首尾いろは

『い』

 偽りの世界がある。
 あると断言すると厚かましく壮大で自分勝手であるが、私の頭の中に確かに存在する。名前を付けたのは中学の頃合。私は私のあの過去を黒歴史と呼びたくは無い。立派に思春期を通り過ぎた証だと、自分の思い出に閉まっている。人から言われたら少し恥ずかしい思い出ではあるけれど、自分の中に静かに閉まっておく分には、とても綺麗なものだ。
 偽りだと称するには余りに刹那的で、眠っている間に見る夢と割り切るには余りにリアルなそれは、どこか別の世界線の自分の話だと思ってしまうことが多い。私は夢を見るのが好きだ。寝ている間は、自分の体力も筋力も重力も関係無く、自由に走り回り、飛び回る。毎回世界が変わるので、常識は毎回変わり、時に私は私のまま空を飛んだり、屋根の上を軽快に歩いたりする。時に私は強面な男になって、非合法組織の下っ端として駆けずり回っていたりする。時に私は聡明な女になって、謎を解き明かして歩き回ったりする。
 それが私は好きだ。眠ることは意識を失うことではあるけれど、時にその意識は別の場所で存在して、自由に思考をしていい。

首尾いろは

首尾いろは

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-09-30

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