは古いですけど現行機に負けないくらい強いですよ」
まぁ現行機で勝てる機体なんて無いけどな……。
「ついでに武器まで変わっていやがる。」
「ああ、俺の故郷で作られている武器を模してんだ。ガキの頃からの憧れでね」
俺の機兵の武器は日本刀だ。ロボットだろうとファンタジーだろうと日本刀に憧れないのは日本人にあらず。
刀の扱い方は、オブジェクト購入にあった"熱血昭和主人公部屋セット"の中に格闘系の本がたくさんあったので
それを読みながらがんばった。ルーリのトンファーも本から学んだ。まぁあそこまで強くなるのは異常だと思うが……。
「へぇー、んじゃあお前さんの戦い方、楽しみにさせてもらうぜ」
「ご期待に沿えるようにがんばるよ」
ホーンボアの討伐自体は、簡単に終わった。目撃者の情報どおり荒野をウロウロしていた。
俺たちを見つけると、猛スピードで突進してきたので、ドルフさんとローラさんに下がってもらい刀を抜く。
左足を前に出し、刀を右腰に引っさげる様に構える。脇構という構え方だ。
ホーンボアが刀の間合いに入る瞬間、左前方へ跳び、同時に刀を切り上げる。
鋭い音と共にホーンボアの首に赤い線が走る。そしてゆっくりと首がずれていった。
首を落とされたホーンボアが血を撒き散らしながらもんどりうって倒れる。
そして空を舞っていたホーンボアの首が角を下にして地面に突き刺ささった。
「ふー。ミッションコンプリート」
刀を振って血を払い、鞘に収める。

「すげーじゃねぇかゴウ!ホーンボアを一太刀で仕留めやがって!!」
ドルフさんのカルノフに背中を強かに叩かれる。きっと俺の背中にはきれいなもみじが出来ていることだろう。
「おめでとう御座います。ゴウ様。ギルドに帰り次第すぐにカードを発行いたします」

≪初依頼達成:+500P≫
おっ、ロマンも達成したようだ。まぁポイントは低いが久々の達成だ。

そんな事を思っていたら俺の耳けたたましい警報の音が聞こえてきた。
なんだ、何があった?
すぐさま、レーダーに目を走らせる。そこには東の方角に大量の魔獣の反応があることを表示していた。

第14話 緊急強制依頼

 「ローラさん、ドルフさん急いで戻ります!」
『急いで戻りましょう』
「いっ一体どうしたんだよゴウ?」
「どうかなさいましたか?」
「説明は後回しだ! ここに居たらヤバイ!」
いきなりの剣幕に戸惑う二人を蹴飛ばすように声をかけ。急いで討伐したホーンボアの角を頭から切り落とす。
「おいおい、せっかくのホーンボアの肉はどうすんだよ」
「ここに置いて行きます。多少の足止めにはなるだろう」
「…つまり危険な魔獣が近づいてくると……?」
さすがローラさん察しがいい。
「そうです。現状の装備では対処は不可能です」
「分かりました。討伐も達成しましたし。撤退しましょう」
「おっおう」
ホーンボアの角を担いで走ってトレーラーに戻る。機兵を走らせて戻ってきた俺たちをアリカさんがビックリして見ている。
グランゾルデ改を自分のトレーラーの脇に止め、トレーラーに駆け込む。
「ルーリ!今すぐ人工衛星とリンクしろ!東方面を走査してくれ!!」
こんなこともあろうかと、修行していた時にロボットロマン2の力で人工衛星を打ち上げておいたのだ。
何事かと言った顔のルーリがすぐに顔を引き締めキャビンに向かう。
「おいおい、ゴウ。そろそろ説明してくれ。一体何が起きたんだ」
「私からも説明をお願いします」
トレーラーを覗き込んでいるドルフさんとローラさん。
「分かりました。説明しますから全員キャビンに入ってください」
ちょっと狭いが我慢してもらおう。
このトレーラーは前にも話したように改造してある。数ある改造点の中でも目玉の一つが運転席の後ろに作った居住スペースだ。
キッチントイレはもちろん小さいがリビング兼作戦司令室がある。現在そこに皆集まってもらっている。
「兄さん準備できた」
「わかった。これを見てくれ」
 手に持った端末を操作し、壁の一部をモニターにする。
「なっこっこれはなんですか?」
ローラさん達が驚いている。
「魔法だ。気にするな」
「魔法のわけっ…。失礼しました続けてください」
モニターには、俺達のトレーラーを人工衛星から撮影したものが映っている。
「現在位置より東から、大量の魔獣の反応がありました」
映っている映像を東方面にずらして行くと大量の巨大なアリがゆっくりと西へ行軍しているのが映った。
「これは、クライングアントの群れですね……」
クライングアントは、ホーンボアと同じ小型の魔獣だが、常に群れを作って行動しているので非常に厄介な相手なのだ。
「そのようです、現在の場所にとどまった場合、夕暮れを待たず接触するでしょう」
「そうなったら、食われるしかねぇじゃねえか!!」
「仮にトレーラーで西に逃げてもすぐに追いつかれるでしょう」
ローラさんは冷静だな。この世界のトレーラーは魔晶石を動力源にしているのでエコではあるが、24時間動き続ける事は出来ない。
どうしても魔力をチャージする時間が必要なのだ。このままではチャージ中に襲われる事は確実だ。
「…緊急強制依頼を発動します。…依頼内容はクライングアントの足止めです」
緊急強制依頼それは、ギルドに所属している機兵乗りが絶対に拒否できない依頼だ。これを拒否するとギルドから除名される。
ただし、報酬は格別、負傷して生き残った場合以後の生活の保障などいろいろ特典もある非常に悩ましい依頼である。
「なっ!俺達に死ねって言うのかローラ!!」
「…このままでは、私達は犬死です。ならば誰かがこの危機を街に伝えなければなりません」
クライングアントは西に向かっている。
それはつまりカルガの街に向かっているという事、このまま無警戒に襲撃を受けた場合、街の被害は甚大になる。
それを防ぎたいのだろう。まったく冷静な人だな…ローラさんは……。
「…なら、その伝える役目はアリカとカーラで頼む」
「あんたっ!何言ってんだい!!」
「…ダメです。ギルド職員である私が行かないと緊急強制依頼とクライングアントの襲撃の報告を信用されません」
「しかしっ!」
「連れて行けるのは一人までです」
その一言でドルフさんが殺気をこめた視線で俺を睨んで来た。
「ゴウ、悪いが街に行くのはカーラにしてもらうぞ!」
「あんたっ!」
…いいなぁこの家族…。俺達の親とは大違いだ。ルーリもそう思ったのか俺の服のすそを掴んでいる。
「…それはいいが、ローラさん一つ質問がある」
「…なんでしょう?」
「別に全滅させても構わんのだろう?」
言ってみたかった台詞だ。…死亡フラグって言うな。ローラさんもぽかんとしている。
「はっ?…それは構いませんが……」
「じゃあ、ちゃっちゃと全滅させましょうか…害虫を…。ドルフさん手伝ってもらいますよ」
俺の答えが意外だったのだろう。ドルフさんも拍子抜けの顔をしている。
「おっおう」
「ルーリ、換装の準備だ。"ブーツ"と"ブルソー"追加弾倉マシマシで…、
 あとドルフさん用に…そうだな…"ウルフ・バイト"を頼む」
「いいの?」
「かまわん。初仕事って事で大盤振る舞いしよう」
「わかった」
そこで、事の成り行きをぼけっと見ているドルフさん達に気づく。
「ローラさんドルフさん何ボケっとしてるんです?とっとと準備してください」
「わ、わかった」
「…分かりました」
トレーラーから出てグランゾルデ改に乗り込む。
『厄介な事になりましたね』
「まぁね、でも力を示すいいチャンスと思おう。黒髪はバカにされるからな。
 ここで一発ドカンとかまして相手を怯ませないとね」
『ドカンとやって余計厄介な事にならなければいいですけれど……』
「そうなった場合の対応も考えてあるから…。まぁ何とかなるよ、というかするよ」
グランゾルデ改を操作してトレーラーの上に立たせる。
「ルーリ、こっちは準備オッケーだ」
「了解、換装開始」

トレーラーから無数のマジックハンドが出てくる。

あるものはグランゾルデ改を持ち上げ。
またあるものは、脚部の装甲を外している。
またあるものは、脚部の装甲を付けている。
次々に手が出てきてどんどん脚部を作り変えていく……。
瞬く間に足を角ばったブーツを履いたような形にする。

再びトレーラーに置かれたグランゾルデ改の背中に巨大な箱が付けられる。
最後に巨大な機関銃"ブルソー"が手渡され換装は終了した。
無数にあった手は再び収納され換装が行われる前と寸分の違いも無かった。
ただ違ったのは立っている機兵だけだ。
…失敗した…先に"ウルフ・バイト"の準備しとけばよかった……。この装備重いし……。

渡してもらった"ブルソー"を地面に置き、トレーラーの床下コンテナを開く。
目当てのガトリング式重機関銃"ウルフ・バイト"および弾薬を取り出す。ついでに三脚を取り出す。
そして、俺のトレーラーの上に据え付けた。ふぅ重かった。

「ゴウ、…お前さん何者だい?」
ドルフさんから通信が来た。準備の様子を見ていたんだろう。
「う~ん、まだ秘密かな。まぁ弱きを助けず強きを挫く!ダークヒーロー!!といった所かな」
「ハハッ。本当におかしなやつだ。」
「それよりドルフさん、こっち来てくれ。"ウルフ・バイト"の使い方を説明する。」
「ドルフでいい。分かったすぐ行く」
「分かったドルフ」

"ウルフ・バイト"の使い方講習が終わった頃、ローラさんの出発の準備が整った。
正確には、カーラちゃんの説得だけどね……。
「ゴウ様、よろしくお願いします」
「おっけー心配しないで必ず生きて帰るから」
「ひっく、うぐ、ひっく」
カーラちゃんは、バイクに乗っているローラさんの背中にしがみついて泣いていた。
「大丈夫カーラちゃん、絶対ドルフ達と生き残って見せるから……」
「じぇったい(絶対)?」
「おう」
カーラちゃんの頭をなでる。ああやっと犬耳にさわれた……。
「カーラちゃん。戻ったらちゃんとお話しようね」
ルーリのほうもカーラちゃんに親近感を持っていたようだ。
「じゃあ、行きます。御武運を…」

ファァァァと魔晶石を動力源としている乗り物特有の音を出しながらローラさん達は出発した。

「さて、こっちも、死ぬ気で働きましょうかね」
「そうだね」

作戦はいたって単純、わらわらとくるクライングアントを引き撃ちするだけの簡単なお仕事です。
引き撃ちと言うのはアクション系のロボットゲームで戦法の一つで、呼んで字のごとく後退しながら撃つただそれだけ。
「来たか…」
彼方の方から、クライングアントの上げる土煙が見えてきた。
そして俺達の耳に大軍勢の足音が届く。
「ドルフ…ちょっと先制攻撃しかけてくる」
「了解、こっちの事は任せてくれ」
"ブーツ"のふくらはぎのあたりから、ホイールとブースターを展開し滑るように前進した。
"ブーツ"は某最低野郎の"ジェットローラーダッシュ機構"を参考に開発した高機動用装備だ。
簡単に言えば動力付きローラースケートといった所か……。
一応ターンピックは付いているが使った事はない。アレつかったら絶対死ぬって。

徐々にスピードを上げながら"ブルソー"に背中から伸ばした弾帯をセットする。
だんだんと間近になってくる巨大なアリ。地球○衛軍よりキメェーーーーーーー。
産毛が、産毛がぁあああああああああああ。

「気持ち悪いぞ!!チクショー!!」
 半分やけになりつつ、銃口を向け引き金を引く。
 牛の鳴き声のような音を出しながら弾丸が跳ぶ。

「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 銃弾の雨に晒されたクライングアントの叫びが荒野にこだまする。
「はっはぁ!良いクライングアントは死んだクライングアントだけだ!」
『ゴウちゃん、下品ですよ』
クリシアさんのお小言を右から左に受け流しつつ引き金を引き続ける。
銃弾と空薬きょうを撒き散らしつつ、次々とクライングアントを引き裂いていく。
体液を撒き散らしながらもんどりうって崩れ落ちるクライングアントたち。
俺はクライングアントの群れの前を右に左にと移動しつつ、足止め兼蹂躙を続ける。

ピーピーと操縦席に警報が鳴る。
ん? ああ銃身が熱くなりすぎたか……。
機関銃は大量の弾丸を吐き出させる事が出来るが銃身が熱を持つと射撃の精度が落ちる。
そのまま撃ち続ける事も出来るが、そんな事をしたら壊れてしまう。
「ドルフ、一旦戻る」
「おう、分かった」
ドルフに通信を入れ、一旦トレーラーまで戻る。
トレーラーは、クライングアントとほぼ同じ速度で走っており、常に距離を一定に保っている。
俺はトレーラーの横を併走する。
「お前さんの持つ武器はホントすげぇな」
「ドルフの持っているその武器をこいつに負けないくらいすごいよ」
ドルフの機兵は俺のトレーラーの上で"ウルフ・バイト"を構えつつ座っている。
「そうかい、じゃあ俺もイッチョやりますか!!」
そういうと銃身の回転スイッチを押した。

"ウルフ・バイト"の銃身がモーターの動作音と共に回転を始める。
「くらえ」
ドルフが引き金を引く。だが、10発も撃たないうちに射撃が止まった。
「うおっ!」
ウルフ・バイトの発砲音に驚いて引き金を離してしまったようだ。
「どうした?」
「大丈夫だ。問題ない!今度こそ!!」

 "ウルフ・バイト"も大量の弾丸を吐き出し、クライングアントを蹂躙していく。
「フフ、フハ、フハハ、喰らえ魔獣ども!ワハハハハハハハっ!!」
 ドルフが笑い出す、大量の魔獣を殲滅しているのでアドレナリンが出まくりなのだろう。
 今のうちに銃身の交換をしておこう。
「アオーーーン!!」
 ドルフ、興奮しすぎて野生に戻ってるよ…。
「あらあら、うちの旦那がごめんなさいね」
「いえ、ああなるのも分かります」

 さて、銃身の交換も終わったし、もいっちょ行きますか。
「ドルフ、撃つのを止めてくれ。銃身の交換が終わった。そっちも弾薬の補給をしておいてくれ」
「アオーッん?そうか、分かった」

再び敵の前に躍り出る。ブルソーを乱射しながらクライングアントの前に躍り出る。
こいつらがゲームと違い遠距離攻撃をしてこないのは助かった。バカ正直に突撃してくるだけだしな。
先ほどと同じように、移動しつつ攻撃する。えっ?引き撃ちウゼェ?シングルトリガーだ。許せ。

おっと、またか……。再び銃身が熱を持ち警報が鳴る。
「ドルフ頼む!」
「待ってたぜ!!」
ドルフに交代を頼み、下がる。
そんな事を繰り返していたら、いつの間にか本当に殲滅していた。

第15話 宴会

 「…全滅…出来ちゃいましたね…」
「…ああ…出来たな…」

≪一機当千:+5000P≫
お、ポイントゲット。

「兄さんお疲れ様」
「あんたもご苦労様」
目の前の荒野には、見渡す限りクライングアントの死体が転がっていた。
「ローラさんには、半ば冗談で言ったんだけどな……」
「ガハハ、気にすんなゴウ。依頼の足止めはちゃんと出来ている」
もう二度と歩かないけどな。
「とりあえず、取れるだけ素材を剥ぎ取ろうぜ!これで大もうけできる!!」
「多分、クライングアントの素材が値下がりするから無理じゃない?」
「一番に売りに行けば高く買ってくれるさ!!」
それもそうか。
「ドルフ…。素材の剥ぎ方教えてくれ」
「おめぇさん知らなかったんかい」

クライングアント討伐の機兵乗り達が来たのはそれから三日後だった。
ズンズンと歩いてくる機兵が見える。
「おーおー。やっときやがったか……」
「なんか来るのに結構時間が掛かりましたね……」
「あーそれな。多分俺たちがずっと足止めできるなんて考えてなかったんだろうな……。
 だから街で防備を固めていたけど一向にクライングアントが来ない。
 仕方が無いから偵察しようって事じゃないか?」
「なるほど」
まったく、救出部隊も出さなかったのか…合理的なこって……。

「そういえばローラさんってお偉いさんなんですか?緊急強制依頼ってギルド幹部しか出せなかったと思うんですが……」
「何言ってんだ。あいつ副ギルドマスターの一人だぞ?」
「ええーーーーーーーーーーーー」

おっ近づいてくる魔導バイクの音がする。ローラさんだ。
「おうローラ。任務達成したぞ!」
「いえーい」
ドルフと肩を組んでローラさんに手を振る。

「ドルフ様、ゴウ様これは一体……」
一面に広がるクライングアントの死体を見て絶句している。
「ガハハ、任務達成したから報酬も弾んでくれよ」
「…任務達成を確認しました。ご苦労様でした」
「それで、カーラは大丈夫か?」
「カーラ様は現在ギルドにて保護させてもらっています」
「じゃあ早く戻って安心させてやらないとな…。街に帰っていいか?」
「それはかまいませんが…この状況を説明してもらいたいんですが……」
「依頼は、達成した。これ以上の報告は無いと思うが?」
「…それはそうですが……」
「ああ、後このクライングアントの死骸ですけど放棄するんで素材剥ぎたい人が居たらどうぞ」
「それは助かります。すぐに手配します」
ローラさんが後続の機兵達に状況の説明とクライングアントの剥ぎ取り自由を伝えると機兵達はわれ先にと死骸に群がっていった。
「じゃあ俺達は帰ります。…ギルドカードは出来ていますか?」
「それは出来ています。私も一緒に戻り手続きをしましょう」
「了解」
そして俺達は、カルガの街に帰還した。

夕方、街に着いて一番に機兵ギルドに向かう。まずは、カーラちゃんに無事を知らせないとね。
「とーちゃん、かーちゃん!!」
「「カーラ!」」
ギルドに入った瞬間カーラちゃんがドルフさん達に突撃して行った。
カーラちゃんは、二人に抱きつくと大声で泣き出した。
「うわぁーん」
やっぱこの家族いいなぁ…。俺はなんとなくルーリの頭をなでる。ルーリも嫌がる様子は無い。

「じゃあローラさん。報酬とギルドカードの方よろしくお願いします」
「分かりました。少々お待ちください」
ギルドに入会申請を出した時と同じベンチに座って待つ事にする。
クライングアントの死骸をあさりに皆出てしまっている為、ガランとしている。
それでも人が居るのは、依頼を完了した人たちだろう。何事かと受付に聞いている。

「お待たせしました。これがゴウ様のギルドカードと報酬になります」
ローラさんが金属で出来たカードと金貨の詰まった袋を持ってきた。
カードには俺の名前を初め、いろいろな情報と大きく"C"と書かれていた。
「いきなりCランクか……」
「ゴウ様の働きならAランクからでもかまわないのですが他に示しが付きませんので……」
「そういえば質問なんだけど、一度ギルドカードって発行されると悪い事をしない限り
 絶対に取り上げられたりしないんだよね?たとえば戦闘で喋れなくなっても……」
「そのとおりです」
「じゃあこれはもう要らないな…」
ずっと深く被っていたフードを外す。

周りから驚愕の視線が集まってくる。
「おいゴウ!お前黒髪だったのか!!」
今度は、ルーリもフードを取った。
「おねぇちゃんもっ!」
ドルフさん親子ナイス突っ込み!!
「いやー、最初から黒髪だと分かっていたらギルドに入会する事も出来そうになかったんで、
 隠させていただきました」
ちなみに、"鷹の目"は眼帯で隠しています。鈍色の目ってさすがに引かれそうだし…。
眼帯には、三つのレンズが付いていて暗視、サーマル、通常と三種類の機能を持たせた。
もちろんレンズは、眼帯につけた三角の形に配置したレールの上をカシャコンと移動する様にしましたよ。
まぁ彼は左目にしてましたけどね……。
ローラさんは驚きのあまり固まってしまっている。
「ああ、後ローラさん」
「なっ何でしょう?」
しどろもどろになりながらも答えてくれる。
「うちの紹介してなかったメンバーを紹介します。クリシアさんです」
「クリシアさん?」
『こんにちは~』
クリシアさんがふわっと姿を現す。

再びギルドに激震が走る。
精霊なんて御伽噺にしか出てこない存在だ。それが目の前にいるんだ驚きは想像を絶する。
「なっなっなっ!精霊?」
あっはっはクールが売り物のローラさんが混乱している。
「じゃあ俺達は、トレーラーに帰りますか…。あっドルフ今夜生還パーティーやるからこないか?」
実はこの台詞…言うのにめっちゃドキドキしました。
だって黒髪って分かったから変な目で見られるかも知れないからね。
「おう、とっときの酒持ってくから楽しみしてなっ!」
「あらやだ、お料理準備しなくちゃ。楽しみにしててね」
「わぁい。パーティーだー」
ねぇ…俺泣いていい?
「よかったね。兄さん」
ルーリも嬉しそうだ。クリシアさんもニコニコしている。


…だが…だ。俺たちがいい気分でトレーラーに戻る途中で奴らが来た。
「おう無能ども、有り金全部置いてきな!!」
「そっちの子も置いてってもらおうか。へへっ。なぁに悪いようにはしねぇよ」
「ひゃひゃひゃひゃ。お前にも、これ見えてんだろう?」
…ナイフ持ち10人か…
空気読めよ。こっちがいい気分でパーティーの準備をしようとしているのに…。
周りの連中も見てみぬフリだ。騎士団の奴まで居やがる。中にはニヤニヤした奴までいる。
こんなに不快な思いをするのは久しぶりだ。ああ、しかもルーリを置いていけだと…。
ちなみ、成長したルーリはとても可愛い。黒髪をセミロングまで伸ばし、凛とした雰囲気を持っている。
基本無表情なのでたまに微笑んだ時の破壊力は抜群だ。
さてそんな俺の妹を手篭めにしようとする奴は、死刑すら生ぬるい。
即効でグ○ックを抜いて目の前にいる5人の片膝をぶち抜く。

「「「「「ぎゃあーーーーーーーーーー」」」」」
問答無用とはこいうことだ。
後ろの五人は…悲惨なことになっていた。
詳しい描写は省くが、潰れていたとだけは言っておこう。
…なんか一人恍惚とした表情をしてるんだけど…まぁいい。
痛がっているリーダーっぽい奴の頭を掴み上を向かせる。
「おいアホども。俺らに手を出すと痛い目見るってわかったろ?」
「ふっふざけんじゃねぇ。ぜってーゆるさねぇからな!」
おーおーほえてくれんじゃねぇか。
「じゃあ、二度とこないようにしないとな…」
俺は、チンピラの顎を左手で掴み徐々に力を込めていく。

顎がメリメリと音を立てながら少しずつ歪んでいく。

「ひゃめ、ひゃめてくだはい」
「おいおい、また来るんだろう?だから俺は次来ても楽に相手できるように喋れないようにするんだよ」
「ひまへん、ひほほひまへんから」
「そうか、ならお前達に一つ仕事をくれてやる」
「ひっひごほ?」
「ああ、こんな風に絡まれるのも面倒なんでな。このあたりのチンピラどもに言っとけ。
 生きている事を後悔したくなければ関わるなと……」
わざわざ眼帯をズラして"鷹の目"を赤く発光させて脅す。
「ひっ!わっわはりまひた」
「じゃあ、よろしく。ああ、もし絡んできたチンピラがそのこと知らなかったら、お前さんも同罪ね」

そして、手を離す。
「ひゃああああああああああああああああああ」
チンピラリーダーは逃げていった。おいおい仲間を置いて行くなよ。まったく……。
「ルーリ行くぞ」
「わかった」
俺も気にせずトレーラーに帰りました。パーティーの準備で忙しいってのに……。

パーティーといっても、戦闘糧食が基本だ。まぁこっちにも取って置きの酒、日本酒を用意してあるからいいかな。
あと、キャビンの飾りつけもしなければならないな……。

「クライングアント足止め作戦成功を祝ってー」
『「「「「「カンパーイ」」」」」』
グラスを打ち付けあう。
グラスの立てる澄んだ音がパーティーの始まりの合図になった。俺達は飾り付けられたキャビンに居る。
ちょっと狭いがここ以上に安全にパーティーを行う事が出来る場所が無いので仕方が無い。
俺とドルフさんはお互いが持って来た酒を交換して飲んでいる。
「っかー!ほのかに甘い変わった酒だな!!うまい!」
「ドルフの持ってきた酒も旨いな」
ドルフの持ってきた酒は、ウィスキーのような蒸留酒だった。かーっと顔が熱くなる。
『改めて自己紹介させていただきます。精霊のクリシアと申します』
「あらあら、ご丁寧に私は、ドルフの妻アリカ・サマスと申します。これはうちの娘でカーラと言います」
『よろしくね。カーラちゃん』
カーラちゃんは恥ずかしいのかアリカさんの後ろに隠れてしまった。
「…よろしく……」
それでも上目使いで…。チクショウ傍から見てもかわいいなぁもう。
「カーラちゃんこれ食べる?」
「うん」
ルーリもカーラちゃんと話せて嬉しそうだ。

『ねぇゴウちゃん今日は宴なんでしょ…。私も魔力が欲しいの……』
俺とルーリの空気が凍る。
「えーっと魔力は、森を出る前に飲みましたよね……」
『だってー。皆お酒飲んで気持ちよくなってるじゃない。私だけのけ者なんて嫌じゃない』
俺の額から冷や汗がだらだらと流れる。俺とクリシアさんは契約している。
その条項の一つに魔力を譲渡する事がある。しかし俺は、黒髪なので譲渡する事が出来ない。
ならばどうするか…。色々試した結果クリシアさんが俺から吸いだすという事になったのだが…。
『もうつべこべうるさいわね。いただきまーす』
「ちょまっ!あう」
クリシアさんが俺の後ろに回り首筋に噛み付き魔力を吸いだす。
『うーん。やっぱりゴウちゃんのまりょくはおいしぃのー。アハハハハ』
そう酔うのだ。精霊が…。普通の契約なら酔う事が無いのだがどういうわけが俺の魔力を吸うと酔っ払うのだ。
しかもおいしいらしい。
『ねぇねぇゴウちゃん、最近わたしにぃはなしかけないじゃな~い。おねいちゃんさびしいな~。かぷ』
ついでにクリシアさんは酔うとからみ酒になり。俺の魔力が無くなる限界まで吸い尽くす。
「それは街に来たからで仕方ないじゃないですか…」
『それでもぉおとめなぁーわたしはーさびしぃーのー。うふふふふふふふふふふふ』
今日の標的は俺に決まったようだ。ここからが長いんだここからが……。


宴も夜遅くになり終わりに近づいてきた。カーラちゃんとクリシアさんは眠ってしまった。
「俺、ドルフに謝んなきゃならない事があるんだ……」
「?どうゆうことだ?」
「これからさ…。多分いろいろ面倒な事になる。それが申し訳なくてな……」
「気にすんなよ。面倒ごとの覚悟なんぞアリカと結婚する前にとっくに済ませてらぁ」
「でもな……」
「何言ってんだ。お前はもう俺達の命の恩人なんだよ。あのすげぇ武器が
 なかったらこうやって娘にも会えなかったしな。ガハハッ」
「…羨ましいな……」
「何がだ?」
「カーラちゃんがさ、俺とルーリの両親はろくでもない親だったからな……。
 分かるだろ?俺とルーリは本当の兄妹じゃない。二人とも捨てられたのさロウーナン大森海に……」
「バカなっ!あそこは!!」
「そう魔獣の巣窟だ。おかげさまでこの通り右目と左腕をもっていかれたよ。まぁ命があるだけ上等だ」
ほら、と左腕を見せる。
「お前さんの力はロウーナン大森海で見つけたのか?」
「違うよ。これは別……。詳細はヒ・ミ・ツ」
「きめぇよ」
「まぁそれでだ。カーラちゃんはハーフで差別を受けているのは分かる。
 けど両親からはちゃんと愛されている。それが羨ましいんだ」
「…」
「けどね。同時に救いもあるんだ……。世の中碌でもない親ばかりじゃないんだってな。
 だからカーラちゃんには幸せになって欲しい。なんか困った事があったら相談してくれ」
「バカヤロウ。だったらお前らも幸せになれよ。じゃないとカーラも悲しむだろうが……」
まったく、世の中こんな親ばかりだったら良かったのに…。

第16話 厄介事

 結局あの後飲みすぎて全員キャビンのリビングで寝てしまった。
「ふぁー」
大きなあくびをして起きる。俺はトイレの前で倒れていた…何故?
太陽は既に真上まで来ていた。…少々寝すぎたな……。

そんな時、トレーラーの警報が鳴った。何だ?
すぐに運転席に向かい、警報の理由を調べる。どうやらこの街の騎士団がトレーラーを包囲しているようだ。
ドンドンドン!ドンドンドン!と騎士がトレーラーの扉を叩く音がうるさい。
「おい!開けろっ!ここに居るのは分かってるんだぞ!!」
早速面倒な事になった…。
あーうるせぇな。こちとら起きたばっかなんだ。
「あーはいはい。勧誘お断りですよっと」
面倒でもここで出て行かないと後でもっと面倒なことになる。ソレはごめんだ。
俺はトレーラの扉を開けた。
目の前には、きらきらと輝く鎧を着た厳つい男が立っていた。
「私は、カルガ騎士団所属モーガ隊隊長コール・ユングである! 貴様がゴウ・ロングなるものか!」
うるせーな。聞こえているよ。
「そうですが何か?」
「貴様に昨日の乱闘騒ぎの嫌疑が掛かっている。おとなしく出頭しろ!!」
「えー。あれは、あいつらが恐喝してきたんですよー正当防衛ですよー」
「言い訳は、詰め所の方で聞く!!」
「ちょっと待って下さいよ。起きたばっかで何の準備も出来てないんだ」
「フン、悠長なものだな!」
「クライングアントを全滅させて帰って来たんだしょうがないだろ」
「嘘をつく時はもっと分かりにくい嘘をつくんだな!!」
何だこいつ?そんな事も知らないのか?
「あーはいはい」
 適当に受け流しキャビンに戻る。するとドルフさんとアリカさんが起きていた。
「ゴウどうした?」
「ああ、昨日撃退したチンピラの件で話が聞きたいんだと…まぁ十中八九嘘だろうがな……」
「早速面倒な事になったな」
「まぁね。申し訳ないけど、俺が戻ってくるまでここに居てくれる?ルーリ一人だとちょっと心配だし……」
まぁどっちかってーと心配なのはドルフさん達なんだけどね…。
「わかった」
「兄さん……」
「ゴウおにぃちゃん」
「おう、起きたか…。ちょっくら騎士団詰め所まで行ってくる。
 ドルフさん達には、ここで待ってもらう事になったから食事とかよろしくね」
「わかった。兄さんも気おつけて……」
「大丈夫だって。クリシアさん出てきて付いてきてもらえますか?」
『ふぁーい。分かりました』
寝ぼけているなクリシアさん……。装備を整えてトレーラーを出る。
「お待たせしましたっと」
「遅いっ。何時まで待たせるんだ!!」
「おいおい、モテ無い男みたいなこと言うなよ……」
「うるさいっ!」
図星だったのか顔を真っ赤にしている。まぁ俺もモテなかったけどね…。
後ろからクリシアさんが顔を出す。
「これは精霊様ご機嫌麗しゅう」
うわぉ俺と態度180度違うじゃん。
『あらあら、ご丁寧に……。おはよう御座います』
クリシアさん今昼ですよ……。
「じゃあ行ってくる。ルーリ騎士団が来てもむやみにドアを開けるんじゃないぞ」
「なっ我々を信用していないのか!!」
「信用してるわけ無いじゃないですか。俺達黒髪ですよ?」
「ぐっ」
「さっさと行きますよ。時間がもったいない…」
「お前が言うか!!」
騎士団が俺の周囲を囲む。これじゃ俺犯罪者じゃん。

騎士団について行くがどうもおかしい。聞いていた詰め所方面じゃない。
「おい、隊長さん詰め所の方角じゃねぇだろ?どこ行こうってんだ?」
「うるさい。黙って着いていくれば分かるっ」
『あの~どちらに向かわれているのでしょうか?私も知りたいです』
「失礼しました。今回の案件は、精霊様も関われている事なので我々の裁量を超えていると領主様方が判断され、
 議事堂の方でお話を聞くそうです」
俺の聞いたときとは打って変わった受け答えだ。予想はしていたが、こうもあからさまだと怒りも沸いてこんな。

そして俺は、議事堂にある議場の前まで来た。
「議場には、武器の持ち込みは禁止だ。ここで預からせてもらう」
「どうせそんなこったろうと思ったよ……」
腰のベルトからホルスターを外し、隊長さんに渡す。
「ああ、下手に触んなよ。死んでも知らんからな」
受け取る瞬間、隊長さんがびくっととした。まぁ俺とルーリしか使えないように改造してるけどな。
隊長さんは銃を受け取ると近くにいる騎士に渡し、両開きのドアを開けた。

「暴行事件の容疑者ゴウ・ロングと精霊クリシア様を連れてまいった!」
おいおい事情も聞かないでいきなり容疑者扱いかよ……。じゃあ仕方ないプランどおりに行こう。
俺は、議会の中心にある証言席?にクリシアさんと一緒に立つ。
これは完璧に見世物だな。周りの連中ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべてやがる。
「何か勘違いしているようだから言っとくが、昨日のは、カツアゲと妹の誘拐をしようとした奴らを撃退しただけだ!」
まぁこんなこといっても無視されるんだろうけどね。
「そうかね、だがこちらが集めた証言とは食い違うようだが……。
 こちらの情報だと無辜の民から金品を強奪したのは、おぬしだという事になってるが?」
証言席正面の一番高い席に要る爺が喋る。
「一体どこのバカがどこで仕入れた証言なんだかな……」
「貴様!我が騎士団をバカにしているのか!!」
おーおー二番目に高い席の右側が騎士団団長の席か…ということは左は行政のお偉いさんかな?
「領主様、こやつの証言は信用なりません。我が精鋭騎士団の集めた情報に偽りはありませぬ!
 こやつを死刑するのが妥当かと思われます!!」
「そうだな、わしもそう思う。だがこやつはクライングアントを全滅させた機兵乗りであり、精霊様の契約者でもある。
 本来なら死刑だが、温情で機兵の所有権の剥奪と精霊様との解約で許してやる。ありがたいと思え」
領主だったんかい。
「おお、領主様はなんとおやさしい。黒髪なんぞにも温情をかけてくださるとは!」
『あなた方は、何を言っているのです?彼の言っていることは正しいですよ』
「おお、精霊様まで騙すなんてなんと恐れ多い。資産の没収まで考えなければならんか…。
 ご安心ください精霊様必ずや次の契約者をご用意いたしましょう」
何この茶番?
「ふざけんな。そっちの言い分は全部聞いてこっちの言い分はまるっと無視かよ。
 それでよく正義が名乗れるな、恥ずかしくないのか?」
「ふん、黒髪風情が!そんな事知った事ではないわい。お前は、早く精霊様と解約しろ。
 言えば、騎士団でこき使ってやるぞ。いわねば死刑だ」
こいつら、となりにクリシアさんいるの分かってるのか?もしかして精霊も黒髪を差別してると思ってるのか?
あっクリシアさんもむっとしてる。
『彼は私の大事な契約者。それを侮辱し、あまつさえ脅迫するなんて!!』
「なにを仰っているのです?こやつは黒髪ですぞ。無能な人間に使われて悔しくはないのですか?」
『ふざけないで!精霊の契約を何だと思ってるの!!』
「ダメだよ。クリシアさんこういう人間には、何を言っても無駄だ」
「ふん、言う事を聞かねばお前の妹がどうなっても知らんぞ?」
はいはい、俺に対しての脅迫があまり効いてないから今度は身内を使って脅迫してきましたよ。
「あーあ結局この手を使うことになったか……」
まぁ本番で使う前の実験には丁度いい。
「何を言っている」
「なぁ領主様。今、俺が無事に出る方法はなんだと思う?」
「とっとと精霊様と解約して、全てを差し出す事じゃろうが」
「違うな。俺は思うに、ここにいる全員の弱みを握ればいいじゃないかと思うんだ」
「何をたわけた事を……」
「なぁあんた達魔法使える?」
「ふざけるなっ!使えるに決まっておろう。無能と一緒にするな!おい団長この者に罰を与えよ!」
「はっ!馬鹿な奴だ。【雷よ、この者に 罰を】」
しかし、騎士団長の手からは何も出ない。
「なっ!魔法が出ない!?【雷よ、この者に 罰を】【雷よ、この者に 罰を】【雷よ、この者に 罰を】」
何度も呪文を口にしながら何も出ない手を前に出している姿はとても滑稽だ。
「クカカ!何度やっても無駄だよ。全員手首を見てみな」
周りの連中が手首を見る。
「なんだっこれは!!」
 手首には腕輪のように黒い痣が出ているだろう。
「それはな、クカカ、お前達の魔法を封印した証だよ。下手するともう二度と魔法が使えなくなるぞ」
議会に出ている連中は必死に魔法を使おうと呪文を唱えている。クカカ無駄なのにな。
「馬鹿な!こやつを捕らえよ!!」
俺を取り押さえようとしてくる騎士を叩きのめす。
「ええい、不甲斐無い奴らめ!増援を呼べ!!」
「いいのか?」
「何?」
「今この議事堂に他の奴を入れたら、お前ら全員が魔法が使えなくなったことが知られるぞ?無能諸君」
「あっ」
議会が一斉に静まり返る。顔を見回すと面白いほどに顔を青くし脂汗を流している。
そりゃそうだ。この世界で魔法を使えないものは差別される。
今まで差別する側だった人間がいきなり差別される側になるんだ。これほど面白い事は無い。
「まぁ。また魔法が使える方法はあるがな…」
「なんじゃどうすればいいんじゃ、とっととおしえんかい!!」
「おいおい、教えを請う態度じゃねーなジジィ二度と魔法が使えなくなってもいいのか?
 こういう時は"教えてください。お願いします。ゴウ様"って言って全員が土下座だろうが?なぁ。
 …そもそもくだらない事で呼んだ事も謝って貰おうか。
 じゃあこうだ。"つまらない事で呼んで申し訳ありませんでした。
 どうか無知で無礼な私達にどうやったらまた魔法が使えるか教えてください。
 お願いします。ゴウ様"だ。」
俺は、領主が座っている壇上に登る。
『なかなかあなたも悪人ですね……』
「そんなに褒めなくても……」
『褒めてません』
壇上の上に居たジジィどもを下に降ろしジジィの前にあった机にドッカと腰を下ろす。
「さぁ皆さん土下座の時間ですよ。思う存分土下座っちゃってください」
貴族や豪商の皆さんが渋々証言台の周りに降りていく。
「「「「「つまらない事で呼んで申し訳ありませんでした。
 どうか無知で無礼な私達にどうやったらまた魔法が使えるか教えてください。
 お願いします。ゴウ様」」」」」
おう、大勢が一気に土下座するのは、迫力があるな。
「クカカカカ。よーし、やさしいゴウ様は教えてあげちゃうぞ。お前らに掛けたのは一種の呪いでな」
「のっ呪い!」
「そう呪いだ。まぁ簡単な事だ。俺の言う事聞けばまた魔法が使えるようになる。
 なにそんなに無理な事はいわねぇよ。とりあえず俺達に害になることをしたら二度と魔法は使えないぞ。
 あとそうだなぁ、後は俺達に関わるなって所かな。よかったろう?やさしい俺で…クカカ
 まぁあと2時間もすれば今回の魔法封印は解けるだろう」
「「「「「はいっ。ありがとうございます」」」」」
まぁ実際はあいつらの体に仕込んだナノマシンが魔法の発動を阻害する波動を出してるだけなんだけどね。
これが7年間の修行その他の成果の一つだ。もちろん波動のON/OFFのスイッチは俺が握ってますよ。
えっ何時の間にナノマシンを仕込んだんだって?もちろんこの議会場に入った時からさ。
左腕にナノマシン散布装置を仕込んでましたから。

「じゃあ俺は帰るから。じゃあな。俺の言ったこと肝に銘じて置けよ」
「はいっつまらない事にお呼び立てして申し訳ありませんでした!!」
扉の近くにいた騎士に扉を開けさせ議場を出る。そして、預けた銃を返してもらおうと出た先に居た騎士に話しかける。
「おい、俺の銃を返してくれ」
「何言ってんだ無能。これは俺が貰ってやるんだよ。後で使い方を教えろよ」
…多分コイツは議場で本来どんなやり取りをするか知っていたんだろう。ニヤニヤ笑っていやがる。
「団長!ちょっとこい!!」
「はいっ!ただ今!!!」
騎士団長が必死な顔をして扉から出てくる。
「団長さんさーちょっと騎士の教育なってないんじゃない?いきなり俺の物を貰ってやるとか言ってんだけど……」
「この馬鹿者がぁー!!騎士の癖に人様のものに手を出すとは恥をしれ!」
団長が騎士を殴り飛ばす。殴られた騎士は何が起こったか理解できていないようだ。
「ゴウ様部下が大変失礼をいたしました。こやつは厳罰に処すのでなにとぞっ!」
「ちゃんと罰してくれんなら問題ないよ」
「ありがたき幸せ。おいっ」
扉から隊長さんやらが出てきて殴られた騎士を引っ立てていく。
銃はもちろん返してもらった。これでこの街は多少は住みやすくなったろう。さぁて帰るか……。

第17話 機兵を作ろう

 議事堂から開放されて即効トレーラーに帰る。トレーラの扉を開けて声を掛ける。
「ただいまー」
『ただいまー。ルーちゃーん』
「お帰りなさい。兄さんクリシアさん」
キッチンの方からルーリがパタパタと小走りで迎えてくれた。
そしてその後ろから心配そうにドルフも出てくる。
「ゴウどうだった?」
「んー。案の定脅迫されたよ。機兵と精霊をよこせ。さもなくば命は無いぞって」
「あいつらそこまでやりやがったのか!!でどうした?その様子だと対処したんだろ?」
俺の様子を見て大丈夫そうだと見て取ったドルフが笑顔で聞いてくる。
「まぁ詳しくはいえないけど、丁寧にO・HA・NA・SHIしたらもう関わらないって誓ってくれたよ」
「お前何やったんだよ」
「HI・MI・TSU」
「きめぇよ」
「なにいってんのあんたこの子達が無事なんだからいいじゃない!」
ドルフのさらに後ろからアリカさんが出てきてドルフの頭を叩いた。
「ゴウお兄ちゃんおかえりー!」
カーラちゃんが、人が増えて狭くなった通路を器用に縫って俺の前まで来る。
「おーただいまーカーラちゃん」
迎えに出てきてくれたカーラちゃんの頭をなでる。ああ、最高に癒される。
「そうだ。ゴウに相談した事があるんだ」
「何?」
「おめぇ兵団組む気ねぇか?」
「兵団ってなんだ?」
「兵団ってのはな簡単に言えば機兵のチームの事だ。ゴウ達はつえぇからなスカウトしてぇんだ」
「そんなこと言ってるけどね。この人はね。あんたたちの事が心配なんだよ。だけどほんと素直じゃないんだから……」
「うるせぇよ」
ドルフは獣人の為、顔色は見て分からないが、きっと真っ赤になっている事だろう。
「でもね。あんたたちが強いってのも本当だよ、カーラも変な目で見ないしね」
まぁ確かに黒髪二人と精霊だけじゃあ買い物も碌に出来そうに無いしな。それに…クカカ。
「…一つ条件があります」
「何だ?」
「ドルフには俺の用意した機兵に乗ってもらう」
「ゴウの用意した機兵?どっからそんなもん調達するんだ?それにそんな金、今回の報酬を合わせたって買えねぇぞ」
「その心配は要りません。うちに余っている機兵がありますから……」
「余ってる機兵って…そんなもんどこに有るんだよ……」
「それはヒミツです。…それに兵団を組むって事はギルドに報告するんですよね?」
「ああ、それで兵団しか出来ない依頼ってのもあるしな。まぁ暫くは適当に討伐依頼を受ける事になるだろうけどな」

そこで、トレーラーの扉が激しく叩く音がした。
「ゴウ・ロング様いらっしゃいますかー!!ゴウ・ロング様ぁー」
誰か来た様だ。…この声…ローラさんか……。
トコトコとルーリが出る。
「どうしました?ローラさん?」
「あっルーリ様こんにちは。ゴウ・ロング様はいらっしゃいますか!!」
なんかすごい剣幕だ…。奥のキャビンから顔を出し「ここに居まーす」と手を振ってみる。
「居られましたか…騎士団に連れて行かれたと聞きました。大丈夫でしたか?」
「ええ、議事堂まで連れて行かれましたけどO・HA・NA・SHIしたら分かってくれましたよ」
「…それはどんなお話でしょう?」
「ん?ヒミツ」
「分かりました。騎士団の件は何の問題も無いのですね?」
「ないですよ。それよりローラさん時間あります?」
俺の答えにほっとした様子のローラさんに丁度いいから質問する。
「なんでしょう?」
「ドルフ達と兵団を組もうと思いましてね。相談に乗ってもらおうかと思いまして……」
「まぁそれはおめでとう御座います。大丈夫です」
「じゃあどうぞ、中で話しましょう」
「お邪魔します」

ローラさんをキャビンに案内してお茶を出す。
「…それでどこまで兵団について聞かれましたか?」
「兵団しか受けれない依頼があるってくらいですかね……」
「それだけですか…。ではご説明いたします。兵団を組みますとまずギルド指定の店での買い物で一定の割引を受ける事。
 兵団依頼の受注が可能になる事。ができるようになります。そして兵団員が犯罪行為等を行った場合連帯責任でギルドの資格を失う事があります。
 ランクはリーダーのランクが採用されます。他にもこまごましたものがありますが大体はこんな感じです」
「なるほど…。あとドルフさんの機兵をうちで余ってる機兵に変えようかと思うんですがその手続きはどうしたらいい?」
「ゴウ様の所で余ってる機兵ですか!?それはもしかして……」
「ああ、もちろんうちのフルチューン仕様ですよ」
「なんと!…失礼しました。機兵の交換はギルドの方へ申請してください。
 動作確認をいたします。もちろん確認は私自らが行わせていただきます。…ちなみに何時搬入されるのですか?」
「まぁ大体三日後くらいかなぁ」
「分かりました。その頃伺います!」
目をキラッキラさせてローラさんは話を受けた。
「搬入しても調整に時間を掛ける予定だから動作確認はもっと後になりますよ?」
「かまいません。それだけの価値はあると思ってますから……」
まぁうちの機兵は規格外だからねぇ~。

翌日、機兵を取りに(ベースに作りに)出発する。
「ドルフ、三日後に戻る予定だから兵団の手続きとかお願いしていいか?」
「おうまかしとけ!!」
「じゃあ、ドルフ、アリカさん、カーラちゃん行ってきます」
『行ってきますねー』
「行ってきます」
「おう、強いのを頼むぜ!!」
ええ、度肝を抜くような機兵を作ってくるぜ!!
「はい、行ってらっしゃい」
「ルーリおねぇちゃん達いってらっしゃーい」
 ルーリちゃんは元気良く手を振っている。

トレーラーを出発させ、街を出る。現在は東の方向に走っている。
「兄さん…。後ろ…」
トレーラーにつけた隠しバックモニターを見ると正体不明のバイカーがいた。
きっちり顔を覆面で隠している。
「まっ予想できてたけどね…」
 きっと機兵の有りかや、俺の素性を調べようとしているのだろう。
もちろんちゃんと対策は取ってますよ。
東への道は結構岩の障害物が多く分かれ道が多いのだ。
追跡者の死角に入った瞬間を狙い。

 "ベースオープン"
そのまま前進し、ゲートを潜る。
 "ベースクローズ"
ゲートを閉めて、はい終了っと。
現在のベースの中は、混沌としている。
一般住宅があると思えばその隣に巨大なトーチカがあったり、またその隣に某普段はへたれの癖に映画になると英雄になる主人公の家があったりする。
ネコ型ロボットのアイテムは無かったけどな…。
そんな中を進み、機兵用ガレージに向かう。
無骨な鉄骨とトタンで作られたガレージにトレーラーを止めて外に出る。
「ふー久々の我が家だな…」
『まだ一ヶ月もたってませんよ』
「けどなんか久しぶり…。」
街に居るあいだは、外に慣れるためと警戒のためベースには、戻ってきていない。
「じゃあ俺は、ドルフの機兵を作るから休んでてくれ」
『は~い』
「分かった」

俺は、メニュー画面を立ち上げてロボット製作コマンドを実行する。
ロボットロマン2最大の醍醐味と言える部分だ。このゲームでのロボット製作はちょっと特殊だ。
ロボットのパーツをショップから買ってきてそれをつなげてロボットにする。
…なに?そんなの普通のパーツ組み換えゲーじゃないかって?違う違う。ロボットのパーツって言うのは、
本当のパーツなんだ。分かりやすい腕パーツ、足パーツ、胴体パーツ、頭部パーツなんてものは無い。
ジェネレーター、カメラ、アクチュエータ、ブースター、フレーム、ワイヤーetc…などいろいろなものを
買い込んで、それぞれを機体の好きな位置に設置して装甲を被せてロボットに仕立て上げるんだ。
たとえば、腕を作るとしよう。必要なのは上腕、下腕、手のひらだ。上腕の骨(フレーム)を用意し
稼動するように間接(アクチュエータ)をつける。出来た上腕に下腕の骨(フレーム)と手のひらの為の間接(アクチュエータ)をつける。
最後に手のひらをつけてこれで簡単な腕の完成。ここからが面白い。じゃあこの腕にロケットパンチの機能を持たせよう。
下腕の骨(フレーム)を二つに切断して脱着パーツをつける。そして飛んでいく部分の骨(フレーム)の周りにロケットブースターを着ける。
これでロケットパンチが再現可能になる。
さらにパンチにひねりを加えたければロケットブースターに回転用ブースターをさらにくっつけてやればいい。
配線なんて面倒な事は必要ない。それはロボットロマンが誇る粘菌配線システムが勝手にやってくれる。
まぁ、パーツごとにパラメーターが沢山あるからそんなに単純ではないがこんな感じだ。
これを全身でやる。まぁ出来合いの設計図も売ってるから、それを自分用に改造するって人もいるな。
モーションも一緒に作る事が出来る。
二足歩行や四足歩行の基本的モーションやその他ポーズ等のモーションもプリセットついているから余程凝らないとモーションまで作る事無いかな。
機兵の場合、操縦自体がモーショントレースみたいなもんだから必要ないけど……。
ちなみに、一回ロボットを作ると作られたロボットの設計図が出来る。
もう一機同じ機体が欲しければ設計図を読み込んで製作ボタンを押せばおんなじ機体が作れる。
もちろん機体に見合ったベースポイントや素材、時間が掛かるけどな。

今回は、あまり時間が無いからグランゾルデ改の設計図を元にドルフ用の改造を施す予定だ。

ふむ、さてどうしよう?ドルフは狼獣人だしなそれにちなんで行こう。
頭部は狼ヘッドは当然として、右腕には収納式のクローをつけよう。そうだ、左腕には、"ウルフ・バイト"をつけよう。
武器腕はロマンだ。なに?防御性能がクソだ?だってかっこいいじゃん。
いやしかし、それだと汎用性が低くなるな…。そうだ某地球を守る企業のとっ突きを参考にしよう!!
でもそうなると…じゃあ…それなら…。
よーし、楽しくなってキター!!クカカカカカカカカ!!

ふ~まぁこんなもんかな……。出来るまで時間が掛かるしちょっとルーリの様子でも見てくるか…。
ルーリのことだ、きっと訓練でもしてるんだろう。俺は、ベース内に設置したトレーニングセンターに向かった。

トレーニングセンターの自動ドアを潜り、ルーリが訓練しているであろうVR(ヴァーチャル・リアリティー)ルームに向かう。
VRルームの隣にある観戦室に入るとクリシアさんがいた。
「クリシアさん、ルーリの調子はどうですか?」
『あら、ゴウちゃん終わったの?いつもどおり絶好調よ』
「ええ、今はもう製作に入ってます。明後日には完成しますよ」
観戦室にあるモニターを見るとルーリが街中でチンピラどもをバッタバッタとなぎ倒していた。
時々魔法を撃たれているが、どこに来るのか分かっているかのごとく避けていく…。
…ルーリって実はニュ○タイプじゃね?
撃破数カウンターを見てみると…147人か…ホントすげぇな…。
前にも言ったが近接戦闘はルーリのほうが強い、どうも俺が銃ばかり愛用しているのを見て、じゃあ私は近接戦だ!と思ったらしい。
ホント出来た妹だ……。

訓練終了のアラームが鳴る。するとモニターに写っていた街やチンピラが消えていく。
俺は、近くの水サーバーから紙コップに水を汲みVRルームから出てくるルーリを待つ。

VRルームにつながる自動ドアが開き、ルーリが汗を拭きながら出てきた。
「ルーリ、お疲れ。ホントすごいな」
『おつかれまさま~』
もっている紙コップを差し出しながら言う。
「ありがとう、兄さん。でもまだまだだよ……」
我が妹はまだ先を目指すそうです……。目指すは東○不敗ですか?…この世界で東方○敗って言ったら最強じゃねぇか……。
だがしかし、妹に近接戦を頼りっぱなしってのも兄として情けない、ここは足手まといにはならないように訓練せねば!
「じゃあ俺もイッチョ訓練しますかっ!!」
VRルームに入り訓練開始ボタンを押す。
「あっ」
ルーリが声を上げる。?…疑問に思った瞬間失敗した事を理解した。

俺の回りに現れたのは、完全武装したチンピラ集団500人…しかも荒野……。

俺に逃場なしっ!

「失敗したーーーーーーーーーーーーー!!」
どうやら、ルーリが次やる訓練の設定のまま開始ボタンを押してしまったらしい。
がんばってはみたものの制限時間一杯までフルボッコにされました……。
さすがに徒手空拳でこんな人数相手に出来ませんよ……。

第18話 機兵の搬入

 ベースに戻ってから三日が経ち、ドルフ用の機兵も完成した。

「兄さん準備できました」
『ゴウちゃん遅いわよ』
「あーすいません」
愛用のトレーラーに乗り込み魔晶炉を起動させる。このトレーラーに今、ルーリは乗っていない。
後ろに連結してあるトレーラーの運転席に座ってもらっている。あちらのほうでハンドル操作と
ブレーキ操作をして貰う為だ。
そう、ついでだからドルフさんにはトレーラーも貸してしまおうと思ったからだ。
もちろん、俺たちが使っているトレーラーよりは機密保持の観点からデチューンを施しているが、
現行のトレーラーより遥かに高性能なのは保障できる。
「じゃあ行きます」
 "ベースオープン"
ゲートを開けてトレーラーを進ませる。出る場所は、前回入ってきた場所と同じだ。
 "ベースクローズ"
後続のトレーラーがゲートを出た事を確認してゲートを閉じる。
周囲を確認して目撃者が居ない事を確認する。
ほんじゃ、街に戻りますか……。

 「ドルフー!持ってきたぞ~!」
東門の前で待っていてくれた、ドルフに運転席から顔を出して手を振る。
トレーラをドルフの前まで進めてトレーラーを止める。
「おう、どんなもん持ってきたんだ?」
「ご注文どおり強い機兵を持ってきたぜ!」
「おお、そいつは楽しみだ。早速、駐車場に止めて確認しよう。…なんでトレーラーまであるんだ?」
 機兵を取りに行くと言ったがトレーラーもとは、言ってなかったな…。
「え?いやぁ本当は、グランゾルデ改と相席させる予定だったんだけどね。運転するの大変でさぁ。
面倒くさいからさ、こっちも予備機出してきた。テヘッ」
「きめぇよ。じゃあそのトレーラー帰しに一回戻んのか?」
「んにゃ、よかったら使ってくれない?予備機だからこいつと同じような仕様だし…」
トレーラーのドアをバンバンと叩く。
「いいのか?」
「いいの、いいの。それに実際、依頼に出た時に足並み揃えないとヤバイだろ」
「…んじゃあ。ありがたく借りとく……」
「ああ、そうしてくれ。じゃあ連結切るから。後ろのトレーラーの運転頼むわ」
「了解」
俺はトレーラーの連結を切り、駐車場に向けて改めて走り出した。


「お帰りなさいませ。ゴウ様。こちらに駐車スペースを確保していますので着いて来て下さい」
新機兵に興味津々なローラさんが、トレーラー用駐車場の前でツナギを着て待っていた。…偉いさんだろうに。
「ただいま。ローラさん…。一体そのカッコは何?」
「新機兵の搬入ということで、手伝おうと思いまして…」
「ギルドの仕事はいいんですか?」
「問題ありません。ギルドマスターの許可は頂いています」
ギルドの方も興味津々ってわけだ……。
「分かりました。どこに止めればいいんです?後、もう一台トレーラーもありますし…」
「なんと…。もう一台トレーラーがあるんですか!!すぐに場所を確保します!!」
そう言うと、ローラさんは駐車場事務所にすっ飛んで行った……。
お~い、俺はどこに車止めればいいんだよ~。


ふぅ、いろいろ問題が起きたが、ようやくトレーラーを止める事が出来た……。
トレーラーを降りて挨拶をする。
「皆さん、お帰りなさい」
「皆おかえり~」
「ただいまー。アリカさん、カーラちゃん」
『ただ今、戻りました』
「ただいま」
「すごーい。おっきいトレーラーが、もう一台!」
カーラちゃんは俺の持ってきたもう一台のトレーラーに、もう釘付けだ
「すげーだろー。余ってたから持ってきた。よかったら使ってください」
「いけないわ。こんな高いものを……」
「かまいません。あっ、別にあげるわけではないので気にしないでください。(無期限に)貸すだけです」
「機兵を借りちまってんだ。この際、トレーラーも一緒に借りちまおうぜ。
 今使ってんのは機兵ごとギルドに貸し出しとけばいいしなっ!」
機兵ギルドは、機兵のレンタルも行っている。これは、機兵を失った機兵乗りに対しての救済措置だ。
本来は、ギルドが機兵を用意するのだが、ギルドが仲介して余裕のある兵団が機兵を貸し出す事もある。
機兵を失う可能性があるが見返りもそれなりに大きい。今回はこのシステムを利用する。
「わかりました。ギルドが責任を持ってお預かりしましょう」
ローラさんが請け負う。
「じゃあ持ってきた機兵の説明をするんでキャビンに入ってください」
「は~い」
カーラちゃんが元気に返事をする。
一行がゾロゾロとキャビン入っていく……。
「お邪魔します」
…ローラさんもさも当然のように入って行くんですね……。まぁいいけど。

クライングアントの時と同じようにキャビンの壁をモニターに変える。
「やはりそれは魔法では…」
「魔法です」
ローラさんの突込みを封じつつ説明を開始する。
「持ってきたのはこいつです」
モニターに持ってきた機兵の簡単な設計図を写す。
「こいつぁ。すげぇな」
「わぁ。とーちゃんとおんなじ顔~」
同じ顔といっても面頬をつけてあるので、ワイルドさは本人より、劣るけどな。
「じゃあ上から説明しするぞ…。見ての通りこの機兵の特徴の一つとして、狼獣人型の頭部をしている事。
 この頭部は見かけだけじゃなく、現在のドルフと同等の視界を確保してある」
「…という事は、ゴウ様の機兵と同じように見えると?」
「違う。俺の機兵より見える。これは種族的身体特徴による為で、人の視野は約180度だが
 狼獣人の視野は約250~290度ある。…ドルフも良くこれで普通の機兵に乗ってるよ…。見えないってもんじゃないだろ?」
「まぁな、けど結局は慣れだよ。慣れ」
「そうか。だが今回の機兵は、ドルフの視野を余すことなく使えるって事だ。まぁ狼獣人用ヘッドセット…あー外視鏡の調整に時間が掛かるけどな……」
「それで機兵の視界がよくなるってんだ。文句はねぇよ」
「一応、耳に集音装置をつけてあるが…。ドルフって耳は良い方?」
「ああ、それのお陰で奇襲を受ける心配が無いな」
「じゃあこいつも武器になるな…。じゃあ次に右腕だ」
「何が変なもんがくっついてっけどなんだ?」
「折りたたみ式クローだ」
手元の端末を操作してクローを展開させる。右腕の外側についたカバーが手のひらを包み隠すと同時に折りたたまれていた長い爪が姿を現す。
「このようにして、普段は折りたたんでおき、使用する時に展開させる。…ああ、安心して良いぞ。要らなければ普通の腕に付け替えればいい」
「ふざけんな。こんな面白いもん誰が付け替えるかよ」
気に入ってもらえたようだ。
「じゃあ、今度は左腕だ」
再び端末を操作して左腕にズームする。
そこには奇怪な腕があった。肩や上腕は普通なのだが下腕が異常だった。肘が異様に長いのだ…。
そこには六角の鉄柱と鉄柱の根元に機械がついていた。その為、腕をまっすぐ伸ばす事が出来ない。
「こいつぁ…」
ドルフさんは気づいたらしい。
「この長い肘は、棍棒になっています。このままでも使用する事は出来ますが、実際には下腕を回転させて前に持ってきます」
モニターの機兵が腕を上げて下腕を回転させ棍棒を下にする。
「これはさすがに使えないのではないですか?付けるにしても剣や槍の方が良いのでは?」
「これで良い…。いや、これじゃないとダメだ」
ドルフがローラさんの意見を却下する。顔には、凶暴な笑みが浮かんでいた。よほどコレが気に入ったらしい。
「じゃあ最後に足ね。まぁこれといって説明する事は無いんだけど…。端的に行ってグランゾルデ改とおんなじ足」
「十分すげぇじゃねぇか…」
多分、換装システムのことを思い出してんだろうなぁ……。
「まぁとりあえずはこんなもんかな…。あとは実機を見てもらいながら説明しましょう。
 …そうだな…ルーリはアリカさんとカーラちゃんに新しいトレーラーの使い方を説明しといて」
「分かった」
 アリカさん達をルーリに任せて俺は、ドルフとローラさんを連れてトレーラーに向かう。
「そういやゴウ、こいつの名前はなんてーんだ?」
「こいつの名前か?そいつはドルフさんに任せるよ…。ドルフさんが乗るんだから」
「そうか…。なら強そうな名前を考えるとしよう」
トレーラーの荷台に登り、機兵に被せているシートを剥がしていく。
「設計図を見してもらったが…、実際に見るともっとすげぇな……」
 特徴的な狼ヘッドが太陽の光を浴びて鈍く光る。トレーラーの周りにいた機兵乗り達も何事かと見ている。
「ドルフは操縦席の説明するからこっち来てくれ。ローラさんは、機兵に異常がないか見てくれません?」
「おう」
「…分かりました」
ローラさんはこっちに来たそうだったが、俺の言う通りにしてくれた。
俺とドルフは操縦席に向かう。
「ドルフとりあえず操縦席に座ってくれ」
「おう、やっぱ新品の操縦席はいいなっ!」
嬉々として操縦席に座るドルフ。
「さて本題と行こう」
「こいつの左腕の事だろ……」
ドルフが悪そうな顔でにやりと笑う。
「わかってるようだけど。そうだコイツは、"ウルフ・バイト"だ」
「やっぱりか!!…だが何で棍棒なんて言ったんだ?」
「切り札は多い方が良いでしょ。それにあんまり武装をひけらかしたくない」
「いまさら何言ってやがる」
まぁ、好き勝手改造した機兵を持ってきている時点であんまり意味は無いかな…。
だってかっこいい機兵が動いてるとこ見たいじゃん!
「まぁとりあえず使い方だ。右腕の変形は、右の操縦桿についてるスイッチで…、そうそれ。
 左腕の変形は左の操縦桿についてるスイッチで…うんそれ。
 んで最後に"ウルフ・バイト"の外装のパージはあっちの壁にあるスイッチでやってくれ」
「分かった。早速、動かしたいんだがいいか?」
「それはちょっと待ってくれ。ドルフ用のヘッドセットの調整が出来ていないんだ」
「ああ外視鏡の代わりって奴か?それがあれば今と同じように見えるって本当か?」
「本当だよ。見たらビックリすること請け合いだ」
「そいつぁ楽しみだ」
それから俺は、操作の細かい説明をドルフにしていった。

第19話 試運転は大事です

 カチャカチャと操縦席の調整をしている時ふと疑問に思ったことを聞いた。
「そういえばドルフ、兵団の手続きって終わったの?」
「ん?ああ、最後の一つ…いや二つだな。を除いて全部済んでるぞ」
「二つ?」
全部やっといてくれたらありがたかったのに……。
「もちろん兵団の名前とエンブレムだ。代表がいないのに決めちゃ悪いだろう」
「…代表?…えっ。それ俺の事じゃないよね?」
まさかね。
「何言ってんだ。お前に決まってるだろうが。うちの兵団の機兵を二機所有してるくせに……」
そのまさかでした。
「そういうもん?」
「そういうもんだ」
じゃあしょうがない。
「兵団の名前とエンブレムかぁ…。ドルフ、クリシアさんなんか良いの無い?」
『人任せはいけませんよ。ゴウちゃん』
クリシアさんが困ったように笑う。
「おいおい、いきなり問題丸投げかよ…。何でも良いから考えろよ」
うーん…そうだなぁ…じゃあ。
「ラフィング・レイヴン(笑う鴉)ってどう?…完璧、俺とルーリのことしか考えてないな…ボツだ」
「…いや、良いんじゃないかラフィング・レイヴン。代表がお前さんだって言う事が分かりやすくて」
『良いじゃない』
表の意味としては、いつも笑ってられるように。裏の意味は、敵対した相手をあざ笑うって事なんだけどね。
この世界にもカラスはいる。もちろん全身真っ黒だから忌み嫌われている。ただの動物なのにね。
一瞬、ヤタガラスも良いかなって思ったんだけど。アレ一説によると神様の使いなんだよね。
あのクソ女神の使いなんぞやってられるかってんだ。
「そう?ならいいけど…」
「エンブレムの方は任せてくれ。アリカが得意なんだ」
「お願いします」
その時、操縦席の外から声を掛けられた。
「ゴウ様、機兵を見て回りましたが、異常はありませんでした」
「ローラさんお疲れ様、本格的調整は明日からにして、トレーラーの引越しをしましょうか……」
「そんな!今日は動かさないのですか?」
そんな子供がおやつを取り上げられた時のような顔をされても困るんですが……。
「ヘッドセットの調整には時間が掛かりますし、どっちにしろ今日は動かせませんよ」
「…わかりました。でも試運転する時は絶対に呼んでください。絶対ですよ!」
「分かりました。そのかわりトレーラーの引越し手伝ってくださいよ」
「もちろんです!」
その日は、トレーラーの引越しだけをして終わった。


三日後、ドルフ用ヘッドセットの調整が済んだので試運転を行う事になった。
俺はグランゾルデ改のトレーラーのキャビンに集まった皆に言う。
「今日、俺とクリシアさんとドルフとローラさんは外で試運転してくるからルーリ達は、好きにしていてくれ」
「分かった」
「え~!とーちゃんの機兵が動くとこ見たい!!」
「ごめんねカーラちゃん、試運転で何が起こるかわからないから、連れて行けないんだ」
「うー」
ああ、狼耳っ子がすねているのもかわいいな……。
「カーラ心配すんなって、動かせるようになったら、ちゃんと見せてやるからよ」
「うー!わかった絶対だよ。絶対だからね!!」
「おう」

コンコンとトレーラの扉を叩く音が聞こえた。
「おっローラさんが来たのかな?」
扉を開けると革鎧を着たローラさんがいた。
「おはよう御座います、皆様方。ゴウ様、クリシア様、ドルフ様、さあ行きましょう」
声はいつもと変わらないが台詞がノリノリだ。
「分かりました」
『はぁい』
「おう」

ドルフにトレーラーを運転してもらいカルガの街の近くの森に来た。ここなら目立たないだろう。
「じゃあドルフ、早速こいつを立ち上がらせようか。…そういえばこいつの名前はどうなったんだ?」
「おう名前か!こいつの名前はな"ダイドルフ"だ!!」
…某悪を絶つ剣さんかっ!!
「カーラが名づけてくれたんだ!いい名前だろ!!」
カーラちゃんが某悪を絶つ剣さんだったのかっ!将来は剣豪だな!!
「あっああ。そうだな…」
『…ええ、いい名前ね…』
ドルフがダイドルフの魔晶炉を起動させる。目に光が入り、横たえていた体をゆっくりと起こす。
巨体が足をずらし、地に足をつける。ただ立ち上がると言うだけなのになんだろう、この心の高鳴りは!
トレーラに手を着き立ち上がる。
「おお」
ローラさんも似たような事を思っているのだろう、歓声を上げている。
「ダイドルフの調子はどうだ~?」
「こいつは本当にすごいな。この視界を見ちまうとカルノフにゃ戻れねぇよ」
そうだろう、そうだろう。
「とりあえず、一通り動いてみてくれ!!」
「了解!」
それからはダイドルフが歩いたり、走ったりと基本的な動作の確認を行った。
「どうだ?」
「最高だ!本当にカラードのカスタム機なのか疑問に思えてくるぜ」
まぁ実際の中身は、機兵と呼ばれるものの最低限だけ残して、その他をフルチューンしたもんだしな。
グランゾルデ改もダイドルフもリミッターをつけてあるし。本当なら空だって飛べるさ!なんてね。
「フレームは確かにカラードです。それは間違いありません。しかし、本当にフレームしか使われていないように思えます」
やってる事はカブのフレームでレース用バイクを作ったようなもんだからな。ローラさん鋭い。これ以上、突っ込まれる前に次に行こう。
「じゃあドルフ次は、剣を持って色々動いてくれ!!」
「おう」
トレーラーから剣を持ち出し、上から下へ、右から左へと振っていく。うんこれも問題なさそうだな…。
『さすが獣人ね。いい動きをしているわ』
おお、機兵の動きに関しては超辛口のクリシアさんが褒めてる!
「腕の調子はどうだ?」
俺は一番気になっていることを聞いた。
「うん?まぁ左腕が多少重いが、なんてことはねぇよ。右腕は何の問題も無いな」
「じゃあ今度は腕の変形テストをやってみよう」
「わかった」
「とりあえず右腕からやってみようか…テスト用のゆっくり変形スイッチを入れてくれ」
「おう」
ドルフがスイッチを入れたのだろう。右腕で小手のようになっていたパーツが手に覆いかぶさっていく。
それと同時に長い三本の爪が伸びる。爪が伸びきり、変形は完了した。
「どうだ?」
ドルフは右腕をブンブン振りつつ具合を確かめている。
「なかなか面白い。おっ!この爪動くんだな!」
爪をワキワキ動かしている。次は、その辺に生えている木に向かって爪を振り下ろす。
木は難なく切り裂かれ、地面に落ちていった。
「切れ味も抜群だな!」
「ゴウ様、刃物だけでも売ってくれませんか…」
「…考えときます」

一通り右腕の動作確認をしたので一旦、休憩にする。
「ドルフ、昼飯にしようぜ!!」
「そうだな。俺も腹減った」
ダイドルフに膝をつかせてドルフが降りてきた。
「アリカの作ってくれた弁当は旨いぞ!」
トレーラーの中に入りバスケットを持ってくる。
俺とローラさんはトレーラー近くの木陰でシートを引いたりして食事の準備をした。
「今日はチキンのサンドイッチだ。遠慮なく食ってくれ!」
よっぽど嫁さんが好きなんだろうなぁと思いつつ、「遠慮なく頂きます」バスケットに詰まっているサンドイッチを摘む。
「私まで昼食を頂いて、申し訳ありません」
「気にすんなって。俺もアリカもローラには世話になってるしな」
「そういえばローラさんって料理できるの?」
「…」
「…」
えっ、何この空気。俺、地雷踏んじまった?
「…食べたいですか……?」
…ここは"いいえ"だ。絶対"いいえ"だ。"いいえ"じゃなければならない。そうに決まっている。
「いい…」
「いいに決まってるよなぁ!」
『いいに決まってるじゃないですか!』
ちょっまっ!ドルフ、クリシアさん!?何言っちゃてんの?勝手に俺の死亡フラグ立てないでくれる!
ドルフが無理やり俺の首に腕を回しこっそっりと耳打ちしてくる
「ばかっ。女を泣かす男がいるかっ!」
「いや、だって完全に死亡フラグじゃん!」
「死亡フラグ?なんだそりゃ?とにかく!女に恥かかせるんじゃねぇ!分かったな!」
ドルフの殺意まで篭ってそうな目で俺を見るな…。クリシアさんもジト目やめて!
わっわかった、わかったから……。
いざとなったら救命カプセルもあるし大丈夫だろう……。
「そうですね…頂きます……」
「わかりました。全力で作らさせていただきます」
ローラさんが静かに決意に燃えている!俺には災難のレベルが上がったようにしか思えない!!
あっドルフ何笑ってやがる。なに?不幸のおすそ分けだと……!
ドルフ。謀ったな!
こうして俺の人生の不幸がまた一つ決定された……。
どたばたした昼食を終え、ダイドルフの試運転を続ける事にする。
「残りの左腕の変形をやるぞ~」
「了解」
早速、左腕の変形を開始させる。変形といっても上腕下部を180度回すだけなので問題ないと思っていたのだが……。
『!ダメッ!』
「えっ!ちょっとまて…腕はそっち曲がらな…ぎゃー!!」
「ドルフ!やばい!!」
俺は、遠隔操作で変形を中止させ。一旦ドルフを操縦席から降ろす。
「大丈夫か!ドルフ!!」
「ああ、大丈夫だ…。ただ、仮想体の腕が折れるかと思った…」
"仮想体"とは、機兵操縦時における操縦席に座っている自分とは違う、もう一つの体の事だ。
機兵が傷つけば"仮想体"も傷がつく、"仮想体"が傷ついても座っている本体には、傷はつかないが、腕が折られた等の
強烈な痛みを伴うものに関しては、精神が傷つき、生身の体も傷ついたと誤認してしまい生身での行動に支障が出る場合がある。
「すまなかった。仮想体対策を怠っていた……。一応対策を考えるがドルフが嫌だったらこの装備を外すが?」
「私もそのほうが良いと考えます」
「馬鹿いってんじゃねぇ。コイツは気に入ってんだ。どうにかして使えるようにしろ」
「わかった」
左腕の問題を一旦、棚上げにしておいて残りの稼動部の動作を確認して今日は終了しよう。

左腕以外問題になるものは無かった。それより機体性能に驚いたドルフがいきなり狩りに行こうとして止めるのに大変だった。

その時、近くの木々が揺れ、機兵の足音が聞こえてきた。
何だ?近くで狩でもしていた奴か?
「おっこんなところに居やがった」
そんな事を考えていると見知らぬ機兵が木を掻き分けて試運転していた広場に出てきた。
「なんだ?」
『なんでしょう?」
「あの機兵は…グラナス兵団所属の機兵ですね。しかし、何でこんなとこにいるんでしょうか?
 たしか、現在あの兵団が受けている依頼は無いはずですが。」
「ダイドルフの強奪だったりして……」
「馬鹿な。私がここにいるのですよ?そんなことしたらギルドを追放されてしまいます」
「…ローラさん今日ここに居るの誰かに教えました?」
「…はい。ギルドマスターには一応、伝えておりますが……」
「じゃあ、ここにローラさんが居る事、知らないんじゃ……」
「…」

「お~い、こっちに居たぞ~」
見知らぬ機兵乗りは仲間を呼んだ!
「居たか!」
「良く見つけた!」
ゾロゾロと機兵が二機、森の中から出てきた。全て剣で武装している。
「おい、お前ら一体なんのようだ?」
ドルフが一応という感じで聞く。
「決まってんだろ。その機兵を頂くんだよ。痛い目見たくなきゃさっさと降りな!」
一番最初に来た機兵が予想通りの答えを喋る。
「お止めください!貴方達何をしているかわかっているんですか!これは重大な規約違反ですよ!!」
「げっ!何でギルド職員がこんなとこに居るんだ?クソッ!…そんな事、知ったこっちゃ無いね…。あんたを消せばなんの問題も無い!」
「そう、なら!現在より、あなた達からギルドの追放処分及び、指名手配をいたします!!」
あらあら、予想通りの展開だ。ん?…なんかドルフの様子が変だ。
こういう時なら一番に食って掛かりそうなもんだけど。
ダイドルフが震えている?ドルフがこんなチンピラ機兵乗りにビビる筈が無い。
…ということは。
「ハハッおめぇら最高だよ!丁度このダイドルフで一暴れしたかったところだっ!!」
ああ、ドルフのスイッチが入っちゃったよ。
どうなる事やら…。

第20話 ドルフ無双

 「ああっ!なめてんのかっ!獣人風情が!!」
あちらの方々は、人族至上主義らしいな。
「ふん、知ってるぜ。お前、人族と結婚しているらしいじゃねぇか。しかも小汚ねぇガキまで作ってよっ!」
「ウソッ!マジかよ…」
「信じらんねぇ。とんでもねぇ売女も居たもんだな!ギャハハ」
あっ、これはヤバイんじゃないかなぁ。
『なんて事を!!』
クリシアさんが、珍しく憤慨している。
「馬鹿な人達ですね。ドルフ様に絶対に言ってはならないことを…」
「あっやっぱり?」
「はい、ドルフ様はBランクですが、本来ならAランクなのです。
 しかし、以前ドルフ様が複数の機兵乗りと組んで盗賊捕縛の依頼を受けた時の話なのですが、盗賊に降伏勧告をした際、
 盗賊に妻子を貶されたのです。そしてそれに腹を立てたドルフ様が盗賊を皆殺しにしてしまったのです。
 当然、依頼は失敗扱いになり、一緒に依頼を受けた機兵乗り達からの抗議により、ランクを下げられたのです」
まぁ愛妻家のドルフなら当然の話だろうな。
「グルゥウウウウウ!」
…ああ、もう人語を話せる状況じゃないのね。
「じゃあとりあえず、痛い目見てもらお…おう?」
その時バキリとダイドルフからヤバイ音がした。
「グァアオーーーーーーーーーーーーーーーン!」
「あっ!」
見るとダイドルフの顔の形状が変わっていた。顔に着けていた面頬が外れてしまっている。
隠されていた鋭い牙を並べた顎が大きく開かれ遠吼えを上げている。
「…なんですか?アレは?」
「いやぁ、最初に製作した時から口はあったんだけど…。見ての通り、ものすごく怖い顔してるでしょ?」
ああ、せっかく隠していたのに。ダイドルフの今の顔は、面頬を着けていた時と違い、長い牙を見せつけ、
見るものに恐怖を抱かせるほど、厳つい顔をしていた。
「アレだとカーラちゃんを怖がらせそうだったから隠したんだ」
『そうでしょうか?案外喜びそうだと思いますよ』
「そうか、ならいいんだけどな」

≪暴走:+500P≫
…アレ?俺がロマンを達成しなくてもポイント入手できるのか?…まだ機能に謎が多いな。
「なんだありゃあ?」
「あんなの虚仮威しだ!行くぞ!!」
目の前にいた機兵乗りその1が攻撃に移ろうとした瞬間にダイドルフは動いた。
一瞬にして右手のクローを展開させ、チンピラ機兵その1の胸に突き立てていた。
あーあの深さじゃ背中に爪が突き出てるだろうな。あれじゃあ中の人は真っ赤なジュースになってそうだ。
一機目。
「グァウ!」
「野郎!!」
突然のことに驚いたチンピラ機兵その2は、ダイドルフに袈裟懸けに切りかかる。
ダイドルフは爪に刺していた機兵を相手に投げつけ、怯ませる。
その隙に呆然としていたチンピラ機兵その3を切り裂きに掛かった。
腕を天高く振り上げ、敵の頭から叩き潰すように振り下ろす。

金属を裂く聞くに堪えない音を立てながら頭から股下まで一気に切り裂く。
二機目。
「クソッたれぇー!」
機兵を投げつけられたチンピラ機兵その2が、攻撃の隙をつき、背後から攻撃しようと刺突の構えで突撃してくる。
ほんの少し首を動かしたダイドルフは、左肘の棍棒を突っ込んできた機兵の剣に当てて攻撃をいなす。
キキキキキィンと澄んだ音を響かせながら剣が棍棒の上を滑っていく。
「馬鹿な!何で今の攻撃が見える!!」
当然だ。俺の機兵に死角は無い(あります)。
剣をいなされ、バランスを崩して目の前に出てきたチンピラ機兵その2を蹴り飛ばし転ばせる。
「たすけ…ギャァアアアアアア」
じたばたしているの背を踏みつけ、そのまま一気に踏み潰した。
最後三機目。

「さすがゴウ様の機兵ですね。普通の機兵なら、あの攻撃をああも綺麗にいなせません」
ローラさんが冷静に解説している。
「そこは、ドルフの技量がすごいんでしょ」
『ドルフさんなら当然です』

「アオーーーーーーーーーーーーーーーン!アオーーーーーーーーーーーーーーーン!」
最後に勝利の咆哮をあげるドルフ。そろそろ止めよう。

ドルフを落ち着けて、帰る準備をする。
「いやぁ、すまなかった。つい我を忘れてしまった。ガハハ!」
そういうドルフの後ろには、謎の液体に濡れた爪を輝かせたダイドルフと無残な残骸と化した三機の機兵があった。
「こいつら殺しちゃったけど…問題ない?」
「問題ありません。グラナス兵団は指名手配になりますので、今回の場合些少ですが討伐報酬が出ます」
そうなんだ。
「ローラさん、この機兵の残骸どうすんの?
「現在の所有権はラフィング・レイヴンにあります。しかし要請があればギルドが適正価格で引き取りますが?」
うーん、どうしよう…。
「じゃあ、俺たちが貰っとく、予備パーツとして使わせてもらおう」
「では、ギルドの方で倉庫をお貸しします」
「いや結構です。俺に当てがありますから。」
「一応お聞きしますが…どこに?」
「ヒミツ。ドルフ、明日迎えに来てくれ」
「秘密の多い方ですね。」
「魅力的でしょ?」
「…」
『…』
「…わかった。気を付けろよ」
皆さんスルーですか…そうですか……。
「だいじょーぶ。クリシアさんも居るしね」
『当然です』
「じゃあ行って来る」
そう言うとドルフはトレーラーを発進させた。

トレーラーが見えない位置に消えた事を確認して、討伐された機兵に近づく。
さてと、とっとと"回収"しますか。
それぞれの機兵に近づいてメニューを開いて"回収"コマンドを実行する。
『何時見ても不可解ですね』
「ほんと、一体どうやってんだか」
『あなたが言いますか』
全ての機兵が回収されたことを確認し、ベースに移動する。

『明日まで何しましょうか?』
「そうですねぇ。初めての機体も手に入った事ですし、設計図を見て改造プランでも練ろうかなぁ」
『それはゴウちゃんは、それで良いでしょうけど私が暇なんですよ』
「う~ん、じゃあ今回手に入れた機兵を使って機兵以外を作ってみましょうか?」
『なにかしら、ちょっと面白そうね』
「じゃあ、こんなのどうでしょう?」
作ってみたかったものでもあるし、これにしよう。

翌日、俺は貰った機兵の残骸を組み合わせて作ったバイクで街に向かって走っていた。
向こうから、何も乗せていないトレーラーが走ってきた。
おっ、あのトレーラーはドルフのか…。
「おーい!」
『おーい』
バイクから片手を離し、俺とクリシアさんがトレーラーに向けて手を振る。俺に気づいたドルフがトレーラーを止め、降りてくる。
俺もトレーラーの近くにバイクを止めた。
「おー、ゴウ達じゃねぇか。これから迎えに行こうと思ってたんだが…」
ドルフが俺の乗っているバイクに目を向ける。
「またけったいな物に乗ってんな…」
俺の乗っているバイクは、一見前後に長いスポーツタイプに似たバイクではあるが、普通のバイクと決定的に違う部分がある。
バイクの側面に人が持つには巨大すぎる剣とカイトシールド、そしてそれを持つための腕がついているのだ。
「ん~、昨日ドルフが倒した機兵のパーツを使って作ったバイクだ。…そうだなドルフ達にはもう話とかないとな…」
丁度回りに人が居ないので、ドルフに俺の能力を含めて全てを話す事にした。

「…すさまじい人生だな。俺には想像も出来ん」
「まぁね。でもクリシアさんやルーリ、ドルフ達にも会えた。それはよかったと思うよ」
『あらあら、まあまあ、うふふ』
「よせよ。くすぐったい。これからよろしくな」
「おう。そういえば戻ってから何かあった?」
「いや特に何も無かった。グラナス兵団はローラがすぐに潰したしな。もちろん報酬もきっちり貰っておいたぜ」
そいつは僥倖、これからはお金がいくらあっても足りないもんな。…多分。

「よし、話も済んだし、街に帰ろうか」
「おう、お前の帰りが今日になってルーリが心配していたぞ」
そういえば、森での生活では殆ど一緒だったからなー。一人で夜を過ごすなんてかなり久しぶりだろうな。
「ルーリの為にも早く帰りますか」
バイクに乗り、魔晶炉をふかす。

前世のバイクより静かな音を立てつつ、バイクを発進させる。
「今帰るぞー!ルーリッ!」
アクセルを全開にし、一気にクラッチを繋ぐ。急加速によるウィリーを無理やり押さえつけ、一目散にカルガの街へ向かう。
「ひゃっほう!」
『いえー!』
「おい待て!早ぇよ」
トレーラーに乗っているドルフを置き去りにして、森の中の道を爆走した。

 カルガの街に着き、トレーラー用駐車場向けバイクを走らせる。
すると、そこには険悪なムードを漂わせた男達が俺のトレーラーを囲んでいた。手には物騒な物まで持っている。
『なんでしょう?』
なんだ?ちょっと様子を見よう。

「よくも俺達のグラナス兵団を潰してくれたな!!」
「黒髪のクセに!!」
「謝罪と賠償としてトレーラーごと機兵をよこせ!!」
「そうだ、そうだ!」
…奴らはグラナス兵団の残党か…一体なんでこんなとこ居るんだ?牢獄行きじゃないのかよ。
ルーリ達はトレーラーの中か。警戒システムがあるから問題ないが。
「貴方達、一体何してるの!」
おっローラさんの登場だ。
「グラナス兵団の解散及び団員のギルド追放は規約に則った物です!
 それを被害者であるラフィング・レイヴンに責任を転嫁しようなんて!犯罪ですよ!これは!!」
「うるせぇよ!俺達はもうギルドにゃいられねぇんだ知った事か!それにここは壁の外だ!
 騎士団の連中も来ないだろうよ!」
「そもそもお前がチクッたのせいだろうが!このクソアマがっ!!」

興奮した元グラナス兵団員にローラさんが殴り飛ばされた。
「キャッ!」
ローラさんが殴られた瞬間、俺の堪忍袋の緒が切れた。
「何してんだゴルァ!!」
即座にアクセルを開け、残党に突撃する。
「"カーティス"、チェンジ!」
<Yes master>
バイクに仕込んだ人工知能が答える。バイク側面にあった巨大な剣とカイトシールドを同じく側面にある腕が掴む。
同時にボディが浮き上がる。前輪が後ろに、後輪が前に移動し足になったのだ。
バイクの腕が剣と盾を構えた。
<Ready>
人工知能が変形が完了した事を告げる。即座にカイトシールドを前に出し、ローラさんを殴った男に体当たりをかます。
バンッと言う音と共にきれいな放物線を描き最後にグチャっと男が落ちた。
突然現れた闖入者に一同が沈黙する。
変形して高くなったカーティスのシートから、残党どもの驚愕した顔が見える。
「お前ら、俺の身内に手ぇ出したこと後悔させてやる!!」
「なんだありゃあ?」
「クソふざけんな、やっちまえ!!」
十名を超える人数が居る残党たちがバイク型ロボ"カーティス"に向かってくる。
"カーティス"は某学生運動に乱入したバイクロボを参考に作ったロボだ。
変形したカーティスはバイクの胴体に腕が付き、バイクのタイヤをそのまま足にしたひょろ長の下半身を持つ異様な姿をしている。
ハハッ!テメェらに地獄を見せてやる。カーティスの右手に持たせている剣を地面に突き刺す。
別にハンデのつもりじゃない。剣だと殺してしまう可能性がある為だ。地獄は生きてなきゃ見れないからな…。
さっきと同じようにカイトシールドを前に出し突撃する。当然、奴らは避けようとして左右に分かれた。
そして、すれ違った瞬間やつらの一人の足をカーティスの右手で掴む。
「ぎゃああああああああああああああああ」
そのまま、引きずり180度ターンする。
今度は右手に持った男を振り回しつつ突撃する。
「やめっ!」
「あう!」
「ぎゃう!」
掴んだ男を武器にして暴れまわる。
振り回している途中でゴキッと痛そうな音がしたので右手の男を見ると泡を吹いて気絶していた。
これじゃあ、地獄を見てくれないじゃないか…。ぽいっと男を捨てると次の武器の品定めに入る。
「こっこンな奴、相手にしてられっか!」
早速逃げ出そうとした奴がいたので…
「君に決めた!」
エンジンを吹かし、逃げようとしていた男に急接近して掴む。
さぁ次は君が武器だ。
「いやだぁ!」
そして、次々とその武器で馬鹿どもを打ち据えていく。
そんな事を繰り返していたら、俺以外動いてるものは居なくなっていた。
ああ、ローラさんはトレーラーにすぐ避難していたから大丈夫だよ。

第21話 はい撤収

 「そこまでですっ!」
グラナス兵団残党に正義の鉄槌を下し(蹂躙とも言う)、うめいている連中をどうしようかと考えているところに
カルガの街の騎士団がやってきた。ガチャガチャと鎧を鳴らしながら隊列を組んで走っている。
残党どもが来ないと言ってたのに来たのは、襲われている対象が俺達だったからかな。まぁいいや。
治安維持を仕事にしているのに初動が遅いのは、この世界でも同じか。
「その者たちを引き渡してもらいましょう。これ以上やるというなら次は私たちが相手です!」
勇ましい事を言っているが、声が震えているのが笑えるな。
「うん?こいつら引き取ってくれるの?いいよ。ここに置いといても邪魔なだけだし」
「ご協力感謝いたします。それと、その乗り物についてお聞きしたいのですが……」
「えっ見てのとおりバイクだけど?」
『バイクですよね』
カーティスをバイクモードに戻し、しれっと答える。
野次馬や騎士団の連中の視線が「んな訳ねぇだろ!」と言っているがここは無視しよう。
「…わかりました。しかし、そのバイクでの街への乗り入れは禁止させていただきます!」
「は~い」
怯えている割には、言うべきこと言う。この隊長さん好感が持てるぞ。
良く見るとなかなか若い隊長さんだという事がわかった。
…よくよく考えるとこの人は、よっぽど貧乏くじを引くか、任務に忠実な人なのかな?
そんなやり取りをしていたらトレーラーの扉が開いた。
「兄さん!クリシアさん!」
ルーリが飛び出し、まだ俺がカーティスに乗っているのに抱きついてきた。
「おかえりっ!」
珍しく、いつも無表情のルーリが笑っている。めっちゃかわいい。セミロングの艶やかな黒髪が太陽の光を反射して美しく光っている。
っぱ久しぶりに一人だったのが寂しかったのかな?
そんなことを思いつつ、思いっきりルーリの頭をなでる。
『ただいま~』
「ただいま、それと御免な。いきなり外で泊まるような事になって…」
「うん」

そっけない返事だが、喜びの感情が伝わってくる。
ん?なんだろう。周りからぽーっとした視線を感じるぞ!まさかうちのルーリに手を出そうってんじゃないだろうな?
ルーリを撫でながら回りにキッと視線を向ける。あわてた野次馬や騎士団の連中が視線をそらす。
って隊長さんよ。俺の視線に気づかない位、ルーリに見とれてんじゃねぇよ。

「ゴウ様」
「お、ローラさん大丈夫か?そこの馬鹿に殴られていたが…」
「あの程度のこと問題ありません……」
問題無いと言っている割には、顔が赤いが…。あっ!
抱きついていたルーリを離し、バイクを降りる。
「ローラさんすいません。さっき身内なんて言っちゃってご迷惑だったでしょう?」
 そうだ。俺はローラさんのことを身内と言ってしまったんだ。俺は、公平に接してくれる人を身内と感じてしまうらしい。
…どんだけ俺、不遇なんだよ。矯正せねば。
「いえ、とんでもありません。信頼してもらっているということでしょう。むしろ嬉しいです」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
「あとコレは、何ですか!」
キラッキラした瞳で聞いて来た。
「コレですか?バイクですよ…ちょっと変わった」
「ちょっと変わったではないですよ!小さな機兵みたいになったじゃないですか!」
…う~ん…もしかして…ローラさんって……。
「もしかしてローラさんって機兵好き?」
「あっはい。私は元々は機兵乗り志望だったのですが…魔法の才がなく。何とか動かせるまでにはなったのですが
 機兵で戦闘をこなすまでにはいたらず…。それでも機兵に近い仕事をしたいと思いまして 機兵ギルドの方へ就職しました」
なんと!機兵好きの女性が居るとは!!
「すばらしい。じゃあ"カーティス"に乗ってみますか?多分機兵より操作は面倒ですが……。誰でも操縦できると思いますし……」
「よろしいのですか!ありがとう御座います!!」
 カーティスの操作方法を伝授する。
「カーティス、サブライダーの登録をしろ。対象者は、目の前に居るローラ・グラニスさんだ」
<Yes master>
カーティスが返事をするのを確認してローラさんに乗るように促す。
「ローラさんもう乗っても大丈夫ですよ」
「…すみません。このバイク、喋るのですか?」
「ん?趣味で喋るようにしたよ。ゴーレムだって喋るじゃん。気にすんなって」
「喋るゴーレムは国宝級なのですが……」
「いいから乗ってみなって」
なんかうだうだしそうなのでとっとと乗せる。
「バイクにのったら"カーティス、チェンジ"って言ってみな」
「わかりました。カーティス、チェンジ」
<Yes lady>
さっきと同じようにカーティス立ち上がる。高性能のジャイロを詰んでいるから立ち上がっても倒れる事は無い。
<Ready>
「これは!これはーーーーーーーーーーーーーー」
興奮したローラさんは"これは"を連呼しながらカーティスに乗ってカッ飛んで行く。…そのうち帰ってくるだろう。

ローラさんをほっといてアリカさん達に挨拶しないとな。
「アリカさん、カーラちゃんただいま。大変でしたね」
「ゴウさんお帰りなさい。気にしないでください。あの人と二人だった頃の方が大変だったわ」
「ゴウお兄ちゃんお帰りなさい。ねぇねぇダイドルフがかっこよくなってるよ!どうして?ねぇどうして?」
顔が凶悪に変わったはずのダイドルフはカーラちゃんには大好評のようだ…。
「それはね。作ったはいいが、顔が怖すぎたからね。カーラちゃんが怖がらないように面頬をつけたんだが…」
「そんなことないよ!今の方が断然かっこいいよ!」
さすが、機兵にダイドルフと名づける少女。どってことないか……。

ドルフのトレーラーが帰ってきたのは、それから暫くしてからの事だった。
「大変だったみてぇじゃねぇか。大丈夫だったか?」
「ゴウ兄ちゃんが皆やっつけたから大丈夫!すごかったんだよー。バイクがびゅーんってなってどかって…」
「あー、詳しくは後で聞くからな…カーラ。とりあえず中で話そうか」
「そうだな」

「…って事があったんだ」
トレーラーの中でお茶を飲みながら今回の事件のあらましをドルフに説明する。
「まったく、乗ってる奴も乗ってる奴だが、サポートする連中も大概だな……」
「まったくだねぇ。でもこれで手を出す馬鹿はこの町から居なくなったと思って良いだろうね」
貴族、商人、騎士団、機兵乗り、チンピラ、この街で何かちょっかいを出してきそうな連中はほぼ全員〆た事になる。
…なんか忘れている気がするが…まぁ出てきた時に考えよう。
「おっそろしい奴だな。ゴウは……」
「善良な一民間人になんて事を言うんだ」
まったく心外だな。

そこでトレーラーの扉をノックする音が聞こえてきた。
「すみません。ゴウ様いらっしゃいますか?」
ローラさんが帰ってきたようだ。
「はーい。ローラさんカーティスはどうだった?」
扉を開けつつ、ローラさんに感想を聞いてみる。
「これは、…いいものです」
万感ここに極まるといった恍惚とした表情だ。
「そいつぁ重畳。また今度暇な時にでも乗りに来て良いぞ」
「ぜひ、お願いします!!」
ローラさんから返してもらったカーティスをトレーラーの上に乗せるために外に出る。
カーティスに乗り人型に変形させる。そしてそのままトレーラーにジャンプさせ再び変形させて駐車する。
「そんなことも出来たのですね…。それでは今日はこれで失礼します」
「おう、すまなかったな…今日は殴られちまって……」
「気にしないでください。こちらの不備ですので…。それにカーティスに乗る事もできましたので満足です」
「そうか、じゃあな。また明日ギルドへ行く」
「お待ちしております」

翌日、機兵ギルドに行き、兵団登録を完了させた。
ちなみにアリカさんの考えたラフィング・レイヴンのエンブレムは、片翼を広げたカラスが
ニヒルに笑っている図柄だった。早速グランゾルデ改とダイドルフの左肩に書き込んだのは言うまでも無い。

閑話 ある青年の邂逅

 あの時、僕は弱かった。
近所に居たガキ大将(名前はもう思い出せない。)にいつも扱き使われていたり、子分達に暇だからと言って小突かれていた。
逆らう事は出来なかった。いや、しようとも思わなかった。何故ならガキ大将の子分には、父さんの上司の子がいたし、
騎士団幹部の子もいた。
母さんは、いつも穏やかに笑っているような人だ。
何時も子分達のお母さん達とお茶を飲んでいても、聞き役に徹しているような、悪く言えば影の薄い優しい人だ。
もし逆らったら父さんと母さんに迷惑が掛かる事は、幼かった僕にも、わかっていた。
今にしては賢しい子供だったと思う。だから何時も心配を掛けたくなくて「いつも仲良く遊んでいるよ!」としか言えなかった。
"今日は何をされるだろう?"又は"今日は何をさせられるんだろう?"と怯えている、
惨めな自分を知られたくなかっただけかもしれない…。

鬱々とした日々を過ごしていた。そんなある日、彼と出合った。
きっかけは、街の一角でぶらぶらしていた時に騎士団の子が「おい、金を持ってる黒髪を見つけたぞ!」と言ってきた事だ。
路地裏で機兵乗りらしき男に、何かを売っていたのを見たらしい。
ガキ大将は、ニヤリと笑い「じゃあ貰おうか」と言って意気揚々と彼を探しに走り出した。
当時僕は足が遅かったので、すぐに引き離されてしまった。追いついた時、既に喧嘩は始まっていた。

僕は、いつも通り三人で囲んで金を巻き上げ、魔法で小突いて終わりだろうと思っていた。
だが彼は、ガキ大将達三人と対等に…いや、優勢に戦っていた。
僕はそんなありえない光景に呆然としてしまった。彼は黒髪だ。魔法が使えないのだ。子供が使う魔法と言っても当ればものすごく痛い。
何時もふざけ半分にぶつけられている僕は、それがよく分かっている。
それに人数もガキ大将達の方が多い。圧倒的不利な状況、それなのに彼は、戦っていた。
時に拳を、時に地面に落ちている小石を、時に地面その物を、その場にあるものを全て使って戦っていた。

僕は、恐ろしかった。彼はきっと勝つだろう。魔法を使えない不利?人数の不利?そんなものは関係無いと言わんばかりの戦いだった。
ガキ大将がやられたら最後、次は僕に襲い掛かってくるだろう。子分の一人にも勝てない僕に勝てるわけが無い。
そう思った瞬間、僕は踵を返して逃げ出していた。

逃げながらふと、疑問が浮かんだ、ガキ大将達が負けた後、何を考えるだろう。それは当然、怒りだ。きっと僕は八つ当たりされる。
それも今までの比ではない位の…。

とても恐ろしかった。

とても、とても恐ろしかった。

子供のする事など、たかが知れている。今の自分なら、まだそう思えるだろう。しかし、当時の僕には地獄の釜に放り投げられるような恐怖だった。
だから考えた。どうすれば僕に八つ当たりされないようになるだろうか?と。
今からでも戻ってガキ大将達に加勢する?…嫌だ!あの彼に敵う分けない!!
じゃあこれからガキ大将達からも逃げ続ける?…無理だ!あいつら絶対に諦めない。
なら…助けを呼んでくるしかない!!

僕は、近くにあったガキ大将の父親の店に駆け込んで言った。
「大変だよ!×××が近くの路地で苛められて酷い目にあってる!!」
「なにぃ?何処だ!案内しろ!!」
僕は、必死に走ってガキ大将の父親を喧嘩の場所まで案内した。

「クカカッ!ざまぁみろ」
丁度喧嘩が終わったところだった。良かったギリギリ間に合ったと思った。だが…。

「このガキ、何うちの子を苛めてやがる!【雷よ、この者に 罰を】」
「ギャア!!」
いきなり、三文節の魔法をぶつけるとは思わなかった。喧嘩を止めるか、精々彼を追っ払う位だと思っていた。

「うう、何言ってやがる…。こいつらが俺を恐喝しようとしたんだぞ!」
「うちの子がそんなことするわけ無いだろう!この嘘吐きめ」
彼がもっともな事を言うがガキ大将の父親は聞く耳を持たなかった。
少しほっとしたが、彼が僕を見ていることに気づいた。目が"お前が呼んだな!"といっているのがわかる。

「そうなんだ。父さん、あいつが俺達の小遣いを取ったんだよ」
のっそりと起き上がった。ガキ大将が平然と言った。
「やっぱりそうか…。無能の奴は始末がわるいな。悪い子にはお仕置が必要だな…。【雷よ、この者に 罰を】
【雷よ、この者に 罰を】【雷よ、この者に 罰を】【雷よ、この者に 罰を】」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
路地裏に彼の悲鳴が響き渡った。
「フン、騎士団には突き出すのは勘弁してやる。これに懲りたらもう悪いことするんじゃないぞ!!」
彼が体が痺れて動けない事をいい事に、ガキ大将が彼の持っているお金を奪う。
僕は、ガキ大将の父親の後ろで隠れて見ていることしか出来なかった。
「ヘッ」
「ククッ」
「バーカ」
ガキ大将達が、侮蔑の声をかけながら去っていく中、僕は見た。彼の目を……。

"絶対に許さない"

彼の目はそう言っていた。多くの魔法に晒され、体も満足に動かせないはずの彼。
僕は恐ろしくなって、路地裏から逃げ出した。


あの事件の後から、僕はガキ大将達から距離を取っていた。彼からの復讐を恐れたのだ。
ガキ大将達も彼から奪ったお金分け前が増るからか、何も言ってこなかった。

それから僕は街中を歩いた。今考えると、きっと逃げ道を探していたんだと思う。
ガキ大将達から…そして彼から……。

「よぉ。パシリ君」

だが出会ってしまった。
最も会いたくなかった彼に…。
あの時ほど神を呪った事は無い。
そして同時に今ほど彼に会ったことを神に感謝したことは無い。
人気の無い路地裏で、声を掛けられビクッとなりつつも、聞き間違えである事を祈り振り返る。
聞き間違いではなかった。あの時と同じように薄汚れた外套と着古した服を着た彼だ。
「ヒッ」
思わず悲鳴が出そうになる。
「まぁ、安心しろパシリ君。君をどうこうするつもりは今は無い」
彼は言った。'今は'と。と言うことはこれからの返答しだいでどうこうするつもりなのだと思った。
「なっ何でしょう?」
あの戦いを見た後で彼を'黒髪だから'と言う理由で侮る事は出来ない。
「なぁに、ちょっと'お話'に来ただけさ」
「わっわかった」
僕には嫌とは言えなかった。
それから僕は、いろいろな事を聞かれ、そして答えた。質問の端々から彼がやはり復讐をするのだという気概を感じた。
僕にはどうしても聞きたい事があった。だから僕は意を決して聞いた。
「どうして魔法が使えないのに、そんなに強いんですか?」
「俺が強い?馬鹿言うなよ。あの雷親父に負けたじゃねぇか?」
「そうじゃなくって、何で負けたのにまた戦おうって思えるのが不思議で…」
「ああ、そう言う事か…。だって許せねぇじゃん。俺の金奪ったんだぞ、あいつら」
「でも、×××のお父さんには勝てませんよ」
「ああ、あの雷親父か…。まぁ正面から戦ったら、勝てないわな」
「じゃあ…」
「なら、正面以外で戦えば良い」
「えっ」
「後ろからの不意打ちでも良いし、別に俺自身が倒さなくても良い。やり方はいくらでもある。
 お前だって俺を倒すために雷親父を呼んだじゃないか?」
「それは……」
それは、僕が逃げる為にやった事だ。
「そう言う意味じゃ、俺はお前に倒されたって事だな」
「あわわっ。ごめんなさい。ごめんなさい」
「まぁ良いさ。色々情報も聞けたしな…。お前さんには手は出さないよ。
 それに、復讐に失敗しても情報をお前から聞いたって言わねぇから安心しろ。じゃあな」
そう言って彼は、路地裏から去っていこうとした。
「待って!ぼっ僕も手伝う!!」
「何?」
「僕だってあいつらと一緒に居るのはもう沢山だ!!」
それから僕は胸の中に溜まっていたドロドロした思いを全て吐き出すように喋った。
何で僕があいつらにペコペコしなきゃならないんだ。
何で何時も魔法をぶつけられたりしなきゃいけないんだ。
何で何時も僕のおやつを取るんだ。
何で…。
何で…。
自分がこんなにも喋れるのかと自分自身、驚いたくらい話した。
気が付くと、日が暮れていた。
彼はただ静かに僕の独白を聞いてくれていた。そして
「…そうか…明日昼の鐘一つ半ぐらいに、ここに来い。またな」
そう言って彼は、去っていった。

翌日から僕は彼と彼の復讐の手伝いを始めた。それは今までで一番楽しかった日々だった。
やってる事は復讐の為の作戦を立てたり、罠作りなので、決して褒められたものではないが…。
そんな中、僕と彼は、いろんな事を話した。お母さんの料理がおいしいとか。機兵(?)の話とか。彼の妹が可愛いとか。機兵(?)の話とか。
彼が機兵乗りになりたがっていたのは驚いた。その時の僕は無神経にも「黒髪の君はなれないじゃないか」と言ってしまった。
しかし彼は、「言い伝えでは精霊機兵ってのがあってな。それなら、もしかしたら俺でも乗れるかもしれないんだ」と言っていた。
彼の奪われたお金は、精霊機兵を探す為の軍資金だった。それだけ彼が本気という事だ。

全ての準備を終え、とうとう作戦決行の日を迎えた。
僕は、大通りでガキ大将達が彼に釣られるの待った。
「テメェらにくれてやる金なんてねぇんだよ!」
彼の声が聞こえた!合図だ!!僕は、手はずどおりに彼が逃げ込む路地裏に罠を仕掛ける(一般人が引っ掛からないように直前まで仕掛けなかった)。
そして路地においてある樽や箱の上に小石や砂の入った袋を置いていく。
これで彼が作戦通り逃げれる確率が上がる。僕は罠に嵌るあいつらを見たかったが、まだまだやる事があるので自重した。

全ての罠と補給品を仕掛け終え、次なる戦場、噴水広場に向う。ここでの僕の役目はバケツに噴水の水を汲んでそのままにしておく事。
このバケツが有るか無いかで大きく復讐の結果が変わる。重要なピースの一つだ。
バケツのそばに座って彼が繰るの待っていると、彼があいつらを引き連れて噴水広場に入ってくるのが見えた。
それを確認して今度はガキ大将の父親を呼びに行く。

「大変だよ!×××が近くの噴水広場でで苛められて酷い目にあってる!!」
「なんだと!わかった!!」
ガキ大将の父親は、聞くやいなや猛烈な勢いで走って行った。
この調子だと、母親達も早く呼んだ方が良いな……。走るガキ大将の父親の背中を見ながら僕はそう思った。

この時間、母親達は、うちでお母さんと一緒にお茶会をしているはずだ。何時もうちでお茶会ばっかして…うちは喫茶店じゃないんだぞ!!
僕は、あいつらの母親達も嫌いだ。お母さんはメイドじゃないんだぞ!

そんなことを思いつつ、僕は自分の家に走った。バンッと大きな音出しながら扉を開けた。
「どうしたのヘイトス?そんなに慌てて?」
驚いて聞いてくるお母さんを無視して、あいつらの母親達に言う。
「大変だよ!!×××と×××が(ハァハァ)近くの噴水広場で(ハァハァ)大変なんだ!!」
コレは僕にとって一世一代の演技だった。血相を変えたあいつらの母親達がうちから駆け出していった。

再び噴水広場に着いた時、そこには既に人だかりが出来ていた。僕は人だかりをかき分けながらガキ大将の父親の背を目指した。
やっとの事でガキ大将の父親の背から彼を見る事が出来た。僕は彼に目で合図し、舞台が整った事を知らせた。

「バカは死ななきゃ直らないっては、本当のようだな……」
「はいはいそうですね。とっとこのバカどもを起こして引き取ってくださいよ」
彼は僕が用意したバケツの水を倒れているガキ大将達に盛大にぶっ掛けた。
「ほら、起こしてやったから…とっと連れて帰れ。ハゲ親父」
ここからガキ大将の父親の顔を見ることは出来ないがものすごく怒っている事はわかった。
そこからは、一瞬だった。
「このクソガキィーーー!!【雷よ、この者に 無慈悲で 壮絶な 鉄槌を】!」
 彼の雷魔法対策の秘密兵器を投げる音が聞こえた。
 ガキ大将の父親の手から雷が放たれる。
「「「ぎゃぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」」」
広場に響くガキ大将たちの悲鳴の三重唱。
彼と僕の復讐が成功した瞬間だった。
そこからは、騎士団やあの母親達が入り乱れた阿鼻叫喚の地獄絵図だった。僕は混乱するの人達の中、手はずどおりに彼の投げた秘密兵器を回収し、
その場から離れた。
「クカカカカカカカカカカッ」
彼の特徴的な笑い声を背中越しに聞きながら……。


あの事件の後、僕は彼とは会ってはいない。それは最初からの取り決めだった。復讐が成功しても失敗しても会わないようにしようと…。
あの復讐は、彼曰く「コレは、お客の中にサクラ(協力者)を仕込んだ手品みたいなもんだ。だからサクラ(協力者)がいたって事がわかったらおしまい」
だそうだ。言っている意味がよく分からなかったが、僕が協力していた事がばれたらいけない事はわかった。

彼はその後すぐに行方不明(家出と言われているが僕は信じていない)になってしまったが、彼は絶対に死んでなんかいないと信じている。
彼は、どんな状況でも諦めず、精霊機兵を探している事だろう。
彼は、僕にとって初めての本当の友達といえる存在だ。名前もお互い名乗らなかったが…。また会いたいと思う。
今度は、お互い堂々と名を名乗りあって友達になろう。その時はお互い、機兵一勝負するのも一興だろう。
そう僕は、機兵乗りを目指す事にした。彼の語った機兵(?)の物語に僕も魅せられたのだ。
僕は今、王立フォルモ高等士官学院に入学し、優秀な機兵乗りになるべく毎日勉強している。

名も知らない友よ!

再び出会える事を楽しみしているぞ!

第22話 護衛の依頼

 兵団登録を完了させてから2ヶ月がたった。
最初は俺達はダイドルフの機種転換訓練を兼ねて、軽めの依頼をこなしていたが近頃は結構大物の魔獣の討伐依頼をこなしている。
暇な時はルーリがカーラちゃんに格闘技とかを教えたりもしている。
予想通り、日本刀に興味津々だ。カーラちゃんが大きくなったら、カーラちゃん用の機兵を作るとしよう。

俺は今、ローラさんに呼ばれて、機兵ギルドに来ている。
けどローラさんは、今取り込み中なので俺は併設されているカフェで一服中だ。
そんな時、衝立の向こうから機兵乗りらしき男達の会話が聞こえてきた。

「なぁ、お前最近活躍してる兵団知ってるか?」
「ああ、知ってるぞ。"パンデモニウム"だろ」
 なに?最近活躍している兵団はうちじゃないのか?うちより強そうな兵団あったかな…?
「そうそう、一つ目の"サイクロプス"と凶暴無比の"バーサーカー"がいるんだろ」
「それだけじゃねぇんだよ。死を予言する"デュラハン"と無数の首を持つ"ヒュドラ"もいるそうだ」
「うへぇおっかねぇな。一体どんな奴が率いてるんだか…」
「それがどうも黒髪らしいんだよ…。そのくせ、めちゃ強ぇーって話だ。なんと無詠唱で魔法が使えるらしい」
「うっそだ~。黒髪に魔法が使えるわけねぇだろ」
「それがよ。その黒髪の奴なんだが…。悪魔と契約してるって噂だ。
 なんでも奴の隠している右目が契約した証らしい。見た奴が言うには人間の目じゃねぇってよ」
「それこそありえねぇだろ。うはは」

…うちのことじゃねぇか!!
サイクロプスはグランゾルデ改だしバーサーカーはダイドルフだろ。デュラハンはカーティスか?首無いしな。
んでトレーラーがヒュドラか・・・。どっかでマジックハンド出して整備しているところ見られてたかな?
なんで"ラフィング・レイヴン"の名前じゃねぇんだ?
…別に名乗った事無かったな…。しかもなんか言ってる事がうまいな…。カーティスは良く偵察で使ってたしなぁ。
いっその事、うちのトレーラーを、ヒュドラって名前にしようかなぁ…。

「ゴウ様、クリシア様。呼び出しておいて、お待たせして申し訳ありませんでした。こちらへどうぞ」
 おっ。ローラさんが来た。思ったより早かったな…。
「わかりました」
『はーい』
席を立ち、衝立の向こうの機兵乗りらしき男達をチラ見する。一人はこちらに背を向けているが、
もう一人はこちらを見て顔を青くしている。
それに気づいたもう一人も後ろを向いて固まった。…ウーンこんな時どう反応すればいいんだろう…。
まぁいいや。ローラさんについていこう。

 ーラさんに案内されたのは、いつもの応接室だ。奥にはいかにも魔法使いで御座いというローブを着た爺さんが座っていた。
「ゴウ様、クリシア様こちらへどうぞ」
俺は、爺さんの前に座る。そうしたら爺さんが喋りだした。
「ほっほっほ、あなた方が噂の"パンデモニウム"の代表さんですかな?」
言っている事は何気ない感じでも、目には剣呑な光を宿している。
な~んか、品定めされているような気分だ。実際そうなんだろうが…。
「ダーム様、違います。ゴウ様は"ラフィング・レイヴン"の代表です」
「?ワシは、"パンデモニウム"の代表を呼んで欲しいと言ったんじゃが?」
「"パンデモニウム"は、他の機兵乗り達が勝手に言っているにすぎません。本来の兵団名は"ラフィング・レイヴン"です」
「んで、ローラさんこの爺さんはなにもんだ?」
「ダーム・フォゼット様は…」
「いや、よい。ワシから自己紹介させてもらおう。ワシはダーム・フォゼット。王立フォルモ高等士官学院学院長じゃ」
なんともはや、長い肩書きですこと…。
「では、俺も改めて。"ラフィング・レイヴン"の代表をしているゴウ・ロングだ。…で学校の学院長先生が俺に何のようだ?」
『私は精霊のクリシアです』
「こんにちは、美しい精霊様。…もちろん依頼に決まっておるじゃろう。おぬしの兵団に試験官をしてもらおうと思っての」
「俺達が王立の学校の試験官?冗談だろ?そんなもんあんたの学校にごまんと居るだろう?」
「それなんだがの…。恥ずかしい事に近年王立フォルモ高等士官学院卒業生の質が著しく低下しておってのう。
知っての通り、昨今、隣国のルゼブル共和国との国交が悪化しており、南の国境付近で小競り合いが絶えん。
いつ戦争になってもおかしくないんじゃ」
知りませんよ。ついこの間まで森に篭ってたんだから…。ちなみにルゼブル共和国ってのは、この国の南にある国で、
その名の通り共和制を取っている国だが…。俺が前聞いた話だと、まともそうな国だったんだけどな…。
まぁ七年前の話だからなぁ…。
「軍は、優秀な士官が喉から手が出るほど欲しい。…が学院の卒業生は一から指導しないと使い物にならん。
 そんな現状が危険だと判断したルード王は、原因の究明を命じたのじゃ。
 原因を調べた結果、前学院長を含め、かなり内部が腐敗しておったのじゃよ。生徒の親から賄賂を貰い成績を誤魔化す者、
 ろくな実績も無いのに縁故で教師になる者とかで溢れておったのじゃ。それで一斉改革をしたものの、そのお陰で
 深刻な人員不足になってしまったのじゃ。授業は何とかなっておるが、魔晶機兵の試験を行える者がおらんのじゃ。
 それに王国の軍人を試験の間だけでいいから寄越してくれと頼んでも"軍はそんなに暇じゃない"と言われてしまってのう。
 仕方が無いから野良の機兵乗りを雇おうと思ったのじゃ」
「それなら、俺達みたいな駆け出しの怪しげな兵団じゃなく、もっとまともなとこに依頼すればいいじゃないか?」
「有名どこは全て頼んだのじゃが、"ガキの面倒など見てられるか"と言われたのじゃ」
まぁもっともだろうな。下手にお貴族様のガキに傷でも付けてみろ、下手したら文字通り首が飛ぶ。
「それで俺たちのとこにお鉢が回ってきたって事か…。だが断る」
「何故じゃ?もちろん報酬ははずむぞい」
「ギルドとしても、この依頼を受けて頂きたいと思います」
「他とあまり違う理由じゃないが第一に貴族のガキが野良の機兵乗り…しかも黒髪の俺の言う事を聞くはずが無い。
 第二にメリットが無いというかデメリットしかない…。そんくらいかな」
「う~ん。貴族が言う事を聞かないというのは問題ないんじゃ。今回の試験は実戦形式での。
 敵にさらわれた要人を奪還するという形式にする予定じゃ。君たちにはその護衛役をやって欲しいのじゃ」
「それだって、貴族のガキに怪我をさせたらこちらの首が飛びそうじゃないか?」
「一応、双方模擬戦用の武器を使用する事になっておる。それに怪我をする事になっても自己責任じゃ。
 それは誓約書にも書かせておる。最悪訓練中に死亡しても責任はワシがとる」
「…護衛って事は、どこからどこまでを護衛すればいいんだ?」
「カルガの街からファードの街までじゃ」
「!」
ファードの街!…ファードの街か…確かにそろそろ復讐に行ってもいい頃だろう。おっちゃん達にも会いたいしな。
ミレスもきっと綺麗になっているだろうな…。妹にはもう会う事も無いだろうが、あいつらには復讐しないとな…。
…けど一応ドルフ達にも了解を得てからにしたいな。
「…少し考える時間をくれ。仲間と相談したい」
「わかった。ワシはあと三日ほど、この街おるからその間に結論を出のすのじゃぞ」
「明日のこの時間までに結論を出す。連絡はどこにすればいい?」
「明日またワシもここに来るから問題ないわい」
「了解。んじゃまた明日な学院長さん…。ローラさん」
『さようなら~』
席を立ち、応接室を出る。

どうやって話したもんかなぁ。応接室を出てギルドロビーを通る。
最近はちょっかいを掛けてくる馬鹿がいなくなったのは楽でいいねぇ。

「おい、何で黒髪野郎がこんなとこにいんだ?」
楽でいいねぇと思ったそばからこれかよ!!無視無視…。
「てめぇに聞いてんだよっ!」
この街に来たばかりであろう機兵乗りが、馬鹿にされたと思ったのか殴りかかってきた。
はぁこの手の手合いはうざいんだよなぁ。
馬鹿正直なテレフォンパンチを繰り出してくる男を必殺の左カウンターで沈める。
「ガッ」
「ふぅ、めんどくさ…」
崩れ落ちる男を尻目に俺はギルドを出た。
「おい、またあいつに突っかかってった馬鹿がでたぞ!」
「おー久々だな。これであいつをからかって遊べるな」
「俺酒場の連中に教えてくるぜ!」
ホント意地悪な連中が多いこって…。


それから俺はトレーラーに戻って今回の依頼の件についてドルフ達に話した。
「…別に受けても良いんじゃないか?特に問題ないだろ」
「俺は、ドルフが貴族のガキを殺さないか心配だな」
「おいおい俺を何だと思ってるんだ」
「バーサーカー」
「…」
「いつも暴走しちゃダメっていってるんだけどねぇ~」
奥さんのアリカさんも困り顔だ。
「暴走しちゃダメッ!」
おう、カーラちゃんにまで言われてら。
「それと、今回ファードの街に行ったら、そのまま色々なとこを回りたいんだがいいか?」
「そいつぁかまわねぇが、そのことをローラには言ったか?」
「いや、まだだ。明日言うつもりだ」
「兄さん、もうこの街には来ないの?」
「いや、気が向けばまた来るさ。それにクリシアさんの故郷も探さないとね」
『そういえば、そんなこともあったわね』
忘れていたんですか?
「じゃあ、依頼は受けるという事で…。ドルフ、夕飯の後で護衛の方法を確認しよう」
「そうだな。まぁこっちには機兵が二機しかないんだ。碌な…それで要人の護衛っておかしくねぇか?」
「…そこは、最高機密につき大規模な部隊は動かせなかったって設定で行こう」
「じゃあ俺達は少数精鋭部隊って事だな。ガハハ」

アリカさんと最近アリカさんから料理を習い始めたルーリが作った夕食を食べた後、俺達は護衛の仕方を検討していた。
カーラちゃんは昼間ルーリと一緒に訓練しているせいかもう眠ってしまった。
「…なぁ皆。今回の目的地のファードの街はな、俺の故郷なんだ…」
 皆には俺の境遇を話しているが、街の名前までは言ってなかった。
「「「『!』」」」
「…じゃあ復讐をするのか?お前の親に?」
「ああ、するよ。…けどまぁ殺しはしないよ。俺の受けた苦しみを百万倍にして返さないといけないからな。
 死んだ先にある地獄なんて、あるかわからないとこで報いを受けさせるなんて慈悲深いことはしないよ」
「ホントは止めるべきなんだろうよ。復讐なんてくだらねぇってな…けどな、
 ケジメをつけなきゃいけない事ってもんがあることもわかってんだ…。
 だから言っとくぞ。きっちりケジメをつけてこい。これからの為にもな…」
「おう、きっちり終わらせて心機一転これからの旅を楽しく行くぜ!」
俺の復讐宣言を聞いても、それでも応援してくれる人達がいる。
だからきっちり終わらそう。

第23話 別れと…あれ?

 翌日、俺は約束どおりギルドを訪れた。
何故か、副ギルドマスターなのに受付に座っているローラさんに声を掛ける。
「こんにちは、ローラさん。学院長さん来てる?」
「こんにちは、ゴウ様、ダーム様ならもういらしております。応接室でお待ちです」
「わかりました。行ってきます。それと後でローラさんにもお話したい事がありますのでお時間をいただけますか?」
「?わかりました」
ローラさんの返事を確認し、ダームさんの待つ応接室に続く廊下を進む。
応接室の扉を開けると、昨日と同じように魔法使いのローブを着てソファに座っていた。
ただ、隣に見知らぬ革鎧を着た男が不機嫌そうに座っている以外は。
「こんにちはダーム学院長。…そちらの方はどなたです?」
『こんにちは~』
「っ!ふざけんな昨日会っただろうが!」
…はて?会っただろうか?ムゥ思い出せん。
「…昨日ギルドのホールで会っただろうが!!」
『きっと昨日、喧嘩を売ってきた人ですよ~』
「ああ、そういえばそんなの居たな」
「この野郎!!」
「待つのじゃ」
ヒートアップした男を止めたのはダーム学院長だった。
「昨日はこの男がした無礼は謝罪する。黒髪に…失礼。
 君達に依頼するのを強硬に反対してな…それであんな真似をしたのじゃろう」
「当然です。うちの生徒を黒髪なんぞに任せられますか!」
「だまらっしゃい!!」
ダーム学院長の一括に昨日の男が黙る。
「彼は、機兵ギルドが推薦した者じゃ。それを気に入らないからと言って喧嘩を売るなど教育者を何だと思っておるのじゃ!」
「しかしっ!」
「しかしも案山子もあるかっ!これはワシの決定じゃ文句は言わせん!!」
「っ!」
…微妙に演技臭い、やり取りの後ようやく話し合いが出来る空気が出来た。
とりあえずダーム学院長の対面にあるソファに座る。
「えーっと、とりあえず依頼の件は、条件付で受けても良いという結論に至りました」
「それは、重畳じゃの。して条件とはどんなものじゃ?」
「俺達の兵団名等の情報を一切出さない事。これは、試験後のいざこざを避ける為です」
「確かに、うちの生徒は無駄にプライドが高いからの、黒髪に負けたとあったらどんな手を使っても君達を消そうとするじゃろう」
「だから、自分たちが黒髪に負けたと知らなければ、"やはりギルドに所属してるものは強い"と思ってくれるだけで済みます」
「わかった。そちらの条件を呑もう。依頼は成立じゃな。では、依頼の詳細を改めて話そう。
 この依頼は、王立フォルモ高等士官学院の試験官をやってもらう事じゃ。試験の内容は敵軍に奪われた要人を奪還する事。
 君たちには敵軍の役をやってもらう。要人役はワシ、審判は彼にやってもらう予定じゃ」
「学院長がわざわざ要人役をやらなくてもいいんじゃないか?」
「今回はワシがこの実戦形式の試験を提案したんじゃ。ワシが出ないでどうする」
そういうもんか?
「護衛はこのカルガの街からファードの街までじゃ。日数にして大体二週間チョイっと言った位になるかの。
 メンバーは君たち"ラフィング・レイヴン"とワシらじゃ」
「あなた方の編成は?」
「うん?ワシは、要人専用車両に審判用に使う機兵とトレーラー、そのメンテナンス要員じゃな。
 ワシらの食料等は考えないでよい、ワシらでちゃんと用意するわい」
「…それと武器に関しては確か訓練用の武器でしたよね?」
「そうじゃ。訓練用の壊れやすい武器を用意してある。剣、槍、斧選り取りみどりじゃ」
フム、…俺たちの特製装備は使えないか…。まぁ武器が使えないだけでそれ以外は使えるからいいか。
学生相手だし、問題ないだろう。
「移動ルートはどうなっている?こちらで指定できるのか?」
「それはこちらで指定させてもらう」
「出発は何時だ?」
「明後日の朝の鐘一つじゃ」
「早いな…」
「しょうがないじゃろう。なかなか試験官をやってくれる兵団が無かったんじゃから。その分報酬は弾むぞい」
まぁそうじゃないとうちには来ないか…。
「俺とした事が報酬を幾らもらえるかまだ聞いてなかったな…。幾らだ?」
「まず報酬として共通金貨150枚と護衛の成功報酬としてさらに共通金貨50枚じゃ。
 これは、試験を真面目にやってもらう為にこのようにした」
フム、護衛任務としてはちょっと安いが学生相手の仕事としては破格だろうな…待てよ。
「なぁ。護衛中に本当に盗賊や魔獣に襲われたらどうするんだ?」
「…おお忘れておった。その場合は、追加で共通金貨50枚を支払おう」
あぶね~これを確認しないで契約書にサインしていたら、自分の馬鹿さ加減に絶望してた…。
「わかったそれで依頼を受けよう」
「これが契約書じゃ。確認してくれ」
テーブルの向こう側に座っているダーム学院長から契約書が出される。
俺は内容に問題が無いか、話し合ってない内容が無いか確認してサインした。
「これで契約は完了した。明後日を楽しみにしとるぞい」
「おうよ。楽しみにしとけ」
意地悪な笑みを浮かべて俺はダーム学院長に答えた。


「ローラさん、今良い?」
ダーム学院長との話し合いを終え、ギルドの受付に居るローラさんに声を掛ける。
「はい大丈夫です。何でしょうか?」
「実はね。俺達、今回の依頼が終了したらそのまま旅に出ようと思ってね」
「!…ということは、もうこの街には、戻らないと?」
「戻らないわけじゃないけど…たまにしか来ないだろうな」
「そうですか…では次はファードの街で活動されるのですね?」
「う~ん。ファードの街には長居するつもりは無いよ。すぐに別の街に行く予定だ」
「…寂しくなりますね」
「そう言ってくれるのは、ここじゃあローラさんだけだよ。明日みんな連れて、挨拶に来るからね」
「いえ、こちらから参ります。カーティスにもあいさつしたいですから」
ローラさんは、良くカーティスに乗りに来ていたからなぁ。あいつにも挨拶したいだろうな。
「わかった…じゃあご馳走作って待ってるよ」
「気を使わなくても大丈夫です」
「また明日」
『また明日』
「…はい。さようなら」

翌日、ダーム学院長達との打ち合わせを終え、ローラさんとのお別れ会をするためにローラさんと一緒にトレーラーに戻ってきた。
「じゃあ、お世話になったローラさんの健康と繁栄(?)を祈って……」
『「「「「「「かんぱーい」」」」」」』
…よくよく考えたら、お別れ会って俺達がされる側だよね…。
それから俺達は、ローラさんとの思い出を語ったり、クリシアさんに魔力を吸われたりしながら楽しくお別れ会をした。
前世でもお別れ会をされたり、したりしたがこれほど終わるのが惜しいお別れ会は無かった。
最後は、トレーラーを出てのお見送りだ。これは外においてあるカーティスの為っていう意味合いが強い。
「今日は、本来なら私がおもてなししなければならないのに、色々ご馳走になってしまいすいません」
そう言ってローラさんは頭を下げた。
「それとありがとう御座いました」
「気にすんなよ、ローラ。今度来た時にでもご馳走になるさ」
「そうよ。ローラさん。別にもう二度と会えないわけじゃないしね」
「そうだよ。ローラお姉ちゃん」
「大丈夫また会える」
「絶対また来るからな」
「…はい」
<See you again>
カーティスもすっかりローラさんに懐いて…実際主人たる俺より懐いてるもんなぁ。まぁいいか。
「じゃあ皆さんさようなら」

そうして俺達は別れる…筈だった。

翌日ダーム学院長達との集合場所に行ってみると、初めて見る、少しぽっちゃりとした中年男性と
最初の依頼の時のように髪を結い上げ革鎧を着たローラさんがぽかんとした表情で立っていた。
「おはよう御座います。ローラさん見送りに来てくれたんですか?」
「いえ…あの…それが、私にもよく分からないのですが……」
すると隣にいた中年男性が喋り出した。
「それは、私が説明しましょう」
「あなたは?」
「失礼しました。私はカルガの街の機兵ギルドマスターでフォン・グラッセンと申します」
「始めまして、ラフィング・レイヴン代表のゴウ・ロングです」
「存じております。先日は、貴重な剣をお売りいただいてありがとう御座います」
そういえば、この間ギルドに機兵用の刀を三振り売ったんだったな…。
「こちらの方で試し切りをしてみましたところ、ローラの言う通り、すさまじい切れ味でした……」
その光景を思い出しているのか、どこか陶酔した表情なった。
「えーっと。それで何でここに居るんです?」
俺が声を掛けると、元の表情に戻り話し出した。
「ああ、すみません。急な話で申し訳ないのですが、ここに居るローラを兵団付きのギルド連絡員にしていただこうかと思いまして……」
「兵団付きのギルド連絡員?なんです?それ」
「兵団付きのギルド連絡員とは、文字通り兵団と共に行動するギルド職員です。
 普通は大型兵団やSランク兵団に派遣され、
 ギルドからの依頼の伝達や、兵団からの要望などをギルドに伝える役目をします。
 もちろん普通の兵団員として協力もします。
 お給料は、もちろんこちらの方で支払います」
「…それが何で、うちのような弱小兵団に来るんです?」
その話からすると俺達の兵団とは関係ないように思えるが。
「弱小とはご謙遜を。あのクライングアントをたったの二機で壊滅させたお手並み、感服いたしております。
 …いずれその時の話もお聞きかせ願いたいですね。
 それでですね、これから色々な街を回られるそうですが…恥ずかしながら機兵ギルドとは言え、
 情報が完全に共有されているわけではありません。
 なので行く先々のギルドでラフィング・レイヴンの皆様方が不快な思いをされる可能性が高いのです。
 ギルドとしてもラフィング・レイヴンほどの兵団が、こちらの不手際で退会という事になるのを防ぎたい。
 なので事情を知っている彼女を連絡員として派遣し、各街のギルドの橋渡しをしてもらい、スムーズに依頼を受けれるようにしたいのです」
なるほど…筋は通ってるな。まぁ俺達の首に鈴を付けたいって感じもするな。
まぁそれより……。
『「「「「「…」」」」」』
それより…昨日のお別れは一体なんだったのか…。
「えっ?家族とか家の事とか大丈夫なんですかローラさん?そもそも嫌じゃありません?俺達と旅するの」
「私は、孤児院で育ちましたので親は居ません。家のほうは、寝に帰っていただけですので家財道具も殆どありません。
 それに嫌じゃありませんよ。驚きの連続で楽しいくらいです」
ファンタジー世界にもワーカホリックの人が居るんだ…。それに俺たちと居てくれて楽しいって言ってもらえるのは嬉しいな。

「…まぁ良いじゃないかな。ローラさんとまた一緒に旅に出れて嬉しいし。
 これから行く先々のギルドともめそうに無いしね」
「そうだね。兄さん」
「ローラお姉ちゃんと一緒に行けるの?やったー!!」
「よかったなカーラ!ローラこれからも頼むぜ!!」
「これからもよろしくお願いしますね。ローラさん」
『あらあら、うふふ。よろしくね』
「はい」
「では、ラフィング・レイヴン皆様、ローラと機兵ギルドをよろしくお願いします」
そう言ってフォンさんは、頭を下げた。
こうして俺達に新しい仲間としてローラさんが加わった。

第24話 故郷へ

 嬉しい事にローラさんが仲間に加わった。
その事を伝えにダーム学院長の下にやってきた。
「おはようダーム学院長。突然で悪いが新メンバーが増えた」
「おはようゴウ君。メンバーが増えたと言うが誰だね?」
ダーム学院長が俺の後ろを覗き込む。
「ローラさんがそうだ」
「よろしくお願いします」
「彼女は機兵ギルドの副ギルドマスターではなかったかな?」
学院長は不思議そうな顔をしながら髭を撫でる。
「そうなんだが…なんか俺たち専属のギルド連絡員として出向してきた」
「ほう、君達はギルドから専属の連絡員が送られてくるほどの兵団だと?」
学院長は目を細め、興味深そうに俺を見た。
「どっちかって言うと、これから行く先々のギルドでのいざこざを少なくする為だな」
「まぁワシらとしたら、ギルドのお墨付きがついたと思えば悪い話ではない。
 もちろん追加の報酬は出さんがの」
「もちろんだ。そんな理由で報酬を上乗せしようとは思わない」
「じゃあ出発するぞい」
「了解」

俺達は、事前に打ち合わせていた通りの陣形で出発した。陣形はこうだ。
進行方向からダイドルフ、ダイドルフ用トレーラー、ダーム学院長(要人用車)、審判用機兵、審判用機兵用トレーラー、
グランゾルデ改用トレーラー、そして殿として俺のグランゾルデ改と言った順番で並んでいる。
ドルフの視界の広さ、耳の良さを最大限生かす陣形だ。最初はダイドルフ用トレーラーとグランゾルデ改用トレーラーを
連結する予定だったが、ローラさんがトレーラーの運転が出来たのでグランゾルデ改用トレーラーの運転を任せた。

道行きは、大半が草原だ。なので奇襲の警戒が必要な場所は大体限られてくる。地形で言えば小高い丘やちょっとした山、
シチュエーションとしては、野営中や夜明け前と言ったところだろうか…。

最初の一週間は、特に何も無かった。しいて言えば毎回食事をするときになると学院側の連中が"どうだ?旨そうだろう?
お前らには一生食えないけどな!HAHAHA"と見たことも無いような豪華な食事を取っていた事だろう。
こちらは、アリカさんお手製の素朴な料理を堪能していたので文句は無いが、蔑みの視線がうざい。

後半の一週間は、怒涛の襲撃ラッシュだった。

襲撃者その1  クソ貴族 
それは、絵に描いたようなクソ貴族だった。それに出会ったのは、草原のど真ん中。待ち伏せともいえない所業だ。
俺達は、遠距離からその姿を確認していたので、無駄な戦闘を避けようと遠回りしようとした。
しかし、依頼主である学院長の要請で渋々戦う事になっ手しまった。
まぁ盗賊襲撃一回分の追加報酬を貰う約束をしたから良しとしよう。
そいつは出会い頭からやらかしてくれた。いきなり「待っていたぞ!この誘拐犯め!!」だ。
こちとら、依頼された試験官だってのに敬意の'け'の字も無い。
それからもそいつは調子に乗って「私は王立フォルモ高等士官学院5年Aクラス筆頭にしてフォーバート家嫡男
カルロス・フォーバートだ!優秀にして華麗!そして美麗!
私に率いられた我が隊に勝てるものなど居ない!!ワーハッハッハッハッハッ」とのたまった。
正直面倒だと思った。審判機の方を見ると、目をあからさまに逸らされた。

相手の構成は、機兵が四機、全てが剣と盾を装備している。そのうち一機は金ぴか赤マントの機兵だった。
たぶんアレがクソ貴族の機兵だろう。
金にあかせてフルカスタマイズした機兵を、学院に持ち込んだのが容易に想像できる。
それ以外は使い込まれたカルノフだ。

「面倒くさいな。さっさとやるぞ。ドルフ」
「おう」
相手は四機、こちらは二機。しかし、相手の数の優位は、まったく役に立たなかったといっていいだろう。何故ならば。
「フンッ、やれ!!」
いきなり、クソ貴族人任せ宣言です。これで三対二です。本当にありがとう御座います。
はい、もちろん有り難くフルボッコにさせていただきました。
クソ貴族がその後に何か言っていたようだが、無視して金ぴかボデーをボコボコにしましたよ。
金ぴかが許されるのは大尉だけだ!!

襲撃者その2  まともな学生
次の襲撃者は、至極まともだった。
その時俺達は、ファードの街の街の手前にあるクローナ森林にある野営地で野営をしていた。

既に深夜を過ぎ、そろそろ夜が明けるという、その時に襲われたのだ。最初に気づいたのは寝ずの番をしていたダイドルフだ。
街道から三機の機兵の足音がうるさいくらい大きな音を立てて突撃してきた。俺も念のためにグランゾルデ改の操縦席で寝ていたので
即座に魔晶炉を起動させ、出撃する。俺が野営地の入り口に着いた時、戦闘は既に始まっていた。
真っ暗な戦場で四機の機兵が戦っていた。きっと相手の機兵乗りは、暗視の魔法でも使っているのだろう。
真っ暗なのに動きに躊躇いが無い。
俺は、グランゾルデ改に搭載されている暗視装置の調節をしながら戦列加わった。
その時だ、一体のモ○ゾーが俺の背中から襲ってきたのは…。
「あぶねぇ!」
ギィンと、甲高い耳障りな音を立てながらダイドルフの剣がグランゾルデ改に振り下ろされた剣を止める。
モ○ゾーは、ギリースーツのような物を着たカルノフだった。
とっさにダイドルフが俺の背中を守ってくれなかったら、審判機に撃破判定を貰っていただろう。
『ゴウちゃん、…特訓…決定ね』
「!?」
クリシアさんが背筋か凍る一言を言って来た。それから俺は、失点を取り返そうと必死に戦い。学生のカルノフを全て撃破した。
しかし、特訓が無くなる事は無かった。

襲撃者その3  奇抜な学生
最後の襲撃者は、奇抜だった。そもそも襲撃かどうかも怪しかった。
そいつらと遭遇したのは、クローナ森林を出てすぐのファードの街北門の前だった。

懐かしい東門の前に模擬剣と盾で武装した二機の学生カルノフとその他野次馬がたくさん居た。
何…コレ襲撃?

「よっ良くぞ参られた!わっ私は王立フォルモ高等士官学院5年Cクラス、ひっ筆頭にして、メッメルト家嫡男
 ヒュー・メルトである!正々堂々、いっ一対一の決闘をもっ申し込む!」
「同じく王立フォルモ高等士官学院5年Cクラスが一人、モート・カインスである!自分も正々堂々、一対一の決闘を申し込む!
 そして我らが勝った暁には、要人を引き渡してもらう!!」
ワー!ワー!イエーイ!ヤレー!ナニアレー!

目の前の光景を一言で言うなら'お祭り'だろう。決闘見物の座席や、屋台まで出ているのだ。
きっと賭けもやっているのだろうな…。俺達が登場してから、見物席にいる野次馬達のボルテージも上がっている。

「よもや、学生相手の決闘を断るとは言いませんよね?」
モートとか言う学生が、あからさまな挑発をしてくる。
ちらりとダイドルフのほうを見ると、やる気マンマンだ。…しかし、どう見ても怪しい。
俺はルーリに警戒するように伝えて、決闘に応じた。

結果、彼らは弱かった。

残念なほど弱かった。まるで大きなキグルミを着た人と戦っているようだった。
これは、操縦者が未熟な証拠だ。機兵と仮想体の大きさがあっていないのだ。
だが俺は彼らほど共感した学生は居なかった。彼らは自分達が弱い事をちゃんと知っていた。
だが、彼らは諦めず策を練った。

それが、機兵を囮として決闘をしている隙に残りのメンバーが護送車を襲撃奪取する。という作戦だった。
すばらしいと思った。ただ相手が悪かった…。近接無双のルーリとドルフの奥さんであるアリカさんが弱いわけが無い。
最後にカーティスに乗ったローラさんだ。
彼女はもう俺よりカーティスを旨く扱えるようになっており、もうカーティスはローラさん専用になっている。
決闘を終え、トレーラーの元に戻った時には、学生たちが死屍累々とした有様でだった。
ご愁傷様。


そして、俺はとうとう帰ってきた。

「で、どうじゃっかね?うちの生徒達は?」
俺は、依頼完了の紙を貰う為、ダーム学院長達が泊まっているホテルにいる。
高級家具や魔導冷蔵庫などの高級魔導具まで完備している高級ホテルだ。
俺とダーム学院長は、部屋にあるソファに座ってお茶を飲みながら話しをている。
「俺の評価だと、最後に襲撃(?)してきた連中の評価が一番高いな」
「ほう。何故じゃ?見ておったが機兵の操縦は粗末なもんじゃったろう?」
「あいつらは自分達が弱い事を知っている。だからこそ知恵を絞って立ち向かってきた。
 まず襲撃(?)のタイミングだ。
 俺達は、街の門が見えた時点でもう襲撃はないと思っていた。それに、長旅でかなり疲れていた。
 まぁ一番弱っている時だな。
 次に、あの会場だ。あれには重要な意味を持っていた。あれは俺達に決闘を受けさせる為に観客を用意したんだ。
 もしあの状況で決闘を受けなかったら観客から卑怯者呼ばわりされるし、下手したらこの街での仕事ができなくなる。
 腰抜けに任せる仕事は無いってな。旨い考えだよ。だから俺達は受けざるを得ないって訳だ。
 まぁそんな作戦が無くてもドルフは決闘を受けただろうけどな」
「ほう。じゃぁ一番評価が低いのは何処じゃ?」
「決まっている。クソ貴…失礼。最初に出てきたAクラスの奴だな。碌に待ち伏せもできないし、数の優位も理解していない。
 腕は襲ってきた三組中トップと言えるが。アレじゃあ絶対ダメだ。軍に入ったら味方の足を絶対に引っ張る」
あんな部下が居たら勝てる戦いも勝てなくなる。それは断言できる。
「じゃが腕は一番なんじゃろう?」
「ダーム学院長、無能な味方は敵より厄介って言うだろ?あいつらが軍に入っても家柄が低いから上官には従わないって絶対に言うぞ」
「無能な味方は敵より厄介…か至言じゃの…」
ダーム学院長は身に覚えがあるのか、顔を顰めている。
「詳しい評価は、まとめてこれに書いてある。これで依頼は完全に終了だな?」
俺とドルフとクリシアさんで頭をつき合わせて作った報告書だ。内容の確かさは保証できる。
「そうじゃ。ご苦労じゃった。それにしても…」
「なんですか?」
「おぬし達は、変わった機兵を使っておったのう。懐かしいカラード使ってるのはわかるんじゃが、それ以外はさっぱりじゃ」
「昔、俺の爺さんも機兵乗りだったんで、不便なとこを改造しまくっていたらこうなったそうだ」
いつもの様に偽のプロフィールで誤魔化す。
「ほう。一体おんしのお爺さんは何もんじゃ?名前はなんと言う?」
笑ってはいるが目の奥には探りを入れるような光がある。気の抜けないじい様だ。
「さぁな。俺もルーリも爺さんとしか呼んでなかったし、あまり昔の事を話したがらなかった。
 黒髪の俺達を育ててもらっている恩もあるからあんまり突っ込んで聞けなかったしな」
「…ふむ、…おんしらこの国に仕えんか?それだけの強さじゃ。わしからの推薦状を書くぞい」
「やだね。国なんかに仕えたら、いつも最前線に飛ばされて、使い潰されるのが落ちだ。
 下手したら俺達の機兵を取り上げられるって事も考えられる」
「それは……」
無いとは言い切れまい。
「この話は終わりだ。俺達の力が借りたければギルドに依頼してくれ」
これから俺にはしなければならない事があるんだ。

第25話 懐かしい人達

 ズシンズシンとグランゾルデ改に乗りながら懐かしい街を歩く。
ああ、あの時、俺はこの道を歩く機兵を見たんだ…。初めて機兵を見た瞬間を思い出す。
あの感動は忘れられない。
「兄さん、大丈夫?」
「ん?ああ、大丈夫」
あまりの懐かしさにボーっとしていたらしい。グランゾルデ改の手のひらに乗せていたルーリに心配されてしまった。
おっと懐かしの機兵工房"ルブリス"の看板も見えてきた。

俺は、工房にある機兵用入り口の前でグランゾルデ改に膝をつかせ、手に乗せていたルーリを下ろした。さぁ俺も降りよう。
工房の中で働いていた人達も'なんだ?'と視線を向けている。そんな中、工房におっちゃんの声が響いた。
「誰だ!入り口に機兵を置いた馬鹿は!!仕事の邪魔だ!」
ああ、おっちゃんだ。変わってないな…。早く降りて挨拶しないとな。
「嬢ちゃん。これはお前さんの機兵か?だったら早くどかしてくんな、仕事の…」
「違う。これは、俺の機兵だ」
ストッと操縦席から降りながらおっちゃんに言う。
俺とルーリは今外套に付いているフードを目深に被っているから、おっちゃん達は、まだ俺達が黒髪だと気づいていない。
「そうか、ならとっとと退かせ。仕事が出来ん」
そう言うとおっちゃんは手をどっか行けと言わんばかりに振っている。
「そう言うなよ。なぁおっちゃん干物、買わない?」
俺は、外套に隠し持っていた紐に吊るしたユアの干物をおっちゃんの前に出した。
「干物?馬鹿言ってんじゃねぇ。干物を作れる…の…は……」
そして、被っていたフードを取り、素顔をおっちゃんに見せた。
「ひさしぶり。おっちゃん、変わって無くて安心したよ」
「バッカ野郎!おめぇ今まで何処に行ってやがった!!俺達がどれだけ心配したと思ってんだ!!」
次の瞬間、頭に激痛が走る。おっちゃん渾身のゲンコツを喰らったのだ。
イッテェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!相変わらずおっちゃんのゲンコツ痛ぇ!!
「おぉぉぉぉぉ!」
俺は、頭を抱えて呻く事しか出来ない。
「兄さんを苛めるのは、やめて」
ルーリが俺とおっちゃんの間に入り、おっちゃんを睨みつける。
「大丈夫だルーリ。これは感激の挨拶みたいなもんだ」
今にもおっちゃんに殴りかかりそうなルーリを止める。
「兄さんだと?なんだ、この嬢ちゃんは?おい坊主!今まで何してたか全部説明してもらうぞ!!」
「ああ、全部言うから…。その前に一つ聞きたい事がある」
まだ痛む頭を振りつつ立ち上がる。
「なんだ?」

「俺のクソ親は、何処に行った?」

そうだ。そうだ!そうだ!!!
居なかったのだ!あのクソ親!!ああ、なんていう事だ!
折角、飛びっきりの復讐を用意して行ったというのに!!
家に行ったらもぬけの空だ!
つい暴力的なO・HA・NA・SHIを通行人にした結果。どこかに引越しただと!?
舐めやがって!
ハッハァ、それで逃げ切れると思うなよ。
地獄の底まででも追いかけていって復讐してやる!!

そう思ったのが昨日の事だ。その後、ムシャクシャして外の川で、ユアを取り尽すんじゃないかと思うくらいガチンコ漁で取ってやった。
まぁ干物のお土産ができたのは良かったが…。そして気を取り直して今日、おっちゃん達に挨拶に来たという訳だ。

「ああ、あいつ等か…。すまないが俺達にも分からない…。だが…オイ、アレ持ってこい」
なんだろう?…しかし、おっちゃんがあいつ等って言うんだから、会ったんだろうなあのクソ親に。
雰囲気から碌な対応をしなかったのがよく分かる。
「はい、親方持って来ました。久しぶりだな坊主。元気そうで何よりだ」
「久しぶり。皆も元気そうで良かった」
久しぶりに見た整備員の兄ちゃん達はもうおっさん達になっていた。
遠くの方では俺と同じくらいの年齢の整備員が遠巻きに見ていた。
「坊主これを見ろ」
おっちゃんから渡されたのは、三枚の紙。新聞の様なものだった。この世界ではまだ新聞はまだ無い。
これは多分、領主が出す一種の号外の様なものだろう。大きく書かれている見出しを読んでみると。

一枚目、日付を見ると6年前の出来事のようだ。
【我が街が誇るプラチナの天使、ミレス・コーウィック
 王立フォルモ高等士官学院に主席で入学!】

二枚目、日付が飛んで一昨年の出来事のようだ。
【我が街が誇るプラチナの天使、ミレス・コーウィック
 最年少国家認定エンブレムを授与!!】
号外にはでかでかと授与されたエンブレムが描かれている。
それは、よくあるカイトシールドの意匠の上に緑色の勾玉が大きく描かれているシンプルな紋章だった。
ああ…ミレスは、まだ俺を覚えていてくれるのか。
説明しとくと、国家認定エンブレムとは、俺達のエンブレムと違い国家に記録され、一定の地位を保証される一種の身分証。
騎士達が喉から手が出るほど欲しいと思うステータスだ。

最後の三枚目には…。
【我が街が誇るプラチナの天使、ミレス・コーウィック
 王立フォルモ高等士官学院5年Sクラス筆頭に就任!
 機兵戦で今だに無敗にして無傷!そのまま伝説を打ち立て卒業か!?】
最後の日付は今年か…。

ミレスパネェっす。どんだけ優秀なんだよ俺の妹は。お兄ちゃん嬉しいよ。
それど俺の本当の苗字ってコーウィックだったのな!?初めて知った。
「ミレスが元気そうで何よりだ。しかし学院に行っていたとはなぁ」
なかなかの奇縁だな。もしかしたら、学生の中にもミレスの友達が居たかもしれないな。

「多分坊主の親の居場所は彼女が知ってるんじゃないか?」
そう言いつつ、おっちゃんは俺の持っている紙を指した。
「ミレスか…。もう会うつもりは無いんだけどなぁ」
これからのことを考えると俺と会うことはミレスの人生にとってデメリットしかないように思える。
「バカヤロウ!!」
 ゴイン!と本日二撃目。だから痛いって!!
「お前の妹がどんだけ心配してたか分かってんのか!俺達のとこにもお前の事、聞きに来たんだぞ!こんな所まで、一人で!!
 今でも俺ンとこに手紙が来るんだぞ!お兄ちゃんの情報はありませんか?ってな!!」
「うっ!」
「それをなんだ!?'会うつもりは無い'だと!ふざけんな!とっとと会いに行け!!もう一発ぶん殴るぞ!」
「いや、だって…」
「わ・か・っ・た・か!!」
「はい。分かりました……」
おっちゃんの拳骨が怖い俺は、頷くしかなかった。

「だれだ~!工房の前に機兵止めた奴は~!俺が入れねぇじゃねぇか!!」
おっと、おっちゃんのお客さんが来たようだ。
「とりあえず、機兵を退かせ。今夜また来い。今までの事、全部話してもらうぞ」
「了解。とりえず…これお土産ね。あと夜には仲間も連れてきて良いか?」
持っていた干物をおっちゃんに渡す。
「おっ!7年ぶりの干物だ!!なに?仲間が出来たのか!!そいつぁめでてぇ!!むしろ連れて来い!!
 野郎ども喜べ!!今夜は"機兵の聖地"復活だ!!」
「いえええええええええええ!」
おっさん達テンションたけぇな!オイ。若い衆が引いてるぞ。



そして夜になった。俺は、ラフィング・レイヴンの皆を連れて機兵工房"ルブリス"を再び訪れた。
一応俺の機兵のお披露目は済んでいるので、機兵には乗ってこなかった。

しかし……。
俺は今、狭い部屋の中、椅子に座らされむさ苦しい大勢の男に囲まれている。
「さぁ、全部吐いてもらおうか……」
机の上に置かれた魔導スタンドの光が俺に向けられ、あまりの眩しさに手で光を遮る。
「やっぱり、尋問風なんだ」
「わかってるじゃねぇか」
工房のおっちゃんが茶目っ気たっぷりに言う。
周りのおっさん達もニヤニヤしている。
俺以外の皆は、"機兵の聖地"でこの後の宴会の準備をしている。
「それで…。一体何があった。お前のその顔、生半可な事じゃないんだろう?」
おっちゃんが真面目な顔になって聞いてきた。
「…ああ、俺は、両親に殺されかけた」
一気に周りの人たちの表情がゆがむ。この人達は、本当に俺のこと心配してくれてたんだ。
「ある意味予想通りだな…。ちょっと待ってろ。バームを呼んでくる。もう来ているはずだ」

暫くするとバームさんを連れたおっちゃんが戻ってきた。
「よう、坊主久しぶりだな……。その分じゃ碌な目じゃないな?話してくれ」
「もう坊主はよしてくれ。俺にはゴウ・ロングって名前があるんだから」
「えっ。坊主の名前は確か……」
「俺はな。元々自分の名前を覚えちゃいないんだ。一度も呼ばれたこと無いからな。
 それに、あの親がつけた名前を名乗るなんぞ反吐が出る!」
「…分かった。ゴウ。改めて聞こう。何があった?」
「話は簡単だ。両親が俺を殴って殺そうとした。俺は何とか気絶で済んだが…ロウーナン大森海に捨てられた。
 転移魔法かなんかで飛ばされたんだろうよ。
 案の定、魔獣に襲われて、右目と左腕を持ってかれたよ」
そう言って左手をガシャガシャと振る。
「馬鹿な!あそこに入って生きて出たものが居ないと言われているのだぞ!
 それに転移魔法!?アレは宮廷魔術師レベルの人間しか使えない上に一度自分で行った事、場所にしか送れない筈!?
 そんな人は……」
ほう、"アレは一度自分で行ったことある場所にしか送れない"のかいい事聞いた。
ソレは置いといて、驚いたバームさんを尻目に話を続ける。
「ああ、本当なら死んでたさ。けど、彼女のお陰で助かったんだ」
「彼女?」
フフフ、とうとうこの時が来た。
「紹介しよう。精霊のクリシアさんだ」
すると俺の左腕に装着している魔晶石から光があふれ出し、クリシアさんが現れた。
『はじめまして。精霊のクリシアです。よろしくお願いしますね』
「なっ!」
おー。皆驚いてる驚いてる。クカカカカ。その顔が見たかった!
それから俺は今まで自分にあった事を虚実織り交ぜておっちゃん達に語った。

「くっそー。やっぱあいつら許せねぇ!!バーム!!あいつら騎士団でどうにかならんのか!殺人犯だぞ!!」
「すまない。彼らは現在、国の保護下に置かれている。…田舎の一騎士では、居場所を知る事も出来ん」
「何で国に保護されてんだよ!」
「彼らは、貴髪ミスラ・コーウィックの親なのだ。他国に人質に取られたりしないように新たに法で定められたのだ。
 貴髪の家族は、国で保護下に置くとな……」
他国の人質にはならないだろうが、それだと自国の人質になってないか?クソ両親。
「ならコイツだって貴髪の家族だ!」
「それが証明できたら苦労はせん!!」
「いいよ、おっちゃん。あいつらが国に保護されてるって事が分かれば。
 ミレスに聞けば親の居場所くらい分かるだろ。それに俺は絶対に諦めない…」
まわりの空気が一斉に冷たくなるのが分かった。
俺は頭を振り、気分を入れ替える。
「今日はおっちゃん達に再会した祝うべき日だ!クソ親のことは置いといて呑もう!!他の皆も紹介したいしな!!」
「そうだな!今日は俺のおごりだ!存分に呑め!!」
「おう!」
そこで周りの空気がやわらかくなるのを俺は感じた。

第26話 宴

 俺は、おっちゃん達の取調べ(?)の後、懐かしい工房の裏にある機兵パーツ廃棄場に来た。
そこは既に、宴会の準備が行われており、七輪を中心においたテーブルがいくつも並んでいた。
アリカさんを中心にルーリとカーラちゃんがチョコチョコと動いてテーブルにコップやお皿を
置いていく。工房の若手の兄ちゃん達も気味悪がっているが、
おっちゃん達の手前露骨に差別するような事は無かった。
そんな中、ドルフはアリカさんに「あんたは邪魔だから、そっちの隅っこで座ってな!」と言われて
「おっおう」と隅っこで小さくなっていた。
俺も準備を手伝おうとしたが「ゴウは今日のパーティの主賓だから、そっちの隅っこで座ってな!」と
言われたので俺もドルフの隣で小さくなった。

そんなこんなで準備は終わり……。
「そんじゃあ。皆グラス持ったか?…うむ、持ったな。
 それでは、黒髪の坊主ことゴウ・ロングの無事の帰還を祝して!!」
『「「「かんぱーい」」」』
「うぉー七年ぶりの干物だ!!」
「そうそう、この味、この匂い!たまらん!」

"黒髪の坊主ことゴウ・ロングの生還を祝う会"が始まった。
皆手に持ったグラスをあおり、そこかしこからプハァと言う声が聞こえた。
もちろん、クリシアさんも俺の魔力を後ろからチューチュー吸っている。
「いやーしかし、ホントよく生きてたな!坊主」
向かいに座っていた整備員のおっさんが話しかけてきた。既にお酒で顔が赤くなっている。
「ありがとう。けど…ホント大変だったよ。今度ロウーナン大森海を案内しようか?」
「ハハッ。よしてくれよ。あんなとこ行ったら俺は死んじまう」
「そういえば…。俺が居なくなってからどうだった?」
ちょっと気になっていた事を聞いてみる。
「ヒデェもんさ。街の連中は"黒髪の魔王"が消えたって喜んでやがった。
 しかも、騎士団は碌に調べもしないで両親の言う'家出だ'って証言を信じやがった…。
 うちの親方も'そんなわけねぇ。絶対家出じゃねぇ'って騎士団に怒鳴り込んだが相手にされなかったよ。
 お前んちに乗り込んだこともあったが、騎士団の連中を呼ばれてしょっ引かれちまった。
 あの頃の親方は荒れてたぜぇ。今でも夢に見る。もちろん悪夢な」
その頃を思い出しているのか若干顔色が悪くなった。あ~あの親だったらそんな対応していただろうな。
「そんだけ心配してもらえてうれしいぜ」
「ぱっきゃろー!そっそんなんじゃねーよ。あの頃、おめぇらが使えねぇからだろうが!!」
ナイスツンデレおっちゃん。
「またまたー」
「そんなことよりゴウ!お前の仲間を紹介しろよ。隣の子はお前の新しい妹なんだろう?」
「ああ、紹介するよ。妹のルーリだ。俺と同じく大森海に捨てられそうになったとこを助けた」
「ルーリ・ロングです。よろしくお願いします」
そっけないが、これが精一杯の自己紹介だ。
「これまた見事な黒髪だな。うむ、可愛い子じゃないか!!
 まったく子供を捨てるだの殺すだのドワーフの俺にゃ分からん」
「そんであっちで呑んでるのがサマス一家だ。機兵乗りのドルフ・サマスに
 その奥さんのアリカさん。そしてその二人の娘のカーラちゃんだ。
 ちなみに酔った勢いでアリカさんとカーラちゃんを貶すなよ。ドルフに殺されてもしらねぇぞ。
 それと、ローラ・グラニスさん。うちの兵団ラフィング・レイヴン付きのギルド連絡員、
 ギルドで黒髪の俺達にも普通に接してくれた唯一の人!」
「ほぉ。お前もいい仲間を見つけたじゃねぇか!
 しかも兵団付きのギルド連絡員なんて居るのSランクの兵団くらいだろう?出世したじゃないか!!」
『わたしもぉ~紹介してくださいよぉ~』
「さっき紹介しただろうが。この酔いどれ精霊!」
『それはぁ~ゴウちゃんのまろくが~いけないんですよ~』
クリシアさんは俺の背中に抱きつき管を巻いている。
「ゴッゴウ、精霊様はどうしちまったんだ?さっきと様子が違うぞ…」
「ああ、どうも黒髪の魔力って変わってるらしくてね。なんか精霊にとってのお酒みたいなんだ」
「そんなことは初耳だぞ」
「そりゃそうだ。黒髪で精霊と契約したのって俺が最初じゃないかな?
実際クリシアさんには助けられてるよ。クリシアさんが居たからこそ俺は機兵に乗れてるんだから」
「そういやお前、随分古い機兵に乗ってんな。あれカラードのカスタム機だろ?」
「一目でわかるとは…。さすが工房主」
「明日持ってこい。俺が見てやる」
「あー悪い。俺達の機兵は企業秘密が一杯でね。人に見られたくないんだ」
オーバーテクノロジー満載のアレを見られたら、どうなるか分からない。
「フン。俺が診てやろうってのに断るたぁ。もったいねぇ」
そう言うと、寂しそうにグラスをグイと煽った。ちょっと申し訳ない気持ちになってくる。
「まあまあ、こっちにも事情があるんだ。さぁ呑んでくれ。俺の持ってきた酒だ」
そう言って俺は持ってきた日本酒をおっちゃんのグラスに注いだ。
あたりには、干物が焼けるいい匂いが充満し、俺と同い年くらいの整備員の兄ちゃん達も干物を食べている。
誰か足りない……。
「…アダムスさんが居ないな…。あの人ならギルドに居てもここで干物が焼かれているのが分かりそうなもんだけど…」
「ああ、アダムスな。あいつは今街に居ねぇよ」
「へぇ~。この街を拠点にしてると思ったんだけどなぁ。何処行ったんだ?」
「干物を探しに行った……」
「へ?」
「正確に言うなら、干物探しのついでにお前を探しに旅に出た」
 アダムスさん…そんなに干物が大好きなのね。俺は絶句した。
「ちょくちょくお前が帰って来てないか確認に戻って来るんだが…。
 ついこの間、帰って来たばかりでな…あいつもついてない」
そう言いながらグラスを煽る。
俺は干物のレシピを書いて、アダムスさんが帰って来た時に渡してもらおうと思った。

「そういえばおっちゃんミレスから手紙貰ってるって、言ってたけどどんな事書いてあったんだ?」
「あん?そりゃあお前さんの情報はありませんでしたかーとか、私は学院でがんばってますーとか
 ごく普通の事しか書いてなかったぞ」
「そうか~。アレから七年か~きっと可愛くなってるんだろうなぁ」
ミレスの育った姿を想像してどうしてもにやけてしまう。
「兄さん。グラスが空いてますよ。もっと呑んでください」
なっなんだ?ルーリいきなり機嫌が悪くなった!?えっなんで?
「兄さんは、もう私の兄さんです。あの子のじゃありません」
「えっ!?なんか言った?」
周りでは、大量の肉や俺の持ってきたユアの干物を焼く音や、酔っ払い達のどんちゃん騒ぎの音がするのでルーリの言った事がよく聞こえなかった。
「なんでもありません。ドンドン呑んでください」
『うふふ~ルーちゃんかわいいわぁ~』
それから暫くは、ルーリの呑め呑め攻勢により完璧に酔っ払った状態になってしまった。


「…でさ~俺だって辛いわけよ。他の連中は見下してくるしよ~。一体俺が何したってんだよ~。うぃーっく」
『だいじょうぶよ~ゴウちゃん。ちゃ~んとわたしとルーちゃんが居るわよ~』
「私達がいるから…ね。兄さん」
「うぉ~ル~リィ~クリシアさ~ん。ありがと~」
クリシアさんとルーリに慰めてもらい、嬉しくなってついルーリに抱きついてしまう。
「大丈夫、大丈夫」
ルーリが優しく背中を撫でてくれている。

そんな時だ。空から奴らが降ってきたのは……。
街中に何かが落ちてきたズゥンという音が鳴り響く。
「なんだぁ?ありゃあ?空に……」
空を見上げた整備員のおっさんに釣られて見上げると、暗くてわかり辛いが船のようなもが数隻浮いており、
船の側面から次々にパラシュートも無しに機兵を降下させていた。
おっちゃんも目を丸くして空を見上げている。
次の瞬間、街中央部の官庁街の方から爆音が響いた。
「何だってんだくそっ!ルブリス!俺は、騎士団の詰め所へ戻る。お前達は早々に街の外にでも避難しろ!」
「ゴウ様、私はギルドへ行き、状況を確認してきます!!」
そう言うとバームさんとローラさんは工房を駆け出して行った。
「こいつぁやべぇな!」
「う~なんだよ~。だれだぁ?水を差すバカヤロウは……」
「ゴウしっかりしろ!どっかの馬鹿たちが襲撃して来てんだよ!」
「俺が帰ってきた祝いの席だってのに…。俺にとって初めてのパーティの主賓だってのに。いい気分だってのに。
 いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも
 何がしか邪魔が入りやがる。もう許せねぇ。ぜってぇ許せねぇ。フ・ザ・ケ・ン・ナ!」
完全に酔っ払ってる+クソ親に復讐できなかったストレス等の複合的要因の為、俺は正常な判断が下せる状態ではなかった。
「やってやる。やってやるぜ!あいつらぶっ殺してやる!」
 この時の俺は、完全に切れていたと言っていいだろう。聞くに堪えない呪詛を吐きながら降下してくる機兵を睨み付ける。
「馬鹿言ってんじゃねぇ。機兵も無いのに何言ってやがる!仮に精霊機兵があっても、あの数じゃ勝てないだろう!」
「クカカ、クアカカカカ、クアッカッカッカ!勝てない?冗談言うな。
 あのクソ女神に貰った力が、あの程度の連中に負けるわけ無いだろう!」
「何を言っている!?」
俺は席を立ち、工房に向う。
「ドルフ!機兵を呼ぶぞ!!おっちゃん工房を借りるぞ。ルーリ達は危ないからトレーラーに避難してくれ。
 危なくなったら遠慮はするな!」
「分かった」
『よんじゃえ、よんじゃえ~あはは~』
俺は完全に酔っ払っていて理性のタガが外れていた。こんな事、酔ってないと恥ずかしくてできない。
「おいおいゴウ!アレをやるのかよ!?アレはちょっと……」
ドルフは、まだ酔いが足りないのか、ノリが悪い。
「いいからやる!」
俺は工房の端っこに立ち、ベルトのバックルにはめ込んであるメダルを右手で外す。メダルにはグランゾルデ改の横顔が掘り込んであった。
「召還具!投擲!」
掛け声を上げ、メダルを水切りの投げ方で投げる。空気を切るシュルシュルという音を立てながらメダルが飛んでいく。
しかし、ある程度俺から離れると横回転していたメダルが90度傾き垂直になると地面に落ちた。
落ちたメダルは、薄い二枚のメダルに分裂し、右側のメダルは大きな円を描く軌道に、左のメダルは右のメダルの描く円の内側に少し小さな円を
描く軌道に入った。メダルの通った後は光の道が出来上がり、二つの円を描く。
出来上がった二つの円の内側で光の線が走り五芒星が浮かび上がり魔方陣が完成する。
二つのメダルが円を描ききると、再び一枚のメダルに合体し、手元に戻ってきた。
俺は戻ってきたメダルを右手で握り頭上に掲げる。
「汝が主!我、ゴウ・ロングが呼ぶ! 来たれ、グランゾルデッ改!!」
すると魔方陣から光があふれ、光の粒子を伴いながらグランゾルデ改が頭からゆっくりと魔方陣の中から出現してきた。
さすがに自動搭乗装置は搭載していないので、魔方陣の内側に仁王立ちしているグランゾルデ改によじ登り、操縦席に入る。
「よっしゃ、パーティの邪魔をした空気読めない馬鹿どもめ!!覚悟しろ!全員ぶっ倒す!」

第27話 悪夢の帰還

 出撃シーンとは、大事なものである。
ロボットがシステマティックに基地内や戦艦内を移動し、装備を整え、いざ戦地へと赴く。
その光景は一種の儀式と言っても良いだろう。
それはともかく、出撃シーンと言うものは大抵、基地内移動(人、メカ問わず)→カタパルト接続等→出撃許可→出撃→シュゴーといった流れがある。
これは、スーパー系リアル系ほぼ共通のもので、ロボットロマンでも再現できるように最初から出来る様になっていた。
しかし、再現できなかったものがあった。それがロボ召還、ファンタジー系ロボの定番だ。
バンクで数十秒稼げる便利な奴だ。
開発者には余程ファンタジーが嫌いな人が居たらしい。(一体何でそんなにファンタジーが憎いのか)
だが、開発者は全世界極一部の熱意を舐めていた。
彼らはロボットロマンで使える演出をフルに使い、とうとう実現させてしまったのだ。ロボ召還を……。
今回の場合だと、
転がるメダルは、実は中身が空洞で中に小型コントロールシステムを仕込み。
光の魔方陣は、宇宙港等で使われるガイドビーコン(これも十分ファンタジーだと思うが)を改造して作り(ちなみに装置はベルトに仕込んである)。
ロボットをトレーラーに搭載しておいた転送装置(これは最初からゲーム内にあった…召還と何が違うのか)で
魔方陣の中心から出現するようにゆっくり転送した。
それが、グランゾルデ改召還の真実だ。人の熱意とは恐ろしいものだ。

「ゴウ!一体何をした!?地面からお前の機兵が出てきたぞ!?」
「おっちゃん気にするな!ちょっと無粋な連中にお灸を据えて来るだけだ!死ぬほど熱いけどな」
「オキューってなんだ!?」
俺は、おっちゃんの質問には答えず、グランゾルデ改を駆り、工房から外に出る。
外からは、人の悲鳴と何の破壊音が止むことなく聞こえてくる。

外に出ると、降下してきた正体不明の機兵が二機、他の工房に押し入っているのが見えた。
二機とも見たことの無い機体だ。先行している一機は、一般的な機兵の様な西洋鎧っぽい丸っこい装甲ではなく、
角ばった装甲をつけている変わった機兵だ。この世界の機兵からすると珍しく工業製品といった趣を感じられる。以降角ばり機兵と呼ぼう。
装備は小剣と大型のカイトシールドを持っている。
『あはは、へんなかお~』
そして一番の特徴は、クリシアさんが笑っている通り頭部だ。某ゲーム機を背負ったロボットの様なゴーグルをつけているのだ。
もう一機のほうはもっと変わっていた。
基本、機兵は金属製の装甲で覆われているのが普通なのだが、
そいつは珍しくひょろ長で、皮で出来ていると思われる鎧を着ているのだ。
金属装甲を使っているのは精々魔晶炉がある辺りぐらいで、場所によっては皮鎧さえ付けていない箇所がある。
コイツはひょろ長機兵と呼ぼう。
手には金属で出来たメイスのような物を持っていた。
こいつも最初の一機目と同じようなゴーグルをつけている。
アレはどう見ても視界が強化されてるな…。クカカようやく戦闘が面白くなってきそうだ!
「やめろっ!やめてくれっ!」
そんなことを思っていると機兵が押し入った工房から大きな破壊音と悲鳴が聞こえてきた。
襲撃の障害になる、野良の機兵を破壊して回っているのだろう。
これなら、騎士団の格納庫も襲撃されているな…。もしかしたらさっきの爆発音は騎士団の格納庫からか?

「そこの機兵。動くな!!おとなしく機兵から降りろ!!」
押し入った工房の機兵を破壊しつくしたのだろう。
工房から出てきた機兵達は俺を見た瞬間ひょろ長機兵がメイスの様なものをこちらに向け警告を発してきた。
「お前ら何様だ?人様の街に土足で…いや、機兵で乗り入れるたぁどういう了見だ?」
俺も、剣を構え…しまったぁあああああああああ!!模擬剣をもって来ちまった!!…まぁ取り合えず、あいつらから奪おう。
『アハハ、ゴウちゃんたらドジねぇ』
うるさいよ。酔っ払い。
「悪党に名乗る名など無いわっ!」
…一体何処の兄さんですか…。
「悪党?一体何のことだ?」
「問答無用!!降りぬと言うなら容赦せぬ【氷よ 彼の者 …」
呪文だと!?
「【貫け】」
呪文が終わると同時にメイスだと思っていた武器から氷の槍が放たれた。
咄嗟に模擬剣を盾にして相手の放った氷の槍を受ける。しかし、氷の槍が模擬剣に当った瞬間、模擬剣が砕け散った。
「なん…だと!?」
機兵が魔法を使った!?
『あらぁ~めずらしぃ~。"杖持ち"じゃない』
「"杖持ち"!?なにそれ?」
俺はそういいながら、柄だけになった剣を敵に投げつけ、その隙に近くの路地に飛び込んだ。

『"杖持ち"っていうのはねぇ。文字通り杖を持った機兵のことなのぉ。
 杖を持ってるとねぇ魔法が使えるのぉ。それでねぇ……』
「ほうほう、それで?」
 こんな会話をしていても、敵は待ってはくれない。角ばり機兵が俺達を追って路地に入ってくる。
「やべっ」
魔法を撃たれると思い、急いで別の路地に逃げ込むが魔法は飛んでこなかった。
「…角ばり機兵の方は魔法を使えないのか?」
『当たり前じゃないのぉ。"杖持ち"は、珍しいのよぉ』

逃げながらクリシアさんに聞いた話をまとめると
"杖持ち"とは呼んで字の如く魔法が使えるようになる"対魔獣用機工戦闘魔術杖"通称"杖"を持った機兵のこと言う。
本来は対魔獣用の装備の一つとして開発されたが、小型の魔獣には通用するが中型以上の魔獣の対魔法フィールドには効かない
という名前負けな代物。
しかも、サイズが大きくて他の装備が装備できない。そして最大の問題は"杖"を使用するにはトップクラスの才能が必要らしい。
簡単に言うと機兵乗りの持つキャパシティの問題だそうだ。普通の機兵乗りは機兵を使って戦闘するのでキャパシティがほぼ一杯になり、
"杖"を使う分のキャパシティがない為、使えないのだ。"杖"を使えるのは、ほぼ貴髪達だけだろう。
しかし、この使えない"杖"にも数少ない使い道がある。
それが機兵に対して使うことだ。

機兵には対魔法フィールドは無く、当ればただではすまない。その為、各国が対機兵用兵器として開発を行っていると言うことらしい。
ただ、クリシアさんの知識なので100年近く前の情報なのを忘れてはいけない。
何がしかの技術革新が起こり、量産が可能になっている可能性も否定できない。
ひょろ長機兵は"杖持ち"専用機として開発された可能性が高そうだ。

そんなことを考えながら街中を逃げ回っていると、突然空から強烈な光に照らされた。
「なんだ?」
思わず手をかざしながら空を見上げると機兵を投下していた船からサーチライトのような物を向けられていた。
…以降飛んでる船を"空船"と呼ぼう。
『あらぁ~?なんか機兵が沢山こっちに向かってくるわぁ~』
どうやら、俺達を追ってきた機兵が業を煮やして援軍を呼んだらしい。
ズズン ズズズズン ズズズズズズンとちょっと尋常じゃない数の機兵の足音が聞こえてくる。
「やべっ」
出るわ出るわ…なんかひょろ長機兵が結構居るんですけど…角ばり機兵と同数くらい居る。ツーマンセルってことなんですかねぇ~。
俺は、とりあえず逃げる事にして、街中を縦横無尽に駆け回る。
機兵に乗っているとはいえ俺の故郷、地の利はこちらにあるっ!

しかし、俺にとって避けられない最大の敵が俺の前に立ちはだかった。
それは……。
「うう、気持ち悪い」
『あはは、ゴウちゃんよわ~い』

そう、ただでさえ酔っているのに機兵に乗って走り回っているのだ。更に酔いが回り気持ちが悪くなるのは当然だ。
あ~なんかクラクラしてきた。
気かつくとファードの街の外壁にまで追い詰められていた。
相変わらず空からサーチライトを当てられているので、すぐに敵機兵が集まってくるだろう。

ここで俺の思考は、とんでもない理論を展開し、突拍子も無い行動を取る事になる…。

あーサーチライトがまぶしい。うざったいなぁ…ん?サーチライト?う~ん。
その時、俺の頭の中で一升瓶が割れるようなイメージが流れた。

サーチライト

スポットライト

舞台にある。

照らされる。

主役

名乗を上げなければなるまい!!

「そうか…俺は主役か!クリシアさん!リミッター解除!」
『は~い。りみった~かいじょ~』
その瞬間グランゾルデ改の全身に小さな稲妻が奔り、唸りを上げる魔晶炉からは大量のエネルギーが放出される。
今外からグランゾルデ改の姿を見たら、ほんのりと光っているのが見えるだろう。
そして俺は外壁を見上げた。見上げた外壁のは高く、普通の機兵だったら階段やはしごが無ければ上る事は出来ない事は容易に想像できた。
当たり前だ、外壁には魔獣だけでなく敵国の軍勢に対する壁でもあるのだ。
そんな壁を俺は、ひょいっと軽い調子でジャンプしてのる。
俺を照らしているサーチライトが一瞬揺らぎ、上空の船の船員が驚いているのが分かった。
当然だ。上れない壁にジャンプで上ったのだから。

"ベースオープン"
クカカ、主役は主役らしくしなければならないのだ。少々待っていてもらおう。なに、そんなに待たせんよ。脇役諸君!

準備を終え、ベースから出た時、外壁の上は闇に包まれていた。当然だ、正体不明の高性能機兵が消えたのだ。
空を見上げると上空に居る船が俺を探してせわしなくサーチライトを動かしているのが見える。

さぁ舞台の開幕だ!!
俺は、用意した演出用煙幕弾を爆発させ、グランゾルデ改を煙幕で包んだ。爆発音に気づいた船から次々とサーチライトを向けられるのが分かる。
ひょろ長機兵と角ばり機兵が、俺の立っている外壁の周りに集まり警戒態勢をとる。
煙幕は少しずつ晴れ、徐々に隠していたグランゾルデ改の姿を晒した。
敵兵達は見るだろう、真っ赤なマントを羽織り、頭部に一本角を生やしてモノアイを爛々と輝かせたグランゾルデ改の勇士をっ!
バッとマントを翻し、残っていた煙幕を振り払う。

「やあやあ、我こそは、かつてこの街で"黒髪の魔王"と呼ばれし者!
 遠き者は音にも聞け、近きものは目にも見よ!忘れた者は思い出せ!
 俺は黒髪の魔王!
 かつて、非情な両親により、遠くへ放逐された!
 だが俺は!俺はっ…帰ってきた!
 復讐の為に!これは復讐の開始の合図だ!」
 俺は、背後に隠しておいた長大なバズーカを構え、正面上空に浮いている船に向って引き金を引を引いた。
 バスンという音と共にロケット弾が尾を引きながら船に向う。さながらそれは、リードを外された猟犬のようだった。
 そして猟犬は、喰らい付く。
 ロケット弾は船体のほぼ中心に命中し、一拍遅れて大爆発が起きた。
 それは船体が一瞬膨れたように錯覚するほどの爆発だった。
 ロケット弾の攻撃を受けた船は操作を失い、火の玉となってグランゾルデ改の立つ外壁の後ろへと落ち、爆発炎上した。

 敵兵達は、ぽかんとそれを見ているしかできなかった。いや、理解するのを拒んだのかもしれない。
 自分達の自慢の母艦が何処からとも無く現れた機兵に、ただの一撃で落とされたのだから……。

「さて、お前達は俺の憎くも愛しいファードの街を襲撃した。それは万死に値する。
 それに…俺は今機嫌が悪い!!後悔したくなければとっとと逃げるが良い!!」
使い終わったバズーカをベースに放り込み、ゲートを閉じる。
そして新たな武器を装備するために、俺は操縦席にあるレバーを引いた。
右大腿部(太股)外側の装甲が前後に開き、スライドして出て来たバレルの長い自動拳銃"カグツチ"を右手に、
左下腿部外側の装甲が開き、せり上がってきた異形の回転式拳銃"ヒルコ"を某警察用ロボットの如く左手を伸ばして取る。

今回グランゾルデ改の左腕を伸ばしているが、俺の腕に引きちぎられるような痛みは無い。
ダイドルフの試運転で発見された、"変形による仮想体の損傷"を回避する為のシステム。

名づけて"ダミー君システム"を搭載しているので大丈夫だ。

ダミー君システムとは、変形箇所から仮想体を抜き、別の物(ダミー)に移してから変形させ、その後元に戻すというシステムだ。
実際、機兵の胸部装甲の裏辺りに、搭乗している機兵に似せた人形を積んである。その人形を俺達はダミー君と呼んでいる。
まぁ副次的効果で機兵に四肢欠損等のダメージが発生した場合、即座にダミー君に仮想体を移し、
欠損ダメージを仮想体に与えないと言う事もできるようになったのは嬉しい誤算だ。

「ああ…」 
「何てことを!」
「悪魔め」
「クソッたれ!!」 
自分達の母艦が落とされたせいで外壁下にいる機兵たちが浮き足立った。
 
「落ち着け!!船を攻撃した武器はもう無い!!攻撃を集中させ、一気に仕留める!!フォメル構えっ!!」
隊長らしき角ばり機兵から活を入れられ、落ち着きを取り戻した機兵達は一斉に杖を俺に向けた。
「てー!!」
「「「「【氷よ 彼の者 貫け】」」」」
沢山の氷柱が外壁上にいる俺に向って飛んでくる。俺は外壁から飛び降りる事で余裕で回避する。
さすがに高いところから着地したので衝撃を殺すために膝立ち状態になる。
「掛かったな!!」
どうやら見え見えの一斉射撃は俺を外壁から下ろすための囮だったらしい。
隊長角ばり機兵が盾を捨てて突撃してくる。

狙いはいいが…甘い。

 "カグツチ"を角ばり機兵に向け、発砲。
角ばり機兵は爆発し、後ろに控えていた機兵を巻き添えにしなから吹き飛んでいった。
「えっ?なんで…?」
当然だ。"カグツチ"に装填している弾は爆裂弾だ。そん所そこらの機兵に当ればバラバラになるのは必定。
…しかし、バラバラにならないとは…なかなかやるではないか角ばり機兵。
まぁ胸部に穴が開いてるから中の機兵乗りは死んでるだろうけど……。

さて残りも逝ってもらいましょうか。
俺を包囲している連中を片っ端から撃って行く。
"カグツチ"に撃たれた連中は次々に爆砕し、"ヒルコ"に操縦席を撃たれた連中は銅像のように動きを止めた後、崩れ落ちていった。

ここで"ヒルコ"の説明もしておこう。改めて言おう"ヒルコ"は異形だ。
上下二連のバレルを持ち、シリンダーに二重の弾倉を持ち、内回りに六発、外回りに同じく六発。計十二発の弾丸を発射できる。
モデルはロボ関連の武器ではないが、とあるマンガを見たときに一目惚れしたのだ。まぁいろいろおかしなところがあったが・・・。
装填してある弾は徹甲弾、こちらは並み以上の機兵でも軽くぶち抜く事が出来る。
ちなみに本当は冷凍弾が良かったんだが、満足いく威力の弾が無かったから諦めた。

既に俺の周りには機兵は無く、空船のサーチライトに照らされるのみだ。
いまだに街中央部の官庁街の方から戦闘音が聞こえてくる事から、状況は進行中といったところか…クカカ。
今日は俺が主役の大舞台。さあさ、皆で踊ろうぜ。
俺はサーチライトで照らされながらゆっくり官庁街に向って歩き出した。

第28話 ファードの魔王

 …一体何機居るんだ?さっきから機兵の出てこれそうな路地があるたんびにひょろ長機兵と角ばり機兵が飛び出してきやがる。
俺の通って来た道中には、多数の機兵が死屍累々と言う様相を呈している。
あるものは"ヒルコ"により操縦席を撃たれ、突撃してきた勢いそのままに民家に頭から突っ込んで機能停止。
またあるものは、同じく"カグツチ"全身をバラバラにされ、破片をばら撒いた。

「おっ懐かしい。雷親父の店じゃないか。ここの親父に雷魔法喰らった時は痛かったなぁ~」
時々懐かしい場所に出るとついつい、物思いに耽ってしまう。
「【氷よ 彼の者 貫け】!」
そんな時にも敵は襲いかかってきた。まぁ隙だらけだったしね。敵から放たれた氷の槍はまっすぐに俺に向って飛んでくる。
「おっと」
奴らの放ってくる魔法の弾速は、銃弾と比べると鈍亀とチーター程の違いがあり避けるのが容易だ。
俺は即座にサイドステップで回避し、"ヒルコ"で応射して仕留める。
「ふぅ危なかった」
ふと後ろを向くと元雷親父の店が氷の槍が当り、文字通り潰れていた。あ~あ思い出の町並みがまた一つ無くなってしまった。

はい、街中央部の官庁街に着きました!そしてさっそく敵さんに囲まれてます!!
『ZZz……』
ってクリシアさん寝てる!?いやまぁちゃんと操縦出来てるからいいけど。戦場で寝るって……。

官庁街は、戦争などが起こった際に司令部兼物資集積所として使用する事を前提に設計されている。
その為街路は広く、中央にある役所は深い堀と高い壁に囲まれ尚且つ、機兵用格納庫を広い敷地内に複数存在し、
偵察用の高い塔まで備わっている。
通称"要塞館"と呼ばれ、物々しい名前ながらこの街の安心の象徴として親しまれている。
そんな要塞館の前は広い広場になっており、戦争時には王都からの軍隊の駐屯場所として、
災害時には避難民のテント村となるように作られている。
この街を作った人達は賢明だった事がよく分かる。だがそれが現在の俺には、災いとなって降りかかっている。

俺が、要塞館前広場に入り広場中央に差し掛かったところで一斉にひょろ長機兵と角ばり機兵が出てきて、
広場に繋がる道を全て封鎖した。まだ要塞館の方からは、剣戟の音や爆発音が聞こえてくる。
バームさんは無事だろうか……。
ご丁寧な事に二重の盾を持った角ばり機兵を前面に並べ、ひょろ長機兵を後ろに控えさせている。
これが本来のフォーメーションなのだろう。機兵の特性を生かした戦術…すばらしい、涎がでますな。
だが、現状結構ヤバイ。これで一斉射撃なんてされたら避ける事が出来ない。
たとえベースへ逃げ込もうとしても、背中の方から撃たれたらおしまいだ。
ん?ああ、ジャンプすれば良くね?あっ、それだと着地を狙われるか。
さて、どうしたものか…。
銃を構えながらそんなことを考えていたら、何処からか、ガチガチと金属を打ち合わせるような音が聞こえてきた。
何処から聞こえてくるのか探るために首をめぐらせていると、壁を形成していた角ばり機兵の一部が道をあけ、
また見知らぬ機兵が拍手をしながら出てきた。あのガチガチと言う音はコイツの拍手か。
その機兵は、全体的に青く、角ばり機兵と似たような印象をしているが、外装の細部にエングローブを施し、
角ばり機兵の頭部に昔のギリシャ兵のような真っ赤な鶏冠の付いた頭部だった。
夜なので分かりづらいが、群青色のマントもつけているようだ。
一目で別格、指揮官クラスの雰囲気を纏っている。
すぐに銃を向けて牽制する。

「いやぁすばらしい!たった一機で我々相手にこの戦果!並みの者じゃありませんね!」
…何だコイツ?俺は既にこいつらの空船を一隻、機兵を撃破しているんだぞ?憎まれこそすれ、褒められる事じゃねぇだろ。
「何を言っている?何故この街を襲撃する?そもそもお前らは何者だ?回答しだいじゃ容赦しねぇぞ」
「いえいえ、素直な賛辞ですよ。それと我々はこの街の住民を解放する為に来たのですよ」
開放だと?
「一体何から開放するってんだ?」
「もちろんこの国の貴族達の圧政からに決まっているでしょう?」
「ハァ?この街を見て何処が圧政に苦しんでいる街に見えんだよ」
俺は、少ない時間ながらも、今のこの街を歩いている。
この街を離れる事になった7、8年前と比べても発展していると言えても圧政に苦しんでいると言う話は、にわかには信じがたい。
この街に住んでいるヤツは俺にとってクソが多いが、客観的に見るとうまく統治していると思える。
それに圧政がはびこっていたら宴会の中で圧政に対する愚痴の一つでも出てきてもおかしくないのに、まったく聞こえなかった。
まぁ仕事が遅いだのなんだのという話はあったが…。
「そう見えないように工夫されているだけですよ。ちゃんとこちらには情報が来ています。そうです!正義は我々にあるのです!」
敵指揮官の言葉には"お前の知らない事を俺は知っているんだよ。情弱め。"と言った雰囲気が込められているのがわかる。
「その情報とやらも怪しいもんだ。確認は取ってんのかよ」
「ええ、我々の情報網は完璧です」
自分で確認してねぇじゃねぇか!そりゃそうか、こいつらは夜に空挺で襲撃してきたんだ。
「それと最後の質問ですが我々が何処の者か、それはヒミツです。それは仲間しか教えられないのですよ。
 そこでものは相談なんですが?仲間になりませんか?あなたの力を存分に生かすことができますよ?」
「はっ!俺の憎くも愛しい故郷を襲った野郎の仲間になれだと!ふざけるのも大概にしやがれ!
 怪しげな組織に入るほど、こちとら暇じゃないんだよ!」
「まぁまぁそう言わずに。それに…。この状況じゃ。さすがのあなたでもどうにもならないでしょう?」 
 青い機兵が右手を上げると、俺を囲んでいる機兵が一斉に武器を構えた。
「なめんじゃねぇよ。クソッたれ!」
「そうですか…。残念ですが。ここで死んでいただきます」
そう言って青い機兵が手を振り下ろそうとした瞬間、封鎖されている一部がドカンと吹き飛び、一機の機兵が飛び込んできた。
それは、俺のよく知っているダイドルフだった。すぐにダイドルフと背中合わせにし、お互いの死角をカバーする。
ドルフの空けた穴はすぐにふさがれてしまった。

「よぉ。援護に来てやったぜ!」
「遅せぇよ!ドルフッ!」
「うるせぇ!お前が召還システムに変な制限かけるからだろうが!!」
変な制限?…ああ"召還の呪文は恥ずかしがらずに大きな声でハッキリとっ!"。
そういえばドルフは意外とシャイで召還実験の時もなかなか大声を出せなかったからなぁ。
けど制限は変えません。それがロマンというものです。
「それにしても面白い状況じゃねぇか。お前がそいつを抜いたって事は、あいつら遠距離攻撃する手段を持ってんのか?」
「ビックリした事に、ひょろ長の機兵が魔法の杖を持って魔法を撃ってくる」
そう言うとドルフは「ほう」と感心した。
「ほう?お仲間ですか?しかし、機兵一機出てきたからと言ってこの状況をどうにかでき…」
「あっ後、ウルフバイト解禁ね」
「ぃよっしゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
青い指揮官機の台詞を遮りドルフが歓喜の叫びがこだまする。
次の瞬間、ダイドルフの左腕を天高く掲げた。掲げられた左腕は180度回転し、肘に付いている六角柱の棍棒が天を突く。
そして棍棒の根元から次々に爆発ボルトが爆発し、ウルフバイトの封印が解かれていく。
最後の爆発ボルトが爆発し、一瞬の静寂の後、鉄板が破裂するように一斉に吹き飛ばされ、中にある砲身を晒した。

「何だそれはっ!クッ撃てっ撃てっ!」
「「「【氷…」」」」
「あめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
ドルフは、砲身を敵に向け、砲身を回す。
そして狼の爪が咆哮と共に放たれた。
「うぁああああああああ!」
「ぎゃ!」
「!!!!?!?!」
なぎ払うように放たれた弾丸は、角ばり機兵が構えた二重の盾をたやすく引き裂き、機兵本体に襲い掛かる。
ウルフバイトに撃たれた機兵達は、まるでチェーンソーで切り裂かれたかのように上半身と下半身が別々に倒れた。
「ちっ。もう弾切れかよ」
カラカラと回るバレルを見ながらドルフが文句を言う。
本来ウルフバイトを使う時は、追加弾倉を用意して大量にばら撒けるようにするのだが、今の状態ではもう弾切れだ。
いっその事、某予備弾倉に異様に執着するテロリストの様に大量に付けるか……。
それでも半数以上の機兵をなぎ倒す事が出来た。
もちろん、ドルフが景気よくウルフバイドをばら撒いている間、俺は角ばり機兵の間から突き出された杖撃ち落した。
これで杖持ちは居なくなった。
背中を気にしないでいいってのは、本当に安心できるね。
「ドルフ、弾が無くなったんならウルフバイドはパージしとけ、デットウェイトでしかない。それに……」
「あん?、捨てちまうのか?」
「捨てるわけじゃない。置いとくだけさ。それにこっちも、もう弾切れでね。パージしないとアレが取れないんだよ」
既にカグツチの予備マガジンもヒルコのムーンクリップ(スピードローダーの一種)も底を付いた。
「アレ?」
「すれば分かる」
ドルフがウルフバイドをパージし、地面に落ち重々しい音を立てた。
ウルフバイドが外れた左腕の肘からは、白い円筒形の物が突き出している。
「これは何だ?」
俺は、銃を格納して、ダイドルフの左肘から突き出た円筒形の物を引き抜く。
「本当は、ドルフがウルフバイドを使い切ってピンチになったら"こんな事もあろうかとっ!"と言って出したかったんだけどな…」
円筒形の先から勢い良くビームが飛び出し、剣を形作る。
フフフ、弾切れガトリングの下にはビームサーベルが入っているものです。
「へぇ、剣か…」
よくよく考えるとダイドルフの右手には爪があるからあんまり必要ないんだけどね…まぁサブウェポンってことで。
「ひっ光の剣!?そんな!伝説のっ!!」
あ、やっぱりこっちにも伝説の光の剣みたいな伝承があるんだ…。まぁあるとしても人間サイズだろうけど……。
「落ち着け!!剣を抜いたと言う事は、もう訳の分からん魔法が飛んでくることは無いと言う事だ!!フォメルを下がらせろ!
魔法が使えなければ役に立たん!訓練どおり、押し包んで討ち取れ!!」
「ハッ!」
 こちらの遠距離武器が無くなった事に気づいたのだろう。ドルフの攻撃で恐慌状態寸前の味方を必死に立て直そうとしている。
「させるか!!」
「ウォォォォン!!」
こちとら超絶改造機兵二機とは言え、遠距離武器無しで、連携の取れた集団相手には分が悪い。そうなる前に乱戦に持ち込んでやる!!
グランゾルデ改はビームサーベルを、ダイドルフは右腕の爪を武器に敵集団に飛び込んだ。
まずは手近に居た角ばり機兵からだ!!勢い良くビームサーベルを二重の盾に叩きつける。
剣術の基本もなっていないような力任せの一撃だったが、盾を容易に溶断し腕ごと切り落とした。
ドルフの方も巧みなフットワークで相手をかく乱しながら的確に敵機を切り裂いていく。
敵が持ったのはそこまでだった…。
「ばっ化け物だ…」
「ウ腕亜kああああああああああ!」
「助けてくれっ!」
「逃げろっ」
 敵は恐慌状態に陥った。後はもう狩るだけだ。
「ちっ!全員要塞館に立て篭もれ!別働隊がもう制圧しているはずだ!!」
ヤバイな。立て篭もられるのは厄介だ。そんなことになれば、榴弾砲撃とか爆撃とかしたくなっちゃうじゃないか!!
しかし、それは杞憂に終わった。
「なんだ!ぎゃああああああああああああ!」
要塞館の門に駆け込もうとしたひょろ長機兵の一機が何者かに切り倒された。
「全員動くな!!敷地に侵入したテロリストは全員制圧したっ!!お前らも覚悟しろっ!!」
その声は・・・バームのおっさん!?
そこに居たのは、騎士団が使用している機兵"ボルドス"だった。ただし全身焼け焦げだらけだった。
「よぉバームのおっさん。ちょっと登場が遅いんじゃない?外の連中殆どやっちゃったよ」
「!?その声!ゴウか!外でテロリストと戦っている野良の機兵ってのはお前達だったのか…。
 とりあえず協力してくれ。こいつらを確保する」
「了解」
門からは、バームのおっさんのボルドスと同じように焼け焦げたボルドスが三機出てきた。

「仕方ありませんね」
おっ!とうとう観念したか?
「この手は使いたくなかったのですが……」
ほう、奥の手が存在していると…。
「落としなさい」
青い指揮官機がそう言うと頭上からガコンと言う音と共に何かの落下音が聞こえてくる。
この音は!日本人なら人生で録音であれ、効果音であれ、一度は聞かされるアノ音か!!
「全員ここから逃げろっ!」
俺は、他の皆が逃げている事を祈りつつ、全速力で走る。音はほぼ真上から聞こえていたのでこれでいいはずだ。

次の瞬間俺の背後で、大爆発が起きた。機体表面を爆炎が舐め、操縦席の温度が一気に上がる。
「がぁああああああああああああああああああ!」
『えっ何なんなの!?』
クリシアさんやっと起きたか…。
爆風により機体は吹き飛ばされ、ゴロゴロと転がる。クソッ!耳が痛いし、キーンとしやがる!!
鼓膜が破れなかっただけマシか…。背後を見ると俺の立っていた位置にクレーターができていた。
幸いにな事にドルフやバームのおっさんは無事みたいだ。
爆撃とはやってくれる。
音にやられたのか頭を振っている。俺も体勢を立て直し、青い指揮官機にビームサーベルを向ける。
「やってくれるじゃねぇか!!」
さすがに至近距離の爆撃だったので青い指揮官機も膝をついている。
「アレを初見で避けるなんて、あなた一体何者です?ああ、それと動かないでください。今度は街中に"魔導爆球"を落としますよ」
さっきの爆弾は"魔導爆球"と言うのか…。
「ハッ!それでも正義の味方か?」
「ふっ。さて、交渉と行きましょう。ゴウさん…と仰いましたか…。改めて聞きましょう。私達の仲間になりませんか?」
「断る!」
「では、死んでくれませんか?」
「断るっ!」
「街に"魔導爆球"を落とすといっても?」
「断るっ!さすがに俺の命とこの街とじゃ割りにあわねぇよ」
俺の命はそんなに安くありません。確かに大事な故郷だが、命がけで守りたいと思うほどの思い入れは無い。
俺は正義の味方では無い。確かに漫画やアニメに出てくる正義は好きだ。しかし、現実の正義ほど胸糞悪くなるものは無い。
"正義は物語に限る"これが俺の自論です。
「ゴウ!!」
落ち着けバームのおっさん。
「ただし、"魔導爆球"とやらを落としてみろよ。その時は、お前ら全員に地獄すら生ぬるい目に合わせてやるらな」
俺は本気だ。
「…ふぅ。では、私達の撤退が完了するまで手を出さないでいただけますか?」
「…まぁ、それならいいか…バームのおっさんはどうだ?」
「…ック。今度は必ず捕まえてやるからなっ!!」
「交渉成立ですな。それでは我々はこれで失礼します。全部隊に通達!総員撤退!プランBで行く!」
「「「「ハッ」」」
既にボロボロになっている機兵達に肩を貸しながら青い指揮官機が立ち上がる。
次の瞬間、空船が超低空で頭上を通過した。
「うわっ!?」
 気が付くと青い指揮官機達は、消えていた。上を見ると空船船尾から網のような物を垂らし、それで機兵達を回収したようだ。
 青い指揮官機が網に捕まりながら叫んだ。
「ゴウさん!!あなたは先程言いましたね?'それでも正義の味方か?'と…。
 あえて言いましょう。それでも我々が正義の味方です。
 それでは皆様さようなら!!」
 こうして後の世に"ファード騒乱"と呼ばれる事件の幕は閉じた。
 …クソッ。しまらねぇ最後だ。

第29話 強いられる 雌伏の時

 最初俺は、ファードの街を襲った連中はほっといてやろうと思っていた。
それは新型機兵を二機ずつ手に入って気分が良かったし、大暴れしてスッキリしたこともあった……。
まぁ奴等のアジトは、人工衛星"バロール"で追跡して見つけているからいつでも殺れるし、
もしかしたらまた新型を開発してくれるかなぁとも思ったからだ。

そんな事を、思ったことも有りました。

奴らの最後の言葉、'それでも我々が正義の味方です'その意味が分かったのは、事件の三日後だった。

 二日酔い、事件の事情聴取と碌でもないイベントをこなした俺は、
次の旅の目的地である王立フォルモ高等士官学院へ行く為の準備で商業街に来ていた。
視線が痛い……。
来る人来る人、俺を見る視線がみんな恐怖と敵意ので彩られている。
やりすぎたかなぁ。まぁ蔑みがない分ましか……。

 あの事件で街は多かれ少なかれ被害を受けた。
まず、要塞館にある機兵用格納庫がほとんど破壊され、中に駐機してあった機兵も殆どお釈迦になった。
それに伴い、かなりの数の騎士が死んだようだ。格納庫にある休憩室で休んでいたところをドカンだ。
この街の領主は、全部署に緘口令を敷き、この街に騎士団の機兵が無い事を隠した。
そりゃそうだ、そんな事がばれたら、この街周辺の根城にしている盗賊団達が連合組んで襲ってくる。
俺も、バームのおっさんにくれぐれも黙っていてくれと頼まれた。
工房のおっちゃん達は、壊れた格納庫で修理できそうな機体を探したり、破壊された機兵から仕えそうなパーツを剥いだりと忙しそうにしている。

街のほうの被害は、人的被害は殆ど無かったが建物に関してはかなり被害にあった。
俺が戦闘中に通った道に沿って、多数の機兵の残骸が散乱し、
家や店に突っ込んだ機兵が今も無様な様を晒している。
それに俺の撃ったヒルコの弾が機兵ごと多数の家や店の壁をぶち抜いた被害もある。
ヒルコの貫通弾は平均して4~5軒の家の壁を貫通して風通しを良くしている。
ドルフが景気よくぶっ放した要塞館前広場なんて、クレーターは出来てるわ、面した施設は、ウルフバイトでズタボロになってるわ大変な事になっている。
つまり、街の被害の9割は俺達のせいです。はい。
えっ?保障するのかって?するわけ無いじゃ~ん。
あいつらが来なければこんな事にならなかったんだから請求書はあいつ等にどうぞ。

 そんなこんなでまだバタついている商業街を、食料品を求めて路地を歩いているといきなり背後から魔法を撃たれた。
「【火球よ、行け】!」
それは懐かしくも忌々しい、超初級魔法の火球だった。
俺は、振り返って飛んでくる火球を左手で握りつぶした。
「おい、ガキ。いきなり人様に何しやがる」
魔法を放ったのは生意気そうな顔をした8歳くらいのガキだった。
「魔王め!!この俺が倒してやる!!」
ガキはそう言うと再び魔法を撃つ体勢に入った。
「【火球よ、行け】【火球よ、行け】【火球よ、行け】【火球よ、行け】!」
ガキの手のひらから、小さな火球がいくつも飛んでくる。俺は、さっきと同じように全部握りつぶす。
魔力が底を付いたのか、ガキの体がふらついた。
「くそっ!」
もう魔法が撃てないと分かるとガキは踵を返して逃げようとした。
そうは問屋が卸さない。
ガキの襟首をつかみ持ち上げる。
「ようクソガキ。俺はお前に魔法撃たれる謂れは無いぞ」
「やめろっ!放せよっ!」
「ガキ、むやみに人に向って魔法を撃ってはいけませんってご両親にて教わらなかったのか?ちなみに俺は教わってない」
『ゴウちゃん!』
クリシアさんが俺にしか聞こえない声でつっこむ。
「うるさい!お前のせいだ!お前のせいで…」
「おいおい、俺はこの街を襲ってきた連中を追っ払ったんだぞ」
「知ってるぞ!!あいつらはお前が居たからこの街を襲ったんだろ!」
「何?」
『?』
おいおい、今のはちょっと聞き捨てならないぞ。
「何で俺が居るとこの街が襲われるんだ?」
「知るもんか!!皆言ってるぞっ!黒髪の魔王が帰って来たせいだって!くそっはなせよっ」
あまりにもジタバタ暴れるもんだから、放してやった。
「おぼえてろっ!」
ガキよ…それは三流悪役の捨て台詞だぞ……。
『どういうこと?』
「わからん。とりあえずローラさん所行ってなんか聞いてないか確認してみよう」
ガキが逃げた後、俺は予定を変更し機兵ギルドへ向う事にした。

久しぶりに訪れた故郷の機兵ギルドは、7年前と変わらない質実剛健な佇まいだった。
ある意味初めて訪れるギルドの中は、かなり混沌としていた。
現在ファードの街の機兵工房の殆どが領主に雇われているか、あいつらの襲撃を受けて営業できない状態なのだ。
馴染みの工房が使えない機兵乗り達がギルドに空いている工房を聞きに集まってきている。
もちろん普通に依頼を受けに来た奴や、依頼完了の報告に来る奴もいるから、てんやわんやの状態だ。
ローラさんは、今ここのギルド長の依頼で応援としてこのギルドで手伝いをしている。
忙しそうにしているローラさんには申し訳ないがちょっと話を聞いてもらおう。
「お……」
と声をかけようとした所…。この混雑にイライラした機兵乗りの一人が案の定絡んできたので沈めた。
当然ちょっとした騒ぎになったが、すぐにローラさんが来て鎮めてくれた。
いっそローラさんがギルドに居る時は、こうやって呼ぼうか考えてしまう。

「そうでどうなされたのです?今日は食料品の買出しをするはずでは?」
「そうだったんだけどねぇ。ちょっと気になることを聞いたもんでね。
 ねぇ、ローラさん今回の事件の事でどんな噂聞いてる?」
「ああ、その件ですが。それに関しては今日、帰ってから話そうと思っていました。
 そうですね…丁度いいので今話しましょう。こちらへどうぞ」
そう言って、ローラさんに応接室に案内される。
途中暫く席を外すという旨を別の職員に声を掛けていたが、その声を掛けられた職員の表情が固まったのは言うまでも無い。
「良かったのか?忙しかったんだろ?」
「問題ありません。この程度、カルガの街では日常茶飯事です。
 本来なら彼らだけでも十分のはずなのですが……」
さすが元カルガの街の副ギルドマスター、言う事が違う。
通された応接室にあるソファーに座る。ドアが閉まったことを確認し、クリシアさんも出てきた。
「まったく、ゴウ様もかなり大暴れしたようですね。ギルドにまで苦情が来てますよ」
『私は何にも覚えてないわ』
「それは申し訳ない。まぁ要塞館が大体無事だったんだ。勘弁してくれ」
「そうですね。あそこが落ちていたらギルドはこの街から撤退してたと思います」
基本機兵ギルドはちゃんと統治機構の存在する街にしか支店を置かない。
それは、国に対しギルドが統治の邪魔をしないという一種の契約だ。
逆言えば、そういった統治機構が無い小さな街や村にはギルドは無く、
近くのギルドがある街まで依頼を出しに来なければならない。っとギルドの事情は置いといてっと。

「それで今街で流れている噂なんだけど。この街が襲われたの俺のせいになってるんだよねぇ」
「その噂は、ギルドの方でも確認しています。ゴウ様が前の街で悪逆非道を働いて、その復讐に来たそうですよ」
「へぇ~そいつは知らなかった。一体どんな悪さだったのかねぇ」
「さぁ。詳しい事は聞いていません。もちろんギルドはこんな不確かな情報に踊らされるほど馬鹿じゃありません。が……」
「一般人連中は喜んで踊ってるだろうねぇ。っと言うか、踊らされて攻撃してきた馬鹿ガキがいた」
「こちらの方でも殆どの依頼に"ゴウ・ロングの所属する兵団以外"って補足事項が追記されてます」
なんて事だ。
「あほらしい」
『ひどい話』
「まぁ今はその程度で済んでいますが、これからどうなるかは、分かりません。
 それに誰がこの噂を流しているかも分かっていません」
「そりゃあの襲撃してきた奴らだろうな」
「やはりそう思いますか?」
「奴ら情報に妙に自信を持ってやがった。しかも正義の味方まで自称してやがったぜ。
 あいつら街を人質に取るような奴らなのにな。その事つっこんだら'それでも我々が正義の味方です'だぜ。
 んで、今回の噂だ。情報操作ぐらい簡単に出来るんだろうな」
一体何人この街に潜んでいるのやら……。
「…面倒な相手ですね。どうしますか?」
「どうするって言っても、今回は分が悪い。襲ってくるなら返り討ちに出来るだろうけど、
 こうやって絡め手で攻められと攻撃すべき場所がわからない。
 なので…相手の手の内に乗るようで気に入らないが、とっとと街を出ようと思う。
 もうおっちゃん達に会えたし、もうこの街に来る事もないだろ」
実際には奴らのアジトは割れているが、これだけの事をする連中だ。
広い範囲に支部を作って暗躍している事だろう。手は考えてあるが、ここじゃ無理だ。
「次はやはり学院ですか?」
ローラさんには、旅の途中である程度事情を話してある。さすがに彼女はまだギルド人間なので力のことはまだ内緒だ。
いずれ話すつもりだが、今はまだ時期尚早と言ったところか…。
「ああ、妹にも生存報告をしないとな…」

 翌日、慌しくおっちゃん達に挨拶をして俺達はファードの街を出発した。
俺は学院までは、途中の街で護衛系の依頼を受けつつ、行こうと思っていたのだが…奴らの情報操作能力を舐めていた。
どの街のギルドに行っても、依頼に"ゴウ・ロングの所属する兵団以外"と言う補足事項があるのだ。
ドルフやローラさんに情報を集めてもらった所、"ゴウ・ロングなる機兵ギルド所属の無法者がファードの街で大暴れし、
街の騎士団と謎の機兵集団が協力して撃退した"という噂が流れているのだ。
しかも始末の悪い事に、いつの間にかファードの街から俺達ラフィング・レイヴンに対して追放令が出されていた。
罪状としては、無許可で街の中を機兵で歩いた罪となっていた。ファードの街…覚悟しとけ。
その事が、噂の裏づけとされ、俺達に仕事を依頼する人間は居なくなった。噂の訂正をギルドに依頼したが、暫くはまともな依頼につけそうにない。
俺達は予定を変更して、学院に一直線で向う事にした。旅費はダミー君システムをギルドに売って用立てた。
ギルドとローラさん大喜び。
そのお陰でランクが一気にAランクまで上がった。
それとほとぼりを冷ます為に、暫く雲隠れする事もギルドに伝えておいた。
そうしないとランクを下げられちゃうからね。
まったく、めんどくさい事になった……。あいつら、絶対許さない。


 はいどうも、現在雲隠れ中のゴウ・ロングです。
あれから色々ありましたが、王立フォルモ高等士官学院に到着しております。
今現在何をしているか申しますと……。

「起立。礼」
「「「おはよう御座います、鉄仮面先生」」」
「着席」
「は~いおはようさ~ん」

教師なんかしちゃったりなんかしてる。

閑話 サイド ミレス

 私のお兄ちゃんは、黒髪だ。
それは、妹である私が貴髪であることを示している。
黒髪は、魔法が使えない出来損ないと世間一般的には言われている。
けど、そんなことは関係なく私はお兄ちゃんが大好きだ。

私は小さい頃、お母様がお茶会で留守の時だけ、内緒でお兄ちゃんに遊んでもらっていた。
お母様が留守の時、リビングに寝に来るお姉ちゃんが居て不思議だったけど、
お兄ちゃんが遊んでくれたので特に何とも思ってはいなかった。
お兄ちゃんとは、おままごとやお人形遊び、それと色々な機兵(?)のお話をしてもらった。
お話は面白く、いつの間にか魔法の初歩や、文字の読み方まで教わっていた。

ある日、お母様がお茶会から早く帰って来た時、怖い顔をして私の部屋に来た事があった。
「今日はお兄ちゃんと遊んでたの?ベビーシッターお姉ちゃんは?」
「?いつもお兄ちゃんと遊んでるよ。あのお姉ちゃんいつも寝てるよ」
私がそう答えると、お母様はさらに怖い顔で私の部屋を出て、リビング向っていった。
リビングから、お母様の怒鳴り声と、お姉ちゃんの怯えた声が聞こえてきる。
私は、何を喋ってるのか分からなかったが、お母様が酷く怒っているのが分かった。
怖くなってお兄ちゃんにギュッと抱きついて震える事しか出来なかった。
お兄ちゃんに私が何か悪い事したんじゃないかとお兄ちゃんに聞いたら、
「大丈夫、お前は何も悪くない」と言って背中をポンポンと叩いてくれた。
それからはよく覚えていない。多分泣き疲れて眠ってしまったのだろう。
次の日から、あのお姉ちゃんは来なくなり、お母様もお茶会にあんまり行かなくなった。
そのせいで、お兄ちゃんとあんまり遊ぶ事が出来なくなった。
お母様がずっと私のそばに居て、私とお兄ちゃんを遊ばせてくれないのだ。
そして、新しいベビーシッターのお姉ちゃんが来る事が決まり、
ようやくまたお兄ちゃんと遊べると思ったが、今度のお姉ちゃんはお兄ちゃんと遊ばせてはくれなかった。
逆にお兄ちゃんを追い出し、私と遊べないようにしてしまった。

私は理解した。あのお姉ちゃんが居たから、お兄ちゃんと遊べていたんだと。

今思えば、お兄ちゃんはそのことを知っていたのだと思う。
私の不用意な発言でお兄ちゃんと遊べなくなった。

それから外に追い出される様になったお兄ちゃんは、いつも何処か怪我をして帰ってくるようになった。
お兄ちゃんに理由を聞いても「大丈夫だ、問題ない」としか言ってくれない。
妙にドヤッとした雰囲気を纏っているから、大丈夫だったのだろうが心配だった。

そんなお兄ちゃんが泣いて帰って来た事があった。
帰って来たお兄ちゃんは、すぐに自分の部屋(物置)に行き膝を抱えて座った。
そのままピタリと動かなくなり、ただ目から涙を流しているだけになった。
「お兄ちゃん、どうしたの?どこか痛いの?いたいのいたいのとんでいけー?」
どんなに話しかけても黙って、泣いているだけ・・・。身じろぎすらしない。
私は、お兄ちゃんがずっとこのままになっちゃうかもしれないと不安になって泣いてしまった。
暫く泣いていたら、お兄ちゃん気づいてが話しかけてくれた。
「どうした?ミレス、どうして泣いているの?」
「ヒック、だってお兄ちゃん泣いてる。痛いのって聞いてもヒック返事もしてくれないんだもん」
「ああ、ごめんなお兄ちゃんちょっと考え事してね…」
お兄ちゃんはまだ泣いていたけど、私に優しげに微笑んでくれた。
「俺はもう大丈夫だから、ミレスはもうお休み。睡眠不足はお肌に悪いよ」
「お兄ちゃんもう泣かない?痛くない?」
「うん、もう泣かないし、元々痛くもないよ」
「分かった……おやすみなさいお兄ちゃん」
「おやすみ」
何でお兄ちゃんが泣いていたのかは、分からなかったけど、お兄ちゃんが微笑んでくれたのが嬉しかった。
翌日からお兄ちゃんは何か吹っ切れたのか、積極的に外に出て何かをしている様だった。
時々、変な笑いを部屋でしているのが怖かったけど・・・。

お母様が私をお茶会に連れて行くようになったのは、この後位だった。
最初は戸惑ったけど、メアリちゃんや、ジョニー君達と仲良くなる事が出来た。
けど一つだけ我慢できない事があった。皆お兄ちゃんを馬鹿にするのだ。「魔法を使えない無能」って…。
そんな事無い!!私のお兄ちゃんは凄いんだ!!って言っても誰も信じてくれない。
皆まだ字も読めないくせにっ!!何も知らないくせにっ!!
頭に来たから、ちょっと燃やしちゃった。大丈夫、ちゃんとO・HA・NA・SHIしたら謝ってくれたし、
誰にも言わないって約束してくれたもん。
私だって、お兄ちゃんの事が原因で騒ぎを起こしちゃったら、お兄ちゃんに迷惑が掛かるって勉強したもん。

それから暫くたって、今度はお兄ちゃんがボロボロになって帰って来た。
泣いてはいなかったけど、凄く怒っている事は分かった。
一応何があったか聞いたけどやっぱり「大丈夫だ、問題ない」って答えしか帰って来なかった。
仕方がないから自分で調べる事にした。自慢じゃないけど、私はファードの街では有名人だ。
お兄ちゃんに教えてもらった、四十八の萌え殺し技が一つ"上目遣いで首をちょっとかしげて「だめ?」"を使って皆から聞いたのだ。

ちょろい。

聞いた所によるとお兄ちゃんは、この街で有名なガキ大将達に苛められてお金を取られたらしい。
私のお兄ちゃんに何てことするの!と思って報復してやろうと思ったけど、お兄ちゃんも何かたくらんでる様だったので、
ちょっと様子を見ることにした。
案の定、お兄ちゃんはガキ大将達に復讐を果たした。ガキ大将の親もろともこの町から追放させちゃうなんてお兄ちゃんはすごい!!
…けど、ちょっと詰めが甘いかな。最終的には騎士団のおじさん達に連れて行かれちゃったし、下手したら大怪我するところだった。
それに、ガキ大将の子分たちが逆恨みしてまたお兄ちゃんを苛めようとしたのだ。運良く私が通りかからなかったら大変な事になっていた。
私は逆恨みなんてしないようにしっかりO・HA・NA・SHIして、もうお兄ちゃんを苛めないように誓ってもらった。
あと、また同じ事がないように、お兄ちゃんは"黒髪の魔王様"で、絶対に危害を加えちゃいけない人だって皆に教えなきゃね。


私の9歳の誕生日が近くなったある日、リビングでお父様とお母様が今年の誕生日プレゼントは何が欲しいか聞いてきた。
今まで両親から貰ったプレゼントは、フリルがたくさん使われたドレスや、綺麗なアクセサリー、お人形などだ。
今更、欲しい物など無かった。だから私はいつも大事にしてくれる、お兄ちゃんに恩返しがしたかった。

お兄ちゃんはいつも古い服を着ていた。新品の服を着ている場面なんか見た事が無い。
私は一度だけ「ミレスと一緒にお出かけするのに着ていく服が無い」と言うお兄ちゃん無理を言って一緒にお出かけした事ある。
その時は、私が始めての一緒のお出かけだったので気合を入れて新品のドレスを着ていった。
お兄ちゃんはいつもの古い服にフードを被った姿だった。
けど、近くの商店街をお散歩するだけなのに、騎士団のおじさんに何度も止められた。
お兄ちゃんは格好はみすぼらしく、どこかの浮浪児が貴族の令嬢にたかっている様に見られたからだ。
お出かけが終わった後、お兄ちゃんは申し訳なさそうに言った。
「嫌な思いさせてごめんな、ミレス。もうお兄ちゃんとは出かけない方が良い」
それ以来、私はおにいちゃんと一緒に外に出た事は無い。

そして私は言った。
「お兄ちゃんに新しい服を買って欲しい!」
その瞬間ニコニコ笑っていた両親の顔が凍りついた。
「何でそんな事言うんだ。あいつに、新しい服など必要ないだろう?」
「そうよ。あの子には、必要ないわ。そうだ!今度のプレゼントは旅行にしましょう!
 私とミレスとあなたと三人で!!あんな子なんてほっといたってかまいやしないわ!」
「な…に…言ってる…の。お兄ちゃんは家族だよ?何で…そんな事…言うの?」
私は、耳を疑った。家族とは支え合い、愛し合うものだと教えてくれたのはお父様とお母様じゃない?
「だってあの子、黒髪よ?魔法も碌に使えない出来損ないなんて家族じゃないわ。
 まぁあの子が間抜けなお陰でミレスが生まれたんだから、それだけは感謝しているけどね」
まるで、一緒にされては困ると言っている様だった。いや、そう言っていたのだと思う。

私も、気づいてはいた。
誕生日をお祝いしてもらえないお兄ちゃん。
新しい服を買ってもらえないお兄ちゃん。
両親とまともに会話しているところを見た事が無いお兄ちゃん。
しかし信じたくは無かった。
大好きなお兄ちゃんを優しい両親が、愛していなって。

「ひどい!お兄ちゃんをなんだと思ってるの!!お兄ちゃんは、魔法が使えないだけじゃない!」
「何を言っている?それで十分じゃないか?」
お父様がキョトンとした表情でいった。
「!?信じらんない…!お父様もお母様も大っ嫌い!いいもん、私がお兄ちゃんをお父様もお母様の分まで愛するもん!」
私は言うだけ言うと、リビングを飛び出した。
後ろで何かあの人達が何か言っていたが、どうでも良かった。

翌日から、あの人達がお兄ちゃんに向ける視線が更に冷たくなった。

そして9歳の誕生日を迎えた。
目が覚めると私の手には、綺麗な緑色の石が握られていた。
それは流れ星みたいな形で、星の部分の真ん中穴の開いている。
穴には革紐が通され、ペンダントに出来るようになっていた。
お兄ちゃんからのプレゼントだ!
私にはすぐに分かった。お兄ちゃんは毎年隠れて私にプレゼントをくれる。
お兄ちゃんのくれるプレゼントは手作りのお菓子や森で詰んで来た花束だった。
もちろん貰って嬉しかっけど、お菓子は食べちゃうし、お花は枯れちゃう。
お兄ちゃんがくれたプレゼントは、どうしても形を残す事が出来ない。
今回は特に嬉しかった。
このペンダントなら無くならないし、いつも持っている事が出来るっ!
嬉しくなって、お兄ちゃんにお礼を言おうと部屋を飛び出した。
けど…お兄ちゃんの部屋はもぬけの殻で、誰もいなかった。
その日からお兄ちゃんは居なくなった。

私は、必死でお兄ちゃんを探した。街中を探し、お兄ちゃんと仲が良かった機兵工房にも行った。
騎士団にも、もちろん捜索をお願いした。けど、騎士団は動いてはくれなかった。
あの人達の言った'ただの家出'を真に受け、捜索しなかったのだ。
私は即座にあの人達を疑った。もちろん問い詰めもした。
それでも知らぬ存ぜぬの一点張り、埒が明かなかった。

お兄ちゃんが行方不明になり、半年がたったある日。
街で色々お兄ちゃんの情報を探しているうち、嫌な話を聞いた。
あの人達が、私を名門である、王立アデプト魔術学校に入れるという噂だ。
もちろんそんな話、私は聞いてない。
王立アデプト魔術学院は、宮廷魔術師を目指す貴族の子弟の為の学校だ。
あの人達は私を将来宮廷魔術師にしたいらしい。
寮制の学校で姉妹が入学しているメアリちゃんの話を聞くと魔術の勉強が大変だが舞踏会や、
演奏会などのイベントが盛りだくさんの学院らしい。

私は、そんな学校に行くつもりは無かった。
私は街の外にお兄ちゃんを探しに行く為に力を付けたいのと思っていた。
貴髪と言ってもその頃の私は9歳だ。街の外に探し行くなんて事は出来ない。

私が行きたかったのは王立フォルモ高等士官学院だ、ここでは高度な軍事教育を受ける事が出来る。
一般常識はもちろん魔術による戦闘や機兵の操縦方法、サバイバルの方法などを教えている。
この学校は、入学方法が特殊だ。
国内の各都市で志願してきた10歳前後の子供に対し入学試験を行い、その結果が上位100人に入った者しか入学できないのだ。
さらに10位以内に入れば世間に発表され、特待生として学費が全て免除される。
私はファードの街の試験にもぐり込み、試験を受けた。もちろんあの人達には内緒で・・・。

あの人達は、領主様の発行した号外で私が王立フォルモ高等士官学院に主席入学する事を知った。
あの時の慌てぶりは、滑稽だった。既に王立アデプト魔術学校への願書を出してしまっていたらしい。
けど、既にあの人達にはどうする事も出来ない所までもう進んでしまった。

こうして私はあの人達に別れを告げ、お兄ちゃんを探す力を得る為に王立フォルモ高等士官学院に入学した。

私は絶対にお兄ちゃんを探し出してみせる。
私は誕生日プレゼント貰ったお礼だって、まだ言ってないんだからっ!!

えっ?お兄ちゃんは、もう死んでるんじゃないかって?
お兄ちゃんは生きているに決まってるでしょ!だって私のお兄ちゃんなんだから!!

第30話 俺が教師になったわけ 前編

 やっとの事で王立フォルモ高等士官学院にたどり着いた。
王立フォルモ高等士官学院の外観は…コレ一種の城砦じゃね?

 学院に近づいた時、最初に見えたのは尖塔だった。
道を進んでいくと次に見えたのは高い城壁。
城壁も対機兵を考慮してるのか、10mを超える高さを持っている。
更に進んで行くと機兵が余裕で通れる門がど~んと鎮座していた。
俺達は門の前でトレーラー止めた。
「ローラさん、お願いします」
「分かりました。では行ってきます」
さすがに黒髪の俺が行って話しても埒が明かないと思ったから、ローラさんに学院長への繋ぎを頼んだ。
ローラさんは、トレーラーを降りて、門にある詰め所へ向う。
暫くすると門が開き、ローラさんが戻ってきた。
「アポイントが取れました。ですがトレーラーでの乗り入れは出来ないそうです。
門を通った先に駐車できるスペースがあるのでトレーラーはそこに止めて、迎えを待って欲しいそうです」
「いきなりで不安だったが、アポイントが取れて良かった。了解トレーラーを出す」
俺はゆっくりトレーラーを進め門をくぐる。
門の奥行きは5m位あり、ちょっとしたトンネルになっていた。
門を抜けるとそこには機兵を50機は駐機する事が出来るであろう広場と、鬱蒼と茂る森が見える。
広場の片隅には大量の石材が苔むした状態で置かれていた。
学院の校舎は、森が邪魔で見る事が出来ないが、尖塔だけはここからでも見える。
結構、敷地広そうだな。
しかし、この広場はありがたい。
俺達は今それぞれのトレーラーの後ろに機兵キャリアを一つずつ連結しているので列車のように長くなっているので駐車するのも一苦労だ。
トレーラーを止めて、フードを目深被る。そしてトレーラーを降りると一台の馬車が森を抜けて俺達の所に来た。
俺達機兵乗り達は、基本的に魔晶炉を動力源にしている乗り物を使っているが、一般人にはなかなか手の出ない乗り物だ。
それに街には、普通に乗合馬車が走っているのでそれで済ましている人も多い。前世の世界より町も狭いからそれで十分なのだ。
まぁ貴族連中は’魔晶炉動力の車は、兵が乗るもので貴族には無粋’と思っている連中が多いってのもある。

馬車は、俺達の前で止まると扉が開き、一人の青年が姿を現した。俺達の前に来ると礼儀正しく礼をして来た。
「ようこそ、おいでくださいました。私は案内を申し付かりました。
 ヘイトス・グラメルと申し……」

いきなり動きが止まった。俺達のトレーラーを見てるけど…どうした?
するといきなり俺の手を掴むとブンブンと上下に振った。
「あなた方は、私達の試験を担当した機兵乗りの方ですね!会いたかったんですよ~!いや~素晴らしい戦いぶりでした!」
「ああちょっやめっ」
あまりにも腕をブンブン振るもんだから、一緒に俺の体も揺れて被っていたフードが外れてしまった。
「『「「「「「「あっ」」」」」」』」
俺の手を握っているヘイトスが俺の顔を凝視している。
ああ、めんどくさい事になるんだろうな~。
貴様この俺を謀ったな!!っとか…。やだなぁ。

「友よ!!!」
えっ?
そう言うと彼は、俺にガバッと抱きついてきた。
「えっ?何?誰っ?」
彼は、俺から体を離すと興奮した様子で話し出した。
「僕だよ僕っ!ファードの街で一緒に罠を作ったろう?」
「えっ嘘だろ。もしかしてパシリ君?」
「そうだよ!…って僕の事そう思ってたのか…まぁいいや。ようやく名乗れるな。
 改めまして、僕の名前はヘイトス・グラメル5年Bクラスの筆頭をしている。よろしく友よっ!」
「いや~懐かしいなっ!どうだ?元気だったか?っというかあれからどうしてた?」
「ああ、元気だった。っとそうだった学院長が待ってる。積もる話は後にして馬車に乗ってくれ!」

ヘイトスに促されて俺達は馬車に乗った。内装はコレといって豪華ではないがしっかりした造りをしている。
「それにしても友よ。君は何処に行っていたんだ?心配したぞ」
「その友よってのは止めてくれ。俺の名前はゴウ・ロングだ」
「えっ?だって君の苗字は……」
「俺の名前はゴウ・ロングだ」
「…わかったよ。俺の事はヘイトスと呼んでくれていい。その代わり君の事をゴウと呼ぶ。いいかなゴウ?」
「もちろんだ。ヘイトスよろしく頼む」
この世界に来て初めて友人が出来ました…。苦節17年…長かったなぁ。
それから俺達は学院に行く道行きの中、それぞれの自己紹介と俺が今までどうしていたかを簡単に説明した。

「なんとまぁひどい人生を送ってきたな。ゴウ」
「ズバッと言うなよ。でもまぁ後悔だけはしてないよ。そういえばヘイトスは俺達が試験担当した生徒なんだよな?
 どの機兵に乗ってたんだ?」
「僕は、覚えてるかな?機兵の全身にに葉っぱや木の蔓をくっ付けた奴に乗ってたんだけど」
「ああ!あの不意打ち君か!いやー最初の一撃はドルフが居なけりゃ、やばかったな!」
「本当か!ゴウが昔言ってた"すてるす"や"めいさい"を参考にしてみたんだ!ぜんぜん分からなかったろう!」
「おう分からなかったぜ…っと校舎に着いたみたいだな」

馬車の窓から外を見るといつの間にか森を抜け、目の前に巨大な校舎が建っていた。
校舎は五階建ての石造りで、校舎というよりは、最前線の要塞といった趣だった。
「へ~こいつぁすげぇな」
カーラちゃんやドルフが目を丸くしながら馬車の窓から校舎を見上げている。
「元々この学院は魔獣大侵攻の時に人類最後の砦として作られたんです。当時最高の建築技術が使われ建造されたんですが。
 機兵の始祖たる"勇者機"が発見され、その量産型機兵が建造されるようになり形勢が逆転、勝利しました。
 そのせいでこの砦は幸か不幸か一度も使われること無く、放置される事になりました。
 しかし、ここまで作ったんだから使わないともったいないと言うことで、王立フォルモ高等士官学院が創立される事になりました。
 新しそうに見えても、この校舎はかなりの年代物なんですよ」
なんかノアの箱舟みたいだな…。

馬車が校舎前ロータリーに着いてフードを被りなおし馬車を降りてみると大きな扉を持つ入り口があった。
俺達はその扉をくぐり、ヘイトスの案内で学院の廊下を学院長室へと進む。
学院長室があったのは、門の外からも見えた尖塔の最上階にあった。
なんと、ここまで来るのにエレベーターを使いましたよ!魔導エレベーター!俺使えねぇ!
エレベーターを降りると学院長室の扉が目の前にあり、護衛と思しき兵士が扉の左右に立っている。
「ここが学院長室だ。案内はここまでだ。僕は君が学院に来ている事を妹さんに伝えてこよう」
「待った。ミレスに俺がここに居る事は黙っていてくれないか?俺が直接行って驚かせたい」
「…分かった。俺はここで待ってるから、学院長と話が終わったら案内しよう」
「了解」
なんだろう。背中から冷気が漂ってくるような。気のせいだな……。
「ルーリおねぇちゃん怖い…」
学院長室の扉の前まで来ると扉が開き一人の女性が出てきた。グレーの髪を短く切り揃えた女性で騎士風の鎧を着ている。
学院長の護衛騎士かな?
「お待ちしておりました。ゴウ・ロング殿のみ、こちらへどうぞ。お連れの方は隣の待機室の方でお待ちください」
「分かりました。じゃ、ちょっと行ってくる」
「おう、がっぽり稼いでこい」
「いってらっしゃい。兄さん」
ルーリ達に軽く手振りながら扉をくぐるといかにもな学院長室がそこにはあった。
目の前には大きな窓と前世だったらマホガニー製という注釈が付きそうなほど重厚な机がある。
ダーム学院長そこに座り何か書類仕事をしているようだった。
「うん?よう来た、ゴウ君。ちょっとそこに座って待っておってくれ。すぐに終わる」
ダーム学院長はそう言うと、大きなベランダに繋がる窓の前にある応接セットを指差した。
「了解」
ソファーは高級品らしく、座ると何処までも沈んでいくんじゃないかと不安になるくらいやわらかかった。
ふとベランダの方を見ると俺達が入ってきた門が見えた。俺達が止めたトレーラーもよく見える。
「待たせたの」
「いや、こちらが押しかけたんだ。謝るならこちらの方だ」
「お待ちください。ダーム学院長」
さっそく、話しに入ろうとした所で騎士に止められた。
「なんじゃ?」
「お客人、ここにおられる方をどなたと心得る?王国にその人有りと言われたダーム・フォゼット様だぞ。
 何故そのフードを取らん。不敬だろう!」
あーこの人礼儀にうるさい人か、めんどくさいなぁ。ちらりと騎士を見て。
「ダーム学院長、この人は…大丈夫か?」
「うむむ、ちょ~っと頭は固いがその分、口も堅いから大丈夫じゃろう」
「?」
俺とダーム学院長のやり取りに騎士は頭に?を浮かべている。
「しゃーない。ほら、コレでいいだろ」
バサッとフードを取って素顔を晒す。
「なっ黒髪!?ダーム学院長、何故このような者をっ!」
ああ、やっぱり何時も通りの反応だな…。しかし、ここからが何時もと違った。
『わぁたぁしぃの契約者をぉ~愚弄するのはぁ~だぁ~れぇ~?』
突然クリシアさんが護衛の人の後ろに出現し、極寒の冷気を放出した。
「ヒッ!」
『あ~なぁ~たぁ~ねぇ~』
ゆっくりと振り返った騎士の視線の先には、いつもとは違い、おどろおどろしい雰囲気でボロ布をまとったような姿をしたクリシアさんがいた。
気のせいかもしれないが部屋の中が暗くなっている気がする。
騎士は、冷気に当てられたのかガタガタと震えている。
クリシアさんはゆっくり時間を掛けて近づくと腕を上げて騎士の首を絞めようとする。そして手が首にかかると言う瞬間。
「そこまでにしていただけませんかな?精霊様」
とダーム学院長が声を掛けた。
『そうね、今日はこのくらいにしてあげるわ』
クリシアさんはそう言うと、おどろおどろしい雰囲気を消し、いつもの姿に戻った。
「クリシアさん、やりすぎ」
『…けど。何時も私の契約者が馬鹿にされるなんて許せないじゃない』
タリアさんは腰を抜かして座り込んでしまった。
「ゴウ君、失礼した。こやつは未熟者ゆえ、許してもらえんか?
 そしてタリア。見ての通りゴウ君は精霊様の契約者じゃ。そして黒髪ながらワシが認めた一流の機兵乗りでもある。
 知らぬとはいえ初対面の相手に'このような者'などとは…一体どちらが不敬じゃ?」
タリアさんは、ハッとなって立ち上がり、腰を90度曲げて頭を下げた。
「はっ、知らぬこととはいえ精霊の契約者様に大変失礼な事を申しました。申し訳ありませんでした!」
「あ~いいよいいよ。大抵の連中は俺が黒髪ってだけで自分が悪かろうが、謝ろうとしない連中ばっかだったしね。
 謝ってくれるだけマシだよ」
タリアさんは若干震えながら体勢を戻した。
「改めましてゴウ君、精霊様久しぶりじゃの。ゴウ君の暴れっぷりはこんな僻地にいる爺様の耳にも届いておるぞ」
ダーム学院長はニヤリを笑う。
「あ~一体どんな話を聞いたかは聞かないでおく。そのせいで現在ラフィング・レイヴンは開店休業状態だ」
「ほほっ。大変じゃの。それでここに来た理由はなんじゃ?国への仕官なら喜んで推薦するぞい」
「残念ながら違う。俺達は商談に来たんだ」
「商談?」
「そうだ。ある物と情報を買って欲しい」
「ほう。それはなんじゃ?」
「シートを被せてあるから分からないだろうが、まずファードの街の事件で俺が鹵獲した敵機兵二種類一機ずつだ。
 ここから見えるだろ、俺達のトレーラーに連結してあるキャリアー。もちろん完璧に修理してある。
 ついでに設計図と俺とドルフがまとめた敵機兵に関する報告書も付ける。それと…」
既にこの時点でダーム学院長は前のめりで目を丸くしている。
「それと?」
「ファードの街を襲った連中のアジトの場所の情報」
「!?何故そんな事知っておるのじゃ!!」
「それはクリシアさんのお陰だよ」
『まぁ簡単に言うとね。あいつらと戦った時に空飛ぶ船に魔法で目印をつけたの。そのお陰で何処に行ったか、私には分かるの』
もちろん嘘です。しかし、空にでっかい目を打ち上げて監視してましたって言うより信用されるだろう。
「…機兵が本物なら言い値で買おう。しかし、…情報の方はさすがに精霊様とは言え早々に信用できん」
「機兵の方はまいどどーも、後で確認してくれ。情報の方はおいそれと信用されないってのは分かっている。
 だから…」
「だから…なんじゃ?」
「情報が正しいと分かるまでここに置いてくれ。もちろん情報が間違っていた場合は、あの二機の機兵は差し上げる」
「ほう」
ダーム学院長の目が妖しく光る。
「ゴウ君は、ワシがその情報が正しかったとしても、正しくなかったと嘘を言った場合は考えんのか?」
「そうはならないと俺達は思っている。…それほどダーム学院長は腐ってないだろ?」
「…クックック、ハーッハッハ。こいつは一本取られたわい」
ダーム学院長の快活な笑い声は、学院に響き渡った。
「それにしてもおぬし達、自分達で悪評を流した奴らを倒したいとは思わんかったのか?」
「最初はそう考えたんだけどな、俺達の悪評を物凄い速さで流す連中だ。連中のアジトが一つなわけ無い。
 想像だが、かなりの規模を持った組織だと思っている。
 新型機兵や空船を作っている事から、下手したら国家規模の組織かもしれない。
 そんな連中を相手にするには俺達だと少々荷が勝つ仕事だ。なんで…出来る人にお願いしようと思ってね」
「それでワシのとこに持ってきたのか……」
そう、それが俺達の狙い。偉い人は言いました。'自分で出来ないなら、出来る人にやらせればいいじゃない'と…。
俺達、いや俺の力は大抵の事に対処できるが、どうしても場当たり的対応になってしまうのだ。
ハッキリ言えば目の前の敵を倒す事しか出来ない。
今回の様に諜報が得意な連中と敵対すると、どうしてもモグラ叩きになってしまう。
まぁ襲ってきた連中を全員締め上げれば、いつかは敵の本丸にたどり着くかもしれないが、こっちもそんなに暇じゃない。
だから元々諜報機関を持っている且つ、俺達と敵を同じくしているこの国に情報を渡し、代わりに探してもらおうと言うのだ。

「そう言うことだ。あっ!もし援護が必要なら言ってくれ。格安で引き受けるぞ」
「わが国の兵を舐めるでないわ」
「そいつは失礼した」
「…いいじゃろう。機兵、情報。全部買い取ろうではないか」
それから俺達は売買契約の細々とした事を話し合った。
とりあえず三ヶ月ほど、この学院に滞在する事、期間の延長等は話し合いで決める。
滞在する場所は、学院内にある一角にトレーラーを移動させ滞在する事等を決めた。
「それでおんし達、滞在中は何をして過ごす予定じゃ?」
「とりあえずは、俺達の腕が鈍らないように訓練でもしてようかと思っているが?」
「じゃあ暇なんじゃな?ならワシからの依頼をちょっと受けてくれんか?」
「依頼?とりあえず内容によるが…どんな依頼だ?」
「経験豊富なおんしらに教師をやって貰いたいんじゃ」
「教師って、前の依頼の時も言ったけど、黒髪の俺のいうこと何て聞くような連中じゃないだろ?」
「それはまぁワシが後見につくし、仮面でも被ればどうとでも誤魔化せるじゃろう。それに是非おんし等に是非見てもらいたい生徒がおるのじゃ」
「俺達に見てもらいたい生徒?」
「そう、我が学院にいる黒髪達の事じゃ」

第31話 俺が教師になったわけ 後編

 黒髪がこの学園にいるだと!?
「何故この学院に黒髪が居るんだ?この学院は士官学院だろう、魔法の使えない黒髪を入れるわけ無いだろ」
「そうじゃ、本来ならこの学院に黒髪が居る事はありえん。そもそも入学試験に合格せんしな。じゃが……」
あーなんか碌でもない理由が出てきそう。
「さる大貴族の家にある日、黒髪が生まれた。家の者は喜んだそうじゃ、貴髪が生まれる事を。
 そして一年後、何の問題も無く貴髪の子が生まれ、すくすくと育っていったそうじゃ。
 同じように黒髪の子も育っていったが……。おぬしなら分かるじゃろう?どんな家ではどんな扱いだったか……」
「ああ死ぬほどよく分かるよ……」
ああクソッ嫌な事思い出しちまった。
「…しかしその黒髪にも一つだけ取り得があったのじゃ」
「取り得?」
「他の者より力がとても強かったのじゃ。そうじゃのう…大の大人でも一人では持てない丸太を余裕で振り回せるくらいじゃ」
それは取り得ってレベルじゃないだろ。
「当然、家の者はその黒髪を忌み嫌った。しかし、大貴族の体面上その子を殺す事が出来なかった。
 黒髪が生まれた時点で政敵から監視されておったからじゃ。もし秘密裏であっても殺したら、政敵に要らぬ隙を与える事にからの。
 政敵の子殺しなんて最高のスキャンダルじゃ。そこで家の者が考えたのが、合法的に死んでもらう方法じゃった」
「その方法がこの学院に入れることに何の関係が…そうか……」
「気づいたようじゃの」
「そのクソ親どもは、そいつに学院で事故死して欲しいんだろう?」
この学院は士官学院。当然授業内容には、模擬戦闘やサバイバル訓練が存在するだろう。しかも魔法の使用を前提としたものだ。
魔法の使えない黒髪じゃ耐えられない。
それだけじゃない。ここは学院なのだ。つまり他の生徒がいる。集団の中の異分子は徹底的に排除されるのがこの世の理。
「コレを考えた奴は相当なクソッたれだな」
「…ワシも同意見じゃ。そして、前学院長に多額の賄賂を渡して、黒髪がこの学院に入学してきたのじゃオマケ付でな……」
「オマケ?」
「…前学院長が、他の黒髪の親達に売り込んだのじゃ。'厄介払いしませんか?'とな……。そして更に三人の黒髪が入学した。
 まぁそのうちの一人はちょっと特殊じゃったがね」
『ひどい』
「…その前学院長殺していいか?」
「残念じゃの。もう死んでおる。ワシが死刑台に送ったからの」
「GJ」
おっと、思わず前世のスラングを……。
「じーじぇい?なんじゃそれは?」
「いやなんでもない。気にしないでくれ」
「…ワシが学院長なった時に驚いたぞい。直ぐに特別カリキュラムと偽って保護して、親元に帰そうと思ったんじゃが」
「どうせ拒否したんだろ」
「そうじゃ。'学費は払った'の一点張りじゃった。結局は…ほれ、あそこに見える古い屋敷に入れることしか出来なんだ」
ダーム学院長が立ち上がり、ベランダから森の方を指差した…が…。
「どこにあるんだ?」
俺も立ち上がって学院長の指差した先を見たが、鬱蒼とした森が広がっているだけで屋敷らしき物は見つけることは出来なかった。
「あそこじゃ、あそこ。屋敷に蔦が絡まって分かり辛いじゃろうが、あの妙に緑が濃い場所があるじゃろ?」
ダーム学院長に言われて、もう一度指差した先を見てようやく見つける事が出来た。
「コレはひどい」
あったのは、蔦の絡まったボロイ屋敷。いや幽霊屋敷と言っても差し支えないだろう。
「見つけたか、今黒髪達はあそこで生活しておる」
「ヒデー屋敷だな。もっとマシな屋敷は無かったのか?」
「あるにはあるが、副学院長以下教師陣に反対されてのぅ。それに授業を受けさせようにもやりたがる教師もおらなんだ」
「まぁそんな連中ばっかだろうな…、それで俺にそいつらの教師になれと?」
「そうじゃ、暇なんじゃろ?給金は弾むぞい」
「…一つ質問がある。ダーム学院長はどうしてそんなに黒髪に良くしてくれんだ?俺の経験から言っても破格といっても良い。
 それだけに、少々不気味だ」
「はっきり言うのう…。最大の理由は魔力が低い人間ほど、面白いからじゃ。
 時にあやつらは、魔法を使える人間には考え付かん事をしおる。
 それが楽しみで仕方が無いんじゃ。まぁ今この学院にいる黒髪達はまだ若い。
 面白い事をする前に死んでしまっては、詰まらん。それが理由じゃ」
ダーム学院長はそう言うと悪戯小僧の様に笑った。
「下手な博愛主義より、よっぽど信用できるな。それで俺に若い黒髪達に色々教えさせて面白くしようと?」
「そうじゃ。どうじゃ?やらんか?」
「どうなっても知らないぞ?俺達が指導すると……」
「ワシはそれが見たいんじゃ。問題ない」
「それで俺達は、何を教えればいいんだ?」
「どんな状況でも生き残る術を」
「フーム、実質サバイバル訓練といった所か……」
「それとゴウ君達には、一般生徒の機兵戦闘訓練の相手もしてもらいたいのじゃ」
えっ!一般生徒(主に貴族)をボコっていいの?やるやる!!
「…俺個人としては受けてもいい。一応ウチの団員とも話し合いたいと思う。多分そんなに時間は掛からないと思う」
一応確認を取らないとな。
「いいじゃろう。決まったらまたこの部屋に来てくれ」
「分かった」
そう言うと俺は席を立った。

「…っと言うわけで、この学院で教師をしようと思うんだが、どうだろう?」
隣の部屋に入った俺は、ソファに座っている皆にダーム学院長とした話を皆に話した。
部屋の中は、高級そうな家具やソファが並んだ待合室のようになっていた。まぁ実際学院長と会う為の待合室か。
「おいおい、俺達が教師かよ…ンなことできんのかよ?」
「多分大丈夫だろ。教える事はサバイバル技術だし、機兵に関しては対戦相手だしな。
 あっ、後ルーリとカーラちゃんには、生徒になってもらおうと思う。クリシアさんは何時も通り、影からの援護よろしく」
「えっ?私ここの生徒になるの?おにぃちゃん、怖いよ」
『しょうがないわねぇ』
ビックリしたカーラちゃんが不安に声を震わせている。
「ああ、大丈夫。俺達のメインで受け持つ黒髪達のクラスに入ってもらおうかと思ってる。
 ダメだったら諦める」
「私は何で生徒になるの。兄さん?」
「制服姿が見たいから…いやなんでもない」
妹の冷たい目線に背筋が凍りつつも、説明を続ける。
「ルーリには、生徒達の現状を調べてもらいたいんだ。俺は教師として来るからどうしても見えない部分が出来る。
 それをルーリに補ってもらおうって訳、頼めるか?」
「…分かった」
渋々といった感じだが、ルーリは引き受けてくれた。
「次にアリカさんには、多分俺達と黒髪達の食事を作ってもらう事になると思う。たぶん碌なもんを食わしてもらってないだろうからな」
「いいわよ。その子達に飛びっきりのものを食べさせてあげるわ」
「最後にローラさん…だけど、どうする?俺達は、暫くここで教師をすることになったけど。
 予定通り、一緒にいる?それとも近くの街のギルドの方で待機してる?」
「私は予定通り、ご一緒します。ギルドの方には定期的に報告すればいいでしょう。それに教師の仕事もお手伝いします」
「その心は?」
「カーティスと離れたくないのです」
もうローラさんはカーティスにゾッコンねぇ。…なんだろう愛息子を婿に出す気分?
「それでよ。ゴウ。お前は何でこんな仕事請けようと思ったんだ?
 どう見ても面倒事しかなさそうじゃないか?」
いつもだったら、こんな依頼、絶対に受けない。
「まぁ面倒っちゃ面倒なんだけどね。俺達以外の黒髪がどうしてるか知りたいっていうのが理由だな」
なんか特別な奴らしいし、ああ、楽しみだ。

第32話 教師のお披露目

 俺達は学院長に依頼を受ける事を告げると依頼の細々とした部分を決めて正式に受注した。
本来なら商談の後にミレスに会う予定だったが中止だ。
今回の依頼の件があるので、会ってしまうと支障が出るかもしれない。
ヘイトスに事情を話して'暫くしたら会いに行く'と書いた手紙をミレスに渡してもらうことにした。

 初めての教師と言う事で、学院でどんな風に訓練しているのか気になった。
なので訓練風景を見せてもらった。
学院長室のベランダから見る機兵訓練は…ひどいもんだった。
人員不足からか、Sクラスの生徒に対し優先的に人員を配置し、それ以外の生徒は殆ど放置。
どう見ても機兵を乗り回して遊んでいるだけ。
一体何処の専門学校かと思った。
こりゃ、高い入学金と授業料を払って卒業ってステータスを貰うだけだな……。
これじゃあ俺達と対戦しても、なんの訓練にもならんな。むしろ対戦した俺達にとって害悪になる。
どうやら、俺達が試験官をした生徒は優秀な方のようだった。
さて、どのように教育してやろうか。
それからは一旦、学院を出て色々準備しに街に行く事になった。
準備といっても精々俺達の制服を仕立ててもらうだけだが……。
もちろん俺達が逃げないように監視役の騎士も同行している。
あの短髪グレーだ。
最初は渋々といった感じだったが、俺達のトレーラーに乗った瞬間ローラさんと同じように目を輝かせて
コレはなんだ?アレはなんだ?と聞いてきた。トレーラーの説明はローラさんとルーリに任せて俺はハンドルを握った。
学院の教員用制服は、見た目ちょっとラフな乗馬服のようだった。なので俺の付ける仮面はフルフェイスの鉄仮面に決定。
もちろんロボットロマン2で製作しましたよ。
フハハハ!怖かろうっ!いや…なんでもない。
ちょっと0っぽい仮面も考えたが、さすがに制服に合わなかったのでやめた。
街での準備は直ぐに済み、俺の教師としてのお披露目の日の朝になった。

 学院の前に作られた、広いグラウンド。現在そこには、この学院に在籍している人間がズラリと並んでいた。
服装から見るに、朝礼台に近い中央の列がSクラスで外側に行くにつれてランクが低くなっているようだ。
朝礼台には、ダーム学院長がありがた~いお話をしており、そろそろ30分近く経っている。
さすが士官学院なのか熱中症などで倒れるような人間は一人もいなかった。
朝っぱらだというのによく喋る。
長と名の付く役職の話は長いってのは世界が変わっても変わらないんだな…。
俺達(俺とドルフとローラさん)は朝礼台の横に立ち、生徒達向ける大量の視線に晒されている。嗚呼…、まだか……。
「…というわけで、諸君も努力を怠らず、先人達の積み上げてきたものを崩さぬように精進する事じゃ…。
 ちょっと短いが今日はコレくらいにしておこう」
おいおい、いつもはもっと長いのかよ。勘弁してくれ。
「さて、諸君らも気になっておるだろう。今日から赴任してきた新しい教師陣の自己紹介じゃ。
 これから諸君らの機兵訓練を担当する教師じゃ。じゃあ鉄仮面先生よろしく」
「はい、学院長」
ちなみに俺の声は鉄仮面につけたボイスチェンジャーで三十台前後の低い声が出るようにしている。
コレなら、年齢や声からミレスに疑われる事は無いだろう。
「鉄仮面?何それ名前?」と生徒達からのひそひそ声が聞こえてくる。
俺達は、学院長に代わり朝礼台に上る。俺の左右の後ろにはドルフとローラさんが並んでいる。
生徒の視線は奇妙な仮面を被った俺に集中する。
俺は、ビシッと休めのポーズをとり、穏やかに挨拶を始めた。
「私が学院長から紹介された鉄仮面です。後ろにいるのが私の補佐、ドーフとロラ。
 私達の仕事は機兵訓練を通して、兵として使えない者を選別する為です。 
 私が使えないと判断したものは即座に退学にさせてもらいます。ゴミですからね。
 何故今更そのような事をしなければならないのか…それは、あなた方の先輩が使えなかったからです。
 兵の何たるかを理解せず、命令の何たるかを理解せず、階級の何たるかを理解していないゴミばかりだったからです。
 まぁ当然ですね。前学院長に金銭を搾り取られた残りカスなんですから。
 先ほど学院長が'先人達の積み上げてきたものを崩さぬように'と仰いましたが、そのようなものは既に存在しません。
 過去の卒業生など生きているのも恥ずかしい学園の恥でしかありません。
 改めて言いましょう。
 私達の仕事は機兵訓練を通して、兵として使えない者を選別する為です。
 あなた達の為に判りやすく言いましたが…私の言った事が理解できないゴミはいませんよね?
 それでは皆さん、せいぜい頑張ってゴミでは無いと証明してくださいね。
 私からは以上です」
はい、知っていたとはいえ学院長以下全員総ポカン状態。
コンセプトは、冷静毒舌な得体の知れない怖い教師です。
その状態が暫く続いたと思ったら、クリシアさんから防御の合図が腕から伝わってきた。
見回してみると顔を真っ赤にした生徒どもが手を俺に向けていた。
「土壁よ、災いを、防げ!」
次の瞬間朝礼台を囲む様に土壁がせり上がり、四方から飛んでくる魔法から俺達を守った。
魔法攻撃がすべて無効化されたのを確認し、今度は右手を上げた。
「空気よ、敵を、潰せ」
「「「ぎゃぁああああああああああああああああああ」」」
「あっ足がぁ…」
クリシアさんが放った空気の塊は狙いあたわず、俺に魔法を放った馬鹿どもを押し潰す。
骨がへし折れる音が悲鳴と共にそこかしこから聞こえた。
ドルフとローラさんは平然とした顔で俺の後ろに立っている。
そう言う風にするようにお願いしたのだ。内心は冷や汗物だろうが……。

こうなる事は、想定済みだった。
ついでにそれを利用し、俺が黒髪とばれない様に魔法を使える事を見せておく。
実際は、クリシアさんにタイミングよく魔法を使ってもらっているだけだ。
「私に攻撃魔法を使った生徒がいたようですね。
 ああ、さすがゴミ予備軍のみなさんだ。
 掃除のし甲斐がありそうですね。
 今回は初回という事で特別にこれで許してあげましょう。
 寛大な私で良かったですね」
俺は、言うだけ言うと朝礼台を降り、学院長の前に立つ。
他の教師達は、青ざめた顔をしながら足を折られた生徒の救護に駆け出している。
「如何でしたか?学院長」
「いや…あの…その…じゃのう」
学院長は、ここまでやるとは思いもよらなかったんだろう。完全に引いている。
「ご安心ください。学院長、ゴミをリサイクルして立派な兵器に変えて御覧に入れましょう。
 こう見えても私はエコロジストなんですよ」
俺は鉄仮面の奥で笑った。

 そして今度は、黒髪達に対してお披露目だ。
道も碌に無いような森の中を学院長と短髪グレーに案内された屋敷を見て、俺達は息を呑んだ。
そこはまさに幽霊屋敷。所々窓が割られ、場所によっては窓そのものが存在しなかった。
外壁は蔦に覆われ、壁も窓も見えない場所もあった。見る角度を変えれば完全に森の一部としか認識できない。
本来なら汗ばむ程の陽気なのに、その屋敷の周りだけひんやりとした空気が流れている。
短髪グレーは慣れた様子で屋敷を覆っている蔦のカーテンを押しのけ、そこに隠れていた扉を開いた。
「こちらです」
「話には聞いていたがこいつぁヒデェな」
ドルフ…俺も同意見だ。
「あらあら、お掃除が大変そうね」
「もう中で生徒達が待っているはずです」
屋敷の中は、蔦が窓を塞いでいる為、薄暗くジメジメしていた。
念入りに掃除しているのか、廊下や窓枠に誇りは溜まっていなかった。
…ここにルーリやカーラちゃんを通わせるのか?…ごめんだね。
俺は、この屋敷の改造を心に誓いつつ、廊下を進んだ。

 廊下の一番奥にあった扉を開けゾロゾロと教室に入る。
黒髪の教室となっている部屋は、元はパーティールームだったのだろう、
蔦に塞がれているが大きな窓とシャンデリアがあった。
そしてその広い空間には、6脚の机と椅子、それと取ってつけたような黒板があった。
そこに四人の生徒は居た。
一人は、足を机の上に投げ出し、ぼさぼさの髪をそのままに、ふてぶてしく笑っている男。
一人は、こちらなど意に介さず机の上に積み上げられた本を黙々と読む男。
一人は、今度はこちらを凝視しつつ目に怯えを宿したショートカットの少女。
最後の一人は、他の黒髪たちがくたびれた感じの制服を着ているのに対し、
フリフリひらひらのゴスロリドレスを着た人形の様に無表情の髪の長い少女だった。
容姿から言って、全員俺よりちょっと年下といった感じだ。
しばし、黒髪の生徒達に見入っていると、ぼさぼさ髪の男が学院長に話しかけてきた。
「よぉジジィ。そいつらが新入り達か?」
「学院長と呼べと何時も要っておろうが!グレン!」
随分無礼な態度だが、いつもどおりなのか短髪グレーが諦め顔でやり取りを見ている。
「いいじゃねぇかよジジィ。親愛の証だよ。あ・か・し。んで……」
ぼさぼさ髪の男…グレンが俺の方を近…スルーしてルーリとカーラちゃんの方に近寄った。
「よぉ新入り!安心しな。俺の近くにいる限り、俺が守ってやるからよ」
そう言うとグレンは気安そうにルーリの肩を掴んだ。カーラちゃんは若干怯えてルーリの後ろに隠れてしまった。
ほう、ルーリにいきなり触るとはいい度胸だ。
「はっ、学院長に守られている分際で'守ってやる'だ?よくもそんな口がきけるもんだな。小僧?」
「あっ!なんだ?仮面のおっさん。なんか言ったか?」
俺の言った事が気に入らなかったのか、まるでチンピラのように睨み付けてくる。
ほんとにコイツ大貴族の子供か?
「ああ、言ったさ。よく出来もしない事を言えるな。恥ずかしくないのか?」
「はっ。今度の教師は口が達者のようだな。俺より弱いくせに吼えるなよ」
「やれやれ、表に出ろよ小僧。現実って奴を教えてやる」
「おっおい、こっちでも問題を起こすのか!止めてくれ!問題はもう沢山じゃ!」
もうダーム学院長もう泣きそうになっている。
「大丈夫ですよ、ダーム学院長。現実を教えてあげるだけ。授業の一環です」
既にグレンは、教室を出ている。
「こいよ。おっさん。叩きのめしてやるよ」
「ああ」

 場面を移して、俺達は屋敷の中庭に来た。ここも相当荒れている。
俺は今、グレンと向かい合っている。ルーリ達や黒髪達も成り行きを見守ろうと外に出てきた。
「小僧、最初に言っておこう。俺の左手は金属製の義手だ」
「だから手加減してくれってか?とんだお笑い種だな」
グレンが馬鹿にしたように笑うが気にしない。
「心配しなくても生身と同じように動く。言っておかないと卑怯だろう?」
「フンッ!とっとと始めようぜ!」
「では、ダーム学院長。開始の合図をください」
「ムムム、もうどうなってもワシは知らんぞ!始めっ!」
開始の合図を聞き、構える。グレンの方も自分のスタイルなのだろう。
腰を落とし、右手をいつでも殴にいけるように引いている。
「おい、どうしたおっさん?魔法はつかわねぇのか?」
「魔法?お前相手に必要だとは思えんな…。先手はくれてやる。ほれ、とっとと来い」
俺は、手のひらを上にし、クイクイッと動かす。
「馬鹿にしやがって、後悔しても知らねぇぞ!!」
見せてもらおうか…その性能を!
一気に駆け出し、大振りのパンチを繰り出してくる。
あえて俺は、左手で防御する。人より強い力がどの程度のものか知りたかったのだ。
攻撃を受けた義手が今まで出した事の無い音を出しながら軋む。
『(きゃあああああ。割れちゃう!契約石が割れちゃうーーーーーーーーー!)』
クリシアさんが俺だけに聞こえる声で叫ぶ。
ヤバイ!
とっさに後退し、左腕を庇う。
「これは想像以上だ。俺の左腕が壊れそうになるとは……」
左腕をプラプラさせ、不具合が無いか確認してから、気を取り直して再び構える。
「ハハッ。なんなら魔法も使っていいぜ!まぁそれでも勝てないだろうがな!」
「そこまで心配する必要は無い。さぁ来い」
「どうなっても知らないぜっ!」
そう言って再び殴りかかってくる。先ほどと同じように大振り。
やはり殴り方がなっていない。そんなことでは……。
グレンの拳が俺ではなく、空気を叩く。
「当らなければ、意味は無い!」
それからのグレンの拳は俺に届く事は無かった。
「おら、どうした小僧!もうへばって来たか?そら、黒髪を守るんじゃなかったのか?」
「うるせぇ!ちょこまか逃げるんじゃねぇ!!」
「そうか?じゃあこっちから行くぞ?」
俺だってルーリほどじゃないが、体術の訓練はしている。
回避重視にまわしていた思考を攻撃重視にシフトする。
「オラァ!」
グレンの攻撃を回避した後、一気に懐に飛び込み腹に一発お見舞いする。
「ガァ!」
腹を抱えてグレンは膝をつく。
「どうだ?降参するか?」
「ハッ馬鹿言ってんじゃねぇよ。まだ一発もらっただけじゃねぇか!!」
気丈にも立ち上がり構える。
「そうか…」
そこからは一方的な展開だった。
俺がグレンを殴り倒す。グレンが立ち上がる。
俺がグレンを投げ飛ばす。グレンが立ち上がる。
俺がグレンを蹴り飛ばす。グレンが立ち上がる。
異常な打たれ強さだ。
黒髪ショートカットの子はもう見ていられないといった感じで目を両手で覆っている。
「おい、グレンとか言ったな。そんなざまで黒髪達を守る事なんて出来るのか?」
「…出来るか出来ないかの問題じゃねぇ!やるんだよ!俺がやると決めたんだ!」
グレンの足はもうガクガクしており、立ち上がるのも一苦労といった感じだ。
「そうか…。しかし足りない…。圧倒的に足りない」
コレで決める。
グレンは、フラフラになりながらも再び構える。
俺は一気にラッシュを叩き込む。
「何がやるだ!出来もしない事を口に出すな馬鹿者が!
 覚悟が足りん。
 技が足りん。
 知恵が足りん。
 知識が足りん。
 そして最後に現状に対する認識が足りん!」
最後にアッパーカットでしめ。グレンが飛ぶ。
「以上だ」
倒れたグレンに背を向ける。
「グッ待てよ…。俺は…まだくたばっちゃ…いねぇぜ…」
「なら、立って見せろ」
振り返ると必死に立ち上がろうと、もがいているグレンが居た。
「グハ…なんでだ…何で立てねぇ?」
当たり前だ。最後の一撃で脳震盪を起こすようにしたからだ。
「立つなら早くしろ。でないと……」
俺は、ボーっと試合を見ていたルーリに近づき、少し乱暴に抱き寄せる。
ルーリは少し不思議そうに俺を見るが、おとなしく身をゆだねてくれている。
「ほれ、早く立て…。出ないとこの子が大変な目にあうぞ」
「クソッ。止めろ。止めやがれ!!」
そのまま俺は、ルーリを押し倒すようにキスを……。

したフリをする。

もちろんグレンには、無理やりキスしたように見えるはずだ。
まぁ鉄仮面被ってるから、実際は関係ないんだけどね。
既に頭に血が上っているグレンには、分からないだろう。
「止めろぉぉぉぉーーーーーー」
グレンの叫びが響き渡る。
そして、ルーリの冷静な突込みが入った。
「…兄さん、やりすぎ」
「なにっ?」

第33話 前途は多難そう

 「えっどういう事だ?」
グレンは、地に這ったまま目を丸くしている。
「クカカカ、つまりこういう事だ。俺はルーリの兄で、ルーリにひどい事など絶対にしない。という事だ」
抱き寄せていたルーリを開放し、グレンの方を向く。
「てめぇ!騙したのか!!」
「騙したとは人聞きの悪い。お前が勝手に勘違いしただけだろう?」
「ふざけんな!!」
「俺は教師だ。教師と言うものは教えるものだ。だから俺は教えた。敗北をな……。
 そして敗北の結果を。もし俺が本気でルーリを害するつもりだったらどうなっていたか考えろ。
 お前は、ルーリを守ってやると言った。なのにそのざまはなんだ?
 今のお前は出来もしないことを出来るといった間抜けだ」
「もう一度やったら俺は負けねぇっ!!」
「馬鹿か、お前は?戦いに負けて'もう一度'がこの先あると思っているのか?」
「ぐっ」
「まぁ安心しろ。お前ごときにルーリは守ってもらう必要な無い」
俺はわざと酷な言葉を使う。
「…」
「そもそもルーリは俺より強いしな」
「はっ?そんな馬鹿な。あんなひょろひょろの体で俺に勝てるわけねぇだろうが!」
俺の発言に学院の黒髪連中と短髪グレーがビックリしている。
あっ。ルーリがむっとしている。ひょろひょろ呼ばわりされたのがムカついたのだろう。
兄として言っておくがルーリはひょろひょろでは無く、スレンダーなのだ。間違えちゃいけないぞ。
「兄さん」
ルーリが目で伝えてくる。'ちょっとあの馬鹿〆させろ'と……。
「はぁ、分かった。グレン…そろそろ立てるだろ。ルーリが立会いたいそうだ。もちろんキツイなら断ってもいいぞ」
「ん?、おっ」
倒れていたグレンが立ち上がる。そして体の状態を確認するように手足をプラプラさせた。
「フンっ。こん位なんともねぇよ。まぁちっと手加減できないけどな」
「ルーリ準備は?」
「必要ない」
ルーリは、颯爽に歩み出てグレンの正面に立つ。

今更だが、ルーリの着ている制服は、紺のプリーツスカートに白いワイシャツ、
その上に右胸のところに校章がついたクリーム色のブレザーと赤い小さなネクタイをつけている。
う~む、やはり可愛い。いつもの旅人装束とは違い、スカートと言うのがポイントが高い。
コレでふち無しの眼鏡を掛けて颯爽と風を切りながら歩いているとこを想像するとご飯三杯はいける。
一体何を言っているんだ俺は……。
ちなみに、お金の余裕のある貴族とかになると家紋などを金糸で刺繍するなど、改造を施すのがステータスになっている。

「それでは…、始めっ!」
俺は開始の合図を出したがルーリもグレンも動く気配が無い。
グレンは、ルーリが俺より強いと言う事信じていないようだが、それなりに警戒しているのか動かない。
一方ルーリの方は、ボーっと突っ立ったままだ。正面を見ているが、グレンを見ようとはしていない。
暫くそのままだったが、グレンが焦れてルーリに向って駆け出す。
早々に一発当てて、終わらそうと言う魂胆なのだろう。
碌に構えもしないルーリを見て、勝利を確信したように右手を振りかぶるグレン。
グレンの拳が繰り出される瞬間、ルーリが動いた。
俺とグレンが戦った時より、重い打撃音があたりに響く。
……コレはひどい。
グレンはルーリのカウンターボディブローをまともに受け、白目を剥きながらルーリの右腕にぶら下がっていた。
「カフッ、カヒッ」
まともに息も出来なくなっていのか、変な呼吸をしながら痙攣している。
あれじゃあ二、三日はまともに食事を取れないだろう…。
「以上よ」
ルーリはそう言うと、グレンを開放した。
グレンが力なく倒れる。
「グレン君!!大丈夫?!ねぇ!」
尋常では無い様子にショートカットの黒髪少女がグレンに駆け寄る。
「大丈夫、死にはしない。ちゃんと手加減はした」
ルーリはドヤ顔で最後にそう言った。

 グレンを屋敷の自室に運んだ後、教室で残りのメンバーでお披露目の続きをする事になった。
「え~なんか色々大変な事になったんじゃが…。君達の教師になる鉄仮面先生を紹介する。
 鉄仮面先生はワシが見つけてきたギルド所属の機兵乗りじゃ。
 君達の先生役をすることに嫌な顔一つせんかった、珍しい人物じゃ。
 仲良くするように。じゃ鉄仮面先生挨拶を」
そう言うとダーム学院長は教壇を俺に譲った。
「あー紹介に預かった鉄仮面だ。今日からお前達にいろいろ生きる術を教えていく。
 それと、俺の横に居るのがサポートしてくれるドーフとロラだ。こいつらも黒髪に偏見無いから安心して欲しい」
「よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
「そして、この屋敷の管理及び料理を担当してくれるアカリさんだ。
 崇めろ」
「よろしくね。あっでも崇めなくていいわよ」
「最後に君達と一緒に学ぶ事になる妹のルーリとドーフの娘のカーラだ。
 以上だ」
…今更だがルーリとカーラちゃんを偽名にしなかったけど大丈夫かな…。まぁ屋敷周辺にしか出さないし…。
「よろしく」
「よっよろしくお願いしましゅ」
「それと俺達は、機兵学科の連中も受け持つ事になる。その場合はドーフ又はロラが授業を担当するからそのつもりで…」
良し、大体言いたい事は言ったな…。ん?
「何です?ダーム学院長。鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔して?」
「朝礼と時と態度がぜんぜん違うんじゃが…」
「当たり前じゃないですか。あっちは兵隊を育てる。こっちは生き残る術を教える。同じ態度な分けないでしょう?」
「そんなものかのう」
「そんなもんです」

「それじゃ今度は、君達の自己紹介をしてもらおうか。んじゃ君から順に行こう」
俺は、机に本を積み上げた青年を指差した。
指された青年は、読んでいた本を閉じると席を立ち自己紹介を始めた。
「サイ・クロムウェル。趣味は読書。以上です」
それだけ言うとサイは、再び椅子に座り本を読み始めた。
「本が好きなのはいいが、俺の授業中に読むなよ」
「教科書は全て暗記しました。必要ありません」
まるで'あなたには、教えてもらう必要はありません'と言っている様だ。いや、言っているのだろう。
「そうか、ならお前は野外での実地訓練を中心に指導してやるから覚悟しとけ」
「はっ?」
サイは、目を丸くして俺を見上げた。
「じゃあ次」
「はっはいっ!」
次は、先ほど倒れたグレンに駆け寄っていったショートカットの子だ。
ガタッと大きな音を出しながら立ち上がる。
「わっ私は、シュナ・リーメロイです。趣味はお裁縫とお料理ですっ。よろしくお願いしまう」
少々おどおどしすぎといった感じはあるが、黒髪ということを考えると普通はこうなるだろうな…。
むしろ俺を含めた彼女以外が異常か……。
「こちららこそよろしく。座っていいよ。んじゃ、最後は君ね」
最後に残っていたゴスロリ少女は静かに立ち上がった。
「私は人形…。ハリエッタの人形」
「は?」
コノカタハ、ナニヲイッテイルノデショウカ?
ゴスロリ少女はそれだけを言うと立った時の動作を逆再生したかの様に座った。
「ダーム学院長…彼女は一体…?」
「…彼女はのぅ…」
ダーム学院長が俺の質問に答えようとした時…彼女が来た。
ドパンと扉が開かれた。
「おねー様ぁ~!」
扉を力任せに開き入ってきた侵入者は、先ほど自分のことを人形と言った少女に突撃した。
「お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様ぁ~。妹のハリエッタが迎えに来ましたわぁ」
侵入者は、ゴスロリ少女に抱きつくといかにも大事そうに撫でくりまわしている。
「こりゃハリエッタ!こちらはまだホームルームの時間じゃ!そもそもここは黒髪の生徒以外立ち入り禁止じゃ!」
侵入者はハリエッタと言うらしい。
コイツ…貴髪だ。
真っ赤な髪をツインテールにまとめている。
しかもSクラスの奴だ。
Sクラスは制服が少し豪華になっているのとSクラスを示すクラス章があるので直ぐ分かる。
ハリエッタはツリ目気味でいかにも勝気そうな顔をだらしなく緩めゴスロリ少女に抱きついている。
そこでようやくダーム学院長に気づいた。
「あら、ダーム学院長先生ごきげんよう。
 いいじゃありませんか、私はお姉様のなんですもの。
 さぁお姉様。お昼に行きましょう」
そう言うとハリエッタは、ゴスロリ少女の手を引いて教室から出て行ってしまった。
おいおい、俺達のことガン無視してったぞ…あいつ。
俺達が呆気にとられているとダーム学院長が説明してくれた。
「今来た彼女は、うちに在籍しておる貴髪二人の内の一人じゃ。名をハリエッタ・ネイルズと言う。
 ほれ、教師を依頼したときにちょろっと言ったじゃろ。特殊な事情の子が一人おると」
ああ、そんな事言われた記憶があるな。
「それがあのゴス…ドレスを着た子事だったんですか」
「ああ、ハリエッタは度を越した姉好きでのう。元々王立アデプト魔術学校の生徒だったのじゃが。
 寮生活で長期の休みしか、姉に会えない事がたいそう不満だったそうじゃ。
 そんな時、どうやって知ったかは分からんが、黒髪を厄介払いできるうちの学校の事を知ったんじゃ。
 親を脅し、リミエッタ…ああ、黒髪の姉の名じゃ…彼女の入学と自分の転校を了承させたのじゃ」
「親を脅しって…貴髪って言ってもまだ子供だろう?」
「…半壊じゃ」
「えっ?」
「ハリエッタは、親を説得した際大暴れしてな。
 それなりに大きな屋敷じゃったそうだが、躊躇うことなく半壊させたそうじゃ」
うわ~。
「それに、この学院でも色々やらかしておる。これから毎日会うことになるだろう。気をつけておくのじゃぞ」
「…教育的指導を行っても問題ありませんか?」
「…出来るのならかまわん。ここは士官学院じゃ。校則を破ったものに罰を与えるのは当然じゃ」
良し言質は取った。次に同じような事したら……。
「ふぅ…まぁ色々あったが自己紹介は以上だな。俺達も腹減ったし。昼食にしよう。アカリさんの昼食は絶品だぞ」
とうとう四人だけになってしまった生徒に俺はそう言った。

第34話 機兵学科の授業

機兵訓練初日--朝

 校舎から機兵が整備されている格納庫へ、Sクラスを除く機兵学科の生徒全員がぞろぞろと出てくる。
俺達は既に格納庫の前に来ており、生徒が来れば直ぐにでも授業が開始できる。
何故Sクラスの機兵学科の生徒が居ないのか?
それはぶっちゃけダーム学院長以外に信用されていないから。
今の学院唯一の商品価値であるSクラスの生徒を何処の馬の骨か分からない奴に任せるなんて何事か!と言うのが副学院長以下教師陣の言い分だ。
まぁ俺としては、ミレス(なんと機兵学科!)に顔を会わせる危険が減るのでありがたかった。
俺はちんたらと出てくる生徒たちを見てドーフとロラに合図を出した。
「全員整れーつっ!走れ走れ走れー!」
「何をチンタラ走っているんです?退学になりたいのですか?
 それならジジイの○○○がおっ立つ方が早いぞっ!
 そんなに私の鞭で叩かれたいかっ!」
ちなみに二番目の台詞はローラさんです。
ローラさんは最初は一番恥ずかしがっていたのに…今では一番ノリノリです。
俺達の怒声に驚いた生徒が一斉に駆け出し、俺達の前に整列する。
「遅いですね。
 私の授業は十五分前に開始できるように整列しておきなさい。
 罰として腕立て伏せ50回。
 始めなさい」
俺の前に整列した生徒達は'えっ?'という表情する。
「どうかしましたか?
 早く腕立て伏せを開始してください。
 私の言う事は絶対です。
 腕立て伏せ100回に増やされたいのですか?
 ああ、あのゴミ予備軍のように足をへし折られたいですね?」
俺が、そう言うとと生徒達は大慌てで腕立て伏せを開始する。
この学院でも基礎訓練はちゃんとしているのか大きな声で回数をカウントしている。
「今日は良かったですね、皆さんは。
 この間の朝礼の時、私を攻撃したゴミ予備軍が居たら私に抗議して腕立て500回になっていたでしょうね。
 覚えて置いてください。私はこの中の誰かがミスしたら連帯責任で全員に罰を下します」
そう、今日この場には、誇り高い(笑)貴族様が居ない。
まぁ普通の貴族は混じっているようだが……。
俺がへし折った足がまだ良くなっていないそうだ。
あの程度の骨折ならこの学園にいる医療魔術師がちょいちょいっと治している筈なんだけどな。
ただのサボりか……はたまた何か企んでいるのか……。
「おら!楽しようとするな!
 何だ、その腕立て伏せは!
 ヘコヘコ腰を動かしやがって、ここはベットの上じゃないぞ!
 ちゃんと腕を曲げろ、クソバカが!」
ドルフがガナリながら生徒を指導しているのが見える。
まぁ何か仕掛けてくるのなら、その時対処すればいい。

 ここでこの学校のカリキュラムについて簡単に説明しておこう。
この学校は最初の三年間で基本的な学力及び体力を作り、
4年生になると適正にあわせて戦略学科、機兵学科、整備学科、普通科、医療魔術科のどれかに所属する事になる。
学科の所属が決まると今度はクラス替えが行われる。
一クラスに全ての学科の生徒が入るように調整され、クラスを一部隊と見立てて対抗戦などを行ったりしている。
それによりクラスの団結力や、部隊運用ノウハウを養う事が目的だ。
そして、卒業する頃には立派な士官が出来上がる……筈だったらしい。
一部の貴族連中が指揮系統を無視して勝手にしている為、形骸と化しているけどな。

 無事生徒たちは腕立て伏せ百回を完了した。
目の前にいる生徒達の中に、もちろんヘイトスも入っている。
ヘイトスには事前に俺が教師をすることを伝えており、生徒側の協力者になってもらっている。
無論俺は贔屓するつもりは無い。逆にキツイ訓練を課すだろうと言ってある。
ヘイトスは笑顔で「それで僕が強くなれるなら問題ない。ドンドンやってくれ」と言ってくれた。
そこまで言われては手は抜けない。徹底的に扱いてやろう。
先ほど顔をチラ見したら、若干顔を青くしていたのは気のせいだろう。
「ようやく終わりましたか。
 本当にナメクジのように遅いですね。
 6、7年生は各自機兵に搭乗してください。
 搭乗後は各自正門にて整列待機。
 4、5年生は乗せる機兵がありません。よって今日は基礎体力訓練です。
 ロラ4、5年生の指導を頼みます。
 ドーフは、もしもの時に備えてトレーラーで待機」
「了解だ」
俺の受け持つ生徒は全学年合わせて68人。そしてこの学院の練習機カルノフは35機。
約半数は機兵訓練が出来ないのでローラさんに頼む。
「了解。
 おらガキども何をしている!
 とっととグラウンドに行かんか!!
 それとも馬のようにケツを叩かれなきゃ走れないのか!!」
ローラさんが怒鳴ると生徒達はビクッとした後、一斉にそれぞれの目的地に向って走り出した。

 俺が自分の機兵に乗って正門に着いた時、生徒達は言いつけ通り整列していた。
今乗っている機兵はグランゾルデ改では無い。
さすがにグランゾルデ改に乗ってしまうと俺達が試験を担当した生徒に試験官だとばれてしまうからだ。
クリシアさんが乗り換えを渋っていたが、何とか許してもらった。
今乗っている機兵は、ファードの街で鹵獲した角ばり機兵を改造した物だ。
本来の名前は'グローム'と言うのだが、俺が角ばり機兵を改造に改造を重ねて、また別物にしてしまった。
簡単に改造内容を説明すると本機の最大の特徴であるゴーグル式の頭部をモノアイ式に、もちろん角付、外部装甲を角ばったものから丸みを帯びた物に変更。
色は元々の鋼色から赤へ、袖や襟は黒くして金色のエングローブを追加。もちろん魔晶炉の換装と各種パワーアップも行っている。
その名も'グランジュ'。
はい、元ネタは一角獣のあれです。
えっ何?新型機は旧型機がやられてからだろ常考?
こまけぇことは気にすんなよ。
こういう場合はコマンドナンチャラ系のデザインの方が良かったんだろうけど、鹵獲したグロームを見ていたらむくむくと改造プランが出てきてしょうがなかったんだ!
勢いでやった、後悔はしていない。
もう一機のひょろ長機兵…フォメルって言うんだが、こちらは現在どう改造しようか考え中。
作りを見るとなかなか癖の強い機兵らしく、手間取っている。
まぁそれはいいとして……。

「良し、揃いましたね
 今日これからあなた達にやってもらう事は唯一つです。
 良かったですね。馬鹿でも出来る事です。
 走ってください。ただそれだけです」
生徒達は驚いた表情でそんなことで良いのか?と思っているだろう。
だがしかし、世の中そんな甘くない。
「大丈夫、たかが外周を午前中に20周するだけです。
 ただし、午前中に全員が走りきる事が出来なければ罰として昼食は無しです」
今度は生徒達の顔が引きつる。生徒達の使っているカルノフの巡航速度は約30km/h。
カルノフで外周を一周するのに約15分かかる。
そして現在朝の鐘が先ほど二回鳴ったところだ。時間で言うと午前七時前後。
つまり、今すぐにでも走り出さないと…しかも巡航速度以上を出しながら…間に合わないのだ。
「さぁ行きますよ。
 皆さん。
 返事は?」
「「「はいっ」」」
そして地獄マラソンが始まった。

 巨大人型ロボットの弱点は?と聞かれて最初に思い浮かべるのは何でしょう?
人によって色々な答えがあると思う。
俺の答えは'膝'だ。前世でもよく議論されていたが、人型ロボットの足は消耗品だとよく言われている。
人間の膝は、軽くジョギングしているだけども体重の三倍もの負荷が掛かるという。
ただでさえ人間より比重の重いロボットなのに巨大人型ロボットともなると想像を絶する負荷が掛かっているだろう。
おっちゃんのとこの工房の依頼の大半は脚部のメンテナンスだった。
つまり何が言いたいかと言うと…。

「鉄仮面先生!カッカルノフの脚部がイカレました!走れません!」
さっそく脚部をぶっ壊したカルノフがいた。
「走り方がなってないからそうなるのです。
 そこの二機、手伝ってやってください」
近くを走っていた機兵を捕まえて、指示する。
「はいっ。待機しているトレーラーまで運べばいいのですね?」
「何を言ってるのですか?肩を貸してあげてください。残り後5周です」
「えっ?」
「こっこのまま続行するのですか?」
「何を馬鹿な事を言っているのです?私は全員が昼までに20周してくださいと言いました。
 途中脱落など許しませんよ。
 戦場で友軍機を助けていると思って早く再開してください」
「はっはいっ!」
案の定、彼らは昼飯にありつける事は無かった。

 昼の軽い休憩の後は、模擬剣による素振りや格闘訓練、〆に時間制限地獄マラソン第二弾。
もちろん今回も達成できず、機兵を格納庫に戻した後、罰として腕立て100回とスクワット100回を実施中。
ついでに寮の夕食の時間も終わっており、彼らはすきっ腹を抱えて眠る事になるだろう…本来なら。
生徒達が必死な思いをして罰をこなしている最中、格納庫内にスパイシーな香りが流れてきた。
格納庫の入り口を見ると大きな鍋を持ったサマス夫妻が入ってきた。鍋の中身はカレーだ。
グ~と何処からとも無く、腹の虫の音の合唱が流れてくる。
ふむ、予定通りだな。
「喜びなさい、私の言いつけ一つこなせない皆さん。
 予定された訓練を満足にこなせない皆さんに、本来は夕食を食べる権利は存在しませんが、
 アカリさんがそれではかわいそうだと特別に夕食を作ってくれました。
 作ってくれた物を無下にするわけにはいけません。
 ありがたく頂く事にしましょう。
 罰が終わったものから食事です」
俺が言い終わる前に生徒達のカウントが1.5倍の速さになったのはきっと気のせいじゃない。

 罰を終え、カレーを受け取った生徒たちが格納庫に敷いたシートの上でスプーンを持って固まっている。
最初はいい匂いを出しているが、その茶色い見た目から誰もスプーンを付けようとはしなかった。
先に俺が食べればいいんだろうけど、俺は鉄仮面を被っているので無理。
サマス夫妻は忙しそうにカレーを配っている。
このままだとご飯がカレーを吸って太ってしまう!
俺が、どうしようか悩んでいると何処からとも無く短髪グレーを連れたダーム学院長が現れた。
「なんか、いい匂いがしとるのう。どれワシにも一つくれんか?」
「学院長!そんな怪しげ料理を食べるなど!!」
「これは、ダーム学院長こんばんは。
 いいですよ。いっぱい食べていってください。
 これは私の故郷の料理でカレーライスと言います」
アリカさんから一杯カレーを受け取りダーム学院長に渡す。
「これは……変わった見た目じゃのう。ハムッ」
意外な事に、ダーム学院長は躊躇うことなくカレーを口に運んだ。
学院長は「…うっ」っとそれだけ言うと固まってしまった。
「学院長!?貴様!何を食べさせた!!」
短髪グレーの叫びが格納庫に響く。
次の瞬間
「う~ま~い~ぞ~!」
学院長が絶叫した。
「なんという事だ。これほどうまい物がこの世にあったとは!?ハフッ
 ムグムグ……これは複数の香辛料か?このピリ辛のソースのハーモニー。
 次からハフッ……次へと食べたくなる。
 それにハフッ……この大きく切られた野菜や肉が食感をあきさせぬ。
 それに初めて食べるこの穀物。
 一見無味無臭のように思えるが、噛めば噛むほど甘みが出てきおる。
 これはうまい。おかわりじゃ!!」
……何処の料理人会のトップですか?
生徒達は現金なもので、ダーム学院長がカレーをべた褒めしたら、とたんに食べだした。
「ハフッうめぇ」
「ハグッハフッ」
既に格納庫の中は皿を叩くスプーンの音と生徒達の咀嚼する音しかしなくなった。
厳しい訓練(鞭)の後には、うまい飯(飴)を用意する。
これが調…もとい、躾けの第一歩だ。

第35話 鉄仮面は○のおじさん

 機兵学科の連中をヒィヒィ言わせた翌日。
グレン達に対する最初の授業の日だ。
と言っても、今日はドルフ達にグレン達がどれほどの力を持ってるか調べてもらっている。
いわんや体力測定だ。
俺は、ちょっとやる事があるので別行動中だ。

今更だが、学校+ロボット物といえば?
それは皆さんご存知の光のおじさんシリーズ。
知らない人に簡単に説明すると……。

悪者が地球に攻めてくる。

ヒーローチックに光のおじさんがからくも撃退。

しかし、光のおじさんは怪我して戦えなる。

仕方が無いから戦闘経験の無い小学生に、
巨大戦闘ロボットと勝手に街やら学校やらを勝手に改造した基地を渡して戦闘丸投げ。

子供達がなんとか悪者を撃退し続ける。

そんな感じの物語だ(作者注、シリーズ好きな方ごめんなさい)。
前世で小さかった頃は大好きで、いつか俺の前にも…と思った事も無い事も無い。
…と言う事で俺がこれからすることは、幽霊屋敷の改造。
もちろん、ダーム学院長の許可なぞとらず、秘密裏に改造します。
まさしく極悪非道の光のおじさんのごとき所業。
まぁ本当は学院の校舎を改造するのがスジと言うものだろうが、さすがに校舎をばれずに改造しきる自信は無い。
さてと、じゃあまず最初に……。

 屋敷の改造が完了したのは夕方になってからだった。
森の方から体力測定が終わってへとへとになったドルフとローラ、グレン達が帰ってくる。
ルーリと以外にもカーラちゃんはケロッとしていた。
グレン達には俺が用意した体操服を着せている。もちろん女子組にはブルマを履かせようとしたが、……ルーリに〆られました。
半袖のシャツにハーフパンツと言ったまったく面白みの無い格好だ。
まぁリミエッタのポニーテールが見れただけ良しとしよう。
「ドーフ、ロラお疲れ様。よぉ、だいぶ絞られたようだなグレン。おかえり」
「おう」
「お疲れ様です」
新品を渡したのに、もう既にボロボロになっている体操服を着たグレンに声を掛ける。
「フンッこの程度、たいしたことねぇよ」
「そうかよ。…じゃあ皆、ちょっと集まってくれ!」
パンパンと手を叩きながら皆を呼ぶ。
「今日俺がみんなの体力測定に参加していなかった事を疑問に思っている奴もいるだろう。
 俺は、今までこの屋敷を改造してたんだ」
「改造……ですか?このボロ屋敷を?とても変わった様には見えませんが?」
「そりゃあな、変わった様に見えない様に改造したからな。サイ。
 という事でこれから改造したボロ屋敷ツアーを開始する。
 丁度皆汚れてるから風呂場から行こうか」

 「なんだ…コレ?」
グレン達の目の前には、巨大な円筒形の物が突き刺さった風呂場があった。
壁に付いている口を開けたライオン(?)が、円筒形を見て唖然としている様でシュールだ。
俺が改造する前の浴場は広く豪華であったが使われている様子は無く、倉庫になっていた。
この屋敷の浴場は珍しく給湯魔導装置が設置してあったが、黒髪であるグレン達が使えるわけなく、無用の長物と化していた。
そこで俺は考えた。このまま普通の給湯装置をつけるのは簡単だ。しかしそれでは芸が無い。
ロボット物で風呂と言えば?
そう、ビームサーベル風呂に決まっている!(えっ?マイナー?そうですか……)
あの雪山でのビックリドッキリ風呂体験!新人小隊長爆発しろ!!
と言うわけでダイドルフ用のビームサーベルの予備をデチューンして風呂場に設置。
さすがにビームサーベルで給湯器は作れなかったので近くの井戸から普通に水を引いてビームサーベルで一気にお湯へ。
シャワー?ねぇよそんなもん。
「お前達が使えるように風呂場を改造した」
グレン達に実際に装置を操作しながら使い方を教える。
今は風呂に水を溜めている段階だ。
思ったとおりサイが思いっきり食いついてくる。
「鉄仮面先生、この装置はどうやって動いているのですか?
 動力源は魔力じゃないんですか?
 そもそもこんな装置何処から持ち込んだんですか?」
「そう質問攻めにするな。気が向いたら授業で教えてやる。良し溜まったな」
そう言っているうちに、広い湯船に水が溜まった。
最後の仕上げに、ビームサーベル式給湯器(?)のあたためスイッチを押す。
するとビームサーベルの柄と水が接している部分から大量の水蒸気が濛々と湧き出した。
「おお」
サイの感嘆と共にどんどん風呂の水がお湯に変わっていく。ものの数分で丁度いい湯加減になった。
「さて、これで風呂が沸いた。こういう場合はレディーファーストだ。早速だが女子から先に入ってくれ。
 男子どもは、女子が上がるまで食堂で待機だ。
 覗こうと何てしてみろ…潰すぞ。いいな?」
最後の部分は女子に聞こえないように小声で男子に警告する。
もちろん睨みつけるのも忘れない。
「おっおう、すっするわけねーじゃん」
「とっ当然ですよ」
「……良し、お嬢さん方はごゆっくり。全員が上がったら食堂まで知らせてくれ。
 じゃあ行くぞ」
そう言って風呂場からグレン達男組みを連れて出ようとした時に…。
「別に…ても…ならいいのに」
ふとルーリが俺になんか言ったような気がした。
「ん?何か言ったか?ルーリ?」
「なんでもない」
「そうか」
聞き間違いだったか…。そうして俺達は風呂場から出て行った。

 交代でグレン達を風呂に入れた。俺も風呂に入りたかったがさすがに一緒に入ることは出来ない。
下の毛で黒髪とばれましたなんてなったら洒落にならん。
閑話休題

 さて次はキッチンだ。こちらの方も魔導コンロが設置されていたが取っ払って、ベースに建てた家からコンロを引っぺがして取り付けた。
…ガス管も繋がってないのに火が付くのは何でだろう……。まっまぁいい、ロボットロマン2の摩訶不思議パワーと考えておこう。
コレに一番喜んだのは料理が趣味のシュナだった。
シュナは、幼い頃からメイドの下働きとしてこき使われていたそうだ。
けどそこで働いていたメイドのおばさんに色々教えてもらったらしい。
現に今目をキラキラさせてコンロやレンジ、水道をいじくっている。
「鉄仮面先生!こっここでりっ料理して良いんですかっ?」
「ああ、自信があるなら好きにするといい。ただし、暫くは絶対に一人で使わないこと。
 必ずアカリさんかロラ、もしくはルーリのうちの誰かと一緒に料理する事。いいね?」
「はっはい!じゃじゃあ早速料理作りたいのですが……」
「は~い、私も作りた~い」
「それはダメだ、シュナ、カーラちゃん。まだ説明しなきゃならない場所があるからね」
「はい……。分かりました」
「ぶ~」
目をキラキラさせていたシュナがしゅんとしてしまった。
なんだろう、この子犬の玩具を取り上げた時の罪悪感……。
いや、気にするな!俺!うん。
「じゃあ次行くぞ~」

グレン達が何時も使っている教室の前に着いた。
「さて諸君。メインイベントだ!」
「メインイベントって事は、教室も改造してたんですか?」
「そうだ。コレを見るがいい!」
俺は勢いよく扉を開ける。
そして教室の中は…。
「なんだ?なんも変わってねぇじゃねぇか」
「確かに変わった様子はありませんね」
「?」
リミエッタも首をかしげている。
シュナは、これが終わったら何作ろうかと考えているのか上の空だ。
「クカカ、何も変わってないと思うだろう?……では見せよう」
俺はおもむろに頭上高く手を上げ、パチンと鳴らした。
この時の為に練習した指パッチン。
次の瞬間、教室の窓に装甲シャッターが下りる。
一瞬にして教室は暗闇になった。
「何をしやがった鉄仮面っ!!」
昨日まで…いや、朝まで普通の教室だったのにいきなり得体の知れない現象が起これば当然驚く。
なんかもうローラさんやドルフは、もう達観した感じで周りの変化を眺めている。
「まぁ落ち着け、これからだ」
俺が声を上げると同時に頭上にあるシャンデリアがひとりでに灯る。
それは、何かが燃やして出来た明かりとも魔法で作られた明かりとも違うLEDの光だ。
今度は普通の黒板がひっくり返り、電子スクリーンに変わる。
そして、グレン達が使う六つの机が自動で移動し、電子スクリーンの前に島を作る。
最後に机の天板が持ち上がりモニターとキーボードが姿を現す。
モニターには学院の紋章がクルクル回転しながら表示されている。
もう口を開きっぱなしの面々を前にし俺は言う。
「ここでお前達を一人前にするんでよろしく」
さて明日する最初の授業はこの教室の使い方だ。

 「鉄仮面先生、学院長がお呼びです」
短髪グレーが俺を呼びに来たのは、俺が先生になって2週間ほど立った時だった。
俺が学院長に呼ばれた時、俺達は課外授業をしていた。
グレン達に森にある物で食えるものと食えないものを教えていたのだ。
もちろん俺が間違って食えないものを食った時の経験談付で……。
クカカ俺ほどロウーナン大森海を食い尽くした男は居ない。
「学院長が?一体何の用だ?」
「さあ、私はあなた様を呼ぶように言われただけですので……」
「…一体なんだ。わかった直ぐ行く。
 と言うわけで今日の授業はここまでだ。
 宿題として明日の授業までに森で食えそうなものを取ってこい。
 調理して食うぞ。たとえ毒物でも……。じゃあ今日は終わり。サイ」
「分かりました。礼」
「「「「「「ありがとう御座いました」」」」」」
「フンッ」
ふぅ礼をしなかったのはグレンか……。あいつは何時もそうだな、まぁいい。
さて学院長が一体何の用だろうか。

第36話 予期せぬ……

 俺は学院長に呼び出されて、学院長室に短髪グレーと向う。
黒髪の屋敷のある森を抜けると目の前には室内鍛錬場がある、ありていに言うと体育館だ。
何時もそこを通りかかると、呪文の詠唱や轟音が聞こえてくる。
ここの鍛錬場は特別製で、中で使用された魔法は鍛錬上に張られた結界により外に出る事は無い。
室内鍛錬場から、魔法の爆発する音や氷の砕けるような音が聞こえてくる。
おーおー今日も元気なこって。
室内鍛錬場に掛けてある本日の使用クラスの看板を見るとなんと7年Sクラスだった。
ミレスの居るクラスじゃないか…。
ああっ!見たいっ!成長したミレスの姿をっっ!!きっと綺麗になってるんだろうな…けどダメだ。
今会いに行くと色々面倒な事がおこる。
最悪あの両親の居場所が分からなくなってしまう。
それだけは避けなくてはならない。だがしかし……。
そんな時だ。
「お兄ちゃんを馬鹿にするなぁーーーーーー!」
室内鍛錬場の扉を突き破り、何かが飛び出してくる。
しかし俺がソレが何か確認する間も無く。
「何してくれやがりますかーー!!」
飛び出した何かは、直ぐに体勢を立て直し壊れた扉に飛び込む。目には鮮烈な赤が、かろうじて残るぐらいだ。
そして再び聞こえてくる、呪文の詠唱と尋常ではない爆発音。
「今のは一体……?」
俺の呆然としたつぶやきに短髪グレーが律儀に答えてくれた。
「アレは、7年Sクラスのハリエッタさんと声からすると……ミレスさんですね。
 気にしないでください。あの二人には、日常茶飯事です」
アレが日常茶飯事って、一体…ん?ミレスだって?ンな馬鹿な。あの天使の様な妹が……。
次の瞬間俺の目に飛び込んできたのは、プラチナの流星だった。

何かに吹き飛ばされたのだろう、先ほど突き破られた扉からハリエッタ以上のスピードで飛んでいった。
それは空中で姿勢を整え地面を削りながら着地する。
おお、もしかして、もしかして、もしかしてミレスか?いやぁ俺は運がいい。さぁ成長したかんばせを俺に見せてくれ!
ようやく止まり、ミレスが顔を上げた。

そこに居たのは、夜叉女だった。

顔を彩るは、憤怒のみ。憎き敵を引き裂かんばかりに目を吊り上げ、口は凄惨な笑みを浮かべている。
構えている手に宿るのは必滅の力。魔法を使えない俺にさえわかる。アレをくらってはいけない。
「【我が身を 放て 】」
たった2文節の呪文、しかしミレスにはそれで十分だった。弾丸の様に加速して室内鍛錬場に戻る。
そして再び鳴り響く轟音。
『(今の子、ゴウちゃんの妹さんじゃないの?)』
「(……多分)」
クリシアさんにそう答えたもののちょっと信じたくなかった。
あの天使のような笑顔をしたミレスちゃんは何処行ったのぉぉぉぉぉぉ。
「とっ止めなくていいのか?」
動揺を抑えつつ、そう言うと短髪グレーはいい笑顔で言った。
「本来なら止めねばなりません。ですが、私ごときにアレが止められるとお思いで?」
俺は内心おいおいと思いつつ。
「…分かった。俺が止めてくる」
「出来るとは思いませんが、お気をつけて」

 室内鍛錬場に入ると、ミレスとハリエッタが戦っているのが見える。
鍛錬場の中は、木火土金水の魔法が入り乱れており、嵐の中に飛び込んだ気分だ。
「【――――――】!」
「【――――――――】!」
二人の口にする呪文は、詠唱が早すぎて、もうまともに聞き取れない。
ミレス以外の生徒達が気になったので探してみると、嵐が過ぎ去るのを待つ兎の様に鍛錬場の隅で防御魔法を使いつつ固まっていた。
おい、教師が率先して防御魔法を使ってるってどういうことだ?止めろよ。
しょうがない。こういう場合は、問答無用で横から掻っ攫う方がいいな。
俺はクリシアさんと使う魔法の打ち合わせを簡単に行った後、嵐の中心に飛び込んだ。
「過大な 爆音と 光を!」
俺の似非呪文と共に閃光と爆音が鍛錬場を満たす。
「きゃあ!」
「なんなのよっ!」
使った魔法は一種のスタングレネードで、爆発音と閃光で相手の行動を一瞬封じる事が出来る。
魔法は丁度魔法を撃ち合っていた二人の真ん中で発動し、二人とも諸に影響を受ける。
その隙を見逃さず、次の魔法をクリシアさんが放つ。
「貪る 炎の 円冠を!貪る 炎の 円冠を!」
青白い炎が円を描いてミレスとハリエッタを包む。
二人を炎が包んだのは一瞬だけだったが、効果は十分だった様だ。
炎から出てきた二人は既に意識は朦朧としており、立っているのでやっとといった有様。
二人が何故さっきまで元気に戦っていたのに意識が朦朧としているか?タネは簡単、酸欠だ。
ただでさえ呪文の詠唱で酸素不足の状態になっている所に、クリシアさんの酸素消耗特化の炎の魔法に包まれたんだ。
気絶していても不思議じゃない。実際立っているほうがおかしい。
ホントに魔法ってチートだよなぁ。俺が概念というか、効果を説明したら、クリシアさんが簡単に魔法で再現しちゃうんだから…。
ふらふらと今にも倒れそうな二人に近づき問答無用で拳骨を落とす。
いや、俺だって妹を殴るなんてしたくないよ。しかし、時には叱る事も必要だ。
ゴインといい音が鳴り、彼女達は頭を抱えて座り込む。
「「いったーい!」」
ああ、でも俺は妹に手を上げてしまった……。欝だ。でもこれはやらねばならない事なのだ。
「何をやっているのです?周りを見てください。鍛錬場がボロボロになっているではないですか」
「ハァハァ。コーウィックさんがいけないんですわ!ハァ。いきなり私を襲ってきたんですもの!!」
「ハァハァ。何言ってるのよ!!ハァあなたがお兄ちゃんを馬鹿にするのがいけないんじゃない!!」
二人は息も絶え絶えになりながらも答える。
「ハァあら、私は本当の事を言っただけではありませんか。それの何処がいけないんですの!」
「ハァお兄ちゃんは無能なんかじゃない!!すごいんだから!私に勉強を教えてくれたもん!」
ミレスは訓練用体操服の服の上から胸の辺りを右手でつかみながら言う。
「はいはい、やめてください。つまり、えーコーウィックさん…でしたか?の家族をハリエッタさんが馬鹿にしたと。
 それに激怒したミレスさんが殴りかかったと言う事ですか……」
「なんでコーウィックさんは苗字で呼んでるのに私は名前なんですの?馴れ馴れしいですわ!
 それより、あなたは何なんですの!?横からしゃしゃり出てきてっ!もしかして不審者!?」
おいおい、一応俺はこの間の朝礼で一騒動、起したのに、気づかなかったのか?
「…この前の機兵科講師兼特別クラス講師として就任した鉄仮面です。
 それにハリエッタさん、君には黒髪の館で会っているではありませんか?
 その程度の事も覚えていないのですか?
 それとハリエッタさんを名前で呼んだのは苗字を知らないからです。
 なにせ姉妹二人とも名乗りませんでしたからね」
「あら?そうでしたかしら?まぁ私、お姉さま以外興味ありませんもの。覚えていなくて当然ですわ」
こいつは……。
「私は、ちゃんと知っていたわよ。あんた馬鹿じゃないの?」
「何ですの?喧嘩を売ってるんですの?言い値で買いますわよ?」
ミレスとハリエッタは再び臨戦態勢になる。
「いい加減にしてください。ゴミ予備軍」
俺の冷え切った一言に二人がビクッっと身をすくめる。すかさず畳み掛けるように叱る。
「家族を貶されて怒るのは分かりますが。しかし、周りの迷惑を顧みず暴れるのは頂けません。
 特にあなた達は、ほかの人間に比べ力が強い。
 喧嘩をするなら周りに迷惑かからない場所でやるか、対象だけを確実に仕留めるにしてください。
 できないならやらないでください。迷惑です。分かりましたか?」
既に室内鍛錬上の中はボロボロであり、唯一無事なのが教師が防御魔法を張った一角だけだ。
「ハッ講師ごときが何を言って……」
「私は、私は分かりましたかと聞いているんです」
俺は一段と冷たくした視線と声で警告する。
「ひっ。わっわかりましたわよ。今度する時は確実に仕留められるようにしますわ」
ハリエッタは不貞腐れた様子で構えを解き腕を組んだ。
「それでコーウィックさんの方も理解しましたか?」
返事のないミレスを見ると何故か俺の顔を(鉄仮面ではあるが)じっと見つめている。
あまりに真剣な表情に今度は俺がうろたえる。まぁそれでも可愛いんだがな!
「何でしょうか?私の顔に何か付いていますか?」
「先生は……いえ、何でもありません。それと、申し訳ありませんでした。今度は十分周りに配慮します」
喧嘩しないとは言わないんだな。二人とも……。
しかし、ミレスの今の間が気になる。
今の俺は仮面を付けてるし、声も換えているが、勘のいいミレスのことだ。些細なことでも気づいても不思議じゃない。
今後は、なるべく会わないようにしないとな。残念だが…。
「鉄仮面先生、そこまでにしてそろそろ学院長室に向かいませんか?」
今まで鍛錬場の外から見学していた短髪グレーが声をかけてくる。
「そうですね。私はこれで失礼します。今後はこのような事が無い様にしてください」
「はぁ~い」
「わかりました」
うん。絶対わかってないな。まぁ様子からして一朝一夕に改善できるような関係ではないな。
とりあえず、怪しまれない程度の学院長に聞いてみるか。
俺は再び学院長室に向かって歩き出した。
『(なかなかパワフルな妹さんね)』
「(俺がいなかった7年間で成長したようだ)」
『(あらあら、それじゃあゴウちゃんから見て成長した妹さんはどうだった?)』
「(前はもっと儚げだったんだがな。
 元気に成長してくれてうれしいやら、寂しいやら。
 けどちょっと心配だな。今の戦い方は完全にごり押しだった。頭に血が上っていたとしていてもアレは頂けない)」
『(そうね。けど仕方ないんじゃないかしら?ここの人たちが小細工して戦っても、ミレスちゃんだったら小細工ごと吹き飛ばしちゃうわよ)』
「(そうだろうな。一番いいのは、あのハリエッタが小細工使ってくれるようになるのが一番いい刺激になるんだがな……)」
『(あの子も同じような戦い方だったわね)』
何とかできないもんかねぇ。俺が直接指導するわけにもいかんし。

 短髪グレーに案内されて学園長室に入るとそこには、大きなデスクに座る学院長とデスクの前に立つ汚れたツナギを着たドワーフの男が立っていた。
「学院長、鉄仮面先生をお連れしました」
「うむ、ご苦労」
「お呼びとの事で参上しました。っで何の用です、学院長?」
「アーそれなんじゃがのぅ」
「あんたが新しく入った機兵科の講師で間違いないか?」
ドワーフのおっさんが睨み付けながら聞いてくる。
「はい、そうですが?」
「てめぇどんな教え方してやがる!毎回毎回機兵の足をぶっ壊してきやがって!
 パーツは無くなるし、ウチの生徒が倒れちまうし!いい加減にしろ!!」
思いっきり、叱られた。

第37話 整備と試験官と

 機体整備
それは、ロボット物でほぼ欠かせない要素のひとつ。(中には自己修復機能を持ったロボットもいるが……)
いかに高性能なロボットも常にメンテナンスをしていないと、その能力を十全に生かすことは出来ない。
戦闘中に不具合が発生なんてしたら目も当てられない。
しかし、作品の中で表立って出ることは少なく完全に裏方の仕事だ。
もし某ロボット大戦で一番すごいのは誰かと聞かれたら俺はこう答えるだろう。
世界をまたいだ幾多のロボット兵器を完璧に整備する事が出来るアス○ナージ達整備員と……。
あいつら人間じゃねぇ。

 「申し訳ありませんでした!」
『「「「!」」」』
俺は、学園の整備学科筆頭講師であるシバ・オグロウ先生に頭を下げる。もちろん腰は90度曲げている。
まぁ他から見たら、いい年した仮面のおっさん(渋めのいい声設定の為)が躊躇いもなく頭を下げるの滑稽だろうな。
三十秒ほどを待ってから頭を上げてみると目を丸くして驚いているダーム学院長とオグロウ先生がいた。
背後からも驚愕した気配がする。
いや、俺だって自分が悪いと思ったら謝るよ。クリシアさんまで驚愕するなんて俺も傷付いちゃうよ? 
「なにぶん初めて教師というする事になったので、生徒に教えることばかり考えていました。
 それをサポートしてくれる整備学科の方々に何の相談もしなかったのはこちらの不手際。
 本当に申し訳ない。これからは整備学科の方々にもちゃんと相談しながら決めていこうと思います」
「あっああ、分かればいいんだよ」
よかった。謝罪を受け入れてくれたようだ。
「それにしてもあんた変わってるな。俺みたいな整備の者にそんなに簡単に頭下げる機兵乗りなんてここに来てから見たこと無かったぜ」
「そうなんですか? 機兵乗りの命は整備員が握ってる様なものでしょう?」
「それを分かってない連中が多いんじゃよ。手柄を上げるのは花形の機兵乗りじゃからの。
 じゃから下に見られることが多いんじゃ」
野良の機兵乗りでそんなことしたら即、死に直結するぞ。
「整備の大切さについて生徒に教えていなかったんですか?」
「教えても。ほれ、人にしてもらうのが当然と思ってる連中が居るじゃろう」
「ああ、ゴミ予備軍ですか……」
そういえばあの連中はまだ、負傷を理由にサボってんだよな。まぁ面倒がなくていいけど……。
「あーそういやーさっき機兵学科のアレがいきなり機兵持ってきて整備しとけと言って来たぞ」
「申し訳ありません。今度授業出てこなくても指導しておきます」
「いや、それはいつもの事なんだが……」
いつもそうなのかよ。一体ここの連中は整備員を何だと思ってんだか。
「搬入された機兵を見たんだが、どうも良く分からん機構が付いてんだ。
 武装じゃないことは分かるんだが……。
 整備する為にも整備マニュアル寄こせつってもこれは機密だっつって渡さねぇし。
 んで、マニュアルなきゃ整備できねぇって言っても、しろの一点張りだ。
 鉄仮面の旦那も気をつけたほうがいいぜ。碌な事にならねぇって俺の勘が言ってる」
「ほう、そうですか。ようやく来ますか。分かりました。ご報告ありがとうございます」
「今回の講師は一味違うな…。ダーム学院長、鉄仮面の旦那。俺はこれで失礼するぜ。まだ仕事があるからな」
言いたいことを言えたからなのか、すっきりとした様子で扉に向かう。背中越しではあるが軽く手を振って学院長室から出て行った。

 「それで学院長。お話はさっきのお叱りだけか?」
事情を知らないオグロウ先生がいなくなったので口調をいつものに戻す。
「いや、本題は別にある。本題はお主らには7年Sクラスの卒業試験の試験官を担当してほしいんじゃ」
「卒業試験の試験官ってしかも7年Sクラスか!? 何故俺達に?」
ミレスのクラスじゃないですか!
『あら、面白そうじゃない』
クリシアさんも契約の石から出てきて俺の右肩あたりで浮いている。
「それはの、お主はこの学院で唯一の現役機兵乗りでしかも兵(ツワモノ)といっても過言でもない程の戦果を挙げておるからじゃ。
 Sクラスの生徒は優秀じゃ。教科書や講師の言うことを良く聞いて勉強し、己が物としておる。
 しかしじゃ。それが実戦で役に立つかどうかは、その時にならんと分からん。'百聞は一見にしかず'という奴じゃな」
「それは、分かるが俺達みたいな怪しい奴に試験官をさせるなんて、信じられん。
 …そもそも他の講師達が反対したんじゃないのか?」
「ハッそんな意見一蹴してやったわい。それにあやつらの授業は生ぬるいと常々思っておったんじゃ。
 わしの若い頃なんぞ、先輩騎士の……」
ヤバイ! このままでは爺さんの長話に付き合わされてしまう!
そう思った俺は少し強引に話題を変える。
「あっー!そういえばこっちに来る時にその7年Sクラスの授業を見たんだ。その時……」
「…何じゃ?」
自分の話を遮られたダーム学院長は、少々不機嫌気味だが俺の話の続きを促す。
「貴髪のコーウィックとハリエッタが喧嘩してたんだ」
「なんと!あやつらまた喧嘩しおったのか!まったく、今度は何を壊したんじゃ。グラウンドに大穴か?
 それともとうとう鍛錬場でも潰したか?」
「いや鍛錬場の内部はひどい事になってたが、潰される前に俺とクリシアさんが止めた」
「おおー良くやってくれた。…まったくあいつらは加減というもんを知らん」
なんかミレス達はしょっちゅう喧嘩してるらしい。どおりで他のSクラスの連中が防御慣れしてると思った。
「何でそんなに仲が悪いんだ?」
「良く分からん。ハリエッタが転入して来た頃は髪の色は違えど同じ貴髪だという事でミレスがよく面倒見ていたそうじゃ。
 他から見てもかなり仲が良い様じゃったんじゃが、ある日を境に一気に険悪になったんじゃよ。
 まぁその日が最初の惨事じゃったのう」
ダーム学院長は遠い目をしながら、右手で髭をなでる。よほどひどい惨事だったらしい。
「機兵まで投入して何とか収めたのじゃ。その後、本人達に理由を問いただしたんじゃが、両人とも'あの子が気に入らない!'
 としか語らんのじゃ。
 不運にもその惨事に間近で目撃していたものに聞いても'家族の事を愚痴ってたみたい'と言う証言を得られただけじゃ」
あ~なんか読めてきたぞ。これはある種の'同属嫌悪'と言うものではないだろうか。
二人とも黒髪の家族を愛している。しかし、接し方が決定的に違っているのだ。
ミレスは先ほどの騒動から分かることだが、まだ俺の事を尊敬してくれているみたいだ。
だが、ハリエッタは違う。姉であるリミエッタを守るべき対象としてみている。それも病的と言える過保護さでだ。
ミレスから見ればハリエッタは家族をお気に入り人形の様に扱っているロクデナシに見えるだろう。
ハリエッタから見ればミレスは、家族を守れなかった。守ろうともしなかったロクデナシに見えるのだろう。
前世でも良くあった事だ。同じロボット好きなのにちょっとした好み違いが決定的な亀裂になる。
ロボットロマンでもそれが原因で陸空戦争、リアル・スパ戦争、おらザ○戦争、果ては誰が一番かわいいヒロインか戦争などいくつもの戦争が起きた。
好みは戦いを経て研磨され、信仰になる。そして、より激しい争いへの温床となる。
今でも記憶に残っている。チャットログを埋め尽くす狂気にも似たロボ愛を。自らの信仰(好み)を否定する者を異端と呼び、鉄火を交える様を。
…ヤバイ、早く何とかしないと本気で学院がヤバイ。
少なくともお互いを無視するなり何なり付き合い方を…いやしかし既に戦火を交えてしまっている。
このまま無理に押さえつけたら、いつか大噴火する火山になるな。どうするか……。
「おい、鉄仮面先生どうしたのじゃ? さっきからずっと黙りおって」
「おっと失礼、ちょっと考え事をしてた」
仕方ない。この件は後で考えよう。
「あっ後もう一つ気になったんだが、貴髪達の戦い方が気になったんだが聞いていいか?」
「なんじゃ?」
「コーウィックとハリエッタの戦い方を見て思ったんだが、どうも力押しの嫌いがあるんだが。あれで大丈夫か?
 小細工されたらきついと思うんだが……」
「ああ、それは問題無いわい。貴髪の戦い方は一撃必殺。小細工なぞ、それ事吹き飛ばしてしまうじゃろうて」
俺の質問にカカッっと笑いながら答える。でもなんだろう、目が笑ってない。
本当にそうだろうか……。
「けど、貴髪同士が戦った場合はどうなんだ?現にコーウィックとハリエッタは互角だったぞ」
「じゃから少しでも強くなるように学院で訓練しておるんじゃろうが。何言っておる」
それは根本的な解決になってないような……。なんだろうこのもやもや感。

「まぁいいか。じゃあ仕事の話に戻そう。俺達が試験官をするとして試験はいつだ?」
「今日から二ヵ月半後じゃ。ちょうどおぬし達がここにいる最後の一週間を丸まる試験に使う予定じゃ。
 試験内容は、前におぬし達にやってもらったものの立場を逆にしたものじゃ」
「つまり、俺達が襲撃側でSクラスの連中が護衛側って事か…そいつは面白そうだ」
ミレスの機兵操作の腕も見ることが出来るな。しかも試験が終わった後に、正体を明かしてサプライズってのもいいな。
「生徒達の戦力はSクラス全員を一部隊としてあつかい、部隊内の編成物資、護衛経路等は完全に生徒に任せる予定じゃ。
 今回も実戦を想定しておるからお主達には部隊の目的地と奪取目標のみが知らされることになる。当然じゃな。
 細かい点はこれから決めるが大体前回の試験と同じようになるじゃろう」
「こちらの戦力はどれだけ使える?」
「基本的には、お主達の兵団を使ってかまわん。それと生徒達が数の面で有利過ぎるなので、お主が担当している生徒から
 何人か使えそうなものを使ってもよい。ただし、機兵の数はそんなに増やすことは出来んぞ」
「ふ~む。これはなかなか大変そうだな」
『いいじゃない。この国のトップクラスの生徒と戦えるなんていいじゃない』
まぁミレスの実力が見れるってのはいいな。それにSクラスの編成や護衛経路を調べるついでにミレスに悪い虫が付いてないか確認できる。
えっ?知ることが出来るのは目的地と奪取目標だけじゃないかって?クカカカ、学院長が言っていたじゃないか、'実戦形式'と。
戦いは、実際に剣を向け合う前から始まっているのだよ!情報戦という戦いがな!
学園ではミレスとは初対面という設定上、へたに知ることは自重していたが……必要ならしかたないよねぇ~。
さて、いろいろプローブも用意しないとな。
ストーカー?うるせぇ!

第38話 飲み会と食材と

 目の前にある七輪の上に置かれたユアの干物が炭の弾ける音と共に、いい音が格納庫内に響く。
「それでですね、このユアの身から油が炭に落ちて煙を上げます。その煙が焼いてるユアをいぶして香り高くなるんですよ」
俺はパタパタとおっちゃんに貰った七輪の前で団扇を扇ぎながら、おいしい干物の焼き方講座をしている。
Sクラス卒業試験の試験官を拝命し学院長室から館に戻った後、オグロウ先生には謝ったけど、他の人達にも謝ったほうが良いと思ったのだ。
'謝りに行くならやっぱり菓子折りぐらい持っていった方がいいよね'とドルフとアリカさんに相談したらそんなもんより酒とツマミを持って行けと言われたので現在に至る。
干物は、学院内にある川からとって作っておいたものだ。ついでにストックしていた日本酒も整備学科講師陣に渡してある。
俺は仮面を被っているから、飲むことも食べることも出来ないので一通り謝った後はトークテクも無いのでせっせと干物を焼いている。
けど酒の席でただ黙っているというのも苦痛なので、しょうがないので干物の焼き方を教えているという状態だ。
まぁ誰も聞いていないが……。ここでも飲み会ボッチか……。
既にオグロウ先生達講師陣は酒が入り、みんな顔が真っ赤になっていた。中にはなれない酒を一気に飲んでしまいべろべろになっている先生もいた。

 格納庫の中にはズラリとカルノフが膝を付いた状態で壁に沿って並んでいる。何度見ても壮観だ。
中には修理途中で左腕が外してある機兵や、装甲をすべて外して魔晶炉やフレームが丸見えになった機兵もある。
大半のカルノフが、脚部装甲を外していた。
脚部装甲をつけてない機兵は俺のせいとして、丸々装甲をつけていない機兵は整備学科の教材用の機兵かなぁ。
やはり男として格納庫の中や、整備中のロボはいつ見てもわくわくするな。

 「おいおい、鉄仮面の旦那。そんなとこで魚を焼くよりよぉ~」
オグロウ先生が七輪の傍らで干物を焼いていた俺の肩に手をバンと強く置いた。酒臭い息をハァ~と吐きながら俺に顔を近づける。
相当酔ってるな。
「なんでしょうか?」
「あんた何もんだ?」
オグロウ先生の一言は、小声ではあったが先ほどの酔ったような喋りではなく、真面目な口調。
「私の素性はちゃんと学院長が説明しているはずですが?」
内心動揺を抑えつつ、答える。こういう質問がいつか来ると覚悟はしていたが、いざ来るとビビルな。
「ああ、あれか?'学院長が若い頃世話になった人の息子で腕利きの機兵乗り。
 ある時顔に大怪我して二目と見れない顔になってしまったので鉄仮面を被っている。
 学院長の依頼により質の低下した機兵乗り指導の為、無理を言って来てもらった'だったか?」
「そうですよ。知ってるじゃないですか」
「はっ。学院長の言ってることを真正面に信じる奴ぁこの学院にゃいねぇよ。
 学院長就任当日に講師陣に'今後よろしく頼む'と言ったのに翌日には大半の講師をクビに、前学院長を処刑台に送ったんだぞ」
なかなかアグレッシブだな学院長……。
「で、本当のとこはどうよ。俺だって伊達に機兵の整備士なんてしてねぇぜ。
 お前さんが機兵を操ってるとこチラッとを見たが……。変だ」
「'変だ'は無いでしょう。そこは、'見事だ'とか、'並みの機兵乗りじゃない'と評価していただきたいですね」
「そんなもん。チラッと見ただけだからわからねぇよ。俺が見たのは、普通に機兵の乗ってせいぜいガキ共の機兵を
 ぶっ叩いているとこだけだ。…けどまぁそこから分かることもある。
 お前さんの動きは異様に古い。執拗なまでに足に負担を掛けないように歩いてやがる。
 そんな歩き方するやつぁ昨今何処にもいねぇよ」

機兵が開発された頃、トレーラーはまだ開発されていなかった。当時は、トレーラーを開発する余裕なんて無かった。
大量に生産された機兵は即座に機兵乗り達に引き渡され、隊伍を組んで歩いて戦場へ向かった。
そしてそのまま戦闘に突入するのだ。
俺の機兵操作技術はクリシアさんの地獄の特訓の賜物なので当時の影響が色濃く残っているのだ。
現在は機兵用のトレーラーが開発され、機兵の脚部の負担が減った為、あまり口うるさく歩き方を注意することがなくなっている。
「それは、私の師匠が古い頑固な人だっただけっヒグッ!」
突然、左腕からバチッと電撃が放たれた。
「どうした?」
「いっいや何でもありません。(なにするんですかクリシアさん!)」
『(フ~ンどうせ私は、'頑固'で'古い'よーっだ。数百年在り続けたおばあちゃんですよ~っだ)』
クリシアさんは以外に乙女だった。
「(だってしょうがないじゃないですか!他にどう言えと?)」
『(だって~)』
「(後で魔力あげますから勘弁してください)」
『(なら良いわ♪)』
「まぁいい。話を戻す。操縦技術が古いだけじゃねぇ。お前の乗ってる機兵もおかしい。
 ありゃあこの間、学院長がどっかから持ってきた敵の機兵だろ?
 外観は変わってるがベースは変わってないなからすぐ分かったぞ。
 古の操縦技術に最新の機兵。怪しいってレベルじゃねぇな」
やばいなぁ。
「…私の仕事は、この学院の生徒を鍛えることです。
 それ以上でもそれ以下でもありません。
 …それにはいろいろ隠す必要があった。それだけです」
「…まぁいいさ。お前さんがこの学院に害にならなきゃな。まぁあの学院長がそんな奴を入れるとは思わんがな」
しばらく悩んだようだが一応は信じてくれたらしい。
「なりませんよ。……それでは私はここで失礼させてもらいますよ。
 干物を焼いた香りを嗅いでいたら、私も空腹になってきました。
 トレーラーに戻って私も何か食べようと思います」
ただでさえボロが出てるんだ。これ以上ここにいたらヤバイ、そう思い立ち上がる。
「そうか。なら今度は一緒に飲もうぜ。その様子じゃいつになるか分からんがな。じゃあな若いの」
俺はビクッとなりつつも、そそくさと自分のトレーラーに戻った。
なんで俺が実は若いって分かったんだろう。


 次の日俺は、黒髪クラスに昨日出しておいた宿題'森にあった食べれそうな物'の確認をしていた。
場所は黒髪の館にあるキッチン。その調理台の上には、色々な木の実や野草、茸が並んでいる。
驚いたことにウサギの肉まであった。装備はせいぜいナイフのみだったのに良くぞ狩ってきたもんだ。
きっとグレンが狩ってきたんだろう。
「ふむ、大体のものは食えるもんだな」
俺は調理台の上にある食材を食える物と食えない物、そして食いたくない物に仕分けしながら呟く。
「良し。宿題の結果はまぁ上々だな」
調理台の前に並んでいるグレンとリミエッタ以外の全員がほっとした表情をする。
因みにドルフとローラさんは今機兵学科の方の授業を見てもらっている。
「だが、やはり食えないものも混じっていたな。特にこれ」
俺は食えないものにより分けた茸を皆に見えるように持ち上げる。
「左手に持った茸、これはワライダケの一種だ。これは食べると名の通り笑いが止まらなくなる…わけではなく。
 幻覚症状の出る危険な茸だ。まぁ幻覚を見た結果大笑いすることがあるけどな。私も間違って食べた時はやばかった」
グレン達から'食ったのかよ!'という視線を受けるが気にしない。
「お前達黒髪は、一般市民の連中から良く思われていない。町に行っても食料を売ってもらえない。
 もしくはボッタクリの値段で買わされるなんて事があるだろう。だからこそ、この知識が必要になる。
 何が食えて何が食えないか。これが分かるだけで格段に生存率が上がる。
 いざとなればそこらへんに生えている雑草で生き延びることが出来る。よって確実に頭に叩き込め!
 それと最後にだが……」
俺は、ちょっと…いやかなり触りたくない木の実を慎重に持ち上げる。それは一見マンゴーのような外見をした果実だ。
「誰だこの実を取ってきた奴は…」
「はい、私ですが何か?」
サイは、おずおずといった感じで手を上げた。
「お前はこれが何か分かって採ってきたのか?」
「はい、以前読んだ文献にあったクレフウの実ですよね?非常に美味だと書いてあったと記憶してますが?」 
「知っていて採ってきたのか……なら、この実の処分はお前にまかす。今日の夜にでもお前の部屋で食べろ。
 部屋を閉め切ってだ。これは命令だ」
サイは、良く分からないといった顔で俺の差し出したクレフウの実を受け取る。
「はぁ。分かりました」
「……さて最後の仕上げだ。この採ってきた食材で昼食を作る。ワライダケは危険すぎるので今回は無しだ」
「「「「はい」」」」
 
 昼食は、趣味が料理なだけにシュナが中心となって作った。
俺の作ったガスコンロを見事に使い、シュナは次々に料理を仕上げていった。最近ではカーラちゃんとも仲良くなり二人でアリカさんを手伝っている姿を見かける。
作ったのは野草とウサギ肉のスープと各種茸のソテー、あとデザートにクレフウの実以外の果実。
「おっ、このスープうめぇじゃん」
「ありがとう。これ自信作なんだよ」
「確かにおいしいですね。とてもそこらへんの森で取ってきた食材だったとは思えません」
「おいしい」
「ホントにおいしいよ、すごいよシュナお姉ちゃん!」
「そっそんなことないよカーラちゃん。こっこれぐらい誰にも出来ることだよ」
もくもくと食べるリミエッタ以外にほめられたシュナが顔を赤くしながら照れる。
あまり人にほめられることなど無かったのだろう。
「そう謙遜することは無い。確かに料理には誰でも作ることが出来る事だろう。
 けど、逆にその人しか作れない味というものもある。
 それに嫁さんにするならうまい食事を作ってくれる人ってよく言うだろ」
俺がそう言うと先ほど以上に顔を真っ赤にして縮こまってしまった。
あ~なんかすごい申し訳ないことした気がする。

 昼食を食べてからしばらくするとルーリ以外の生徒達が腹痛を訴えた。
そして何かに気づいたような顔でサイが聞いてくる。
「先生、腹痛がするのですが…もしかして……」
「そうだ。お前達が食べた昼食の中に毒草が混じってた。安心しろお前達が食べたのはクミルモドキという毒草だ。
 その名のとおりクミルという煮て良し、炒めて良しといううまい野草によく似た毒草だ。
 毒性はそんなに強くないが確実に腹を下す。しかし、ただ腹を下すだけだと侮ってはいけない。
 戦場で腹を下すことがドンだけ危険かわかるか?腹を下すと体内にある水分が排泄物と一緒に流れ出てしまう。
 最悪脱水症状をおこし動けなくなる。気をつけておけ。まぁ今回のことで身にしみて分かっただろうがな」
唯一ルーリが無事なのは、ロウーナン大森海で俺と一緒に色々なものを食ったせいだろう。
「安心しろ。ちゃんと薬は用意してある。これを飲んで今日は全員部屋で寝てろ。午後の授業は休講だ」
俺の授業の基本は'身にしみて良く分かる'だ。

第39話 決闘とは……

 なんだ?この状況は…。
目の前には、機兵が20機ズラリと剣を構えて俺を睨みつけている。
どうしてこうなった…。

事の起こりは、俺がいつも通り生徒をどやしながら機兵の一対一の戦闘訓練を見ていた時だ。
「どうしましたか?さっさと立ってください。そんなに地べたに這い蹲るのが好きなのですか?
 とんだ変態ですね。しかし私の生徒に変態は要りません。
 退学したくなくば、早く立ち上がって戦ってください」
最近、冷静毒舌にも慣れ。生徒達も俺のおこなっている訓練に対し慣れてきている。
その分、実力も上がってきているという証拠だ。
しかしそろそろ、気を引き締めないといけないかなぁ。
「そこまでだ!イカレ野郎め!!」
おっとうとう来たかって……。今の声どっかで聞いたような……。
「私は5年Aクラス筆頭にしてフォーバート家嫡男カルロス・フォーバートだ!」
誰だっけ?
『(あら、いつぞやの金ぴかじゃない)』
「(ああ、俺が試験を担当した馬鹿貴族か)今までサボっていた糞中の糞が何の様だ?
 いまさら授業を受けに来たわけではないだろ?」
ゆっくりと声のする方を向くと、いつぞやの金ぴか機兵が取り巻きをつれて立っていた。
「知れた事!罪の無い生徒に暴力を振るい、罵倒する。そして何より貴族を蔑にするなど言語道断!
 この私が成敗してくれる。決闘だ!!」
へぇ一対一決闘を申し込んでくるとは、いい度胸じゃないか。
「クカカ、そうですか。受けて立ちましょう」
もちろんこれも一応想定内。本当は取り巻き連中と一緒に不意打ちでもしてくるかと思っていたんだがな。
少々見直しても良いかも知れん。
「言ったな!我が言(げん)に義ありと思いし者よ。我が元に集え!共に悪鬼を打ち砕かん!!」
「何?」
すると今まで周りで訓練していた機兵の大半が訓練をぴたりと止め、金ぴか機兵の前へ集まる。
「我ら、カルロス殿の義に感じ入り馳せ参じました。どうか戦陣に加えていただきたい!」
「良かろう!我と共に悪を討とうぞ!」
目の前で行われる学芸会じみたやり取りに意識を持っていかれ、思考が一瞬止まる。
何か?こいつらは決闘に仲間を引き連れてやるつもりなのか?見直して損した。
「なんですか?この国では決闘は一対一で戦うものではないのでしょうか?」
俺の近くにいたヘイトスに訊く。今日訓練するメンバーにはヘイトスが入っているのだ。
「あ~一般的な意味では、その認識であっています。が……」
「が?」
「'力とは勇だけにあらず。人を集める仁、相手を見透かす智もまた力なり'と言う格言がありまして、
 貴族の連中はこれを決闘に持ち出してくるんですよ。
 力を尽くす決闘に仁智(じんち)の力を持ってして何が悪いって……」
いい格言だと思うけど、それって完璧曲解じゃん。
「それでこれですか……」
以前から根回ししていたのだろう。高学年上位クラスを中心に20機が向こうに付いた。


それに引き換え、こちらはただひ……。
「ふざけるな!鉄仮面先生は確かに厳しいが、それは俺達を思っての事!誰か個人を不当に扱った事があったか?
 先生が無駄な知識を教えたか?先生が必要の無い技術を教えたか?否、断じて否だ!
 それをただの暴力に置き換えるとは、それこそ言語道断!
 ヘイトス・グラメルは、鉄仮面先生の戦陣に参じる!
 我もと思うものは我に続けっ!」
「おっ俺も参じるぞ!確かにきついけど、先生はCクラスの俺にもちゃんと指導してくれた!」
「確かに、以前に戻るのは勘弁してほしいですね。私も参じましょう」
「……分の悪い賭けも一興。俺も参じよう」
…なんと4人も生徒が味方をしてくれた。やばい、うれしくて涙出そう。
BクラスとCクラスのメンバーだが名乗り出てきた4人は、最近メキメキと腕を上げている有望株だ。
俺の指導を認めてくれた生徒達をここで断る事なんて出来ようか!
いや出来ない!
『(良かったじゃない。認めてくれる子がいて)』
「(うれしくて泣けてきた)まったく物好きな方々ですね。
 良いでしょう!今日は貴方達に勝利の美酒の味を教えて差し上げましょう!
 行きますよ!!」
「「「「応!!」」」」
俺の周りを固める様に4機のカルノフが集まる。
「フン、馬鹿な奴らめ。この人数にかなうものか。良いだろう。我が剣の錆にしてくれるっ!!」
「ふぅ、馬鹿だ馬鹿だと思っていましたがこれ程とは……。
 私には手におえませんね。ゴミは処分しましょうか」
そして双方の、戦意が頂点に達し戦闘が始まろうとしたその時。
「その決闘ちょっと待つのじゃ!!どうも様子がおかしいと来て見れば……」
俺は調度、模擬剣を構え飛び出そうとしていた所だった。声のする方を見るといつの間にかダーム学院長が拡声魔道具を持って立っていた。
そばには護衛の短髪グレーもいる。
「ダーム学院長。少々お待ちを、今このゴミと決闘の最中でして……。何、お時間は取らせません」
「ダーム学院長。心配には及びません。すぐにこの不届き者を叩きのめして進ぜましょう」
「だから、待てと言うとるじゃろうが馬鹿者共が!いきなりこんな所で決闘なぞ始めるな!
 整備学科の連中を過労死させる気かっ!!」
うっそれを言われると……。確かに機兵を23機も全壊させたら、オグロウ先生死ぬな。
「ワシは、決闘するなとは言わん!じゃが学園の備品である機兵を使うとは何事じゃ!生身でやれ!生身で!」
「これは異なことをダーム学院長。私達は機兵学科の生徒です。機兵を使って決闘して何が悪いのですか?
 …ああ、お金のことなら心配ありません。父上にお願いして学院への寄付を増額していただきました」
「そういう問題ではないは馬鹿者め!」
ダーム学院長がワシャワシャと頭をかきむしる。
「……ああ、もう決闘でも何でもするが良い!ただしっ!
 決闘場所と日程はワシが決める!沙汰があるまで貴様らは自習でもしておれっ!
 鉄仮面は、ワシと共に来い!シバに説明せねばならん!わかったな!」
「「「「「「「「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」」」」」」」


そして決闘当日。
決闘までの長く苦しい説明&謝罪回りの旅は思い出すだけでも嫌になる。
特にグレブス先生のとこなんて……いや、よそう。
場所は、よく機兵訓練で使う第一演習場。演習場の中では一番広く、学園祭などのイベントで機兵の閲兵(?)にも使うことがある。他の演習場と違い観客席を完備しているのが特徴だ。
そう……学院長は俺達の決闘をお祭り騒ぎにしてしまった。
「レディィィィィィィィィィィィィィィース アーーーーーンド ジェントルメェエエエエン!!
 とうとうこの日がやってまいりましたっ!
 機兵学科の生徒を恐怖のどん底へと突き落とした怒れる教師、鉄仮面先生!
 とその恐怖政治をを打ち砕かんとする5年Aクラス筆頭のカルロス・フォーバートとの決闘です!」
ワァーーーーーーーーーーーーーーーー!
「申し送れました。本日実況を担当させていただきます。5年Aクラス、ロット・トロントと申します。
 解説には刃向かう教師は見敵必殺(サーチ&デストロイ)。
 鉄仮面先生を雇った張本人ダーム学院長にお越しいただいております」
「どうも。ってお主何気にワシのこと貶しておるじゃろ」
「何のことでしょうか?…本来なら現役機兵乗りとして戦っていた鉄仮面先生が有利ですが、
 そこはさすがカルロス・フォーバート!
 仁智を尽くし、22機の味方を得たぁ!方や鉄仮面先生が得た味方はたったの4機!この人数差は如何ともしがたい!
 どう思いますか学院長」
「普通に考えたら、鉄仮面先生に勝ち目は無いのう」
「そうでしょう。そうでしょう。現在の賭博券の販売状況から見てもそれは明らかです!
 倍率は現在の所カルロス・フォーバート:1.05、鉄仮面先生:9.5と圧倒的!賭けは成立するのかぁーーーーーーーー?」
ワァーーーーーーーーーーーーーーーー!

好き勝手言ってくれる。まぁAクラス奴が担当してるから仕方ないな。
第一演習場の脇に作られた機兵用簡易天幕の中でぼやく。
「さて諸君。とうとう決闘当日となった訳ですが…。準備は良いですか?」
「はいっ。問題ありません」
「かっ覚悟は出来てます」
「何時でも行けます」
「問題無い」
うむ、さすが我が兵、優秀だ。
目の前には、俺についてくれたヘイトス達とサポートとしてドルフがいる。
「おい、本当に俺は出ないで良いのか?」
「大丈夫です。それに何度も言いましたが、ドルフは決闘を申し込まれた時居ませんでした。
 あの時点で、決闘に参加表明した人間しか参加出来ないのです。
 そうしないとゴミはギルドに依頼して助っ人まで連れて来たことでしょう」
「ック」
「大丈夫です。あの程度の敵に私が負けるわけ無いでしょう?
 …では作戦を確認します。といっても私が先頭で突っ込み、諸君らが後ろからバックアップする。それだけです」
「本当にそれだけでよろしいのですか?それに先生のグランジュの装備は……」
ヘイトスが心配そうに見てくる。
「ああ、それは問題ありません。試験装備ですが十分耐えられる計算です」
近くに駐機してあるグランジュを見上げ、新装備を見る。我ながらいい出来だ。
今回の新装備は、肘から手の甲までを覆う装甲と装甲の先に付いた大きな宝玉が特徴的なガントレット。
正確に言うなら、前腕部用特殊追加装甲と言うべきだろうか。
それ以外は一切武装していない。
「それより心配なのはあなた方の方です。
 大半の敵は私が引き受けるつもりですが、そちらの方にもかなりの数が行くと思いますが?」
「まぁそっちは何とかします。先生から借りた剣もありますから何とかなるでしょう。なっ皆」
「「「おう」」」
そこでラッパの音が鳴り響き、決闘開始の時間が迫っていることを告げる。
「良し、行きましょう!全員機乗!」
「「「「了解!」」」

第40話 決着と

 広いグラウンドの向こうに金ぴか機兵を先頭に23機の機兵が並ぶ。
カルロスの奴なんて、わざわざ操縦席から出て機兵の肩に乗っている。
俺達も対面に立つ。距離は大体50m位ってとこか。
「さぁ雌雄を決する両者がそろいました!早速決闘を始めましょう…と言いたい所ですが最後に両者の意気込みをお聞きしましょう!
 まずは鉄仮面先生からお願いします!」
おいおい、意気込みなんて特に無いぞ。適当に答えるか。
「今回の事で学院を騒がせて申し訳ありません。
 今後のこのような事の無い様に機兵学科の生徒には余計な事を考えられない様にするカリキュラムを考案しました。
 ご安心ください
 それと、私に決闘を申し込んだ方にお伝えします。
 本当の戦いを教えて差し上げましょう。
 いい声で泣き叫んでくださいね?」
まぁそのせで、二度と機兵には乗れなくなるかもしれないがな。
「…鉄仮面先生ありがとうございました。それではお待ちかねぇ!我らがカルロス・フォーバートに聞いてみましょう!」
「今ご紹介に預かりました。5年Aクラス筆頭のカルロス・フォーバートです」
フン、外面だけは良いな。
「今回私がこのような事をしたのには理由があります。
 それは鉄仮面先生の授業では、罪の無い生徒に暴力を振るい、心無い言葉で罵倒する事が日常に行われていたからです!」
お前は一度も授業に出たことないけどな。
「残念にも私は、鉄仮面先生が就任した時の事件で負傷し、今まで臥せっていましたが、
 このままではいけないと思い決闘を申し込みました。
 幸いにも私の主張に理解を示し、私の戦陣に参じてくれた級友達には感謝にたえません。
 私は約束します。私はこの決闘に勝利し、鉄仮面先生には辞めていただく!
 ご安心ください。後任の講師にはフォーバート家が責任を持って紹介させていただきます!」
ワァーーーーーーーーーーーーーーーー!!
キャーカルロスサマァーーーーー!
好き勝手言ってくれる。俺に勝ったら自分に都合の良い講師でも呼ぶ気だろうによ。
「最後に私事で申し訳ありませんが、最後に言わせてください。ミレス・コーウィックさん!
 私がこの決闘に勝ったら、どうか付き合ってください!」
ワァーーーーーーーーーーーーーーーー!!
イヤーカルロスサマァーーーーー!
ナニイッテンダバカヤロー!
ミレスタンハオレノヨメー!
…クカカカ、何つったこの餓鬼。俺のかわいい妹たるミレスに手を出そうなんて永遠に早い!
ちょっと痛めつけただけで許してやろうと思ったが…その必要は無い様だな。
あと、オレノヨメといった奴もな。顔は覚えたぞ。
「勝利の栄光を君に捧げるっ!」
最後にカッコつけて敬礼もどき(指を二本立てて顔の前で振るアレ)をミレスがいるであろう観客席にした後、
屑は操縦席に入っていった。
「さて、両者の意気込みを語っていただきました。では、ダーム学院長、決闘のルール説明をお願いします」
「ルールといっても大した事は無いわい。勝敗は大将機兵の戦闘不能または魔晶炉停止じゃ。
 降参は本人の宣言と魔晶炉の停止をもって降参となる。戦闘不能または降参したものに対する攻撃は厳禁じゃ。
 そんな不届き者がいたらこの学院から去ってもらぞ」
「では、開始の合図を審判役の整備学科筆頭講師であるシバ・オグロウ先生にお願いします」
司会に促され、観客席で一番高いところにある審判台にシバ先生が立つ。
「まったく、又俺達の仕事増やしやがって……。おらっ!整備学科を蔑ろにする馬鹿共!準備はいいかっ!」
「ええ」
「問題ありません」
「…おい、鉄仮面先生よ。お前さん武器持ってねぇじゃねぇか。ホントにいいのか?」
「何も問題はありません」
「フン、我々もなめられたものだな!」
「…ならいい。それでは、始め!」
そして開始の合図が鳴った。
「第一陣!行きなさい!」
ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
開始の合図と共に10機のカルノフが鬨の声を上げ武器を手に駆け出す。
「それじゃ此方も行きましょうか!」
「御武運を、背中は俺達に任せてください」
「任せた」
俺もグランジュに拳を握らせ駆け出す。
「(久々の戦闘だな)」
『(そうね。腕がなまってないかちゃんと見てあげるわ)』
「(じゃあ気合を入れないとなっ!)モード:アメリカン・ドリーム!」
早速新装備のガントレットを変形させる。
ただ手の甲を覆うだけだったガントレットの先端部がスライドし、握った拳を覆い隠す。
そして拳の前に移動した宝玉が鋼色に変わる。変形が終わったことを確認し、両拳を顔の前に持ってくる。
ボクシングで言うピーカブースタイルという奴だ。
接敵。
突撃してきたカルノフの槍がグランジュの操縦席めがけて突き出される。
「ヤァ!」
「いけませんね。そのへっぴり腰はっ!」
腰の入っていない槍の一撃を半歩横にずれて避け、そのまま懐に入り操縦席のある胸部にワンツーを叩き込む。
攻撃を受けたカルノフは、吹き飛びそのまま動かなくなった。
「おおっと!鉄仮面先生に向かったカルノフが早速脱落!機兵学科講師は伊達じゃない!」
「フム、武器を使わず拳撃で倒したのは、整備学科への配慮かのう?」
「次っ!」
いきなり吹き飛んでいった仲間に驚き動きを止めたカルノフに狙いを定める。
「戦場で棒立ちなど殺してくれと言ってるようなものですよ!」
棒立ちになったカルノフにまわし蹴りを叩き込んで沈黙させる。
背後ではヘイトス達も戦闘に入ったようだ。
ヘイトス達の装備はラウンドシールドと剣と言う非常にオーソドックスな物だ。
「うらぁ!」
「くそっ何だこの剣はっ!」
ヘイトス達と戦っているカルノフがものすごく戦いにくそうにしているのが分かる。
「お~っと、何だあの剣は~!鉄仮面先生側の機兵が奇妙な剣を持って戦っている!
 いったいアレは何なんでしょうか?
 ダーム学院長」
「ワシもあんな剣は見たこと無いのう」
持たせた剣は'ショーテル'(ちなみにヒートではない。)。
ショーテルとは半円を描くように大きく湾曲した剣で、刀身を半円の内側に持つ変わった剣だ。
敵カルノフの構える盾をすり抜けるように攻撃していく。
「セイッ!」
ヘイトスのカルノフが上段から叩きつけるように剣を振る。相手のカルノフは両手剣を装備していたのが運の尽き。
とっさに剣を横にして頭上に掲げ、防御しようとしてしまったのだ。
ショーテルの剣先は狙い通り頭部に突き刺さり、オイルの血しぶきを上げる。
視覚を奪われたカルノフは、しばらく闇雲に剣を振り回していたが、
背後から忍び寄った'賭け好き'に脚部を破壊され降参した。

「そうか。あの剣は防御をすり抜けて攻撃できる武器なのじゃな」
「なるほど!力で勝てないので、そのような苦肉の策を取ったのですね!
 それにしてもまともに打ち合わないとは、いやはや……」
「何を言うか!彼らは勝つために知恵を絞った。剣や盾、槍もじゃな、そういったものでの防御に慣れた人間には脅威じゃ。
 それは'相手を見透かす智の力'ではないかね?」
「っく」

本当はロボットロマンで作った武装を渡して大暴れさせてやりたいが、さすがにそれは出来ないので、
苦肉の策として普通のショーテルを渡したのだ。
しかし、それで十分だった様だ。俺が4機指導した所で残りの第一陣は倒されていた。
「ほう、第一陣は無傷で撃退しましたか、まぁそれくらいはやってもらわないと困ります。
 第二陣行きなさい!」
先ほどと同じように10機此方に駆け出す。
「先ほどの第一陣と同じだとは思わないことだ。第一陣はCBクラスの雑魚共。
 第二陣はすべてAクラス及びBクラス上位陣で固めてある!」
「フッ!」
先頭の槍持ちから鋭い突きが飛んでくる。最初の一機とは違い、しっかり腰の入った一撃だ。
確かにさっきの連中より強い。
左手で槍の穂先を払う。
そのまま右ボディブローを叩き込んでやる!
「させるか!!」
俺のボディブローが当たる寸前、カルノフの脇の下を通り槍が飛び出してくる。
後ろに居る奴か!
「くっ!いい一撃だ!それに連携も良い!」
槍があたる寸前にボディーブローを中止し、槍の迎撃にまわす。
そして体勢を立て直す為に後退。
「雑魚の相手は4機で十分だ!残りで鉄仮面を囲み殲滅せよ!」
「「「「了解!」」」」
「申し訳ありませんが。鉄仮面先生にはここで負けていただきます」
第二陣で最初に突きを繰り出してきたカルノフが言う。
「出来るのですか?あんな馬鹿に尻尾を振ってるあなたた……」
俺が台詞を言い切る前に怒涛の攻撃が始まった。
まったく、せっかちな奴らだ。

6機の機兵に囲まれながら、次から次へと来る斬撃や槍による刺突をぎりぎりで避ける。
「おーっと!さすがに6機のカルノフからの連携攻撃には、鉄仮面先生でも手がでないかー!避けるので精一杯だー!」
いや正確には当たっている。紙一重ならぬ紙零重で。
グランジュの装甲に傷が火花と共に増えていく。しかし、機兵の機能を損なう損傷は一つも無い。
相手にしたらまるで幽霊を攻撃しているようだと思うだろう。いや幽霊ならまだ攻撃が通じないとあきらめる事が出来る。
しかし攻撃は当たるのだ。
現に無数の傷をつけているのだ。'ならば!'と'いつか!'とより早く、より強く、いつも以上の力を振るい、体力の限界を超えて攻撃してしまう。
「当たれ当たれ当たれぇーーーーーーーーーー!」
まるで鼻先にぶら下げられた人参を食べようとして延々と走り続ける馬の様に。
これぞ、俺とクリシアさんの合体奥義'馬人参'!
攻撃の察知と回避行動の選択を全周囲察知の出来るクリシアさんに任せ、俺は指示を実行することに集中する。
指示はイメージで伝えられ、ほぼ反射で実行される。この領域に達するのに地獄の特訓を6年続けた。
生徒達に披露するのはちょっともったいない技だ。
『(そろそろね)』
「(了解)」
そして、攻撃が一瞬止まる。体力の少なくなったが故の空白。
「(今だ!)モード:麒麟!」
拳を覆っていたガントレット先端部が元に戻り、代わりに末端部から鋭い刃が飛び出す。そして宝玉の色がグリーンに変わる。
「秘技!疾風怒濤!!」
両腕を胸の前で重ね、高速回転開始!
刃の竜巻となった俺は取り囲むカルノフの腕を武器ごと斬り飛ばす。
「ぐっ!」
「いでぇ!」
「がぁ!」
そのまま、適当なカルノフの首に麒麟の刃を突きつけて停止。
「どうだ?まだやるか?」
「…降参します」

≪剣爛武闘:+5000P≫
ロマンポイントゲット。確かこれの条件は'一定時間複数のプレイヤーキャラからの斬撃を避け続け、
その後、攻撃してきたプレイヤーを全員斬撃で倒す'だったかな?降参で出るのは意外だ。
前世で俺自身の操作スキルが無くて達成できなかった。ちょっと憧れのロマンだ。
友人の居る奴は殺陣みたいにして取得してたっけ。ボッチの俺には関係なかったな…。

会場が沈黙に包まれる。
カルノフに囲まれてフルボッコにされていたと、思われていたグランジュが突然囲んでいたカルノフの腕をすべて切り飛ばしたのだ。
「なっ何が起こったんでしょうか!学院長分かりますか?」
「フム、そうじゃのう。…多分じゃが、鉄仮面先生はこれを狙っていたんじゃろうな」
「これとは?」
「一網打尽を狙っていたという事じゃ。一見囲んでいた者達が優勢に攻撃していた様に見えたじゃろ?」
「ええ、攻撃が当たる音がここまで聞こえましたし、現に鉄仮面先生のグランジュは傷だらけです」
「そうじゃな、しかしじゃ。鉄仮面先生のグランジュを良く見てみるんじゃ。
 確かに装甲に無数の傷が付いておるが内部まで達している攻撃が無いじゃろ」
「つまり、鉄仮面先生はあの嵐のような攻撃を完全に見切っていたと!?」
「そういう事じゃ。そして攻撃して疲れた所をあの武器でバッサリじゃ」
「なるほど。それにしてもあんな武器を隠し持っていたとは…さすがに少々卑怯じゃありませんか?」
「別に鉄仮面先生は武器を持ってないとは言っておらんじゃろ。問題無いわい」
学院長達が俺の活躍の解説している間に、ヘイトス達の援護に回る。
だが、時既に遅くヘイトスと賭け好き以外撃破されていた。
「悪い。遅くなった」
「はぁはぁ。いえ、はぁ 此方こそ援護に行けなくて はぁ 申し訳ありません」
「…すまない……」
「何、決闘はもう終わる。気にするな」

「ああ!なんて言う事だ!私の義に賛同してくれた有志達がっ!諸君らの敵はこの私カルロス・フォーバートがとる!
 ちっ役立たず共が!鉄仮面に碌にダメージを与えては居ないではないか!」
金ぴか機兵が大げさな動作で嘆きを表現している。因みにわかっていると思うが最後の台詞は小声だった。
「ご安心ください!カルロス様!我らラフト・ダリエル及びレイト・ダリエル!
 我らが微力ながら御助力させていただきます!」
「おお、そうか。ダリエル家の者が居れば心強い。奴は、先の戦いで疲れているはず!勝機はこちらにある!」
…もういい加減にしろ。
「茶番ですね」
「何か言いましたか?鉄仮面先生?」
「茶番だと言ったんですよ。ゴミ」
「貴様!カルロス様を侮辱するか!」
「何か間違っていますか?私の'暴力を止める為'?。ただ単にお披露目の時の仕返しがしたいだけでしょう?
 '私の戦陣に参じてくれた級友達には感謝にたえません。'?。金と権力で買った戦力でしょう?!
 どこにに義があるんでしょうね。そういうのを私はこう呼んでいるのですよ。'ゴミ'とね」
「言うに事欠いてゴミだと!たかが教師の分際でっ!」
「いいですねぇ。ゴミらしい本音です。人間正直に生きたほうがいいですよ?」
「ヤレェー!あいつを殺せぇ!」
「「はっ!」」
カルロスは俺に指をさし、殺意を漲らせた指示を出した。
「だからもう終わってるんですよ。モード:M・O」
一般生徒の掃討が終了した時点で、此方にはもう手加減する必要が無くなったのだ。
肘から伸びていた刃がガントレットに戻り、宝玉が黄金に輝く。
「チリひとつ残さず消滅させましょう……。我 冥府の王と なりて 滅す!」
『(分かったわ)』
手の甲をカルロス一派に向けつつ、両腕のガントレットを胸の前で突き合わせる。
そして宝玉が強く光った。
「「えっ?」」
「「はっ?」」
「!?」
次の瞬間、俺に向かっていた二機のカルノフのちょうど間で正体不明の爆発が発生し、二機を吹き飛ばす。
長い滞空時間の後、バラバラになった二機がズシャっと落ちた。こんなものか。
胴体はかろうじて原型を留めているな。アレなら死んでないだろ。
これぞ、ファードの町で鹵獲したひょろ長機兵もとい'フォメル'の杖を参考にして作った'試作ガントレット型対魔獣用機工戦闘魔術杖 劣・冥王'の力だ!
まぁ本当の冥王様には遠く及ばない威力だがな。故に劣・冥王。
「なっ!なん…だと!?」
金ぴか機兵も攻撃の余波を食らったのか、俺を指差していた腕が無くなっている。
ヘイトス達も今の攻撃に声も出なくなったのか俺の背後で固まっている。
「ん?」
変だな。あの程度の奴なら腕が無くなったら泣き叫びそうなものだが……。
金ぴか機兵は呆然と立っているが痛がっているそぶりが一切無い。
…ああ、そう言う事か……。
「ヘイトス。ショーテルを貸せ」
「えっ。うわっ」
ショーテルを奪うように取り、俺はそのまま金ぴか機兵に突撃する。
「!」
胸部装甲をショーテルに引っ掛けるようにして剥ぎ取る。そのまま押し倒し、ジタバタと悪あがきをする金ぴか機兵を拘束する。
「貴様!離せっ!」
あった。
剥き出しになった胸部装甲の内側には、魔晶炉とダミー君システムが存在していた。
やっぱり搭載してたか、まだ正式販売はしてないはずなんだがな。大方金にあかせて載せたんだろう。
俺は空いている手でダミー君をズルリと引きずり出す。そして機兵本体とダミー君システムをつないでいるケーブルの数本をショーテルで切る。
金ぴか機兵がビクンと痙攣し動かなくなった。これは、俺が機体の損傷度を伝えるケーブルを切った為だ。
「何だ!何故動かんのだ!動け!ズィーオ!」
システムが機兵がほぼ全損状態と誤判定し、カルロスの仮想体すべてをダミー君に移したのだ。
つ・ま・り。
今俺は、カルロスを握っているに等しいのだ。しかも、肉体には一切傷つける事無く苦痛を与えられるというオマケ付だ。
まぁ機兵との同調を解かれると無意味になるから、そんなに拷問は出来ないけどね。
「じゃあ逝ってください」
抜き出したダミー君人形をグシャッと一気に握りつぶした。
「ングギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
聞くに堪えない悲鳴が訓練場に響き、突然途切れる。多分カルロスが痛みと共にくる異様な体感覚に耐えられなくなって気絶したのだろう。
その後すぐに金ぴか機兵の魔晶炉が停止した。

「大将機の魔晶炉の停止を確認!そこまで!勝者鉄仮面!」

そして再び会場が沈黙に包まれる。
「いったい何が起きたのでしょうか…。特に最後。分けが分かりません」
「そうじゃな。じゃがこれだけはわかる。鉄仮面先生が勝ったという事じゃ」
そこには勝者に向けられる賞賛は無く。恐怖と畏怖の念のこもった視線だけがあった。

俺はグランジュを立たせて観客席に向かう。数人の生徒が恐怖に負けて逃げ出した。気絶する生徒も居た。
観客席の前に来た俺は生徒達に向け言い放つ。
「私の戦いを見た諸君、私の戦いを見てどう思いましたか?愚劣?卑怯?…そうです、その通りです。無手をよそおい、
 相手を油断させ、隠し持った圧倒的火力で殲滅する。騎士道?そんなもの私には存在しません。
 戦場ではそんなものはありません。
 あるのは殺すか殺されるかだけです。カルロスの悲鳴を聞いてどう思いましたか。酷い悲鳴だったでしょう。
 見れば目を閉じ、耳を塞いでいる者もいるようですね?ですが、嫌でも目を開けてください。耳を澄ましてください。
 戦場で生き残る為には絶対に必要な事です。出来ないものから死んでいきます。肝に命じておきなさい。以上です」
観客席に喧騒が戻る、何人かの生徒が運ばれていくのが見えた。
さーて、愛しの我が妹ミレスは、ちゃんと今の試合を見れただろうか?…居た。
やはりミレスのプラチナの髪は、目立つのですぐ見つかった。俺の懸念は杞憂のようで、厳しい表情で俺の方を見ていた。
フム、悲鳴にびびったりはして無い様だな。一応一安心と言うとこか。

「鉄仮面先生。決闘の勝者は貴様じゃ。相手に対し、なんでも一つだけ言うことを聞かせることか出来るぞ」
「…そうなんですか?…そうですね…カルロス側についたものは全員卒業まで機兵整備学科の下働きでもして頂きましょうか。
 細かい仕事割りとかはシバ先生に一任します。よろしいですか?」
「お?おう、俺はかまわないぜ!これだけ派手に壊してくれたからな。しばらくは碌に寝れねぇさ」
すると学院長の居る実況ブースに誰かが入ってくるのが見えた。外見からして短髪グレーだな。
何か学院長に耳打ちしている。なんだ?焦ってるのか?短髪グレーの動作からは何か切羽詰った感じがする。
「ふむふむ…なんじゃと!?…そうか…分かった」
実況ブースから、ダーム学院長の驚愕する声が聞こえてくる。その声に驚き観客席で騒いでいた生徒達も何事かと黙り込む。
「生徒諸君。聞いてくれ想定外の事態が発生した。落ち着いて聞くんじゃ。
 我らがリランス王国にルゼブル共和国が宣戦を布告した」

第41話 観戦

 学院長の戦争開始の通達の後、俺は学院長室に呼ばれた。学院長はいつも通り大きなデスクに座って難しい顔をしている。
「お呼びにより参上しました」
『こんにちは~』
「精霊様ご機嫌麗しゅう。鉄仮面先生、まぁ座れ」
ダーム学院長に促され、俺は近くあったソファに座った。そして単刀直入に今回の戦争の原因について聞いた。
「この戦争、やはり俺の情報が原因で?」
「そうじゃ。最初ワシは陛下に頼んで精鋭のスパイを送り込んだんじゃ」
「随分手が早いな。まだ一ヵ月半位しかたってないじゃないか」
「情報は鮮度が命じゃからの。それ程にお前さんが持ってきた機兵とお前さんが見た空船は脅威と判断したのじゃ。
 そうそう、お前さんの情報通りルゼブル共和国に空船のアジトはあったぞい。
 しかもお前さんの想像通り、ルゼブル共和国軍の秘密基地じゃった」
「クリシアさんの情報だからな。間違い無い」
本当は、人工衛星"バロール"からの情報なのでクリシアさんは苦笑している。
「それで、早速追加の部隊を投入して空船と敵最新機兵の奪取を計画、実行したのじゃ」
「行動早いな。オイ」
「結果一隻の空船を乗員共々奪取したのじゃ。
 それでファードの街を襲撃した犯人がルゼブル共和国という証言と物証を得たわけじゃ。
 我々は、来月行われる予定のグラットン会議の場でファードの街襲撃について問い詰める予定だったんじゃが」
「グラットン会議?」
「ああ、魔獣の大侵攻のおり、開催された会議の名残でな。国家間の様々な問題を話し合う会議じゃ」
「そこで大々的に証拠と共に発表して、真意を問いつつ経済制裁なり、損害賠償なりを取り付けようと?」
「そうじゃ。じゃが先手を取られたわ。ルゼブル共和国が宣戦を布告した事により会議は中止じゃろうな」
「残りの国家だけでやらないのか?」
「そのグラットン会議は、参加国がすべて揃ってやるのがしきたりなのじゃ。
 これは魔獣の大侵攻の時に、爪弾きになる国をなくす為の処置だったのじゃが…こういう風に使われるとはのう。
 それにしても対応が早すぎる。元々近々に戦争を吹っかける気でおったんじゃろう」
『別に非難するするならグラットン会議じゃなくてもいいんじゃないの?』
「会議には権威と言うものが必要なのですじゃ。精霊様」
つまり、国連がある国家に非難決議を出す時と、適当な国が集まった会議である国家に非難決議を出す時の重みの違いと言った所かな?
「それに奴らの言い分じゃとリランス王国が理由も無く、ルゼブル共和国の領土を侵犯し、基地を襲撃した。
 つまりワシらが先に手を出したと言っておるのじゃ。まぁ手を出したのは間違いないからの。
 一体どこでばれたのやら。あちらが先か此方が先かは、もう水掛論じゃろうな。
 一応周辺国に事情の説明をしておるが、まぁその位あちらもやっておるじゃろう」
「つまり、この戦争で勝った方の言い分が通るってとこか。まぁそれはそっちで頑張ってくれ」
「なんじゃ?おぬしらは参戦せんのか?」
「空船奪取とかの依頼なら受けても良かったんですけどな。戦争となると…ね」
指で仮面をコンコンと叩く。
「黒髪のおぬしらが行くと、いいように使われるだけ…下手すると殺されると」
「特にうちは、少数精鋭ですからね。いらぬ嫉妬を買っちまうでしょうね」
「まぁいいわい。その分ここの生徒を鍛えてもらおうかの」
「契約分はちゃんと働きますよ。じゃ、俺達は戻ります」
『さようなら』
「おう、これからもよろしくの。さようなら精霊様」
ああ、まったく面倒くさい事になった。

 ルゼブル共和国が王国に宣戦を布告した日から学院の空気が変わった。
俺の訓練に参加する生徒達も真面目というよりは鬼気迫るような雰囲気をまとっている。
中には睡眠不足で幽鬼のように死んだ目をしたものも居る。分かったんだろう。力をつけないと死ぬことに。
今日も訓練を終えてトレーラーに帰ってきた。トレーラーには既に授業を終えたルーリがおり、キッチンでジュージューと何かをフライパンで焼いている。
「ただいま」
『ただいま~』
「兄さん、クリシアさんお帰り、ご飯にする?お風呂にする?そ…」
「ああ、ご飯を頼む」
『ゴウちゃん…それは無いわ』
「…」
一体なんだってんだ?俺はキャビンにあるソファに座って毎日被っている仮面を脱ぐ。ふぃー…毎日被ってるけど将来禿げないよな……。
いつもなら飯食ってシャワー浴びて寝るとこだが、今日はそうもいかない。
録画予約しておいたものを見なければならない。もちろんアニメじゃないぞ。
ルーリは料理に目覚めたのか、よくアリカさん直伝の料理や、ロボットロマンで出したレシピ本の料理を振舞ってくれる。兄さんはうれしいぞ。
…録画を見るのは後回しにするか、もしかしたら食欲が無くなるかもしれないしな。
「おまたせ」
「おう、ありがとう。おおーおいしそうだな」
目の前には食欲を誘う彩り鮮やかなニンジン山盛りサラダとパインサラダと最後に取って置きのサラダだ。
…さっきフライパンで焼いていたのは一体なんだ!?
しかも二皿目以降に強烈な死亡フラグの臭がする!?いや、大丈夫だ。目の前にある、約束さえしなければ…。
「冗談」
そしてルーリがすっと出してきたのはサーロイン・ミディアムステーキ(特大)。…いやいやいや、ルーリは知るはず無いんだ。
そんな死亡フラグ!俺は教えてないぞ!なにこれ!?食事系死亡フラグ詰め合わせ!?
「…ルーリはこれらの意味を知っているのか?」
「何のこと?」
「いや、分からなければいいんだ。うまそうだな。頂きます」
俺が一切の通信機器の電源を切って食事をしたのは言うまでもない。

 「ご馳走様でした」
「お粗末さまでした」
良かった。通信どころかトレーラーのドアを叩かれることすらなかった。
だが、今までで一番緊張した食事だった事は間違いない。
さて、気を取り直してそろそろ録画した、映像でも見るか。
俺はキャビンの壁の一部をスクリーンに変えた。

録画しておいたのは、リランス王国とルゼブル共和国国境で行われていた戦闘だ。
バロールで撮影したので音声無し&真上からの物だが、観戦には十分だ。
最初に映ったのは、広い平原で二つの軍が横隊を組んで互いに向かって進軍しているとこだった。
俺から見て左がリランス王国軍かな。使用している機兵がバームのおっさんと同じボルドスだから多分そうだろう。機兵約500機、歩兵約2000人位かな。
右がルゼブル共和国軍。使用している機兵は確か…ドプルだったかな、真上から見たんじゃ詳しい形状は分からないが、どこと無くグロームの印象に近い感じがする。
今のところ、グロームとフォメルの姿は見えない。やはり最新鋭機なのかな、それとも特殊部隊専用機か。末端の部隊にはまだ配備されていないようだ。
此方は機兵約400機、歩兵約2000人位か。
両軍とも前衛に機兵を、後衛に歩兵を並べている。歩兵達は十名から二十数名ごとにチームを組んでいる様だ。

 最初に動き出したのは機兵ではなく、両陣営の歩兵達だった。
組んだチームで二重の円陣を組み、何かしている。すると円陣の上に巨大な火の玉が出来上がり、相手陣営に向けて飛んでいく。
その時、前衛の機兵達は膝をついて射線の邪魔にならない様にしていた。
『へぇ。アレが今の合唱魔法なのね』
合唱魔法とは、呼んで字のごとく複数の人間が集まって魔法を行使し、一人では到底なしえない規模の力を顕現させる方法だ。
もちろん使えるようになるには訓練が必須だ。学院の普通科のカリキュラムにも含まれている。
放たれた炎弾は放物線を描きながら飛んでいった。機兵達は盾を掲げて飛んでくる炎弾に備える。
着弾。
炎弾は、盾や地面に当たると四方に炎を撒き散らしながら爆発する。
まるで映画で見るような砲撃シーンだな。
一瞬歩兵達は大丈夫かと思ったが、爆炎が晴れると二重の円の外側で結界が張られているのが見えた。
なるほど、内側が攻撃用、外側が防御用なのか。
それでも、双方に運悪く盾と盾の隙間を通ってきた炎弾にやられる機兵や炎弾の直撃に耐え切れず結界が崩壊、炎にまかれる兵士達がいた。
戦場はさぞ酷い悲鳴と肉の焼ける臭いがすることだろう。

「兄さん、何見てるの?」
夕食の片づけを終え、カチャカチャとお茶の準備をしているルーリが聞いてきた。
「ああ、今日起きた戦闘の様子をバロールで録画しておいたんだ。ここの連中がどんな戦術を使うか気になったからな」
「どっちが勝ちそう?」
「さぁなぁ。今んとこ五分五分と言った所だな。今両陣営共に合唱魔法で互いの戦力を削り取ってるよ」
「そう」

 モニターの中では、戦闘が次の段階へと移行していった。
歩兵達の魔力が尽きたのだろう。今度は機兵達の突撃が開始された。大地を削り、機兵達が駆ける。音声があればさぞ豪快な足音がしていることだろう。
う~ん戦術を見る限り、中世ヨーロッパあたりの戦術に似ている気がするな。
そう思っている内に両者が激突し、鉄と鉄とがぶつかり合う戦いが始まった。
戦場は大量の土煙に包まれ、機兵の姿を隠す。時折煙の隙間から火花が散っているのが見える。しばらくすると、土煙が収まり、ある程度は見やすくなった。
しかし、このままだと個々の戦闘能力が分からんな。
モニターを操作して戦っている機兵達に対してズームアップする。先ほどは団子になっていた機兵一体一体を識別し辛かったが、さすがバロール。
無駄に高い解像度で録画した為、すんなりと見やすくなる。
画面には、ボルドスが振り下した剣がドプルの腕を砕き、そして別のドプルの槍が剣を振り下ろしたボルドスの胴体を貫く姿が映される。
基本的な剣や盾の使い方は問題無し。そしてやはり、武術らしきものは無し。ここまでくると武術とかが沢山ある日本の方が変なんだろうか。
おっリランス王国軍側が数の優位で押してきたか?ジリジリと横隊中央部が押されていくルゼブル共和国軍が見えた。やっぱり数ってのはすごいねぇ。
リランス王国軍もいけいけどんどんで中央を食い破ろうとしていた。ルゼブル共和国軍の隊列は崩れ、V字のような状態になってしまっている。
その時カメラの前が、何かに遮られた。
「なんだ?」
画面をズームダウンし、戦場全体を見渡せるように戻す。なんとカメラを遮っていたのはあの空船だった。しかも二隻。
思ったより空船の量産は進んでいるようだな。
二隻の空船は、Vになった隊列に沿うように飛行し、フォメルが降下していく。そしてV時の開口部の所に今度は、グロームが降下された。
ああ、こりゃ詰んだな。リランス王国軍が押していたのではなく、誘い込まれていた様だ。
既に▽の囲みが完成しリランス王国軍の機兵部隊が完全に孤立した。
リランス王国軍側も囲まれた機兵を助けようとして、後方の歩兵部隊が合唱魔法で攻撃しているがグローム達の硬い防御を崩せていない。
フォメル達は、囲みの隙間から魔法攻撃を開始した。ファードの街で使った氷魔法だ。さすがに一撃必殺と言う訳にはいかないが、小さくないダメージを与えているようだ。
その様子はまるで、ボルドス達が化け物の口の中に閉じ込められて、フォメルの魔法攻撃と言う歯でガジガジと咀嚼されている様だった。
後は、このまま圧殺して終了かな。…いや待て。あいつらはこういう状況にもってこいの武器を持っていたよな?
思ったとおり、先ほどフォメル達を投下していった空船の内の一隻が引き返してきて再び戦場の上に差し掛かる。
そして上空を通り過ぎた瞬間囲みの中心で爆発が起きた。ファードの街に落としたあの爆弾を使ったのだろう。
ほとんどのボルドスが戦闘不能に、わずかに残った機兵も無傷とは行かず、フォメルの魔法で貫かれていった。
ボルドスの生き残りを掃討した後、ルゼブル共和国軍は、リランス王国軍の歩兵に対し追撃を開始した。
国境での戦いは、ルゼブル共和国軍の圧勝で幕を閉じた。
もういいかな。
俺は、再生している映像を止めた。

第42話 縛りプレイ

 リランス王国軍は敗退を続けていた。戦線は常に後退し、国境の最も近い街であるファードの街の手前まで迫っていた。
業を煮やした王国軍上層部は貴髪の投入を決定。戦線に投入された貴髪は、この国に所属している6人の内の3人。
国家最大戦力の内の半分を投入することから、今の事態がどれだけ深刻かということを物語っている。
しかし、投入された貴髪達は、戦果を挙げるが敵の空船と新鋭機兵のコンビネーションにより、戦線を押し返すまでにはならなかった。
初めて戦っている貴髪を見た時はビックリしたね。ある貴髪は、まるで東方○敗の魔道士バージョンといった感じだったし。
ある貴髪は、迫りくる機兵達を大規模攻撃魔法でドカンとやっちまうし。
俺はその様子を人工衛星"バロール"から人事のように見ていた。
まぁ実際人事だしね。リランス王国軍が勝とうが負けようがどうでもいい。ミレスさえ無事ならな。

 学院にも空気以上の変化が現れた。騎士団が丸まる一つ警備として派遣されたのだ。その時にも一悶着あったが、それは別の機会に語るとしよう。
ミレス達Sクラスの試験まで後5日と迫ったある日、毎度のごとくダーム学院長の呼び出しを受けた。
「それで、試験の準備は出来ておるかね?」
「順調に出来てるぜ」
「それで、難易度はどれ位かね?」
「難易度か?噂通りの実力があれば、何とか達成できるくらいの難易度にしてあるが…それがどうかしたか?」
「申し訳ないがその難易度下げてはもらえんか?」
「はぁ?」
何言ってんだ。この爺さん。
「何故下げなきゃならん?」
「おぬしも知っておるように、現在我が国は戦争中じゃ。しかも昨今、国上げての明るい話題が無い」
明るい話題が無いというより、暗い話題が強すぎて目立たないだけじゃないか?世間には発表してないようだけど、敗戦続きだし。
「そこで、一つ明るい話題を用意しようと思ってな」
「つまり、貴髪が率いるSクラスが試験で高得点を取って、'俺達の国にはこんなに凄い人が居るんだぞ。
 ルゼブル共和国になんか負けないぞ!'って事か?」
国威発揚って奴ですか。その位ならいいが。
「それで、'しかもSクラスの勇士達が自発的に前線へ志願した!'となれば前線の士気は、もうなぎ上りじゃ」
はっ?今この爺さん何つった?
「ちょちょちょっと待て、'前線へ志願'?ひよっこをいきなり前線へ出すのか?ありえねぇだろ。その判断!」
「安心しろ。前線に行くと言ってもファードの街に行って戦場の空気を教えるだけじゃ」
ふざけんな。最前線は現在ファードの街の手前にあるんだぞ!
今貴髪達が最前線で踏ん張っているが、何かあったらすぐに最前線になる所じゃねぇか!
狸爺のダーム学院長がそんな事を知らない訳が無い。もしかしなくても貴髪であるミレスとハリエッタを実戦投入する気だ。
「俺は反対だ。仮にでもひよっこを前線に送るなど正気の沙汰じゃないだろ」
「生徒達が安全なのはワシが保障する。何がそんなに心配なんじゃ?」
今は保証するあんたが信用なら無いんだよ!
「…わかった。学院長が言うなら、そうなんだろう。こちらもそのように調整しとおく…」
「…ああそうじゃ。すまないが気が変わった。試験の条件も若干の変更を加える。機兵戦力はおぬし達の使っている二機のみ。追加の機兵は出さん。
 そして機兵を使った襲撃回数は1回に制限させてもらう。ああ、あとお主の持ってる特殊な装備を使うのも禁ずる。
 こちらの用意した武器で対応するように。そのように取り計らってくれ」
「なっ!…ああそうかよ。やるよ。やってやるよ。他に条件の変更は無いな?」
「無い。以上じゃ」
「わかった」
俺は、学院長室から出た。

 リランス王国軍の情勢は予想以上に悪いようだ。学徒動員なんて(たとえ一部だとしても)完璧な負けフラグだろ。
しかし、どうする。現状、例え俺達が勝ったとしても、機兵23機にたった5機で勝利した相手に善戦したとか言って担ぎ上げることだろう。
ならどうするか……。
絶対にミレス達が絶対に負けないと思われる状況で、俺達が勝つしかない。
つまり…。俺達自らの行動を縛る事によって不利な状況を作り出すしかない。
機兵使用不可縛り。
ちょっとインパクトが足りないかな。もうちょっと何か無いかな…。よし。
手伝いは黒髪生徒のみ縛り、銃器使用不可縛りも追加だ!
俺あんまり縛りプレイとかしないんだけどなぁ。愛おしい妹の為だ。一丁がんばってみますか。


 「…と言う訳で、諸君らには、今度行われるSクラスの試験に俺達と参加してもらう」
黒髪の館に戻り、ラフィングレイヴンのメンバーとグレン達を教室に集めて手伝いの打診をした。もちろん猛反対を受けた。
「どういう訳ですかっ!しかもSクラスの連中と戦えですとっ!私達に死ねと言ってるんですか!」
「えっ嘘でしょ!」
「ふざけんな」
「わかった」
「鉄仮面先生と一緒だから大丈夫だよ~」
「…」
生徒の味方は案の定ルーリとカーラちゃんだけだ。
「心配するな。もちろん俺達だって戦う。少なくともお前達だけを戦わせることは無い」
「はっ、信用できるかよ!そもそも何でそんなことしなきゃなんねぇんだよ」
まったくグレンは用心深いんだから。
「俺は学院長から必要なら生徒を手伝いとして使っていいと言われている」
「じゃあなんで俺達なんだよ!あんたなら機兵学科の連中に呼び掛ければ、何人でも集まるだろうが!」
「今回の試験には機兵学科の連中には不向きなんだよ。今回はゲリラ戦法で行く予定だからな」
「……たしか小数の部隊で大規模な敵部隊に打撃を与える戦法でしたっけ?」
「そうだ、サイ。しかも学院長の言いつけでグランジュとダイドルフしか使えない。
 ついでに俺の持つ特殊装備も使えないし、機兵を使った襲撃も一回しか出来ない」
「なんですかそれは?先生に勝ち目なんて無いんじゃないですか。相手はSクラスですよ?」
「勝ち目ならあるさ。お前達が協力してくれればな。…信用に関しては、信じてくれとしか言えないな。
 …そうだな。信用してくれるんなら大抵の事はしてやるぞ」
「言ったな!そうだな…」
俺の言葉にグレンがニヤァと悪い笑顔を浮かべた。さて、どんな無理難題を言うかな?
「…なら、あんたが必死に隠しているあんたの顔を見せてもらおうか!」
席を立ち、どやぁっとした顔で俺を指差す。
「なっ!俺の顔だとっ!」
とりあえず、大げさに驚いてさぞ大変な事なのだと印象付ける。
俺の反応に気を良くしたグレンは続ける。
「そうだ、あんたの顔だ!それさえ見せてくれれば俺はあんたを信用してやってもいい!」
「…他の皆も同じ意見か?」
俺が不安そうに見回すと、サイとシュナな顔を見合わせた後おずおずと肯く。
ルーリとカーラちゃんは元々顔を知ってるので我関せず。
「リミエッタも同じ考えか?」
「…(コク)」
リミエッタは、小さく肯き了承を伝えた。
「…そうか。その程度の事で信用してくれるとは、なんて良い奴らなんだ!!」
「「「えっ!?」」」
俺の予想を反すリアクションに一同が凍りつく。
「そうかそうか。俺もいい生徒を持ったもんだ。うんうん」
いそいそと、仮面のロックを外す。前言を撤回される前にさっさと脱いでしまおう。
幸いにも察してくれたルーリとカーラちゃんが教室の装甲シャッターを下して、明かりを点ける。
「ふぅ」
一気に仮面を剥ぎ取り、素顔をさらす。久々に昼間の空気に触れるな。やっぱり仮面は息苦しい。
「なっ」
「ええ!」
「馬鹿な!」
「うそ……」
「「「「黒髪!」」」」
クカカ、皆度肝を抜かれているようだな。
顔の傷やら鋼色の目やら、色々突っ込みどころがあるだろうに、やっぱり最初は髪か。
イヤーこんなに簡単に信用してくれるんなんてありがたいわ~。
次からはもっと交渉に慎重になるように指導しないといけないな。
「そうだ。俺はお前らと同じ黒髪だ」
「そんな馬鹿な!あんたは魔法を使ってたじゃないか!」
「いや、俺は魔法を使ってはいない。使ってたのは彼女だ」
そう言うと、俺の背後からクリシアさんが出現した。その事実に対し。
「へー、ってか声変わってんぞ」
「ああ、この仮面被ると声が変わるんだ。気にするな」
グレンは、良く分かっておらず。
「ひっ。お化けっ!」
『お化けじゃないわよ。精霊よ!失礼しちゃうわ』
シュナは、怯え。
「ありえない。精霊が実在するなんて……」
サイは、放心し。
リミエッタは、目を見開いているが、特に反応しなかった。
「グレンこれがどれほど凄いことか分からないんですか!?今まで御伽噺だと聞かされていた事が本当のことだったのですよ!」
「いや、御伽噺とか聞かせてもらったことねぇし」
「…」
「それで、俺はちゃんと約束どおりに仮面を脱いだぞ。これでお前らにはSクラスの試験の手伝いしてもらうぞ」
「…チッ!わかったよ」
「作戦はちゃんと聞かせてもらいますよ」
「ふええ」
うむうむ、ちゃんと了承してくれたな。
「……鉄仮面先生。ハリエッタに勝ったって本当なの?」
リミエッタが長台詞をシャベッターーーー!そして何故その疑問を今言うんだ?
「勝った?ああ、ミレスと一緒にぶん殴った時か。不意打ち&クリシアさんと協力してだがな、それがどうかしたか?」
「魔法なしで正面から戦ったら、勝てる?」
「正面からか?きついけど装備をちゃんと準備しておけば勝てるな」
銃があれば余裕。最低限スローイングナイフか石があれば何とかなる。
「…私でも勝てるようになる?」
「鍛えれば勝てるんじゃないか?あいつ、っと言うか、ある一定の以上の魔力を持つ奴は、ほとんど力押しの脳筋だし」
俺が疑問に答えた瞬間、今までほとんど無かったリミエッタの気配が一気に膨れ上がる。まるで背後からユラユラと陽炎が立ち上っている様だ。
「…えっと、リミエッタも手伝ってくれるんだよな」
「手伝う。だから私をもっと鍛えて。貴髪に勝てる位に」
「鍛えるって言ったって、俺が指導してやれるのはせいぜい後4日位だぞ。
 それぐらいじゃさすがに無理だ」
「なら、私達をあなた達の兵団で保護、指導して」
「しかしなぁ」
これ以上増えても面倒見切れんし。ん?私達?
「あなたについて行かないと、多分私達は死ぬ」
「はっ?」
なんでそうなる?
「あなたは、Sクラスに勝つのでしょう?
 そうなったらSクラスからの報復や、私達を倒して名を上げようとする人達が出てくる。
 それだけじゃない。実家からも狙われることになる。
 仮にも国家の命令に反するんだから。私は大丈夫かもしれないけど、グレン達はどうかしら?」
「「「「!」」」」
確かにそうだ。ダーム学院長は黒髪達を保護したが、それは実家がグレン達の受け取り拒否をしたが為の緊急避難的処置なのだ。
もし、実家が引渡しを要求したらダーム学院長は拒否できない。ああ糞っ!
自分の事ばかり考えていて、そんな簡単な事も気づけなかった。
「心配しないで。いつまでも保護してとは言わない。
 貴髪が倒せる位、力が付いたら出て行く」
…仕方がない…か。俺の生徒が俺のせいで殺されるのは寝覚めが悪い。
「…わかった。だが、一つだけ聞かせてくれ。何故そこまで力がほしい?
 たとえ、俺達がSクラスに勝ったとしても、俺が無理やり従わせたと言えば、
 今まで通り、ハリエッタがお…」
「私はっ!ハリエッタの人形なんかじゃない!」
その突然の叫びには今までにない程、感情が籠められていた。
「…けど、どんなに言ってもハリエッタは聞いてはくれなかった。敵わなかった!
 だから……諦めた。でもあなたが現れた。黒髪でも勝てると!その力があると!
 私は欲しい!私が私になる為に!力が欲しい!」
今までこれほど大声を出したことが無いのだろう。しゃべっている途中で声は枯れ、口の中を切ったのか口の端から血が垂れている。
その姿は、鬼気迫っており、今までの印象が吹き飛ぶのに十分だった。その力への渇望は、かつての自分を思い出す。
「そうか、力が欲しいのなら…」
「欲しいっ!」
「くれてやる!だがその分働いてもらうぞ」
「もちろん」
ああ、言っちまった。言っちまったからには、責任を取らないとな。
じゃあ早速、対Sクラスのミーティングだ。

第43話 Sクラス試験 前編

試験初日
 人工衛星'バロール'から送られてくる映像には、Sクラスの面々が意気揚々と学院の校門を潜って行くのが映っている。
周囲には、見送りとして多数の生徒がおり、声援を送っているようだ。Sクラスもそれに答え機兵が手に持った武器を掲げている。
これから彼らは約一週間かけて、森、草原、荒野を通り抜け、キリンカの街へ向かう。
俺はそれをトレーラーのキャビンで見ている。俺達は、Sクラスが学院を出発する前日に出発し、最初の待機ポイントである森の中いた。
近くにはグレン達がおり、俺と同じようにその映像を見ていた。
「諸君、試験が始まった。俺達の目的は、Sクラスに対し落第の烙印を押すことだ。覚悟はいいな?」
「ああ、ここまで来たんだ。最後までやってやる」
「あの館の図書室には、未練がありますが…やりますよ」
「ややややりますよぅ」
「やる」
一応、リミエッタとのやり取りの後に再度手伝ってくれるか確認したら、全員兵団に就職する事を了承してくれた。
ついでに、俺の事情も説明してある。
「良し。と言っても、今はもうやることが無い。夜までしっかり休養を取っておけ。それからが本番だ」
「「「「了解」」」」
俺は、再び視線をモニターに移し、Sクラスの編成を確認した。使用している機兵は4機。
しかもすべての機兵が個人専用機というなんとも勿体無い編成だ。しかもその内杖持ちが2機も居るとかおかしいだろ。
特にミレスの使用している機兵には、俺がダーム学院長に売った角ばり機兵グロームの視覚装置と杖を試験的に移植してあり、王国最新鋭機といって良い。
その他には、護衛車両1台、トレーラー2台、兵員輸送車1台、トラック2台という編成だ。
隊列は、機兵二機を先頭に兵員輸送車、護衛車両、トレーラー(機兵搭載)、トラック×2、トレーラー(空)、機兵という風になっていた。
一機をトレーラーに乗せているのは、脚部の消耗を避けてローテーションを組むつもりなのかな。
俺達は現在二手に分かれて行動している。ドルフ、アリカさん、ローラさん、カーラちゃんの魔法を使える組と俺達黒髪組みだ。
ドルフ達は、先行して道に罠を仕掛けてもらっている。俺達の仕事は、まぁ今夜のお楽しみだ。

 さぁお楽しみの夜だ!
「全員準備はいいか?」
目の前には、5体のモ○ゾーが並んでいる。そしてそれぞれがうなずく気配がする。
「よし、作戦開始だ。作戦通りルーリ、サイ、シュナは例の場所で待機。連絡を待て。
 グレン、リミエッタは、俺と一緒にSクラス野営地前まで前進する。各自隠密行動を意識せよ。行動開始」
ザザッと草がこすれる音を出しながら森の中を進む。草のこすれる音が気になったが、幸いにも今日は風が少し強い、
少々の事では気付かれないだろう。
野営地の前まで問題無くこれた。グレンとリミエッタにそれぞれの所定の位置に付くようにハンドサインを送る。
了解の合図を確認して俺も自分の配置に付く。
野営地は道の脇にある広場作られていた。大小さまざまな天幕が張られており、近くに車両が止めてあるのが見える。
時間的には既に深夜、夜番の生徒と整備科生徒以外はテントに戻っている。
明かりは夜番の生徒が魔法で出している小さな光球だけ、そして現在警戒に当たっている機兵は一機。
他の機兵は天幕の前で膝を付いている。
大体は予想通りだな。
<兄さん、配置に付いた>
<俺も付いたぞ>
<ついた>
全員配置に付いたことを知らせる通信が入った。今回は全員に通信機を配ってあるので連絡が容易だ。
「了解。ルーリ、のんきに寝ている連中にクレフウの実をお見舞いしてやれ。
 全員マスクをするのを忘れるな。効果は薄いだろうが無いよりましだ」
<<<了解>>>
『(ゴウちゃんも酷い作戦を考えたものね)』
「(あいつらは才能やら装備やら恵まれているからな。無い無い尽くしの戦場を味わうのも経験だろ)」
『(そうかもしれないわね)』
しばらくするとヒューという、落下音が聞こえてきた。しかも複数。
「ん?」
周囲を警戒していた夜番の生徒が空を見上げると運悪くべチャッと顔面に着弾。
それだけでは止まらずテントの上や周囲、そしてトラックその他乗り物にも落ちていく。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ。くせぇえええええええええええ」
哀れ、顔面に着弾した夜番の生徒は、あまりの臭さに地面を転がりながら顔を掻き毟っている。
そう、クレフウの実はとても臭いのだ。
一見すると毛の無いキウイなのだが、ドリアンを軽く凌駕し、シュールストレミングクラスの悪臭だ。
うっ早速こっちまで臭ってきた……。
しかも、その臭さは皮が破れないと臭わないと言う悪辣ぶり。前にサイが取ってきた時は酷かったな。
腹痛の治ったサイが部屋で食べようと皮にナイフを入れた瞬間、悪臭が噴出した。もちろんその悪臭は館中に広まり、換気の為一時立ち入り禁止にまでなった。
騒ぎの中心となったサイの部屋は一週間悪臭に侵され、サイは廊下で寝る事になった。それが顔面で破裂したのだ。
その臭さは想像を絶する。
「えっ?何これ、くさっ臭いぃぃぃぃぃぃぃ!」
「いやぁあああああああああ。臭い!なんなのおおおおおおおおおおおお!」
突然の悪臭にそこかしこから悲鳴が上がる。
クカカ、臭かろう!しかも今回用意したのは、熟れに熟れ、果肉はグチュグチュでその臭さも最高潮の物を用意したのだ。
ちょっと洗ったからと言って、臭いが取れるようなもんじゃない。既に野営地はパニック状態だ。
「何なのこの臭い?誰かっ!報告なさい!」
ひときは大きな天幕から出てきたミレスは、ハンカチで口元を押さえていた。さすがにパジャマは着ていないようだな。
学院の機兵搭乗服を着崩している。
ミレスは近くに居た夜番の生徒に現状を確認している。
「わかりません!突然、悪臭を放つ実が落ちてきました!」
「!何馬鹿なこと言ってるのよ!これは敵襲よ!直ぐに敵を探しなさい!」
「はっ!敵襲ー!敵襲ー!」
ミレスはキビキビと指示を下していく。
「機兵科は、機兵に搭乗し、索敵!夜番何やってるの、光球を上げなさい!こう暗くちゃ周りに何が居るか分からないわ!」
すぐさま光球が空に打ち上げられ周囲を照らす。この間もクレフウの実の爆撃は続いており、被害者が増えていく。
「爆撃一時停止、投石器の投射角度を少し大きくしておけ、そうすれば奥のテントにも届く。
 グレン、リミエッタ見えているな。機兵に乗り込まれる前に実を操縦席に投げ込め」
本命の攻撃位置がばれる前に、一旦止めさせる。
<分かった>
<<了解>>
俺は、投石器が飛ばす方向とは、反対の方向からクレフウの実を投げ込む。投石器の位置を誤魔化す為だ。
「あっちだ!あっちから飛んでくるぞ!」
俺の位置がばれた。もってきた実がまだ何個かあるが…仕方ない逃げるか。
「グレン、リミエッタ撤退する。ルーリ、爆撃を再開して援護してくれ。60数えたらそっちも撤退しろ」
<分かった。兄さん達も気をつけて>
<<了解>>
俺は、なるべく音を立たないようにその場を後にした。

 その後、無事にトレーラーに戻ることが出来た。俺以外の面々も怪我一つ無く戻っている。
途中近くをSクラスの生徒が通ったりしたが、ギリースーツのお陰か、ばれる事は無かった。
「それで、グレン、リミエッタ首尾はどうだ?」
「半分成功だな。一機の操縦席には投げ込めたが、貴髪の機兵には、早々に乗り込まれて投げ込めなかった。
 あまった一個は、適当にでかいテントに投げ込んでおいた」
「此方は成功。ついでにトラックの運転席の窓が開いていたからそこから放り込んでおいた。叫び声が聞こえてきたから、
 多分誰か中で寝ていた」
4機中2機か…。
「よくやった」
これで奴らは悪臭にまみれて行軍する事になる。Sクラスのルートでは、水を補給できる川や泉は無い。
体を拭く程度の水はあるだろうが、水浴び、機兵の洗浄などもってのほかだろう。
悪臭のせいでストレスがものすごい事になるな。
俺達が風下に居れば1キロ先からでも察知することが出来ることだろう。
それに…クカカ、まだ序の口だ。

試験二日目
 夜が明け、Sクラスの行軍が始まる。俺達は明るい内は、あまりする事は無い。
せいぜい次の待機ポイントへ移動するだけだ。
昼間はドルフ達の担当だ。ドルフ達が設置した罠が、じわじわと奴らを苦しめる。
例えば道に、機兵が転びはしないが、踏み抜くとびっくりする程度の落とし穴とか、
道に機兵が歩くには問題無いが、トレーラーが通るには邪魔になる岩を置いたり、ものすごく地味な嫌がらせをした。
Sクラスの連中もイライラしているのか、地団駄を踏んだり、道に置いた岩を蹴飛ばしたりしているのがバロールから見えた。

 そして待ちに待った俺達の時間、夜になった。今日のメニューは、俺的ヒットソングパレードだ!
Sクラス野営地周囲に設置してあるスピーカーからお送りする一大イベント!
その放送が流れるのは設置した6箇所のスピーカー内どれか2つ。
しかもある程度時間が過ぎるとランダムに音が出力されるスピーカーが変わる、音源捜索不能仕様!
さぁ聞くがいい!俺達の一世一代のライヴを!ポチッとな。
『さぁ皆さんお待ちかねぇ!鉄仮面が送る。朝まで続くミッドナイトライヴの始まりだぁ!
 Sクラスのみんなぁ!乗ってるかぁああああああああい!
 …うん。元気ないねぇ~。くっさい中一日中行軍しなきゃ無かったから当然だよね!
 まったく誰のせいでこんな事になったのやら…あっ私か!
 しょーがないな~じゃあ!私から元気のプレゼントだ!最初にお送りする曲は私が歌う'自由な白黒ヒー…』
口調が機兵学科を相手にしていたのと違うのは、相手の神経を逆撫でする為だ。
ライヴと言っても、事前に録音していたんだけどね。曲はロボットロマンのBGM用に大量に溜め込んでいたものだ。
(ロボットロマン2には、プレイしている時に、PC内に保存してある好きな曲をBGM代わりに流すことが出来る機能があるのだ。
 もちろんそのままだと日本語で歌詞の意味が通じないから、通じるようにミーゴラ語に翻訳して歌っている)
そろそろ飛ばした虫型プローブが今日の野営地に付いたはずだな。
Sクラスの様子はっと。

「何!今日も敵襲!?この声…鉄仮面先生か!?しかもなんか喋りが変わってる」
「分かりません!しかし、声がどこからか聞こえてきます!
 光球を上げて付近を確認しましたが、機兵の影はありません!」
「…敵襲と判断します。捜索隊を編成してこの騒音の発生源を探しなさい!おちおち寝てもいらんないわ。
 ただし、発見しても無闇に手を出さないように。何の罠が待ってるか分からないわ。報告を第一にしなさい」
「ハッ」
うむうむ。いい判断だ。けど、見つけらん無いだろうけど。
「何ですの?この変な歌は?聞くに堪えないですわ!
 ミレスさんとっとと、どうにかしてくださいません?」
そこへ、ミレスと同じ天幕に居たハリエッタが出てくる。
「ハリエッタ、あんたも働きなさいよ!あんたを捜索隊隊長に任命するから行って来なさい!」
「しょうがないですわね。どうせ、天幕にいても臭くて寝れないんですから、行ってきますわ」
「頼んだわよ。鉄仮面先生は一筋縄じゃいかないわ。十分注意しなさい」
「お姉様の事以外、どうでもいい事ですわ」
ハリエッタは、手を上げてヒラヒラとさせながら集まった普通科生徒の方へ向かった。

それからの事はあまり書くことが無い。ころころ変わるスピーカーに右往左往する普通科生徒とか。
グレンのジャイ○ンボイスの歌で悶絶するSクラス生徒とか。
意外に歌の才能があったシュナの電波ソング超ロングバージョンとか。
可も無く不可もないサイの歌とか。
リミエッタのスーパーウィスパーボイスで歌ってもらった事により、恐怖を呼び起こす唄と化した童謡シリーズにガチで
ビビルSクラスとか。まぁその位しかなかったな。うん。因みにルーリは歌が残念なので拒否された。

結局Sクラスはスピーカーを一つも見つけることが出来ずに朝を迎えた。
『…ん?そろそろ夜が開けるな。じゃあ最後に君達にぴったりのラストナンバーを紹介しよう!
 私が自らが歌う'すい○ん不足'だ!』
「「「「誰のせいだと思ってやがる!!!」」」
Sクラスの生徒達の心は今までにない程一つになったことだろう。

第44話 Sクラス試験 後編

試験三日目
 トラックにしがみ付いている虫型プロープから見るSクラスの面々は、初日とはうって変わった無言の行軍。
現在位置は森を抜け、草原へと進んだ所だ。
ドルフの地味に効く落とし穴は、この頃になるとSクラスも警戒して殆ど回避されるようになった。
しかし、その分行軍速度は落ちている。
いや~仕掛けた俺が言うのもなんだけど、本当にキツそうだ。

「全隊停止!今日はここを野営地とします!」
ミレス達が止まった場所は、何も無い草原のど真ん中だ。
「えっ?コーウィックさん、ここはまだ、今日予定している野営地ではありませんが?」
「それは分かっています。しかし、昨日今日と立て続けに襲撃されています。
 私達の計画は向こうに筒抜けになっていると考えるべきでしょう。
 今日の野営予定地にも何か仕掛けられている可能性が高い。
 それに、私達の体力はもう限界に近いでしょう。ここで早めに休息して、明日、遅れを取り戻しましょう」
「…確かにそうですね。分かりました」
「それじゃあみんな!天幕を張って!機兵科は周囲に何か怪しい物が無いか徹底的に調べます!
 普通科は手が空いたら周囲の草を刈って周囲を見やすくしておいて!」
「「「「「了解!」」」」

ふむふむ、そう来ますか。じゃあ俺達も夜までに移動しないとな。

 さて、今晩もお仕事をしようかね。俺達はミレス達の野営地の近くの草に紛れて隠れている。
野営地の周囲の草はすべて刈られており、出て行けば直ぐに見つかることだろう。
「ルーリ、準備は出来てるか?」
「出来てる」
「じゃあ行くか。全員火を放て」
俺の合図で、ルーリたちの前にある草の山に火をつける。
いやいやいや、俺は火攻めをしてるんじゃないからね。そんなことしたらミレスが死んじゃうし。
俺達は今、アネムネ草を燃やしているのだ。
野営地から火が見えないように地面に穴を掘って、そこで燃やしている。
アネムネ草は、燃やすと良い香りと共に眠気を起こす煙が出てくる、一種の睡眠導入剤みたいな薬草だ。
効果としてはそれほど強いものではないが、睡眠不足の彼らには良く効く事だろう。
聞いた話だと、このアネムネ草を使った有名なお香もあるらしい。
普通の状態でアネムネ草を燃やしたら、その臭いに気付いて警戒されるだけだろうが、
ミレス達は現在クレフウの実の臭いにやられて鼻が利いていない。そんな状況じゃ気付く事も出来ないだろう。
パタパタと風を送り、野営地の方へ煙を流す。ああ、もちろん風上で燃やしてますよ。
火をつけてから三時間ほどたった時、もう野営地では、寝息しか聞こえなくなった。
機兵が最後までフラフラと粘っていたが、耐え切れなくなって先ほど膝をついて、動かなくなった。
魔晶炉も待機状態になったようだな。

「良し、行くぞ。グレンとサイはトラックに、その他は、俺と一緒に来い」
「「「「「了解」」」」」
そしてコソコソと今夜の仕事を完遂した。

試験四日目
 夜が明けた野営地は蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。クカカ。
天幕から出たミレスに生徒が集まっている。
「一体どういうこと!!」
「ハッ。そっそれが、機兵整備用の工具がほとんど無くなっております。おそらく昨日の夜に盗まれたものかと…」
「そんなこと分かってるわよ。夜番の子は何をやっていたの!」
「それが、ジョシュアさん(夜番機兵パイロット)も含めて全員寝てしまって…」
「夜番が寝るって一体どういうことよっ!馬鹿じゃないの!」
おおー凄い剣幕だ。
「コーウィックさん!」
そこにハリエッタが駆け寄ってくる。
「今度は何よ!」
「野営地の東側におかしな物を見つけましたわ。何かを燃やしたような焼け跡。
 もちろん昨日はそんなものありませんでしたわ。それで何が燃やされていたか調べたらなんと」
「なんと?」
「アネムネ草でしたわ。私の両親がそれで出来たお香を愛用していたので直ぐ分かりましたわ」
「それって確か、特徴的な臭いのある眠りを誘う薬草ですよね。誰も…ああ私達は今鼻がダメになっていたわね。
 …それで他になくなっていたりしていた物はある?」
「少し食料が盗られたようです。しかし、多めに持ってきていたので問題ありません」
「…確か毒物チェック用の魔道具があったわね。一応それで食べ物の毒物のチェックをしておいて。
 弱めの麻痺毒くらいならあの先生なら入れそうだわ」
「了解しました」
酷いなぁそんな事してないのに…。と言うかグレン、お前盗ったな。
「それでゴール君(整備科班長)。整備にはどれくらい支障が出る?」
「…支障ってもんじゃないよ。機兵は全機無事だが、もう碌に整備することが出来ない。すまない。
 昨日工具を出しっぱなしで寝た馬鹿を僕が見逃したせいだ。
 申し訳ないが、今まで以上に機兵の脚部を大切にしてくれ。壊れても現状じゃ修理できない」
「わかったわ。…とりあえずここに居てもしょうがないわ。そう悪いことばかりでは無いわ!
 機兵は全機無事だし、全員昨日たっぷり寝れたんだから。今日は、送れた予定を取り戻すわよ!!」
うむ、少しでもポジティブな要素を見つけて、士気の低下を防ぐ。いい指揮官になったなミレス。
しかし、仲間はどうかな?
 
 それが起きたのは、お昼を過ぎた頃だった。道にはおなじみになったドルフによる置き岩の前で行軍が止まり、
先頭の機兵二機が、他の罠がないか確認する為に前に出る。
「おい、また岩が置いてあるぜ。まったく嫌になるぜ。今度はどっちが退かす?」
「ああ、俺がやるよ。ちょっとひとっ走りして、蹴っ飛ばしてくる」
「おいおい、コーウィックさんから脚部を今まで以上に大切に扱えって言われてるだろ」
「大丈夫だって、あのくらいの岩なら影響ないって。ただでさえ行軍が遅れるんだ。
 処理できるなら早いに越したことはないだろ」
「そうだけど…って、おい!」
僚機の制止を振り切って一機が駆け出す。岩の前まで来ると大きく右足を振り上げて岩を蹴飛ばそうとする。
「毎度毎度、じゃまなんだ、よっと」
そして、岩に足が当たった瞬間、ボキッっと言う音と共に機兵の右足が砕けた。
「うがぁああああああああああああああ」
機兵はそのまま前のめりで倒れ、もだえる。
クカカカカカカ、やった!あの馬鹿やりやがった!!ひー腹いてぇ!
「何!何があったの?」
叫び声を聞きつけ、後方で殿を務めていたミレスの機兵が駆け寄る。
「そっそれが、ウィルの'アメンガム'の右脚部がたっ大破しました!」
「なんで!?とりあえず、救助するわよ」
「了解しました」
ミレス達は、足を壊した機兵から生徒を助け出し、機兵と共にトレーラに乗せる。

「それで一体どんな罠があったの?」
「これを見てください」
前衛を勤めていたもう一機がしゃがんで、先ほど蹴られた岩をつかむ。岩は蹴られる前と寸分の違いも無くその場にあった。
「岩?それで何で機兵がああなるのよ?」
「一見ただの岩ですが…」
グイと引っ張って持ち上げる。
「えっ何これ?」
岩には長い鉄の杭が付いており、地面に深々と刺さっていたのだ。
「我々はまたしても鉄仮面先生にしてやられました。今までにあった岩も全部、この罠の為の布石のだったようです」
はい、そうです。イヤーここまで引っかかってくれると少々かわいそうになるな。まぁ手は抜かないけど。
さて、ダメ押しでもしますかね。仕掛けておいたスピーカーのスイッチをオンにする。
『Sクラスの諸君、ご機嫌いかがかな?』
「この声は鉄仮面先生!」
『残念ながら。一機機兵がダメになってしまったようだね。此方はまだ機兵で襲ってないのに何やっているのでしょうか?
 はなはだ疑問です。
 こっちはやり易くなるんで構いませんが』
「この声の鉄仮面先生をを探しなさい!早く!此方が見えてると言う事は、此方からも見えると言うことよ!」
ミレスの指示に慌てて他の生徒達が動き出す。でも惜しい、俺は遠くに止めたトレーラーに居るのです。
周囲を探したって見つかりっこない。
『そんな君達にプレゼントのお知らせです。私の故郷では、'敵に塩を送る'という風習がありまして。
 私もそれに習って塩を送っておきました。えっ?どこにあるんですかって?
 もちろん君達の持ってきた水の入った樽の中ですよ』
まさに外道!
「何ですって!直ぐに確認なさい!!」
『ああ、申し訳ない。そのせいで飲み水が減ってしまったな様ですね。まぁしょうが無いですから節約しながらがんばって下さい。
 でも大丈夫でしょう!役立たずになってる人達の分を減らせば十分街まで間に合うはずです!整備できない整備科でしょうか?
 まともに夜番も出来ない普通科でしょうか?それとも整備科から注意されていたのに足をダメにした機兵科でしょうか?まぁ…』
「(いけない!)【炎よ 舞え 赤々と すべてを 焼き尽くせ】!」
ミレスの機兵が持つ杖から、灼熱の劫火が放たれ周囲を焼き払う。スピーカーもそれに巻き込まれ、破壊された。
まだ全部言ってなかったんだがな…。これで、奴らの中に諍いの種を植えることが出来た。
見せてもらおうか、学院最高メンバーであるSクラスのチームワークとやらをっ!!

 ハイどうも実況のゴウ・ロングです。えー現在私はですね。
本日のSクラス野営地にある、指揮官クラス専用天幕をプローブを使って覗いております!
その天幕の中では、それぞれの科のを取りまとめる班長達が集まり、会議が始まろうとしております!
(この場合、隊長と言ったほうが良いか?まぁいいや)
おっと、始まるようです。

「まず、現状の確認をしたいと思います」
会議の議長は、ミレスが行うようですね。さすが長方形のテーブルの一番奥に座っているだけはある。
「じゃあ、まず僕から」
そういって立ち上がったのは、整備学科のゴール君です。
彼は、一種の天才でミレスの機兵'フェリアール'の改造にも参加したと噂される眼鏡博士な生徒です。
「ウィルの'アメンガム'だが、やはり修理は不可能だった」
「何とかなりませんの?」
「僕達だって何とかしたいさ。パーツはある。けどね、修理する為の工具が無いんだよ。
 せいぜいあるのは、機兵備え付けの工具ぐらいだ。けどこれじゃあ装甲一枚剥がせやしないよ」
「本当に使えませんわね。まった…」
「…」
「止めなさい。工具が無いのはゴール君のせいじゃないわ。あなただって分かってるでしょ」
続けて非難しようとするハリエッタをミレスが止める。この時点で非難を止めるのはいい判断ですね。
ハリエッタの発言を見逃せば、周囲の空気が悪くなり、発言がしにくくなりますからね。
「フン」
「じゃあ次ね。次はジャン君お願い」
ジャンと呼ばれた少年は戦略学科に在籍する生徒です。貴族ですが、それを鼻にかける事はせず、好青年で通っています。
因みにグレーの髪を持つイケメン…。爆発しろ。未来永劫爆発しろ。
おっと失礼、少々私怨が混じってしまいましたね。すいません。
「まず食料ですが、此方の方は問題ありません。少々盗られましたが、最終日まで十分持ちます。
 しかし問題なのは、ご承知の通り水です。確認したところ、現在使っている樽以外すべての樽に塩が混入されていました。
 タイミングから考えて、昨夜工具を盗まれた際に混入されたと思われます。
 そして使える水の残量ですが、現在使っている樽も、今まで通り使ったら直ぐにでも無くなるでしょう。
 節水が必要です」
「どうして塩が混ぜられていることが、あの忌々しい男に言われるまで気付かなかったんですの。
 確か調べてましたわよね?」
「我々は今朝の時点で毒物のチェック、それと実際に少し飲んでみて異常がないか確認しました。
 ですが、それも読まれていたんでしょうね。塩水になった樽のそこからこれが見つかりました」
おーっと!ジャンが、目の前のテーブルの上に砂利のような白いものを置いたー。
「それは?」
「塩の結晶です。多分、塩の結晶を入れることにより塩が溶ける速度を遅くしていたんだと思います。
 それで、今朝の時点では何の異常もない様に見えた。
 その後、トラックが道を走ることにより、振動で樽の中の塩の結晶も擦れ合って削れ、
 それプラス、水が攪拌される事によって飲めない程の塩水になったと思われます」
はい、その通り、ジャン君凄いねぇ。どんなに害のない物だって取り過ぎれば毒になる。いい勉強になりますねぇ。
'別に、魔法で水を出せばいいんじゃないの'と思うでしょう?
しかし、魔法で出した水は、直ぐに蒸発(消滅?)してしまって、飲んでも体の水分にならないんだそうな。
魔法も万能じゃないってことだな。
「アイボニー、医療魔術科には、水のストックがあったわよね。どれくらいある?」
「えー。確かにあるけどー。そんなに量は無いわよ」
「そう、一応量を確認して報告してちょうだい」
「大丈夫。こんなこともあろうかと準備しておきました。ほい」
そう言うと、アイボニーは机の下から一枚の紙を取り出し、ジャンの方へ滑らせる。
「どうジャン君?」
「…やはり、圧倒的に水が足りません。このままでは、戦闘すら危うい。水を補給したくても、明日からは荒野を通ります。
 そんな場所で、水の確保なんて不可能です」
「どこかの水を減らすしかないと……」
「普通科は通常通りに水をもらえるように要求しますわ。減らすのは、整備科、戦略科、医療魔術科でお願いしますわ」
「整備科は分かるけど、なんで私達まで減らされなきゃならないのよ!」
「そうだ、戦略学科を預かるものとして承服できない!僕らはなんのミスもしてないぞっ」
「後ろでこそこそするしかない二科には、殆ど必要ないでしょう。私達は最前線に立たなきゃいけませんのよ?」
「ふざけるな。そもそも、水をダメにした責任は、普通科だろうが!何のペナルティも無いなんて承服できない」
「そうよ!あたしもジャンの意見に賛成よ。何であんた達のミスを私達が尻拭いしなきゃならないのよ!」
会議は、意見の出し合いから、喧々諤々の罵声の浴びせあいになった。
あちゃー。まぁこうなると思ったけどね。そんな状況がしばらくするとミレスが突然立ち上がる。
「止めなさい!ここは意見を出し合う場であって、罵り合う場所では無いわよ!
 水に関しては平等になるように分けなさい。これ以上罵り合うよりましよ!これは、決定よ」
「…分かりました」
「フン」
「しょうがないわね」
「僕に依存は無い」
ミレスの強権が発動され、強制的に止めされられる。しかし、これはミレスの明らかな失策だと俺は思う。
ハリエッタの言うとおり(言い方はかなり悪かったが)、普通科及び機兵科に優先して水を分配すべきなのだ。
この場合、'普通科の責任問題は一旦棚上げして、試験終了後に改めて罰を下す'と宣言し、普通科及び機兵科に優先して水を分配。
例え不満が出たとしても戦力の低下を防ぐ為と説得または命令する。多分ちゃんと訓練された軍だったら、命令なら仕方ないで済む。
しかし、Sクラスは実力はあれど蝶よ花よと育てられた純粋培養品だ。それに貴族も多い。はてさてどうなることやら…。


試験五日目
 周囲は荒野に変わり、太陽は嫌になるくらい輝いている。
ジリジリと身を焦がすような日差しの中、Sクラスは進んでいた。
水は配給制になり、渇きを完全に癒す事は出来ない。暑い車内で、既に何人かダウンしているようだ。
今日は、Sクラスに対して何もするつもりは無い。そんなことしなくても彼らは弱っていくだろう。
さて、今までの四日間で俺が奴らに仕掛けた'無い無い尽くし'をおさらいしておこう。

悪臭&騒音攻撃による、眠れない。

工具を奪った事による、修理できない。

水を奪った事による、水が飲めない。

罠に嵌めた事による、機兵が一機使えない。

何度も襲撃されているのに敵の姿が見えない。

俺のプロパガンダで植えつけた、味方が使えない。

うん、とてもイライラする状況に陥っているね。Sクラス。そして今日の内にでも最後の'味方が使えない'は、'味方が信用できない'に変わるだろう。
既にイライラ→八つ当たりの悪循環が始まってるし。
ここまで来たら、もう長期休暇にでも出して完全に心身をリセットするしか解決策は無いと思う。もしくは、戦いで勝利するかな?

 夜になった。ここで俺にとっては予想外の事が起きた、いや、起きなかったと言うべきか。
俺は、今日中に学科対抗の大喧嘩の一つでも起きてSクラス内の空気が悪くなる、最悪分裂すると読んでいたんだが、それが起きなかった。
それは、俺の予想よりクラスの結束が強かったと言う訳ではなく。喧嘩する元気も無いくらい弱っていたからだ。
ノロノロと張られた天幕にトボトボと入っていく彼らからは、Sクラスの威厳は無く、まるで敗残兵だ。

試験最終日
 さて試験も大詰め、最終日だ。現在のSクラスの戦力は機兵3機(内貴髪1名)、普通科歩兵9名(内貴髪1名)、予備兵力13名
合計24名。
そして俺達の戦力は、カーティス1機、俺、ドルフ、アリカさん、黒髪クラスの歩兵9名(内魔法使用可4名)といった所だ。
数字だけ、つき合わせると完全に俺達の戦力不足だな。けど、本当の戦闘はそんなに甘くは無い。
此方は意気軒昂、変わってあちらは、ほぼ全員睡眠不足の上、水分不足、まともに戦えるのは一体何人居ることやら。
はっきり言って、今のあいつらから護衛車両を奪取するのは、俺のグランジュ一機で十分だ。
けど、それでは俺の目的は達成されない。さぁ最後の一押しと行こうか!

 Sクラスはとうとうキリンカの街の手前まで来た。時刻は昼の鐘三つの頃(午後4時位)。
この世界の城塞都市は、大体日暮れに門を閉じて夜行性の獣や魔獣の侵入を防いでいる。
一度門が閉じられると余程の事じゃないと門は開けられない。
つまり今日、門が閉まった段階で、Sクラス試験任務の失敗が確定される。
キリンカの街の日暮れがだいたい5時頃なので、残り1時間。時間的にぎりぎり時間内に到着できると言ったところだ。
本来なら、もっと早く着く予定なのだが、俺達の数々の妨害工作により、小まめに休憩を挟まないと、まともに行軍できない状態にまでなっているのだ。
これでまた一つ、無い無い尽くしに'時間が無い'が追加だ。
Sクラスの居る位置からは、キリンカの街の城壁とそこまでの一本道が見えている。
その道には待ち伏せに使えそうな障害物は無く、ごろごろと小さな岩が転がる赤茶けた大地が見えるだけだ。
心情的には'後ちょっと…後ちょっとがんばればゴールできる!'と言った所だろう。

 「後方より、キャリア付きトレーラーが一台接近中!猛スピードで此方に近づいてきます!!」
殿の報告を聞いたミレスは、即座に指示を下す。
「全員警戒態勢!!それと、トレーラーにの積荷はっ!!」
「確認しますっ!…確認しました。積荷は機兵二機!鉄仮面の'グランジュ'及び'狼頭'!二機ともベットに寝かされてます!
 なおも接近中!!」
「「「「!!!」」」」
「…とうとう来たわね!戦闘態勢に移行!戦えるものは全員出なさい!!普通科は円陣を組みなさい!重陣ではなく単陣で!
 護衛車両は、全速力でキリンカの街まで突っ走りなさい。先生のチームには、機兵は二機しか居ません!
 ここで押し留めれば私達の勝ちです!さぁ皆!今までの鬱憤を晴らしなさい!!」
「「「「了解!!」」」」
条件はすべてクリア。チェックメイトだ。
「普通科生徒は、トレーラー目掛けて合唱魔法'業炎'を放ちなさいっ!当てなくてもいい!
 撃って撃って撃ちまくりなさい!
 機兵を下す隙を与えないで!!」
「「「「了解!!」」」」
俺の運転する、トレーラーの周りに、ついこの間見た炎弾が次々と着弾する。
「ヒャッハー!この風、この肌触りこそ戦場よ!初めて体験するけどな!!」
ハンドルを右に左にと切り、次々と振ってくる炎弾を避ける。
「そんなことよりゴウ!本当にアレが直撃してもトレーラーは大丈夫なんだろうなっ!」
助手席で座りながら手すり、ドルフが不安そうに叫ぶ。
「大丈夫だ!問題ない!」
「その台詞からは、なんか知らんが、不安しか伝わらねぇよ!!」
「なぁに。運が悪けりゃ死ぬだけさ!」
「死ぬのかよ!!」

「今よ!全機兵で突撃をかけます!付いてきなさい」
「応!」
ミレスのフェリアールを先頭に機兵達が駆け出す。
合唱魔法で相手を牽制している間に近づいて接近戦を仕掛けようと言うのだろう。
「させねぇよ」
俺は思い切りハンドルを切り、トレーラーを180度反転させる、後部に接続していたキャリアーが盛大に振られ、土煙を上げる。
「小細工をっ!【炎よ かの物を 吹き飛ばせ】」
ミレスが魔法を使い、一気に煙を吹き飛ばす。
煙を払った先に、そのまま一目散に走り去るトレーラーを目撃する。
「えっ?なんで?」
俺の突然の行動にミレスから動揺した声が聞こえる。
「目当ての物は頂きました。それでは皆さんさようなら」
最後に俺はそう拡声器でSクラスに伝えた。
「そんな!嘘でしょ!?」
振り向いたミレスが見たものは、何処からか現れたダイドルフ用トレーラーに積まれ、キリンカの街に向かう、護衛車両の姿だった。

第45話 反省会

 護衛車両を載せたトレーラーがキリンカの街の門を潜る。その後直ぐに重い音を響かせながら、門が閉まった。
Sクラスの面々はそれを呆然と見送る。まだ自分達が試験に失敗した事が信じられないのだろう。
ほぼ全員がその場に座り込んでしまった。
機兵と一度も戦う事無く、なすすべも無く護衛対象を奪われる。最悪の終わり方だ。

「試験終了を宣言します。Sクラスは一旦私の指示に従ってもらいます。…呆けてないで、早く立って下さい」
俺は、Sクラスの前でトレーラーを止め、終了を宣言する。
「…了解しました。以降は鉄仮面先生の指示に従います。さぁ皆立って!」
逸早く立ち直ったミレスが他のクラスメートに声を掛ける。
すると俺の言葉にはうんともすんとも言わなかった連中が、ミレスの声には反応し、ノロノロと立ち上がる。
「とりあえず、キリンカの街城門前まで行きます。付いて来て下さい」
「分かりました」

 Sクラスの連中を引き連れて、門の前まで来たが、当然閉まった門が開くはずは無い。
仮に開いたとしても今のSクラスの連中を街の中に入れるわけには行かない。
現在の彼らは歩くバイオテロなのだ。彼らを綺麗にしないと街に入れられない。
今日は、城壁の外で夜を明かす事になる。なので天幕を張らせる。もちろん俺が元から用意しておいたものだ。
あいつらの装備はほぼすべて汚染されているからな。
「ああ、貴方達のトレーラーとかは、遠くに止めて置いてください!臭いので」
その後、Sクラスの連中にある物を作らせた。
そのある物とは'自衛隊風呂'である。災害時に被災者に対し、癒しを与えたにくい奴だ。
…ロボットロマンは、何故か自衛隊の装備が充実してるんだよなぁ。開発者に自衛隊オタでも居たのだろうか?
ロボットロマンの能力で出すと、完成した状態で出てきてしまうので事前に出してみんなで解体しておいた。
完成した自衛隊風呂に特製消臭石鹸を持たせ、生徒達を順番に入らせる。
初めて見る設備に戸惑っていたが使い方を教えると感心していた。
着替えも用意してやった。臭い服を着たままの相手するのは、俺が嫌だからな。
まぁ貴族の連中が着るような物では無く、一般庶民が着るような物だ。さすがに洗濯まで面倒見るつもりは無い。
「なんですか?洗濯物は何処に置いて置けば良いののですかって?貴方達のトレーラーにでもしまって置いてください。
 ソレくらい自分で考えて下さい」
まったく、俺も甘いよな。

 翌日、門が開くのを待って街に入る。Sクラスのトレーラーは臭いので、門の近くにある、キリンカ騎士団の詰め所に置かせてもらった。
騎士団には悪いが我慢してくれ。
俺達が今向かっているのはキリンカ騎士団本部にある会議室だ。今回の試験の結果発表する為に会場として会議室を借りたのだ。
もちろん学院長のコネで。会議室と言っても、だだっ広い部屋に長テーブルを並べてあるだけだ。

「さて、Sクラスは全員揃っていますね?」
「はい」
ミレスに揃っている事を確認する。
「では、これからSクラスが計画した護衛計画の反省会を開始します」
「あの…?」
「何でしょう?」
おずおずと正面に居た生徒が手を挙げ質問してくる。
「結果を発表してお終いじゃないんですか?」
「じゃあ貴方は何で護衛が失敗したか、理解できていますか?」
「それは…。鉄仮面先生がひ…奇策を用いたからではないのですか?」
「かなり大雑把な理解ですね。それでは、失敗した要因がぼやけてしまいます。
 貴方達は私達に敗れた。実戦であれば死んでいてもおかしくは無い。しかし今回は実戦ではなく、試験でした。
 だからこそ、この場で試験で敗因を徹底的に洗い出し、いつか本当の戦場に立った時に同じ失敗をしないように役立てて欲しい。
 つまりそう言う事です」
「分かりました」

じゃあ鉄仮面先生のダメ出しの始まり始まり~。しかし長いのでダイジェストでお送りします。

 計画を立てたのは、戦略学科が中心に立てていましたよね。何故スパイなり何なり送って私達の情報を探らなかったのですか?
私は貴方達の計画全てを把握していました。教師に秘密だと言われた?調べるなとは言われてないと思いますが。
それに貴方達が考えた計画には柔軟性が足りません。
余裕を持って計画しているつもりなのでしょうが、私からしたら何でこんなにガチガチにしているのか理解が出来ません。
どうせ教科書に書いてあった効率の良い護衛の仕方とかをちょっといじくった程度でしょう?
護衛の途中で私達に計画が筒抜けになっている事には気付いていた筈です。
その時何故ルートを変えようとしなかったのですか?
そのような事態が起きるとは思っても見なかった?
試験だから、戦わないと評価が下がると思ったんすか……。私達と一度も会わずに護送を完了させていたら文句無しに満点合格です。
それに戦闘に関してもそうです。貴方達は対人戦をまったく考えていない。だから良いように野営地に侵入されるのです。
侵入者探知の罠位設置しておかないでどうするのです?そもそも貴方達は、前の試験のレポート読んでないでしょう?
Cクラスのレポートです。格下且つ、失敗したレポートだからって読まなかったのですか?
彼らは変則的ですが対人戦を仕掛けて来ましたよ。

次、整備についてです。私の言いたい事は大体分かるでしょう?そうだ工具の管理についてです。
貴方達は自分の仕事道具を何だと思っているのですか。道具はお前らの半身だと思って下さい。
これからベットの隣で寝るのは最愛の人ではなく最愛の工具です。
それと、なぜ道具が盗まれたからって整備できないと諦めてるのですか。
装甲一枚はがせない?魔法で吹き飛ばせばいいでしょう。
装甲の無い動く足より、装甲のある動かない足のほうが価値があると思っているのですか?
レンチがないとネジが回せない?あるもので作ればいいでしょう。そもそも貴方達は工夫が足りません。

次、機兵科。道中同じような罠が前にあったからと言って、同じように対応するから足を壊されるのです。
もっと慎重に行動して下さい。

次、コーウィックさん。貴方は仲間の結束を保つために、水を平等に分配しましたね。それは悪手です。
あの時は、機兵科、普通科に水を分配するのが最善でした。貴方達の役割は何ですか?護衛対象を護送する事でしょう。
戦力が下がるような選択をしてはいけません。例え部下に恨まれてもしなきゃならない命令がある事を覚えておきなさい。
普通科の失敗に罰を与えるなら作戦終了後と言う選択肢もあったはずです。

次、普通科…というよりハリエッタさんですね。飲み水をほぼ全部塩水に変えられた時、水分配で揉めたでしょう。
あなたの言ってる事は正しいが、言い方というものがあるでしょう。あんな言い方をしたら反感を買うだけです。
何で知ってるかって?これも企業秘密です。
今後気を付けて下さい。貴髪だからって調子乗ると痛い目を見ますよ。

次、医療魔術科、貴方達には特にありません。しかし、安心してはいけませんよ?
貴方達にミスが無いのは、貴方達が何もしなかっただけですからね。
ただのお荷物だった貴方達が偉いわけじゃありませんから?勘違いしないように。

次、これは全員に関してですね。
試験中の役割分担についてです。貴方達は人数が少ないのに、何でそんなにガチガチに役割分担をしていたのですか?
人数が少ないなら負担の少ない所が無理の無い程度に他の仕事を手伝って、仲間の疲労を軽減させようって考えは無かったのですか?
何で全員きょとんって顔してるんだ。

最後に水不足でクラスの空気が悪くなった事についてです。
何で私のプロパガンダに踊らされてるんです?敵の言ってる事なんですが。
そもそも敵のせいで水が無くなったのに、何で部隊内いがみ合ってるのでしょうか。
そこは私に敵意を募らせて一致団結する所でしょう。

「ふぅ。大体こんな所でしょうか…ん?どうしました、皆さんうつむいて?
 まぁいいでしょう、それで君達から質問はありますか?」
「…はい」
ノロノロと手を上げる生徒が居た。
「何ですか。ジャン君」
「試験三日目の事なんですが、何故鉄仮面先生は奪取目標である。護衛車両を奪わなかったのですか?
 十分その隙はあったと思うのですが?」
「ああ、それについてですか、何で護衛車両を奪わなかったのか。それは、Sクラスの追撃を避けたかったからです。
 あの時点で護衛車両を奪取していた場合、君達は全力で奪い返しに来た事でしょう。貴髪の力を全開にして」
はい、嘘です。もっともらしいこと言ってるけど実際は、Sクラスをとことん追い詰める為にわざと盗みませんでした。
「他に何かありますか?」
「はい」
手を上げたのはなんとミレスだ。
「コーウィックさん何ですか?」
「最後の襲撃を受けた時の事です。
 あの時私は、キリンカの街までの道に待ち伏せが出来そうな場所が無い事を確認してから、
 後ろから襲ってきた鉄仮面先生達に全戦力を振り向けました。しかし、気がついたら護衛車両は奪取され、
 いつの間にか現れたトレーラーに乗せられていました。一体どうやったんですか?」
「そんな事ですか…。あの時の作戦は単純明快です。貴方達の後ろから私達が襲い、注意を引きつけ、その隙に護衛車両を奪う。
 ここまではいいですね?」
「はい」
「しかしこの作戦には、いくつか問題があります。まず襲撃場所が視界の開けた荒野だと言う事。
 隠れる場所は無いし、隠れないままだったら普通科の合唱魔法で攻撃されてしまう。
 次に、先に出発したはずの私達が、何故後ろから来るのかと疑問に思われる事。
 わざわざ後ろから襲ってくるんだから、先に何かあるんじゃないかと警戒されて護衛車両の防御を硬められたらお終いです。
 しかしそんな事にはなりませんでした。何故でしょうか?
 解決策その1、確かに襲撃場所は開けた荒野ですが、隠れる場所が無いわけじゃありません。さて、何処でしょう?」
「…わかりません」
「答えは地面の下です」
「まさか!そんなトレーラーの隠れられそうな穴はありませんでした!」
「もちろん穴を掘ってそのままトレーラを隠すわけじゃありません。ちなみに私達はその穴を退避壕と呼称しています。
 その退避壕を掘った後、屋根を付けただけです。簡単なものですがね。
 そして屋根の上に荒野の土を掛け、岩置いて周囲の荒野と変わらないように偽装しました。もちろん出入り口もね」
「それで私が見つけられなかったんですか」
「そうです。人は、誰かが隠れていると思って探し、そこに何もないと判断すると、一切思考に入らなくなりますからね。
 そこを突かせてもらいました。
 次にどうやって、後ろから襲う事を不振に思われないようにするかですが。
 それは、相手に考える隙を与えなければ良い。これが中々難しいものです。
 それ以前の嫌がらせの様な作戦も全て、この為と言っても過言じゃないでしょう。
 焦りや苛立ちを募らせ、極限の状況に陥れば陥るほど、人間は安易な逃げ道を選択する。
 だからコーウィックさんは護衛車両を守りながら私達を倒し、
 安全にキリンカの街に入ることを選ばず、
 私達の足止めに徹し、護衛車両を先に行かせると言う選択をしてしまったのです」
言い終わると会議室がシーンとなる。

「…卑怯だ…こんな試験無効だ!こんな卑怯な事して勝って恥ずかしくないのか!正々堂々戦え!
 正々堂々戦っていたなら俺達は負けない!」
武人然とした生徒が突然立ち上がり、俺を指差しながら立ち上がる。
「卑怯で結構!それが何か問題がありますか?正々堂々?そんなものが何になるのですか?負けたらそれでお終いです。
 全て奪われる。自分の命だけならまだマシです。
 家族、恋人、友人、財産、全て目の前で奪われ、犯され、蹂躙される。私はそんなの嫌なのでね。
 例え卑怯、卑劣と言われようと、私の大事な者を奪おうとする者は、どんな手を使っても殺します。
 特に戦争になると、負ければ悪です。負けた方は何をされても文句は言えません。悪ですからね。
 無実の罪で奴隷に落とされる事だってあります。'正々堂々'なんて後生大事に戦争するのは、間抜けのする事です。
 '正々堂々'なんて言葉が許されるのは遊戯だけです。覚えておいて下さい。
 それと'正々堂々戦っていたなら負けない'と言いましたね?
 それはつまり卑怯者には負けますと、言っているようなものですよ。
 良かったですね。これが試験で。戦争だったら貴方が悪であり、全てを奪われる存在です。
 一つ勉強になりましたね」
「ぐっ」
俺の指摘に、武人然とした生徒が悔しそうな顔をする
その顔を絶望に塗り替えてやろう。
「丁度良いでしょう、今回の試験に参加した私の仲間を紹介しましょう。入って下さい」
会議室の扉が開かれ、ドルフ、ローラさん、カーラさんと順番に入ってくる。
そして、ルーリ達が入ってくるとSクラスの生徒達は驚愕した。
ドルフ達は俺の後ろに整列し、正面…Sクラスの方を向く。
「そんな、なんでお姉さまが……」
「先生、何の冗談ですか?何で魔法が使えない黒髪がここに居るんですか?」
「んだとコラ!」
いきなり貶されたグレンが、貶してきた生徒に突っかかる。
「やめなさいグレン」
「チッ」
「黒髪達がここに居る理由は明白です。言っただろう私の仲間だと。
 因みに罠を仕掛けて実際に護衛車両を奪取したのは、そこにいる黒髪達です」
 Sクラス全員が理解し始め、顔が絶望に染まっていく。
「くっ黒髪に負けた訳ではない。俺達は鉄仮面先生に負けたんだ!
 黒髪達は鉄仮面先生が立てた作戦に従ったに過ぎない!俺達が負けたのは鉄仮面先生だ!」
「残念。お…」
「'俺が黒髪では無いと何時言った'でしょ。お兄ちゃん」
「「「「!」」」」
会議室が静まり返る。
「…何時気が付いた。ミレス」
「まぁ、初めて会った時から怪しいと思っていたわ。確信したのはさっきよ。
 声は変わって丁寧に喋っていたけどイントネーションが変わってないんだもの」
調子に乗ってしゃべると地がでるからなぁ。しょうがないか。

第46話 対決!

 ミレスが席を立ち、俺の前まで来る。
「久しぶりに会ったんだから、素顔くらい見せてよ、お兄ちゃん」
「分かった」
カチャカチャと仮面のロックを外す。Sクラスの生徒達もミレスの兄兼地獄の教師である俺の顔を見ようと身を乗り出している。
そしてズボッと脱ぐ。
改めてミレスを見ると、驚愕した表情で俺を見る。そういえば傷のこと教えてなかった。怯えられたか?
「お兄ちゃんどうしたのその傷、目!」
どうやら、怯えているのではなく心配してくれているようだ。一安心。
さらに近づいてきたミレスが俺の両腕をつかむ。ガチャリと左腕の義手が鳴る、明らかに人の腕では無い感触にミレスの顔が青ざめる。
学院で表に出る時は何時も、長袖手袋をしていたので、気付いていなかったようだ。
「腕も!?」
ああ、心配してくれている。素直にうれしい。
「大丈夫だ。この腕だって結構便利なんだぜ」
そういって左の掌を上げてギュルギュルと回す。
「離れて」
俺の腕を掴んだまま固まっているミレスに、ルーリが押し退ける様に割ってはいる。
「ちょっと何するのよ!」
おろ?ルーリの声が固い?珍しいな。
「あなたには、関係ない」
「関係なくは無いでしょ!私のお兄ちゃんよ!」
「今はもうあなたのお兄ちゃんじゃない。私の兄さん」
俺としては、ルーリの兄であり、ミレスの兄でもあるつもりなんだがな。
「えっ!どう言う事よ」
「兄さんを捨てたくせに家族面するな」
ルーリが冷静な口調でズバズバと言う。ミレスがルーリをキッと睨んだ後、俺の方を向く。
「どういうことよっ!何なのよ、この子はっ!お兄ちゃん」
「簡単に言うとだ。俺はあの糞両親に、ある場所に捨てられた。
 この怪我はその時に負った物だ。
 しばらくそこで生活していたんだが、その時に会ったのがお前の前に立っているルーリだ。
 ルーリは俺と同じく親に捨てられてな。だから家族になったんだ。
 そうそう、ミレスにもちゃんと俺の名前を教えなきゃな」
「えっ!お兄ちゃんの名前は…」
ミレスが俺の元々の名前を言う前に、名乗る。一度も呼ばれなかった名前なんて、聞きたくもない。
「俺の名前はゴウ・ロング。それ以外に名前は無い」
「そんな…お兄ちゃん」
「そして私がルーリ・ロング。兄さんの妹」
再びミレスがルーリを睨みつける。ルーリはそんな視線を受けても、ものともせず見返している。
「そう…。お兄ちゃんはもう私の家族じゃないんだね…」
寂しそうに俯くミレスを見ると、こちらが悪いことをしているようで申し訳なくなってきた。
「な…」
なぁと声を掛けようとしたら突然バッとミレスが顔を上げた
「…でも大丈夫!なら、また新しく家族になればいいじゃない!」
なにその某アントワネットさんが言いそうな事は…。
「と言う事で、お兄ちゃん!結婚を前提に付き合ってください!」
「「「「ブッ!!!!!!!」」」
ハイテンションに、何とんでもないことを言い出すんだ!!周りの連中も噴出しているぞ。
「あっあなた、何言ってるのっ!」
「あら、私の兄さんはもう家族じゃない。悲しいけど、それは私も理解しているわ。
 だから、お付き合いしてくださいってお願いしてるんじゃない。
 ああ、これからは私の事はお義姉さんって呼んでね」
何故か勝ち誇ったように言うミレスに初めてルーリが動揺する。
『アハ、アハハハハハハハハハ。面白い。面白いわ!この子』
突然、クリシアさんが現れ、お腹を抱えて笑っている。
既にドルフ達やSクラスの面々は、めまぐるしく変わる状況について行く事が出来ず呆然としている。
「あら、こんにちは。お兄ちゃん、この方を紹介してくれないかしら?」
『自己紹介は、自分でするわ、お嬢ちゃん。私はクリシア、ゴウちゃんのお姉ちゃんにして契約精霊よ』
「やっぱり!機兵に乗ってたから、そうだと思っていたけど、お兄ちゃんは精霊様を見つけられたのね!
 おめでとう!それとクリシアお姉様、不束者ですが、これからよろしくお願いします」
『あらあら、ちゃんと礼儀正しいのね。そう言う子は好きよ。でもね。そう簡単にはお付き合いは認めないわよ。
 私の大事な弟にして契約者のゴウちゃんだもの』
「分かりました。がんばります!お姉さま」
…をいをいをい一体何を言ってるんだクリシアさん!!
突然の事に、頭が混乱する。
「何言ってるのクリシアさん」
「そうだ。俺は別の名を名乗っているが、血が…」
『そんなもの、どうでもいいでしょう?愛は偉大よ。そして不滅よ。受け入れなさい』
なんですとっ!
『それとも何。気になる子でも居るのゴウちゃん?ああ、もしかして、あの人かしら…』
クリシアさんがニヤニヤといたずらっぽい笑顔をする。
あの人って誰だよ!
「何ですってっ!お兄ちゃんもう好きな人が居るのっ!誰よっ!お兄ちゃんをたぶらかす悪女はっ!」
俺だって聞きたいよっ!
「そこのあんたか!?」
取り乱したミレスが傍観していたローラさんに詰め寄る。
「えっ、ち違います…わ私はギルドから派遣された。連絡員ですし…」
「そう、ならあんた!?」
止めてください。その人は、隣に居るドルフさんの最愛の人です。手を出していたら俺は死んでいます。
「あら~、それって私が若いって事?ありがと~…でも残念、私の好きな人はこの人だけです」
アリカさんはドルフの腕を取り、にっこりと微笑む。ドルフも恥ずかしいのか頬を掻いている。
「じゃあ、あんた達の誰か!」
今度は、黒髪クラスに食って掛かる。シュナとハリエッタ、カーラちゃんがブンブンと首を横に振る。
「そう、ならあんた!?」
そして最後に詰め寄ったのは、なんとドルフ。どうしてそこに行く!誰だ!我が妹を腐らせたのは!
お前か、アイボニー!何ニヤニヤしてやがる!ガチムチ獣人妻子ありとのBLってどんな新ジャンルだよ!
そのアイボニーは何を思いついたのか、突然紙を出して何かを書きなぐる。ッ!ダメだこいつ!腐ってやがる!
「馬鹿いうんじゃねぇ。俺にそんな趣味は無い!俺は、妻一筋だ!」
ドルフが血相を変えて否定する。
「じゃあ誰よ!」
居ないと言う、選択肢が無いのか我が妹よ。自分で言ってて悲しくなるな…。
「…どうして私に聞かない」
最後まで聞かれなかったルーリが不機嫌そうにつぶやく。そんなルーリをミレスが上から下までじっくり見て鼻で笑う。
「あなた?…ふっ。ありえないわ。貴女みたいなペチャパイにお兄ちゃんが惹かれるわけないじゃない」
「ぺっペチャ!」
事実、ルーリの体つきは同世代の女の子に比べて、発達が遅れている。だがしかし、ルーリにはルーリの美しさがある。
その体つきは妖精体型とも言うべき綺麗な物で、別に気にするようことでは無いのだが…。
「せめてこれくらい無いと」
ミレスは、そう言って胸の前で腕を組む。そこには見事に腕に乗った胸があった。成長したミレスは早熟らしく、幼さを残しつつも既にモデルの様な体系になっており、腕を組まれたことによりさらに盛り上がっている。お兄ちゃんはこういう形で成長を知りたくなかったよ!
「うっうるさい!私は兄さんと一緒に寝たことがある!」
「「「「!」」」」
その一言にミレスが再び青ざめる。
「お兄ちゃんままままさか、ここここの子とやっちゃったのっ!」
「年頃の婦女子がやっちゃったとか言うな!」
誰だそんな事、教えたのはっ!またしてもお前かアイボニー!
「じゃあどうなのよ!やったの!」
「えっあっ」
「やってないの!」


「俺は童貞だっ!」


………………………やっちまったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
兵団の仲間&自分の教え子の前で童貞カミングアウト…。
そりゃ俺だって'童帝'さんは好きなキャラさ!好きな台詞さ!
けど、けどね。自分の童貞宣言で使うつもりはなかったんだ。
周囲は静寂に包まれており、いたたまれない空気に包まれる。
いや、ドルフとクリシアさんが声も上げず、腹を抱えて笑っている。
あれは、声を出せないんじゃなくて、笑えすぎて声も出ない状態だな!コンチクショウ!
「兄さん…」
ルーリの慰めが痛い。
「大丈夫!今夜貰いに行くから!」
そしてミレス。さらりと、とんでもない事を言うんじゃない!こんなキャラだったっけ?俺の妹は…。
「安心して兄さん。兄さんは私が守る」
いや、そんなことしなくてもミレスはトレーラーの中には入れないんだけど…。
「あら、あなたに出来るの?」
「少なくとも貴女より強い」
「へぇ~。じゃあ勝負する?」
「やる。…そうだ。貴女が得意な機兵で勝負するのはどう?」
「あら、貴女も精霊様と契約しているの?」
「関係ない。するの?しないの?」
「するに決まってるじゃない。貴女を叩きのめして、お兄ちゃんを取り返すわ」
「おいおい、何を言っている。俺は、そんな事ゆ…」

「ちょっと待つのじゃ!」
突然会議室の扉が開く。扉の向こうにいたのは、ダーム学院長だ。
あちゃー、このタイミングで来るか。ダーム学院長はテストの結果を逸早く知る為、Sクラス生徒達から2日ほど遅れて出発していたのだ。
道中に俺が置いておいた中間報告のレポートを読んでいるので、クラスの敗北も知っている筈だ。
「鉄仮面先生…。いや、ここではもう、ゴウ先生と呼ばせてもらおうかな」
ダーム学院長の額には漫画みたいに血管が浮いており、激怒しているのが分かる。
「はい。何でしょうか?ダーム学院長」
「やってくれたな。この状況、説明してもらおうか」
「私は、学院長の指示通りに、難易度を下げて試験を行いました」
Sクラスの生徒達が'あれで!?'と言う顔をする。
「しかし、残念ながらSクラスは、護衛対象を奪われました。結果、不合格と言う判定を下しました。
 詳細は後ほどレポートに詳しく纏めた物を提出させていただきます」
「っく。…ならば、追試をしなければならないのう」
「確かにそうですね。しかしそれは、後日改めてにした方が良いでしょう。
 現在の彼らは、試験で心身ともに疲労しています。
 それが回復するまで待つべきです。まぁその時は別の試験官が担当する事になるでしょうが……」
追試の試験官が俺ではないと言った瞬間、会議室にホッとした空気が流れる。
「いや、追試験は明日行う。そして試験官はゴウ先生にしてもらう」
ダーム学院長の爆弾発言に軽くなった空気がまた重くなる。
中には目が虚ろになり、'もうだめだ'を繰り返しつぶやいている生徒もいる。
「追試験の内容は、機兵を使った模擬戦だ。今回の試験で機兵戦は無かったようだからのう。
 ちょうど良い、ルーリ君とミレス君の機兵による一騎打ちをその試験としよう。
 ミレス君やるかね?」
…黒髪達に負けたままと言うが許せないのか?下手をすれば恥の上塗りにしかならないのに?
「やるわ」
ミレスは、ダーム学院長を見ず、ルーリを睨みつけながら答える。
「では、ルーリ君は?」
「問題無い」
ルーリもその鋭い視線を真正面から見返す。
「ゴウ先生、契約を1日延長する。かまわないかな?」
「二人がやる気になってるんですから、ここで止めるのは無粋か…。
 しょうがないですね。いいでしょう」
そうして、Sクラスの命運はミレスに託されることになった。
しかし、ルーリよ。確かにミレスの得意としている機兵で決闘してやるって言ってるが、ルーリも大得意だったよな。
ロボで戦うの。

第47話 妹VS妹 前編

 荒野に風が吹く。タンブルウィード(西部劇とかでよく出てくる草の塊)が転がっていく。
目の前の光景は、まさに決闘と言うにふさわしい雰囲気をかもし出していた。
決闘会場はキリンカの街から離れた所で行われる。
今ミレスは、自分の機兵'フェリアール'の微調整を入念にこなしている。フェリアールは昨日徹夜で整備科の生徒達が整備した。
コンディションは最高の状態になっているだろう。
一方ルーリは、俺の横でボーっと立っている。
「ルーリ、準備はいいのか?」
「必要ない」
「いや、準備運動ぐらいはしておいた方が良くないか?」
「心配しなくても大丈夫。兄さん(の貞操)は、私が守る」
「そうじゃないんだが……」
俺が心配なのは二人が無事に帰ってきてくれるかなのだが……。

そして追試験の時間となった。
「二人とも準備は良いな?」
「はい」
「問題無い」
「それで貴女の機兵は何処にあるの?お兄ちゃんはグランジュに乗るんでしょ?」
「…直ぐに分かる」
「…では追試験の内容を確認する。内容は機兵を使用する一対一の決闘形式よって行う。
 敗北条件は、魔晶炉の停止、これは降伏も含む、又は、戦闘不能と俺が判断した時だ。
 良いな?」
「「はい」」
「では、双方開始位置へ!」
「お兄ちゃん、ちょっと待っていてね。そしたらまた一緒に暮らそうね!」
「そんな事にはならない。安心して兄さん」
「あなたに出来るの?」
「出来ないとでも?」
『あらあら、ゴウちゃんったらモテモテね』
やめて、俺としては争って欲しくないんだ。…あれ?これは俗言う'あたしの為に争わないでっ!'ってヤツか?
しかし争っているのが妹って…。ギャルゲーは好きだがリアルでのこのような展開はお断りしたい。
なんか、どうあがいても不幸!ってテロップが見えるようだ。
「「フンッ!」」
ミレスとルーリは、しばらくにらみ合うと同時に顔を背けルーリは試合の開始位置へ、ミレスは自分の機兵へと向かっていった。

 「それにしても、整備がんばったな」
ミレスがフェリアールに乗り込むのを見つつ、近くに居た整備科のゴールに話しかけた。
「それが貴方の素ですか。ええ、整備科以外の皆も手伝ってくれましたからね……」
予想外に素直な返答に驚いた。
「へぇ。俺が話しかけても邪険にしないとはね。てっきり顔くらい顰めると思ったんだが。一体どういうことだ?」
「どうもこうもありません。僕は僕なりに心に折り合いをつけただけですよ。
 まぁ、以前から良くコーウィックさんからお兄ちゃんは凄いんだ!って耳にタコが出来る位聞いていたのもあるんでしょうけどね。 
 こうまざまざと見せ付けられると妙に納得しちゃいました。
 …出来なかった奴は、宿に篭ってしまいましたよ」
それで、妙にSクラスの人数が少ないのか……。
「俺が言うのもなんだが、これからが大変だな」
そう言うとゴールは苦笑した。
「それにしてもフェリアールの重装備は何だ?」
フェリアールが現在装備している武器は、右手に槍、左手に大型の杖(一般的な機兵用杖)、腰にフォメルの杖、背中に剣×2。どうやら試験に参加した全部の機兵の武器を集めたようだ。
対機兵戦にしても一機相手にこれほどの装備をさせる意味はあるのか?
「今ある手持ちの武器をほぼ全てを持たせました。黒髪といってもあなたの妹さんです。
 何があるかわからないので用心のためですよ。邪魔なら捨てれば良い」
なるほど、某イケメンしかとりえのない傭兵と同じ理論か。

 ルーリが決闘の開始位置で止まった。
そしてミレスが乗るフェリアールを睨みつけるとごそごそと胸元をあさり、首に掛けてある小さな袋を取り出す。
その小さな袋に入っているのは紫の石が印象的なイヤリングだ。もしもの時は使えと言って渡したものだ。
本当は普段から着けていてくれるとありがたいのだが、何故か袋に入れて首に掛けている。無くすのが怖いのだろうか?
まぁいい、袋から取り出したイヤリングを耳につける。

そしてルーリのロボ召喚が始まる。

両手に長いほうを下にしたトンファーを持って目を瞑る。ゆっくりと目を開くと右手で髪掻き揚げ右耳に髪を掛けた。
リーンと金属がぶつかった様な音が鳴る。もちろん遠くにいるルーリから聞こえてくるものではない。
これは、俺にしか聞こえないルーリのロボ召喚開始の合図だ。
ルーリのトンファーに紫電が奔り形状を変え始める。長い棒の部分が薄くなって刃を形成し、刀身に光のラインが走る。
そうブレードトンファーだ。
両手に持ったブレードトンファーを胸の前でクロスさせ、そのまま×の字を描くように振り下ろす。
すると俺の右目に仮想ウィンドウが立ち上がる。
最初そこには左上にカーソルが点滅しているだけだったが、直ぐに文字が表示される。

ROBOT ROMAN2 EX SERIES 02
aleagris
boot up...OK
chester vaitals...OK
coordinates...OK


ここまで表示されると別のウィンドウが開き、大きなコンテナが映し出される。

この映像が移しているのはここから遥か上空にある、サテライトベース'フォースクレイドル'から送られてくる映像だ。
フォースクレイドルは、7年間の修行(という名のポイント稼ぎ)の成果の一つ。
中にはルーリ専用に作ったロボが収納されている人工衛星、いや宇宙基地と言ったほうがいいだろう。
外観を一言で表すなら五角形の氷の結晶。
コンテナがすっぽりと入る大きさのリングを中心に周囲にリングと長いアームで繋がったコンテナ、リングを囲む様に展開したソーラーパネルがある。
そして俺の居る星の方を向いている面には2本の柱で作られた電磁カタパルトある。

アームが動きコンテナをフォースクレイドル下部に有る電磁カタパルトに移動させる。
電磁カタパルトは既に準備が出来ており、パリパリと電気を放っている。
コンテナが真ん中から割れ、収納されていた機体が姿を現す。

Entry

そして光の粒子を纏いながら音もなく地上に向けて射出された。

俺は空を見上げそれが来るのを待つ。
それは雲を割り、ルーリの待つ大地へ突き刺ささった。
ズンっと言う音と共に大量に上がる土煙がルーリの姿を隠す。
煙がはれるとそこには、ルーリ専用ロボ…アレアグリスが膝を付いていた。

そうロボだ。機兵ではない。俺はルーリに俺の現在持つ力を最大限つぎ込んだアレアグリスを用意した。
何故俺がこの世界に来て機兵以外のロボを未だ使わないのか?それは無粋だからだ。
ガン○ムと真ゲッター○ボを戦わせたら?AV-98イ○グラムとマジ○カイザーを戦わせたら?
そんな夢想をした事がある人は多いだろう(えっ普通しない?)。
もちろん結果は、強いロボを持つ方の蹂躙しかない。
それが許されるのは強さを調整されたスパ○ボだけ。
ロマンを大事にする俺としては許せない事だったのだ。
はっきり言って、既にこの星を征服できるだけの戦力はあると自負している。それだけの物を色々作ったのだ。
もちろん、世界征服なんてめんどくさい事するつもりは無い。
さて長々と語ったが、それは俺がロボットロマン2純正ロボに乗らない理由だ。
しかしルーリに俺の我侭に付き合わすわけにはいかない。
家族であるルーリには、万が一にも怪我をして欲しくない。
だからこそ用意した。この世界で最強クラスのルーリ専用機を。過保護だと笑いたくば笑え。

アレアグリスの胸部装甲が移動しコックピットを開く、同時に座席がスライドして出てくる。
ルーリは、アレアグリスの足や手を足場に駆け上がり、座席に座る。そして手に持っているブレードトンファーを
座席の肘掛部分に開いているスリットに勢い良く差し込んだ。
座席にあるランプが赤から黄色、そして青に変わると座席はアレアグリスの中へ戻り、装甲を閉じた。

フォースクレイドルを映していたウィンドウが閉じ、新たにアレアグリスのコックピット内部を映すウィンドウが開く。
「起きなさい。アレアグリス」
ルーリの声に反応し、ジェネレーターに火が入り、コックピット内にある各種モニターや計器類が光の波を作る。
最後にアレアグリスの目がギンっと輝く。
<システム キドウ>
無味乾燥なシステムボイスが準備が完了したことを告げる。
「モードを対機兵用演習モードに変更して」
<テストシステム イコウ>
対機兵用演習モードとは、俺が世界の壁で修行していた時にアレアグリスに練習相手になってもらっていた時のモードだ。
ぶっちゃけて言えば、機兵が弱すぎるので、いい勝負が出来るように色々アレアグリスにハンデを付けたのだ。
アレアグリスのパワーを機兵と同程度に、対戦相手から一定のダメージを受けた場合、該当箇所の機能が停止したりと言ったものだ。
ルーリにしても機体の力で勝つんじゃなくて実力で勝ちたいだろうしな。

 アレアグリスが立ち上がり、ようやくその全容が見えるようになった。
「綺麗だ」
俺の隣で見ていたゴール君がアレアグリスを見てつぶやく。
アレアグリスは、全長こそ平均的な機兵と同じだが、機兵に比べると線が細い。華奢と言ってもいい。それもそのはず、元々リアル系女性型にデザインした為だ。
俺のグランゾルデやグランジュと違い、頭部にツインアイを装備し、複雑な形状の装甲を黒と紫で塗装されている。
この世界では黒は忌み色だ。この価値観は、その色を見るだけで不快感を感じる程、刷り込まれている。
しかし、アレアグリスを見た者達は皆その姿に見とれていた。デザインした俺としても鼻が高い。
ダーム学院長もちょっと離れたところでパラソルの下で度肝を抜かれているだろう。
おっと、俺もグランジュに乗らないとな。

 ルーリはそんな事になっている事とは露も知らず、戦いの準備を進める。
「ブレードトンファーセット」
<レディ>
ガシャリと両腰部についているウェポンラックからブレードトンファーが取り出し位置へ移動する。
すかさずアレアグリスがつかみ出す。グルグルとブレードトンファーを回転させ、動作を確認。
ガキンという音共にフェリアールに向かって構えた。
「まったく、お兄ちゃんには驚かされてばっかりね。一体何処からあんな機兵を見つけてきたのかしら?」
ミレスもフェリアールの右手に持たせた槍をグルグルと回し、動作を確認して杖を持った左手を前に、槍を体の影に隠すように構えた。
両者が構えたことを確認し、起動完了したグランジュを一歩前に進める。
「それでは、ルーリ対ミレスの決闘を始める……。
 双方悔いの残らない戦いとなる事を祈る!
 始めっ!」
そして決闘が始まった。

第48話 妹VS妹 後編

 俺の開始の合図と共にフェリアールが呪文を唱える。
「【奔れ 火球よ】【奔れ 火球よ】【奔れ 火球よ】【奔れ 火球よ】【奔れ 火球よ】」
フェリアールの杖から、マシンガンのように火球が放たれ、アレアグリスに殺到する。
アレアグレリスはそれを冷静に右に左にと回避機動とり、避けていく。外れた火球が地面に着弾しドンドンと爆炎を上げる。
雨あられと放たれる火球。しかし、それは何時までも続かない。
「ッ!」
アレアグリスは、息が切れた瞬間に回避から接近に行動を移す。フェリアールはその動きを見て即座に杖を捨て、槍を構える。
「ハッ!」
ミレスの気合の篭った声と同時に穂先が突き出される。アレアグリスは突き出された穂先を、左手に持つブレードトンファーで打ち上げる。
「っ!まだまだぁ!」
今度は、打ち上げられた勢いを利用し、一歩前進しながら槍を回転させ、石突でアレアグリスの顎を狙う。
ブレードトンファーで殴りつけようとしていたアレアグリスは、攻撃を中止し、後ろへ飛び退る。
これを好機と見たのかフェリアールは槍の一回転させて穂先を前にし、突きを放つ。
今度は先程の突きとは違い、一撃に重みは無いがその分速く、穂先が見えなくなる程だ。

 …がんばったんだな。ミレスは…あの糞親に蝶よ花よと育てられた。もちろん俺もかわいい妹を甘やかした。
武器なんて、そもそも持つような子ではないのだ。
ただでさえ強力な魔力がある。指差すだけで容易に対象を破壊する事が出来るのだ。
なのに武器の…機兵の扱いを覚えた。それは突然いなくなった俺と繋がる唯一の絆だと思ったとおっちゃんに言っていたそうだ。

 フェリアールの怒涛の刺突が続く中、アレアグリスは冷静にそれを捌いた。時に避け、時にブレードトンファーで受け流す。
「ほらほらどうしたの!アレだけの事を言ったのだから反撃ぐらいして見なさい!それとも手も足も出ないのかしら!」
「もう見切った」
キンッっとした音がしたと思ったら、フェリアールの持つ槍のがアレアグリスの両手に持つブレードトンファーで鋏み切られた。
「っく!」
ミレスは槍が使い物にならなくなったのを知ると手を離し、腰につけていたフォメルの杖を掴んだ。
「【火球よ、弾けろ】!」
フェリアールとアレアグリスの間で爆発が起こり、煙によって二機の姿が隠される。
フェリアールはすぐさま煙を散らしながら背中から飛び出し、再び魔法を放った。
「【奔れ 火球よ】【奔れ 火球よ】【奔れ 火球よ】」
火球が次々と煙の中に吸い込まれるように放たれる。ドンドンドンと火球が着弾する音が響く。

「やった…か?」
俺の近くで決闘を見守っている生徒の一人がつぶやく。残念、それはフラグだ。

背中の剣を抜き、いつアレアグリスが飛び出してきても良い様に構える。しかしアレアグリスが飛び出してくることはなかった。
荒野に吹く風が煙を吹き飛ばす。アレアグリスは爆発が起きた時とまったく同じ場所に立っていた。

「嘘だろ…なんであの攻撃で無事なんだよ!?」
「俺の妹を舐めるなよ」
信じられないと言うような顔をしている生徒をチラッと見ながら呟く。

「まだまだぁ!【奔れ 火球よ】【奔れ 火球よ】【奔れ 火球よ】」
次の瞬間生徒達は信じられないものを目撃する。
アレアグリスが高速で迫ってくる火球を手に持ったブレードトンファーで次々と叩き落としたのだ。
「見切ったと言った。今度は此方から行く」
ルーリがそう言うと、アレアグリスは風のように駆け、フェリアールの懐に入り込む。
そしてそのまま、無数の打撃がフェリアールに叩き込まれる。先程の場面とは真逆の光景だ。
ただ全てを捌いたアレアグリスとは違い、完全に防ぐ事はできず、徐々に防御が崩れていく。
「くっ!きゃあああああああ!」
とうとう耐え切れなくなったフェリアールにアレアグリスのブレードトンファーが打ち込まれる。
手に持った剣が砕かれ、フォメルの杖も切り飛ばされた。
そして手首を返しブレードトンファーのブレードを前に出してフェリアールの顔面を薙ぐ。
「これで最後」
止めとばかりフェリアールの胴を蹴り飛ばした。
フェリアールは宙を舞い、盛大に土煙を上げて倒れ伏した。

ズンっとフェリアールが地面に落ちる音が響く。
辺りはシンと静まり返り、生徒達は信じられないように顔を斬られ倒れたフェリアールを見つめている。
「これで私の勝ち」
既にアレアグリスはフェリアールに背を向け、決闘の開始位置へ戻ろうとした。
しかし……。
「まっまだっ!まだよっ!」
ギャギャギャと耳障りな音を出しながらヨタヨタとフェリアールが立ち上る。今の一撃でどこかに不具合が出たのだろう。
立ち上ったフェリアールの顔面には顔を横断する傷が走っている。
特徴的だったゴーグルは割られ、ゴーグルのフレームが何とかくっついている。
「まだ?貴女の機兵はもう外を見る事も出来ないのに、どうやって戦うの?」
振り返った時に見た光景にルーリは目を丸くしたことだろう。
「ああああああああああああああああああああああ!」
なんと、フェリアールは右手で自分の胸部装甲を掴み。
引き剥がしたのだ。その所業に周りも目をむいている。
「なっ!」
「たかが目を潰したくらいでいい気になってんじゃないわよ!」
さらに操縦席の前にある最終装甲と呼ばれる鉄板を抉り取る。
「ふぅ、これで見やすくなった!」
確かに……確かに見やすくはなった。しかし、胸部装甲を剥いだ為、魔晶炉とコックピットが剥き出しになり危険極まりない。
「…それでも、貴女は私にかなわない」
「【うるさいっ】!」
「!?」
突然、アレアグリスが何かに突き飛ばされたかの様に体勢を崩す。

「なんだ?何が起こった?」
俺にはフェリアールが何をしたのか分からなかった。ただ突然にアレアグリスが体勢を崩したようにしか見えなかった。
『へぇ~。ミレスちゃんやるじゃない』
クリシアさんは何が起きたのか理解できているらしい。
「一体何が起きたんだ?」
『ミレスちゃんが'原初の魔法'を使ったのよ』
「'原初の魔法'だと?何だ、それは?」
『ええ、簡単に言えば言葉に魔力乗せて直接放っているのよ』
「?それは、呪文を使うのと、どう違うんだ?」
『呪文って言うのはね。結構長ったらしく詠唱しなくちゃならないけど、
 あれで結構効率化がなされているのよ。
 '何を''どうしたいか'をハッキリ明言して欲しい事象を魔力を使って顕現させているの。
 けどね、'原初の魔法'は違う。ものすごく乱暴なの。
 言葉に魔力を乗せてそのまま叩きつけるって言うのが一番しっくり来るかな』
「しかし、ミレスはもう杖を持っていないぞ?」
『あら、杖なんて必要ないわよ。ただ魔力を乗せた声を相手に叩きつければ良いだけだもの』
「しかし、それだと威力がないだろ。だから杖を使ってブーストするのが普…」
そこで俺は、はっとした。
『あの子は、普通じゃないわ。それはゴウちゃんも知ってるじゃない』
そうだ。ミレスは類稀なる魔力を持つ貴髪。魔力は普通の機兵乗りの比じゃない。
『'原初の魔法'ってね。とても効率が悪いの。呪文を使った魔法より大体2~3倍余計に魔力を使うの。
 それを物ともしないでアレアグリスをよろめかすなんて。本当に凄いわ』
クリシアさんはそう言って、決闘に見入った。

「【私はお兄ちゃんを探す為に学院に入ったんだ!】運良くお兄ちゃんが会いに来てくれたけど…けど!
 【ちゃんと私を見てくれた人はお兄ちゃんだけだった!】【私はお兄ちゃんと一緒に居たかった!】
 【なんで貴女が隣に居るのよ!】お兄ちゃんの妹は私だけだっ!【絶対にお兄ちゃんは渡さない!】」
「恵まれた人が何を言う!兄さんと私は、人から蔑まれ、疎まれ、捨てられた!
 貴女は…貴女は、皆持ってるじゃない!愛を注いでくれる親、優しい友人、その身からあふれ出るような才能!
 いいじゃない!そんなに持ってるんだから!やっと会えた、私を大切にしてくれる人を…たった一人の家族を!
 何で奪おうとするの!」
「そんなの、絶対に許さない!」
「【そんなの、絶対に許さない】!」
まるで魔法攻撃に(物理)という注釈が付きそうな光景だった。
フェリアールが不可視の魔法を放ち、アレアグリスがそれをブレードトンファーで迎撃する。
普通ならボッ!とかズバァ!とかの音が鳴りそうな場面だが、実際は違った。
ゴッ!ガッ!ドゴン!と言う凄まじく重い打撃音が荒野に響く。
どうやらルーリは、ミレスの'原初の魔法'を撃たれる時の僅かな空間の歪みを見て迎撃しているようだ。
「接近戦ならっ!」
ルーリが隙を見て再び接近戦に持ち込もうとする。ミレスもそれを予想しており、いつの間にか抜いていた最後の剣を叩きつけるように振り下ろす。
「そんなものっ!?」
ルーリが剣を受け様と両手のブレードトンファーを掲げて防御する。受け止めた後に剣を絡め取るつもりなのだろう。
しかしそうなならなかった。ミレスの振り下ろした剣がブレードトンファーに当たった瞬間、砕けた。
「なっ!」
「【砕け散れぇ】!」
ルーリが動揺した隙にミレスが魔法を放ち、先程とは逆にアレアグリスが吹き飛ばされる。
<サワン ダメージ キノウテイシ>
アレアグリスに搭載したAIが初のダメージ判定を下した。

「一体何が起きた?」
ルーリは、受け止める武器の力を見誤ったりはしない。しかも自身が見切ったと言っているのだ。
剣は壊れる事無く、受け止められる筈だったのだ。その時、クリシアさんが神妙な声で話しかけてきた。
『ゴウちゃん、フェリアールの魔晶炉を見て』
「なんだ?…赤く…輝いているのか?」
正確に言うなら魔晶炉に組み込まれている魔晶石が赤く染まり、その中心部分が輝いているように見えた。
『あの子も無茶するわね。ゴウちゃんったらホントに愛されてるんだから……』
「どういうことだ?」
『あの子はね、魔力を無理やり魔晶炉に送ってるのよ。
 あの力を見る限りじゃあ、直ぐに魔晶炉にあった魔力が枯渇しちゃったんじゃない。
 だから、自分の魔力を直接魔晶炉に送り込んでるの』
「だが、魔晶石が吸う魔力の量は一定じゃなかったか?」
『だから無理やりって言ったじゃない。魔力を魔力でごり押ししているの。魔晶石が赤く輝いているのはそのせいよ。
 もちろん、この方法のパワーアップは魔晶炉に多大な負荷が掛かるから、直ぐに魔晶炉の限界が来て壊れるわね』
一種のニトロみたいなものか、一時的に出力が劇的に上がるが使い続けるとエンジンが焼きついて使い物にならなくなる。
そんな感じか…。一時的な強化と引き換えに寿命を減らす……ロマンだ。すばらしい!
俺は機兵の出力管理をクリシアさん任せにしていたから、そんなことが出来るなんて知らなかった。

「「あああああああああ!」」
戦いは、泥仕合の様相を呈してきた。
左腕が使い物にならなくなったアレアグリスはメインの攻撃手段を蹴りに変えた。
無数の蹴りがフェリアールを翻弄するが、ミレスの魔力によって強化されたフェリアールの防御を抜くことが出来ない。
しかし、それはフェリアールも同じだ。なんとかアレアグリスの左腕を奪ったが、直ぐに対処され、攻撃手段を変えられた。
どんなに多く魔法を放っても手に持ったブレードトンファーで打ち落とされ、
隙を作り半ばで砕けた剣で攻撃しようにも変幻自在な蹴に翻弄され、決定打となる攻撃が出来ない。
業を煮やした二人は同時に、距離を取った。

「次で…最後、これで…決める」
「それは…此方の…台詞よ!」
二人の息は既に絶え絶えだ。アレアグリスとフェリアールはそれぞれの武器を構え、最後の突撃を開始した。
みるみる二体の巨人の距離は縮まり、激突する直前。

何かが砕け散る音が響いた。

「「えっ?」」
それは、限界を超えて酷使されたフェリアールの魔晶炉が砕け散った音だった。
動力源を失ったフェリアールは勢いはそのままに足から崩れていく。
「クッ!?」
さらに悪いことにフェリアールの頭部にアレアグリスの拳が突き刺さる。
外から見たらまるで自分から拳に当たりに行った様に見えた。
勢いが乗りに乗った一撃だ。くらったフェリアールは仰け反る様に吹き飛ぶ。
その光景が俺にはスローモーションのように見えた。

ズシャッと重苦しい音を立て、フェリアールは地面に落着。そしてそのまま動かなくなった。

「フェリアールの機能停止を確認。勝者…ルーリ・ロング」
俺は、決闘の終結を宣言した。

第49話 ミレスとゴウ

 決闘が終わった時、ミレスは気絶していた。終了宣言の後、俺も急いで救出に向かったが、俺より速く動いた人間が居た。
ルーリだ。すぐにテストモードを解除してフェリアールの操縦席からミレスを救い出した。
救出したミレスを俺のトレーラーに運び、怪我がないか確認。幸い気を失っているだけだと分かったホッとした。
その後、ルーリに何故嫌っていたミレスを救出したのか聞いたら「別に……」と返された。
ルーリにも何か思うところがあったのかな?
ミレスを生徒達が宿泊している宿に運び、ベットに寝かせる。俺はミレスが寝ているベッドの横に椅子を持ってきて座り、
7年…いやそろそろ8年か…振りの寝顔を見ていた。他の生徒達も気を使ってくれたのか部屋には俺しか居ない。
「うっ…うんっ」
「おっ、気がついたか?」
「えっ!?あっ。お兄ちゃん」
気がついたミレスはベットから起き上がり、きょろきょろとあたりを見回した。
「無理するな」
「…そっか…私…あの子に負けたんだ」
「ああ、そうだ。凄い戦いだった。ルーリの操るアレアグリスの腕を一本持って行ったのは驚いたぞ」
すると目に涙を溜めたと思ったら大声で泣き出した。
「うわぁあああああああん!」
「!?」
そしてそのまま俺の体に抱きついてくる。
「ヒック…うぐ…いやだよぉ。やっと、やっとおにいちゃんに会えたのに……。
 おにいちゃん私を独りにしないでよぉ。いっちゃやだよぉ!
 わぁあああん!」
まるで幼い頃に戻った様に泣きじゃくるミレスにビックリしながらも条件反射で背中をさする。
「大丈夫…大丈夫だ」
ミレスが小さい頃、よくこうして慰めたものだ。
ミレスが泣き止むまで結構な時間が掛かった。
「ごめんお兄ちゃん、みっとも無く泣いちゃって…。うん。もう大丈夫」
「いや、兄としては、妹の変わらない部分を見れてうれしかったよ」
そう言いつつミレスは未だに抱きついたままなのだが…。
「ねえ、お兄ちゃん。今ままでどうしていたの?教えて?」
「いいよ。まだ時間はある」
俺は、今までの事をゆっくりと語りだした。


 「そう、そんな事があったんだ…」
俺が今まであった事の殆どを話した。ただ俺の力に関しては、世界の壁で見つけたと説明しておいた。
ミレスはそれを黙って聞いていた。しかし、何故まだ抱きついている?もう良いんじゃないだろうか。
軽く引き剥がそうとしたが、それの倍する力で抵抗し、引き剥がせなかった。…まぁいいか。
「それで、これからの事なんだが…」
「やっぱり私を置いて行っちゃうの?」
再びミレスが目に涙を溜め始める。
「うっ…。まぁそうなるだろうな。すまん。
 俺は、これからあの糞親に復讐するつもりだ。
 俺が学院に来たのはミレスに合う為と言うのもあるが、あいつらの居場所をミレスに教えてもらうことも目的の一つだ。
 ミレス…あいつらが何処にいるか教えてくれ」
「いいよ。あの人達は今王都にいる。貴族に囲まれてちやほやされてるみたい。
 毎週の様に手紙が送られてくるけど、やれどこぞの名門貴族のお茶会に呼ばれたとか、
 やれどっかの貴族には私の婿にふさわしい人が居るだのそんな事ばっか。あきれちゃうわ。
 最初はお兄ちゃんの情報が書かれてないか読んでいたけど、最近は読まないで捨ててる」
思いの外あっさりと教えてくれた。…しかし、ミレスに婿だと…ふざけやがって。どうしてくれようか……。
「…ねぇお兄ちゃん。そういえば、私のフェリアールはどうなったの?」
「フェリアールか?今ゴールが修理できるか調べている所だ。しかし、魔晶石が木っ端微塵になったからな。
 魔晶炉の交換が必要になるから、直るにしても時間が掛かるだろうな」
「…そう。じゃあ、あの子はもう直らないのね……」
「?どうしてそう思うんだ?」
魔晶炉は、機兵を構成しているパーツのうちで最も高く繊細なパーツだが、別に交換できないわけじゃない。
「フェリアールは、元々王国の次期主力量産機兵開発計画で作られた試作機の内の一機だったの。
 性能は良かったんだけど、色々あってフェリアールのタイプは次期主力量産機に選ばれなかった機兵でね。
 私がエンブレムを授与された時、貴髪にはちょっと特別な機兵を与えようって事になって、
 格納庫に眠っていたフェリアールが私専用機兵に選ばれたの。
 手や足、消耗品なんかは問題無いんだけど、魔晶炉だけは特殊で予備もないし、作られていないの」
「なるほど、そいう事か……」
フェリアールは試作機だったのか。…あとで設計データを盗っておこう。
いいねぇ。しかし、試作機は盗まれて何ぼだと思うのは俺だけだろうか?
「じゃあ、代わりの機兵が居るな……。そうだ、俺のグランジュをプレゼントしよう」
そうなると…色々手を加えないとな。えーっとまず頭部と胴体をブラックボックスにして、手足を普通の物に変更して…。
「えっ!?ちょちょちょっと待ってよ!お兄ちゃん!グランジュはお兄ちゃんの愛機でしょう!?
 そんなの貰えないよ!」
ミレスは体を離し、俺の顔を目を丸くしてみる。
ようやく離してくれたか…。色々やばかった。
「愛機?俺の愛機はグランジュじゃないよ。グランゾルデ・レプリカ改って言う機兵だ」
「グランゾルデ?…どこかで聞いた事があるような……」
まぁクリシアさんいわく、昔は武威武威言わせていたそうなので、どこかに英雄譚にでもなっていても不思議じゃない。
「グランジュは、ファードの街を襲った連中のを鹵獲して、俺が調査がてらに改造した機兵だ。
 俺としては調べつくしたし、そろそろグランゾルデに乗らないとクリシアさんが切れるからな。
 もういいんだ。このまま俺のとこで眠らせるより、ミレスに使っていて欲しいんだ」
でも、グランジュをただ渡すのもつまらないな。どうしようか……。
「でもそんな高いもの受け取れないよ!」
そこで俺は神妙な顔をして、ミレスを見る。
「この7年間、俺はミレスに何もしてやれなかった」
「それはっ!」
「グランジュはその七年間渡してやれなかった分の誕生日プレゼントだと思ってくれ」
「でもっ!」
「これは俺がしたい事なんだ。たとえ受け取ってくれなくても、グランジュは置いていく。
 ああっ!でもっ、もしグランジュを受け取ってくれなかったら、
 お兄ちゃん妹に嫌われたと思って二度と姿を見せる事は出来ないっ!」
大げさに嘆いて、手で顔を隠しつつチラリと手の隙間からミレスをのぞき見る。
「それはダメッ!わかった、貰う!貰うよ!」
「うん。それでいい」
慌てたミレスが即座に了承してくれたので、俺はニッと笑った

 その後、沈黙が支配した。そして意を決したようにミレスが口を開いた。
「…ねぇお兄ちゃん。私も一緒に行っちゃダメ?」
その魅力的な誘惑に俺は、必死にあらがう。
「…それはダメだ」
「なんで?あの子は良いのに何で私はダメなのっ!」
「俺にしてもルーリにしても世間の爪弾き者だ。しかし、お前は違う。俺達とは違い、人に望まれ、愛されている」
「けど私はそんな事望んでない!私はお兄ちゃんと一緒に居たい!」
「お前がそう思っていくれるのは正直うれしい。けどな、人に望まれ愛されているって言うのは一種の力なんだ。
 俺やルーリが望んでも手に入らない力だ。それをお前に投げ出して欲しくない。
 それにな…ミレスが俺の事話してくれてたお陰で、ゴールが俺と普通に話してくれたんだ。
 これは凄いことなんだ。初対面の黒髪とまともに話してくれる奴なんて、ほぼ居ないと言っていい。
 それなのにゴールは、普通に接してくれたんだぜ。何故かって聞いたら。
 ミレスに話を聞いていたからだって言ったんだ」
「それはお兄ちゃんが凄いからじゃ…」
「俺は、確かに力を手に入れた。それも凄い力だ。けどその力じゃ普通に接してくれる奴なんて居ない。
 むしろ、普通の連中は排除しに掛かるだろう。ミレスが居てくれたからこそゴールは俺に普通に接してくれたんだ。
 今ミレスが全て投げ出して俺と一緒に旅をする事になったら、ミレスは一生日陰者になってしまう。
 俺はそれが嫌なんだ」
前世でまともな人間関係を築けなかった俺には、Sクラスをまとめ上げ、戦ったミレスがとても眩しく見えた。
それを失うのは惜しいと思う程に。
「じゃあ、私はもうお兄ちゃんと暮らすことは出来ないの?」
涙目で訴えるミレスの目をじっと見て言う。
「そんな事は無い。他の人間がゴールみたいに黒髪を人として認めてくれるようになれば一緒に暮らせるよ」
「本当!本当に暮らせるようになるの!?」
「ただその道は険しいだろうけど…」
「やるっ!私はやるわ。絶対お兄ちゃんと一緒に暮らせる場所を作ってみせる!」
ミレスは顔に決意を漲らせ、拳を天に突き出しながら宣言した。
「ありがとう。ただし、絶対に無理はするなよ。今でも一緒に暮らす事は出来ないけど会う事は出来るんだ」
「分かった。無理はしない」
元気の良い返事を聞いた俺は安心した。
「それじゃ俺はお暇するよ。色々準備もあるし。ミレスはベットで寝ている事。いいね?」
「今度は勝手に居なくなったりしない?」
「大丈夫だ。ミレスに渡すグランジュの調整もあるからね。ミレスがこの街にいる間は俺も居るよ」
ミレス達Sクラスは試験休暇の為、明日から三日間試験休暇が与えられている。
「良かった!じゃあ明日お買い物に付き合ってね!お兄ちゃん!」
「ああ、いいぞ。だから今日はゆっくり休むんだ。いいね?」
「は~い!」
元気に返事をしたミレスに笑顔を返すと俺は部屋を出た。
ただ、お兄ちゃんのお嫁さんになる発言の真意だけは、怖くて聞けなかった。
チキンと言わば言え!
 
 「お待ちしておりました」
ミレスの部屋の前では、尋常ではない顔をしたローラさんとSクラスの面々が待ち構えていた。
ローラさん達が放つ気迫に若干ビビリつつ聞く。
「なっなんだ!?」
「ゴウ様にお聞きしたいことがあります。
 ルーリさんの機兵についてです。私はルーリさんが機兵に乗れるなんて一切聞いてないんですが?
 そもそもルーリさんも精霊機兵を持っていたんですか?
 その精霊機兵は何処から来て、試合後何処に行ったのですか?
 …いや、そもそもルーリさんが乗っていたモノは機兵なのですか?」
うっローラさん良い勘してるっ!これは早急に誤魔化さねばっ!
「待て待て待て、そんなに一気に聞くな!ちゃんと説明するからっ!ここじゃ何だから…食堂、そうだ食堂に行こう」
「わかりました。そこでちゃんと説明してもらいますからね」
にっこりと笑ったローラさんのその台詞からは、温かみというものが一切感じられなかった。
その時俺は'笑顔とは本来攻撃的なものだ'と言う言葉を思い出した。

第50話 驚愕!ダーム学院長の企み!!

 アレアグリスとは何か…か。いいだろう。話してやる。
それは機兵ギルドに登録する前、死んだ爺さんの残した地図を頼りにカルガの街へ向かう途中。ロウーナン大森海のそばを通った時の事だった。
その日はとても良い天気だったんだが、突然周囲に霧が立ちこめ1m先も見えなくなったんだ。
変だなぁと思いつつも、とりあえずトレーラーの速度を落とし、ゆっくりと進んだ。
普通なら障害物や崖なんかを警戒してトレーラーを止めるべきなんだが、霧が立ち込める前は荒野のど真ん中、
障害物なんて枯れ掛けた雑草くらいしかなかったから、進むことにしたんだ。
しばらく進んでいくと突然目の前に何かが見えてきたんだ。何だ?と思って近づくと何かの遺跡群だった。
おっそろしいことに遺跡は全て巨大で、どの遺跡にも機兵で入ることが出来そうだった。まさに巨人の街といった感じだったな。
俺達はこのまま霧の中を進むよりは、遺跡で霧が晴れるのを待ったほうが良いと思ってその遺跡群に入った。
もちろん、目の前に突然現れた遺跡を探検したいって思ったのも事実だ。
そんな巨人の街の大通りをトロトロ走ってたんだが、その大通りの先にとんでもないものがあったんだ。
ピラミッドだ。えっ!ピラミッドって知らない?あ~なんてい言うかとてつもなく三角な建造物。四角錐って言えば伝わるか?
ああ、そう、それだ。それの山の様にでかい奴がドーンと有ったんだ。俺としてはこれはもう行くしかねぇだろって事になってな。
ルーリやクリシアさんは反対したんだが俺の冒険心は止まらない。
んで、そのピラミッドの麓まで来ると、なんとここも機兵で入れるじゃあーりませんか。
さすがに遺跡の中に入って何かあったらトレーラーじゃ対処出来ないから、愛用の機兵グランゾルデに乗って入ることにしたんだ。
もちろんルーリはトレーラーと一緒にお留守番だ。
俺はわくわくしながらそのピラミッドに踏み入った。遺跡に有る物といえば、金銀財宝と相場は決まっているからな。
ただ、その時の俺は忘れていたんだ。

遺跡につき物なのは金銀財宝だけじゃないってな。

 クリシアさんの明かりの魔法で照らしながら入ったピラミッドの中は、詰まんない事に一本道のゆるい下り坂、罠の一つもありゃしない。
こりゃただの記念碑的なものなのかなぁと諦めはじめた時だ。目の前に扉が現れた。おおやっとイベントかと思ったよ!
イベントって何だって?気にするな。
それで、その扉をえんやこらと開けてみたら、そこには真っ暗な巨大な空間が広がっていた。
なんせ、クリシアさんの魔法でも奥まで照らせなかったからな。
驚いたことに、その扉を潜るとひとりでにその空間が明るくなってな。反対側の壁まで見通せるようになったんだ。
その壁を見たとき俺は息を飲んだ。そこには大きく異形の化け物と、それと戦う人型の何かが描かれていた壁画があったんだ。
ありゃ凄かったぜ。それだけじゃなくてな、良く見ると大きく書かれている異形と'人型の何か'を囲むようにまた別の絵が書かれていてな。
調べてみると一連の物語の様だと分かったんだ。
まぁ掻い摘んで言うとこの巨人の街の繁栄から衰退、滅亡までの物語だったんだが、問題は衰退、滅亡の部分だ。
どうやら、大きく描かれている異形の化け物達にこの街は襲われた、住民達は機兵の様な物で抵抗したが、
俺の見た絵からするとボロボロにやられたようだ。そこで住民達は彼らの持つ叡智を結集して'人型の何か'を作った。
しかし、相当焦っていたんだろうな。'人型の何か'はとてつもないスペックを誇った様だが、それを操ることが出来る操縦者が居なかった。
壁画には完成した'人型の何か'の前で頭を抱えた人が描かれていたよ。結局彼らは'人型の何か'で倒す事を諦め、別の方法を取った。
それは封印だ。この街の大半の住民が囮となり、ピラミッドの地下におびき寄せ、多大な犠牲の下に封印の棺に閉じ込める事に成功した。
生き残った住民達は犠牲者を弔い、この壁画を書いた。その後この街自体を封印することにより化け物に対する二重の封印としたようだ。
そして住民達はこの街を去っていった。

そこまで読んで俺は、ハッとした。じゃあ何で俺達はここに居るんだと。どっかの誰かさんが厳重に施したであろう封印が解け俺達が居る。
何故だ?
それだけじゃない。何故使われなかった'人型の何か'が戦う壁画があるんだ?
っとそこで壁画に続きがあることに気付いた。
嫌な予感を感じつつ先を見ると…。
やられたっ!と思ったよ。
壁画を文章にするなら'コレを操れるものが現れた時、街の封印は解かれ、その者をこの街へ、コレへと誘う。
そしてコレは住民達の悲願である化け物討伐を成し遂げる。'だな。コレって言うのは'人型の何か'の事な。
理解が追いついた時にはもう遅かった。突然遺跡が振動を始め、壁画の描かれていた壁の右手奥から重い石が引きずられている音が聞こえてきた。
慌ててその方向を見てみると…あったんだよ。
壁画に描かれていたのと同じ棺が…しかも蓋がゆっくりと開きながらな。
蓋が開ききった瞬間、わけの分からないものが飛び出してきた。えっそれじゃ分からないって?実際見た俺だって分かるもんか。
何とか表現するなら手やら足やら目やら口やら鼻やらが何の法則もなく出たり消えたりする肉スライムって所か?それがケタケタ笑ってんだよ。
あんなもん二度と見たくねぇ。直ぐに襲ってきやがったから、応戦したさ。
けどなぁ…あの化け物斬っても撃っても爆発させても直ぐ回復しやがんだよ。
もしかしたら効いていたのかも知れないが、傍目からじゃ一切わからなかった。

あの時は死を覚悟したね。
どれくらい戦っただろうか…俺もクリシアさんも戦いに集中してたからどれくらい時間が過ぎたか分からないが、
多分かなり長い時間戦っていたんだろうな。
外で待っていたルーリが痺れを切らして俺達を追いかけてきたんだ。
ルーリが扉を潜った瞬間、あの化け物の生やした手の一本がルーリに向かって行ったんだ。
あの時はもうだめだって思ったね。さすがに近接無双のルーリちゃんとは言え、機兵クラス大きさの化け物の攻撃を防げはしないからね。
化け物の手がルーリに届きそうになった時、それは起こった。
突然ルーリに迫っていた化け物の手が何処からか飛んできた光の弾によって弾け飛んだ。
それだけじゃない、ルーリは光の膜に包まれれて壁画のある壁から見て左の奥、つまり棺のある壁の反対側の壁に飛んでいった。
そこには'人型の何か'があった。今までなんで気がつかなかったって言うなよ?壁画と化け物に気をとられてそれ所じゃなかったんだから。
光の膜に包まれたルーリはそのまま'人型の何か'に吸い込まれるように消えた。再び遺跡に振動をはじめ、'人型の何か'から表面を覆っていた物がどボロボロと剥がれ落ちていった。
そして中から一機の機兵が現れた。
そう、それがルーリの使っていた'真精霊機兵アレアグリス'だ。
起動したアレアグリスは最初と惑ったように立ち竦んでいたが、俺が襲われているのを見ると直ぐに参戦した。
その時俺は直感したね。あれを操ってるのはルーリだって。
俺はルーリにその機体に乗って逃げろって言ったんだが、これは私がしなきゃいけない事、兄さんこそ下がってって言って聞きゃしない。
まぁ実際、アレアグリスの見たことも無いような攻撃は物凄い威力で、あの化け物にダメージを与えていったんだ。
仕方がないから、俺が化け物の攻撃をいなしつつ、隙を見てアレアグリスが攻撃って役割を分けてやっとこさあの化け物を倒したのさ。
いやぁ大変だった。しかしそれからも大変だった。なんせあの化け物を倒したと思ったら今度は遺跡郡が崩壊し始めたんだからな。
急いでトレーラーに戻って街を脱出。やっと崩壊の音が聞こえなくなったと思って振り返ったら、そもそもその遺跡自体が無かったんだから始末に終えない。唯一アレアグリスだけがあの街が有った証拠だな。うん。

と嘘八百を並べてローラさん達を煙に巻いた。

もちろん、ウソダッ!とか真精霊機兵ってなんだよ!?って言われたがふ~んてなもんだ。
なら、ありえないスペックを持つアレアグリスが何故存在するのか説明してみろって言って黙らせた。
本当は魔力が無くても操縦することが出来る機兵があるんじゃないか?と思って俺に聞いてきたんだろうけど、本当の事なんて教えるわけねぇだろ。
面倒くさい。しかし、奴らもしつこく聞いてくる。いい加減切れそうになった時、食堂にダーム学院長の笑いが響き分かった。
「カーッカッカッカ!別に良いではないか。嘘でも真でも。ワシらの目の前にあった力、それは本物じゃ。
 ただそれだけじゃ」
「何時の間にいらしてたのですか、学院長?」
俺が学院長に尋ねるとうれしそうに答えた。
「何、面白そうな話をしていたのでな。こっそり後ろで聞かせてもらった。
 いやはや久々にわくわくする様な話じゃった!」
今日のダーム学院長は妙に上機嫌だな。Sクラスをズタボロに負かした上に、追試でも負かしたんだぞ。何故?
「それで、ダーム学院長は何の御用でここに来たのですが?
 ああ、ミレスのお見舞いですか?」
「いや、Sクラス諸君の不甲斐ない成績に対する懲罰を伝えに来た」
懲罰という言葉にSクラスが騒然となる。今まで自分達は賞賛を受ける事はあれ、罰を受けることなんて考えてもいなかったのだろう。
「何をうろたえておるか!諸君らはエリートとして選ばれ、学費その他もろもろを免除されておる。
 じゃがそれはそれだけの成果を出していたからじゃ。成果が無ければその分罰も与える。
 学費免除がなくならないだけ、ありがたいと思って欲しいのう」
「そうですか。ではどのような罰なのですかな」
俺が興味本位で聞いたが、ダーム学院長の次の一言に凍りついた。

「ファードの街に行って最前線で戦っている兵を支援するのじゃ」

はっ?
「なっ何を言ってるんです。ダーム学院長?それは、彼らが私の試験に合格した時の筈では?」
「それは、Sクラスに戦場の空気を勉強させるじゃ。今回の懲罰は実戦に参加してもらう。安心せい。
 後方から合唱魔法を撃つ簡単なお仕事じゃ。指揮はワシがするし、護衛もつける」
そこで俺の堪忍袋が切れる。ニコニコと笑っているダーム学院長のローブの襟首を掴み持ち上げた。
「ふざけるな糞爺!俺が何の為に、こいつらをコテンパンにしたと思ってやがるっ!!」
「ゴウ君には、感謝してもしきれんのう。
 お陰で簡単に学院の教師陣を簡単に黙らせる事が出来たわい」
糞爺は飄々とした態度で返してきた。
この狸爺に一杯食わされた!俺はそう思った。
狸爺は、この試験の結果に関係なくSクラスの連中を実戦に投入する気だったんだ。
俺に無理難題を押し付けたのは、学院の教師陣に対する説得の材料にする為。
もし、俺がこの試験でSクラスを合格させていたら、'今では学院最強の教師といわれている、鉄仮面先生に勝つ位の実力を持つんだから。
最前線へ見学に行く位どおって事無いだろ?おや、もしかして自慢の生徒達がそんなに信じられない?'
とか言って説得し、不合格なら先程の様に'ああん?テメェらが育てたSクラスの連中が、人数が劣る一兵団に負けたぞ!
一体何を教えてやがった!もうお前達は信じられん!これからは俺が直接指導する!
一番良い訓練は実戦だ!だから前線行って来い!'ってなわけだ。
俺はまんまとダーム学院長に踊らされたわけだ。クソッタレめ!
「時にゴウ君。君達の今後予定はどうなっているかね?」
「予定だと?んなもんねぇよ」
突然の質問に素直に答えてしまった。
「ほっほ。それは重畳。良ければファードの街で傭兵をせんかね?」
この爺、俺達まで前線に引っ張り出す気か!
「何、安心せい、ファードの街で出された追放令なぞ、ワシが一言言えばどうとでもなるわい」
「それが狙いが爺!」
そう俺が言うと朗らかに笑っていた顔から一転し冷徹な顔に変わる。
「貴髪2名、すさまじい性能を誇る機兵が二機…いや三機か、これほどの戦力を現状でワシが逃すと思うてか?」
あのルーリとミレスの決闘も、追試では無くルーリの戦闘能力の確認の為だったのか!
「ワシは、この国の為に出来る事を全力でしておる。例えそれが悪といわれようと構わん。
 国に愛着など無いお主には、分からないじゃろうがな」
ああ、分からないね!糞野郎共の親玉なんぞ!
「Sクラスは、学院に帰還後2ヵ月間のワシが直々に訓練し、その後ファードの街へ向かう。
 例え今、ワシを殺しても、もうどうにもならんぞ。これは決定事項じゃ。
 ゴウ君達は、それまでにファードの街に来る事じゃな。
 それじゃあワシは学院に戻る。これでも忙しい身なのでな」
そう言うと爺は俺の手を叩き、掴んでいた手を離させると悠々と食堂から出て行った。
Sクラスの連中は茫然自失。俺は、黙って怒りに燃えていた。

第51話 チートの前の静けさ

 ダーム学院長の衝撃の発言から翌日、俺は噴水のある広場に来ていた。
俺はここで、ミレスと待ち合わせをしている。
もちろん俺は、フードを深く被り顔を隠しているので、怪しさ満点。
巡回している騎士団の連中にバリバリに警戒されている。
どうせ俺は不審者ですよ。外を歩いているだけで通報ものですよ。ちっ。
そんな事をグチグチと思っていたら、ミレスが俺の方へと走ってきた。
「はぁはぁ。お待たせ。待った?」
「いいや、俺も今来たとこだ」
俺もお決まりの返事を返す。
しかし……なんだ?このリア充会話。絶対俺が言う台詞じゃないと思うんだが…。 
ミレスは、学園の制服を着て待ち合わせの場所に来た。
試験で学院を出てきたからおしゃれな服は持ってきていないのだろう。
アクセサリーと呼べるものは、俺のあげたヒスイの勾玉のペンダントがだけだ。
「さぁ行こう!私、楽しみにしてたんだから!」
ああ、思い出してみると生まれて初めての兄妹一緒に買い物に行くんだな。感慨もひとしおだ。
「ああ、そうだ。コレは言っておかないとな」
「なぁに?お兄ちゃん」
「それだ。街中では俺の事をお兄ちゃんと呼ばないでくれ」
声を潜めてお願いする。
「ええっ!何で!?」
「俺が黒髪だと分かると街中だと色々面倒なんだ。頼む」
「わかった。じゃあなんて呼べば言いの?」
「そりゃあ…まぁお兄ちゃん以外なら何でもいいぞ」
「じゃあ'ゴウさん'で!(フフッ。ちょっとは恋人っぽいかも)
 今日はよろしくね!ゴウさん!」
ミレスはそう言うと俺の腕に抱きつき、そのまま腕を組む。
突然背中にゾワッと来た。
なっ何だ!この懐かしくも受けた事の無い気配は!こっこの感情は嫉妬!?
バッと振り向くとそこには血涙を流さんばかりに睨み付けている騎士団員達!?おい、お前らが通報されるぞ!
「私まだ朝ご飯食べてないの。ゴウさん付き合ってね!あっちに屋台があるよ!」
ぐいぐいと引っ張られる俺は「おっおう」としか言えなかった。

 やはり、貴髪というのは、人気者なんだなと思った。
ミレスがおいしそうって言って近づいた屋台は必ずといって言い程「こいつぁ。サービスだ!持ってってくれ」と気前良く商品を渡してくる。
俺が、お金を払いますよって言っても「いいんだよ。コレで俺の店にも箔が付くってもんさ!貴髪様が食ったってな!」
と言って受け取らなかった。ミレスもそんな対応に慣れているのか、「ちゃんと宣伝しておくね!おじさん!」と返していた。
正直その反応に嫉妬した。
俺…いや俺達黒髪が屋台に近づこうものなら直ぐに罵声が飛んでくる。
それでもマシな方で最悪、石や魔法が飛んでくる。
何で…何でだ!何でここまで違う!
こうまざまざと扱いの違いを見せ付けられると例え愛する妹だろうと黒い感情が噴出してくる。
…もしかしたら俺は、ミレスと一緒に居たくなかったから、ミレスと一緒に行く事を拒んだのかもしれない。
馬鹿な……。
そんな黒い考えを頭を振って吹き飛ばす。
気分を変えようと気になっていた事を隣で歩いているミレスに聞いてみる。
「そのペンダント、まだ着けててくれてるんだな」
真新しい皮紐の先に揺れているヒスイの勾玉を指差す。
「これ?当たり前だよ。ゴウさんから初めて貰ったペンダントだもの!」
皮紐を掴んで顔の前で勾玉を揺らす。
「私のエンブレムもコレなんだよ!
 いつか、お兄ちゃんが見たら一目で分かるようにってエンブレムにも描いてもらったの!
 そういえばお兄ちゃん!これ何て言う名前なの?こんな形のペンダント見たことないし、
 クラスの子に聞いても見たことないって言ってたし……」
「呼び名、戻ってる戻ってる。
 ああ、それは勾玉って言うんだ。…まぁ幸運のお守りだよ」
実は勾玉が何なのか俺は知らない。
よく古代日本が舞台の漫画とかで出てきたし、翡翠と言ったら勾玉!と頭にインストールされていたからな。
「そっか。遅くなったけど、ありがとうお兄ちゃん。素敵なプレゼントをくれて!」
満面の笑みでお礼を言ってくれたミレスを見たら、渦巻いていた黒い思いが吹き飛ぶのを感じた。
「どういたしまして、俺も喜んでくれてうれしいよ」
そう返事をすると俺たちは本格的に買い物に勤しむ事にした。


 ミレスの買い物に付き合っていたら、あっという間に時間が過ぎていき、もう夕方だ。
ああ、疲れた。初めてミレスと一緒にデート(?)出来たけど、やっぱり女性なんだな。
…買い物が長い。
そもそも、俺は店に入って買い物をする場合即座に商品を決めてレジへ直行だからな。
長々とウィンドウショッピングなんてしようものなら、他の客やら店長やらに絡まれて散々な目にあったことだろう。
ふぅ、じゃあ気を取りなおして行きますか!俺はトレーラーの扉を開けた。

 さぁ戦争の時間だ。
これからする事は、クリシアさんとルーリしか知らない。コレは、俺の我侭であり、決して褒められたことじゃない。
そう言う事では、俺はダーム学院長と同じ穴の狢と言う訳だ。
ダーム学院長が愛する国を守るように、俺は愛する妹を守る。例えそれが悪と呼ばれる行為であろうとも。
そう言う点では、ダーム学院長に共感する。だからこそ俺も譲れない。
「コマンダーモード起動」
トレーラーのキャビンにあるソファーに座るとキャビンを通常モードであるくつろぎ空間モードから、
コマンダーモードに変更する。
キャビンの窓に装甲シャッターが下り、中が暗くなる。座っているソファーが変形し、長時間座っていても疲れにくいリクライニングチェアになった。
俺がリクライニングチェアーの座り心地を確認していると続々とホロディスプレイが立ち上っていく。
それぞれのディスプレイに文字が洪水の様に流れ、しばらくすると、'ready'と表示され止った。
そして俺の正面にひときは大きなディスプレイが立ち上り、暗い部屋とある人物が映し出された。
正確に言えば、一体のロボと言った方が正しいか……。
「おはようございます。旦那様」
画面に映ったのは、口や鼻の無いつるりとした顔とちょっとつり目がちなツインアイ、耳の位置から伸びたセンサーユニット、
黒髪を模した装甲と硬質なプリムを付けたロボ。
いわんやメイドロボ、ロボットロマンEXシリーズ03アリス・レギオンだ。
「おはようアリス。想定より早く君達を起こす事になったよ」
「そのようでございますね。しかし我々は何時でも準備万端です。ご命令を……」
アリスは気にした様子も無く、涼やかな声で返事をした。
「レイプトヘイムを出す。装備はD装備。俺達の戦闘能力を見せ付け、恐怖を植えつける。
 戦場はここ…今送信した座標だ。きっと相手も歓迎してくれるだろう。盛大にな」
「了解しました。直ちに準備いたします。総員発進準備」
「「「かしこまりましたっ!」」」
そう言うと、アリスの周りが明るくなり、周りの様子が分かるようになる。そこは戦艦の艦橋だ。
アリスを映していたウィンドウを操作し艦橋全体を写すと大勢の量産型メイドロボ達が忙しそうに発艦準備を開始していた。
新たにホロウィンドウが立ち上り、暗い格納庫が映し出される。
スポットライトが次々に灯され、そこにある物を照らす。それは戦艦レイプトヘイム。
全長約292メートル全高約97メートル。
元ネタが18メートル級ロボットの為の戦艦なので、ルゼブル共和国の空船とは比較にならない程巨大な船だ。
奇妙なのは、戦艦の両側面に計四つのリングをつけている点だろう。
右舷前部、右舷後部 左舷前部、左舷後部の四箇所だ。
「換装システム起動。システムコールD。各員注意せよ」
寒々とした格納庫にアリスの声が響く。
すると戦艦の後ろに設置された戦艦を越える大きさを持つ回転式弾倉状の構造物が、ゆっくりと回転を始め、けたたましい警告音と共に警告灯が灯った。
回転式弾倉状の構造物の大半は地面に埋まっており、格納庫から見えるのは弾を込める部分の最上部だけだ。
弾を込める部分には、戦艦に匹敵するほどの大きさのコンテナが収められている。
重い大きな音と共に構造物の回転が止まり、正面にあった戦艦右舷のリングにコンテナを押し出す。
リングもコンテナを受け入れる為にリングの内径を広げた。
コンテナが戦艦右舷にあるリングに通されると今度はリング内径を元に戻しコンテナを固定した。
「右舷コンテナ固定完了。異常なし」右舷担当のメイドロボが報告する。
今度は戦艦が乗っているフロアが右舷方向にスライドし、再び構造物が回転を始める。
右舷と同じように左舷にコンテナを納める。
「左舷コンテナ固定完了!異常なし!」右舷と同じように左舷担当のメイドロボが報告した。
「換装完了を確認」
これぞレイプトヘイム級戦艦最大の特徴であるリボルビング換装システム!
効率、コスト完全無視!
ただ'なんか…かっこよくない?'を追求したロマンシステム!
コンテナにも色々な種類を作ってある、どんな状況でも対応できる最高のシステムだ。
子供っぽい?
上等!
普通の戦艦作ったほうが良くない?
そんなの詰まらない!

「艦を発進位置へ」
アリスが指示するとフロアはレイプトヘイムの正面にあるトンネルへと滑り出した。
等間隔に設置された明かりがトンネルの中を進むレイプトヘイムを舐めるように照らす。
フロアはトンネルの突き当りまで進むとそこで停止した。
「ハッチ開放。魔獣が接近しないように注意」
「ハッチ開放します」
重苦しい音が響きレイプトヘイムの真上から一筋の光が差した。
また新しいウィンドウが開き、上空からロウーナン大森海と世界の壁の境を映す。
境には不自然に四角く開けた場所があった。そして何の前触れも無くその四角い広場が沈み込むと世界の壁へとスライドしていく。
ぎゃあぎゃあと驚いた鳥達が飛び立ち、ぽっかりと四角い穴が開く。穴の底にはレイプトヘイムがあった。
「ハッチ開放完了」
管制担当のメイドロボからの報告を聞くとアリスは艦長席から立ち上がった。
「手の空いたものは傾注せよ。我々はこれから戦場へと赴く。我々の初陣です。
 旦那様のお顔に泥を塗らないよう、全力を尽くすように。以上」
「「「はいっ!」」」
元気のいい返事を聞いたアリスは頷いて艦長席に座った。
「アンカーロック解除、レイプトヘイム級一番艦レイプトヘイム発進」
「アンカーロック解除!レイプトヘイム発進します」
レイプトヘイムをフロアに固定していたアームがガチャリと音を立て外れる。
そしてゆっくりとレイプトヘイムは上昇を始めた。
「高度上昇、外に出ます」
「ECS不可視モード」
「了解、ECS不可視モード作動します」
ECSとは簡単に言うと電磁迷彩、透明ロボットになれるアレだ。
レイプトヘイムの各所に設置されたレンズが露出し、低い唸りを上げながら作動、徐々にレイプトヘイムの姿を隠していく。
完全に基地の外に出た時、その姿は完全に見えなくなっていた。

 ……うむ、素晴らしい。
戦艦発進シーンのコンテまで切って苦労してカメラ配置したのは無駄じゃなかった。

第52話 宣戦布告!

 俺の目の前のホロディスプレイには、現在リランス王国軍とルゼブル共和国軍が睨み合っている平原が映っている。
レイプトヘイムが発進してから大体18時間程たった。
本当はもっと短時間に来れるんだが、なに分、初出撃なのでいろいろテストをしていて時間が掛かってしまった。
おかげで徹夜だよ。
この世界の戦争ではあまり夜戦を行わないのは助かった。
「そろそろ開戦かな」
それぞれの陣地から炊事の煙が消え、遠目から見ても戦いの準備が整っていくのが分かる。
椅子の背もたれに寄りかかり、徹夜でシパシパした目を揉む。
「兄さん。はいこれ」
声のした方を向くとルーリが、暖かいコーヒーが入ったマグカップを差し出してきた。
昨日の俺が留守の間ルーリには、新しく兵団に入るグレン達にプライベートベースの中を案内してやってほしいとお願いしていた。
もちろん、丸一日ルーリの訓練に付き合うと言う交換条件付きでだが……。
「おっ。ありがとう」
マグカップを受け取り、一口すする。口の中にコーヒー独特の苦味が走り、少しボーっとしていた頭に渇を入れる。
「うん、うまい」
「どういたしまして。それでどう?」
「ん~?テストはすべて問題なし。操作関係もきっちり思い出したし、戦力の方も質、量共にあいつらを圧倒している。
 負ける要素が無い。…そろそろ、射出したプローブが両方の陣営に着く頃だな。どれどれ」
俺は、それぞれの陣営の様子見る為に新たに二つのホロウィンドウを起動した。


 「諸君!ようやく我々はここまで来た!ファードの街を開放するするまで後一歩だ!
 我らは、憎きリランス王国軍を打ち破り、圧政に苦しんでいるファードの街を開放する!
 そして、全世界をルゼブル共和国の元、統一する仲間とするのだ!」
「「「応!」」」
ルゼブル共和国軍の様子を見ると、お偉いさんらしき豪華な軍服を着た壮年の男が出撃前に兵を集めて激を飛ばしていた。
そして言葉の端々から、世界征服を連想させる文言が飛び出してるな…やはり碌な国じゃなさそうだ。
「我々には最新式の機兵フォメル及びグロームと空船がある!
 その実力は諸君らもその目でしかと見てきたことだろう!
 たとえ貴髪が出てこようとも恐れるに足らん!我々は既に一人貴髪を倒しておる。
 残る一人も我らの手で打ち砕いてくれようぞ!
 我々に女神の加護があらんことを!」
「「「我々に女神の加護があらんことを!」」」
えっ貴髪さん一人やられちゃったの?マジで…?弱くないか?
お偉いさんが言い切ると、副官らしき男が一歩前に出た。
「機乗兵は全員搭乗せよ!総員駆け足!各部隊長は作戦の最終確認を!」
そして、共和国兵達はそれぞれ自分の機兵や持ち場へと駆け出して行った。
え~っと、奴さんらの機兵の数は今のところ…ドプルが337機にフォメルが49機グロームも約48機か、
俺が前に見た時より増えたな。歩兵も2254人と増えてるな。
近くに空船が無いとなると何処か別の場所に待機させてあるんだろう。
さて、次はリランス王国軍だな。

 「野郎共!とうとうこの日が来た!ルゼブル馬鹿共がファードの街を奪おうと目の前まで迫ってきてる。
 俺達はあの馬鹿共を迎撃してきたが、あのクソ忌々しい空船と新型機兵のせいでここまで攻め込まれちまった。
 しかし今回は絶対に俺達は負けられない!何故なら俺達の背にはファードの街がある。
 ここで負ければ、街が戦場になっちまう。そんな事許せるかお前ら!」
「「「否!」」」
こちらの指揮官は赤の貴髪か…。確かあいつは、東方○敗の魔道士バージョンの方か、
という事はやられたのは大規模魔法を使っていた奴か。
「そうだ!否だ!リュンの奴は、お前らを守ろうとして負傷した!
 何故だ!それは、お前らに守る価値があるからだ!ここで負ければ俺達はその価値を失う!
 俺達はその価値を証明しなければなんねぇ!そうだよな!!」
「「「そうだ!」」」
「いくぜ!野郎共!」
「「「応!」」」
もう一人の貴髪はリュンって言うのか?それにしても仲間を庇って負傷なんて思ったよりも甘ちゃんな貴髪なんだな。
残ったほうも熱血型か…ちゃんと軍師が居るんだろうか…ちょっと心配だな王国軍。
それでこちらの陣容はっと……。機兵613機に歩兵2562人か……。やはりこちらも増員してるな。
ん?大半がボルドスだけど、ちらほらリランス王国軍所属じゃない機兵もあるな。
きっと機兵乗り達から召集した傭兵だろうか。
戦力を比較するとまぁ大体互角ぐらいかな…。
後はそれぞれに切り札である貴髪と空船をどう使うかで勝敗は分かれるな。
…俺達が居なければ。


 「じゃあアリス、手筈どおりに頼むよ。クリシアさんも起きてください。始めますよ」
「了解しました。旦那様」
『へっ?やっと始まるの』
クリシアさんは、昨日のミレスとの買い物を邪魔しない代わりに俺の魔力を要求。
俺の魔力を大量に吸い、酔っ払って寝ていたのだ。
そのくせ、今日の戦いの様子を見たいから起こしてねぇ~っと来たもんだ。俺は徹夜でテストしてたのに……。

 既に両軍は陣形を整え、開始の合図を待つばかりとなっていた。
双方の指揮官機が手を上げ、今にも突撃の合図を出そうとした瞬間、戦場に似合わない女の声が響き渡った。
「すす……!?」
「蹴散ら…!?」
「少々お待ちください」
「誰だ!」
「どこから声がっ!」
突然の声に両軍指揮官が驚き、キョロキョロとあたりを見回す。
「上だっ!」
指揮官機の近くに居た歩兵が空を指差す。つられて上を見上げた面々は驚愕の光景を目にする事になった。

「ECS不可視モード解除」
「了解、ECS不可視モードを解除します」
担当のメイドロボが操作すると、艦を覆っていた不可視のフィールドがノイズと共に消え去る。
そしてレイプトヘイムは圧倒的存在感を撒き散らしながら歴史へと登場した。
「何だ!?あれは…敵の新兵器かっ?」
「ありえない……」
そりゃそうだろう。共和国軍が使用している空船の全長がせいぜい100m弱、比べてレイプトヘイムは250m。
共和国軍の有している空船より倍以上の長さを誇り、更には透明化することが可能な船など想像の埒外だ。
「突っ込んでくるぞ!」
レイプトヘイムは機首を下げ、両軍の間へと横から降下しながら突っ込んでいく。
「引けっ引けっ!」
両軍軍人達が蜘蛛の子を散らすように逃げた。
そんな中、轟音と共に砂塵を巻き上げつつレイプトヘイムは両軍の間に着陸した。
城が突然空から降ってきたようなものだ。
そこに居る人間は全員その光景を信じられないような面持ちで見ている事だろう。

「着陸完了しました。異常はありません」
「分かった。予定通り手の空いている者は全員、甲板へ集合せよ」
「「「はいっ!」」」
アリスは、ほかのメイドロボ達の報告を聞くと指示をだし、艦橋に最低限の人員を残し甲板へと向かった。

混乱していた兵達も落ち着きをなんとか取り戻し、再び隊列を組もうとしていた。
「隊列を組み直せ!何が起こるかわからんぞ!」
「おいっ!あそこを見てみろ!誰か出てきたぞ!」
「あれは…メイド…か?」
突然空から降ってきたレイプトヘイムを見上げていた兵達は、甲板(と言うかコンテナの上)に出てきたアリスたちを指差し、疑問を口にする。
「なんだってあんな物からメイドが?」

さぁこれからだ。
俺達の一世一代のお披露目式の開幕だ。とことん派手に行こうぜっ!
ブンと音が鳴ったと思うとレイプトヘイムの上空に大きなホロウィンドウが出現した。
そこに映っているのは艦橋を出て、艦の一番前に立ったアリスだ。
アリスの着ているメイド服は特別で右肩のパフスリーブ(ドレスにある肩のふくらみ)を赤く染めている。その為、地上からでも遠目でもアリスがそこにいる事が分かる。

「何だアレは?幻か?それに映っているのは…人形?ゴーレムの一種か?」
メイドロボ達の異相に兵の誰かがつぶやいた。

アリスは軽く一礼すると、話し出した。
「お待たせしました。私は旦那様にお仕えするメイド。
 名前はアリス・レギオンと申します。
 これから我々の旦那様のお言葉をお伝えします。
 しばらく御静聴ください」
ホロウィンドウにノイズが走り、椅子に座ったと思われる人物が映し出される。
「誰だアレは?男か?」
確定的表現で説明できないのは、その人物の背後には光源が設置されており、逆光になってよく見えない為だ。
そして、映像の中の人物が喋り出した。もちろん俺の事だ。
と言っても昨日の内に録画しておいた映像なんだよね。何度も台詞を噛んで取り直したのは秘密だ。
「この戦場に居るすべての将兵に告げる」
喋っている声は男とも女とも若いとも老いているとも言えない不思議な声になるように変換してある。
これでもし俺の声を知っている人間が居てもばれる事は無い。
「私達は'デウス・エクス・マキーナ'。
 機動兵器群RR2(ダブルアールツー)シリーズを所有する第三勢力とでも言っておこう。
 私はこの組織のリーダーで…そうだな、ハグルとでも呼んでもらおうか。
 私達デウス・エクス・マキーナの活動目的は至極明瞭、自らの利益の為だ。
 只今をもってここにいるすべての将兵に向けて宣言する。
 私達はどのような理由があろうと私達の利益を乱すものは全て排除する。
 たとえ乱すものがどんな組織、国であろうと徹底的に戦う。
 自らの為なら世界すら敵に回す事をいとわない武装組織。
 それが私達デウス・エクス・マキーナだ。
 手始めにここに存在するすべての機兵を破壊・回収させていただく。
 これは私達からあなた達リランス王国軍、ルゼブル共和国軍両軍に対しての宣戦布告だ」
中二心溢れる組織名の元ネタは、某魔を断つ剣…ではなく、演劇の演出技法の方だ。
簡単に言えば登場人物にはどうしようもなくなった場面で神様が出てきて何とかする。そういうオチの事だ。
ある意味神の力で作り出された俺やロボ達にはお似合いの組織名だろうと思っている。
俺の映像が途切れると再びアリスが映し出される。
「以上です。これから私達は戦闘行動に入ります。
 皆様方におかれましては、存分に力を振るっていただきたいと思います。
 それでは皆様、よろしくお願いいたします」
アリスはそう言うと両手でスカートの裾を摘み、片足を引いてお辞儀をした。
甲板の端に立っている他のメイドロボもアリスとまったく同じタイミングでお辞儀をする。
ちなみにこの礼の仕方は'レヴェランス'または'カーテシー'というらしい。

「「ふざけるなっ!」」
それは奇しくも敵対していた両軍の指揮官が同時に叫んだ言葉だった。

第53話 量産機は雑魚では無い!

 ここで、王国軍共和国軍デウス・エクス・マキーナの配置について説明しておこう。
現在レイプトヘイムの右舷側に王国軍、逆の左舷側に共和国軍が陣取っている。
つまり、俺達はサンドイッチの具と言うわけだ。
普通に考えるなら、戦争をおっぱじめ様としている軍隊のど真ん中に割り込み、宣戦布告をするなんてのは正気じゃない。
やるならせめて双方の軍が戦闘で消耗又はどちらかが敗走したタイミングで宣戦布告し漁夫の利を得る戦いが望ましい。
消耗無しの軍隊二つと両面作戦なんて愚の骨頂ともいえるだろう。
ただし、それは普通の軍だったらの場合だ。
「両舷一階コンテナハッチ開放、 ジャベリ部隊を出せ」
「了解しました」
コンテナ側面にあるハッチが開く。コンテナの中は暗く、外からは何が出てくるか分からない。

「何か出てくるぞ!」
「機兵か…でも頭が無いぞ。それに足が……」
王国軍の様子を見ると、明らかに既知の機兵とは似ても似つかない敵の兵器を見てうろたえている。
コンテナから出てきたのは、全高5m程、箱型の胴体と逆間接の脚部、腕の代わりに付いた二連装30mm機関砲×2が特徴的な非人間型ロボだ。
正式名称は'RR2-P-Df01 ジャベリ'本来は基地防衛用に作った機体だが、今回のお披露目を派手にする為に用意した。
もちろんロボットのスペックで言えばロボットロマンの中では最下級に位置するロボットだ。
その分コストがすこぶる安く、プレイヤーが使う初期機体一機の値段で6機も買うことが出来る!
ちなみに簡易AI搭載型の無人機。
簡易AIは、命令された事は忠実にこなすが、応用力が無く処理も遅い。言っちゃ悪いが雑魚AIという奴だ。
ジャベリは足が遅い、紙装甲、安いと三拍子そろった雑魚機体だ。これはこれで可愛いんだがな。
それが両方のコンテナからぞろぞろと足を揃えてゾロゾロと大量に出て来る。左右あわせて200機ほど出撃させた。
兵隊たちには聞きなれない足音が響く。
「あれは、ゴーレムか?」
不安そうな声を上げる部下に指揮官は発破をかける。
「うろたえるなっ!見ろ!奴らの機兵は我らの機兵より小さく、足もまるで痩せこけた鶏のようだ!
 なんとひ弱な姿よ!それに歩兵がおらん、奴らはからは魔法が飛んでくることも無い!
 あんなもの我らが相手をすれば鎧袖一触!
 合唱魔法'業炎'準備!
 目標、所属不明の敵軍!」
「「「ハッ」」」
たぶん、共和国軍の方でも同じようなやり取りが行われたのだろう。双方の軍の円陣から巨大な火球が大量の浮き上がる。
「「放てっ!」」
指揮官の号令と共に大量の火球がレイプトヘイム目掛けて放たれた。

「そう来るのは分かっていた」
俺は出撃したジャベリに指示を出す為にディスプレイに指を走らせる。
もちろん出す指示は対空防御だ。
ジャベリ達は、すぐに二連装30mm機関砲を空に向け攻撃を開始した。
轟音と共に無数の砲弾が放たれる。
ジャベリの横から薬きょうが滝のように落ちていく。
ありがたいことに両敵軍共に炎の合唱魔法で攻撃してきた。
炎の合唱魔法はロボットロマンでよく使われていたミサイルやロケットに比べて圧倒的に遅い。
しかも炎であるが故に良く赤外線センサーに映るのだ。弾があたらないわけは無い。
ジャベリから放たれた曳光弾が吸い込まれるように次々に火球にあたる。
大爆発を起こして消えていく火球はまるで打ち上げ花火の様だ。
思わず「たーまやーってね」と呟いたのは仕方が無い事だと思う。

自慢の合唱魔法が空中で迎撃された事に両軍に戸惑いが走った。
「何だアレは!魔道具か!」
「しかし、あのように遠距離攻撃できる魔道具など聞いたこともありません!」

ここで二つの軍は、それぞれ別の判断を下した。それは…。
「総員突撃せよ!」
「迂闊に近づくな!遠距離から攻撃しろ!」

多分だが判断が分かれたのは、それぞれの置かれている状況のせいだろう。
もう引く事の出来ない王国軍は、死中に活を求めて突撃。
余裕のある共和国軍は様子見をかねた遠距離戦を選んだ。

なら先に王国軍のお相手をしないとな。
「全軍突撃ー!」
「「「ウォーーーーーーー!」」」
リランス王国軍の機兵達が鬨の声を上げながら突撃を開始した。
俺はそれを見ながら、次々にジャベリ部隊へ指示を下していく。
と言っても内容は簡単"一定の範囲内に入ったものを撃て"だ。
前世では完全に時代遅れと化した横隊突撃。そんなものが機関砲の群れの前に飛び出してきたら?
そんなものの答えは歴史が証明している。なすすべも無く撃ち倒され、無残な死体を晒すだけだ。
王国軍としては何が起こったか理解できなかっただろう。
レイプトヘイムへと突撃して行った機兵達がジャベリの一斉射撃により、轟音と共に一瞬で砕け散っていく。
「あああああああああああああああああああああ!」
「嘘だろ!?」
「何だあの攻撃は!クソッ引け!一旦引くんだ!」
引いたか。今の突撃で王国軍は約半数の機兵を失った。
これで王国軍は部隊再編の為に下がるしかない。
とりあえずこっちはこれで良いだろう。
次は共和国軍側だな。
一々部隊毎に指示しなければならないのがリアルタイムシミュレーションの大変なところだな。
まぁそこがゲームの醍醐味なんだが、指示する部隊が多くなると、どうしても手が足りなくなる。
あっちに指示出して、こっちに指示出してってやっている内に、指示を完了した部隊が勝手に強敵に攻撃して逆に壊滅するなんて事も良くある。
何度「ちょっおまっ何してくれちゃってるのよ!?」と言った事か……。
そういう意味でも二面作戦はリアルタイムシミュレーションの鬼門だな。
両軍が同時に攻めてこなくて助かったな。

「旦那様、共和国軍が接近してきませんが、どうしますか?さらにジャベリを前進させますか?」
艦長席に戻ったアリスが今後の対応を問う。
「いや、ここは持ってきた"ヘルラプター"を出そう」
「よろしいのですか?予定ではジャベリのみで殲滅する予定ではありませんでしたか?」
「ああ、共和国軍側が遠距離戦をしたがっている様だからな。そんな事させない」
相手がやりたがっている事をさせない。これが俺の戦術の基本だ。
「了解しました。ヘルラプターを出撃させます」
そう言うと共和国軍側にある左舷コンテナの二階部分のハッチを開けた。

今回使用している8m級部隊輸送用コンテナは5階構造で、それぞれの階にハッチ及びカタパルトが設置されており、
わざわざ一階に下りることなく出撃させる事が可能になっている。

ハッチが開ききると「ギシャー!」という雄叫びと共に60機のヘルラプター部隊は次々と飛び出していった。
出撃させる'ヘルラプター'についても説明しておこう。
正式名称は'RR2-P-St01 ヘルラプター'強襲用量産型ロボットだ。最大の特徴は恐竜のヴェロキラプトルをモデルとしてデザインされた事だろう。
いわんやゾ…っんん~いや、なんでもない。
兵装は腕部に装備させた20mm機関砲と鋭い牙と四肢の爪、
そして背中に搭載してあるスモークディスチャージャーがある。
もちろん、兵装は換装できるようになっている。
こいつも無人機であるが、ジャベリとは違いAIにB(ビースト)型AIを搭載している。
B型AIとは、読んで字の如く獣の本能を再現したAIの事だ。
ジャベリに搭載してある簡易AIとの違いは、状況への対処スピードが桁違いに早い。
その分、B型AIを搭載したロボットには簡単な命令しかできないのが玉に瑕だな。
例としてあげるなら、'あいつらを倒せ''あそこへ行け'といった事はできるが、'○○mの距離まできたら射撃開始'とか
'捕獲対象以外を全滅させる'などは出来ない。
ジャベリは交戦規定をキッチリ設定できるがその分とろい。
ヘルラプターが融通は利かないが突発的事態の対処が早いという感じかな。
さて、指示しないとな。

「新手か!また化け物か!撃て撃て!」
飛び出していったヘルラプター部隊は器用にジャベリの間を駆け抜けながら二手に分かれた。
二手に分かれたヘルラプターは、左右に別れ共和国軍の戦列を大きく迂回する。
「回り込まれるぞ!第三、第四フォメル隊はあのドラゴンもどきを足止めしろ!一般兵は足が止まった所を狙い撃て!!」
フォメル隊が、一斉に火球をヘルラプターの進路上にばら撒く。
しかし、その様子はヘルラプター達も見ており、ひょいひょいと避けていく。
獣の群れの様に密集して行動していながら一機も僚機にぶつかる事は無かった。
「「ギシャ!」」
左右に分かれた両方の先頭の一機が一声吼えるとスモークディスチャージャーを起動させ煙幕を張る。
後続のヘルラプターが次々に煙に突入し、共和国軍の目からその姿を隠す。
「煙幕とは小癪な!ええい!煙幕が噴出している先頭を狙え!業炎放てっ!」
「ハッ!」
「「「「【炎よ 舞え 舞え 舞え かの者の 元にて 狂い 咲け】」」」」
無数の炎弾が煙幕を噴出している先頭のヘルラプターに向かって放たれる。
共和国軍の兵士は優秀らしく、炎弾は煙が噴出している場所に向かって飛んでいく。
もちろん、攻撃を察知したヘルラプターがパージしたスモークディスチャージャーが転がっているだけだ。
「よしっ!…!?」
しかし次の瞬間、煙幕の量が爆発的に増えた。まぁスモークディスチャージャーは標準装備ですからね。
ほかのヘルラプター達が一斉にスモークディスチャージャーを使ったのだ。
そして、ヘルラプター部隊は向きを変えて共和国軍陣地へと突撃を開始した。
左右からの挟撃に共和国軍はそれぞれグローム部隊をヘルラプター部隊の正面に置いた。
「来るぞ!この距離なら避けれまい!撃て!」
正面に迫った煙幕に対し、グロームの開けた隙間からフォメルの杖が飛び出す。
「「「「【氷よ 彼の者 貫け】」」」」
見る見る氷の槍が形成され、射出された。
氷の槍はその航跡を残しながら煙幕に突っ込んだ。だが、槍が敵にあたった音がしない。
「上だ!」
煙幕を引き裂きながらヘルラプターが飛び出し、次々にグロームの頭上を悠々と超えていく。
「なんて跳躍力だ……」
おやおや、そんな感想なんて言っている暇はあるのかな?
そこからは完全に一方的な蹂躙だった。
飛び込んでいったヘルラプター部隊はフォメルを優先攻撃対象とし、攻撃を加えていった。
あるものはフォメルの肩に両足の爪を食い込ませて乗り、頭を噛み砕いた。
またあるものは、尻尾で足を掬い上げる様に払い、仰向けに倒れたフォメルの胴体を踏みつけ20mm機関砲をお見舞いした。
「そいつを放せ!!クソや…ぐぁ!」
フォメルを守ろうと振り返ったグロームも居たが、後続のヘルラプターからの銃撃+噛み付きで倒されていった。
中には恐怖に駆られて逃亡を開始する機兵も居たが、背中から首筋をガブリと食い千切られた。
「クソッ!歩兵を下げ、守りを固めろ!何とかしてあのドラゴンもどきを追い出せ!
 伝信兵!後方に連絡して援軍を要請しろ!
 もちろん現在の状況も説明してありったけの戦力を持って来いと伝えろ!」
「了解!」
ほう、もう切り札を出しますか…。じゃあこちらも一旦引こう。
ヘルラプター部隊にジャベリの後方まで移動しろと指示を下していく。
部隊から指示の確受信号を確認して、一度椅子に座りなおした。

第54話 なかなかすごい光景だな

 これからあいつらがどう出るか考えていたらアリスから通信が入った。
「旦那様、共和国軍所属と思われる空船が二隻、現空域に接近しつつあります。
 先行している空船をアルファと呼称。後続の艦をベータと呼称します」
「…そうか。奴らの事だから、レイプトヘイムに爆撃でもして来そうだな」
俺はそこで思考を止めて、指揮に集中する事にした。
「二隻は尚も接近。…アルファ、ベータ共に撤退した共和国軍の前に機兵投下しています」
俺はディスプレイを操作して、その様子を写した。
現れた空船は、搭載可能限界ギリギリまで機兵を搭載している為か、動きが異様に鈍い。
ふらつきながら何とか飛んでいる感じだ。
空船は増援の部隊を降ろす。
おろし終わると軽くなった船体一気に上昇させ始めた。
ちなみに降下した機兵はグローム30機、フォメル30機。
ヘルラプターの襲撃により減った戦力の補充には足りないが無いよりはましと言った所だろう。
「相手はもう一当てご希望なのかな?」
「敵空船上空約100mまで上昇。こちらに向かってきます」
今までのパターンから考えると爆撃か。
「対艦ミサイル用意、敵空船のドテッ腹があいたら底にぶち込んでやれ」
「了解しました。CIC、ミサイル発射管1番及び二番、対艦ミサイル装填。発射タイミングは指示を待て」
「了解。…一番二番対艦ミサイル装填完了。いつでも撃てます」
敵空船は、ゆっくりとだがレイプトヘイムの直上へ移動していく。
そしてタイミングを合わせるように共和国軍の反撃が始まった。
「全機、前進!」
共和国軍機兵部隊が鏃の様な陣形で進んでくる。鏃の先端部分に装甲の硬いグロームを固め、外側左右をドプル、そして真ん中にフォメルだ。
歩兵は、鏃の後ろに円陣を組んでいる。
「放てっ!」
「フォメル全機、狙いなど不要!ただ前にのみ放て!どうせ狙ったって当たらないんだ!飽和攻撃で足止めしろ!
 そうすりゃ空船の連中がやってくれる!」
「「「おう」」」
「走れ!道は空船が作る!」
共和国軍のそれぞれの部隊指揮官達が叱咤し、機兵達が駆け出す。
もちろん、俺の方も歓迎する準備は出来ている。
「じゃあ、こちらも左舷部隊全機前進!」
正面から相手してやろうじゃないか!
ジャベリを前衛と後衛に分け、前衛は共和国軍を攻撃対象に、後衛は対空防御に回す。
ヘルラプターは、敵が接近してきてから出す予定だ。
早速突撃してくる共和国軍とジャベリ部隊の戦闘が始まる。
左舷に配置しているジャベリが100機、その内40機を対空防御に回した為か、共和国軍がゆっくりと弾幕の中を前進してくる。
先頭のグローム達を見るとファードの街でやっていたように盾を二重にしたものを両腕に装備して完全に防御に特化した装備になっていた。
そろそろヘルラプターを再び突撃させようかと思っていたところに、メイドロボから報告が来た。
「アルファ及びベータ、左舷ジャベリ部隊の直上に入りました。両空船共にに下部ハッチの開放を確認!」
「一番をアルファ下部ハッチ、二番をベータ下部ハッチに照準!てー!!」
「発射します!」
レイプトヘイムの中央艦後部に設置されているミサイル発射管のハッチが開き、
大量の噴煙と共にミサイルが飛翔する。

二発のミサイルは、それぞれの目標へ真っ直ぐ飛んで行く。
レイプトヘイムからの攻撃を想定していなかったであろう二隻は、その自ら開いたハッチからミサイルを迎え入れた。
魔道爆球諸共大爆発を起こした。
二隻は木っ端微塵になり、戦場にその破片をパラパラと散らす。
自慢の空船を破壊された共和国軍は一気に恐慌状態に陥った。
「嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。ありえない。嘘だ。嘘だ。嘘だ。
 わが国の最新鋭装備である。空船が…やられるなんて」
「逃げろ…」
それは、共和国軍の鏃陣形の最後部に居たドプルに搭乗していた兵士が一言だった。
それを聞いた近くに居た機兵も呟いた。
「もう嫌だ」
「こんな奴らが、居るなんて聞いていないっ!」
圧倒的技術力に裏打ちされた最新兵器群。それが共和国軍の自信であり士気を高めていた要因だ。
ただでさえ見知らぬ兵器によってギリギリの精神状態で戦っていた兵士たちは、空船二隻が木っ端微塵にされた事により、
その自信も士気も木っ端微塵にされた。
恐怖は直ぐに伝播し、周りを巻き込んでいった。
「何をしている!逃げるな!戦え!」
そして一人、二人と逃げ始めると、その流れは一気に拡大。共和国軍は撤退とも言えない逃走を開始した。

逃走を開始した共和国軍を俺が見逃すはずも無くすぐに追撃指示を出す。
「機兵は全機逃すな。ジャベリ、ヘルラプター!"プロダクト・デュオ"だ!」
俺は、ディスプレイに表示されているヘルラプターのアイコンに触れメニューを表示する。
その中で一際目立つ項目"プロダクト・デュオ"を小気味良くタップした。
説明しよう!
"プロダクト・デュオ"とは、別機種量産型ロボット同士の合体の事である!!
指令を受けたヘルラプター達の目が光り、その場で一声叫ぶと走り出した。
走る先に居るのはジャベリだ。
ジャベリは胴体下部についているバーニアに火が入り、爆音を響かせながら機体を浮き上がらせた。
浮いたジャベリは足を伸ばして地面を蹴る。そして通常歩行ではありえない速度で前へ進みだす。
そのジャベリの後ろの軸線上にヘルラプターが着くと、ジャベリは最大出力で地面を蹴り、自らの機体を空中へ躍らせる。
空中でクルリと宙返りを決めると、脚部が折り畳まれ、腰部から連結ボルトが突き出した。
その間にヘルラプターが宙返りしているジャベリの下に入り込むと背中に搭載していたスモークディスチャージャーをパージした。
スモークディスチャージャーが装備されていたハードポイントからガイドレーザーが発射され空中に浮かぶジャベリとヘルラプターを結んだ。
ゆっくりとジャベリがヘルラプターの背中にあるハードポイント上部に着地。
ヘルラプターのハードポイントから連結ナット火花を散らしながら回転し、ジャベリの連結ボルトを飲み込んでいく。
そして連結ナットがボルトをすべて飲み込むと、一気にジャベリを引き寄せ、量産合体"ジャラプター"の合体は完了した!
ヘルラプターの機動力にジャベリの火力を持ち合わせた最強の機体の完成だ!(誇張です)
二機の機体のジェネレーターが直結され、余剰エネルギーが光となってジャラプターの装甲の下から漏れている。
合体が完了した事を誇るようにジャラプターは再び咆哮を上げた。

それなんてZiユニ…いや、なんでもない。
ほかのヘルラプターとジャベリ達も次々に合体していく。合体の大安売りだな。
合計60機のジャラプターが完成した。
「我が精鋭達よ!その武勇を思う存分見せ付けるが良い!」
「「「グゥルガァ!」」」
「行けっ!」
威勢の良い咆哮をあげ、ジャラプター部隊が駆け出す。
「うぁあああああああああああああああ!!」
ジャラプター部隊が一斉に走り出し、背部に装備した二連装30mm機関砲の射程距離に入った敵を次々に撃破していく。
そして、そう時間も掛からずに共和国軍機兵部隊は全滅した。



 一方、王国軍はどうなっているかなっと。
プロープからの情報によると王国軍の指揮官達は、せいぜい布で囲っただけの簡単な天幕の中で会議中の様だ。
全員がテーブルの前で難しい顔をしている。
「それで機兵部隊の被害は?」
「ハッ!大破が239機、中破が35機、小破及び損傷無しが339機です!
 現在部隊の再編を行っている所であります!」
「糞ったれが!!」
悪態をついたのは赤の貴髪だ。味方が無残にやられた結果にイラついているようだ。
「半数近くの機兵をやられたか……。奴等は何故今、攻めてこんのだ?まぁいい再編を急がせろ」
「ハッ!失礼します!」
方々から上がってくる報告は芳しくない。天幕に集まった指揮官の中には既にあきらめムードを漂わせている人間も居る。
しかし、傷だらけだが豪奢な鎧を着た壮年の男だけが、冷静にその報告を聞いていた。
そして報告を聞くとゆっくりと話し出した。
「幸いにも歩兵達は全員無事だ。やりようはある」
「本当ですか!?」
士官の一人が声に喜色を滲ませる。
「ああ、だがフレイム君達にはキツイ任務になるだろう」
「ウォードの親父。それは俺達にとっては最高の任務だぜ。任せてくれ」
それを聴いた赤の貴髪フレイムは、にやりと笑った。
「報告します!」
そこに、偵察に出ていた歩兵が共和国軍敗北の報を伝えに飛び込んできた。
「…そうか、共和国軍は敗走したか」
「はい、空船を撃破された後、撤退を開始した共和国軍をドラゴンもどきと鶏がらが…その、なんと言いますかくっついてあっと言う間に。
 敵機兵部隊は全滅、歩兵たちも散りじりになりながら逃走した模様です!」
「そうか。共和国のやつらが敗北したと言う事は次は我々だ。
 いつ来てもおかしくない。全員警戒を厳にしつつ、準備を急がせろ」
「ハッ!」

じゃあ、お言葉に甘えて攻めるとしようか。
ディスプレイに表示されている右舷側ジャベリ部隊のアイコンに触れて指示を出す。
すると、すぐに右舷に展開していたジャベリ部隊がガッシャガッシャと前進を開始した。

「敵!前進を開始しました!」
「来たか。作戦は伝えたとおりだ!我が国の興亡はこの一戦にあると思え!
 各員の奮闘を期待する!行け!」
「「「ハッ!」」」
ウォードと呼ばれた将軍が言い切ると、王国軍は一気に動き出した。
「合唱魔法'業炎'準備!
 目標、所属不明の敵軍!
 さっきとはちょっと違うぞ!
 放て!!」
最初の攻撃で悉くジャベリ部隊に業炎を無残にも全て撃ち落とされた歩兵部隊の隊長が叫ぶ。
「「「ハッ」」」
すると先ほどの攻撃とは比べ物にはならない数の火球が現れた。
「うぉ多!」
思わず俺も声を上げてしまった程だ。
「行けぇ!喰らえ!」
大量の火球は、放物線を描いて飛んでいく。
しかしジャベリの対空防御を破れる訳もなく全て空中で爆破されていった。

「なかなかすごい光景だな」
その光景を見ていた赤の貴髪がポツリとつぶやいた。
「一人一人魔力の少ない我々の悪あがきだと思ってください」
それに答えたのは、同じ天幕でウォード将軍の後ろにいた副官の男だ。
「円陣を単陣にして、業炎の威力を最低限で放つ。これなら大量に業炎を放つ事が出来ます。
 そして弾幕に相手が気を取られている隙に……」
「ああ、そこからは俺達の仕事だ!行くぞオメェら!あのふざけた野郎どもをぶっ飛ばす!
 赤の貴髪専属部隊ダンシングフレイム出撃だ!」
赤の貴髪の後ろで控えていた、真っ赤な軽装鎧を着た集団が一斉に右手で左胸を叩いて答えた。

第55話 あなたには生きていて貰わないと困ります。

 走る走る走る。
赤い髪の男を先頭に赤い軽装鎧を着た集団が走る。規模としては小隊、30人前後位の部隊だ。
そして魔法を使っているのだろう、常人ではありえない速度で走っている。
彼らの目標は現在一斉に放たれる合唱魔法業炎を迎撃しているジャベリ部隊。
「総員構え!一般の奴らが必死に作ってくれた隙だ!無駄にすんじゃねぇぞ!」
「「「応!」」」
当然ジャベリも敵兵が近づいている事はレーダーで感知している。しかし今は業炎の迎撃で二連装30mm機関砲は手一杯だ。
そもそも二連装30mm機関砲は対人用ではないけどね。二連装30mm機関砲を人相手に使ったら血煙になる。
だからもちろん装備させてますよ。対人兵器使用をね。
最前面で戦っているジャベリが胴体の上についている筒を束ねた様な器具を赤の貴髪に向けた。
束ねられた筒の一つからボフッといった感じに煙が噴出し、それは飛び出した。
本来ならそれを発射した瞬間にシポン!とか音がする筈なのだが二連装30mm機関砲の爆音でかき消された。
「何か来るぞ!結界を張れっ!」
目敏く何かが飛んでくる事に気がついた赤の貴髪は、後続へ警戒を促すと結界を張る。
赤の貴髪が結界を張った瞬間、それは彼らの頭上に到達した。
その途端それはと破裂し、内に秘めていたニードルをばら撒く。
「ぐっ!」
「ひぎゃ!」
「いたひぃぃぃぃぃ」
赤の貴髪の警告もむなしく何人かの隊員がニードルに貫かれ、悲鳴を上げながら大地を転がる。
「進め!止まることは許さん!」
しかし、そんな光景を目にしても結界を張った他の隊員達はちらりと目をやるが、そのまま放置して先を急ぐ。
あらら、何人かは残って救助に入ると思ったんだがな。意外にキッチリと統制が取れているようだ。
それからもジャベリの対人兵器が雨あられと降って来るが、全て結界によって防がれた。

そして、ジャベリがダンシングフレイムの射程に入った。
「野郎共!ようやくここまで来たぜ!好きなだけぶっ放せ!」
「おおおおおおお!」
「喰らえや!おらぁぁぁぁぁ!」
「「「【我は 願う 燃えろ 砕けろ 炎に よりて かの物を 滅せよ】!」」」
よほど鬱憤が溜まっていたのだろう。以前Sクラスの連中が撃って来た業炎よりはるかに凌ぐ強力な炎弾が一人一人から放たれる。
炎弾は迎撃で手一杯になっているジャベリに向かって飛び被弾した。
俺のロボットが初めて撃破された瞬間だった。
幾つものジャベリが胴体を砲身を脚部を破壊され、轟音を立てて倒れた。

「「「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」」
「赤の貴髪専属部隊ダンシングフレイムがやったぞ!!」
「業炎を絶やすな!ダンシングフレイムを援護するんだ!!」
「機兵部隊前機突撃!この隙の逃すな!」
今まで手も足も出なかったジャベリを倒した事によって、いやがおうにも王国軍の士気が上がる。

 あちゃあ!ジャベリを10機程持ってかれちまった。
じゃあ、何機か優先目標を対空防御から対人に変えるか。
そう思いディスプレイを弄っていて、ある大問題に気がついた。
優先目標の設定に'対人'が無い。
よくよく考えてみると当然だった。ロボットロマン2はロボットゲームだ。
人なんて、コックピットに入っていなければミジンコみたいなもの。
そんな物に対してAIの優先目標設定など設定されるわけ無い。
どうしようか。
とりあえず何機かは近づいてくる機兵用に優先目標を'対機動兵器'に変えておこう。
「しゃーない。ジャラプターを右舷の増援に回すか」
そう思い、左舷に展開していたジャラプター部隊に指示を出そうと指を動かす。
「旦那様、ジャラプター部隊はもうすでに'稼動限界'に達しています。増援は無理かと」
「あっ!」
アリスに注意されて思い出した。
'稼動限界'
それはプロダクト・デュオによって限界以上の力を発揮した結果、機体に無理が掛かり自らが自らを破壊してしまい動けなくなる事だ。
ぶっちゃけると、背中に重いジャベリを背負って走り回ったせいでヘルラプターの膝間接がもう限界なのだ。
ジャラプターにカメラを向けると、何機かおじいちゃんみたいに足をプルプルさせている。
これじゃ、無理だわな。
「そうか。じゃあどうするか。右舷側にもヘルラプターを出すか」
「お待ちください。そのお役目は我々にお任せください」
「へ?」
珍しい種類のアリスの進言に驚く。
「繰り替えさせて頂きます。そのお役目は我々にお任せください」
「なんで?」
「今回我々の初陣だと言うのにまだ暴れていません」
何とまぁ意外とバトルジャンキーなんですねアリスさん。
「わかった。ならアリス、敵ダンシングフレイムを撃破するんだ」
「イエスマスター」
そう言うとアリスは一礼して、艦長席を立った。

戦場では、ダンシングフレイムが大暴れしジャベリ部隊を削っていく。
「これなら勝てるぜ!フレイム隊長!」
「おうよ!俺たちに勝てる奴等なんていねぇぜ!だが油断するな、何が出てきてもおかしくない!」
「了解!」
そんな会話にある声が割り込む。
「その判断は正しいと思います」
「!」
「誰だ!」
爆音轟音その他諸々の大音響が響く中その声は明確に伝わる。
フレイム達が声の方向を向くと、そこにはフレイム達と同数のメイドロボたちが整列していた。
「改めて自己紹介させていただきます。私は旦那様にお仕えするメイド。
 名前はアリス・レギオンと申します。そして同じく旦那様にお使えしているメイドロボ一同です」
アリス達は、艦上で宣戦した時と同じくカーテシーを行う。
「今現れたって事は何かい?あんたらが俺達の相手をしてくれるってのか?」
「そのとおりで御座います」
「ははっ!メイドゴーレム風情が俺達にかなうと思ってんのか?」
「そのとおりで御座います」
赤の貴髪の挑発にアリスは気にした様子も無く返す。
「ククッ!言うじゃねぇか!オメェら行くぞ!手加減なんてすんじゃねぇぞ」
「そうでないと困ります」
そう言うとアリスは大きなハルバートを何処からか取り出した。
他のメイドロボ達もバリエーション豊かな武器、ブロードソード、刀、フライパン、長刀、モップ、包丁、なべのふた等を何処からか取り出す。
中には完全に武器でないものも混じっているが気にしない。
「参ります」
アリスはクルリとハルバードを一回転させ、穂先を赤の貴髪に向けると悠然と駆け出した。
他のメイドロボ達も、それぞれの武器を掲げアリスに続く。
「接近戦で我らダンシングフレイムに勝てると思ってるのか!」
「はっ!そんなおもちゃで相手しようってのか!笑わせる!」
赤の貴髪は余裕ぶって結界を張った。
「高エネルギー障壁を確認。バリアの一種…ですか」
「なっ!?」
アリスは結界が張られているなど意に介さない様にハルバードを振り下ろす。
ハルバードは意図も簡単に結界を割った。
ガラスが割れるような音を立てながら結界が崩壊していく。
「バリアとは、割られるために存在するのです」
赤の貴髪は結界が破られた瞬間に後退し、ハルバードの一撃を避ける。
「糞っ!全員攻撃は受けるな!避けろ!」
しかし、その警告も遅く、何人かの隊員が倒されていた。
「チッ」
その様子を見た赤の貴髪は舌打ちすると、体勢を立て直し自分の戦闘に集中した。
「【我が身を 放て】」
以前ミレスが使っていた身体強化(?)の魔法を使い、一気にアリスに接近する。
「俺達をただの魔法使いだと思うなよ!」

ブンッと空気を震わせながらアリスの顔面を狙ったパンチを繰り出した。
アリスは首を傾けただけで避ける。
「まだまだぁ!【力よ 宿れ】【疾風の 如く】」
それから赤の貴髪のラッシュが始まった。赤の貴髪のラッシュは速く、まるで手が何本もあるように見えた。
けれどアリスには一発も当たらない。全て紙一重で避けていく。その様子はまるで幼子をからかう蝶の様だった。
「やはり。そうですか…残念です」
アリスはそうつぶやくと、距離をとった。
その声音から落胆を聞き取った赤の貴髪が噛み付く。
「ああ!何が残念だってんだ!」
「あなたの戦いは、まるで子供の喧嘩の様です」
「何だと!」
「パンチ一つとっても全くなっていません。魔法使いが近接戦闘などするものではありませんね」
アリスがそう指摘するのも無理の無い事だ。この世界では魔法がある種、究極の戦闘術として流布されている。
そのせいで近接戦闘の基礎が伝わっていない。先ほどの攻撃も魔法によって強化された体で闇雲に攻撃しているだけなのだ。
そんなものはアリス達には通用しない。
「じゃあこれならどうだ!【我は 願う 燃えろ ……】」
自慢の接近戦が通用しないとわかると直ぐに戦術を魔法による攻撃に切り替えた。
「呪文の詠唱など、させるとお思いですか?」
アリスは、彼の詠唱が終わる前に一気に接近してハルバードを振るう。
赤の貴髪は詠唱を中断し、回避に回る。
「なろぉ!」
赤の貴髪にあたるはずだった、ハルバードが大地にめり込み盛大に土を飛ばす。
するとアリスはハルバードを放棄して、赤の貴髪に殴りかかった。
「パンチとはこう打つのです」
先ほど赤の貴髪が打ったパンチとは比べ物にならない程鋭いパンチを叩き込む。
「うっ、がっ、げふっ!」
ワンツー、ストレート、アッパー、ボディブロー、フック、プロボクサー顔負けの拳撃を次々と叩き込むメイドロボ。
最後に後ろ回し蹴りでフィニッシュ、赤の貴髪は面白いように空中を飛んで落ちた。

アリスがチラリと他の様子を確認すると彼の部隊で立っている人間は一人もいなかった。
驚いたことに、彼の部隊に死人は出ていない。
しかし、殺されていた方が彼らからしたら良かったのかもしれない。
貴髪専属部隊という事は軍の中でエリート中のエリートで構成された部隊だと思う。
それが成す術も無く敗北した。
彼らのプライドはズタズタと言うレベルを超えている。
ある意味、武器で倒された隊員達は、まだましだったろう。
かわいそうなのは武器以外で倒された隊員達だ。
モップの柄で男の急所を打たれ、あるものはフライパンに横顔を思いっきり張り飛ばされ、さらには両手に持ったなべのふたで思いっきりはさまれた者もいた。
魔法を使わないメイドロボに禄に手も出せないで倒されたのだ。しかも冗談のような道具で。
メイド恐怖症になること請け合いだろう。

「ぐっ殺…せ!」
倒れたまま赤の貴髪がうめく様につぶやいた。
「あなた達には生きていて貰わないと困ります」
「どう…言う…ことだ」
「あなたには知る必要の無いことです。それでは私達はまだ仕事がありますので失礼します」
アリスは、落ちていたハルバードを拾うと他のメイドロボ達と共に王国軍機兵部隊に向かって走り出した。

それからの戦いはあまり書くことが無い。
精神的支柱だったダンシングフレイムが倒された事で王国軍に動揺が走り統制が取れた動きが出来なくなった。
そこにアリス達が突撃し、蹂躙した。
気がつけば戦場で立っているのは、デウス・エクス・マキナ所属のロボットしかいなかった。

「旦那様、状況終了しました」
「わかった。この辺一帯にある機兵の残骸を回収。
 その後、次の目標へ攻め込む」
まだ、戦いは始まったばかりだ。

第56話 うん、まぁ。つらく苦しい戦いでしたね(棒)

 うん、まぁ。つらく苦しい戦いでしたね(棒)。
 平原での戦いの後、俺達はさらに王国、共和国両国の軍事基地を複数襲撃した。
 もちろん、空から襲撃されるなんて両国共に考えておらず、あっという間に制圧、基地内にあった物資を全て強奪、その後軍人達を追い出して基地を破壊した。
一連の戦闘は、なるべく人を殺さないように、尚且つ派手に勝つ事を目標に行動した。
 何故殺しを控えたのか?それは俺が突然人道主義に目覚めたわけじゃない。
それは、平原での戦いの様子を語る人間を多くする為だ。最初は、強力なロボット一機で王国軍と共和国軍を蹂躙してやろうと思った。「やめろぉ!やめないと駆逐するぞ!」ってな具合でな。
 しかしよくよく考えてみると、それはまずい事だという事が分かった。俺の最終目的は、ミレスを最前線へ送られないようにする事だ。
 もし、ロボット一機で蹂躙したとしよう。その情報は、国防を司る王都や首都にある司令部に送られる。だが司令部に'たった一機の所属不明機兵に蹂躙されました'なんて情報が来てもその報告を受けた軍部の高官がその話を信じられるだろうか?
責任逃れをしようとウソの報告をしたか、狂ったかと思われるのが落ちだ。せいぜい強力な敵が居ると判断してこれまで以上の増援を送る事になるだろう。それにミレスが含まれてしまえば、俺は何の為に戦ったのか分からなくなってしまう。
 だからこそのあの戦いだ。
 分かりやすい敵対組織(デウス・エクス・マキーナ)を用意し、わかりやすい脅威の最新技術(レイプトヘイム)用い、分かりやすい戦力(大量の量産型ロボット)を使った。
 そして、その戦いを報告し、それぞれの国に危機感を煽ってくれる者が必要だったのだ。
'王国(共和国)を相手に戦っている場合ではない'と'より強力な敵が現れた'と。赤の貴髪を殺さなかったのはこの為だ。
 軍司令部にいる頭の固いお偉いさんのを動かすには、階級の低い人間が報告するよりは、階級の高い人間が報告したほうが真面目に受け取られる。
それは何処も同じだろう。
 それに、その戦いを知るものが多ければ多いほどその情報は漏れる。どんなに情報統制しようとも前線で戦った一兵卒までは制御しきることは出来ない。家族に内々に、酒に酔った勢いに、情報を売る為に彼らは語るだろう。そうして、国民の不安を煽り、国に対処するように無形の圧力を掛けるのだ。
 最後にダメ押しの両国内の砦や軍事基地の襲撃。これにより両国の戦争をする余裕を奪い、有形の圧力にした。
 ちなみにアリスに調べて貰った結果、戦力的に共和国の方が上だったので、共和国の基地を余分に襲撃しておいた。素材おいしいです。
近いうちに何がしかの動きが両国で出てくる事だろう。

 「お疲れ様でした。旦那様」
「ああ、ご苦労さまアリス、君達も帰投して、ゆっくり休んでくれ」
「了解しました」
 今回の戦いで大活躍したアリスの映ったディスプレイが消える。
 俺はコマンダーモードを終了させて、トレーラーのキャビンをいつものくつろぎの空間モードへと戻した。
窓に目を向けると既に装甲シャッターは上がり、星空が見えていた。かなり長い時間ここに座りっぱなしだったな。
「お疲れ様。兄さん」
『お疲れさま。すごい戦いだったわね』
リクライニングチェアからソファへと戻った椅子に倒れこみながら答える。
「お疲れ様だ。ルーリ、クリシアさん。あ”~づがれだー」
ルーリも俺に付き合って徹夜してサポートしてくれたから疲れているだろうに、そんな事おくびにも出さずに微笑んでいる。
『大体二日徹夜してたんだから当然よ。ゆっくり休みなさい』
「ああ、じゃあ後の事は頼む…と言いたい所だが俺にはまだやる事がある。ルーリとクリシアさんは先に寝ててくれ」
 俺は、プライベートベースへのゲートを開き、最後の仕事をしに行いった。


 夜が明けた。今日はミレス達Sクラスの最後の試験休み。
 俺は、トレーラーのそばで膝立ちさせているグランジュのコックピットで最後の各部チェックを行なっていた。
 するとトレーラーの下から元気の良いミレスの声が響いた。今日機兵を引き渡すから来るように連絡しておいたのだ
「おはよう!お兄ちゃん、精霊様。へ~これがお兄ちゃんのグランゾルデ?」
 挨拶にルーリが含まれて居ないのは、ルーリがここに居ないからだ。申し訳ないが黒髪達を連れてプライベートベースに行き、修行の面倒を見てもらっている。別にミレスが意図的に無視しているわけではない。
「おう、おはよう。そうだ。かっこいいだろう!」
『おはよう。それと私のことはクリシアでいいわ』
「わかりました。クリシアさん」
 操縦席から顔を出すとミレスがグランジュの隣で膝を突いているグランゾルデを珍しそうに見ていた。
「ミレス、ちょっとグランジュのコックピットまで来てくれ。いろいろコイツについて説明したい」
「わかった~」
 グランジュの装甲に足を掛けながらミレスがゆっくりと上ってくる。
 なれた機兵乗りなら飛ぶような速度で上ってくるがミレスはまだまだその域には達しては居ないようだ。まぁ慣れない機体だから当然か。
 ひょいと操縦席に顔をのぞかせるミレス。うん、今日も太陽光を浴びてプラチナに輝く髪が美しいな。
「来たよ。お兄ちゃん。うわ~グランジュの操縦席ってこんなのになってたんだ!」
 現行の機兵とはあまりに違う内装にミレスは目を輝かせる。
「良く来た。それじゃあ俺に代わって操縦席に座ってくれ」
「は~い」
 ごそごそと狭い操縦席を移動してミレスと位置を入れ替わる。
 俺は、グランジュについての説明を開始した。
「俺の力は前に説明したよな」
「うん、材料さえあれば機兵を作ったり改造したり出来る能力だよね」
「ああ、簡単に言うとそうだ。そしてグランジュはその力で改造した機兵だ。元々は今攻めてきている共和国軍の最新型機兵グローム」
「何でお兄ちゃんがそんなもの持ってるの!?うちの国のボルドスだって手に入れるのは大変なのに!」
 軍用の機兵は通常の手段では手に入らないのは、この世界でも同じか。
「ファードの街が襲われた時にぶっ倒したのを鹵獲したと前に言ったろう。それは今はいい。
 それでだ。この機兵には俺の能力によって現在何処の国でも使われていない技術で強化されている。
 それが、この国を含む外部の人間に知られるのは困る。俺の優位性が無くなるからな。なので」
「なので?」
「頭部と胴体をブラックボックス……俺以外が開ける事が出来ないように再び改造した。
 そして、ある程度怪しまれないように手足は普通の機兵の物に換装してある。交換も可能だ。その分弱体化してしまったが、それはしょうがないな。
 普通の軍用機兵より3割り増し程度の出力に落ちちまった」
「それでも十分すごいよ。お兄ちゃん」
「ん?けど、俺が決闘の時に見せた装備やら何やらは使えなくなってるぞ」
「そんなものがついた機兵なんて、取り上げられちゃうよ」
 それもそうだな。
「んで、弱体化したグランジュに対して俺は危惧したわけだ。いざという時は大丈夫かと。
 それである武装を追加しました」
「どんな武器なの?」
「ああ、全距離対応型可変武装ユニット'ジェイド'だ」
「全距離対…って、何なのそれ?名前だけ聞いただけじゃどんな武器か分からないよ」
「まぁそうだろうな」
 俺は身を乗り出して、操縦席の側面に付けてあるタッチパネルを操作して、黒いケースの様な物を表示した。
「これがジェイドなの。機兵用の剣の箱にしか見えないよ?」
 たしかにジェイドはパッと見、横に長い凹凸のついたケース。前世の世界の人間が見たらライフルケースだと思うだろう。側面に勾玉の形に削った魔晶石をはめ込んであるのが特徴だ。
 もちろん、ただのライフルケースな訳が無い。読んで字のごとく、遠距離ではスナイパーライフルになり中距離では魔術杖になり、近距離では各種近接兵器に分離変形することが出来る優れ物だ。まぁ、火器系への変形は現在は封印してあるが。
俺がこの武装を選んだのは、ルーリとの戦闘でミレスが多くの武器を使い分けていたのを見ていたからだ。
ミレスなら戦況にあわせて最適な武器を選び戦うことが出来るだろう。
元ネタは不幸な乙女座女主人公が乗ったあの機体の武装だ。

「…すごい」
 ジェイドについて一通り説明するとミレスは食い入るようにパネルを覗き込む。
タッチパネルの操作の仕方を簡単に教えると、パネルに映っているジェイドを次々と変形させていった。夢中になって、タッチパネルとフリックしたりタップしている姿は微笑ましかったが時間が無い。
「肝心のグランジュの操作の説明がまだなんだ。いったん操作をやめてくれ」
「えっあっ!ごめんなさい」
 正気に戻ったミレスが顔を真っ赤にして謝った。ああ、耳まで真っ赤にしちゃって。
「いや、いい。気に入ってくれて何よりだ」

 一通り説明した後、ミレスをグランジュのパイロットとして登録する。
「ミレスをグランジュの操縦者として登録する。さっきのタッチパネルに手を乗っけてくれ」
 俺はタッチパネルを操作して操縦者登録画面を呼び出す。画面には右手のマークが浮かび上がる。
「わかった」
 ミレスは素直にタッチパネルの上に手のひらを乗せた。するとタッチパネルの上のほうから光のラインが現れ、手のひらを読み取るように下に移動していく。光のラインのラインが画面の下まで到達しピーっという音がして操縦者登録は完了した。
「ほい、終了。これでグランジュは俺か、ミレスしか乗ることが出来ない」
「でもそれじゃあ、整備の時とか大変じゃない?」
 実際、機兵の整備をしていて、その機兵を動かす事は良くある。ちゃんと直ったかその箇所を動かしてテストするなどは、最たるものだ。
「う~ん。そりゃそうなんだが、グランジュにつぎ込んだ物を考えるとそれくらいの不便は我慢してくれとしか言えないな。
 すまないがその度にミレス自身が動かしてくれ」
「うわ~結構大変だね。まぁこれだけの機兵を貰っちゃったら当然かな」
「じゃあ次は、外に出て時間も無いし実際に動かしてみるか」
 こうしている間にも、ミレス達が学院に帰る時間が刻々と迫ってくるのだ。時間は無駄には出来ない。
「りょーかい!」
 俺は、操縦席から飛び降りて、グランジュの前へ移動する。
 操縦席のハッチが閉まる。そしてグランジュの魔晶炉に火が入りモノアイが輝いた。グランジュの四肢に力が漲っていく。
「すごい!すごい!すご~い!何これ!本当に私が機兵になったみたい!」
 網膜投影に驚いてモノアイがきょろきょろと左右に動くのが可愛いな!やはりモノアイは正義だ。
「じゃあゆっくり立ってみようか。見え方が変わってるから気を付けろよ!」
「は~い」
と、元気の良い返事をしたルーリは、グランジュをゆっくりと立ち上がらせた。
「どうだ?何か問題はあるか?」
「ううん!何も無いよ!それにしてもこの機兵すごいよ!さすがお兄ちゃんが改造した機兵だね!」
グランジュからミレスの弾む声が聞こえ、俺はなんともくすぐったい気持ちになる。
「当然だ。これから街の外に出て試し乗りをするぞ」
俺はそう答えると、愛機グランゾルデに乗り込んだ。
「やったぁ!お兄ちゃん、試合してくれる?」
「もちろんそのつもりだ。ジェイドは俺のトレーラーの上に置いてある。持って行け」
「はーい!」
ミレスは大きな声で返事をした。

第57話 兄妹のふれあいは模擬戦で

 キリンカの街の東門をくぐり、荒野へ出る。
 練習場所は、ミレスとルーリが決闘したあの場所だ。まだ周囲にはあの戦いで付いた傷跡が、そこかしこに残っており、この間の激戦を今もなお色濃く示している。
「さて、ミレス。早速試運転と行こうか。まずは一通り動かしてみよう。それで不具合が無ければジェイドのテストだ」
「はい!」
 ミレスの返事には、新型の機兵に浮かれつつも真剣さを感じさせた。

 グランジュが歩く走る跳ぶと基本的な動作を見てきたが問題なさそうだ。ノーマルな手足に戻したから、何か不具合が無いかちょっと心配だった。
 問題があるとしたら、ミレスの操作だと機兵の足への負担が少々多いといったところか。それはまぁ俺の目が厳しすぎるからだろうか?
「クリシアさんはどう見る?」
 操縦席で軽く腕を組みながら、左手の契約の石に居るであろうクリシアさんに話しかけた。
『やっぱり、歩き方がなってないわ。あれじゃあ遠征で苦労するわよ』
 俺より評価が厳しかった。
「しかし、今の時代機兵を歩きで輸送するなんてあまり無いんだがな」
『何言ってるのよ。世の中は何が起こるかわからないわ。その時大変な目に遭うのはあの子なのよ。だから甘やかしちゃだめ』
「さいですか」
 クリシアさんは、俺に変わって歩き方の指導を開始した。クリシアさんの指導は、微に入り細を穿つが如く丁寧に、しかし精神をバキバキへし折る魔性の指導。
 何度俺の心がへし折れた事か。そのおかげで俺も機兵の負担が最小限になる動き方をマスター出来たのだが。
『何やってるの?膝は常に柔らかくしておきなさい。ほら、無駄に足音立てないで。足音がするって言うのはね、足に無駄な力が入っている証拠よ』
「はいっ!」
うん、がんばれミレス。

『まぁ時間も無いし、この位で勘弁してあげましょう』
「はぁはぁ。はっはい。はぁ」
クリシアさんの歩き方講座で、すでに息も絶え絶えにミレスは答えた。
「あ~、まだこれからジェイドのテストもあるんだが大丈夫か?」
「ごめっ。はぁ。お兄ちゃん。ちょっと休ませて」
たかが歩く練習といっても馬鹿にしてはいけない。なれない歩き方を長時間続けるのは意外にしんどいのだ。それが仮想の体であってもだ。
「わかった。ちょっと休憩しようか」
「ありがとう。お兄ちゃん」
 俺がそう言うとグランジュはジェイドを置いて膝をつき、待機状態に移行した。
 そうだ、この機会にちょうど良いから通信機の事も教えておくか。
 俺は操縦席についている通信機を操作してグランジュへ繋げた。
「なぁミレス」
俺の網膜にウィンドウが表示され、ミレスが映る。
「わっ!何これ!お兄ちゃん!?ちょちょちょ!見ないで!」
 突然目の前に映し出された俺にミレスがビックリしている。ちょうど気を抜いていたのか服が少しはだけており、手で仰いでいたとこだった。俺に気づいたミレスは、大急ぎで服を元に戻して、真っ赤な顔で抗議した。
「ははは、すまんミレス。通信機について教えてなかったからな」
「通信機って何?」
「通信機って言うのはな、遠くと話すことが出来る道具だ。今俺達が話しているのも通信機を使っている」
「はぁー。便利な魔道具があるのね。…ってそれじゃあ!」
 魔道具じゃないんだがな。まぁその認識でいいか。
「ああ、これから俺と離れることになっても通信機を使えば話すことが出来る」
「やったぁ!これでいつでもお兄ちゃんとお話出来る!」
 ミレスの表情は喜色にあふれ、今にも踊りだしそうだった。
「けど、毎日とかは駄目だぞ。一応これも秘密だ。せめて週一位にしてくれ」
 その様子に苦笑しながらそう言うと、ミレスはあからさまに不満そうな顔をした。
 操作方法を教えながらも釘を刺す。一応制限しとかないと、毎日いや、下手したら朝昼晩、ついでに機兵の授業の実況までしかねない。

 一通り操作方法を教えた後にふと、聞きたいことがあったのを思い出し質問した。
 「ああ、そうだミレスに聞きたい事があったんだ」
「何?」
 ああ、コテッと首を傾げて可愛いな!おい!いやいやいや、今はそんなこと考えている時じゃない。
「いやね、ミレスがどんな戦闘技術を習っているか気になってね」
 俺は、ミレスが以前ハリエッタと喧嘩していた時に気になっていた事を聞いた。
「ああ、それなら……」
 ミレスの話をまとめると、前にダーム学院長に聞いていた事と大差ない内容だった。
 基本的に戦闘は強大な魔力に任せた砲撃戦または、魔力に任せた身体強化による接近戦。教えられることは双方共に強力な魔力が必要となる呪文ばかり。魔術の使い方や体の動かし方などは殆ど教えられていないそうだ。

 これで俺の疑問に答えが出た。

 俺が思うに戦闘技術とは、最小限の力で最大限のダメージを相手に与える事を目指す技術だと思っている。しかし学院はそうではなく、高火力高燃費の魔法を教え、尚且つ集団行動を基礎とした戦い方を教えていた。それが全部間違っているとは言わないが、俺は釈然としなかった。
 しかし'学院は貴髪自身に戦闘技術を教えたくない'と考えると納得できる。
 前に噂で聞いたが、昔大隊を貴髪一人で壊滅させた事があるらしい。それが脚色された噂だとしても中隊クラスは壊滅させることが出来るだろう。
 貴髪は強力な大砲なのだ。しかも人間型の大砲だ。
 もし俺が貴髪を運用するとしたら単独で敵陣の背後や横に潜ませ、戦闘が始まったら敵の思わぬところから高火力の攻撃を叩き込ませる。ちょっと考えればわかることだ。軍上層部がそれを分かっていないとは思えない。しかし実際に王国はその様にはしていない。貴髪に専属の部下を付けて部隊として運用している。これでは、敵に居場所を宣伝しているようなものだ。そこから察するに国の上の連中は貴髪を恐れている。正確に言えば貴髪の裏切りか。だからこそ、学院ではわざとお粗末な戦闘技術を教え、貴髪を碌な戦闘技術を持たない砲台として教育している。
 もし、貴髪が裏切った時に魔力を枯渇しやすくし、強力な魔法が使えない距離で多勢で囲み、小細工なしで戦う為だ。きっと貴髪専属部隊とは、対貴髪暗殺部隊を兼任しているんだろう。常にそばに居れば癖や思考を知ることが出来るからな。
 まったく、この貴髪達も不幸なもんだ。常に自分を殺す任務を受けている人間に囲まれているんだからな。
 …そう言えば、赤の貴髪の部隊は真っ赤な鎧で部隊を統一していたな。もしかしたら、それは味方の部隊からの魔法攻撃の的になる為かもしれないな。鹵獲して白く塗られたジ○かよ。
 ははっ、ふざけるなよ!俺の妹をそんな風にしてたまるか!しかし、どうする?その事を今教えるか?いや、そんな事をしたらミレスが人間不信に陥る可能性がある。それに王国の思惑が貴髪に知られていると感づかれると厄介だ。だが教えないままだったら、上の連中に良い様に使われるだけだぞ。ならとりあえずは……。

「ミレス。これから俺の言うことを心して聞いてくれ」
「う、うん」
 突然俺の雰囲気が変わったことに動揺したミレスが思わずうなずく。
「はっきり言って、学院の教えている事は間違っている」
 俺がミレスに小細工を使った戦い方を教えよう。それも秘密裏に。奴らの裏をかける様に。
「そんな馬鹿な事言わないでよ。そんなわけ無いじゃない。お兄ちゃん。いったい何処が間違っているの?」
「しかし、ミレスの話を聞いていると学院は高燃費高出力な魔法ばかり教えている」
「それの何処が間違っているの?敵なんて大きな魔法で一発で倒せばいいじゃない」
 まぁそういう考え方もある。しかし……。
「じゃあ、魔力の消費を極力抑えながら戦うことは出来るか?魔力が切れた時の事は考えているか?魔力強化なしで徒手空拳で戦うことは出来るか?」
「えっえっいきなりそんな事言われても」
「じゃあ一人で戦う時の事は考えているか?いや、教えられたか?」
「えっ!?それは…あんまり無いけど……。でもどんな攻撃でも跳ね返せる結界魔法を教わったよ。使うと結構疲れるけど」
 下手したらそれも貴髪の魔力を削る為にわざと効率の悪い魔法を教えられている可能性があるな。
「やはりそんなとこか」
それでは駄目だな。
「っそ、それよりそれよりお兄ちゃん。十分休憩したからテストの続きをしようよ」
「ん?ああそうだな」
 後でそのミレスの考えと改めさせると決意しつつ、俺は再び試し乗りを始める為に魔晶炉を起動した。

 グランジュの試し乗りとジェイドの変形及び試し撃ちが終わり、昼食をとった俺達は機兵での模擬戦をする事にした。
 さすがに実際に戦いの中で使ってみないとな。
「ルールを確認するぞ。今回の模擬戦はルーリがグランジュ及びジェイドをどれだけ使えるかを確認する事だ。よって模擬戦の開始は双方が100m程離れた位置から行う。攻撃は模擬戦用に威力を落としたものを使う。勝敗は、俺達のどちらかが降参するか、戦闘不能となった場合だ。まぁ戦闘不能にゃならないか」
 訓練で機体壊しちゃしゃーないしな。俺は、グランジュから100m離れる為に歩き出した。
「うん!負けないよ!」
 ミレスもグランジュの操縦席で準備万端といった様子だ。
「じゃあ、開始の合図はクリシアさん、お願いします」
『分かったわ』

 一切障害物の無い荒野を歩きながら持ってきた獲物を確認する。獲物はフォメルから左手に奪った杖、右手に模擬剣の二種類だ。対するグランジュはジェイドだけだが、ジェイドはいろんな武器に変形するから装備面では向こうのほうが有利と言えるだろう。
 大体100m位離れた事をレーダーで確認して振り返る。遠くのほうでジェイドを持ったグランジュが空いているほうの手を上げて振っているのが見えた。俺も軽く振り返す。

『二人とも準備は言い?』
「おう!」
「いつでも良いよ!」
『それでは、始めっ!』
 クリシアさんの開始の合図と共にグランジュに向かってフォメルの杖から火球を撃って貰いながら駆け出す。
「そんな当てずっぽうな攻撃当たらないよ!モードスタッフ!」
 火球は、ミレスに向かっているが、不安定な足場で適当に撃った為、グランジュの周囲に着弾していく。
 ミレスはその場から動かず、右手のぶら下げていたジェイドの取っ手を持ったまま肩に担ぐように持ち上げる。すると俺の方を向いたジェイドの外装の端がカシャカシャと組み木細工の様に複雑に動き凸型に変形した。
 ジェイドの魔術杖形態だ。やろうと思えば別に肩に担がなくても魔術が放てるようになるが、まだ慣れていないミレスは担ぐほうを選択したようだ。
「じゃあ行っくよー!【奔れ 火球よ】【奔れ 火球よ】【奔れ 火球よ】!」
 まるでバズーカ砲の様に構えられたジェイドの砲口から大量の火球が飛んでくる。といっても弾丸に比べつと比べるべくも無いほど遅いのだ。いかにグランジュに向かって走っているとは言え避けるのは容易い。
「温いっ!」
 100mという距離は、あっと言う間に縮まり、俺は杖を腰についたハードポイントに収め、両手で模擬剣を構える。
「モードランス!」
 ミレスは今度は槍を選択、ジェイドは再び膝は常に柔らかくと変形して、円錐形のランスへと姿を変える。
 ここまで来るとどうやって変形しているのか分からなくなってくるな。
「ハァ!」
 裂ぱくの気合と共にミレスのランスが連続でに突き出される。
「よっ!ほっ!うりゃ!」
 なかなか筋が良いがルーリに避けれて俺に避けれない物はまぁ大体無い!そしてひょいひょいと避ける俺にこのままでは埒が明かないと思ったのかミレスが一歩前へ踏み込んできた。
「モードツインエッジ!」
 一瞬にして槍はライフルケースに戻り今度はケースの前部と後部から幅広の剣が飛び出した。そして独楽の様にに回転しながら斬撃を繰り出す。
 クルクルと連続で放たれる斬撃を模擬剣で防ぎながら思う。今まで使ったことの無い武器をここまで使いこなすか!
 けど…。
 俺は、全力のバックステップで一気に距離を取り、腰につけた杖を掴んだ。
「っ!。モードスタッフ!」
 ミレスも驚きはしつつも、冷静にジェイドを再び魔術杖に変形させ、応戦の構えをとった。
 しかし、俺は魔法を撃たずに再び全力で前方へと駆け出した。
 今度は完全に想定外だったらしく慌ててまた槍に戻そうとするが、変形が間に合わない。
 そして気づいた時にはグランジュの首にグランゾルデが握った剣が突きつけられていた。
「参りました」
 ミレスは降参を宣言した。

第58話 卑怯な兄の愛情

 ミレスとの模擬戦を終え、反省会がてらに機兵を降りてお茶にする事にした。
 シートを敷き、その上に用意しておいたクッキーやスコーンの入ったバスケットを置いた。その様子はまるでピクニックの様だったが、背後に膝をついた二機が異様な存在感を放ちその雰囲気をぶち壊していた。
 グランジュから降りてきたミレスがブーツを脱いで、シートの上に座る。俗に言うアヒル座りだ。今日は乗馬服のようなピッチリとした操縦服を着ていて足のラインが美しい。
 俺も、ブーツを脱いでミレスの隣に胡坐をかいた。
「あ~あ、負けちゃった」
 ミレスは後ろに手をついて、天を仰いだ。きらきらとプラチナに輝く髪が肩からサラサラと流れ落ちる。
 そんな姿に多少見とれつつも、それを誤魔化す為にふざけた様子で言った。
「まだまだだな。それに俺が何年クリシアさんと機兵漬けで生きてきたと思ってるんだ?7、いやもう8年か」
 俺は、手に持った水筒からカップに温かいお茶を注ぎながら答えた。
「ほい」
「ありがとう」
 お茶を注いだカップをミレスに向かって差し出した。少し悔しそうな顔をしながらカップを両手で受け取り、そして一口お茶を啜った。
「おいしい」
 ミレスに渡したお茶はティーバックの安物の紅茶だが、お気に召したようだ。
「クッキーもうまいぞ」
 俺もバスケット中に手を突っ込んでクッキーを取り、自分の口に放り込んだ。口の中にシナモンの香りとチョコチップの甘さが踊る。やっぱりこのクッキーはおいしいな。
 ミレスもつられて一口かじる。
「おいしいっ!お兄ちゃんは何処からこんなおいしいものを探してくるの?本当に教えてほしいよ」
 かじって少し欠けたクッキーを空にかざしながらミレスが言う。
「ほしけりゃ、分けてやるぞ」
「うん。お願い」
「うい」
 そして、取り留めの無い話をしながら、午後のティータイムを楽しんだ。


 お茶を飲み終え、会話の途切れたとこで俺は、とある事を切り出した。
「さてミレス、ちょっと俺と戦え。生身で」
 カップを手に持ってボーっとしていたミレスがきょとんとした顔をする。
「えっ!ちょっと何言ってるのお兄ちゃん。えっ!ああ模擬戦ね。いいよ!」
「まぁ模擬戦ではあるが、本気で戦ってくれ」
「本気って、それはちょっと……」
 ミレスはそう言うと眉をひそめた。
 ミレスの本気の魔法なら軽く一部隊を殲滅できる程の魔法をが使えるのだから'本気で戦ってくれ'='殺してくれ'と言われている様なものだろう。困るのはある意味当然かもしれない。
「これは必要なことなんだ」
 しかし、それを曲げて貰って戦って貰わねばならない。ミレスの為にも。俺の為にも。
「でも……」
 さぁここで私の卑怯な切り札を切ろう。
「本気で戦ってくれないとミレスからの通信に出ないぞ?」
「そんなっ!うう~」
 ミレスは涙目になりながら、上目遣いに俺を見た。
 ぐっ!なんという威力だ。今までクリシアさんの訓練以外で膝をついたことが無い俺が、思わず膝を屈してしまいそうだ。だがこれも俺の為、ミレスの為に必要なのだ。引くわけには行かない!
「そっそんな目をしても、だっ駄目だからな。俺の自慢の妹がどれほど強いか見せて貰うからな!」
「あっそう言う事!な~んだ!そうならそうと早く言ってよ」
 涙目だった表情をコロッと変え、今度は輝くような笑顔でそういった。
 この変わり様な一体何なのだ。女って怖い。
「フフ、この8年で私がどれほど強くなったか見せてあげる!機兵じゃ敵わなかったけど、生身なら負けないよ!」
「うん。それで良い」
 俺は微笑見ながらうなずいた。

「ルールは何でもありで、勝敗は適当に。それでいいよね?」
「ああ、いつでもこい」
「じゃあ、模擬戦の開始は私がこの石を投げて落ちたら開始ね」
 ミレスは右手に持った石をポンポンとキャッチボールしながら言った。
「それ!」
 投げられた石は、放物線を描きながらちょうど俺とミレスの間に落ちるようだ。俺もいつ石が落ちても良い様に集中する。すると石が落ちる速度がゆっくりになった様に感じ始めた。
 あと3...2...1...。
 今!
 石が地面に落ちた瞬間俺は、腰につけていたホルスターから愛用のグ□ックを抜き、ミレスに向けて躊躇無く引き金を引いた。
 荒野に乾いた銃声が響き、ミレスが後ろに吹き飛ぶ。ほんの束の間の空中遊泳を楽しんだ後、ミレスは仰向けで倒れた。
 ………………………。
『何それひどい』
 そのあまりにも酷い諸行にクリシアさんが思わず呟いた。
「いった~い!」
 突然ガバリとミレスが起き上り、胸を押さえた。
 もちろん俺がミレスを殺す訳は無い。もしもの時の為に用意しておいた非致死性のゴム製の弾丸を詰めた弱装弾を打ち込んだのだ。俺もちゃんと撃たれて威力も確認した。滅茶苦茶痛かった!
「俺の勝ちだ」
 そこには武器を持たない妹にゴム弾とは言え銃弾を撃ちこみ、勝利宣言をする外道な俺がいた。
「いきなり何するのよ!お兄ちゃん!その武器は何よ!」
「この武器は銃というものだ。魔法を使えない俺でも簡単に遠距離攻撃が出来る優れものだ。すまんなミレス。世の中にはこのような武器を使う奴が居るかも知れないと知っておいてほしかったんだ。さて、もう一度やろう。今度はこの武器は使わない」
 右手に持ったグ□ックをホルスターに戻しながら言った。
「本当に?」
「ああ」
「じゃあ良いわ。今度こそ良いところを見せてやるんだから!」
 やる気を取り戻したミレスは立ち上がった。
「今度は俺が開始の石をなげるぞ」
 俺は地面に転がってる石を左手で拾うと適当に弄んだ。
「いいよ」
「じゃあ行くぞ」
 俺は左手に持った石をアンダースローで放り投げる。俺の投げた石も放物線を描きながら俺とミレスの間に落ちる様に投げた。
 ミレスは今度こそと、腰を低くしいつでも動けるように構える。俺はゆっくりと上げた左手を前に降ろしながら石が地面に落ちるのを待った。
 ドッと土煙を上げて石が落ちた瞬間俺は左腕を変形させてミレスを撃った。まるで先ほどの模擬戦のリプレイのようにミレスが吹き飛ぶ。
 ………………………。
『何、これもひどい』
 一応言っておくが、もちろん今撃った弾もゴム製の弾丸を詰めた弱装弾だ。
「俺の勝ちだ」
「何よそれ!お兄ちゃんさっきの武器は使わないって言ったじゃない!?」
 痛みにゴロゴロとのた打ち回っていたミレスが何とか立ち上がり、文句を言った。
「ああ、さっきの武器は使ってないぞ。ほれこのとおり、腰のホルスターに入ったままだ。さぁ立ってもう一度やろう」
俺は両腕を軽く開いて、ホルスターにグ□ックが入っていることをアピールした。
「ううー!禁止!禁止!さっきみたいな武器は全部禁止!それならやっても良いよ!」
 ここで'もう嫌だ'と言い出さない俺の妹はすごいと思う。俺だったら何この無理ゲーと言って投げ出していただろう。ロボゲーじゃないしな。
「いいぞ。じゃあ、銃に属する物は、全部使わないよ」
 だが、まだ妹は知らない。これからの戦いは怒涛の卑怯戦法にさらされる事になろうとは。

 ドサッと何かやわらかい物が落ちる音がする。それは俺がミレスを投げ飛ばしたからだ。
 俺はあれから俺が持つ全ての卑怯な戦法を使い、ミレスを叩きのめし続けた。
 ある時は、使わないといっても銃に警戒したミレスに指鉄砲の形にした手を向けて、警戒したミレスが飛びのいた隙に接近して沈めた。
 そしてある時は、ミレスが詠唱を始めると砂を投げ、徹底的に詠唱を邪魔した。
 その頃には、ミレスは倒されても何も言わなくなった。ボロボロになりながらも、ただ無言で立ち上がり俺に向かってきた。その表情からは家族に対する甘さは消え、ただ倒すという一念だけが美しく彩っていた。
 ミレスの戦い方にも、ただ強力な魔法を使おうとするだけではない合理性が出てきた。しかし俺の卑怯な戦法はそれすらも利用し、騙し、幾度も勝利し続けた。
「俺の勝ちだ。次が最後だ」
 俺は模擬戦の開始位置に戻り、ミレスが立ち上がるのを確認して、今日何度目か分からない開始の合図になる石を投げた。
 ミレスは、油断無く構え俺の攻撃に備える。
 石が落ちた。
 俺はその場にただ立つ。その様子にミレスは少し動揺したようだが、油断無く周囲を見回した。今ミレスが魔法の呪文を詠唱しないのは、不用意に詠唱を開始して も必ず詠唱を潰される事を学んだからだ。
 さぁ最後の超弩級卑怯戦法だ。
「じゃあクリシアさんお願いします」
 秘儀'先生!お願いします!'。
『気が進まないけど、わかったわ。ミレスちゃん、防ぎなさいね』
 フワリと俺の横に出現したクリシアさんはそう警告すると軽く腕を振った。
 するとミレスの三百六十度全方向に火球が現れた。これには驚いたミレスは、大急ぎで結界を張った。
「【永久不滅の 光の壁よ 全てを 包み 如何なる 災いから 我を 守れ】!」
『じゃ。行くわよ』
 ミレスが結界を張ったことを確認したクリシアさんは一気に火球を解き放った。
 無数の火球がミレスに殺到する。火球はミレスの張った結界に触れると小爆発を起こしていく。だがミレスの結界は、その程度では揺るぎもしなかった。
「こんな火球じゃ、私の結界は破れないよ!お兄ちゃん!」
 破る必要は無いんだよミレス。
「じゃあその結界はどれくらい持つかな?」
 クリシアさんに頼んだのはミレスに対して、威力の弱い火球を全方位から途切れることなく打ち込む事だ。
 それから約一時間後、ミレスはいろいろ工夫して脱出しようとしたが、その全てをクリシアさんに封じられ、結果魔力が枯渇し、結界は消えミレスは気絶した。



 気絶したミレスを回収してシートの上に寝かせ、ついでに膝枕をしつつ頭をなでる。荒野での模擬戦のせいでミレスの髪は土ぼこりで盛大に汚れていたが、気にしないでなでる。顔も土で汚れていたが、少しも美しさは損なっていなかった。
 あ~あ、ミレスに嫌われただろうな。たとえ自分が嫌われたとしても、ミレスがただ国の連中に言い様に使われるのだけは阻止しないとな。この可愛い寝顔も見納めだろう。しっかり堪能しておこう。
「んっ!あ」
 なでた手がくすぐったかったのかミレスが身じろぎをして目を覚ました。
「おはようミレス」
「おはようお兄ちゃん」
 その後、起き上がるかと思ったが、ミレスはそのまま仰向けのまま右腕で顔を隠した。
「あーあ、結局お兄ちゃんに一度も勝てなかったよ」
「気にするな。まともに戦ったら俺は、ミレスには勝てないよ。最後はクリシアさんに戦って貰ったしな」
「けど、強力な力を持ってるだけじゃ勝てないって、私分かった」
 ミレスはそう言うと右腕を前に伸ばし、俺の顔を撫でてきた。
「…私ね。たとえ国が何を企もうとも、そんなの関係ない。何があろうとも、私の力なら全部吹き飛ばせるって思ってたんだよ」
「…分かっていたのか」
 俺は、ミレスのことを見誤り、侮っていたようだ。反省しなければならないな。
「私は馬鹿じゃないよ。私の力はすごくて、みんな凄く優しくしてくれるけど、同じくらい恐れられてるって知ってる。けどね、さっきの事で自信なくなっちゃったよ」
「それに気づいたのなら問題ない。俺は生身じゃ卑怯な戦い方を研究してきたからな。絡め手なら任せろ。これからは、通信機で話せるようになるから、俺がいろいろ教えてやるよ」
「う…ん。お…願い…する…ね」
そう言うとミレスは、再び眠気が襲ってきたのか、ゆっくりと目を閉じると安らかな顔で眠った。

第59話 教師生活終了!

 再び眠ったミレスが目を覚ましたのは、もう日が暮れようとした時だった。
 そろそろキリンカの街の門限が近かったので急いで帰る。門の所についたのは閉門ギリギリの時だった。本当ならめんどくさいチェックがあるのだが、ミレスと一緒と言う事で免除され、門の前に出来た行列を尻目に悠々と門を潜ることが出来た。
 その後、グランジュを学院生徒に割り当てられていた格納庫に収めに行く。そこには目を輝かせていた整備学科のゴール君が待ち構えており、危うく質問攻めにされる所だった。とりあえず、整備するのは手足のみということを伝え、胴体及び頭部を不用意に解体しようものなら、名前は雷っぽいのに何故か説明では熱線な攻撃を受けるから気を付けろと警告しておいた。もちろん生命の保証はしない。それを聞いたゴール君は顔を青くしながらコクコクと頷いた。
 それから俺は、トレーラーに帰った。
トレーラーの前には簡易テーブルが並べられ、その上には魔道具のランプが輝いていた。そこではルーリ、アリカさん、カーラちゃんが夕食の準備をしていた。ローラさんは、またこの街のギルドの仕事を手伝わされているのだろうか?良かった。
 ちなみに俺は幸いな事にまだローラさんの料理を口にした事は無い。一体どんな料理が来るのか今でも戦々恐々としている。
 俺は、グランゾルデをトレーラーの近くに膝をつかせ、下りた。
「「おかえりなさ~い」」
「おかえり。兄さん」
『だだいま~』
「ただいま。あれ、グレン達は?」
 テーブルの周りには、グレン達の姿は見えない。グレンはともかくシュナなら喜んで料理の手伝いをしそうなものだが。
「皆トレーラーでダウンしてる。ベースの中を案内していたらVRルームでグランがいたずらして、チンピラ500人との戦闘シミュレーションが開始されちゃってね。それで皆疲れちゃったみたい。ローラさんはその面倒を見てる」
 おいおい、それは俺が以前やってズタボロになった設定じゃないか?
「良くそれで'疲れた'程度で済んだな。シュナとかリミエッタとかトラウマになっていないか?」
「それは大丈夫。シュナとリミエッタは私が守った。でも、グレンとサイはボロボロになった」
 男子組みは守らなかったんだ。ご愁傷様です。
「じゃあなんでシュナとリミエッタが居ないんだ?」
「シュナとリミエッタも気疲れした様子でぐったりしてる」
 シミュレーションとはいえ、500人もの人間に囲まれてフルボッコにされるのはかなり怖いからな。そうなるのも当然か。
『情けない子達ねぇ。それで今まで良く大丈夫だったわね』
「やいやクリシアさんさすがに黒髪でも500に囲まれる事はありませんよ。せいぜい4、5人に囲まれる位ですよ」
 それでも十分怖いが。
「じゃあ、ちょっとあいつらの様子でも見てくるかな」
「そろそろ夕食の準備も出来るからついでに呼んできて」
「ああ、わかった」
俺は、グレン達がぐったりしていると言うトレーラーに足を向けた。



 翌日、朝早くミレスが俺のトレーラーに来た。今日はミレス達が学院に帰還する日だ。本当なら忙しくその準備をしている時間だ。一体何の用だろうか。
 俺はトレーラーの扉を開けた体勢のまま、ミレスに聞いた。
「どうしたんだミレス?グランジュに何か問題でもあったか?」
「あーそうじゃないんだけど……」
 何故か言いづらそうにミレスがチラリと背後を振り返った。その視線を追ってみるとそこにはリミエッタの妹ハリエッタが居た。
 意味も無く腕を組み、仁王立ちしていた。
「また来たのか」
 実はハリエッタは、試験休みになった翌日から連日このトレーラーに突撃して来ていた。もちろん俺は会わすつもりは無かったので、適当に'外に出ている'とか言って追い返していた。さすがにリミエッタもクリシアさん圧倒的魔力の前に圧倒され、強く出ることが出来ず引き返していったが、今日は違うようだ。
「今日こそはお姉様を返して貰いますわよ!お姉様!ハリエッタがお迎えに上がりましたわ!そこのお前!さぁお姉様を返しなさい!」
 ビシッと俺を指差しながらハリエッタが吼える。さすがに今回はクリシアさんの威光には縋れそうにないな。
 俺はハリエッタに向いていた視線を再びミレスに戻した。その視線だけで察してくれたミレスが答える。
「まぁ見てのとおりなんだけど、ハリエッタはお姉さんと一緒に学院に帰るつもりらしいの」
「えっ?本当かよ!?」
 俺は面倒が嫌いだから、このまま何も言わずにリミエッタ達を連れてこうと思っていた。
「あの子だけでここに来ると、いろいろ面倒なことになりそうだったから私が付き添ってきたの」
 つまり最悪の事態が起きた時のストッパー役ということか。ありがたいね。
 さてどうしたものかと考えているとトレーラーの中からルーリが出てきた。ルーリがミレスを見ると少しむっとした表情になったが直ぐに視線をそらして俺を見た。
「兄さんどうしたの?」
「ああ、リミエッタの妹が迎えに来た」
「えっ?でも……」
「まぁそうなんだが、どうしたものか。リミエッタに妹が来ていると伝えてくれ。後一応どうやったら追い返せるかも聞いておいてくれ」
「分かった」
 そう言うとルーリはトレーラーの中に戻っていった。現在グレン達は俺のトレーラーとドルフのトレーラーに分かれて泊まっている。ちょうどリミエッタは俺のトレーラーに泊まっていた。
しばらくするとルーリが最初に会った時に来ていたゴスロリドレスを着たリミエッタをつれてきた。
「出てきて大丈夫か?」
「問題ありません。私も彼女にお別れを言いたかったですから……」
 そう言うと彼女は微かに微笑んだ。そう、笑ったのだ。最近リミエッタが少しずつ笑うようになった。その笑顔にはぎこちない感じではあったが、笑顔には違いなかった。俺達は、その僅かな、しかし確かな変化にがうれしかった。
 さて、リミエッタはこの事態にどう対処するのだろうか。正直に話されて、彼女に暴れられても困るんだがなぁ。
「見ててください」
 そう言うとリミエッタは、以前のような無表情に戻り、トレーラーのタラップを降りていった。
「おはよう。ハリエッタ」
「お姉様ぁ~!ハリエッタがお迎えに参りましたわぁ!さぁさぁ一緒に学院に帰りましょう!」
リミエッタの姿が見えたとたんさっきの険しい態度は雲散霧消し、変わりにこぼれんばかりの笑顔になり、俺を押しのけて降りてきたリミエッタに抱きついた。そして直ぐに離してリミエッタの両手を握った。
しかし、その表情は次のリミエッタの発言で凍りつくことになる。
「私は、一緒には帰らない」
「…えっ!今…なんと…おっしゃいましたか?」
まるで、世界に絶望した様なかすれた声でハリエッタは聞き返す。
「私は、一緒には帰らない。一人で帰って」
「嘘。そんな事おっしゃらないで、一緒に帰りましょう!ああ!待遇が心配なのですね!安心なさってください!もちろん帰りはずっと私と一緒ですわ!」
 リミエッタを見つけたときの表情とは一変した必死な表情で説得…説得にもならないような説得をする。
「安心して、私は他のみんなと一緒に(いつか)帰るわ。今Sクラスは大変でしょう?そんな中でリミエッタが我侭を通せば、あなたは孤立してしまうわ
 いつに無く饒舌に語るリミエッタに目を白黒させながら、ハリエッタは見つめる。
 ちなみにリミエッタの台詞の中の括弧は俺の脳内で付け足した真意だ。ハリエッタは気づくかな?
「まぁ!まぁ!まぁ!お姉様がそんなにも、私の事を考えてくださるなんて!」
 おいおい、真意に気づかず感激してるよ。頭の中はお花畑でもあるのか?
「じゃあ私は学院にてお姉様のお帰りをお待ちしておりますわ!帰る準備がありますのでここで失礼しますわ!ごきげんよう!」
 そう言うとリミエッタは上機嫌で、泊まっている宿に戻っていった。

 その様子を見ていたミレスは、リミエッタに近づくと質問した。
「いいの?学院に付いたら烈火のごとく怒るわよ」
 ミレスには、俺がリミエッタ達を連れて行く事を既に話してある。
「今の私は、彼女を'騙す'事しか出来ません。けどゴウさんについて行ったら強くしてくれるんでしょう?」
「ああ、ただし、手段を問わずと注釈が付くがな」
「それで十分です。私はいずれ彼女より強くなります。その時が再会の時です」
 リミエッタ決意を秘めた表情でそう言った。
「あ~あ、帰ったら学院が大変なことになるわね。校舎が残るといいけど……」
「クソ爺に対処はまかせとけ。退学を了承したのはあいつだ校舎がなくなろうと知った事じゃない。ああミレスは貴重品の確保を忘れずにな」
「そうしておく。あっそうだルーリさん。あなたにお話があるの」
「…何」
 俺の隣に居たルーリがぶっきら棒に返事をする。
「おいおい、物騒な事じゃないだろうな?」
 ここで決闘再びなんてのは、ごめんこうむるぞ。
「ちょっと女の子同士のお話をするだけだよ」
それを聞くとミレスは、いたずらっぽく笑ってそう言った。
 ミレスはルーリの腕を有無を言わせず掴むとちょっと俺から離れた所に移動した。どうやら俺には聞かれたくない類の話らしい。しばらくすると話終わったのか、ミレスが俺の所まで戻ってきて「じゃあまたね!お兄ちゃん!今度会った時は、あっと言わせる、いい女になってるからね!」と言って軽くハグした後、宿に戻っていった。
 その後、一応ルーリにミレスと何の話をしたが聞いたが「なんでもない」と返された。ただその後に「絶対に渡さない」とぼそりとつぶやいていた。

 キリンカの街の騎士団の訓練場に学院の生徒が整列している。
 学院に帰還する前の出発式だ。彼らの予定なら、学院への意気揚々とした帰還となる筈だったのだろうが、残念ながら敗北した為に気の重いものになっている。
 生徒達の背後にはこの三日間何度も何度も洗浄され、かの匂いを徹底的に洗い落とされた車両群が並んでいた。
 そして生徒の前にある朝礼台の上には、皆さんご存知ダーム学院長が朝もはよから絶好調で'学院長のお話'をしている。いつも思うんだが長がつく役職についた人間はどうしてそんなに長く話せるんだろうか?そんなカリキュラムでもあるんだろうか。長の付く者の為のα波を出すお話講座とか。
 一体何考えているんだ俺は。まぁそんなわけの分からない事を考えるくらい長いお話だった。
「…では最後に、鉄仮面先生から何か話はあるかね?」
 俺は、今最後ということで再び鉄仮面をかぶり生徒達の前に立っている。ここには街の騎士団の目があると言う事と鉄仮面として接してきた俺のけじめである。
まぁ最後の挨拶でもしておくか。俺は朝礼台のにあがった。
 俺は鉄仮面モードで最後のお話を開始した。
俺に集まった生徒からの視線は怒り4割恐れ6割といったところか。
「皆さんご存知のとおり、私はここでお別れです。そんな私から一言。これからこの国は戦争により混迷の時代に突入する事でしょう。諸君らは、その中で一人前の兵士にならなければなりません。つまり失敗は許されない状況になるわけです。失敗できるのは学院にいる間だけです。ですので今のうちに多くの種類の失敗をする事をお勧めします。そして、どんな状況でも対応できる柔軟な思考を作ってください。ただの己の魔力のみを信じる愚か者にはならないようにしてください。そしてこの試験で学んだ事を生かして生き残ってくださいね。私からは以上です」
 俺の話が終わるとあたりは静かになった。普通の教師の話だったらここで拍手が起こるんだが…まぁ俺だし、無くて当然だな。
 そんな中、パチパチと一人だけで元気に手を叩く音が響いた。それはミレスだった。すると隣に並んでいたゴール君が手を叩きだした。その拍手は少しずつ広がり、普通に拍手と呼べる程の物までになっていった。
「ハハッ!」
 予想外の展開に思わず笑いが出た。
 今思えば、まぁ悪くない教師生活だったな。
 その後、ミレス達は学院へと出発していった。
 さぁ俺も本来の目的である。あのクソ親の所に出発しよう。

ロボットロマン in ファンタジー(修正版)(1)

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ロボットロマン in ファンタジー(修正版)(1)

ロボットマニアのダメ男がスケバン女神に拉致され、特殊能力を与えられファンタジー世界へと転生させられる。 しかし、能力が使えるまで約十年!ファンタジー世界なのに魔法が使えない。そんな不遇な状況でもロボのために生きていく。 そう、モノアイ戦闘用ロボットを、無駄にギミックのある秘密基地を、あとメイドロボをっ! これは、転生した男が"漢の夢"を叶える物語だ。 注意事項 この作品はパロディ色が強い部分がある作品です。 そういうのが不快な方はブラウザバックをよろしくお願いします。 そして私の作品を掲載してくださった星空文庫様に感謝を。

  • 小説
  • 長編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • SF
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-01-11

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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  1. プロローグ
  2. 第1話 生まれてはみたけれど…
  3. 第2話 見つけた…けれど…
  4. 第3話  準備開始
  5. 第4話  商売繁盛のち嵐
  6. 第5話  さぁ復讐をしよう
  7. 第6話 ネタばらしと断絶 
  8. 第7話 魔獣と覚醒
  9. 第8話 魔獣討伐
  10. 第9話 探索と出会い
  11. 第10話 森脱出!だけどね…
  12. 第11話 現状の確認とこれから
  13. 第12話 出発
  14. 第13話 初依頼
  15. 第14話 緊急強制依頼
  16. 第15話 宴会
  17. 第16話 厄介事
  18. 第17話 機兵を作ろう
  19. 第18話 機兵の搬入
  20. 第19話 試運転は大事です
  21. 第20話 ドルフ無双
  22. 第21話 はい撤収
  23. 閑話 ある青年の邂逅
  24. 第22話 護衛の依頼
  25. 第23話 別れと…あれ?
  26. 第24話 故郷へ
  27. 第25話 懐かしい人達
  28. 第26話 宴
  29. 第27話 悪夢の帰還
  30. 第28話 ファードの魔王
  31. 第29話 強いられる 雌伏の時
  32. 閑話 サイド ミレス
  33. 第30話 俺が教師になったわけ 前編
  34. 第31話 俺が教師になったわけ 後編
  35. 第32話 教師のお披露目
  36. 第33話 前途は多難そう
  37. 第34話 機兵学科の授業
  38. 第35話 鉄仮面は○のおじさん
  39. 第36話 予期せぬ……
  40. 第37話 整備と試験官と
  41. 第38話 飲み会と食材と
  42. 第39話 決闘とは……
  43. 第40話 決着と
  44. 第41話 観戦
  45. 第42話 縛りプレイ
  46. 第43話 Sクラス試験 前編
  47. 第44話 Sクラス試験 後編
  48. 第45話 反省会
  49. 第46話 対決!
  50. 第47話 妹VS妹 前編
  51. 第48話 妹VS妹 後編
  52. 第49話 ミレスとゴウ
  53. 第50話 驚愕!ダーム学院長の企み!!
  54. 第51話 チートの前の静けさ
  55. 第52話 宣戦布告!
  56. 第53話 量産機は雑魚では無い!
  57. 第54話 なかなかすごい光景だな
  58. 第55話 あなたには生きていて貰わないと困ります。
  59. 第56話 うん、まぁ。つらく苦しい戦いでしたね(棒)
  60. 第57話 兄妹のふれあいは模擬戦で
  61. 第58話 卑怯な兄の愛情
  62. 第59話 教師生活終了!