未来に根差されたもの
鬱要素注意です
「それじゃあね」
「うん、ばいばい」
俺は学寮の女子寮前でリプタに別れを告げた。彼女はにこやかに手を振ると少し躊躇いながらも後ろを向いて女子寮の奥へ向かって行った。先程まで一緒に彼女を見送っていたフィフスの足音が遠くなるのを聞いて彼の背中を追う。
本当はまだ一緒にいたいがカウナン学園の学寮では不純異性交友を禁止としているためそれを防ぐために男子は女子寮に行ってはいけないし、男子は女子寮に行ってはいけなかった。同じ友達なのに一緒に過ごすには間にある小さな休憩所を利用しなければならない。
「全く、一部の不純異性交遊なんてする連中がいるがために学生は異性と健全な関係さえ育めない。学び舎は社会に出ても順応できるように訓練すべき場所だ。学生時代に関係を築く事を避けてた異性と社会に出て良好な関係を築けるのか?」
「門限と校則さえ守れば関係を築く時間と機会は充分に与えられてると思う。異性の寮への出入り禁止も門限も想定しえるリスクの回避、教員方の負担軽減を思えば至って常識的と理解し得る」
「しかし、この校則のおかげでリプタとお喋りしたり遊べる時間はとても少ない」
「僕で我慢しろクリック」
そんな会話をしながら俺達は自室に戻った。どちらかの部屋に遊びに行っているのではない。学寮は1部屋を2人で共有するのだ。初めはプライベートなどないのかと苛立ったものだが、相部屋になったのがフィフスだったので今はむしろ居心地のいい空間になっている。これから5等部に上がろうが6等部に上がろうが彼と一緒がいい。
彼はいつも通り机に向かうと愛読書の1つの偉人の名言集の本を読みだした。彼は暇さえあれば名言集やことわざ辞典などをじっくり繰り返し読んでいる。何が面白いのか分からないが…。彼は自分の親について語りたがらないが大金持ちの資産家らしい。それで親から影響受けたとかそんなものかもしれない。
「もう少し校則を緩くしても良いのではないかと思う」
きっとこの学園の校則に同様の不満を持っている生徒は少なくないはずだ。俺は納得が行かず腕を組んでベッドに座る。そんな様子を見てフィフスは笑った。
「回りくどく言うようだが君はただ単にリプタと一緒にいたいだけだろう」
「俺はただ…」
俺達はこのカウナン学園で出会った。切磋琢磨できる仲間だと思ってるし、青春を彩る大事な友達だと思ってる。彼女の事もフィフスと同様に友達として遊び足りないだけでそれ以上の気持ちはないはずだ。
「君は無自覚なのだろうがリプタから話を聞いたんだ。クリックは時々、ふとした時に自分の事を穴が空くほど見てる事かあると」
俺は驚いた。全く身に覚えがない。
「何かの間違いじゃないか?そんな記憶がない」
「その話を聞いて気になって数日ほど君を観察してたんだ。確かに君は休み時間や授業中に彼女をずっと見てる事がある。無自覚なのが驚くぐらいには」
本当に無自覚にそんな事を?とても信じられないが、フィフスは冗談はよく言うが悪質な嘘をついたりしない。
「明日リプタに謝ろう。俺とした事が友達に不快な思いをさせてしまった」
「不快に思っている風じゃなかったが真意が分からず戸惑ってる様だった。当人には言わないでくれとと釘を刺されたし君はできる範囲で彼女を見ない様に気を付ければいいんじゃないか?」
俺は不安だった。今まで無自覚だったと言うのに気を付けるぐらいでいいんだろうか?また視線を向けたりして嫌がられたりしないだろうか?そのうち嫌われたりしないだろうか。今の様な交友関係がなくなってしまうのではないか。
悩んでも仕方がない行動あるのみだ。気を引き締め無意識に視線を泳がせまいと決意した。
「ねえ、クリック。何か怒ってる?」
「怒っていないよ。どうして?」
「別に…何かそんな気がしただけ」
昼休憩、食堂で食事をしている時の事だった。ここ最近、リプタには俺が彼女に対して怒ってる様に見えるらしい。最近は意識して彼女を視界に映らない様にし、目を合わせない様にしている。それがどうして不機嫌そうに見えるのだろうか?
フィフスと言えばこの会話には参加せずにもう何度目か分からない名言の本を食事しながら一生懸命に読んでいる。
「正直に言ってよ。何か私が癪に障る事をしたんでしょ?」
「フィフス、君からも言ってくれよ。僕はいつも通りだろ?」
「言葉、言葉、言葉」
彼はまるで読書の邪魔をするなと言わんばかりにつっけんどんな言葉で返すばかりで取り合わない。話が平行線なばかりに彼女の不満の矛先は彼に向いてしまう。リプタは口を尖らせてフィフスに噛みつく。
「もうその本は3回は読み返してる。ことわざ辞典は2回。本当に読んでるの?私には時々読むフリをするために開いてるだけに見える」
「誤解だ。発言に至るまでの経緯や時代背景を知った上で思索にふけり、繰り返し読む事で真意に触れる事ができる様になるんだ。何度も何度も咀嚼しては飲み込んで食べ物を消化する反芻動物の様に」
「あるいは盲腸便食べる兎みたいに?」
「含みのある言い方だね。でもそんな感じ」
フィフスは結局ぬらりくらりと話題を逸らすばかりだった。そのうちリプタは友達に呼ばれ食器を載せたトレイを持って席を移った。俺は手を振って彼女の背中を見送る。フィフスは本を閉じると少し冷えてるだろう料理を喉に押し込む様バクバクと食事を始める。
いつも見てて思うがフィフスの食事の様子はとても楽しんでる風ではない。栄養補給のために物を胃袋に詰め込んでるかの様だ。てて何に喜びを見出すかは個人それぞれだが、食事にこうも関心がないと言うのはもったいない。
「もっと落ち着いて食べなよ。食事はもっと舌で楽しむ物だ」
「さっきのやり取り、僕を笑い死にさせるつもりなのか?」
「何が」
「前も言ったがリプタは君からの視線を不快に思っちゃいない、不思議に思ってただけなんだ。過剰に意識した君は彼女を避ける様になった。少なくとも傍からはそう見える。それで彼女は君の機嫌を損ねる事をしてしまったんじゃないかと勘違いしてしまったんだよ」
「ああ…なるほど」
話を上手く逸らされてしまったが先程までの話題に遅れて食い付くフィフス。突然の事で面食らった。あまりジロジロ見ていればその視線が気になると言われ、見ない様にするとそれはそれで機嫌を損ねたと思われる。一体全体、俺はどうしたらいいんだろう?
何事にも程度があると言われればそれまでだがそのラインが俺にはまるで分からない。
「しかし君は俺やリプタが悩む様がそんなに面白いのか?」
「ああ。とっても」
「良い性格をしてるよ。きっといい死に方しない」
「肉体的な死の事?ならそうだろうね」
「肉体的な死じゃなければ他に何があるんだ。社会的な死とか、スピリチュアル的な話か?」
「そうじゃない。思うに人は記憶される事で生き、忘れ去られる時に死ぬのだと僕は思う。肉体的な死は重要じゃない」
「それはまた随分と哲学的な話だな」
俺は厭味ったらしく言ってやったが彼は「そうとも」と頷いてその意図を汲んだりしない。彼は少し俯いて言葉を続ける。
「そう言う意味では弟はまだ死んでない。もう僕に笑みかける事も話す事もしないが」
フィフスは今から2年前に弟を亡くしている。3つほど年の開いた兄弟だったがまるで年の差を感じさせない程仲が良くで間柄は親友の様だった。俺も話した事があるがフィフスを何倍も明るくしたような子で、いつかは同じカウナン学園に来る予定だった。
学校の帰り道に横殴りの雨に遭った彼の弟はその帰路で車に撥ねられた。加害者はややパニックを起こしながらもすぐに病院に連れて行かれたが打ち所が悪かったらしく即死だったらしい。その時のフィフスといえばただでさえ白い肌がまるで死人の様になり、食事も通らず放心していたほどだった。
彼の心を癒しきるにはまだまだ時間が足りない。死という言葉を安易に口にしてしまった事を謝る。
「ごめん、無神経だった」
「気にしてないよ。僕は長生きするからね。ずっと君達と友達だ」
「はあ…」
もう何度目になるか分からないため息をついた。フィフスは本を閉じると俺の方に顔を向けた。
「今日は随分とため息が多いね。どうかしたのかな?」
「ある事に気付いたんだ。でも正直に言えば君は笑うだろう」
「保証はしないが話してくれ」
「絶対笑う」
フィフスは立ち上がるとベッドで横になってる俺のそばまで小走りでやって来て座った。興味津々な様子で目が話の続きを催促する。
「勿体ぶらずに話してくれよ。その肩の荷を下ろすのを手伝いたいんだ」
言葉とは裏腹に好奇心旺盛な表情で言うフィフス。その態度に本当に話して良いのかますます迷ってしまったが、このままこの気持ちを誰にも吐露しないでおくのは俺も辛い。正直な事を言えば彼に事情を聞いてほしくて何度もため息をついていたんじゃないかと自分で疑ってしまうほどだ、
少し迷ったが彼の良心を信じ打ち明ける事にした。
「実は俺、リプタの事が好きみたいなんだ。友達としてじゃなくて、その…恋愛感情を抱いてる」
「百年前から知ってる」
フィフスは何だそんな事かとがっかりした様子で言う。
「何だって?」
「可愛いもんさ君って奴は。毎日毎日ご主人のご機嫌を伺う子犬みたいな目をしてる。リプタを前にした君の顔を一眼レフで写真に撮り現像して額縁に入れて、自宅に飾ってある上目遣いのダックスフンドの写真の隣に並べたい程だ」
俺はベッドから立ち上がると無言で部屋を出る。慌てて追いかけて来たフィフスが俺の肩を叩きながら謝る。こんな言い方されるぐらいなら笑われたほうがまだマシだった。力になるから部屋に戻って欲しいと何度も言うので自室に戻った。
お互いにベッドに座る。もう彼の表情には人を馬鹿にした様な好奇心はなかった。
「いっそ思い切って告白すべきだろうか」
「気が早いぞクリック、まずは段階を踏まないと。彼女にとって君はまだ友達。意識させないと友達のままでいたいからとフラれかねない。せっかくのチャンスをふいにはしたくないだろ?」
「まあそうだが…どうすればいい?」
「子供はありのまま生きられない事を知った時に嘘を覚える。そしてそれは親からの自立のために必要な過程でもある。ありのままでいいなどという言葉はライバルの牙を抜くのに使われる甘言だ」
「回りくどいな。つまり何が言いたいんだ?」
「人間は箱と良く似ている。開けるまで中身は分からない。だが中を開いて貰うほど関心を持って貰うには相応のラッピングが必要だ。端的に言えば今の君は道端に捨てられたダンボールの様に色気がない」
彼は立ち上がると自室の彼のスペースにあるクローゼットを開いて見せた。彼らしい上品な服が並んでいる。
「着飾れクリック。仕草や言動を改めて自身を磨くべきだが…まずは服だ。服屋に行こう。日が傾く前に行くぞ」
俺はため息をついた。
「オシャレなんて、俺にそんな金はない」
「金なら僕が出そう。堅物の君が恋に酔って千鳥足になる様は大枚を叩いてでも見る価値がある」
「お前は悪趣味な奴だよ」
しかし彼の言う事は尤もだった。フィフスもそうである様にリプタも大手の貿易会社の令嬢だ。それに比べて僕は中流階級の出のパッとしない男。生まれはどうする事もできないが、せめて格好ぐらいなんとかしなければ…。
俺はフィフスの厚意に甘え一緒に服屋に向かった。普段は立ち入らない様な服屋で新しい服を選ぶ。店員にオススメを聞いているとフィフスは時々店を出たり戻ったりした。
馬子にも衣装とは言うが俺と言えばベースが駄目なものでどんな服を選んでも服に着られてしまう。買い物を終えるのは来店より3時間後になった。クタクタになり、ようやくいい感じの服を数着見つけたがこれで本当にリプタの心は動くのだろうか。
「オシャレに一歩近付いたなクリック。さっきリプタに電話して3人で喫茶店でお茶を飲もうと誘っておいたぞ。行って来い。僕は…宇宙人にアブダクションサれた事にでもしといてくれ」
「そ、そんな無茶苦茶な!」
「存外に君が服選びに時間をかけるもので待ち合わせ時間まで20分しかない。待たせるのが趣味じゃなければ急いだ方がいいだろう」
文句の一言二言ぐらい言ってやりたいがフィフスの言う待ち合わせの喫茶店まではここからなら歩いて15分近くかかる。言い争ってる場合じゃない。俺は喫茶店へ向かった。
17分後には喫茶店に到着した。リプタは先に着いてたらしく奥の席から手を振る。俺は彼女の座るテーブルの席に座った、
「随分と気合の入った服だね。ひょっとして今まで誰かとデートしてた?」
リプタはからかう様に笑う。意識させるつもりが逆に意識してしまって緊張する。大丈夫だ、普段通りにすればいいんだ。
「フィフスに服ぐらいバッチリ決めろと言われたんだ。似合ってるかな」
「うん。来店した人を見て『この色男は誰だ』って思ったぐらい。にしてもクリックはフィフスと本当に仲良しだよね。君らが一緒にいない時間の方が珍しいくらい」
一応褒められたが新しい服にはそこまで関心が無いように見える。
「そう言えばそうかも」
「それで、フィフスは?」
「あー…UFOにアブダクションされたっぽい」
「え?あはははは!あいつはアブダクションされるよりする側でしょ!金星から来たって言い出したら私信じるよ!」
酷い言われようだ。でもリプタの言う事は俺も分かる。入学式では誰もが目を向けてしまう様な美貌を持ち、非常に変わった死生観や価値観を持っている。何を考えてるのか良く分からなくて時々ぼーっとしては宇宙人と交信してるのではないかと変な噂が立つほどだ。
一時期は暇さえあれは蝋燭に火を点け眺めたり、雨の日に飛び出したかと思うと半日ぐらい帰って来なくなったり、自身の靴をペールの中に入れて保管したり、パンの耳ばかり食べて体調を崩したり、何かと奇行が目立つ。
入学してしばらくは同じクラスメイトながら接点はなく、ディスカッションの授業の際にお互いに激しく意見をぶつけあってからは大変気に入られた様で何かと事ある事に俺に話しかける様になった。
寮の部屋替えの際は彼から一緒の部屋がいいと頼んで来るほどで、俺も当時の相部屋の人と相性が良くなかったので快く引き受けた。それ以来彼の奇行は大人しくなったが変人さは変わりない。
「…ねえ、カウナン学園を卒業したらそれからクリックはどうする?」
「進学とか就職とかそんな話?」
リプタは頷く。俺は頭を掻いた。店員がやって来てリプタの頼んだコーヒーを持って来る。俺も同じ物を頼んだ。
「クリックの実家は綿農家さんだったよね。家業を継ぐの?」
「…父さんはそれを願ってるみたい。でも俺は嫌だな。農業が嫌いなんじゃない。従業員の皆も優しいし。ただこれからの自分の可能性をこんな早くから狭めてしまう事はないんじゃないかと思う」
「そっか…。私もそんな感じ」
「リプタも?」
「お父さんが仕事繋がりで色んな人を紹介して来るんだ。お父さんなりにあれこれ考えて良かれと思ってやってるんだろうけど正直迷惑だなって。だからここを卒業したら家出するんだ」
「家出?!」
「うん。シェアハウスなんかに住んだりしようと思う。ねえねえ、クリックも一緒に家出しようよ。フィフスも連れてさ。あ、家を買って3人で住むのもアリだね!どう?」
「いいね。それはいい。俺もそうしたい」
門限なんかなくて、この仲を隔てる壁もなくて。3人で心ゆくまで過ごせる空間。まるで夢みたいだ。こんな話をリプタから切り出してくるなんて思わなかった。卒業するまでの縁なんかじゃないんだって内心思ってた。
俺は半ば浮かれた気分で喫茶店を出ると学寮に戻る。寮内の玄関近くでフィフスと女子生徒がお喋りしてるのが見えた。確か彼女らはリプタの友達だ。リプタは彼女らに話しかけると一言二言話して女子寮に戻って行く。俺やフィフスも一緒に自室に向かった。
部屋に戻ると俺はリプタと話た事を彼に話す。
「お断りだ」
即答だった。
「どうして?」
「どうして僕が君らの愛の巣に住まなきゃならないんだ。イチヤイチャしてる所でも眺めていろと?」
「そんなつもりじゃ…」
「とにかく3人で住むのは無しだ。何より僕は忙しくなるだろうから自宅なんて持ってても殆ど帰らないだろうし意味ないよ」
フィフスは不機嫌そうに言うと読書に戻った。
ため息も白くなる季節になった。フィフスは相変わらず俺の恋路の手伝いをあれこれとしてくれた。ルームシェアやシェアハウスの件は話題に出す度に不機嫌になるので触れなくなった。彼と一緒に過ごせるのは学園生活までなのかと思うと卒業はまだまだ先なのに寂しい。
しかし彼の応援もあってリプタとの関係は寄せては返す様なまどろっこしいやり取りを経ながらも少しずつ前進した。祝日に入る前、俺は遂に思い立ってリプタをデートに誘った。今度は会う建前にフィフスを利用したりしない。2人で出かけようって言い切った。彼女は戸惑いながらもOKしてくれた。心臓がバクバクして仕方がない。
約束までの時間、無意味に室内をうろちょろしたり頻繁に時間を確認するものでそんな様子をフィフス刃呆れながら見ていた。
「変に肩に力を入れずに行けばいいんだ。全く、初だな君も」
「…緊張でどうにかなってしまいそうだ。フィフス、いつもの哲学みたいな事を言ってくれ。気を紛らわせたい」
「含みのある言い方だね。いいだろう。…君はこれから告白に行くと2人の友人を失う」
「……?何故??」
「君の想い人だった1人は恋人になり、君の恋の成就を手伝った1人は親友になるからだ。行って来いクリック。僕はこの部屋で吉報を待ってる」
彼は時計を指差した。そろそろここを出る時間だ。
「フィフス…ありがとう、俺は良い親友に出会えたよ」
「気が早いな。ふふ」
俺は彼とハグをした。こんな親友を持つ事ができて俺は幸せだ。
「行ってくるよ」
フィフスは微笑んで手を振った。
その後、俺はリプタと一緒に沢山遊んで回った。色んな店を回ったし、いつもはしない話もした。友達として一緒にいる時とは違った表情も沢山あった。少しずつ変わりつつある関係を実感した。
レンタルボートで湖を浮かんでいる時、俺は遂に告白した。身分不相応なのは分かってる。断られて当然だと思ってる。それでもこの想いを秘めて生きる事は耐えられないと伝えた。それを聞いて急に泣き出すのでそれほど嫌なのかと青ざめた。でも違った。泣くほど嬉しかったそうだ。
驚く事にリプタとはずっと前から両想いだったらしい。友達に相談するとお節介を焼いてフィフスと相談して俺達をいい雰囲気にしようとアレコレと画策していた様だ。知らない間にそんな事があっていたとは。フィフスからは全く聞かなかった。
学寮まで手を繋いで帰った。これからクラスメイトに弄られたりからかわれたりするかもしれない。それでも俺達のこの関係は隠すほど後ろめたくない。だから堂々とする。
それから女子寮前で別れの言葉を告げる。
「また明日」
リプタは目を細め友達だった時とはまた違う微笑みを見せて手を振る。
「また明日ね」
そうして俺は自室に向かった。外から自室の窓から光が点いてるのが見えた。でフィフスは自室にいるらしい。吉報を待ってると言ってたので当然といえば当然だが。
部屋の鍵を開けて自室を勢いよく開けるとフィフスが用意したらしい、ちょっとした飾りつけがしてあった。俺の机には丁寧にシフォンケーキまで置いてある。俺がフラれるとは微塵にも思っていなかったらしい。両想いなのを知ってたからかもしれないが。
しかし肝心なフィフスの姿が見当たらない。部屋の明かりをつけたままどこかへ行ったんだろうか?しかし俺の疑問はその内開いたままになってるクローゼットに向いた。
「フィフス?」
彼はクローゼットの近くににいた。
中の物干し竿からは麻縄が伸びていて、それは彼の首元まで伸びていた。息はしていない。冷たくないが体温の様なものは感じない。素人目に見ても死んでる事は疑い様がなかった。
「こんな所で寝てると風邪引くぞ…」
俺は彼の首に巻き付いたロープを取ってあげた。死んでる事を頭で理解して心が理解しない。揺さぶって呼びかける。
「何でだよ…」
よく見るとを彼の右手に遺書が握られていた。俺に宛てられている。封筒から中身を取り出して読む。
『君の恋が叶う事はずっと前から分かってた。彼女の友達から相談を受けてリプタの君への好意を知ったんだ。僕はこのまま朽ちていくのが怖かったんだ。だから僕は1秒でも長生きするために首を吊る事に決めたんだ。おめでとうを言えない僕を赦して欲しい。本当の事を言うと僕は君の親友になんてなりたくなかったんだ』
俺は遺書をかなぐり捨ててフィフスの遺体の前で泣いた。
未来に根差されたもの