18 - 1 - 言葉事。
"君"という一人称に、新しい誰かを当て嵌めて使うと仮定する。
君は君でしかないのに、私はもうどうにもならなくて、まるで、君より、君を裏切った自分が生きることの方が正しいとでも言うように、"新しい君"を誰かに求めるようになるのだ。
ままごとの繰り返し。
生き延びるとはきっとそういうことだ。
引き止める腕に力を込めながら、途中で気が付いていた。
君の問いに私は素直に「友達だよ」と答えることが出来なかった。
君は私でなくて良かった。
だからきっと、私も君でなくて良かった。
引き千切った場所に無理やり読点を付ける。
空白は気休めであり、目に見えるものが与えてくれる明確な境界が好きだった。
周囲を覆い形を組めば、空白は目に見える。
形のないものに望まぬ形でそう在って貰うことも、また罪なのかと思ってみた。
意味に言葉を宛がうことを憂うような、悲観的で馬鹿げた視点だ。
もし、突き抜けて価値のあるただひとつを前にし、他の全てを空白に出来るのなら、空白は正常に無意味になり存在しないこととなる。
それがきっと、満たされるということだ。
けれどそんなものは机上と文面でしか成立しえず、仮想上のもので、真に目に見えないものには適用出来ない。
同等に大切で、或いは同等なのか図り知れず、いくつかの矛盾した思いを抱き、それらが別々の選択肢であり指向ある可能性だと考えることは、私には出来ない。
優柔不断の言い訳だと笑うべきでもあるだろう。
けれど、ひとつの言葉にいくつもの意味と齟齬があるように、いつの間にか曖昧に分岐したものであり、綺麗に解離してなどいないのだ。
たとえその線が目に見えるものなのだとしても。
どれが線なのか、役割すら視点で異なる。
風鈴の音に意味を後付けしたように、私が決め事を破れないように、"君"という言葉事を創ったように、
迷いを排除し信仰し他を切り捨てることは、冒涜なのではないか。
だから私はこのようなことを言ってしまえる。
いいえ、これ程に言い訳を重ねないと何も言えないのだ。
それでも、出逢えたのが君で良かったと思っている。
嗚呼。
「君の助けになりたかった」じゃない。
そんなのは間違っていた。
「君と助け合いをしたかった」だ。
強がりばかりだった。
私が君に、どれだけ助けられていたか。
多くのことを違えていた。
わかっていたのだと思う。
わかれない心で何となくのまま、「私じゃない方がいい」と何度も言っていた。
けれどそれを本当に、心底思っていたのかはもう憶えていない。
いいえ、きっとそれはあの頃であっても同じだった。
信用ならない心でここまで続いてきたのだから。
どうしようもなく、何もかもが変容してしまって、不変を願い続ける行為だけが虚しく残った。
惧れていたことは連鎖的に起こった。
憂いは後悔になった。
大切な感情が消え、多量の醜い感情に挿げ変わった。
憎かった。
これが時間が経つということなのだ。
憎いのに、憎いのに、何も行動を起こさないお前が、何より大嫌いだ。
どうして、まだ生きなければならないのだろう。
誠実な道がもう残されていないんだ。
一体いつまで罪を犯し続けなければならない。
お前はそれが罰だと言いたいのか?
違う。間違っている。
場所を変えた痛みは、過去の償いにはなりえない。
痛みを受けることが償いではない。
そう、何度言わなければならない。
満足するという不要なことの為に追及する、もういない誰かへ、何かへ向けた誠実さより、妹を傷つけないことの方が大事だと、また誰かを言い訳に使い天秤にかけるのか。
どこまでも自分の為でしかないのに。
手の届かない場所にいる私は、向き合えど、向き合えど、それを握り潰していくだけだった。
誠実という言葉だって、消え去った何かから代替された私の為のものだ。
耳触り良く言い換えただけに過ぎない。
矛先はいつまでも内側にしか向かない。
盾の後ろにあるのも、いつだって私だ。
ただ全てが消えるだけだとわかっている。
故に書き遺さなければならない。
夢中に捨てた方がよく憶えていられるらしいと聞いて、それが本当ならどれ程いいだろうかと思った。
デジタルアーカイブはきっと、自由に夢を見られない私達の為にある。
それでも私は、私を納得させるような言葉事を書いているだけなのだけれどね。
18 - 1 - 言葉事。